『こころの子育てインターねっと関西』通巻172号(2016年5月20日) 世界の子育て紹介 リッチモンドだより 第37回 移 民 の 国 の 学 校 事 情 日本語プレイグループ「宝島」 須賀 孝子 人口の5割は中国人 7年前に長男が小学校に入学した頃、クラスメートの ほとんどは白人で、アジア人は4分の1程度、中国人は その中でも一人か二人ほどでした。しかし、7年後の現 在、次男のクラス23名のうち13人は中国人、その他の アジア人やミックスが6名、白人に至っては4名しかい ません。リッチモンドは英語でRichmondと書きますが、 「Rich=金持ち」という言を担ぐためか、中国人はこの 地名を好みます。カナダのあちこちにRichとつく地名が ありますが、必ずそこには中国人口が密集しています。 私たちの住むリッチモンドの西側は比較的白人が多く 住むと言われていますが、次々に建設されていく豪邸の ほとんどに中国人が引っ越してきています。中国人が多 く住むリッチモンドの東側の学校では、クラスのほとん どを中国人が占め、その他の人種は1割前後という話を 聞きます。 現在リッチモンドの人口の5割は中国人で、3割が白 人、2割はその他の人種と言われています。世界のあち こちで起こっている中国の世界進出が、ここリッチモン ドでも確実に起こっています。それに伴い、「英語を話 そうともせず、新参者なのにでかい顔してる隣人とは付 き合いたくない」と言って、リッチモンドから引っ越し ていく白人もいます。 移民してくる子どもの実情 1997年の香港返還の前後には、香港の富裕層がどっ とカナダに移民してきました。そして2010年のバンク ーバーオリンピック前後にも、地価高騰を予想し、投資 目的でカナダの土地が次々と中国人に買われていきまし た。現在は中国の物価上昇、そして子どもの教育の為に カナダへ移民する中国人が後を絶ちません。友人の中国 人ママのほとんどは、「中国の小学校の先生達は厳しく、 1年生から宿題に2時間もかかり、遊ぶ時間なんてない のよ。子どもを伸び伸びと育てたいからカナダに来た の」と口を揃えて言います。教育の為に移民してくる子 ども達の多くは、就学年齢に達する頃にカナダへ来ます。 カナダでは小学校低学年のうちはまだまだ遊びを通して 勉強するため、子どもへのストレスも少なく、移民して 半年で片言の英語は話せるようになり、2年も過ぎる頃 にはほとんど不自由なく英語を話せるようになっていき ます。 一方で、中学・高校生になってから移民してくる場合 は、中国で良い大学に入る為、という理由が多いようで す。英語圏の国の高校を卒業すると、中国の一流大学入 学に有利になるのだそうです。カナダの学校では、英語 −9− を母国語としない生徒の為に、通常の授業に加え「ES L(English as Second Language)クラス」という授業 が設けられています。5つのレベルがあり、1から段々 と5へ上がっていきますが、レベル5へ上がるには少な くとも3−4年はかかると言われています。卒業するに はそれから3年かかります。主人の働く高校にもたくさ んの中国人の生徒がいますが、エリート志向の強い親達 が子どもをカナダに強制的に送る場合が多く、自分から 希望してカナダに来たわけではないので勉強にも熱が入 らず、英語も話せない為カナダ人の友人もできず、中国 人の友人と毎日中国語を話している、という子どもが多 いそうです。このような親ほど、片言の英語しか話せな い子どもをカナダの高校に送り、現地の子どもと同じ期 間で卒業することを強要する、と言います。実際はES Lレベルを5まで上げられず、卒業に必要な単位をもら えないまま学校から離れていく生徒が多いそうです。 それでも仲良く遊び、時に喧嘩して 教育予算削減が相次ぐカナダでは、受け入れ態勢が整 わないまま、アルファベットさえ知らない子ども達を 次々に送り込まれ、現場の先生達は悲鳴を上げています。 また、中国では特別な支援が必要な子ども達への対応が 非常に遅れており、学習障害や自閉症の子どもを障害児 教育の進んでいるカナダで育てたいという家族の移住も 多く、言葉の通じない障害児のサポートという、更に困 難な状況が生まれています。しかし、カナダにとっては 富裕層の移民者達が落とす固定資産税は必要不可欠です。 移民なしでは成り立たないこの国では、このような新し いニーズへの対策が急務となっています。 大人達がこのような問題を抱える中、子ども達はクラ スメートに中国人が増えた、などということは全く意に 介せず、日々彼らと仲良く遊び、時に喧嘩し、普通にそ れを受け入れて過ごしています。元々はアメリカ先住民 のものだったこのカナダ。考えてみればほとんど全ての 人が移民です。そう考えると、今の状況も歴史的に必然 的なことなのかもしれませんね。
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