リテールバンキングが モバイル時代に 生き残るための : チャネルの統合

Q&A
NO. 03
著者:エラーナ・バロン
(Elana Varon)
リテールバンキングが
モバイル時代に
生き残るための :
チャネルの統合
リテールバンクが今後も繁栄を続けるには、
モバイルアプリだけでは不十分であり、
すべてのチャネルにわたり、統合された
カスタマーエクスペリエンス
(顧客体験)が必要です。
そのためには大きな変革が求められます。
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銀行には、消費者が預金したり送金したりする場所以上
グレース・ボーマン
(Grace Bormann)
の存在になることが求められています。そうした旧式の
Banking Delivery Hub & Partner Manager。銀行サー
SAP のグローバル・セールス・オペレーションズ部門の
事業モデルはすでに、
ネットバンク、モバイル支払サービ
ビスを専門とし、IT 業界で 20 年以上の経験があります。
のノンバンク金融取引事業者からの脅威にさらされて
(Jesper Behr)
ジェスパー・バイア
ス、PayPal や Google Wallet、さらには Wal-Mart など
います。
とはいえ、
これらの競合相手にはない、銀行ならでは特長もあります。あらゆるチャネ
ルの統合力です。以下のインタビューでは、
リテールバンキング分野のエキスパートで
SAP の業種別ソリューション・マネジメント・バンキング
部門のコンサルタント。チャネルからバックオフィスまで、
リテールバンキングを巡る幅広い議論に注力しています。
銀行業界に関して 20 年以上の経験があります。
ある SAP のグレース・ボーマン
(Grace Bormann)氏とジェスパー・バイア
(Jesper
Behr)氏に IDC Financial Insights 社のリサーチディレクターであるマルク・デカス
トロ(Marc DeCastro)氏も加わっていただき、リテールバンク全体が今直面してい
マルク・デカストロ(Marc DeCastro)
的な体験へと統合し、銀行と顧客の双方に高い価値をもたらす戦略とは ?
を担当するリサーチディレクター。
る課題への対策ついて議論します。オンライン、モバイル、対面などのチャネルを総合
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Q&A:リテールバンキングがモバイル時代に生き残るための :チャネルの統合 著者:エラーナ・バロン
IDC Financial Insights 社でコンシューマーバンキング
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NO. 03
SAP Center for Business Insight:銀行
18 歳から 29 歳までの
モバイルバンキング
利用者
は自らを変革する必要があるという議論は
10 年以上も前から繰り返し耳にしています。現在の
状況には何か違いがあるのでしょうか?
18 歳から 29 歳までの
携帯電話利用者
グレース・ボーマン:ノンバンク金融取引事業者の脅威に直面し、業界全体に激
震が走っています。60 秒ごとに、21 万 9,000ドルが PayPal を通じて支払われ、
950 件以上の購入が eBay で発生し、100 件以上のモバイル取引が行われてい
ます。誰もがソーシャルメディアを通じて、個人取引を行えるようになっています。
これらすべてが銀行の関与しないところで発生しているのです。
一方で、銀行に関する考え方が従来とはまったく違う世代も登場しています。米
44%
国連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、18 歳から 29 歳までの世代はモ
バイルバンキング利用者の約 44 パーセントを占めるのに対し、この世代が携帯
電話の全利用者に占める割合は 22 パーセントにすぎません。リーマンショック以
前の銀行は、自分たちのビジネスプロセスには大きなアドバンテージがあると自
負していました。しかし、今の動向に銀行が対応していくためには、そのプロセス
22%
を大胆に変えなければなりません。これはコストがかかる上に難しい道のりです。
ジェスパー・バイア:従来の銀行プロセスは 30 年以上も経過した基幹システム
と深く結びついていますし、このようなシステムを開発した人々の多くが今や退職
期を迎えています。新たな法規制やチャネルが登場したとしても、
こうした基幹シ
ステムを変更するのは複雑で、膨大なコストがかかるため、誰も手を出そうとはし
ませんでした。ですから、世のトレンドに関係なく、
この問題はいつまで経っても解
消されずに残ってきたのです。
マルク・デカストロ:オンライン、
モバイル、
ソーシャルなど新しいチャネルが加わっ
ても、
その代わりに既存のチャネルがなくなるわけではありません。ファックスバン
キングだけは例外ですが、銀行の顧客対応サービスで廃止されたものはありま
せん。こうしたチャネルの大半は、成長しないにしても引き続き安定した利用が
見込まれています。コストを継続的にチェックしながら、この状況を今後どのよう
に管理していくかが大きな課題なのです。
米国連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、18 歳から 29 歳ま
銀行は何を変える必要があるのでしょうか ?
での世代はモバイルバンキング利用者の約 44 パーセントを占めるの
デカストロ:ベスト・オブ・ブリード
(最良の組み合わせ)のソリュー
トにすぎません。
に対し、
この世代が携帯電話の全利用者に占める割合は 22 パーセン
ションを導入してモバイルバンキングなどの市場ニーズに対応する
のは、銀行が得意とするところです。これは現在も機能します。しかし、ソリュー
ションを統合して、
どのチャネルでも同じカスタマーエクスペリエンスを提供する
という点では、大きく立ち遅れています。このインフラに手を入れなければ、顧客
に悪影響が及ぶのは目に見えています。
バイア:とはいえ、銀行によって出発点はそれぞれ異なります。それぞれの銀行が
業務環境のサイロを打破する方法について、
長期的に議論していく必要があります。
まずは、ほとんどの銀行が抱えているレガシーランドスケープを直視することが出
発点となります。次のステップは、
「では今後、
どのようなビジネス戦略が必要か ?」
を問うことです。
たとえば、SAP が共同作業を行ったある銀行は、顧客志向をあらゆる改革の根
本に据え、カスタマーエクスペリエンスを改善しました。別の銀行は、コストを削
“
誰もがソーシャルメディアを通じて個人取引を行え
るようになっています。これらすべてが銀行と関係な
いところで起きています。
”
減して業務の効率性を高めるという、別の方向性に舵を切りました。
最終的には多かれ少なかれ同様のインフラを導入することになるとはいえ、こう
した変革に取り組む上で欠かせない観点が 1 つあります。それは、
「コスト的に問
題はないのか」
、あるいは、
「銀行の増収を阻むような市場問題は存在していない
か」といった問題意識です。CEO は、この点に関するビジョンを明確に示す必要
があります。これがすべての始まりです。
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出発点になる戦略を立てたとします。それを
支店は変革の流れにどう組み込まれるので
しょうか ? 業界筋では、もはや支店は死に体
どのように実現すればよいのでしょうか?
バイア:新しいビジネス戦略を立てるときには、その推進力となる IT 環境が整っ
ているかを見極める必要があります。SAP が銀行とお仕事をする中でも、多少の
違いはあるにせよ、基本的に同じ目的のために数多くのプロセスやシステムが存
在する例は珍しくありません。たとえば、
クレジットカード口座の開設は定期預金
口座の開設とは別個に管理されていますが、
どちらもコアプロセスは同じです。も
だという意見も根強いようですが、それでも多くの銀
行は支店網への投資を続けています。
ボーマン:支店は今後、今よりもパーソナル色を強めた顧客対応にシフトしてい
くでしょう。
し銀行が、さまざまなシナリオに適用できる少数の標準プロセスを開発できたと
すれば、現在のような複雑さや費用に煩わされることなく、商品やサービスの改良、
新規開発をもっと柔軟に行えるようになります。
もちろん、何もかも一度に実現できるわけではありません。変革のロードマップ全
体と、短期的な価値を生むプロジェクトをうまく調整する必要があります。銀行幹
部によっては、銀行にとって最大の短期的な課題は、顧客の全体像を把握できて
いないことだと言うかもしれません。まったく新しいタイプのサービスで、変革の
取り組みを始めたいと考える幹部もいるでしょう。ですからビジネスリーダーは、
バイア:支店の店頭には ATM がずらりと並びますが、奥の接客コーナーではコン
サルティングサービスの充実を図ることになります。銀行を利用する顧客の購入
パターンを調べれば、たとえば住宅ローン融資などを従来どおり支店で取り扱う
必然性があるかどうかなど、
すぐに難しい判断を迫られることになるでしょう。
デカストロ:支店は時間をかけて削減していくか、残すにしても、それほど複雑な
業務は行わない簡易支店に変わっていくでしょう。複雑な取引が必要な場合、顧
客はその地域を統括する支社に出向くことになると思います。その種の取引が必
最初に変革の対象とすべき領域を決断しなければなりません。
要になる機会は頻繁には生じないでしょうから、今よりも多少遠くへ足を運ぶこと
ボーマン:銀行が市場に対応していくためには柔軟性が重要です。たとえば、
る可能性もあります。簡易支店の取扱範囲を超える取引は、
ごく一部の総合的な
Standard Bank of South Africa は、もともと銀行が非常に少なく、他行も続々
と進出しつつあった地域でシェアを伸ばすために、離れた場所に住む人々が携帯
電話で口座を開設・管理できるモバイルソリューションを開発しました。また、PC
とインターネット接続さえあれば、田園地帯の雑貨店のような場所でも銀行業務
を展開できる仕組みを確立しました。顧客は雑貨店に足を運べば、少額の融資を
受けることができます。
になっても問題ないでしょう。銀行の支店がハブ & スポーク型モデルに再編され
地域銀行業務センターが担当するという形です。
ボーマン:そして、わざわざ銀行を訪れる顧客は、過去の取引履歴をすべて把握
している担当者に対応してもらいたいと考えるようになるでしょう。たとえば、
「取引
量の多いお得意様が融資を希望している場合は、通常よりも 0.25 パーセント低
い金利で融資を即決する」といった優遇を提供できれば、大いに喜ばれるでしょう。
バイア:Standard Bank がこうしたサービスを実現するためには、柔軟なバック
とはいえ、ほとんどの銀行は依然として、このようにパーソナル化したサービスを
できません。
トバンキングで送金した結果を、午後になっても営業店端末で把握できない銀行
エンドインフラが必要でした。30 年も前のシステムでは、そうした柔軟性は提供
拡充できるだけの柔軟性は備えていません。現在のところ、午前中にインターネッ
がほとんどですから。
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リーマンショック以降、顧客は銀行をあまり
信用していません。銀行が信頼を取り戻すに
は、
どうすればよいのでしょう?
デカストロ:その点は、顧客が金融機関を信用しているかどうかという問題では
ないと思います。むしろ、銀行業界に対する社会の評価が否定的になっているこ
とと関係しています。米国政府に救済してもらった(実際には救済を受け入れる
よう強制されたのですが)業界に対する米国民の意識を変えるのは、たとえ当時
としては適切な措置であり、注入された公的資金の大部分が返済済みであるとし
ても、なかなか難しいことです。規制の厳しい業界がこうした立場に置かれるの
は珍しいことではありませんが、結局のところ、預金や融資に関する人々のニーズ
を満たせる場所は銀行以外にどれほどあるでしょうか。選択肢は多くありません。
バイア:
「信用を築き上げるには長い時間がかかるが、失うのは一瞬だ」と言われ
ます。銀行が信用を取り戻すためには、顧客に対する価値提案に一から取り組み
直し、その姿勢を組織全体に徹底させる必要があります。顧客が銀行をどれだけ
信用してくれるかは、銀行がどのような価値を提案するかにかかっているのです。
ただし、預金の利率の高さや顧客サービスの待ち時間の少なさだけを基準にし
て銀行を選ぶ顧客からすれば、絶対的な信用はそれほど重要ではないのかもし
れません。銀行を利用する顧客も、
リーマンショックの直後ほど不安に怯えている
わけではありません。実際、利率が高ければ無名の小さな銀行にでも口座を開設
する人々が増えています。
エラーナ・バロン
(Elana Varon)
テクノロジー、
リーダーシップ、ビジネス変革を専門とする
フリーランスのライター・編集者。
今後もご期待ください。
銀行が消費者市場の変化に対応し続けるために今、何が求められているかの
詳細については、調査レポート『消費者から愛される銀行となるために』を
ご覧ください。
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部門の経営幹部 /ビジネスリーダーが直面する課題について、その解決に役立つ新たな視点・
考え方を調査に基づき発見・構築する活動を担当しています。
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