ヒースロー空港に第 3 滑走路を建設すると大気汚染による死亡が 3 倍に

ヒースロー空港に第 3 滑走路を建設すると大気汚染による死亡が 3 倍になると調査が警告
する。
10 月 12 日付けの guardian.co.uk に英国空港と健康影響に関する学術的調査について
報告がありましたので要約を掲載します。英国では空港容量を拡大するために様々な提案
がなされていますが、騒音や大気汚染などの環境問題もあり、2015 年の総選挙までは政府
の方針が決まりそうもないので、喧喧諤諤の議論になっているようです。
論文審査がある Atmospheric Environment 誌に掲載される予定の「英国の空港が大気
質と公衆衛生に及ぼす影響 第二報:影響と政策の評価」によれば、ヒースロー空港に第 3
滑走路が建設されると、ヒースロー空港の大気汚染による早死には 2030 年までに 3 倍に
なるとのことである。調査では英国の 20 主要空港、特にロンドン周辺空港での運航が公衆
衛生に及ぼす影響に焦点をあてている。
この調査は英国の主要空港の航空機有毒ガスと健康の因果関係を分析する初めての調査
であるが、それによれば、年間 50 の早期死亡はヒースロー空港の大気汚染に起因すると考
えられる。
空港を拡張しない場合でも、飛行回数が増えることで大気汚染による死亡の数は 2 倍を
超えることになるだろうと著者は結論づけている。
ヒースロー空港拡張に反対している活動家や政治家なら間違いなくこの調査結果に飛び
つくだろう。
ヒースロー空港のように人口集中地域の真ん中にもともと空港があるのが問題なのだと
マサチューセッツ工科大学の航空と環境研究所の director であり今回の調査の上席著者
である Steven Barrett 教授は言う。
「また、英国の卓越風により、排出物がロンドン全体に
渡って吹き渡ってしまうのだが、テームズ河口に空港を建設すれば、主要な大都市圏から十
分離れていて、卓越風がイギリス海峡と北海へ汚染物質を運んでくれるだろう。」とのこと
で、ヒースロー空港の運航がテームズ河口の新規ハブ空港へ移管されれば、健康上の大きな
利益があることが調査で明らかになった。
地域の大気質を悪化させるのは着陸時と離陸時の排気ガスだけではない。航空機の地上
走行、空港の地上支援装置、ジェット燃料を使用して機内電力を生成する補助動力装置もま
た汚染の原因となる。
研究者らは、2005 年のデータに基づき、英国空港は各年で 110 の早死にに関与している
と結論づけ、その多くの死因は肺がんと心肺の病状によるとした。この中で、50 がヒースロ
ー空港のみに由来すると関連づけられると彼らは計算する。
政府の統計によれば、これからの 20 年で航空旅行は 50%を超える増加が見込まれてい
るので、公衆衛生への影響もまた増大するだろう。ヒースロー空港に第 3 滑走路が増設され、
制約無しで航空交通が増大するなら、空港による早死にが 150 になり、英国全体の死亡は
260 になるだろう。第 3 滑走路を建設しなくても、死亡率の数字は実質的には上昇するだろ
う。他空港がより多くの交通をになうなら英国全体の死は 250 で、ヒースロー空港に直接由
来するのは 110 になるだろうと研究者らは見込んでいる。
研究者らはまた、ヒースロー空港を完全に閉鎖し、テームズ河口の新規ハブ空港(ロンド
ン市長の Boris Johnson 氏が提案したので「ボリス島」と時折呼ばれる)に全運航を移管す
るという、根本的に異なるシナリオも予測した。
すると、英国全体で 60 の生命が救われ、新規に建設されるハブ空港自体が今度は現在の
ヒースロー空港と同様の 50 の早期死亡の原因となるだろうとのことである。空港を移転し
ても飛行機からの CO2 排出により空港が気候変動に及ぼす影響にはたいした変化はない
だろう。
この予測は政府の航空に関する諮問文書にも取り入れられることになりそうであり、ロ
ンドン市議会の健康と環境委員会の議長 Murad Qureshi 氏によれば、同委員会でも討議さ
れることになっている。
大気汚染物質の医学的影響に関する政府の諮問委員会(COMEAP)で汚染リスクに関す
る主要な調査を指揮する疫学者の Fintan Hurley 氏は、この報告書を歓迎したが、自動車
や大型トラックがヒースロー空港へ乗り入れることの付加的影響は分析に含まれていなか
ったので、空港計画を完全に比較するには、例えば鉄道の路線が加わる等の将来の変化につ
いても考慮に入れるべきであるとのことだ。
2008 年に Hurley 氏が率いた委員会調査では、英国では大気汚染が年間 29,000 の早死
にの原因になっているそうだ。彼によれば、
「110 の死は英国全体の汚染物質による死亡と
比較すれば小さい数字だが、もし航空機の墜落による死者が英国で年間 110 ならば、大規
模な調査が行われていただろう。」
Barrett 氏によれば、死亡の多くは比較的単純な対策で避けることが可能らしい。飛行機
は電力を機内の補助動力装置から得ているが、飛行機がスポットにある時は運転を止めな
いことがしばしばある。空港の電力供給設備につなげばこれらの排ガスが減るだろう。空港
支援作業に電気自動車を使用することも同様である。脱硫燃料使用で燃料コストは 2%し
か増えないが、健康影響は 20%低減できる。汚染を軽減する努力によって全体で、空港の運
営によって排出される汚染物質を半減することが可能だろう。
ヒースロー空港の広報担当者は言った。:「航空が大気汚染に占める割合は道路交通に比
べればずっと小さいが、我々は問題に取り組むための十分な措置をすでに講じている。たと
えば、車が無くても無料で空港にアクセスできるよう、地元の公共交通を我々は支援してい
る。また、どれだけ環境対策を行っているかに基づいてエアラインに課金しているが、最も
環境対策が進んでいる航空機はヒースロー空港の着陸料が少額ですむ。」
原記事:
http://www.guardian.co.uk/environment/2012/oct/12/heathrow-third-runway-airpollution?INTCMP=SRCH
原著論文:
(抄録を見るのは無料ですが、全文ダウンロードは有料です。):
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1352231012009818/
ちなみに上記調査の第一報は、2011 年の第 45 巻第 31 号 p.5415-5424 に掲載されてい
ます。