2009 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール ―癒し系バス化粧品の流行と消費者の動向分析― A0642136 丹部 智美 2010 年 1 月 15日提出 1 卒業論文 ―目次― はじめに (1)調査の背景 (2)素朴な疑問 第一章 癒し系バス化粧品とは (1)本論の目的 (2)本論における癒し系バス化粧品の定義 第二章 LUSH の事例 (1)LUSH とは (2)LUSH の4P 分析 (3)アンケート調査 (4)LUSH の成功要因を考える―仮説と検証― 第三章 癒し系バス化粧品の動向と消費者の動向 (1)化粧品業界における癒し系バス化粧品―動向分析― (2)消費者の使用実態 (3)情報獲得方法・ネットショッピング(PC・モバイル)の実態 (4)口コミュ二ケーションの実態 第四章 高くてもなぜ売れるのか―癒し系バス化粧品が売れる理由― (1)癒し系バス化粧品に対する「癒し」効果の期待度 (2)女性特有の購買心理 (3)高くても買う商品に必要な要素 (4)まとめ 2 ◆はじめに (1)調査の背景 去年のホワイトデーのことである。私は父から LUSH の石鹸の詰め合わせギフトをもらった。 そしてその数日後、偶然にも、友人から同じく LUSH の石鹸とバスボムのギフト(幸運なこと に父が選んだ石鹸とは違うフレーバーの石鹸であった)をもらった。このときはじめて、LUSH に興味を持ち、 「女の子にちょっとしたプレゼントをするときは LUSH」という流行でもあるの かな、と感じた。 LUSH のことは父にギフトをもらうより少し前から知ってはいたのだが、商品自体を自分では 買ったことは無く、その2つのギフトをもらってはじめて LUSH の商品を知ったのである。ギ フトの箱やリボンのパッケージが非常にカラフルでポップでかわいらしく、中をあけるとたくさ んのポップコーンがつめてあり、中からこれまたカラフルな石鹸があらわれた。箱から取り出し た石鹸を見ると、製造者のニックネームが書いており、石鹸なのに賞味期限まで書いてある。実 際に使ってみると、今までの石鹸にはない強めの香りがお風呂場にただよった。 このときから少しずつ私はバス化粧品に興味を持ち始めたのである。ちょっとアンテナをはりだ しはじめ、よくよく観察してみると、新宿や池袋など都心の大きな駅には必ずといっていいほど LUSH などのバス化粧品系ショップがあることに気がついた。ルミネのような駅ビルに入って いたり、百貨店の中に入っていたり、ビルに入るのではなく単独でお店を構えていたり・・・。 LUSH 以外にもフランスのプロヴァンス地方からうまれたロクシタンや、英国うまれのボディ ショップなど自然派バス化粧品ブランドが近年日本で店舗数を増やし、顧客をつかんでいる。 自然派バス化粧品は決して安くない。しかし、若い女性を中心に着実に売上を伸ばしている。 人々が美と健康について感心が高いのは、今も昔も変わらない。しかし、今は就業女性が増える など社会構造が変化し、食生活や家族構成などが大きく変化してきたのに伴って、人々の美や健 康に対する意識や取り組み方も変わってきている。美容や健康に関する情報も氾濫するほどに溢 れている。 限られた時間やお金の中で、レベルを落とさずにきちんと肉体面・精神面での手入れをしたい。 そう考える、現代の忙しく働く女性のライフスタイルや消費に対する価値観などが、バス化粧品 に関する調査を進めることで浮かび上がってくるような気がした。 (2)素朴な疑問 モノが売れないと言われている時代でも、不況であっても、必ずヒットする商品がある。 世に溢れるたくさんの物の中から、なぜ多くの人がその商品を選んだのか?なぜこの分野の商品 が売れているのか?と思うものがたくさんある。 安くて質の良い化粧品や洋服や食品・・・ならば売れるであろう。しかし、高価格であり、かつ 質の良さをすぐには実感しにくい商品がヒットしているとすれば、その原因は何なのであろうか。 その商品の品質そのものの魅力だけに惹かれて消費者は商品を買っているのだろうか。 その問題に興味を持ったことが本論文のきっかけである。 3 ◆第一章 癒し系バス化粧品とは (1)本論の目的 近年、都内を中心に店舗数・売上を伸ばしているロクシタンやLUSHなどが展開するバスグッ ズを中心としたライフスタイル提案型ブランドは、一般的には高額の商品であり、かつ生活する のには必要のない商品(嗜好品)である。バス化粧品カテゴリ自体、かつてはそれほど注目され てこなかった分野であるが、最近になってバス化粧品関連のアイテムやショップが増えだし、定 期的にバス化粧品を使用する消費者も増えてきていると感じる。生活するのに必要とはいえない ボディクリームや入浴剤などのバス化粧品を若者や主婦など収入レベルの決して高くない購買 層に買わせてしまう力(購買意欲に働きかける要素)とは何だろうか。 本論では、浴用化粧品分野で売上を伸ばしている代表ブランド(LUSH)の実態を調査し、その 後化粧品市場全体における浴用化粧品分野の動向を分析し、近年の消費者の動向を探り、なぜ現 在、単価の高いバス化粧品が売れているのかということについて考察したいと思う。 (2)本論における癒し系バス化粧品の定義 本論では、LUSH やロクシタンなどが主力製品として取り扱う入浴剤・ボディソープ・ボディ クリームなどのリラックス効果が得られ、入浴中や入浴後に使用する浴用化粧品を中心とした製 品のことを、 「癒し系バス化粧品」と定義したい。本論で考察していきたい癒し系バス化粧品と は、ただ体を洗う石鹸などの浴用化粧品のことを指すのではない。たとえば石鹸を例にとるなら ば、ただ体を洗うという目的だけで作られている石鹸ではなく、石鹸の香りにこだわっていたり きめ細かい泡立ちにこだわっていたり自然の原材料をもとに皮膚にやさしく作っていたりする ことで、その石鹸を使う消費者に「リラックス効果」や「心地良さ」や「リッチ感」を感じても らうという目的も加味して作られている石鹸のことを癒し系バス化粧品と定義する。 現在、LUSH やロクシタンなどの浴用化粧品の海外ブランドが日本に上陸し活躍しているが、 「癒し系バス化粧品」という業界として、それ単独としてはまだひとつの市場として独立してい ない。 現在のところ、癒し系バス化粧品がどの分野に属するかというと「化粧品業界」の中の「スキン ケア市場」または花王のビオレやユニリーバジャパンのダブなどが勢力を挙げている「ボディケ ア市場(ファミリーユース向け製品を含む)」であることが分かった。 本論では、こうした事情も含め、国内の入浴剤やボディソープ・ボディクリーム・ヘアケア製品 などをメインに取り扱う浴用化粧品ブランドも含めた業界全体としての動向を分析しながら疑 問を考察していく。 本論の「癒し系バス化粧品」に該当する商品を扱っているブランド・メーカーとして考察対象に したものを次頁に挙げる。 4 資生堂:ツバキなどのヘアケアシリーズや「ばら園」などのヘア&ボディケア商品など多数のブ ランドを展開する国内化粧品メーカー。 クラシエホームプロダクツ:ナイーブなどを主力製品とする国内メーカー。 ユニリーバジャパン:ダブ・ラックスを主力ブランドとする。 ライオン:バストロジーを発売しボディケア市場に積極的に参入。 花王:ビオレやバブを主力ブランドとしてボディケア市場で活躍している。 アリエルトレーディング:イタリア最大の天然スパリゾート、サルソマッジョーレ温泉の浴用化 粧品シリーズを発売している。 アバインターナショナル:ホテルを中心とした業務用バス用品を提供してきたが 2006 年から一 般向けの商品展開を始めた。 オードレマン:アトピー肌対応の化粧品の製造を行う。1992 年から入浴剤を展開している。 サンタ・マリア・ノヴェッラ・イン・トーキョー :イタリアのフィレンツェに今もある、最古 の薬局の東京店。自然の原料を使い、全て手作りでそれぞれに歴史がある。石鹸、香水、スキン ケアなど。パッケージも美しい。 ハウス・オブ・ローゼ :植物やミルク、ハチミツ、ローヤルゼリーなど、天然成分を配合した 化粧品のお店。百貨店に入っていることが多い。 ザ・ボディショップ :イギリス発祥、自然の原料をベースにしたスキンケア・ヘアケア製品、 メイクアップ製品を販売。株式会社イオンフォレストのブランドである。 ジュール・エ・ヌイ :サザビーが提供する、アフタヌーンティー等で販売されている自然化粧 品のブランドである。 松山油脂 :安全で安心な無添加石鹸を始め、ボディ・バスグッズを扱う。赤ちゃん用の天然原 料を厳選した石鹸もあり。シンプで飾らないパッケージも魅力。 MARKS & WEB :浴用化粧品やボディケアのブランド。ハーブなど自然の植物を使ったエッ センシャルオイルや石鹸、ヘア用品など。瓶もインテリアにもなりそうなシンプルなデザイン。 L'OCCITANE(ロクシタン) :フランスのナチュラルコスメ・バス化粧品の専門店。ローズの 香りのボディクリームや保湿力の高いシアバターが商品として有名である。 LUSH(ラッシュ): 英国生まれの新鮮、手作りをモットーとした化粧品店。主にスキンケ アや入浴剤等。 バーツビーズ(BURT'S BEES):ハーブや花、植物のオイル、蜜ロウ等自然素材で作られた ボディケア製品を販売。ニューヨーク発祥のブランドである。東京・表参道に店舗がある。パッ ケージも素朴でキュートなデザイン。 SABON:死海のミネラルを使用したイスラエルのバス化粧品会社。心と体を癒す浴用化粧品を 製造。動物実験をすべての製造工程において排除している。日本には2店舗しかない。 ボタニカルズ:株式会社コネクトによるハーブを活かしたブランド。「植物のちからに根ざした ハーバルセラピーを通じて、美容と健康をサポートする」を理念に掲げ、ハーブティーをはじめ、 エッセンシャルオイルやハーブに関するスキンケア製品を提供している。 5 ◆第二章 LUSH の事例 (1)LUSH とは LUSHとは癒し系バス化粧品を代表する人気ブランドであり、英国生まれのフレッシュハンド メイドコスメのお店である。 取扱商品はスキンケア、ボディケア、ヘアケアなどの浴用化粧品を中心とした商品が約 200 品 種にものぼる。天然素材を使った石けん・入浴料の LUSH として人気である。新鮮、手作り、 安全、愉快がモットーであり、カラフルなバスボムが山盛りになっている店内が特徴的である。 果物や野菜など、新鮮な安全素材をもとに商品を製造しており、商品にはまるで食品のような使 用期限のラベルが付いている。 <株式会社ラッシュジャパン> 資本金 1000 万円 設立 1998 年 10 月 1 日 店舗数:LUSH グループ全体で 650 店舗(世界 43 ヶ国にて展開中)日本全国で 130 店舗 売上高:2003 年 11 億円 2004 年 25 億円 億円 2005 年 33 億円 2006 年 50 億円 2007 年 75 2008 年 107 億円 2009 年 6 月の時点で 135 億円 →店舗数・売上高を順調に伸ばしている LUSHの企業理念:原料のエッセンシャルオイルには香りの高い物を使う。 合成物質は安全性が確認された新鮮な物を厳選。全商品を自ら使い効果と使い心地を確認、 全成分をラベルに明記する。 (2)LUSH の4P 分析 <Product 分析> 主な商品は浴用化粧品(石鹸、入浴剤、洗顔料、ボディクリーム、ヘアケア用品など)である。 LUSH の商品は色鮮やかでかわいらしく、間違えて食べてしまいそうな見た目を特徴としてい る。製品には新鮮な果物や野菜など自然由来の製品を使用している。一方で防腐剤などの添加物 も最低限に抑えている。そのため、使用期限は最長でも1年である。実際に使用してみると、使 用期限を過ぎた石鹸にカビが生えるといった現象もみる。使用期限は一番短いものだと製造日か ら 3 週間程度である。 「みつばちマーチ」 (量り売り石けん・100 グラム 480 円)や「天使の優しさ」(洗顔料・1380 円)など、ユニークなネーミングで知られている。男性向けの商品もある。 ほとんどが固形の製品(シャンプーまでシャンプーバーという名前の固形シャンプーが売られて いる)であることも特徴的である。 包装には紙を使用しており、緩衝材にはポップコーンを使用している。エコ精神がうかがえる。 また、フェアトレード商品(インドのエコバッグなど)も売っている。 石鹸は量り売りをしており、希望の大きさにカットしてくれる。 6 <Price 分析> 以下の表【図1】は LUSH の代表的な商品であるバスボム(入浴剤)の参考価格の一部を調べ てまとめたものである。 【図1】LUSH のバスボム参考価格 名前(バスボム) 値段 g 愛ラブユー 600 95 アクアフライング 400 90 アボバス 550 180 黒の宝石 450 95 恋の導火線 550 180 桜日記 600 200 サンベイビー 300 30 セクシー・ダイナマイト 650 200 ダブルハッピー 880 180 チェルシーガーデン 650 200 蝶とワルツを 580 90 ドリーミィドリーマー 500 100 バターボール 400 95 ハッピーのおまじない 630 190 ひまわり畑 650 200 秘密のローズ 500 95 ぴんく 980 200 ベストフレンド 630 190 みつばちB 650 200 夢であえたら 780 200 妖精ジャスミン 550 200 バスボムは容量(g)がそれぞれ違い、値段設定が分かりにくいので LUSH の固形石鹸(一部) の値段も調べ、表【図2】にまとめた。 7 【図 2】LUSH の固形石鹸(100gあたり)の参考価格 名前 値段(100g あたり)(円) 香り アイシングブルー 580 ミント 赤頭巾ちゃん気をつけて 480 ミント アルカマー 650 エキゾチック オー・ラ・ラ! 950 フローラル えんソープ 750 エキゾチック ごちそうサラダ 600 グリーン 桜小道のポピンズ 650 フローラル サンドストーン 480 シトラス シーベジタブル 459 シトラス スノータフィー 580 フローラル ハッピーソープ 630 シトラス 葉と果と 450 フローラル ブラジル娘の唄 500 スイート ボーノボーノ 500 フローラル ボヘミアン 450 シトラス マッドローズ 600 フローラル ママレードソープ 650 シトラス みつばちマーチ 450 スイート ミルキーバー 450 スイート 紫式部の神秘 500 フローラル ロックスター 500 スイート LUSH で販売されている代表的な固形石鹸は 100g約 450 円~1000 円まで幅があるものの、市 販の一般向けの石鹸(平均価格 100g約 100 円)に比べると高価格であることが分かった。 石鹸だけでなくヘアケア製品も高価格設定である。「果草力」というシャンプーを例にとると 500g 3200 円/ 250g 2150 円 / 100g 1100 円と高価格であることが分かる。 8 <Promotion 分析> LUSH のプロモーションは、店舗販売、通販冊子、インターネットなどでの通信販売が主であ る。男性向けのファッション雑誌にも紹介されている。 また、会員には定期的にメールマガジンを発行している(メルマガで新商品情報などを配信) 。 パソコンや携帯サイト限定のプレゼントなどがある。 e ポイントというパソコン・携帯サイトでショッピングをする度にポイントが貯まるシステムを 構築している。買い物をすると基本ポイント(2%か3%)がつき、会員専用のポイントでポイ ントが貯まると LUSH 製品と交換できるシステムである。前年度累計買い物金額でランクが認 定され、ボーナスポイントの利率も変わる。(1%~5%) 店舗では紙のポイントカードもあるが、ネットでは使用できないことになっている。 <Place 分析> LUSH の店舗展開や商品調達の仕方についても分析をした。 まず、国内店舗数は 2009 年現在で 130 店舗である。店舗はビルの中だけではなく、道路沿いに 単独で存在している店舗もある。神奈川県厚木市にある LUSH 専用の工場で、製品を全て手作 りで提供している。 全世界で 650 店舗を超えるラッシュショップの中で、日本の新宿店が世界で 1 番の売り上げを 誇っている。 また、「エシカルバイイング=倫理的・道徳的な購入をすること」のポリシーを取り入れている 会社であるため、原材料を「ただ買う」だけでなく、買うことによって「良いこと」につながる 環境や社会に配慮をした「やさしい」購買・調達活動を行っている。 例えば、フェアトレードやオーガニックの原材料の買い付け、動物実験を行わない会社との取引 や、リサイクル資材を積極的に取り入れるなどしている。 9 (3)アンケート調査 癒し系バス化粧品が一般の人々(LUSH のファンではない人々など)に認知されているのかど うか実態を調べるため、インターネットや知人の協力等により、アンケート調査¹⁾を行った。 以下の図【図3】は癒し系バス化粧品の代表的なブランド名の知名度を調べた結果である。 10 代~40 代の男女を対象に調査し、サンプル数は 50 人である。 【図3 知名度調査 N=50】 50 40 30 20 10 0 カ ル ズ ニ EB ボ タ AR KS &W M シ ロ ク ボ デ ィシ ョッ プ タ ン 系列1 LU SH 人数 知名度調査 ブランド名 LUSH が45票、ボディショップが43票獲得し、3 位にロクシタン(35票)が続いた。回答 者の9割が LUSH とボディショップのことを知っており、やはり LUSH とボディショップは一 般の人々にも知名度が高いということが分かった。 【図4】は月に LUSH の商品にかける金額を調査した mixi の LUSH コミュニティの中で創設 されたアンケート結果である。 mixi の LUSH コミュニティーのメンバーを対象にしたアンケート調査であり、サンプル数は 5200 人である。 【図4 「月に LUSH にかける金額」mixi 内でのアンケート調査】 10 月に 3000 円~5000 円という回答が最も多く、全体の23%を占めているが、月に 10000 円以 上かけるという回答が全体の 12%も存在している。LUSH のコミュニティー内での調査という こともあるが、LUSH の商品に対して LUSH ユーザーは毎月高額の金額をかけている、という ことが分かった。 【図5】は上記でアンケートを行った同じ LUSH コミュニティー内で、なぜ LUSH が好きなの かを調査したアンケート結果である。サンプル数は 194 人である。 【図5 「なぜ LUSH が好きなのですか?」mixi 内でのアンケート調査】 アンケート調査の結果としては、香り・使い心地・原材料が主な理由として上位に挙がった。 また、LUSH の特徴であるエコ精神や店員の丁寧な接客、店内でのデモンストレーション、動 物実験反対などのポリシーは、LUSH が好きな原因としては上位には挙がらなかった。 このアンケートから推測できることは、LUSH を好んで使っている消費者は、店員の営業トー クや店内の POP に惹かれてなんとなく買っている、という理由などではなく、自らの意思(香 りが気に入っている、使い心地が気に入っている、原材料が安心できる等)をもって積極的に LUSH の商品を買っているということである。 11 (4)LUSH の成功要因を考える―仮説と検証― なぜ癒し系バス化粧品の代表ブランド、LUSH は日本に上陸してから10年連続増収増益であ り、店舗数・売上ともに順調に伸ばし、成功しているのだろうか。これまでの分析をふまえたう えで、仮説をたてて検証していく。 仮説①「価格・サービス・品揃えが、総合的に「いい」と認識されている。 」 購買に影響を及ぼす大きな要因である「価格」 「サービス」 「品揃え」の3つが最適なレベルで揃 うと購買に有効な環境が整ったことになる。つまり、この3つが満足のいくレベルに達すると、 消費者は購買を決定するのである。 <検証> LUSH の「価格」 「サービス」 「品揃え」について考えてみる。 まず、 「価格」についてである。4P 分析で価格について分析をしたが、LUSH の商品は決して 安くは無い。基礎化粧品、固形石鹸、バスボム(入浴剤)、ボディークリーム等ほとんどすべて の商品は市販のスーパーで売っている同カテゴリの製品の平均価格よりも高価である。価格に惹 かれて LUSH の商品を買っているという顧客はほとんどいないと考えられる。 次に「サービス」について考えてみる。LUSH の店内では商品についての詳細な説明をする店 員が十分な人数設置されており、商品のデモンストレーションが店内で行われているなど、徹底 した顧客サービスがされているようにみえる。しかし、実際に LUSH を購入している人にアン ケート調査をした結果では(なぜ LUSH が好きなのですか?という前頁の mixi アンケート) 、 LUSH の店内でのサービスを挙げる人はあまりいなかった。よって、LUSH のサービスがいい から商品を買っている、というわけではないようである。 最後に「品揃え」についてであるが、こちらは4P 分析の商品分析で分析をしたように、LUSH の店内には 200 種類もの商品がぎっしりと並べてあり、新製品も定期的に売り出されるなど、 品揃えは十分なようである。 <検証結果> 以上の考察から、価格・サービス・品揃えの評価が全てにおいて高いわけではないため、この3 要素を総合的に評価し顧客が満足しているから LUSH が売れている、という結論は導き出され ないであろうと考える。 よって、仮説の①は棄却した。 仮説②「商品のリリースの仕方に、売上維持の秘密がある。」 <検証> LUSH での商品のリリースの仕方や限定品情報などを調べ、売上維持につながっているかどう かを検証する。 12 LUSH のお店では常時置かれている商品だけでも 100 種類以上ある。そして、それらの商品に 加え、新製品や廃盤品、限定品などが定期的に、多数存在していることがわかった。 【図6】は LUSH の商品の廃盤情報の一部である。 【図6 LUSH の廃盤品(一部)】 7 月末で終了(2008 年) 9 月末で終了 ・マッドローズ(ソープ) ・アイシングブルー(ソープ) ・眠れる森(シャワーボム) ・赤頭巾ちゃん気をつけて(ソープ) ・トナータブレット 7 個入り ・サンドストーン(ソープ) ・GO!グリーンSP(ソリッドパフューム) ・ファンキーガール(シャワージェル) 8 月末で終了 ・ほっとひといき?(バブルバー) ・王様と私(バタークリーム) ・真夏の夜の夢(生パック) ・スターの秘密(バスボム) ・ピュアブラボー(生パック) ・GO!グリーン(ボディスプレー) ・はだかのレディー(ダスティングパウダー) ・おしゃべりアップル(リップクリーム) ・ジキルとハイド(シャンプーバー) ・マハラジャ(ソリッドシャンプー) ・羊が一匹・・・(ギフト) ・マリーマリー!(ギフト) ・ジュテームマリー!(ギフト) ・ローズマリー!(ギフト) 調べてみると、LUSH ではこれまで廃盤品が 200 以上出ていることがわかった。季節限定商品 やオンライン限定商品なども数多く定期的にリリースされている。 また、LUSH の商品には「似た香りを持つ商品」のラインナップが多い。ひとつ廃盤になって も、新製品に似た香りの商品が登場したりしているような気がする。そこで、似た香りの商品を 調べ、連鎖パターンを作成してみた。 【図7】は似ている香りのバリエーション(連鎖パターン)の一部である。 【図7】LUSH の商品で似ている香り ・ロックスター=キャンディバス=キャンディスティック(限定) =浮気なキャンディ ≒ぴんく≒ウィート教授(廃盤) ≒めろめろマシュー=フェアリーキャンディ(限定) ・赤頭巾ちゃん気をつけて≒パワーマスク≒ワールドピース(廃盤) ≒グラスホッパー≒桃色キック ≒恋する十字架(廃盤) 13 ≒我輩は猫である(廃盤)≒ペパーミント先生(廃盤) ・天使の優しさ=アロマウォーター=ドリームクリーム ・マリンに恋して=ミルキーバー=ほっとひといき ・フレッシュフレンド=ドリームウォッシュ≒黒の宝石 =サンタの長い夜(限定)≒サンベイビー≒刀刃一本 ・天上のオーケストラ(限定)≒ブラジル娘の唄≒恋の導火線 ≒彼には内緒で(廃盤)≒いちご同盟 ・みつばちマーチ=みつばち B=テディソープ(限定) =テディバスボム(限定)=3 時のおやつ=やさしく愛して ≒働きばち(廃盤)=シークレット作戦 B(廃盤)=みつめてハニー 商品自体の価格に変化があったのかどうかも調べた。 すると、同じ商品でも年々値段が上昇しているものが見つかった。 【図8】はその一部である。 【図8 LUSH の商品価格の変化(一部)】 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年以降 スノーケーキ 390 円 420 円 600 円 630 円 650 円 踊りあかそう・鈴の音 480 円 500 円 600 円 630 円 650 円 <検証結果> 新商品・廃盤・限定品を定期的にリリースするだけでなく、店頭には常に「似た香り」のライン ナップを揃えている。このように(①廃盤になっても、すぐに似た香りの商品が新商品として陳 列される②常に店頭には似た香りの商品がたくさん置いてある)似た香りをランナップすること で、顧客には香水のように「似ているけれど、その中でもこれが私の1番のお気に入りの匂い」 を時間をかけて探させる効果がうまれる。(しかも、大抵の消費者はお気に入りを見つけるまで にいくつか商品を購入していることが多い。) また、お気に入りが「飽きた」または「廃盤になった」としても、すぐに新商品で似た香りの製 品が出るため LUSH ユーザーはまた新しい商品を購入してしまうという効果が考えられる。 さらに、商品価格の歴史を調査したところ、一部の商品の価格が年々上がっていることが分かり、 これらを総合して結果的に売上が上がっているのではないかと考えられる。 仮説③「LUSH ジャパン(企業側)が売上を伸ばすための戦略を実行した。 」 日本に上陸してから10年連続、増収増益の LUSH。店舗数は毎年増え続けているが、売上高 は落ちていない。仮説②では商品自体の変化と、一人当たりの消費量を考えたが、LUSH ジャ パンが企業戦略として、売上を上げるために実行した何かしらの行動があるかもしれない。 その行為が大きく売上に貢献している可能性もあると考え、調査した。 14 <検証> ・LUSH ジャパン自体が仕掛けていると考えられる事象を探し、データを集め、まとめる。 ・調査したのは雑誌の記事・LUSH のホームページ・LUSH に関するネット記事・LUSH から 出されている情報誌・口コミ・@コスメ・ブログ・コミュニティなどである。 ・売上を上げに結びついていると考えられる要因を探す。 以下の【図9】は LUSH の売上高推移をグラフにしたものである。 【図9 2003 年~2009 年までの LUSH 売上高推移】 LUSH の売上高の推移を調べてみると、2005 年あたりから売上の伸び(傾き)が急上昇してい ることがわかった。そこで、2005 年頃から売上げが上昇した原因を探るため LUSH の公式ホー ムページ、ネットの新聞記事等から 2005 年あたりの LUSH に関するデータを探し LUSH の動 向を調べた。 2005 年の LUSH の動向を調べた結果は以下である。 ・店舗販売、パソコンサイトなどでの通信販売に続く新しいチャネルとして、2005 年 2 月から 「BeMss(ビームス)」を導入して携帯通販サイトをスタートさせている。 ・携帯通販サイトではセット販売やベストセラー商品のみをメインにスタートした。 ・携帯通販サイトをスタートさせてから、売上げの伸び率は2005年から一気に 10 倍もアッ プしている。 ・手軽な携帯サイト=店員さんの接客が苦手な顧客&雑誌などで商品は見知っている潜在顧客の 獲得に繋がった。 15 <検証結果> 以上の調査結果から、2005 年頃から LUSH が売上を伸ばした原因として、PC サイト以外に携 帯版の通販サイトを構築したことが考えられる。 消費者が特定の商品を購入する意思決定には、①問題認知②情報探索③選択代案の評価④購買 (使用・廃棄)の実行と停止⑤購買(使用・廃棄)後の評価、の過程を経ていると考えられてい る。(神山,1997) LUSH を利用する顧客の多くは、実際にこの②情報探索と⑤購買後の評価において、LUSH の ネットサイトや LUSH のコミュニティーやネット上の化粧品口コミサイトを利用している。 消費者が実際にインターネットを利用するとどのような影響が LUSH(企業側)にあるか、考 えられるものを以下に挙げる。 ・ネットの口コミなどで、人気のある商品や自分と同じ選択をしている人がいればいるほど、そ の価値が高まる(商品の評価や満足度の向上へと繋がる) ・ネット購買の場で共有されるスタンダード感が醸成され均質性が強まる(これくらいの量を持 っているのが普通なんだ、という価値観が他人によりつくられる) ・ネットがなければ一部の人にしか知られていなかったはずの「隠れ家」的な商品においても、 情報が溢れている現在はコモディティー化がすすみ、誰でも知ることができたり買えたりできる 商品になった=低収入層の人々も「買おう」と意欲的になれる商品の幅が広がった ・消費者が LUSH のネットサイトの口コミを見る、商品ランキングを見る→ネットを見なけれ ば認知しなかったはずの評価の高い商品や、自分が持っていない商品を買いたくなる。 ・LUSH 側がネットにある利用者の声を広告に反映するような消費者視点の情報を(広告へ) フィードバックできる(通販サイト・毎月の LUSH TIMES などに掲載) ・消費者自身が商品の購入動機をじっくり考えるプロセスをスキップし、他人の評価や意見を直 接インターネットで調べる購買プロセスを構築→消費者に LUSH の魅力を伝える機会を数多く 与え、記憶させる。 ・パソコン・携帯サイト限定のおトクな詰め合わせセット、サンプルプレゼント、カスタマーズ パーティなど、ネット限定の情報を流し、未開拓の顧客獲得に繋げる。 16 仮設④「消費者の購買意識のレベルが上がった、または消費に対する価値観が変化した。 」 近年の一般の消費者の消費意欲が、LUSH を代表とする少し高価な癒し系バス化粧品にまでお 金をかけるレベルにまで上がったのではないだろうか。もしくは、消費に対する価値観の変化(癒 し系バス化粧品などに興味をもち消費意欲を向けるようになった)が消費者に起きたのではない だろうか。 <検証> ・消費者の動向に関するデータを収集し、消費に対する価値観の変化を探る。 下記の【図10】は消費者の志向の変化を表している図である。 【図10 消費に対する消費者の価値観の変化 参考:内閣府「国民生活に対する世論調査」】 生活を楽しむ志向の高まり 60 50 % 40 (%) (%) 30 20 10 0 年 これは 1984 年~2004 年の内閣府「国民生活に対する世論調査」をもとに図式化したデータで ある。青色の折れ線グラフは「毎日の生活を充実させて楽しむ」派の人数の伸び率を表しており、 ピンク色の折れ線グラフは「貯蓄など将来に備える」派の人数の伸び率を表している。 <検証結果> この図から読み取れることは、近年の日本人の消費のスタンスは、将来にむけて貯蓄するよりも、 毎日の生活を充実させて楽しむ消費の仕方に大きく変化してきている、ということである。 このような傾向になってきているのは、バブルの崩壊、景気の悪化、ここ数年の雇用の現状、年 金への不安、政治への不信感・・・など様々な日本の未来への不安要素が、一般消費者の価値観 を「何があるか分からない将来のために今我慢して貯金や投資をする」よりも、 「今、この瞬間 を楽しもう」という志向に変化させているからではないかと思う。 そのため、消費者が元気になれるような、リラックス系・健康系・今すぐ楽しめるといったサー ビスや商品が売れているのではないだろうか。その消費者の志向に合致する商品カテゴリのひと つとして、癒し系バス化粧品があり、それゆえに代表ブランドである LUSH が売れているので はないだろうか。 17 <LUSH が成功したと考えられる要因> 仮説と検証の①~④から、LUSH が成功したと考えられる要因をまとめる。 ②商品のリリースの仕方が売上維持に繋がっている ③LUSH によるネットサイト構築とそこから派生する口コミ効果が売上を伸ばした ④現代人の消費に対する価値観に LUSH が合致した 癒し系バス化粧品の代表ブランドとして LUSH が売れている原因を考えた。 ここから先は、LUSH の成功要因を参考にしながら、癒し系バス化粧品を業界全体的にみて動 向を分析したい。 化粧品業界の全体的な動向を分析しながら、バス化粧品業界の実態を探り、消費者の動向も探り ながら、そこから推測できる消費者の購買心理を考え「なぜ現在、単価の高いバス化粧品が売れ ているのか」 「単価の高いバス化粧品が購買心理に働きかけるものは何なのか」を考えていきた いと思う。 分析するポイントは以下である。 ・ 化粧品業界のデータを収集し、そこから読み取れる動向を探る ・ 癒し系バス化粧品に対する消費者の使用実態を探る ・ 消費者のインターネットの使用実態(情報獲得・ネットショッピング)を調べる ・ 癒し系バス化粧品が売れる理由を探る 18 ◆第三章 癒し系バス化粧品の動向と消費者の動向 (1)化粧品市場における癒し系バス化粧品 ―動向分析― 第二章では、癒し系バス化粧品の代表ブランドの1つとして LUSH を分析した。そこで、癒し 系バス化粧品全体が消費者に受け入れられ、売れているのか、今現在どのような動向があるのか を探るために化粧品業界の動向を分析していきたい。 第三章では、化粧品業界全体と、その中での癒し系バス化粧品分野の動向をみていく。 週刊粧業の調査によると、2008 年の化粧品関連の新製品発売個数は、前年より 405 個少ない 5232 個、平均単価は 588 円上がって 4445 円となった。 【図1】 【図1】 2006 年~2008 年の新製品発売動向 出所:週刊粧業 2009 年 1 月 1 日号 (2006 年新製品発売動向)※ピンク色は癒し系バス化粧品が存在する部門 品目別 2006 年発売数 前年比(%) 構成比(%) 平均単価(円) 前年比(%) スキンケア 1,294 94.5 15.5 5,205 95.1 メークアップ 3,053 118.8 36.7 3,100 85.4 アイメークアップ 1,249 118.8 15 2,155 87.1 ヘアケア 409 93 4.9 2,135 99.6 フレグランス&ボディ 384 86.9 4.7 6,685 106.7 男性化粧品 193 66.3 2.3 2,754 84.4 レジャー&エチケット 182 127.3 2.2 2,061 117.2 ファミリー&ベビー 278 106.5 3.3 1,840 96.1 ハンド&ネイル 632 93.9 7.6 1,051 91.9 化粧雑貨&健康食 649 110.9 7.8 2,777 121.8 8,323 106.4 100 3,190 91.1 合計 (2007 年新製品発売動向) 品目別 スキンケア 2007 年発売数 前年比(%) 構成比(%) 平均単価(円) 前年比(%) 973 75.2 17.2 6,510 125.1 2,194 71.9 39.1 3,527 113.8 アイメークアップ 909 72.8 16.1 2,790 129.5 ヘアケア 331 80.9 5.8 1,326 62.1 フレグランス&ボディ 303 78.9 5.3 6,647 99.4 男性化粧品 73 37.8 1.3 3,235 117.5 レジャー&エチケット 96 52.7 1.7 2,624 127.3 118 42.4 2.1 4,041 219.6 メークアップ ファミリー&ベビー 19 ハンド&ネイル 349 52.2 6.2 1,292 122.9 化粧雑貨&健康食 291 44.8 5.2 3,118 112.3 5,637 67.5 100 3,857 120.9 合計 (2008 年新製品発売動向) 品目別 2008 年発売数 前年比(%) スキンケア 1,053 108.2 20.1 7,821 120.1 メークアップ 1,723 78.5 32.9 3,676 104.2 アイメークアップ 744 81.9 14.2 2,988 107 ヘアケア 456 137.8 8.7 2,481 187.1 フレグランス&ボディ 396 130.7 7.6 7,112 107 68 93.2 1.3 3,586 110.9 レジャー&エチケット 103 107.3 2 2,323 88.5 ファミリー&ベビー 165 139.8 3.2 2,206 54.6 ハンド&ネイル 367 105.2 7 1,502 116.3 化粧雑貨&健康食 157 54 3 2,963 95 5,232 92.8 100 4,445 115.2 男性化粧品 合計 構成比(%) 平均単価(円) 前年比(%) 【図1】を見て分かる 2008 年の化粧品市場の新製品発売動向は、①全体的にみると新製品の発 売ラッシュは特にみられない②浴用化粧品が含まれるスキンケアの部門とボディ部門とヘアケ アの部門で新製品が発売されている③2008 年において発売数・平均単価ともに前年を上回って いるのは、スキンケア部門・ヘアケア部門・ボディ&フレグランス部門である、という3つの傾 向が特徴として挙げられる。 実際にスキンケア部門とボディ部門では、ロクシタンやイオンフォレストなどが展開するブラン ドが近年売上を伸ばしており、それに伴い店舗数も増加している。 またヘアケア部門では、ヘアサロン専売品や AVEDA・ケラスターゼなどのスーパーやドラッグ ストアには置いていない価値訴求型の「プレミアムライン」が普及しており、化粧品同様、機能 や使用感が重視されるようになってきている。そのためか、ヘアケアの新製品の平均単価が約4 割上昇している。 フレグランス部門は、品数・単価ともに上昇している。フレグランスの日常使いが増える一方、 高単価なブランドや癒し系バス化粧品であるアロマキャンドルなどが普及し、市場は進化し続け ている。 週刊粧業による 2008 年の化粧品市場の新製品発売動向を見ると、癒し系バス化粧品に関連する 部門が、発売数・平均単価ともに近年増加しているという動向がうかがえる。 20 【図2】は経済産業省が発表した 2008 年の 1~10 月の品目別化粧品出荷統計である。【図 2】 によると、10 月の出荷金額は前年同月比 1.9%減で今年5度目の前年割れとなった。累計では金 額が前年同期比 0.4%増、個数が 3.2%増となっている。皮膚用が数量・金額ともに前年をやや 上回っているという傾向がうかがえる。 【図 2】2008 年 1~10 月化粧品統計 出所:経済省鉱工業動態統計(単位:千個、kg、百万円) 1~10 月の出荷実績 品目 個数 香水 頭髪用化粧品 前年比 (%) 前年比 数量 4,619 109.90% (%) 金額 前年比 構成比 (%) (%) 283,481 98.9 3,687 109 0.3 1,032,750 105.6 281,926,253 99.3 340,181 99 27.3 シャンプー 346,503 111.1 131,503,551 97.7 89,353 98 7.2 リンス 126,376 97.6 49,236,242 95.7 26,669 92 2.1 20,939 113.5 3,660,371 99.8 15,863 99.6 1.3 145,502 104.7 44,318,008 111.5 61,389 107.6 4.9 52,586 97.3 3,570,492 94.3 16,323 96.5 1.3 液状整髪量 42,481 89.3 7,982,197 90.3 14,055 89.9 1.1 セットローション 18,228 92 3,486,404 88.5 5,554 76.2 0.4 ヘアスプレー 65,008 133.9 7,857,888 96.3 19,250 94.1 1.5 189,031 104.7 22,853,940 105.6 78,428 103.5 6.3 その他頭髪用 26,094 91.5 7,457,160 91.3 13,297 91.4 1.1 皮膚用化粧品 648,279 103.9 70,322,884 103.8 546,740 102.4 43.9 洗顔クリーム 122,704 93.9 13,823,292 94.6 45,453 96.6 3.7 クレンジング 88,619 112.8 12,352,406 113.7 50,038 104.2 4 マッサージ 13,234 91.5 1,080,305 77.6 10,317 91.4 0.8 モイスチャー 37,046 96.2 1,602,910 99.6 60,165 101.4 4.8 乳液 47,061 104.2 4,340,746 101.1 63,142 98.6 5.1 化粧水 129,521 108.5 17,609,488 102.5 137,125 104.3 11 美容液 51,857 102.7 2,351,146 106.9 107,873 103.1 8.7 パック 27,227 104.2 1,192,681 102.1 22,023 115.5 1.8 男性皮膚用 54,123 119.2 6,766,205 126.5 15,582 119.1 1.3 その他の皮膚用 76,886 102.1 9,203,705 101.4 35,020 97.2 2.8 仕上げ用化粧品 347,524 99.1 3,913,411 101.8 290,608 97.8 23.3 ファンデーション 104,569 98 1,915,901 99.8 136,994 97.6 11 12,829 85.5 196,572 89.3 17,002 93.9 1.4 ヘアトニック トリートメント ヘアオイル・クリー ム 染毛料 おしろい 21 口紅 40,881 88.2 155,877 87 31,723 88.2 2.5 リップクリーム 34,555 102.6 125,555 99.7 11,291 92.7 0.9 ほほ紅 11,115 105.9 53,105 109.6 10,103 117.3 0.8 アイメイクアップ 52,808 97.9 425,257 116.4 36,624 99.3 2.9 まゆげ、まつげ 56,092 106.7 235,414 123.6 36,270 109.4 2.9 ネイル 30,192 110.8 767,050 102 7,504 87.6 0.6 その他仕上げ用 4,482 96 38,680 91.8 3,147 93.2 0.3 特殊用途化粧品 168,929 95.5 17,324,492 95.1 63,913 102.3 5.1 日焼け止め 41,952 112.5 1,874,659 100.4 30,704 112.3 2.5 髭剃り、浴用器具 34,139 98.6 7,289,909 98.2 7,630 96.7 0.6 その他特殊化粧品 92,838 88.4 8,159,924 91.5 25,579 93.9 2.1 2,202,098 103.2 373,770,521 99.9 1,245,134 100.4 100 化粧品合計 分析した結果、品目別でみていくと基礎化粧品ライン(皮膚用)、男性化粧品、ヘアケアではス ペシャルケア用商品ラインであるトリートメントが前年よりも伸びている、ということがわかっ た。 また、総合マーケティングビジネスの富士経済は、トイレタリー(日用・雑貨品など)市場を調 査分析している。バス関連 12 品目、オーラルケア関連 6 品目、トイレ関連 4 品目、ベビー・そ の他 6 品目、計 28 品目の調査結果を同社の報告書「トイレタリーグッズマーケティング要覧 2009 No.2」にまとめている。 下記の表がその調査結果の一部である。 【図3】 トイレタリーグッズマーケティング市場分析(一部) 分野 2008 年 バス 4,217 億円 4,223 億円 100.10% オーラル 1,426 億円 1,433 億円 100.50% トイレ 1,839 億円 1,804 億円 98.10% ベビー 555 億円 2009 年 出所:富士経済 前年比 554 億円 99.80% 富士経済によると、2008 年のバス関連分野は、洗顔料・石鹸やヘアトリートメントなどが増加 したものの、リンス・コンディショナー、シャンプーの減少に加え、規模の大きいリンスインタ イプのシャンプーの減少に歯止めがかからず微減となり、結果的に前年比 0.5%減となったとい う。そして、2009 年のバス関連分野は、ヘアトリートメントが増加しており、ヘアトリートメ ントの子供向け新製品の投入があったり、主力ブランドが同じ商品をリニューアルするなどして、 市場全体としては微増となったという。 つまり、ケアライン商品(トリートメントなど)が品目としては伸びており、平均単価の高いプ レミアムラインが前年よりも伸びてきているため、結果としてバス関連市場は伸びている。 バス関連化粧品(品目別)の近年の動向を調査し、まとめた。 22 ◆シャンプー分野の動向: 新ブランドの投入が一段落し、既存ブランドのリニューアルが多く、また「アジエンス」 (花王)、 「ツバキ」 (資生堂)、 「h&s」 (P&G ジャパン)で詰め替え用が追加された。2009 年も「ラック ス」 (ユニリーバ・ジャパン)や「ツバキ」などのリニューアルが相次ぎ、 「アジエンス」は地肌 ケアを訴求したラインを加え全面的にプレミアムラインを加えるなどしてリニューアルした。 タイプ別では通常のシャンプータイプと、シャンプーの後にリンスをつける必要がないリンスイ ンタイプに大別され、市場全体の約 9 割がシャンプータイプで、リンスインタイプは 1 割程度に 留まっている。リンスインタイプは 2007 年に主力ブランドの 1 つである「リジョイ」(P&G ジ ャパン)が販売終了し、固定ユーザーに依存する傾向が強くみられ、販売数・構成比共に縮小し ている。パッケージ別ではレギュラータイプ、ポンプタイプ、詰め替え用に分類され、ポンプタ イプが全体の 50%以上を占めている。詰め替え用は 1990 年代後半以降有力ブランドでラインア ップされ、単価の低さやゴミ削減意識の高まりにより拡大している。 2008~2009 年も「h&s」や「プレミアムヴィダルサスーン」 (共に P&G ジャパン)など発売か ら 1 年程度経過した新ブランドから詰め替え用が追加され、販売数・構成比共に拡大している。 シャンプー自体の普及率は既に 100%近く、1 人当たりの使用量の増加は今後大きくは見込めな いのが現状である。 ◆洗顔料分野の動向: 以前はフォームタイプ、ジェルタイプが主流であった。しかし洗顔するときはパウダータイプや プレフォームタイプ、クレンジングするときではオイル、シートタイプなど容器や液のタイプの 広がりが進んでいる。またアクネ対応(ニキビ予防用)やさっぱり・しっとりタイプなど、肌質 や洗い上がりの嗜好に合わせたパーソナルユース向け製品投入が早くから行われている。高機能 化も進んでおり、アンチエイジングや美白などの機能性成分を配合した製品投入も積極的に行わ れている。2008 年には、クレンジング用の新しいタイプとしてユニリーバ・ジャパンからオイ ルが泡になって出てくる「ダヴ オイル泡クレンジング」が投入されヒットした。 洗顔料は、従来の強みであった価格訴求力に加え、アンチエイジング、美白、保湿など機能面で の多様化や、特にクレンジング用では容器・液のタイプの多様化などバリエーションの拡大に努 め、化粧品業界での実績が拡大している。 洗顔料分野においても「安いもの」 「ただ顔を洗えればいいもの」という価格訴求型であったも のから、機能面に注目した価値訴求型商品へとシフトしてきているようである。 23 ◆入浴剤分野の動向: 2008 年度の入浴剤市場は、精神的・身体的な健康志向を受けて前年比2%増の 500 億円代で推 移し、拡大傾向にあった。市場のシェアは花王・ツムラ・アース製薬の上位三社が5割を占めて おり、近年 LUSH やロクシタンなどの海外ブランドが進出してきている。 入浴そのものがリラックスや疲労回復の手段として消費者に捉えられており、それに比例して入 浴剤の使用量や使用回数が上昇し、その効果に消費者の注目が集まっていると考えられる。 店頭には、従来のファミリーユース向けの商品から、入浴そのものを楽しむ人向けのパーソナル ユース製品や健康志向に訴求する製品など、多種多様にそろい、消費者には様々な選択ができる ようになっている。 さらに最近は海外直輸入のサロン・スパ専用品など高級入浴剤も増加し、一つの市場ができあが りつつある。特に、発汗などの温浴作用のあるタイプが人気であり、クールタイプは微減となっ ている。香りでの訴求も引き続き行われており、リラックス効果の高い香りを意識して作られた 製品が多い。 香りが及ぼす効果について、最近は店舗やネットを通じて知識が広まっており、香りというもの はひとつの重要な要素として非常に訴求力が高いようである。そのため、入浴剤を売り出すブラ ンドをもつ企業は各社とも香りの新提案を強化している傾向がある。 一方で、海外ブランドによる店舗拡大が、思わず手を伸ばしたくなるパッケージデザインや POP 等での競争を激しくしている。 ◆ボディーソープ分野の動向: 2008 年のボディーソープ市場は 500 億円程度で推移し、若干のマイナスはあったがほぼ前年並 みとなった。減少の理由としては、不況の中での価格競争と詰め替え用製品の売上が大きく影響 している。また、主要ブランドからの新製品発売もとくに見られず、市場の活性が行われなかっ たことも動向の特徴として挙げられる。 花王の「ビオレ」シリーズ、ユニリーバ・ジャパンの「ダブ」シリーズ、KHP の「ナイーブ」 シリーズの勢力図は変わらず、市場の約5割を占める。現在の消費者の使用率は8割を超え、ほ ぼ上限に達している。 このような点から、高付加価値のパーソナルユース型商品に目をつけはじめるメーカーは少なく ない。 以上の品目別動向を調査した結果、バス関連市場は全体的に高付加価値のパーソナルユース型商 品に注目しており、従来の「洗うだけの洗顔料、石鹸」等の商品から「洗う+癒される香り」や 「洗う+高保湿効果」などの付加価値がついた商品が積極的に発売されるようになっている。 24 (2)消費者の使用実態 夜間を身体のケアタイムとして有効活用する人は多い。その中でも「入浴」は女性にとって1日 の疲れをとり、リラックスし、かつ自分を磨く手段として欠かせない習慣であり日本の文化の1 つである。 週刊粧業による「生活シーン別化粧品アイテム使用実態」という調査(アンケート回答者は平均 年齢 31.5 歳の会社員や主婦。サンプル数は 322 人。 )の中では、消費者の「入浴」に関するア イテムの使用実態を調べたものがある。 以下の表【図 4】はそのアンケート結果の一部である。 【図4】「入浴時にいつも使用するものは何ですか?(複数回答) 」 人数 出所:週刊粧業 使用率(%) シャンプー 307 95.9 リンス 258 80.6 洗顔料 220 68.8 ボディソープ 216 67.5 トリートメント 120 37.5 固形石鹸 112 35 入浴剤 70 21.9 その他 6 1.9 合計 320 【図 4】のアンケート結果をみてみると、シャンプーの使用率が 95.9%でほとんどの人はシャン プーを使用していることがわかるが、100%には達していないようである。残り4%の人々は何 を使用して髪を洗っているのか、というと最近ナチュラル志向の人々に流行っている「石鹸シャ ンプー」(石鹸で髪を洗う)であると思われる。 また、洗顔アイテムには洗顔料と固形石鹸の2つがあるが、週刊粧業の調査によると、固形石鹸 を使用するという回答は毎年ほぼ変わらない人数を保ち続けているらしい。固形石鹸には固定フ ァンが存在しているようである。 ボディソープの使用率は 67.5%と固形石鹸の 2 倍近い数値である。しかし、週刊粧業による3 年前に行った調査のときに比べるとボディソープの使用率は 5 ポイントほど落ちている。この ことから、バスラインは徐々に使用アイテムの分散化が進んでいることがわかる。 癒しブームの兆候をキャッチしやすいアイテムである入浴剤の使用率は 21.9%で、こちらのポ イントは徐々に毎年増加しているという。ただ使用率が 20%程度にとどまっており大きくはポ イントが増加しないのは、家族でお風呂を使用する場合それぞれの好みがあるために、入浴剤を 使いにくい場合があるからということが考えられる。よって、入浴剤を定期的に使用する消費者 は一人暮らしのほうが多いのではないかと推測する。 25 以下の表【図 5】も週刊粧業による同アンケート結果の一部である。 【図5】 「入浴時間はどれくらいですか?」 人数 構成比(%) 20 分以内 53 17.2 20~40 分 194 63 40 分~1時間 44 14.3 1時間以上 17 5.5 308 100 合計 出所:週刊粧業 【図5】をみると、入浴時間に関する質問で最も多かったのは、20~40 分で 63%にも達してい る。体を洗うことや、髪の毛を洗う時間を考えると、浴槽につかっている時間は 10~15 分くら いであると考えられる。お風呂に毎日ゆったりと時間をかけてつかることのできる人は少ない。 家事や育児で忙しい主婦や、次の日仕事が朝早くからあって忙しい OL さんなどは、なかなか入 浴に長い時間をかけることができないと思う。 ただし週刊粧業による3年前に行った調査のときに比べると、20 分以内の人はなんと半数にも 減っており、20 分~40 分という人は 10%増えており、40 分~1時間という人も 10%増えてい る。徐々にではあるが、日本人の入浴時間は長くなっているようである。 ヘッドスパや高級高機能トリートメントや癒し効果の高いボディケア製品などが多数発売され、 ヘアサロンでしかできなかったケアが自分の家でもできるようになってきており、ケアの時間が 増えていることもひとつの要因であると考えられる。 働く女性が増え、忙しさやストレスから、バスタイムをひとつの重要なリラックスタイムとして 時間をかけて自分の心身のケアにあてている人が増えたことも考えられる。 このように、入浴アイテムの使用実態を調査すると、徐々にではあるがバスラインの使用製品が 多様化してきている傾向がみられた。 また、夜の入浴時間が3年前に比べ長時間化する傾向がみられており、忙しい人が増える一方で 夜の入浴を「癒しの時間」ととらえ、心と体のケアに時間をかけているという消費者の使用実態 が浮かび上がってきた。 26 (3)情報獲得方法・ネットショッピング(PC・モバイル)の実態 <インターネットショッピングの実態> 消費者の情報獲得方法に、インターネットが影響しており、LUSH のヒットにはネットショッ ピングが関係しているという結論を前章で述べた。LUSH の例だけでなく、一般の消費者に実 際ネットショッピングが普及しているのか実態を探った。 【図6】 「インターネットを使って買い物をしますか?出所:読売新聞 読売新聞のネットリサーチ(2008 年 10 月 28 日)によると、インターネットを使って買い物を する人は「よく買い物をする」 、 「多少は買い物をする」を合わせると80%にものぼっているこ とがわかった。【図6】 消費者の消費の仕方にインターネットが大きな影響を与えているということがわかる。 【図 7】 「化粧品に関する情報をどこで入手しますか?」 出所:読売新聞ネットリサーチ また、同社の調査によると、化粧品に関する情報の入手方法を複数回答でアンケートした結果は 「インターネット」(50%)が最も多く、「テレビ CM」(39%) 、 「雑誌の記事や広告」 (36%) が続いた。 【図7】以前はテレビ CM が消費者の情報獲得に大きな影響を与えているとされてい たが、近年はインターネットがテレビ CM を上回ってしまった。化粧品の使い心地などを評価、 比較する@コスメ等のインターネットのサイトなどが増え、消費者が自分で詳しい商品情報を入 手できるようになったことがわかる。(調査は10月上旬のもの、18歳以上の男女1074人 が回答) 27 【図8】「インターネットで買い物をする額」 出所:読売新聞ネットリサーチ 【図8】はインターネットで買い物をする金額について同社が調査したものであるが、ネット上 での買い物の額は「月に5000円未満」(42%)が最多で、月に1万円程度までに抑えてい る人が8割を占めている。 しかし、非常に高額なものに関しては、 「目で実物を見れない」 「写真のとおりとは限らない」 「品 質の保障がされているかわからない」「詐欺にあうかもしれない」等の不安があるためかネット で買っている人はあまりいないようである。 【図9】 「インターネットで買い物をする理由」出所:読売新聞ネットリサーチ ネットショッピングを利用する理由は、 「好きな時間に買い物できる」 (60%) 、 「外出する必要 がない」 (58%)など場所や時間の便利さを挙げる割合が多いが、 「店で買うより安い」 (54%) 「ポイントをためられる」 (40%)などのメリットを挙げる人も多かった。 【図9】 <モバイルショッピングの実態調査> インターネットの検索サイト goo が調査したユーザーアンケートにモバイルショッピング=携 帯電話でのオンラインショッピングの利用経験者を調べたものがある。 調査は、日本全国に住む 10 代~50 代以上の男女合わせて 1072 人を対象に実施。男女比率は、 男性 44.59%、女性 55.41%である。年齢層分布は、10 代 3.74%、20 代 29.66%、30 代 40.58%、 40 代 20.80%、50 代以上 5.22%である。 goo の調査によると「モバイルショッピング(携帯電話を利用したインターネットショッピング) をしたことがありますか」との質問に対し、「よく購入する」との回答したのは 10.35%(111 28 人) 。「ときどき購入する」21.18%(227 人)との合計は 31.53%で、モバイルショッピングユ ーザー²⁾は前回の同社が行った同じアンケート結果の 28.58%から 2.95 ポイント上昇、3 割を超 えるに至った。 「購入したことはある程度ある」は 29.76%(319 人)であり、モバイルショッピングユーザー との合計は 61.34%。モバイルショッピング利用経験者³⁾は、前回の同社が行った同じアンケー ト結果の 58.60%から 2.74 ポイント上昇し、ついに 6 割を超えた。 同アンケートでモバイルショッピング利用経験者³⁾657 人に「モバイルショッピングをするとき、 最もよく利用する決済方法はなんですか」との質問を行った結果、最も回答を集めたのは、「ク レジットカード決済」で 64.54%(424 人)と圧倒的な結果となった。それ以下は割合がぐっと 下がって、「コンビニ決済」12.18%(80 人)、 「配達時代金引換」11.42%(75 人)と続いた。 同じくモバイルショッピング経験者³⁾657 人に「あなたがモバイルショッピングを利用するのは なぜですか」との質問を行った際に【図 10】、最も回答が多かったのは「手軽(便利)だから」 で、57.53%(378 人)と半数を超えた。それに次いだのは「いつでもどこでも利用できるから」 で 49.16%(323 人)であった。1 位 2 位とも、モバイルならではの理由が回答を集めていた。 3 番目に多かった回答は「ポイントがつくから」32.88%(216 人)だった。店頭や PC サイト で定番になってきたポイント制度は、モバイルサイトにおいても重要なマーケティングツールと なっているようである。 【図 10】「モバイルショッピングを利用するのはなぜですか?」出所:goo ユーザー調査 (2008/7/7~10 10 代以上の携帯電話ユーザー1072 人) 29 (4)口コミュニケーションの実態 2006 年にカカクコムが発表したアンケートによると、価格比較サイト「価格.com」のクチコミ 情報によって購買行動に影響を受けているユーザーは 9 割を超えることがわかったという。調 査は 4 月 17 日から 5 月 8 日にかけて実施し、3579件の有効回答を集めた。 クチコミ掲示板の書き込みによる影響としては、 「複数で迷っていたが、特定商品に絞り込んで 買った」が 57.2%で最多。次いで、「購入予定だったものをとりやめた」が 39.7%、「購入予定 外のものを買った」が 28.5%で続いた。 「特に影響を受けない」「その他」というユーザーを除 けば、91.0%がクチコミ掲示板から何らかの影響を受けていると答えた。 また、週刊粧業の 2008 年「消費者が求める21世紀の化粧品・日用品」アンケート調査(アン ケート回答者は平均年齢 31.8 歳の読者、サンプル数は男女合わせて 301 人)の中で行われた購 入実態調査で、消費者の購入プロセスに何がどのように影響しているのかを調べたものがある。 以下の表【図 11】は、消費者の購入プロセスとして、 (美容)雑誌をどの程度参考にするのかを 調べたものである。 【図 11】 「美容系雑誌で新製品が絶賛されているとき、あたなはどうしますか?」出所:週刊粧業 人数 とりあえず店頭に行ってみる 構成比 83 29.20% 興味は無い 101 35.40% 欲しくなる 101 35.40% 回答者数 285 【図11】によると、雑誌で新製品が絶賛されているとき、 「欲しくなる」 「興味は無い」との回 答が同じ数で、意見が二分しているという結果になっている。 「とりあえず店頭に行ってみる」 という人も3割程度存在するが、購買に結びつく決定的な効果とはなっていないようである。 では、どのような意見を参考にしているのだろうか。同じアンケート内で、 「美容ジャーナリス ト」と呼ばれる人々からの影響について調査したものがある。【図 12】 【図 12】 「美容ジャーナリスト・カリスマ」と呼ばれる人たちの意見について」出所:週刊粧業 人数 ときどき参考にしている程度 構成比 137 47.70% 聞き流す程度であまり参考にはしない 79 27.50% 自分磨きのヒントとして参考にしている 67 23.30% あまり信用していない 20 7% 30 全く信用していない 11 3.80% いつも商品を購入する際の参考にしている 10 3.50% 師と仰ぐ人がいる 1 0.30% その他 4 1.40% 回答者数 287 【図 12】は近年流行している美容に関する知識をもった芸能人やジャーナリストなどが TV な どに多く露出しているため、それに伴い消費者に彼らの意見をどの程度参考にしているのか、ま た購入プロセスにどの程度影響を与えているのか調査したものである。 アンケート結果をみると、 「ときどきは参考にする程度」 「自分磨きのヒントにしている」という 回答が全体の7割以上に及んでいる。また、「聞き流す程度であまり参考にしない」という回答 をしている信用していない派の人々にとっては、美容ジャーナリストたちを美容の知識・美容の カリスマ性は認めつつも自分に取り入れるまでは至らず、全体的に「商品選択に迷ったら参考に する程度」という影響度合いであると考えられる。 また同アンケート内で、化粧品購入の決め手となる情報源を調査したものが以下である。 【図 13】 【図 13】 「化粧品購入の決め手となる情報収集方法」 出所:週刊粧業 人数 友人や口コミサイトなど使用者の意見 構成比 162 56.10% カウンターの美容部員の意見 84 29.10% テレビ CM やタレントを参考にしている 72 24.90% 美容に関するサイトやメルマガなどの情報 38 13.10% 美容雑誌 66 22.80% 美容室やエステサロンでの会話 12 4.20% その他 20 6.90% 回答者数 289 【図 13】によると化粧品購入の決め手となる情報源としては、 「友人や口コミサイトなど使用者 の意見」が半数以上も占めている。口コミサイトでの使用感に関する情報のほか、身近な人は肌 が見えるので説得力があり、情報が信用できるという意見が多かったようである。 「テレビ CM やタレントを参考にしている」という回答は 24.9%と決して少なくはないが、そ れでも以前と比べるとテレビ CM の影響力は低下しており、今や口コミ(実際に使用した人が 話す情報)のほうが商品情報への信頼度、購買プロセスへの影響力が高くなってきていることが わかる。 31 他にも口コミに関する調査はなされている。インターネット検索サイト goo の調査によると、 化粧品を購入する際に決め手となる情報源は、 「家族、友人、知人の話」が 15.0%で 1 位である という。 【図 14】この結果をみると、自分に身近な人の話というものが化粧品を購入する際の大 きな要因となっていることが分かる。続いて、 「美容部員(販売員)や店員の話」(10.2%)、 「テ レビ CM」(10.0%)、「掲示板・口コミサイト」(8.6%)が重要な要素となっている。 【図 14】 化粧品を購入する際に決め手となる項目 (n=4,600) 出所:goo ネットリサーチ 有効回答者数: 4,600 名 【年代別内訳】 : 20 代:25% 30 代:25% 40 代:25% 50 代以上:25% 直接体験した人から声を聞くことでその効用が確認でき、身近にいる「家族、友人、知人の話」 がもっとも信頼できるというのは非常に共感できる。その化粧品の効果を目の前で確かめられる し、意見についても、嘘を言ったり誇張していたり、というリスクがきわめて少ないからである。 また、「あの人が使ってこんなに効果があったのだから、私にだって効果があるはず」という感 情も、購入動機に影響してくると思われる。 「家族・友人・知人の話」と「口コミサイト」を合わせると 23.6%と全体回答の2割~3割に もなり、口コミュニケーションの影響力を感じさせる。美容に直接関わる情報においては、その 成果を直接把握できる『リアルな情報伝達』の効果が大きな影響を購買プロセスに与えているこ とがわかった。 32 ◆第四章 高くてもなぜ売れるのか―癒し系バス化粧品が売れる理由― (1)癒し系バス化粧品に対する「癒し」効果の期待度 癒し系バス化粧品の動向と消費者の使用実態を調べたが、現代の人々は本当に癒し系バス化粧品 の「癒し効果」を求めて癒し系バス化粧品を購入しているのだろうか?「癒し効果」に期待して いるからこそ、癒し系バス化粧品は売れているのだろうか。 このことを調べるためにアンケート¹⁾を利用した。 「あなたは癒し効果を求めてバス化粧品(石鹸・入浴剤・ヘアケア製品・ボディクリームなど) を買いますか?また実際にリラックス効果を感じていますか?」という質問に対し、回答者には 以下の4択の中から選択してもらった。 a.癒し効果を求めて購入するし、実際効果もあると思う b.癒し効果を求めて購入するが、実際に効果は感じられない c.癒し効果を求めて購入してはいないが、リラックス効果を感じている d.癒し効果を求めて購入しないし、リラックス効果も感じていない 以下がアンケート結果である。(サンプル数50) 人数 「癒し効果」への期待調査 30 25 20 15 10 5 0 28 11 9 2 a b c d 選択肢 結果としては、a と b の「癒し効果を求めて購入する」の回答数が 39 人と全体の8割もの回答 が得られた。ただ、実際に商品を使用した際に、リラックス効果を感じているかというと回答者 の全員が効果を実感しているわけではないようである。その理由として挙がったのは、「その日 の体調や気分にも左右される」「リラックス効果というのはすぐに変化を感じられるような分か りやすいものではない」などであった。 また、とくべつ癒し効果を求めて商品を購入したわけではないが、使ってみたら意外と癒された、 という c の回答者も2割程度と少なくはなかった。cの回答者は、購入時の「癒し」への期待値 が低かったために実際の使用効果(香りやリッチな使用感など)への評価が大きかったのかもし れない。 癒し系バス化粧品のうたう効果が「癒し」なだけに、購入する人々の多くはひとまず「癒された い」という目的で購入しているようである。アンケート調査では、総括的に癒し系バス化粧品に 対する副次的効果「リラックス効果」を期待しているという結果が得られた。 33 また、湯まわり設備メーカーである株式会社ノーリツは、現代人のお風呂に対する意識について 調査を実施している。(調査はノーリツのインターネットサイトの会員を対象に全国の男女 833 人に行われたもの。調査実施は 2008 年の 9 月である)ノーリツの web アンケートによる調査 によると、入浴が「リラックスできる場所か」という質問に対し9割の人が「はい」と回答して いる。 入浴はリラックスできる場か はい 92.60% 7.40% いいえ 0.00% 50.00% 100.00% (n=833)出所:ノーリツ) 「リラックスのためにお風呂で実践していることは?」という質問に対して最も多かった回答は 「入浴剤を使う」であった。浴用化粧品である入浴剤に対し、リラックス効果を期待している人 が多いことがわかる。 リラックスのためにお風呂で実践していることは? 55% 37% 18% 14% 21% 8% 7% 4% 8% 4% 5% 5% 入 浴 ぬ 剤を る ま 入れ 湯 に る マ ッ つか サ ー る 半 ジす 身 浴 る を す 音 る 楽 を 聴 歌 く テ を歌 レ ビ う を 見 本 る を 植 読む 物 ア を ロ 飾 マ る を 何 楽 も し しむ て い な い そ の 他 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% (n=833)出所:ノーリツ ちなみにノーリツによると、入浴剤は「肩こり」などの従来の効用よりも近年は「癒される香り」 というのが重視される傾向があるようである。 多くの人がお風呂をリラックスタイムとして活用していることがノーリツの調査からはうかが える。そして多くの人がリラックスタイムである入浴時間の癒し効果を高めるため、入浴剤など の癒し系バス化粧品を購入しているということも分かった。 以上のことから、癒し系バス化粧品に対する「癒し効果」への期待度は高く、また入浴時間とい うものが現代の人々の重要なリラックスタイムとなっていることがいえる。 34 (2)女性特有の購買心理 次に、癒し系バス化粧品が売れている理由として考えられることは、<顧客に女性が多いゆえに 女性特有の購買心理が働いているから>ではないだろうか。 男性と女性では購買行動に違いがある。これは先行研究でも多くの研究がなされている。 2006 年 4 月のプレジデントの記事「売り方、買わせ方」にも男女の購買行動の傾向の違いにつ いて記述がある。男性が商品を購買する場合、まずはその商品についている機能を具体的に検証 する傾向がある。自分の望む機能が商品に備わっており、納得できる価格であれば、たいがいは 購入する。それが男性の購買行動である。 これに対し、女性は、スペックからは物を買わないとされている。では、何が重要な判断基準に なるのかといえば、 「それを使っている自分がオシャレであるか」 「この商品をプレゼントする自 分はかわいいか」といったセルフイメージであるという。 このセルフイメージについてであるが、女性にとっては自己確認の道具が服であり、バッグであ り、インテリア等であるといわれている。 アロマキャンドルを例にセルフイメージについて考えてみたい。ある女性はアロマキャンドル自 体はそれほど好きではない。しかし「このキャンドルを灯しながらお風呂に入っている私って、 なんだかいい女」と、そのシーンの中で輝いている自分を想像し、満足するイメージを抱く。こ のイメージを得られれば、その女性はアロマキャンドルを購入する。これが女性特有のセルフイ メージによる購買行動である。 また、フェスティンガー(festinger,1957)によれば、人は相互に情報間に整合性を見出せないと 心理的緊張を高めるとし、このような状態を認知的不協和と呼んでいる。彼の認知的不協和理論 では、このような認知的不協和が生じたとき、この不協和を低減し協和を獲得することを試みる ように、人は動機づけられるとされる。 自分にとって重要な商品を購入したという認知と、その商品があまり良いものではないという認 知は不協和である。そのため、この認知を低減するよう人は動機付けられると考えられている。 この場合、商品を購入した、という認知は変更不可能なため、商品についての評価を満足な方に 転じさせるものと考えられる。このことから、商品の重要性が高ければ高いほど、購買の満足度 も高くなると考えられる。 また、ローゼンバーグのいう自尊感情⁴⁾というものが高い者にとっては、自分が失敗したという ような認知は不協和である。このとき、購買経験の評価をより高くすることによって、この不協 和を低減させるように動機付けられることが考えられる。 35 前述のとおり、先行研究によると女性はセルフイメージを大切にして、購買を決定する。 「美し い自分」 「ステキな自分」を想像して商品を購入しているため、自尊感情も高いといわれている。 そして、高額な商品になればなるほどさらに自尊感情は働きやすく、認知的不協和が発生しやす い。 つまり、LUSH などの癒し系バス化粧品を購入する消費者(主に若い女性)は、アロマキャン ドルの例と同じように、癒し系バス化粧品にリラックス効果を期待し、「日々のストレスから開 放されるようなリッチなバスタイムを楽しむ自分」をイメージし自分の意思で商品を購入してい るため、購入した商品に対して「失敗した」という評価をくだすことは無意識的に避けたい行為 であり、高い評価をくだしているということが考えられるのである。 このような女性特有の購買心理が働いているため、癒し系バス化粧品は売れているのではないか。 <検証> LUSH 等の癒し系バス化粧品を買ったことのある人に、良いイメージをもって商品を購入して いるのかアンケート¹⁾で調査した。また認知的不協和を解消するための行動を起こしているかど うかアンケート¹⁾で調査する。 「あなたは購入した商品について、インターネットなどで口コミや情報を調べたことがあります か?またその行為によって自分の購入した商品に対しての評価はどうなりましたか?」という質 問に対し、以下の4択の選択肢を儲け回答してもらった。 【認知的不協和に関するアンケート調査】 N=50 a.調べたことがある―評価が上がった b.調べたことがある―評価に変化は無かった c.調べたことがある―評価が下がった d.調べたことは無い 人数 認知的不協和に関する調査 25 20 15 10 5 0 20 19 8 3 a b c d 選択肢 50 人のサンプル数(LUSH などのバス化粧品をショップで買ったことのある人が対象)で調査 した結果、上記の図の結果が得られた。a、b、c の「調べたことがある」という回答を合わせる と全体の8割強を占めた。そして調べた結果としては、a 評価が上がった・変化がないという2 つの選択肢の回答数が多かった。 36 また、同アンケート¹⁾での「あなたはバス化粧品ショップのようなお店で商品を購入する人、ま たは購入する自分に対し「オシャレ」 「洗練されている」 「女性らしい」 「かわいい」 「自分が素敵 になれる」といった良いイメージ・感情を抱きますか?」という質問の調査結果は以下であった。 はい 45 人 いいえ 5人 (N=50) この回答結果からは、回答者のほとんどがバス化粧品を買うことに対し、 「オシャレ」 「かわいい」 などの素敵なイメージを持っていることが分かった。 さらに同アンケート¹⁾での「あなたは(2)に挙げたバス化粧品ショップで商品を購入した後に、 「買わなければよかった」 「失敗した」とひどく後悔したことはありますか?」という質問の調 査結果は以下であった。 はい 8 いいえ 42 (N=50) この回答結果からは、回答者の多くは、購入した商品に対してひどく後悔した経験はないと認識 している、ということである。 <検証結果> アンケート結果をみる限りでは、回答者は癒し系バス化粧品に対し高い癒し効果を得たいという 期待や購入することに対して「オシャレ」などの良いイメージをもって購入しており、さらに認 知的不協和を解消するための行動をとっているという傾向がみられた。自分の購入した癒し系バ ス化粧品に対し、後悔したことのある経験を持つ人が非常に少なかったもの特徴的である。 よって、癒し系バス化粧品が売れている理由のひとつとして、女性特有の購買心理が働いている ことが考えられる。 37 (3)高くても買う商品に必要な要素 次に、一般的に、高くても売れるものはどういった要素をもっているのか考えてみたい。 日本の GDP の6割は個人消費が占めると言われている。景気が悪くなり、消費マインドが冷え 込んだとしても、消費意欲に刺激を与えるような付加価値を提供できる商品であれば売れる。そ ういった事例はこれまでにもいくつか見られている。 ここで、三井住友の SMBC コンサルティングが毎年発表している「ヒット商品番付」を参考に 考えていきたいと思う。 2009 年のヒット商品番付の横綱(東)は「ハイブリッドカー」であった。そのヒット商品番付 の 2007 年版で、大関(東)に選ばれたのは「プレミアム商品」であった。【図1】 1990 年の末から、景気が後退し個人消費が落ち込んできたという風に言われているが、 「プレミ アム商品」はこの個人消費の落ち込みを刺激したのではないだろうか。個人消費の「我慢」がず っと続いた反動として、ちょっとした贅沢が消費マインドを刺激した。肌によい自然派石鹸、ち ょっといい食材、美味しい高級スイーツ、こだわりの機能がついた家電製品など、あらゆる分野 でちょっとした贅沢を日常にプラスした商品が続々と登場している。航空機の座席や映画館の座 席などもプレミアム座席、という値段は少し高いが通常の座席に比べて広くて快適な座席がある ように、プレミアム商品はサービス分野にも登場し拡大している。 日本総合研究所が 2007 年 12 月に発表した「値段が高くても買いたい商品に関する意識調査」 というものによると、値段が高くても買いたい商品は「自分自身のため」という回答が全体の 8 割近くを占めた。そして、 「値段が高くても買いたいブランド」を評価する理由では、 「品質や性 能などが高いから」 (40.3%)が全体でのトップで、 「デザイン性が高いから」 (18.2%)、 「信頼 感」(12.8%)が続く。【図2】 38 また、M1F1総研による「最もお金をかけたいもの」というアンケートでは、「リラックスで きるもの」 「ストレスを発散できるもの」 「自分磨きができるもの」 「自分の感性に合うもの」 「誰 かと楽しく過ごせるもの」などという回答が高い数値を示していることが分かる【図 3】。 この調査からわかるのは、値段が高くても売れるものの特長として、「自分を磨けるもの」そし て「リラックス効果のあるもの」が挙げられると考えられる。 39 値段が多少高くても理由があれば購入する、というのは、毎日の生活に欠かせない食品に対して も同じである。goo よるネットリサーチの「食料品に関するアンケート」で「食料品の要素に対 する価格プレミアム(どれくらい価格が高くても購入するか)」について聞くと、価格が 1 割以 上高くても買うという人は、 「国産」 「鮮度」 「信用のおける銘柄(ブランド) 」で、いずれも 60% 以上を超えていた【図 4】 。つまり、 「安全」を裏付ける「信頼」が価格に反映されているという ことである。 上記のデータ(図1~4)からもわかるように現代の人々の消費志向は、嗜好的要素の強い商品 に対しては、 「自分自身に投資し、自分自身を高め、表現したい」という意識があるものの、投 資余力さえあれば基本的に「多少高くてもいいものを買いたい」と考えているのではないだろう か。また、ちょっとした贅沢が味わえる「プレミアム商品」にも、高額なブランド商品にも、ち ょっと高い高級食品にも、商品の「信頼」や「安全」がその背景にあるように思える。少し高く ても質の良いものを自分に投資するのは、それらの商品が信頼のできる安全な商品であり、その うえで日々のストレスを発散させてくれるリラックス効果があったり、気持ちを豊かにしてくれ るものであったりという付加価値がついている、 「消費したい」という欲望を刺激してくれるも のだからだと思う。 こうしたデータから考えられる、値段が高くても売れる商品のポイントは「信頼」「安心」を前 提にしたうえで、購買行動を刺激する副次的効果や魅力がどのように商品に付加されているかに あるようである。 そして、上記の様々な調査結果でわかることは、 「低価格優先」という消費マインドが必ずしも 万人に当てはまるわけではないということである。高額でも「価値がある」と思えば買うし、こ の商品なら「百円ショップでもいい」と考えるのが現代の人々の価値観なのである。つまり、人々 の「消費意欲」は不況であっても決して弱くないということである。その弱くない「消費意欲」 を刺激する商品の魅力とそれをどれだけわかりやすく消費者に伝えるか。それが少し高くても売 れる商品のティッピングポイントではないかと思う。 40 なぜ癒し系バス化粧品が売れているのか。癒し系バス化粧品は上記のデータで示した「高くても 売れるもの」にある下記の要素をもっているからである。 ① 値段が高くても買いたい商品は「自分自身のため」に「自分磨きができるもの」。そして、 「値段が高くても買いたいブランド」を評価する理由は、「品質や性能などが高ければ評価し、 高くても購入する」 。 ② 「最もお金をかけたいもの」は、 「リラックスできるもの」 「ストレスを発散できるもの」な ど。 ③ 高くても売れる商品は「信頼」「安心」を前提に作られたものであるうえで、購買行動を刺 激する副次的効果や魅力が付加されている。 (4)まとめ では、これまでの分析を総括して、 「なぜ癒し系バス化粧品が売れているのか」についての結論 をまとめてみたい。 ・企業側の動向として分析した結果、癒し系バス化粧品が売れていると考えられる要因は以下の 3点である。 ①ヘアサロン専売品を「ランキンランキン」や「ソニプラ」 「ショップイン」 「ドンキホーテ」な ど消費者が気軽に購入できる場所で売るようになった(プレミアムラインの普及)。 ②従来のバス化粧品(低価格重視)を品質のよい「プレミアム」タイプにリニューアルしている (価値訴求型へのシフト) 。 ③シャンプーやリンスなどの毎日使用し量を使う基礎ライン商品などに比べ、トリートメントな どの週に1度使うようなスペシャルケアライン商品に力を入れ生産している。 ・消費者側の動向として分析した結果、癒し系バス化粧品が売れていると考えられる要因は以下 の5点である。 ①インターネットの普及、そしてネットショッピング(PC とモバイル)の普及により気軽に商 品を調べ、購入できる環境がうまれている。 ②化粧品分野の商品は友人による口コミや@コスメなどの口コミサイトへの信頼度と購買へつ ながる決定力が高いため、多くの口コミ情報に触れる機会と口コミ情報への安心感が、商品購買 の後押しになっている。 ③入浴時間を大切なリラックスタイムと捉えている人が多く、それに加え、入浴時のリラックス 効果を高めるため多くの人々が癒し系バス化粧品の「癒し効果」に期待している。 ④癒し系バス化粧品には女性特有の購買心理(女性がもつセルフイメージによる購買行動、自尊 感情と認知的不協和による商品への高評価など)が働いている。 ⑤癒し系バス化粧品は、一般消費者が考える「値段が高くても買いたいプレミアム商品」の特徴 を備えている(「自分自身のために自分磨きができる商品」 、「品質や性能などが高く信頼できる 商品」 、「リラックス効果のある商品」など) 41 ◆実際に使用したアンケート調査◆ (1)あなたの年代、性別(男女)を教えてください a.10代 b.20代 c.30代 d.40代 e.50代~ (2)下記のバスグッズショップの中で知っているものがあれば挙げてください。 (複数回答可) a.LUSH b.THE BODY SHOP c.ロクシタン d.MARKS&WEB e.ボタニカルズ (3)上記のショップ a~e のどこかで買い物をしたことがありますか a.はい b.いいえ (4)はい、と答えた方に質問です。1回に購入した購入金額はいくらくらいでしたか?(何度か 購入したことのある方は一番高かった時の金額) a.1000 円以内 b.3000 円以内 c.5000 円以内 d.1万円以内 e.1万円以上 (5)あなたは癒し効果を求めてバス化粧品(石鹸・入浴剤・ヘアケア製品・ボディクリームなど) を買いますか?また実際にリラックス効果を感じていますか? a.癒し効果を求めて購入するし、実際効果もあると思う b.癒し効果を求めて購入するが、実際に効果は感じられない c.癒し効果を求めて購入してはいないが、リラックス効果を感じている d.癒し効果を求めて購入しないし、リラックス効果も感じていない (6)あなたは(2)に挙げたバス化粧品ショップのようなお店で商品を購入する人、または購入する 自分に対し「オシャレ」 「洗練されている」 「女性らしい」 「かわいい」 「自分が素敵になれる」と いった良いイメージ・感情を抱きますか? a.はい b.いいえ (7)あなたは(2)に挙げたバス化粧品ショップで商品を購入した後に、 「買わなければよかった」 「失 敗した」とひどく後悔したことはありますか? a.はい b.いいえ (8)あなたは購入した商品について、インターネットなどで口コミや情報を調べたことがありま すか?またその行為によって自分の購入した商品に対しての評価はどうなりましたか? a.調べたことがある―評価が上がった b.調べたことがある―評価に変化は無かった c.調べたことがある―評価が下がった d.調べたことは無い ご協力いただき、どうもありがとうございました。 42 <注釈> 1)使用したアンケートは論文末「実際に使用したアンケート調査」を参照。 2)モバイルショッピングを「よく利用する」 「ときどき利用する」の2回答に該当する人を goo ではモバイルユーザーと定義している。 3)モバイルショッピングを「ある程度(ときどきとまではいえないが)利用したことがある」 と回答する人をモバイルユーザーの人と合わせたとき、goo ではその集団をモバイルショッピン グ利用経験者と定義している。 4)自尊感情(self esteem)とは人間の持っている自尊心、自己受容などを含めて自分自身に ついての感じ方を指す。ローゼンバーグ(Rosenberg,M,1967)は自尊感情に、自分を「非常に 良い」と考えることと「これで良い」と考えることの2つの意味があると指摘し、自尊感情が高 いということは、後者の「これで良い」と感じることであるとした。 <参考文献> 神山 進『消費者の心理と行動―リスク知覚とマーケティング対応―』 中央経済者 1997 年 竹村 和久, 高木 修『消費行動の社会心理学―消費する人間のこころと行動―』北大路書房 2000 年 舘澤 貢次 『医薬品・化粧品 2009 年度版 (最新データで読む産業と会社研究シリーズ9)』 産学社 中島 2007 年 美佐子 『よくわかるトイレタリー業界』 日本実業出版社 2007 年 沼上幹『わかりやすいマーケティング戦略』 有斐閣アルマ 2000 年 Leon Festinger “A Theory of Cognitive Dissonance” Stanford University Press ,1957 INTERNET Watch http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/05/12/11944.html 株式会社富士経済 https://www.fuji-keizai.co.jp/index.html 経済産業省 http://www.meti.go.jp/statistics/index.html 内閣府 消費者動向調査 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html 矢野経済研究所 http://www.yano.co.jp/ 多変量解析関数一覧 http://www.okada.jp.org/RWiki/?R%A4%CE%B4%F0%CB%DC%A5%D1%A5%C3%A5%B1% A1%BC%A5%B8%C3%E6%A4%CE%C2%BF%CA%D1%CE%CC%B2%F2%C0%CF%B4%D8 %BF%F4%B0%EC%CD%F7 日本銀行「個人消費関連指標のみかた」 http://www.boj.or.jp/type/exp/seisaku/expsyohi.htm 野村資本市場研究所 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