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特別版
2016.9.30
No.36
Contents
01 プロジェクト最前線
マイクログリッドのビジネスモデルを実証
Schneider、米国本社を「リビングラボ」に
02 スマートサービス
米国で住宅用蓄電システムが採算ベースに
田淵電機、ハワイやアリゾナで本格発売開始
03 Smart Buzzword
再エネ電力小売り
グリーン電力証書で“お墨付き”
04 海外スマートシティの成功要因と標準化動向(8)
スマートシティの国際標準化動向(2)
日本主導で「スマートな都市インフラ」指標化
05 注目のニュース
米 Uber が自動運転や電気自動車の導入を開始
2 次利用で世界最大の定置型蓄電池が稼働へ、など
06 ニュース解説
西 Iberdrola、電力計の約 80%をスマメ化
世界初、地熱だけで電力賄う比ルソンの大学、など
1
JSCA NEWS LETTER
プロジェクト最前線
マイクログリッドのビジネスモデルを実証
Schneider、米国本社を「リビングラボ」に
フランスの大手電機メーカーSchneider
発電システム(400kW)からなる自家発電設備、
Electric の米国法人が非常時に系統から切
1MWh・500kW のリチウムイオン蓄電池を設置。
り離して自家発電により電力を供給するマイ
マイクログリッド運用を行うシステムを導入
クログリッドの実証プロジェクトをスタート
し、実際のビジネス環境下で実証を行う「リ
させる。蓄電池や制御システムといった技術
ビングラボ」を目指す。BOC は通常、同地域
実証だけでなく、マイクログリッドをサービ
の電力会社である National Grid から電力供
スとして提供する新しいビジネスモデルであ
給を受けているが、停電時には自家発電設備
る「MAAS(Microgrid As A Service)
」を検証
と蓄電池を活用して、電力供給を行う。
する狙いがある。
プロジェクトの舞台は、ボストンにある米
国本社ビル「BOC(Boston One Campus)
」
(図 1)
400kW の太陽光、1MWhの蓄電池を設置
2016 年 7 月に、ビルの屋上に 50kW の太陽
だ。BOC は、Schneider Electric グループに
光パネルを設置済み(図 2)で、続いてマイ
おける北米最大の研究開発拠点で、750 人の
クログリッド運用を行うシステムを設置し
スタッフがビルディング・オートメーション
て、同年第 4 四半期には第 1 フェーズのマイ
システム、無停電電源装置、エネルギー管理
クログリッドの実証をスタートさせる。さら
機器などの研究開発業務に携わっている。
に、2016 年末までに 350kW の太陽光パネルを
この実際に業務を行っているビルに、既設
ビル前後の屋外駐車場(図 3)に設置して合
の天然ガス発電機(400kW)に加えて、太陽光
計 400kW となる。2017 年にはリチウムイオン
[図 2] 屋上に設置された太陽光パネル(出所:Schneider)
[図 1] Schneider 米国本社外観(撮影:日経 BP クリーンテック研究所)
[図 3] 太陽光パネルが設置予定の本社前の駐車場(撮影:
日経 BP クリーンテック研究所)
2
JSCA NEWS LETTER
蓄電池システムを導入し、第 2 フェーズも始
レジリエンス(復元力)が高まったことに対
める。
して消費者が対価を払う新しいビジネスモデ
Schneider は、同プロジェクトにおける
ルであり、「レジリエンスチャージと呼びた
MAAS のビジネスモデルの検討に当たり、ノー
い」
と同プロジェクトを担当するEngineering
スカロライナ州など東部 6 州で電力小売事業
Solutions Specialist の Lance Haines 氏(図
を展開する大手電力である Duke Energy およ
4)は語る。レジリエンスチャージは PPA 料金
び同社と提携した太陽光発電システムベンダ
に追加して支払われ、その額は「1 セント/
ーの米 REC Solar とパートナー契約を結んだ。
kWh 以下になる見込みだ」
(Haines 氏)という。
この両社がマイクログリッド関連システムの
アセットを保有し、消費者である Schneider
は初期投資なしでシステムを導入できるビジ
開閉器を活用してレジリエンスを向上
Haines 氏によると、Schneider は従来から
ビルのレジリエンスを高めるために開閉器を
ネスモデルを検証する。
初期投資がない分 Schneider は、Duke
使って対応するシステムを自社で採用し、顧
Energy と 13 年間の PPA(Power Purchase
客向けにも提供してきた。BOC は「ハーフ A」
Agreement:電力購入契約)を結び、太陽光発
と「ハーフ B」の 2 棟のビルから成るが、ハ
電システムが発電した電力を、エネルギーベ
ーフ A は系統網 A から、ハーフ B は系統網 B
ース(kWh)で購入する。これは、現在 BOC が
から別系統で電力を受電している(図 5)
。
支払っている電気代よりも安くなる見込みだ
通常は、2 棟間を結ぶ開閉器④は開いてお
り電気は流れない。ここで、例えば系統網 A
という。
さらに、系統網が停電するなどの非常時に
側が停電したら、系統網 A とハーフ A を結ぶ
供給する電力に対して月額料金を支払う契約
開閉器①を開いて、2 棟間を結ぶ開閉器④を
を結ぶことを検討している。これは、実際に
閉じることによって、系統網 B 側からハーフ
非常時に電力を使ったかどうかに関わらず、
A にも電力が供給される。さらに、両方の系
[図 4] Lance Haines 氏(撮影:日
経 BP クリーンテック研究所)
[図 5] BOC に導入されるマイクログリ
ッド概要。2 棟のうち左がハーフ A、右
がハーフ B。各設備を開閉器で接続し
て開け閉めすることによりレジリエン
スを向上(出所:Schneider、和訳:日経
BP クリーンテック研究所)
3
JSCA NEWS LETTER
統網が停電したら、系統網 A との開閉器①と
ワーコンディショナー)などのハードウエア
系統網 B との開閉器③を 2 つとも開いてアイ
および制御用システムは Schneider が提供す
ランディングし、非常用の天然ガス発電機を
る。同社はマイクログリッドのシステムベン
稼働させて、両棟に電力を供給する。
ダーとして、同実証で培ったノウハウを今後
BOC の需要は、夏の暑い日中のピークが
のビジネスに活かす狙いがある。
1.25MW、冬のピークが 0.67MW、夜中のベース
蓄電池については、同社が 2015 年 12 月に
ロードが 0.35MW という。400kW の非常用電源
発売したリチウムイオン蓄電池システム
だけでは当然賄えないので、負荷設備ごとに
「EcoBlade」を採用する。EcoBlade は、2kWh
遠隔制御できる開閉器⑤を設置して、優先度
のモジュールを最小単位として、太陽光向け
の高い重要設備から開閉器を閉じて電力を供
PCS を内蔵した家庭向けの 5kWh 品、各モジュ
給する(図 6)
。重要設備としては、データセ
ールをラックに積み重ねたにデータセンター
ンター、研究開発施設、顧客ミーティングル
向けの 80kWh 品、ビル向けの 100kWh 品、変電
ーム、社長室などの経営部門だという。
所に設置する系統接続向けの 3.2MW 品まで幅
広いラインアップを備えている。マイクログ
システムベンダーとしてノウハウ蓄積
リッド向けには、100kWh のラックを 10 個設
このように、従来型のマイクログリッド運
置して、1MWh を 1 セットとしている(図 7)
。
用に加えて、新たに太陽光発電システムや蓄
BOC には、開閉器などが並ぶ電気室にスペー
電池などの設備とシステムを導入してさらに
スが用意されており、2017 年には設置する。
レジリエンスとエネルギー効率を上げ、サス
同社は、蓄電池システムの価格については、
テナビリティを高めようとするのが同プロジ
マイクログリッドなど大型蓄電池用途で、
ェクトの狙いである。
1kWh で約 650 ドル(PCS 込み、設置代別)と
Schneider はその際、消費者として、さま
している。1MWh で約 65 万ドルとなる。こう
ざまな意見や使い勝手をフィードバックする
した高額の初期投資を、前述の「レジリエン
と共に、設備やシステムを供給するプロバイ
ス・チャージ」および蓄電池を活用したエネ
ダーとしても参加する。太陽光発電システム
ルギー消費の最適化によって、何年で償却で
は REC Solar が設置するが、蓄電池、PCS(パ
きるかが今後の検証で明らかになっていく。
[図6] BOC 内に設置された開閉器群。系統網間、2 棟間、サンドボック
ス間、負荷間などに設置(撮影:日経 BP クリーンテック研究所)
[図 7] 1MWh 蓄電池システム「EcoBlade」。100kWh のラックを
10 個搭載(出所:Schneider)
4
JSCA NEWS LETTER
一方、マイクログリッドを最適に運用する
天候予測や市場取引をクラウドから指示
ための制御用システムは、ビル内に設置した
このマイクログリッドコントローラーの運
エネルギー機器や負荷を直接制御するマイク
用が市場動向や天候などさまざまな外部要因
ログリッドコントローラー「PowerLogic」と
を勘案して経済的に最適化されるように、ク
クラウドベースで管理するデマンドサイドオ
ラウドから指示を与えるのがデマンドサイド
ペレーション「StruxureWare」の 2 つのレイ
オペレーション「StruxureWare」の役目であ
ヤーから構成される(図 8)
。
る。ここには、Schneider グループとしての
このうちマイクログリッドコントローラー
総合力を結集させるという。
「PowerLogic」は、ビル内の各機器の状況を
例えば、太陽光発電システムの稼働を最適
リアルタイムに監視し、秒以下の速度で各機
化するには、発電量を計画するための天候予
器を自動制御する。系統網が停電した際には、
測が不可欠である。同社は、2011 年に天気予
直ちにアイランディングを実施し、自家発電
報大手の米 Telvent DTN を買収しており、そ
および蓄電池から瞬時に電力を供給、開閉器
の気象データを活用して、太陽光の発電計画
の運用を判断すると共に、エアコンなどの負
を精緻化している。卸電力市場のスポット価
荷も制御する。こうして、ビル内に供給する
格などのデータの活用も欧州含めて多くの実
電力の電圧と周波数を最適に保ち、安定供給
績があるという。消費者の利益を最大化する
する役割を果たす。同社は、天然ガス発電機
ために、スポット価格が安い時に蓄電池に充
を活用して各機器を制御する従来型のマイク
電して、高い時に逆潮流して売電するといっ
ログリッドコントローラーについてはすでに
た操作に役立てる。また、消費者は、電力会
10 年以上の開発実績があり、これをベースに
社やアグリゲーターが実施する DR(デマンド
改良を加えたいとしている。
レスポンス)プログラムに参加して、インセ
ンティブを得るケースもある。その場合も電
力会社からの DR 要請をデマンドサイトオペ
レーション「StruxureWare」が受けて、マイ
クログリッドに制御信号を送る。クラウドか
らとはいえ、
「5 分間隔で迅速に指示を送って
いる」
(Haines 氏)という。各種情報を分析
して、3 日間の発電およびエネルギー管理計
画を立てて、各機器の制御を最適化する。
このように同社のシステムは、マイクログ
リッド運用によるレジリエンスの向上に留ま
らず、システムを活用することによって、経
済価値の最大化を狙っている。
前述したような逆潮流による売電や DR の
インセンティブに加えて、重要なのがタリフ
[図 8] マイクログリッド運用の制御スキーム。クラウドで運用するデマ
ンドサイドオペレーション「StruxureWare」とクライアントサイトで各機器
を直接制御するマイクログリッドコントローラー「PowerLogic」の 2 レイ
ヤーから成る。両レイヤーは連携して運用を最適化する(出所:
Schneider、和訳:日経 BP クリーンテック研究所)
(電気代)コントロールだと、Hines 氏は強
調する。米国では、家庭でも需要ピークに応
じた料金設定(デマンドチャージ)をする電
力会社が多く、消費者によっては全体の半分
5
JSCA NEWS LETTER
がデマンドチャージになるケースもある。そ
は、
「従来の化石燃料ベースの電源を中心とし
こで、需要ピーク時に太陽光や蓄電池から放
た集中型システムから、消費者サイドに設置
電してピークを削る(ピークシェービング)
した分散電源を中心としたシステムに代わる
ことによってデマンドチャージを下げること
変革期を迎えたことがある」と見る。
が有効になる。さらに、エアコンを電気代が
その理由として Feasel 氏は、
(1)連邦、州
安い時に事前冷房(暖房)することによって、
レベルで、石炭火力発電所などを規制し、再
快適性を保ったままピークシェービングを行
生可能エネルギーなどの分散電源を重視する
うといったアルゴリズムをいかに組み込むか
政策が推進されてきた、
(2)IoT(Internet of
が重要になるとしている。
Things:モノのインターネット)の進歩によ
Schneider がまた、BOC のように実際の研究
り、クラウドベースでエネルギー機器を最適
開発業務が行われているビルで、リビングラ
化するソリューションが提供されるようにな
ボとして実証プロジェクトをスタートさせる
った、
(3)TPO(Third Party Ownership:第
に当たって工夫を加えたのが、
「実証によって
三者保有)モデルなどの新しいファイナンス
実業務が影響を受けないように、問題が起き
方式や PPA による電力供給など消費者と電力
た時にビル系統から切り離せるように配線し
会社間の新しいビジネスモデルが登場してき
たこと」
(Hines 氏)である。これは「マイク
た、という 3 つを挙げる。そうした流れの中
ログリッドサンドボックス」と呼ばれ、太陽
で、VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)
光や蓄電池などのマイクログリッド関連設備
やマイクログリッドなどの新しいビジネスへ
を閉じた領域に入れ、ビルの負荷と同等に模
のニーズが高まってきた。
擬したロードバンクを設置する(p.3 の図 5
しかし、Schneider の顧客である電力会社は
新しいビジネスモデルに挑戦するには株主の
参照)
。
これにより、業務への影響を考えずに、停
問題などさまざまな壁があるという。そこで、
電時対応などの各種マイクログリッド運用を
同社のようなシステムプロバイダーと提携す
実際に実証できる。マイクログリッドサンド
ることで分散電源中心のモデルに挑戦する動
ボックスは、開閉器②(p.3 の図 5)によって
きが活発化してきた。
「BOC のマイクログリッ
ビル配線と接続されており、実際に系統網が
ドもその一環で、消費者としての立場とさま
停電した際には、実際のマイクログリッド運
ざまなソリューションやツールを提供してき
用を行うことも可能である。
たプロバイダーとしての立場を生かして、電
力会社と共に新しいビジネスモデルを創造し
ていきたい」と Feasel 氏は語る。
電力会社と提携して新モデルに挑戦
Schneider の狙いは、BOC をマイクログリ
ッドのリビングラボとしてショーケースにす
ることにより、顧客に実際のマイクログリッ
ドの稼働状況を確認してもらい、同社のソリ
ューションを普及させることにある。
Schneider グループの北米エネルギー事業
の責任者である同社副社長の Mark Feasel 氏
(図 9)は、米国市場でマイクログリッドソ
リューションのニーズが高まってきた背景に
[図 9] Mark Feasel 氏
(出所:Schneider)
6
JSCA NEWS LETTER
スマートサービス
-
米国で住宅用蓄電システムが採算ベースに
田淵電機、ハワイやアリゾナで本格発売開始
米国の一部の州や欧州、オーストラリア、
合わせたシステムを米国市場で発売し始めた
ニュージーランドで、住宅向けに太陽光発電
のが、田淵電機の米国法人である Tabuchi
と蓄電池をセットにしたシステムが採算ベー
Electric Company of America である。
スに乗ってきたことから、販売が本格化して
きた。HEMS(家庭用エネルギーシステム)や
実証段階から実ビジネス段階に突入
見える化のためのモニターなどを加えたトー
同社社長の藤井青美氏は、
「2016 年 7 月か
タルシステムとして提供するのが最近のトレ
らアリゾナ州、ハワイ州、カリフォルニア州
ンドである。エネルギー管理を最適化し省エ
で蓄電池と PCS を組み合わせたハイブリッド
ネ化を図り、コストを最小に抑える。
システムの経済的メリットが出てきたことか
同システムには、太陽光発電システムメー
ら、本格発売が始まった」と語る(図 1)
。同
カー、蓄電池メーカー、パワーコンディショ
社は 2015 年7 月に米国市場に同ハイブリッド
ナー(PCS)メーカーなど各分野から参入して
システムを発売した。ここ 1 年間は実証実験
いる。その中で、マルチストリング方式(複
段階だったが、ここに来て顧客自身の判断で
数の回路ごとに制御して発電量を高める手
導入が進んできたという。
法)の PCS を核にして、PCS と蓄電池を組み
藤井氏によると、その背景には(1)ハワイ
州やアリゾナ州など電気代が 35 セント/kWh
を超え、太陽光発電の電力を蓄電して自家消
費率を高める意味が出てきた、
(2)ハワイ州
やネバダ州などネットメータリング制度(太
陽光発電の余剰を小売価格で売電できる仕組
み)が廃止または見直され、逆潮流するより
自家消費する機運が高まってきた、
(3)アリ
ゾナ州など、デマンドチャージ(需要ピーク
に対して課金される料金メニュー)が住宅部
門にも適用されたことにより、蓄電池を使っ
たピークカットのニーズが強まってきた、と
[図 1] ハワイ州オワ
フ島の住宅に導入さ
れた 5.5kW の PCS
(上)と 10kWh/3kW
蓄電池(下)(出所:
Tabuchi Electric)
いう 3 つがあるという。
中でも、
(3)のデマンドチャージは、太陽
光発電の普及が進むにつれ拡大しつつある。
アリゾナ州では、夕方の 17~19 時の時間帯に
7
JSCA NEWS LETTER
太陽光パネルが発電しなくなると共に需要が
フルセットシステムを2 万9500 ドルで販売し
増えることから、急速にピークが立つ。1 家
ている。カリフォルニア州など太陽熱温水器
庭で 7kW 程度の需要ピークになると月額で
を選択しない顧客が多い州もあり、その場合
100 ドル近いデマンドチャージが課されるこ
2 万 7500 ドルが標準価格という。ファイナン
ともあるという。このため同州では太陽光発
スとしては、リースも設定しているが、現金
電システムを導入しても電気代が下がらない
かローンによる自己保有モデルを選択する顧
状況になってきたため、蓄電池の採用に踏み
客が多いとしている。初期投資分を電気代の
切る家庭が出てきた。アリゾナ州に続いて、
削減分で償却するペイバック期間は「5~6 年
ノースカロライナ州とサウスダコタ州も住宅
に短縮されてきた」
(藤井氏)という。
向けデマンドチャージを検討している。
このほか、ハワイ州では、ネットメータリ
3 ストリングの MPPT で効率アップ
ング制度の廃止で買取価格が低くなってきた
同社の 5.5kW の PCS を中核にした家庭用シ
ことに加え、太陽光発電の普及が拡大した地
ステムの構成(図 2)は、太陽光パネルから
域では、余剰電力を電力会社が買い取らない
の直流を 3 つのストリングによって PCS に入
「セルフ・サプライ・プログラム」が提示さ
力させる。その際、ストリングごとに MPPT(最
れたことから、蓄電池を搭載した自家消費モ
大電力点追従機能:天候により不安定な電圧
デルが登場してきた。電力会社はこのプログ
と電力を制御して最大の電力量を取り出す機
ラムを推奨しており、同プログラムを選択し
能)付きの DC/DC 変換器で処理することによ
た消費者は、系統連系の早期認定が得られる
って、3 方向に違った方角に設置された太陽
などの特典を与えている。
光パネルでも最大の電力量を取り出せるとい
カリフォルニア州では、連邦レベルの税金
う特徴がある。太陽光パネルと蓄電池(10kWh
控除制度である ITC(Investment Tax Credit)
/3kW)は、PCS を介して直流で繋がっており、
を活用して、蓄電池付きシステムを導入する
交流に変換することなく直流のまま充電する
顧客が増えてきているという。
ことで変換ロスを抑えている。
Tabuchi Electric は、例えばハワイ州では、
PCS では太陽光パネルおよび蓄電池からの
5.5kW の太陽光パネル、PCS、蓄電池(10kWh)
、
直流を交流に変換して通常時は「メイン分電
リモコンなどに加えて太陽熱温水器も加えた
盤」に送り、家庭内機器に電力を供給すると
[図 2] 住宅向け 5.5kW 太陽光
パネルと PCS、蓄電池シス
テムを組み合わせたシステム
構成(出所:Tabuchi Electric、
和訳:日経 BP クリーンテック
研究所)
8
JSCA NEWS LETTER
共に、必要に応じて逆潮流によって系統網に
減するために、指定した閾値以上にはピーク
流す。メイン分電盤には系統網からの電力も
時間帯に買電しないようにバッテリーに貯め
供給される。停電等の非常時には、メイン分
た電力をうまく活用する「ピークカットモー
電盤の系統側回路を閉じて系統網から遮断
ド」を使う。ハワイ州のように逆潮流できな
し、
「バックアップ用分電盤」に太陽光または
いプランを選択する場合には、蓄電池をでき
蓄電池からの電力を流して、
「バックアップ用
る限り活用して自家消費率を上げる「自家消
分電盤」に接続された非常用の家庭内電気製
費モード」を使う。経済的なモデルではない
品を稼動させる。PCS には通信機能がついて
が、停電等の非常時だけに蓄電池を使う「バ
おり、発電・消費の状況をモニターすると共
ックアップモード」も用意している。
に、リモコンで手動制御できる。
Tabuchi Electric は、PCS と蓄電池を組み
合わせたシステムと共に、今後住宅内のエネ
制度や料金プランに合せてモード設定
ルギーを最適化するソリューションの提供に
同社のシステムには、各州の制度や電力会
力を入れていく考えだ。ただし、米国で近年
社ごとに異なる料金プランにフレキシブルに
注目される蓄電池活用のサービス事業につい
合わせられるように、いくつかのモードが用
ては「パートナーと提携して進めていく」(藤
意されている(表 1)
。
井氏)という。
ネットメータリングがまだ制度化している
実際、同社は 2015 年 8 月にエネルギー管理
地域では、日中に積極的に太陽光発電の余剰
向けソフトウエアの開発企業 GELI(Growing
電力を逆潮流することで電気料金を低減で
Energy Labs, Inc.,) と業務提携すると発表
き、それに加えて TOU(時間帯別料金) が制度
した。GELI とは、効率的な蓄電池管理システ
化されている地域ではオフピーク時の安い電
ムなどのソフトウエア開発を進めると共に、
気を充電してピーク時に使うことが可能とな
「蓄電池を活用した VPP(仮想発電所)やアグ
る「売電モード」を使う。デマンドチャージ
リゲーションなどのビジネスモデルを検討し
料金が適用される地域では、ピーク料金を削
ていきたい」(藤井氏)としている。
[表 1] 制度や料金プランに合せたモードの運用と適用内容
動作モード
運用
適用
売電モード
・日中(7:00~17:00):太陽光発電の余剰を系統網へ売電
・ネットメータリング
・ピークタイム(17:00~23:00):蓄電池からの放電、系統網からの買電
・TOU
・夜間オフピークタイム(23:00~7:00):送電網からの買電による蓄電池への充電
ピークカット
・日中:太陽光発電の余剰を蓄電池に充電し、さらに余剰を系統網へ売電
モード
・ピークタイム:蓄電池からの放電、系統網からの買電(閾値を設定)
・デマンドチャージ
・夜間オフピークタイム:蓄電池が余っている場合は放電も可能
自家消費
・日中:太陽光発電の余剰を蓄電池に充電
・自家消費
モード
・他の時間帯:蓄電池からの放電、足りない部分は系統網から買電
バックアップ
・日中:太陽光発電の余剰を系統網に売電
モード
・ピークタイム・夜間オフピークタイム:系統網からの買電、系統網からの買電による蓄電池への充電
・非常時バックアップ
・非常時:蓄電池からの放電
(出所:Tabuchi Electric の資料・取材を基に日経 BP クリーンテック研究所が作成)
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JSCA NEWS LETTER
Smart Buzzword
再エネ電力小売り
ても、実際には異なる電力を詐称する事業者
1.定義・ビジネスモデル
がいた経緯から、再エネであることを認証し
「再エネ電力小売り」とは、電力小売事業
たうえで小売りする事業者が増えている。欧
者が販売する電力の電源構成として、再生可
州、米国の一部の州など電力自由化地域では、
能エネルギーを使っていることをアピールす
規制当局や非営利団体などが再エネ認証をス
ることによって、需要家に対して環境価値を
タートさせており、その一部は広く認知され
提供するビジネススキームである(図 1)
。
再エネ電力普及に貢献している。
再エネの種類としては、水力、太陽光、風
力、波力、潮力、バイオマス、地熱、廃棄物
グリーン電力証書で“お墨付き”
エネルギーなどを指す。
「グリーン電力」とも
英国では、規制当局の Ofgem(Office of Gas
いう。需要家のうち、事業者は顧客に対して
and Electricity Markets:ガス・電力規制局)
再エネを使うことによって地球環境に貢献し
が
ていることをアピールできる効果があり、家
Certification Scheme:グリーン電力供給業
庭の需要家でも環境意識の高い層から支持さ
者認証スキーム)でグリーン電力であること
れている。
を明確にするためのガイドラインを設けてい
GESCS ( Green
Energy
Supplier
再エネ電力をメニューとして提供したい小
る。ドイツでも、民間団体によって RECS 証
売事業者は、自社で保有する再エネ電源の活
書(Renewable Energy Certificate System
用、再エネ発電事業者からの PPA(Power
Certificate)が設立され普及している。米国
Purchase Agreement:電力購入契約)や FIT
には、サンフランシスコに本拠を置く非営利
(Feed-in Tariff:固定価格買取制度)によ
団体 CRS(Center for Resource Solution)
る買電、卸電力市場からの調達といった手法
が「Green-e」と呼ぶグリーン電力認証を行っ
で再エネ由来の電力を調達する。
ており、グリーン電力をメニュー化した小売
小売事業者が「100%再エネ」などとうたっ
事業者の 75%が同認証を受けている。
[図 1] 再エネ電力小売りのスキーム(出所:日経 BP クリーンテック研究所)
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JSCA NEWS LETTER
の一角を占めるまでになった。両者ともに自
2.企業・プロジェクト動向
社の再エネ電源を強化すると共に、再エネ発
欧米で再エネ比率を 50%以上に高めた電
電事業者から再エネを調達し、非再エネ電力
力メニューを提示する小売事業者が増えてい
と比べてもそん色ない価格設定が特徴であ
る(表 1)
。
る。Good Energy は 5 万件、Ecotricity は 15
英国では、Ofgem が 2013 年に制定した EMR
万件以上の需要家を獲得している
(Energy Market Reform:電力市場改革)で
ドイツでは、シェーナウ市にある電力小売
電力料金プランを 1 小売事業者当たり 4 つま
事業者 EWS(Elektrizitätswerke Schönau)
でしか認めない規制を行ったが、これは「ビ
が再エネ電力を 10 万件の需要家に通常より
ッグ 6」と呼ばれる大手事業者だけに適応さ
もむしろ安い料金で供給している。欧州の卸
れた。大手事業者の多くは、競争力が低いと
電力市場を活用し、特にノルウェーの水力発
判断した再エネプランを外したが、新規参入
電の電力を原子力や火力並みの価格で調達で
事業者は料金メニュー規制を受けなかったた
き、配電網を所有していることも大きい。
また欧州では、熱導管を保有して、電気と
めに、再エネプランについても前面に立てて
熱をセット販売する小売事業者も多く、コジ
小売り競争に臨んだ。
その結果、Good Energy や Ecotricity とい
ェネの採算性が高い。そのコジェネの燃料を
った事業者が「再エネ 100%」メニューを武
天然ガスからバイオマスに変換する動きが活
器に成長し、ビッグ 6 に対抗した「リトル 6」
発化している。例えば、スウェーデンの地域
[表 1] 再エネをメニュー化している主要電力小売電気事業者
*本紙(JSCA ニューズレター特別版)
小売事業者名
特徴
掲載号*
英 Good Energy
再エネ比率 100%のメニューを武器に 5 万件以上の顧客を獲得。競合他社の非再エネ
――
エネルギーとそん色ない料金プランと手厚い顧客サポートも実施
英 Ecotricity
電気・ガスともに 100%再エネメニューを提示。それぞれ 1 種類のみの簡素な料金プランと
――
手厚い顧客サポートも実施して、15 万件以上の顧客を獲得
独 EWS(Elektrizität
天然ガスコジェネ 0.4%以外すべて再エネ由来の電力(再エネ比率 99.6%)を供給。
――
-swerke Schönau)
中心はノルウェーの水力発電電力を調達。ドイツ全土の約 10 万件の顧客に電力供給
スウェーデン Kraftringen
バイオオイルやバイオガス、バイオチップを中心とした再エネ電力と熱を供給。再エネ比率は
2014 年5 月
現在 75%、今後 10 年で 100%にする計画
30 日号
米 AMP(Alameda
再エネ認証の 1 つである「Green-e」の認証を受けた再エネ 100%のメニューを、カリフォル
――
Municipal Power)
ニア州アラメダ市の顧客に提供。再エネ電力は米国西部の風力発電所などから調達
米 MCE(Marin Clean
CCA(Community Choice Agreement)の仕組みにより、再エネ比率 52%と
2016 年6 月
Energy)
100%のメニューを提示。PPA や卸電力市場のほか自社保有の再エネ発電からも調達
30 日号
ソフトバンク
SB エナジーが運営するメガソーラーなどから小売電気事業者の SB パワーが調達して、東
――
京電力エリア、北海道電力エリアで販売、順次拡大。再エネ(FIT)比率 60%が目標
トドック電力
親会社のコープさっぽろが取次となって、組合員向けに再エネ(FIT)比率 60%の電力
――
を販売。メガソーラーのほか、風力やバイオマスの電力を調達
NTT スマイルエナジー
8~16 時の昼間のみ再エネ(FIT)比率 100%の電力を供給。エネットと共同で全国
――
8000 カ所の小規模太陽光発電所から電力を調達
11
JSCA NEWS LETTER
エネルギー会社である Kraftringen 社(旧
に選択し直すこと(オプトアウト)が可能な
Lund Energy)は、地下約 800m から 20℃の地
ものの、CCA への参加率は 8 割以上と高くな
中熱をすくい上げ、天然ガスコジェネやボイ
っている。
ラーで熱水と電気を製造しているが、バイオ
全米で最初に CCA を導入したのが、カリフ
マスに切り替えており、現在の再エネ比率の
ォルニア州サンフランシスコ北部に位置する
75%を、
今後 10 年で 100%にするとしている。
マリン郡にある MCE(マリーンクリーンエナ
米国でも再エネ 100%をうたう小売事業者
ジー)で、2010 年に事業を開始した。その後、
が登場しており、例えばカリフォルニア州ア
サンフランシスコ市にあるクリーンパワー
ラメダ市の AMP(Alameda Municipal Power)
SF、ベイエリアのペニンシュラクリーンエナ
は、100%の再エネメニューを用意し、やや割
ジー、ソノマクリーンパワー、ロサンゼルス
高なものの顧客の環境意識に訴えて顧客を獲
市近郊のランカスターチョイスエナジーの 4
得している。再エネ電源は、米国西部の風力
社が CCA 事業に参入した。
発電所から 95%、カリフォルニア州の太陽光
ベイエリアではさらに 2 自治体が近くスタ
ートさせるほか、ロサンゼルス市やサンディ
発電所から 5%を調達している。
エゴ市の自治体のいくつかも CCA に興味を持
「CCA」による再エネ小売りも米国で拡大
また米国では、垂直統合型の電力会社が残
る州や地域で、住民の選択肢を広げるための
っており、今後さらに増えそうだ。米国全体
では 7 州で CCA 法が施行され、全米に拡大す
る勢いだ。
「CCA(コミュニティ・チョイス・アグリゲー
日本では、2016 年 4 月 1 日にスタートした
ション)
」という法律が施行され、自治体や住
電力小売りの全面自由化を機に、再エネ由来
民代表が運営する非営利の電力会社が再エネ
の電力をアピールした料金メニューを発表す
を独自に調達して住民に再エネ比率の高い電
る企業が登場してきている。現状では、経済
力を供給するビジネスモデルが登場した(図
的メリットの大きい FIT 電気を主体にする企
2)
。CCA 法では、CCA 事業が始まった地域の住
業が多い。その際、どの程度の再エネ比率に
民は、デフォルトとして CCA に参加すること
できるかが問題になるが、再エネ電源の比率
が義務付けられる。移行後に既存の大手電力
を 60%と高く設定しているのがソフトバン
[図 2] CCA 事業のスキーム。CCA 事業者は再エネをさまざまな手法で調達し、既存の垂直統合型電力会社の送配電網を活用して消
費者に再エネ比率の高い電力を供給(出所:日経 BP クリーンテック研究所)
12
JSCA NEWS LETTER
クとコープさっぽろの子会社であるトドック
式洋上風力、潮力、波力、地熱などの再エネ
電力である。
の種類も多様化していき、小売事業者や需要
ソフトバンクはまず北海道電力エリアと東
家の選択の幅も広がっていくだろう。
京電力エリアで再エネ比率の高い電気を販売
ただし、こうした再エネの普及は、FIT に
するとし、同社が全国で運営するメガソーラ
代表される優遇策や施策によるところが大き
ーから調達する。夜には発電しないメガソー
く、また系統網が不安定電源である再エネを
ラー中心のため、60%もの高い比率をどのよ
受け入れる余地があったという面も大きい。
うに達成するのかに注目が集まっている。一
今後は、こうした課題を克服しながら、さら
方のトドック電力は、水力とバイオマス、風
なる普及を目指すことになる。
力が再エネ電源の中心である。
また、8~16 時の昼間のみ再エネ(FIT)比
ポスト FIT 時代のビジネスチャンスとは
率 100%というユニークなメニューをうたっ
FIT の廃止・見直しが検討されており、FIT
ているのが NTT スマイルエナジーである。エ
が終了してもいかに再エネがコスト競争力を
ネットと共同で全国約 8000 カ所、合計約 27
確保できるかに今後の普及がかかっている。
万 kW の小規模太陽光発電設備から FIT 電気を
実際、低コスト化は着実に進んでおり、再エ
調達する。昼間における 30 分ごとの電気使用
ネによる発電コストが既存の電力のコスト
量合計値と、太陽光の発電量(売電量)の 30
(電力料金、発電コストなど)と同等かそれ
分ごとの合計値を比較し、どの時間帯でも発
より安価になるグリッドパリティが一部の地
電量が使用量を上回っている状態を 100%と
域では実現しており、その地域は少しずつ拡
みなしている。
大していく。
さらに家庭や事業所向けの小型蓄電池の低
3.展望・ビジネスチャンス
コスト化も進み、将来的には蓄電池を設置し
再 エ ネ 関 連 団 体 の Renewable Energy
ても、十分に採算がとれる「蓄電池パリティ」
Policy Network for the 21st Century(REN21)
も実現され、地産地消モデルが本格化する。
が 6 月 1 日に発表した年次報告書「再生可能
今後、こうしたポスト FIT 時代のビジネス
エネルギー世界白書 2016(Renewables 2016
モデルを検討していく必要がある。電力小売
Global Status Report)
」によると、2015 年
事業者としても、消費者に対して単に再エネ
末時点の世界の再エネ発電量は、全体の発電
電力を供給するだけなく、こうした自家発電
量のうち 23.7%を占めるまでに成長した。
設備の自家消費をサポートするサービスモデ
再エネ 100%やグリーン電力であることを
ルを検討する段階になってきている。
認証する組織も各国で設立され、消費者が安
その際に重要性を増してくるのが、需要家
心して再エネ電力を購入できる環境も整いつ
サイドに設置された小規模発電設備や蓄電
つある。今後再エネ電力メニューは定着して
池、負荷を含めた各種エネルギー機器を VPP
いき、各種メニューの中でも中心的な存在に
(Virtual Power Plant:仮想発電所)として
なっていくだろう。
運用する技術とビジネスモデルである。日本
再エネの種類としては、現在は大型水力が
企業は、スマートグリッドプロジェクトなど
中心だがこれ以上の新設は難しい。太陽光や
で技術実証では多くの蓄積がある。それを活
風力(陸上、洋上固定式)
、バイオマスが 3
かしてビジネスモデルを構築できるかが今後
本柱として拡大すると共に、中小水力、浮体
の課題である。
13
JSCA NEWS LETTER
連載・海外スマートシティの成功要因と標準化動向(8)
スマートシティの国際標準化動向(2)
日本主導で「スマートな都市インフラ」指標化
河野通長
ミチクリエイティブシティデザイナーズ 代表取締役社長
日本大学理工学部 上席客員研究員(公共政策)
本連載のテーマの 1 つは国際標準化である
設置され、日本が提案した「スマートな都市
が、2016 年 3 月 31 日号で ISO(International
インフラ」は同技術専門委員会の下の SC1
Organization for Standardization:国際標
(Subcommittee 1:第 1 小委員会)と位置付
準化機構)を舞台とした、持続可能な都市の
けられ、TC268/SC1 となった。
評価指標の制定に関する活動のこれまでの経
過を、関係国間あるいは標準化団体の間での
TC268/SC1 の活動が進展
TC268/SC1 は、国際議長に日立製作所の市
主導権争いの実態を通じて紹介した。
本稿では、国際標準化動向の 2 回目として、
川芳明氏、国際幹事にみずほ情報総合研究所
日本が主導的に推進している「スマートな都
の遠藤功氏を迎え、2012 年 7 月にパリ郊外の
市インフラ」の評価指標の標準化に焦点を当
フランス規格協会で開催された TC268 の全体
てて紹介する。
会合ならびに関連部会会合で活動を開始した
前回解説したように、日本、フランス、カ
(図 1)
。国際会合は親委員会(TC268)とそ
ナダの 3 カ国から ISO に対して「都市指標」
の関連作業部会会合と合せて、毎年 3 回、参
に関連した標準化活動が提案された。結果的
加国の規格協会などをホストとして開催され
にはフランスを親委員会の議長として日本と
ている(表 1)
。
カナダがその下部組織を構成する形で、2012
年 2 月に TC268(第 268 技術専門委員会)が
[表 1] ISO TC268 および関連会合の開催履歴
開催年
開催月(開催地)
2012 年
7 月(パリ)、10 月(ロンドン)
2013 年
2 月(パリ)、7 月(ボルンホルム)、10 月
(ジュネーブ)
2014 年
2 月(横浜)、5 月(トロント)、9 月(ナ
ント)
2015 年
1 月(バルバドス)、6 月(グラズミア)、10
月(パリ)
[図 1] 2012 年 7 月にフランス規格協会で開催された ISO TC268 および
関連小委員会・作業部会の第 1 回会合の様子(撮影:河野通長)
2016 年
1 月(ウイーン)、6 月(杭州)、10 月
(ボストン・予定)
14
JSCA NEWS LETTER
小委員会における国際議長の決定に当たっ
題で、2014 年 2 月 15 日に公示された。
ては親委員会の承認を必要とするが、規格制
同ドキュメントは国際規格(International
定に関しては独自に規格案を策定し、小委員
Standard)ではなく、技術報告書(Technical
会参加国による投票での採決を経るため、規
Report:TR)である。ただし、その序論にお
格制定の実務上は上位の技術専門委員会と同
いてスマートな都市インフラの評価指標の国
等な活動が可能である。
際標準化の目的とユースケースが記述されて
また規格案の策定は技術専門委員会あるい
おり、後続する規格の位置づけを示している。
は小委員会の下部に設置される作業部会
スマートな都市インフラ分野の国際標準化
(Working Group)が実施するので、TC268/SC1
の目的として、都市やコミュニティのサステ
の下に第 1 作業部会が置かれた。
ィナブルな成長に求められる「都市インフラ
の技術的な性能」を評価するための「調和の
先行活動の調査報告書を公式発行
とれた尺度」を制定することによって、都市
TC268/SC1 第 1 作業部会が最初に実施した
インフラ製品やサービスの国際的な通商を促
活動はスマートな都市インフラの指標に関す
進するとともに先端技術の普及を図ることと
る先行活動の調査であった。作業部会の参加
している。
国のエキスパートが提供する資料(寄書)を
すなわち、スマートな都市インフラとは技
収集し、分析する。それにより、ここで制定
術的に評価されるものを対象とすること、な
しようとしている規格に相当するものが既存
らびに様々なステークホルダーやインフラの
の活動の中に存在せず、新たな標準化作業を
種別について「サスティナビリティを保つた
実施することが必要であるとの裏付けを示す
めに調和のとれた」尺度で都市インフラを評
ための調査である。
価すべきものという姿勢を明確にしている。
これらの調査と複数の会合における各国委
また、この技術報告書の読者として、中央
員による議論の後にドキュメントが作成され
政府/地方政府、地域組織、都市計画者、デ
て参加国投票に付議された。同ドキュメント
ベロッパー、都市インフラ事業者、都市イン
は承認され、ISO/TR 37150「Smart community
フラへの技術提供者、消費者団体などの民間
infrastructures - Review of existing
公益団体などを想定している(図 2)
。
activities relevant to metrics」という表
技術報告書の作成に次いで TC268/SC1 が
[図 2] ISO/TR
37150 に記載さ
れた各ステーク
ホルダーにとっ
ての便益(出
所:ISO/TR
37150 に基づき
河野通長作成)
15
JSCA NEWS LETTER
取り組んだのは、スマートな都市インフラの
最適化および協調化のための原則を示し、要
性能指標の定め方の原則と要件の制定であっ
求仕様を明らかにすると共に、スマートさ、
た。この検討の中では、都市インフラの「ス
相互運用性、シナジー、レジリエンス、安全
マートさ」をどのように捉えるか、また、ハ
と保安などの面からの分析についての推奨を
ードウエアとしてのインフラや設備とその上
与えるものである」
(同仕様書 1 Scope より抜
で提供されるソフト面のサービスとをどのよ
粋、河野通長訳)
。
うに切り分けるか、などが議論された。
また、エネルギー、上下水、交通、通信な
指標制定の 3 つの基本原則を規格化
どのインフラにおける個別の技術規格につい
この仕様書では 3 つの考え方が重要であ
てはそれぞれに専門の技術委員会が存在して
る。第 1 に仕様書の「用語と定義」の章に記
国際標準化活動を進めており、TC268/SC1 で
載された「スマートな都市インフラ」の『定
検討する「スマートな都市インフラ」の規格
義』
、第 2 にここで論じる都市インフラをどの
はこれらと矛盾なく整合性をとることも課題
範囲とするかという点、第 3 にスマートさを
となった。このため、個々のインフラに固有
どう規定するか、である。
の具体的な性能項目に入り込むことなく、ス
第 1 の「スマートな都市インフラ」の『定
マートさの一般概念について各種のステーク
義』は以下のように記述されている。
「スマー
ホルダーの便益の視点から議論を進めた。
トな都市インフラとは、都市の持続可能な開
発とレジリエンスに資するために設計され、
技術仕様書として ISO/TS 37151 公示
運用され、保守されるように改善された技術
議 論 の 成 果 は ISO / TS 37151 「 Smart
的性能を備えた都市インフラである」
。すなわ
community infrastructures - Principles and
ち、スマートな都市インフラは技術的な改善
requirements for performance metrics」と
点を備えていなければならない。
して 2015 年 5 月 1 日付けで公示された。この
さらに、この定義には次の 3 つの注記が添
ドキュメントは具体的な尺度や測定方法など
えられている。
「注 1:この仕様書で『スマー
を規定する国際標準ではなく、要求仕様や規
ト』であると論じられるのは都市インフラで
格制定の原則を定めた技術仕様書(Technical
あって、都市そのものではない」
、
「注 2:持
Specifications:TS)として発行された。
続可能な開発は複数の要求を、また往々にし
本技術仕様書のスコープ(適用範囲)は以
て相反する要求を都市インフラに対して同時
下のように記述されている。
「この技術仕様書
に突きつける傾向がある」
、
「注 3:情報通信
は、都市インフラの性能指標の定義、識別、
技術(ICT)は実現手段の 1 つではあるが、ス
マートな都市インフラ実現の前提条件とみな
してはならない」
。
この注 2 で述べられている課題が先に発行
された技術報告書において「調和のとれた尺
度」という表現と同根である。
第 2 の都市インフラの範囲について仕様書
は 3 階層のモデルを提示している(図 3)
。す
[図 3] ISO/TS 37151 に示された都市(コミュニティ)のレイヤー
構造(出所:ISO/TS 37151 に基づき河野通長作成)
なわち、都市の便益は 3 つの階層(レイヤー)
で表現され、最下層が都市を支える都市イン
16
JSCA NEWS LETTER
フラレイヤーで、ここにはエネルギー、上下
これは持続可能な社会の存続を論じる際に
水、交通、情報通信ならびに廃棄物処理など
用いられる「トリプルボトムライン」のフレ
の静脈インフラが含まれる。都市インフラレ
ームワークに類似しているが、仕様書では 3
イヤーの上にあるのが住宅、商業施設、オフ
つを同格の 3 要素ではなく、社会と経済を都
ィス、工場、病院、学校などの都市施設レイ
市機能の需要者と供給者の立場で捉え、環境
ヤーで、都市インフラはこれらの施設の機能
は両者を包み込む枠組みとしている(図 4)
。
を支えると共に住民は施設において都市の便
また、それぞれの視座から都市インフラに
対して求める「技術的性能」をより明確に示
益を享受する。
さらに、都市施設レイヤーの上に教育、ヘ
すために、社会、経済の視座を住民、都市管
ルスケア、公安などの都市サービスのレイヤ
理者(行政およびインフラ事業者を含む)と
ーがあり、このレイヤーで住民に対する都市
擬人化して記述している。その上で、それぞ
の便益が実現される。しばしば「医療は重要
れの視座から都市インフラに求めたい技術的
な都市インフラである」といった議論が聞か
性能をインフラの種別にかかわらず共通的な
れるが、確かに医療は都市が住民に提供する
特性として抽出している。
大切なサービスでインフラにも匹敵する重要
これらの視座と都市インフラの関係につい
さを持っている。だが、この国際標準化活動
て、鉄道を例によって説明してみよう。住民
の中では図 3 に示すモデルに基づいて、ハー
の立場からすると、行きたい時にすいていて
ドウエアとしてのインフラ設備と上位のサー
快適な電車に乗りたいという要求があり、こ
ビスとを切り分けていることに留意したい。
のためには鉄道の運行頻度を高めてもらいた
い。一方、鉄道事業者の立場からすると、乗
ステークホルダーの 3 つの視座を導入
客のニーズを満たしつつも運行頻度は下げて
第 3 の「スマートさ」の規定については議
運行コストを抑えたいという要求を持つ。環
論が発散しがちであるが、この技術仕様書で
境の視座からは列車の運行頻度を下げる方が
は「都市インフラのスマートさ」に関与する
温室効果ガスの排出削減や都市の騒音減少に
ステークホルダーとして、社会、経済、環境
役立つので、ここでは鉄道事業者側に「加担」
の 3 つの視座を置いている。
することになる。
[図 4] 技術仕様書における社会=住民、
経済=都市(コミュニティ)管理者、環境
の各視座の関係(出所:ISO/TS 37151
に基づき河野通長作成)
17
JSCA NEWS LETTER
しかし、一方において環境の視座は鉄道事
業者に対して既存の車両からエネルギー効率
もこの議論の過程で提起されなければ国際規
格に取り込まれることはない。
の高い新型車両への更新を求める力として働
ISO/TS 37151 が提示する主要な原則は、
くので、投資を抑制したい事業者の視座とは
スマートな都市インフラを標榜するにはこれ
対立を生ずることになる。
ら 14 件の要件のいずれかに合致し、その側面
を強調することが求められる、ということで
視座に対応した 14 の「要件」を設定
ある。また、ここで挙げられた 14 件の要件は、
こうした考え方を基に、3 つの視座から都
エネルギー、水、交通など異なる種類の都市
市インフラに求める「技術的性能」を抽出し
インフラに対して同様に適用される共通原則
て表 2 に示すような 14 件の要件(TS 37151
でもある。
では「Needs」と名付けている)を設定した。
ここでこれら 14 の要件が都市インフラのス
マートさを評価する上で理論的に必要十分で
「スマートさ」規格は次のステージへ
ISO/TS 37151 が制定されたことにより、
あるか、という議論はあまり意味を持たない。
スマートな都市インフラの評価指標の策定ル
なぜならば、国際規格の制定(標準化)作業
ールが確立したことになる。TC268/SC1 で
というのは、議長国が提示した素案に対して
は、これに続いて 2 つの方向で活動を展開し
参加国が様々な対案や修正意見を出し、その
ている。
採否を議論したうえで多数決によって合意が
1 つは TS 37151 に基づいて個別のインフラ
得られるところに落ち着くからである。従っ
の分野でスマートさを規定する国際規格の制
て、別の立場から見れば重要な要件であって
定である。まずは、交通分野を先行的に取り
上げて審議を進めている。これは、鉄道を中
[表 2] スマートな都市インフラの視座と要件
視座(Perspective)
心とする交通分野は日本の得意分野であるこ
要件(Needs)
とを念頭に置いたもので、日本が提案し、コ
住民(Residents
可用性(Availability)
[end-users,
入手可能性(Accessibility)
beneficiaries,
値ごろ感(Affordability)
consumers])
安全と保安(Safety and security)
はなく、インフラをシステムの複合体(System
サービスの質(Quality of service)
of Systems)として捉えた時の相互関連性や
都市運営者
運用効率(Operational efficiency)
成熟度といった観点からの評価を目指すもの
(Community
経済効率(Economic Efficiency)
managers)
性能情報の入手可能性(Performance
である。
ンビナー(WG の議長)も日本が獲得している。
もう 1 つは個別のインフラに関する規格で
information availability)
これらの活動はそれぞれ、TC268/SC1 の下
に作業部会(WG)を設置して進められている。
保守性(Maintainability)
強靭性[復旧性](Resilience)
本連載でもこれらの作業部会の活動内容とそ
環境
資源の有効活用(Effective use of
の影響を解説する予定である。
(Environment)
resources)
次回は、筆者が 9 月末に米国ワシントン DC
気候変動(影響)の回避(Mitigation of
climate change)
汚染防止(Prevention of pollution)
で開催される米国最大のスマートシティ関連
イベントである「Smart Cities Week 2016」
生態系の保全(Conservation of
に参加するため、そこでの議論や視察の内容
ecosystem)
を中心に、米国のスマートシティの最新状況
(出所:(出所:ISO/TS 37151、和訳:河野通長)
を報告したい。
18
JSCA NEWS LETTER
注目のニュース
05
タイトル
国
主体者
掲載媒体・発表主体
掲載日
出典・URL
アジア開発銀、パキスタ
ンに 8 億 1000 万ドルの
資金援助、送配電網の拡
充に充当
西 Iberdrola が節目とな
る 800 万台のスマートメ
ーター設置を達成
米 Uber が自動運転や電
気自動車による配車サー
ビスの導入を開始
英 Ceres Power と 米
Cummins が米 DOE の支援
を受け固体酸化物形燃料
電池を開発
インドの大手電力事業者
が、盗電対策で電力損失
を特定する装置を導入
英国の老朽石炭火力発電
所がバイオマス発電に転
換、2018 年の操業再開へ
世界初、地熱発電のみで
エネルギーを賄うフィリ
ピン・ルソンの大学
蘭 KLM 航空が米ロサンゼ
ルス出発の全便で今後 3
年間バイオ燃料を採用
米エネルギー省と内務省
の両長官が洋上風力発電
に関する国家戦略を共同
で発表
英 National Grid の 10MW
定置型蓄電池プロジェク
ト、
独 E.ON が受注を獲得
パキ
スタ
ン
アジア開発銀行
(ADB)
アジア開発銀行(ADB)
2016/8/23
https://goo.gl/pnyNgu
スペ
イン
Iberdrola
Iberdrola
2016/8/26
https://goo.gl/EUy4Pr
米国/
英国
Uber
Technologies
Uber Technologies
2016/8/31
2016/9/14
https://goo.gl/C7w4Vf
https://goo.gl/hiWFKc
米国/
英国
Ceres Power,
Cummins
Ceres Power,
Cummins
2016/9/1
http://goo.gl/eG4Sqo
イン
ド
Rural
Electrification
Power Engineering
International など
2016/9/2
http://goo.gl/Aa0PxT
英国
Lynemouth Power
Power Engineering
International など
2016/9/2
http://goo.gl/nHiAQt
フィ
リピ
ン
米国/
オラ
ンダ
米国
中央ルソン州立大
学(CLSU)
Energy Development
Corporation (EDC)
2016/9/8
https://goo.gl/oCOjuJ
KLM オランダ航空
KLM オランダ航空
2016/9/8
http://goo.gl/csEkBY
米エネルギー省
(DOE)
米エネルギー省(DOE)
2016/9/9
https://goo.gl/5sNJVf
英国/
ドイ
ツ
E.ON
E.ON
2016/9/13
https://goo.gl/xvJcya
2 次利用で世界最大、
13MWh の定置型蓄電池を
独 Daimler らが稼働開始
米エネルギー省・ARPA-E
が蓄電池などに関する新
プロジェクト「IONICS」
16 件を発表
UAE・ドバイ電力・水庁が
200MW 集光型太陽熱発電
プロジェクトを発注
英国のスマートメーター
導入、技術者不足などで
遅延の恐れ
国際金融公社がフィリピ
ンの省エネ・ビル導入を
推進する取り組みを支援
ドイ
ツ
Daimler AG
Daimler AG
2016/9/13
https://goo.gl/DQUfKZ
米国
米エネルギー省
(DOE)
米エネルギー省(DOE)
2016/9/13
https://goo.gl/IJbQli
UAE
UAE/ドバイ電力・
水庁(DEWA)
Power Engineering
International など
2016/9/14
https://goo.gl/pHWzTe
英国
英国政府
Power Engineering
International など
2016/9/14
https://goo.gl/wFs4K6
フィ
リピ
ン
国際金融公社
(IFC)
国際金融公社(IFC)
2016/9/15
https://goo.gl/Se7PaB
19
JSCA NEWS LETTER
06
ニュース解説
米 Uber が自動運転や電気自動車の導入を開始
自動車の配車サービスを手掛ける米 Uber Technologies が、自動運転や電気自動車(EV)の導
入を開始した。自動運転に関しては、米ペンシルバニア州ピッツバーグで実証サービスの提供を
開始したと発表した。同社は 2014 年 3 月に「Advanced Technology Center(ATC:先端技術セン
ター)
」を同市で開設し、準備を進めていた。ATC の役割は、自動運転による配車サービスを実現
することだったという。同市で Uber を頻繁に利用するヘビーユーザーを招待し、自動運転のサ
ービスを体験してもらう。ユーザーが Uber を使用する際、自動運転車が利用可能であれば、そ
のユーザーにその自動運転車を配車する。自動運転の空車が無い場合、通常の「UberX」として
最寄りの空車がそのユーザーに配車されるという仕組みだ。なお今回の実証サービスでは、安全
性を確保するために運転手も同乗させる。これにより、自動運転では危険の回避が出来ない場合
などに運転手が運転を行うことで、事故などを避けるとしている。EV に関しては、英国のロンド
ンで Uber によるサービスの提供を開始した。ロンドンでは Uber による配車サービスの累積走行
距離の 60%が既にハイブリッド車によるものという。EV 車両としては、日産自動車の「LEAF」
と中国 BYD の「E6」を採用した。10 月までに 50 台の EV が UberX で利用可能になるという。
調査会社の米 Lux Research は、自動運転と EV の統合が不可避であり、これら 2 つの技術革新
が相乗効果で自動車産業のバリューチェーンに大きな影響を与えるだろうとの見解を示してい
る。Uber はその両方を導入し始めており、米 Tesla Motors などと同様に Lux Research の予測を
先取りする急先鋒の 1 社となる可能性が出てきた。
2 次利用で世界最大の定置型蓄電池が稼働へ
2 次利用で世界最大となる定置型蓄電池システムの建設がドイツのリューネン(Lünen)で進め
られている。自動車大手の Daimler が、1 年ほど前から提携企業らと取り組むプロジェクトによ
るもの。定置型蓄電池の容量は 13MWh で、Daimler の EV「smart fortwo electric drive」(第 2
世代)で使用済みの蓄電池パック 1000 個から蓄電池モジュールを取り出し、再利用する。今年
末までには、定置型蓄電池システムの建設と系統への接続が完了し、13MWh の容量をエネルギー
事業者などがすべてフル活用することが可能になるという。
ドイツでは近年、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの導入が急速に進んだ。このため、
系統の増強が追い付かず、風況が良すぎる場合、発電した電力を消費しきれずに風力タービンを
止めるといった状況も頻繁に発生しているという。従って、高容量の蓄電池など、エネルギー貯
蔵システムが系統の安定化や再エネの利用効率を改善し、今後も再エネの導入を継続するうえで
極めて重要な役割を果たす。ドイツ政府は消費電力に占める再エネ比率を 2025 年までに 40~
45%、2035 年までに 55~60%にまで引き上げることを方針として策定している。
今回 Daimler が発表したプロジェクトでは、蓄電池の製造から 1 次利用、2 次利用、リサイク
ルまでの一連のサイクルを参加する企業ですべてカバーしていることも特徴である。具体的に
は、Daimler と同社系列の ACCUMOTIVE が蓄電池システムの製造から一次利用まで、The Mobility
House と GETEC が 2 次利用による定置型蓄電池システムの開発や販売まで、最後に REMONDIS が蓄
電池の回収や資源リサイクルまでを担当するとしている。
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西 Iberdrola、電力計の約 80%をスマメ化
スペインのエネルギー大手 Iberdrola は、同社のサービス地域内にある電力計(15kW 以下)
1050 万台のうち、76%となる 800 万台以上のスマートメーター(スマメ)への切り替えを完了
したことを発表した。同社のスマートグリッド化プロジェクト「STAR」は、2018 年に完了する
見込みで、総投資額は 20 億ユーロ以上となるとみられる。顧客宅でのスマートメーター設置
と並行し、配電網の更新も進めている。具体的には、変圧器センターと呼ばれる配電用設備を
スペイン全土の約 60%に相当する 4 万 8000 カ所で導入した。これによって、配電網の遠隔管
理や配電制御の自動化が可能になったという。スマートメーターへの切り替えや配電自動化に
よるスマートグリッド化は、風力や太陽光といった再生可能エネルギー電源の系統への接続や
EV(電気自動車)の大量導入などへの対応も容易にする。同国における再エネの固定価格買取
制度は実施途中での制度変更などにより発電事業者間で混乱をきたしたこともあるが、電力需
要における再エネ比率が高い時で 50%を超えるなど、スマートグリッド化の効果が出始めた。
スマートメーターの設置によって、顧客にとってもメリットが得られたとする。具体的には、
日毎や週毎での電力消費状況や最大の電力消費の量や日時などの確認、顧客自身による節電や
省エネ化が容易に可能となったこと、などである。今回発表した段階で、同社は設置完了した
スマートメーターの台数規模や配電自動化の比率などから、同社がスマートグリッド導入に関
して世界でも最も先端を行く電力事業者の 1 社になったとしている。
世界初、地熱だけで電力賄う比ルソンの大学
フィリピンのエネルギー大手・Energy Development Corporation(EDC)は、ルソン島中
部のウエヴァ・エシハ州にある中央ルソン州立大学(CLSU)に地熱発電による電力の供給を開
始したと発表した。CLSU は、
「地域 3」と呼ばれるフィリピン中部で最古かつ最大の大学。EDC
系列の電力小売り会社である First Gen Energy Solution との契約締結が完了した後、同大学
は最大 2.9MW 分の電力の購入を開始した。地熱はクリーンで信頼性が高く常時供給が可能とす
る。この契約に基づき、EDC がビコール(Bicol)に所有する地熱発電所が 6 月 26 日以降、CLSU
に電力の供給を開始したという。地熱だけで消費電力を賄う大学は、世界で初めてとみられる。
EDC は、地熱発電ではフィリピン最大の事業者という。その総設備容量は 1169MW で、レイテ
島、ネグロス島、ビコール、北コタバトに同社の地熱発電所がある。再エネでは、地熱以外に
も北イロコス(Ilocos Norte)州の 150MW 風力発電所と、ヌエヴァ・エシハ(Nueva Ecija)
州の 132MW 水力発電所の権益 60%を所有するとしている。
EDC 業務担当副社長の Ricky Carandang 氏は、
「EDC は再エネという選択肢をフィリピンの出
来る限り多くの場所で出来る限り多くの人々に提供する。CLSU は、通年で環境に優しく、途切
れる心配もない化石燃料フリーのエネルギーの利点を享受できる」と述べている。
JSCA NEWS LETTER 2016 年 9 月 30 日 特別版 No.36
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