イギリスにおける非営利事業体税制

イ
ギ
目
リ
ス
平成 19 年 12 月 10 日
企業税制研究所
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
Ⅰ
チャリティ及びチャリティ法の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
Ⅱ
チャリティの形態
1. チャリティの現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2. チャリティの形態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
8
チャリティ委員会
1. チャリティ委員会による公益認定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2. チャリティ委員会の規制監督権限・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3. チャリティの情報開示制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4. 英国歳入関税庁との関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
12
13
14
Ⅲ
Ⅳ
チャリティの税制
1. チャリティに関する税制改正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
2. 寄付金税制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
3. チャリティの目的外事業への課税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
4. チャリティの理事等への報酬の支払い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
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はじめに
イギリスにおけるチャリティの歴史は大変古く、チャリティに関する最初の法律である公益ユース法は、1601 年に制定され
ている。
また、我が国の公益認定等委員会のモデルとなったチャリティ委員会は、1853 年に発足し、約 150 年の歴史を有する。
..
近年のチャリティ制度改革は、2000 年のチャリティ税制 改正から始まった。しかも、この税制改正においては、財務省自ら
が寄付文化の構築推進のための中心的な役割を果たし、寄付行為に対する税制上の優遇措置を自ら社会に宣伝して、その普及
に努めている 1 。税制改正が、チャリティの現代化を志向したチャリティ法改正に先行して行われたという点は、我が国の公益
法人制度改革(公益法人関連三法が先に成立し、その後に公益法人等に関する税制の議論が行われている。)と大きく異なる
点である。
チャリティの定義については、本報告のⅢ 1.において詳述するが、本報告においては、チャリティ委員会から認定を受け
てイギリスにおいて公益活動を行う団体を「チャリティ」と呼ぶこととする。
また、公益活動を行う全ての事業体の総称(チャリティ委員会の認定を受けていない団体も含む。)として、
「ボランタリー ・
セクター」(ボランタリー部門又は分野)と呼ぶこととする。
本報告においては、チャリティの歴史、形態及び公益性を認定するチャリティ委員会の実態等を踏まえた上で、英国歳入関
税庁(HMRC:Her Majesty Revenue & Customs)とチャリティ委員会のホームページに掲載されているガイドライン等から租
税優遇措置について関連項目を抜粋して紹介することとする。
なお、本報告は、当研究所における研究調査目的のために作成したものであり、訳文中に誤解を招く表現や誤りがあった場
合には、原文である英文の内容に従うものとする。
1
財団法人公益法人協会『英国チャリティ調査ミッション報告書
2004 年3月』、17 頁
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Ⅰ
チャリティ及びチャリティ法の歴史
イギリスにおけるチャリティの法制と税制を理解するに当たっては、まず、その歴史を知っておく必要がある 2 。
冒頭にも述べたとおり、イギリスにおけるチャリティの歴史は、大変古い。中世においては、貴族や教会による貧民救済等
の公益活動が行われていたとされている。1601 年には、チャリティに関する最も古い法律として、公益ユース法が成立した。
この法律は、公益信託を一定の条件の下に認めたものであり、以後この公益信託は、チャリティの一形態としてさかんに利用
されるようになった。しかし、19 世紀の初め頃から、チャリティたる公益信託の受託者の義務違反や受託者の失踪などの問題
が起こるようになり、チャリティの実態把握と規制が必要となった。このため、1853 年に公益信託法が制定され、これらの諸
問題を解決するための組織として後述するチャリティ委員会が設置されることとなった。
その後、第二次世界大戦により、政府の社会福祉予算の削減を余儀なくされたため、改めて民間の公益活動の推進を図るべ
く、1960 年にチャリティに関する固有の法律としてチャリティ法が制定された。この法律により、チャリティの法的形態とし
て、公益信託以外にも、人格のない社団等や会社法により設立される公益目的の法人等が認められるようになり、さらに行政
上の監督をチャリティ委員会に一元化すること等が定められた。
1979 年以後のサッチャー政権の下では、ボランタリー・セクターが政府と契約を結び、行政に代わって市民にサービスを提
供していくこととなった。
この結果、ボランタリー・セクターの社会的役割は増大したが、一方で、ボランタリー・セクターが資金を提供する行政の
強い監督下に置かれることとなり、その自主性が問題となった。
1997 年以後のブレア政権の下で、政府はボランタリー・セクターとの間でボランタリー・セクターの役割と独立性を積極的
に評価する合意文書である「コンパクト」を締結した。この文書では、政府は、ボランタリー・セクターなしには福祉・失業
対策・家族支援等の施策が実施できないとして、政府とボランタリー・セクターとの相互補完関係を明らかにし、ボランタリ
2
イギリスのボランタリー・セクターの歴史については、以下を参考とした。
財団法人公益法人協会・前掲注 1、2~4・17・18 頁、
財団法人自治体国際化協会「英国におけるボランタリー・セクター -自治体との新たな連携へ向けて-」2002 年 5 月、4・5 頁
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ー・セクターに対する長期的な資金援助、ボランタリー・セクターや利害関係者に対する情報公開などを約束した。
ブレア政権は、2000 年にチャリティに関する税制改正を実施(詳細はⅣ 1.)したのである。この改正時には、次の 5 つの
施策が同時に実施されている。
① チャリティに対する寄付文化の醸成のために、 ”The Giving Campaign”の精神に基づいて制度改革を行うこと
② 改正にあたって、チャリティ関係者の意見を幅広く聴衆しその要望を反映すること
③ 税制優遇を受けるための手続の簡素化を図り、免税対象となる金額について諸手当を整備すること
④ 政府は、民間の行う寄付に対し一定比率の支援金を拠出するなど、政府自身がこの寄付増進運動に係わっている姿勢を
明確にすること
⑤ 財務省が自らこの運動の先頭に立って、新制度の普及・徹底に努め、チャリティへの寄付の増進を呼びかけること
税制改正の後、数度の改正を経て、2006 年 11 月に現行のチャリティ法が制定された。税制改正の後に、法制が改正されて
いる点で、我が国とは、全く逆である。
新チャリティ法における改正点は、下記のとおりである 3 。
① 公益目的の再定義
② チャリティ委員会の見直し
③ 小規模チャリティの登録への最低収入限度の引き上げ(1,000 ポンドから 5,000 ポンドへの引き上げ)
④ チャリティ委員会に対する不服裁判所の新設
⑤ 公益目的の法人(CIO:Charitable Incorporated Organisation) の創設
公益性の判定については、2008 年以降にその実施が計画されており、2007 年度にチャリティ委員会によるガイダンスの作成
が行われ、ガイダンスの内容が確定し、それが一般に周知されるまでは、新チャリティ法に則った公益性判定作業は行われな
い。
また、2008 年に予定されているチャリティ委員会の決定に対する不服申立て先となるチャリティ裁定所(Charity
Tribunal)が発足するまで、新法による公益性判定は実施されないこととなっている 4 。
3
財団法人公益法人協会『英国におけるチャリティ制度に関する調査研究報告書 平成 19 年6月』6~9頁
改正前は、判例上成立した四つの基準(貧困救済、教育普及、宗教振興、その他公益活動と認められるもの)に照らして公益性を判断していた。
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Ⅱ
チャリティの形態
1.チャリティの現状
チャリティ委員会に登録されたイギリスのチャリティは、支店等となるもの 5 を含めると約 19 万団体である。これらのチャ
リティの収入総額は、434 億ポンド 6 にものぼり、イギリスの GDP の 5%を占めるといわれる 7 。収入規模からすれば年収 10 万
ポンド 8 以下の収入のチャリティが全体の 85%超を占めるものの、チャリティの総収入の半分近くは、年収 1,000 万ポンド 9 超
の大規模チャリティ(全体の 0.39%) 10 が稼得している。チャリティには、60 万人超の有償雇用者が 11 存在している。
【チャリティの年収区分別の登録チャリティ/収入比率】
( チャリティ委員会ホームページ Charity Commission Annual Report 2006-07 より作成)
4
5
6
7
8
9
10
11
チャリティの年収区分
登録チャリティ数
£0-1,000
£1,001-10,000
£10,001-100,000
£100,001-250,000
£250,001-100万
£100万-500万
£500万-1,000万
£1,000万以上
合計
35,815
59,566
48,918
10,717
8,635
3,911
776
666
169,004
登録チャリティ数 チャリティの
収入別比率
収入比率
21.23%
0.02%
35.31%
0.63%
28.95%
3.86%
6.28%
3.97%
5.11%
9.79%
2.28%
19.42%
0.45%
12.70%
0.39%
49.61%
100%
100%
財団法人公益法人協会 中島智人「英国新チャリティ法とチャリティの公益性判定」『公益法人』 2007 年 3 月、3・4頁
上記の表には、支店等 21,354 団体を含まない。
チャリティ委員会ホームページ Latest Quarterly Facts & Figures and Tables for 2007、1 ポンドを 235 円で換算すると、約 10 兆円。
財団法人公益法人協会主催「日英シンポジウム」2007 年 10 月 16 日開催時配付資料 4 頁
1 ポンドを 235 円で換算すると、約 2,350 万円。
1 ポンドを 235 円で換算すると、約 23 億 5 千万円。
チャリティ委員会ホームページ Latest Quarterly Facts & Figures and Tables for 2007
チャリティ委員会ホームページ Charity Commission Annual Report 2006-07
なお、2007 年 10 月 16 日に開催された財団法人公益法人協会主催の「日英シンポジウム」における英国チャリティ委員会デイム・スージー・
レザー委員長の発言によれば、チャリティの理事等は原則無報酬であるケースが比較的多いとのこと。
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【 ボランタリー・セクターの収入、支出及び収入源の内訳 】
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イギリスのボランタリー・セクタ-の収入の内訳は、事業
収入と寄付収入がほぼ同じ割合である。収入源としては、個
人と公的機関からの収入が約 75%を占めており、民間企業か
らの収入は 1%に過ぎない。
また、支出のうち運営・事務経費はわずか 7%に過ぎない。
(出典)諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究実行委員会『諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究』
文部科学省委託調査、平成 19 年3月、97 頁
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【 最もポピュラーな(人気のある)チャリティ】
以下の表は、チャリティエイド財団が発表した寄付やチャリティショップなどの収入が多いチャリティの
リストである。
*英国がん研究所の収入 306 百万ポンドを、1 ポンドを 235 円で換算すると、約 720 億円。
(出典)諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究実行委員会『諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究』
文部科学省委託調査、平成 19 年3月、100 頁
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2.チャリティの形態
(1)チャリティ登録団体
チャリティに登録できるチャリティの法形式としては、1)信託、2)保証有限会社(Company Limited Guarantee)、3)
産業共済組合(Industrial Provident society)、4)勅許状(Royal charter)により設立される団体(大学や博物館等)、
5)人格のない社団等、6)チャリティ法人などがある。登録の際には、信託証書、定款等の提出が必要となる。
公益法人協会が 2003 年8月にチャリティ委員会を訪問した際の聞取り調査によると、新規登録割合は、おおよそ会社形
式が 50%、信託形式が 30%、権利能力なき団体が 20%程度ということである 12 。
以下に、上記 2)保証有限会社及び 6)チャリティ法人(新チャリティ法人によって新たに認められる法人)について紹
介することとする。
① 保証有限会社
保証有限会社となるための主な要件は、下記のとおりである 13 。
● 会社の定款に定める目的が、商業・芸術・科学・教育・宗教・慈善及びこれらの目的に関連する活動を促進する
こと
● 構成員に対して配当の支払いを禁止すること
● 清算の際にその全ての資産を同様の目的又は慈善目的を遂行する他の団体に移転させる規定があること、等
② チャリティ法人(CIO=Charitable Incorporated Organisation)
2006 年に成立したチャリティ法により、新たにチャリティ法人が認められることになった。上記の保証有限会社は、
会社法に準拠した法人であるため、チャリティとして利用した場合には、チャリティ法の規制に加え、会社法の規制も
受けること、また、会社である以上、営利を目的とした機関構造であるため、チャリティ目的に必ずしも適合したもの
ではないこと等の問題があり 14 、新たにチャリティ法人が創設されることとなった。チャリティ法人の構成員は有限責
12
13
14
財団法人公益法人協会・前掲注3、10 頁
Companies Act2006 s62
チャリティ委員会ホームページ Charitable Incorporated Organisation(CIO)What is CIO and why is it being introduced ? , Companies act 2006 s69 A/B
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任であり、社団又は財団の形態が認められている 15 。
(2)免除チャリティ(excepted charities)・除外チャリティ(exempt charities)
① 免除チャリティ(excepted charities)
免除チャリティとは、小規模チャリティ(年間収入が 5,000 ポンドに満たない 16 、永続的な基本財産を有しない、土 地
を有しない等の一定の要件を満たすチャリティ)、登録礼拝所、省令・規則によって登録が免除されている宗教関連団体、
ボーイスカウトやガールスカウト関連団体、1988 年教育改革法に基づくボランタリースクール等である。
なお、この小規模チャリティや免除チャリティは、登録義務が免除されている(任意登録は認められている。)だけで、
チャリティ法が適用される 17 。
② 除外チャリティ(exempt charities)
除外チャリティとは、チャリティ委員会の登録制度の範囲外にあるチャリティである。1993 年チャリティ法附則2に
定められた大学、博物館、美術館、共済組合など(具体的にはオックスフォード大学、ケンブリッジ大学などの大学、
大英博物館、王立植物園など)である。これらは、他の法律の下で規制を受け、チャリティ委員会への登録義務はない 18 。
なお、チャリティ委員会に登録していないチャリティの税制優遇については、 英国歳入関税庁: HMRC に直接申請すれ
ば認められる 19 。
15
16
17
18
19
財団法人公益法人協会・前掲注3、9頁、Companies act 2006 s69 A/B
1 ポンドを 235 円で換算すると、約 118 万円。
財団法人公益法人協会・前掲注3、11・58~60 頁
財団法人公益法人協会・前掲注3、11・58~60 頁
財団法人公益法人協会・前掲注3、9頁
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Ⅲ
チャリティ委員会
我が国における内閣府の公益認定等委員会のモデルとなったチャリティ委員会は、民間公益活動を担うチャリティの登録・監
督・指導・支援機関としてイギリス(イングランドとウェールズ)のチャリティを一元的に管理する 20 独立した委員会である。
内務大臣から任命される最低3名、最大5名の委員によって構成されている。チャリティ委員会の主な業務は、チャリティの
登録業務、事後チェック等によりチャリティの悪用を阻止する、チャリティ法に基づき問題ある受託者を更迭する等、多岐に
亘っている。
1.チャリティ員会による公益認定
チャリティとしてチャリティ委員会の登録を受けるためには、各団体が登録申請書及び定款等をチャリティ委員会に提出
し、その審査を受ける必要がある(チャリティとしてチャリティ委員会に登録できる法形式については、Ⅱ 2.チャリティの
形態を参照)。
チャリティ委員会の審査のポイントは、その団体が公益性を有するか否かという点と、チャリティたる目的を有している
か否かという点である。これらの定義については、チャリティ委員会のホームページに公益性の意義とチャリティの目的が
掲載されているため、その箇所を下記に抜粋して翻訳することとする。
(1)「公益性」(public benefit)の意義
「公益性」については、原則として、以下の 4 点に従って判断することとされている 21 。
●
●
●
●
20
21
チャリティの収益は、明白に認識されるものであること
チャリティの収益は、チャリティの目的のために制限される場合を除いて、社会全体のものであること
恵まれない人たちもその恩恵を受けられること
チャリティが特定の者に与えるいかなる私益も付随的なものでなければならないこと(チャリティは、その私益が
財団法人公益法人協会 2007 年・前掲注 3、10 頁より記載
チャリティ委員会ホームページ C5 What are the principle of public benefit?
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直接的にチャリティの目的達成に貢献する場合又はこれらの目的達成のために付随する場合には、私益を提供すること
ができる。私益よりも公益が優先されなければならない。)
(2)チャリティの目的
新チャリティ法では、チャリティとして認められる目的として、次の 13 項目が列挙されている 22 。
① 貧困の防止・救済
② 教育の振興
③ 宗教の普及
④ 健康の増進、救命の増進
⑤ 市民権又は地域開発の振興
⑥ 芸術、文化、文化遺産又は科学の振興
⑦ アマチュアスポーツの振興
⑧ 人権向上、紛争の解決、融和の促進、宗教的・人種的な調和又は平等・多様性の促進
⑨ 環境の保護及び改善
⑩ 青少年、高齢者、病人、身体障害者又は財政的困窮者その他社会的な弱者に対する救済
⑪ 動物愛護の推進
⑫ 国軍の効率、警察、消防、救難サービス又は救急サービス効率の向上
⑬ その他法律上認められる目的(既存の法律等で認められた目的、その他上記目的と同等の目的を包含する)
法律上は、上記 13 項目の限定列挙であるが、具体的に内容を定めた 12 項目以外に「その他法律上認められる目的」
を規定し、チャリティの目的について、判例や過去のチャリティ委員会の決定なども含めて柔軟に検討できるようにな
っている 23 。
22
23
Charities Act 2006 s2 Meaning of “charitable purpose”
財団法人公益法人協会・公益法人・前掲注4、3~10 頁参照
なお、財団法人公益法人協会・前掲注 3、69 頁によ れば、公益法人協会のインタビューでは、
「宗教法人にかかわる団体の公益性判断がもっとも困
難である、との所見を得ている。それは、宗教に拘わる公益が不可視的であることに関連している。チャリティ委員会の最近の決定では、サイエン
トロジー教会について、その宗教団体としての公益性の推定を否定した上で、この団体の利益は基本的に私益を求めるものであり、公益性を持って
いないとチャリティとしての登録を却下している。」 とのことである。
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2.チャリティ委員会の規制監督権限
チャリティ法においては、規制監督権限がチャリティ委員会に付与されている。
(1) 情報開示要求に関わる権限
チャリティ委員会は、個別チャリティに関連する情報を保持している第三者に対して、文書や記録などの情報の開示を
命令によって要求することができる。開示要求の対象となるのは、裁判所や公的な登録機関などだけではなく、民間の機
関も含まれ、例えばチャリティ委員会が金融機関に対して、あるチャリティの銀行口座の取引記録についての開示要求を
行うことなどが可能である 24 。
(2) 審問(General power to institute inquiries)
チャリティ委員会は、評価プロセスを経て、公益資源の不正利用といった不正行為や不適切な管理運営の懸念が高まり、
チャリティが重大な危機にさらされると判断した場合には、審問を開始することができる。
審問手続きが開始された場合に、現状のままではチャリティの運営に悪影響を及ぼすと認められるとき又はチャリティ
の資産保全上必要があると認められるときには、除外チャリティ以外のチャリティに対して以下の措置をとることができ
る権限 25 を有している。
●
●
●
●
●
受託者、代理人(agents)、管理職又は従業員を停職にする権限
新規又は追加の受託者を任命する権限
資産を公的管財人に預託する権限
チャリティの管理運営上必要な金銭の支払いをチャリティ委員会の承認なしに行うことを制限する権限
チャリティの財産管理及び運営事務を行う管理者を選任する権限、等
..
さらに、チャリティの運営に悪影響を及ぼすと認められ、かつ 、チャリティの財産保全上必要があると認められる場
24
25
Charities Act 1993 s9 Power to call for documents and search records、財団法人公益法人協会・前掲注 3、41 頁
Charities Act 1993 s18 Power to act for protection of charities、財団法人公益法人協会・前掲注 3、42 頁
これらが適用された例として、チャリティ委員会がテロ未遂事件に関与した疑いのあるチャリティの口座を凍結した事例がある。
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合に、チャリティ委員会は、以下の措置をとる権限を有する 26 。
● チャリティの理事等を解任すること
● チャリティの運営体制を一新すること、等
3.
チャリティの情報開示制度
チャリティは、年間の収入金額に応じ、チャリティ委員会に対して以下の情報申告を行うこととされている 27 。
【2007 年に提出が必要とされている情報申告の一覧】
Reporting serious
Income in the financial period Basic Regular information
- Annual update (Part A) incidents declaration
ending in 2007
(2007年中終了事業年度の収入)
(基礎的情報申告)
(重大な事象の申告)
£10,000以下
●
(\2,350,000以下)
£10,000~£25,000
●
(\2,350,000 ~ \5,875,000)
£25,000~£500,000
●
●
(\5,875,000 ~ \117,500,000)
£500,000~£1,000,000
●
●
(\117,500,000 ~ \235,000,000)
£1,000,000超
●
●
(\235,000,000超)
(1 ポンドを 235 円で換算)
Financial information
(Part B)
(財務情報申告)
●
●
【 Summary Information Return(SIR:要約情報申告書)における開示内容】 28
26
27
Charities Act 1993 s18 Power to act for protection of charities
チャリティ委員会ホームページ Annual return 2007 –What do charities need to submit to the Charity commission this year?
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Summary Information
Return (Part C) (SIR)
(要約情報申告)
●
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年間の総収入金額が 100 万ポンド以上のチャリティについては、Summary Information Return(SIR:要約情報申告書)の
提出が求められており、2006 年におけるその申告書では、以下の項目についての情報開示が要求されている。その申告書
については、チャリティ委員会のホームページにおいて公開されている。
●
●
●
●
●
●
●
●
チャリティの目的
チャリティの受益者
中長期戦略及びその成功指標
年間の目標
年間収支分析、チャリティの 3 つの主な資金獲得活動の収支分析
期末の財務健全性
次年度の目標
チャリティのガバナンス(管理方法)
4. 英国歳入関税庁:HMRC との関係
英国歳入関税庁は、実務的にチャリティ委員会による認定を尊重し、認定に従って租税優遇措置を認め、除外又は免除チャ
リティに限り独自の審査認定手続を行うこととしている。
英国歳入関税庁とチャリティの間では、業務に関する覚書が締結され、合同戦略会議の年2回以上の開催、登録データやモ
ニター情報の交換・共有化、職員の派遣研修の実施(HMRC チャリティ資格認証チームの全員をチャリティ委員会へ6ヶ月間の
派遣、HMRC 担当ディレクター以下その他の職員の最低 1 週間以上の派遣)、租税監査官や法務担当者を交えた現場チームの定
期的会合などの他、必要に応じて随時個別案件の打合わせを行うなど、極めて密接な提携・協力関係が維持されているとのこ
とである 29 。
28
29
Annual Tax Return 2006
財団法人公益法人協会 2007 年・前掲注 3、26 頁
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Ⅳ
チャリティの税制
1.
チャリティに関する税制改正 30
イギリスでは、上述のとおり、チャリティに関する抜本的な税制改正が 2000 年4月から実施されている。
この税制改正によって寄付の手続きは簡素化されたが、それでも寄付に馴染みのない人にとっては複雑で煩雑であったため、
チャリティーズ・エイド財団(Charities Aid Foundation: CAF)のように寄付者に代わって手続きを行うことで寄付の仕組
みをバックアップするチャリティなども活躍している。チャリティ側は、寄付金税制緩和に向けて熱心にキャンペーンを行っ
た。キャンペーンの中で、チャリティは、これまでの仕組みで設けられていた所得控除を受ける限度額の引上げや還付を受け
る最低額の引下げを求めていたが、政府側は、チャリティ側の要求以上に、上限と下限そのものを無くしてしまうという大胆
な決定を下したとのことである。当時のブラウン蔵相は、この税制改正を発表した後に、チャリティに向かって、「さあ、こ
れからの資金集めは皆さんの腕前にかかっていますよ」と言った、という逸話があるということである 31 。
(1) 長期契約寄付(Covenanted Subscriptions、以下「コベナント」という。)の廃止
コベナントとは、寄付者がチャリティと長期間 32 にわたり一定金額を寄付することを法的に契約する制度である。チャ
リティにとっては、長期にわたって安定した寄付収入を得られることもあり、寄付者及びチャリティに税制上の優遇が与
えられていた。
しかしその反面、チャリティとの契約手続きが煩雑で、そのスキームも複雑であり、また、長期にわたり一定金額を寄
付する義務が負担になるというデメリットも大きかった。このため、税制上のメリットを維持したまま、後述するギフト・
エイドに統合される形で廃止された。
30
31
32
財団法人公益法人協会 2007 年・前掲注 3、17・18 頁
財団法人公益法人協会2004年・前掲注1、18頁、目加田説子『NGOセクターに関する6ヶ国比較研究』経済産業研究所、2004年3月、78・99頁
目加田氏の同著によれば、この話は、2003 年 11 月にロンドンで開催された日英 NGO 会議でチャリティーズ・エイド財団の政策ディレクターが
披露した話である。詳しくは、同会議の報告書『これからの日英 NGO の連携を考える—第 1 回日英 NGO 会議』 日英 NGO フォーラム運営委員
会を参照とのこと
期間は、7 年間、4年間、3年間と、その期間が短縮された経緯がある。財団法人公益法人協会・前掲注 3、6 頁
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(2) ギフト・エイド(Gift Aid)の改正
ギフト・エイドは、チャリティに対する一回ごとの寄付制度であるが、従来はその寄付が税制上の優遇を受けるために
は、250 ポンド 33 の足切り額を超える必要があった。
しかし、その後、その足切り額を廃止するとともに、手続きの簡便化が図られ、電話やインターネットでのギフト・エ
イドによる寄付も認められた。
また、英国に納税する非居住民や非居住企業に対しても、ギフト・エイドによる寄付を認めた。
(3) 給与天引き寄付(Payroll Giving)の上乗せ及び限度額の廃止
ペイロール・ギビングとは、企業に勤務する者が毎月一定額をチャリティに寄付する場合に企業が給与から寄付金を天
引きしてチャリティに寄付する制度のことをいう。
寄付文化を醸成させるために、2000 年から 2004 年までの間は給与天引き寄付の金額に 10%を政府が上乗せする措置が
とられた。
また、従来は、この制度には 1,200 ポンド 34 の上限が設けられていたが、改正によって上限額が廃止された。
(4) 株式による寄付
株式を寄付する側にも税制上の優遇措置を認め、株式による寄付を促進する方策が導入された。
株式による寄付は、寄付者に寄付相当額の課税所得控除を認め、かつ、キャピタル・ゲイン税をも免除するというもの
である。
33
34
1 ポンドを 235 円で換算すると、58,750 円。
1 ポンドを 235 円で換算すると、282,000 円。
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2. 寄付金税制
イギリスにおける寄付金税制の制度の概要について、利用状況などのデータも併せて、以下に紹介することとする。
(1)個人による寄付の優遇税制
① ギフト・エイド(Gift Aid)
この制度は、寄付を一度でも行えば受けられる税制優遇制度であり、足切り額なしで、課税上の優遇が受けられる。
【 事 例 】
(A)納税者は、100 から基本税率 22%を適用した場合の 22 を天引きした 78 をチャリティ団体に寄付する。
(B)上記 22 を納付する。
(C)チャリティは、上記 100 の寄付金収入は納税義務がないため、源泉徴収された 22 の税金を還付請求する。
(D)チャリティは、22 の還付を受けることにより 100 の寄付が実現する。
還付請求 22(C)
寄付 78(A)
納
税
者
チャリティ
合計 100
還付
22(D)
英国歳入
関税庁
源泉 22(B)
この場合の寄付は、寄付金控除の対象にはならないものの、その寄付は、個人の受ける累進税率に関係なく、100 の寄付
金に対応する所得 100 について、実質的に基本税率 22%で納税できる点にメリットがある。
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結果として、高税率で累進課税の適用を受ける高額所得者の寄付が促進されることとなる。
英国歳入関税庁のホームページに掲載されている資料よれば、ギフト・エイドの利用状況は、以下のとおりである 35 。
高額所得者のギフト・エイドへの支出額は、23,500 円から 117,500 円(1 ポンドを 235 円で換算)までの区分が最も多く、
全体の約 42%を占めている。
【ギフト・エイドの利用状況】
総額
年分
2003-2004
2,666(626,510)
2004-2005
2,842(667,810)
2005-2006
3,410(801,350)
2006-2007
3,771(886,185)
個人による寄付
2,079(488,565)
2,216(520,760)
2,659(624,865)
2,941(691,135)
単位:百万ポンド ( )は百万円
チャリティ団体に対する還付
586(137,710)
626(147,110)
751(176,485)
830(195,050)
【高額所得者(納税者に占める割合が16.8%)によるギフト・エイドの利用状況】
ギフト・エイド支出額
100ポンド以下
100-500ポンド
500-1,000ポンド
1,000-10,000ポンド
10,000ポンド以上
合計
35
高額所得者中
高額所得者の
ギフト・エイド
割合
利用者の割合
3.30%
20%
7.10%
42%
2.60%
15%
3.50%
21%
0.30%
2%
16.80%
100%
英国歳入関税庁ホームページ Charitable donations and tax reliefs より作成、1 ポンド=235 円で換算している。
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②
給与天引き寄付(Payroll Giving)
給与天引き寄付の制度は、企業に勤務する者が毎月一定額をチャリティに寄付する場合に、企業が給与から寄付金を天引き
してチャリティに寄付する制度のことをいう。
寄付の手続きは、納税者でなく雇用主が行うため、寄付の手続き等に係る事務の簡素化が図られる。この寄付は、上限がな
しで寄付金控除の対象となる。
英国歳入関税庁のホームページに掲載されている資料よれば、給与天引き寄付の利用状況は、以下のとおりである 36 。
【給与天引きの利用状況】
年分
2003-2004
2004-2005
2005-2006
2006-2007
③
利用者(千人)
530
578
605
643
単位:百万ポンド、( )は百万円
給与天引き寄付総額
(百万ポンド)
85(19,975)
83(19,505)
85(19,975)
89(20,915)
遺産による寄付
被相続人の遺言により行ったチャリティに対する遺産の寄付については、基礎控除と別枠で相続税の課税相続財産から控除
できることになっている。遺言による寄付は、寄付額を定めた金銭によるものの他、土地などの財産、宝石類、株式等でも行
うことができる 37 。
(2)法人への寄付優遇
チャリティは、全額出資事業会社(Trading company) 38 を用いて、本来目的とは直接関係のない目的外事業を行うことが認
36
37
英国歳入関税庁ホームページ Charitable donations and tax reliefs より作成、1 ポンド=235 円で換算している。
財団法人公益法人協会・前掲注 1、21 頁より記載
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められている。法人のチャリティに対する寄付は、全額が損金算入とされる。
チャリティが収入確保を目的として全額出資事業会社を設置した場合には、全額出資事業会社からチャリティに無税でその
利益を寄付させることが可能である。
その寄付は、前述したギフト・エイドの一環であるが、法人の場合には、個人の場合と比し、以下のメリットがある。
●
●
3.
法人の寄付の場合には、個人と異なり、寄付相当額が無税扱いになること
法人にとっては源泉徴収の手間が、チャリティにとっては源泉徴収税額の還付請求の手間がなくなること
チャリティの目的外事業への課税
チャリティが行う事業活動によって生じた収益については、チャリティの本来の事業及びその事業に付随する事業によって獲
得した収益には法人税は課税されないが、本来の目的とは関連のない事業(以後、目的外事業という。)によって獲得した収益
には法人税が課税される。
また、チャリティに対しては、事業活動によって発生した金融収益、不動産収益、キャピタルゲイン収益、事業活動収益等の
うち、一定のものに免税規定があり 39 、かつ、チャリティに対する寄付には相当の優遇規定がある。
(1) 事業活動による区分
①
38
39
40
Primary Purpose Trading(本来目的事業)から生じた収益 40
本来目的事業とは、チャリティがその団体の本来目的又は慈善目的を遂行するための事業活動のことをいう。
その事業活動によって獲得した所得がチャリティの目的に従って使用されている場合に限り、その事業活動によって生じた
収益は免税となる。チャリティの事業活動目的は、規約又は公文書等によって確認される。
本来目的事業の事例は、下記のとおりである。
● 学校又は大学等が授業料を受領し、教育サービスを提供すること
● 美術館又は博物館が入場料を受領し、展示会を主催すること
英国歳入関税庁ホームページ Tax Exemptions 56. Tax. Do charities pay tax on the profits of their trading companies?
英国歳入関税庁ホームページ Annex 1 Charitable Tax exemption, Income and corporation taxes act 1988 s505 (e)
英国歳入関税庁ホームページ Tax Exemptions 12. Tax. Primary Purpose trading(Beneficiary Trade については省略。以下同じ。)
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●
●
●
●
劇場が上演作品のチケットを販売すること
病院が治療費を受領し、医療サービスを提供すること
老人ホームが利用料を受領し、サービス付住居を提供すること
美術館又は博物館が教育目的物品を販売すること
②
Ancillary trading (付随的事業) 41 から生じた収益
上記①の免税規定は、本来目的でないものであっても、本来目的を遂行する上で付随的に行われる事業活動であれば、適用
される。この付随的事業は、本来目的を遂行する上で付随して行われる事業活動で、本来目的事業の一部である。
付随的事業の具体例は、下記のとおりである。
● 学校や大学等が、学生の便宜のために関連商品やサービスの提供をすること(教科書等の販売)
● 学校や大学等が、料金を受け取り、学生の子供向けに保育所のサービスを提供すること
● 美術館や博物館が、展示会の訪問者に対して、カフェテリアで飲食物を販売すること
● 劇場が、観客に対してレストラン又はバーで飲食物を販売すること
● 病院が、患者や見舞客に対して、菓子類、日用雑貨品、花を販売すること
③
Non-primary purpose trading (本来目的ではない事業、すなわち、目的外事業) 42 から生じた収益
チャリティは、一部は本来目的事業活動であり、その他は本来目的ではない事業(目的外事業)活動を営む場合がある。
例えば、チャリティの営む事業のうち、一部の事業だけが本来目的事業又はその付随的事業である場合などである。
こうした場合においては、チャリティは、本来目的事業等及び目的外事業といった二つの異なった事業を行っているものと
される 43 。
本来目的事業は、獲得した所得を本来目的事業活動に使用している限りにおいて免税となる。少額事業への免税(下記(2)
参照)規定はあるものの、目的外事業は、課税対象とされる。全ての事業活動から発生したあらゆる収入及び費用は、合理的
な基準によって本来目的事業等又は目的外事業に割り振られることとなる。
このような本来目的事業、付随事業又は目的外事業が混在する具体例は、下記のとおりである。
41
42
43
英国歳入関税庁ホームページ Tax Exemptions 13. Tax. Trading which is ancillary to the carrying out of a primary purpose
英国歳入関税庁ホームページ Tax Exemptions 14. Tax. Trading which is not wholly primary purpose
Income and corporation taxes act 1988 s505(1B)
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●
美術館や博物館の売店が、その一部が本来の活動目的に関連する様々な物品(展示会の模写品、目録)を販売すること
(本来目的事業)
美術館や博物館の売店が、本来の活動目的に関連しない様々な物品(販促用ペン、マグカップ、ティ-タオル、スタン
プ)を販売すること (目的外事業)
●
④
44
学校や大学等が、学生のために、(通常の) 学期の間、学生寮を提供すること (本来目的事業)
学校や大学等が、旅行者のために、(通 常の) 学期以外の期間に、学生寮を提供すること (目的外事業)
目的外事業の運営可否の判定要素 44
チャリティは、資金獲得のために目的外事業を行うことがある。チャリティに関する法律では、目的外事業がチャリティの
資産に重大なリスクを及ぼさない場合に、チャリティが資金獲得のための目的外事業を運営することを許可している。目的外
事業の目的が重大なリスクを及ぼすかどうかは、下記の要素によって判定される。
● チャリティの規模
● その事業の性質
● 予測される支出
● 売上予想
● 市場変動の影響度合い
チャリティ委員会ホームページ
C8 What is 'non-primary purpose trading', and when may charities engage in it ?
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(2)Exemption for small trading(少額事業免税)
以下の少額事業に該当する場合には、免税となる。
①
少額事業の判定 45
少額事業に該当するか否かは、下記(a)又は(b)のいずれか大きい金額をもって判定される。
(a) £5,000 46
(b) £50,000 47 ポンドとチャリティの年間収入(補助金、寄付金、投資、その他全ての事業によって獲得した収入額)の
25%のうち、いずれか小さい金額
(具体例)
その年の目的外事業所得が£40,000 で、総収入額が£150,000 の場合
(a) £5,000
(b) £50,000 > £150,000×25%=£37,500
∴ £37,500 が限度額となる。
具体例では、目的外事業所得は、£40,000 であるため、下記②Expectation test(予想値テスト)によって、免税であ
ることが証明されない限り、限度額との差額ではなく、その目的外事業所得の全額£40,000 が課税対象となる。
②
45
46
47
48
Expectation test(予想値テスト) 48
ある団体の収入額が上記の限度額を超える場合にも、その団体が下記の事由により収入額が本来は限度額を上回らないは
ずであったことを証明できるときは、その所得は課税されない。
● チャリティが何年も継続して事業活動を行っており、前年までと比較してその年だけ突出して売上が上昇していること
を示せる場合
Finance Act 2000 s46 Exemption for small trades etc、英国歳入関税庁ホームページ Tax Exemptions 21 Tax. Calculation of the annual turnover limit 等
1 ポンドを 235 円で換算すると、約 118 万円。
1 ポンドを 235 円で換算すると、約 1,180 万円。
英国歳入関税庁ホームページ Tax Exemptions 22. Tax. The Reasonable expectation test
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● チャリティが、受領できると見込んでいた補助金を受け取ることができなかったため、その年の総収入額が予算額より
少ない場合等
なお、この場合には、上記事実を証明できる書類の提出が要求される。
4.チャリティの理事等への報酬の支払い
イギリスの税制では、実質的利益分配としてチャリティの理事等への報酬の支払いが行われた場合の課税に関する税法上の規
定は存在しない。保証有限会社については、会社法で社員の利益分配を禁止すると規定されている。
また、広義の利益分配であるチャリティの理事等への報酬の支払いについては、Ⅲ 1.(1)の公益性の意義で紹介したとおり、
報酬の支払いそのものが公益目的の達成に寄与しない限り認められないため、理事等に対する報酬は、原則として無償又は低
額であることが前提であると考えられる。チャリティ委員会のホームページにおいて、チャリティの利益分配や理事等の報酬に
ついてのガイドラインがあるため、以下に抜粋して紹介することとする。
〔チャリティの理事等への報酬について〕 49
チャリティの理事等は、原則として定款に定めがある場合又はチャリティ委員会の許可がある場合を除き、自己の役務提
供の対価としては、如何なる経済的利益も享受できない。
理事等は、原則的には、チャリティに対する自己の責務とチャリティから受ける自己の利益とを対価関係に置くべきでな
く、もしそのような関係になったとしても、理事等が受ける利益については、チャリティ委員会等の公的機関に対して透明
性を有しなければならない。
理事等が自己負担でチャリティの業務の一環として立て替えた費用(例えば、会議に出席するための旅費で、相当なもの)
に対するチャリティからの実費負担については、当然ながらチャリティの費用となり、利益供与にはならない。
一方で、実費負担とは言っても、チャリティの業務とは関係のない理事等の私的な費用に対する負担(個人の電話代等)
については、当然、利益供与と捉えられる。
49
チャリティ委員会ホームページ
CC11 Payment of Charity Trustees より抜粋し翻訳。
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おわりに
税制改正が法制改正に先行したイギリスの事例は、国家の姿勢もさることながら、寄付金税制の内容についても、ギフト・
エイド、給与天引き寄付、株式による寄付、遺産による寄付といった様々な形態があり、今後の我が国における寄付金税制
の多様性を模索する上でも非常に参考となる点が多い。
我が国の内閣府の公益認定等委員会は、イギリスのチャリティ委員会を模して設立されたものである。チャリティ委員会
は、既に 150 年以上の歴史を有する組織であり、法制も時代の要請に合わせて何度も改正されている。チャリティ委員会は、
公益活動の促進と公益活動の監視の両面の機能を併せ持ち、チャリティがテロなどに関与しているという疑いがあればその
銀行口座を凍結する権限をも有している。我が国の公益認定等委員会は、当面のところは公益認定に議論の重点が置かれる
ことになろうが、認定後の公益社団法人等をいかに監督していくかという点についても、チャリティ委員会の過去の審議録
などをもとに検討を重ねる必要があると考えられる。
また、チャリティ委員会が認定したチャリティについては、ほぼ自動的に課税除外を受けられることとなっているため、
イギリスでは、チャリティ委員会と英国歳入関税庁との間で緊密な連携・協力関係が築かれている。我が国の公益社団法人
等について、一般社団法人等よりも多くの税制上の優遇措置を講ずる場合には、行政庁と財務省との間で、イギリスのよう
な連携体制を採り入れ、情報交換などを行うことが不可欠となるであろう。
民間の公益活動を促進させるための土台については、イギリスでは青少年へのボランティア教育制度が充実しており、日
常的に様々な形で公益活動に携わっている人々が多い 50 ことからも、成熟した基盤を有していると考えられる。
我が国の民間の公益活動の促進のためには、こうした土台作りもまた重要であって、そのためには、内閣府と財務省が中
心となり公益活動の促進を支援することが当然であり、さらに公益活動に関連する関係省庁の支援も同時に不可欠であろう。
我が国においては、公益法人等に関する新たな税制の詳細が分からない段階ではあるが、税制以外にも民間公益活動の基盤
をいかに強化させていくかという点も併せて考えていかねばならい。
また、これまで官僚の天下り先された一部の公益法人等も、今回の法制改正を機会に、広く情報公開を行うなどの努力を
行うべきであると考える。
我が国における非営利事業体に関する税制上の諸問題に関する取組みは、営利事業体と比べると、やや脇に追いやられて
50
諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究実行委員会「諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究報告書」文部科学省委 託 調 査、
平成 19 年3月、91・92 頁、108 頁以下参照、http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/houshi/07101511.htm
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きた傾向にあるが、これからの我が国の少子高齢化問題や環境問題等といった諸問題を考慮すると、政府の機能だけではも
はや対応しきれない分野があり、そのような分野は民間の公益活動によって支える必要があると考えられる。我が国の民間
の公益活動については、寄付をする側と寄付を受ける側の税制の見直し、民間公益活動の推進に向けた関係省庁の支援、当
事者である公益法人等の開かれた情報公開などの問題が山積してるが、一朝一夕にこれらの問題を解決することは困難であ
り、長期的な視野に立って問題の解決に当たることが必要であると考えられる。
こうした状況下における新たな公益法人に関する税制の制度設計に際しては、税制のあるべき理論をしっかりと踏まえつ
つ、法制における立法趣旨である民間の公益活動を促進することを税制が阻害することのないように、将来に禍根を残すこ
とのない深度ある議論を行うことによって、制度改正を行うことを心がける必要がある。
<参考図書等>
1. 石村耕治『宗教法人法制と税制のあり方』法律文化社、2006 年 11 月 10 日
2. United States International Grantmaking England (http://www.usig.org/index.asp)
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