大学知的財産本部とTLOとの連携方策に関する調査研究

平成15年度 文部科学省大学知的財産本部整備事業
21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム研究
大学知的財産本部とTLOとの連携方策
に関する調査研究報告書
平成16年3月
東京工業大学
大学知的財産本部とTLOとの連携方策
に関する調査研究チーム
目
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第1章 TLOと国立大学法人化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1−1. TLOの設立・活動の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・
1−2. 国立大学の法人化と大学知的財産本部整備事業・・・・・・・
1−3. 大学知的財産本部とTLOとの連携の必要性・・・・・・・・
3
3
3
4
第2章 我が国のTLO及び大学知的財産本部の現状 ・・・・・・・・・・ 5
2−1. 大学等技術移転促進法によるTLOの承認・・・・・・・・・ 5
2−2. 文部科学省による知的財産本部の整備・・・・・・・・・・・ 5
第3章 大学知的財産本部とTLOとの連携方策 ―海外の事例― ・・・・ 9
3−1. はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
3−2. 海外の研究大学における人材・研究資金の流れ・・・・・・・ 9
3−3.
各国の産学連携事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
第4章 我が国の私立大学の事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4−1. 立命館大学の産学連携事業・・・・・・・・・・・・・・・・23
4−2. 早稲田大学の産学連携事業・・・・・・・・・・・・・・・・24
第5章 法人化を控えた国立大学とTLOの動き ・・・・・・・・・・・26
5−1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
5−2. 大学知的財産本部とTLOの連携方策の事例・・・・・・・・27
5−3. まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
第6章 TLO協議会から大学知財管理・技術移転協議会への発展 ・・・・36
6−1. 大学知財管理・技術移転協議会の誕生の背景及び経緯・・・・36
6−2. 大学知財管理・技術移転協議会の組織及び活動・・・・・・・37
6−3. 大学知的財産本部等の新協議会参加について・・・・・・・・38
6−4. 大学知財管理・技術移転協議会の今後の活動・・・・・・・・39
まとめ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
はじめに
1.
本調査研究の目的
本調査研究は、文部科学省大学知的財産本部整備事業の一環として実施され
る平成 15 年度 21 世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム研究課
題として、文部科学省研究振興局より提示された「大学知的財産本部とTLO
との連携方策について」との研究課題に対応して行ったものである。
大学における知的財産本部整備の取り組みが進展するとともに、平成 16 年 4
月には国立大学が法人化され、これに伴い大学における発明の帰属の取り扱い
も原則機関帰属へと変わることになる。こうした環境変化の中で、今後とも産
学連携を発展させていくためには、大学知的財産本部とTLOの連携を図るこ
とが不可欠である。本調査研究は、海外の代表的な事例や我が国の私立大学に
おける事例、法人化を控えた幾つかの国立大学における取り組み、大学知財管
理・技術移転協議会の活動等について取りまとめ、もって各大学において個別
の事情を踏まえつつ大学知的財産本部とTLOとの連携関係のあり方の検討を
行うことに資するため実施した。
2.
調査研究の方法
東京工業大学フロンティア創造共同研究センターの研究・情報交流機能を中
心とした関係者により、調査研究チームを結成し、調査研究を実施した。調査
研究にあたり学内外の関係者・有識者、関係機関の協力を得た。ここに深く感
謝申し上げたい。
なお、本報告は多くの方々のご支援を受けてまとめられたものであるが、そ
の方々のご了解を得たものではなく、あくまで、東京工業大学の調査研究チー
ムの報告であることを念のために記させて頂きたい。
具体的には以下の方法により調査研究を行った。
(1)調査研究の目的及び方法の検討並びに論点の整理
調査研究の目的及び方法を検討し、論点を整理した。
(2)大学知的財産本部とTLOの整備の経緯及び関連施策の調査
大学知的財産本部及びこれに先行して整備が進められたTLOのそれ
ぞれについて、その経緯と関連の施策について整理を行った。
(3)海外及び国内私立大学における大学知的財産本部とTLOとの連携状況
の調査
1
既に大学知的財産本部とTLOが連携して活動を行っている先進事例
として、海外の大学及び国内の私立大学関係者へのヒアリング等による実
態調査を行い、連携に当たってのポイントとなる事項の把握を行った。
(4)法人化を控えた国立大学とTLOの動きに関する調査
法人化を目前に控えた国立大学における大学知的財産本部の整備状況
とTLOの連携関係について国立大学、TLO関係者へのヒアリング等に
よる実態調査を行い、その取り組みの特徴、今後の参考となるべき事項に
ついて把握を行った。
(5)大学知財管理・技術移転協議会の活動に関する調査
大学知的財産本部とTLOの連携の重要な場として期待される大学知
財管理・技術移転協議会について、TLO協議会からの発展経緯、現在
の活動状況、今後の活動の展開について整理を行った。
3.
調査研究担当者
東京工業大学
フロンティア創造共同研究センター
産学連携推進本部・兼務
教授
教授
産学官連携コーディネーター
同
同
大学知財管理・技術移転協議会
事務局長
2
下田
喜多見
清水
畑谷
前島
石丸
隆二
淳一
勇
成郎
千絵
康平
第1章 TLOと国立大学法人化
1−1.
TLOの設立・活動の経緯
我が国の産学連携活動の中で、技術移転、ライセンス等の中核的な役割を担
ってきたTLO(Technology Licensing Organization)は、平成 10 年 8 月の「大
学等技術移転促進法」の施行以来設立が進み、平成 16 年 2 月末現在までに 36
機関を数えるに到っている。このうち私立大学については、大学自身が法人格
を有するために大学の内部組織としてTLOを設置することが可能であり、規
模の大きな私立大学ではそうした形態を取っている場合が多い。一方、国立大
学については法人格を有していなかったために、当該国立大学を対象とするT
LOは必然的に大学の外部に設置するとの形態を取らざるを得ず、株式会社、
有限会社あるいは財団法人といった形態で大学外部の組織として整備が行われ
ることとなった。また、これらの外部組織としてのTLO法人には、役員兼業な
どの場合を除いて、国立大学が直接関与(例えば出資等)することが出来なかった。
このように、我が国の大学において特許等の知的財産の創出、管理、活用に
至る一連の活動を一元的に学内組織が担う体制を取ってきたのは、一部の私立
大学のみであった。他方、法人格を有していない国立大学についてはこれが制
度的に不可能であったために、外部のTLOが共同研究センターや研究協力
部・課といった学内の産学連携関係組織と連携しつつ、その機能の多くを担っ
てきたのが現状であったと言える。
1−2.
国立大学の法人化と大学知的財産本部整備事業
上記のような形でTLOの整備が開始された後、国立大学の法人化の方針が
議論の俎上に上り、その結果、平成 15 年 7 月に「国立大学法人法」が成立し、
平成 16 年度に国立大学が法人化されることとなった。
また、法人化に併せて大学における発明を原則として大学機関帰属とし、各
大学法人が責任をもって特許等の知的財産の管理・活用を行うとの政府の方針
が提示された 1。更に、こうした管理・活用のための学内体制として「大学知的
財産本部整備事業」が平成 15 年度から開始された。既に同事業として 34 件(こ
のうち国立大学関係 25 件)が採択されて「大学知的財産本部(大学により名称
が異なる)」の整備が進められている。
このように我が国の国立大学では、時間的経緯として外部TLOの発足・整
備が先行し、その後に国立大学法人化、発明の大学機関帰属、大学知的財産本
部整備といった変化が起こってきた。
3
1−3.
大学知的財産本部とTLOとの連携の必要性
TLOは、これまでに大学の技術移転事業を行い、国内特許出願:4,088 件、
ロイヤリティ収入:1,072 百万円(平成 15 年 9 月現在)2 といった成果を挙げて
いる。この間、TLOの事業内容も、単なるライセンス活動から、研究資金の
仲介、あるいはスタートアップ企業の設立支援等多岐にわたるようになりつつ
ある。
国立大学法人化後の産学連携活動においても、外部組織としてのTLOのメ
リットやこれまでの活動の中でTLOに蓄積された経験・ノウハウを生かして
いく方策を探っていくことが不可欠であり、大学知的財産本部とTLOの連携
は今後の極めて重要な課題となっている。
しかし、TLOは設置形態が株式会社、有限会社、財団法人と多様であるだ
けでなく、特定大学と連携するTLOのほかに、私立大学も含め複数の大学と
連携するいわゆる広域型TLOも存在する。また、TLOと大学との連携に係
る類型として、大学内部型、大学外部一体型、大学外部独立型などの類型も提
示されている 3。
このような状況に鑑みれば、全国一律の画一的なモデルによる対応ではなく
各大学において個別の事情を踏まえつつ大学知的財産本部とTLOの連携関係
を構築するとともに、各大学の知的財産本部及びTLO相互の連携を進めるこ
とによって、我が国全体としての産学連携活動の活性化を図ることが不可欠で
ある。
こうしたことから、次章以下においては、TLO及び大学知的財産本部の現
状を概観するとともに、外国の代表的な研究大学における事例、我が国の私立
大学における事例を紹介し、さらに法人化を控えた国立大学とTLOの動きに
ついても事例を紹介する。また、大学知的財産本部、TLO相互の連携を図る
ための活動として大学知財管理・技術移転協議会の活動を紹介し、今後の各大
学における知的財産本部とTLOの連携のあり方を探るための参考とする。
(参考)
1 知的財産戦略推進本部「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」
(平成 15 年 7 月)
2 経済産業省資料(総合科学技術会議第 16 回知的財産戦略専門調査会、平成
16 年 1 月 21 日)
3 産業構造審議会 産業技術分科会 産学連携推進小委員会「産学連携の更なる
促進に向けた 10 の提言」(平成 15 年 7 月 10 日)
4
第2章 我が国のTLO及び大学知的財産本部の現状
2−1.
大学等技術移転促進法によるTLOの承認
平成 10 年 8 月施行の「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者へ
の移転の促進に関する法律(大学等技術移転促進法)」により、大学等から生じ
た研究成果の産業界への移転を促進し、産業技術の向上及び新規産業の創出を
図るとともに、大学等における研究活動の活性化を図るため、TLO(技術移
転機関)の整備を促進することとなった。この法律の施行後、まず 4 機関が平
成 10 年 12 月 4 日に文部大臣・通商産業大臣(当時)の連名にて承認されたの
を皮切りに、順次各地のTLOが承認を受け、平成 16 年 2 月末現在承認TLO
の数は 36 機関にまで増加している。
承認TLOは、その設置形態で大きく内部TLOと外部TLOに分けて考え
ることができる1。内部TLOには、学校法人としての法人格を持つ私立大学が
学内組織として技術移転機関を整備して承認を受けたものがある。現在内部T
LOとされるTLOは 7 機関である。一方、外部TLOには、これまで法人格
を持たなかった国立大学のTLOとして学外に作られたものや、関連大学が複
数大学にまたがるために外部に置かれているものがある。
外部TLOは主に一大学の案件を扱う単独大学TLOと、地域に分布する複
数の大学の案件を扱う広域型TLOに分けられ、外部TLO 29 機関のうち単独
大学TLOとされるものが 8 機関、広域型TLOとされるものが 21 機関となっ
ている。TLOの設置形態と承認年度をまとめたものを表 2-1 に示す。
TLOは全国的に分布しているが、大きな大学が首都圏に多く立地している
こともあり、36 機関のうち約半数の 16 機関は首都圏に存在している。全国の承
認TLOの地理的な分布を図 2-1 に示す。
2−2.
文部科学省による知的財産本部の整備
平成 14 年 7 月 3 日に知的財産戦略会議が決定した『知的財産戦略大綱』にお
ける「全国数十程度の主要な国公私立大学において、TLOとも連携しつつ、
企業経験者等民間の人材を活用して、知的財産の創造と活用を総合的に支援す
る「知的財産本部」の整備等を 2003 年度までに開始する」との記述、また、平
成 15 年 3 月 1 日施行の『知的財産基本法』における「大学等における知的財産
に関する専門的知識を有する人材を活用した体制の整備」の記述を受け、
「特許
等知的財産の機関管理への移行を踏まえ、大学等において知的財産の取得・管
理・活用を戦略的に実施するための体制整備を支援」することを目的に、文部
5
科学省によって「大学知的財産本部整備事業」が行われることとなった。
これに対し、全国の国公私立大学等から知的財産の取得・管理・活用を戦略
的に実施するための体制構築に向けた構想が提出され、文部科学省の選考委員
会により 34 件の「大学知的財産本部整備事業」2,3 及び 9 件の「特色ある知的財
産管理・活用機能支援プログラム」が採択され、それぞれ中間評価はあるもの
の最長で 5 年間の予算配分がなされることとなった。
大学知的財産本部には、専属型TLOと提携するもの・広域型TLOと提携
するもの・TLOとの提携が少ないもの、また、総合大学・自然科学系大学、
国立大学・公立大学・私立大学等、様々なパターンについて整備対象が選定さ
れている。図 2-2 に大学知的財産本部の整備パターンの分類、図 2-3 に採択さ
れた案件の一覧を示す。
(参考)
1 産業構造審議会 産業技術分科会 産学連携推進小委員会「産学連携の更なる
促進に向けた 10 の提言」(平成 15 年 7 月 10 日)
2 大学知的財産本部整備事業 文部科学省 (平成 15 年 7 月)
3 「新時代の産学官連携の構築に向けて」 文部科学省 科学技術・学術審議会
技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会 (平成 15 年 4 月)
6
承認TLO(36機関)の設置形態
承認年度
内部TLO
(7機関)
外部TLO
平成10年
日本大学国際
産業技術・ビジ
ネス育成セン
ター(NUBIC)
(株)先端科学
技術インキュ
ベーションセン
ター
(29機関)
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
早稲田大学産
学官研究推進セ
ンター
慶応義塾大学
知的資産セン
ター
東京電気大学
産官学交流セン
ター
明治大学知的
資産センター
日本医科大学
知的財産・ベン
チャー育成
(TLO)センター
東京理科大学
科学技術交流
センター
(株)筑波リエゾ
ン研究所
(株)産学連携
機構九州
(財)生産技術
研究奨励会
(株)キャンパスク
リエイト
(財)理工学振
興会
農工大ティー・
エル・オー(株)
(有)山口
ティー・エル・オー
関西ティー・エ
ル・オー(株)
広域型
平成11年
平成16年2月現在
北海道ティー・エ
ル・オー(株)
(株)東北テクノ
アーチ
(21機関)
よこはまティーエ
ルオー(株)
(財)新産業創
造研究機構
(株)テクノネット
ワーク四国
(株)三重ティー
エルオー
(株)信州TLO
(財)名古屋産
業科学技術研
究所
(財)大阪産業
振興機構
(財)北九州産
業学術推進機
構
(株)みやざき
TLO
(株)山梨
ティー・エル・オー
(財)くまもとテク
ノ産業財団
(有)金沢大学
ティ・エル・オー
(有)大分TLO
タマティーエルー
オー(株)
(株)新潟
ティー・エル・オー
(株)鹿児島
TLO
(財)広島産業
振興機構
(財)浜松科学
技術研究振興
会
経済産業省資料に基づく
表2−1
TLOの設置形態と承認年度
出典:経済産業省
図2−1
全国のTLOの分布
7
出典:文部科学省
図2−2「大学知的財産本部」の設置形態(整備パターン)
出典:文部科学省
図2−3
全国の「大学知的財産本部整備事業」の採択案件
8
第3章 大学知的財産本部とTLOとの連携方策
―海外の事例―
3−1.
はじめに
平成 15 年度に文部科学省が「大学知的財産本部整備事業」1,2 を開始し、平成
16 年 4 月の大学法人化とともに、大学の発明を機関帰属とし、各大学が責任を
もって特許等の知的財産の管理・活用することになった。これらの「大学知的財
産本部(大学によっては名称が異なる)」は、これまで既に大学の技術移転事業
を行い、少なからぬ成果(特許等の出願約 4,000 件、大学発ベンチャー企業 約
600 社の一部など)3 を挙げている「承認TLO」との密接な協力が前提となっ
ていることは当然である。しかし、TLOは、内部型、外部型、広域型、ある
いは、株式会社、有限会社、財団法人、さらには、1つの大学に複数の承認T
LOが存在するなど、その形態や事情は多様なものとなっている。こうした中
で知的財産本部との連携のあり方についての整理を必要としているのが現状で
ある。そこで、外国の代表的な研究大学における「産学連携事情」を調査する
とともに、それを参考にして「大学知的財産本部とTLOの連携」を探る必要
がある。これまでのわが国の産学連携事業の手本にしてきた米国、及び英国の
研究大学の事例について可能な限り最近の状況を把握することを心がけた。ま
た、わが国の産業と今後深い関係で結ばれる中国の大学の産学連携事業の事情
に関しても触れることにする。
3−2.
海外の研究大学における人材・研究資金の流れ 4
本題に入る前に、最近のこれら主要国の科学技術政策の特徴と研究大学にお
ける研究資金獲得の実状を把握する必要があろう。それは、新産業創生のため
のイノベーションの推進は、国の経済的繁栄を担保する国策として共通してい
るからである。この視点で各国に共通しているのは:
① 政府R&D投資の拡充及び重点化
② 科学技術系人材の育成・確保
③ 産学官連携・地域イノベーションの推進
である。
特に米国の大学の特徴を挙げると、連邦政府からの重点課題に関する研究開
発投資と科学技術人材の流れに強い相関性が認められることであろう。換言す
れば、政府資金の多い重点分野の人材は、大学がスカウトしても集めるので人
9
材の流動性が促進される。また、米国の大学において工学系学生の 50%は外国
人であることから推測しても、優秀な人材を世界から集めることで自国の科学
技術のトップの座を保持することを期待している。このような、世界規模の人
材の流動性という視点からみると、わが国の大学は今後かなりの努力をする必
要に迫られよう。また、米国の博士課程学生は複数の専門性を持つように実践
的に教育され、研究リーダーとして即戦力とみなされるのに対して、わが国の
博士課程修了者は 1 つの専門に固執するあまり、新分野を開拓するリーダーと
しての力量に欠けるとの批判も一部にある。このように、人材の育成に関して
もかなりの違いが認められる。
また、米国カルフォルニアのシリコンバレー、ボストン市のバイオ関係産業
のような産学官連携の地域イノベーションの推進に多くの成功例が認められる。
この場合、産業分野によって異なるが、バイオインフォーマティクスなど新興
技術分野では、カルフォルニア大学サンディエゴ校に見られるように、大学で
教育された博士課程修了者などの若手研究者の活躍が目立つ。ここでは、博士
号を持つ若手研修者の企業就業比率が高く、ベンチャー企業へ 50〜60%、中堅
研究開発型企業 20〜30%、大企業 10〜20%となっている。一方、IT技術、半導
体技術などを中心としたシリコンバレーにおいては、修士課程修了の技術を持
った若手人材の供給が主体になっているのが特徴的である。
また、地域イノベーション推進には、マサチューセッツ州のように,州政府
が資金、人材、大企業との連携などを可能にする施策を打ち、バイオクラスタ
ー形成に主たる役割を演じている。州政府が公立大学に出す研究資金は、大学
が獲得する研究資金の 15〜20%程度に減少してきているのが現状で、過去には
50%の研究資金を供給していたことと比べると、公立大学においても多様な研
究資金獲得の道を探ることが必要になってきている。
(1)
米国の主な研究大学における研究資金源
表 3-1 に米国の代表的な研究大学の資金提供源を比較する。
表3−1
米国の研究大学の研究資金源
4
連邦政府
州政府
産業界
学会・協会
その他
合計
順位
Stanford
私立
354
3
32
19
19
427
9
MIT
私立
309
0
75
13
13
420
10
PennState
州立
199
16
66
99
0
379
19
(単位:M$)
10
米国・英国などの研究大学の研究資金源としては、同窓会などからの寄付金
の割合が高い(スタンフォード大学 37% 64M$、オックスフォード大学 43%
91M$)のが特徴的である。そのため、同窓会組織などへのサービス事業などに
多くの努力が払われている。その他、大学が企画している多くの産学連携事業
があり、それぞれが研究費獲得源として機能している。スタンフォード大学に
おける事例は以下の通りである:
Stanford Center for Professional Development 450 社参加 11.3 M$
Industrial Affiliate Program 会費
11.7 M$
Royalty
36.9 M$(全体の7%)
Sponsored Research
42.1 M$(全体の9%)
Research Fund
496.9 M$(内 82%が政府資金)
技術移転事業が米国でも例外的に成功しているスタンフォード大学ですら、ロ
イヤリティ収入を主たる研究資金源とすることは期待できない。むしろ政府研
究資金を獲得するために、研究成果等を適切に大学が管理・活用することがこ
の事業の目指すところとなっている。
(2)
英国の研究大学における研究資金源
英国の大学は、高等教育助成会議(HEFCs)、研究能力評価(RAE)から 3〜5 年
おきに評価を受け、その評価結果に基づいて研究資金が配分される。たとえば、
2000 年(平成 12 年)の英国の大学への研究費提供機関とその比率を挙げると:
・HEFCs
34.7%
・研究会議
20.0%
・慈善団体
17.0%
・民間企業
6.0%
であり、英国の代表的な研究大学であるオックスフォード大学における研究資
金の内訳を示すと 5:
・研究会議
69 M$ ( 32%)
・慈善団体
91 M$ ( 43%)
・民間企業
28 M$ ( 13%)
・EU public + UK Government
25 M$ ( 12%)
Total
213 M$ (100%)
となっている。ここから明らかなように、オックスフォード大のように世界中
から優秀な人材を集め育成している大学では、政府競争資金と同窓会組織など
からの寄付金が主たる研究資金源になっていることが特徴であり、企業との共
同研究、受託研究などの占める割合は 10%程度に留まっている。この傾向は米
国の研究大学にも共通した傾向である。
11
(3)
中国の科学技術政策と大学の対応 6
中国では 1979 年(昭和 54 年)の「鄧小平の改革開放」から年平均 7%の経済
成長を続けており、2003 年(平成 15 年)にはわが国の貿易相手国としては米国
を越えて世界 1 位に躍進し、わが国の経済の最大のパートナーとなった。した
がって、中国はわが国の産業にとって、大きな市場であるばかりでなく、その
科学技術政策が双方に大きな影響を及ぼすことも事実である。そこで、最近の
中国の大学を中心とした科学技術政策について述べてみよう。
中国の研究大学における発明特許出願件数は、1999 年(平成 11 年)に 1,000
件、2000 年(平成 12 年)には倍の 2,000 件に急激に増加している。この事実は、
中国における科学技術政策である「知識革新プロジェクト」が第 2 段階;全面
推進段階 (2001〜2005 年(平成 13〜17 年))に入った結果である。ここでは、
具体的な目標として:
・ 国際的にトップレベルの科学技術力をつける
・ 海外から 500 名の優秀人材を招聘する
・ 2005 年(平成 17 年)までに「中国科学院」の研究員を、20,000 人(固定)、
25,000 人(流動)に減少させるとともに、機関数 80 機関まで削減する
ことが掲げられている。
特に、研究大学においては、大学発の企業(校弁企業という)を積極的に創
生することが奨励されている。その結果、2001 年(平成 13 年)の校弁企業は、
5,039 社、総売上 607.5 億元(約 9,100 億円)にも達する成果を挙げている。その
中で科学技術を核とした校弁企業は 1,900 社と約 40%を占め、売上高に関して
は全体の 74%を占めるなど、科学技術政策の重要性を示唆する結果を得ている。
大学別にその成果を示すと:
1 位 北京大学
2 位 清華大学
3 位 ハルピン工業大学
4 位 上海交通大学
校弁企業の総利益
校弁企業の売上高
6.76 億元(101 億円)
6.25 億元( 94 億円)
2.33 億元( 35 億円)
2.00 億元( 30 億円)
110 億元(1,650 億円)
62 億元( 930 億円)
16 億元( 240 億円)
17 億元( 255 億円)
とかなりの経済効果を挙げている。この産学連携施策を推進するために大学の
独立法人化、研究機関改革、留学人員創業園区などの施策を政府が積極的に進
めてきたことは言及するまでもない。その結果、大学は「科技園(サイエンス
パーク)」を設置したり、学内に「科学技術処」を設置するなど、経営サポート
等の支援をする他に、最近では、国際的な技術移転事業を推進するために、清
華大学、上海交通大学、西安交通大学、華東理工大学、華中科技大学、四川大
学の 6 大学の技術移転センターが選抜され、事業を開始した。
12
これらの成果は、産業の進化段階において異なるが、米国・英国の研究大学
の技術移転事業がスタートアップ企業の創業で多くの成果を挙げていることに
類似している。これと比較するとわが国の大学発ベンチャー創業の成果は、2003
年(平成 15 年)の段階で 614 社と増加しているが、一部を除いて期待していた
経済効果を挙げるには至っていないのが現状であろう。
比較のために、わが国の国立大学である東京工業大学の研究資源の概数(2002
年度(平成 14 年度))を示す 7:
・科学研究費補助金
・産学連携等研究費
・21 世紀 COE プログラム
・外部研究資金
41.1 億円
28.5 億円
7.5 億円
32.3 億円
ここから明らかなように、東京工業大学の研究資源の内、研究者の自由な発想
を支援する科学研究費補助金 の 41.1 億円に比較し、産業支援を目的とする産学
連携等研究費、及び外部研究資金は 60.8 億円と大きな割合を占めていることか
ら、外部資金には政府系の研究資金が含まれているものの、東京工業大学に寄
せる企業の期待は大きいことが推測される。また、研究資金の出所という視点
で、米国、英国の研究大学とわが国の研究大学、特に国立大学を見ると、同窓
会等からの寄付金が少ないことが目立った相違点である。このことは、今後の
大学運営において着目すべき点であろう。
3−3.
(1)
各国の産学連携事情
米国の大学技術移転事情 8
米国の大学 2,363 大学のうち、技術移転事業は 200 の研究大学で実施されてい
るに過ぎず、充分な研究ポテンシャルと周辺環境が産学連携事業に適している
ことがこの事業の必要条件であることが想像される。また、研究大学において
も、本務である研究と教育を重視し、主な関心は技術移転事業そのものよりも
イノベーション重視のリエゾンオフィスの運営に力点が置かれている。技術移
転機関が成功するためには、明確なポリシーを掲げることが必要で、①研究者
へのサービスに重点をおく業務面の使命、②収入面の使命、そして③スタート
アップ企業の創生により経済発展面の使命、をバランスよく実施することが必
要とされている。
(2)
米国大学の特許出願の実態
米国では Bayh-Dohle 法とともに、各州が州立大学の知的財産権の管理につい
て法律を制定し「標準化」したことでこの事業が顕著に推進された。特許出願
13
に関しては、米国では政府資金で特許出願は出来ない。そこで、受託研究費の
一部をこれに当てている。その割合は代表的な研究大学であるマサチューセッ
ツ工科大学(MIT)(私立)で 0.8% 、ペンシルバニア州立大学(Penn State)(州立)
で 0.3%と決して大きくない。
しかし、ライセンス収入に対する特許出願費用は、
MIT で 20% 、 Penn State では 95%にも達している。これは、Penn State では
開示された発明から特許出願される比率が高く、リスクの高い特許出願を行っ
ていることによるものと推測される。
また、米国の研究大学の多くが 45〜100%の高い特許出願比率を示すのは優秀
な研究者を維持するためで、大学の運営という視点からは特許出願経費は必要
経費と考えられている。また、米国では簡易で廉価な「仮出願」制度を活用し、
起業家精神を養い、特許出願に掛けた費用の数倍の配当を期待する活動が一般
的である。さらに、米国の大学のTLOでは、ライセンシーに対して特許取得
に要したすべての費用を請求するリインバースメントを行う。ただし、この費
用には人件費・間接運営費などは含まれない。特に独占契約には「特許費用の
払い戻し」を請求することで大学の経済的負担を軽減している。
米国における大学技術移転の成功例は Industry Pull 型が圧倒的にTLO-push 型
を凌いでいる。したがって、技術移転の確率の高い研究テーマは、企業との共
同研究あるいは、企業ニーズを熟知した研究者の発明が主体であり、大学の研
究者と産業界が密接な連携を持つことが大切である。したがって、大学の研究
成果についてのマーケット情報源は、①研究者、②研究者OB、③関係業界、
④卒業生、⑤友人の順と、属人的な側面が強く、提供可能な情報をインターネ
ットなどに載せる「受身のマーティング」にあまり多くの期待は寄せられない。
Texas A&M Univ. System の技術移転組織を例に挙げると、1 人のエグゼクティ
ブディレクターの下に、5 部門の大きな組織で構成されている。各部門は、ライ
センス(7 名)、財務(3 名)、法務補助(3 名)、サービス(1 名)、総務(3.5名)から
構成され、それぞれが分担して技術移転事業を実践している。これらの技術移
転機関は、特許出願、実施、管理、活用などについて自治権と独立性を有して
いる。一部例外はあるが特許出願の決定から、ライセンシーの選択まで技術移
転機関が責任をもって実施するのが特徴的で、このことが大学の技術移転事業
を成功に導く必要条件とも言われている。
リスクを伴う特許費用は大学が支援するのが一般的で、米国でも特許出願費
用等をリインバースメントにより全額回収することは出来ないので各大学はそ
れぞれ支援している。たとえば、Penn State、MITでは 50%、CALTEC(カルフォ
ルニア工科大学)では 90%を大学が支援しているのが現状である。
14
(3)
米国研究大学の産学連携事業の比較
(ペンシルバニア州立大学、MIT)9
米国の代表的な研究大学の内、その運営形態が州立・私立と異なる2大学、
ペンシルバニア州立大(Penn State)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の技術
移転組織とそれを利用する研究者を訪問し、それぞれの大学のこの事業の実態
に触れた印象を以下に記述する。
1)ペンシルバニア州立大学(Penn State)産学連携事業
10
Penn State の技術移転オフィスは大学から車で 10 分程度の新しい開拓地に立
てられたもので、インキュベーション施設も隣接してサイエンスパークを形成
している。この大学のインキュベーション施設の歴史は古く、80 年の歴史を有
する B. Franklin 研究所があり、また、Navy の受託研究で 50M$/年の研究費を獲
得している ARL (Applied Research Laboratory)、及び材料研究として企業との共
同研究を実施し、30 年の歴史をもつ Materials Research Laboratory などこれまで
に多くの産学連携の実績をもつ大学である。Penn State の産学連携関連は以下
の 3 組織で構成されている:
・Intellectual Property Office (IPO)
人員 11 名
・Industrial Liaison Office
人員 7名
・Incubation Facilities
インキュベーター 2 名
発明の権利帰属は機関有であり、特に 5 年前位から積極的に特許出願とライ
センシングが奨励され、研究資源の獲得に役立つための努力をしている。特許
出願数は現在約 200 件/年程度で,費用対効果を第一にライセンシングの可能性
を優先し、仮出願制度を利用している。そこで、1 年間でライセンス先が見出せ
な い 発 明 は 、 IPO か ら 、 大 学 の Administration Committee からなる Review
Committee に依頼してライセンシングすることで、出願した特許の成約率の向上
を心がけている。
産業界からの研究費の獲得は多く、全米の研究大学の中でも上位を占め、メ
ディカルスクールを始め均等に獲得され、特に偏りはない。リエゾン活動につ
いては、特に会員制を持たず、米国だけでなく外国も含めグローバルにアクセ
スがある。特許の侵害訴訟に関しては、原則としてライセンシーが独自の判断
で行うよう指導している。大学の規模と比較して技術移転事業に携わる人の数
が少なく、大学の研究者へのサービスが行き届いていない印象を受けた。この
ことは、同時に訪問した工学系の研究者の意見とも一致している。すなわち、
研究者から同大学の技術移転組織の印象についてのインタビューによれば:
・発明に関して大学の評価委員会に信頼性をもっていないこと
・大学の IPO の活動情報が正しく理解されていないこと
15
・IPO の活動がビジネス主体で、教官へのサービスに熱心でないこと
などが述べられている。
特に、身近に親しい企業が存在する工学系の研究者たちにとって、IPO と関係
するインセンティブを感じてないようである。この活動の歴史が浅く、技術移
転組織のポテンシャルの低い大学では共通して、研究者から十分な理解が得ら
れていないのが万国共通な現象である。技術移転組織が信頼を失う原因に挙げ
られたことは:
①ある会社との契約において、IPO が介在したために、研究者が進めていた共
同研究交渉が契約の段階で不調に終わったこと、
②企業と共同研究により得られた発明の取り扱いについて IPO の対応が悪く、
共同研究自体が中止されたこと、
などであった。これらの事実は、技術移転組織の基本姿勢に関わることで、研
究者の信頼を勝ちうるためには、組織が利用者である研究者の期待を満足でき
るような人員構成と明確な目的意識をもたなければならないことを示唆してい
る。大学本体のマネージメントに頼って、独立性、自立性が低い技術移転組織
は研究者、それを利用する企業双方から信頼をかちとることが難しいことが分
かる。
2)マサチューセッツ工科大学(MIT)の産学連携事業 11
米国の研究大学の代表の 1 つであるMITの技術移転事業に関しては、これま
でも多くの報告があるので、先の Penn State のそれとの比較においてその差異
がどこにあるか探ることを目的にして、同大学の Industrial Liaison Program (ILP)
の活動拠点を中心に調査した。
MITの産学連携関連組織は①Technology Licensing Office (TLO)と②Office of
Sponsored Program (OSP)、そして③Office of Corporate Relations (OCR)の 3 組織が
独立した組織として相互に連携して運営されている:
①TLOは技術移転事業を担当し、25 名程度の人員で特許の管理・活用を主
体に活動している。具体的には、発明の届け出、特許出願とライセンシ
ング、スタートアップ企業の形成などである
② OSP に関しては、大学の研究資源(主として国費:75%、民間 25%)
の契約事務を担当している
③ OCR は大学の研究情報、研究者・学生のリクルートなど企業が欲する
MITに関する情報の提供と研究者の紹介などのサービスを行っている
ここで、個々の組織の説明をする前に、MITにおける産学連携組織の特徴を
述べておくことは今後のわが国の産学連携を進める上で参考になるだろう。
MITの産学連携組織の目指すところは:
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・大学のトップマネージメントの下に、組織間のスムーズな連携と相互支
援を心がけること
・契約交渉を通じてプログラムを促進すること(合理性の追求)
・組織相互のモニターとフィードバックを重視すること(連携と協調)
・健全でダイナミックな緊張感を保つために、排除でなく協力を心がけること
・大学という広い視点に立ち、教員の視点を大切にする
・起業精神に富んだ環境を醸成すること
などが共通認識になっている。
さて、ここでその活動の詳細を述べる ILP は、54 年前に設立されこれまでに
多くの実績がある組織であるが、OCR の一部として現在活動している。この大
学では、産学連携事業は教育・研究と等価の重要な活動と位置付けられ、大学
の Administration Board の下に運営されるが、財政的には独立採算制を基本とし
て、大学運営からの独立性も確保している。この組織の主な、収入源は会費収
入である。この組織は、現在 45 名から構成されていて、その内 Liaison Officer は
19 名でそれぞれバックグランドは異なる。それぞれのスタッフにはその活動を
バックアップする意味で、3 名に 1 名の割合で秘書がついている。Liaison Officer
の主な仕事は会員企業への情報提供、研究室紹介などのサービス、マーケティ
ングなどで、企業との共同研究の締結、契約などは行わない。その他、庶務・
会計などの事務スタッフと、2 名の Research Staff が大学の研究情報のデータベ
ースを専門に構築している。ここで特徴的なことは、大学の Top-Administration
Back Up Information に 3 名が配置され、常に大学の運営部門と情報交換してい
ることで、この組織の独立性と大学との協調性を同時に満たすように設計され
ている。この組織(ILP)の重要なミッションとして、大学内の研究情報を正確
に会員企業に提供することがあげられるが、そのために学内情報のブラッシュ
アップには多くの努力を傾注している。大学の各学科、センター、研究所など
200 以上の研究組織と親密な信頼関係を構築している。特に、組織が管理を目的
とした「お役所的(ビューロクラティック)
」にならないように、組織のトップ
は目標を高くして、忙しく仕事をこなすように心がけ、役所化することを避け
ていると強調していた。具体的には、無駄な会議を極力避け、各人の責任で行
動することを心がけているとのことであった。当方から用意した質問:
「大学の
研究・教育組織と何らかのネットワークを構築し、情報を効果的に収集する機
構があるか?」との問いに関しては、そのような仕掛けはなく、担当者の努力
で何とか凌いでいるとの返事が返ってきた。何かというと IT 技術活用に走り、
ネット化することに血道を上げるのとは異なり、実績をあげるために「自ら行
動する人間力を基本とした事業」との認識が共通しているのは特に注目される。
MITがこのリエゾン活動に力を傾注する背景には:
17
・知の獲得のために大学にとって産学連携が不可欠であること
・企業が現在知の獲得のための戦略を練っていること。それは、企業が今
後成長するために R&D に関する莫大な投資で、外部からの知の獲得(ア
ウトソース)が必要であること
があり、したがって、大学、企業ともに産学連携が双方の発展に欠かせないと
判断している。
一方、米国の研究大学からみて、企業と大学との関係は:
・企業からの委託研究はこれまでの増加傾向から減少傾向
・Licensing & Royalty は微増
・企業は関係する研究所の数を減少し、集中しようとしている
・学生の採用先としての企業研究所の存在は重要
・企業と大学の関係は慈善的な関係より、利益追求傾向
・企業は大学の直接的に利益につながる研究に興味を持つ
・企業を大学と結ぶ組織は、より専門的になることが期待されていること
などが挙げられよう。
最近では、大学と企業の関係も、ビジネス優先の傾向をもってきた。これら
の時代背景に適合すべく、MITは産学連携事業を展開しているのが現状である。
日本の多くの企業は、世界を相手に事業を展開しているところから、この事情
は共通であることは言及するまでもない。
また、MITでは、
「キャンパス近辺の中小企業との協力」に関しても大学とし
て特別な活動を行っていることは無く、むしろTLOが主体になってスタート
アップ企業の形成が積極的に進んでいるようである。これについても大学のこ
れまでの教育・研究の指針と伝統がこの方向に向かわせるもので、特に大学が
音頭をとって特別なことを実施していることは無いようである。
現在、ILPの会員は 173 社で、その内日本の企業が 30 社、台湾の企業が 15 社
程度参加している。また、米国内、ヨーロッパ、アジア諸国と広くMITの同窓
会組織がそれぞれ活動していて、その活動を通して会員が集まる。財政的には、
ILPの収入は 8.2M$で、TLOの 33.5M$や全体の企業等から得られる収入である
190.6M$と比較するとその額は少ない。しかし、ILPの活動を通してMITの研究
情報が正しく伝えられ、世界規模で産学連携のファーストステップを築くこと
になるので、産学連携活動に欠かすことの出来ない活動として、大学が力を傾
注している活動の 1 つに数えられている。ちなみに、産学連携活動に成功して
いるスタンフォード大学では、ILPは各学科、研究所が個別に活動するなど、各
大学がそれぞれの環境に適合した活動を工夫している。
MITと Penn State の産学連携活動の最も大きな差異がこのリエゾン活動にあ
ることは明らかで、大学内での組織の地位、組織の大きさ、担当者、及びその
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意識にそれが認められた。MITでは、組織として大学が産学連携の要の活動に
リエゾン活動を位置付け、この活動に適した外部人材を活用しているのに対し、
Penn State では学外とのコンタクトの主体は研究者自身に委ねられており、ILP
の存在があまり顕著な効果を持つに至っていないようである。ここで主題とな
っている「大学の知的財産本部とTLOとの連携方策」については、米国の 2
つの研究大学では、もともと大学の知的財産の管理・活用はTLOが担当して
一元的に行っているが、産学連携事業の出発点である大学の研究情報の発信な
ど、大学がパートナーである企業と積極的に近づくための努力として、従来の
学会活動や論文などのアカデミックルートの他に、リエゾン活動を加えたこと
が産学連携事業を進展させた要因であると言って過言であるまい。
同時に M. Kastner 教授を訪問し、MITにおける産学連携事業に関して,利用
者側の意見を拝聴した。Kastner 教授はシカゴ大学の物理学科を卒業し、ハーバ
ード大学で助手を務めた後、MITの物理学科で長く一線で活躍した研究者で、5
年前には Material Research Center のセンター長時代に産学連携事業に多少係わ
った経歴がある。したがって、MITの有力な研究者の一人として、TLO、IL
Pなど産学連携組織の印象を率直に評価してもらった。それによると、Kastner 教
授自身は、現在、特に産学連携事業に積極的に参加してはいないが、学科長と
してみると、MITの雰囲気はシカゴ大学のそれと全くことなり、研究者も学生
もスタートアップ企業を作ることに抵抗感はなく、自然にできる環境が整って
いる。シカゴ大学では、このようなことを行うと周囲の研究者から白い目で見
られるが、MITではアカデミアと起業に抵抗がない。現在のTLO、ILPも教官
との関係が巧くいっている。ただし、学科、研究所、センターの教育・研究プ
ログラムで特別な産学連携のための特別な活動はしていないとのことである。
(4)
英国の大学の産学連携事業
(オックスフォード大学アイシス・イノベーション)5
オックスフォード大学は世界的な研究大学で、2,500 名の研究者(世界最高レ
ベル)と優秀な 2,000 名の博士課程学生が研究を行っている。その結果、2003
年(平成 15 年)の英国大学の評価で第 1 位にランクされ、英国で最も多い研究
資金(300M$)を獲得している。2001〜2002 年(平成 13〜14 年)の研究費の内
訳は前に述べた。
同大学の技術移転機関であるアイシス・イノベーション(ISIS Innovation)が大
学から委託を受け実施する。すなわち、この組織は、オックスフォード大学が
経営する会社(外部組織)である。この組織は、35 名のスタッフ(多くは卒業
生、企業経験有り、半数は理系博士)で構成され、その事業内容は:
① IP のライセンシング
19
② ベンチャー起業
③ コンサルタントの派遣、斡旋
などである。
特許出願等に要する経費は 1.5M$程度で、研究・開発費 213M$に比較すると 1%
にも達していないことは、これまで述べてきた米国の研究大学の技術移転事業
と共通している。特徴的なことは、この機関自体が 6M$の開発費、及び 15M$の
スピンアウト企業への投資金を持っていて、独自なプロジェクト研究、起業支
援事業を積極的に実施していることである。これは、同じ私立大学でも米国の
MIT では大学は投資活動を行っていないことと対照的である。いずれにしても
大学の技術移転事業はその形態に拘わらず、財政的にも大学の経営に負担をか
けないように自立の工夫をすることが肝要である。
この機関の 2003 年(平成 15 年)の実績として:
・特許出願
60〜70 件
・実施許諾件数
40 件(オプションも含む)
・スピンアウト
8 件/年
が報告されている。特徴的なことは、ビジネス世界に通用する良質なスピンア
ウト企業が多く輩出されていることで、この大学の研究ポテンシャルの高さを
感じさせる。
また、経営・運用の自由度を高めるために、大学の外部組織を選択したこの
技術移転機関にとって、大学との緊密な関係を維持することが最重要項目であ
ることは容易に予想される。ここでは、政府資金、寄付、企業との連携などに
よる研究資金の調達は、学内組織である Research Service Office が担当するが、
技術移転機関である Isis Innovation のライセンシング活動、及びスピンアウト支
援事業がトリガーとなり、研究資金調達が促進される好循環が生まれている。
このような好循環を生むためには、学内、学外それぞれの組織担当責任者の賢
明な協調が不可欠な条件であると指摘されている。
最後に、オックスフォード大学における技術移転事業を運営している経験か
ら、大学技術移転事業の成功の条件として:
① 高い研究ポテンシャル
② 充分に資金のある技術移転組織
③ アカデミックと企業世界双方から信頼されるマネージャー
④ 忍耐強い投資家と忍耐強い大学
が挙げられている。
(5)
中国の産学連携事業(上海交通大学国家技術移転センター)12
上海市にある上海交通大学は、北京にある清華大学と並ぶ代表的な理工系総
20
合大学で、教授・助教授約 1,400 名を擁する研究大学であり、技術移転事業を行
う職員約 30 名で構成される「国家技術移転センター」を持ち、国家教育部、及
び経済貿易委員会から国家レベルの技術移転センターとして、技術移転・技術
協力のプラットホームの役割を果たしてきた。また、最近では「国際技術移転
センター」にも指定され、海外技術協力、人材育成などの拠点として活動して
いる。同センターは九州大学TLO及び東京工業大学TLOとの協力関係も構
築している。
この大学は中国の他の基幹大学と同様に、副学長の下にこの「国家技術移転
センター」を持ち、広く大学の研究成果を産業界に移転したり、産学連携のも
とに大学発ベンチャー企業を支援している。大学の発明の権利は原則として大
学に帰属し、大学内に特許等の出願、管理を行う「知的所有権管理部門」を設
けて、特許等の創生・管理・活用を行っている。その結果、特許出願件数は、
2002 年(平成 14 年)377 件、2003 年(平成 15 年)744 件と大幅に増加してい
る。また、大学発ベンチャー企業(校弁企業)の支援も活発で、インキュベー
ションの施設として、国家レベルの「上海交通大学国家大学科技園」が設置さ
れている。このように大学は校弁企業との共同研究(約 500 件実施)を通じて
産学連携事業を幅広く実施し、その結果、2000 年(平成 12 年)には、上海交通
大学の校弁企業は約 17 億元(255 億円)の売上げをあげている。この成果は北
京大学、清華大学についで第 3 位の成績である。さらに、最近では、幹部職員
に対し特許知識教育を実施し、特許奨励制度として、特許等の知的財産を獲得
した場合には教官の業績とする制度も採用し、イノベーションを促進すること
に努力している。
今後の構想としては、大学の研究ポテンシャルと産業の生産ポテンシャルを
ドッキングすることにより、さらに効果的に中国の経済繁栄を支援することに
大学が貢献することが期待されている。
(参考)
1 大学知的財産本部整備事業 文部科学省 (平成 15 年 7 月)
2「新時代の産学官連携の構築に向けて」文部科学省 科学技術・学術審議会
技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会 (平成 15 年 4 月)
3「TLO(技術移転機関)のご案内」2003 年度版 経済産業省大学連携推進課
4「主要国における施策動向調査及び達成効果に係わる国際比較分析」科学技
術政策研究所(平成 16 年 3 月)
5 Dr. Tim Cook; 国際特許流通セミナー2004 (主催 (独法)工業所有権総合情
報館 平成 16 年 1 月 東京)
21
6「「科教興国」中国における産学研「合作」と創業支援」角南 篤(独法)経
済産業研究所(平成 15 年 6 月 27 日)
7 東京工業大学要覧 2003 (平成 15 年 6 月)
8「米国大学における知的財産権の取り扱い及び利益相反に関する報告書」
(株)富士通総研 (平成 15 年 3 月)
9「米国研究大学の技術移転の現状」畑谷、前島、清水;
(財)理工学振興会報
告(平成 15 年 3 月)
10 Dr. Grey Weber,Director, Technology Transfer; Dr. Ronald J. Huss, Director,
Intellectual Property Office, Pennsylvania State University
11 Dr. G.K. Ornatowski, Associate Director, ILP, MIT
12 「大学と特許」丁 文江 上海交通大学副学長;国際特許流通セミナー2004
(主催(独法)工業所有権総合情報館 平成 16 年 1 月 東京)
22
第4章
我が国の私立大学の事例
私立大学は、承認TLO設立時から学内型TLOにするか、学外型TLOを
選択するかを大学の判断で決定することが可能であった。ここでは、産学連携
事業に積極的に取り組んできた私立大学の内、外部型TLOを選択した立命館
大学と内部型TLOを選択した早稲田大学において、それぞれ、
「大学知的財産
本部」を整備するにあたって、
「大学知的財産本部」とTLOとの連携方策につ
いてその計画を調査した。
4−1.
立命館大学の産学連携事業 1
立命館大学は、産学連携事業を大学経営の重要な事業と位置付け、平成 7 年
に「リエゾンオフィス」を設立し、産学連携の共同研究等を積極的に進めてき
た。また、平成 10 年には広域型TLOである(株)関西ティー・エル・オーに
おいて、京都大学につぐ第 2 位の会員数(113 名)を持つ重要メンバーであり、
同TLOを通じて 50 件の特許出願をこれまでに行っている。
このたび、新たに「知的財産戦略推進室」を設置するとともに、これまでの
「リエゾンオフィス」、「ベンチャーインキュベーション推進室」と一体化した
「知的財産本部」を設立した。
「リエゾンオフィス」は大学の事務職員を中心と
した 37 名のスタッフで構成され、大学の研究者と企業とのリエゾン活動を中心
に共同研究、ベンチャー起業支援など幅広い産学連携事業を展開している。
「知
的財産戦略推進室」には、室長に企業の知的財産部から専門家を招き、4 名の専
門スタッフにて活動を開始した。この推進室の当面の活動方針は、大学研究者
に対する発明等の機関帰属、機関管理のルールの徹底など、知的財産の創生・
管理・活用に関する規定の見直しを行うとともに、30 件の特許出願を目指して
大学研究者の発明の掘り起こしを行うというものである。
大学の研究者の発明は、
「知的財産本部」にある「技術評価委員会」にて技術
の優位性、新規性、事業化の可能性などを評価し、
「発明委員会」で大学がこの
発明の権利を承継するか否かを判定する。大学が承継すると判断した発明は、
特許等の出願により権利化され、大学自身、及び「(株)関西ティー・エル・オ
ー」に委託してライセンシングを行う。すなわち、
「知的財産本部」を設立する
ことで、知的財産の創生・管理・活用にいたる技術移転事業が学内で一貫して
実行できる組織が完成したことになる。しかし、現時点では、これまで特許等
の出願・ライセンシングを委託してきた「(株)関西ティー・エル・オー」の活
用を併用するとしている。そこで、両者の大まかな役割分担として、
「知的財産
本部」は発明の創出・発掘、そして権利化を担当し、
「(株)関西ティー・エル・
23
オー」にはライセンシングを委託することを期待している。このような役割分
担を実施する時に、両組織の意志疎通を推進するために、発明の評価の段階か
ら、「(株)関西ティー・エル・オー」と連携する工夫がされている。
これまでも、同大学における産学連携事業は、リエゾン活動を主軸とする共
同研究の推進、ベンチャーインキュベーションなどの川上事業で多くの成果を
挙げてきた。従って、知的財産を産学連携のツールとして、その創出・管理・
活用を推進するチャレンジはより効果的であると推察される。
4−2.
早稲田大学の産学連携事業 1
早稲田大学は、わが国の代表的な私立の研究大学であり、これまでもベンチ
ャー起業活動など、産学連携事業に積極的に取り組んで多くの実績を挙げてい
る。承認TLOとしては、平成 11 年 4 月に設立された「産学官研究推進センタ
ー」という学内組織が担当している。このセンターは 21 名の職員で構成され、
特許等の出願、管理・活用の業務を実施、これまでも約 200 件の特許出願と、
約 40 件の実施許諾、51 社の大学発ベンチャー企業の創出など順調な成果を挙げ
ている。今回、
「知的財産本部」を設立するにあたり、
「研究推進部」を中核に、
「研究企画課(4 名)」、
「インキュベーション推進室(3 名)」、
「産学官研究推進
センター(21 名)」及び、弁護士、弁理士など外部人材(24 名)を投入して,総
合的な産学連携事業を行う。研究企画課では、知的財産戦略の推進・企画等を
担当する。また、共同研究・受託研究の推進、職務発明の機関管理を実現する
など、知的財産の創出を担当する。平成 14 年度の受託研究は 500 件に達し、そ
の研究費は約 25 億円に達している。また、承認TLOである「産学官研究推進
センター」を活用して、発明審査委員会において承継する発明の選択と特許等
の出願、管理・ライセンシングなど、一元的な管理・活用を可能にした。さら
に、大学発のベンチャー創生は、
「インキュベーション推進室」が担当し、平成
15 年 12 月現在で 51 社が起業している。
この他、東京都墨田区と大学との間で包括的な産学連携契約を締結し、新事
業展開プログラム、連携拠点整備、インターンシップの受け入れなどを開始し
た。このように、早稲田大学では「知的財産本部」を核に、広義の産学連携事
業を展開している。
このように、産学連携事業に関しては、それぞれの大学の特色を活かした活
動を目指している。すなわち、立命館大学では、地域の企業を中心にリエゾン
活動を主軸にした共同研究、受託研究を推進することにより、大学の研究ポテ
ンシャルの向上を図る活動を実施し、これまでにも多くの成果を挙げている。
したがって、大学の知的財産はそのためのツールと割り切り、現在のところ特
24
許等のライセンシングなどは、外部TLOである「(株)関西ティー・エル・オ
ー」に業務委託し、大学の財政的なリスクを軽減しているように見える。
一方、早稲田大学においては、
「知的財産本部」に全学の産学連携事業を統合
し、一元的に管理・運営する体制を構築した。しかし、その活動の主体を、リ
エゾン活動による共同研究・受託研究の推進と、大学発ベンチャーのインキュ
ベーションに重点的に置くことで、大学の特色である起業家精神のある学生の
教育など、本来業務の拡張と発展に繋げていることが看て取れる。このような、
大学経営戦略をも含めて、今後の産学連携事業の展開がなされることになろう。
どのような形態を選ぶとしても、これらの大学における産学連携事業が、大
学の研究者、及び大学を利用する企業双方から信頼され活用されるためには、
大学、企業ともに相応の努力が必要なことは言及するまでもない。
ここで、大学の産学連携事業に関る人の「心得」として、米国の代表的な研
究大学であるマサチューセッツ工科大学(MIT)の産学連携事業のモットーを
再度記しておくことも有効であろう:
MITの産学連携の心得 2
① 大学のトップマネージメントの下に、組織間のスムースな連携と相
互支援を心がけること
② 契約交渉を通じてプログラムを促進すること(合理性の追求)
③ 組織相互のモニターとフィードバックを重視すること(連携と協調)
④ 健全でダイナミックな緊張感を保つために、排除でなく協力を心が
けること
⑤ 大学という広い視野から、大学研究者の視点を大切にする
⑥ 大学に起業精神に富んだ環境を醸成すること
(参考)
1「地域・一日知的財産本部−知的財産を語る夕べ−」
(主催 文部科学省、
(独
法)科学技術振興機構、平成 15 年 12 月 3 日 大阪、平成 16 年 1 月 16 日 東
京)における川村貞夫立命館大学副学長・知的財産本部長及び村岡洋一早稲田
大学知的財産本部長の講演による。
2 G.K.Ornatowski, Associate Director, Industrial Liaison Program, MIT
25
第5章
5−1.
法人化を控えた国立大学とTLOの動き
はじめに
平成 10 年に「大学等技術移転促進法(TLO法)」が制定され、現在では、
承認TLOが 36 機関設立され、その活動も活性化し、これまでに 4,000 件
以上の特許等の出願と 600 社以上の大学発ベンチャー企業の創生への寄与
という実績を挙げてきた 1。また、これらの大学TLOの共通の問題などを
討議・解決するための「TLO協議会」も平成 12 年 9 月に発足し、活動を
開始した。このように、わが国の大学において、TLOを中心にした技術移
転活動がやっと軌道に乗りかけた時であり、新たに大学に整備される「知的
財産本部」と既に活動を行っているTLOとの関係を危惧する意見が少なか
らず在った。そこで、
「大学知的財産本部整備事業」に基づく募集要項にも、
設立する「大学知的財産本部」は、その大学の関係するTLOと緊密な協力
体制を築くことが設立の条件に付帯されている。また、平成 15 年 7 月の「知
的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」には、「2003 年度中にTL
O協議会の拡充等により、大学及びTLOが相互に連絡を取って産学連携・
技術移転に関する成功事例を調査し、情報交換や共有を行うとともに、意見
調整や人材育成等の活動を実施する全国組織を構築する。」と記載されてい
る。そこで、
「TLO協議会」は、この推進計画に基づき、平成 15 年 8 月に
同協議会を発展的に改組し、新たに大学TLOと大学知的財産推進本部の合
同協議会として「大学知財管理・技術移転協議会」を発足し、現在その構築
の努力をしている。
なお、「大学知的財産本部整備事業」について、その理解を深めることを
目的として、平成 15 年 12 月 3 日(大阪)、及び平成 16 年 1 月 16 日(東京)
の 2 回、「地域・一日知的財産本部―知的財産(みらい)を語る夕べ−」が
文部科学省、
(独法)科学技術振興機構の主催で開催された 2。ここでは、山
口大学、大阪府立大学、立命館大学、東北大学、電気通信大学、そして早稲
田大学の 6 大学の「知的財産本部」の整備状況が報告された。また、これと
は別に、平成 16 年 1 月に東京で開催された「国際特許流通セミナー2004:
(独
法)工業所有権総合情報館 主催」 3 では、「TLOと大学知的財産本部の連
携」というセッションがもたれ、東京大学、九州大学、立命館大学の例がそ
れぞれ紹介された。そこで、ここでは6つの国立大学の事例について「大学
知的財産本部」の概要を関係するTLOとの連携を中心に眺めてみることに
する。
26
表6−1 いくつかの承認TLOの活動実績
承認TLO
設立
年月日
国内特許
出願件数
外国特許
出願件数
実施許諾
件数
(株)先端科学技術インキュベー
ションセンター(CASTI)
平成 10 年
12 月 4 日
437
221
151
(株)産学連携機構九州
平成 12 年
4 月 19 日
176
22
18
(有)山口ティー・エル・オー
平成 11 年
12 月 9 日
123
7
34
(株)キャンパスクリエイト
平成 15 年
2 月 19 日
7
0
2
(株)東北テクノアーチ
平成 10 年
12 月 4 日
138
107
107
(財)理工学振興会
平成 11 年
8 月 26 日
382
25
73
平成 15 年 9 月末までの実績(出典:経済産業省)
5−2.
(1)
大学知的財産本部とTLOの連携方策の事例
東京大学 3
東京大学はわが国の代表的な研究大学の 1 つで、すでに 2 つの承認TLO;
(株)先端科学技術インキュベーションセンター(CASTI)、(財)生産技術研究
奨励会が大学の研究成果と特許等に権利化し、ライセンシングする技術移転事
業と、大学発のベンチャー企業の創生を行っている。特にCASTI は、これまで
の特許出願数、実施許諾数など活動実績など、大学の高い研究ポテンシャルを
活用して高い実績を残している。(表6−1 参照)
この東京大学では、産学連携の下に「知」のスパイラル構造を実現すること
で:
・新規産業分野の創生、
・国際競争力の強化、
・産業基盤の安定化、
を果たし、
「真のフロントランナーたる知的生産構造の実現」を目指すため、
「産
学連携推進室」を設立した。
大学の法人化に連動して、東京大学の発明の権利帰属は、これまでの個人帰
属から機関帰属に移行する。そこで、新しく設立された「産学連携推進室」が、
大学の産学連携事業を統一的に運営する。ここでは、
「産学連携研究推進グルー
プ」、「知的財産グループ」、「成果事業化推進グループ」とそれぞれ次のように
役割を分担して活動する:
27
①「産学連携研究推進グループ」は、産学連携活動における上流部分、即
ち産学共同研究の新しい形態を創生したり、産学の人材交流を促進する
ことで、新たな「知」の創出を推進することを主たるミッションとする。
②「知的財産グループ」では、学外組織として活動しているTLOと連携
しながら、研究成果を特許等の知的財産化し、マーケティングやライセ
ンシング活動を行うことで産学連携事業の中流を担当する。このグルー
プでは、学内の知的財産の審査・管理・活用をTLOと協力して推進す
ることから、産業界から見たとき、TLOが窓口に見えるような組織と
する。
③「成果事業化推進グループ」は、産学連携の下流部分である研究成果を
直接社会に還元するために、大学発ベンチャー企業の育成、起業資金の
調達、人材の確保などを行う部門である。
わが国最大規模の大学である東京大学が、大学法人化を機会に特許等の知的
財産の機関管理を行うべく構築した「産学連携推進室」であるが、実務体制と
して、人員構成、従来の事務部門との役割分担、特許等の取り扱い予想件数、
及び、そのための財源確保など、実務に直接関連する部分に関する詳細な情報
はこのセミナーにおける報告では明らかにされなかった。
(2)
九州大学 3
九州大学における技術移転事業は、これまで、平成 12 年 4 月に設立された
(株)
産学連携機構九州が担当してきた。これまでの成果は表6−1 の通り、特許等の
出願件数、実施許諾件数等は大学の研究ポテンシャルを考えると決して多い数
字とは言い難い。
しかし、最近では、発明の機関帰属、機関管理を目指して、産学連携の一元
的総合組織として「九州大学知的財産本部」を設立し、産学連携体制を強化し
た。その特色としては:
・新たに学内組織として設置した「知的財産本部」を一元的窓口とし、ワ
ンストップサービスを行う
・ビジネス経験のある専門スタッフによるサービス
・十分なスタッフ数での迅速な対応
などを目標に組織を整備しつつある。現在、30 名程度のスタッフで業務を行っ
ている。
「知的財産本部」には、知的財産本部長の下に、「企画部門」を介して、「技
術移転部門」、「リエゾン部門」、「起業支援部門」、「デザイン総合部門」、「事務
部門」が設けられ、それぞれ事業を分担している。
特許等の知的財産のマネージメントは、大学の研究者から開示された発明を
28
知的財産本部にある「知財評価会議」にて、その発明を大学が承継するか、否
かを判定し、承継すると判断された発明は特許等の出願を行う。承継しないと
判断された発明は、研究者に戻され、個人の判断に任せる。出願した大学有の
特許等はTLOに委託し、ライセンシングする。この際、TLO、及び「知的
財産本部」にそれぞれ属する担当者(アソシエイトと称し、10 名程度)は、両
組織に兼務し、発明の創出、特許等の出願、そしてライセンシングと技術移転
事業の上流から下流まで一貫して対応できる。また、両組織だけで対応できな
い案件に関しては、外部TLOの活用も視野に入れている。
「知的財産本部」を
中心としたこの機関では、当面約 100 件/年程度の特許等の出願を目指し、そ
の事務体制、資金調達を考えている。
また、「技術移転部門」と並んで、「起業支援部門」が設けられ、この部門で
は起業支援コーディネーターが学外の投資家、技術者、法務・会計支援者、学
内施設管理者などを調整し、大学発ベンチャーの創出を支援する。その際の支
援スキームでは、事業意志の申告があると、起業の妥当性を検討した上で「九
州大学発ベンチャー企業」として認定し、各種優遇処置をする。その後、人材
確保、事業計画の策定、資金調達などのための人材支援を行い、起業するとと
もに学内施設の利用などにより、その育成を行う。なお、九州大学の「知的財
産本部」の特徴として「デザイン総合部門」の存在がある。この部門の目的は、
福岡市をデザインの拠点とし、アジア諸国のこの分野の情報発信基地に育成す
る地域活性プログラムを推進することにある。また、その地理的条件を活かし、
近い将来のわが国の重要な産業パートナーである中国の上海交通大学との産学
連携事業の国際連携等に着手するなど、多様なチャレンジを行おうとしている。
九州大学では、産学連携事業は大学における主要業務と位置付け、
「知的財産
本部」が一元管理することを基本方針としている。したがって、現在、ライセ
ンシングなどを委託する外部TLOの維持については、数年後にその是否を検
討することになっている。
(3)
山口大学 2
山口大学における研究者の技術移転事業はこれまで(有)山口ティー・エル・
オーが実施してきた。これまでの出願特許数、実施許諾件数は承認TLOの中
では上位の数字を記録している。(表6−1 参照)
そこで、この度設立された山口大学の「知的財産本部」は:
・山口大学の「知的創造サイクル」を確立し、産学公連携を推進する
・産業財産権に係わる発明者等を支援し、円滑な「知的財産実務」を遂行
しつつ、5 年後の自立的運営を達成する。
・地域基幹大学として「知財立地域」の中核的役割を発揮する、
29
などを目的としている。
山口大学では、大学で行われた研究の成果は、その権利は原則大学に帰属す
ることなど、特許等の知的財産権の機関帰属・機関管理を平成 15 年 3 月の評議
会で決定し、この事業の準備を進めてきた。
「知的財産本部」は、地域共同研究
センターを管理・運営する「産学公連携・創業支援機構」の建屋内にTLOと
同様にオフィスを設けて活動を開始した。母屋となっている「産学公連携・創
業支援機構」には、
「リエゾン部」
、
「共同研究支援部」、
「ベンチャー教育研究部」、
「知的財産・創業支援部」など、産学公連携を実施する機能がすでに活動して
いるので、新たに設立した「知的財産本部」はこの機構と一体的に活動するこ
ととし、機能を相互補完できるように設計されている。知財相談サービスを行
う「ユーザーフロントサービス部門」、知財教育・マネジメントを行う「知財教
育・マネジメント部門」、そして、知財登録・管理を担当する「知財実務部門」
から構成されていて、非常勤の弁理士 2 名を含む約 15 名の人員構成で業務が実
施される。この本部には、開示された大学研究者の発明を特許等の知的財産と
して大学が承継するか否かを判定する「知的財産審査委員会」も設置されてい
る。この「知的財産本部」は「知財活用部門」としての(有)山口ティー・エ
ル・オーと業務提携により結ばれ、マーケティング、ライセンシングなどの技
術移転事業を委託実施する体制を構築している。ここでは、大学の事務組織で
ある研究協力課は「知的財産本部」の外に設定されている。
「知的財産本部」の主な活動には:
・啓発・創出・権利化(保護)に係わる事業
教職員、大学院学生向けの啓発・教育、及び個別特許相談、特許情報
の検索、パテントマップ作成等の教育、また明細書作成、出願、ノウハ
ウ保護等の権利化支援事業などを行う。
・知的財産の活用事業
TLO、JSTなど外部組織と連携して、ライセンシングを行う。ま
た、リエゾン部門、創業支援部門と連携して、共同研究の推進、及び大
学発ベンチャー起業支援を行う。また、特許等の審査請求、ロイヤリテ
ィの配分なども担当。
などが挙げられている。
「産学公連携・創業支援機構」、(有)山口ティー・エル・オー、そして「知
的財産本部」と 3 つの組織が直列に結ばれて、大学全体の産学連携事業を推進
することが計画され、それぞれの組織の機能に重複が無いように工夫されてい
る。特に地域共同研究センター内に全ての組織を集約したことは、それぞれの
組織の連携を推進する上で効果をあげることが期待される。外部人材を活用す
る場合でも、大学の研究者、あるいは事務スタッフの献身的な協力がこの活動
30
の成否の鍵となろう。
(4)
電気通信大学 2
電気通信大学の技術移転事業を担当する承認TLOは平成 15 年 2 月に設立さ
れた(株)キャンパスクリエイトであり、実績は未知数であるが同校の同窓会
組織の活動などと連携して準備を進めてきた経緯がある。したがって、最近設
立された「知的財産本部」は、その承認TLOである「(株)キャンパスクリエ
イト」と強い連携の上に産業界からみた産学連携のワンストップサービスの提
供を目指している。また、大学に関係する人材(弁理士約 100 名、知的財産業
務従事者約 340 名)を積極的に活用することを特徴に挙げている。
「知的財産本
部」は学長を本部長として、学長直轄の「地域・産学官連携推進機構(設立準
備中)」の中に設置することを予定している。同大学では、職務発明規定を策定
し、発明の権利帰属の判定は、外部有識者、TLO担当者などを加えて「知的
財産本部」に設置した評価委員会で行い、大学が承継すべき発明を選定する。
「知
的財産本部」の活動としては、発明の帰属判定の他に、リエゾン活動を別に設
置されている共同研究センターと協力して行う。現時点での「知的財産本部」
に属する人員は、知的財産マネージャー(知的財産戦略等の企画・立案、起業
支援、特許等の出願、管理、啓蒙等を担当)6 名、事務部門 4 名から構成されて
いる。
「知的財産本部」と「(株)キャンパスクリエイト」は密接に協力して、ライ
センシング等の技術移転事業を実施するが、役割分担として次のようなことが
挙げられている:
「知的財産本部」
・知的財産戦略の統括
・特許等の出願、管理
・特許侵害への対応
・知的財産権・利益相反の啓蒙
・TLOの監督
・共同研究・受託研究の契約
TLO「(株)キャンパスクリエイト」
・学内の研究シーズ発掘
・特許出願の準備
・技術移転・創業支援
・共同研究・受託研究の契約交渉業務
このように、学内組織と学外組織が連携して 1 つの事業を実施する場合、両
者の強い連携が成否の鍵になる。その強い協力を作り出すには、関係するスタ
31
ッフを両組織に兼任させたり、事務所を 1 つにし、意志の疎通を図ることが肝
要であろう。これまでに、共同研究センターと承認TLOとの連携の強化が図
られ、実績をあげているとの報告がある。
(5)
東北大学 2
東北大学は研究ポテンシャルも高く、産学連携事業も活発に行ってきたわが
国の代表的研究大学の 1 つに数えられる。これまで技術移転事業は、
(株)東北
テクノアーチが担当し、産学共同研究等リエゾン活動は、
「未来科学技術共同セ
ンター(NICHe)」が推進してきた。特にNICHe のリエゾンオフィスでは、産
学連携による戦略的研究の企画・コーディネート、コーディネーター人材の育
成、起業人材の育成、産と学との出会いの場の創出、大学の研究成果の実用化
支援などをTLOと協力して実践し、多くの成果を挙げてきた。
また、「(株)東北テクノアーチ」は、東北大学の研究者を中心に東北地域の
国立大学、高等専門学校の研究者約 230 名の出資により平成 10 年 12 月に設立
されたTLOで、技術移転マネージャー5 名、運営・管理・会計 5 名の 10 名で構
成され、これまでに 127 件の特許出願を行い、その内 94 件を実施許諾するとい
う驚異的な成果を挙げている。(表 6-1 参照)
このような環境のもとで、「東北大学研究推進・知的財産本部」が設立され、
他の産学連携関連組織と協力体制を構築しようとしている。東北大学はこの本
部構築にあたって、知的財産管理の基本姿勢を次のように定めている:
・大学研究成果の活用実施を第一義とする
・知的財産権は原則として大学機関帰属とする
・研究者、及び大学への対価の還元を図る
この「研究推進・知的財産本部」は研究担当副総長の下に置かれ、
「研究推進
部」と「知的財産部」が設けられる。
「研究推進部」には部局横断的な研究協力
支援、競争的研究資金獲得支援、包括的研究提携を推進する「研究推進室」と、
大学の研究者・研究成果の情報蓄積、研究費情報収集と学内周知、広報活動の
ための「研究情報室」が設けられる。一方、
「知的財産部」は、特許等の権利化、
移転・契約交渉、法律事務所・特許事務所等との連携を行う「知財活用室」
、さ
らには、知的財産の評価・費用管理・知財データベース管理などを行う「知財
管理室」で構成されている。したがって、学内のリエゾン活動を行ってきた
「NICHe」とは開発研究の企画・運営で連携協力するとともに、発明等の評価、
特許出願、そしてライセンシング活動はTLOである「
(株)東北テクノアーチ」
に業務委託する。
大学における発明は「本部」に開示され、
「知財評価 WG」及び「帰属委員会」
にて大学が承継することを決定したら、特許等として出願するとともに、TL
32
Oと協力してライセンシングを実施する。特許等出願にかかる費用は、ライセ
ンス先の企業によるリインバースメントにより大学の財政的負担を軽減する。
この交渉は、
「知的財産活用室」が担当することになろう。このように、知的財
産の機関帰属・管理・活用を「研究推進・知的財産本部」が中核になって実施
しようとすると、弁理士費用等の経費のための十分な財源確保と、実際に発明
の掘り起こし、特許化、ライセンシングに至る一連の作業を実際に行う人材の
確保が不可欠である。このため、長年の経験と実績のある「(株)東北テクノア
ーチ」、及び「NICHe」のリエゾンオフィスの緊密な協力体制が重要であろう。
このことは東北大学に限らず、外部型TLOを持つ国立大学の「知的財産本部」
が直ちに解決しなければならない共通の課題であろう。これらの詳細な情報は
この説明会では十分に説明されなかった。
(6)
東京工業大学
東京工業大学の本格的な産学連携事業は、平成10 年 4 月のフロンティア創造
共同研究センターの設立に端を発する。このセンターでは、ポスドクを主体と
する本格的な産学共同研究を実施するとともに、大学の研究者・企業双方の支
援をするための「産学連携のためのよろず相談窓口」をセンター内に開設した。
また、平成 11 年 9 月には、東工大TLOを(財)理工学振興会に設立し、技術
移転事業を開始した。全学の研究者を対象にして、個人帰属の発明の権利譲渡
を受けて、その特許等の出願・管理・ライセンシングにいたる一連の技術移転
事業を実施してきた。約 4 年半の活動の結果、平成 16 年 3 月現在の累積で、特
許出願 491 件(内外国特許 38 件)、実施許諾件数 88 件、技術相談・技術指導 317
件、大学発ベンチャー起業 6 社の実績を挙げることができた。特にマッチング
ファンドによる共同研究は、平成 14 年度〜15 年度の 2 年間で 18 件を数えた。
また、大学全体では、共同研究約 470 件、受託研究約 450 件を実施し、産学連
携がこの大学の大きな研究資金源になっていることを示唆している。
法人化後の東京工業大学は新たに「産学連携推進本部」を核にして、知的財
産を中心にした知的創造のスパイラルの実現を目指した新たな活動を計画して
いる。すなわち、法人化を機会として大学の発明の帰属は、大学帰属とし、大
学が権利を承継した発明は、大学が責任をもって権利化・管理・活用を行う。
また、この知的財産を「核」として積極的なリエゾン活動を展開し、産学連携
による共同研究を実施することで、新たな知的財産を創出し、もって新産業を
創出することを目的とする。
「産学連携推進本部」は、研究担当副学長の下に「知的財産戦略部門」、「知
的財産・技術移転部門」、「リエゾン研究情報部門」、「契約・法務・研究管理部
門」の 4 部門を設ける。この内、
「契約・法務・研究管理部門」は従来の研究協
33
力部の一部をあて、教員・事務職員融合型組織としたところに特徴がある。また、
総勢 18 名の産学連携推進コーディネーターは、従来の「東工大TLO」((財)
理工学振興会)のコーディネーターであるとともに本部のコーディネーターと
して両組織に兼務することで、一体に活動する。結果として、
「産学連携推進本
部」が東工大の産学連携の一元的な窓口・実務管理を実現すると同時に、独立
法人化後は、理事・評議員の主要なメンバーが東京工業大学の学長・副学長、研
究科長で構成されている(財)理工学振興会をTLOとして活用することで、
企業活動のタイムドメインに合致した、迅速で柔軟な活動が組み入れられる。
現在では、企業との連携協定に基づく共同研究等は「産学連携推進本部」が中
心に、TLO会員等のニーズに基づく共同研究等は(財)理工学振興会が主体
となって調整を行い、推進している。特に、中小企業と大学の連携推進は、ニ
ーズ・プル型のアプローチが効果的であり、多くの実績を挙げている。また、
(財)
理工学振興会では帰国した留学生の人的ネットワークを活用した国際技術移転
事業として、中国の上海交通大学TLOとの協力体制を確立し、その活用など
新事業の開拓に現在力を注いでいる。
5−3.
まとめ
以上、法人化を控えた国立大学の産学連携事業の最近の動きを承認TLOと
新たに整備された「大学知的財産本部」との関係という視点でまとめてみた。
整備段階といえども、特許等の知的財産の機関帰属、機関管理という大変革を
実施するにあたって、人員構成、資金調達、利用者である大学研究者、及び企
業の関係者との関係等々、実務面での定量的な見通しに、いずれの大学の計画
においても十分な情報が得られなかったことは残念である。
最後に、産学連携事業の先立ちである、オックスフォード大学の産学連携組
織である Isis Innovation の Tim Cook 氏の講演から、産学連携事業に成功する条
件を以下に再度記す:
産学連携事業に成功するための研究大学と関連組織のあるべき姿
① 高い大学の研究ポテンシャル
② 充分に資金のある技術移転組織
③ アカデミックと企業世界双方から信頼されるマネージャー
④ 忍耐強い投資家と忍耐強い大学
34
(参考)
1「TLO(技術移転機関)のご案内」2003 年度版 経済産業省大学連携推進課
2「地域・一日知的財産本部 ―知的財産(みらい)を語る夕べ― 」
(主催 文
部科学省・(独法)科学技術振興機構 平成 15 年 12 月 3 日 大阪、平成 16
年 1 月 16 日 東京)
3「国際特許流通セミナー2004」 (主催 (独法)工業所有権総合情報館 平成 16
年 1 月 東京)
35
第6章
TLO協議会から大学知財管理・技術移転
協議会への発展
6−1.大学知財管理・技術移転協議会の誕生の背景及び経緯
「大学知財管理・技術移転協議会」は、平成 12 年 9 月 29 日に設立された「T
LO協議会」が、平成 15 年 8 月 27 日のTLO協議会総会において名称等を変
更して発展的に設立された組織である。
前身のTLO協議会は、TLOやその活動を支援する機関等が密接に連携し
つつ大学等における技術移転事業を効率的に推進するための諸事業を行うこと
により、産学連携の健全な発展を促進することを目的として設立され活動を展
開してきた。
TLO協議会が設立された平成 12 年当時は、産学連携に関する社会的認識が
大きく高まるとともに、大学等を巡る産学連携の新たな機能を担うTLOが「大
学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律
(大学等技術移転促進法)」に基づき承認され、その活動が本格化してきた時期
でもあり、このような意味からもこの協議会の設立は時宜を得たものとして極
めて意義深いものであったと言える。
こうした中で産業界を始めとする関係者からは、第 2 回産学官連携推進会議
(平成 15 年 6 月 7〜8 日、国立京都国際会館)での発言を始めとして、TLO
と大学の知的財産本部との連携、活動の一体化の必要性が強く指摘された。
また、知的財産戦略本部にて決定された「知的財産の創造、保護及び活用に
関する推進計画」(平成 15 年7月)においても、「大学知的財産本部や技術移転
機関(TLO)といった、知的財産に関する総合的な体制を整備する」との項
目の下、大学知的財産本部とTLOの連携強化が謳われているほか、技術移転
関連全国組織の構築について、「2003 年度中に、TLO協議会の拡充等により、
大学及びTLOが相互に連携を取って産学官連携・技術移転に関する成功事例
を調査し、情報の交換や共有を行うとともに、意見調整や人材育成活動等を実
施する全国組織を構築する。」とされている。
このようにTLO協議会に対して、大学等の知的財産本部等関係部門及びT
LOの連携の下での諸活動の展開や、全国組織としての機能強化が期待されて
いる状況からして、TLO協議会の活動においてもこれら諸機関が緊密に連
携・協力を図りつつ活動を展開していくことが不可欠となっていた。このため、
協議会活動への大学知的財産本部等の参加を呼びかけるとともに、これらとT
LOの共通の連携の場としての新たな活動を開始すべく、平成 15 年 8 月 27 日
36
に開催されたTLO協議会総会にて、TLO、大学知的財産本部等の相互の連
携の更なる強化のための活動拡充と協議会名称の変更を含む定款変更が決議さ
れた。こうしてTLO協議会は「大学知財管理・技術移転協議会」へと発展的
に生まれ変わった。
6−2.大学知財管理・技術移転協議会の組織及び活動
ここで新たに発足した大学知財管理・技術移転協議会(以下、「新協議会」。)
の活動等について、TLO協議会とも比較しながら述べる。
(1)
大学知的財産本部等の参加と活動内容の充実
新協議会では、定款において、大学知的財産本部等の関係部門をTLOと同
様に「第一号会員」として位置づけ、新協議会の運営に主体的に参加できるよ
うにした。また、大学の個別の事情に応じて 16 年度総会までの間については
オブザーバーとして参加することなどの特例も設け、大学知的財産本部等が参
加しやすくする取り扱いも行っている。
なお、協議会役員である理事の構成についても、TLOと大学知的財産本部
等のバランスを勘案しつつ、今後の協議会法人化の検討に併せて見直していく
との方針が示されている。
こうして新たに大学の知的財産本部等関係部門が参加した新協議会におい
ては、会員(TLO、大学知的財産本部等)相互の連携・意見交換、関係省庁
との意見交換・情報収集、産業界や関係団体との連携、AUTM等海外関係機
関との連携、セミナーや研修会による人材育成といった活動を展開していくこ
ととしている。こうした活動展開により、会員にとっての新協議会参加の価値
が一層高まることが期待される。
新協議会の活動展開について、TLO協議会の会員構成と活動内容を比較
したものを図 7-1 に示す。
(2)
組織体制及び活動内容に則した名称への変更
平成 15 年 8 月の新協議会の発足に際し、会員に大学知的財産本部等を加え
るとともに新たな活動展開を図ることに合わせ、協議会名称についても変更を
行った。新たな名称は、協議会が主として大学発の技術について知財管理及び
技術移転活動に関することを扱うことから、
「大学知財管理・技術移転協議会」
(Japan Association for University Intellectual Property and Technology Management
(JAUIPTM))とされた。
なお、平成 16 年 3 月 12 日に行われた協議会懇談会(後述)では、新協議会
37
出典:大学知財管理・技術移転協議会資料
図7−1
大学知財管理・技術移転協議会の活動展開について
の名称(英文表記を含む)について、より「呼びやすい」ものを求めるという
建設的な意見が参加者から示されており、今後、名称についても活発な検討が
行われるものと思われる。
(3)
法人化に向けた検討の実施
TLO協議会の時代から、運営に関する重要な事項として協議会の法人化に
関する検討が開始され、事務局において精力的な作業が行われていたところで
ある。しかしながら、大学知的財産本部等が会員として参加した場合、新体制
における検討が必要となるため、TLO協議会としては、取りあえず大学知的
財産本部等の参加問題を先行して取り扱うこととし、協議会の法人化の取り扱
いについては、新たに参加する大学知的財産本部等の意見を踏まえつつ検討を
継続し、平成 16 年度に法人化を行うべく早急に結論を得ることを目指すこと
とした。この方針に沿って、今後法人化に向けての検討が本格的に開始される
ことと思われる。
38
6−3.大学知的財産本部等の新協議会参加について
新協議会は、文部科学省等が主催した「地域・一日知的財産本部」(平成 15
年 12 月 3 日:大阪、平成 16 年 1 月 16 日:東京)会合をはじめ、諸般の機会を
活用して、大学知的財産本部等に対する新協議会の活動紹介と参加への呼びか
けを積極的に行ってきた。そして、4 月の国立大学の法人化を控え各大学におけ
る知的財産本部等整備の取り組みが最終段階にあった平成 16 年 3 月 12 日に大
学知的財産本部等を対象とする懇談会を開催した。これは、新協議会の活動方
針等について、全国の大学知的財産本部等に対し改めて説明を行うとともに、
新協議会のあり方等について意見交換を行う機会となった。
当日は 30 大学から 42 名の関係者が参加し、新協議会の概要説明、今後の法
人化までの段取りに関する説明、これに対する意見交換などが行われた。意見
交換では、新協議会の活動について、会員間の連携・情報交換、人材育成活動
を中心に高い期待が寄せられるとともに、法人化についても積極的な意見が示
された。また、オブザーバーとして参加された文部科学省(小山産学連携推進
室長)及び経済産業省(橋本大学連携推進課長)の両省からも新協議会に対す
る期待と支援が述べられた。
懇談会の目的の一つであった大学知的財産本部等の参加については、幾つか
の大学からはその場で入会の意向が表明されたほか、多くの大学で検討中ある
いは今後する旨の発言があった。今後の進め方としては、とりあえずの区切り
として 1 ヶ月後の 4 月 12 日までに各大学の知的財産本部等から新協議会参加の
意向表明を求め、その後直ちに臨時総会を行って会員としての承認を行うこと
となった。その後、3 月時点で既に 10 以上の大学から会員又はオブザーバーと
して入会する旨の意向が示されており、4 月 12 日の〆切までには更に多くの大
学知的財産本部等の参加が期待される。
6−4.大学知財管理・技術移転協議会の今後の活動
(1)
協議会としての活動の充実
新協議会の今後の活動内容の詳細は、TLOと大学知的財産本部等の両者が
主体的に参加しながら決定していくことになるが、現在のところ次のような活
動が予定されている:
① 知財管理、技術移転に関する情報の収集・共有
・知財管理や技術移転に関連する事例収集、大学等とTLOの連携体制
や知財管理システム等の事例収集を行うとともに、会員間の情報の共有
を行う。
② 知財管理、技術移転に関する人材の研修
39
③
④
⑤
⑥
(2)
・会員機関職員の専門性の向上に向けた研修活動を行う。
政府、公的機関の政策、制度等に関する情報収集、意見交換等
・文部科学省、経済産業省、関係公的機関等の政策(予算要求も含む)、
関連制度に関する情報収集、説明会の開催等を行う。また、これらの機
関との意見交換を行うとともに必要に応じ協議会としての提言等を行
う。
産業界、国内関連団体との連携の推進
・企業向け大学技術のPR・説明会の実施等により産業界との連携を強
化する。国内の関係団体との交流を行い連携の強化を図る。
海外との連携の強化
・米国AUTMを始めとする海外の関係団体等との交流を行い連携の強
化を図る。
法人化に向けた検討
・協議会の活動の強化を目指し、協議会の法人化に向けた検討を行う。
協議会事務局の体制強化
TLO協議会の運営は、事務局及びTLO、大学関係者のボランティア的な
活動に頼る部分が大きい状況であったが、新協議会がその活動を更に充実、拡
大していくためには、こうした事務局体制の強化についても検討が必要と考え
られる。その際、短期的な視点での一時しのぎの対応ではなく、会員収入によ
る自立的な運営を目指すべく中長期的な視点で検討を行うことが必要であろう。
40
まとめ
本調査は、国立大学が法人化される直前の時期に行われたが、各大学とも新
しい国立大学法人の制度の整備に奔走している流動的な時期であり、大学とT
LOとの関係も含め、産学連携体制の構築の最終調整中の時期であったため、
調査に限界があったことを述べておきたい。
大学と産業界との関係が我が国経済の活性化のために重要であることは議論
の余地のないことである。我が国の大学は高度成長期をはじめとして学生の教
育や企業との協力で成果を上げてきたといえる。しかし、不確実性の時代、グ
ローバル化の時代に入り、企業が基礎研究から応用・開発にいたる研究開発の
全てを自社内で行うことは不可能となっている。このような時代において、大
学の役割への期待が大きくなっており、大学で生み出される知的財産をより有
効に活用していこうとの動きがここ 10 年来の我が国の科学技術政策の基本的な
枠組みといえる。大学における基礎的研究の拡充に大きな政府資金が投じられ
るようになり、さらに、大学で生み出された知的財産をより有効に活用する観
点から、産学官の連携、知的財産の創出・管理・活用の促進が課題となってき
た。このような動向を背景に、我が国においてTLOが発足することとなった
ものである。しかし、TLOの発足当初には国立大学の法人化は視野に入って
いなかった。このため、本文の中でも述べられているが、我が国では私立大学
の場合を除き、TLOは大学の外に設けられてきた。国立大学の法人化とTL
Oの設置の動きが同時期であれば、制度設計は異なり、大学とTLOとの関係
も異なったものとなっていたかもしれない。
しかし、この外部に設けられたTLOは、既に長いところでは 5 年を超える
活動経験を持つにいたっている。小規模かつ外部におかれた組織としての弱点
はある。財政基盤の脆弱さがその代表的なものであろう。しかし、外部に置か
れ、自立性の高い組織とされた(そうならざるをえなかった)がゆえに良い点
もあったと思われる。小さく自立した組織として、意思決定の迅速性や機動性、
小規模ゆえの効率性の追求など、大きな大学組織、特に国立大学の組織の中に
最初から置かれたならば達成しえなかった業績を上げることができたものと思
われる。これまでの分析でも強調されているように、TLOの組織とそこで働
く人に体化した知識と経験は、大学に知的財産本部が設置され大学自らが知的
財産の保護・管理・活用に積極的に取り組むようになった時代においても、積
極的に活かしていくべき貴重な資産といえる。
41
国立大学の法人化の大きな狙いはそれぞれ大学の個性の発揮にある。この観
点からは、大学とTLOとの関係について、全てにおいて正しい単一の答があ
るわけではない。したがって、各大学がそれぞれの個性、歴史的な経緯、関係
するTLOの有無とその関係を踏まえ、独自に大学の知的財産本部とTLOと
の関係を構築していけば良いものと考える。この際、重要な点は問題が生じた
場合に早期にこれを検知し、早急に対応し、関係を修正し、より良い関係の構
築を目指して協力してゆけるか否かである。この点で、各大学、各TLOの真
価が問われているといえよう。
一律の答がある意味で用意されていたといえる国立大学の時代に別れを告げ、
国立大学をはじめとする大学は、個性を活かせる挑戦の時代に入ったといえよ
う。ここでは、大学の学長・理事者・経営者による舵取りが問われる。産学連
携、大学組織とTLOとの関係をどのように構築していくかでも、大学の経営
そのものが問われているといえる。各大学が個性をもって大胆かつ柔軟に行動
し、それぞれの大学が個性を活かした産学連携体制を構築するとともに、各大
学が他大学の経験を参照し、相互に学びながら更なる成長を目指していくこと
を期待したい。
42
参考資料1 TLO協議会総会資料(平成15年8月27日)
TLO協議会の将来構想について(案)
〜大学知的財産本部等も含めた活動の強化による全国組織への新たな展開〜
平成15年8月
1.検討の背景・問題意識
TLO協議会は、TLOやその活動を支援する機関等が密接に連携しつつ大学等
(大学、高等専門学校、大学共同利用機関、国の試験研究機関及び試験研究に関す
る業務を行う独立行政法人)における技術移転事業を効率的に推進するための諸事
業を行うことにより、産学連携の健全な発展を促進することを目的として平成12
年9月に設立され、活動を展開してきたところである。
当時は、産学連携に関する社会的認識が大きく高まるとともに、大学等を巡る産
学連携の新たな機能を担うTLOがTLO法に基づき承認され、その活動が本格化
してきた時期でもあり、かかる意味からも協議会の設立は時宜を得たものであり、
極めて意義深いものであったと言える。
しかしながら、協議会の設立以降、産学連携を巡る環境変化が大きく進んでいる。
例えば、平成16年度に予定されている国立大学の法人化である。これに対応する
形で、各大学では研究成果の組織的な管理を行う部門として知的財産本部の整備を
進めているところであり、TLOと知的財産本部との連携のあり方についても具体
的な検討が進められようとしているところである。
こうした中で産業界を始めとする関係者からは、第2回産学官連携推進会議(6
月7〜8日、京都)での発言を始めとして、TLOと大学の知的財産本部との連携、
活動の一体化の必要性が強く指摘されているところである。
また、7月8日に知的財産戦略本部にて決定された『知的財産の創造、保護及び活用
に関する推進計画』においても、「大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)とい
った、知的財産に関する総合的な体制を整備する」との項目の下、大学知的財産本部
とTLOの連携強化が謳われているほか、技術移転関連全国組織の構築について、
『2003年度中に、TLO協議会の拡充等により、大学及びTLOが相互に連
携を取って産学官連携・技術移転に関する成功事例を調査し、情報の交換や共有
を行うとともに、意見調整や人材育成活動等を実施する全国組織を構築する。』
とされている。
このようにTLO協議会に対して、大学等の知的財産本部等関係部門及びTLO
の連携の下での諸活動の展開や全国組織としての機能強化が期待されている状況を
踏まえれば、当協議会の活動において、これら諸機関が緊密に連携・協力を図りつ
つ活動を展開していくことが不可欠である。このため、本協議会への大学知的財産
本部等の参加を呼びかけるとともに、これらとTLOの共通の連携の場として新た
な活動を開始すべく、早急に所要の措置を講じる必要があると考えられる。
43
2.今後の方針
(1) 大学等(知的財産本部等関係部門)の本協議会参加と新たな事業の展開について
上記のような問題意識に立った場合、大学等の知的財産本部等関係部門(大学等
において知的財産の管理・活用を担当する部門を言い、当該組織の設立準備委員会
等を含む。)が本協議会の一員として活動に参加できるよう措置するべきであり、
また当該措置はできる限り早急に行うべきである。
なお、私大等であってTLOと大学等(知的財産本部等関係部門)が同一法人で
あるものについては、新たな参加手続きは不要とするべきである。
こうして新たに大学等(知的財産本部等関係部門)が参加した協議会において別
紙のような活動が展開していくことにより、会員にとっての本協議会参加の価値を
高めていくことが大いに期待される。
(2) 大学等(知的財産本部等関係部門)の会員としての位置づけについて
協議会の会員は会則第4条(P.5 参照)において規定されている。現在、同条第
1項第一号に基づきTLOが会員となっており、同第二号に基づき日本経済団体連
合会、日本弁理士会等が会員となっている。また、第2項に基づき文部科学省、経
済産業省、特許庁、工業所有権総合情報館等がオブザーバーとなっているところで
ある。
① 会員の種別:
今後、「大学知的財産本部とTLOが連携しつつ知的財産の創造、保護、活用
を進めるための総合的な体制を構築」(知的財産戦略)することが求められてい
ることから最終的にはTLOと同様、第一号会員と位置づけることが適当と考え
られるところ、第一号会員の種別に大学等(知的財産本部等関係部門)を追加す
る。
他方、国立大学の場合、知的財産本部は明年4月の国立大学法人化にあわせて
整備される事例が多く、そのタイミングでの正式な会員を希望する場合もあると
考えられるが、こうしたケースについても協議会への実質的な早期参加を可能と
するため、明年度総会までの間は、特例としてオブザーバー参加(第4条第2項)
する途をひらくこととする。
(右は、知的財産本部が明年度を待たずに第一号会員として参加することを排除
するものでない。)
② 会費:
会費については、従来の第一号会員、オブザーバーの取り扱いを踏襲する。即
ち、大学等(知的財産本部等関係部門)が第一号会員として参加する場合にあっ
ては会費納入が必要であり、オブザーバーとして参加する間については、会費の
納入は不要となる。
③ 会員の権利行使:
会員の権利(総会における議決権)についても、従来の第一号会員、オブザー
バーの取り扱いを踏襲する。即ち、オブザーバーとして参加する場合は議決権を
44
持たないものとする。
(3) 協議会の名称について
(1)及び(2)の趣旨の変更を行うのに伴い、協議会の名称についても発展的に変
更することとする。新たな名称としては、協議会が主として大学発の技術につい
て知財管理及び技術移転活動に関することを扱うことから、「大学知財管理・技
術移転協議会」(Japan Association for University Intellectual Property and
Technology Management (JAUIPTM))とする。
(4) 理事について
理事構成については、大学等(知的財産本部等関係部門)が第一号会員として
正式に参加することが本格化するのは来年度以降であると考えられること等か
ら、来年度に大幅な理事構成の変更及び理事の改選を行うこととする。
具体的には来年度総会において大学等(知的財産本部等関係部門)関係者を理
事として、TLOとのバランスも勘案しつつ、加えること等を目指すこととする。
なお、これらを前提とし、現理事の方々については来年度まで引き続き理事を
お願いすることとする。
3.TLO協議会の運営に関するその他の検討事項に関する取り扱い
本協議会の運営に関するその他の検討事項としては、
・ 本協議会の法人化に関する検討
・ 本協議会における個人会員の取り扱い
があり、特に前者について精力的に議論が行われてきたところである。
しかしながら、大学等(知的財産本部等関係部門)を会員とした場合、こうした
検討にも新たな精査が必要となるところ、取りあえず大学等(知的財産本部等関係
部門)の参加問題を先行して取り扱うことし、協議会の法人化及び個人会員の取り
扱いについては、今後、新たに参加する大学等(知的財産本部等関係部門)の意見
等も踏まえつつ検討を継続し、来年度にも法人化を目指すべく早急に結論を得るこ
ととを目指すこととする。
4.今後のスケジュール
・15年8月27日:TLO協議会総会
総会以降:大学等(知的財産本部等関係部門)への参加呼びかけ
秋以降 :大学等(知的財産本部等関係部門)も含めた活動の開始
法人化に向けた検討の本格化
・16年春目途 :協議会法人化
以 上
45
【 別 紙 】
「大学知財管理・技術移転協議会」の事業活動について(案)
1.知財管理、技術移転に関する情報の収集・共有
・知財財産管理や技術移転に関連する事例収集、大学等とTLOの連携体制や
知財管理システム等の事例収集を行うとともに、会員間の情報の共有を行い
ます。
2.知財管理、技術移転に関する人材の研修
・会員機関職員の専門性の向上に向けた研修活動を行います。
3.政府、公的機関の政策、制度等に関する情報収集、意見交換等
・文部科学省、経済産業省、関係公的機関等の政策(予算要求も含む)、関連制度
に関する情報収集、説明会の開催等を行います。
・また、これらの機関との意見交換を行うとともに必要に応じ協議会としての提
言等を行います。
4.産業界、国内関連団体との連携の推進
・企業向け大学技術のPR・説明会の実施等により産業界との連携を強化しま
す。国内の関係団体との交流を行い連携の強化を図ります。
5.海外との連携の強化
・米国AUTMを始めとする海外の関係団体等との交流を行い連携の強化を図り
ます。
6.法人化に向けた検討
・協議会の活動の強化を目指し、協議会の法人化に向けた検討を行います。
46
(参考1)知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画
(平成 15 年 7 月 8 日 知的財産戦略本部 決定)
第1章 創造分野
2.大学等における知的財産の創造を推進する
(5) 大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)といった、知的財産に関する総合的
な体制を整備する
⑦ 連携・ネットワーク化を推進する
i ) 移転の見込みのない特許出願・権利化が経済的な自立を困難にさせるという悪循
環を防止すべく、2003年度中に、TLO協議会の拡充等により、大学及びTL
Oが相互に連携を取って産学官連携・技術移転に関する成功事例を調査し、情報の
交換や共有を行うとともに、意見調整や人材育成活動等を実施する全国組織を構築
する
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)
(参考2)TLO 協議会 現行会則(会員関係規定の抜粋)
第4条
第2条に掲げる目的に賛同する法人、団体及び個人であって、理事会の承認を経た
以下の者は、本会の会員となることができる。
一
TLO
二
大学等からの技術移転事業に関連する者であって、本会の活動に積極的に貢献する
意思を有する法人及び団体
三
大学等における技術移転事業に関連する業務を行う者であって本会の活動に積極的
に貢献する意思を有するもの
2
大学等における技術移転事業に関係する政府機関及びこれに準ずる機関等は、理事会の
承認を経てオブザーバーとして総会、委員会に参加できる。
第5条 会員は、総会の定めるところに従い、会費を納入しなければならない。
47
参考資料2
TLO協議会総会資料(平成15年8月27日)
TLO協議会会則変更(案)
大学知財管理・技術移転協議会会則
(名称及び事務局)
第1条
本会は、大学知財管理・技術移転協議会(以下「本会」という。)と称する。
本会の英文名称は、Japan Association for University Intellectual Property and Technology
2
Management (JAUIPTM)とする。
3
本会は、事務局を東京都に置く。
(目的)
第2条
本会は、大学、高等専門学校、大学共同利用機関及び公的試験研究法人(以下「大学等」
という。)及び大学等の技術に関する研究成果を産業界に移転することを目的として設けられた
機関(以下「TLO」という。)等が、密接に連携しつつ大学等における知的財産管理及び技術
移転の業務を効率的に推進するための交流・啓発、調査、研究、提言等を行うことにより、産
学連携の健全な発展を促進し、もって我が国の学術の進展、技術の向上及び産業の発展に寄与
することを目的とする。
(事業)
第3条
本会は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
一
大学等における知的財産管理及び技術移転の業務を効率的に推進するための提言
二
情報交換、調査、研究等の実施
三
研究会及び講習会の実施
四
会誌その他の刊行物の発行
五
国内外の諸団体等との連絡、交流及び協力関係の強化、増進
六
大学等における知的財産管理及び技術移転の業務に対する全国的な支援体制の強化
七
大学等における知的財産管理及び技術移転の業務等の啓発、普及及び提言
八
その他、本会の目的を達成するために必要な事業
(会員)
第4条
第2条に掲げる目的に賛同する法人、団体及び個人であって、理事会の承認を経た以下
の者は、本会の会員となることができる。
一
TLO
二
大学等(知的財産本部等関係部門)
三
大学等における知的財産管理及び技術移転の業務に関連する者であって、本会の活動に積
極的に貢献する意思を有する法人及び団体
四
大学等における知的財産管理及び技術移転の業務に関連する業務を行う者であって、本会
の活動に積極的に貢献する意思を有するもの
48
2
大学等における知的財産管理及び技術移転の業務に関係する政府機関及びこれに準ずる機関
等は、理事会の承認を経てオブザーバーとして総会、委員会に参加できる。
(会費)
第5条
会員は、総会の定めるところに従い、会費を納入しなければならない。
(退会)
第6条
2
会員が本会を退会しようとするときは、理事会に届け出なければならない。
会員が次の各号のいずれかに該当するときは、退会したものとみなす。
一
死亡し、又は失踪宣告を受けたとき。
二
法人又は団体が解散し、又は破産したとき。
三
会費を納入せず、督促後なお会費を半年以上納入しないとき。
(除名)
第7条
会員が次の各号のいずれかに該当するときは、総会において正会員総数の3分の2以上
の議決を得てこれを除名することができる。
一
本会の会則に違反したとき。
二
本会の名誉を毀損し、又は本会の目的に反する行為をしたとき。
2
前項の規定により会員を除名する場合は、当該会員にあらかじめ通知するとともに除名の議
決を行う総会において、当該会員に弁明の機会を与えなければならない。
(役員の種類及び定数)
第8条
本会に、次の役員を置く。
理事
10人以上15人以内
二
監事
2人以上3人以内
2
一
理事のうち1人を会長、3人を副会長とする。
(役員の選任)
第9条
2
理事及び監事は総会において選任する。
総会が招集されるまでの間において、補欠又は増員のため理事又は監事を緊急に選任する必
要があるときは、前項の規定にかかわらず、理事会の議決を得て、これを行うことができる。
この場合においては、当該理事会開催後最初に開催する総会において承認を得なければならな
い。
3
会長、副会長は、理事会において理事の互選により定める。
4
理事及び監事は、相互に兼ねることができない。
(役員の職務)
第10条
理事は、理事会を構成し、業務の執行を決定する。
2
会長は、本会を代表し、業務を統轄し、総会及び理事会の議長となる。
3
副会長は、会長を補佐し、業務を掌理し、会長に事故があるとき又は会長が欠けたときは、
49
〔(会長が)理事会においてあらかじめ定めた順序により〕その職務を代行する。
4
監事は、民法第59条の職務を行う。
(役員の任期)
第11条
2
役員の任期は2年とする。ただし、その再任を妨げない。
補欠又は増員により選任された役員の任期は、前項本文の規定にかかわらず、前任者又は他
の現任者の残任期間とする。
3
役員は、辞任又は任期満了の後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなけ
ればならない。
(役員の解任)
第12条
役員が次の各号のいずれかに該当するときは、総会において正会員総数の3分の2以
上の議決を得て、当該役員を解任することができる。
2
一
心身の故障のため職務の執行に堪えないと認められるとき。
二
職務上の義務違反その他役員にふさわしくない行為があると認められたとき。
前項第2号の規定により解任する場合は、当該役員にあらかじめ通知するとともに、解任の
議決を行う総会において、当該役員に弁明の機会を与えなければならない。
(顧問)
第13条
本会に顧問5人以内を置くことができる。
2
顧問は、学識経験者等から理事会の推薦により、会長が委嘱する。
3
顧問は、本会の業務の処理に関して会長の諮問に答える。
4
第11条第1項の規定は、顧問に準用する。
(理事会)
第14条
2
理事会は、次の各号のいずれかに該当する場合に開催する。
一
会長が必要と認めたとき。
二
理事現在数の3分の1以上から会議の目的たる事項を示して請求があったとき。
理事会の議事は、理事の過半数が出席し、その出席理事の過半数の同意をもって決する。
3 理事会に出席しない理事は、あらかじめ会長及び副会長の一人に同意を得て代
理人を定め、当該代理人によって理事会の議事に加わることができるものとする。
4
監事は、理事会に出席し、意見を述べることができる。
(総会)
第15条
会長は、前年度の事業報告及び当該年度の事業計画その他重要事項を議決するため毎
年1回通常総会を招集しなければならない。
2
3
総会は、前項の他、次の各号のいずれかに該当する場合に開催する。
一
会長が必要と認めたとき。
二
会員現在数の5分の1以上から会議の目的たる事項を示して請求があったとき。
総会は、構成員の2分の1以上の出席をもって成立する。
50
4
総会に出席しない会員は、書面により、他の出席会員にその議決権の行使を委任することが
できる。この場合には、これを出席とみなす。
5
総会における各会員の議決権は平等とする。
6
総会の議事は、出席した会員の過半数をもって決し、可否同数のときは、議長の決するとこ
ろによる。
(委員会)
第16条
理事会は、本会の目的を達成するため必要と認めたときは、委員会を設けることがで
きる。
2
委員会における活動計画は、事前に理事会の承認を得なければならない。
3
委員会での活動状況は、理事会を経て総会に報告されなければならない。
(議事録)
第17条
総会及び理事会の議事については、次の事項を記載した議事録を作成しなければなら
ない。
一
日時及び場所
二
構成数の現在数
三
出席した構成員の数及び理事会にあっては、理事の氏名(書面表決者及び表決委任者を含
む。)
2
四
議決事項
五
議事の経過の概要
六
議事録署名人の選任に関する事項
議事録には、議長及び出席した構成員のうちからその会議において選任された議事録署名人
2人以上が署名押印しなければならない
(資産)
第18条
本会の資産は次に掲げるものをもって構成する。
一
設立当初の財産目録に記載された財産
二
会費収入
三
寄附金品
四
資産から生ずる収入
五
事業に伴う収入
六
その他
(資産の管理)
第19条
本会の資産は、会長が管理し、その管理の方法は、理事会の議決による。
(事業年度)
第20条
本会の事業年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終る。
51
(活動成果)
第21条
第3条に定める事業の実施により得られた活動成果は、本会に帰属する。ただし、理
事会が特に認めた場合にはこの限りではない。
2
前項の活動成果は、本会の名で公表する前に理事会の承諾なしに使用することはできない。
(守秘義務)
第22条
会員は、第3条に定める事業を実施する過程で得られた法人、団体及び個人に関する
各種データ・ノウハウ・営業秘密等を含む全ての未公開情報及び他の会員の発言内容等に関し
て、当該会員から会員外への公表禁止の旨の申し出があった場合には、如何なる形でも本会の
外部に持ち出し、又は発表してはならない。
(会則の変更)
第23条
この会則は、総会員の2分の1以上の同意がなければ、これを変更することができな
い。
(解散)
第24条
本会は、総会員の4分の3以上の同意がなければ解散することはできない。
(残余の財産処分)
第25条
本会が解散する際に有する残余財産の処分については総会において総会員の4分の3
以上の同意をもって決する。
附則
1
この会則は、平成12年9月29日から施行する。
2
本会の設立発起人は、原則として本会の設立とともに会員となる。
3
設立総会前に、本会の設立発起人会によって会長、副会長、理事又は監事の職務を行うこ
とを委嘱された者は、第9条第1項及び第3項の規定にかかわらず就任する。ただし、その
任期は、就任後最初の事業年度に関する通常総会の終結のときまでとする。
4
設立総会前に、設立発起人会によって推薦された者は、第4条第1項の規定にかかわらず、
本会の設立とともに会員となることができる。
5
設立総会及び設立総会開催後最初に開催する理事会の議長は、第10条第2項の規定にか
かわらず、会員の互選で定める。
6
この会の設立当初の事業年度は、第17条の規定にかかわらず、本会の設立の日から当該
年度末日までとする。
附則2
1
この会則は、平成15年8月27日から施行する。
2
第4条第2項の規定にかかわらず、大学等(知的財産本部等関係機関)は、平成16年度
通常総会までの間に限り、理事会の承認を経てオブザーバーとして総会、委員会に参加すること
ができる
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