弾性波探査(改良型) - yec|八千代エンジニヤリング株式会社

弾性波探査(改良型)を用いた砂防堰堤コンクリートの構造変質の評価について
国土交通省
中部地方整備局
八千代エンジニヤリング株式会社
天竜川上流河川事務所
中谷洋明、鈴木豊、荒井良介
福塚康三郎、佐藤敏明、〇若林栄一、永冨大亮、小林海央
大和探査技術株式会社
内藤好裕、羽佐田葉子
1.はじめに
砂防堰堤の機能を長期間にわたって発揮させるためには、計画的な機能向上及び機能保全を行うことが必要で
ある。砂防堰堤のようなマスコンクリート構造物では、経年的に進行するコンクリートの構造変質を評価し、適
切な対策を行うことが求められる。堤体コンクリートの構造変質を評価する手法としては、外観調査をもとに、
ボーリング調査や各種材料試験等を行う方法が一般的であるが、ボーリング調査は堤体に及ぼす影響が大きいこ
とやコストが高いこと、仮設の規模が大きいこと等の課題を有している。
本研究では、比較的簡易かつ低コストで実施できる弾性波探査(改良型)
(以下、弾性波探査)により、クロー
ズ型砂防堰堤の堤体コンクリートの構造変質を評価し、機能向上及び機能保全に反映することを目的として、施
設完成後の経過年数が異なる5基の砂防堰堤を対象として、弾性波探査や強度試験等を行った。その結果、堤体
コンクリートの弾性波速度が施設完成後の経過年数の増加とともに小さくなることや、変質の進んだ低速度スポ
ットの出現箇所が経過年数に応じて増加すること、コンクリートの圧縮強度が弾性波速度の低下とともに小さく
なることなど、弾性波探査により構造変質を評価する有効性を示す知見が得られたので、その結果を報告する。
2.調査の概要
2.1 対象施設
K川流域に設置されている砂防堰堤のうち、施工後の経過年数が異なる以下の5基を調査対象とした(表-1)。
表-1
堰堤名
O堰堤
K堰堤
S堰堤
T堰堤
H堰堤
堰堤タイプ
クローズ型
クローズ型
クローズ型
クローズ型
クローズ型
堤高(m)
12.0
12.0
16.0
16.0
14.0
堤長(m)
97.0
134.0
81.0
80.0
39.4
対象施設一覧表
準拠基準(基準書名/年)
S33
河川・砂防技術基準(案)(建設省)※
S33
河川・砂防技術基準(案)(建設省)※
S33
砂防施設設計指針(案)(中部地建)※ S57
改訂河川砂防技術基準(案)(建設省) H09
河川・砂防技術基準(案)(建設省)※
施工着手年月日
S36.11.18 (1961)
S38.06.12 (1963)
S48.11.01 (1973)
S61.10.01 (1986)
H15.12.24 (2003)
完成年月日
S37.09.11 (1962)
S39.12.10 (1964)
S52.02.17 (1977)
H02.09.25 (1990)
H19.06.29 (2007)
完成後経過年数
51年(H25年時点)
49年(H25年時点)
36年(H25年時点)
23年(H25年時点)
06年(H25年時点)
※推定
2.2 調査内容
調査対象施設について、以下の調査を実施した。本報告では、主に弾性波探査の解析結果について述べる。
①外観調査、②弾性波探査(改良型)
、③熱赤外線探査、④コア抜き調査、
⑤室内材料試験(中性化、密度、圧縮強度、静弾性係数、超音波速度(P波)、アルカリ骨材反応)
2.3 弾性波探査(改良型)の概要
<弾性波探査(改良型)では、堰堤上下部から発振する(発振2測線+受振1測線)>
図-1 に示す通り、弾性波探査(改良型)で
は、堰堤天端上に 1m間隔で受振器を設置し、
袖部
袖部
堰堤上部
堰堤上部(天端)と堰堤下部(正面)におい
水通し部
て打撃・発振することにより、精度向上を図
った(従来型は発振1測線+受振1測線)
。
3.調査結果
3.1 施工後の経過年数と弾性波速度との関係
凡 例
○:発振点
▼:受振点
実線矢印:弾性波パスイメージ
堰堤下部
図-1
弾性波探査(改良型)の概念図
弾性波探査では、構造物の変質が進み間隙が多く存在する場合やその間隙が浸透水により満たされる場合は弾
性波速度が遅くなる傾向が得られる。反対に、間隙が少なく健全な構造物では弾性波速度が速くなる。図-2 に示
すように施工後の経過年数が多い砂防堰堤では、低速度のスポット的なエリアが多く出現することに対し、施工
後の経過年数が少ない砂防堰堤では低速度のスポット的なエリアは出現していないため、弾性波探査により砂防
堰堤の構造変質を視覚的に把握することが可能と考えられる。また、各砂防堰堤全体の弾性波速度(平均値、最
小値)と施工後の経過年数の関係(図-3)を比較すると、経過年数に比例して弾性波速度が低下していることが
分かり、弾性波探査を用いて砂防堰堤の構造変質状況を定量的に評価することも可能と考えられる。
図-2
施工後の経過年数と弾性波速度との関係(※弾性波速度は 1m×1mメッシュの平均値)
5.0
4.5
3.2 各種物性値と設計基準値及び弾性波速度との関係
4.0
体積重量、③圧縮強度)と弾性波速度との関係を示す。
①中性化深度:データのバラつきは認められるが、弾性波速
度の低下に伴い、コンクリートの中性化深度は大きくなる
傾向が現れており、弾性波速度によりコンクリート表層部
の変質状況が捉えられているものと考えられる。
②単位体積重量:弾性波速度が 3.0km/s 以下では、最小値(下
限値)が速度の低下に伴い、やや低下する傾向が認められ、
同時にバラつきも大きくなる傾向が認められる。
③圧縮強度:弾性波速度の低下に伴い、圧縮強度も低下する
傾向が認められる。弾性波速度が 3.0km/s 以下では設計基
弾性波速度 (km/s)
図-4 に堤体コンクリートの物性値(①中性化深度、②単位
3.5
3.0
2.5
1.5
線形 (平均値)
0.5
線形 (最小値)
0.0
2005 1999 1993 1987 1981 1975 1969 1963 1957
砂防堰堤の完成年
図-3
施工後の経過年数と弾性波速度との関係
中性化深度(mm)
堤体表層コアにおける
中性化深度(縦軸)と現
場で測定された弾性波
速度(横軸)との関係
25.0
20.0
15.0
また、1.5km/s 以下では設計基準強度を下回る可能性が大き
10.0
いことから、弾性波速度により砂防堰堤の健全度を評価す
5.0
ることが可能と考えられる。
0.0
中性化深度
最大(mm)
中性化深度
平均(mm)
最大値の上限
平均値の上限
0.0
1.0
2.0
26.00
25.50
堤の構造変質に関する評価に対して、以下の知見が得られた。
25.00
①本探査手法により得られた弾性波速度を用いて、砂防堰堤
24.50
部分的な構造変質を把握することが可能となった。このた
め、構造が変質した部分のみを対策することで、よりコス
トを低減した機能向上や機能保全が可能と考えられる。
5.0
6.0
弾性波速度(km/s)
堤体表層コアにおける
単位体積重量(縦軸)と
現場で測定された弾性
波速度(横軸)との関係
下限値
供試体中心深度の
平均値…0.25m(25cm)
24.00
単位体積重量
(kN/m3)
?
設計基準値(23kN/m3)
23.00
0.0
クルコストを低減することが重要となる。今回採用した本
探査手法を用いて、堤体を面的に可視化することにより、
4.0
3.0km/s
23.50
②砂防堰堤の機能向上及び機能保全においては、ライフサイ
3.0
単位体積重量(kN/m3)
今回の調査及び検討結果から、弾性波探査を用いた砂防堰
の構造変質を定量的に評価することが可能と考えられる。
最小値
1.0
準強度(22N/mm2)に近づき、一部は下回る傾向がみられる。
4.まとめ
平均値
2.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
圧縮強度(N/mm2)
6.0
弾性波速度(km/s)
40.0
堤体表層コアにおける
圧縮強度(縦軸)と
現場で測定された弾性
波速度(横軸)との関係
30.0
供試体中心深度の
平均値…0.25m(25cm)
60.0
50.0
設計基準値(22N/mm2)
20.0
③弾性波速度が 1.5km/s 以下の箇所では、圧縮強度が設計基
10.0
準強度以下となることが予見された。このため、弾性波速
0.0
圧縮強度
(N/mm2)
下限値※
1.5km/s
0.0
1.0
2.0
3.0km/s
3.0
4.0
※下限値はバラツキを考慮した
5.0
6.0
弾性波速度(km/s)
度分布状況に基づき、
「健全(3.0km/s 以上)
」
「要観察(3.0
~1.5km/s)
」
「要対策(1.5km/s 以下)
」の区分を行うことで、
計画的な機能向上及び機能保全が可能になると考えられる。
図-4
各種物性値と弾性波速度との関係
(設計基準値は中部地方整備局資料に基づく)