高等教育における e-Learning−その成功の条件− メディア教育開発センター国際シンポジウム2004 報 告 書 独立行政法人メディア教育開発センター はじめに 高等教育における e-Learning が注目されています。 大学等が実施する e-Learning につきましては、 諸外国において積極的に進められており、我が国におけるこれからの展開を検討する際に非常に参考 になります。そこで、私共の独立行政法人メディア教育開発センターでは、国際シンポジウム 2004 と して「高等教育における e-Learning−その成功の条件−」をテーマに 2 日間開催しました。外国から の講師として、カナダ、中国、フィンランド、韓国、ニュージーランド、英国、米国の 7 カ国から e-Learning の専門家をお呼びし、日本の他機関の専門家と本センター教員を加えて、14 名の講師に講 演いただきました。 各講師からは、e-Learning における経営方略や、e ペタゴジー、e コンテンツの条件などについて、 それぞれの大学等における実践的な経験が具体的に紹介されました。そして、e-Learning に限定する ことなく、今後の大学の在り方に関して大変参考になる内容でした。また、質疑応答の中では e-Learning の質の保証の問題とか、e-Learning コース等の共有と流通について活発な討論があり、我 が国における e-Learning のこれからの展開や、本センターの業務の方向を検討する際に非常に参考と なりました。 参加者も 202 名と多く、外国人は 19 ヶ国から 43 名が参加していただき、真の国際シンポジウムと なりました。そして熱心に討論に加わっていただき、参加者から大変好評であったと言われまして、 大変喜んでいる次第です。また、このシンポジウムの模様は、SCS により全国に配信し、29 局の多数 の大学等に視聴いただいたところです。これもひとえに、関係者のご尽力のおかげと感謝しています。 特にこの国際シンポジウムでは、文部科学省高等教育局専門教育課の松澤孝明企画官と、開催にあた り経費面で一部サポートしていただきました独立行政法人日本学術振興会の伊賀健一理事には開会式 でご挨拶をいただき、感謝しています。 本報告書には当日の討議の概要と、各講演者から事前に送られたプレゼンテーションペーパーを掲 載いたしました。関係機関の皆様にご高覧いただき、大学等における今後の e-Learning の研究開発の 推進に役立てていただければ幸いです。 独立行政法人メディア教育開発センター理事長 清水 康敬 高等教育における e-Learning−その成功の条件− 目次 シンポジウム概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 プログラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 基調講演 概要 三輪眞木子(メディア教育開発センター教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 「教育における e ラーニング:ビジョンの実現に向けて」 John Tiffin(ビクトリア大学名誉教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 第1セッション:経営方略の条件 概要 吉田 文(メディア教育開発センター教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 「デザインベースの研究と遠隔教育におけるコールセンター改革へのその応用」 Terry Anderson(アサバスカ大学教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 「高等教育における e ラーニング:成功のための21の条件」 Peter Knight(イギリス公開大学教育工学研究所所長) ・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 「コース配信における IT の利用:香港公開大学の経験」 Kin Sun Yuen(香港公開大学教育工学・出版課長) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 「テキサス大学オースティン校におけるテクノロジーの統合過程」 Susanna Herndon(テキサス大学オースティン校教授 改革部副部長・教授工学センター所長) ・・・・・・・・ 61 調査報告:e ラーニング基礎資料について 吉田 文(メディア教育開発センター教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 第2セッション:eペダゴジーの条件 概要 青木久美子(メディア教育開発センター助教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77 「eペダゴジーデザインの MA プログラム:視覚的知識構成」 Stefan Sonvilla-Weiss(ヘルシンキ美術デザイン大学教授) ・・・・・・・・・・ 83 「RIT におけるテクノロジーを用いた教授・学習」 Joeann Humbert(ロチェスター工科大学オンライン学習部長) ・・・・・・・・・・ 97 「学習をeラーニング化する−JISC のeラーニングとペダゴジープログラム」 Sarah Knight(JISC(総合情報システム委員会)プログラムマネージャー)・・ 113 「早稲田大学でのeスクールの設立」 野嶋栄一郎(早稲田大学教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127 高等教育における e-Learning−その成功の条件− 目次 第3セッション:eコンテンツの条件 概要 山田 恒夫(メディア教育開発センター教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133 「MIT オープンコースウェア:開かれた共有の新たなモデル」 Farnaz Haghseta(マサチューセッツ工科大学) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137 「オンラインプログラムをインタラクティブでチャレンジングで価値あるものに:ボストン大 学の経験」 Susan M. Kryczka(ボストン大学遠隔教育部長) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 145 「韓国のe高等教育におけるコンテンツ管理:現状と将来」 Insook Lee(世宗大学教授/メディア教育開発センター外国人研究員)・・ 153 「有職成人のための大学院教育のコンテント」 小松 秀圀(eラーニングコンソーシアム会長) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 161 総括討論:高等教育における e ラーニング成功の条件とは 佐賀 啓男(メディア教育開発センター教授) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 169 講演者プロフィール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 173 シンポジウム概要 佐賀 啓男(国際シンポジウム 2004 実行委員長) メディア教育開発センター主催の 2004 年度国際シンポジウムが 11 月 17 日と 18 日の2日にわたり 開催された。テーマは「高等教育における e-Learning −その成功の条件−」であり、基調講演、3つ のセッションほかのプログラムで、活発な発表と意見交換がなされた。このシンポジウムは日本学術 振興会の助成を受けたものである。 高等教育におけるeラーニングは、先進国を中心に世界的な広がりを見せている。我が国でも 「e-Japan 重点計画−2003」で大学等のeラーニングの推進が提言され、大学設置基準がeラーニング 導入の方向に改正されるなど、今後、急速に大学等におけるeラーニングが導入されていくものと見 られる。そこで重要なのは、eラーニングを成功に導く条件を明らかにすることである。本国際シン ポジウムは、 「高等教育におけるeラーニング:その成功の条件」をテーマに、eラーニングにおける 学習効果を対面授業と同等以上のものにする要因は何か、単位や学位の質を保証する 方略は何か、eラーニングの健全な経営基盤を確立する要因は何か などについて、1.経営方略の条件、2.eペダゴジー(教授法など) の条件、3.eコンテンツ(教材やコース内容)の条件の各側面から、 国際的な展望のもとに討議し、我が国の高等教育にとって有意義な 知見を得ることを目的とした。 開会にあたり、文部科学省高等教育局専門教育課の松澤孝明企画官、 日本学術振興会の伊賀健一理事から挨拶をいただき、メディア教 育開発センターの清水康敬理事長が主催者として挨拶した。メデ ィア教育開発センターの会場には、国内 159 名、国外 43 名(19 カ国)、合計 202 名が来場し、SCSでの参加が 25 機関、26 局であっ た。来場者の所属は、大学等が 65%、企業関係が 23%、その他が 12%であった。以下、各セッションのあらましを記すことによって本報告書の導入とする。 基調講演: 「教育におけるeラーニング:ビジョンの実現に向けて」 ビクトリア大学 ジョン・ティフィン名誉教授は、古代ギリシャや 18 世紀を振り返り、高等教育は、今再びパラダ イムシフトをしていると述べた。それは、インターネットなどによってコミュニケーションの様態が変化したからで ある。その上で教授は、学生の変化(学生主体の学習、女性・年長者の増加、国際化等)に適合する、高等教育をよ りアクセスしやすくする、時間の制約を無くす、理想的なヴァーチャル・キャンパスを構築する、現代の大きな問題 に取り組む、カリキュラムを書き換え、国際化する、国際的な認定を受ける、基準準拠の評価を行う、多くの言語に よってアクセスできる知識の集積を開発する、人工知能を教育に応用する、学生数に応じて教員と契約する、と提言 した。この解決にはインターネットや人工現実、人工知能の技術が役立ち、われわれはハイパー大学を作ることがで きる。最後に教授は、 「高等教育はコミュニケーションの中で行われる。その技術が変化しており、それは止めること ができない。しかし、高等教育の本質は相互作用であり、eラーニングの可能性は大きいが、伝統的方法もしばらく は放棄しないことが必要である」と結論した。 1 第 1 セッション:経営方略の条件 アサバスカ大学 テリー・アンダーソン教授は、 「効果的オンライン学習のための研究」と題して発表した。教授は まず、教育研究は十分重視されていないと指摘し、現実への応用が可能なデザイン・ベースの研究が必要なことを強 調した。これは研究がデザイン過程に介入しながら、現実の問題解決に寄与しようとするアプローチである。その例 として、アサバスカ大学での学生の質問への応答に関するチューター・モデルとコールセンター(電話センター)モ デルの比較研究を紹介した。その結果、コールセンターにおいて学生からの質問のほとんどに回答でき、コストを下 げながら学生サポートの質を維持できることが明らかになった。新たな研究では、学習者のコミュニティーの重要性 が示された。また、研究成果の共有のためにインターネットの重要性を指摘した。 次いで、イギリス公開大学 ピーター・ナイト教授も、 「eラーニング成功の条件」と題して、研究を基礎にすべき ことを強調した。①eラーニングはよい学習でなければならず、よい理論が必要である。②科目の性質によっても学 び方は変わる、③eラーニングへの変化は不確かさを伴う、④高等教育は複雑な目標をもつ、⑤複雑な成果に対面し なければならず、ブレンデッドな学習と学習系列を考えることが必要、⑥評価が重要であり、知識や理解を測るテス トだけでなく、将来の学習に対してフィードバックを与える形成的評価が大切。eラーニングにおいては、インタラ クティブな課題による学習仲間へのフィードバックや自己評価が重要、⑦カリキュラム・デザインにおいてたくさん の機会を用意すべきであり、学生の経験全体を考慮したメタ・カリキュラムが必要、⑧このようなことを通じて、e ラーニングは学生を変革することができる、と提言した。なお、同氏は、シンポジウム論文集においてeラーニング 成功のための 21 の条件を提示した。 香港公開大学 キン・スン・ユエン氏は、 「コース配信におけるITの利用:香港公開大学の経験」と題して、IT 利用により、新しい学生に到達、リソースを効率的に共有、コミュニケーションと共同作業を促進、教育と学習の質 を向上、学生の柔軟性とアクセスを増進、コストを下げることが可能、と提言した。香港公開大学では、英語と中国 語の二つのプラットフォームを統合しつつあり、コースの8割はオンラインで提供している。学生はかなりシステム に満足しているが、印刷物での学習が中心になっている。ディスカッション・ボードではメッセージを読むだけの学 生が多いが、CMCにより、協調的、構成主義的学習が可能になる。オンラインのサービスでは、電子図書館、コー ス登録、支払い、成績チェック等があり、スタッフの訓練も提供。成功のための指標としては、IT担当副学長の設 置、財政措置、学生の準備状態、モニターと改善、コスト削減、文化的配慮があると述べた。 テキサス大学 スザンナ・ハーンドン氏は、 「テキサス大学オースティン校におけるテクノロジー統合過程」と題し て、大規模大学におけるITサービスの統合、CMS(Blackboard)の運用、ファカルティの訓練、電子図書館の整 備、学内委員会活動、財政基盤、教授工学センター(CIT)の役割等にわたり、学内のIT運営体制を説明した。 CITでは、eラーニングの研究とティーチング・ラボの運営、ストリーミングとウェブキャスティングの実施、ウ ェッブ・デザイン、教員訓練、教員顕彰、ツール支援等のサービスを提供している。教員訓練では夏休み中のマルチ メディアツール・ワークショップが代表的であり、通年で多様な支援、コンサルティングを展開。FAST Tex は、教員 と学生がチームになってテクノロジー利用の開発を行うものである。学生には報酬を支払い、現在、63 のプロジェク トが活動している。各カレッジとCITの協力も重要。World Lecture Hall のウェブサイトもCITの活動のひとつで ある。Blackboard 上のコースは、現在、85%の学生が利用している。教授改革と評価部(DIIA)は、教授工学と評価 の部門を学内で統合した組織であり、関連委員会と協力して評価とポリシーを提出。なお、CITの財源は主に学生 からのIT料であるとのことであった。 第 2 セッション:eペダゴジーの条件 まず、ヘルシンキ美術デザイン大学 ステファン・ソンヴィラワイス教授は、 「eペダゴジーデザインのMAプログ ラム:視覚的知識構成」と題して、ヘルシンキ美術デザイン大学、オランダのインホーランド大学、ドイツのハンブ ルグ大学とオンラインで共同実施している修士プログラムについて報告した。3大学は相互認証し、学生はそれぞれ の大学の授業を受講して単位を取得。これは学際的なプログラムであり、コミュニケーション論、視覚マネジメント、 メディア文化、学習理論、ハイパーメディア、知識構成等の科目から成る。現在では、諸科学の分野でイメージを活 用する傾向が生じており、イメージ間の意味的関連を重視している。学生の背景はさまざまで、コミュニケーション の手段としては同期型よりは非同期型の方が有効。ビデオ会議よりは、チャット、ディスカッション・フォーラム、 2 インスタント・メッセージングの方が効果的であると指摘した。 ロチェスター工科大学 ジョアン・ハンバート氏は、 「RITにおけるテクノロジーを用いた教授・学習」と題して、 まず、オンラインの学習で外国の人と意見交換できるのはすばらしい、やり取りのスピードも速く、好きな時に学べ るのがいい、という学生の声を紹介。RITは聴覚障害者のための学部も有しており、遠隔学習登録者の2%が聴覚 障害者である。RITは非同期のオンラインコースを提供。聴覚障害者用のコースもある。最近では、オンライン学 生ユニオンもつくり、写真コンテスト等も学生のコミュニティー形成に役立っている。オンライン教育が対面教育と 同等以上の機能を果たすのは、学生中心の学習、集中的に書くこと、相当にインタラクティブな討論、生涯学習への 結びつき、豊かな教材の提供などのためであり、ある盲目の教授と聴覚障害の学生との感動的なオンライン交流を紹 介した。そのためにアダプティブ技術を使い、字幕等を提供。授業のCD−ROMも使い、ブレンディド学習も実施 しているとのことであった。 英国JISC(統合情報システム委員会) サラ・ナイト氏は、 「学習をeラーニング化する−JISCのeラーニ ングとペダゴジープログラム」と題し、まず、eラーニングの可能性として、接続性、柔軟性、相互作用性、協調学 習、機会の拡大、動機づけをあげた。イギリスでは教育技能省がeラーニングの戦略を発表して、大学への指針とな っている。資金も提供されている。JISCは大学等と協力して情報技術の活用法を研究開発。eラーニングプログ ラムの目的は有用な資源、助言、教材を提供することである。eラーニングとは、増進された学習(enhanced learning) 。 効果的なeラーニングは、適切であり、アクセスしやすく、楽しく、インタラクティブで、関与促進的であり、教材 が揃い、学習を刺激し、フィードバックを促進し、学習者を動機づけるもの。eラーニングはよい学習でなければな らない。その条件として、学習者のニーズや経験を考慮、使える技術と支援レベルを含む学習環境を考慮、学習成果 は何かを考慮することである。また、学習者と教師のコミュニティーをつくらなければならないと指摘した。 早稲田大学 野嶋栄一郎教授は、 「早稲田大学でのEスクールの設立」と題し、早稲田のeラーニングによる通信教 育「Eスクール」を紹介。Eスクールへのニーズは、早稲田講義録をインターネットを利用して復活させたかったこ と、少子化に伴う経営的な観点、教員の教育力向上にあった。また、Eスクールに結びつく実践や委員会活動を重ね ており、2003 年に人間科学部でEスクールをスタート。その特徴は、民間会社にコンテンツ作成等を委託、社会人を 主な対象、ホームルームを用意、教育コーチに修士課程修了の学生充当、カリキュラムが通学制と同一ということで ある。授業をビデオストリーミングで受講させている。Eスクールのメリットは、学習空間を拡大すること、個別学 習を実現すること、BBSの利用によって授業の質を高めること、教育コーチに意義があること。課題は、授業料が 通学制と同じこと、ゼミの実施方法、教員の負担増、同僚教員への参加の説得、学生のオンラインでのマナーの育成、 図書館のデジタル化である。また、Eスクールの実践は、通学制の授業を変えることにもつながると提言した。 第 3 セッション:eコンテンツの条件 マサチューセッツ工科大学 ファルナ・ハグセタ氏は、 「開かれた共有の新たなモデル」と題して、MITのオープ ンコースウェア(OCW)の概要を説明。学内委員会で検討したところ、遠隔教育を実施するよりもMITの世界的 使命の観点から、コースウェアを公開するという方針が出され、OCWについて 2001 年 4 月に発表した。二つの財団 から資金が提供され、2002 年 9 月の 50 コースから初めて、2004 年の 9 月には 900 コース(全体の半数)をオープン。 各コースのウェブ上の公開は共通のフォーマットで行っており、検索可能。1 コースあたり平均 25 ファイルが提供さ れている。コース公開過程には著作権のクリアを含み、メタデータを付し、過去の教材はアーカイブ化。コースウェ アは世界中に配置したサーバーからダウンロードされる。OCWのインパクトは非常に強い。ヒットが多い国は米国 以外で、1 位中国、2 位インド、日本は 11 位。利用者は独学者、教師、学生など。92%の利用者が内容に満足してい る。OCWのMITにとっての利益は、大学レベル、学部レベル、教員レベルで存在。また、キャンパス内の学生に も大きなメリットがある。OCWは他言語にも訳され、その意義は拡大しつつあるとのことであった。 ボストン大学 スーザン・クリツカ氏は、 「オンラインプログラムをインタラクティブで魅力的で価値あるものにす る」と題して、BUの遠隔教育の特徴を説明。オンラインコースのモデルとして、テキストベース、ストリームビデ オがあるが、BUでは次の世代のモデルを採用。それは、教室の体験をできるだけ再現するものである。開発はチー ムアプローチであり、学生のベストな学習を促進し、マルチメディアとインタラクション、学生の作業の組込み、コ ース内外の教材利用を強調。目標は、コース内容を十分マスターすること、次のコース受講への期待をもたせること、 3 ユニークな学習経験をしたと感じさせることである。学生によるコース評価も実施。CMSは WebCT を使用。提供 プログラムは、刑事裁判修士、経営修士、理学療法博士、作業療法修士、コンピュータ科学修士、学部後期プログラ ムである。オンライン学生は対面の学生と比べても高い成績を収め、教員はカリキュラム設計能力を高め、伝統的授 業の改善にも役立ったとのことであった。 インスーク・リー客員教授は、 「韓国のe高等教育におけるコンテント管理」と題して、政策的な経緯も含めて紹介。 政府はモデル機関を置くなど主導的な役割を果たした。高等教育法はeラーニングについても規定。151 大学がオン ラインコースを出しており、これは増加中。オンライン大学院は5つ認可。生涯教育法もオンライン大学について規 定。今後は質の充実が課題である。コンテントは、従来型大学ではオンライン科目は限られているが、オンライン大 学ではすべての科目でコンテントを有し、ビデオや他の形式の教材を提供している。複数大学がコンソーシアムを組 んでコンテントを共有するケースがある。コンテント開発では、従来型大学で支援体制が不足。オンライン大学では 専門職を配置してコンテント開発にあたっているが、インストラクショナル・デザイナーの数が少ない。高質のコン テント開発のための助成金もある。オンライン大学ではコンテントの評価もなされており、インタラクティブな面で 改善の必要があるとの結果が出た。コンテントの共有化、標準化も求められている。教育省は「eキャンパスビジョ ン 2007」を出して指針を示し、eラーニング支援センターの設立、コース開発における大学間の共同等も計画されて いると指摘した。 NTTラーニングシステムズの小松秀圀氏はeラーニングコンソーシアムの会長でもあり、 「有職成人のための大学 院教育のコンテント」と題して、企業内教育の現状を中心に発表した。eラーニングを進めるにあたっての日本の弱 点は、企業内教育においてはインストラクショナル・デザイナーがきわめて少ないこと、高等教育では有職成人のた めの技術に慣れていないこと、専門職大学院の設立が始まったばかりであることである。米国では専門職教育がよく 機能している。今後の専門職大学院の目的は従来の大学院と異なり、実際能力を身に着けること。そのための学習目 標を明確に定義することが弱い。実践力を養成するには、多くの人の知恵、情報が必要。それらがコンテンツになり、 eラーニングが重要になる。教員訓練、シラバス作成等、米国に学ぶ必要がある。実務能力育成の観点から、評価も 重要。コンテンツの開発は、現場スキルの調査、人のもつ情報、教授法の支援、社会構成的なeラーニングの構築が 必要である。また、企業内教育と専門職大学院の新たな協調関係ができる可能性があると指摘した。 eラーニング基礎資料報告と総括討論 以上のいずれのセッションでも、活発な質疑と討論が行われた。また、第1セッションのあとに、日本の高等教育 におけるeラーニングまたはIT利用の実態に関する報告がメディア教育開発センターの吉田文教授からなされた。 最後には、各セッションの司会者が登壇し佐賀が司会して総括討論が行われた。そこでは、各セッションのまとめを するとともに、eラーニング成功の条件を見出すことがめざされた。登壇者から特に強調されたのは、コミュニティ ーの形成、組織的で恒常的な活動の提供、学習者のニーズの理解と対応、教える側のインセンティブと評価のあり方 である。 プログラム 第1日(11 月 17 日) ・開会挨拶 松澤孝明(文部科学省高等教育局専門教育課企画官) 伊賀健一(日本学術振興会理事) 清水康敬(メディア教育開発センター理事長) ・基調講演: 「教育におけるeラーニング:ビジョンの実現に向けて」 講演者:John TIFFIN (ビクトリア大学名誉教授/ニュージーランド) 司会: 三輪 眞木子(メディア教育開発センター教授) ・第 1 セッション:経営方略の条件 Terry ANDERSON (アサバスカ大学教授/カナダ) Peter KNIGHT (イギリス公開大学、教育工学研究所所長/イギリス) 4 Kin Sun YUEN (香港公開大学、教育工学・出版課長/中華人民共和国) Susanna HERNDON (テキサス大学オースティン校教授 改革部副部長・教授工学センター所長/アメリカ合衆国) 司会: 吉田 文 (メディア教育開発センター教授) ・eラーニング基礎資料について 報告:吉田 文 (メディア教育開発センター教授) 第2日(11 月 18 日) ・第 2 セッション:eペダゴジーの条件 Stefan SONVILLA-WEISS (ヘルシンキ美術デザイン大学教授/フィンランド) Joeann HUMBERT (ロチェスター工科大学(RIT)オンライン学習部長/アメリカ合衆国) Sarah KNIGHT (JISC(統合情報システム委員会)プログラム・マネージャー/イギリス) 野嶋栄一郎 (早稲田大学教授、人間科学部長/日本) 司会: 青木 久美子 (メディア教育開発センター助教授) ・第 3 セッション:eコンテンツの条件 Farnaz HAGHSETA (マサチューセッツ工科大学/アメリカ合衆国) Susan M. KRYCZKA (ボストン大学(BU)遠隔教育部長/アメリカ合衆国) Insook LEE (メディア教育開発センター客員教授/韓国) 小松秀圀 (e ラーニングコンソーシアム会長/日本) 司会: 山田 恒夫 (メディア教育開発センター教授) ・総括討論セッション:高等教育におけるeラーニングの成功の条件とは 各セッション司会者 司会: 佐賀 啓男 (メディア教育開発センター教授) 5 プ ロ グ ラ ム 11月17日(水) 10:30-10:40 開会挨拶 松澤 孝明(文部科学省高等教育局専門教育課企画官) 伊賀 健一(独立行政法人日本学術振興会理事) 清水 康敬(独立行政法人メディア教育開発センター理事長) 10:40-12:00 基調講演 「教育における e ラーニング:ビジョンの実現に向けて」 John Tiffin(ビクトリア大学名誉教授/ニュージーランド) 司会:三輪 13:30-16:00 眞木子(メディア教育開発センター教授) 第1セッション:経営方略の条件 「デザインベースの研究と遠隔教育におけるコールセンター改革へのその応用」 Terry Anderson(アサバスカ大学教授/カナダ) 「高等教育における e ラーニング:成功のための21の条件」 Peter Knight(イギリス公開大学教育工学研究所所長/イギリス) 「コース配信における IT の利用:香港公開大学の経験」 Kin Sun Yuen(香港公開大学教育工学・出版課長/中華人民共和国) 「テキサス大学オースティン校におけるテクノロジーの統合過程」 Susanna Herndon(テキサス大学オースティン校教授 所長/アメリカ合衆国) 司会:吉田 16:15-17:00 文(メディア教育開発センター教授) eラーニング基礎資料について 報告:吉田 文(メディア教育開発センター教授) 6 改革部副部長・教授工学センター 11月18日(木) 10:00-12:30 第2セッション:eペダゴジーの条件 「eペダゴジーデザインの MA プログラム:視覚的知識構成」 Stefan Sonvilla-Weiss(ヘルシンキ美術デザイン大学教授/フィンランド) 「RIT におけるテクノロジーを用いた教授・学習」 Joeann Humbert(ロチェスター工科大学オンライン学習部長/アメリカ合衆国) 「学習をeラーニング化する−JISC のeラーニングとペダゴジープログラム」 Sarah Knight(JISC(総合情報システム委員会)プログラムマネージャー /イギリス) 「早稲田大学でのeスクールの設立」 野嶋栄一郎(早稲田大学教授/日本) 司会:青木 14:00-16:30 久美子(メディア教育開発センター助教授) 第3セッション:eコンテンツの条件 「MIT オープンコースウェア:開かれた共有の新たなモデル」 Farnaz Haghseta(マサチューセッツ工科大学/アメリカ合衆国) 「オンラインプログラムをインタラクティブでチャレンジングで価値あるものに:ボストン大 学の経験」 Susan M. Kryczka(ボストン大学遠隔教育部長/アメリカ合衆国) 「韓国のe高等教育におけるコンテンツ管理:現状と将来」 Insook Lee(世宗大学教授/大韓民国、メディア教育開発センター外国人研究員) 「有職成人のための大学院教育のコンテント」 小松 秀圀(e ラーニングコンソーシアム会長) 司会:山田 16:45-17:30 恒夫(メディア教育開発センター教授) 総括討論:高等教育におけるeラーニング成功の条件とは パネリスト:三輪眞木子、吉田 司会:佐賀 文、青木久美子、山田 啓男(メディア教育開発センター教授) 7 恒夫 ジョン・ティファン ビクトリア大学名誉教授の基調講演の概要 三輪眞木子(メディア教育開発センター教授) 「高等教育における e ラーニング:ビジョンの実現に向けて」というタイトルで、パッションあ ふれるレクチャーを行った。この基調講演の中で、ティファン先生は、ラファエロのアテネの学 堂という絵画を、相互作用と情熱という高等教育の中核を示唆するものと指摘し、私たちが e ラ ーニングを成功裏に進めるために必要な要素について、人間、カリキュラム、教材、教授法、知 識管理、グローバル化に伴う多言語・多文化への対応、超現実を含む多様な技術の適用、といっ た多次元の角度から検討し、以下の提言を行った。 1. 学生が教師に合わせるのではなく、教師が学生の変化に合わせる 2. 無試験入学により、多様な人々が高等教育にアクセスできるようにする 3. 開始時期や休学の自由化により、高等教育における時間の制約を排除する 4. 理想のキャンパスをサーバースペース上に構築する 5. 細分化された知識を扱うのではなく時代の大きな問題に取り組む 6. 受益者の意向に沿ってカリキュラムを変更する 7. カリキュラムをグローバル化する 8. 高等教育に国際的な認定を導入する 9. 高等教育を絶対評価と相対評価の双方で実施するための基準を設定する 10. データに基づき高等教育の知識集大成を作り、多言語でアクセス可能にする 11. 人工知能の技術を応用した超現実を教育に適用する 12. 学生数に応じて教職員を採用する 13. 学生をリアルな現実に触れさせるため、対面の教育を継続する ティファン先生の基調講演は、NIME の国際シンポジウムに挑戦的な雰囲気を与え、その後に 続いた各セッションでの多くの発表とディスカッションを活発なものとした。また、ティファン 先生が最後に指摘した、「ソクラテスやピタゴラスの時代から継続する双方向のコミュニケーシ ョンの重要性は今後も変わらない。」という一言は、教育の本質を私たちに再認識させた。 ティファン先生の基調講演に関して、フロアより以下の質問があった。 質疑応答(質問者:国立阿南工業高等専門学校の林田栄治氏) 質問1:カリキュラムのグローバル化に関する提言について、どういうカリキュラムが求められ ているのかを教えてほしい。 回答1:グローバライゼーションには、現地化と国際化のふたつのプロセスがある。ひとつの国 でうまくいっているコースを世界で販売しようとしても、そのコースはその国に合わせて設計さ れているため、全体的な考察に基づいてグローバルなカリキュラムを総合的に見ることが必要で ある。次に、各国の事情に合わせてコンテンツをある程度変えていかなければならない。すなわ ち、必ず現地化して販売する必要がある。現在はどんな科目でも、その科目自体がグローバル化 11 の側面を持っている。グローバル化自体がひとつの科目になる。我々は、ITU(国際電気通信連 合)において、世界中の専門家が参加して巨大な百科事典を作るような膨大な作業をして情報技 術の概念を説明している。同じような作業をベースにしてグローバルなカリキュラムを作ってい かなくてはならない。 質問2:国際的な認定を求めるべきだという提言について、どこがそれを担当するのか? 基準 をひとつにすべきだと考えているが、現在は各国・各地に多くの基準が存在するので、最も望ま しい基準は何かという問題に真剣に取り組む必要がある。それがあれば、我々の社会はより平等 になるだろう。しかし、現実には多数の基準が存在しており、それが社会の現実を反映している ので、その中からどうやってひとつを選ぶのか、どこがそのような国際的認定を担当するのかを 知りたい。 回答2:力の関係で英語圏の意向が通ると、国際的な基準が強制される危険性がある。私は現在、 運輸コミュニケーションとグローバライゼーションという新しい科目を開発しようとしている が、その際に輸送関係のグローバルな組織と協力しようと考えている。グローバル化の活動を進 めていくためには、各国がそのイニシアチブをとる必要がある。各科目に枠組みや構造があるの で、会議等を通じて高等教育の国際標準化を考えていくべきではないだろうか。 12 高等教育における e ラーニング:ビジョンの実現に向けて ビクトリア大学名誉教授 John Tiffin 1700 年から 1900 年にかけて、世界中で高等教育のパラダイムシフトが進んだ。日本においては明治維新と 同時期の 1867 年にこのシフトが始まった。 高等教育は各種宗教の寺院、 僧院や教会の傘下にある一機能から、 工業化を進める国家の構造の一部となり、世界がどのように動くかを神学の言葉で説明することから、技術 に置き換えることが可能な言葉で現実を科学的に説明することへと変化した。高等教育は貴族や聖職者に箔 をつけるための学校から、経営や専門職に携わる国家的エリートの基礎訓練所になったのである。これが、 現在我々の知っている国家的高等教育のパラダイムである。今回のこの会議に出席者している全員がこの意 味での高等教育を経験しているが、その孫たちはそうはいかないだろう。というのは、高等教育が再びパラ ダイムシフトを経験しつつあるからだ。 世界中の総合大学や単科大学が独自のウェブサイトを運営している。学生はペンと紙を捨てて、代わりに コンピューターとインターネットを使うようになっている。大学の総長や副総長は優れた学者としてという よりは、最高経営責任者として雇用される。研究は、真実を探求するためではなく、研究だからという理由 で資金の支給を受けるものになる。こういったことは、これからやってくるパラダイムシフトの前触れであ る。高等教育の新たなパラダイムは、その全体像を現した時に、どのような姿をしているのだろうか? 各国の政府は、大学が設置される場所で起きそうな変化の 20 年、30 年先を見越した計画を立てるという、 きわめて時間のかかるプロセスを経た上で、新設される総合大学や単科大学を承認し、認定するものだが、 新たなパラダイムはサイバースペースに置かれる。今後 20 年から 30 年の間に、我々はサイバースペースで どのような変化を目の当たりにすることになるのだろうか? 本論文では、グローバル化の進展や情報技術の発展と共に生じる、高等教育の環境について論考する。そ の前提は、コンピューター技術と電気通信との一体化が続くこと、セルラー方式の無線電話環境が遍在化す ること、ウェアラブル・コンピューターへとつながるトレンドが続くこと、我々が現在携帯電話を使ってい るように分散バーチャルリアリティにアクセスするようになること、そして、人工知能がますます大きな役 割を果たすようになることである。こうした展開により、カリキュラムから評価、教授法、学生の登録、学 術上の資格、授業料、学期や時間割まで、高等教育のすべての側面を考え直すことになる可能性がある。 高等教育の普遍的特性である授業/学習の機能 変わらないものは何だろうか?大学の普遍的特性とは何か?高等教育が行われる時代、場所、言語、文化 や媒体のいかんにかかわらず、高等教育を高等教育たらしめる決定的な要因とは何か? 高等教育は、基礎教育を身につけた上で学習者としての役割を担う人々と、すでに高等教育を卒業した上 で教師の役割を担う人々との間で、問題を解決するために知識をどのように応用していくかについて行われ 13 る双方向的なコミュニケーションである。ここで、高等教育における e ラーニングが先ず何よりも他と違う点 につき当たる。対面授業をするために地域の交通機関や建物などを利用して学生と教師を物理的に一堂に会 させる代わりに、e ラーニングではコンピューターと電気通信を利用して、インターネット上に離れて存在す るテレプレゼンスとして彼らを一ヵ所に集める。すると、インターネットが世界にまたがる媒体になるので ある。 インターネット上では、教室のドアを閉めるのは容易ではない。特定の国の中にある特定の教育機関用に 立案されたカリキュラムが、いまやグローバルな観点から綿密な吟味を受けているし、それも無理からぬこ とである。というのも、ローカルな状況におけるのと同様に、グローバルな状況においても知識がますます 専門的に応用されるようになっているからである。従来の高等教育は特定の地域に限定されたものである。 ある特定の国で医師、教師、パイロットなどになる方法や、その国の法令や法律、言語に則って仕事を進め るすべを教えるのである。だが現代の医師や教師、パイロットは国際的な慣行を知る必要がある。パイロッ トは国内だけでなく国外にも飛行するし、エイズには国境がなく、どこの国の医師にも SARS を識別できる 能力が必要である。教師にとってみれば、学生は諸外国での教育内容をチェックしているし、世界中の学生 とチャットルームでつながっている。高等教育は望むと望まざるとにかかわらず、グローバルな状況に置か れているのである。 グローバルなカリキュラム つまり、高等教育が e ラーニングを成功させるためには、カリキュラムをグローバル化することが必要なの である。 世界貿易機関は、情報サービスは世界的に取引することが可能なものであり、高等教育は情報サービスで あると見なしている。教育の世界貿易が始まった。高等教育機関に属しながら進取の気性に富んでいる人々 は、自らの講座をインターネット上に設けるようになっている。だが、世界の市場に製品を出している企業 ならよく心得ているように、製品をグローバル化するということは、ある国でうまく機能する製品を別の国 で売り出すだけの甘いものではないのである。グローバル化には、国際化とローカル化という 2 つの側面が ある。ローカル化とは、個々の国の文化、言語、法令の要求に合うようにサービスに手を加えることを意味 する。国際化とは、サービスの設計が多くの国々でローカル化できるようになっていることを保証する、と いう意味である。 現在見られる傾向は、ある国のために考案された既存の講座を取り上げ、別の国に合わせてそれに手を加 えることだが、我々は、グローバルな市場向けの企画を行った上で、それを個々の国に合わせてローカル化 する必要がある。こうすれば、教育内容を向上させられる可能性がある。どこの国であっても通用する高等 教育の基礎的講座なら、様々な国、文化、言語などという複数の観点から取り上げ直すことができる。また、 新たに発生してくるグローバルな関心事に見合った新たなカリキュラムを組むことができる。 売り手市場における基準の設定 誰がグローバルなカリキュラムの立案、認定、有効性の検証や評価を行うのだろうか?このことから、高 14 等教育の現行のパラダイムを蝕みつつある問題、すなわち基準の低下という問題が浮上してくる。 従来のカリキュラムの内容を何にするか、その評価はどのように行うかを決めているのは誰だろうか?カ リキュラムの教授に当たる者だろうか?カリキュラムを教える教育機関だろうか?類似の教育機関だろう か?公務員、政治家、大企業、学生、親たち、雇用主、一般大衆や外国だろうか?それとも、カリキュラム が取り上げる問題を扱っている国の内外の機関だろうか? 高等教育機関の学科は、こういった要素のすべてとは言わないにせよ、その大部分を理論上は考慮に入れ た講座の提案書を提出するが、教える内容をきっちりと決定し、その内容がどの程度身についているかを総 括的に測るテストや論文について決め、その採点を行うのは実際にはたいていの場合、講座を教える教師で ある。こうしたシステムは質を落としやすい。 著者が 1953 年にリーズ大学で最初の学位を取得した時、同大学の学生数は 3,000 人に満たなかった。現在 の学生数はその 10 倍を上回り、教師 1 人あたりが教える学生の数は 5.5 人から 14 人に増えている。そのこと から、著者は基準が低下したという結論を引き出す。リーズ大学の副総長はこの意見にはきっと同意しない だろうと思うが、どちらの意見が正しいかを知るすべはない。学位や卒業証書、履修の単位の質を測るグロ ーバルな基準がないのである。リーズ大学の学位がハーバード大学やマドラス大学に比べて優れているのか 劣っているのかを知る手立てはない。高等教育機関の威信の序列を示す何らかのリストが多くの国にあり、 世界の大学をランク付けするリストもあるが、その評価の基準は研究であって授業ではない。基準のない状 況の中、大学は経費を切り詰めることで、自らの置かれている新たなビジネス世界での勝敗を争っており、 「顧 客」である学生は以前よりも少ない内容に対してより多額の代償を支払っている。 高等教育機関がグローバルなレベルで競争することのできる公平な土俵を作ろうとするなら、グローバル な基準が必要になる。アダム・スミスは「人が経験から大事なことを学んだのなら、それをどこで誰から学 んだかにほとんど重要性があり得ないことは確実である」と述べている(Peacock、2001 年:6) 。アダム・ス ミス的な世界なら、講座はその取り上げる問題分野に直接にかかわっている国の内外の機関によって認定さ れ、評価されるだろう。この件に関して一番影響力をふるうにふさわしくないのは、授業を担当する人たち だろう。 アダム・スミスの世界には高等教育はまだ存在せず、 「ここをクリックして学位を買い物カゴに入れる」バ ーチャル大学によって、e ラーニングのための水はすでににごってしまっている。e ラーニングで成功しよう とするなら、高等教育は従来の教育機関で現在行われているものを上回る厳格さをもつ認定と評価を採択す る必要があろう。包括的評価と授業とを分離し、学科で扱う分野における国の内外の学会と協力してカリキ ュラムを立案し、グローバルな新基準を定めるよう努めなければならない。 世界ではいま、高等教育の爆発的な拡大が始まっている。1950 年には、高等教育機関に学籍登録されてい たのは世界で 650 万人に過ぎなかった。現在はその数が約 1 億人になっている。世界の高等教育の学生数は 年間 200 万人の割合で増えているが、これでも、新しい校舎の建設や古い校舎の拡張、人材や資源をめいっ 15 ぱい稼動させることによってやっと需要が満たされているといったところで、実需はこれをはるかに上回る。 世界の人口は今後 50 年間で 60 億人から 100 億人に増える勢いである。中等教育は急速に拡大しつつある。 発展途上国がこの隊列に加わろうとしており、高齢者も大学に行きたがる。生涯教育とは、人々がさらなる 資格を取るために戻ってくるために、高等教育が拡大することを意味している。基準を情けないほど落とさ なければ、従来の教育では全く需要に応じきれない。高等教育のさらなる世界的拡大に対処し得る能力を本 来的に備えているのは、e ラーニングの基盤技術たる情報技術である。 ウェアラブル・コンピューティング 携帯電話とラップトップ・コンピューターがあれば、著者はどこからでもいつでも、授業や個人指導を行 うことができる。著者の学生はと言えば、どこにいてもどの時間帯にいてもかまわないが、授業の時には全 員が、同じパワーポイントの画面を見ることになる。いまでは、教師と学生とのやり取りが場所とは無関係 に行われるバーチャル授業を行うことが可能になっている。我々はもはや、高等教育を拡大するために建物 を建てる必要がないし、建物や、そこに人々を集めるための交通機関を維持したり、それらに伴うインフラ を支えたりする必要がないため、コストは下がる。 著者の教える学生は 3G 携帯電話を利用し、お互いに自分がいまどこにいるか、何をしているかを映した写 真を送り合っている。彼らは、著者よりもはるかに物慣れた様子でこの技術を活用している。まるで、新た なセルラー方式の無線電話環境に通暁していることに、自らの生き残りがかかっていると感じているかのよ うである。おそらく、その感覚が正しいのだろう。現実問題として、著者が彼らに教える知識をこれから遭 遇する問題に応用しようとする時に、彼らはこの技術を利用せざるを得ないだろう。 現在「ウェアラブル・コンピューティング」という言葉が意味するのは、バックパックやハンドバッグ、 腕時計や携帯電話に入るアクセサリーとしての PC である。しかし、情報技術は小型化を進めて環境の一部に なり続けているし、史上初のナノファクトリーの開発競争が行われている。医学は、10 年以内に診断用のナ ノデバイスを導入することに力を入れている。MIT(マサチューセッツ工科大学)には、ナノテクノロジーを 軍事目的に応用するための研究機関がある。高等教育が、ナノテクを事業計画に入れ、相互に接続された何 十億ものナノコンピューターやナノトランシーバーが埋め込まれた、ドレクスラー(1990 年)描くところの ナノデータスーツを学生と教師が着込むようになる未来を考えるべき時が来ている。こういった優れたスー ツを身に着けることにより、従来の教室に入るのと同じようにバーチャル教室に足を踏み入れることができ よう。それは、この 4000 年間にわたって我々が知っていた従来の教室を大幅に改良した、全く実感的に感じ られ、体感的には現実そのものの経験となろう。たとえ我々の聴覚や視覚に問題があったとしても、全員の 姿をその居場所にかかわらずはっきりと見、その声を聞くことは少なくともできるはずである。面白みのな い古い部屋を教室にする必要はなく、授業のテーマである火山や病気の心臓、ピカソのスタジオなどにする ことが可能である。 ハイパーリアリティ こういう有能なスーツがあれば、我々はハイパーリアリティに入ることができる。ハイパーリアリティと は、早稲田大学国際情報通信センター(GITI)の寺島信義教授(早稲田大学大学院国際情報通信研究科委員 16 長)が考え出したものである。1986 年から 1996 年にかけて、日本の国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の 所長を務めた同教授は、チームリーダーとして、電話会議用にテレセンセーション(寺島、1993 年)と名づ けた一種の分散バーチャルリアリティの開発に当たった。この技術により、実際には別々の場所にいる人々 が、テレプレゼンスとして会合し、協力して共通の任務を遂行することができるようになった。それ以降、 米国でも Jaron Lanier によって、テレイマーション(Lanier、2001 年)という名のよく似たものが開発された が、寺島はこの時期までにこのコンセプトに修正を加え、1996 年には現実と仮想だけをつなげるにとどまら ず、人工知能と人間知能をもつなげる、通信の時空領域という観念に関する研究を始めた。彼はこれをハイ パーリアリティと読んだ(寺島、2001 年) 。 『 「ハイパーリアリティ(HR)とは、まるでとぎれることなく、双方向のコミュニケーションができるような やり方で仮想現実(VR)と物理的現実(PR) 、人口知能(AI)と人間知能(HI)を混交させる技術能力のこ とである。 」 「ある場所で得られた 2 次元画像を別の場所で 3 次元の仮想現実として再生することができる。 するとその 3 次元画像が、物理的現実の事物が仮想的現実の事物と同調して互いに作用し合えるようなやり 方で、物理的現実の環境の一部になり得る。このことにより、実際の活動の場にいない人々が、あたかも実 際にそこにいるようにその活動を観察し、その活動に携わることができるようになる。この技術は、物理的 にある場所に行く必要なしに、その場所にいるという経験を提供する。現実の事物と非現実の事物が同じ「空 間」に置かれて、ハイパーワールド(HW)と呼ばれる環境を創り出すのである。ここでは、想像上のもので あれ、現実のものであれ、人工的なものであれ、様々な生命体、物体や環境が、情報スーパーハイウェイを 介して様々な場所から、共働の場(Coaction Field)と呼ばれ、現実と仮想の生命体が協力し合い、相互に作用 し合える共通の作用平面に集まることができる…共働の場(Coaction Field)を一つにまとめているのが、この フィールドで共通のタスクを実行するために参加者が利用することのできる、ドメイン知識(DK)である(寺 島、2001 年、pp.4-5) 。 」 』 ハイパークラス 共働の場(Coaction Field)における知識のドメイン(領域)を、ハイパークラスで実施可能な高等教育の講 座のカリキュラムにすることが可能である。ハイパークラスとは、クラスの仮想的な要素が物理的な現実の 要素と相互に作用し合えるようなやり方で、従来のクラスが仮想のクラスと絡み合う空間であり、その要素 とは人、物、および環境、それに対面でやり取りを行う方式である(Tiffin, Rajasingham、2003 年) 。初めての ハイパークラスの実験が、1998 年にニュージーランドのヴィクトリア大学と日本の早稲田大学との間で行わ れた(寺島、2001 年) 。日本側にとってニュージーランド人は仮想であり、ニュージーランド側にとっては日 本人が仮想であった。言い換えれば、参加者が仮想であるか現実であるかは、お互いがどのような関係にあ るかに左右されたのである。このクラスは、アバター、環境と学習対象が 3 次元にあり、仮想と現実の人々 が仮想のオブジェクトを扱ったり、やり取りしたりすることのできる、一種の電話会議であった。今後のハ イパークラスには、リンクし合えるセンターや国の数を限る技術的な限界は存在しない。 Lanier によるテレイマーションの概念とは異なり、寺島によるハイパーリアリティの考え方にはさらに別の 特質がある。ハイパーリアリティは、人工知能が人間知能と相互に作用し合い、仮想現実で育てられた人工 生命を物理的な世界に入り込ませることのできる場所でもあるのである。 17 これまでのところ、AI は明確に定義された領域において応用できる、論理的−数的知能を開発してきた。 だからこそ、共働の場(Coaction Field)という HR のデバイスや、大学の学科のパラダイム的性質に合わせて AI をきわめて容易に調整することができるのである。規則や手順が明確に定められている閉鎖系として知識 を表現できる場所ならどこであっても、AI を応用することができる。 JITAIT ヴィゴツキー(1978 年)は、学習者が独力で問題を解決できないと判断すると、最近接発達領域(ZPD) が開くと主張している。可能な限り速やかにその ZPD を閉じることが教師の役割である。学生と教師の間で の双方向的なコミュニケーションが重要なのはこのためである。問題は、人間である教師が学習者に即座に 対応できるのは学習時間内においてだけであり、助力を求めている学生が 1 人の場合だけだということであ る。大人数のクラスでは、学生は教師の手が空くまで質問するのを待たなければならない。高等教育におい ては、学習が同時には行われないことが多い。学生は課題を処理してから 1 週間以上も経ってからフィード バックを得る。これは、効率的に ZPD を閉じるやり方とは言いがたい。ほとんどの学生は、難しいと感じた 事柄を忘れてしまっているからである。ジャスト・イン・タイム人工知能チューター(JITAIT)に参加してみ よう。これはその名の通り、学生が助力を必要とするならどこでも、いつでも応じられる人工知能の教師で ある(Tiffin, Rajasingham、2003 年) 。 JITAIT は、その対象となる知識領域が限定され、典型的で問題解決指向である場合に有効なエキスパート システムである。従って JITAIT は、ハイパーリアリティの共働の場(Coaction Field)のドメイン知識を構成 するテーマについての専門的チューター(個人指導教師)になることができる。JITAIT はいつでも、共働の 場(Coaction Field)にいるどの学習者に対してでも助力を与えられる態勢にあり、人間のチューターからフィ ードバックを得られれば、学習者との出会いごとに改良されるはずである。JITAIT は、学生と教師の間で反 復されるやり取りが程度の低いものなら、そのやり取りを肩代わりすることも可能である。コンピューター に標準装備されている文章校正機能によって、現在教師の手間がどれほど省かれているかを考えてみよう。 JITAIT が、個々の学生に対する個人的チューターの役割を果たすことも可能である。情報を検索し、学生 の個人的な学習計画の記録を取り、学習活動の計画を立てるのを助けることができる。オフィスシステムで は、スケジュール、会議、e-メールやワークフローを管理する、互いに連結したインテリジェント・エージェ ントがすでに使われている。世界中の大学でウェブを基盤にして行われている学習計画の立案が、こうした 展開の枠組みとなる。JITAIT にアバターやパーソナリティをもたせて、古代ギリシャの使用人兼個人チュー ターとしての教師のように、ガイド兼メンター(助言者)の役割をさせてもよい。 教えることには、3 つの階層がある。低いレベルの活動は、テストや試験、課題の中で既定の答のある部分 の採点、点数の照合、出席簿の記入やクラスのスケジュール管理などから成る。この種の機械的業務は、教 師が授業に専念できるようにコンピューター化することが可能である。 中間にあるレベルが、個人指導である。ここでは、教師が学生とやり取りをして、学生の学習を導く。そ のためには学生の言い分に耳を傾け、あるテーマとその応用をマスターする上で学生が抱えている困難を理 18 解し、実行を導き出し、説明や実演を行い、学生の実践をモニターし、宿題やテスト、試験の記述式解答を 採点し、詳細なフィードバックを行い、学生の質問に答えることが必要である。これにはマンツーマンか少 人数グループによるコミュニケーションが必要なため、授業時間が手一杯になり、教師 1 人で対処できる学 生の数を少なくする原因になる。このレベルでの作業の多くは、人間による理解を必要とするが、その多く がきわめて反復的である。学生を相手に授業をするたびに、同じ質問があり、同じ問題が起きる。このよう な場合には必ず、JITAIT が利用できる。つまり、2 番目のレベルは、人間のチューターと AI のチューターで 分担することが可能なのである。時間が経って JITAIT が頻度の高い質問をより多くこなすようになるにつれ て、JITAIT の役割は増し、基準を下げることなく、教師 1 人が担当する学生の数を徐々に増やすことが可能 になろう。 一番上のレベルは、教授や、研究、出版、経験によって学術上の名声を獲得し、授業内容の提供や内容に ついての判断を行える教授や専門家など、科目の専門家の階層である。彼らの主目的は、科目のテーマを最 新のものにし、それを周囲の状況の中に置いて考え、学生の質問を促すようなやり方で科目のテーマの総体 を伝えることである。講義によってそれを行うのである。米国の大型大学では、きわめて大人数のクラスに 講義を行えるように、個人指導を行うティーチング・アシスタントのチームがこうした教授や専門家を支え ることが珍しくない。e ラーニングを利用すれば、こうした講義を全世界に流すことが可能である。参加でき る人数に制限を設ける必要はないのだ。 給与で雇われる職員ではなく、こうして大人数を集められる教授が貴重な財産になるだろう。彼らは、作 家が出版社との間にもつような関係を大学との間にもち(Katz、1999 年、p.48) 、講座を取る学生 1 人あたり いくらというロイヤルティーの支払いを受けることも考えられる。 高等教育の普遍的特性である研究の機能 JITAIT は果たして、人間のチューターに代わり得るのだろうか、それとも教授のシミュレーションを行う ために利用することができるのだろうか?著者はここでは、高等教育の第二の普遍的特性と考えていること、 すなわち研究機能、ならびに、媒体が何であれ、研究機能のない高等教育はもはや高等教育ではないという 助言を取り上げる。 学習者は基礎教育制度から高等教育に入っていくのだが、基礎教育制度においては、応用すべく身につけ る知識が社会によって是認され、支持されている。だが、学習者は、高等教育制度から離れて、学んだ知識 を現実生活上の問題に応用する時に理論と実践の間に違いがあることを発見する。高等教育の普遍的特性と は、教えられた知識に疑問をもち、より良い方法を求めて際限なくその知識を問い直す習慣を身につけるこ とである。このことなくしては、知識はドグマになり、教育は訓練になってしまう。 高等教育における授業の本質は、知のパラダイムに対して疑問をもつ姿勢を奨励することである。高等教 育と研究とを連結すべきであり、JITAIT が決して人間のチューターや教授の代わりになり得ないのはこのた めである。JITAIT はよく尋ねられる質問に答え、すでに答の出ている課題を評価することはできるが、パラ ダイムの論理の枠組みの中でそういう作業を行うのであり、知のパラダイムに適合しない問題から生じる矛 19 盾には対処し得ないだろう。知のパラドックスに対応するためには、開かれた批評的な精神をもった人間が 必要である。 e ラーニング環境にあって JITAIT への依存度をますます高める高等教育機関は、知識の探求的な性質に対 応できるだろうか?学生から問われた質問に答えきれない場合、JITAIT はその質問を人間のチューターに回 し、そのチューターが結局のところ、今後こうした質問に答える方法を JITAIT にプログラムする。ただし、 そのチューターがその質問に答えられなければ、そのチューターは授業内容の専門家にその疑問を回し、専 門家でも答えられなければ、それが研究の基盤となる。こうしたシステムがあれば、興味深い質問を一番上 にまで上げていくことができるだろう。 要約 高等教育は、学習者が知識を様々な問題に応用でき、また自らの行っていることに疑問を呈することがで きるように、成熟した学習者と教師が相互に作用し合うコミュニケーション・システムで行われる。我々は、 この種のコミュニケーションを可能にする技術を変えつつある。我々には、他に取るべき道がない。いま、 社会が情報技術を導入するのをとどめようとすることは、19 世紀において蒸気機関の進歩を阻もうとしたよ うなものである。しかし我々は、高等教育の双方向的なコミュニケーションのプロセスを変化させることは していない。我々は今後も高等教育において問題を説明し、実証し、これに疑問を呈し、問題を与えること を続け、ピタゴラスやソクラテス、孔子や釈迦の時代からずっと続けてきたように、話し、書くことによっ てそのことを行っていくのである。我々には、他に取るべき道がない。それ以上の方法を知らないからであ る。そこで、著者は但し書きつきの結論を述べる。 高等教育における e ラーニングは、 高等教育の効率、 費用効果、 アクセス性を高める能力をもっているため、 高等教育の主要なコミュニケーション技術になるだろう。このことにより、高等教育はグローバル化され、 よりビジネス性の強いものになる。ただし e ラーニングは、我々が学び、教える方法を向上させることはしな いだろう。教育界は何が学習を引き起こすのかを、医学界が病気の原因を理解しているようにはまだ理解し ていない。その知識を得られるまでは、我々は洞穴で授業が行われていた時以来うまく機能してきた対面授 業という、昔からのやり方を手放さずにいなければならない。高等教育における e ラーニングは、旧と新のベ ストミックスを見つけ出す必要がある。仮想クラスで学生を教えようと努めて来た 20 年の間に著者が学生た ちから学んだことが 1 つあるとすればそれは、e ラーニングを経験すると学生たちは、本当の現実のもつリア リティに触れてみたがるようになるということである。 参考文献 Drexler, E.K. (1990). Engines of Creation London: Fourth Estate. Katz, R.N. (1999). ‘Competitive Strategies for Higher Education in the Information Age’ in R. N. Katz and Associates (ed) Dancing with the Devil: Information Technology and the New Competition in Higher Education San Francisco: Josey Bass Inc. Lanier, J. (2001) ‘Virtually There’, Scientific American, April 1 Peacock, A. (2001). ‘How Necessary are universities?’ IEA Journal of the Institute of Economic Affairs, 21. 3 6-11 20 Terashima, N. ( 2001). ‘Definition of HyperReality’ in J. Tiffin and N.Terashima (eds ) HyperReality; Paradigm for the Third Millenium, London and New York, Routledge Terashima, N. (1993) ‘Telesensation-a new concept for telecommunications,’ in Proceedings of TAO First International Conference on 3D images and communications technologies, Tokyo. Tiffin, J. and Rajasingham, L. (2003). The Global Virtual University, London and New York: Routledge. Vygotsky, L. S. ( 1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes, Cambridge, MA.: Harvard University Press 21 第 1 セッションまとめ 吉田 文(メディア教育開発センター教授) 第 1 セッションは、 「経営方略の条件」をテーマとし、カナダのアサバスカ大学のテリー・アンダ ーソン、イギリス公開大学のピーター・ナイト、香港公開大学のキンスン・ユエン、アメリカのテ キサス大学オースティン校のスザンナ・ハーンドンの 4 氏を迎えて、それぞれの体験と調査研究を 踏まえて論じてもらった。 アンダーソン氏は、効果的なオンライン学習のための研究を講演のトピックとし、e ラーニング を研究するにあたってはデザインベースの研究方法が有効であると提唱された。デザインベースの 研究とは、1.探求、2.立案・実行、3.ローカルなインパクトに関する評価、4.広範なインパク トに関する評価の 4 段階を経てなされるものであり、現実の場面を設計・実行して、その評価を行 い、さらに、それを別の場面で実行して有効性の検証を行いつつ実用化していくことをめざすもの だという。実用化を目的としているため、4 段階のプロセスにおいて、さまざまな「介入」の追加 削除を繰り返す点にも特徴がある。 アサバスカ大学では、対面でのチューター制度にコールセンターモデルが代替しうるものなのか に否かについてこのデザインベース研究を適用し、現在、第 2 段階まで進んでいる。そのなかで、 学生は個別学習をしながらもコミュニティを望んでいることが明らかになり、その効果的な方法を 構築していくことが課題の 1 つとなっているという。 ナイト氏は、e ラーニングの成功の鍵として 21 の条件を指摘されているが、そのうちの 7 条件に 焦点をあてて講演された。第 1 は、よき学習についての研究がなされそれが理論として体系だった ものになることである。第 2 は、新たな変化にはデメリットが伴うことを認識すべきだという。第 3 は、高等教育の成果の測定や評価は容易ではないうえに、その成果はすぐには現れないという特 質をもつため、ある程度長期的に学習経験の総体を考慮しつつ評価する必要がある。第 4 は、学習 結果をフィードバックしながら形成的な評価を行うことが重要である。第 5 は、カリキュラムのデ ザインは、新しい方法を採用すべきであり、とくに、学習環境の機会を多く用意することが重要だ という。第 6 は、メタ・カリキュラムの提唱である。すなわち、学生の学習経験全体を、教育の提 供者が理解することが必要である。第 7 が、学生が学習によって自分の能力を高め、自身を得られ るような、e ラーニング環境を実現することだという。 ユエン氏は、香港公開大学における IT 開発・利用の実態を紹介を中心に、成功のためには組織化 が重要であることを指摘された。香港公開大学では 15 年前の設立時から一定の IT 化を進めていた が、2000 年になって 3 ヵ年度の大規模な第 1 次 IT 計画をたて、e ラーニングの体制の包括的整備に 着手し、その後第 2 次計画に移行している。e ラーニング・コース、電子図書館、学籍の管理、学 生の各種手続きなど学習環境はほぼ整備され、現在力を入れているのが、スタッフに対するトレー ニングやサポートである。これを実施することによって学習の質の向上が確認されているという。 ただ、ディスカッションボード、メーリング・リスト、チャットなど双方向性を確保するための 装置が、学生に積極的には利用されていないという問題を抱えているという。これは、中国語か英 語かという言語の問題、進んで議論を好まないような文化の問題が関連していると思われるが、オ 25 ンライン上のインタラクティブ性を高めることは知識の構築にも効果的であるため、IT をインタラ クティブに利用する文化を開発することを課題としていると述べられた。 ハーンドン氏は、テキサス大学オースティン校における教授技術センター( the Center for Instructional Technology)が大学の IT 化を進める上で、重要な役割を果たしていることを具体的事例 に基づき報告された。IT センターは 1996 年に設立され、そこでは IITAP という IT を革新的に利用 した作品やプロジェクトを表彰するプログラム、マルチメディア・ワークショップという教員に対 する 1 週間の集中研修、FAST Tex という同じく教員対象のさらに高度な研修を行っている。FAST Tex については、IT スキルをもつ学生と研修のニーズがある教員とをマッチングさせて、ニーズを満た そうとするものである。この FAST Tex の需要は高く、成功を収めているプロジェクトである。CIT は 2001 年に教授活動部門や評価部門を統合し、大規模化したことによってより効率的な管理運営が 可能になった。大規模化しても、組織そのものはフラットで、常に柔軟かつ敏捷に稼動できる組織 であり、そのことが CIT の存在価値を高めているといえる。進歩の速度の速いテクノロジーに対し、 CIT では、コミュニケーションの推進、アクセスの推進を目標にし、いつでも、どこでも、どのよ うなペースでもトレーニングを提供できる体制を構築していくことが成功の条件となると述べられ た。 これら 4 氏の講演に対し、組織として e ラーニングに関わるスタッフの育成をどのように実施し ているか、年齢と相関の高い IT との親和性をどのように解決しているかなどの質問や議論がなされ た。結局のところ、経営方略の条件としては、e ラーニング調査研究を行うことと、その結果にも とづくサポート体制を構築することとまとめることができよう。これら基本的な事柄を大学組織の 合意のもとで組織的に実施することが、成功への近道であることは、すでにそれでもって成功して いる各機関の体験に基づいているだけに説得力を持つものであった。 26 デザイン・ベースの研究と遠隔教育における コール・センターの改革へのその応用 アサバスカ大学教授 Terry Anderson デザイン・ベースの調査研究とは、相対的に新しい方法論であり、また調査の取り組みであって、e ラーニング などの教育改革の展開およびアセスメントを支援するために大きな可能性をもった効果的な教育調査ツールであ る。本稿では、デザイン・ベースの調査研究の長所と短所、ならびに、コンポーネントおよび方法論の開発と内 容説明のための論理的根拠を述べる。本稿の最後にはデザイン・ベースの調査に関するケース・スタディを取り 上げる。これは、大規模な遠隔教育学部プログラムで学生サポートを高い費用効果で実施するために、コール・ センターの組織構成と技術が活用された事例である。 デザイン・ベースの調査研究は、教育調査研究における 2 つの不可欠かつ関連した特徴に注目して、戦略的な 対応として生じてきたものである。まず最初に、先立つものがないということである。教育調査研究のための公 的基金または組織の基金が乏しい事は、スケープゴートのごとく安易に指摘されている。先進国の政府が教育分 野に費やす予算は、保健衛生分野よりわずかに少ないだけであるが、この 2 つの分野に支出される金額の差は、 大きなものであり拡大している。北米で教育調査研究に支出される金額は、教育支出総額の 0.01%と見積もられ ている(Anderson, 2004)。保健衛生の調査研究の専門家は基礎および応用分野の保健衛生の調査研究については 支出総額の 3%、すなわち、教育の 30 倍を目標としている。比較のために言えば、ハイテク情報ビジネスでは、 通常、収益の 15∼20%を調査研究に支出している。もっと大きな展望で見れば、多国籍医薬品会社のファイザー は、1999 年には同社の 200 億ドルの調査研究予算のうち、2 億ドル以上を動物の処置に関する調査研究に費やし ている。この金額は合衆国政府が教育の調査研究に費やした総額の約 7 倍である(Smithsonian、1999 年 6 月、 Burkhardt & Schoenfeld、2003 年、p.3)。関連する社会的分野や民間企業と比較しても、教育の調査研究は極端な 資金不足に悩まされていることは明らかである。しかし、このことは、調査研究の生産性に関する問題の原因、 または単に症状を示すものだろうか。 この分野の 2 番目の特徴は、他の多くの専門分野や経済活動とは異なり、教育実践では、規則的な、または、 継続的な革新が見られないという点である。実践者、政治家、教員、および学習者は、学校に革新的な進歩が見 られないことに苛立っている。1922 年もの以前に、ジョン・デューイは、「学校制度が象徴しているのは考える 事ではなく、大昔の習慣の惰性に支配された思考の蔓延である」と嘆いている(Dewey, 1998)。Branson (1998) は、「教育の調査研究と展開には飛躍的な進歩があったが、過去 150 年間の標準的な学校モデルには持続可能で 管理された変化は生じなかった」と述べている(p.5)。 革新性が見られないことは、教育システムの中に効果的な調査研究と展開のためのコンポーネントが存在しな いことと直接関係する。Bereiter (2002)は、相関関係および実験的研究に基づく教育調査研究の主流モデルは、 革新性の促進と持続化にとって効率的なものではないと主張している。必然的に革新性とは、主として収支が重 視される経済性によって牽引されるものではない教育などの伝統的な枠組みにおける、変化の少ないプロセスで ある。それでも、現在の教育モデルが、生涯学習の機会に満ちた知識社会の課題と需要に対応する必要があれば、 27 持続的な革新性も必要とされる。 効果的な戦略的変化のための必須コンポーネントとは、システムの中でペダゴジー的、技術的、社会的、政治 的、および商業的な変化と機会が発展し、活用されることを保証するために、そのように企画されたシステムを 積極的に調査研究し展開することを意味する。このような効果的な調査研究と展開から深い理解が得られるが、 それは教育世界の内部から得られるものであると同時に、関連分野から移植されたものでもある。ただし、その 理解内容を実施するのに必要なコストを正当化するには、その理解内容は移転可能であり、通常の教育世界に影 響を与えるものでなければならない。Brown (1992)は、「効果的な介入というものは、現実的な技術および要 員の支援によって、我々が実施する実験的な教室から、平均的な学生と教員が参加する平均的な教室に移行可能 でなければならない」と論じている(p.143)。 教育システムの改革というチャレンジについて論じる研究者も多い(例えば、Tyack & Cuban, 1995)。Sabelli and Dede (2001)は研究者自身に批判を加えている。 調査研究から得られた深い理解と革新性は、検討すべき改善のために効果的で新しい戦略を与えるものである。 しかし、教育現場に持続的で包括的な影響を与えることはほとんどない。その理由としては、例えば、研究者は 実践者や政策立案者にとって余り興味のない周辺的な問題を重視することが多い、非常に限られたコンテキスト を研究しているので成果が一般化されて他の分野やコンテキストに応用できない、その成果発表が余りに学問的 なので教育現場の担当者を説得できるような方法で証拠の種別やプロセスの詳細を明確にしていない、革新性や 目標および適切に教室で実施されたときの実態について実践者が概念ベースで深い理解を得るのに十分な機会を 与えていない、などがあげられる。 Burkhardt and Schoenfeld (2003)は、教育に関する調査研究に対するサポートと活動が不十分なのは、産業界の 支援が乏しいこと、職業的に教育の調査研究に重きを置く教育研究者の数が少ないこと、統一的な取り組みが行 われていないこと(ヒトゲノム・プロジェクトや大規模な国際物理学プロジェクトと比較して)、および、全て の関係者の間で教育研究者の社会的有用性に対する広範囲な信頼が見られないことが原因であると述べている。 米国学術研究会議の報告書「Scientific Research Education (2002)」では、教育の調査研究は、自然科学や医学な どのもっと厳格な専門分野において、いっそう持続可能な進歩の基盤となった科学的探求のための指針原則から かけ離れたものになっていると論じられている。要約すれば、教育の効果的な調査研究を実現する文化が欠如し ているのである。 この問題を解決するための方法として、教育で何が「効果的」なのかをはっきりさせるために、ブラインド・ コントロール・グループ研究という自然科学における研究パラダイムを適用することを提案する者もいる(例え ば、http://www.w-w-c.org/の「クリアリングハウスを動かすもの」を参照)。著名な教育研究者(Slavin, 2002)や 政府基金(合衆国教育省、2002)などが推奨するいわゆる「証拠ベース」の調査研究モデルを盲目的に導入する という後ろ向きの動きではなく、本当の教育環境で継続的に変化する複合的なコンテキストに適合するような調 査研究モデルを追及することが促されている。この調査研究では、2 つの主要な教育調査研究の専門誌の特集から 指針を得ている。 すなわち、 The Journal of the Instructional Sciences(13, 1, 2004) と Educational Researcher(32, 1, 2003) であり、その特集では、主としてデザイン・ベースの調査研究として知られている新たな調査研究の方法論が取 28 り上げられている。以下の節ではこの方法論の概要を説明し、デザイン・ベースの調査研究の定義と実践に係わ り、議論の的でもある 2、3 の問題を取り扱う。 デザイン・ベースの調査研究とは何か? デザイン・ベースの調査研究とは、教育の運用現場への介入に関して、体系的および多面的な開発と評価に重点 を置く教育の調査研究について、その実施のために開発された 1 つの方法論である。それは、実験室的な環境で の調査研究とは対照的に、実際の用途における介入を調査するという、自然論的な調査研究の要請を共有するも のである。アクション・リサーチと同様に、実践活動を行う専門家が明らかにした実際的問題に関する作業も後 で必要になる。デザイン・ベースの調査研究では、教育の実践者と訓練を受けた研究者の提携が必要となる。また、 多忙な研究者に調査研究の負担をかけることの多いアクション・リサーチとは異なり、この提携では全ての参加 者が仕事量と専門知識を共有できる。デザイン・ベースの調査研究では、さまざまなコンテキストで絶えず変化す る介入活動をさまざまに応用して反復実施する必要があるため、相対的に長期の活動が必要になる。従って、介 入自体(独立変数とみなす)が後続の応用活動では変更・改善され、異なるコンテキストに適合されるものであ るから、比較研究というもっと固定的な形式とは区別されるものである。 デザイン・ベースの調査研究の各段階 Bannan-Ritland (2003)はデザイン・ベースの調査研究に含まれる 4 つの段階を説明し、それらを教育調査や刊 行物というもっと伝統的な形態に対応させた。この 4 段階の特徴的な部分を以下に論じる。 第 1 段階は「情報提供のある探求(informed exploration)」と呼ばれる。この段階では、介入の企画のために、 理論的推定や専門家や参加者からの情報提供が用いられる。また、Dewey がアイデアルと呼んだ理想概念の探求 にも焦点が当てられる。アイデアルとは、そこからアクションが誘発されるような完全な形式主義を意味するの ではなく、実際のコンテキストで試されるべき作業上の仮説を生み出す不完全な動機要因である。Dewey はこの ようなアイデアルの本質について、「星のようであり、我々はそれに従って舵を取るが、それを目指すわけでは ない」と解説している(Dewey, 1971b, p.262)。言い換えれば、アイデアルとはビジョン、ガイド、および測定の 物差しのコンポーネントを提供するものであり、それらによって、現実のコンテキストの裏付けをもって、アイ デアル自体が測定されるのである。Dewey は、また、アイデアルの相互的な影響、および、実際のコンテキスト においてその機能がもたらす結果についても述べている。「主導的な概念は作業を導き、明確にするものでなけ ればならない。作業は、理論を批判し、修正し、構築するものでなければならない」(Dewey, 1971a) EW 5:288 第 2 段階は「立案・実行(enactment)」であり、デザインと制作決定の文書化に留意して、介入が構成される。 これは、調査研究の中でも、特に目立つ段階である。予算の大部分はこの段階で費やされることが多く、介入の 設計および構築に必要なコストや期間に注意が払われる。介入のコストと複雑性は、プログラム開発者やマルチ メディアの専門家のチームが係わる大規模な構築プロセスから、非技術的な介入に焦点を当てたペダゴジー的な 改革にいたるまで、多岐にわたる。この制作プロセスは、通常、そのプロジェクト管理段階と合わせて、明確に 定義され、監視される。1 つの革新プロセスまたは 1 つの単純な学習活動のみが開発されるような余り公式的では ない問題の場合は、この構造的構築の第 2 段階は、説明や連絡の容易な調査研究の一部とされることが多い。 第 3 段階は「ローカルなコンテキストの中の評価(evaluation within a local context)」と呼ばれ、多様な定性的お 29 よび定量的な測定方法を使用して、デザインの対象である本来のコンテキストへの介入によって生じる複数の影 響が評価される。この極めて重要な段階では、評価用のツールが作成され、介入による意図された結果、および、 予期しなかった結果の双方が記述され、監視され、また、評価される。通常、定性的および定量的な測定方法の 双方を組み合わせて、参加者の生活に介入することの意味に関連して、もっと解釈の余地のある、ならびに、も っと客観的なデータが収集される。 最後の段階は「広範なインパクトに関する評価(broader impact evaluation)」と呼ばれ、介入は複数のコンテキ ストについて研究され、いっそう大規模で一般化されたコンテキストについて、その影響が理論化され、改善す るための努力がなされる(Collins, Joseph & Bielaczyc, 2004)。このフェーズでは、介入効果の大規模な一般化が追 求され、それぞれの固有の教育的コンテキストの具体的な特徴が介入の有効性に影響を与える方法や手段につい て、その知識が深められる。Dewey が述べたように、この最終段階における調査研究は、全てのコンテキストで 同等の効果をもって機能する一般理論やコンテキストに依存しない原則を置き換えることを目標とするものでは ない。むしろ、我々は、デザインの結果は、デザインが運用される条件を反映することを認める。この第 4 段階 から期待すべきことは、効果的な学習が生じるように、コンテキストと介入を理解し、調整するためのツールを 得ることにある。Dewey はこの第 4 段階の結果についても警告を行っている。「一般的な理念は、行動の方向と 拡大に最大の価値を置くものであるが、そこには危険も存在する。具体的な事例を参照することとは無関係に、 それ自身が固定したものとして確立される傾向にある」(Ethics、1932、LW 7:232)。Dewey は、新たな意味、価 値、および態度は、それらが実生活の中で具現化され、持続されたときにのみ、学校で文化として根付くもので あることを認めていた。この要件を考えれば、一方的に教室でのテストのために押し付けられ、実験が終了する やいなや研究者と一緒に消えて行くような調査研究は評価されないことになる。このような介入の多様な応用例 の中に、個人に対する顕著な影響、変化の要因、リーダーシップ、および革新に対する他の多くの文化的な影響 が関係しているのが分かる。デザイン・ベースの調査研究は、汎用的な解決方法を求めるものではなく、ローカル なコンテキストにおいて改善に影響を与えるような要因、および、革新に対する深い理解を追及するものである。 デザイン・ベースの方法は、4 つの全ての段階に余裕を与え、その複数の反復実施を促すものであり、介入が継 続して展開し、発展することにつながるものである。実際に、Bereiter (2002)は、デザイン・ベースの調査研究 を「革新的なデザインのさらなるサイクルにフィードバックされるべき知見を生じさせる任意の種別のデザイン」 として定義している。明らかに、第4段階のコンテキストから生じるアイデアルは、再生された第 1 段階におけ るさらなる研究を導くためのアイデアルとなる。ただし、どのフェーズの後でも、先行する段階の開始時点より も、我々の知識は豊富になる。従って、デザイン・ベースの調査研究プロジェクトのフェーズを通して反復する たびに、巡回的に知識は成長する。しかし、現場ベースの全ての自然論的な調査研究と同様に、デザイン・ベース の調査研究は事前に企画された経路を辿ることはほとんどない。従って、介入の発生が形式的な方法で展開され、 テストされる第 2 および第 3 段階の間には、特に反復の実施が期待されることになる。 デザイン・ベースの調査研究を定性的な形容詞に基づいて定義している著者もいる。そのような形容詞とは、 「反 復性の」、「プロセス中心の」、「介入主義者の」、「コラボレーションの」、「マルチレベルの」、「有用性 指向の」、「理論先行型の」、そして「生成的な」などである(Shavelson, Phillips, Towne, & Feuer, 2003)。Berieter (2002)は、デザイン・ベースの調査研究は、まだ実現されていない可能性のビジョンによって牽引されるもので あり、それゆえに、緊急の目標とデザインの柔軟性によって特徴づけられるものであると付け加えている。デザ 30 イン・ベースの調査研究は、明確な定義、アプローチ、専門語、文法、および理論的な支柱に欠けるものとして、 その反対者によって批判されてきた(Kelly, 2004)。比較的新しく、急激な展開と発展が見られる方法論に対して は、批判が行われるのは至極当然である。ただし、デザイン・ベースの調査研究は本来的にプラグマティックなも のであるから、その実践者は、現在のところ、広範囲な取り組みのもとに、認識論や存在論の支柱を詳細に研究 しようという気はないようである。 デザイン・ベースの調査研究は、形式的評価という表現を難しくしただけのもではない。この表現を最初に使用 した研究者として引用されることの多い Ann Brown (1992)は、デザイン・ベースの調査研究とは、現実世界の コンテキスト内で、反復的な介入を行うことであるとみなしていた。実践者との連携によって、デザイン・ベース の調査研究者は、反復的な改善を実施し、異なるコンテキストでテストし、理論の適用と拡張の間で前後に進み、 また、もっと多様なコンテキストにおける効果的な使用のために、コンテキスト的な基礎はあるが、推定や修正 が可能な理論的な洞察内容の詳細な説明に務めることで、介入を洗練されたものにすることができる。デザイン・ ベースの調査研究の方法とは、理論の先行的な応用、および、文献の翻案や専門家の審査に係わるものである。 それは、理論の構築を目的とする形式的な審査や、複数のコンテキストにわたって革新と持続性を理解し、支援 する努力を超えたものである。 デザイン・ベースの方法論がアメリカ国内のコンテキストで主として発展してきたことは驚くべきことではな い。デザイン・ベースの調査研究は、William James や John Dewey など、アメリカ人のプラグマティック理論と実 践を基盤とする哲学に基づくものである。幻想にすぎないグランド・デザインや、日常のコンテキストを超越す る理論を探求するのではなく、デザイン・ベースの調査研究は日常的な問題の実際的な解決に焦点を当てるもので ある。Dewey や James の立場では、「真実の問題」とは、理念が重要な問題の解決に実際的に貢献することを探 求することで、間接的に解決されるものである。Dewey は、「真実に関する短い教義問答」(1910)において、 次のように雄弁に語っている。 「プラグマチストは、真のプラグマティックな意味において自分の理論が真実であると主張する。それは効果 があり、困難な問題を明らかにし、障碍を取り除き、もっと実験的で、より教条的でなく、より無秩序・無神論 的でない人生との関係に個人を入らせるものであり、哲学的方法を科学的方法と並列させるものであり、認識論 に関して自ら発生させた問題を放棄させるものであり、論理的な理論を明確にし、再構成させるものである。プ ラグマチストは、自分の理論の真実がこのように多様な方法で効果を発揮するという点に依存することで満足し、 また、静的で、分析不可能、検証不可能であり効果のない資産を誇りをもって所有するという態度は主知主義者 に委ねることで満足している(Dewey, 1910)」 Dewey の理論もデザイン・ベースの研究も、知識が実践的に有用であることを求めている。そこで、次の節で は、この例をあげることにする。カナダの公開大学であるアサバスカ大学の自主的なコース参加学生の支援のた めに開発された革新的実践に対する、デザイン・ベースの調査研究の応用を述べる。 デザイン・ベースの調査研究のコール・センターの事例 遠隔教育における継続的かつ経費のかかる問題とは、効果的で費用効果の高い学生支援サービスである。この ようなサービスには、要員的、学術的、管理的、および財務的な援助が含まれる。このようなサービスが、学生 31 の学業継続、満足度、および、プログラムの成功などの遠隔教育システムの重要な成功指標と関連することが、 多くの証拠によって示されている(Tait & Mills, 2002; Kenworthy, 2003; Phillips & Hawkins, 2003)。 遠隔教育において個人ごとの学習形態を支援する際に、学生支援実施のための伝統的なモデルでは、研究プロ グラムの枠内で、コース毎に各学生にアカデミック・チュータが割り当てられることになる。このチュータは、 学術的な個人指導、助言、およびアセスメントに責任をもち、また、学生とあるタイプの関係をもち、それを発 展させることになる。これに加えて、チュータは、学生が何らかの問題に関心をもったときに、その解決または 調査のために最初に連絡すべき相手となる。このような解決方法は、多くの理由によって問題を生じやすい。大 学は職員に「学生と連絡可能な状態」にあることで手当てを支払っているのであるが、チュータに自分から連絡 する学生はほとんどいない(Coldeway, 1991)。第 2 に、チュータがコースの内容だけでなく、管理や事務的な無 数の問題について適切な知識をもつことは不可能に近いが、この後者こそ多くの場合、学生にとって関心の高い 問題なのである(Phillips et al., 2003)。チュータの訓練が実施され、まだ発展段階にあってしばしば不適切な情報 システムが使用されたりしているが、チュータの業務が分散されたものであり、パートタイム的に実施されるの が普通であるから、効果的で継続的な業務中のトレーニング実施は不可能になる。従って、チュータは学生の多 くの関心事に適切に備えることができなくなるものである。将来の介入については、チュータを支える使い易い 知識管理システム構築のために設計されたシステムが、長期的な解決策になると思われる。最後に、チュータの 対話活動と支援の品質を改善することは容易な課題ではないし、測定することですら容易ではない。それは、対 話活動とは、通常、プライベートな問題であり、教育機関の監督の対象とはなっていないからである。この課題 は、費用効果の高いサポートを顧客に提供することを本質とする多くの民間業務と異なるものではなく、それゆ えに、遠隔教育の教育者と、消費者を対象とする営業・支援組織の双方が、ともにサービスの改善を目標として 業務革新を遂行し、同時に、コストを抑制・削減しようとしているのである。今日までに出現した最もよく知ら れたソリューションは、電話のコール・センターである。 Woudstra とその同僚は、分散した顧客が必要とするときに、助言、情報、および関連知識を提供するために、 マシンと人間を結合させる革新技術として、コール・センターを定義した(Woudstra, Huber & Michalczuk, 2004、 「消費者ビジネスのセンター」)。 アサバスカ大学のコール・センターの介入 本研究のコンテキストを設定するために、筆者はアサバスカ大学の大学院ビジネス・プログラムを簡単に調べ ることにした。このプログラムは大学院プログラムとしては最大規模のものであり、毎年 11,000 名が受講してい る。世界の遠隔教育プログラムとは異なり、受講生と大学の距離を考えれば、また、いずれのロケーションにお いても学業放棄の割合が少ないことから、対面的なインタラクションは不可能または不要とされている。さらに、 このプログラムは継続的な学内プログラムであり、学生はいつでも受講登録が可能であり、自分のペースで学業 を続けることができる(最長 2 年間)。アサバスカ大学では伝統的に、学生サポートは電話を手段とするもので あったが、最近ではチュータとの電子メールによるインタラクションも可能となった。チュータは電話応答のた めに 1 週間に2 時間は「電話待ち」の体制に入り、電子メールには 48 時間以内に回答することが義務付けられて いる。1994 年に導入された介入活動の一環として、民間の顧客サービス分野のカスタマ・サポート業務で主流と なったコール・センターをモデルとして、コール・センターが設立された。現在、コール・センターはアサバス カで運用されており(ビジネス・スクール内に総合案内センター、コンピュータ・ヘルプ・デスク、およびチュ 32 ータ・サービスが設けられている)、それぞれのセンターの運用詳細はだいたい似通っている。1 週間に 1 日だけ 学生がチュータと会話できるという体制ではなく、学生は今や 1 週間に 60 時間は通話または電子メールでチュー タとインタラクションすることができる。しかも、特別なチュータを相手にするのではなく、大学院のビジネス・ アドバイザともインタラクション可能である。アドバイザはチュータのように個人的に学生を知っているわけで はないが、アサバスカ大学のビジネス・スクールは熟知している。すなわち、そのコース、カリキュラム、事務 要件、および、ビジネス・スクールに入学した学生の過去 10 年間の質問に対する回答などをアドバイザは与える ことができるのである。 さて、アサバスカのコール・センター・プロジェクトに戻って、この介入活動に係わるデザイン・ベースの調査 研究のデザインに、それぞれのフェーズがどのように統合されたかを説明することにする。情報収集による研究 段階では、コール・センターの理論と実践は、主に消費者サポート業務における応用を中心として研究・審査され ることになった。主要な関係者は、各地のコール・センターを訪問して取材調査を行った。また、他の定性的デ ータも収集された。コール・センターは、その他の多様なアプリケーションで反復して使用され、他のコンテキ ストにも転用されるものであるから、イデオロギー的な関心、意欲の問題、単純作業の潜在的な影響、およびコ ール・センター・アプリケーションにおける予期せぬ他の結果を知るために、再び探求のフェーズに戻ることにす る。(Bain, Watson, Mulvey, Taylor, & Gall, 2002、Taylor, Hyman, Mulvey, & Bain, 2002、Dilevko, 2001、などを参照の こと) 我々は学生とコール・センター要員および技術とのインタラクションが、どのように、従来の他の関係者 とのインタラクションに取って代わるものとなったかも認識している。このような置き替えは、特に、規模の変 化を生じさせる場合は、我々自身にとってそうであるように、公開大学でも特に関心がもたれている。既に議論 したことであるが(Anderson, 2003b、Anderson, 2003a)、費用のかかる学生対教員のインタラクションを、学生対 コンテンツおよび学生対学生の対話で置き換えるために、効果的なサポートを提供する遠隔教育の提供に係わる モデルを開発することは、必要な進歩を意味する。特に、学習を「コース」を超えて継続させる生涯学習では、 このことが当てはまる。このような知識、ならびに、実践を通して獲得された深い理解によって、関係資料はい っそう豊富なものとなり、部外者にも有益なものとなる(Woudstra, Huber & Michalczuk, 2004、Adria & Chowdhury, 2002、Adria & Woudstra, 2001、Alpern & Carr P.D., 2000、を参照のこと)。 2 番目の実施段階では、標準的な質問への回答のために、Lotus Notes アプリケーションを構築して必要なデータ ベースの提供を行った。また、質問の種別を調査するために、監視システムも開発した。ただし、残念なことに、 このシステム製作に関するデータは十分に収集することはできなかったので、コスト、スケジュール、および設 計仕様については、ほとんど詳細なデータが残されなかった。このようなデータが存在しないことによって、ど こかで同じ革新的な実践を行う際には、必ず困難な問題が生じるものと思われる。ただし、Lotus プラットフォー ムの上に構築された商用製品は、我々が初期の開発で構築したシステムよりも品質が高く、費用効果の高いツー ルとなることは確認できた。このようにして、我々は多くの革新的な取り組みによって、何度も反復作業を実施 し、コール・センターのソフトウェアを更新した。これは、デザイン・ベースの革新的取り組みの採用・開発と整 合性をもつ戦略である。最後に、試験システムが実施され、試験研究に係わる学生と正規の学生を対象として、 その結果が調査された。 第 3 の評価段階では、定性的および定量的データの双方が収集される。最も重要なポイントは、全てのインタ ラクション(電話から電子メールにいたるまで)がデータベースで監視されるということである。このデータベ 33 ースは教職員や事務担当者が Web ブラウザを使用して検索することができ、教職員は、対話型の質問、照会、お よび指導中の学生の関心事の種別などを、継続的かつ必要に応じて、チェックすることができる。このようなデ ータは数年間にわたって監視でき、我々の実践にさらに必要な情報を提供するような長期的なデータ収集活動が 可能となる。この情報源は、チュータと学生のインタラクションが時間とともに失われるような「ブラック・ホ ール」型の実践とは大きな対照をなすものである。コール・センターが出現する以前は、学生の関心事の発生頻 度、満足、およびソリューションに関連する包括的なデータを収集することは、困難な課題であった。デザイン・ ベースの調査研究のローカルな評価段階では、学習者支援サービスに対する学生の満足度が毎年評価され、その 分析によって、伝統的なチュータの指導を受ける学生と、コール・センターの援助を受ける学生の差異が明らか にされる。このような調査から、全般的な満足度については、大きな差異が存在しないことが明らかになってい る(Athabasca University, 2003)。また、この革新的取り組みによって、スクール・オブ・ビジネスは毎年10 万ド ルの経費節減を達成している(Woudstra, Huber & Michalczuk, 2004)。ただし、学生(およびチュータ)の中には、 一人のチュータが限られた数の学生に割り当てられるという慣行が懐かしいと言う者もいる。 また、我々はコール・センターが分裂をもたらす技術であることも学んだ。チュータやその組合は、彼らの業 務範囲が縮小し、そのために補償が必要になるとの懸念を表明している。現在、コール・センターは学生の関心 事の 80%を処理し、学生の質問のうちわずか 20%が回答のために教員や研究者に転送されているだけである。こ のような質問は、他の質問と合わせて当然監視されており、解決に要する時間は表にまとめられ、その回答は FAQ ファイルとしてチュータとコール・センターのアドバイザの双方が利用できるようになっている。長期の履修完 了率および学業成績に対するこの革新的取り組みの影響、および、研究者や教員、チュータ、およびアドバイザ 要員の勤務条件に対する影響を調査するために、さらにデザイン・ベースの調査研究としての作業が必要である。 システムにデータ収集機能が統合されているため、実践者は自分の作業を監視するように促されている。これは、 行動促進のために、および、もっと理論的な調査研究に関する問題発見とプロジェクト実施のために、直ちに利 用可能なツールとなるものである。その理由は、学生に直接影響を与える教育システムのどの部分においても、 さらなる革新が学生の照会行動に与える影響を、職員はこのような機能を用いて容易にチェックすることができ るからである。 デザイン・ベースの研究における最後の、すなわち 4 番目の「広範なインパクト(broader impact)」フェーズ は、この研究例で進行中のものである。初期プロジェクトの結果、ならびに、さまざまな反復活動の影響は、今 後も収集され公開される予定である (Woudstra, Huber & Michalczuk, 2004、 Woudstra & Adria, 2003、 Adria et al., 2001) 。 既に述べたように、我々のコンピュータ・ヘルプ・デスク部署や総合大学アドバイザリ・サービス部署にも同様 のコール・センターを設けている。また、学外からの訪問者も多く、彼らは訪問後、自分達の大学の遠隔教育用 コール・センターを、アサバスカ大学のモデルに基づいて構築している。他の教育機関でどのようなコール・セ ンターが運用されているかについては報告書が公開されているため、それらを我々が開発したコール・センター 方式と比較するのは有益であろう(Hitch & MacBrayne, 2003、MacBrayne, 2003)。革新的取り組みの最前線に位置 する問題は、事務管理の関係者を超えて、効果的な学術的および人事サポートのために、コール・センターがど の程度までサービスを提供できるかという問題である。最後に、調査研究の結果を公開することで、異なるコン テキストにおける反復実施が可能となり、結果を遠隔教育コミュニティ全体で共有できることになるので、さら なる研究と革新の進展が可能となる。 34 結論 最後に、e ラーニングの課題に対するデザイン・ベースの調査研究の取り組みの長所と短所を明らかにすること も有益である。最も顕著な長所は、実践と理論、および、研究者と実践者の間で再統合をもたらした点であろう。 デザイン・ベースの調査研究は現場で実行されるものであり、実践者が係わる 4 つの段階全てにおける積極的な情 報提供と参加に依存するものである。第 2 に、デザイン・ベースの調査研究には積極的な介入が含まれる。我々は 理解し、文書化し、解釈するだけでなく、教育的実践とチャンスに変化をもたらし、改善することを目標とする。 第 3 に、デザイン・ベースの調査研究は特別な方法論やイデオロギーに依存するものではない。それは、理解と実 践を向上させるために、どのようなものであれ利用可能なツールと技術を駆使して、実際の問題にプラグマティ ックに適合することである。今後のデザイン・ベースの調査研究は、方法論的に中立なものとして述べることもで きる。ただし、方法論が無力だというわけではない。どのフェーズにおいても、適切であれば、非常に厳格な定 性的および定量的な方法を使用することができる。 デザイン・ベースの調査研究は困難な課題でもある。それは短期の実践ではなく、また、多くの場合、基金団体 やその監督委員会が求めるように、明確な展望をもって事前に定義できるものでもない。第 2 に、今日のデザイ ン・ベースの調査研究では、その活動や結果を特定し、正当化するのに役立つ明瞭で統一的な用語が使用されてい ない。単一の世界観にしても、または、学習が実行される態様に関する認識論的な理解にしても、それが介入の デザインまたはそのアセスメントのガイドとなるものではない。従って、新しいデザイン・ベースの研究者は、頼 るべき正確な海図もなく、可能性の海の中で波と戦っていると言えよう。もっとも、豊富な資金や卓越した管理 によるデザイン・ベースの調査研究を通して、我々の能力をさらに向上させることで教育を革新し、改善すること で、このような問題は解決され、教育研究はレベルアップされて「違いをもたらす研究」となるのである。 参照文献 Adria, M., & 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Athabasca: Athabasca University Press. 37 高等教育における e ラーニング:成功のための 21 の条件 イギリス公開大学教育工学研究所所長 Peter Knight 概略 私が現在関心を寄せているのは e ラーニングによる革新を成功させること、つまり、よく練られた カリキュラムにおいて、効果的な革新を最大限にもたらす新技術を活用していかに学習を強化するか である。論点は次の 4 つに大別される。まず一つ目の論点として、e ラーニングの問題は学習そのも のの問題であることを主張したい。学習に関する間違った思考は、やはり間違った e ラーニングをも たらすものである。二つ目は、教育に関する膨大な研究が、十分な変化の達成を困難にしている点で ある。三つ目の論点では、成功した e ラーニングの特徴的な 11 の条件について言及する。最後に成 功のための長期的な条件をさらに 5 つ挙げて終わりとする。 良質な e ラーニングは学習に対する良質な思考に由来するという最初のテーマに戻ってプレビュー を終わるが、学生に何を学んで欲しいかも尋ねることにする。教育者として明確な目標を持たなけれ ば、いかなる教育者としての原則も成功のための条件も得ることができない。 基本的な 3 つの条件 まず、最初の論点は、我々がカリキュラムの効果的な考案や、ペタゴジーの選択、学習技術の配備 に不可欠な学習者の学習方法を理解する必要があるという点である。彼らにはそれぞれ異なった学習 形態があるという点に関しては不確かだが、学習を促進する我々の取り組みには大いに確信のもてる 研究成果がでている。私は繰り返し以下の研究を引用している。 ・ スキル学習や計画的な学習に関する Ohlsson の研究(1995 年)。 ・ 強力な学習環境の創出に関する van Merrienboer と Paas の研究(2003 年)。 ・ 形式にとらわれない学習がいかに重要かを示した Eraut の研究。 ・ 教育的な努力をスキル育成に注ぐことによって、 知識経済 がつくり出されるという考えに挑 んだ Warhurst の研究(2004 年)。 以降、Pascarella と Terenszini の 2005 年の著作の多くに言及する。例えばその 12 章には次のように 書かれている。「1990 年以降に発表された研究には、教室の内外での学生の経験は、我々が理解 し始めたばかりという点で、学生の経験する変化と発達を形成する複雑な過程の要素と相互連結し ていることを指摘している。」 また、以下のような彼らの見解に対する注意も引き出したい。 この分野(技術を介した遠隔教育)に関する現在の研究は、概して非論理的で、方法論的に精巧さ に欠けている。 39 Warhurst と彼の同僚たちによる著書では、学習を一連の社会的実践とする解釈によって、最近まで この分野で支配的だった心理学ベースの学習理論を補完する傾向を興味深く表現している。この分野 には新技術が著しい寄与をしている。今では、オンラインで共有知識をデザインし、社会的存在を発 展させる方法において重要な専門技術を使えるので(Wallace、2003 年)、学習連合(Learning Federation)(2003 年)は、オートメーション化したマルチメディア利用のフィードバックを、教授 デザインにおける一連の重要な研究課題と捉えている。 当然、学習環境は実践される学習に影響を及ぼすことになる。このことは Wenger(1998 年)によ って既に証明されている。とはいえ Engestrom(2000 年)の研究は、Vygotsky の考え方に大いに基づ き、この解釈に役立つような影響力を展開している。その一つの関連性として、現場で有用な学習形 態の可能性をあげている。すなわち、英国のコンサルティング会社であるエピックグループの Clark と Hooley(2003 年)による調査は、現場で実践するにはオンライン学習が最も適していると結論付 けている。 他には、ある学習環境から、単純化すべく他の環境への学習転換を期待すべきではないことも示唆 している。いくぶん学問的裏づけに欠ける心理学では、 重要な および 一般的な スキルを学生 が持つことや、現場であるいは社会人として新しい学習モデルを新しい環境で始動させることは、非 常に容易なことと思われてきた。こうした中で、学習の転換は容易であるというよりむしろ苦労を伴 うものであることを示す多くの研究が発表された。そして、英国での我々の研究では、雇用主が社内 の新卒者に関して不平を言うとき、彼らはしばしば学習の転換結果の犠牲者であると考えている (Knight、Yorke、2004 年)のが分かる。一般に高等教育や e ラーニングの経済的成果に対する貢献 を望むならば、教育の転換効果に関する我々の理解を促し、それに対処する学生を援助するようなカ リキュラムを設計することが研究に求められている。 学生が学ぶ大学での教科の慣習と仕事現場でのミスマッチのために、学習の転換は一部の学生にと って、とりわけ困難なものになるだろう。もっとも、Becher と Trowler は、同じ教科の分野内にもそ うした差異が見られることを一言しているが(2001 年)、異なる教科分野間では、期待されるもの と実際の間に相当の差異があることは長い間認識されていた。教科間の差異に関する有用な概略は、 Neumann、Parry、Becher によって発表され(2004 年)、カリキュラム、評価、認知目的、教師の集 団的特徴、指導方法の類型、学生の学習の必要要件を論じている。e ラーニングに限って英国の経験 を言えば、e ラーニングは学問の文化と一致するものであり、そのように認識されなければならない。 もし、Neumann らが述べた4つの類型の間に相当な差異がある場合には、オンラインでの会議開催 に対する取り組みは、一つの教科では成功するかもしれないが、他の教科では成功するとは限らない と結論付けることになる。 e ラーニングを成功させるための、最初の3つの条件は次のとおりである。 条件 1:学習の効果および社会的側面が重視されるとき、成功の可能性は最も大きくなる。我々が直 面する最大の課題の一つは、世界中に分散する e ラーニングの学生が、所属意識を持ち、コミュニテ ィの一員として自覚できるように援助することである。 40 条件 2:異なる教科の分野は、それぞれの教科が価値ある知識として重視されるべきものに基づいて 異なる概念の周囲に組織化されること。これにより、学習内容の重点についても差異が生じ、学習者 にかかる要求内容も異なってくる。 条件 3:e ラーニングが構成教科のコミュニティの文化に順応する優れた学習実践を創造するとき、 成功の可能性は最も大きくなる。 e ラーニングの導入を成功させるには、次の 2 つの問題に対する答えを用意していなければならな い。学習と学習者はどのように組織化されるのか? そして学生には何を学んで欲しいのか? 私は 第一の問題に関しては、学習の社会的本質と学習環境の重要性を強調することで回答してきたが、二 つ目の問題については本稿の最後で述べる。 強力なアトラクターと、変化を達成することの困難性 e ラーニングを成功させるための、さらなる2つの条件は見過ごしがちである。革新者はこの2つ の条件に取り組まない限り、期待外れの結果を招くことになるだろう。 第一に、革新は常に有益ではないということを思い起こす必要がある。非同時的なディスカッショ ンに費やされた学習時間は、対面式のディスカッションには利用できない。また、対面式での学習作 業に関連する社会的実践は重要で、感情的な知性(Goleman、1998 年)もまた財産であることには多 くの賛意があるので、コンピュータを介したコミュニケーションが対面式の相互作用に取って変わら れたら、我々は何かを失うことになるだろう。これは、 新カリキュラムの学生 が、新カリキュラ ムが重視したものは出来が良いが、旧カリキュラムが重視したものは出来が良くないということを明 らかにした Walker と Schafferzick によるカリキュラム刷新に関する分析(1974 年)と一致する。この 分析によると、旧カリキュラムの学生は、旧カリキュラムが重視したものはよく出来るが、新カリキ ュラムが奨励するものは不得意なように考えられるのである。例えば e ラーニングの一層の利用とい った革新にはマイナス面もプラス面もある。e ラーニングが適さない課題もあれば、e ラーニングな らではできる課題もある。革新を行う者は、マイナス面のない革新というものは有り得ないというこ とを認めるべきである。 第二に、 学生の変化と進歩を形成する複雑な過程 に関する Pascarella と Terenzini の観察を想起 するのも有益である。複雑な思考(例えば van Geert、1994 年、を参照)は、一度持続的なパターン に定着したシステムを変えるのは、非常に難しいことを教えてくれる。革新は ー 強力なアトラクタ と競うことになる。このアトラクターは既成のシステムを継続させる作用因であり、革新の衝撃 を軽減しようとし続けるものである。図 1 では学位のシステムを簡略化したモデルを検討する。 41 Tools: discursive practices, operating procedures, rooms and equipment etc. Subject: the individual team member making decisions and taking action Rules and conventions: validation procedures, professional ethics, quality audit and enhancement, recurrent practices, assumptions etc. Object: the BA course and the students on it. Community of practice: the members comprising the activity system Division of labour: manager, course leader, technicians, teachers etc. 図1:Engestrom による活動システムとして表された学位プログラム(2000 年) ツール:広範囲にわたる実践、機能している手続き、教室、設備など 客体:意思決定を行う個々のチームの構成員 主体:英国学士院(BA)の課程と学生 規則と慣習:確認の手続き、専門的倫理、質の検査と向上、周期的な実践、仮定など 実践するコミュニティ:活動システムの構成要素 分業:マネジャー、コースリーダー、専門家、教師など このシステムにはさまざまな期待が込められていることを思い出してほしい。 主体 とされてい る学生は、学習や教科指導、学位の価値、そしておそらくは彼らのキャリアに対する期待感とともに 大学に入学するだろう。そこでは、広範囲にわたる実践、分業、質の向上、将来の安定に対する計画、 さらに多くの要因が 強力なアトラクター として作用し、これら既存の安定を脅かす革新を弱体さ せるのである。Fullan は変化に関する研究(1999 年、2001 年)によって、実践の変革を望む場合は システムの複数の特徴を直ちに変革する計画を立てる必要があるという結論に達した。つまり複合的 な面に対する取り組みが必要になる。一つの問題の変革に集中せずに、変化の影響の予測可能性を想 定しないことが肝要である。中には予測しがちな傾向もあるが、複雑なシステムは概して予測できな いものである。 次に e ラーニングを成功させるための 2 つの条件を挙げる。 条件 4:革新はある種の学習を促進させるが、他の種の学習に対しては逆効果をもたらすこともある。 もしこれが課題分野で容認されなければ、その時革新は批判されることになる。 42 条件 5:革新者が活動システムのさまざまな側面を変革できれば、成功の可能性は最も大きくなる。 単一の問題に関わる革新活動は問題を生じさせる。革新者は複数のターゲットを狙う革新性を推進す ることで、成功の可能性が高まることを自覚すべきである。 e ラーニングによる革新の成功に特徴的な条件 このセクションでは、e ラーニングに特徴的な諸条件を述べる。遠隔学習を望む万人に開かれた遠 隔学習の大学として、約 30 年前に設立された英国のオープン・ユニバ−シティー(OU)にしばしば 言及する。印刷教材は今も使用されているが、現在の学生にはコンピュータにアクセスできることが 望まれ、OU ではオンラインによる教科指導、管理運営、評価、支援がますます増加している。 OU での我々の経験は、オンラインによる遠隔学習(OLDL : Online Distance Learning)に関心を高 めている多くの大学にも関連がある。その中で役立つ教訓の一つに、伝統的な講議形式に比べて OLDL では柔軟性をもたせることが非常に難しいということである。私が対面式で講議していたとき は、教え方をほぼその場で 調整 し、順応できた。登録や評価、評点の記録のシステムが故障した ときに、次善策を実行するのは容易であった。(Bowker と Star、1999 年)。また、必要に応じて学 生と直接話し合いながら、彼らのボディランゲージに気付けるので、柔軟な学生への支援を行うこと ができた。一方 OLDL では、あらゆる可能性を設計段階で見越す必要がある。印刷教材よりもオン ライン教材は改訂が非常に容易なので、印刷媒体を使った遠隔学習よりも厳密ではない。しかし、 OLDL の講座やプログラムの準備コストは従来の大学の数倍かかり、諸問題やシステムの欠点、学生 のニーズに対して従来のように柔軟性を持たせることができない。この理由として、次のようないく つかのポイントが背景にあるが、それらは最終セクションで述べる必要がないほど簡単なことである。 条件 6:費用効果が高い e ラーニングの供給を行うこと。新しい技術の導入にかかる費用はほとんど そのコストが下がらないので、しばしば経費をある財務会計から他の会計に移し、その過程でコスト が増大することもある。その解決策として、OU はオープンソースを利用し、我々のリソースをより よく管理する可能性を探る。そのためにデジタル著作権管理システムの開発を行い、ページの自動割 付に投資し、さらにはリバージョニングに対する努力も怠らない。その努力の行使は、学習目的に基 づいたコースやカリキュラムの構築に関して高まる関心によって後押しされている。また、セマンテ ィック技術はますます魅力を高め、メタ・データを創出する従来のカタログ制作にかかる高いコスト を抑えているが、より良いメタ・データもこれまで以上に重要になるだろう。 我々が以前に出版し、支給した教材を学生にプリントアウトさせるなどして、学生に軽率に出費させ ないように気をつける必要がある。 条件 7:堅牢なシステムを適正に構築すること。オンライン学習の配信における教授法の課題に比べ て、運営管理は、すべてその不確定性のため大学にとっては明らかに素早い成功を得られる宝庫のよ うなものである。つまり登録や通信、オンライン会議の支援、評価、大学の記録システムへの評点や 成績の転送を行うオンラインシステムの構築は容易なはずである。しかしながら、我々は年間 20 万 人の学生を受け入れる実務を行い、その大半の時間を費やしているために、その仕事は非常に単純と 43 いうわけではなく、簡単にコンピュータで処理されているわけではない。我々独自のソフトウェア制 作に関連するコストも過度なものになる。多くの大学が、オンラインで機能する 24/7(一日 24 時間、 一週間)のサービスを学生に提供していると主張しているが、学生が学内にいるときでも我々はシス テムに欠陥があってはいけないと監視し、信頼性の高い 24/7 のサービスを全学生に配信しなければ ならない。 条件 8:e ラーニングそれ自体が変更されると想定すると、電子講義ノートや録音された会議、電子 掲示板がまったく信頼できなくなるので、e ラーニングはよく練られた学習のシーケンスに従って他 の学習方式と融合されるべきである。e ラーニング単独では、学生に育ませたい成果をまったく促進 しない。例えば、e ラーニングだけで絶えず良い結果を育むことができ、雇用主に評価され、英国の 大学教員によって保証されるような学位を考えてみよう(表 1 参照)。 表 1 英国の雇用主に評価され、大学教員にも総合的に保証された学力(Harvey らの研究/1997 年、 Brenman らの研究/2001 年、を基に作成) 評価される学力/達成度 説明 学習意欲 たとえ新奇で、困難な又はいらだたしい状況で も、学習意欲とは単に仕事をし終えるだけではな い。その過程で自発的に学ぼうとする意欲であ る。 “非実際的”な創造性を意味するかもしれないが、し ばしば再考の余裕のない問題解決に当たって想像 力、すなわち強制的な創造力を意味することもあ る。 “自分にふさわしくない”と考えられるような、新た な仕事も試みる心意気。 頑固や孤立主義とは異なるもので、間近で見守ら れ監視される必要がなくても、学習作業やチーム の優先事を上手く進めることができることを意味 する。 しゃべりっぱなしや、何かを取り仕切ることを意 味するような作業ではない。チームで果たすべき 異なる役割に関する Belbin のリストを知っておく ことは有用である。 さまざまな方法があるが、ある環境やチームにと って、他よりも適切なものもある。 学部学生がプレッシャーとは何かを知らないこと もしばしばである。 さまざまな目的のためにさまざまな人間との間で 行われる。廊下での立ち話は、優れた正式な講演 を行うのと同様に重要である。 簡潔できびきびした文体であること。 想像力/創造性 適応性/柔軟性 他に依存しない仕事/自律性 チーム作業 他人の管理 プレッシャーの下での学習作業 優れたオーラル・コミュニケーショ ン さまざまな目的と聞き手のための文 書によるコミュニケーション 細部に対する注意 学部での教育はしばしば“全体的な展望”を奨励す る。 44 時間管理 責任と意思決定 出席と時間厳守すべきことは別にして、この時間 管理は優先順位付けと、利用可能な時間に作業を 適合させることも含む。 多くの学部のカリキュラムでは一般的ではない。 プランニング、調整、組織の構成 多くの学部のカリキュラムでは一般的ではない。 ここには、私が立ち返りたいポイント、つまり、学習のシーケンスについて大いに考える必要性があ る。ドイツ、アメリカ、日本の学校における数学の教育法に関する Stigler と Hiebart の研究は(1999 年)、優れた学生の学習経験が関連づけられるのは教師の教授技術の熟達ではなく、むしろこれらの 技術で組み立てられた学習のシーケンスであったことを示している。:シーケンスの問題。 表1のリストに挙げた結果の多くは複雑で、徐々に他の結果に加わって現れることを意味している。 つまり、長期的なプランニングが要求されている。数週間だけ継続するようなシーケンスではなく、 学部のカリキュラム全体を通じて続く長期的なシーケンスを考える必要がある。 表1の複雑な結果を促進する長期的にわたる一連の学習経験(Briggs 他、2003 年)を提供する他の 教授方法と e ラーニングを、今までのところ融合させているかは明らかではない。別の言い方をすれ ば、我々は表1のような学力結果を促進するさまざま計画的な学習経験の基になる、 ュラム を真剣に考えているのだろうか? メタ・カリキ 社会人であることやエンプロイアビリティ(就業能力) の重要性(Yorke と Knight、2004 年)を考えると、これは懸念すべき問題である。 条件 9:我々の生産コストが高い理由の一つは、カリキュラムが学科の専門家や学習の専門家、技術 担当者、メディア企画者の共同作業による結果である。これはすべての大学にとっては理想と言える かもしれないが、大学のコースは、ほとんど手工業企業のような個人によって開発されているのが現 状である。この手工業企業の成果は小規模で、しばしば技能知識に基づくため、全体のカリキュラム 構造から分断されることもある。コースの設計に対するこの手工業的な方法は、個々の熱意に基づい て創造力を活かせる利点はあるが、過度の質的な流動性と、コースの内容がカリキュラムから懸け離 れているという不利な点もある。 この共同作業は、たとえそのリソースを後ろ楯に利用できるとしても容易なものではない。例えば、 技術担当者と教師の関心事は異なり、それぞれ別のものを優先する必要がある。その結果、あまりに も簡単に設置されてしまった教育媒体に関する、教育的な問題を耳にしたのだが、技術担当者が複雑 なオンラインの双方向ソフトウェアの提供を早期に計画する必要があったことが原因である。 条件 10:カリキュラムはその裏づけとなるデータを示し、教育機関その他の調査に基づくものであ ること。社会科学で利用できないほど不安な裏付けデータに基づく実践を拒み、それよりも専門家を 媒介にした裏付けのあるデータに基づく実践を支持する。そうした裏付けデータの大部分は、さまざ 45 まな大学、恐らくはさまざまな国においても利用できるほどの大規模で総合的な調査に基づいたもの である。 さらに、特定の教育機関における学生の学習経験に関する調査の必要性もある。というのも、例えば 多くの OLDL 供給者が、学生の学習継続に関して問題を抱えている。我々オープン・ユニバーシテ ィーの学生調査部ではこの件に関する大規模な調査を実施した結果、 ドロップアウト に関連する 要因を明らかにし、学習継続率の高いコースを考案することを可能にしたのである(Ashbly/2004 年、Simpson/2004 年)。 このようなコースを設計するには、学生、そして恐らくは教師の特定グループの学習経験に関する裏 付けデータに基づかなければならないという主張は、e ラーニングを成功させるために学習に関する 効果的な思考に基づかねばならないという、我々の始めの主張を繰り替えしている。 条件 11:コースの企画は家内工業的に行うべきものではない。自分のことで精一杯の教師ではメ タ・カリキュラムを十分に扱い切れないというのが理由の一つである。モデルやツールは最良の意見 を具現化し、コースチームがしなくてはならない意思決定の範囲を軽減する。問題は、これらのモデ ルやツールがなすべき役割に同意が得られていないことである。カリキュラムの企画段階でも時折応 用される、合理的なカリキュラム計画の方法は、学習の複雑な成果を促進するにも適さず、人材開発 の不確かな方針を考慮に入れても、格別十分には機能を果たさないということが言える。一層営利的 であることは、Goodyear によって支持された(2002 年)ような指導に従うことであると私は思う。 彼は、やるべきことは、学生にも扱える学習のシーケンスの試行や設計よりもむしろ、ある種類の幅 広い結果に有利なアフォーダンスをつくり出すことであると主張している(もちろん、新たな考え方 と昔ながらのルーチンに関する調査(Knight、1989 年)は、設計者が論理的に理解できても学習者は 心理的に理解できないことを気付かせてくれるけれども、演習とスキル習得が目標であるような大学 は例外である)。 条件 12:最初からコースの企画者は、拡張性について配慮すること。定員 50 名のコースと、オンラ イン設備 24/7 にアクセスできる 5000 名が受講予定のコースの設計では明らかに大きく違う。たとえ ば多数の学生に柔軟なジャストインタイムで配信を請け負うと費用がかかる。 条件 13:可能な限り、学習作業は対話型であること。フィードバックは迅速に行われ、重点的であ り、前向きであること。学生の学習の評価に関する調査は、信頼性への関心と評価作業の範囲を広げ る関心から変わっている。成績に影響のない、形成的な評価が学習能力を大きく高めるという認識に 至っている(Black と Wiliam、1998 年)。Gibbs と Simpson(2004 年)は学習を促進する評価を利用 するために 11 の原則を設定し、その一つは、有用なフィードバックには迅速性が求められることと している。学習者を指導し、オンデマンドな評価を支援するために、新たな技術の導入で迅速なフィ ードバックを提供することは可能なはずである。しかしながら、表2は、もし Neumann や Parry、 Becher の類型が、評価支援の可能性の上に配置されていれば、コンピュータによって向上した評価 は、今後たびたび採用されるよりもむしろ制限される方が多くなることを示している。多くの分野で、 46 セマンティック技術が大きく発展しない限り、迅速で有用なフィードバックは今後関わる人たちがも たらさなければいけない。非常に理論的な自然科学の分野でさえ、ソフトウェアのカスタマイズや、 信頼性と妥当性の技術基準をもつクエスチョンバンクの提供の際に必要とされる投資や、 そして 学生に試験を実施するに十分な投資が重要なのである。また、信頼性の高い妥当な審査は、成績に影 響のある目的での評価には極めて重要だが、それは一般には明確に特定できる解答を持っている事実 に基づく学習作業と関連していることにも注目してほしい。 表2 コンピュータ援用での様々な領域における評価 領域 援用の分野 ハードな純科 ハ ー ド な 応 学の教科 用科学の教 科 使用されてい 使 用 さ れ て 運営管理 いる。 処 理 作 業 や 得 る。 点、評定の記録 1 ETMA を扱う評 使用されてい 使 用 さ れ て いる。 価、画面上での る。 採点、携帯電話 で配信されるメ モなど 調停役をするチ 使用されてい 使 用 さ れ て いる。 ューターのフィ る。 ードバックのタ イプ。(例)電 子教育係 MCQ を使った自 使用されてい 知 識 ベ ー ス 動評価※2 る。 での確認に 使用されて いる。 MCQ を使った自 使用されてい 比 量 的 な 形 態が現在抱 動評価※3 る。 えている多 く の 問 題 は、MCQ や SAQ の形態 でかたちを 変えるかも しれない。 47 ソ フ ト な 純 科 ソフトな応用科学の教 学の教科 科 使 用 さ れ て い 使用されている。 る。 使用されてい るが、画面上 での採点は困 難かもしれな い。 使用されてい る。 MCQ はまれに 使用され、評 価にも使用さ れない。 SAQ は 広 く知 ら れ て お ら ず、広く使用 されてない。 ここには潜在 性がある。 使用されているが、画 面上での採点は困難か もしれない。 使用されている。 知識ベースによる学習 者の把握力のチェック は別にして、MCQ は まれに使用される。 SAQ は広く知られてお らず、広く使用されて ない。医学教育は、こ こにかなりの潜在性が あることを示唆してい る。 比量的な回答を 比量的な作業 比 量 的 な 作 利用した自動評 はあまり一般 業 の 代 わ り に、しばし 的でない。 価 ば 優 れ た MCQ や SAQ が利用 される。 セマンティ ック技術の 調査をする 価 値 が あ る。 ア メ リ カ で は、短い、副 次 学 位 課 程 ( sub-degree ) の学習作業に 対しては、非 常に成功しが たい。 セマンティッ ク技術が解決 してくれるか もしれない。 比量的な評価作業の代 わりに、優れた MCQ や SAQ が利用される ことがある。 セマンティック技術の 調査をする価値があ る。 注:影をつけた部分は、最もコンピュータ援用による評価に取り組みやすい分野であることを示して いる。 ※1 コースはカリキュラムの学習単位か他の要素である。カリキュラムは学習単位の集合である。 ※2 この用語は、解答が確実に正誤で評定され、あるいは、他の決められた評価がすべての解答に 対して確実に割り当てられるあらゆる学習作業タイプに適用されるために漠然と使用されている。 ※3 アメリカでレポートの評価に使われている e レイター(評価者)や ITS システムは、短い解答 の問題に確実な評定技術を提供してくれるかもしれない。 前向きな方針では、多くのシミュレーションやゲーム、他の双方向的な作業のシーケンスを創出する ので、カリキュラムの信頼性と妥当性の高い基準の獲得や、対話型学習に学生を従事させようと心配 する必要はあまりない。ここではゲーム技術も重要になるかもしれない。 条件 14:評価は、 すべての コースの学習目的を強化すべきものという考えは広く支持されてい るが、私もこの見解をあまねく支持し、学生が評価される学習作業に集中することには満足している が、評価があまりに簡略なので学生の学習に対する固有の関心などを見落としている。 私は、すべてのコースの学習目的の評価は、成績に影響の多い評価(評定や得点は公に判定される)、 影響の少ない評価(業績成果を向上させる目的のフィードバックは非公式に行われる)、双方向的な 学習作業(学生は学習作業に従事し、省察を通じて自身のフィードバックをつくり出す)によって判 断すべきことを提案する。 学生は、評定されない課題には真剣に取り組まないと言われることがある。これが正しければ、カリ キュラムの学習文化に悪影響を与えるが、特に成績への影響の少ない学習や双方向的な学習作業にお いて穏当な修了がコースの履修単位に必須となっていれば心配はない。 条件 15:学習者は十分な援助を受けていると感じること。コースやカリキュラムの継続を断念する 学生の意思決定は主として感情的になされるので、教育者側のより効果的な支援と時宜を得た介入が 48 学生の継続と定着率を増大させる(Simpson、2004 年)。ここで問題になるのは、オンラインでの個 人化された状態でこのような援助をどのように行うかである。一般的なメッセージを学生全員に送信 し、一般化されたオンデマンドな助言を提供する バッチ処理 システムの構築には何の問題もない。 これらのシステムは重要だが、問題はこのような一般的な回答で適切に答えてくれないことで、我々 オープン・ユニバーシティーでは、学生は学習者のグループに所属し、比喩的な意味ではチューター に属したいのだと結論付けた。個人化する技術の進歩は目覚ましいが、我々の考えは現在のところ、 電話や電子メール、対面での相互作業と融合させる必要があるというものである。 条件 16:コースの評価は企画段階から始まること。これによって、関係者全員が早期に問題を認識 し、継続的な品質改良、すなわち「カイゼン」に貢献できることになる。コースやカリキュラムを成 功させる方法を考えている企画チームでは、成功を刺激しそうなアフォーダンスが効果的な流れの中 で適切に置かれているか確認できるので、より良い企画を立てることができる。累積的な評価の立案 に加えて、モニタリング(入学以来の学生の学力に関する裏付けデータの収集)や形成的評価の調整 も検討されるべきである。コースやカリキュラムの改善を促進するという目的に適ったあらゆる裏付 けデータの収集や利用が目的なので、形成的評価はあまり早くから始めるべきではない。換言すれば、 e ラーニングは、それ自体であるいは他の学習形態と合わせて行っても、継続的な質の向上への努力 が見られるところで、成功の可能性は一層高まるのである。 e ラーニングを成功させるための長期的な条件 以下の 4 つの条件をこれ以上発展させるつもりはない。これらの条件は早い段階で本稿にすべて暗に 語られており、特に推敲を必要としない。 条件 17:強力なアイデアやルーチンを多様な学習環境に容易に適用させるために必要なツールの開発。 条件 18:シミュレーションとゲームの一層の活用。 条件 19:問題に基づいた学習の促進。 条件 20:もっと多くの対話性、すなわち、学習者とソフトウェア、学習者同士、および学習者と教 員の間の対話の機会を増やすこと。 最後に 条件 21:高等教育において良い現場学習から学生が利益を得ること、雇用主がそれを認めているこ と、専門知識が陳腐化するという恐れは我々教育者全員が職場での学習を継続するよう要求されてい るという事実がある。私たちは上質な現場学習に有益なものは多数知っているが(Blacwell 他/2001 年、Bailey 他/2004 年)、雇用主が評価し、表1で要約されているような複雑な利点(属性、質、 あるいは学力)の発展を支援するeラーニングの活用については多くを知らない。eラーニングはシ 49 ミュレーションや指導教材を配信する媒体としての大きな潜在能力を持っているが、これだけが e ラ ーニングのもつ最大限の能力ならば、eラーニングは学習媒体として制約されるだろう。 eラーニング成功のための条件は、現場学習の豊かな可能性を支援する、よく練られたシーケンスに eラーニングを効果的に配置することである。 最後に、マクロ的なレベルの問題、つまり何を学ぶべきかという問題に再び立ち返ってみたい。私は、 メタ・カリキュラムと集合的に記述され、雇用主によって市民であるために評価されるさまざまな複 雑な学力について提案したが、2つの達成過程が省略されていた。Marzano によって導き出された重 要なメタ分析(1998 年)は、効果的な学習に最も重要な要因としてメタ認知と 自己システム を 挙げている。自己システムとは、自己理論と制御と効果の位置に関する考えを扱う漠然とした用語で ある。後の著作(Marzano 他、2000 年)では、メタ分析が活かされており、教室での指導に対する 11 のさまざまな方法を助言しながら有益な学習活動に注力している。Knight と Yorke の研究(2004 年)は、これら二つの要因はエンプロイアビリティを育成するカリキュラムでは真剣に捉える必要が あることを主張し、その実行のための提案を行っている。 私は、これらの要因はメタ・カリキュラムに加えられるべきだと考えている。 表1のリストにある学力に取り組まず、メタ認知も促進せず、自己システムの発達のためのアフォー ダンスも持たないが、上出来のeラーニング革新を成功に結び付けて考えることは確かに可能だ (Dweck、1999 年)。これらの要素に注意を払わないeラーニングでも確かにそれなりの価値があ るだろう。 しかし、このメタ・カリキュラムを支援する強力な教授法があるという見解を考えてみよう。当然な がらeラーニング革新を成功させる最後の条件は、効果的な学習に貢献し、変容の戦略的媒介に発展 できる戦術的な取り組み以上に行動すること、ということになるだろう。(Harvey と Knight、1996 年) それは間違いなく高等教育が関わることであり、Pascarella と Terenzini によると、最も優れた大学が 行うことなのである。 私は終わりに当たって次の疑問を掲げよう。 いかにして e ラーニングは変容を促すことができるの か? 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(2004, forthcoming) Curricula for economic and social gain, Higher Education. 52 コース配信における IT の利用:香港公開大学の経験 香港公開大学教育工学・出版課長 Kin Sun Yuen 背景 香港公開大学(OUHK)は、社会人を対象に遠隔学習方式による第三段階教育の機会を増やすことを 目的として 1989 年に創設された。また、財政的に独立することがもう一つの目標として掲げられた。こ のため当大学は、ビジネス的な手法で運営されている。 OUHK は公開参加型の方針をとっているため、18 歳以上の者は誰でも大学のコースに入学できる。コ ースの教材は主たる学習源ではあるが、OUHK は学習プロセスにおけるチュータ・サポートの重要性も 強調する。チュータ・サポートには、 (a) 学生の宿題を採点しコメントを付記すること、 (b) 定期的 に直接対面して個別指導を実施すること(問題の解決や討論、その他の対話的学習活動など) 、 (c) 電 話や、最新の方法ではオンライン・ディスカッションを通じて個別化されたサポートを提供すること、 などが含まれる。現在 OUHK には、520 名の常勤職員(他に 1,000 名の非常勤講師)と 20,000 名を超え る学生が在籍している。 遠隔学習市場で競争力維持を図ろうとする当大学では、新たな学生の獲得や資源の共有、コミュニケ ーションの活発化、コラボレーションならびに組織的なチームワークの育成を支援するものとして、IT の戦略的な重要性を認識している。大学では、遠隔学習に IT を活用することにより、指導の品が向上し、 柔軟性が高まってより多くの学生が利用するようになり、長期的にはコストの削減も期待できると確信 している。 OUHK は、その設立当初より、IT を幅広く活用し、学生にとって効率的で快適な学習環境の構築、学 習支援サービスの改善、および大学の管理業務の向上に努めている。 OUHK における IT 開発 1989 年の設立当初より、OUHK は各職員にパーソナル・コンピュータを配布する方針を設けてきた。 当大学は 2 度の移転を経て 1996 年に Homantin キャンパスに落ち着くことになったが、この時以来、イ ンターネットに接続し、職員間の標準的なコミュニケーション手段として電子メールを利用している。 特定用途向けに構築され Homantin キャンパスは、高速インターネット・アクセスを提供するための最先 端のキャンパス・ネットワーク・バックボーンを用いて設計された。 1990 年代を通していくつかの重要な IT 構想がスタートしたが、そのいずれも遠隔学習の距離感を克服 し、学生に必要な資源を提供することで効果的に学習できるようにするのが狙いであった。こうした構 想の中には、当大学が開発した CD-ROM やオンラインコース、1998 年に賞を獲得した「電子図書館」 の構築などがある。 53 1997 年、大学における新技術の利用に関するすべての活動の監督と調整を目的として、技術開発局長 の上級職が設けられた。このポストは 2000 年に副学長クラスに昇格されている。 教育における技術利用への取り組みの一環として、OUHK の最初の IT 開発計画がスタートしたのは 2000 年 1 月である。これは IT を 4 つの重要なエリア、すなわち学生の教育、学生支援サービス、職員の 支援とトレーニング、外部との関係の強化に活用するために開発された包括的な計画であった。2002 年 末に最初の計画が完了したのを受け、初回の成果をベースに現在第二次 IT 開発計画が進められている。 大学における主要な IT 開発は、これら 2 つの IT 計画に含まれていたプロジェクトの成果である。 今日、教育と学習を推進する情報技術の事前対応的な利用を通じて、公開大学は最新かつ最も学生に 親しまれる教育方式を駆使し、より柔軟で利便性に優れた、これまでにない品質のコースを提供してい る。以下は大学における IT の開発と利用、および利用に関する評価を具体的に述べたものである。 オンライン学習環境 学習の観点から見て、OUHK の最も重要な業績の一つは、大学のオンライン教育環境(OLE:Online Learning Environment)の開発であった。1999 年にスタートした OLE は、英語と中国語のコースについ て 2 つの個別のプラットフォームで運営された。OLE が提供する機能は絶えず拡張され、システムは今、 一つのバイリンガル・マルチメディア・プラットフォームとして確立するための過渡期にある。2004 年 10 月で OUHK が提供するコース数は 371 となるが、そのうち 287 は OLE からのアクセスが可能となる 予定である。OUHK のオンラインコースには、ストリーミング・ビデオやオーディオ、アニメーション、 シミュレーション、マルチメディアによるデモンストレーションなど、豊富なコンテンツが用意されて いる(http://ole/ouhk.edu.hk にアクセスするとサンプルとして 3 つのオンラインコースの視聴が可能) 。 但し大学では、印刷物、オーディオ、ビデオ、コンピュータ・プログラム(CD-ROM に添付) 、テレビ 放送といった従来型の学習メディアも引き続き提供している。 代表的な OUHK オンラインコースのコンポーネントは、ニュース、コース教材、課題、対話ツール、 学習スケジュール・ツールで構成されている。OLE を利用することで、学生は(a) 大学で最新の問題 を意識するようになる、次回の学習課題の通知を受ける、 (b) マルチメディア・コースのコンテンツを 学習し、コンピュータ評価式の試験を受ける、ソフトウェアをダウンロードする、提供されたリンクを 通じて有益なウェブサイトにアクセスする、 (c) オンライン・ディスカッションや電子メールを通じて インタラクティブな学習活動に参加したり、仲間やチュータとアカデミックな問題について議論できる、 (d) 宿題を送信し、その採点結果を返信してもらう、 (e) 学習スケジュール・ツールを利用して学習 計画を立てる、といった活動が可能となる。コースの中にはライブのオンライン・チュートリアルがあ る。事実、オンラインコースに参加する学生は、希望すれば、全部ではないにしてもオンライン学習活 動の大半を消化することが可能である。 当校の学生は、OLE が提供する機能についてどのような感想を持っているだろうか。 54 アクセスのパターン 2003 年に OLE に関する調査を実施した。これは OLE システム自体が作成したデータと、アンケート を通じてユーザ(学生、チュータ、コースコーディネータ)から収集したフィードバックを基にしてい る(2003 年 Chow と Siaw より報告) 。調査結果から、平均的な学生の大半は、週に 1∼2 回 OLE にログ インしていることが明らかとなった。表 1 は、2002 年 10 月の一カ月間に OLE にログインした学生数を 表している。 表 1. OLE の利用状況(2002 年 10 月) 学部 文学及び社会科学 学生数 ログインした学生数 2 279 1 349 (59.20%) ビジネスと経営管理 2 705 2 513 (92.90%) 教育と言語 260 167 (64.23%) 科学技術 4 239 3 920 (92.47%) 合計 9 483 7 931 (83.63%) OLE へのログインが不要なコースもいくつかあるが、一部の学部のログイン率が低いのはこのためであ る。 オンライン・コースの教材 OLE を利用する学生の満足度は極めて高く、平均アクセス率は 84%である。学生の大半はインターネ ットによるコース情報の配信を歓迎している。しかしほとんどの学生は、OLE を通じて提供されるコー ス教材に対して、あまり利便性は感じていないことが分かった。画面を通じての学習を好まないためで ある。一方、海外に出張したり、オフィスで勉強する学生は、オンラインコース教材を利用しやすいと 感じている。インターネット上の情報源へのリンクは有益であると評価する学生もいる。また、印刷教 材の発行が遅れていても、オンライン版の教材ならすぐに入手することもできる。 コンピュータ支援型コミュニケーション OLE では、コース・コーディネータ、チュータ、学生同士が円滑にコミュニケーションを図れるよう に、ディスカッション・ボードや電子メール、チャット、ホワイトボード機能などを提供している。こ うしたコンピュータ支援型のコミュニケーション形態は、コラボレーションや建設的学習に向けた環境 55 を作るものとして、多くの現場で採用されている。ところが我々の調査によれば、OLE のコンピュータ 支援型コミュニケーション・ツールはあまり活用されていないことが分かった。表 2 は OLE のディスカ ッション・ボードの利用状況を示している(メッセージの閲覧と投稿の両方について)。 表 2. OLE のディスカッション・ボード利用状況(2002 年 10 月) メッセージを閲覧 メッセージを投稿 学部 する学生数 投 稿 メ ッ セ ー ジ 参加型学生一人 当たりの平均 の総数 する学生数 メッセージ数 文学および 1,050 204 社会科学 (64.07%) (8.95%) ビジネスと 2,336 565 経営管理 (86.36%) (20.89%) 教育と言語 117 (45.00%) 科学技術 1,572 4,338 7.68 55 3.24 18,611 11.83 24,486 10.38 (37.08%) 7,068 (74,53%) 7.26 (6.54%) 3,565 (84.10%) 合計 17 1,482 2,358 (24.87%) これによると、オンライン学習者の大半はラーカー(閲覧や購読目的だけのユーザー)であり、積極 的に参加したり投稿を行う学生ではない。つまり、メッセージを読む学生の数は、メッセーを投稿する 学生よりもはるかに少ないのである。しかしラーカーは、少数の積極的な参加者によって提供された質 問やそのフィードバックを読むことで利点が得られことも事実である。これは香港の学生を対象とした 同様の調査結果とも一致している(Robertshaw 2002 年度)。 積極的な参加者が少ない理由としては、コースの特性が挙げられる。例えば、教育修士課程の学生は、 コース教材の範囲が極めて広く膨大な学習量であるため、オンライン・ディスカッションに参加する時 間がほとんどないと述べている。一方極めて高い参加率を示したのは MBA の学生で、 「彼らは学位を取 るだけでなく、様々な知識の吸収に積極的である」というのがその理由である(Shin 2002 年)。 上記以外の OLE ディスカッションへの参加率が低い要因としては、以下の点が挙げられる。 時間 - 学習時間が限られている。学生は、オンライン・ディスカッションに参加するよりも、コース教 材の学習や課題への取り組みにより多くの時間を割きたいと考えている。 任意性 - オンライン・ディスカッションへの参加はコース必修ではなく、成績の評価にも影響しない。 コミュニケーションの一手段でしかない。 56 姿勢と文化 - オンライン・ディスカッションは学習効果を高めるものではないと考える学生や、習慣と なった自分の従来の学習スタイルにこだわる学生もいる。また、ディスカッション・ボードに自分の質 問を掲載するような環境になじめない学生もいる。彼らは電子メールや電話を使って個人的にチュータ に質問する方を好むのである(Ng, 2001 も参照) 。アジアの学生は一般に自分を表に出すことが少なく、 オープン・ディスカッションには慣れていない。 言語のスキル - 学生の英語に対する習熟度は、メッセージ投稿の積極性に影響を与える。彼らはメッ セージ文中に間違いがあることを恐れて投稿する気になれない。これが電話の使用を好むもう一つの理 由となっている。 対話レベル - 自分の投稿したメッセージに全くレス(回答)が付かないと、オンライン・ディスカッシ ョンに対する関心も薄れる。 技術的要因 - 調査によると、当校の学生の 98%はインターネットを使用しており、その約 80%はブロー ドバンド経由である(Chung 2003 年を参照) 。しかし一部の少数の学生はインターネットを利用していな い。中には「コンピュータ恐怖症」や、十分なコンピュータ(IT)リテラシーを持たない学生もいる。 これが利用率を低下させる一因となっている。 したがって当大学では、一方でオンライン学習に適したあらゆる機能を提供する最新技術を運用して はいるものの、他方このシステムは、我々がオンラインに期待するほどには活用されていないのが現状 である。この問題に対する一つの解決策は、コンピュータ支援型コミュニケーションを当校のすべての コースに統合することであるが、これは(a) 全学生にインターネットへのアクセスを義務付ける、 (b) オンライン・ディスカッションが必修となり成績の評価に反映される、ことを意味する。チュータは、 単なるインストラクターではなく、学生の学習プロセスの良き進行役となるようにトレーニングを積ま なければならない。 オンライン学生サポート・サービス OUHK は、IT 計画の成果として学生サポート・サービスを大幅に強化してきた。当校の電子図書館は、 学習や研究に役立つ豊富な資源のコレクションであり、インターネットを通じて 24 時間アクセス可能で ある。 1,000 を超える学術雑誌のデータベースと 13,000 タイトルにおよぶ英語と中国語の書籍もすべてデ ジタル化され、全文検索が可能である。学生の利用者数は着実に伸びており、現在電子図書館のヒット 率は毎月 600,000 件を超えている。 今や学生は、OUHK ウェブサイトを通じて、コースへの参加や授業料の支払い、学費ローンの申請、 チュートリアル・グループの選択、成績の確認、個人情報の更新、十分な履修単位を取得した場合の学 位の申請などを行うことができる。こうしたオンライン・サービスを利用する学生の反応は極めて肯定 的である。e レジストレーション(電子登録)を利用した学生の割合は、この 3 年間で上昇の一途をたど っている(表 3 を参照)。 57 表 3. e レジストレーションを利用した学生の推移 2002 年4月 2003 年4月 2004 年4月 1,894 2,868 3,134 5,593 5,576 5,529 33.86% 51.43% 56.68% e レジストレーション を利用した学生数 この期間中の総登録 件数 パーセンテージ 2004 年 4 月、非常勤職員と常勤職員同士の主たるコミュニケーション手段として、従来の郵便に代わり 電子メールが導入された。この方針を適用して以降も特に問題は起こっていないため、2004 年 10 月に はこの要件を学生に拡張する予定である。電子メールを最も効果的にコミュニケーションに活用するた めのガイドラインも作成されている。新しい方針が郵便料金のコスト引き下げに貢献することは間違い なく(年間 160 万香港ドル、または約 20 万米ドルと予想) 、また、学生と大学とのコミュニケーション がさらに効率化できる点も重要である。 IT 支援と職員のトレーニング 職員間の IT 利用を支援することも、IT 計画の重要な機能である。新しい IT システムの使用に当たり、 職員に対するガイダンスとトレーニングが必要であることを我々は認識している。例えば、チュータは 当校の「チュータ向けオンライン・トレーニング」を通じて、e モデレーティング・スキルを身に付けな ければならない。彼らは、オンライン・ディスカッション・ボードを使って討論を進めたり質問に答え たりするだけでなく、オンライン向けチュートリアルの作成方法も学ぶ。 この 3 年間で、40 を超える校内 IT トレーニング・コースと Web 技術に関するセミナーが開催され、 IT トレーニングの内約 5,000 時間は毎年職員が受講している。 OUHK における IT 開発の評価 IT 計画で支出した費用は 1 億 220 万香港ドル(1,310 万米ドル)であった。IT システムの責任者に目 標の達成度合いをたずねると、プロジェクトの 40%はすべての目標を達成し、30%は目標の大半を達成 したと答えた。IT 開発は、システムのユーザが認めているように、いくつかの点で発展をもたらした。 IT を利用した新しいサービスは、学生に提供するサービスの質を高めた。オンライン学習環境(OLE) や学生ポータル、電子ライブラリはその一例であり、これらはいずれも、高度なサポートおよびコミュ ニケーション機能を通じて、新たな学習手段と方式を推進するものである。また、いくつかの管理業務 の効率性も同じように向上している。 IT 計画のいくつかのプロジェクトは、大学と学生、そして職員間のコミュニケーションも活発にして いる。大学と学生との主たるコミュニケーション手段として電子メールを使用することを既定した今回 58 の方針は、より良好かつ効率的なコミュニケーションに向けた大きな一歩である。 教育学的に見れば、従来の方式に代わるオンラインとマルチメディアを活用したコース教材、そして コンピュータ支援型のコミュニケーション手段を提供することで、学生の学習環境は改善されてきてい る。ただし、後者に関しては期待したほどには多く利用されていない。 結論 OUHK は情報技術の戦略的重要性を認識しており、遠隔教育における IT の利用は指導品質を高め、よ り柔軟な利用環境を学生に提供するものと信じている。香港は、Web ベースのコース配信が可能な、綿 密に開発された IT インフラを既に所有していた点で恵まれている。 OUHK における IT 開発は、インターネットがマルチメディア・コース教材の配信や、学生とチュータ 間の活発なコミュニケーション、学生同士のコラボレーション、そして広範な管理業務に適した強力な 媒介であることを証明した。OUHK は、同大学が開発した IT インフラやシステムには概ね満足している が、学生による知識構築のためのコンピュータ支援型コミュニケーションの利用については改善の余地 があると考えている。 参考 Chow, L and Siaw, I (2003) ‘Evaluating the use of online discussion boards at The Open University of Hong Kong’, Paper at the presented at the Asian Association of Open Universities Annual Conference, Beijing, China. 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Shin, N (2002) ‘Online pedagogy: voices from students and teachers’ in Murphy, D, Shin, N and Zhang, W Y (eds) Advancing Online Learning in Asia, Hong Kong: Open University of Hong Kong Press. 59 テキサス大学オースティン校におけるテクノロジー統合過程 テキサス大学オースティン校教授改革部副部長/ 教授工学センター所長 Susanna Wong Herndon テキサス大学オースチン校は、テキサス大学に属する 15 の教育機関を代表する学内組織である。合衆国の 教育機関の中では、単一のキャンパスとしては最大規模を誇り、学生数は 50,000 名(大学院生 11,000 名およ び学部学生 39,000 名)、教職員数は 3,000 名、そして 18,000 名の職員を擁する。UT オースチン校には 16 の カレッジとスクールが所属し、毎学期 6,000 以上のコースと、これらのコースから構成される 270 を超える学 位プログラムを提供している。毎年、授与される学位の数は 11,000 件を超える。また、UT オースチン校のキ ャンパスには、7 つの美術館、17 の図書館、および 900 の公認学生団体が存在する。成人・遠隔教育部では毎 年 30 万人以上の学生が学んでいる。 UT オースチン校は分散型の文化をもっており、また、これだけの規模の組織であるために、オンライン・ サービス用の支援インフラストラクチャおよび技術環境は、どうしても複雑なものとならざるをえない。大学 事務局が、学生のアクセスと選択を簡単にするために、全学的なコンピューティングおよび関連サービスを 1 つの傘、すなわち情報技術サービス(Information Technology Service)の下に統合したのは 4 年前にすぎない。 現在、大学が提供するサービスには、ユビキタス・キャンパス・ネットワーク・サービス、電子メール、Web メール、学生寮でのダイヤルアップ・インターネット・サービスと高速アクセスの加入と利用、Web キャス ト/ストリーミング・メディアをはじめとする音声とビデオ通信、コンピュータ・ルームとプリンタの利用、 ヘルプデスク、トレーニング・クラス、ソフトウェアのサイト用ライセンス、および Web パブリッシングを はじめとするサーバ・スペースの提供などが含まれる。実際、個々の学生には大学のサーバで 75 メガバイト のストレージ容量が割り当てられており、使い易い Web ベースのインタフェースからこのサーバにアクセス することができる。さらに、教職員は高性能なコンピューティング装置、コース管理システム、専門家のコン サルタントとトレーニング、およびプロジェクト奨励基金などを利用することができる。 UT オースチン校のオンライン・サービスの鍵となるのは、大学の電子 ID システム(EID:electronic identification system)である。このシステムによって、学生、教職員、およびスタッフが大学コミュニティの 一員として識別されることになり、UT オースチン校の Web ポータル「UT ダイレクト」の使用資格が認証さ れる。このポータルは Web 方式のコースウェア・ツール Blackboard にリンクされている。Blackboard は全学 的にサポートされており、現在、学生全体の 85%以上が使用している。EID は、現在大学で導入が進むワイヤ レス・ネットワークへのアクセス制御にも使用されている。このワイヤレス・ネットワークは 72 の校舎・建 物で利用でき、800 以上のアクセス・ポイントが設置された 30 を超える戸外の施設からアクセス可能であり、 常時 15,000 名を超えるユーザーによって利用されている。 UT オースチン校の図書館はオンライン・サービスの先駆者でもある。そのオンライン・マップの収集活動 は世界に知られており、報道機関などもリンクしている。また、電子図書の収集も広範囲に行われており、現 在 62,000 を超えるタイトルが収納され、 窓口となる Web サイトから膨大な資料にアクセスすることができる。 61 また、2004 年 3 月にはデジタル・ナレッジ・ゲートウエイに関するプロジェクトである UTOPIA が立ち上げ られた。これは、豊富な大学の学術資料を、テキサス州の全ての市民に解放するという、UT オースチン校の 校長 Larry Faulkner のイニシアチブによるプロジェクトである。 学内の 10 以上の委員会が、トレーニング、Web 出版、セキュリティ、知的所有権、および運用方針や費用 など、コンピューティング関連の問題について指導・監督を行っている。その中でも、3 つの委員会が最も大 きな影響力を持つ。すなわち、全学的なコンピューティング・プロジェクトの実施に係わる「e ユニバーシテ ィ運用委員会」、料金支払について学生に助言・支援を行う「情報技術諮問委員会」、および技術コンポーネ ントについて学部を代表し、学内の諮問機関および調整機関として活動する「技術関係学部長作業部会」であ る。 また、大学のコンピューティング・サービス経費の取扱いについても関心は高い。その大部分は、学生が支 払う情報技術料金が原資である。この料金は、1 単位時間当たり 10.50 米ドルである。この料金徴収総額は年 間 1300 万ドルに達する。さらに、2000 万ドル以上が、個別のカレッジの教育技術料金、コンピュータ使用料 金、および他の学部基金から充当されている。テキサス州では、電話回線税を徴収しており、その税収によっ て「テキサス・インフラストラクチャ基金(TIF:Texas Infrastructure Fund)」が運用されていた。この基金を 管理する補助金団体に UT オースチン校も申請を行って「発見およびコンセプトの証明」プロジェクトを実施 したことがある。このプロジェクトによって、大学は関連する研究活動のための重要な基金を得ることができ たが、残念なことに、昨年テキサス州議会は 10 年間実施されて来たこの基金を終了した。 教授技術センター(CIT:Center for Instructional Technologies) − 技術統合の経路 1996 年に、学内において教育用技術の採用を促進するために、大学の学務担当副総長は学内の 3 つの組織 を統合した。すなわち、プロジェクト開発者および最新のメディア担当教員が係わるハイレベルな「マルチメ ディア・コンピュータ・ラボ」、「遠隔教育事務局」、および「コンピュータ助成プロジェクト」の 3 つの組 織が統合されることになった。このようにして、CIT、すなわち「教授技術センター」が誕生した。CIT は急 速に成長し、情報および Web ベースのデザイン、マルチメディアの指導、コースウェア・ツールのサポート、 データベース開発、および最新技術の研究と開発にも取り組むようになった。CIT の「マルチメディア制作/ ティーチング・ラボ」は、プロジェクト開発とトレーニング実習のために、また、ハイレベルのソフトウェア を必要とする学位認定コース実施のために、Mac と PC のワークステーションが共に装備された環境を提供し ている。 CIT は、コンサルティングや Web ベースのチュートリアルも実施し、関連リソースも提供している。また、 全学的に Web ベースのコースウェアの提供・サポートを実施し、技術関係のインターンシップ・プログラム、 すなわち、学生と職員のための助成プログラム「∼FAST Tex」を主催し、また、技術と授業の統合を目指す UT 教職員の活動を表彰するための「IITAP プログラム」を実施して、毎年顕彰活動に携わっている。このよ うな活動によって、内容の豊富な支援サイクルが確立し、教職員は継続的に技術を用いた効果的な教育実践を 企画し、プロデュースし、そして、表彰されている。 62 IITAP – 革新的教育用技術表彰プログラム(Innovative Instructional Technology Awards Program) CIT が真っ先に取り組んだ活動の 1 つが、全学的な奨励プログラム IITAP である。このプログラムでは、優 秀な教材を開発した教職員に相当の賞金が授与される。現在、次にあげる 3 つの分野で IITAP 賞が授与されて いる。 ・ 「技術応用教育実践」分野では、技術応用教育実践のプロセス、導入、および成果が認定される。 ・ 「教材開発(Resource Development)」分野では、特に複数のコースで使用可能であり、拡張・拡大可能 な全学的な教材、または特定学部用の教材が認定される。 ・ 「効果的なアイデアの共有(Sharing What Works)」分野では、画期的な洞察力、人を感嘆させるアイデ ア、そして、最も重要なことであるが、変化をもたらす技術の利用方法などが認定される。 受賞候補の教材等の審査は、大学の優秀教員のアカデミー、過去の受賞者、教育デザインの専門家、および、 専門家団体とハイテク企業のゲスト審査員によって行われる。学務担当副総長は、毎年開催される授賞式で自 ら賞を授与し、夏には候補者と共にプロジェクトについて研究し、討論も行っている。この表彰活動から発信 されるメッセージは経済的なものであると同時に、人材に係わるものでもある。すなわち、大学は教育的革新 を高く評価し、報償を与えるというメッセージである。大学組織への技術革新の導入に報酬を与え、成果を積 み上げること、すなわち、雇用、昇進、および身分保証に反映させることは、時間のかかるプロセスである。 特に、大学が分散的な組織であるために時間がかかることになる。IITAP などの表彰制度はこのような成果を 積み上げる活動の一環として実施されている。 マルチメディアおよびコースウェアのトレーニング CIT は設立 1 年目に、新たなプログラムとして、教職員用のマルチメディア・ツール・ワークショップのサ マー・シリーズを開始した。大学は多様なトレーニングを実施しているが、普通、教職員の多くは、学生やス タッフと同じ訓練に参加し、この分野の初心者であることを「気づかれる」のを嫌がるものである。そのため、 CIT はプログラムの進展とともに、教職員だけを対象とする特別な訓練時間を設けることにした。CIT は、も っと一般的な導入訓練を実施している大学の「トレーニング・サービス」グループと緊密に提携するようにな った。ただし、CIT はハイレベルのマルチメディア・ツールについて、また、共に使用されることから、コー スウェアの開発ツールについてトレーニングを提供することに変わりはない。 1999 年までに、このサマー・シリーズは、大学の技術プロジェクト立ち上げを目的とする、常時開設型の 教職員のためのマルチメディア支援活動となった。この支援活動は、UT の全教職員に無料で提供される。こ こでは、ワークショップは複数の日数にわたって実施され、教職員は自らの仕事に技術を統合するための実際 的な戦略とプロセスを学ぶことができる。また、プロジェクト管理や開発プロセスについてのトレーニングが 重視され、マルチメディア開発ツールの習得のために実習コースも企画されている。CIT のスタッフは、多様 なマルチメディア・ツールの使用や新たなプロジェクトのアイデアに関して事後コンサルティングを担当し、 支援施設の参加者の要望に応じて、フォローアップ・ワークショップも開催している。この支援活動で訓練を 受けた教職員は、学生と職員のための助成プログラム「∼FAST Tex」に応募する準備が整ったことになる。 過去の実績から言えば、そのような教職員の活動はプログラムで受理される可能性が高く、そのプロジェクト のプロセスも成功することが多い。 63 2002 年には、CIT は、もっと幅広い参加者を獲得するために、ライブの Web キャストでワークショップを 実施し、モジュールをいっそう柔軟なものにして、教職員のプロジェクトの具体的なニーズにもっと適合でき るようにした。教職員のニーズが変化し、ジャスト・イン・タイムのトレーニングが必要になったのに応じて、 CIT は支援施設のトレーニング・コースを再編し、一年を通して変化のあるトレーニング・メニューを提供す るようにした。 CIT は、教職員のコースウェアを紹介し、使用方法について訓練するために、継続的なワークショップおよ び一対一のコンサルティングも実施している。参加した教職員は、一つのワークショップでトレーニングを受 けている間に、自分のコース・サイトを立ち上げることができる。多くの場合、そのようにして作成された基 本的な Web サイトが、授業で技術を活用したいと望む教職員にとって、目標実現の最初のステップとなるも のである。教職員は、いったんコース・サイトを構築できるようになれば、CIT が提供する他のトレーニング・ プログラムおよび奨励プログラムに参加することで、自分のリソースや教育用資料をさらに拡張できることに なる。 「∼FAST Tex」プログラム:技術のための教職員と学生のチーム 当初から、CIT は同じ教職員がセンターのトレーニングに繰り返して参加することに気づいていた。そこで、 このような熱心な改革者や導入者だけでなく、もっと幅広く利用者を獲得する方法を考えるようになった。優 れたアイデアをもっている教職員は多いが、多くの場合、そのアイデアを自力で発展させるための方法を学ぶ 時間がなく、また、そのような意思を持続させることもない。他方、優れたコンピュータ・スキルをもった学 生はどこにでもいる。彼らの多くは、CIT スタッフが教える単位取得のためのコースで学んだ経験をもつ。こ のような学生は、自分達のスキルを応用したくて仕方がないように思われる。そこで、CIT はコンピュータ技 術の豊富な学生を教職員と引き合わせ、コースのための教育用技術応用教材を開発させることにした。そして でき上がったのが、「∼FAST Tex」プログラムである。すなわち、「技術のための教職員と学生のチーム」 である。この秋に、CIT は教職員から活動提案を出してもらい、関心のある学生を募集し、両者を引き合わせ ることにした。開発期間はこの 1 年目だけでは終了せず、春学期にも継続されることになった。学生には 1 時間当たり 10 ドルの報酬が支払われる。ただし、過去には、アップル社やコンパック社から寄付されたラッ プトップ・コンピュータを、報酬として学生に与えたこともある。 このプログラムの開発は、教職員、学生、および技術スタッフのコラボレーションを、如何にして成功に導 くかの実例となるものである。CIT は、大学全体の関係者を対象とするインタビューや調査を通して、正式な プロジェクト提案評価ツールを開発した。この評価ガイドラインは、プロジェクト提案を明確にし、形にする ことを支援するものである。ツールを使用することで、CIT は提案の評価と優先順位を決定することができる。 この場合も、さまざまな学部の教職員とスタッフの支援を受けることになった。提案が受諾され、100 時間の 作業時間(学生への報酬は 1000 ドル)という基準を適切に満たすことができれば、教職員は学生に作業を依 頼し、プロジェクトの開発と実施に進むことができる。CIT は、「∼FAST Tex」に参加する教職員に対して プロジェクト管理サービスを提供し、学生を選別・訓練して、メディア・ツールの基本的な知識とスキルを身 に付けさせている。理想的に進めば、参加者は、1 学期間実施される開発作業の間に、必要な技術を自分の教 育実践に統合できるようになる。 64 CIT は今後も「∼FAST Tex」プロジェクトが順調に進展すると考えている。このプロジェクトは教職員な らびに事務当局からも歓迎されている。我々はこのプログラム運用の合理化と拡張にも取り組んだ。例えば、 プロジェクト促進のために、専門のプログラム・マネージャを採用し、学生の選抜・任命と報酬管理のために、 パートタイムのプログラム事務担当者を雇用することにした。学内指導教育プログラムは 2 つのレベルで実施 されることになった。第 1 に、学生を指導するために CIT の専門スタッフを採用し、プロジェクトの技術的 洗練と効率的な実施を促進することにした。次に、実績のある「∼FAST Tex」プロジェクトの参加学生をさ らに訓練し、新たに参加する学生を指導できるようにした。こうすれば、階層的で、効率的、技術指向のプロ ジェクト・サポートが可能となり、コラボレーション活動も成長させることができるはずである。また、CIT は強固なプロジェクト監視ツールを構築し、ファイル共有とストレージの利便性を高めるために十分なサー バ・スペースを割り当て、管理業務とプロジェクト・プロセスの自動化および簡素化に務めている。さらに、 情報配信とプロジェクト管理の促進ために、教職員/学生用のオンライン・ハンドブック、ガイドライン、お よびツールも、段階的にではあるが整備されてきた。 この春に、CIT は 11 校のカレッジで 63 件もの「∼FAST Tex」プロジェクトの指導に当たることになった。 「∼FAST Tex」の参加者の多くが、IITAP 表彰プログラムに応募している。CIT は現在、「∼FAST Tex」に 参加して成功した教職員を主題にしたビニエット作品をビデオで制作中である。このビデオの中で、教職員は 自分達のベスト・プラクティスや他の模範となる秘訣を公開することが期待されている。 このプログラムが成功したことによって、学内の芸術学部および教養学部の中で、新たなコラボレーション 用技術とコンテンツ開発のためのワークショップが生み出されることになった。このモデルの応用バージョン は学内全体で試されている。注目すべきは、カレッジと CIT の共同活動によるモデルの成功例である。これ は、カレッジは、同僚の教職員が指導する夏季の技術トレーニング・ワークショップに参加する教職員に手当 てを支払うというものである。参加した教職員は、自分達のコンテンツを収集・整理し、プロジェクトの計画 もできるようになる。CIT は技術に優れた学生の募集、面接、訓練を担当し、学生への報酬支払はカレッジが 行う。採用された学生は、カレッジの教育担当職員と協力し、翌年一年間教職員の助手となり、そのプロジェ クト開発に当たる。その後に、教職員が「∼FAST Tex」のサポートや、カレッジの追加支援を求めるケース もある。 サービスの体系的な供給のための「ブティック」型運用 UT オースチン校の毎年の教職員奨励活動は、基本的なコースウェアとメディアに関するトレーニングで開 始され、プロジェクト/コンセプト開発のための教職員支援活動の利用へと進んでいく。次の段階では、プロ ジェクト制作のための「∼FAST Tex」プログラムへと進み、最後は、IITAP の受賞を目指す競争に参加する ことになる。 表彰プログラム自体は、 新たなアイデアとコンセプト実証のためのプロジェクト育成基盤となり、 次のレベルでの発見と研究へとつながって行く。 このようにして CIT から支援を受けるプロジェクトのタイプは、時間とともに変わるが、CIT のスタッフは、 提案およびプロジェクトの計画プロセス、および、ワークフローの管理と学生の指導に、いっそう深く係わる ことになる。承認されたプロジェクトの中には、1998 年に開始されたコースウェア・ツールの支援プログラ 65 ムから発展してきたものもある。ちなみに、1998 年は、教職員のニーズに対応するには、体系的な取り組み が必要であることを CIT が理解した年である。しかし、3000 名の教職員の全てが、Web サイトや討論用電子 掲示板を必要とし、また、電子学級文庫、その他を必要としていることが明らかとなり、短期間のうちに「ブ ティック」型の運用ではニーズに追いつけなくなった。この時期に CIT は WebCT を立ち上げ、自分のコース 専用の Web ベースのコンポーネント作成のために、このようなツールの使用を望む教職員を支援するために、 定期的なトレーニングや本格的なコンサルティング・サービスを提供するようになった。 2000 年は CIT にとっては転換期であり、この年の夏に、スタッフ用の施設で訓練を開始した。これは、大 学組織の重点施策を変更させ、幅広く、大規模、体系的、かつ拡張的な考え方を採用させるという点で中心的 な役割を果たすことになった。CIT は運用を簡素化するために学内システムについて研究し、また、Web のサ イトを充実させることに注力し、Web 上の豊富なリソースの 1 つとして認められることを目標とした。例え ば、そのようなリソースとして、世界中から無料で利用可能なコース資料のオンライン格納サイトである 「World Lecture Hall」があげられる。このようなサイトは、CIT の課題、すなわち幅広いサービスの配信を支 援するものであり、同時に、複雑で労働集約型のプロジェクトに対応することができ、カレッジのイニシアチ ブを促進するものである。 UT オースチン校のコースウェア管理 1999 年、学部学生の体験向上を目指す大学当局の優先活動の一環として、大学の Web ポータル・プロジェ クトが開始され、全学的なコース管理システムの分析と選択を任務とする作業部会が設立された。実際、大学 ではいくつものシステムが使用されていたが、メインフレームのデータと統合されているシステムは存在しな かった。調査によれば、教育学部ではファースト・クラスの TeachNet システムの使用ライセンスが購入され ていた。さらに、工学部も Prometheus の使用ライセンスを取得していた。一方、遠隔教育センターは、特に このようなシステムのニーズをサポートするために、学内で製品の開発に取り組むことになった。 全学的な実施のために、どのようなコース管理システムを採用するとしても、教職員の多数のニーズを満た すものでなければならない。すなわち、ツールは教職員が簡単に習熟できるものでなければならず、1 回だけ の短期トレーニング・コースの後で、教職員が Web サイトを構築できるような、入門レベルのものとする必 要があった。市販のコース管理システムを徹底的に分析した結果、教職員と学生に最も簡単なインタフェース を提供する製品は Blackboard であるとの結論が得られた。この製品は、拡張可能であり、そして、最も重要 なことであるが、UT オースチン校のレガシー・データ・システムと統合可能であり、2000 年秋の試験的なコ ース運用にも間に合わせることのできる唯一のシステムであった。 2000 年に Blackboard は、2 番目のコースウェア管理ツールとして採用された。CIT は、Blackboard と WebCT を全学的に 2003 年までサポートした。この年には、実際の利用パターン、ライセンス要件、およびツール自 体の変更に基づいて、学内のニーズが再評価された。現在、UT オースチン校では、エンタープライズ・バー ジョンの Blackboard のみがサポートされ、WebCT の使用は段階的に縮小され、停止される方向にある。 UT オースチン校が取り組んだ課題は、途方もないものであった。全学的なコース管理システムが成功する には、既存のデータが効果的に統合されることが不可欠であった。これまで学内で実施されてきた如何なるプ 66 ロジェクトにおいても、これほど多数のグループの協力が必要とされることはなかった。データが統合された 後でも、多くの不整合が発見され、また、ある 1 つの分野で変更が行われただけでも Blackboard システムに 大きな影響が生じることが明らかになったが、これらは大きな悩みの種となった。 オフィスが異なれば、ニーズも異なる。人事部では教職員とスタッフの人事情報が必要とされる。学生情報 システムでは学生情報が必要とされる。教務課では学生のコース登録が必要とされる。そこで各部門の代表者 が動員され、コースの記録の作成、および教員とコースの対応関係の整理が行われた。ITS はサーバ・サポー トを管理し、また、認証と認定を取り扱うことになった。CIT は Blackboard を利用する教職員のトレーニング とサポートを担当する。法務部門は「教育の権利とプライバシーに関する法律」に関する問題を処理しなけれ ばならなかった。この合衆国連邦法は、どのような種別の学生データが、公にすることを許されるかを規定し た法律である。また、 テキサス州のオープン・レコード法も問題となる。この州法では、要求に応じて提供 すべき情報が指定されている。今日でも、UT オースチン校は、各ユーザーが複数の目的を達成できるような、 全てのユーザー情報を格納した集中的なデータベースの構築という課題にチャレンジしている。 UT オースチン校の実践から得られたもう 1 つの重要な教訓は、全学的なコース管理システムは、ミッショ ン・クリティカル(基幹業務的)なものと考える必要があるということである。Blackboard は、2000 年当初の 革新的教育ツールとしての用途から、2004 年のアカデミック・コミュニティ向けのミッション・クリティカル なソフトウェアとしての用途に移行することになった。この秋に始まった学期では、その 20 授業日までに、 学生総数の 85%が Blackboard を利用するようになり、1 日当たりとしては最高の、45,000 回のログインと 330 万件のヒットを記録した。ある特別なコースでは、1 ギガビットにいたるデータが使用されている。Blackboard がミッション・クリティカルなシステムとして位置付けられたことにより、潜在的な問題への対応・解決は迅 速に行われるようになった。現在、Blackboard は複数のサーバとプロセッサで実行されている。学部の垣根を 越えて技術スタッフは 24 時間体制で協力し、信頼性、安定性、およびスピードを保証するために、サーバの サポートに当たっている。 DIIA – 教育革新と評価部 2001 年、CIT は既存の 2 つの組織と連携し、教育実践の有効性および測定・評価を主な任務として、学 務担当副総長に直結する新たな部署を設立した。それが、教育革新と評価部、DIIA(Division of Instructional Innovation and Assessment)である。3 つのセンターの統合によって、この部署には効果的な運用に必須の規 模が備わり、事務管理の強化が実現し、また、個別のセンターでは考えられないような大学への影響力をも つことになった。技術サービスを、ペダゴジーとアセスメントに合わせて再編成することで、この部署には 安定的な 3 本柱で支えられるプラットフォームが構築されている。CIT にとっては、この統合は、効果的お よび適切な技術の利用を、いっそう多様な方法で促進できることを意味する。コースウェアの導入活動、お よび学内の他のグループとのコラボレーションは、部署としてアプローチを行うことで、より大きな成功が 期待できる。 学務担当副総長は、3 つのセンターの統合を、UT オースチン校におけるアカデミックな運用方針の変更を 公に宣言する機会として捉えた。その変更の 1 つが、アセスメント活動を、現在のおよび将来のために提案さ れた技術革新がベースとなる教室という教育文化の中に組み込むことである。DIIA がその創設初年度に取り 67 組んだ主要な課題が、UT オースチン校の技術投資のアセスメントであり、また、他のアカデミック組織をこ のプロセスに参加させることであった。現在、DIIA は、学内の「技術諮問委員会」と協力して、授業の体系 的な改善のための 5 ヵ年計画を実施している。この活動を監督しているのが、「授業アセスメント委員会」で ある。 活動初年度のアセスメントは、教育用技術の可用性、用途、および有効性を重視して行われた。また、将来 の決定に影響を与えるような実質的なデータを生み出すことのできる、堅牢で、情報性に富み、かつ継続的な アセスメント用のプラットフォームも確立された。現在、3 年目に入り、同委員会は、資金活用の動向、およ び大学付属の各カレッジで学生から徴収する技術使用料の支出パターンを分析し、また、学習支援のために技 術応用教室の装置がどれほど頻繁に、どのような形態で利用されているかを評価している。委員会は現在、全 学的なコースウェアである管理ツール Blackboard が、教職員によってどのように使用されているか、またそ の使用目的について、継続的な調査に取り組んでいる。 この部署が創設されて以来、CIT はその活動をいっそう強力に推進し、カレッジの授業支援グループとのネ ットワークを構築し、模範的な学内教育用技術の応用を企画し、新たなテクニックとツールを開拓し、ゲーム 技術など最新トレンドを教育用途のために研究し、グリッド・コンピューティングに関して「テキサス先端コ ンピューティング・センター」と提携し、Blackboard の統合支援活動を指導し、そして、センターが学内での 最新メディアのニーズと活動を常に把握できるように、教職員および技術スタッフとの協議を続けている。 CIT は現在、大学の教養学部とコラボレーションを実施し、学内で開発されたデジタル・イメージ・アーカイ ブの編成/ビューイングのためのツールを試作し、教職員が教室でメディアを用いたプレゼンテーションを簡 単に実施できるように支援している。CIT は、Web 上で講義をストリーミングで提供するために、全学的な活 動を調整しており、そのために、講義やプレゼンテーションを記録してストリーミング化し、さまざまな技術 をテストし、また、学生と教職員に対する影響を評価している。また、学生の個人情報や著作権を保護するた めに、ユーザー認証が必要とされる Blackboard を使用して、そのような情報へのアクセスを管理している。 教職員がオンライン学習モジュールやチュートリアルの開発のために新たなツールを使用するのを援助する ことも、CIT が取り組むべき大きな課題である。 CIT 成功の鍵は? CIT の核となるサービスは不変的なものである。すなわち、コンサルティング、トレーニング、教授、コミ ュニケーション、プログラミングと制作、および技術評価である。しかし、その指導ビジョンは時間をかけて 成長してきたものである。それは、技術の初心者に対する支援活動と、習熟した関係者と共に最先端技術を追 求する活動の間の緊張関係を和らげることも目的とするものである。そのために、CIT の黎明期の活動におい て、これら双方の課題に注意が注がれたのである。CIT は技術の探求の牽引役であると同時に、技術が幅広く 応用され、安定したものとなることが重視される場合には、技術の成果の追随者ともなるのである。 CIT は時間をかけて基盤的支援体制を構築してきた。この支援活動は、ツールと環境を調査することから始 まる。ここでは、コミュニケーションとアクセスという 2 つの基本的な特徴を共に持った技術がサポートされ ることになる。CIT は「いつでも、どこでも」利用可能なトレーニングを推進すると同時に、伝統的なサービ スを補完的に用いている。CIT が迅速かつ柔軟的に動くことのできる秘密としては、非階層的な組織であるこ 68 とがあげられる。CIT は、参加型の管理を実施し、強制的に共同作業の形態で活動を行っている。 スタッフの意欲向上については、UT のスタッフは全てテキサス州の職員であり、そのために財務的な制約 が存在するが、CIT は特別な報奨金や奨励策を実施する方法を見出した。選ばれたスタッフに対しては、家庭 での高速インターネット接続費用を支給し、勤務時間も柔軟に設定し、また、場合によっては勤務地の束縛か らも解放した。技術スタッフについては、専門技術の向上が不可欠であり、CIT は、スタッフが勤務時間の最 大 20%を自己のスキルの向上のための活動に当てるように推奨している。 今後の展望およびフィードバックについては、CIT は時間をかけて、プロジェクト・ベースのプログラムに 関して明確な基準とガイドラインを整備してきたことが重要である。何が実行できるかは資金に依存している し、活動の優先順位は事務管理および技術委員会の決定に従うことになる。CIT はカレッジや学部と緊密な協 力関係を築いてきたし、大学の指導的な ITS 組織、およびカレッジの教育用技術サポート・グループとも連携 している。CIT は、約束は控え目に、実行は大胆にという原則を忠実に守っている。CIT は「なせばなる精神」 の発揮において高く評価されており、常に、期待に応える成果を上げてきたと自負している。 資金調達モデルについては、CIT の予算の大部分は、学生が支払う技術使用料金が原資となっている。また、 実習のためのコンピュータ室の使用からも現場収入を得ている。(個人の利用やプロジェクトのための使用は 無料であるが、カレッジの場合は、1 学期にわたる長期予約には使用料金が求められる)。また、教育に直接 関係しないビデオ制作やデータベース開発業務については、有料とされている。 ここまで、テキサス大学オースチン校の技術統合プロセスの全貌を紹介したわけであるが、さらに、3 つの 展望について、我々の原則方針と刷新のプロセスを簡単に紹介することにする。これは、我々の運用状況の制 約と実施可能性を明らかにするためである。 まず第 1 に、技術に関しては、導入と革新にサイクルが存在することである(Rogers 1995)。その第 1 段階 は、既存の作業の反復とミラー化である。第 2 段階は、革新または新たな発見である。第 3 段階は、転換また は真の効果的な変化である。この変化とは、教育実践と学習のコンポーネントの変化および技術自体の変化に よって生じるものである。本部署は、変化に対する接続機能を提供しており、この常時移り変わる動的な環境 に柔軟に対応している。 第 2 に、プロジェクトに注目すれば、次のような問いが提起される。すなわち、「どれだけ幅広く活動すべ きか?」、そして、「どれほど深く係わるべきか?」。CIT は常に、「方法を提示すること」と「ある目的の ために実行すること」の違いに留意しなければならない。また、それぞれのメリットとデメリットの違いも理 解していなければならない。 最後に、人間に注目しなければならない。問題は、前向きな姿勢、意欲と自己概念、パフォーマンスと能力、 知識とスキルである。大学には多数・多様な顧客ベースが存在する。そして、教職員は伝統的に 5 つのタイプ に分けられる。すなわち、革新者、積極的な採用者、積極的な多数派、慎重な少数派、および、時流に遅れる 者または改革反対派(ラッダイト)である。ただし、学生には 1 つのタイプしかない。すなわち、全ての学生 69 が、教職員および我々に常に前進することを求めているのである。 本部署も大きな変革の渦の中に位置すると同時に、この状況全体に隈なく影響を及ぼしている。言い換えれ ば、この熱気を感じるのに最適な位置を占めている。ある意味で、良き伝統のテキサスのロデオと異なるとこ ろはない。学生のトレーニングとは、子牛にロープをかけるようなものである。しかし、教職員に技術を受け 入れさせるのは、多くの場合、雄牛に乗るのと同じほど危険が伴い、抵抗もあり、リスクもある。変化して止 まない技術を取り扱うのは、全くロデオの樽競争のようなものであり、速さと、手際の良さが懸賞獲得の鍵で ある。最新技術のトレーニングとは、駿馬の運動能力を披瀝することに他ならない。そして、CIT のスタッフ は、時には、ロデオの道化役も演じなければならない。愉快な演技を提供し、笑いを誘い、誰もが安全に進ん で行く手助けをするのである。 参照文献 Everett M. Rogers (1995), Diffusion of Innovations (Fourth Edition), New York, Free Press. http://www.utexas.edu/opa/pubs/facts/enrollment.html http://www.utexas.edu/computer http://www.lib. utexas.edu/ http://wnt.cc. utexas.edu/~ccdv543/interface/ http://www.utexas.edu/academic/cit/ http://www.utexas.edu/academic/cit/services/incentive/iitap/index.html http://www.utexas.edu/academic/cit/services/training/index.html http://www.utexas.edu/academic/cit/fasttex/index.html http://www.utexas.edu/academic/blackboard/ http://www.utexas.edu/academic/diia/ http://www.utexas.edu/academic/diia/assessment/instructional_assessment/index.php 本稿の資料提供にご協力頂いた Coco Kishi、Suzanne Rhodes、および Carolyn Wikoff および、編集に当たられ た Judythe Wilbur の各氏に謝意を表したい。この全員が UT オースチン校の DIIA のスタッフとして現在も活 躍している。 70 調 査 報 吉田 告 文(メディア教育開発センター教授) メディア教育開発センターでは 1999 年より、全国の高等教育機関に対し「全国高等教育機関に おける IT 利用実態調査」というアンケート調査を実施してきた。これは、ほぼ同じ質問によって、 日本の高等教育の IT 化がどのように推移するか定点観測を行うものである。1999 年から 2003 年 までの 5 ヵ年の結果にもとづき、日本の高等教育における IT 化の進捗状況を概観することが報告 の目的である。 まず、日本の e ラーニングに関する制度的な変遷について確認すると、インターネットを利用し た e ラーニングが大学設置基準において制度化されたのは 2001 年、もう少しさかのぼってテレビ 会議システムによる授業が制度化されたのは 1997 年であり、e ラーニングの制度化はきわめて新し い事項であることがわかる。 そのうえで、大学の IT 化の次元を、1. 大学における諸活動を効率的にするための IT 化、2. 教 授・学習過程を効果的にするための IT 化、3. IT を通じて教育を配信するような意味での IT 化と 3 つに分けて推移を検討する。第 1 のレベルとしては、e メールによる事務連絡、e メールによる学生 のレポート、e メールによる学生からの授業への質問受付、授業の情報をウェブに掲載、パワーポ イントなどによるプレゼンテーションなどを取り上げているが、いずれも利用頻度は大きく伸びて いる。以前から比較的よく利用されていたオーディオカセットや録画ビデオが、やや減少傾向を示 しているのと対象的である。大学における諸活動を効率的にするための IT 化は確実に進んでいる。 第 2 のレベルとしては、衛星通信、地上系通信によるテレビ会議、インターネットのウェブを授 業に用いる頻度をいうが、これは 5 年間にあまり変化していない。しかし、会議や研究会はテレビ 会議で、語学学習や補習教育など個別学習を伴うものはインターネットでというすみわけが生じて いる。 第 3 のレベルは、IT による授業配信であるが、これが 2001 年に制度化して以来変化をしていな い。したがって、いわゆる e ラーニングは日本ではあまり進んでいないことがわかる。 ただ、それも学内において、供給構造が整備されている機関とそうでない機関とを比較すると、 供給構造がある機関においては第 1 から第 3 までいずれの次元においても IT 化は進んでおり、組 織体制が影響力を持つことが推測される。 こうした報告に対し、なぜ、研究では十分なレベルに達しているのに、日本では e ラーニングが 進まないのか、また、政策的な次元では e ラーニングに対しどのような方針があるのかなどについ て質問と議論がなされた。e ラーニングが進んでいる社会では、それを享受している学生層は多く が成人であり、そうした学生層にとっては大きなメリットとして受け入れられたという事実がある。 それに対し、日本では成人学生の比率は少なく、フルタイムの学生は、IT による授業配信そのもの に成人学生ほどメリットを見出さないことが、e ラーニングがすすまない 1 つの理由である。した がって、教室の授業を基本としつつも、学生の個別学習の部分を e ラーニングで行う、対面授業と e ラーニングとの組み合わせなど、e ラーニングの導入が効果をもたらすような利用方法を考えるこ とが今後の発展の鍵となろう。 73 第2セッション:まとめ 青木 久美子(メディア教育開発センター助教授) 第 2 セッションの最初の講演者は、ヘルシンキ美術デザイン大学のステファン・ソンヴィラワイス 教授で、 「eペダゴジーデザインのMAプログラム:視覚的知識構成」という題目で講演を行った。ま ず、ヘルシンキ美術デザイン大学が、オランダのインホーランド大学、ドイツのハンブルク大学と共 同で実施しているeペタゴジー・デザイン・視覚知識構築という修士課程のプログラムを紹介し、言 語を超えたユニバーサルな科目である視覚デザインについて学際的なアプローチからカリキュラムが 編成されていることを説明した。 欧州で修士号の学位を授与するには、学生が 120 単位を取得することが条件となっており、この修 士課程では、3 大学で単位の相互認証を行っており、学生はそれぞれの大学の授業を受講して単位を 取得することができるようになっている。例えば、ハンブルク大学は、修士論文、ハイパーメディア プロジェクト、メディア理論、オーサリングシステムの 20 単位を提供し、ヘルシンキ大学は、メディ ア指導デザイン、視覚知識構築、修士論文、著作権についてのコース、インホーランド大学は、学習 理論、メディア管理、異文化間教育、コミュニケーション理論などの単位を提供している。120 単位 のうちの 16 単位がフィールドワークになっており、企業またはその他の組織に赴き実践的な活動を行 うことによって単位が得られる、という仕組みで、その経験が学生の修士論文にも反映されるように なっている。学生の履修要件については、メディア理論の知識、教育実践又は研究経験、コミュニケ ーション能力、柔軟性・協調性、等を考慮した選考試験を行っている。 この合同修士課程プログラムは、3 年前から構想が練られ、一年前の 2003 年秋に欧州委員会の助成 金によりカリキュラム開発に着手し、今年、2004 年 2 月に各大学において 5 名、計 15 名の学生を受 け入れ、教授 1 名の協力を得て、実際のプログラムが開始された。メディアの収束・融合といったパ ラダイムシフトの中で、従来の枠組みの学術分野にとらわれない新しい研究・教育体制が必要となっ てきており、その新しい形態と従来の形態との摩擦、というものも現れてきている。また、国際展開 に関しても、欧州という枠組みの中だけでも、いろいろな問題をかかえており、伝統や教育制度が異 なった国々にある大学が、共通の理解、基盤を構築するというのは、非常に困難である。 この合同修士課程プログラムに履修している学生の背景は、教育学、メディアまたはアートという ようにさまざまであり、入学した動機としては、 「eペタゴジーのデザインというものを学際的に研究 していきたい」、または、 「国際的な展開の中で協力をしながら、研究を進めていきたい」、という希望 が主である。国際協調学習のコミュニケーション手段としては同期型よりは非同期型の方が有効であ ると判明し、同期のものを使うのであればビデオ会議よりは、チャット、ディスカッション・フォー ラム、インスタント・メッセージングの方が効果的であると指摘した。 次の講演者はロチェスター工科大学(RIT)のジョアン・ハンバート女史で、 「RITにおけるテク ノロジーを用いた教授・学習」と題した講演を行った。まず、オンライン遠隔授業で修士を修得した 学生の生の声をビデオにより紹介し、遠隔教育の柔軟性、海外の学生たちとのオンライン上での交流、 プログラムの信憑性、学生に対する支援体制、が e ラーニングの重要な成功条件であると指摘した。 RIT は 8 学部を有し、そこに 1 万 5000 名の学生が籍を置いている。教員数は 1000 名の常勤教員、 77 400 名の非常勤教員である。8 学部のうちのひとつが、聴覚障害者を対象とした国立技術大学校(NTID) であり、RIT は聴覚障害者を考慮した遠隔教育をも行っている。遠隔教育で履修している学生の2% が聴覚障害者である。 遠隔教育プログラムは 1987 年に開始され、社会人・主婦を含む多様な背景の学生が遠隔教育プログ ラムを履修してきており、非同期性の遠隔教育方式により、多くの学生を送り出してきた。RIT の遠 隔プログラムの卒業率は95%で、他に類を見ない成功率を上げている。これは多くにテクニカルサ ポート、電子図書館、オンラインの本屋、オンラインのアドバイジングといった、学生支援サービス の充実によるものであるといえよう。又、バーチャルな環境においても、学生同士のつながり、コミ ュニティー作り、というものを重視し、学生組合を作ったり、大学のホッケーの試合のストリーミン グビデオを提供したり、写真コンテストを行ったりして、遠隔教育プログラムで履修する学生にも交 流の場を与えている。 最近のオンラインプログラムでの課題は、運営費用の増加で、オープンソースで行くか、LMS を購 入するかで、今、選択を迫られている。LMS の最終候補としては、Blackboard と Desire2learn であり、 また、オンライン会議システムも新しく導入しようと計画している。オンラインコースを企画制作す る上で参考としているのが、Charles Chickering の「よい大学教授法のための 7 つの原則」である。そ の 7 つの原則とは: 1. 学生と教員との交流を促進する 2. 学生同士の相互協力関係を深める 3. 積極的な学習方法を取り入れる 4. フィードバックを即座に与える 5. 時間通りに課題を終える習慣をつけさせる 6. 学生に対する期待を高く持ち、それを伝える 7. 学生の多様な能力・学習スタイルを尊重する である。 RIT では聴覚障害者に対する支援サービスも充実しており、講師の講義やコメントといった音声を 含む教材には必ず字幕を作成している。こういった字幕は、聴覚障害者のみならず、英語を母国語と しない外国人学生にも好評であり、また、キーワードによって検索可能にするという利点もある。オ ンライン学習は、対面授業ではどうしても気後れを感じてしまう聴覚障害者も、オンライン上では通 常の学生となんら変わりなく、ディスカッションにも参加できる、という長所もある。 最近では、従来の対面授業とオンライン学習を上手に組み合わせて両者の長所を取り入れる、ブレ ンド授業というものを試験的に行っている。昨年度は25のコースがブレンド授業を取り入れ、それ に参加した学生の75%が、ブレンド授業を続けて欲しい、と願っている。今年度はそれを 50 コース にする予定で、教員もオンライン技術を取り入れながら授業内容を改善していく、という意味合いで、 積極的に取り組んでいる。 講演後、障害者への教育提供は社会的に大変重要な任務であるが、そういった支援を必要とした障 害者数が非常に少ないことから、予算的にどうやってまかなっているのか、という質問が会場からあ り、それに対して、NTID は国立機構であり、障害者支援に関しては国から補助金が出ている、という 答えであった。また、字幕を提供する際の著作権の問題、オンライン学習でのビデオの提供に関する 著作権の問題等、オンライン学習には著作権の問題が常に付随してくるため、著作権法に関する質問 78 が相次いだ。 三番目の講演者は英国 JISC(統合情報システム委員会)のサラ・ナイト女史で、「学習をeラーニ ング化する−JISCのeラーニングとペダゴジープログラム」と題した講演を行った。まず、eラ ーニングの可能性として、接続性、柔軟性、相互作用性、協調学習、機会の拡大、動機づけをあげ、e ラーニング推進が国家戦略となっている英国の現状を説明した。 JISC は政府や調整審議会から資金を得ており、英国の高等教育機関と協力して、教育、学習、研究、 管理のすべての面にわたっての情報技術の活用を模索している。eラーニングとは促進された学習の ことであり、多様な情報通信技術によって既存の学習環境に付加価値を与えることである。eラーニ ングを効果的にするものは、関連性、日常性、双方向性、参加型学習、広範囲性、個別化学習、など が考えられるが、よく見てみると、これらの特色は e ラーニングのみならず、効果的な学習全てに見 られる特色である。 eラーニングプログラムの企画制作に関しては、まず、学習者のニーズを考えなければならない。 又、学習者の学習経験、社会経験、eラーニングのツールの活用スキル、学習環境、等をも充分に考 慮して設計しなければならない。特に、学習リソースに関しては、学習者が十二分に活用できるよう、 サポート設備を整えなければならない。最後に、学習者の目標に見合ったプログラムでなければなら ない。 eラーニングの実践事例として、セントラルイングランド大学のプログラムをビデオで紹介した。 セントラルイングランド大学では対面授業と e ラーニングをブレンドして、問題解決技能を育ててい る。こういった授業は、大学職員の研修にも用いられている。効果的な学習・教授方法とは何かと考 えたとき、問題解決型・体験学習型のペダゴジーが学習効果を高めるという知見から、e ラーニング はそういった学習・教授方法を促進するツールであるといえる。eラーニングを活用するときには、 それ自体を目的とするのではなく、学習の機会と可能性を拡大するために使うべきであると強調した。 会場から、e ラーニングに関して、学生の動機付けが難しいが、peer-2-peer ストラテジーなどを使っ て、e ラーニングを面白くするにはどうしたらよいのか、という質問があがった。これに対して、ナ イト女史は、対面授業ではディスカッション等に積極的に参加しない学生でも、オンライン上では積 極的に参加するようになる、という例も見られ、オンラインフォーラムなどの効果を言及しながら、 やはり、先生が積極的にそういったディスカッションを促進することが重要である、と説明した。 第 2 セッション最後の講演者は、早稲田大学の人間科学部学部長である野嶋栄一郎先生で、 「早稲田 大学でのEスクールの設立」と題した講演で、早稲田のeラーニングによる通信教育「Eスクール」 を紹介した。経営的に成り立つEスクールの設立を学長から依頼されたのが、E スクール立ち上げの きっかけであった。その背景には、大学設立以来 1960 年代まで全国の学生に配信していた早稲田講義 録を再び復活させようという動きがあった。また、大学大衆化、少子化傾向に対応して、グローバル な教育システムを立ち上げたい、というところにもあった。日本の大学で現在キーワードとなってい るファカルティ・デベロップメント、すなわち、教員の教育力の向上、に役立つのではないか、とい う期待もあった。 早稲田大学で E スクールが立ち上げられた経緯には、3 つの要因があった。その 3 つの要因とは、 WCCC プロジェクト、大学内の教育のIT化のためのフォーラムである Digital Education Forum、そし 79 て具体的に立ち上げるためのレポートを提出するためのチームであった Digital Campus Consortium で ある。WCCC プロジェクトとは、米国の Case Western Reserve 大学とのインターネットを使った合同ゼ ミで、10 年ほどにわたって実施された。Digital Education Forum とは、大学に来る前の学生を対象にカ リキュラムを開発する、また、日本語の教育プログラムを外国の学生や日本語を教える先生方に提供 する、および、リカレント教育として大学の卒業生を対象に専門教育を行う、という三つの目的で始 められた。最後に、Digital Campus Consortium とは、民間企業と連携して、IT 教材・カリキュラムを 開発していく、という趣旨のものであった。 こういった経緯を経て、2003 年に早稲田大学人間科学部の E スクールが立ち上げられた。 教育シ ステムの特徴としては、早稲田大学が作った子会社、WLS, に運営・コンテンツ作成を委託し、大学 の教員はプログラムのデザイン、システムの研究を行う、という方式を取っている。要するに、教員 で成り立つ組織は、実行機関ではなく研究機関である。 この E スクールは社会人を対象にし、1 学年大体 150 名で成り立っている。早稲田の E スクールの 特徴として、30 人から 40 人の学生からなるホームルームがあげられる。そこでは、担当教員がおり、 連絡事項等が掲示される。次に、educational coach というシステムで、修士課程を卒業した学生が、メ ンターとして報酬を得ながら、学習のお手伝いをする、という仕組みである。通学制のカリキュラム と E スクールのカリキュラムは全く同じで、対面授業で行われた講義のストリーミングビデオをライ ブで配信している。カリキュラムのみならず、E スクールの授業料も通学制と同じであり、高額な授 業料がひとつの懸念となっていたが、それは現在では妥当であると思われる。あとは、ゼミ、実験と いった内容の授業のオンライン化、教員の過大な負荷、良質なチューターの不足、日本人のオンライ ン上でのマナー、図書館の電子化、等が、現在の問題点として挙げられる。 eラーニングは、日本従来の受身的な授業方式を変えていくのではないか、と結論付けた。 韓国のオープンユニバーシティの設立に携わった人から、コンテンツ制作での予算立てはどのよう に行われているか、という質問があがった。それに対し、日本の大学の職員は専門性を持たず、特殊 な技術を必要とするeラーニングのコンテンツ制作にあたっては、全て外注で行っている、との回答 があった。 4 人の講演者の講演を終えたところで、会場を交えた全体討論に移った。最初の質問は、アサバス カ大学のテリー・アンダーソン教授からで、e ラーニングを行う教員に対する報酬はどのようなもの か、というものであった。その質問に対し、RIT のハンバート女史は、RIT では常勤の教員が特別な 手当て等もなく、自発的に e ラーニングのコンテンツの開発を行っており、教材のマルチメディア化 に関してのみ、助成を行っている、と答えた。e ラーニングの授業を担当している教員を対象とした 調査では、最初はオンラインのほうが仕事量が多いが、2 回目・3回目となってくると、対面授業と さして変わらない、という結果が出てきた。早稲田大学の野嶋先生はこの質問に対し、現在では、e ラーニングの授業を担当している教員は、通常の授業で1こま余分に授業したのと同じ給与しか払わ れておらず、教員が少ない報酬で過剰な労働を強いられる現状になっている、と答えた。しかし、将 来的には、e ラーニングの授業を担当する教員は研究費を 2 倍にする、といったような措置を取るこ とを考えている、と付け加えた。 次に、メディア教育開発センターの清水理事長から、教育の質の保証問題について、他国ではどの ように行われているのか、という質問があがり、RIT のハンバート女史は、この質問に対して、RIT 80 では、現在既存の評価認定機関に依存しており、オンラインのコースも対面授業のコースも区別なく 評価認定が行われている、と答えた。JISC のナイト女史は、英国でも、やはり既存の品質評価機関が 新しく e ラーニングに対応するにあたっていろいろな見解が出ており、学生の学習作業を評価する、 という形で進んでいる、と答えた。ヘルシンキ美術デザイン大学のステファン・ソンヴィラワイス教 授は、フィンランドでは e ラーニングの長い歴史があり、評価プロセスも確立しているが、共同でプ ログラムを実施しているオランダ、ドイツの国では、まだまだ、評価プロセスが確立しておらず、国 際的な学位を認定するに至っておらず、現在、共同で研究にあたっているところだ、と答えた。 教員が e ラーニングを自分の授業に採用していく過程において、何らかの基準を設けているか、と いう質問に対して、RIT のハンバート女史は、RIT では、教員に対する包括的なサポート及び研修を 提供しており、必要な教員では出来る限りの技術的サポートを行っている、と答えた。また、技術面 だけではなくペダゴジー面でのサポートも必要である、と指摘した。 最後に、開発した教材の著作権の問題の質問がいくつかあがり活発な議論となった。テキサス大学 のハーンドン女史は、彼女の大学では、教員が開発した教材の著作権は大学側にあり、教員が大学を 去るときもその教材を無断で持っていくことを禁じている、と論じ、RIT のハンバート女史は、RIT では、教員が個人で作成した教材の著作権は教員に帰属し、マルチメディアの技術サポートを得て作 成した教材は大学のものである、とした。一般に、オフラインで講義のために作成された教材の著作 権は教員に帰属し、オンラインの教材で大学の資金援助を得て作成されたものの著作権は大学に帰す る、との結論となった。 まとめとして、効果的な教授法というものはオンライン・オフラインを問わずユニバーサルなもので あるが、e ラーニングでは、特に以下の三点を促進することを可能とする。第一に、個別化学習。eラ ーニングでは、さまざまな学生のニーズや学習スタイルに合わせることが可能である。第二に、協調型 の学習。eラーニングによって教員と学生の交流、あるいは学生間の交流を高めることができる。第三 に、学習面での多様性を促進し、選択肢を増やすということ、すなわちワンサイズ的なアプローチでは ないということである。eラーニングにおいて、教員の負荷は相当高くなる。情報資料のサポート、指 導面でのサポート、それから技術的なサポート、といったサービスを教員に提供せねばならない。こう いったサポートサービスはeラーニングを促進する上で大変重要であり、不可欠である。 81 eペダゴジーのMAプログラム:視覚的知識構成 ヘルシンキ美術デザイン大学教授 Stefan Sonvilla-Weiss 緒言 教育および学習分野における情報コミュニケーション技術(ICT: Information Communication Technology)の普及 には目覚しいものがある。Web ベースの学習環境、公開遠隔教育(ODL: Open and Distance Learning)の実施方法、 および、関連資料において、教授法の視聴覚効果が注目されている。教育のいずれの分野であろうとペダゴジー の専門家は、視覚的な要素を理解し、イメージおよびその解釈について、さらに研究することを求められている。 Prometeus (e ラーニングに係わる技術とコンテンツの制作のための共通アプローチに係わるヨーロッパでの提 携活動)や InSEA (国際美術教育学界)など、さまざまな国際フォーラムにおいて、新たなタイプの専門知識(専 門的研究を通して)の必要性が、芸術とデザインの専門家によって認められている。そのような必要性は、「メ ディア・リテラシとメディア・コンピタンスの議論とイニシアチブ」 (UNESCO, Toulouse Colloquy “New Directions in Media Education” 1990, E-Learning Action Plan 2001)からも明らかになっており、特にこのイニシアチブでは、専 門知識の欠如が新たなメディア産業からも指摘されている(Eurojournalism, Euromedia, Eurocommunications, etc.)。 我々の社会における「イメージに富んだ変化、すなわち、アイコニック・ターン(iconic turn)」が加速される のに応じて、背景的知識を対話的に提示すること、および、ハイパー・メディを使用した知識空間に情報を変換 することが求められている。ただし、このことが一般的に「文字読み」が廃れたことを意味するものではなく、 むしろ、逆説的に、将来的には文字表現、概念図、オーガニグラム、絵画表現、三次元シミュレータなどを併用 して、学際的な知識の配信分野において、その可能性を広げるものと考えられる。 知識構築の再定義化は、コンピュータ・ゲーム産業(Prix Ars Electronica)の研究成果から得られた新たなモデ ルに基づくものである。論理的なアーキテクチャの変化は、学問研究と製品開発の境界に係わる境界管理におい て特徴的に現れている。将来の学習モデルの進歩は、イメージの読み取り、インテリジェントなグラフィカル・ インタフェース、サンプル方法などに依存することになろう。その結果、教育・学習に係わる組織は、実践中心 のカリキュラム内でコアー・プロジェクトをとおして、その実施方法を再調整することになろう。 e ラーニングが現場教育から教員訓練、さらに、高等教育のペダゴジーへと拡張されていくのに応じて、学際 的協力および視覚教育の専門知識が重視される。 視覚性を指向するペダゴジーの専門家に対するニーズは、ますます高まっている。例えば、コミュニティ知識 構築の能力や、民間部門および公共部門の双方からの、さまざまな分野の他の専門家とのコラボレーション能力 を備えた教員、チュータ、デザイナ、および、開発者が必要とされている。 MA プログラム「e ペダゴジーのデザイン – 視覚的知識の構築」(60 単位)のカリキュラム開発は、欧州委員 会のエラスムス計画によって承認され、支援を受けている。このプログラムは 2004 年 4 月に公式に始められた。 大学の提携関係 – 専門知識と背景 ヘルシンキ美術デザイン大学(UIAH) http://www.uiah.fi UIAH は、いくつものソクラテス計画のコーディネータとなり、ヨーロッパで実施されたさまざまな計画にお いて、管理の任に当たってきた。フィンランド国内でも、UIAH は名望のある高等教育機関であり、その教育水 83 準は高い。UIAH はさまざまなネットワークに参加しており、国内および国外を問わずさまざまな活動に参加し ている。また、Nordplus 計画の Cumulus や Cirrus など、複数の国際プロジェクトのコーディネータとなり、国内 およびヨーロッパでのイニシアチブ活動の大部分において、多くの場合、運営委員会や作業部会において、研究 者や学生の代表者を送り込んでいる。また、UIAH は、芸術とデザイン活動に ICT を導入するための活動に、専 門家として長く係わっている。このプロジェクトに関連する専門知識において鍵となるのは、理論的基礎(芸術 とデザインにおける伝統的、古典的、ポスト・モダニストの流れで)、最新メディアとポピュラー・カルチャー のメディア、例えば、漫画、マルチメディア、ハイパーメディア、映画、TV、および、写真などである。ICT を 指向するプロジェクトも複数存在する。例えば、Web ベースの ODL、MA レベルの現場教育(Virt@, http://virta.uiah.fi/)、および、「e ペダゴジー・デザイン」プロジェクトの創出と開発に係わる他の主要なプロジ ェクトなどがあげられる。 「e ポートフォリオ」プロジェクトは、UIAH が教育指導アプローチを拡大するために、例えば、幅広いレベル で ICT を革新的に使用するためのスキルを開発することによって、統一的で視覚的、かつ、ペダゴジーとして実 施可能な多様な形態でポートフォリオのコンテンツを制作し、開発する能力を示すものである。 UIAH は義務教育のための国内的なカリキュラム開発に参加しており、芸術とメディアにおける Lukiodiplomi (フィンランド高等学校の芸術科の卒業作品 – ポートフォリオの様式)開発に積極的に参加している(「e ポー トフォリオ」プロジェクトは、高等学校の芸術科の卒業作品をデジタル形式にするための開発を行う)。UIAH は、1978 年以降、芸術学部の博士課程における研究活動も管理している。 提携関係者の全てが、相互に豊富な運用知識を持っており、ヨーロッパでの協力実績も豊富である。関係者は ヨーロッパの教育市場において創造的なプロバイダーを代表しており、芸術とデザインに関する教育において、 それぞれが異なる分野で活動している。 ハンブルク大学美術教育センター http://mms.uni-hamburg.de/home/index.php MULTIMEDIA-STUDIO は、ハンブルグ大学教育学部の美術教育センターに属する。このスタディオは、ビジュ アル・アートと緊密に関係し、プレゼンテーション(発表)とレプレゼンテーション(表現)に関する問題が主 として取り扱われている。(もはや)容易には体系化することのできない知識の枠組みで、表現自体が問われる ような問題が、理論と実践において研究されている。芸術および美術教育は、複雑な知識の生成、維持、および、 処理について、その例を示す格好の分野である。この優れた観点から、MULTIMEDIA-STUDIO で遂行された多 くのプロジェクトにおいて、高度な専門的レベルにおける複雑な相互接続の視覚化が重視されている。このよう なプロジェクトでは、国内的および国際的なスケールでの大学や他の教育機関との協力、ならびに、「自由市場」 での企業との協力も行われている。大学教員、学生、および、外部の専門家の間の密接な連係は、 MULTIMEDIA-STUDIO の活動には不可欠である。 この基盤研究の成果は、それ自体が具体的なソフトウェア制作という形で現れており、美術教育やその仲介行 為に反映する形で影響を及ぼしている。アクセス可能性、既存のオーダーの検索、収集と変換、および、情報の 知識とアクションへの転移などの問題に係わる情報発信が行われている。 それに加えて、知識管理の今日的な側面は、経済的利害、および、社会的、政治的、教育的、美術的な分野か らも大きな影響を受けている。 84 インホーランド大学 http://www.inholland.nl 2002 年 1 月 1 日、アルクマール教育大学、ハーレム教育大学、オランダ教育単科大学、および、イクトゥス/ デルフト教育大学が合併してインホーランド大学となった。インホーランド大学には、多数の学生(4 万名)、 職員(3 千名)、および、キャンパスが存在するが、特に、学生に密着した存在感のある教育機関であることが 特徴である。大学では、学生は、ノールトホラント州およびゾイトホラント州に設けられた 10 のキャンパスで、 ほとんどあらゆる分野を網羅したプログラムを選択することができる。 2006 年まで、インホーランド大学は、3 つの最重要分野に焦点をしぼる予定である。すなわち、「個々の学生 と市場を重視した教育モデルの開発と実施」、「知識創出」、および、「ボーダレス教育」である。 インホーランド大学が競争ベースの教育モデルの開発と実施を重視するのは、学生と市場の双方が、個人のニ ーズに対応した多様な、また、明確に定義されたプログラムを求めているという単純な理由による。学生と教員 の競争力の向上と革新性は、この研究活動の中心概念である。 インホーランド大学はブレンディッド学習(blended learning)、すなわち、学生が、時間と場所に拘束されずに、 親しい学友グループと共に知識と経験を獲得できるようなコンピュータ化された学習環境の構築に投資している。 インホーランド大学およびその前身である各大学は、e ラーニング、革新性、職員の専門性、品質保証と技術など のドメインで、(全国的には NL デジタル大学を通して、地域または国際的には SURF を通して、)多くの提携プ ロジェクトに熱心に関わって来た。また、エラスムス計画(参加者総数 218,625 名 – これは、学生と職員のヨーロ ッパ内の移動を示す)において、例えば、レオナルド・プログラムなどで、極めて精力的な活動を行っている。 「eペダゴジーのデザイン」の MA コース−認定単位と専門分野 85 8 単位 32 単位 ハンブルグで 10 単位 研究プロジェクト、フィールド・ プラクティス 2 単位 ・ 修士論文 研究方法 ・ ハイパーメディア・プロジェ クト ・ メディア理論 ・ オーサリング・システム 20 単位 ヘルシンキで 10 単位 修士論文 10 単位 28 単位 ・ メディア教授法の構成 ・ 視覚的知識の構築 UIAH ・ 修士論文 ・ 著作権問題 10 単位 ロッテルダムで 8 単位 ハンブルグ大学 8 単位 ・ 学習理論 インホーランド大学 ・ メディア管理 ・ 文化交流教育 ・ コミュニケーション理論 学生に対する最低要件 志願者の最低要件の規定は、次のように定められる。 ・ 学士号または同等水準(120ECTS [注 1]) ・ 視覚化/メディア理論に関する質問 ・ 作業または学習によって得られた幅広い ICT スキル ・ 教育理論および実践に対する関心または体験 --注 1:ECTS - 欧州大学間単位互換制度 --- 入学試験 入学試験に先立って、入学に関心のある学生は、オンライン調査を使用して、自分の具体的な関心事項をチェ ックし、明確に内容を判断し、かつ、評価することができる。大学側も、オンライン調査によって、学生の期待、 将来の職業観、および、「e ペダゴジーのデザイン」の研究によって獲得したいスキルを知ることができる。入 学試験の内容には、以下の事項が含まれる。 ・ オンライン登録と調査記入 ・ カリキュラムの履歴 86 ・ 理論的な事項、例えば、視覚化およびデザイン戦略、ハイパーメディア・プロジェクト、Web リンク参照など ・ ハンブルグ、ロッテルダム、ヘルシンキにおける実用試験および面接 既に提携大学のいずれかに入学を許可された学生から、ごく限られた数の学生を選抜して受け入れるという明 確な方針に基づいて、最初の入学試験は独自の試験プロジェクトとして実施された。将来的には、外国の学生、 専門家、教員に、広範囲に研究の門戸を開く予定であり、これに伴い、戦略的な広報活動が主要な活動となろう。 次回の入学試験は 2005 年 2 月に実施予定である。詳細は、http://epedagogy design.uiah.fi、に記載されている。 学際的アプローチ 「e ペダゴジーのデザイン – 視覚的知識の構築」の学際的なアプローチには、メディア/コミュニケーション 理論、ビジュアル・ペダゴジー、ハイパーメディア、および、教育科学が網羅されている。科学的な整合性と統 一性に関しては、学界の伝統と利用可能な専門知識をバランスよく融合する方法を見出すプロセスが、最大の課 題であった。 全ての科学分野にわたって、メディアが融合されることによってパラダイム・シフトが生じることが明らかに なってきた。 競争力の高い知識経済では、教育政策に関して必要な規制が継続的に生み出されてきた。しかし、学際的な研 究という新たな形態が創造されたことで、そのような知識経済の枠組みにおいて、個々の学問分野における統一 的な開発、研究、区別および検証に対する管理が失われていくというリスクが生じると思われる。また、高等教 育の科学分野において、経済的な検証を行ったときに、それらがグローバルな知識経済において新たな挑戦課題 を満たすものであるか、または、勢力を失うものであるかについては、意見の相違が生じるものである。 「e ペダゴジーのデザイン」を構成する学問分野は密接に関係するものであるが、異なる国においては、学問 的伝統や学習の文化的側面等は大きく異なるものである。この点に関して、学際的アプローチは、ソフトウェア・ スキルの訓練や開発も同様に対象とすることまで見据えている。 入学が許される学生の適格性の基準については、 特に、次の点が重視される。 ・ 社会的なコミュニケーション能力 ・ 視覚的知識構築における文脈解釈能力 ・ 電子メディアおよび変則的な教育課程についての強い関心、受容性、および、基本知識 ・ 社会文化的な多様性に対する受容力 ・ 知識社会において進行中のパラダイム・シフトに挑戦する意欲 ・ コラボレーション指向環境における業務や実践に必要な柔軟性と参加意欲 カリキュラム構造の概略 図 1 に視覚的知識構築について歴史的な展開の概略を示す。ここには、テクスト間相互関連性を伴う知識構築 コラボレーションのプロセスにいたるまで、科学的な視覚化のための、教育指導的、メディア理論的、および、 認識論的な側面が網羅されている。 87 図1 視覚教育 メディア/コミュ 教育科学 ハイパーメディア ニケーション科学 ユビキタス性 オープン・ソース 同時性 無限性 グローバルな意識 転移・変位 ブレンディッド学習 スケーラビリティ 記号学 対話 ビジュアル/メデ 通信/情報システ ィア・リテラシ ム アイコニック・タ コラボレーション 学習対象 ビジュアル・ワールド 協力 知識発見ツール ーン 視覚教育から視覚的知識構築へ – トピックス 1658 年 J.A.コメニウス著、「オルビス・ ポール・オトレ(1868∼1944 年)の完全な言語の追求、および、 ピクトゥス」 - 見える世界 国際十進分類法 ディドロの百科事典編纂(1751∼1772 年 オットー・ノイラー(1882∼1945 年)の ISOTYPE (International に実施)、知識の組織化と可視化 System of Typographic Picture Education)、および、視覚教育のため のウィーン方式 16 世紀のレオナルド、ベサリウス、絵画 化の知識 – 科学的視覚化 距離の消滅 – テレマティック文化の出現 19 世紀の時間と空間 88 黙示的なスキルから明示的な知識へ 知識の共同構築のための視覚化戦略 Relationships Visual thesaurus – www.visualthesaurus.com • Antonym Keyword: Education • See also • Is similar to Nouns Adjectives • Is derived from • Entails • Is a participle • Pertains to Verbs • Verb group • Is a type of • Is a part of • Is a member of Adverbs • Is made of Intertextual relationships based on Versace advertisements Sketch illustrating intertextual cp. www. cultos.org relationships on a certain topic. • Interrelationships • Intrarelationships • Intertextual relationships © Sonvilla-Weiss 2004 89 ビジュアル類語辞典 関係 www.visualthesaurus.com ・ 反義語 キーワード:教育 ・ ∼を参照 名詞 ・ ∼と類似 訓練 ・ ∼から派生 リーディング ・ 必然的結果 形容詞 ・ 分詞である ・ ∼に係る 教育 ・ 動詞グループ 教育学部 ペダゴジー 動詞 ・ ∼の種別 ・ ∼の一部 教育学部 教育 指導 ・ ∼のメンバ ・ ∼から成る 副詞 教育活動 ベルサーチの広告におけるテクスト 間相互関連性 特定のトピックについて、テクスト間相互関連性を簡潔に述べよ。 (www.cultos.orgと比較) ・ 相互関係 ・ 内部関係 [図省略] ・ テクスト間相互関連性 概念 オントロジー・ビルダー 概念 インスタンス スレッド 意味関係 マルチメディア・オブジェクト メディア・リッチなコンテンツ 内省的視覚化 ユビキタス・アクセス 参照システム コラボラティブ知識構築 コミュニケーションとコラボレーション 学生の背景は、 学歴からメディアや芸術に関する過去の研究実績にいたるまで、 さまざまに異なるものである。 彼らが「e ペダゴジーのデザイン」の受講に抱く期待や動機は、その国際的な側面が鍵となっている。すなわち、 英語の上達と知識の共有である。3 つの異なる文化的背景と言語をもち、しかも、全て英語を母国語としない学 生のためにコースを設定したことによって、このアプローチの全てが、それだけで容易なものではなくなってい る。このため、学生が共有すべき意味をどのように創造し、共通の目的を追及するための理解をどのように促進 するかという、コラボラティブなコミュニケーション・プロセスに重点が置かれることになった。 90 学生と教員の間の同期的コミュニケーション・プロセスは、「アイコニック・ターン – アイコニック・クラッ シュ」と呼ばれるオンライン・セミナーの最初の討論において、むしろ意欲的に追求されることになった。 しかし、時とともに、個人の時間管理と拘束日の同時設定の困難さが、ワークフローの実施およびコースの継 続に障害となるようになった。学生の間では同期的なコミュニケーションが次第に疎遠になっていったが、その 主な理由は、この MA プログラムに参加した各大学の年度に束縛される履修スケジュールの相違にあった。 コミュニケーション 受容度と効率性 インスタント・メッセージング 討論フォーラム チャット TV 会議、電子掲示板 コラボレーション 図3 図 3 に、2 ヶ月間にわたって実施されたオンライン・セミナーにおけるコミュニケーションとコラボレーショ ンの受容度と効率性を示す。 ペダゴジーおよび教育指導のための主なアプローチと概念 「e ペダゴジーのデザイン」における知識構築は、次のような特徴を備えた VLE 活動を支援するものである。 - 「問題重視」対「トピック重視」 – 学生は自分が研究したい知識を理解し、特定する必要がある。 - 「知識オブジェクトの制作」対「メディア・オブジェクトの制作」 – オントロジー・モデル - 「貢献」対「公開」 - 学生は、メディア・リッチなデータベースを入力すれば、共同の知識構築活動への貢 献として評価される。 - 「持続可能な知識創出」対「ワンパスの知識創出」 - 学生の討論で生じた名案は、記録され、追跡される。 - 「公のコミュニケーション」対「一対一のコミュニケーション」 - 司会者付きの討論フォーラムおよび一対 91 一のコミュニケーションの促進 - 内省の機会 – 非同期的な討論フォーラムであれば、学生は「貢献のための計画の時間」をとることができる。 「e ペダゴジーのデザイン」では、コラボレーションの文脈で適切に位置づけられた正式な学習、研究、実験、 および、講師やチュータが決定する活動よりも、学生自身による問題解決活動の創出が重視される。 教育指導デザインには、スレッド形式の討論掲示板、オンライン・リソース、遠隔講義、および、同期的コミ ュニケーション施設などを備えた、問題ベースの学習環境に対する相互参照が含まれている。 コラボレーション学習のオブジェクトとは、コラボレーション知識構築プロセスの成果であり、そこには、オ ンライン討論会で参加者が記述した重要な情報が含まれている。この種の情報は、意思決定を容易にし、新入生 にこれまでの作業方法を習得させるために利用できるものであり、また、学習オブジェクトとしても利用できる (図 4)。 図4 図5 メタデータ: オーサリング・ツール タイトル、記述、 製作者、その他 結論: オントロジー・ビルダー 討論の要約、および、討論が完了 した後で記述される結論 コラボレーション学習のオブジ スレッド ェクト 選択された重要知識: メディア・リッチ・コンテンツ 学生のコラボレーションで選択 された討論の重要事項 完全な討論ツリー: 概念マップ メッセージ、文書、その他 92 研究の重点 知識に係わる組織は、仮想的に統合された KOs (Knowledge Organization Systems)に取り組み、また、課題に 係わるメタデータに熱心に取り組んでいる。最も重視されているのは、課題相互の間で検証された知識構造、す なわち、社会的または文化的構造である。つまり、討論の関連対象について、討論コミュニティが共有する見解 (概念化) 、および、そのようなオブジェクトの相関性に関する当該コミュニティの考え方である(図5) 。 トピック・マップおよび概念マップを使用することで、知識構造を構造化されたリンク・ネットワークとして 表現し、それを共有し、融合することができる。このようなマップによって、討論コミュニティの相反する見解 と、ナレッジ・レポジトリ(格納所)向けの課題に係わるメタデータの双方を表現することができる。従って、 KO とは、作業を知識で助けるために、適切な概念的アクセス構造に到達し、表現する方法に係わるものである (すなわち、知識ネットワークまたは知識空間)。 トピック・マップおよび概念マップとは、そのようなネットワークを取り扱うための特別なパラダイムおよび技 術を意味する。特に、表現と知識構造のモデル化を行うものであり、従って、そのような複雑な知識構造を意味論 的に検索し、視覚的にブラウズするのを助けるような手段を、洗練された方法で発見できるようにするものである。 我々の研究およびプロジェクト開発では、現行の VLE 開発を、公開標準に基づくマルチメディア知識管理ツー ルに融合する必要性が強調されている。従って、活動の重点は次のような課題に置かれることになる。 - 移動可能なメタデータのオブジェクトに対応した統合型オーサリング・ツールのカスタム化 - そのような移動型メタデータ・オブジェクトに関連するメディアの教育指導に係わる特性の仕様化 - 異なる学習シナリオでの、このようなオブジェクトの配信と開発 - デュアル・モード・ワークフローの支援ツールの仕様化と導入 - 学際的研究のドメインにおけるオントロジーの定義、これは授業および学習を支援するための視覚的知識 の拡充モデルとして提案されるであろう。 「e ペダゴジーのデザイン」における別のアプローチでは、ブレンディッド学習における教育指導的なオント ロジー、革新的なデュアル・モードおよびブレンディッド学習の活動の開発、および、次のような共同オブジェ クトの開発が含まれる。 オンライン個別指導 オンライン・チュータの役割を明確にし、学生のオンライン学習を支援するための効 果的な戦略を確立する。 学習に関する討論 オンラインおよびオフラインの授業方法を明確にし、学生のデュアル・モード学習の ための戦略を策定する。 学習に関する会議 セミナー資料、ビデオ形式の文書、レポート、および、学生の発表資料をオンライン・ リソースに移行するための効果的な方法について、国際セミナーを開催し、調査を実 施する。 ロール・プレーイング オンラインおよびオフライン環境における、学生、教員、および、専門家のコミュニ ケーションの司会、個人指導、助言について、その実施態様を考案する。 作業グループ 学生、教員、および、専門家のコラボレーション・プロジェクトのアプローチの構造 と方法を明確にし、そのような共同活動促進のための効果的な方法を策定する。 93 「e ペダゴジーのデザイン – 視覚的知識の構築」の将来段階 図6 (訳注:円周文字、時計回り) 研究プロジェクト、国際セミナー、ナレッジ・プール、学生と教員の関与、知的所有権、産業界との連係、 コース提示の実施 学生交流の強化 チュータ増員の必要性 教員交流プログラム ハンブルグ大学 ヘルシンキ大学 専門家 教員 チュータ 学生 インホーランド大 学 対面授業の必要性 チュータの役割とは? 全ヨーロッパからの入学生の増加 図 6 の現行のカリキュラム開発プロセスには、各機関の間でより簡潔かつ効率的にコラボレーションを実施する ために、重視すべき改善点が網羅されている。次の段階では、大学および公共/民間団体の関係者の間で、さまざ まな協力関係を拡大する予定である。さらに、相互リンクされた知識共有文化を形成するために、学生、教員、お よび、専門家をまとめるための包括的なアプローチにおいて、公式および非公式教育におけるパラダイム・シフト 94 の変化に関して幅広い見方が必要とされる。仮想コミュニティは、文書またはレポジトリによる知識の外部公開促 進を支援するものであるが、社会的な相互作用と個人のスキルに取って代わることができないのも明らかである。 参照 AI Topics – a dynamic library of introductory information about Artificial Intelligence, Education, http://www.aaai.org/AITopics/html/education.html ANDERSON Terry and Denise Whitelock (2004) The Educational Semantic Web: Visioning and Practicing the Future of Education, http://www-jime.open.ac.uk/2004/1/editorial-2004-1.pdf BAUMGARTNER Peter, H. Häfele, K. Maier-Häfele (2002) Evaluierung von Lernmanagement-Systemen (LMS). In: Handbuch E-Learning. Fachverlag Deutscher Wirtschaftsdienst: Köln 2002 BRITAIN, Sandy; Oleg Liber (1999): A Framework for Pedagogical Evaluation of Virtual Learning Environments, http://www.leeds.ac.uk/educol/documents/00001237.htm CULTOS - Cultural Units of Learning - Tools and Services Multimedia knowledge management tools for culture and arts, http://www.cultos.org DICOLE – VLE, http://www.dicole.fi REINMANN-ROTHMEIER Gabi (2003) Didaktische Innovation durch Blended Learning. Leitlinien anhand eines Beispiels aus der Hochschule. Unter Mitarbeit von Frank Vohle, Frederic Adler und Heidi Faust, Bern 2003 SEMANTIC WEB, http://www.w3.org/2001/sw/ WILEY David (2000) Learning Object Design and Sequencing Theory, Dissertation http://wiley.ed.usu.edu/docs/dissertation.pdf WILEY David (2000), Learning Object http://wiley.ed.usu.edu/docs/dissertation.pdf Design 95 and Sequencing Theory, Dissertation RITにおけるテクノロジーを用いた教授・学習 ロチェスター工科大学 オンライン学習部長 Joeann Humbert シニア・リサーチ・アナリスト Karen Vignare 要約 ロチェスタ工科大学(RIT)はニューヨーク北部地方に位置する学生数 15,000 名の4年制私立大学である (http://www.rit.edu/facts.html)。RIT は 8 つのカレッジから構成され、技術分野の専門家を育成するための職業訓 練を重視している。技術能力の高い労働力へのニーズが高まるのに応じて、RIT に対するニーズも高まっている。 RIT の遠隔学習は、1979 年に遠隔コース(テレコース)として開始された。その目的は、今日も変わることなく、 学生にもっと多くの教育機会を与えることにある。1980 年代の半ばには、テレコースに電子メールおよびオンラ イン討論用掲示板を導入した。1991 年までには、RIT のオンライン遠隔学習プログラムおよび関連コースは完全 に整備されるにいたった。2002 年には、オンライン学習のための技術とペダゴジーは、RIT のキャンパス活動の 中心に位置するようになった。 I. 背景 A.遠隔学習の歴史 RIT のオンライン学習実践に係わるペダゴジーの基本は、アメリカ高等教育連盟(AAHE)の会報 1987 年 3 月 号に掲載された独創性の高い論文「学部教育の模範的実践のための 7 つの原則」で明らかにされている。オンラ イン授業実施のために教職員を訓練する際の 2 つの基本的かつ恒久的なペダゴジー原則とは、能動的な学習戦略 を促進すること、および、教職員対学生および学生対学生の相互交渉をさらに促進することにある。このような ペダゴジーの基盤は、多数の現場教育戦略を通して達成されるものである。テキスト中心のコースをメディアに 置き換える能力を教職員に与えることで、RIT の遠隔学習プログラムは、非同期な(教科書中心の)コースと大 きく異なるものとなったのである。サポートされるメディアは、ビデオ、CD-ROM、そして、ストリーミング・ メディアにまでわたる。同期型かつ対話型技術に対する RIT の投資はそれほど大きなものではなく、RIT は、遠 隔学習およびキャンパス向け技術応用学習のために、もっと包括的な、また多くの場合、もっと効果的なアプロ ーチとして、非同期学習に重点を置いている。 メディア開発およびメディア支援に加えて、RIT はもっとも進んだアクセス可能性(アクセシビリティ)のた めのガイドラインを提供するという点でも指導的な立場にある。RIT は、学内の 8 つのカレッジの 1 つとして、 NTID(国立技術大学校)を運営しているという点でもユニークな存在である。NTID の存在によって、RIT のオ ンライン学習者の中には、その比率は少ないが、聾者または難聴者が含まれる。RIT は、このような学生を支援 するために、いくつか重要な方針を策定し、基本的な文字表現の使用を超えて、メディアによるソリューション を創出してきた。このような学生に対する支援は、ひいては健常者の学生にも役立つものであると考えられてい る。RIT は、そのオンライン教育のパラダイムを完成させるために、オンライン・コースの受講者に幅広いオン 97 ライン学生サービスを供給している。このプログラムの成功は、受講率の高さおよび履修完了率の高さによって 証明されている。例えば、7 年を超える期間について、学生のコース履修完了率は 95%を超えた。また、遠隔プ ログラムへの入学・受講を許可された学生のうち、1 年目の終了後に脱落した者は 10%未満であり、完全にオン ラインで実施されたプログラムについては、72%を超える受講者が無事に卒業することができた。 表 1 オンライン遠隔コースの受講生の初年度脱落率 初年度脱落率 学生の入学年度 履修初年度後の脱落率 1995 9.56 1996 13.27 1997 8.45 1998 9.17 1999 11.58 2000 11.03 2001 7.93 2002 6.06 平均 9.63 図 1 入学年度別遠隔受講生の卒業率 Percent Distance Students Graduation Rates by Year 80 60 40 20 0 1995 1996 1997 1995 Cohort 1998 Cohort 2001 Cohort 1998 1999 1996 Cohort 1999 Cohort 2002 Cohort 2000 2001 2002 1997 Cohort 2000 Cohort 2003 Cohort 遠隔コース受講生の年度別卒業率 パーセント 1995 年入学 1996 年入学 1997 年入学 1998 年入学 1999 年入学 2000 年入学 2001 年入学 2002 年入学 2003 年入学 98 B.オンライン教育とキャンパス・コースとの統合 RIT で遠隔学習プログラムが成功したことにより、また、キャンパス内の全てのコースにオンライン技術を導 入するという新たな使命に基づいて、学務担当副総長(Provost)は、オンライン教育のキャンパス内コースへの 統合および技術導入について、学内組織を指導する部門として 2002 年にオンライン学習部を創設し、その任に当 てた。このような試みは、他の教育機関でも行われている。例えば、Carol Twigg と学位移転センターの取り組み によって、ペダゴジー的に豊富な技術が使用されると同時に、学生の履修完了度が向上した。彼らのこのような 努力は、オンライン技術が教室で大きな成功を約束するとの前向きな考えを持つ多くの関係者によって、高く評 価されている。 2003 年、キャンパス内にコースウェア管理システムを導入した後で、RIT のオンライン学習部はブレンディッ ド学習の試験プログラムを開始した。このプログラムでは、オンライン活動を支援するための MyCourses システ ムによって、ブレンディッド学習プログラムの最良の実践が、対面授業の最良の実践と組み合わされることにな った。調査の結果によれば、学生は、講義選択計画の追加や教授が使用するようなリソースなど、ブレンディッ ドコースのオプションと利便性を好むものであること、また、学友との相互交渉において、質量共に優れた体験 を実感していることが明らかになった。 オンライン教育に係わる講義選択計画がもっと多くのコースを対象とするようになれば、授業と学習の改善が 進むはずである。ニュージャージ州のベルゲン・コミュニティ・カレッジの Mark Kassop は、オンライン学習の メリットについて注目すべき論文を書いている。すなわち、遠隔コースの実践から明らかになったことは、オン ラインでの同期的な相互活動によって、学生間でいっそう平等な競争条件が生み出され、強固な学習コミュニテ ィが創出され、学生は自分の意見を深めるための時間を取ることができ、また、文書能力を高めることができる ようになったということである。 現在、技術はオンライン学習において効果的に利用されてはいるが、ほとんどの教育機関において、授業と学 習の改善ために、なお技術の最適化が必要とされている。ハーバード教育大学院の学習指導学科長の Chris Dede が述べているように、教育の将来は、教育の変革のために技術を活用することにかかっており、現状のように単 に拡大を目指すことにあるのではない。RIT は次世代の学習者を助けるために、教育関連の技術の効果的な利用 を目指して、その進歩を期待している。 II. RIT におけるモデルとすべき遠隔学習アプローチの創造 RIT の遠隔学習事務局は、初期の段階から、役に立たないモデルではなく、最良の実践をとおして、教職員の 指導を行っている。1991 年に RIT が新たな学位取得方法に関するアンネバーグ基金から資金供与を受けることに なったとき、遠隔学習事務局は包括的な遠隔学習プログラムの構築に重点を置く方針を定めた。RIT の遠隔学習 モデルでは、教職員の指導と啓発および学生支援が重視されている。RIT の学生支援には、オンライン登録、ラ イブラリ・サービス、オリエンテーション、技術サポート、および、一般的なサポートが含まれる(Geith, 2001)。 遠隔学習の受講生に、学習成功に必要な支援を与えることは、学部にとって現在も追求されている使命である。 RIT の遠隔学習事務局が提供する支援の中でも、オンライン学生サービスは中心的な位置を占めるが、本論文で はこの後、教職員が実施するオンライン・コースに対するサポートを詳細に取り扱うことにする。遠隔学習教職 99 員に対する RIT の支援は、コースのデザインから始まり、明確なシラバスの作成へと進み、さらに、オンライン の能動的な学習テクニックの重点的使用へとつながる。 A.遠隔の基盤 – 7 つの原則 RIT は、当時アメリカ高等教育連盟と提携していた TLT グループと連携して、資金供与の評価を行った。TLT グループは、Charles Chickering (1987)による「よい大学教授法のための 7 つの原則」という独創性の高い論文 を遠隔学習事務局に紹介した。この「7 つの原則」とは、数十年にわたる教育研究によって、学習成果の向上を もたらすものと判断された特別な授業/学習活動の内容を要約したものであり、関係者にはよく知られているも のである。 表 2 7 つの原則とオンライン・ペダゴジー教育方法 7 つの原則 効果的な RIT オンラインのために「優れた実践」を もたらすペダゴジー 1. 学生と教職員の交流を促進する 討論用掲示板の使用 – トピック、一般的な Q&A、 学生同士の相互交渉 2. 学生同士の相互協力関係を深める オンライン・チーム・プロジェクトの設定 3. 積極的な学習方法を取り入れる オンライン活動への参加が要請されることで、内省 的思考が確立し、文書記述能力が重視される 4. 即座になフィードバックを与える 教職員は、電子メールには 24 時間以内、質問には 1 ∼2 日、論文やプロジェクトについては 1 週間以内 に回答することを求められる 5. 時間通りに課題を終える習慣をつけさせる モデル・シラバスを示すことで、学生は学習作業に 必要な時間を判断できる 6. 学生に対する期待を高く持ち、それを伝える モデル・シラバスには、学生に対する成績の期待値 と、評価規定が明記されている 7. 学生の多様な能力・学習スタイルを尊重する オンライン学習によって機会の平等化が促進され、 その結果、討論がいっそう活発となり、補助的なメ ディアやテキスト資料も使用できるようになる 出典:TLT グループと RIT のオンライン・ラーニング B.RIT 教職員支援ツールの詳細:PRPA モデルとシラバス オンライン実践を効果的に支援するために構築された基盤を使用して、RIT は遠隔学習の受講者のために仮想 教室の構築を開始した。RIT が遠隔学習コースの経験を積むのに応じて、オンライン環境で学習する学生には、 通常の教室で得られるような特定の視覚的な手がかりや、 内容確認の手段が不足していることが明らかになった。 学生に正しい手がかりを与えるには、オンライン教室で何が教えられ、どのように運営されるかについて、教職 員が学生に明確なイメージをもたせることが不可欠である。オンライン学習の教育デザイナーの役割は、教職員 がそのコースをオンライン形式で作成したり、オンライン形式に変換することを助けることにある。4 つの基本 100 要素、すなわち、成績、リソース、実践活動、および、アセスメント(PRPA)を使用したオンライン・デザイ ン・モデルなどのリソースが、全ての課題が確実に議論されるのを保証するのに使用されている。教職員は、コ ースについて検討するために、教育デザイナーと会談し、7 つの原則をコースに統合するための戦略を策定する。 コースの構成と現在実践されている授業方法が見直され、コースの評価基準が決定され、コースのコンテンツ・ リソースと配信方法が決定される。教育デザイナーは教職員と共同で、学生の実践活動を決定し、学生同士、ま た、教職員と学生、学生とコンテンツの能動的な相互交渉について計画を立てる。選択されたアセスメント方式 によって、学生と教職員の双方が、コースの成果がいつ達成されたかを知ることもできる。 次に、教育デザイナーは、教職員が学生に対する期待値を明確に記述できるように指導する。シラバスと日程 表には、コースの完全な案内が記述され、予定される学習成果、学生の実践活動、および、習得レベルの評価方 法が明記されなければならない。コースのシラバスはオンライン学習モデルに照らしてチェックされ、重要事項 に係わる情報が見落とされないようにする。オンライン・シラバスには次の内容を記載しなければならない。す なわち、学習の成果、教員や講師の紹介、アセスメントおよび成績評価の方針、連絡に関する方針、受講受入に 関する方針、コースの記述、単位認定に必要な時間、受講前提条件、他の関連情報、コースの教材、技術支援、 補助教材、図書館の使用、コースの導入および開始の手続き、不正受講取り扱いに関する方針、コースの機構、 および、任意のADA問題。それぞれの分野の情報に含まれるべき内容について、完全なリストが、 http://online.rit.edu/faculty/strategies/presentation/syllabus.doc、のWebページに掲載されている。 RIT のオンライン学習では、FirstClass と MyCourses (Blackboard が所有する Prometheus)という 2 つの CMS 製品が使用されている。FirstCLass ツールは遠隔学習コースに対してのみ使用可能であるが、MyCourses は遠隔学 習だけでなく、キャンパス内の教室でも使用できる。オンライン学習部の技術支援担当は、教育デザインの要員 と協力し、教職員が必要なシラバスに関する情報を完成するのに有益なデフォルトのテンプレートを作成した。 その後明らかになったことであるが、教職員にテンプレートを提供していれば、コースウェアのインタフェース が変更された場合にも、教職員はコースウェア自体を削除するのではなく、足りない情報を補って完全なものと して再使用することができる。 III. 効果的な ALN ペダゴジー:討論とコラボレーション A.討論によって能動的な学習を促進する 教授方法に関して多くの新たな文献が発表されており、教職員は能動的な学習環境の導入を促されている (Bransford、1999)。オンライン討論は技術的には簡単なツールであり、能動的な学習を育むものである。非同 期の討論用掲示板は比較的作成が簡単であり、生の討論会よりは多くの長所を備えたものであるが、運営を自動 化することはできない。オンライン討論を効果的に導いたり、その司会を努めることは、芸術的行為でもあり科 学的実践でもある。教育デザイン部門の要員は、教職員にコースの学習目的を考え、その目的を達成するための 適切な方法論を決定するように促す。教職員は Web ページのリソース、あるいは、供与された教職員案内のリソ ースを参照することができる。教職員は、討論用掲示板の使用によって、多様な教育用テクニックを獲得するこ とができる。例えば、今日的な話題に関する討論、ケース・スタディ、ロールプレイ活動、指定図書の内容考察、 リンクと事例の共有、日誌記入、招聘専門家に対するインタビュー、学生が学習内容を自分自身と関連させる義 務、および、討論の司会役およびまとめ役を共有すること、などがあげられる。このようなテクニックに基づく 101 戦略は、単独で使用することもできるし、他の戦略と組み合わせて使用することもできる。 討論の評価は、簡単にはできない。幸いにして、教育デザイン部門の要員は、授業の学習目標に基づいて討論 を評価するための規定を作成した教職員から、多くの事例を得ることができた。例えば、目標の 1 つが知識習熟 の証拠を示すことにあるなら、読書の成果を示すようにとの要求を、討論の条件の中に含めることができる。教 職員は学生に対して、 必要とされる書き込みの頻度を通知したり、 討論用掲示板への書き込みが評価されるには、 どれだけの文章量が必要かを告げてもよい。 表 3 討論の評価に関して教職員から得られた事例 討論を選択して、具体的な「ポイント・ベースの評価方式」を使用し、文書の課題指定の場合と同様に、 特定の重要事項(内容、機構、スタイルなど)を点数で評価する。このような評価方式の例を以下にあげ る。 ポイント 項目の要件 30 内容は徹底的に、十分に説明されている。 20 新概念、創造性、または、革新性が表現されている。 20 書き込みによって、他の学生を討論に参加させている。 10 記述は明瞭で簡潔。 10 記述に誤記はない。 5 形式が内容を高めており、大きな説得力を示す。 5 十分豊富で信用できる出典が引用され、必要に応じて Web のリンクも表示されてい る。 出典:RIT のインストラクタ、Christine Sevilla、2003 年 B.学生同士のコラボレーションと協力 遠隔学習コース向けのオンライン学習ツールを使用すれば、 学生をチームに分け、 小グループで情報を共有し、 討論するためのオンライン空間を設けることは簡単に実行できる。オンラインの学生グループ向けのツールを使 用することで、対面で活動するチームが直面する物理的問題(会合の日時や場所の決定、必要なファイルの所在) を解消することができ、学生は、いつでもどこでも、非同期的にコラボレーションに参加できる。学生をオンラ イン・グループに分けて指導すれば、その学業の進捗を容易に監視することができ、また、グループ全体や特定 のメンバに注意・指導が必要な場合にも介入が容易である。プロジェクトの最後で、非協力的なメンバがいたと か、特定のメンバが全ての作業を行ってしまったとか、プロジェクトが予期せぬ展開を見せたとか聞いても、驚 くことはない。遠隔学習では、学生同士が出会って、互いに知り合うチャンスは少ない。しかし、このような学 生も、協力的な学習活動を実施すれば、小グループ活動をとおして、もっと授業に係わり、RIT に親しむことに なる。 任意のグループ活動における教育デザインの目標は、グループが強い独立性を発揮することであり、グループ 102 のメンバが共通の目標に向かって、互いに助け合うような「一人は全員のために、全員は一人のために」という 仲間意識を打ち立てることにある。このことは、グループのメンバ全員が評価、試験、または、個々の論文で、 ある得点以上の結果をだした場合に、当該グループにボーナス得点を与えることにすれば容易に達成できる。ま た、学習準備を十分に行った学生は、とても目標を達成できないと思われるメンバを励まし、助けるようになり、 他方、準備のできなかった学生も、他のメンバを失望させないように頑張るものである。 表 4 コラボレーションに基づくプロジェクト・コースの例 デボラ・コールマンは MyCourses でグループ化を効果的に採用した。学生は、彼女が担当する遠隔コース「情 報技術」のグループ作業を非常に高く評価した。 「コールマン教授の授業を受けるまでは、遠隔学習グループ・プロジェクトで成績は上がりませんでし た。私が先に受講したコース・プロジェクトでは、何が要求されているのか少し曖昧な感じがしました。 このような感じは、通常、「対面」のグループ・プロジェクトでは、よくあることですが、遠隔学習プ ロジェクトでは、メンバが、どこが問題なのかについて意見の一致を見ようとすると、もっと混乱が生 じ、時間もかかります。他のプロジェクトにはなくて、コールマン教授のプロジェクトにあったものは、 明確なグループ・プロジェクトのガイドラインと、プロジェクトでの複数回にわたる資料提出です(四 半期の最後に 1 回だけ大量に提出するのではなく)」学生、トニー・ジェファーソン コールマン教授は、グループごとにチーム・フォルダを作成する。次に示すのは、MyCourses のコンピュー タ画面の表示である。 表 4 コラボレーションに基づくプロジェクト・コースの例(続き) 103 IV. よりアクセスに便利なオンライン教室の構築 優れたコース・デザインと効果的なオンライン・ペダゴジーという主要な分野の他に、RIT の遠隔学習は、あ らゆるタイプの学生が利用できるオンライン教室の創出にも係わっている。合衆国では、米国障害者法によって 教育機関は、全ての学生に対して、等しく開かれたものであることが求められている。この法令は数年前にも改 正され、オンライン学習環境は、障害をもった学生にも利用できるものであることが要求されている。RIT は、 その 8 つの付属カレッジの 1 つとして、NTID(国立技術大学)を運営しているという点でもユニークな存在であ る。NTID の在学生は、RIT の他の全てのカレッジでも受講が許されている。聾者である学生が各カレッジで受講 登録できることから、RIT が利用可能な(または聾者に優しい)コースの設定に必要な条件等を深く理解してい ることが窺えるであろう。RIT のオンライン学習は、聾者または難聴者の教職員や学生の参加のために定められ た、最も進んだ利用案内への対応・実施という意味において、リーダ的な役割を果たしている。毎年、平均して、 RIT の遠隔コースへの入学者の 3%は、聾者または難聴者の学生である。 A.RIT オンラインの ADA の遵守 米国障害者法が制定されるずっと以前から、RIT では、主に NTID の運用が契機となって、平等な教育の機会 実現に熱心に取り組んできた。この取り組みを実りあるものとするために、次のような措置が講じられている。 すなわち、NTID 以外の RIT のカレッジで受講する場合、聾者または難聴者の学生は、教室でノート作成の支援 者や手話通訳者、チュータまたはアドバイザを利用することができ、また、障害者コーディネタ事務局が設けら れ、聾者に対する周囲の意識向上のために多くのワークショップが開催され、学生や教職員、スタッフのために 手話で受講可能な単位認定コースも設定されている。RIT の各カレッジには、聾学生を支援するために、NTID との連絡担当者が置かれている。学年度の冒頭には、学務担当副総長から教職員に書簡が送られ、聾学生にも教 育の機会平等を保証するという RIT の公約を改めて周知させ、また、学習環境においてオーディオを利用する場 合には、内容筆写またはクローズド・キャプションを利用するようにとの一般的な注意喚起が行われる(注:ク ローズド・キャプションはビデオ・ベースの補助手段としてのみ使用される。映像を使用せずにオーディオのみ が使用される場合は、筆写のみが行われる)。 オンライン学習はADA原則の遵守についてより大きな責任を担っているだけでなく、そのスタッフは、学生の 障害の有無に係わりなく、品質の高い教育を受けることができるように継続的に努力している。「ソフトウェア と情報に対する機会平等(www.rit.edu/∼easi)」の会長であり、RITの名誉教授であるNorm Coombsの実例は、何 故このような熱心な取り組みが行われているかを物語るものである。Coombs教授は、遠隔学習の歴史に関するコ ースを担当したときの体験をしばしば語っている。例えば、学生とのオンライン・チャット中に、相手の学生が 教授に対して、「教授と呼ばれる人物と一対一で対話をしたのはこれが初めてです」と述べたという。教授が学 生に何故今まで対話したことがなかったのか、と尋ねると、学生は、自分は聾者だからですと答えた。対面授業 では、この学生には手話通訳者が必要であった。このコースで、学生は大きな力を与えられたように感じ、技術 によって、自力で学習する機会が与えられたと感じた。Coombs教授は、学生に対して、教授自身も通訳なしで聾 学生と対話するのは始めての体験だ、と述べた。そして、教授は、「私は視覚障害者なのです」と学生に告げた。 まさに、遠隔学習の教室では、聾学生と視覚障害者の教職員の間で、師弟の直接の対話が成り立つのである。 (Coombs、2003) 104 オンライン学習部は、キャンパス内コースと同じ教育内容・水準を維持するために広範囲にサポートを提供し ている。例えば、遠隔学習の教材として、オーディオ部分が含まれる教材については、そのキャプション化のた めの経費を負担している。この経費については、以下に詳しく論じる。オンライン学習部は、コース開発時に教 職員が ADA に対応するための支援を提供し、コース実施時には学生への支援を行っている。教育デザイン・チ ームは、RIT のキャプション化方針について、および、ビジュアル教室に関する学界の方針について教職員の意 識を高めている。教職員は、RIT の方針に沿った教材および教育活動を行うよう要請されている。学生は、サー ビスを受けるために登録すべきこと、試験と監督について妥当な環境設備を要求できること、および、無料の TTY 電話番号を使用して支援を受けることができること等についてアドバイスを受ける。学生は、このような情報を オンライン学習の Web サイト(http://online.rit.edu)で知ることができ、学生ハンドブックにも記載されている。 聾者または難聴者の学生が授業に登録した場合、教職員には必要な通知がなされる。 RIT の取り組みの結果、また、聾者の数も相当大きいことから、このような学生に対する調査も何回か行われ ることになった。最初の調査では、聾学生に対する遠隔学習の有効性が測定され、また、教材および教育活動の 優先傾向やそのメリットが評価された(Long、2003)。また、別の調査では、遠隔教室に参加する聾学生の学習 オプションを拡大するために作成された CD-ROM ツールの有効性の測定も実施された。 B.聾学生に対する非同期学習活動 2001 年度から 2002 年度にわたって、聾学生に対する遠隔学習の有効性を判定するために、NTID の応用コンピ ューティング・プログラム担当の James Mallory 教授と、NTID の研究部の Gary Long 博士は、35 項目のアンケー ト調査を行った。調査に対する回答は 38 名の学生から得られた。回答者の詳しい特徴および構成については、回 答者全体の 63%が聾学生、37%が難聴者、さらに、50%が英語を母国語とする者、45%がアメリカ式手話を母国 語とする者、5%がその他の言語を母国語とする者であった。最初は学部コースに入学した学生が大部分であり (71%)、その他の者は大学院コースから開始している。60%が応用科学/コンピュータ科学に入学しており、 残りの者は一般教養学科またはビジネス・コースに入学している。以前に遠隔コースを経験したことのある者は 71%であった。電子会議の体験者はもっと多く、82%であった。受講したコースで A または B の評価を狙ってい るものは 83%であった。 この調査では、コースの 4 つの異なるコンポーネントについて質問が行われた。すなわち、試験と相互活動、 グループウェア会議、教材(Web、教科書、教授作成の教育リソースおよびビデオ)、および、対話と宿題であ る。最初のコンポーネントについて、学生は、自分の学習全般に関して、次の事項が重要または非常に重要であ ると回答した。すなわち、試験のフィードバックをあげたものが 50%、教室での生の討論が 29%、教員からの個 別の指導が 21%、そして、学友からの支援が 45%であった。グループウェアを使用した会議については、自分の 学習全般に関して、講師の意見が重要または非常に重要であると回答した学生は 87%であった。学友からの意見 が重要または非常に重要であると回答した学生は 74%であった。 教材については、学生は高い評価を与えている。例えば、コースにおいて、自分の学習全般に関して、講師が 作成した教科書や資料が重要または非常に重要であると回答した学生は 63%であり、同じく、参考書を回答した 学生は 53%、Web のテキストやグラフィカルな説明資料を回答した学生は 42%、Web ベースのストリーミング・ 105 ビデオを回答した学生は 21%、ビデオ・テープを回答した学生は 29%であった。宿題、フィードバック、および、 対話に関する質問については、学生は、コースでの自分の学習全般に関して、次の事項が重要または非常に重要 であると回答した。すなわち、教員自身が作成した解説書が 84%、オンラインでの教員や学友の意見が 71%、教 室での生の討論が 37%、教員による個別指導が 18%、そして、学友や友人からの支援が 34%であった。 聾学生および難聴者の学生が、RIT のオンライン非同期遠隔学習に満足しているのは明らかである。また、こ のような学生たちは、自由回答形式の質問に対して、このような遠隔学習方式が自分達のニーズに適う理由を記 入している。学生たちは、さらに、柔軟性、容易なコミュニケーション(学習の障壁となることが少ない)、お よび、最も重要な点として、キャンパス・ベースのコースに対する遠隔学習の非同期性のメリットをあげた。こ の回答、特に、遠隔学習の柔軟性と非同期性に関する回答は、健聴者の学生について実施されたもっと大規模な 調査の主要な結論とよく一致する(Shea、2001 と Trippe、2001)。 このような学生に対する講師からのフィードバックは、非常に重要なものであり、何よりも大きな影響を与え るものである。どのような学習環境であれ、講師からのフィードバックが極めて重要であることに疑いはない (Chickering、1987)。また、オンライン教室において、有意義な講師のフィードバックは、コースの成功に不可 欠であり、学生にとっていっそう重要である。講師のフィードバックは、オンラインでは 1 対 1 または 1 対多と いう 2 つの形で行われるものであるから、学生は多くの場合、非同期学習はいっそう学生中心に行われるものだ と感じるであろう。聾学生および難聴学生の場合、キャンパス内のコースでは手話通訳者の支援を必要とするこ とが多いため、講師と 1 対 1 の直接コミュニケーションを体験できる機会については、健聴者の学生よりも高い 評価を与えるのは明らかである。遠隔学習に関する他の調査でも、学生の聴覚能力に係わりなく、講師のフィー ドバックは教育コンポーネントの中で最も高い評価を得ている。 さらに調査が必要とされる分野として、学習全般に関して、他の学生からの意見に高い評価が与えられている 点に注目すべきであろう。コースでの自分の学習全般に関して、回答者の 74%が、他の学生からの意見が重要ま たは非常に重要であると評価している。伝統的な教室の授業では、聾学生と健聴者の学生の間のコミュニケーシ ョンは容易でなく、手話通訳者が必要とされていた。多数の学生に対して手話通訳者が一人しかいなければ、学 生同士が自由で闊達な討論を行うことは困難である。オンライン教室では機会の平等が保証され、他の学生と 1 対 1 のコミュニケーションが可能となる。ただし、他の受講者に対してリアルタイムでアクセスが可能となった 場合、学生たちが上述のように、他の学生の意見に対して、変わらず高い評価を与えるかどうかについては、さ らに詳しい調査が必要である。すなわち、これまで他の学生と(手話通訳者の介入なく) 1 対 1 の相互交渉を行 ったことのない学生が、そのようなアクセスが自由にできるようになったとき、その相互交渉は学習全般におい て、これまでのようには貴重なものでなくなる可能性がある。学生の全般的な満足度に関して、学生同士の相互 交渉が重要なコンポーネントであることは、他の調査結果からも裏付けられているが(Shea、2001)、その程度 は異なるものである。RIT において、16 のコースから 253 名の学生を選んで行われた調査では、学生は、学友か らよりも、能動的な学習テクニックをサポートするプロジェクトや指定課題から多くのことを学んでいることが 示された(Yacci、2003)。この調査は学生に対して学生同士の相互交渉を禁止すべきであると示唆しているので はなく、単に、学生は仲間の討論からよりも能動的な学習活動から、もっと多くのことを学んでいると考えられ ると言っているのである。 106 C.学習の有効性を高めるデザイン RIT は 1979 年以来、遠隔教育に携わってきた。これまで多様なマルチメディア製品から、幅広くサポートを得 られたことは、RIT にとって幸運なことであった。このようなサポートによって、RIT の教職員は、遠隔学習者 向けのコースの資料をビデオで容易に作成できるようになった。ビデオのコース資料は、テレコース(ケーブル テレビ)およびビデオ・テープの形式で提供されており、現在は、デジタル・ビデオも使用されている。現在、 RIT の遠隔コースの 50%以上で、デジタルまたはアナログ形式のビデオ資料が補助教材として使用されている。 聾学生支援に対する RIT の使命を達成するには、オーディオ・コンポーネントを備えたオンライン・コース補助 教材を必ず筆写し、かつ、クローズド・キャプションを適用することが求められる。RIT の遠隔コースの 10%で は、CD-ROM またはストリーミング・メディアが使用されている。今後、CD-ROM とストリーミング・メディ アの双方によって、ビデオを置き換えられることになろう。RIT のユニークな環境と平等なアクセス実現の使命 から、また、絶えず変化して止まない学習環境のニーズに対して、最善の対応が可能なマルチメディアを構築す るという我々の継続的な取り組みから、独創的な思考が生み出されるチャンスが生じるのである。 昨年、RIT は CD-ROM を使用する 2 つのコースで、検索可能なテキスト機能の試験を行った。RIT が現在作成 する CD-ROM では、学生は既にキャプションの付けられたビデオ・テープ講義を利用することができる。講義 内容のテキスト検索は 2 つの方法で実行できる。第 1 に、行毎の検索であり、第 2 にキーワード検索である。学 生は CD-ROM の映像部分を見ると同時に、キャプションを読むことができる。あるいは、教授がビデオ講義で 説明している場面を停止させて、内容をじっくり考えようとするとき、学生は直ちにテキストを参照して、その 行毎に、必要な回数だけビデオとテキストの教材をつき合せることができる。また、キーワード検索も使用でき る。検索ツールは学習でも使用することができる。学生は、サーチ・ボックスの中に用語を入力し、目的とする 用語がテキストのどこで使用されているかを知ることができる。 RIT は、独自のマルチメディア制作において、いっそう洗練された取り組みを実施している。オーディオ機能 の向上された講義用の PowerPoint (注釈付きの PowerPoint とも呼ばれる)資料が制作され、ストリーミング・メ ディア形式の講義が Web に掲載されている。RIT では、教職員が制作した資料にもキャプションが付けられてい る。この作業には、オーディオ内容の筆写が必要とされる。次の段階では、筆写によるテキストをオーディオと 同期させることになる。これは、人手で行わなければならないが、手順は非常に簡単である。「時間参照機能」 では、Real メディアを聴取するために「同期キャプション」リンクが使用され、さらに、Javascript を使用して、 矢印キーを押すだけでタイム・コードが入力される。次に、生のテキストとタイム・コードが RealText ファイル に統合される。これは追加作業の必要なコストのかかる方法であるが、キャプションを検索可能とすることで、 そのメリットを活用することができる。以下に、学生のコンピュータに現れる CD-ROM 画面の例を示す。 107 図1.検索可能な CD-ROM Source: Ron Fulle, Professor at RIT 出典:RIT の Ron Fulle 教授 オンライン学習部は、他の遠隔受講者に対しても字幕を検索できるようにすれば、学生や教員にさらに大きな メリットが生じると考えた。RIT の遠隔コース入学者の中で、聾学生の比率は平均 3%である。しかし、遠隔学習 の受講者の 30%が字幕を使用しており、従って、字幕のメリットを享受する学生数は、明らかに予測数よりも多 い。もっと印象的なのは、50%を超える学生が、字幕の利用がもたらした検索機能を使用していると推測される ことである。ADA の指針に即して言えば、RIT のオンライン学習部は、字幕を提供することは、聾学生および難 聴学生へのサービスとして正しい実践であるだけでなく、他の学生にとっても恩恵をもたらすものであると考え ている。 D.日本での NTID モデルの展開 RIT の学内に設けられた NTID(国立技術大学校)は、日本の筑波技術短期大学と提携し、革新技術によって聾 学生および難聴学生の教育実践を促進するために、高等教育機関が参加する協同ネットワークを開発している。 筑波技術短期大学は、 聴覚障害者および視覚障害者を対象として1990 年に創立された大学である。 同大学はNTID をモデルとして計画された教育機関であり、この種の教育機関としてはアジアで最初の設立例である。また、同 大学は非常に短期間のうちに、この分野で指導的な地位を占めるようになった。このネットワークは、聾学生お よび難聴学生に対する技術的および専門的教育を改善するために、NTID が何年にもわたって構築してきた姉妹 108 校との関係を基盤として構成される。この教育機関向けネットワークの開発と拡張を支える資金は、1962 年に創 設された日本財団から供与されている。ただし、現時点では、遠隔コース実施の計画はない。 V. キャンパス・オンラインのための主流技術 2002 年、RIT の学務担当副総長の指示に基づき、オンライン学習部は、キャンパスに勤務する教職員が、より 多くの教育戦略を広範囲に採用できるように、最新技術とサービスの供給を開始した。また、合衆国では、多く のカレッジが授業・学習環境の改善を目指して、オンライン技術の導入を検討し始めた。ほとんどの教育機関で、 多くの異なる方式を超えて、技術が配信されることが期待された(Hitt、2002)。オンライン学習部は、遠隔学習 コースの企画、開発、および、実践に関して、既に教職員との協力実績が豊富であったため、このような活動に おいて幅広い役割を担うのは当然のことだと思われた。同部によるブレンディッド学習の導入に従って、このよ うなサービスは、自然と、教職員が係わるキャンパス・コースにも適用されることになった。これに付随するメ リットとして、ブレンディッド学習によって、MyCourses の全ての機能が活用できることになり、現在は、RIT の全てのコースにおいて、このコースウェア管理システムが応用されている。 オンライン学習部は、2003 年の春から夏にかけてブレンディッド教育モデル(Blended instructional model)を開 発した。下図に示されるように、RIT の教育モデルでは、ブレンディッドコースとは、教室での講義およびその 他の授業時間の約 25%から 50%で、講師の指導するオンライン学習活動が、代替的に実践されていることを意味 する。すなわち、通常の授業の替わりに、オンラインの小テスト、仮想チーム・プロジェクト、同期式のチャッ ト・セッション、および、非同期の討論などが実施される。このモデルは、遠隔学習のベスト・プラクティスを 伝統的な教室学習のベスト・プラクティスと結合させる手法を示すものである。ブレンディッド試験の初期の成 果から、我々の教育モデルは、現実に有効なものであることが示されている。 図 2 ブレンディッド学習教育モデル Classroom Face-to-Face Activities •Lectures on New Material •Guest Lectures •Demonstrations •Field Trips •Presentations •Assessment Traditional Discourse •Class Discussion •Class Group Work Blended A blended course is any course in which approximately 25% to 50% of the faceto-face classroom activities are replaced by instructor-guided online learning activities. myCourses •Gradebook •Messages •Outline •Syllabus Distance Online Activities •Discussion -Whole Class -Small Group •Group Work -Team Projects -Study Groups •Presentations •Assessment Media •Video •Audio •PowerPoint •Tutorials Courseware Management Systems 109 RIT オンライン http://online.rit.edu 伝統的教室 ブレンディッド 対面活動 遠隔学習 ブレンディッドコ オンライン活動 ・ 新規資料に関 ースとは、教室で ・ 討論 する講義 の講義およびその - 教室全体 ・ ゲストの講義 他の授業時間の約 - 小グループ ・ デモンストレ 25%から 50%で、 ・ グループ活動 ーション 講師の指導するオ ・ 現場活動 ンライン学習活動 ・ プレゼンテー が、代替的に実践 ション ・ アセスメント されていることを 意味する。 - チーム・プロ ジェクト - 学習グルー プ ・ プレゼンテー ション ・ アセスメント myCourses ・ 学習記録帳 ・ メッセージ ・ 概要 ・ シラバス 伝統的講義 メディア ・ 教室での討論 ・ ビデオ ・ 教室でのグル ・ オーディオ ープ活動 ・ PowerPoint ・ 個人指導 コースウェア管理システム RIT のオンライン学習部は、授業と学習の改善のための潜在力を認識し、また、遠隔学習における 25 年間の実 績を活用することを狙いとして(オンラインの同期的学習では 13 年の実績)、半年間の精力的な調査結果を踏ま えて、2003 年の秋に「ブレンディッド学習試験プロジェクト」を立ち上げた。その初年度に、この試験プロジェ クトには 26 のコースが設けられ、25 名の教職員が教育指導に当たった。また、コースには約 550 名の学生が受 講登録した。全てのコースで、コース管理システム myCourses が使用された。このプロジェクトから得られた、 主な結果を以下に示す。 1. 参加した学生のうちほぼ 75%が、ブレンディッド学習方式を好意的に受け入れており、他の学生にもブレン ディッドコースに参加する機会が与えられるべきだと強く感じている。 2. コースの履修完了状況は良好であり、脱落または不合格となった学生は 5%未満であった。 3. 学生は、他の受講生との相互交渉は質・量ともに非常に満足できるものであると感じている。 110 4. 調査回答によれば、学生は、融合コースで使用された比較的多数の教育戦略を喜んで受け入れた。 5. 教職員の参加者は、新たな方式でのコースの再計画と実施のために、創造的なプロセスに係わったことで、 熱意が生じ、新鮮な気持ちを取り戻した。 6. 学生は、コースの実施に先立って、どのコースがブレンディッドコースとして実施されるかを通知してもら いたいと述べた。 2003 年から 2004 年のブレンディッド試験の結果を見れば、RIT コースの多数について、ブレンディッド学習が 代替授業方式として有効なものであることが強く示唆されている。ブレンディッド試験を支援することによって、 RIT は、授業と学習の技術の効果的な使用に関する研究で全米的なリーダであると同時に、学習効果を向上させる ために、伝統的な対面式教育実施とオンライン・コミュニケーション実施の適切な組み合わせを研究する活動にお いても先駆者の立場にある。 VI. 結論 – さらなる前進 当然のことであるが、オンライン学習部は、将来について全てを予想できるわけではないが、その使命は、そ の活動の拡大に応じて、RIT の教室におけるオンライン技術の効果的な利用の実現に取り組むことにある。我々 が学んだ教訓と、我々が築き上げてきた基盤は、技術による能動的な学習を促進するために利用されるべきもの である。我々の主な目的は、遠隔学習による学位認定プログラムの支援と実施であることに変わりはない。技術 の重要性が増して行くのに応じて、学内支援組織として必要なガイダンスを提供し続けるつもりである。さらに 将来を見据えて、次のような計画をもっている。 ・ 授業および学習課程に使用される技術に関する調査および研究に取り組む教職員との提携 ・ 技術に関する調査の継続、ただし、同期的なツールも対象とする ・ 他の大学との提携を求めてグローバルな活動を実施し、互いのメリットを活用する 参照 1. Bransford, John et al. (1999) How People Learn: Brain, Mind, Experience and School. National Academy Press, Washington DC. 2. Chickering, Arthur & Gramson, Zelda, (1987). Seven Principles for good practice in undergraduate education. Racine WI: The Johnson Foundation, Inc/Wingspread. 3. Chickering, A. W., & Ehrmann, S. C. (1995). Implementing the seven principles: Technology as lever. American Association for Higher Education [Online]. Available at: http://www.aahe.org/Bulletin/Implementing%20the%20Seven%20Principles.htm 4. Coombs, N. (2003), Presentation at RIT on accessibility issues for learning. Similar presentation recorded and accessed through RealPlayer at http://easi.cc/media/arizona.htm 5. Harrison, L. (2000). Accessible Web-based Distance Education: Principles and Best Practices, http://www.utoronto.ca/atrc/rd/library/papers/accDistanceEducation.html 6. Kassop, Mark, (2003), “Ten Ways Which Online Learning Meets or Surpasses Face-to-Face Learning,” Syllabus, May/June 2003, 111 http://ts.mivu.org/default.asp?show=article&id=1059 7. Hitt, John & Hartman, Joel. (2002). Distribute Learning: New Challenges and Opportunities for Institutional Leadership, ACE/Educause Monograph Series. 8. Geith, Christine & Vignare, Karen, (2001). “Online Degree Programs: Service and Cost.” Journal of Online Education, Volume 2 9. Long, G.L., & Mallory, J.R. (2003). Deaf and hard of hearing students satisfaction with an (on-line) learning experience. [CD-ROM]. Society for Information Technology & Teacher Education (SITE) International Conference, Albuquerque, New Mexico. 10. Shea, P., Swan, K., Fredericksen, E., Pickett, A. (2002). Student Satisfaction and Reported Learning the SUNY Learning Network, The Elements of Quality Online, Sloan-c series, volume 3. 11. Trippe, A. (2002). Student Satisfaction at the University of Phoenix Online Campus, The Elements of Quality Online, Sloan-c series, volume 3. 12. Vignare, K. (2003) Longitudinal Success Measures For Online Learning Students at the Rochester Institute of Technology, Elements of Quality Online Education, Sloan-c series, volume 4. 13. Yacci, M (2003). Interviews with professor regarding research on interactivity. Currently, his research is investigating two ideas: Investigating The Affective Value of Instructional Interactivity and Student-to-student Interactivity: Little Value and Major Confusion. 112 学習を e ラーニング化する−JISC のeラーニングとペダゴジープログラム JISC(統合情報システム委員会プログラム)マネージャー Sarah Knight 1. 緒言 革新的な学習をもたらすような技術の可能性について、多くの提案が行われてきた。その主な恩恵は、以下 の 6 つのカテゴリーに分けられる。 ・ 接続性 – グローバルなスケールで情報の利用が可能 ・ 柔軟性 – いつでも、どこでも学習が可能 ・ 相互作用性 – 学習の評価が自動的にかつ即時に可能 ・ 協調学習 – 討論ツールの利用により、教室を超えた学習コラボレーションが実現 ・ 機会の拡大 – e コンテンツによって教室の対面学習を強化かつ拡張 ・ 動機付け – マルチ・メディアのリソースが楽しい学習を実現 この他にも、e ラーニングを実施することによって、学習者の進歩の追跡と管理が可能となる。ただし、こ のような潜在的なメリットにも拘わらず、e ラーニングは未だ教育界で、または、個々の教育機関において、 全面的に受け入れられているわけではない。e ラーニングの導入に対する障壁とは何であろうか? 新たな技術を導入すれば、実践者は多くの複雑な課題に直面せざるを得ない。すなわち、新たなスキルを習 得し、自分達の役割変更を容認し、さらに、適用するペダゴジーを再評価しなければならない。1 つの教育機 関全体で、e ラーニングが有効となるか否かは、上級管理者によって支援・実施されるイニシアチブの内容に かかっている。最後に、e ラーニングの潜在的なメリットが理解されたとしても、「伝統的実践と組み合わせ て」e ラーニングを実施する方法、場所、時間的条件などは、まだ完全に研究されたとは言えない。教育実践 者の多くにとって、e ラーニングとは、解決された課題に比例して、新たな問題を生み出すものである。 本論文の目的は、このような問題を究明することにある。また、日常の実践活動に e ラーニングを組み込む ために、ペダゴジー的に最も健全で利用可能な手法を確立することも目標である。さらに、学習者に最大のメ リットを与えるために、e ラーニングを適用する方法、場所、時間的条件について、教育界全体で全ての実践 者が共通の理解をもつことができるように、理論を実践と結合させることも目的とされる。 2. e ラーニングと背景状況 全国レベルでは、英国の 4 つの地域(イングランド、北アイルランド、ウェールズ、スコットランド)全て における政府のイニシアチブによって、学習者の能力を高め、参加を促進するための方法として、e ラーニン グが推進されている。また、最新技術と実践方法の「革新者(innovator)」として、実践者を重視する傾向も 強まっている。 白書「高等教育の将来(The Future of Higher Education)」(DfES 2003)では、高等教育において余りに長 113 い間、授業は「適切な関連性」を失っていたと指摘されているが、この白書には、英国の高等教育の授業水準 を高めるための力強い動きも取り上げられている。ここでも、授業と学習に対するいっそう「革新的な」アプ ローチが示されている。白書では、多様化する学生のニーズを満たすために、高等教育が実施するコースにお いて、柔軟性を向上させるための課題も明らかにされている。現場では、e ラーニング戦略の影響は、教室レ ベルでの新たなイニシアチブを通して感じられるようになり、同時に、授業と学習を改善する最新技術の潜在 力を余すところなく究明するために、新世代の研究・開発組織が新たに設立されるようになった。 16 歳以降の教育、高等教育、および、社会人/コミュニティ教育全体にわたって、教育水準の向上と普及 における e ラーニングの役割は、政府のイニシアチブ、政策、および、戦略において明確に表現されており、 あるいは、政府が柔軟性、選択の幅、および、学習体験の重要な価値の改善を重視することで暗黙に認められ ている。 2003 年 12 月、JISC は、効果的な教育実践における e ラーニングの役割に対して関係者の認識が高まってき たのに応じて、より広範囲な「e ラーニング・プログラム」の一環として、最新の e ラーニングとペダゴジー の綱領を策定した。この最新のペダゴジーの綱領が目的とするところを以下にあげる。 ・ 既存の学習理論、枠組み、および、モデルの調査 ・ e ラーニングに関する定評ある実践を推進する新たな組織が、理論的な観点から、どのように位置付けら れるかの研究 ・ 効果的な実践を支援するために、e ラーニングのツールおよび標準の応用・開発の促進 3. e ラーニングとは何か? ラーニングとは、「情報コミュニケーション技術を利用して促進・支援される学習」と定義されるが、次 のような技術の全て、または、いずれかが使用されるものである。すなわち、デスクトップ型/携帯型コ ンピュータ、支援用ソフトウェアも含めてソフトウェア、対話型電子白板、デジタル・カメラ、携帯電話 を含むモバイルおよびワイヤレス・ツール、電子メール・討論用掲示板・チャット機能・TV 会議を含む 電子コミュニケーション・ツール、仮想学習環境(VLE:virtual learning environments)、および、学習活 動管理システムなどの技術がこれに該当する。e ラーニングは、学習の支援から、ブレンディッド学習(伝 統的実践と e ラーニング実践の組み合わせ)、さらに、完全にオンラインで実施される学習にいたるまで、 幅広い分野に適用可能である。ただし、どのような技術が利用されようと、学習自体が中心となる要素で ある。e ラーニングは、もはや、遠隔学習またはリモート学習にのみ係わるものではなく、効果的な学習 促進の最善かつ最適な方法として、合理的に選択されるべき学習形態を構成するものである。 3.1 e ラーニングの効果的実践 「e」のつく学習であろうと、他の形態の学習であろうと、その効果的な実践を研究する際には、「ペダゴ ジー」という用語の理解から始めなければならない。この用語は、以前は学術的な世界に限って使用されてい たのであるが、今は、教育の原則に関する議論や討論に係わる者が、いっそうの確信をもって、堂々と使用す るようになっている。ただし、重要なことは、授業と学習に係わる当事者がその技量を実践する教育機関にお いて、この用語が、教育機関の指揮・管理・指導に当たる者に深く係わるのと同程度に、そのような実践者に 114 も、この用語は深く係わっているということである。 この議論の出発点として、e ラーニングを用いた効果的実践に対する評価は、一般的な学習の効果的実践に 対する評価と、同じ基準を適用できるものとする。すなわち、このような実践では、以下の必要性を満たすこ とが求められる。 ・ 学習者を学習課程に参加させること ・ 独立した学習スキルの向上を促すこと ・ 学習者のスキルと知識を向上させること ・ さらなる学習への意欲を向上させること そこで次のように論じることができる、すなわち、技術を媒介とした学習形態が利用できることによって、 実践者の決定すべき事項が当然追加されることになり、利用可能な技術という点から、どのような技術を使用 すべきか、いつ、誰に対して使用すべきかを決定する必要が生じる。ただし、効果的な学習を実現することは、 複雑で創造的なプロセスであり、目標の決定、学習者のニーズの理解、利用可能な選択肢から最適なものを選 択すること、そして、技術性の高いコンテキストの中で作業するとき、e ラーニングと他の実践様式の間で適 切なバランス(実践者が e ラーニングと伝統的な選択肢の間で選択できるもの)をとることが必要とされる。 本論文では、このプロセスを「学習のためのデザイン」と呼ぶ。 4. 学習のためのデザイン 実践者は常に学習を高めるための活動を計画しているものである。技術の役割が大きな比重を占めるコンテ キストでは、このプロセスは、利用可能なオプションの範囲を拡大することで、いっそう的確に運用されるこ とになる。 このように深く分析すれば、実践者の技量には、学習者の努力を導き、作業に最適なツールを使用すること で、効果的な学習と調和させるような「学習活動」を創出し、系列化する能力が含まれる。さらに、実践者は、 この活動を、学習者、学習環境、および、所期の成果の間の複雑な関係性が既に存在するコンテキストで実施 することになる。このような要素のいずれもが、デザインのプロセスに影響を与える要因を生み出す。 学習者 そのニーズ、学習の動機、過去の学習体験、社会的スキルおよび対人スキル、好みの学習スタイル、および、 コースや教育実践者に対する期待 学習環境(対面または仮想) 利用可能なリソース、ツール、設備とサービス、それらの学習者のニーズへの対応 所期の学習成果 学習活動の目的、すなわち、内的および外的な目標と対象 115 学習活動 実施者が学習を達成し、学習者の啓発に影響を及ぼす手段 如何なる活動のコンテキストにおいても、上記 3 つの要因の間の相互作用はダイナミックであり、意思決定 に与える影響は一様ではない。 任意の具体的なコンテキストにおいて、 学習のデザインに係わる意思決定には、 学習者のニーズに対する理解を前提として、新規および従来からの実施、学習環境、および、所期の目的がい っそう関与することになる。この関係を図 1 に示す。 学習活動デザインのモデル Learners Needs, motives and prior experience of learning; social and interpersonal skills; preferred learning styles and ICT competence. Approach is matched with preferred learning styles and intended outcomes Activity Interaction of learner with environment, leading to planned outcome Learning environment Intended outcomes Acquisition of knowledge, academic and social skills; increased motivation; progression Practice is matched with learners’ needs and affordances within the learning environment Impact of learning environment on intended outcomes 図 1 H. Beetham、2004 年の学習活動の仕様の変更版 116 Virtual or physical; available tools, facilities, services and resources. 学習者 ニーズ、動機、および、過去の 学習体験、社会的スキルおよび 対人スキル、好みの学習スタイ ル、および、ICT コンピタンス アプローチは、好みの学習スタ 活動 実践は、学習者のニーズと学習環境 イルと所期の成果に適合する 学習者と環境の相互作用、所期 のアフォーダンスと適合する の成果を導く 所期の成果 所期の成果に対する学習環境の 学習環境 知識の獲得、学問的スキルと社 影響 仮想的または物理的、利用可能なツ ール、設備、サービス、および、リ 会的スキル、動機の向上、進歩 ソース 学習活動およびセッションのデザインについて選択された「アプローチ」とは、学習理論や実践についての 実践者の知識に基づくものであり、例えば、トレーニングを通して、または、同僚との会話から得られる知識、 ならびに、その職業生活で得た専門的ノウハウに基づくものである。ただし、実践者が使用するアプローチは 明確に表現されないこともある。 図 2 の表では、3 つの幅広い観点を構成要素とする簡単な形式で、最も良く知られた学習アプローチが多数 分類されて示されている。このような観点の 1 つ、または、その組み合わせは、異なる課題領域、異なるタイ プの学習者、または、学習で出会う重要な出来事が持つさまざまな価値に適合すると思われる。実践者が選択 するアプローチは、それら全ての結果、または、その任意の結果として得られるものであるが、効果的な実践 の探求とは、採用されたアプローチの背後にある合理性を探索することを意味し、図 1 に示された学習のデザ イン活動を支える 3 つの要因との関連性を保証するものである。 学習に対するアプローチの定義 観点 定義 強調分野 観念連合主義者的観点 活動としての学習: ・ 体系的活動の日常的実践 知識は、連関とスキルの体系的 ・ 明瞭な目標とフィードバック な累積と考えられる。 ・ 個人の体験に適合する個別の 進路 認知行動学的観点 理解達成としての学習: ・ 理解構築のための対話型環境 理解は、仮説構築の能動的プロ ・ 実験および原則の発見を促す セスから導出されるものと考え 活動 られ、新たな理解の様式を構築 ・ 内省および評価の支援 するために、テストされる。 情況的観点 社会的実践としての学習: 117 ・ 調査研究および学習の社会的 学習者は、学習が生じる社会的 実践への参加 /文化的状況設定に必ず従属す ・ 学習スキルの開発支援 る。このような状況が部分的に ・ 学習関係の向上を促進させる 学習の成果を規定する。 対話 図2 実践者は、学習者、学習環境、および、期待される成果に従って、学習のデザインにおいて、このようなア プローチを複数採用することができる。ただし、どれか 1 つのアプローチに、多少なりとも e ラーニングが含 まれるとは言えそうもない。e ラーニングの採用成功に、もっと関連性を有することは、アプローチや所期の 学習成果がどのようなものであれ、学習者の潜在能力を最大限高めるために、e ラーニングが伝統的な実践の 中に、または、それと並列して効果的に統合されるとき、e ラーニングがどのように学習活動を高めるかを理 解することである。 5. e ラーニングのメリット 最も重要なことは、効果的なペダゴジーの探索である。その理由は、学習者の関心を高めること、その関心 をコースで維持すること、および、その進歩を促進することは、学習者自身だけでなく、教育機関や実践者に とって最も重視されるからである。トランプ・ゲームに喩えれば、アドバンテージを得るために、手持ちのカ ードを使うためのチャンスを狙うプレイヤのように、実践者と学習者の双方が、状況に応じて、一連のスキル を獲得し、実行する能力を持たねばならない。あるコンテキストでは、e ラーニングは使用可能な唯一の「カ ード」となるものであり、もっと一般的には、「実施/実践」の幅とパワーを拡大させるオプションであり、 「もっと幅広い多様な」学習者に対して、もっと「能動的な」学習を可能にするテクニックでもある。e ラー ニングのオプションを伝統的な実施方法と並列させることで、学習活動のデザイナーは、ゲームにおいて最も 威力を発揮する手段を選択できるようになるはずである。 e ラーニングを用いた効果的な実践は、3 つの主要原則に基づいて行われる。 ・ 学習活動のデザインには、学習者のニーズを適切に反映する意思決定、学習環境の性質、および、所期の 学習成果が関与する。 ・ 効果的な実践は、学習者のニーズを、学習環境における affordance と適合させるものであり、採用された アプローチは、学習者の好みと能力を反映させるものであり、これらの要素を所期の成果に適合させるも のである。 ・ e ラーニングのオプションが使用されれば、学習の可能性が拡張され、それ自体にのみ使用されるという ことはない。 これに付随するプレゼンテーションでは、現実の課題への対応として開発された効果的な実践について理解 を深めるために、高等教育でのケース・スタディを選択して論じることにする。このようなソリューションが 適用されるコンテキストの相違を考えれば、いずれの事例でも、図 1「学習活動デザインのモデル」の 3 つの 主要要因、学習者、学習環境、および、所期の学習成果について、異なる解釈が存在すること、および、その 実践は、多様な授業/学習アプローチを明らかにするものであることが示唆される。 118 6. e ラーニングを観点に取り入れる このような説明において、e ラーニングは、教育機関やカリキュラムの要件に対応するためと言うより、実 践者が感じ、学習者自身が明確にした学習者のニーズへの対応として、もっと頻繁に利用されてきたことに留 意すべきであろう。言い換えれば、e ラーニングを応用した効果的なペダゴジーの探索プロセスは、実践者の 努力と学習技術によって牽引されてきたのである。その結果、ペダゴジーに与える e ラーニングの大きな影響 は、専ら予期せぬ経験的な形で拡大してきたのであり、多くの事例では、特定のペダゴジー的問題に対して、 e ラーニング・ソリューションを使用した結果、その付随的効果として拡大してきたのである。 ただし、本プレゼンテーションで説明されるケース・スタディの全てにおいて、最大の恩恵が得られる場合 には、技術の利用を円滑かつ選択的に実践に統合するような、明確に識別可能な新たなペダゴジーが出現した ことも証されている。このことは、e ラーニングが、それ自体で他よりも強力なオプションとなることを主張 するものではなく、伝統的実践と革新的な実践の双方において、最良のものを引き出す創造的で、知識に富ん だ枠組みの中で採用されたとき、その恩恵を最大限発揮するように使用できることを示唆しているのである。 図 3「自己の実践の理解」には、当初の問題、「e ラーニングは何を実践者にもたらすか」に対する回答と して、一般的な学習活動の例が示されている。この表は、実践に対する包括的なガイドには程遠いものである が、e ラーニングがペダゴジーに大きな影響を与える様子を深く理解させるものであり、e ラーニングの最適 な展開の方法、理由、時間条件、および、場所を決定するのに必要な、効果的な実践に関する議論を生み出す ものである。 119 自己の実践の理解 学習活動 伝統的実践 e ラーニングの実践例 e ラーニングのメリット 学習目標の相談 チュータと対面で話し合 オンライン学習によっ 学習者は、その学習進路 って、学習目標と適切な て、学習オプションに関 に関して、ますます多く オプションが決定され して、幅広く他の教育機 の選択肢を与えられる。 る。 関を網羅する選択が可能 学習者は、次第に主体的 となる。 な管理ができるようにな る。 学習者は実践者と相談 し、最適オプション決定 実践者は、学習者が選択 について指導を受ける。 した学習進路の追求を容 易にする。 新たなコンセプト 講義およびグループ作業 授業の外で利用可能な対 学習者が学習のペースと の探索 による対面授業は、コー 話型リソースによって学 場所を選択することがで ス用のノートや教科書で 習が補強され、理解度を きる。これによって、学 補強される。 チェックする機会も与え 習を支援し、拡充するこ られる。 とができ、差異化の機会 も与えられる。ただし、 専門家としての実践者 が、コース実施のペース 専門家としての実践者 メリットを最大限高める や構成を決定する。 は、学習ドメインを調査 ために、学習コンテンツ 研究し、必須的リソース のリモート・アクセスを を提供する。 保証しなければならな い。 全ての学習者は、仲間に 事実とコンセプト 実践者が主導する対面授 討論フォーラムによっ の評価 業は、印刷物および視聴 て、教室外の活動として、 よる討論によって評価ス 覚リソースによって補助 同僚によるオンライン・ キルが、教室活動のレベ される。 リソース評価の機会が与 ルを超えて進歩するのに えられる。 応じて、能動的に自分達 の意味を作り出す活動に アカデミックなアドバイ ザとして、実践者は、対 実践者は世話役として、 面活動を創出し、さらに オンライン・リソースに 高次元の思考スキルを開 対するアクションとして 発するためにリソースを 学習者が発意した討論を 提供する。 活性化させ、仲介者とし 係わる。 て係わる。 理論の構築とテス コースのコンテンツは、 オンライン・リソースを ブレンディッド学習によ ト コンポーネント・ユニッ 使用することで、自習の って、対面活動とオンラ トに編成され、専門家の 機会が与えられる。自己 イン活動が融合され、多 120 スキルによって支援され チェック用のオンライン 様な学習の機会が与えら る。学習者の知識および 小テストを組み合わせる れる。学習者は、オンラ スキルに対するアセスメ ことで、直ちにフィード インの試験や小テストの ントは、一般的に、実践 バックが得られ、学習者 フィードバックを適時得 者が担う。 のコンセプト理解が深ま ることができ、知識と理 る。 解の不足を判定すること ができる。 実践者はインストラクタ として、学習の構造を決 実践者は世話役として、 定し、スキルを実証し、 学習者用のリソースを作 学習者の成績を評価す 成し、管理する。実践者 る。 と学習者は、互いに学習 評価者としての役割を果 たす。 問題解決 対面のグループ作業を支 オンラインのマルチメデ 学習者は、コラボレーシ 援するために、印刷物ベ ィア・シナリオとシミュ ョンを実行し、仲間同士 ースの問題解決シナリオ レータによって、「現実 の討論を通して、ソリュ と実験が使用される。ソ の」対話型の学習機会が ーションを決定し、概念 リューションは実践者に 与えられる。ソリューシ 的理解を試す。 よって評価される。 ョンは、非同期のコミュ ニケーション・ツールを 実践者はペースと内容に 使用して討議することが 関する指示を与え、グル できる。 ープ作業を監督する。 実践者はコンテンツの開 発者として、また、学習 の世話役として係わる。 共有と討論 対面グループの作業は、 チャット、電子メール、 学習者は討論でコラボレ 実践者によって活性化さ 討論用掲示板を通して、 ーションを実行し、討論 れるが、時間と場所とい オンライン討論を実施す が授業での割り当て時間 う要因の制約を受ける。 ることで、ネットワー を超えて行われるように ク・コミュニティは学習 なれば、作業での自己管 実践者は討論の目標を定 のためのコミュニティを 理と主体性を拡張する。 め、また、恐らく、モニ 促進する。 タおよび査定者としての 役割を果たす。 実践者は、討論を活性化 させ、学習者が主体性を 発揮し、授業での割り当 121 て時間外でも実践するよ うに促す。実践者はモニ タおよび査定者としての 役割を果たす。 コンセプトとスキ 教室または宿題の作業で 対話型電子白板および投 技術の対話型機能を効果 ルの適用 は、学習者はデモンスト 票システムによって、全 的に使用することで、学 レーションで学んだ内容 ての学習者が自己テスト 習者の参加を促し、動機 を反復し、応用する。 を実行することができ を与え、繰り返し作業に る。単純な反復活動にも よる興味喪失を防ぐ。学 面白みが生じる。 習者は、ダイナミックに 実践者はコーチまたはイ 参加して、学習活動を強 ンストラクタとして参加 し、学習者が提示された 実践者は、対話型学習活 内容を、新たなコンテキ 動を考案することで学習 ストに適用するように促 を容易にする。 化できる。 す。 コンセプトの視覚 実践者はコンセプトを説 思考地図および補助ソフ 学習者は、割り当てられ 化およびプレゼン 明し、学習者の理解を評 トウェアの使用によっ た課題の計画、チェック、 テーション 価するために課題の割り て、学習者は構造を視覚 プレゼンテーションに補 当てを行う。 化することができ、コン 助ソフトウェアを使用す セプトを互いに関連付け ることで、書面および口 実践者はコーチおよび査 ることができる。文法お 頭の学習成果のプレゼン 定者としての役割を果た よび綴りチェック機能、 テーションと統一に、い す。学習者は、実践者の 予測的テキスト、復唱装 っそうの責任をもつ。障 フィードバックに対応す 置によって、全ての学習 害のある学習者も、ソフ ることで、プレゼンテー 者が、その考えや知識の トウェア機能を活用し ションを改善する。 表現およびプレゼンテー て、学友と平等な機会を ションを改善することが 得ることができる。 できる。 実践者は学習者にソフト ウェアの利用を推奨し、1 対 1 の追加サポートが必 要な学習者を判断する。 学習の成績評価 実践者は成績向上評価活 オンラインの小テストや オンラインの小テストで 動を策定し、フィードバ その他の活動によって、 学習者の自信が強まるの ックを行う。 学習者は自分の成績を評 に応じて、対面授業の受 122 価する。VLE による成績 講も増える。学習者は、 実践者はコーチおよび査 評価では、実践者が介入 自分の学習の進歩の評価 定者としての役割を果た することなく、直ちにフ において、もっと積極的 し、書面および口頭のフ ィードバックが得られ な役割を果たす。 ィードバックを行う。 る。 実践者は試験を企画し、 学習活動を考案し、補助 リソースを提供する。成 績評価のための実践者の 仕事量は減る。 図3 7. e ラーニングを用いた効果的実際のモデル 本論文の目的は、技術が授業と学習にもたらすアフォーダンスの例示を行い、e ラーニングによる効果的な 実践とは何かを定義するために、まず第一歩を踏み出すことにある。学習のデザインにおいて、学習環境が許 す限り、e ラーニングの要素をプログラム、コース、または、個々の授業活動に、どこで、いつ、統合すべき かについて、その決定を具体化することが、ますます必要とされていることは明らかである。実践者は、e ラ ーニングによる効果的な実践に関する知識/理解の全てにわたって貢献できるのであるから、正しい情報に基 づいてペダゴジー的に健全な方法で技術を使用した場合のメリットは、あらゆる分野で認められことも示唆さ れている。これは、完結した物語ではなく、進化する物語である。本ガイドは、学習のデザインに係わる者が、 授業と学習の質を向上させるために、その境界をさらに拡大するのに応じて、今後も進化する実践と現在の展 望を提示するものである。図 4 に、本章で述べた要因に基づく、e ラーニングによる効果的な実践の 1 つのモ デルを示す。 123 E ラーニングによる効果的な実践の1つのモデル 図4 物理的コンテキス ト リソース、ツール、 施設、サービス 社会的コンテキス カリキュラムのコ ト ンテキスト 実践のコミュニテ 課題のドメインと ィ、グループの識 レベル、適切なペ 別、姿勢、価値観、 ダゴジー的アプロ メリット ーチ 所期の成果 学習活動 学習者 学習者の参加促 ニーズ、動機、学 進、学習の可能性 学習の目標、社会 習スタイル、これ を最大限に向上、 的および学問的ス までの体験 参加の門戸を拡大 キル 伝統的実践 E ラーニングのメ リット 効果的実践 124 JISC の e ラーニング・プログラムの e ラーニングとペダゴジー分野においては、e ラーニングによる効果的 な実践についての実践者の理解を促進するために、継続的な支援が行われる予定である。 その知識と経験が、効果的な実践の実証的ベースを構築する模範的なシナリオとケース・スタディに貢献す るような、教育分野全体の実践者と共同して、このような支援は達成されるものである。さらに、学習のデザ インというテーマについて企画された一連の討論、コンファレンス、および、ワークショップは、いっそう広 範囲に参加の機会を提供するものである。 eラーニングおよびペダゴジー分野のニュースや情報を提供するオープンなメーリング・リストに加入する には、www.jiscmail.ac.uk/lists/eped-info.htmlにアクセスされたい。本論文の裏付けとなるレビューや机上研究を 参照するには、www.jisc.ac.uk/elearning_pedagogy.htmlにアクセス願いたい。 参照 英国の 16 歳以降の教育課程向けの e ラーニングの開発について、さらに詳細を知るには、以下のリンクを 利用すること。 JISC JISC の e ラーニング・プログラムに関する詳細 www.jisc.ac.uk/elearning e ラーニングとペダゴジー分野の詳細 www.jisc.ac.uk/elearning_pedagogy.html e ラーニングの理論、枠組み、および、モデルのレビュー、[Mayes, T.&de Freites, S. (2004)] www.jisc.ac.uk/elearning_pedagogy.html e ラーニング・モデルのレビュー(JISC コミュニティのための e ラーニング・モデルの開発)[Beetham, H. (2004)] www.jisc.ac.uk/elearning_pedagogy.html 英国の公的機関 Department for Education and Skills (England) www.dfes.gov.uk Learning and Skills Council (England) www.lsc.gov.uk Higher Education Funding Council (England) www.hefce.ac.uk Scottish Funding Council for Further and Higher Education www.sfc.ac.uk Education and Learning Wales www.elwa.ac.uk Higher Education Funding Council for Wales www.hefcw.ac.uk 125 Department for Employment and Learning (Northern Ireland) www.delni.gov.uk e ラーニングによる効果的な実践に関する研究のための Web サイト 高等教育 Open University www.open.ac.uk/e-learning/index.shtml The Learning and Teaching Support Network www.ltsn.ac.uk e-Learning Centre www.e-learningcentre.co.uk Embedding Learning Technologies www.elt.ac.uk Enabling Large-scale Institutional Implementation of C&IT www.elicit.scotcit.ac.uk/modules.htm 成人継続教育 Ferl ferl.becta.org.uk National Learning Network www.nln.ac.uk JISC Regional Support Centres www.jisc.ac.uk/rsc Learning and Skills Development Agency (LSDA) http://www.lsda.org.uk/programmes/learningtech.asp National Information and Learning Technologies Association (NILTA) www.nilta.org.uk Scottish Further Education Unit www.sfeu.ac.uk 成人およびコミュニティ学習 National Institute of Adult Continiung Education (NIACE) www.niace.org.uk The Community Learning Resource www.aclearn.net learndirect www. learndirect.co.uk 126 早稲田大學人間科学部 e-school の試行と課題 早稲田大學人間科学部 野嶋栄一郎 1.e-school に対するニーズ 1.1 なぜ e ラーニングではなく e-school か? 通常インターネットを利用した遠隔教育は e ラーニングと呼ばれる。個人がコンピュータに向 かって黙々と勉強している勉強している姿を思い浮かべると個別化された学習方式としての e ラ ーニングという表現がふさわしい。しかし、我々学習システム全体を管理する立場からすると、 バーチャルではあるがやはり、学校というシステムとしての機能や問題が生じてくる。以降では、 早稲田大學人間科学部に附設されたような e ラーニングに基づく学校システムを e-school と呼ぶ ことにする。実際、e-school をスタートさせて一年後、学生たちにとってもホームルームや学友 との交流の結果は、まさに school とよぶにふさわしいものになっている。 1.2 e-school に対する早稲田大學のニーズ 早稲田大學は創設以来、1950年代まで“早稲田講義録”とよばれる講義ノートを、日本全国 の学習環境に恵まれない青年たちに送り届けてきた歴史がある。早稲田大学の創始者大隈重信は 高等教育を少数のエリートたちだけでなく全ての若者たちに与えることを考えた。早稲田大學に おける通信教育の歴史は、1950年代に中止されるまでは早稲田大學の歴史でもあった。私た ちが人間科学部に e-school をスタートさせたことは、早稲田大學における通信教育の歴史の復活 でもある。 1.3 日本における進学の状況 日 本の 高等 学 校進 学率 は 10 0% に 近く 大学 進 学率 はす で に5 0% を 超え てい る 。こ れは Torow, M(1977)のいうユニバーサルアクセス型の段階にあり、高等教育は事実上、万人の権利 となっている。事実、学習者は多様性を増し、退職後の学生、主婦としての学生、社会人である 学生、パートタイマーとしての学生等、多種多様な動機を持った学生が増加している。 これに伴なって、学生の就学目的はより明確に且つ個別化、特殊化されてくる。このような学 生に対応するためには、授業時間の多様化、教材の Module 化、ディジタル化、個別学習方式の 導入、遠隔教育の導入などへの要望も高まる。このような状況にあって、インターネットに代表 されるディジタルネットワークの利用が教育分野で要求されるのも当然といえよう。 1.4 少子化、生涯教育との関連 1990年代初頭をピークに少子化傾向は年々促進されている傾向にある。少子化が進むにつ れて一般大衆の高等教育化が進み、高度な教養を修めた人々の比率は高くなっていくことが予想 される。しかし、少子化がすすめば学習効率が高まり、均質な学習集団を編成しやすくなるとい う考えは妥当でない。学級崩壊は最近になって生じた現象である。小中高における不登校の生徒 は増える一方である。むしろ、少子化の時代は質の多様化が進むだけでなく、それが容認される 傾向が強まる。当然のことながら、このような学習者を対象とした一般的でない様々な教育シス テムが存在する必要が生じてくる。 127 また、一方で、生涯教育(life- long education)と言う思潮がある。この概念は Lengrand,P(1965) によって提唱されたものであり、社会の変化に伴なう教育の再編を訴えたものである。この思想 は我国にも大きな影響を与え、学校に籍を持たない成人の学習機会を保障する手立てが課題とし て残された。学習者自身が様々な学習内容や学習機会を選択し、自らの学びを構築していける教 育システムとして e ラーニングが浮上してくる。 1.5 大学における教育方法改善への要請 従来研究面だけにウェイトがおかれる傾向にあった大学に、最近では研究と教育に同じウェイト が置かれるようになった。教員の能力評価に教育的業績の占める割合が増加している。FD(Faculty Development)のための様々な試行が大学で取り組まれている。また、これに伴ない IT 技術を駆 使した新しい教育方法、教育システムの構築は大学の将来を左右する課題になりつつある。 2.e-school 設立の経緯 早稲田大學人間科学部 e-school 設立には以下のような活動が実績として積み上げられている。 1)WCCC プロジェクト(1992∼) 野嶋・西村(1997)はゼミの延長上で米国、ケースウェスタンリザーブ大学、William Deal 教授のクラスとの間で異文化間交流の実践を10年余実施してきた。英語を共通言語とし、イ ンターネット上の様々なソフトウエアを駆使し、生命倫理や新興宗教などの社会的トピックス を取り扱うこの協同学習は、社会的構成主義の視点に立った新しい授業モデルの有効性を示し た。 2)デジタル教育フォーラム(1999∼2001) このフォーラムは e-school を早稲田大學に設立することを主眼とし、さらに、それに関連す る各教育プログラムをインターネット上で展開することを検討し、提案を行ったものである。 提案された教育プログラムの主なものは次のようなものである。 ① 新入生、高校生のための入学前教育プログラム ② 留学生、外国人日本語教師のための日本語教育プログラム ③ 早大卒現職教員のためのリカレント教育プログラム ④ 各種高次資格取得希望者のための遠隔教育プログラム ⑤ 一般社会人のための生涯学習プログラム 3)DCC(Digital Campus Consortium) DCC は早稲田大學と教育の情報化に関心を持つ27社の企業から構成される連合組織であ り、コンテンツ開発、オンデマンド授業の実践研究、データベースの開発などを手がけている。 特に開発されたデジタル教材の市場での流通化をはかっている。 3.人間科学部 e-school の設立 以上のようなニーズと早稲田大学における準備の状態を背景に2003年4月より、早稲田 大學人間科学部 e-school はスタートした。基本的構成を以下に示す。 ① ハイブリッド型教育システム 教育システムの管理、コンテンツの作成、科目登録は大学が出資した IT 関連会社へのアウ 128 トソーシング、教育プログラムのデザイン、スクーリング、個別処方、教育評価、入試業 務は大学側の業務と仕事の分担を行っている。インターネット利用の高度に情報化され、 正確性を要求される作業は会社とのハイブリッドな構成が適していると判断した。 ② 社会人を主たる対象 ユニヴァーサルアクセス型高等教育の時代を迎えると共に、生涯教育の思潮の広がりを踏 まえ、2003年スタート時点で160人の学生を抱えている。 ③ ホームルーム 学生は授業科目とは別に必ず一つのホームルームに属する。ホームルームには一人の選 任教員が配置される。これは、学生にとってはホームタウンのようなものであり、学生の 帰属する集団を明確にする。ホームルームは約30人の学生から構成される。 ④ 教育コーチによる学習支援 どの教科を問わず、30人の学生を原則に、教育コーチを配置する。教育コーチは当該 の教科の教育内容に関し、BBS を介し質問に答える。 ⑤ 教育課程は通学制の課程と同等を原則としている。 4.1年間の試行後の評価 1)予想より評価できる点 ① 学習空間の拡大 10名には満たないがヨーロッパ、アメリカ、アジアからの学生の参加が見られた。 ② 学習の個別化の実現 BBS を利用し,教育コーチを採用することによって、高等教育の中で学習の個別化が実現 している。 ③ 教育の質のレベルアップ 教育内容を公開することが、教師の授業内容の反省につながり、結果的に良質な授業が 展開されることになる。 ④ 教育コーチとしての報酬 教育コーチの仕事は、大学院生にとって自分の専門領域の知識を深めると同時に奨学金 を獲得することにもつながる。良質な大学院生を大学に残すための方略になる。 ⑤ FD としての利用 web 教材を通学制の授業の中で利用することによって、通学制の学生の教育方法の改善 にもなる。 2)e-school の抱える問題点 ① 高額な授業料 従来の通信課程の授業料と比較して余りに高額である。 ② 実験、調査、演習等の多様な授業形態への制約 ③ 通学制、e-school を兼任する教員の負担の調節 ④ e ラーニングに対する教員側の偏見 129 ⑤ 教育コーチの育成と確保 ⑥ 学習者の学習マナーの育成 ⑦ 図書館機能の充実 5.結語 早稲田大學人間科学部 e-school の1年間の試行結果から、講義のライブ録画と BBS に教育コ ーチを付した早稲田大學人間科学部方式の e ラーニングは十分実用に耐えるものであると判断で きる。更に、通学制の従来の大学の授業とこの方式の授業は長所、短所をそれぞれに持ちながら、 ほぼ同等の教育効果を持つものと考えられる。これは必然的に伝統的な授業と e ラーニングが協 力的に補完しあう授業の姿をイメージさせることになる。 130 MIT「オープンコースウェア」:開かれた共有の新たなモデル マサチューセッツ工科大学 Farnaz Haghseta 概要 MIT オープンコースウェア (OCW)とは、1 つの理想のもとに活動し、その理想によって約束された成果 を発信する教育機関が達成した、注目すべき成功物語と言うことができる。それは、MIT の使命に対する MIT の教職員の熱意から流れ出るものである。そして、その使命とは、知識と情報をオープンに普及させることに よって新たな扉が開かれ、人間性の向上に資する教育がもたらす大きな恩恵が世界中で実現するとの信念に基 づくものである。 OCW は、事実上 MIT の全学部のコース教材を公開するという、大規模な Web ベースの出版事業である。こ のユニークなイニシアチブは、MIT の学部の教育資料を、教育者、登録学生、および世界中の自主学習者に公開 し、共有させるものである。OCW は、MIT の 33 の学問分野および 5 つのスクール全てを代表する 900 ものコ ースを対象として、そこで選択されたシラバス、講義ノート、コース・カレンダ、問題と解決の資料、試験、課 題読書のリスト、さらには、適切な講義ビデオをユーザーに提供し、オープンに利用させる取り組みである。2008 年までに、学内の約 1800 のコースで使用されている教材がこのイニシアチブに取り入れられることになる。 世界の教育者は、自分達のカリキュラム開発にこれらの資料を利用することができ、自主学習者や登録学生は自 習や補修のために資料を入手することができる。 OCW の Web サイトのコンテンツとして提供されるコース教材 は、誰でも、世界のどこからでも、使用、複写、配信、翻訳し、かつ、手を加えることができる。資料の使用者に 求められることは、用途が非営利目的であること、資料がオンラインで再配布され、再掲載される場合は原著者で ある MIT の教職員が著作権者として正当に表記されること、および、使用者は OCW にならって資料のオープン な共有を実践することだけである。OCW は学位授与プログラムではないため、現在の、または将来のコースの資 料を閲覧するのに登録手続きは不要である。MIT は今後も OCW を無料かつオープンに供給する方針である。 今後の展望を述べれば、MIT は OCW を普及させることで、世界のカレッジや大学の教育コンテンツのオー プンな共有化をいっそう牽引することになろう。従って、1 つの組織ではあるが、OCW には 2 つの使命が与 えられていることになる。 ・ 世界中の教育者、学生、および個々の学習者が、事実上 MIT の全てのコース資料に、無料かつ検索可能 な方式でアクセスできるようにすること。 ・ 他の大学が自らの教育資料を公開する際に模範となるような効率的で標準ベースのモデルを構築すること。 MIT の OCW は、2002 年 9 月 30 日の試験サイトの立ち上げ以来、併せて 215 を超える国、地域、および都 市国家からアクセスされている。資料は少なくとも 10 カ国に翻訳されている。OCW の実験的試みは 2 年目 に入り、オープンコースウェアのビジョンと現実には、関係者の非常に大きな熱意が反映している。今日まで の MIT の体験がベースとなっているため、オープンコースウェアのビジョンが実現されることは間違いなく、 グローバルな潜在的影響も大きなものになると思われる。 137 オープンコースウェアのビジョン OCW は、 無料かつオンラインで提供されるコンテンツの大きな幅と深さにおいても、 ユニークな試みである。 多くの大学で教職員は教材をオンラインで利用できるようにしているが、それは、主に学内での授業や教室で使 用するためである。しかし、MIT はオンラインでオープンなコースの教材公開という課題に、大学として取り組 んでおり、2008 年までに、全学部と大学院を網羅して、事実上 MIT の全コースの教材を公開する予定である。 OCW では、単にシラバス用ホームページやコース用ホームページが提供されるだけでなく、実際の講義ノ ート、課題割り当て、課題図書のリスト、試験、問題や回答集、シミュレーション、さらに、ある場合には講 義ビデオの完全なセットが提供されており、その意味で、OCW はその内容の深さにおいてもユニークな存在 である。また、当然であるが、他と比較して OCW の最も大きな特徴とは、オープンで制約がなく、インター ネットにアクセス可能な誰にでも利用できるものだという点にある。 遠隔学習プログラムを提供する大学は他にもあるが、それは教育者、学生、および学習者などグローバルな ユーザーに無料で開かれたものではない。個々の教職員は、自分のコースの教材をオンラインで公開すること はできるが、大学のカリキュラム全体について教育内容を紹介することはできない。一連のコース用 Web サ イトにアクセスを許す大学もあるが、コンテンツの内容は深みのないことが多い。それは、通常、単にコース の紹介かシラバスに過ぎないものである。MIT では OCW を使用することによって、大学自体の幅と深み全体 にわたって、世界水準の教職員の教育資料をオープンに配布しているのである。 MIT の OCW の種は 1999 年に蒔かれたと言える。当時、MIT の学務担当副総長であった Robert A. Brown は教職員委員会に、遠隔教育および e ラーニング環境において、MIT がどのような位置を占めるべきかについ て、戦略的なガイダンスを作成するように依頼した。このとき、Brown は委員会に 2 つの質問を出した。すな わち、「インターネットは教育にどのようなインパクトを与えるか」、また、「MIT がなすべきことは何か」 という問いである。 当時インターネットは、まだ変化に富んだ成長段階にあり、dot.com バブルが弾ける以前であり、多くのス クールは既に e ラーニング・プロジェクトを立ち上げており、それぞれの知的財産権から利益を上げるために、 インターネットを活用しようとしていた。実際、教職員委員会のメンバは、自分達の活動が MIT.com 事業に つながるものであることを当然のものと考えていた。ただし、MIT の使命を中心に考えれば、また、教育実 践への情熱を共有し、大学の使命に対する信念を共有する MIT の教職員へのインタビュー結果を調べてみれ ば、委員会のメンバは非常に簡単な結論に達したことが分かる。すなわち、「我々の教材を無料で提供するた めにインターネットを使用してみよう」、ということである。MIT 学長の Charles M. Vest は、オープンコース ウェアが MIT に有益なものであることを直ちに理解し、2001 年 4 月のニューヨーク・タイムズ紙とのインタ ビューで次のように発言した。 「オープンコースウェアは、市場が支配する世界の常識に反した性格を持 つように見えるが、本当は、我々の信念において、MIT で最上のものを表現している。それは革新性である。 それは、教育が進化する形態について我々が考えていることを表現している。すなわち、継続的に情報へのア クセスを拡大し、他者の参加を促すものである」 138 このインタビューは 2001 年 4 月 4 日に大きなメディア発表として取り扱われた。Vest 学長は OCW を発表 し、この分野に確固とした杭を打ち込んだ。リーダーシップとはチャンスをとらえ、模範を示すことであり、 MIT はこのイニシアチブによって、疑いもなくリーダーシップの座を確保した。 MIT オープンコースウェアの実施 2001 年 6 月、すなわち、この年の 4 月に行われた発表のすぐ後で、William and Flora Hewlett 基金と Andrew W. Mellon 基金は、OCW の試験段階の活動に気前よく資金を提供することに合意した。2002 年 9 月、MIT の OCW の試験サイトが一般に公開され、23 の学問分野の 50 のコースがこのサイトに関係することになった。 2003 年 9 月、MIT の OCW サイトは公式に立ち上げられ、MIT の 5 つのスクール全てと、33 の学問分野から 500 のコースが参加することになった。公式立ち上げ後、2004 年 4 月と 9 月に新たなコース公開のサイクルを 経て、MIT OCW サイトでは合計 900 コースが公開されることになった。すなわち、このサイトで MIT の全 てのコースを公開するという目標の半分が達成され、画期的な成果をあげた。 MIT OCW が成功するには、よく定義された公開プロセスが不可欠である。このプロセスは教職員のリクル ートから始まる。参加は自発的に行われるものであるから、我々は、教職員が参加しやすいように可能な限り 便宜をはかり、また、教職員が投入する時間と労力を上回るだけの価値を教職員が見出せるように努力してい る。次の段階はサイトの企画である。この段階では、コース教材の転記および変換、知的財産権に関する問題 の確認、およびサイトのレイアウトのデザインが行われる。次に、コース用のサイトが構築され、品質保証活 動が実施される。最後に、コース用サイトは、コースを担当する講師によって見直され、承認を得て公開され る。また、継続的なサポート段階も必要になる。この段階では、誤りの訂正、技術的課題、およびコースに関 するユーザーの質問に対する回答などが取り扱われる。 過去 2 年間、我々は大きな課題を克服した。 ・教職員の参加− プロジェクトの初期には、しばしば、OCW に参加させるために教職員の懸念を和らげる 必要性に迫られた。参加は MIT の教職員全てについて自発的に行われるものとされた。そして、大学とは本 来分散的な体制をとっているものであるから、特に MIT ではそうであるため、我々から教職員のところに出 向き、教材を提供してくれる教職員をリクルートしなければならなかった。2001 年の早期に一連の学部会議 を開催して OCW のコンセプトを教職員に紹介したとき、教職員が不参加を決め込む潜在的な理由が直ぐに明 らかになった。すなわち、時間の制約、あるいは、自分達の仕事がオンラインで一般に公開されれば、自分の 教材を自ら管理できなくなり、それを公表する権限にも影響がでるのではないかという懸念、および、恐らく 最も重要なことは、全世界を対象とする Web 上での公開によって、自分達の負担がいっそう増えるのではな いかという懸念である。教職員の懸念を和らげるために、教育用コンピュータ・ツールに対する教職員のニー ズに対応し、OCW で公開されるコンテンツ提供のための単一のプロセスを我々は作成した。簡単に言えば、 我々が全ての作業を行うということである。ほとんどのケースでは、コンテンツの収集と変換、必要に応じて 実行されるコンテンツの転記やスキャン、知的財産権の使用認可と引用調査、およびグラフィック・デザイン などのサービスがOCW の担当者から提供されるため、 参加する教職員にとっては、 ミーティングは1 回程度、 電子メールのやり取りは数回程度の負担が要求されるだけである。 ・知的財産権− このプロセスの非常に早い段階から明らかになったことであるが、我々が解決すべき最大の 139 課題は、サードパーティが所有する資料、または MIT に属さない資料の管理方法であった。どのような教育 環境でも、教職員は、自らの授業を補強するために、膨大な量の著作権付き資料を使用しなければならない。 著作権の付された資料についてオンライン公開の承認を得ることは、このプロジェクト全体で我々が遭遇した 中で、最も時間のとられる作業の 1 つとなった。我々は、教職員が授業で使用している教材の中で、サードパ ーティの著作権所有者の権利に係わる箇所を特定するプロセスを開発した。著作権の所有者を特定したら、資 料の原作者を確認し、その原作者または発行者から使用許可を得なければならない。ある場合には、サードパ ーティの著作権所有者から使用・公開許可を得ることができなかったとき、教職員と協力して、当該資料を引 用文や、グラフィック・アーチストから許可を得たイメージで代用することもあった。知的財産権の問題は今 も大きな課題であるが、かつては大きな障害になると思われたこのような大きな問題を解消するのに有益なプ ログラムも開発することができた。 さらなる前進を続けるために、我々は OCW の潜在的な恩恵を最大限に高めてユーザーに提供するために、 また、MIT の教職員の資料を、その仕事の品質を反映する形で確実に発表できるようにするために、先端的 な方法の研究に取り組んでいる。さらに、OCW のコース資料を可能な限り検索可能とするために、我々はメ タデータと検索機能の向上にも取り組んでいる。教育コンテンツをデジタル形式に変換またはエクスポートす るための新たな標準も開発している。ビデオを公開資料に統合するための革新的な方式の研究にも取り組んで いる。また、自己管理型のラーニング・コミュニティを支援するための技術開発にも参加している。このよう なイニシアチブの全ては、可能な限り広範囲なユーザーに、MIT のコース教材を提供するという OCW の目標 達成を促進するのに有益なものである。 オープンコースウェアのインパクト MIT は OCW を活用して、世界中の誰にでも、どこからでも、インターネットを利用して MIT の学部の核 となる教材を利用できるようにしている。プロジェクトの早期の段階において、教育者、登録学生、および、 世界中の自主学者など、OCW の企画において援助すべき対象者とされた人たちに、MIT の核となる教材を提 供すれば、本当に彼らに役立つことが明らかになった。 我々はこのような成果を測定するために、多様なツールを使用する非常に有効な評価プログラムを開発した。 例えば、伝統的なサーベイ、インタビュー、オンライン・インターセプト調査、および先進的な Web 分析な どが使用される。このような手段を組み合わせることで、幅と深さの両面で満足のいく評価を行うことができ る。また、初期のデータからは、ユーザーの Web サイトの使用に関する我々の仮説が裏付けられた。2003 年 11 月 6 日から 19 日にいたる 2 週間に、電子サーベイ方式を利用して 21,500 名のサイト・ユーザーをインター セプトしたが、そのうち、1,220 名がわざわざ時間をとってサーベイに協力した。このサーベイから得られた データと分析結果によって、「アクセス」、「使用」、および「インパクト」という、ユーザーの使用状態に 係わる 3 つの要素について、それぞれの特徴を理解することができた。 アクセス− OCW の教材は、世界の広範囲な地域から、ユーザーが高帯域幅または低帯域幅の通信でイン ターネットに接続し、さまざまな Web ブラウザを使用してアクセスできるように企画されている。OCW は、 全てのユーザーが信頼性の高い技術インフラストラクチャに接続され、サイトのコンテンツの全てにアクセス できるように設計されている。我々の評価活動から以下の結果が得られた。 140 ・OCW のトラフィック量は大きく、頻繁にアクセスする熱心なユーザー・グループの存在も明らかになった。 2003 年 10 月 1 日から 2004 年 8 月 31 日の間に、サイトには 365 万件のアクセスがあり、1 日当たりの平均は 10,504 アクセスであった。 ・頻繁にアクセスする熱心なユーザーが存在する − 2003 年 11 月には、1 日のアクセスの約 25%は、これま でこのサイトにアクセスした経験のあるユーザーによるものであった。OCW のユーザーの 95%以上が、今後 もサイトを利用する意思をもっている。毎日サイトを利用するユーザーは全体の約 10%であり、それに加え て 25%が少なくとも週に 1 回は利用している。過去に 10 回を超えてサイトにアクセスしたユーザーは、全体 の 40%以上に達する。 ・OCW は国際的にも注目されており、サイトのトラフィック量の半分以上は、北米以外からのアクセスであ る。北米(合衆国とカナダ)からの OCW へのアクセスは、ユーザー全体の 45%である。西欧が 2 番目(19%) に大きなユーザー所在地域であり、東アジアは 3 番目であってユーザー全体の 18%を占める。 ・サイトは、「教育者」、「登録学生」、および「自主学習者」という 3 つのカテゴリーのユーザーの全てに よって幅広く利用されている。数字的には、自主学習者の利用が最も大きく、ユーザー全体の約 52%を占め ている。OCW のトラフィックに占める登録学生の比率は 31%であり、教育者は 13%を超える。 使用 − 世界中の教育者、登録学生、および自主学習者は、非営利の教育目的であれば、OCW のコンテン ツを無料で使用することができる。「OCW クリエイテイブコモンズライセンス」の規定によれば、ユーザー はコースの教材をそのまま利用することができ、また、ニーズに応じて、編集、翻訳、資料追加、および自己 資料との統合など、必要なアレンジも許される。 ・OCW の利用に関する我々の仮説シナリオは、おおむね、ユーザーの実際の使用状況から裏付けられた。教 育者の利用目的としては、計画、開発、またはコースやクラスの改善と教育実践のためのアクセスが最も多く (44%)、次いで、個人的な知識を高めるためのアクセスが多い (25%)。学生は、自分が履修するコース で使用される教材および課題の確認のためにサイトを利用することが最も多く(43%)、次いで、個人的な知 識を高める目的でアクセスしている(39%)。自主学習者の場合は、圧倒的に個人的な知識を高める目的でサ イトを利用している(80%)。 ・OCW のユーザーは、概ね、OCW サイトのコンテンツの品質に満足している。OCW で公開されたコース教 材について言えば、全般的な品質について、ユーザーの満足度のレベルは高い(92%超)。 インパクト − ユーザーが OCW にアクセスし、使い始めたときに、新たに問われるべき問題がある。すなわ ち、OCW によって何が変わるのか、ということである。本調査の核心となるのは、教育者や学習者というユ ーザーに OCW が及ぼす多様な影響を理解し、測定することにある。我々が知りたいことは、OCW の教材を 使用することで、個人の教育実践および学習体験がどのように変わるかという点である(変わるとすれば)。 また、どれだけ幅広い影響を OCW が与えるものかについても理解したいと思う。 ・OCW のユーザーの大部分が、OCW は教育実践および学習活動の双方に大きなプラスの影響を与えてきた し、今後も与えるであろうと考えている。全てのユーザーのうち 80%以上が「明確な影響」または「極めて 141 大きな明確な影響」があると回答しており、18%が中程度またはある程度の明確な影響を回答し、2%未満の ユーザーが明確な影響はないとしている。95%以上のユーザーが今後も OCW を使用するとの意思を明らかに している。約 93%のユーザーが、知人等に OCW を推奨してもよいと回答した。 ・教育者は、その教育実践活動において、OCW の教材を再利用するための計画を立てている。自らが教育者 であることを明らかにした OCW ユーザーの 97%以上が、OCW が公開したコース資料の品質は満足すべきも のであると回答した。また 47%以上が MIT の OCW 教材を再利用しており(または、その予定であり)、41% が将来的に再利用する可能性もあると回答した。 この初期のデータを分類するにあたって、我々は評価に係わる全ての要素を、MIT の教育に係わる使命と、 その使命達成における OCW の役割にリンクさせることにした。このモデルによって、我々は評価結果を、教 育に関するユーザーの役割ごとに、また、教育および社会地理学的なコンテキストごとに、および、他の特徴 によって区別することができるようになり、また、我々が使用するデータ収集の方法と手段の全てを、「アク セス」、「使用」、および「インパクト」に関する我々の理解を促進できるようにデザインした。 長期的な成果を測定するにあたって、我々は、MIT にとっての課題および世の中の教育機関に課された課 題こそが、OCW の組織としての使命の残りの半分を占めるものであることに気づいた。例えば、同じような 考えをもつ他の教育機関は、その教材を無料でオープンにオンラインで公開するだろうか? 我々が期待する ことは、これまでの OCW の公開プロセス開発における我々の体験と合わせて、MIT のコース教材を共有化す ることで、他の教育機関に刺激を与えて、他の教育機関にもオープンにそのコース教材を共有化させ、人間性 の向上に寄与する知識をコンテンツとするインターネット Web サイトを構築させることである。 実際に、フルブライト・プログラムがhttp://www.fetp.edu.vn/fetpocw.htmで提供するベトナム語のOCWなど、 小規模であるが、我々と同じ志の「オープン・コースウェア風の」オンライン出版サイトが出現しつつある。 このWebサイトのホームページでは、アレンジされたMITのコースと独自のベトナム関係のコースが選択的に ベトナム語に翻訳され、オープンなアクセスが提供されている。このホームページでは、MITの活動に触発さ れてホームページが作成されたと述べられており、MITへの直接的な言及が行われている。また、ラテンアメ リカ、スペイン、およびポルトガルの大学 724 校からなるコンソーシアムのWebポータルであるUniversia.net との提携関係をとおして、MITの 36 ものコースを実験的に選択して、スペイン語およびポルトガル語に翻訳 して提供できることも素晴らしい実践である。この提携関係をとおして、我々は、ブラジル、チリ、アルジェ ンチン、メキシコ、およびペルーなどの非英語圏の国民にまで、OCWの供給を拡大できるようになった。 Universiaは今後も、OCWコースの翻訳版の供給を拡張していくことを約束している。 さらに、現在、我々は多数ではないが他の教育機関と共同作業を行い、彼らも同様の「オープン・コースウ ェア」イニシアチブを立ち上げ、MIT の OCW で利用可能な補完的な教育コンテンツ、例えば、公衆衛生、農 業、または政策などに関するコンテンツを公開するための評価を行っている。この目的のために、我々は 2004 年 3 月、「オープンコースウェアの方法論」または How To と称されるべき Web サイト (http://ocw.mit.edu/OcwWeb/HowTo/index.htm)を立ち上げ、我々が MIT のコース内容をどのように公開し ているかを詳細に説明することにした。このサイトには 1000 ページを超える文書が掲載されており、また、 142 実践された授業内容、 および、 ダウンロード可能なテンプレートと使い易いツールも公開されている。 従って、 MIT の実践を真似たいと思う他の教育機関は、このサイトを活用することで、コストを節約し、習熟時間も 短縮できることになる。 知識がオープンに共有されることによって最も恩恵を受けるはずの発展途上国の人々については、インターネ ットに接続できず、アクセスが不可能なことによって、このようなシステムを利用できない状態にあるのは事実 である。しかし、我々はこのような状況によって将来を悲観的なものとしてはならない。むしろ、それをチャレ ンジと捉えるべきである。世界の代表的な教育機関の意思決定責任者は、世界の人々の生活を改善するために、 我々が学内で実践している活動を利用できるはずである。そうではないだろうか? 歴史を振り返れば、知識が オープンに共有されたときにこそ、教育活動や真理の探求が最も大きく進歩してきたことが分かる。我々はオー プンコースウェアのアイデアが、今後 10 年間に我々が掴むべきチャンスをもたらすものだと信じている。 本当の意味は? 我々はまだ OCW イニシアチブの初期段階にいるにすぎないが、既に相当満足すべき成果が得られている。2008 年までには、我々は合計 2000 のコースを完全公開する予定である。しかし、2003 年 9 月時点で 511 のコースを公 開できたことは、MIT にとって技術的また組織的に大きな成果であった。これは、事実上 MIT の全コースをオン ラインで公開するための最初の到達点である。2003 年 9 月以降、2 度の新規公開サイクルも経てきたが、それぞれ のサイクルで約 200 のコースが無事に追加され、現在の MIT の公開コース数は 900 に達している。 2003 年 9 月 30 日、MIT の Vest 学長は次のように発言している。「MIT は、2001 年にオープンコースウェ アを発表したときの約束を果たした。また、世界のあらゆる地域の教育者や学習者が、OCW は既に教育実践 と学習に大きな影響を与えていると述べているが、これは喜ばしいことである。我々は OCW を、教育のパワ ーを民主化し、変換するものであると考えている。我々は、コース教材をオープンに共有するというアイデア が、多くの教育機関をとおして普及することを期待しており、また、学習の質を向上させ、その結果、世界の 人々の生活の質を向上させる知識を提供するために、グローバルな Web が構築されることを期待している」 我々は、 世界のあらゆる地域からユーザーの通信トラフィックを受信している。 すなわち、 国連の全加盟国、 イラク、アフガニスタンおよび北朝鮮をはじめとして、世界中の、およびアメリカ大陸を含む 7 大陸の 215 を超える地域、都市国家、および国からユーザーがアクセスしている。OCW のユーザーは我々が提供するコ ンテンツに真剣に取り組んでおり、2002 年 9 月の試験サイトの立ち上げ以降、18,000 通の電子メールが我々 に送信されている。このようなメッセージの大部分(60%超)は、感謝または祝福のメールであり、オープン な教材の共有化がもたらす潜在的な効果を裏付けている。他のメッセージの大部分は、サイトの使用方法など に関する技術的なものである。我々は月に 1 度、電子メールによるニュース・レターの配信も行っているが、 その送信リストには、自発的に購読を申し込んだ 24,000 名ものユーザーが含まれている。このニュース・レ ターには、コース実施に関する最新情報、OCW 関連ニュース、およびユーザーのサイトの使用体験を改善す るためのヒントなどが掲載されている。 我々がよく受け取る電子メールの例として、スペインの Pekka Tolonen が送信してきたメッセージを紹介す る。「無料で利用できる OCW は本当に素晴らしい。しかし、商業主義と利益の追求がはびこる今日の世界で 143 は、このようなサービスが稀なのは残念だ。学術の世界もますますビジネスとマネーの法則の支配を受ける傾 向にあるが、MIT が極めて基本的なアカデミックの価値、すなわち、全ての人に開かれた情報という原則に 立ち戻る模範を示されたことは賞賛に値する」 我々が 11 月に実施したインターセプト調査に参加し、調査用紙に回答した 1,220 名のユーザーのうち、13% が自らの身分について「教職員」であると記入している。2 週間の調査期間のトラフィック全体の 13%が教職 員からのものであるなら、この期間に MIT の外部から約 94,000 名の教職員が OCW にアクセスした計算にな る。このような教育者は、サイトにアクセスする理由として、MIT の教職員と比較して自分達の教育実践を 評価するためであると述べている。 また、 自分達の教育実践と統合できる学習課題を探すためにアクセスした、 あるいは、カリキュラム計画に OCW を利用したとの回答もあった。彼らの多くにとっては、まさに、新分野 の知識探求が動機となっているのである。 英国の自主学習者でありパートタイム教師である Andrew Wilson は、この秋に次のようなメッセージを送信 してきた。「学習活動を高めることで獲得した知恵が、究極的に、世界の改善をもたらすという信念ほど、人 類にとって大きな希望はない。MIT は、OCW の運用によって、知識はそれを買える人間、または、その近く にいる人間のみが利用できるものだという考えに対抗して、倫理的な立場を取っている」 MITの教職員950名のうち、 OCWサイト上の900のコースのいずれかに教材を提供している者の割合は55% を超える。MIT の海洋工学科の Paul Sclavounos 教授は次のように述べている。「私にとっては、OCW は担当 学科の講義ノート(コース 13.022:表面波および浮体との相互作用)をまとめる機会となるものであり、講 義ノートを Web で自由に公表するチャンスでもある。公表した資料に対しては MIT の同僚からだけでなく、 世界中の関係者、および在学生や卒業生からフィードバックが送信されてくるが、そこには極めて高い評価が 示されている。彼らはコース 13.022 の公開ページのコンテンツの教育的価値が高いことを認め、私のサイト には学会と産業界の関係者が頻繁にアクセスしている」 実際に、MIT の学内を見れば、教職員は同僚の授業内容をこれまで以上に詳しく知ることができるように なり、学生は OCW でシラバスや講義ノートを閲覧できるようになったことを歓迎している。MIT の教職員が OCW のサイトにコース内容を公開したことによって、他の大学の研究者が同じ分野の研究者の存在に気づい て連絡してきたという例もあり、また、新たな協力関係ができて教育実践と研究のコラボレーションが実施さ れた例もある。 このようにして、 我々のOCW 運用はまだ2 年間の実績にすぎないが、 以下の事実を確認することができた。 ・ オープンコースウェアの現実とビジョンについては、非常に大きな「熱気と期待」が持続している。 ・ そのビジョンとは、MIT の教育活動を支える教材を、高品質なデジタル・コンテンツとして公開しオープ ンに共有することであるが、これは「達成可能」である。 ・ そして、MIT のオープンコースウェアは、今後も「意義深い」インパクトを与えるであろう。 144 第3セッションまとめ 山田 恒夫(メディア教育開発センター教授) 第 3 セッションは e コンテンツの条件と題し、e ラーニングのための教材やコースの種類、編成、品 質、そして開発方法とその流通方法等について、4 人のパネリストからの実践報告をいただいた。 最初の報告者は、マサチューセッツ工科大学の OpenCourseWare プロジェクト(以下、OCW と記載) において、External Outreach Liaison の責を果たされている、Farnaz Haghseta 先生であった。同氏は、 OCW の背景と基本概念、経緯、インパクト、そしてオープンシェアリングの新しいモデルについて概 説された。OCW の基本概念(―国や世界に貢献するために教材を無償で提供することー)が、どのよ うな経緯で生まれ、その結果、OCW はどのような特色を有するのか、説明された。OCW は、オープ ンナレッジ、オープンコンテンツを唱導する。ただ、MIT の正規の教育ではなく、したがって遠隔教 育ではない。したがって受講生とのインタラクションはなく、学位の付与や単位の認定もない。OCW のサイトにくればすべてのコースを一覧できる(ワンストップセンター的機能) 。教員のボランティア によるものであり、教員が参加しやすい環境を用意した。OCW のスタッフは、過去のコースのアーカ イブ化(大学図書館との共同) 、手書き教材のデジタル化、メディア変換、メタデータ付与、素材の権 利関係処理などを行い支援にあたる。 MIT の OCW のもう1つの貢献は、他の大学が OCW の理念に共鳴し、そのコースを公開したいと するとき、この支援をおこなうということである。 「クリエイティブコモンズライセンス」を基礎に、 コンテンツの共有、再利用が図られる。教材をそのままの形で、あるいは修正された形で供給できる。 派生物ということで翻訳とか修正を加えることができる。その一方で、その使用は商業的ではない、 MIT の著作物を使用する場合には著者がだれかということを示す、OCW と同じような環境で活用さ れなければならないなどの制約がある。 利用の実態調査によれば、その使用はさまざまであるが、教員は自分たちのコースを準備する、教 材を開発する、また個人的な知識を深めるために、そしてカリキュラムの立案の参考とするために使 用している。もちろん学生の場合には、自分たちが勉強している科目を補足するために、そして知識 を深めるために利用する。 自習者の 80%が自分たちの知識を深めるために利用していると答えている。 MIT へのメリットとしては、大学として(イメージアップなど) 、学部として(教育内容やカリキュ ラムの周知)、教員としての(知名度のアップ)、3つのレベルでメリットがるとのことであった。 当初(2002 年9月)50 だったコースは、2003 年に 500 コース、2004 年に 900 コース(全コースの 半分)と順調に数を伸ばし、MIT の5つの学部、33 のデパートメントにおよぶとともに、世界に与え るインパクトも大きなものとなった。さまざまな国際協力も生まれ、スペイン語化、中国語化(CORE) も始まった。 2 番目の報告者は、ボストン大学遠隔教育センターの Susan M.KRYCZKA 教授であった。教授は、 ボストン大学にオンラインの遠隔教育を導入することを職責とされている。ボストン大学では、e ラ ーニングによる遠隔教育の導入が 2000 年と遅かったこともあり、第 1 世代(テキスト主体の Web)、 第 2 世代(ビデオストリーミング)から進んで、第 3 世代のオンラインコース(CMS の 1 つ、 「WebCTVista」 とインタラクティブなデジタルコンテンツの利用)が使用されている。遠隔教育センターでは、イン ストラクショナルデザイナーやグラフィックアーティストを擁し、担当教員と共同してコース開発に 133 当たっている。オンラインコースの目標は、コースを終了した段階で、その内容を完全にマスターし たと思えるように、すなわちオンキャンパスの学生と同じぐらい、あるいはそれよりもよい成果を上 げるということである。 学部レベルから、修士レベル、博士レベルまで、オンラインコースが用意され、なかには理学療法 など、実技をともなうものもある。受講生は社会人が多い。このため、開講機関には、年 6 回の開講 など工夫している。教授は、オンラインコースの開発運営の実際について詳細な説明をなされ、その 説明はこれからコース開発に携わろうとするものに大変示唆的であった。 3 番目の報告者は、セジョン大学(韓国)の Insook Lee 博士である。韓国は、サイバー大学構想を 推進し、オンライン大学について豊富な経験を有する。また、Insook Lee 博士自身、同大学遠隔教育 センターの長というお立場で実務経験も豊富である。 お話は韓国の e ラーニングおよび教育コンテンツに関する政策から始まった。各省庁におけるパイ ロット的なプロジェクトを経て、高等教育法や生涯学習法にもとづくオンライン大学や大学院が運営 されている。376 ある大学のうちの 151 校がオンラインの e ラーニングコース、または一部オンライ ン化したコースを提供しているが、関与している教授は7%と多くない(2002 年)。e ラーニングを高 等教育に応用して、既に7年ほどになるが、特に量的なプログラムは相当数増えた。現在の問題はそ の質に関することである。 コンテンツについては、従来型の大学と新しいオンライン大学ではかなりの相違がある。従来の大 学では、50%のコンテンツはHTMLまたはパワーポイント、残り 30%がビデオまたは非常に短いア ニメーションベースのコンテントとなっている。大学の関心はコンテンツの開発コストで、特に均質 的なカリキュラムを行っている中で、個々のインストラクターや学習者の特性、学習スタイル、科目、 学習の環境などについての配慮することは困難である。一方、オンライン大学では 100%すべてのコ ースをオンライン化して提供している。インストラクショナルデザインや権利関係処理の専門スタッ フの存在など、オンライン大学の優れた点といえる。また、オンライン大学間におけるコンテンツの 共有についても進んでおり、オープン・サイバー・ユニバーシティー・コンソーシアム、韓国サイバ ー・ユニバーシティー・コンソーシアムという連合体が機能し、部分的にコースの提供がなされてい る。 将来構想として、韓国教育省では、e−キャンパスビジョン 2007 を提唱している。e ラーニングサ ポートセンターを構築する。研究情報を共有していく。次世代の大学の管理運営情報システムを構築 する。既存のシステムをさらに強化して、ICTを大学に導入していくということ。また、非常に健 全なサイバー文化をキャンパスに構築しようというのが目的になっている。 4 番目に報告されたのは、日本 e ラーニングコンソーシアム会長の NTT ラーニングシステムズ・小 松秀圀氏であった。企業内教育から見て、これから専門職大学院がどう正常に発展していくべきかと いう視点から話をまとめられた。日本では、専門職大学院がようやく立ち上がり、社会や産業界の期 待も大変大きい。現代社会はその進歩が非常に速いが、専門職大学院でより多くの人が高度な教育を 学習すれば、社会のひずみを是正していくということに非常に役に立つであろう。また、日本人がこ れから新しい職業能力を身につけて、日本社会の健全性向上、社会の競争力をつけるという点につい ても、非常に大きな働きをすると期待ができる。それと同時に、働く人個々にとっては、実務、実践 能力を身につけて、昇進とか新しい職場を得るという展望も開ける。しかし、専門職大学院が健全に 発展するために解決しておくべき課題も残っている。小松氏によれば、企業内教育ではインストラク 134 ショナルデザイナーが極めて少なく、高等教育では社会人対象の教育工学ということがなかなか普及 していない、すなわち、社会人教育の機能が極めて初期の状態にあるということが日本の抱える困難 ということであった。 こうした背景から、日本の専門職大学院では、教育の目標を実践能力養成ということに絞り切れる か、実務、実践能力を身につける教授法を導入できるか(例えば、多くの人やリソースの情報から学 ぶ社会的構成主義的な教育)、コースの評価を正しくできるか(例、カークパトリックの4段階評価モ デル)などが課題となるとのことであった。専門職大学院は、これまでの日本の大学になかった新た な理念、実務教育を確立し、企業内教育とも連携を深めることが重要とのことであった。 第3セッションとして十分なディスカッションの時間はとれなかったが、学習コンテンツの品質保 証、持続的な開発に向けた組織、人的資源の確保と養成、開発者へのインセンティブ、コンテンツを 共有し再利用する仕組みなどが、今後の課題として整理された。 135 オンラインプログラムをインタラクティブで価値あるものとする −ボストン大学の実績− ボストン大学遠隔教育部長 Susan M. Kryczka 背景 マサチューセッツ州ボストンのチャールズ河畔に位置するボストン大学は、国際的に高い知名度を持つ男女 共学・非宗教系の私立高等教育研究機関である。全米 50 州、世界 135 ヶ国から 30,000 人を超える学生を集め ている本校は、全米最大の私立大学のひとつである。1839 年に創立されたボストン大学は現在、17 の大学院 および学部を有し、米国でも一流の研究施設のひとつである。ボストン大学はまた、米国で初めて全学部を女 性に開放し(1872 年)、音楽学部を開設し(1873 年)、ヨーロッパの大学との間で教授を交換し、医学部へ の女性の入学を認め(1873 年)、歯学大学院を設置し(1963 年)、全米で初めて教育用の実験施設を兼ねた ガン研究所を創設している(1965 年)。 ボストン大学はまた、米国では 4 番目、ニューイングランド地方では最も規模の大きな私立大学である。ニ ューイングランド地方の大学としては最多の国際留学生を擁し、海外に送り出している留学生の数も最大であ る。職員総数は 8,000 人を超え、そのうち 3,000 人は教職員である。 ボストン大学における遠隔教育の実績 2000 年 11 月、ボストン大学はオンライン課程の制作作業に着手するために、遠隔教育部を創設した。2000 年の当時、米国ではすでに数百の大学院や学部が学位修得プログラムをオンラインで提供していた。本校では 当時、通信衛星による授業の生中継と録画放送を除いては、遠隔教育の経験がほとんどなかった。伝統的なキ ャンパス内での学部教育プログラムでよく知られている本校の場合、オンライン教育ではその名声を十分に活 かせないのではないかという懸念もあった。そのため、どのような教育プログラムであれば容易に市場投入す ることができるか、また、参入する事業者が多いこの市場で本校の教育課程をどのように差別化していけばよ いかについて判断する必要があった。 ボストン大学にとって明らかに有利な点がいくつかあった。国内外から多くの学生を集めてきた本校には、 国内的にも、また国際的にも高いブランド力がある。もっとも本校の場合、遠隔教育のマーケティングにおけ る経験は皆無で、また、どのようなプログラムならオンライン教育に最も望ましいかという点に関する市場調 査もまったくしていなかった。 このような不備に気付いた本校では、本校のプログラムに対する関心の高さ を測るために、カナダにある Embanet という会社の協力を得て市場調査を行った。 この市場調査の結果、米国の法執行当局(警察)関係者の間では、刑事裁判を専攻する修士課程に対する需 要が非常に高いことが明らかになった。この範疇に属する就学希望者は、警察署や行政機関を通せばターゲッ トとして絞りやすいので、マーケティング活動もかなり簡単にできる見通しが立った。そこで、訴求対象を 30∼45 歳の年齢層に属する成人、特に男性を中心に絞ることにした。 145 ボストン大学の刑事裁判専攻修士課程は、従来型の大学院プログラムにもあることはあるが、在籍者は定時 制の学生がわずか 50 名と小規模に留まっている。本校初のオンライン課程の開発に意欲を見せた新任の学部 長は、学部教職員の全員をその仕事に関わらせた。2002 年の夏には、39 名の学生を迎えて「ホワイトカラー の犯罪」と題する初のオンライン課程を開講した。この試みは大成功だった。2004 年の秋には、このプログ ラムの登録学生数が 450 名に伸び、刑事裁判専攻修士課程としては全米で最大のプログラムとなった。2004 年 5 月には、第 1 期生として 130 名のオンライン学生をこのプログラムから卒業させた。 本校では、オンライン課程を構築するにあたって、インターネットで提供する必要のあるすべての技術を活 用するように試みている。まず、第三者がすでに開発した技術に基づいて開発を試みる。オンライン課程の大 部分は、まるで電子ブックのように文字ばかり並んだテキスト、または PowerPoint のスライドを併用したキ ャンパス内の授業を録画したストリーミングビデオに頼っている。この種のモデルはいずれも、教職員の作業 量をほとんど増やさずにオンライン課程を迅速に配備することができるという利点がある。ただし、初期の段 階ではこのようなモデルでもまだ良いとしても、学生自身の IT 技術がいっそう高度化するにつれて、オンラ インプログラムに対するその期待もまた大きくなる。 そこで本校では、学生が様々な形でオンライン教材を利用できるように、各種のシミュレーション、フラッ シュオブジェクト、クイズ、短いビデオまたはオーディオクリップを十分に取り込むように努めた。様々なオ ンライン教育やそれによる学習方法の試みに対して消極的になる原因の多くは、キャンパス内での教育こそが 教育上も学習上も最適な方法であるという思い込みから来ている。これに対し、もっと積極的にオンライン教 材を学生に使わせることで、このような学習が可能になるだけでなく、さらに効果的なものになりうるという のが私たちの考えである。 オンライン課程の開発に際して、本校では他校の実績に学びながらも、自らの技術活用の経験に基づいて、 一層の改善を図りたいと考えた。 「e ラーニング」それ自体はすでに新しい概念ではない。成人学生の多くが、 より優れた品質、またはこれまでとは違った経験を期待していることはわかっている。オンライン教育の受講 生は、離れた場所で、そして多くの場合はひとりで勉強していることから、本校では独自の方法により構成さ れた刺激的なコンテンツによって、受講生の動機づけを図っている。学生には、7∼10 分おきに何らかの作業 を行わせるように努めている。たとえば、質問に答えなければならないようにしたり、意見を提出させたり、 オフラインで読書課題を与えたり、もしくはその課程の学習目的に直接関係のある別の作業をさせたりしてい る。本校では、「ボストン大学オンライン」ならではの特色のある経験をしてもらいたいと考えている。 本校のオンライン課程設計は、既存の成人学習理論に基づいている。成人の学習方法は、人によって様々に 異なる。成人の大部分は、教材を使いながら、問題やゲームの解決にそれを応用することができて初めて、学 習したことを最もよく覚えられる。また、成人の場合、目で読むよりも耳から聞いたほうが覚えやすい人もい る。そこで本校では、視聴覚教材、テキスト教材、フラッシュアニメーション、シナリオ、そして最近ではシ ミュレーションを取り混ぜながら教材として使っている。こうすることによって、成人学生は教材に積極的に 取り組む姿勢を維持することができる。 このような努力に取り組むには、膨大な時間、スタッフ、予算ならびに事前計画を確実に手配する必要があ 146 る。本校の場合、当初の段階ではわずかな人手しかなかったので、本校のガイドラインに従って Embanet に協 力を求めた。この会社は、教授デザインの分野で培った専門知識を本校の課程開発に活かしてくれた。教職員 とともに作業を進めた結果、第一段階で最も重要な点は、オンライン教育を「最もうまく教える方法」として ではなく、「オンライン環境において学生が最もよく学べるようにするにはどうすればよいか」という視点か ら捉えることだと理解するに至った。このことはつまり、教室で進められている授業をいま一度見直し、それ をオンライン環境に置き換えて考えるということである。たとえば、あるポイントを説明するためには、映画 を丸ごとすべて見せるのではなく、そのポイントを最もよく説明した 2∼3 分のシーンを抜き出して見せる。 こうすることで、学生が映画全体の筋の中でそのポイントを見失わずに済む。 ボストン大学は、オンライン課程コンテンツの独自基準を次のように規定した。 1. 見ただけで直感的に操作できる一貫性。 2. はっきりと目立つ色使い(パステルカラーは禁止)とグラフィックデザインの高度な利用。 3. 各課程にマルチメディアを使用(音声、映像、アニメーション、プリント、オフラインビデオなど)。 4. 学生との頻繁な対話を義務づける。 5. 多様な対話形式(ドラッグアンドドロップ、クイズ、短い応答、マッチングなど)。 6. ひとつの課程の中でも授業ごとに作業を多様化する。 7. オフライン作業の自由な使用(読書課題、データ収集、面接、オフライン調査、プロジェクトなど)。 8. 主題、同級生、講師との相互作用。 9. オンラインで得られる「時間」ではなく、その「成果」に対する関心。キャンパスに通う学生に対する 期待を満たす、またはそれを上回る成果が得られなければならない。 10. 成果を期待するだけでなく、個々の宿題にも精力的に取り組ませる。 11. 組み込まれたフィードバックによって初めて完成させることのできる宿題を各セクションに取り入れる こと。授業内容をセクションまたはモジュールに分割し、個々の演題または目的に取り組む。 12. 学生の要求に応じて、定期的に、またはリアルタイムでオンライン業務時間を提供すること。 13. メディアを適切な方法で利用し、気をそらすような不要な要素は入れない。 14. インターネットの他の資源を利用する。 15. 教育的な多様性を持たせながら、視覚、認知、実験、交流といった様々な形で学習を構築する。グルー プごとに課題を与えたり、仕事現場またはコミュニティに関するプロジェクトなども考慮に入れる。 このほか、学生には課程内容を習得し、独特な学習経験を成し終えたという実感を持ってもらうことを期待 している。さらに、学生が次回もボストン大学のオンライン課程を取るのを楽しみにしてくれることも期待し ている。 その後のさらなる市場調査に基づいて、本校ではこの刑事裁判専攻修士課程に続いて、2003 年の秋には経 営修士(MSM)課程と理学療法学博士(DPT)移行課程を追加した。これらのプログラムはすべて、その全 部をオンラインで修了することができる。2004 年の秋には、さらに作業療法学修士課程とコンピュータサイ エンス・情報システム科学修士課程の二つの学位プログラムを追加した。2005 年春には、エグゼクティブ学 士課程修了プログラム(EUDCP)をスタートする。 147 とりわけ、ボストン大学の EUDCP は詳述するに値する。本校のメトロポリタンカレッジで提供しているこ の課程は、学士後期課程を修了するための準備をしている学生に対して、全カリキュラムをオンラインで提供 している。このプログラムへの入学を希望する学生は、少なくとも 64 時間に相当する学部単位を取得してい なければならない。全部で 16 課程用意されているこのオンラインプログラムは、ボストン大学の選抜入学基 準を満たしている社会人学生に対して、学問分野を超えて教養課程の学位を取得する機会を提供している。学 生は、社会科学、人文学、自然科学の科目をバランスよく選択することができる。これらの課程では幅広い研 究を目指すのではなく、ある分野における諸問題、方法ならびに包括的な理論を学ぶための一種のレンズのよ うな役割を果たしながら、その分野の特定の側面を中心に取り扱う。7 週間ずつ続けて提供される 2 学期構成 の課程は、よく構成された参加型の形式で行われ、学生もそこで積極的に学んでいる。学生は、20 人未満の クラスで教職員や他の学生とともに学業に従事する。このプログラムの修了試験に合格すると、学際研究学部 の教養学士号(B.L.S.)をボストン大学から授与される。EUDCP はユニークなプログラムである。そこで提 供されている科目の例を挙げておこう。 • 映画に見る哲学 • 生命操作: バイオテクノロジーの科学と倫理 • 論文: 歴史、理論ならびに実践 • 食材: バイオロジー入門 • 自然と神性 • 法と社会 • 労働経済学 このカリキュラムは、職業生活ですでに大きな実績を築き上げてきた成人で、社会や世界におけるその人の 地位に見合った深い知識を身につけたい人を対象としている。この学位を取得することによって、教養科目の 研究を通して社会に関する知識をいっそう確実に深めることができる。 本校の学位プログラムの登録者数には目を見張るものがある。前述したように、刑事裁判専攻修士課程は現 在、450 名を超える学生が参加している。その他のプログラムでも、理学療法学博士課程に 211 名、経営科学 修士課程に 217 名の学生が在籍している。この 2004 年秋に開講した新設プログラムでも、コンピュータサイ エンス修士課程に 33 名、作業療法学修士課程に 35 名が登録している。 各課程に参加している学生はみな真剣である。オンライン課程は、それぞれ 7 週間かけて行うように設計さ れている。一度に選択できる課程はひとつである。一学期に 2 つの課程が提供され、その間に 1 週間の休暇が ある。どの課程も他の課程の履修条件とされることがないようにカリキュラムが組まれているので、学生は、 年に 6 回設けられているどの開講日からでもプログラムに参加することができる。これにより、学生が入学で きる時点がそれだけ多くなる。また、これらの課程は専門的な仕事に就いている社会人を念頭に置いて作られ ている。各課程は非同期的に設けられている。宿題は毎週設けられている締め切りまでに完成しなければなら ない。学生は、週に一度は討論に参加しなければならない。各課程には必読の教科書もあるが、それはオフラ インで読まなければならない。学部によっては「バーチャル業務時間」が設けられていて、この時間内に学生 148 がライブチャットに参加したり、教職員が質問に答えたり、一般的な討論に参加したりできるようになってい る。また、学部によっては、電話による討論に参加できるようになっており、「ライブ」で参加できない学生 のために、討論の内容を録音したりアーカイブに収めておくこともできる。特に地方在住の学生はブロードバ ンドが利用できないこともあるので、そのような問題への対策として、ビデオ映像の一部は CD にコピーして 渡せるようになっている。 これらの課程の開発と教育に携わるのは、常勤の教職員とパートタイムのプロの産業人である。課程によっ ては、関連分野において特定の専門的知識を持つ講師が 2 人がかりで開発した講座もある。ビジネス関連修士 課程の「従業員、専門職ならびにチームの管理」「データ解析と業務マネジメント」ならびに「情報およびプ ロジェクトのマネジメント」の各講座は、2 人の教職員が共同で制作したものである。理学療法学の学位プロ グラムには、チームで開発した講座もある。そこでは、2 人の講師が提供した専門的知識を基に、チームで分 担しながら講座の開発作業にあたった。 開発のプロセスについては、いくつか言及しておくべきことがある。このプロセスを「手作りの靴」に喩える ことがある。課程はそれぞれ、遠隔教育オフィスのスタッフとして講義の開発を任された教授デザイン担当者が 作成した「コースマップ」を基に構築する。このコースマップには、各課程の全体目標のほか、その課程の各週 の週末までに学生が達成しなければならない学習目標が割り当てられている。講師の責任は、「コンテンツ」を 提供するだけである。コンテンツは、講義資料、宿題、ならびに討論のための質問から構成される。教職員はこ れを Word 形式の文書で提出する。教授設計の担当者はそのコンテンツを使って、グラフィックデザイナーとの 共同作業により、フラッシュアニメーション、ドラッグ・アンド・ドロップ形式の質問、オーディオ/ビデオク リップなどを作成し、各講座を対話形式で構成する。それから講師はさらに課程の追加項目を提案し、検討する。 その後の最終審査とテストを経て、その課程は初めてウェブ上に掲載され、オンラインで提供される。 これは一見、簡単なプロセスのようにも思われるが、本当の意味で傑出した課程を開発するのに十分な時間 を確保するには、各人が厳しい締め切りを守れるかどうかにかかっている。理想を言えば、ひとつのオンライ ン課程を制作するのに 5∼6 ヶ月程度の期間を見ておくべきである。教職員は、ひとつのオンライン課程の開 発に 300∼500 時間を費やすことができる。場合によっては非常に疲れる作業となるが、その課程が最終的に 「教えられる」ようになった段階で、作業の大部分は終わったも同然である。それ以降は、教職員はその課程 における学生の進捗状況をただ監視するだけでよい。 各オンライン課程の開発に従事した 3 年間で私たちが学んだのは何だろうか。それは、次のようなことである。 1. 課程の開発には少なくとも 5 ヶ月はかかるが、開発期間を長くとったほうが質は向上する。日程の変更 のために開発を急いだり、事前に十分なテストを行わないまま課程を始めたために、問題が起きたこと もあった。うまく設計されていない課程は、教職員や学生にとって利するところよりも、与える害のほ うが大きくなる。開発期間は十分に取り、「不十分な」課程をあえてそのまま提供するよりも、必要に 応じて開講を延期する。 2. 「バーチャル業務時間」または「教授と面談する」選択肢を提供する。非同期的に運営される課程は、 学生に柔軟性を与える一方、時として教職員や学生間の交流に十分な時間が取れないこともある。オン 149 ライン業務時間は、毎週 2 時間の時間枠を設定して提供し、その業務時間内は教職員が学生からの質問 に直接、答えられるようにする。または、課程の履修期間に教職員やファシリテータとのグループ討論 に参加するために、学生との間を電話で結びつける「オーディオブリッジ」機能を活用する。これによ って、その課程がよりリアルタイムで直接的なものになる。 大きな課程は小さな単位に分割して取り扱う。本校では現在、課程によっては 400 人もの学生が在籍し 3. ているが、この学生を 15∼20 名のグループに分けて、それぞれのグループを担当するファシリテータを 任命している。特に、文章をたくさん書かせてフィードバックする必要のある課程では、ひとつのグル ープを 10∼12 人以下の学生で構成すべきである。 4. 教職員ならびにファシリテータのために実地演習の機会を提供する。 5. 評価手段を用いて、自分自身が知りたいことを本当に知ることができるかどうか確かめる。 とりわけ、最後のポイントは重要である。最終評価に際して本校で尋ねている質問の例をいくつか下に掲げ ておく。課程に対する評価作業は、その課程の最後に提出を求められる宿題となる。学生は、必要事項をすべ て記入して提出しない限り、課程を正式に修了したとは認められない。本校ではこのようにして高い回収率を 確保しながら、その課程の運営がどれくらい良かったかを判定するための情報を学生からフィードバックして もらえることを期待している。この評価作業では、オンライン課程のあらゆる側面を対象としている。各評価 項目の質問文に対して、学生は「そう思う」「強くそう思う」「どちらでもない」「そう思わない」「まった くそう思わない」という 5 つの選択肢から回答する。 課程の構成 1. 課程で使われている教材はよくまとまっており、オンラインでわかりやすく提示されていた。 2. 課程の各コンテンツへのアクセスが容易にできた。 ナビゲーション 3. 課程中のあるポイントから別のポイントへの移動が容易にできた。 4. 各種のメディア技術(音声、映像、CD-ROM など)の使い方に関する説明が明確だった。 全体目標および個別学習目標 5. この課程全体の目標がその冒頭に明記されていた。 6. 学習目標は、この課程全体の目標と関連性があった。 7. 学習活動は、この課程全体の目標と関連性があった。 8. 各週の学習成果が明記されていた。 教科書 9. 教科書は、その課程の所期の学習成果に役立った。 10. 宿題として出された教科書以外の読み物は、課程の目的と関連性があった。 討論のための問題 11. 討論のための問題は、討論に参加しやすい形で設定されていた。 150 12. 討論のための問題を加えたことにより、学習体験が向上した。 13. 討論のための問題は、課程履修中の学習意欲を維持するのに役立った。 宿題 14. 宿題は、課程で習得する知識や技能を応用する良い機会を提供してくれた。 15. 宿題の内容は、この課程の学習目標と関連性があった。 講師 16. 講師は協力的で、自分の質問によく答えてくれた。 17. 講師からの回答時間には満足できた。 フィードバック 18. フィードバックされた情報は有用かつ明確だった。 19. フィードバックされた情報は簡潔で参考になった。 作業量 20. この課程で要求される作業量は、オンライン課程としては現実的だった。 採点基準 21. 課程の冒頭で採点基準が明確に伝えられた。 コミュニケーション 22. 他の学生とオンラインで簡単にコミュニケーションがとれた。 23. 必要なときにいつでも技術サポートが受けられた。 24. 技術サポートにより、技術的な問題はすべて解決することができた。 その他 25. この課程のコンテンツは、自分の職業と関連性があった。 26. この課程のコンテンツは、自分のキャリアプランと関連性があった。 27. この課程に対する自分の期待は十分に満たされた。 提案 この課程の改善のために何かご提案があれば、下の空欄に記入してください。 収集・集計した評価結果については、遠隔教育運営責任者、教授デザイン担当者、学科主任ならびに学部長 がグループで検討した。この評価結果を基に、課程に対していくつか変更が加えられた。学生からのフィード バックに基づいてどのような変更が加えられたかについては、後日改めて電子メールで学生に報告した。こう することによって、 学生の意見をきちんと読み、 フィードバックを重視している本校の姿勢が学生にも伝わる。 151 オンライン課程を設けたことによる成果の中で特に興味深かったのは、学位プログラムで実際にどのような コンテンツが網羅されているかということについて、前より把握が進んだことである。学部では、その課程に おける学習目標に対する学習成果を計測することができるようになる。学科主任は、学生に提供されている内 容を検討して、コンテンツの重複や不足が起きないように予防策を取ることができる。従来型の教室で実際に 教えられている内容を正確に判断するためには、各講座を一から十まで座って聞かなければならず、非常に難 しい作業になる。しかし、学位プログラムの全部がオンラインで提供される課程であれば、学科主任は課程内 のコンテンツをすぐにでも更新することができる。 もっとも、オンライン課程教材の開発による結果で最も興味深かったのは、オンライン課程による教育が従 来型の教室に対して及ぼした影響である。教職員の話によると、オンライン課程の開発や教育に携わった教職 員は、 教室内でもより優れた教師になることができるという。 オンライン課程の開発や教育に携わったあとで、 それと同じオンライン教材を対面型の教室で使っている教師に対する評価は、その職歴を通して最も高い評価 が得られたという報告もある。これは、オンライン教材の体系的な構成、時間の効果的な利用、ならびにその 講座の対話形式の構成によるところが大きいという。教職員はいまや、オンライン教育のおかげで、どこでも 通用する優れた教師になれたとまで言っている。 152 韓国の e 高等教育におけるコンテンツ管理―現在と将来 世宗大学教授/メディア教育開発センター外国人研究員 Insook Lee 1. 韓国における e ラーニングによる高等教育の紹介 韓国政府は、国内のカレッジおよび大学への e ラーニング導入に向けて積極的な役割を果たしてきた。1998 年 2 月には、政府の教育人的資源開発部(MOE & HRD)がモデル教育機関 5 校とパイロット教育機関 10 校を選定 し、オンライン大学の運営に着手した。選定された教育機関には、7つのコンソーシアムと8校の独立大学が含 まれる。既存のオフライン大学が 1998∼2000 年の 2 年間にわたって実施したパイロットプロジェクトの成果は、 2000 年 3 月に施行された生涯教育法の下でオンライン大学を設立するための基盤整備に貢献した。さらに、この プロジェクトは、政府機関やその他の公的機関における e ラーニングの導入と確立を促す触媒としての役割を果 たした。情報通信部のオンライン大学院プログラム、環境部のサイバー環境教育センター(1999 年)、ならびに 統一省のサイバー統一教育センター(2000 年)などはその例である(Lee、2003 年)。 韓国の高等教育法によると、各課程の内容は各校の学務規則に従うとしているが、これらの規則に従う限り、 放送および通信によって配信される課程が認定される。韓国では、2001 年には 376 の大学のうち 151 校がその課 程の一部または全部で e ラーニングを提供していたが(Jung 他、2001 年)、この数は 2002 年にさらに増加した (Lim 他、2003 年)。とはいえ、教授の人数で見ると、正規のカリキュラムに e ラーニングコンテンツを提供し ている教授はごく少数である(MOE & HRD、2002 年)。Kim および Kwon(2002 年)によると、勤務先の大学 で e ラーニングを提供したことのある教授はわずか 7.0%に留まっている。 オンライン大学の創設は、生涯教育法の第 3 章第 22 条により規定されている。2004 年現在、韓国政府は 17 の サイバー大学を認定している。2001 年の施行当初、オンライン大学は最大定員の 90%もの登録者数を記録した。 しかし、2004 年現在、登録者数が最大定員に達したオンライン大学は 3 校に留まった。教育部によると、オンラ イン大学 16 校の 2003 年時点での登録者総数は 10,987 名(最大定員は 20,600 人)である。また、高等教育法では、 社会人や成人の継続教育のために、放送および通信を使って修士課程を提供する特別な大学院の運営を既存のオ フライン大学に認めている。 2003年3月の時点で、 オンライン大学院5校がこの認定を受けている (MOE & HRD、 KERIS、2003 年)。 e ラーニングが成功するためには、そのコンテンツの質の高さが最も必要不可欠となるので(Lee 他、2002 年; Lee 他、2003 年;通商産業エネルギー部、2003 年)、e ラーニングを担当する政府の省庁および各部門は各種の 品質管理方法の開発を続けてきた。それにもかかわらず、e ラーニングの量的な成長に比べると、高等教育機関 における e ラーニングの正確な品質評価はともすれば放漫になりやすく、e ラーニングの質の低下につながりか ねないという懸念はますます増大している。 本書ではおもに、韓国の高等教育における e ラーニングコンテンツ管理の最新動向を検討し、その所見に基づ いて、将来の開発に向けた重要課題を論じていくことにする。 153 2. カレッジおよび大学における e ラーニングによる高等教育の経験 この章ではコンテンツのカテゴリー、配信、開発ならびに品質について論じる。 コンテンツのカテゴリー e ラーニングが利用されている学科の分野別に見ると、既存のオフライン大学ではおもに「必須科目および選 択科目」、技術リテラシーならびにマネジメントの諸分野に限って e ラーニング課程を提供する傾向がある。こ の傾向は、より多くの学生にサービスを提供することによって利便性と経済性を図りたいという大学側の強い関 心を反映している可能性がある(Jung、2002 年;Jo 他、2003 年)。オフライン大学が提供しているコンテンツを カテゴリー別に見ると、ビデオ映像を含まない PowerPoint(または HTML)ファイルによるコンテンツが約 50% と多数を占めており、ビデオまたはアニメーションを用いたものは 30%であった。このように PowerPoint が好ま れる傾向は特に、大学側が制作費に対して大きな懸念を抱く一方で、講師、学生、学科分野もしくは学習環境の 違いを考慮に入れずに、ごく均一的なカリキュラムを開講しようとしている状況を反映している。これに対し、 独立系のオンライン大学・カレッジでは、おもに映像または音声を同期させた講義ノートシステムと WBT(ウェ ブによる学習)を用いた HTML コースウェアという 2 種類のコンテンツカテゴリーを使っている(Jang 他、2003 年)。 コンテンツの配信 オフライン大学は複数の方法を使って e ラーニングおよびコースウェアを運営しているが、その大きな傾向と して、教授や講師が個人で自発的に提供しているものが多い。これ以外の方法には、他の大学と結成したコンソ ーシアムを通して入手した e ラーニング教材を共同利用しながら提供する方法と、独立系のオンライン大学また はサイバー大学院を通して提供する方法の 2 種類がある(Lim 他、2003 年)。 公的な支援や協議もないまま、教授個人の実践またはその関心事に大きく依存している現状は、結果的にはあ る意味でいくつかの問題を引き起こしている。 単に既存のオフライン教材やコンテンツをオンラインに移したり、 学習者の状況を考慮に入れることなく、講師本位の開発が行われている(Kim、2004 年)。 1999 年に設立され 33 の大学と 11 の大学院が参加しているコンソーシアムでは、IT 諸分野に関する e ラーニン グコースウェアを共同利用してきた(韓国ソフトウェア振興院=KIPA、2003 年)。オープンサイバー大学や韓 国サイバー大学が参加している複数のコンソーシアムでも、履修課程を共通化するとともに、会員大学間の GPA スコアの転用を認めている。また、2 年制カレッジ(短期大学)19 校が参加している韓国サイバーカレッジ協会 (KCCA)も共同サイバー課程を提供するとともに、学生が他の KCCA 会員カレッジに登録して GPA のスコア をその会員カレッジに転用することを認めている。全日制または定時制の学生には一般教養課程の科目がインタ ーネットで提供されている。独立系のオンライン大学および大学院では、在籍する学生に 100%オンラインで課 程内容を配信している。 キャンパスにおける e ラーニングコンテンツ配信環境をハードウェア面から見ると、49 の国立大学・カレッジ で e ラーニング設備を備えていることが確認された教室は 21%に留まっている。また、システム、コンテンツな らびにサービスの相互運用面での整備もいまだにたいへん遅れている(MOE & HRD、2002 年)。 154 コンテンツの開発 複数のモニター調査の結果に基づいて、教育人的資源開発部は財政支援とモニター調査の継続により、e ラー ニングコンテンツの品質改善に向けた努力を続けた。2002 年にオンライン大学の「最高品質コンテンツ」の開発 に 60 万米ドルを支出した同部は、2003 年も企画予算部に対して 60 万米ドルの予算計上を要求した。 もっとも、オフライン大学の大部分は、コンテンツ開発に向けた支援制度を利用できないという問題に悩まさ れてきた。その代わり、多数の教授が個人レベルで独自のコンテンツを設計、開発してきた。しかし、この種の 個人的な努力は、単にオフライン教材をオンライン用に転用するだけで終わってしまう傾向がある。また、著作 権上の問題や、十分なサポートを受けた教育戦略の軽視といった問題も起きやすい。このことは、e ラーニング ならではの特長をコンテンツやコースウェアで実現する上で、様々な問題を生み出す(Kim、2004 年;MOE & HRD、 2002 年)。一方、オンライン大学は比較的、良い状況に置かれている。コンテンツ専門家と教授デザイン担当者 との間には明確な役割分担ができている。もっとも、どの課程についても、この両者の任務が明確に分けられて いる大学は 15 校のうち 4 校に過ぎず、大部分の大学では講師が直接、コンテンツの製作作業に携わっている可能 性がある(Jang 他、2002 年)。 コンテンツの品質 オフライン大学・カレッジのコンテンツの品質に関する調査の有無は現時点では明らかでないが、オンライン 大学に関するモニター調査は 2001 年以降、継続的に行われてきた。オンライン大学が提供するコンテンツの中に は、教授デザインの面では優れた特長を有するものもあるが、一般的には、学習者本位のインタフェース設計、 利便性の高い学習作業、ならびに学習者との双方向コミュニケーションといった方法論に欠ける向きがある。さ らに、共有できる可能性のあるコンテンツが少ないことも、大きな懸念材料となっている。 オンライン大学のモニター調査が初めて行われた年(Lee、2001 年)は、オンライン大学・カレッジが各種の 教授デザインの方法論を適用することによってコンテンツ品質の改善に向けた努力をしていることが明らかにな った。もっとも、これらの大学でも、高度な双方向型学習・授業の提供に成功しているとはまだいえない(MOE & HRD、KERIS、2003 年)。2 年目のモニター調査(Jang 他、2002 年)では、学習者を中心としたインタフェー ス設計および利便性の高い学習作業を欠いている一方で、映像および音声を使った講義教材の制作コスト削減に のみ関心を抱いている学校側の実情が明らかになった。学習者との双方向コミュニケーションが低い水準に留ま っているという問題は、e ラーニングの今後に大きな課題を残す結果となった。 このほか、オンライン大学が提供するアクセス性、相互運用性、再利用性、耐久性、ならびにコンテンツの個 性化を対象とした調査(KERIS、2002 年)も実施されている。この調査では、コンテンツの共同利用が非常に低 い水準に留まる可能性が明らかになり、e ラーニングコンテンツの標準化を進める必要性が示唆されている。 3. 高等教育の新たな方向性: e ラーニングのインフラ整備 高等教育における e ラーニングで現在使われている方法を検討した韓国政府は、「e キャンパスビジョン 2007」 と称する包括的な高等教育プロジェクトを 2002 年 12 月に開始した。このプロジェクトの目標として、(1) 教 育プロセスにおける各研究機関の競争力を向上させ、(2) 透明性が高く効率的な大学運営の方法を作り出し、 155 さらに(3) 大学生と教職員の ICT(情報コミュニケーション技術)能力を高めることなどが掲げられている(図 1 参照)。2003 年初めに着手して向こう 5 年間にわたって実施される 5 つの主要な計画には、e ラーニングのイ ンフラ整備も含まれている。 e ラーニングのインフラ整備では、たとえば同時中継型のオンライン講義のように、高等教育を受講する学生 や消費者が希望する教育サービスをいつでも、どこでも受けられるだけでなく、様々な学習教材を使って自律型 学習・研究ができるような大学の創立を試みている。その手始めに「カレッジ e ラーニングサポートセンター」 が設立される。これにより、学生が自分自身で課程を選択できて、いつでもどこでもオンライン授業が受けられ るという成果が期待される。 その関連プロジェクト/タスクには次のようなものがある。(1) 複数の大学および e ラーニング授業の教育 コンテンツ開発担当者が共同で利用できる e ラーニングサポートセンターの創設、(2) マルチメディアコンテ ンツの開発および研究コンテンツのデジタル化による「e 教室」や「e 研究室」の創設、 (3) KERIS で最も優 秀な教育コンテンツをプールする、さらに (4) 超高速ネットワークを使った新世代インターネットによる共同 講義/ゼミのような質の高いアプリケーションサービスに対するサポート。 156 <図 1> e キャンパスビジョン 2007(2003∼2007 年)によるグローバリゼーション時代の e キャンパス環境の 創造 Promote the use of ICT by Improving the competitiveness of research facilities for teaching processes Constant improvements to the information infrastructure by Forming a regulatory environment for a knowledge-based society Providing a secure and safe cyberspace environment to foster a healthy information-based culture Expanding and improving the information infrastructure 出典: MOE & HRD、eキャンパスビジョン 2007(2003∼2007年) 1) これにより ICT の利用を推進 2) 教育方法における研究施設の競争力の向上 3) 国家間のデジタルデバイドの橋渡し 4) 透明性と効率性の高い大学運営のあり方を形成 5) 大学生と教職員の ICT 利用技術の向上 6) 市民の ICT 環境適応を支援 7) これにより情報インフラを継続的に改善 8) 知識ベース社会に適した法環境の整備 9) 正しい情報を基に健全な文化を育む安全で間違いのないサイバースペース環境を提供 10) 情報インフラの拡大および向上 157 Supporting the adaptation of ICT by citizens Bridging the digital divide among nations Improving the ICT skills among university students and faculty Creating a transparent, efficient university administration e ラーニングサポートセンターの創設 e ラーニングサポートセンターは、e ラーニングに必要な教育コンテンツの企画、開発ならびに配信をうまく調和 させながら体系的にサポートする役割を担い、同一地域内に立地しているオフライン大学がこれを共同で利用でき るようにする。このセンターには、講義用スタジオ室、教授・学習トータルサポートシステム、編集・放送システ ム、ならびに e 教室が設置される。これらの施設は、大学/カレッジの各学部が共同で利用する。2003 年には済州 道で済州大学コンソーシアムが、また 2004 年には慶尚南道で慶尚大学コンソーシアムがそれぞれ開催された。 オンライン課程共同開発プロジェクト 大学の枠を超えた教授のチームがオンライン課程を共同で開発、実施することによって、国内にある各大学の 教育資源を共同利用するためのプロジェクトである。また、大学の自発的な参加を促すことによって、共同配信・ 実施システムの確立を目指している。 e 講義室、講義用スタジオ、デジタル編集システム このプロジェクトの主な目標は、 e 講義に使える教室の比率を 2003 年までに (国立大学の) 全講義室の 34%に、 また 2007 年までに 70%に引き上げ、大学間の e ラーニングコンテンツの実現を促し、いつでもどこでも、誰も が利用できる質の高い教育サービスを提供することにある。 e 教室マルチメディア教育コンテンツの開発 この目標は、各種のマルチメディアコンテンツを体系的に開発、配信することによって、自律型学習環境を整 備するとともに、研究活動用のデジタルコンテンツの確保、流通、共同利用のためのシステムを構築することで ある。 4. 結論 世界でも最先端を行く韓国の技術インフラは、e ラーニングが普及するのに必要な条件を提供している。過去 数年間、e ラーニングコンテンツの開発と流通は、次のような意味で成功を収めてきた。(1) 教室を使った学 習というパラダイムの限界を打ち破ることによって学習の機会と選択の幅を広げ、(2) e ラーニング業界の成 長を促し、さらに(3) 大学や教授間での教育サービスの共同利用に向けた努力によって、高等教育における従 来型の個人主義的な教育観を一変させた。 このように肯定的な結果が生じたのは、ある意味では、韓国教育工学会(KSET)、韓国教育情報メディア学会 (KAEIM)、韓国サイバー教育学会(KACE)など韓国の学術団体で構成する学界グループの積極的かつ多様な リーダーシップによるところが大きい。質の高いコンテンツの設計、開発、実現、ならびに e ラーニングコンテ ンツの標準化などの課題に関連して、これらのグループでは e ラーニングプロセスや教授デザインといった各種 の問題や指針について、新たな機能を探求し、導入してきた。特に、韓国政府の教育人的資源開発部(MOE & HRD) と韓国教育学術情報院(KERIS)は、様々な大学の間で e ラーニングコンテンツを共同利用するための各種シス テムの研究と実現、コンテンツの品質管理に関する協議とモニター調査、ならびにその財政支援と法的な面から のバックアップにおいて、極めて重要な役割を果たした。 158 もっとも、高等教育における e ラーニングが成熟と普及段階に近づくにつれて、e ラーニングをより教育に反 映させた進歩を図るために、国全体のレベルで解決する必要のある問題が生じるであろう。第一に、質の高いコ ンテンツやコースウェアを有効に管理するためには、包括的なビジョンと計画を全国的なレベルで確立する必要 がある。各種のサポートや方法もこのように全国的な計画の下で実行すべきである。第二に、質の高いコンテン ツの管理に向けて、大学およびコンソーシアムのレベルでビジョンと計画を立案する必要がある。この作業は、 カリキュラム体系の再検証と再構成に従って行うべきである。第三に、学習技術の標準化などの方法によって、e ラーニングコンテンツの共同利用システムを確立する必要がある。そして最後に、互恵的および同時進行的な方 法による教育コンテンツの開発、指導ならびに運営に従事する専門家に対する教育訓練およびサポートシステム が必要となる。とりわけ、質の高い e ラーニングコンテンツ開発においては、教授デザインの専門家が重要な役 割を果たす。つまり、教授設計の専門家を育成するために、国による長期計画が望まれる。これら 4 つの分野で 調和の取れた配慮と運営ができれば、韓国における e ラーニングによる高等教育は、望ましい方向に向かって相 乗効果を発揮するだろう。 参考文献 Jang, I et al. 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(2003). Searching for academic and organizational model of e-universities. Proceedings of ED-MEDIA, Association for the Advancement of Computing in Education, June, 3166-3173. Lee, W. (2001). Survey on distance university and approaches for quality improvement, Seoul: MOE & HRD. Lim, B. et al. (2003). Survey on the current trends in universities’ cyber education. Seoul: KCUCE. Ministry of Commerce, Industry and Energy (2003). A White Paper on e-Learning Industry. Seoul: MOCIE. Ministry of Education and Human Resources Development & KERIS (2003). 2003 Adapting education to the information age: A White Paper. Seoul: MOE & HRD. Ministry of Education and Human Resources Development (2000). The Lifelong Education Act. Seoul: MOE & HRD. Ministry of Education and Human Resources Development (2002). e-Campus VISION 2007(2003~2007). MOE & HRD 159 有職成人のための大学院教育のコンテント eラーニングコンソーシアム会長 NTT ラーニング・システムズ・コーポレーション主任研究官 小松 秀圀 私はゼロックスで企業内教育を20年以上実践し、後にNTT Learning Systems Corporation で企業内 教育事業を15年程経験した。企業内教育を永く実践して実感することは、日本では社会人対象の教育 工学が普及していないことである。いまになって日本ではようやく社会人の生涯教育を担う高度職業能 力教育が正式なクレジットを発行できる教育機関としてスタートしようとしてきている。 私は企業内教育の実践や企業内教育のベンダーとしてビジネスをする立場で、20年近くアメリカの 企業内教育や e ラーニングの活用法をベンチマークし、日本とアメリカの比較をしながらこれからの企 業内教育や高度専門職大学院の在り方を考察してきた。日本とアメリカを比較した時、際だつ差はイン ストラクショナル・デザイナーの不在とチーフ・ラーニング・オフィサーの不在である。このことが原因 のひとつとなり日本の社会人教育環境はアメリカに比べ大きく遅れている。 アメリカの大手企業では数年前からコーポレートユニバーシティーと命名された企業内教育機関が設立 されているが、多くの企業がコーポレートユニバーシティーと社会人を学生とする大学などの教育機関が 提携し、企業内教育で教育するカリキュラムと大学院などで教育する教育内容の棲み分けを行なっている。 即ち、直ちに業務に役立つような実務教育は企業内教育で教育を実践し、教育に永い時間を要する新しい 能力を教育するようなプログラムは外部の教育機関にアウトソーシングするような提携である。 このような提携ができる背景には日本の労働慣習とは異なり、アメリカでは仕事を遂行する能力に対 して、Pay を払うという明確な文化がある。この文化の中で若い学生に学位を出す高等教育とは別に、 職業能力を上げるための職業・技術学校、コミュニティカレッジや大学卒業後の社会人を教育するプロ フェッショナルスクール、高度専門職学位を与える教育機関が発達している。それに対し日本では大学 以上の教育機関はもっぱら研究職を育てる教育機関の修士や博士課程があるだけに留まっていて、いま ようやく高度専門職大学院がスタートしようとしている。 アメリカは新しい能力や資格を得ることで個人がプロモーションする文化があり、日本にはそれが弱 いという文化がある。しかし日本でも有期雇用や成果主義が浸透し、個人の雇用やプロモーションは自 分で守るという文化が広まりつつある。日本では高度専門能力を教育する大学院がようやく技術経営 (MOT)やコンテンツプロデューサー育成など一部の地域や分野でスタートしたばかりである。始まっ たばかりの社会人大学院で既に Faculty の質や量の不足を心配する話が交わされている。 161 日本で社会人対象の専門職大学 院課程がスタートする際に、日本の 高等教育関係者が未経験の落とし 穴があることに気づいてほしいと 思っている。これまでの日本の高等 教育、特に修士、博士課程では研究 者の育成が中心であったために、企 業内教育では重要な事柄となって いる教育の評価、学習者中心の学習、 社会的構成主義的教育といったこ とには縁が薄かったと考えられる。 図表1 継続高等教育制度の日米比較 出典:実務能力認定機構 日本の教育環境に起因する日本の大学の弱いところはニーズに対応したシラバス作成をするという企 業内教育では当たり前のプロセスを踏む文化や Faculty の質を管理することに弱いことである。先生の頭 数を揃えれば安心と従来の学部教育でありがちな文化で社会人大学院も考えているように思える節もあ る。社会人を学生とする大学院は日本でも存在しているが、学部の学生と一緒に学んでいるような大学 院の経験では日本の新しい高度専門職大学院課程を切り開くには改革の程度が少ないと云える。 学部から上がった大学院に社会人も学んでいるというモデルでは日本のこれまでの枠組みである「大 学院は研究者を育てる」という枠から出ていないことに起因する。アメリカの専門職大学院の代表格で ある University of Phoenix では新しい課程を設計する際は学習者を送り込む企業にニーズを聞き取り、開 発する新しいシラバスに反映させるとのことである。特に企業内教育の実務を行なっていた経験から云 えば、教育をする目的は仕事をうまく実践するために企業は社員に費用と時間を投資するのであって、 その結果は当然企業業績に寄与する何かの特性が目標に近づかなくてはならないのである。そのために 現実の業務遂行に必要なコンピテンシーを調査するというプロセスが必要なのである。 そこで開発されたそのシラバスを教えられる Faculty が既存の Faculty 群にいない場合は企業に派遣を依 頼し、派遣された Faculty を e ラーニングと ILT(Instructor Led Training)とのブレンデッドトレーニングで 教育するという。ここには学習者が提供される教育の満足度を左右する Faculty の質と教育内容の質を守る プロセスとシステムが出来ているように見える。誠に残念なことに無いに等しい日本の社会人教育の文化 には、教育目標を設定するにあたり、現場のニーズを調査するという文化は極めて弱いと云える。 そこにこれからはじまる日本の専門職大学院の落とし穴があるような予感がする。これまでの高等教育 の感覚では学習者が学位を取れる仕組みが完成すれば、学習した内容はあまり大きな問題にはならない 162 と思える。しかし社会人対象の専門職大学院では目的としたコンピテンシーが身に付かなければ、目的 とした仕事が出来ないわけであるから、学位を取得しても、実力でプロモーションしていくという好ま しい循環を創り出せない。 日本では特に新しい教育制度だけにスタート したばかりで、学位は持っているが実務能力は あまり無いという評価が広まれば、専門職大学 院の制度の崩壊にも繋がる大きな損失となる。 現代社会では働く人が生涯、学習できる仕組み は絶対必要な仕組みであるが、社会がその仕組 みと卒業生を評価するか否かは、卒業生の仕事 を遂行するコンピテンシーに掛かっていると云 える。学位は取ったが仕事の能力は以前とあま り変わらないという評価をされる卒業生が多け れば、企業のなかでのプロモーションのサイク ルも廻らなくなり、専門職大学院の芽を摘むこ とになる。 図表2.スキルマップを開発しているコミュニティカレッジ 仕事をするために学ぶための教育機関の層の厚いアメリカでは高校を出た人が専門能力を身につける ようなコミュニティカレッジでも先端的な仕事に就くためのスキルリスキルマップの開発とメンテナン スをしていた。変化が激しく多様な情報と知識により、コンピテンシーを育成しくためには、教授法に も工夫が求められる。 特に社会人教育の場合は教授法の多様化にも対応しなければならない。学部での教育は教授が授業を する客観主義(Objectivism)的な教育で教育を行なってきたが、社会人教育では課題に対する解決策を 学ぶ社会的構成主義(Social Constructivism)的教授法をうまく活用できなければならないであろう。特 に社会人の社会的構成主義的教育には実践的な多くの情報が電子的に得られることが教育を進める上で 重要と思われる。そこでアメリカではエレクトロニック・ライブラリーは比較的よく整備されており、 研究論文のみならず多くの情報が電子化されているという社会が e ラーニングで学ぶ上で有利であると 考えられる。 社会的構成主義的教授法を採用するプログラムでは ILT と合わせた e ラーニングは強みを発揮する。 更に教授法に e ラーニングを採用することで働きながら学習する人たちに時間や学習場所の制限を緩和 し、学習者に多くのメリットを提供する。学部教育ではあまり重要視されなかった学習する時間と場所 の制限の緩和は社会人教育には大きな利点として浮上してくる。 163 日本では社会に出た時の学歴で多くの事が予め決められるような側面も依然としてして存在するが、 日本でも労働環境は変化してきており、会社員が生涯学び続ける社会人大学院のニーズは必ず起きてく ると考えている。 私の企業内教育ビジネスの経験からすると、社会人教育は実務能力がつくという評 価が極めて重要で、例え学位があっても実力の伴わない専門職大学院が存在できる時間は永くないこと を強く認識する必要があると考えている。この観点からさらに議論を進めれば専門職大学院の教育の評 価にはカーク・パトリックの評価法を参考にしてもいいのではないと考えている。 日本の企業内教育ビジネスの世界でも業務へ の効果がはっきりしない教育コースや教材が市 場縮小の憂き目に会い、通信教育会社やセミナー 会社は規模縮小、企業提携などで苦しい経営状態 にあり、新しい生き残り策を模索せざるを得ない 状況になっている。 e ラーニングの世界でもe ラーニングというツー ルは情報化社会を追い風に注目されているが、多 くの企業はITのリテラシー教育やコンプライア ンス教育の全社強制教育プログラムなどの共通教 育、いわゆる Commodity Content への活用以上に 発展できない企業が多い。そこにビジネスがもう ひとつ盛り上がらない最大の理由がある。 図表3.カーク・パトリックの評価モデル 日本でも業務に直結した EPSS、Job Aid、やナレッジ・マネジメントなど、e ラーニングに投資した分 の効果がビジネスでわかるような Critical Content を使った e ラーニングの活用法を開発しないと e ラー ニングの繁栄は無いと考えている。すなわち e ラーニングを企業が導入するときにはその費用に見合う 見返りを考えているのである。そのときに共通教育のようなビジネスへの効果がよくわからない Commodity Content のみの活用では、トップは e ラーニングの導入を承認しないというデータがはっきり でている。 企業内教育の経験から、これから発展が予測される高度専門職大学院を見ると、雇用需要のある分野 の課程を開発することは当然として、学習目標の根拠となる教育ニーズを仕事の発生する出来る限り近 いところで、調査・分析して、実務環境で仕事を遂行する能力をつけること、そして学習者の満足度を 向上させるための e ラーニングと ILT をうまく組み合わせたブレンデッドトレーニング教授法の開発、 Faculty の教育など、学習者中心の学習環境を構築することが重要である。 コンテンツの条件とは直接関係ないがマーケティングを充分に検討し、営業力を確保することも極め て大切な事柄であろう。アメリカではニーズに合うシラバスを開発するために、アトランタの Geogia Globe のように郡が指導して郡の学校が e ラーニングのコンテンツを共同利用したり、コロラドの CCC 164 Online のように地域の専門学校が共同出資して e ラーニングの運営組織を創って、共同で e ラーニング の時代への対応を模索している事例もあった。社会人を対象とする高度専門職大学院課程では実務遂行 能力を育成するという高い理想とニーズを調査・分析するというプロセスを経てシラバスの開発を行い、 そのシラバスでの教育実現のために、広い提携を探るということも重要な戦略となる可能性がある。 長期的に見て e ラーニングが社会人教育で重要な教授法に成りうる可能性は大きい。例えば IT 分野で あれば Java のテクノロジーを駆使した大規模情報システムを構築できると言うコンピテンシーを身につ けその証に学位があるという関係と社会の信頼を確保できたならば、高度専門職大学院としても、日本 で新しい分野を確立できるであろう。またその信頼があれば日本では発達していないコーポレートユニ バーシティーのような組織も誕生してくるであろう。即ち企業は身近な業務の遂行のためのコンピテン シー育成に特化し、事業を革新するような新しいコンピテンシーは高度専門職大学院の教育に依存する という関係である 長期的視点から e ラーニングを育てるために、これまで以上に企業や大学間の人間関係やコミュニケ ーションの緊密化が重要になると思う。“教育は仕事をするコンピテンシーを育成するために行なう”と はっきりした目標のある社会人教育の経験から得られた教訓は間接的ながら、学生を対象とした教育に も生かされることも幾つかはあるかも知れない。いずれにしても日本は実務能力を育成する教育につい ては、シラバスの開発方法、Faculty の確保法、教授法の開発、学生確保のためのマーケティングについ ても未開拓な分野であることを認識する必要がある。 165 総 括 討 佐賀 論 啓男(メディア教育開発センター教授) 最後の総括討論では各セッションの司会者が登壇し、各セッションのまとめをするとともに、eラ ーニング成功の条件を見出すことがめざされた。まず、基調講演の司会をした三輪教授からは、ティ フィン名誉教授の講演が高等教育におけるeラーニングに関して全体的、将来的なビジョンを示した ものであり、その中には、人間、カリキュラム、教授法、知識管理、グローバル化に伴う多言語・多 文化への対応、超現実を含む新たな技術の適用などの要素が含まれていたと要約した。さらに、eラ ーニング促進のためにティフィン教授があげた提言をまとめ、古代ギリシャから続いている教育は双 方向のコミュニケーションであるという教授の結論を強調した。また、討論においてなされた高等教 育のグローバリゼーションと地域的な問題に関して、世界のさまざまの地域の人々が参加し議論する 場が必要になっているとしめくくった。 第 1 セッション「経営方略の条件」を司会した吉田教授は、4 人の講演者からなされた事例にもと づく発表や理論的な吟味を基礎にした発表を、経営方略の観点から 2 点に総括した。まず、研究と評 価にかかわることであり、デザイン・ベースの研究が組織として必要なことと、学習デザインを学生 の広い意味での学習達成の観点から行う必要があることである。このような研究を行うことは、評価 の問題に密接に関連する。第 2 は、支援と訓練にかかわることである。これには、学習にかかわる学 生に対する支援が必要なことと、教員に対する訓練が欠かせないということがある。eラーニングに おける多様な学生の学習を促すには、柔軟性とアクセスしやすさを高める支援が必要である。また、 このような新しい教育方法に関して教員には訓練が提供されなければならない。そして、研究と評価、 及び、支援と訓練は、組織の中の恒常的な活動の中に埋め込まれていなければならず、それがeラー ニング成功の条件になると結んだ。 第 2 セッション「eペダゴジーの条件」を司会した青木助教授は、4 人の講演者の発表から引き出 せることをまとめ、eラーニングが可能にするものとして、学生のニーズに合った個別学習、学習者 同士が議論しあいながら学んでいく協調学習、学習者に選択肢を与える多様化された学習をあげた。 これらを可能にするにはサポート・サービスがきわめて重要である。また、eラーニングであっても、 効果的な教授法というのはユニバーサルなものであり、その意味でeラーニングは教育の本質を見直 す機会ともなり、どのようにしたら学習者が効果的に学習できるか、そのニーズに合った学習をでき るかをあらためて考えさせる契機をeラーニングが与えてくれるとした。 第 3 セッション「eコンテンツの条件」を司会した山田教授は、4 人の講演者の発表と問題提起を ふまえ、eラーニングを担当する教員の意識ないしやる気が重要であることを強調した。また、メデ ィア教育開発センターが日本の大学を支援して使命をもっているという観点から、コンテントが足り ないことがeラーニング普及を妨げる要因になっていると指摘し、複数の大学による教材の共有や再 利用、国際連携が必要だとした。メディア教育開発センターは教材のメタデータの検索システムを構 築している。また、GLOBE というメタデータをもっている機関のコンソーシアムと協調して、学習オ ブジェクトの国際的な共有のあり方について考えているところであると指摘した。 以上を踏まえての全体的な討論では、まず、eラーニングと対面授業の比重の置き方におけるコン テントの位置づけの問題が提起され、コースレベルの制作・共有とコース内の部品レベルの制作・共 169 有という考え方が示された。また、eラーニングだからできること、eラーニングが対面授業を上回 る側面も見出さなければならず、同時にコスト対効果の問題も考えなければならないという意見が出 された。次いで、eラーニングにおいて伝統的なシステムズ・アプローチに固執しすぎており、イン ターネットを活用したより柔軟で自然なアプローチが重要であるとの意見が出された。また、メディ ア教育開発センターが、今後、国際連携を深めていく方策について、機関間の協定というような方法 以上に、プロジェクトをネットに乗せる、国際的な専門家グループがインターネットで交流する、グ ローバル・コースをネット上につくる、それを国際的なヴァーチャル大学とするなどという方向が提 示された。なお、GLOBE については 2 月にシンポジウムを予定している。次いで、eティーチングを 行う草の根的なしかけが必要ではないかとの問題提起に対し、メディア教育開発センターで教材や教 育情報に関するポータルサイトをつくりつつあること、誰でもがネットワーク上の学び手、教え手に なれるような動きが地方にはあること、将来その傾向が強まることが提示された。また、eラーニン グを経験した教員は伝統的な授業法も向上することが指摘された。最後に、登壇者から特に強調され たのは、コミュニティーの形成、組織的で恒常的な活動の提供、学習者のニーズの理解と対応、教え る側のインセンティブと評価のあり方である。 170 John Tiffin(ビクトリア大学名誉教授) ウェリントンにあるビクトリア大学の名誉教授で、1985 年から 1998 年までコミュニケーション学 におけるデイヴィッド・ビーティー・チェア(デイヴィッド・ビーティーの冠講座の教授)を務めた。 関心分野は、通信技術の教育・訓練への応用である。 1966 年、従来の教育における非効率と浪費に懸念をもち、より良い方法を見つけ出すため、アジス アベバにあるウィンゲート・スクールの校長の職を去った。この探求の途上で、リバプール大学、ウ ィスコンシン大学、フロリダ州立大学を経巡り、先ずはテレビ、次にコンピューター、続いてインタ ーネット、いまではハイパーリアリティを教育に応用することを試みた。また、エチオピア、ガーナ、 ブラジル、メキシコ、コロンビア、および米国のウィスコンシン州で教育テレビをプロデュースした。 米州教育技術多国間プロジェクト(Organization of American States’ Multinational Project in Educational Technology)の教育技術主席スペシャリストを務め、現在まで、世界銀行、国際電気通信連合、教育 開発アカデミー(Academy for Educational Development)、海外教育開発センター(Center for Educational Development Overseas)およびユネスコに対して教育の設計に関する助言を行ってきた。 1986 年には、電気通信によって連結されたコンピューターを大学教育に応用する方法を発見しよう と、ラリタ・ラジャシンガム博士およびその学生たちと共に長期の実地研究プロジェクト( 「バーチャ ル・クラス・ラボ」 )を開始した。同博士との 1995 年の共著、 『In Search of the Virtual Class: Education in an Information Society(バーチャル・クラスを捜し求めて:情報社会における教育) 』 (ロンドン・ニュ ーヨーク、ラトリッジ社刊)は、バーチャル・クラス、バーチャル総合大学、バーチャル単科大学と いう概念を普及させた(ティフィン、J.とラジャシンガム、L.著(2003 年) 『The Global Virtual University (グローバルなバーチャル大学)』、ロンドン・ニューヨーク:ラトリッジ社刊も参照のこと)。 バーチャル・クラス・ラボは 1992 年にインターネット上へと移動し、1996 年には早稲田大学の寺島 信義教授と提携して、ハイパーリアリティにおける教育を実験的にスタートさせた(ティフィン、J.と 寺島信義(共編) (2001 年) 『ハイパーリアリティ−第三千年紀のパラダイム』 、ロンドン・ニューヨー ク、ラトリッジ社刊を参照のこと) 。 その探求はいまも続いている… 173 Terry Anderson(アサバスカ大学教授) カナダのオープン大学であるアサバスカ大学の遠隔教育部カナダ・リサーチ講座の教授。遠隔教育 および教育技術において幅広く著述を行い、最近にも以下の 3 冊の共同著作を発表した。 Anderson and Kanuka (2002) eResearch: Methods, Issues and Strategies Garrison & Anderson (2003) E-Learning in the 21st Century Anderson and Elloumi (2004) Theory and Practice of Online Learning (eds.) 多くの調査・研究プロジェクトにおいて研究者として主導的な役割を果たしている。例えば、 EduSource Canada、Campus Alberta Repository of Educational Objects (CAREO) 、Canadian Institute for Distance Education Research (CIDER)などのプロジェクトに係わり、州内、国内、および国際遠隔教 育関連団体にも積極的に係わっている。また、教育目標の決定および評価のための CANCORE メタデ ータ基準の策定にも貢献している。アサバスカ大学では、遠隔教育プログラムにおいて修士コースを 担当している。 詳細および現在公開されている文献は、 http://www.athabascau.ca/html/staff/academic/terrya.html に掲載されている。 174 Peter Knight(イギリス公開大学教育工学研究所所長) イギリス公開大学(OU)の教育工学研究所所長。同研究所は大学の学習、授業、およびアセスメ ント実践における品質向上を任務とする研究所である。学習促進のための最新技術利用に関する同研 究所の研究成果は、国際的に高く評価されている。また、教育的および専門的啓発活動に広範囲に係 わり、OU の全学的な調査の大部分を手がけ、また一般的な高等教育に係わる施策と実践に関する調 査を実施している。 外部補助金による最近の研究活動: ・ 品質保証に関する Scottish Higher Education Funding Council の活動強化アプローチに対する評価の 共同指導(2003 年∼2006 年) ・ 2002 年 9 月から 2005 年 2 月にかけて実施される HEFCE Enhancing Student Employability Co-ordination Team の指導。このチーム活動は、HEFCE から 73 万ポンドの資金供与を受け、全国 的なナレッジ構築、管理、および普及活動を行うものであり、ナレッジに対する独自の貢献を狙 いとする。 ・ マンチェスター大学、リバプール・ジョン・ムーアズ大学、および、マンチェスタ・メトロポリ タン大学とのコラボレーションとして、DfEE/HEFCE Innovations 基金の監督(2000 年 8 月∼2002 年 10 月、163,000 ポンド) 最近の刊行物: 1. Knight, P. T. and Yorke, M. (2004) Learning, Curriculum and Employability in Higher Education. London: Routledge. 2. Knight, P. T. and Yorke, M. (2003) Assessment, Learning and Employability. Maidenhead; Society for Research in Higher Education and the Open University Press. 3. Knight, P. T. (2002) Being a Teacher in Higher Education. Buckingham; Society for Research in Higher Education and the Open University Press. 4. Knight, P. T. and Trowler, P. R. (2001) Departmental Leadership in Higher Education. Buckingham: Open University Press. 175 Kin Sun Yuen(香港公開大学教育工学・出版課長) 1975 年香港大学卒業。数学で学士号、その後、教育分野に進み、試験および評価の研究で教育修士 号取得(1978 年)、および、数学教育で博士号取得(1988 年)。 中等教育で 4 年間(1976∼1981 年)の教員生活を送った後、香港大学の教育コンサルタント(1981 ∼1983 年)を経て、香港理工大学の教育デザイナ(1983∼1989 年)。 1989 年以来、香港公開大学の教育工学出版部局の責任者を務める。この部局は、各学部との連携に おいて、大学のマルチメディア・コースの教材の企画・開発・制作・供給を任務とする。また、教育 および学習に係わるすべての活動の支援について、諮問と実施の責任者となる。刊行物としては、 Openlink、the Prospectus、the Student Handbook など。 専門は、遠隔教育およびオープン学習コースの企画・開発・供給、ならびに、遠隔学習教材制作の ための品質保証システムの構築。最近は、学習者のための総合オンライン・ラーニング環境の供給を 中心に研究活動を行う。 国際的な分野でも、香港の遠隔教育に関連した多数の報告書作成の任にあたる。また、インドのニ ューデリーで 2001 年に開催された「コモンウエルスの教育放送に関する国際円卓会議」の発表者とし て、Commonwealth of Learning にも招かれる。また、Commonwealth of Learning、アジア開発基金、バ ングラディッシュ UNESCO 国内委員会、および、バングラディッシュ・オープン・ユニバーシティの 共催により 1997 年ダッカで開催され、中国、インド、パキスタン、バングラディッシュ、およびイン ドネシアの各国が参加した「小学校教員のための遠隔教育における能力向上トレーニング・ワークシ ョップ」の共同講師を務める。 著書には、香港公開大学の公開遠隔教育の教育修士プログラムのための 5 単位コース(2002 年)を 対象とする「E821C および公開遠隔教育:理論とモデル」 (中国語)があり、また、新任チュータ(1989 ∼1994 年)を対象とする香港公開大学のチュータのオリエンテーション/トレーニング・コースのプ ロジェクト・コーディネータでもある。また、香港の遠隔学習者向けの書籍「Study Skills」を共著で 発表している。 香港中文大学の教育デザインに関する修士コースの客員講師(1992 年)、また、同じく香港理工大 学の客員講師(2002 年と 2003 年) 。また、中国本土の放送大学からの代表団向けに実施された公開/ 遠隔教育に関する 1 週間のワークショップの指導にも当たる(1999 年および 2000 年)。 176 Susanna Herndon(テキサス大学(UT)オースティン校教授・改革部副部長・ 教育工学センター所長) 組織の戦略的計画の責任者であり、技術と教育の統合を促進・支援するために、センターの設備とサ ービスの運用を監督している。また、Blackboard の導入、ワイヤレス PDA の使用、および、学部のプロ ジェクト開発など、e ラーニングに関する調査、開発および促進のために、キャンパス内のコラボレー ション活動の調整役を果たしている。つい最近にも、UT の e ラーニングを利用する学生同士の相互活動 に関する調査を開始した。 UT の「技術関係学部長会議(Technology Deans)」および「アセスメント常任委員会(Assessment Standing Committee)」の委員でもある。また、ニュー・メディア・コンソーシアム(2000 年∼2004 年) の地域役員として UT オースチン校を代表し、現在は「科学授業向上のためのテキサス地域共同研究 (Texas Regional Collaboratives for Excellence)」のコンサルタントを務める。 情報とインタフェースのデザイン、ビジュアル・コミュニケーション、および Web ベースの教育戦 略について研究/教育上の関心をもち、UT のスクール・オブ・インフォメーション、カレッジ・オブ・ リベラルアーツ、および、カレッジ・オブ・ファインアーツの各校の非常勤職員も務める。また、コ ンサルタントとしても活躍し、いくつもの企業顧客や教育機関でワークショップを実施している。 177 Stefan Sonvilla-Weiss(ヘルシンキ美術デザイン大学教授) 1961 年オーストラリア生まれ、ザルツブルグとウィーンで美術教育、グラフィックス、ニュー・メ ディアと哲学を研究。ウィーンの応用芸術大学で美術教育およびデザインで MA、および、ビジュア ル・ペダゴジーとコミュニケーション理論で博士号を取得。 2003 年、ヘルシンキ美術デザイン大学の視覚的知識部門の教授兼国際 MA プログラム・ペダゴジー・ デザインの責任者に就任。 過去 20 年間、美術・デザイン学科の教員、メディア・アーチスト、グラフィック・デザイナ、作家、 マルチメディア開発者、および大学教員として活躍する。また、いくつもの美術とデザイン関連の e ラーニング・イニシアチブに参加し、つい最近には、新たな技術と教育のためのヨーロッパ・ナレッ ジ・ベースである INSIGHT など、多数の Web プロジェクトのデザイン、コンテンツ作成、およびメ ディア教育コンセプトの管理を手がけた。参加型メディア・カルチャおよびオープン・ソースを中心 に著述やプレゼンテーションも行ってきた。 ヘルシンキ美術デザイン大学に移籍する前は、ブリュッセルのヨーロピアン・スクールネット(EUN) にプロジェクト・コーディネータ兼メディア研究者として勤務し、いくつもの Web プロジェクトの管 理にあたる。研究対象は、コラボレーション学習プロセスにおける視覚的知識の構築、および、教育 の変化における技術、ペダゴジー、および組織体制の相互影響および相互制約についてのメディア教 育の暗黙の役割など。 178 Joeann Humbert(ロチェスター工科大学(RIT)オンライン学習部長) オンライン学習のあらゆる分野について責任をもっており、例えば、教職員の啓発、コースの企画 と開発、およびオンラインの学生サポートなどである。また、 「ティーチング・ラーニングおよびテク ノロジ・ラボ」を監督し、教職員のトレーニングを指導し、キャンパス用教育ソフトウェア・システ ムを支援し、特に最近では、キャンパスの教職員のためのブレンディッド学習パイロット・システム とキャンパス用の調査・評価ツールの開発にも携わっている。 「効果的な授業のための学内委員会」お よび「学務担当副学長の学習革新のための資金援助委員会」の委員でもある。高等教育分野では、教 員として、遠隔教育の学生支援のマネージャとして、また、新入生指導のコーディネータとしての経 歴を有する。また、チームワーク、コミュニケーション、および就職指導分野にもコンサルタントと して係わっており、小規模であるが事業も経営している。このような幅広い実績は、総合的な「非同 期学習ネットワーク(ALN:asynchronous learning network)」の構築に係わる活動を支えるものである。 Villa Maria カレッジで英文学の BA (文学士)を、ロチェスタ工科大学で教育技術について MS (理 学修士)を取得している。 179 Sarah Knight(JISC プログラム・マネージャー) 新たな e ラーニング・プログラムのためのプログラム・マネージャとして JISC に参加。本プログラ ムの狙いは、英国において 16 歳以降の学習を視野に入れて実践される e ラーニングが、「ペダゴジー 的に健全であり、学習者中心であり、かつ、容易に利用可能なもの」とすることにある。現在、責任 者として、本プログラムのペダゴジーおよび技術革新という 2 つの課題の促進に取り組んでいる。 JISC 開発チームに参加する以前、BECTA (英国教育工学通信協会)の「青年教育および生涯教育 の役員会」において Ferl (Further Education Resources for Learning)チームの教育担当者の任にあった。 そこでは、現在、英国全体を対象とする e ラーニングに関する公認職員啓発プログラムである「Ferl 実践者プログラム」の開発と実施に係わった。 BECTA では、16 歳以降の学習のための多数の重要な e ラーニング・プロジェクトに係わり、全国ラ ーニング・ネットワークの ILT (Information Learning Technology)チャンピオンズ・プログラムの実施 も担当した。また「基準確立」プロジェクトの共同コーディネータであり、出版物「Managing Inspection and ILT」の共著も行った。この出版物は、検査と品質の分野で提起される課題、および、e ラーニング の影響を論じるものである。 BECTA に参加する以前は、グロスターシャー州で成人教育に係わるカレッジ GLOSCAT (グロス・ カレッジ・オブ・アーツ・アンド・テクノロジー)の ILT コーディネータであり、ILT チャンピオン ズ・チームを主導し、カレッジ・イントラネットの開発をとおして、カレッジのラーニング戦略の実 施責任者として活動した。 e ラーニングに熱心に取り組むようになったのは、南アフリカで化学を教えていた頃に、授業に技 術を応用したことで、大きな支援が得られたという体験に基づく。当時、学生のためのラーニング・ センターを立ち上げ、さまざまな進度の学生にあわせて、その意欲を高め、授業への取り組みを向上 させるために、多様な e ラーニングのリソースを応用した。 180 野嶋栄一郎(早稲田大学教授) 現在、早稲田大学人間科学部教授。1969 年に早稲田大学文学士、1971 年に同文学修士。また、1998 年大阪大学から(人文科学)博士号を取得。専門は教育技術および教育評価。 1974 年から 1980 年まで国立教育政策研究所に研究者として勤務。当時、CAI システムとその実用 化に関する研究の先駆者として活躍。 1980 年から 1987 年まで福井大学(教育学部)助教授。その後、研究課題としてコンピュータとネ ットワークの応用による伝統的教育環境の改善に取り組む。 その後、再び早稲田大学に研究の場を移す。現在、2003 年に開始された e スクール・システムの完 成に取り組んでいる。 181 Farnaz Haghseta(マサチューセッツ工科大学) MIT のユニークな「オープン・コース・ウェア(OpenCourseWare)」イニシアチブの渉外担当者で ある。この職務以前、MIT のオープン・コース・ウェアの専用サイトで 150 もの工学コースのための 出版業務を指導していた。MIT から 3 つの工学学位を取得し、卒業研究では IT が持続可能な開発に与 える影響に取り組んだ。MIT における調査・研究に先立って、コンサルティング分野および IT 産業の 企業に勤務。 182 Susan M. Kryczka(ボストン大学(BU)遠隔教育部長) ボストン大学では現在オンライン・コースとして、1 つの学士認定プログラム、4 つの大学院学位認 定プログラム、および、1 つの博士課程を設けている。これまで 25 年間にわたって高等教育分野の遠 隔教育に携わってきた。2000 年にボストン大学に移籍する前は、マサチューセッツ州ボストンのノー スイースタン大学の遠隔学習部で指導的な立場にあり、衛星、マイクロウェイブ、およびオンライン による学士認定コースおよび大学院コースの運用管理者であった。また、イリノイ工科大学(イリノ イ州シカゴ)の教育 TV システムである IIT/V のディレクタも務めた。遠隔教育におけるキャリアは、 1977 年、シカゴのシティ・カレッジでの経験から始まる。なお、カレッジ等で歴史の授業も担当した。 マサチューセッツ州ボストンのノースイースタン大学でジャーナリズムの修士号をとり、シカゴのロ ヨラ大学で歴史学の修士号を取得、また、イリノイ州シカゴのルーズベルト大学で歴史の学士号を取 得する。 183 Insook Lee(世宗大学教授) 学歴 1989 年 8 月から 1994 年 12 月:合衆国インディアナ大学、教育システム技術(ph.D.) 1985 年 2 月から 1987 年 8 月:韓国ソウル、梨花女子大学校、専攻:視聴覚教育(M.S.) 1976 年 3 月から 1980 年 2 月:韓国ソウル、梨花女子大学校、専攻:視聴覚教育(B.A.) 職歴 2003 年 3 月から現在:韓国ソウル、世宗大学教育学部、教授 1998 年 3 月から 2003 年 2 月:韓国ソウル、世宗大学教育学部、助教授 1997 年 4 月から 1998 年 2 月:韓国ソウル、東部火災海上保険株式会社、HRD 部門、教育調査部、ディ レクタ 1995 年 5 月から 1997 年 4 月:韓国、KEDI、教育技術部、研究員 1995 年 3 月から 1995 年 9 月:韓国ソウル、斗山社、斗山 HRD センター、社外 ISD コンサルタント 1993 年 9 月から 1993 年 12 月:米アーサー・アンダーセン社、職業開発センター、インターン 1980 年 2 月から 1983 年 6 月:Commercial Bank of Korea、国際取引企画部、会計/ニュース記者 管理職 2001 年 3 月から 2001 年 12 月:世宗サイバー大学、計画部門/e ラーニング調査センター、ディレク タ 1998 年 3 月から現在まで:韓国世宗大学、教育向上のためのマルチメディア・センター、ディレクタ 受賞歴 2003 年 10 月:米 AECT、ロバート・ドキーファ国際フェローシップ賞 1995 年 2 月:米 AECT、ディーン&シビル・マックラスキ・リサーチ賞 1994 年:米 IN、ブルーミントン、インディアナ大学国際学生賞 1993 年 2 月:米 AECT、1993 年 2 月年次大会、インターンシップ賞 1992 年:米 IN、ブルーミントン、インディアナ大学国際学生賞 1978 年:韓国ソウル、梨花女子大学校、優秀奨学金 専門活動:協会等 2004 年:第 4 回 IEEE International Conference on Advanced Learning Technologies (ICALT)、プログラム 委員会メンバ 2003 年、2004 年:AACE、2004 年 ED-MEDIA 会議、プログラム委員会メンバ 2000 年:AACE、ICCE2000、ポスター・セッション最高論文賞 1997 年∼1998 年:Systemics, Cybernetics and Informatics、年次総会(ニューメキシコ) 、プログラム委 員会メンバ Korean Society for the Study of Education:優秀研究審査委員会賞(1999∼2000) 184 韓国教育工学会(KSET) :理事(1998 年から現在まで)、Journal of Educational Technology (1998 年、 2000 年)の編集者、Educational Technology International (2000 年)の副編集者、会報の編集者(1999 年) Korean Society for Corporate Education:理事(1997 年から現在まで)、副会長(2001 年∼2003 年) 、 Journal of Corporate Education の編集委員(1997 年∼2000 年) Korean Association of Educational Information & Media:理事(1999 年から現在まで) 、副会長(2004 年∼2005 年)、編集委員(2000 年∼2001 年、2003 年∼2004 年)、会報の編集者(2000 年∼2003 年) 専門活動:その他 2004 年 5 月から 2005 年 5 月:韓国労働省、政策諮問委員 2003 年 7 月から 12 月:韓国職業能力開発院(KRIVET)、インターネット・ベースのトレーニング団 体評価委員会 2005 年 3 月から 5 月:教育ソフトウェア品質認証委員会、韓国教育学術情報院 (KERIS) 2003 年 4 月から 2004 年 3 月:韓国教育人的資源開発省、遠隔教育大学承認審査委員会、教育ソフト ウェア品質認定委員会 2002 年 4 月から 2003 年 3 月:韓国教育人的資源開発省、遠隔教育大学承認審査委員会、教育ソフト ウェア品質認定委員会 2001 年 1 月から現在まで:韓国統一省、再統一教育委員会、政策諮問委員 2000 年 1 月から現在まで:韓国産業資源省、技術標準庁、ISO/JTC1/SC36、諮問委員 185 小松 秀圀(eラーニングコンソーシアム会長) 1940 年生まれ。1963 年に電気工学の学位を取得して大学を卒業後、社内教育の専門家として富士ゼ ロックス社に入社。1987 年には NTT ラーニング・システムズ・コーポレーションの設立に参画し、 1991 年には同社の副社長を務める。1992 年には鳴門教育大学の大学院で「企業内教育の人材開発管理」 部門の責任者に任命。1995 年には教育システム情報学会(JSISE:Japanese Society for Information and Systems in Education)の副会長に就任。2001 年現在、企業内教育の改善に意欲的に取り組み、また、 この数年、アメリカ教育システムの調査・研究も手がけている。 186 独立行政法人メディア教育開発センター国際シンポジウム2004報告書 「高等教育における e-Learning−その成功の条件」 発行年月 平成17年3月 編集・発行 独立行政法人メディア教育開発センター 〒261-0014 千葉市美浜区若葉2−12 Copyright ©2005 by the National Institute of Multimedia Education (NIME) All Rights reserved. 188
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