卒業後の社会生活へ向けた知的障害のある生徒の「伝える力」の指導

卒業後の社会生活へ向けた知的障害のある生徒の「伝える力」の指導について
−「話す」活動を中心にした取組−
山口県立宇部総合支援学校
1
教諭
宮城
啓子
研究の意図
(1)卒業後の社会生活で必要となる「伝える力」
「伝える力」は、よりよい社会生活を送るために必要な力の一つである。
社会生活では、とりわけ「話す」という活動で「伝える」場面が多くあり、学校生活に比べ
て「伝える」相手や状況が多様である。そのために、学校生活よりも、更に自分から「伝えよ
う」とする意識をもち、「伝える」ことができる実践力を身に付けていることが必要である。
そこで、本研究では、社会生活へ向けて、
「話す」という活動を中心にして、生徒の「伝える
力」を育てることをねらいとした。
(2)原籍校における生徒の実態
原籍校の高等部の生徒については、自分から伝えようとする意識が十分に育っておらず、学
校生活全般において、周囲からの支援を待っている場面が見られる。その背景としては、
「相手
に伝えたいという気持ちがあっても、伝える方法が分からない」、「相手に伝わったことで満足
した、自信をもったという体験が少ない」などが考えられる。
(3)「伝える力」を育てるための学習環境づくり
学習を定着させるためには、生徒の特性に応じた指導や支援、学習環境などが必要である。
知的障害のある生徒には、その障害特性から、繰り返し、積重ねの学習や、授業で学習したこ
とを実際の生活の場面で生かす体験が大切となる。
本研究では、
「伝える力」を「伝えたい内容を、自分から伝えようとする意識をもち、伝える
ことができる力」ととらえた。さらに、生徒の「伝える力」が育つ段階を図1のようにとらえ、
教師が学校生活全般において、
「伝える力」を育てるという意識をもって生徒とかかわることが
必要であると考えた。
●伝えたい内容がある。
・問掛けに対する意思表示
・思いや願い、要求
・支援してほしいこと等
●伝えたい気持ち(思い)
がある。〈意識〉
図1
●伝える方法(スキル)を
習得する。
・場に応じた表現方法を身
に付ける。
「いつ 誰に どのように」
・語いを拡充する。
伝えることができる。
〈実践力〉
●伝わったことで満足する。
・相手からの応答や返事があ
る。
・願いや要求がかなう。
・思いを受け止めてもらえる。
・支援してもらえる等
●伝えることに対して自信を
もつ。
●自分から伝えようとする意
識が定着する。
生徒の「伝える力」が育つ段階のとらえ
(4)研究の仮説
本研究では、
「生徒の『伝える』課題に取り組む場面を設定した授業や、学級における『伝え
合う』学習を積み重ねることにより、生徒一人ひとりの『伝える力』を育てていくことができ
る」と仮説を立て、研究を行うこととした。
- 111 -
2
研究の内容
(1)研究の流れ
研究を進めるにあたっては、図2に示す流れで取り組んだ。
対象は、宇部総合支援学校高等部第3学年の1学級9人である。9人は、コミュニケーショ
ンの手段として、主として音声言語を使っている。卒業後の進路希望は、作業所への通所が7
人で、事業所への就労が2人である。
ア
アについて
「生活する」、
「働く」、
「楽しむ」
「移動する」の4項目で整理
予想される卒業後の社会生活で「伝える力」
が必要となる場面の整理(図3)
イについて
・場面、内容別に 13 項目を設定
・生徒の実態の4段階を設定
イ 「伝える力」
(話す活動)の実態把握表の作成
(表1)
ウ
生徒一人ひとりについて実態把握
エ
生徒一人ひとりについて目標の設定
オ
「伝える力」を育てるための
学習環境づくりと実践
作成した実態把握表を使用
実態と予想される卒業後の社会生活
を見据えて、目標を設定
授業での「話す」
活動の取組
学部や学年での
情報交換
カ
記録の整理と検証・考察
学級での「話す」
活動の取組
ケース
会議
家庭との
連携
記録の整理、聞取りによる検証
図2
研究の流れ
(2) 研究の実際
図2に示してあるア∼カの内容について、以下に述べる。
ア
予想される卒業後の社会生活で「伝える力」が必要となる場面の整理
図3に示すように、「生活する」、「働く」、「楽しむ」、「移動する」の4項目で整理をした。
整理をすることで、教師は卒業後の社会生活で「伝える力」が必要となる場面や内容を大ま
かに把握でき、指導が必要な内容を意識しながら生徒とかかわることができる。
イ
「伝える力」(話す活動)の実態把握表の作成
作成した実態把握表は、表1の№1から№4までである。
№1から№3では、場面、内容別に 13 項目、生徒の実態について4段階を設定した。場面、
内容の 13 項目は、図3を基に考え、実態の4段階は、「伝える力が育つ段階」を基に設定し
た。№4については、産業現場等における実習や「個別の教育支援計画」からの情報、保護
者の願いなどを記入する欄を設けた。
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◆家庭や施設で生活する
◆働く、作業する、みんなで活動する
暮らしている地域、自治会等
・家族や施設の人、近所の人にあいさつをする。
・会話を楽しむ。行事に参加し、役割を果たす。等
事業所、福祉施設、
作業所、デイサービス等
・一緒に働く人にあいさつをする。
・電話をかけて、休むことや遅れることを伝える。
・お願いやお礼を言う。
・
「はい」
、
「いいえ」などの返事をする。
・
「できました」
、
「終わりました」などの報告をする。
・作業について、質問をしたり確認をしたりする。
・
「分かりません」
、
「教えてください」等、作業で困っ
ていることについて、支援を求める。
・頼まれた伝言を伝える。
・やりたいことや欲しいもの等、要求を伝える。
・体の不調(お腹や頭が痛い、熱っぽい、気分が悪い、
休みたい)や、けがをしたことなどを伝える。
・暑い、寒いなどを伝える。
・作業場所を離れるとき、行き先を担当の人に伝える。
・問い掛けられた質問に答える。
・休憩時間に、休日のことやテレビ、新聞、雑誌など
で見聞きしたり読んだりしたことを話して、みんな
と会話を楽しむ。
・相手や状況に応じて、丁寧な言葉遣いで話す。敬語
を使って話す。
・困っていることや悩んでいること、相談したいこと
などについて、相談できる人に話す。等
◆生活している地域の公共の施設を利用する
お店(買物)
、病院、役所、警察所(交番)
、郵便局
銀行、消防署、理容店(美容室)等
・買いたいものがある場所や値段を尋ねる。
・
「体調が悪い」
、
「体のどこがどのように痛い」
、
「どの
ようにしてけがをした」などを話す。受付、診察、
会計などについて尋ねる。服薬について尋ねる。
・窓口で、用件を端的に伝える。
・申請をしたい内容を正確に伝える。
・書類の記入、手続きの方法を尋ねる。
・
「迷子になった」
、
「道が分からない」
、
「忘れ物や落し
物をした」
、
「お金や物を取られた」などを伝える。
・事故や事件のとき、110 番に電話をして、状況を伝
える。
・お金の入金や引き出し、振込について尋ねる。
・火事や救急のとき、119 番に電話をして、状況を伝
える。
・どんな髪型にしたいかなどの要望を伝える。等
生活する
働 く
社会生活
楽しむ
移動する
◆楽しむ、余暇活動
◆移動する、公共交通機関を利用する
送迎バスを利用する
お店(買物)
、レストラン、ファーストフード店
図書館、映画館、劇場、レジャー施設、スポーツ施設
レンタルビデオ店、カラオケ店等
歩く、自転車に乗る、バスに乗る、電車に乗る
送迎バスに乗る、自家用車に乗る等
・レストランで、メニューについて尋ねる。食べたい
ものを注文する。
・ファーストフード店で、メニューを見て注文する。
・探している本やCDがある場所を尋ねる。借りる手
続きをする。
・施設の利用の仕方や申込方法などについて尋ねる。
利用の申込をする。
・営業時間や店休日、利用料金などについて、電話で
尋ねる。
・見たい映画の上映時間などについて、窓口や電話で
尋ねる。
・公演の日程やチケットの買い方などについて、電話
で尋ねる。購入の申込をする。
・利用の仕方について、分からないことを店の人に尋
ねる。等
・目的地までの道順を尋ねる。
・自転車のタイヤがパンクするなど、不測の事態に直
面したとき、周囲の人に支援を求める。
・バスの行き先、時刻、目的地のバス停に止まるかど
うか、料金などについて尋ねる。目的地のバス停に
着いたら教えてくださいと頼む。
・定期券や切符を買いたいことを伝える。購入の申込
をする。
・自動販売機での切符の買い方、電車の時刻、ホーム、
どの電車に乗ればよいか、乗継などについて尋ねる。
・送迎バスの利用のルールを守り、利用しないときは
電話で連絡をする。
・送迎バスで、
「おはようございます」
、
「よろしくお願
いします」
、
「ありがとうございました」などのあい
さつをする。等
図3 予想される卒業後の社会生活で「伝える力」が必要となる場面
- 113 -
- 114 -
- 115 -
表1の№1の上部に示した「伝える力が育つ段階」と「生徒の実態の段階」の関係について整
理する。
伝える力が育つ初期の段階において、伝えたい内容や気持ちが生徒本人の中にあったとしても、
動作や表情で表すことが難しく、かかわる人に気付いてもらえないことがある。これを実態のⅠ
段階ととらえ、伝えたい内容や気持ちがあることを動作や表情で表すことができ、かかわる人に
気付いてもらえる段階をⅡ段階ととらえた。また、Ⅲ段階は、スキルは不十分であるが、伝えた
い内容や気持ちを自分から伝えることができる段階ととらえた。さらに、自分から伝えようとす
る意識をもって適切な表現で話し、伝わったことに満足感や自信を得ることができ、伝えようと
する意識が定着する段階をⅣ段階ととらえた。
ウ
生徒一人ひとりについて実態把握
生徒にかかわる教師からの聞取りを基に実態把握を行い、実態把握表に記入した。
記入について、「状況を説明する」という場面を例にあげると(表2)、生徒がⅡ段階の「じっ
と動かなかったり、伝えたい相手を見たりするが、自分からは話さない」という状態であると把
握したら、その欄に印をつける。さらに、その下の記録の欄には、生徒の実態や変化が見られた
様子について記載していくこととした。
表2
「実態把握表」の記入について
Ⅱ段階
Ⅰ段階
◆状況を説
明する
実態
経験した
こと
見たこと
聞いたこと
等
・自分からは話さ
ない。
現在の実態
の段階を把
握する。
記録
エ
Ⅲ段階
・ じ っ と 動 か な ・相手を見ていな
かったり、伝えた
い相手を見たり
するが、自分から
は話さない。
・「何をしました
か?」など、尋ね
られたことにつ
いては答える。
尋ねられれば、
経験したことを
一語文で話すこ
とができる.
かったり、声が小
さかったりする
が、自分から話
す。
・経験したことや
見聞きしたこと
を、自分から一語
文や簡単な二語
文で話す。
Ⅳ段階
・相手を見て、相
手に伝わる声の
大きさで話す。
・経験したことや
見聞きしたこと
を、自分から相手
に伝わるように
詳しく話す。
生徒の実態や
変化が見られ
た様子を記録
する。
生徒一人ひとりについて目標の設定
生徒の実態と予想される卒業後の社会生活を見据えて、育てたい「伝える力」の実態を基に目
標を設定する。
Aさんの例(図4)で説明する。図4に示す「卒業後の社会生活と育てたい力のつながり」は、
Aさんの実態や予想される卒業後の具体的な社会生活を基に考えたものである。Aさんは、育て
たい「伝える力」の多くが、Ⅱ段階の「自分からは話さない」という実態である。卒業後のバス
の利用や作業所での活動、通院の場面などを想定したとき、Aさんは、周囲の支援を待っている
のではなく、自分から伝えようとする力をつけることが必要であると考える。そこで、今もって
いる「一語文で話す」という力を生かして、様々な場面で「伝えたいことを、自分から一語文で
話すことができる」という目標を設定した。
「予想される卒業後の社会生活」の4つの場面には、左端の 13 項目すべてがかかわってくるが、
本人の実態や目標を踏まえて、重点的に指導が必要と思われる項目を選び、線で結んでいる。
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場面
内容
現在の「伝える力」の実態
Ⅰ段階
Ⅱ段階
Ⅲ段階
Ⅳ段階
あいさつ
返事
報告
生活する
・家で家族と暮らす
・月に1回、病院へ通う
作業などの場面ではお礼を言う
時間がかかることはあるが答える
働く
作業などの決まった場面では話す
要求
予想される卒業後の社会生活
あいさつをされると返す
作業などの場面では返事をする
お願い
お礼
問掛けに
答える
・週5日、作業所へ通う
尋ねられれば、一語文で話す
質問
自分から質問をしない
支援を
求める
状況の
説明
伝言
楽しむ
・家族と買物へ行く
・簡単な調理をする
・音楽を聴く
・イラストを描く
相手を見るが、自分からは話さない
尋ねられれば、見た物を一語文で話す
自分から伝えようとしない
移動する
会話
一方的だが、友だちに話し掛ける
・バスを利用する
電話
自分から家に電話をする
言葉遣い
丁寧な言葉遣いに言い直す
目標の
設定
目標「伝えたいことを、自分から一語文で話すことができる」
図4
オ
卒業後の社会生活と
育てたい力のつながり
Aさんの目標の設定について
「伝える力」を育てるための学習環境づくりと実践
目標の設定後、授業での取組、学級での取組、学部や学年での情報交換、ケース会議、家庭と
の連携などの学習環境づくりと実践に取り組んだ。その内容について、以下に述べる。
(ア) 授業での「話す」活動の取組
【学級の生徒の傾向】
好きなことや興味があることは自分から積極的に話すが、質問をしたりされたりする場面
では不安になり、自分から話せない。作業場面などでの決まった言い方はできるが、思いや
考えを自分から話すことは苦手である。また、みんなの前で話すべきでない話題を口にする
生徒もいる。
【題材の単元計画】
「思いや考えを自分から話す」ことをねらいとして、表3に示す内容で授業を3回行った。
表3
題
実施月
題材の単元計画
材
7月
質問に答えよう
質問をしよう
10 月
話そう
伝えよう①
10 月
話そう
伝えよう②
学習内容
①人に対して質問をするときや答えるときのマナーについて考える。
②生徒一人ひとりが、教師からの質問に答える。
③生徒が、教師に聞いてみたいことを質問する。
「卒業後、どんな仕事をしたいですか?」というテーマについて、
①自分の考えを書くことで整理し、学級の友だちへ伝える。
②友だちの発表を聞いて、聞きたいことについて質問し合う。
「仕事が休みの日は、何をしたいですか?」というテーマについて、
①自分の考えを学級の友だちへ伝える。
②友だちの発表を聞いて、聞きたいことについて質問し合う。
【授業の展開】
「話そう
伝えよう①・②」の授業の展開について、以下に示す。
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●題材「話そう
伝えよう①
卒業後、どんな仕事をしたいですか?」
支援について(■内容や発問
活動の流れ
◆手だて)
ねらい
Aさん・Iさん
Bさん・Eさん
◇下を向いて
いる場合は、
顔を上げるよ
うに促す。
◇意識が他へ
向いている場
合は、個別に
言葉掛けをす
る。
Cさん・Gさん
Dさん・Fさん
Hさん
◇元気がなさ
そうにしてい
る場合は、個
別に言葉掛け
をする。
◇教師の方を
向いていない
場合は、個別
に言葉掛けを
する。
①あいさつ
①あいさつを
して、活動の
始まりを意識
する。
②2日間の学
習課題の確認
・提示用カー
ドを見ながら
言葉による説
明を聞く。
②「卒業後、
どんな生活を
したいか」に
ついて考える
ことを知る。
■2日間の学習課題を意識付ける。
・本時のテーマ「卒業後、どんな仕事をしたいですか?」
・次時のテーマ「仕事が休みの日は、何をしたいですか?」
■「卒業後、どんな生活をしたいですか?」と尋ねる。
■自分で考えたり発表したりすることを伝える。
◆黒板にカードを提示し、視覚的な手掛かりも使って伝える。
③本時の学習
内容及び流れ
の確認
・提示用カー
ドを見ながら
言葉による説
明を聞く。
③活動の流れ
について、大
まかな見通し
をもつ。
■本時の学習内容と流れを伝える。
■「卒業したらどこで仕事をしたいですか?」、「どんな仕事をしたいです
か?」と尋ねる。
■①自分の考えをプリントに書く。②自分の考えを学級の友だちへ伝える。
③友だちの発表を聞いて、聞きたいことについて質問し合う。という流れ
であることを伝える。
◆黒板にカードを提示し、視覚的な手掛かりも使って伝える。
④「卒業した
らどんな仕事
をしたいです
か?」、「どこ
で仕事をした
いですか?」
について
ア 自分の考え
○
をプリントに
書く。
・1枚に1つ
書く。
④「卒業した
らどんな仕事
をしたいです
か?」、「どこ
で仕事をした
いですか?」
について
ア 自分の考え
○
を、プリント
に書いたり、
教師に話した
りする。
イ 自分の考え
○
を学級の友だ
ちへ伝える。
イ 自分の考え
○
を、学級の友
だちへ伝わる
ように話す。
一人ずつ
イ○
ウ の流
○
れで進め
る
ウ 友だちの発
○
表を聞いて、
聞きたいこと
について質問
し合う。
ウ 友だちに聞
○
いてみたいこ
とを、自分か
ら質問する。
⑤次時の予告
あいさつ
⑤次時の内容
を知り、活動
の終わりを意
識する。
◇個別に言葉
掛けをして、
考えているこ
とを複数のプ
リントに書い
てもよいこと
を伝える。
◇書いてある
内容について
尋ねてみる。
◇時間がかか
る場合は、様
子を見ながら
待つようにす
る。
◇自分から話
し始めるまで
に時間がかか
る場合は、様
子を見ながら
待ったり、促
したりする。
◇下を向いて
いる場合は、
顔を上げるよ
うに促す。
◇落ち着かな
い様子が見ら
れた場合は、
活動の内容と
流れを個別に
確認する。
◇「卒業した
らどこで仕事
をしたいです
か?」と尋ね
て、プリント
に書いてある
内容と同じで
あるかを確認
する。
◇発表内容に
ついて、不安
な様子が見ら
れた場合は、
記入したプリ
ントを見るよ
うに促す。
◇考えが1つ
でない場合に
は、複数のプ
リントに書い
てもよいこと
を伝える。
◇援助を求め
る様子で教師
を見た場合は
自分から話す
まで待つよう
にする。
◇書くことに
苦手意識があ
るので、不安
な様子が見ら
れた場合は、
書いた文字を
一緒に読むこ
とで、正しく
書いているか
を確認する。
また、発表す
る内容を一緒
に確認する。
◇考えが1つ
でない場合に
は、複数のプ
リントに書い
てもよいこと
を伝える。
◇書いてある
内容について
尋ねてみる。
◇表現が不十
分であったり
話すことに時
間がかかった
りする場合も
教師が表現を
補ったり質問
したりせず、
最後まで話を
聞くようにす
る。
◇恥かしそう
な様子が見ら
れたり、話し
始めるまでに
時間がかかっ
たりする場合
は、様子を見
ながら待つよ
うにする。
◇表現が不十
分であったり
話すことに時
間がかかった
りする場合も
教師が表現を
補ったり質問
したりせず、
最後まで話を
聞くようにす
る。
◆必要に応じて、生徒の発表の内容を要約したり、ポイントとなる部分を整
理して伝えたりすることで、友だちの発表を聞いて、聞きたいことについ
て質問し合うきっかけとさせる。
◆生徒からの自発的な質問がない場合は、言葉掛けをするなどして促すが、
無理強いはせず、教師から質問をするなどの形をとる。
■「仕事が休みの日は、何をしたいですか?」について、考えておくように
伝える。
◆「終わる」ことを言葉で伝えながら、黒板に提示したカードをはずすこと
で、活動の終わりを意識付ける。
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●題材「話そう
伝えよう②
仕事が休みの日は、何をしたいですか?」
支援について(■内容や発問
活動の流れ
◆手だて)
ねらい
①あいさつ
①あいさつを
して、活動の
始まりを意識
する。
②本時の学習
内容の確認
②本時のテー
マについて、
前時に伝えた
ことを思い出
す。
③「仕事が休
みの日は、何
をしたいです
か?」につい
て
ア 現在の休日
○
と卒業後の休
日の違う面に
ついて
③「仕事が休
みの日は、何
をしたいです
か?」につい
て
ア 現在の休日
○
と卒業後の休
日の違いにつ
いて気付く。
イ 自分の考え
○
を学級の友だ
ちへ伝えた
り、友だちの
考えを聞いた
りする。
イ 自分の考え
○
を学級の友達
へ伝える。
また、友だち
の考えを聞い
たり、自分か
ら質問したり
する。
Aさん・Iさん
Bさん・Eさん
◇下を向いて
いる場合は、
顔を上げるよ
うに促す。
◇意識が他へ
向いている場
合は、個別に
言葉掛けをす
る。
④「卒業後、
どんな生活を
したいか」に
ついて、考え
たり話したり
したことを思
い出す。
⑤あいさつ
⑤あいさつを
して、活動の
終わりを意識
する。
Dさん・Fさん
Hさん
◇元気がなさ
そうにしてい
る場合は、個
別に言葉掛け
をする。
◇教師の方を
向いていない
場合は、個別
に言葉掛けを
する。
■前時の終わりに伝えた本時の学習内容を、覚えているかどうか尋ねる。
■本時の学習内容を確認する。
◆黒板にカードを提示し、視覚的な手掛かりも使って確認する。
■「仕事が休みの日は、何をしたいか考えてきましたか?」と尋ねる。
■現在の生活で学校が休みの日と、卒業後に仕事をしている時の休日の違い
について、具体的にイメージさせる。
・休みの日が、土曜日と日曜日ではないかもしれない。休みの日が違うと、
今までのように友だちに会えないかもしれない。
・給料を貰ったら、自分で計画したり、家の人と相談したりしながらお金を
使うことができる。
・夏休みや冬休み、春休みなどの長期の休みがない。
◆生徒が気付くように、上記のようなヒントとなる話をしたり、質問をした
りする。
◆できるだけ、生徒同士が自分の考えを伝え合う場になるように、生徒の様
子を見ながら発言を促したり、質問をしたりする。
◆「仕事が休みの日」という状況がイメージしにくい生徒には、
「現在、学校
が休みの日は、何をしていますか?」、「どこへ出掛けていますか?」など
の問掛けから考えてみるように促す。
◇思いつかな
い場合には、
長期の休みに
帰省したとき
のことを思い
出すように促
す。
◇自分から話
し始めるまで
に時間がかか
る場合は、様
子を見ながら
待ったり、促
したりする。
④2日間のま
とめ
Cさん・Gさん
◇落ち着かな
い様子が見ら
れた場合は、
活動の内容と
流れを個別に
確認する。
◇卒業後の生
活をイメージ
しにくいかも
しれないので
「土曜日や日
曜日に何をし
ていますか」
などと問い掛
けることで発
言を促す。
◇援助を求め
る様子で教師
を見た場合は
自分から話す
まで待つよう
にする。
◇現在、休日
にやっている
ことを発言し
たときは、卒
業後にやって
みたいと思っ
ていることに
ついても、教
師が尋ねてみ
る。
◇思いつかな
い場合には、
長期の休みに
帰省したとき
のことを思い
出すように促
す。
◇時間がかか
る場合は、様
子を見ながら
待ったり促し
たりする。
◇人前で話し
てよい内容か
どうか迷って
いる場合には
側へ行って一
緒に考える。
◇相手を見な
いで話をして
いる場合は、
伝える人の方
を向くように
促す。
■卒業までのあと5か月、卒業後の生活について、これからも自分でしっか
り考えてほしいことを伝える。
■考えたり悩んだりしていることについて、学級の先生や家の人に、自分か
ら伝えることが大切であることを意識付ける。
◆「終わる」ことを言葉で伝えながら、黒板に提示したカードをはずすことで、
活動の終わりを意識付ける。
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【3回の授業実践での生徒の様子】
●「質問に答えよう
質問をしよう」(生徒の実態に合わせた個別の質問内容)
授業の導入段階で質問をするときや答えるときのマナーを考えさせたところ、
「 丁寧な言
葉遣いをする」、「失礼なことは言わない」などの発言があり、場に応じた表現方法を意識
できている様子がうかがえた。質問に答える活動では、生徒にとって興味・関心の高い内
容の質問をしたところ、生徒は全員、その質問に応じた内容を考えて、自分から答えるこ
とができた。また、教師に対して、自分で考えた質問をすることができた生徒もいた。
●「話そう
伝えよう①・②」(全員に共通した質問内容)
「卒業したら、どんな仕事をしたいですか?」というテーマでは、産業現場等における
実習での体験などを踏まえて、
「こんな仕事をしたい」という自分の考えを全員が発表する
ことができた。全員、友だちの発表を興味深く聞いていたが、発表の内容に関する質問を
した生徒は少数であった。質問された生徒は、自分の体験を生き生きと話すことができた。
「仕事が休みの日は、何をしたいですか?」というテーマでは、
「買物」、
「車の免許をと
る」等、現在休日にやっていることや、卒業後にやってみたいと考えていることを、自分
から話すことができた。積極的な発言が見られ、友だちへの質問もいくつかあった。
【考察】
生徒にとって答えやすい質問だけでなく、様々な問掛けに対して自分なりに考えを整理し
て答えられるよう、段階的にテーマを設定する必要がある。生徒同士が話し合う活動に発展
させる場合は、題材や場面の設定が重要であり、特に、フリートーキングのような形では、
自分から話すことが苦手な生徒への働きかけを十分に工夫することが大切であると感じた。
(イ)学級での「話す」活動の取組
授業だけではなく、学級の活動でも、報告や伝言が必要な場面、テーマを決めて生徒同士が
話し合う場面を数多く設定し、生徒が自分で考えて自分から伝えようとする意識やスキルを段
階的に育てていった。「話す」テーマについては、「修学旅行の学級での行動の計画」、「校外学
習の計画」、
「買物学習の計画」等、学校生活にかかわる内容のほか、
「一人で暮らすために必要
なお金は?」、「社会生活のマナー」等、卒業後に必要となる内容についても設定した。
(ウ)学部や学年での情報交換
学校生活全般において、教師が共通理解の下に生徒とかかわることができるように、学部会
や学年会で、生徒の目標や具体的な支援の方法について情報交換を行った。
(エ)ケース会議
対象とする生徒の指導や支援を行う教師が集まり、学校生活全般での生徒の様子を情報交換
しながら、実態把握表への記入、目標の設定及び支援の方法についての検討を行った。
(オ)家庭との連携
学校で学習したことを実際の生活の場面で生かすことができるように、連絡帳や保護者会な
どで、学級担任から保護者へ、生徒の様子や目標、学級や授業での「話す」活動の取組につい
て伝えた。
カ
記録の整理と検証・考察
実態把握表の項目について、実態の変化が見られたかどうか、生徒の指導や支援を行った教師
に聞取りを行った。生徒の様子や授業の記録も整理し、これらを基に、設定した目標が達成でき
たかどうかを検証した。以下、顕著な変化が見られたBさんとCさんを例に、その詳細を述べる。
- 120 -
【Bさんについて】
Bさんの「伝える力」の実態、予想される卒業後の社会生活と目標の設定、取組後の変化につ
いては、図5のとおりである。
「伝える力」の実態(5月)
場面
内容
あいさつ
返事
お願い
お礼
問掛けに
答える
報告
要求
質問
Ⅰ段階
Ⅱ段階
Ⅲ段階
Ⅳ段階
作業などの決まった場面では言う
相手を見ないで返事をする
作業などの決まった場面ではお礼を言う
働く
(11 月)
行き先や予
定を、自分
から伝える
やりたいことを意思表示する
自分からは話さない
尋ねられれば、一語文で話す
自分から質問をしない
(11 月)
自分から
二語文で
話す
尋ねられれば、経験や見た物を一語文で話す
言葉遣い
目標の
設定
図5
自分から伝えようとしない
相手を見るが、自分からは話さない
・週5日、作
業所へ通う
楽しむ
状況の
説明
電話
卒業後の社会生活
生活する
自分から支援を求めない
会話
予想される
・家で家族と
暮らす
支援を
求める
伝言
社会生活と
育てたい力
のつながり
(11 月)
特定の人に、
自分から声を
掛ける
電話をかけた経験が少ない
・家族と買物
へ行く
・音楽教室へ
通う
・イラストを
描く
移動する
・自家用車で
移動するこ
とが多い
・家族と電車
やバスを利
用する
丁寧な言葉遣いに言い直す
目標「行動する前に、自分から行き先や予定を伝えることができる」
Bさんの「伝える力」の実態、予想される卒業後の社会生活と目標の設定、取組後の変化
5月の実態把握では、Bさんの実態として、
「作業などの決まった場面では自分から話すが、作
業以外では自分から話すことが少ない」、「トイレに行ったり教室移動をしたりするとき、行き先
を伝えず、思いつくままに行動してしまう」ということがあった。卒業後に作業所への通所を希
望していることなどから、目標を「行動する前に、自分から行き先や予定を伝えることができる」
として指導に取り組んだ。
取組の結果、Bさんの実態把握表では、3つの項目について顕著な変化が見られた。
「報告をする」という項目では、自分から教師に、行き先や予定を、
「トイレ」や「音楽」など
と話すようになってきた。
「状況を説明する」という項目では、修学旅行や校外学習などの場面で、
「飛行機飛んだ」や「お墓あるね」等、経験したことや見たことについて、自分から教師に二語
文で話すことがあった。
「会話を楽しむ」という項目では、特定の教師ではあるが、廊下で出会っ
たときに自分から話し掛ける場面が見られるようになった。
以上のことから、Bさんは、目標をほぼ達成することができたととらえることができる。
- 121 -
【Cさんについて】
Cさんの「伝える力」の実態、予想される卒業後の社会生活と目標の設定、取組後の変化につ
いては、図6のとおりである。
「伝える力」の実態(5月)
場面
内容
あいさつ
返事
お願い
お礼
問掛けに
答える
報告
要求
質問
Ⅰ段階
Ⅱ段階
Ⅲ段階
Ⅳ段階
自分から大きな声で言う
作業などの決まった場面では話す
働く
「いやだ」という意思表示ができる
作業などの決まった場面では話す
(11 月)
側にいる人
に、自分から
質問する
尋ねられれば、一語文で話す
状況の
説明
経験したことを言葉で話すことは苦手である
電話
言葉遣い
目標の
設定
図6
卒業後の社会生活
・家で家族と
暮らす
作業などの決まった場面では返事をする
支援を
求める
会話
予想される
生活する
(11 月)
助けてほしい
ことについて
相手を見るが、自分から支援を求めない 自分から話す
伝言
社会生活と
育てたい力
のつながり
相手を見るが、自分から質問をしない
・週5日、作
業所へ通う
楽しむ
・家族と買物
へ行く
・パソコンを
使う
・本や雑誌を
読む
簡単な内容であれば、伝えようとする
移動する
好きな人には、自分から話し掛ける
家にかかった電話を受けることはできる
・バスを利用
する
丁寧な言葉遣いを意識して話す
目標「困ったことや分からないことについて、自分から話すことができる」
Cさんの「伝える力」の実態、予想される卒業後の社会生活と目標の設定、取組後の変化
5月の実態把握では、Cさんの実態として、「困ったことがあったときに、助けてほしい相
手を見るが黙っている」ということがあった。卒業後に作業所への通所を希望していることや、
一人でバスを利用する機会があることなどから、目標を「困ったことや分からないことについて、
自分から話すことができる」として指導に取り組んだ。
取組の結果、Cさんの実態把握表では、2つの項目について顕著な変化が見られた。
「質問をする」という項目では、作業などの場面で分からないことがあったとき、側にいる人
に自分から質問することが、少しずつできるようになってきた。
「 支援を求める」という項目でも、
相手が声を掛けてくれるのを待っているのではなく、自分から援助を求める場面が見られるよう
になってきた。
以上のことから、Cさんも、目標をほぼ達成することができたととらえることができる。
学級の他の生徒についても、実態について段階の変化が見られた。また、同じ段階ではあって
も、語いが増えたり、自分から伝えようとする意識がより強く感じられる場面が増えたりするな
どの変化が見られた。
- 122 -
3
まとめと今後の課題
(1)研究のまとめ
本研究では、生徒の卒業後の社会生活を見据えて実態把握と目標設定を行い、
「話す」活動の
実践を積み重ねていくことが、卒業後に必要となる「伝える力」を育てていくことにつながる
ことが分かった。作成した「卒業後の予想される社会生活で伝える力が必要となる場面」、「実
態把握表」等、活用できる資料の提案もできたと考える。
(2)今後の課題
作成した「実態把握表」については、
「伝える力」に着目した指導に取り組みながら、項目な
どを検討・改善していきたい。また、小学部から高等部までの段階を追った系統的な指導がで
きるように、授業で取り上げる題材を整理していきたい。具体的には、表4に示す題材例につ
いて、図7のような形でまとめたいと考えている。
表4
「話す」活動の題材例
●自己紹介
●経験したことについて
●行事(校外学習・宿泊学習・修学旅行等)
●買物学習
●絵本・本(物語、説明文等)・雑誌・新聞
●テーマを決めて、自分の思いや考えを話す
●電話の利用
●産業現場等における実習
*生活年齢の目安として、学部を表している。
(○
小 小学部
段階
①段階
②段階
中 中学部 ○
高 高等部)
○
③段階
「伝えたい」気持ち(思い) 「伝えたい」気持ちを育て、 「伝えたい」気持ちやスキ
の 芽 生 え を 大 切 に 育 て る ス キ ル を 身 に 付 け る こ と を ルを高め、自分から「伝え
ことをねらいとする段階
ねらいとする段階
よう」とする意識を定着さ
せることをねらいとする
段階
題材
●自己紹介
内容
・国語
・日常生活の指導
自分の名前、学年や学級
小
好きな物、好きなこと等 ○
趣味や特技、現在の
自分のこと ○
中○
高
カード等、書い
たものを手掛か
りに話す ○
小○
中
方法
教師の質問に
答える形で話
す○
小
場面
特定の人に話す ○
小
思ったり考えたりし
ていること等 ○
高
自分で内容を
考えて話す
中○
高
○
順番を考えな
がら話す ○
高
質問する
答える ○
高
みんなの前で話す ○
小○
中○
高
○ 学 習 者 が 答 え や す い 内 ○教師が「好きな食べ物」な ○ 学 習 者 が 、 紹 介 す る 内
容を教師が質問して、学
どの項目をカードで示し、
容、順番などを自分で考
習者が答える形で話す。
学習者が内容を考えて話
えて話す。
○書いたものを手掛かり
す。
○相手の質問に答える。
に話す。
●経験したこと
について
内容
・国語
・日常生活の指導
・生活単元学習
行った所、見たこと
経験したことなど
を一語文で話す ○
小
方法
教師の質問に
答える形で話
す○
小
場面
特定の人に話す ○
小
カード等を手掛
かりに話す
小○
中
○
○学習者が答えやすい内
容を教師が尋ね、学習者
が答える形で話す。
○書いた文章を手掛かり
に話す。
図7
気持ちや感想も
話す ○
中○
高
組み合わせて
二語文で話す
小○
中
○
自分で内容を
考えて話す
中○
高
○
みんなの前で話す ○
小○
中○
高
○経験したことや、そのとき
の気持ちについて、書いた
文章を手掛かりにして話
す。
「話す」活動の題材例の一部
- 123 -
時間の順番
に話す ○
高
質問する
答える ○
高
○経験したことや様子、そ
のときの気持ちについ
て、相手に伝わるように
詳しく話す。
○相手の質問に答える。
図7に示す題材例の一覧表については、各題材について授業実践を行い、「内容」、「方法」、
「場面」の系統性について検証していきたい。その際、高等部だけではなく、中学部や小学部
とも連携をとりながら実践することができれば、
「伝える力」を育てるための、早い時期からの
系統的・組織的な取組につないでいくことができると考える。
「個別の教育支援計画」では、表1に示した「実態把握表」を手掛かりにして実態を踏まえ、
図4のように長期的な見通しをもった目標を設定することができる。さらに、
「 個別の指導計画」
では、長期目標を踏まえて年間や学期の目標・具体的な指導内容・方法・手だてなどを設定す
る際、図7に示した題材の「内容」、「方法」、「場面」などを手掛かりにすることにより、段階
をおった目標の設定や指導を行うことができると考える。
今後も、卒業後の社会生活で必要となる「伝える力」を育てていくための指導について、実
践と検証を繰り返しながら取組を継続していきたい。
【参考文献】
文部科学省、『特別支援学校幼稚部教育要領
小学部・中学部学習指導要領・高等部学習指導要領』、平成 21 年
3月告示、2009
山口県教育委員会、『特別支援学校新着任者用研修テキスト』、2008
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所、『知的障害者の確かな就労を実現するための指導内容・方法に関す
る研究』、2008
全国知的障害養護学校長会編著、『コミュニケーション支援とバリアフリー』、ジアース教育新社、2005
全国知的障害養護学校長会編著、『特別支援教育の未来を拓く
指導事例Navi
知的障害教育Ⅲ
高等部編』、
ジアース教育新社、2007
大南英明・吉田昌義・石塚謙二、『障害のある子どものための国語
と―』、東洋館出版社、2006
大南英明編集代表、『くらしに役立つ
国語』、東洋館出版社、2007
- 124 -
―個別の指導計画による聞くこと・話すこ
表1 「伝える力」
(話す活動)の実態把握表
№1
伝えたい内容や気持ち(思い)がある
「伝える力」が
育つ段階
動作や表情で表す
自
ことが難しい段階
生徒の実態の段階
・伝える方法(スキル)
を習得する
動作や表情で表す
ことができる段階
伝えることができる
(実践力)
・伝わったことで満足する
・伝えることに対して自信をもつ
・自分から伝えようとする意識が
定着する
Ⅰ段階
Ⅱ段階
Ⅲ段階
Ⅳ段階
・自分からは話さない。
・促されても話さない。
・自分から伝えようとする気持ち
がうかがえない。
・自分からは話さない。
・促されれば話す。
・動作や表情から、伝えようとする
気持ちがうかがえる。
・自分から話す。
・話し方や表現は不十分であるが
相手に伝えようとする気持ちがう
かがえる。
・伝える相手を意識して、自分から
適切な表現で詳しく話す。
実態
◆あいさつをする
「おはようございます」
「こんにちは」
「こんばんは」
記録
「お先に失礼します」等
・あいさつをされても、返さない。
・あいさつをされると、動きを止めたり
・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
相手を見たりするが、自分からはあいさ
かったりするが、自分からあいさつをす
であいさつをする。
つをしない。
る。
◆返事をする
「はい」
「いいえ」等
・返事をしない。
伝える場面や内容
実態
・動きを止めたり相手を見たりするが、 ・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
自分からは返事をしない。
かったりするが、自分から返事をする。 で返事をする。
・伝えたい相手の顔を見たり、相手の所
・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
へ近付いたりするが、自分からは言わな
かったりするが、自分から言う。
で言う。
・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
記録
実態
◆お願いやお礼を言う
「お願いします」
「お世話になりました」
「ありがとうござい
記録
ました」等
・自分からは言わない。
◆問掛けに対して答える
「やりたい」
「やりたくない」
「いやだ」等
・問い掛けられても、答えない。
実態
い。
・問い掛けられると動きを止めたり相手
を見たりするが、自分からは答えない。 かったりするが、自分から答える。
記録
で答える。
№2
生徒の実態の段階
伝える場面や内容
◆報告をする
「できました」
「終わりました」等
実態
Ⅰ段階
Ⅱ段階
Ⅲ段階
Ⅳ段階
・自分からは話さない。
・促されても話さない。
・自分から伝えようとする気持ち
がうかがえない。
・自分からは話さない。
・促されれば話す。
・動作や表情から、伝えようとする
気持ちがうかがえる。
・自分から話す。
・話し方や表現は不十分であるが
相手に伝えようとする気持ちがう
かがえる。
・伝える相手を意識して、自分から
適切な表現で詳しく話す。
・報告が必要な場面でも、話さない。
・報告をする相手の所へ行こうとする
・報告をする相手の所へ自分から行く。 ・報告をする相手の所へ自分から行く。
が、途中で止まったり部屋へ入れなかっ
・相手を見ていなかったり、声が小さ
たりする。
かったりするが、自分から報告をする。 で話す。
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
・報告の内容を相手に伝える。
・報告をする相手の所へ行くが、自分か
らは話さない。
記録
◆要求をする
「∼がしたい」
「∼が欲しい」等
実態
・自分からは話さない。
・問い掛けられると、動きを止めたり相
・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
手を見たりするが、自分からは話さな
かったりするが、自分から話す。
で話す。
い。
・やりたいことや欲しいものを、自分か
・要求の内容を、自分から相手に伝わる
ら一語文や簡単な二語文で話す。
ように詳しく話す。
・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
記録
◆質問をする
実態
・自分からは話さない。
・分からないままじっと動かなかった
り、質問をしたい相手を見たりするが、 かったりするが、自分から話す。
で話す。
自分からは話さない。
・分からなくて困っていることを、自分
・分からなくて困っていることを、自分
から一語文や簡単な二語文で話す。
から相手に伝わるように詳しく話す。
記録
◆支援を求める
「手伝ってください」
「困っています」
「できません」
「教えてください」等
実態
・自分からは話さない。
・困ったままの状態で動かなかったり、 ・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
助けてほしい相手を見たりするが、自分
かったりするが、自分から話す。
で話す。
からは話さない。
・支援してほしい内容を、自分から一語
・支援してほしい内容を、自分から相手
・
「何か助けてほしいですか?」と尋ね
文や簡単な二語文で話す。
に伝わるように詳しく話す。
られれば、
「はい」と答える。
記録
№3
生徒の実態の段階
伝える場面や内容
◆状況を説明する
経験したこと
見たこと
聞いたこと等
実態
Ⅰ段階
Ⅱ段階
Ⅲ段階
Ⅳ段階
・自分からは話さない。
・促されても話さない。
・自分から伝えようとする気持ち
がうかがえない。
・自分からは話さない。
・促されれば話す。
・動作や表情から、伝えようとする
気持ちがうかがえる。
・自分から話す。
・話し方や表現は不十分であるが
相手に伝えようとする気持ちがう
かがえる。
・伝える相手を意識して、自分から
適切な表現で詳しく話す。
・自分からは話さない。
・伝えたい相手を見るが、自分から行動
・相手を見ていなかったり、声が小さ
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
を起こしたり話したりしない。
かったりするが、自分から話す。
で話す。
・
「何をしましたか?」など、尋ねられ
・経験したことや見聞きしたことを、自
・経験したことや見聞きしたことを、自
たことについては答える。
分から一語文や簡単な二語文で話す。
分から相手に伝わるように詳しく話す。
記録
◆伝言をする
実態
・伝言を頼まれても、伝える相手の所へ
・伝言をする相手の所へ行こうとする
・伝言をする相手の所へ自分から行く。 ・伝言をする相手の所へ自分から行く。
行こうとしない。
が、途中で止まったり部屋へ入れなかっ
・相手を見ていなかったり、声が小さ
たりする。
かったりするが、大まかな伝言の内容を
で話す。
・伝言をする相手の所へ行くが、自分か
自分から伝える。
・要件を落とさずに、自分から相手に正
・相手を見て、相手に伝わる声の大きさ
しく伝える。
らは話さない。
記録
◆会話を楽しむ
実態
・周囲が楽しそうに話をしていても、関 ・周囲の会話を聞いて雰囲気を楽しんで
・周囲の会話を聞いて、一方的ではある
・相手の状況に応じて、タイミングよく
心がない様子で黙っている。
が、自分から周囲の人に話し掛ける。
自分から話し掛ける。
いる様子がうかがえるが、自分からは話
の輪に入らない。
・相手の言葉を聞いて、適切な受け答え
をする。
記録
◆電話をかける
実態
・連絡が必要な場合でも、自分から電話
・連絡が必要な場合でも、自分から電話
・緊張したり、うまく話せなかったりす
・必要な場合は自分から電話をかけ、要
をかけない。
をかけない。
ることはあるが、必要な場合は自分から
件を落とさずに話す。
・促されれば、電話をかける。
電話をかける。
・相手が聞き取りやすい声の大きさや速
さで話す。
記録
◆丁寧な言葉遣いで話す
実態
記録
・誰に対しても、友達に話す時の言葉遣
・指摘されれば、丁寧な言葉遣いに言い
・言い間違いはあるが、自分から丁寧な
・相手に応じて丁寧な言葉遣いで話す。
いで話す。乱暴な言葉遣いをする。
直す。
言葉で話そうとする。
・敬語を正しく使って話す。
№4
◆語いや表現力に関する
実態
生活する
働く
伝える力」
◆発音や聞取りに関する
実態
(配慮が必要な事項等)
卒業後の
予想される社会生活
◆「産業現場等における
実習」の評価より
楽しむ
移動する
◆「個別の指導計画」
、
「個別の教育支援計画」
より
育てたい「伝える力」
◆保護者の願い
◆担任の気付き