保険代理店による保険コラム 第34回 博打だった保険 ―コーヒー店から「ロイズ」の誕生― ロイズという名を聞いたことがあるだろうか。 ロイズとは、ロンドンにある個人保険業者の団体で、世界の中心となってい る損害保険市場だ。約二万人が加入しているシンジケートで、会社ではなく、 個人の保険引受人の集団である。 私が保険業界にいた時、ある石油コンビナートの保険を引き受けるにあたっ てロイズの人間が調査に来たと聞いた。万一の場合、支払い保険金が莫大にな り、国内の保険会社では資力が危うくなると予想されると保険会社は再保険を かける。その引き受けがロイズで、それを引き受けるかどうか、調査に来たの だった。 保険を引き受けるのに保険会社ではなく、個人であるところがユニークだ。 なぜ、そうなったかは発祥のいきさつによる。 1688頃、エドワード・ロイドがロンドンのタワー・ストリートにコーヒ ー店(ロイズ・コーヒー・ハウス)を開店した。貿易商や船員などがたむろす るようになった。ロイドは顧客のために最新の海事ニュースを発行するサービ スを行い、店は繁盛した。次第に保険引き受け業者(アンダーライター)が集 まるようになった。 そのころの保険は賭博のようなものだった。 個 人 で 保 険 を 引 き 受 け 、な に も 無 け れ ば 掛 け 金 は ま る ま る 儲 け と な る 。だ が 、 事故があった時には個人で補償しなければならない。そこには、支払い能力も ない怪しげな業者が出入りするようになり、しだいに評判を落とすこととなっ た。その後、まともな業者は、ロイズ委員会を組織し、1773年に王立取引 所のなかに置くことを決め、怪しげな業者を排除した。 これにより、ロイズは保険取引が行なわれるコーヒー店の名前から、保険引 受 市 場 そ の も の 、「 新 ロ イ ズ 」 へ と 転 換 し て 行 っ た 。 この「新ロイズ」になる前は、病気になった政治家や戦地に行く軍人がいつ 死 ぬ か 、ル イ 1 5 世 の 恋 人 へ の 愛 が い つ ま で 続 く か 、ナ ポ レ オ ン が い つ 死 ぬ か 、 そんなことも「保険」の対象になったようだ。 株式会社 エイアンドビーアシスト 代表取締役会長 野 中 康 行
© Copyright 2024 Paperzz