人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用

Japanese Journal of Administrative Science
Volume 20, No.2, 2007, 127−141
経営行動科学第20巻第2号, 2007, 127−141
Article
原 著
人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
東京理科大学経営学部
川口短期大学ビジネスキャリア開発学科
日本大学商学部
竹 内 規 彦
竹 内 倫 和
外 島
裕
Applicability of a Multilevel Analytical Method to Human Resource Management Research: An Examination of the
Effects of Human Resource Practices and Organizational Climate on Work Attitudes and Behaviors
Norihiko TAKEUCHI
(Tokyo University of Science, School of Management)
Tomokazu TAKEUCHI
(Kawaguchi Junior College, Department of Career Development)
Yutaka TOSHIMA
(Nihon University, College of Commerce)
This paper attempts to discuss the applicability of a multilevel analytical method to a
broader domain of the research in the field of human resource management (HRM) and
organizational behavior (OB). A multilevel analytical method has rapidly evolved for recent
years, which seems to increase opportunities for HRM and OB researchers to use this method,
especially when they focus on verifying the effects of organizational- and/or group-level
variables (e.g., policies, practices, culture, climate, etc.) on individual-level variables (e.g.,
values, attitudes, behaviors, etc.). In this study, we first made an in-depth literature review for
the two recently published articles, Whitener (2001) and Liao and Chuang (2004), both of
which involved a verification of the organizational-level HRM practice effects on individual
attitudes and behaviors using hierarchical linear modeling (HLM). Then, we made an initial
attempt to use this analytical tool over our existing dataset in order to explore the extent to
which establishment-level HRM practices and organizational climate can account for both
within-group and between-group variances of individual attitudes and behaviors, including
work commitment and turnover intentions of employees. Our results of HLM indicated that
an employee’s work commitment and turnover intentions were explained not only by his/her
individual-level attributes but also by the establishment-level practices and climate of his/her
work organization. Findings as well as our review results were used to discuss the types of
HRM research that may fit in well with the use of a multilevel analytical method in its
empirical research design. Possible extended research domains and some cautions needed to
conduct research using multilevel analyses in HRM and OB fields were also discussed.
Keywords: hierarchical linear modeling (HLM), multilevel analysis, HRM practices,
organizational climate, work attitudes and behaviors
& Smith, 2000; Whitener, 2001)
。とりわけ、企業の人的
1.問題と目的
資源管理が従業員の組織や職務へのコミットメントに影
近年、企業の人的資源管理(HRM)施策と企業業績
響を与え、そのコミットメントが従業員の生産性、ひい
との関係の媒介要因として、従業員の組織や職務へのコ
ては企業業績に大きな影響を与える可能性が数多くの研
ミットメント及び従業員の積極的な職務行動や生産性な
究によって指摘されている。しかし、このような従業員
ど、従業員の態度的な媒介要因に対する関心が高まりつ
の組織や職務への態度の重要性が指摘される一方で、他
つある(e.g., Guest, 1997; Meyer & Allen, 1997; Meyer
方、戦略的人的資源管理(strategic human resource
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原
著
経営行動科学第20巻第2号
management: SHRM)に関するこれまでの研究は、企
そこで本研究では、人的資源管理研究におけるマル
業の HRM 施策と企業業績との関連を検証するなど、あ
チレベル分析の適用可能性について、
(1)最近米国の主
くまで「組織レベル」の変数間における関係性の検討に
要な学術誌に刊行された2つの先行研究事例(Liao &
留まっているものが圧倒的に多いといえる。
Chuang, 2004; Whitener, 2001)を基に、階層線形モデ
このように、企業の HRM 施策などの組織レベルの
ルの適用方法に関して詳細にレビューするとともに、
変数と個人の態度・行動との関係性を明らかにすること
(2)実際に筆者らのデータを基にしたマルチレベル分析
が HRM 研究において重要性を帯びてきている中、組織
による HRM・組織風土の効果測定に関する実証的検討
レベルと個人レベルの変数間の関係を検討するマルチレ
を行う。具体的には、人的資源管理施策及び組織風土と
ベルの分析方法が、近年より精緻化する傾向を示してき
いった「組織レベル」の変数が、従業員の組織や職務へ
ている(e.g., Hofmann, 1997; Hofmann & Gavin, 1998)
。
のコミットメント及び離転職意思などの「個人レベル」
その代表的手法として、階層線形モデル(Hierarchical
の態度・行動に対し、実際にどの程度の影響力を有して
Linear Modeling: HLM)を利用したマルチレベル分析
いるのか、また具体的にどのような影響を与えているの
を挙げることができる。この階層線形モデルは、複数の
かに関してマルチレベル分析を行う。そして最後に、こ
階層構造をもつデータの変数間の予測と推定を可能にす
れら一連の先行研究事例及び筆者らの実証分析結果を踏
る分析手法であり、個々人の態度や行動に対して組織内
まえ、人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可
(個人レベル)の分散と組織間(組織レベル)の分散の
能性、及び適用の際の問題点や留意点などについて考察
双方の分散から説明を試みるものである。これまで、教
育学や心理学を中心とした一部の領域において用いられ
てきたこの分析手法が、近年、経営学及び HRM の領域
を行う。
2.先行研究の事例検討
における組織分析にも適用され始め、注目の度を高めつ
本節では、階層線形モデルによって企業の HRM 施
つある。しかしながら、階層線形モデルを人的資源管理
策(組織レベル)と従業員態度(従業員レベル)という
研究へ適用するにあたって、どのような研究領域に対し
階層間の分析をした代表的研究として、Whitener
て有効なのか、またどのような可能性を秘めているのか
(2001)及び Liao & Chuang(2004)の研究を取り上げ
について必ずしも多くの議論がなされているわけではな
て検討するとともに、その知見を踏まえた課題について
い。
検討を行う。
人的資源管理施策
組織レベル
H5,H6,H7
H5, H6, H7
個人レベル
組織サポート
組織サポート知
知覚
覚
H2
H2
組織コミットメント
H1
H1
経営者への信頼
H3
H3
H4
H4
図1
Whitener(2001)のクロス・レベル分析のモデル
図1 Whitener
(2001)のクロス・レベル分析のモデル
出所)Whitener(2001)
, p. 522
出所)Whitener (2001), p. 522
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人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
(1)Whitener(2001)の研究
ⅲ. 結果とインプリケーション
ⅰ. 問題と研究枠組み
上記の調査から得られたデータに対する階層線形モ
この研究では、組織レベルの高コミットメント HRM
施策が従業員個人の組織へのコミットメントや経営者に
デルによるマルチレベル分析結果から、以下の点が実証
された。
対する信頼(trust)に対していかなる影響を与えるか
第1に、従業員の組織へのコミットメントや経営者へ
を検討したものである。全体的な研究の分析枠組みは、
の信頼に対する直接的な影響要因に関して、組織コミッ
以下のようにまとめられる(図1)
。
トメント及び信頼の分散が組織間の差によって説明され
第1に、組織レベルの HRM 施策と従業員態度に対す
ることが確認された。つまり、組織コミットメントの分
る直接的影響に関する仮説が図1に含まれている。すな
散の10%及び経営者への信頼における分散の8%は、組
わち、企業の採用する HRM 施策が従業員の組織へのコ
織間の差にあることが階層線形モデルによって明らかに
ミットメントや経営者への信頼に対して直接的に影響を
なった。この結果は、従業員のデモグラフィック要因や
与えることが仮定されている。
態度などの個人差だけでは必ずしも説明できない分散が
第2に、組織レベルの HRM 施策が従業員の組織サポ
あることを示したものといえる。
ートに対する知覚と組織コミットメントとの関係、及び
第2に、組織の HRM 施策の組織コミットメント及び
組織サポートと信頼との関係に対するモデレーター効果
経営者への信頼に対する直接的影響に関して、HRM 施
が図1で仮説化されていることがわかる。すなわち、高
策の中の公平な報酬制度のみが信頼に正の有意な影響を
コミットメント HRM 施策を採用している企業ほど、従
与えることが確認された。この結果から、組織コミット
業員の組織サポート認知と組織コミットメント(及び経
メントに対する HRM 施策の直接的影響は確認されず、
営者への信頼)との関係が強まるであろうと仮定するも
HRM 施策の従業員態度への影響は限定的である点が示
のである。
される結果となった。
なお、この Whitener の研究では、組織レベルの変数
第3に、企業の HRM 施策の従業員態度へのモデレー
と個人レベルの変数との関係を検討しているばかりでは
ター効果に関して、広範な HRM 施策が組織コミットメ
なく、個人レベルの従業員態度間の影響関係についての
ントと組織サポート知覚との関係及び、信頼と組織サポ
検討も行っている(H1-H4)
。しかし、本研究では特に
ート知覚との関係に対してモデレーター効果を有してい
組織レベルの変数と個人レベルの変数との関係というマ
ることが確認された。すなわち、高コミットメント
ルチレベル分析に焦点を当てているため、従業員態度間
HRM 施策を採用している企業の方が、低コミットメン
の影響関係に関する詳細な説明は省略し、上記第1及び
ト HRM 施策の企業よりも、組織コミットメントと組織
第2の点に関して詳細にみていきたい。
サポート知覚との関係及び信頼と組織サポート知覚との
関係が強くなるという HRM 施策の調整効果が明らかに
ⅱ. 方法
なった。
調査は、1996年に米国における500の信用組合を対象
以上の Whitener による研究のインプリケーションと
に郵送法による質問紙調査が行われ、
(1)信用組合の人
して、
(1)組織レベルの変数が個人レベルの態度を説明
事担当者用調査と(2)職員の態度調査の2種類が実施さ
するシンプルなモデルを階層線形モデルにより検証を試
れた。その結果、180の信用組合とその職員1689名のデ
みた点、また、
(2)結果として必ずしも明らかにならな
ータが得られた(1組合あたり平均9.37名)
。
かった職員の組織コミットメントの10%程度の分散を説
質問項目に関して、(1)信用組合の人事担当者調査
において、Snell & Dean(1992)による高コミットメ
明する、より強力な組織レベルの予測変数の探索と検証
が今後必要になる点がこの研究により示されたといえる。
ント HRM 施策(
「競争的な選抜制度」
、
「包括的な教育
訓練」
、
「育成目的の評価」
、
「競争的な賃金水準」
、
「公平
な報酬制度」
)に関する項目が設定され、
(2)職員の態
(2)Liao & Chuang(2004)の研究
ⅰ. 問題と研究枠組み
度調査において、組織コミットメント(Mowday et al.,
この研究では、従業員の性格特性(個人レベル)と
1979)
、組織サポート知覚(Eisenberger, 1986)
、経営者
組織の HRM 施策(組織レベル)が従業員のパフォーマ
への信頼(Robinson & Rousseau, 1994)の各態度尺度
ンス、ひいては顧客の満足度にいかなる影響を与えるか
が設定された。
について、その影響過程をマルチレベル分析によって検
証したものである。分析枠組みを説明すると以下のよう
にまとめることができる(図2)
。
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原
著
経営行動科学第20巻第2号
先行要因
パーソナリティ
個人レベル
サービス・パフォーマンス
H1a-H1d
H1a-H1d
顧客の結果
サービス・クオリティ
従業員のサービス・
従業員のサービス・パ
パフォーマンス
フォーマンス
誠実性
顧客満足度
ロイヤルティ
顧客の店舗への愛着
神経症傾向
外向性
H3
H3
同調性
ボトムアップ
H4
H4
H2a-H2d
H2a-H2d
HR施策
店舗レベルのサービス・
店舗レベルのサービス・パ
パフォーマンス
フォーマンス
従業員参加
サービス教育
店舗レベル
成果主義賃金
サービス風土
図2 Liao
& Chuang (2004)のマルチレベル分析のモデル
図2 Liao
& Chuang(2004)のマルチレベル分析のモデル
出所)
Liao
Chuang(2004)
, p.43
出所)
Liao&
& Chuang
(2004), p.43
第1に、図2の左側に見られる先行要因から、店舗の
ⅲ. 結果とインプリケーション
HRM 施策及び組織風土(サービス風土)が従業員のサ
ービス・パフォーマンスに対して直接的に影響を与える
階層線形モデルによる分析の結果、以下の点を特筆
すべき点として挙げることができる。
という仮定が確認できる。
第1に、従業員のサービス・パフォーマンスに対する
第2に、図2の H3では、パーソナリティと従業員のサ
直接的影響要因に関して、その分散の12%は、店舗間の
ービス・パフォーマンスとの関係に対する、HRM 施策
差によって説明されることが確認された。つまり、パー
及び組織風土がモデレーター効果を与えるという点が仮
ソナリティや従業員態度などの個人差ばかりではなく、
説化されている。
店舗レベルの諸変数によって従業員個人のサービス・パ
第3に、従業員のサービス・パフォーマンスを店舗別
フォーマンスが説明されることが示された。
に統合(aggregate)した店舗レベルのサービス・パフ
第2に、従業員のサービス・パフォーマンスに対する
ォーマンスが顧客満足度(個人レベル)に対して直接的
店舗レベルの諸変数の直接的影響に関して、HRM 施策
な影響を与えるという仮説(H4)が、図2より確認でき
と組織風土(サービス風土)によって、店舗間の分散の
る。
29%を説明することが明らかになった。すなわち、従業
員参加的な HRM 施策や顧客に対する積極的なサービス
ⅱ. 方法
を提供しようとする組織風土であるほど、従業員のサー
調査は、米国のフランチャイズ・レストラン52店舗
を対象に郵送法による質問紙調査が行われ、
(1)マネー
ビスに対するパフォーマンスが高まることが明らかにさ
れた。
ジャー調査、
(2)従業員調査、
(3)顧客調査の3種類が
第3に、従業員の性格特性とサービス・パフォーマン
実施された。その結果、25店舗のファミリーレストラン
スの関係に対する HRM 施策と組織風土(サービス風
が分析対象になり、マネージャー44名(1店舗あたり1.8
土)のモデレーター効果に関して、有意なモデレーター
名)と従業員257名(同、10.3名)、顧客1993名(同、
効果は確認されなかった。すなわち、従業員の性格特性
81.8名)が分析に用いられた。
とパフォーマンスの関係を、店舗レベルの変数が必ずし
質問項目は、
(1)マネージャー調査において、HRM
も調整するものではないことを本研究では示していた。
施策(「従業員参加」、「サービス教育」、「成果主義賃
第4に、店舗レベルでサービス・パフォーマンスを統
金」)が設定され、(2)従業員調査において、サービ
合した場合、その店舗レベルのパフォーマンスが顧客の
ス・パフォーマンス、パーソナリティ(
「誠実性」
、
「神
評価に正の有意な影響を与えることが観察された。すな
経症傾向」
、
「外向性」
、
「同調性」
)
、サービス風土の各変
わち、店舗レベルのサービス・パフォーマンスが高まれ
数が設定された。そして、
(3)顧客調査において、顧客
ば高まるほど、個人レベルの顧客満足度及び顧客ロイヤ
による品質評価、顧客満足度、顧客ロイヤルティが設定
ルティが高まることが実証的に明らかにされた。
された。
上記の研究結果を踏まえたそのインプリケーション
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人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
として、個人及び組織の特性から、個人・組織の成果を
て有意な影響を与えていることが確認されており、組織
経て、顧客評価に至るパスが明らかにされた点を挙げる
風土が従業員のコミットメントを含む職務態度・行動に
ことができる。このことは、階層線形モデルを応用する
対していかなる影響を与えるかを確認することは重要な
ことにより、従来行われてきた重回帰分析に基づくパス
課題といえよう。
解析ではなく、多階層によるより精緻なパス解析の実行
第3に、日本のサンプルデータによって、階層線形モ
可能性を HRM 研究において示唆するものといえよう。
デルを用いた HRM 施策と従業員態度・行動との関連を
確認することである。Whitener や Liao & Chuang の研
(3)残された課題−先行事例を踏まえた本研究の課題
究結果の前提として、それらの結果が米国のサンプルデ
上記の先行研究による検討結果は、いずれも HRM 領
ータから導き出されたものであった。米国とは異なる社
域における階層線形モデルの重要性を例示した研究とし
会・文化的背景を持つわが国において、いかなる結果が
て注目に値する。特に、これまで行われてきた HRM 施
導き出されるかを検討することは必要であろう。しかし
策と従業員態度及び行動との関係を検討する研究では、
残念ながら、わが国のデータを使用した階層線形モデル
必ずしも各企業(組織)間の分散を考慮した上でその関
による検討はほとんど行われていないのが実状であり、
係性を検討してはおらず、個人間の分散でのみの検討に
未だ議論の余地が十分に残されている。したがって、日
留まっていたといえる。このことは、誤った実証分析結
本のサンプルデータに基づく検討には、わが国の HRM
果を導きかねず、組織間の分散及び個人間の分散の双方
研究に対して一定の意義を持つものと思われる。
を考慮した上で、HRM 施策と従業員態度・行動との関
上記の3つの具体的課題を踏まえ、以下の節において
係を再検討する必要性を強く示唆するものである。以下、
わが国のデータに基づく HRM 施策、組織風土と従業員
上述の2つの研究成果を概観することによって導き出さ
態度・行動との関連について階層線形モデルによる実証
れた具体的な検討課題について言及する。
的検討を行う。
第1に、組織レベルの HRM 施策が従業員態度・行動
に対していかなる直接的影響を与えているかを確認する
ことである。Whitener(2001)の研究においては、企
3.実証分析による検討
(1)目的
業の HRM 施策が従業員の組織コミットメントや経営者
これまでの議論を踏まえ、図3のような分析枠組みを
への信頼に対して必ずしも有意な影響力を有してはいな
設定し、筆者らの調査データをもとに階層線形モデルに
かった。その一方で、Liao & Chuang(2004)の研究で
よる分析を行う。先行要因として個人レベルでは、個人
は、従業員のサービス・パフォーマンスという行動に対
−環境適合(person-environment fit: 以下、P-E fit)、
して従業員参加という HRM 施策が有意な影響を有して
組織レベルでは、HRM 施策及び組織風土の各変数を設
いることが確認された。両研究において取り上げられて
定し、従業員の職務態度・行動の変数として従業員コミ
いる従業員態度・行動は異なるものの、HRM 施策の影
ットメント(組織コミットメントと職務関与)と離転職
響に関する一定のコンセンサスは見られず、従業員態
意思を設定した1。本研究では、階層線形モデルを用い
度・行動への影響力を再検証する必要があると考えられ
て組織レベルの変数である HRM 施策ならびに組織風土
る。特にこれまで HRM 施策によって高まると考えられ
が個人レベルの変数である従業員の職務態度・行動に対
てきた従業員のコミットメント(e.g., Gaertner &
して、いかなる影響力を有しているかを検討することを
Nollen, 1989; Ogilvie, 1986)が、階層線形モデルによる
目的としている。しかし、従業員コミットメント及び離
分析ではその影響が確認されず、HRM 施策と従業員コ
転職意思に対する HRM 施策と組織風土の影響をより厳
ミットメントとの関係を再検討することが求められる。
密に検証するためには、個人レベルの変数を統制(コン
第2に、HRM 施策以外の組織レベル変数が従業員態
トロール)する必要がある。そこで本研究では、個人レ
度・行動に対していかなる直接的影響を与えているかを
確認することである。先述のように Whitener による研
1
究では、企業の HRM 施策が従業員の組織コミットメン
トや経営者への信頼に対して必ずしも有意な影響力を有
してはいなかった。このことは、従業員態度・行動に対
して、HRM 施策以外の組織変数の影響を検討する必要
があることを示唆するものである。特に、Liao &
Chuang の研究において、組織風土が従業員態度に対し
−131−
今回調査対象とした医療・介護関連職員の中には、
医師や看護師などを含み、このような専門職に従事
する従業員では、特定の組織を辞めて他の組織に変
わるという離転職意思の意味が一般の従業員とは異
なる可能性があることには留意する必要がある。し
かし、専門職の従業員であったとしても離転職意思
は、重要な職務態度変数であることに変わりはない
と思われる。例えば、看護師を対象にした離転職意
思の実証的検討を行なっている研究として Lum,
Kervin, Clark, Reid & Sirola(1998)がある。
原
著
経営行動科学第20巻第2号
ベルの変数である P-E fit を統制変数として用いる。
当であると考えられる。
P-E fit 概 念 は 、 も と も と 人 間 の 行 動 は 個 人
そこでこの実証分析では、個人レベルの変数である
(person)と環境(environment)との相互作用によっ
P-E fit を統制した上で、組織レベルの変数である HRM
て決定づけられると考える概念であり、今日、組織行動
施策及び組織風土が従業員コミットメントと離転職意思
論や人的資源管理論の領域において、その概念が注目さ
に対していかなる影響を与えるかを検討することを目的
れてきている(Hoffman & Woehr, 2006; Kristof-Brown,
とする。
Zimmerman & Johnson, 2005; Lauver & Kristof-Brown,
2001; Verquer, Beehr & Wagner, 2003)
。P-E fit 研究で
(2) 作業仮説
は 、 個 人 が 適 合 す る 対 象 を 基 に 、 (1) 組 織
筆者らのデータを使用した本分析の目的は、あくま
(organization)
、(2) 職務(job)
、(3) 集団/同僚(group/
でマルチレベル分析の適用可能性について、それを評
coworker)
、(4) 職業(vocation)の4つの下位次元(そ
価・議論するための例示的なものである。つまり、必ず
れぞれ、P-O fit, P-J fit, P-G fit, P-V fit と形容される)が
しも既存の戦略的人的資源管理(SHRM)のセオリー
存在すると指摘されており、主観的もしくは客観的適合
自体に貢献することを目的としているものではない。し
が測定され、従業員の態度・行動変数との関連が検討さ
たがって、SHRM の理論的背景や、広範な文献レビュ
れている(Judge & Ferris, 1992; Kristof, 1996)
。その中
ーをベースとした議論にスペースを割くことは必ずしも
で、P-E fit(主観的適合)の各下位次元は、従業員のコ
適当ではないと考えられ、本論文での議論は割愛する。
ミットメント(組織コミットメント、職務関与)と有意
なお、この部分についての議論は、既存の研究
な正の関連、及び離転職意思と負の関連があることがこ
( Takeuchi, Takeuchi & Toshima, 2007; Wright,
れまでの研究において報告されており(Kristof-Brown,
Gardner & Moynihan, 2003; Wright et al., 2005)を参考
Zimmerman & Johnson, 2005; 竹内・竹内・外島, 2004;
されたい。ただし、実証分析をするにあたっては、以下
Verquer, Beehr & Wagner, 2003)
、本研究の目的を明
のような一定の作業仮説が準備された。
らかにするにあたり、P-E fit 概念は統制変数として妥
先行要因
従業員態度・行動
従業員コミットメント
P-E fit
組織コミットメント
P-O fit
個人レベル
P-J fit
職務関与
P-V fit
離転職意思
P-G fit
HRM 施策
納得度の高い人事評価
充実度の高い教育訓練
適切な給与・報酬
施設レベル
適切な採用・配置管理
組織風土
Do 因子
PDS 因子
図3
図3 本研究における分析枠組み
本研究にお
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人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
作業仮説1:従業員の組織コミットメント、職務関
与、及び離転職意思はそれぞれ、施設内の分散(個人レ
ベルの変数)だけではなく、施設間の分散(組織レベル
の変数)によって、有意に説明されるだろう。
作業仮説2:施設単位での HRM 施策(適切な採用・
配置管理・充実度の高い教育訓練・納得度の高い人事評
価・適切な給与・報酬)は、それぞれ従業員個人の組織
コミットメント、職務関与に有意な正の影響を与える一
方、離転職意思には有意な負の影響を与えるだろう。
中旬にかけて行なわれ、医療・介護関連10法人80施設で
働く従業員1371名を対象に質問紙調査が郵送法で実施さ
れた。その結果、71施設で働く従業員1052部(有効回答
率:76.7%)の回答を得ることができた。このうち本研
究では、1施設あたり5人以上の従業員から回答を受けた
施設を抽出し、そのような施設で働く従業員を分析の対
象にした。そのため最終的には、医療・介護関連37施設、
876名の正規従業員が分析の対象になった(1施設あたり
平均従業員数23.68人)
。
ⅱ. 測定尺度
作業仮説3a:Do 因子(伝統性因子)として特徴づ
個人レベル変数
けられる組織風土は、従業員個人の組織コミットメント、
各変数の回答尺度は全て、「1=そう思わない」∼
職務関与に有意な負の影響を与える一方、離転職意思に
「5=そう思う」までの5段階評定が用いられた。
は有意な正の影響を与えるだろう。
P-E fit P-E fit の測定に関して、適合を「主観的」
作業仮説3b:PDS 因子(組織環境性因子)として特
徴づけられる組織風土は、従業員個人の組織コミットメ
ント、職務関与に有意な正の影響を与える一方、離転職
意思には有意な負の影響を与えるだろう。
に捉えて測定する方法と「客観的」に捉えて測定する方
法の2種類があるが、本研究では前者の主観的適合によ
って測定した。P-O fit は、Cable & Judge(1996)で用
いられた3項目を使用して測定された。P-J fit に関する
測定尺度は、Lauver & Kristof-Brown(2001)で用い
られた5項目の中から3項目を用いた。P-G fit の測定尺
なお、上記組織風土のうち、Do 因子(伝統性因子)
は、プレッシャーが強く、強制命令的で、不公平であり、 度は、これまでの研究でほとんど検討されていないため、
この調査で新たに作成した3項目を用いた。P-V fit は、
閉鎖的な集団であるため、無用な緊張感が組織を支配し
Lauver & Kristof-Brown(2001)を参考に、
「職務」を
ている組織風土と定義づけられている(外島・松田,
「職業」に修正を行った3項目を使用して測定した。信頼
1995)
。すなわち、
「監督者の支配的な管理のもとに、無
性係数αを算出した結果、
「P-O fit(α=.75)
」
、
「P-J fit
理やり怒られながらイヤイヤ働いているという雰囲気の
(α=.81)
」
、
「P-G fit(α=.78)
」
、
「P-V fit(α=.72)
」
組織風土」
(外島・松田, 1995, p.24)と捉えられ、マグ
であり、内的一貫性が確認された。
レガーのいう X 理論的な組織風土と指摘されている。
それに対して、
「PDS 因子(組織環境性因子)
」は、明
従業員コミットメント 組織コミットメントは、下
確に役割分担がなされ、仕事の計画も立案され、管理者
位次元の中で情動的コミットメントを設定した。Meyer,
は部下によく関与し、話し合いもなされ、働きやすい条
Allen & Smith (1993)の日本語版6項目の中から、4項
件が整備されている組織風土である。すなわち、職場に
目を用いて測定した。職務関与は、Lodahl & Kejner
おいて Plan−Do−See が効果的に運営されている組織
(1965)及び Kanungo(1982)を基にした日本労働研究
風土と指摘されている(外島・松田, 1995)
。
機構(1999)の7項目の中から3項目によって測定した。
(3)方法
ⅰ. 調査対象・時期
調査対象は、医療・介護関連施設に勤務する医療・
介護関連職員である2。調査は2003年11月中旬から12月
2
本研究で調査対象となっているのは、民間の企業ではな
く医療・介護関連施設で働く職員(医師や看護師、介護
士等)である。近年、わが国の医療・介護関連施設にお
いても医療の高度化・重症化、クライアントニーズの多
様化など、クライアントに対するより質の高いサービス
を提供するために、そこで働く職員の人的資源管理の必
要性が指摘されている(e.g., 井部・中西, 2004; 平井,
2002)
。したがって、民間企業と同様、本研究で調査対
象となっている医療・介護関連施設の人的資源管理を検
討することには一定の意義があると考えられる。
信頼性係数αは、「情動的コミットメント(α=.80)
」
、
「職務関与(α=.77)
」であり、内的一貫性が確認され
た。
離転職意思 山本(1995)で用いられた2項目を一部
修正して測定した。信頼性係数は、α=.77であり、内
的一貫性が確認された。
組織レベル変数
組織レベルの変数として設定した HRM 施策及び組織
風土の各変数は、それぞれ従業員に対して行った HRM
認知及び組織風土に関する測定尺度を、所属する施設毎
に統合(aggregate)して変数化を行った。なお、回答
は全て、
「1=そう思わない」∼「5=そう思う」までの5
−133−
原
著
経営行動科学第20巻第2号
表1.従業員の「情動的コミットメント」を説明する階層線形モデル(HLM)の結果
表1.従業員の「情動的コミットメント」を説明する階層線形モデル(HLM)の結果
変数
レベル1(個人レベル)
Intercept (切片)
切片
P-E fit
P-O fit
P-J fit
P-V fit
P-G fit
レベル2(組織レベル)
HRM施策
納得度の高い人事評価
納得度の高い人事評価
充実度の高い教育訓練
充実度の高い教育訓練
適切な給与・報酬
適切な給与・報酬
適切な採用・配置管理
適切な採用・配置管理
組織風土
Do因子
因子
PDS因子
因子
R 2 within establishment
R 2 between establishments
注:ICC(1)=0.12.
注:ICC(1)=0.12.
Null Model
MODEL 1
3.39 ***
.60 ***
MODEL 2
.27
.51 ***
-.08
.32 ***
.05
.51 ***
-.08
.32 ***
.05
MODEL 3
.98
.50 ***
-.08
.33 ***
.05
-.07
-.01
.13 **
.08
-.29 *
.16
.18
.20
.20
*** p<.001 ** ***
p<.01
* p<.05
+ p<.10
p<.001
** p<.01
* p<.05
段階評定が用いられた。
(4)結果
HRM 施策 人的資源管理(HRM)認知の測定尺度
は、日本労働研究機構(1999)を参考に修正を行った11
ⅰ. 組織コミットメント(情動的コミットメント)に対
する影響
項目を用いた。その下位次元として、従業員の採用、配
情動的コミットメントに対する HRM 施策及び組織風
置管理に関する「適切な採用・配置管理」と教育訓練に
土の影響を明らかにするために、階層線形モデルによる
関する「充実度の高い教育訓練」
、人事考課や昇進方法
検討を行った。その結果(表1)
、以下の点を特徴として
に関する「納得度の高い人事評価」
、給与・報酬に関す
指摘することができる。
る「適切な給与・報酬」の4つを設定している。信頼性
第1に、個人レベル(レベル1)の変数及び組織レベ
係数αを算出した結果、「適切な採用・配置管理(α
ル(レベル2)の変数を一切投入しない表1の Null
=.80)
」
、
「充実度の高い教育訓練(α=.88)
」
、
「納得度
Model の結果より、残差分散(residual variance)のχ2
の高い人事評価(α=.88)」、「適切な給与・報酬(α
値が有意であることが明らかになり、組織間の違いによ
=.73)
」であり、尺度の内的一貫性が確認された。
って情動的コミットメントの分散が説明されることが明
組織風土 組織風土は、外島・松田(1995)による
らかになった。すなわち、この結果は組織への情動的コ
組織風土尺度28項目の中から、10項目を用いて測定した。
ミットメントの分散のうち12%が、個人間の違いではな
この尺度は、「Do 因子(伝統性因子)
」と「PDS 因子
く、施設間の差異によって有意に説明されることを意味
(組織環境性因子)
」の2因子で組織風土を把握するもの
するものである(ICC(1)=.12)3。この点は、本研究の
である。前述のように、Do 因子は「監督者の支配的な
作業仮説1を支持するものである。
管理のもとに、無理やり怒られながらイヤイヤ働いてい
第2に、情動的コミットメントに対して、個人レベル
るという雰囲気の組織風土」
(外島・松田, 1995, p.24)
の P-E fit を統制した上で HRM 施策を投入した表1の
と捉えられ、マグレガーのいう X 理論的な組織風土と
MODEL 2の結果より、施設間の差異によって説明され
して指摘されている一方、他方で「PDS 因子」は、職
る分散のうち、HRM 施策によって20%の分散が説明さ
場において Plan−Do−See が効果的に運営されている
れることが明らかになった。具体的には、適切な給与・
組織風土として指摘されている(外島・松田, 1995)
。組
織風土の各尺度の信頼性係数は、「伝統性(Do)(α
3
=.85)
」
、
「環境性(PDS)
(α=.88)
」であり、内的一貫
性が確認された。
−134−
こ こ で の ICC は 、 級 内 相 関 係 数 ( intra-class
correlation)を指し、グループ(施設)間での分散領域
を表す指標として用いられる。なお、ICC の計算を含む、
全てのマルチレベル分析の統計結果は、米国 Scientific
Software International 社の HLM 6.0を使用した。
人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
表2.従業員の「職務関与」を説明する階層線形モデル(HLM)の結果
表2.従業員の「職務関与」を説明する階層線形モデル(HLM)の結果
変数
変数
レベル1(個人レベル)
Intercept (切片)
切片
P-E fit
P-O fit
P-J fit
P-V fit
P-G fit
レベル2(組織レベル)
HRM施策
納得度の高い人事評価
納得度の高い人事評価
充実度の高い教育訓練
充実度の高い教育訓練
適切な給与・報酬
適切な給与・報酬
適切な採用・配置管理
適切な採用・配置管理
組織風土
Do因子
因子
PDS因子
因子
R 2 within establishment
R 2 between establishments
注:ICC(1)=0.08.
注:ICC(1)=0.08.
Null Model
MODEL 1
MODEL 2
MODEL 3
3.45 ***
.45 **
.34 *
.65
.36 ***
.03
.45 ***
.03
.36 ***
.03
.45 ***
.02
.35 ***
.03
.45 ***
.03
.04
-.05 *
.07 *
.01
-.09
.03
.14
.16
.14
*** p<.001 *****p<.01
p<.001* p<.05
** p<.01+ p<.10
* p<.05
報酬制度が情動的コミットメントに対して正の有意な影
メントが組織間の違いによって説明されることが確認さ
響を与えていることが明らかになった(γ=.13, p<.01)
。
れ、具体的には職務関与の分散の8%が組織間の差異に
この結果から、適切な給与・報酬制度を採用している施
よるものであることが明らかになった(ICC(1)=.08)
。
設では、従業員の組織に対する情緒的なコミットメント
従って、この結果は、本研究の作業仮説1に整合するも
が高まることが明らかとなった。従って、この結果は本
のである。
第2に、職務関与に対する HRM 施策の影響を明らか
研究の作業仮説2を部分的に支持するものである。
第3に、情動的コミットメントに対する組織風土の影
にするために行った表2の MODEL 2の分析結果から、
響に関して、個人間での P-E fit の水準をコントロール
組織間の差異によって説明される分散のうち16%が組織
した上で組織風土の変数を投入した表1の MODEL 3の
間の HRM 施策の実施状況の差異によって説明されるこ
結果から、施設間の差異によって説明される分散のうち、
とが明らかになった。具体的には、充実度の高い教育訓
20%の分散が組織風土によって説明されることが明らか
練が職務関与に対して有意な負の影響を及ぼし、適切な
になった。具体的には、組織風土の中でも Do 因子が情
給与・報酬が有意な正の有意な影響を与えていることが
動的コミットメントに対して負の有意な影響を与えてい
明らかになった(それぞれγ=−.05, p<.05; γ=.07, p
ることが確認され、プレッシャーが強く、強制命令的な
<.05)
。従って、この結果は、本研究の作業仮説2を部
風土を持つ施設では、従業員の施設に対する情動的コミ
分的に支持している。
ットメントが抑制されることが明らかとなった。この結
第3に、職務関与に対する組織風土の影響を明らかに
果は、本研究の作業仮説3a を部分的に支持するもので
するために表2の MODEL 3の分析を行った結果、Do 因
ある。
子及び PDS 因子の組織風土のいずれの変数も職務関与
に対する有意な影響を確認することができなかった。し
たがって、施設の風土はそこで働く従業員の職務へのコ
ⅱ. 職務関与に対する影響
職務関与に対する施設の HRM 施策及び組織風土の影
ミットメントに対して必ずしも有意な影響を与えるもの
響を明らかにするために行ったマルチレベル分析の結果
ではない可能性が本結果から示されたといえる(作業仮
説3a 及び3b はともに不支持)
。
(表2)より、以下の諸点が明らかになった。
第1に、表2の Null Model の結果から、残差分散
(residual variance)のχ2値が統計的に有意であること
ⅲ. 離転職意思に対する影響
が明らかになった。つまり、従業員の職務へのコミット
−135−
離転職意思に対する施設の HRM 施策及び組織風土の
原
著
経営行動科学第20巻第2号
表3.従業員の「離転職意思」を説明する階層線形モデル(HLM)の結果
表3.従業員の「離転職意思」を説明する階層線形モデル(HLM)の結果
変数
変数
Null Model
MODEL 1
MODEL 2
MODEL 3
2.35 ***
5.72 ***
5.97 ***
5.29
-.77
.17
-.27
-.11
-.76
.17
-.27
-.10
-.76
.17
-.28
-.11
レベル1(個人レベル)
Intercept (切片)
切片
P-E fit
P-O fit
P-J fit
P-V fit
P-G fit
レベル2(組織レベル)
HRM施策
納得度の高い人事評価
納得度の高い人事評価
充実度の高い教育訓練
充実度の高い教育訓練
適切な給与・報酬
適切な給与・報酬
適切な採用・配置管理
適切な採用・配置管理
組織風土
因子
Do因子
PDS因子
因子
2
R within establishment
2
R between establishments
注:ICC(1)=0.09.
注:ICC(1)=0.09.
***
*
***
*
***
*
***
*
***
*
***
*
.06
-.14 ***
-.11 **
.00
.15
-.02
.39
.42
.40
*** p<.001 ***
**p<.001
p<.01 *** p<.05
p<.10
p<.01 +
* p<.05
影響を明らかにするために、階層線形モデルによる分析
作業仮説2を部分的に支持するものといえる。
を行った。その結果(表3)をまとめると、以下のよう
になるであろう。
第3に、表3の MODEL 3より、組織風土の離転職意
思に対する影響については、組織風土として設定した
第1に、個人レベル及び組織レベルの変数を投入して
Do 因子及び PDS 因子のいずれの変数において、有意
い な い 表 3 の Null Model の 結 果 か ら 、 残 差 分 散
な影響を確認することができなかった(作業仮説3a、
(residual variance)に対するχ2値が統計的に有意であ
3b ともに不支持)
。この結果から、組織に関する変数
ることが示され、離転職意思の分散は、個人間の差異及
の中で、施設間での組織風土の違いではなく、施設間で
び組織間の差異によって説明されることが明らかになっ
の HRM 施策の実施状況の違いが各施設で働く個人の離
た。具体的には、ICC(1)の値より、離転職意思の分散の
転職意思の程度をより強く規定していることが本分析結
うち、個人間の差異によって91%が説明され、施設間の
果より示唆されたといえよう。
差異によって9%の分散が説明されることが明らかとな
った(ICC(1)=.09)
。従って、この結果は、本研究の作
4.考察と今後の課題
(1)実証分析結果の考察と今後の課題
業仮説1を更に支持するものである。
第2に、離転職意思に対する HRM 施策の影響に関し
本研究では、階層線形モデルによるマルチレベル分
て、施設間の違いによって説明される分散の中で、42%
析を行うことによって、これまでほとんど検討されてこ
が施設間での HRM 施策の実施状況の違いによって説明
なかった組織間の分散及び個人間の分散の双方を考慮し
されることが明らかになった(MODEL 2)
。具体的な
た上で、組織レベルの HRM 施策や組織風土が従業員個
HRM 施策として、施設レベルでの充実度の高い教育訓
人の態度・行動にいかなる影響を及ぼしているかについ
練及び適切な給与・報酬の2変数が離転職意思に対して
ての検討を行った。その結果、以下の諸点を特筆すべき
負の有意な影響力を有していることが明らかになった
点として挙げることができる。
(それぞれγ=−.14, p<.001; γ=−.11, p<.01)
。すなわ
まず第1に、階層線形モデルを用いることによって、
ち、施設の HRM 施策として教育訓練が充実していて、
従業員のコミットメント及び離転職意思に対して、個人
給与や報酬体系が適切であるほど、従業員が所属施設を
間の差異だけでは説明できない組織間の差異の影響を確
辞めて他の施設に移ろうという離転職意思が低下するこ
認することができた点である。すなわち、実証分析部分
とが示されたといえる。従って、この結果は、本研究の
の作業仮説1を全て支持し、従業員のコミットメントに
−136−
人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
ついては、情動的コミットメントの12%、職務関与の
の異なる概念操作化や他の測定方法を採用することによ
8%、さらに離転職意思に対する9%が個人のデモグラフ
り、分析結果に大きな違いが生ずることも十分に考えら
ィック要因や態度要因などの個人間の差異ではなく、組
れるため、慎重な解釈が必要であろう。
織の HRM 施策などの実施状況によって説明されること
今後の課題として、第1に、今回の調査フレームワー
が本結果から明らかになったといえる。しかしその一方
クでは、過去の先行研究事例の結果から従業員の職務態
で、組織レベルの変数によって説明されうる従業員態
度及び行動に対する HRM 施策及び組織風土の直接的影
度・行動の分散は、いずれも10%前後でしかなく、その
響の検証作業を行なうに留まった。しかしながら、
値が必ずしも大きいものではないことも同時に明らかに
HRM 施策及び組織風土などの「組織変数」が従業員の
なった。この値の大きさは、階層線形モデルによって
職務態度・行動に対して直接効果(direct effect)を及
HRM 施策と従業員態度を検討している先行研究結果
ぼすだけでなく、調整効果(moderating effect)を及ぼ
(e.g., Liao & Chuang, 2004; Whitener, 2001)とも類似し
している可能性も十分に考えられる。つまり、今回「個
ており、従業員個人の態度・行動に対する過度な組織変
人レベル」の変数として設定した P-E fit と従業員コミ
数の影響力の認識に対する再検討の必要性を示唆する結
ットメントあるいは離転職意思との関係を「組織レベ
果とも判断できる。
ル」の変数である HRM 施策及び組織風土が調整すると
第2に、従業員の態度・行動に対する組織レベルの
いう役割についても検証する必要性があるだろう。実際
HRM 施策の影響に関して、HRM 施策が有意な影響力
に、Whitener(2001)では、従業員個人の内的な組織
を有していることが確認された点である。研究事例とし
サポート知覚と組織コミットメントとの関係を組織レベ
て取り上げた Whitener(2001)及び Liao & Chuang
ルの HRM 施策の実施状況が調整することを確認してい
(2004)では、従業員態度・行動に対する HRM 施策の
る。したがって、今後組織レベル変数の従業員態度・行
影響に関して一定のコンセンサスは得られず、その影響
動への直接効果ばかりでなく、調整効果についても検証
を再検証する必要があることは既に述べたとおりである。
する必要性が求められよう。
そのような中、実証分析部分の作業仮説2が部分的に支
第2に、実証分析の対象となったサンプルの問題であ
持され、いくつかの HRM 施策が従業員コミットメント
げられる。本研究では、医療・介護関連施設で働く医
及び離転職意思に対して有意な影響力を与えていたこと
療・介護従事者を対象とするサンプルから HRM 施策及
が確認された点は、SHRM 論の研究上の意義として指
び組織風土の個人態度・行動への影響をマルチレベル分
摘することができる。具体的には、HRM 施策の中で、
析による検討を行なった。しかし、医療・介護従事者は
「適切な給与・報酬」が各従業員態度・行動変数に対し
一般の企業従業員に比べると専門性の高い専門職に該当
て望ましい影響を与えており、その重要性が示唆された。
する。したがって、本研究の結果を一般化していくため
しかし、従業員態度への影響が確認された「充実度の高
には、上記専門職人材ばかりでなく、一般の企業従業員
い教育訓練」は、離転職意思を抑制する役割を果たす一
を対象にした調査による検討が今後必要であろう。
方で、他方、職務関与に対して負の影響を与えているこ
とが明らかになり、その効果については今後再検証をす
(2)今後の HRM 研究への階層線形モデル(HLM)の
る必要があるだろう。
応用可能性
最後に、実証分析部分の作業仮説3は、必ずしも十
これまで行ってきた階層線形モデルを用いた先行研
分に支持されることはなく、従業員個人の態度・行動に
究の検討、及び本研究での実証分析結果を踏まえ、今後
対する施設レベルでの組織風土の有意な影響力を確認す
の HRM 研究への階層線形モデルの応用可能性について
ることが本研究ではできなかった。つまり、監督者のプ
以下の点を指摘することができる。
レッシャーが強く、強制命令的な組織風土を示す「Do
第1に、階層線形モデルは組織と個人とのインタラク
因子」の組織風土の存在が、従業員個人の組織への情動
ションを実証的に分析する HRM 研究とよく適合し、応
的コミットメントを抑制する働きをしていることのみを
用の仕方によっては、既存の HRM 研究に対して極めて
支持するに留まった。そして、その他の個人レベルの従
高い貢献を果たす可能性がある。とりわけ、階層線形モ
属変数に与える組織風土のクロスレベルの影響について
デルの使用がより適合する領域としては、組織単位の
は確認することができなかった。これらの結果より、従
HRM 施策の有効性を、個人レベルの態度・行動変数か
業員態度・行動に対する組織風土の違いからもたらされ
ら探ることを目的とした研究領域が挙げられる。具体的
る影響は、本結果を見る限り必ずしも強いものではない
には、近年の戦略的人的資源管理(SHRM)論におけ
可能性が示された。この点については、今後、組織風土
る「ブラックボックス」の議論(Wall & Wood, 2005;
−137−
原
著
経営行動科学第20巻第2号
Wright et al., 2003)に対する意味ある実証研究成果の
蓄積に、大きく貢献する可能性が十分に考えられる。
対象者全員に、自身が所属する会社の人事管理に関する
質問項目を提示し、評価・回答してもらう方法である
第2に、階層線形モデルによるマルチレベル分析は、
(e.g., Meyer & Smith, 2000; Wright et al., 2003)
。データ
複雑な階層データ構造を必要とするため、実証を試みる
分析に際しては、個人レベルの人事管理に関する回答を、
場合は、研究の計画段階において緻密なサンプリング・
各社でネスト化(アグリゲート)し、組織レベルの変数
デザインを考慮する必要がある。特に、複数の組織(あ
として使用する。
るいは集団)レベルの変数とその組織・集団に属する更
これら3つのデータ収集方法のうち、第1の方法は、
に複数の個人によって構成されるサンプルの変数情報が
本研究で紹介した Whitener(2000)の研究、第2の方法
必要となるため、2段階でのサンプリング方法に注意を
は、Liao & Chuang(2004)の研究、そして第3の方法
払う必要がある。すなわち、数ある調査対象の中で、
は、今回の筆者らのデータによる検証事例に相当する。
(1)どの組織や集団を、どれだけ抽出するのか、及び
このうち、第1の方法は、企業の HRM 施策を客観的に
(2)組織・グループ内の全数を調査できない場合は、ど
評価している点で、そのデータに対する信頼性が一見高
のようにして何名程度のサンプルを抽出するのかといっ
く見えるが、一方で1企業あたり1回答者による HRM
た点に、大きな注意が注がれる必要があるであろう。よ
施策のデータが、どの程度当該企業の HRM 施策を代表
り具体的には、抽出された組織・集団レベルのサンプル
するものであるかに疑問が残るとの指摘もある(Wall
が、調査対象全体の母集団となる組織や集団をどの程度
& Wood, 2005; Wright et al., 2003, 2005 )。また、
代表しているのか、同時に、実際の調査対象として抽出
Gerhart et al.(2000)の研究においても、1企業1サン
された組織・集団の中で、更に抽出された従業員などの
プルの回答から得られた HRM 施策の「単一評価者信頼
個人レベルのサンプルが、どの程度その組織や集団に属
性」(single rater reliability)は驚くほど低い点が指摘
する個人の特徴や属性を代表しているのかといった点を
されている。この点を補う方法が第2の方法であり、こ
十分に考慮する必要がある。すなわち調査者は、多階層
の2番目の方法では、人事施策の情報を、実際の実施者
の調査では、サンプリングによるバイアスが生じやすい
の側(人事部)から複数人に回答を求め、アグリゲート
点を十分に留意した上で、マルチレベル調査設計と分析
したデータを使用する点で、先の問題点を補完した方法
を実施することが、より正確な実証結果の提供を可能と
であるといえる。
するものと考えられる。
以上は、HRM 施策を実施する側からのデータ採取で
第3に、データ収集時における回答者の問題にもいく
あるが、一方で先に示した第3の方法は、むしろ実際に
つかの注意と選択が求められる。すなわち、同時に異な
施策の実施対象となっている従業員層全般からのデータ
る階層のデータを収集するため、各階層において一体ど
を採取し、企業・集団ごとにアグリゲートしたデータを
の調査対象者からデータを収集すればよいのかという点
使用する点で、HRM の受け手の認知の総和として施策
に関して、調査設計の段階から踏み込んだ検討が必要だ
を測定する方法である(Wright et al., 2003, 2005)
。分
ろう。特に、人的資源管理研究において、HRM 施策な
析時には、個人レベルから収集したデータを組織単位で
どの人事情報を収集する際には、大きく3つの方法があ
ネスト化しているため、組織レベルの変数としてみなす
るとされている。まず第1は、企業の人事部の中から、
ことが十分に可能である。このことは、組織レベルの
会社の人事施策に関して最も正確な情報を持っていると
“HRM practice”を、どのレベルから評価するのが妥当
される回答者1名(例えば、人事部長など)を選定し、
かという議論に繋がるが、施策の実施側の評価に委ねる
その企業を代表して回答をしてもらう方法である(e.g.,
のを妥当とみなすか、また制度の受け手である実施対象
Whitener, 2001)
。第2に、企業の人事情報を最もよく知
側の従業員評価の総和を“HRM practice”と捉えるの
りうる人事部の中から、2名以上の回答者を選定し、実
が現実的と捉えるか、その判断は調査者の意図や考え、
際に複数の回答者に人事管理に関する全く同様の質問項
また研究の文脈によるところも大きいものと思われる。
目・質問紙を配布し、それぞれ回答してもらう方法であ
いずれにしても、調査者が独自の一次データをもとに
る(e.g., Liao & Chuang, 2004; Youndt et al., 1996)
。分
HRM のマルチレベルの影響を精査することを目的とし
析に際しては、複数の回答者による人事管理などの情報
た場合、データ収集が複雑かつ、比較的困難なことには
を収集し、回答の1企業内で人事部門の複数データを統
変わりはなく、データの入手可能性や収集可能性の側面
合(aggregate)した形で、企業の人事管理施策の指標
からも、上述の3つの方法のうちいずれを採用するかに
として使用する。第3の方法は、調査対象として、人事
ついて、調査者の最良の判断が求められることになるだ
部に属しているか否かに関わりなく、個人レベルの調査
ろう。
−138−
人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
第4に、本研究で詳細にレビューした Liao & Chuang
Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S., & Sowa,
D. 1986. Perceived organizational support. Journal
(2004)の研究にも見られるように、階層の段階が、2階
of Applied Psychology, 71: 500–507.
層だけではなくより多くの階層を含む研究も公表され始
めている。同時に、竹内・竹内・外島(2006)の研究に
Gaertner, K. N., & Nollen, S. D. 1989. Career
見られるように、階層線形モデルを利用し、組織レベル
experiences, perceptions of employment practices,
の HRM 施策が、従業員個人の態度(コミットメント)
and psychological commitment to the organization.
と行動(組織市民行動)との正の関係を調整する
Human Relations, 42: 975-991.
(moderate)関係を持つことを示した研究なども公表さ
Gerhart, B., Wright, P. M., McMahan, G. C., & Snell, S. A.
れており、マルチレベルでの交互作用効果の検証可能性
2000. Measurement error in research on human
も明らかになりつつある。このように、単なるマルチレ
resources and firm performance: How much error
ベルの主効果のみではなく、複数階層での間接効果
is there and how does it influence effect size
estimates? Personnel Psychology, 53: 803-834.
(mediating effect)と調整効果(moderating effect)を
検証するツールとして、同時に階層間の複雑な因果フロ
Guest, D. E. 1997. Human resource management and
ーを明らかにするツールとして、今後より成熟していく
performance: A review and research agenda.
可能性を秘めていると言うことができるだろう。
International Journal of
Management, 8: 263-276.
以上、本研究では、Whitener(2001)及び Liao &
Human
Resource
Chuang(2004)の階層線形モデルを使用した HRM 研
平井さよ子 2002. 『看護職のキャリア開発−変革期の
究の文献レビューと筆者らの既存データを利用した
ヒューマンリソースマネジメント』日本看護協会出
版会.
HLM の実験的な HRM 効果の分析を通じ、マルチレベ
ル分析の HRM 研究への応用可能性について議論した。
Hoffman, B. J., & Woehr, D. J. 2006. A quantitative
その結果、従業員の態度・行動を結果指標とした組織単
review of the relationship between person-
位の HRM の効果測定や組織風土の有効性などを検証す
organization fit and behavioral outcomes. Journal of
る際に、非常に有効な分析ツールとして、今後 HLM を
Vocational Behavior, 68: 389-399.
活用した HRM 研究成果が一層展開されるものと考えら
Hofmann, D. A. 1997. An overview of the logic and
れる。一方で、階層線形モデルを用いた他の応用例とし
rationale of hierarchical linear models. Journal of
て、SHRM 論における従業員態度を結果変数とする企
Management, 23: 723–744.
業単位の HRM と戦略の交互作用効果に関する検討や、
Hofmann, D. A., & Gavin, M.B. 1998. Centering
国際人的資源管理(IHRM)論における多国籍企業の親
decisions in hierarchical linear models: Implications
企業、子会社、海外派遣社員(もしくは現地従業員)行
for
動の垂直的関係に関する検討、企業内でのプロジェク
Management, 24: 623–641.
research
in
organizations.
Journal
of
ト・マネジメント場面でのプロジェクトの性質やリーダ
井部俊子・中西睦子 (手島惠編集) 2004. 『看護管理学習
ー特性がプロジェクト・メンバーのパフォーマンスに与
テキスト4 看護における人的資源活用論』日本看
護協会出版会.
える影響についての検討など、多様な研究への適用場面
を想定することができる。今後、こうしたマルチレベル
Judge, T. A., & Ferris, G. R., 1992. The elusive criterion
分析技法の発展が、HRM 分野における理論面、実践面
of fit in human resource staffing decisions. Human
での本質的な貢献に繋がることが期待される。
Resource Planning, 15: 47-67.
Kanungo, R. N. 1982. Measurement of job and work
謝辞
involvement. Journal of Applied Psychology, 67:
本論文に対し、貴重なコメントを頂きました2名の
匿名査読者の先生方、並びにJJAS編集委員長の大津
341-349.
Kristof, A. L. 1996. Person-organization fit: An
誠先生に記して感謝申し上げます。
integrative
review
measurements,
引用文献
and
of
its
conceptualizations,
implications.
Personnel
Psychology, 49: 1-49.
Cable, D. M., & Judge, T. A. 1996. Person-organization
Kristof-Brown, A. L., Zimmerman, R. D., & Johnson, E.
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meta-analysis of person-job, person-organization,
−139−
原
著
経営行動科学第20巻第2号
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−140−
年報』: 66-75.
(平成19年2月1日受稿、平成19年5月16日受理)
人的資源管理研究へのマルチレベル分析の適用可能性:
HRM 施策と組織風土が職務態度・行動に与える影響の検討事例
Appendix.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
変 数
適切な採用・配置管理
納得度の高い人事評価
充実度の高い教育訓練
適切な給与・報酬
伝統性(Do)
環境性(PDS)
P-O fit
P-J fit
P-V fit
P-G fit
組織コミットメント(情動的
(情動的)
職務関与
)
離転職意思
Mean
3.06
2.68
3.16
2.56
3.07
3.36
3.28
3.27
3.54
3.45
3.29
3.33
2.44
本研究で使用した構成概念の相関分析結果
APPENDIX.
本研究で使用した構成概念の相関分析結果 a
(SD)
1
2
3
4
5
6
7
8
(.28)
1.00
(.27)
.54
1.00
(.27)
.79
.63
1.00
(.23)
.69
.69
.64
1.00
(.26)
-.67 -.51 -.56
-.53 1.00
(.27)
.86
.43
.86
.55
-.40 1.00
(.74)
.47
.44
.45
.37
-.47
.50
1.00
(.77)
.16
.11
.18
.08
-.14
.24
.46
1.00
(.70)
.21
.11
.19
.09
-.17
.24
.49
.85
(.76)
.30
.24
.33
.20
-.32
.41
.48
.38
(.85)
.41
.36
.40
.36
-.42
.44
.58
.39
(.87)
.35
.29
.28
.28
-.27
.35
.53
.53
(1.02) -.37 -.34 -.34
-.31
.40
-.36 -.63 -.31
9
10
11
12
13
1.00
.37
.45
.58
-.37
1.00
.35
.32
-.36
1.00
.56
-.53
1.00
-.46
1.00
a.
観測総数は、変数間の関係によって以下の2つに分けられる。(1) n =37: HRM施策・組織風土のそれぞれの変数間の相関係数、及びHRM施策・組織風土
a.観測総数は、変数間の関係によって以下の2つに分けられる。(1)
n=37:HRM 施策・組織風土のそれぞれの変数間の相
の諸変数と他の従業員レベルの態度・行動変数との間の相関係数、及び(2)n =876:従業員レベルの態度・行動変数間の相関係数。
関係数、及びHRM施策・組織風土の諸変数と他の従業員レベルの態度・行動変数との間の相関係数、及び(2)n=876:従
業員レベルの態度・行動変数間の相関係数。
−141−