アフリカ・ビジネス事情 開発途上国共通の課題は雇用創設 日本のイメージはとケニアの人に尋ねると、ほとんどの人がまずトヨタや日産などの車やテレビな どの家電の国と答えます。そんな中、今回は日本の伝統的な技術がケニアの人々の生活に役に立っ ている例を数件紹介させていただきます。その伝統的な技術というのが、土嚢を利用した道作り、 視覚障害者によるあん摩の指導、そして伝統的な上総掘りの技術を利用した井戸掘りです。いずれ もローテク・ローコストの技術ですが、道路や安全な水の確保、視覚障害者の自立などケニア人の 生活の向上や貧困削減にしっかりと役立っているだけでなく、ケニア人が自ら学び技術を習得する ことに重きをおいた技術移転を目的としています。 ケニアで土嚢を利用した道作りを実施しているのは京都に本部を置く NGO 道普請人(CORE)のケ ニア事務所です。京都大学の木村亮教授(同 NPO 法人理事長)が、工学者として開発途上国の人々 の生活に貢献するためにと発案したこの道作り、地ならしをした道に土や小砂利をつめた土嚢を数 段積み重ね、固めることによって強度のある道路をつくります。舗装道路の少ないケニアでは大量 の雨で側道や農道が泥でぬかるみ、車の通行が不可能になり農場から農作物を出荷できずに収穫物 が腐ってしまい農家の収入がロスになることは雨季には必ず起こることです。この問題の解決を提 示しているのが CORE による道作り。土嚢による道作りで必要なのは、ケニアでは収穫物を入れる ため売られている安価でどこでも入手可能な南京袋とよばれるナイロンの袋と土や砂利。後は労働 力。CORE では道周辺に住む住民や若者グループに技術を教えながら道作りを進めていきます。最 初は非協力だった人々も今まで雨の度にぬかるみに足を取られていた道が、短期間に修理されるの を体験することで積極的に参加するようになったといいます。このようにして道路修理の技術を習 得したグループは、共同組合を結成し公共の仕事を請け負うなど、雇用創出にも貢献しています。 NGO 道普請人のHP http://michibushinbito.ecnet.jp/ 次にご紹介する上総掘りを実施する NGO、International Water Project (IWP)も土嚢技術と同じく、ロ ーテク・ローコストの技術移転を勧めています。上総堀りとは明治初期に上総地方(現千葉県中 部)で発案された井戸堀りの工法で、てこの原理を利用して人力で鉄棒を振り上げ、落ちる重量衝 撃で井戸を掘削する技術です。この技術を IWP 代表の大野篤志氏がアフリカの現状にあうようにと、 現地で入手可能な資材や道具を用いて掘削できるように改良し、難民プロジェクトで上総掘りの井 戸を掘削したのがアフリカでの始まりです。必要な装置は足場を組むための木材や古タイヤチュー ブ、鉄のロッドなど。複雑な機械や動力などは必要としないため、コストは手動ポンプも含めて 70 万円前後。上総掘りで重要なのはロッドを振り上げるための人力、一日 10 人分の労働を住民が提供 することが IWP が井戸を掘る条件です。毎日毎日、ロッドを振り上げたり下げたりする単純作業で、 時には岩盤にあたり一日数センチしか掘れないことも多々あります。単純作業に飽きたり、遅々と して進まないことに痺れを切らして、人が来なくなったりすることも多く、政府や援助団体から何 かしてもらうのを待つことに慣れたケニアの人々を励まして作業を進めていくのは大変です。それ でも住民自らが協力して掘ることで、井戸へのオーナーシップを培い、その技術を伝授していく中 で土嚢の例と同じく、井戸掘りの技術を学んだ人々が職人グループとして育ってきています。安全 な水を住民自らが掘った井戸で得ることができる。水が出た瞬間の喜びはひとしおです。 IWP のHP http://homepage3.nifty.com/iwp/ 最後にご紹介するのは視覚障害を持ったケニア人のあん摩師さん達のお話です。ケニアの視覚障害 者の経済的自立の手段として、あん摩の技術講習をアジア・アフリカで行っている東京の NPO 視覚 障害者国際協力協会(ICA)があります。2004 年よりケニア各地の視覚障害者へのあん摩指導を始 め、後に JICA の草の根技術協力プロジェクトとして取り上げられ、現在は国立視覚障害者技術訓練 校で日本式あん摩技術コースとしてカリキュラムの一つとなっています。視覚障害者への社会制度の 整備が遅れているケニアでは、学校は卒業したが職がないため家にいるケースがほとんどです。 2004 年に最初にあん摩の訓練を受けた一人のあん摩師ベアトリスさんは、ケニア北西部の遊牧民 ツルカナ族の出身。子供の頃に罹ったはしかが原因で失明し、幸運にもナイロビに招かれ ICA がケ ニアで始めて行ったあん摩の最初の生徒として訓練を受けました。現在指圧師として生計をたてて いる彼女は NGO の事務所スペースを借りた小さなクリニックで、あん摩を施す傍ら顧客の家庭へ の出張サービスも行っています。最近はケニア人の顧客も増えてきたと彼女は言います。西洋式の マッサージと違いあん摩は服を着たままで受けることができるため、ケニア人には好評だそうです。 JICA の草の根技術協力プロジェクトでは視覚障害者が 2 年間あん摩の訓練を受け、毎年 20 名のあ ん摩師が技術を習得して世に出て行きます。ベアトリスさんは現在同じように訓練を受けたあん摩 師の仲間達と、あん摩師の協同組合を結成し将来的には自分達のクリニックを開きたいと願ってい ます。 ICA のHP:http://pub.ne.jp/ica2001/ 今回ご紹介したのはいずれもローテク・ローコストな日本の技術を、ケニアへの技術を伝授するこ とで彼らの経済的な自立や援助を目指しているプロジェクトです。裨益をうける人々が自ら参加す ることで、修理した道路や掘った井戸が政府や援助で与えられたものではなく、自分達自らが作り 出したというオーナーシップの意識を培うことを目指しています。道普請人ケニア事務所の喜田理 事は、土嚢で道が出来た後は住民たちの意識が変わるといいます。自分達自身が生活を向上させる ことができるのことを体得するからだといいます。更にあん摩師さんの例だけでなくどのプロジェ クトも、技術を学んだグループが組合を結成し、ビジネスとして習得した技術を提供するように育 ってきています。ケニアをはじめ、開発途上国共通の課題は雇用創設です。ケニア政府も重要な開 発目標として掲げていますが、ではどのようにして雇用を増やすのか、具体策が明確なプランとし て打ち出されているわけではありません。今回ご紹介した例はいずれも技術の伝授を通じて、雇用 の機会を生み出すことに貢献しています。 最後にどのプロジェクトも日本の NGO がまいた種を JICA や日本大使館が ODA の一環として援助 することで、その技術移転を確固としていることにも注目すべきでしょう。民官連携が盛んに問わ れる現在、規模は小さいけれども日本の技術移転を民と官が共にサポートすることでケニアの社会 経済開発に貢献しています。日本にはまだまだ埋もれているいい技術があるはずです。そのような 技術を生かし、途上国の開発に貢献するようなプロジェクトがどんどん出てきて欲しいものです。 記:杉本寛子
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