体感型ゲームの遂行能力に対するバランス機能および認知的注意・遂行

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 30 日
(金)16 : 15∼17 : 05 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!運動制御・運動学習 9】
0519
体感型ゲームの遂行能力に対するバランス機能および認知的注意・遂行機能の
関連
齋藤
徹1,2),浅川
康吉2)
1)
公益財団法人老年病研究所附属病院,2)群馬大学大学院保健学研究科
key words 体感型ゲーム・バランス機能・認知的注意・遂行機能
【はじめに,目的】
近年,リハビリテーションの分野において,体感型ゲームを用いた介入研究が多く行われ,バランス機能や認知機能に対する効
果が報告されている。しかし,ほとんどの研究が運動機能もしくは認知機能のどちらかについて論じたものである。そこで,今
回は体感型ゲームの遂行能力に対して運動機能や認知的な注意・遂行機能が関連するかどうかを明らかにすることを目的とし
た。
【方法】
対象は介護老人保健施設入所者 21 名とした。対象者の属性は男性 11 名,女性 10 名であり,年齢は 77.3±9.9 歳であった。対象
者の取り込み基準は監視レベル以上にて立位保持および歩行が可能なこととした。コミュニケーションに支障をきたすような
重度の認知症および高次脳機能障害を有する者は除外した。体感型ゲームは任天堂(株)より発売されている Nintendo WiiTM
および Wii Fit PlusTM,バランス Wii ボードTM を使用した。Wii Fit PlusTM は 69 種類もの運動種目が用意されているが,今回は
その中で立位での重心移動が必要とされる「ヘディング(HE)
」を使用した。体感型ゲームの遂行能力の指標として HE の得点
と成功回数を記録することとした。HE の得点とはゲームの結果がゲーム内で計算され,画面上に出力されるものである。HE
の成功回数とは,得点と異なりゲーム内での成功回数を検者が記録したものである。その他に運動機能の評価として Functional
Reach Test(FRT)を行った。認知的な注意・遂行機能の評価として,山口符号テスト(YKSST)を行った。YKSST はウェク
スラー成人知能検査の符号問題を日本の高齢者用に改変したものである。HE は事前に 1 回の練習を設け,その後 2 回の測定を
行い,最大値を測定値として記録した。FRT は 2 回行い,最大値を測定値とした。YKSST は練習問題を 1 回行い,その後 1
回のみの測定を行った。
統計解析は SPSS19.0J for Windows を用いた。各項目間における関連については Pearson の相関係数を用いて分析を行った。有
意水準は 5% とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は老年病研究所附属病院の倫理審査委員会の承認を得た。また,対象者には説明書を用いて口頭にてその目的や方法,自
由意志での参加であることなどを説明し,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言を遵守して行った。
【結果】
各項目における平均値は HE 得点が 12.0±5.1,HE 成功回数が 12.0±3.6,FRT が 16.2±8.6,YKSST が 19.4±10.7 であった。HE
得点と有意な相関が認められた項目は YKSST(r=0.449,p<0.05)であった。HE 成功回数と有意な相関が認められた項目は
FRT(r=0.560,p<0.01)と YKSST(r=0.463,p<0.05)であった。
【考察】
今回の調査では HE 成功回数とバランス機能および認知的な注意・遂行機能との関連が得られた。HE 得点は FRT との有意な
関連はなく,YKSST と有意な関連が認められた。HE は画面の向こう側から左右および中央へと飛んでくるボールに合わせて,
左右への重心移動を行い,それにより画面内のキャラクターがボールを頭で打ち返すというゲームである。ゲーム内ではボール
の他にボールに類似した物(靴,白黒のやかん)が飛んでくることがあり,それを打ち返すと減点となってしまう。さらに連続
してボールのみを打ち返すことにより,得点が徐々に加算されていく得点付けがなされている。このことから,HE において高
い得点を獲得するためには成功回数の多さよりもボールとその類似物を判断し,正確にボールのみを打ち返す能力が求められ
ることが示唆される。また,HE の成功回数を得るためには,前方から飛んでくる物体を視認し,その方向に合わせた適切な重
心移動が求められる。このことから体感型ゲームでは単なるバランス機能だけでなく,障害物や壁,段差などの自分がいる空間
に合わせたバランス能力が必要となると考えられる。これらのことから,HE では従来のバランス練習の効果に加え,日常生活
に必要となる遂行機能の向上にも効果があると示唆される。
【理学療法研究としての意義】
本研究の結果から,体感型ゲームの遂行能力はバランス機能および認知的な注意・遂行機能の両面を反映していることが明ら
かとなった。よって体感型ゲームによる介入はこの 2 つを複合した機能向上が得られ,より日常生活に即した介入方法であるこ
とが示唆される。また,今回使用した機器は安価で容易に手に入ることから,医療機関だけでなく,施設や地域でのコミュニ
ティ,自宅でのトレーニングにも用いることができると考えられる。