紛争・テロの応酬とその原因 - 愛・知・みらいフォーラム

いのちコース 授業 ②
2013 年度
高校生夏休み国際理解教育特別講座
紛争・テロの応酬とその原因
― 中東・アフリカ近代史を見直す ―
講師
中西
久枝
1
はじめに-アフリカ諸国への先進国支配
2
アフリカ諸国における紛争
(1)
ビアのカダフィ政権の崩壊
(2)
マリ紛争におけるアルカイダ
(3)
アフガニスタンにおける反タリバン戦争
(4) マリ紛争へのフランス介入
(5) ニジェール紛争におけるイスラム武装勢力
(6)
アルジェリア人質事件
3
なぜテロが起るのか-資源の呪い
4
質疑応答
5
むすび ― ガーナからの電子メール
2013 年 7 月 22 日(月)
主催 愛・知・みらいフォーラム
あいち国際プラザ
共催 愛知県国際交流協会
2階
後援 中日新聞社
いのちコース 授業②
2013 年度
高校生夏休み国際理解教育特別講座
紛争・テロの応酬とその原因
― 中東・アフリカ近代史を見直す ―
講師
中西
久枝
1
はじめに-アフリカ諸国への先進国支配
2
アフリカ諸国における紛争
(1)
ビアのカダフィ政権の崩壊
(2)
マリ紛争におけるアルカイダ
(3)
アフガニスタンにおける反タリバン戦争
(4) マリ紛争へのフランス介入
(5) ニジェール紛争におけるイスラム武装勢力
(6)
アルジェリア人質事件
3
なぜテロが起るのか-資源の呪い
4
質疑応答
5
むすび ― ガーナからの電子メール
2013 年 7 月 22 日(月)
主催 愛・知・みらいフォーラム
あいち国際プラザ
共催 愛知県国際交流協会
1
2階
後援 中日新聞社
紛争・テロの応酬とその原因
─ 中東・アフリカ近代史を見直す─
講師
中 西
久 枝
1 はじめに─アフリカ諸国への先進国支配
私は年に一回ここに来て、自分の専門分野の話をなるべくわかり易くこの特別講座参加
者の皆さんに伝えようと、今日もやって参りました。私の研究分野は「中近東」といわれ
る地域、地図でご覧いただきますと、これが中近東といわれるところです。特にイランと
いう地域、アフガニスタン、それからエジプト、それにパレスチナといわれる地域(ここに
イスラエルという細長い国があるのですが、その中のヨルダンの西岸側)、それからレバノン、
トルコそういった地域を中心に「紛争をどのようにして防止するか、もし紛争が起こって
しまった場合には、どのようにして紛争後の社会をたて直すか」ということを研究してい
ます。
今日は、中東にも繋がっているといわれるアフリカのお話をします。アフリカの話です
が、実はアフリカだけの話しではない、というのが話のポイントになります。今日、どの
ようなお話を期待してきましたかと聞いたら、
「テロがなぜ起こるのか知りたい」という声
があがったそうですね。その辺なるべく丁寧に説明したいと思います。今日の私のテーマ、
「紛争・テロの応酬とその原因─中東・アフリカ近代史を見直す─」としましたが、皆さ
んは世界史の授業で、中東、アフリカとヨーロッパの関係について何か勉強しましたか?
どうでしょうか、どなたでも……
(生徒)ヨーロッパの植民地です。中東、アフリカ諸国の多くは、17 世紀、18 世紀頃から
ヨーロッパの
植民地でした。
そうです、植民地ですね。植民地であったということで、今日特にお話したいアルジェ
リアにおいて、日本の日揮という会社の社員がテロによって殺害されるという事件が起こ
ってますが、そうしたことが何故起るのか。そうした問題についてお話ししていきたいと
思います……。途中でわからないことがあったら、どんどん手を挙げてくださいね……。
皆さん、
「アラブの春」という言葉聞いたことありますか。……はい、うなづいた人たく
さんいますね……。アラブの春というのは、リビアという国のカダフィ大佐という独裁政
権が倒れ、チュニジアの独裁政権が倒れ、エジプトのムバラク政権が倒れ、それを動かし
たのが民衆の力だったんですね。ところがエジプトの内政がゴチャゴチャになってしまっ
2
て、イスラム色の強いモルシ政権が一年ちょっとして崩壊し、軍事クーデターが起こって
しまったというのが現在の状況です。一方、独裁政権が倒れていくという過程でみられる、
もう一つの動きを申し上げねばなりません。それはシリアのアサド政権という独裁体制に
対する不満が国民から出て、ここでは内戦状態になっています。このように中東は紛争が
非常によく起こる地域なんですけれども、実際にアラブの春といわれたようなこと、ある
いはシリアのような内戦状態が起きるときに、その国の中の問題で終わらないで、周りの
国に様々な影響が出て参ります。
今日のお話の中心になるのは、アフリカのサへルといわれる地域です。ここはサウジア
ラビアなんですが、ここから東側は中東が続いていて、このサウジアラビアとシナイ半島
からエジプト、リビア、アルジェリア、マリ、ニジェール、チャド、スーダンと続きます。
このオレンジ色で塗られたこの地域はサヘルといわれている地域で、昔からイスラム教徒
が多く住んでいます。植民地化が行われる前、この地域では国という概念もなく、部族単
位の政治が行われてきたのです。このあたりの国境線を見ていただけますか……、アルジ
ェリアはこんなに大きな国なんですが、国境線で何か気付きませんか?どういう特徴があ
りますか、どなたか?
(生徒)直線です。
そうです直線ですね。何故直線なのでしょうか……。それは、ここを支配したヨーロッ
パ諸国が自分たちの都合のよいように国境線を引いたからですね。ここは一つの区切り、
ニジェールにはウランが沢山あります。ウランがあるからこの辺に線を引こうかとかです
ね、アルジェリアには石油があります。資源というもの大体 14 世紀頃からわかっていて、
ウランは比較的最近のことですが……。
ですから、今日のキーワードは3つあります。一つは、北アフリカを中心とするアフリ
カ諸国は、ヨーロッパから植民地支配を受けてきた地域であるということです。二つ目は、
資源争奪の問題です。かっての植民地支配国が、現在の資源開発にも活発に関与し、資源
を得ていくというビジネスの体系となっていることです。だから紛争の原因には本当は複
雑な問題がからんでいるのですが、要因の一つに資源があるからというふうに言われます。
もう一つは、テロは何故起るのかということを考えたときに、この地域でテロを起してい
るのはイスラム過激派なんです。ですからイスラム過激派がどうしてこの地域に根を張っ
たかということが問題です。この三つの関係を考えるのが今日の目的となります。
それで植民地ということを話しましたけれども、今日お話しする地域がどこの植民地だ
ったか、ということで「アフリカの地図」見て下さい。これ私が作ったんですけれども、
ぱっと見てヨーロッパのどこの国が多いですか。
3
(生徒)フランス
そうフランスです、フランスですね。リビアはイタリアの支配が強かったのですが、ア
ルジェリアもニジェールもフランスです。フランスが植民地支配をしました。
それでフランスが支配をしているとすると支配者側は、必ず現地のエリート集団と繋が
ります。現地のエリートというのは頭がよくって、フランスが支配に来たら繋がっていっ
て、何とかフランスと一緒になって利益を得ようとする集団です。そして現地のエリート
の人たちは、その支配国の言語を話すようになります。イタリアが支配するリビアではイ
タリア語を話し、フランスが支配するアルジェリアではフランス語を話すというわけです。
マリもフランス語、ニジェールもフランス語。ですからアフリカでは、スワヒリ語を話さ
れる地域もあるけれども、現地のエリート、知識人と話をしようと思ったら、フランス語
です。フランス語さえ出来れば、実は話が通じてしまうということです。一方で地域言語
があります。地域言語は、あとで出て来ますツアレグ族という民族が、さっきオレンジ色
で示したサへルといわれている地域に、国境に関係なく昔から住んできました。この人た
ちはツアレグ語という言語を話しています。ですから植民地支配してくるヨーロッパ、こ
の場合フランスですけれども、フランスと一緒に手をつないで支配を許してしまう現地エ
リートたちと、そうでないこの地方の人たち、つまり普通の人たちとは言葉も違うわけで
す。
2 アフリカ諸国における紛争
(1)リビアのカダフィ政権崩壊
それで今日のお話は、アラブの春から入りますので、リビアのカダフィ政権が崩壊した
ところから話を始めます。地図を見ながら話を聞いてほしいので、もう一度、「アフリカ
の地図」を見ていただきます。
このリビアという国は、どんな資源があって有名でしたか……わかりますか。アルジェ
リアも同じなんですけど……、石油です。リビアは石油が凄く採れるので、このリビアに
ツアレグ族と言われる人たちは、たくさん住んでいるし、アルジェリアにもたくさん住ん
でいます。この人たちは、先程も言いましたように、国境に関係なく住んでいるわけです。
リビアではこの人たちは、石油を採掘する産業に携わって食べてきました。実は、カダフ
ィ大佐という独裁者は、ツアレグ族を使いながらリビアの石油産業を起してきたのですけ
れども、そのカダフィ大佐が人々の反乱によって倒されようとした時、その人たちはカダ
フィ大佐について民兵、傭兵として、軍事集団となって闘いました。仕事ももらったし恩
恵も受けてきましたから……。
4
ところがカダフィ大佐が簡単に崩壊してしまいます。これはフランス側をはじめとする
ヨーロッパ諸国が、カダフィ大佐の政権を崩壊させるために軍事介入したからです。そこ
でカダフィ大佐の反対勢力が政権を握るようになると、カダフィ側についてしまったツア
レグ族は、反逆者だということになって、ニジェール、チャド、アルジェリアからマリと、
その周辺諸国に難民として逃れます。この人たちは、元々どこが自分の国かという意識が
ない遊牧民です。点々とテント生活をしながら暮らしてゆく人たちなので、別にどこに行
こうといいのですが、一方では、国境というものがありますので、国境をこえれば難民と
なります。そうした状況で、リビアのカダフィ政権が崩壊するというところからこの地域
の問題が起こり始めます。
(2)マリ紛争におけるアルカイダ
それで今度はマリで、マリ紛争というのが起こります。このマリ紛争というのが、何故
起こったかというと、前からツアレグ族という人たちがマリの中で、自分たちの国、自治
区を作ろうとしてマリ政府と闘ってきたわけです。このツアレグ族は、特にマリの北部、
リビアに近いところで遊牧生活を続けてきた民族なんですけれども、ヨーロッパの植民地
支配前から今に至るまでニジェール、モロッコ、ブルキナファソ、アルジェリア、リビア
に国境をまたいで生活をしている、さきほどの地図でオレンジで囲まれたサヘルと呼ばれ
ている地域で生活しています。フランス植民地時代には、フランス支配に反対をし、その
あとはマリ政府に反対をしながら、自分たちの国を何とか作りたいという運動をしてきま
した。自分たちはフランス政府にも、マリ政府にも支配されたくないという運動を起して
きました。
ところが、隣のリビアのカダフィ政権が崩壊すると、マリの中にいるツアレグ族の人た
ちは、僕たちも頑張って、今こそマリ政府に挑戦する時が来たというふうに考えて、反対
運動を盛り上げようとして行きます。そういう状況にあるマリにリビアのツアレグ族が、
マリの方に南下してきます。カダフィ体制の下では仕事があったけれども、体制が変わっ
て難民化した人たちが、今度はマリに住んでいるツアレグ族と合流してゆきます。合流し
たツアレグ族に対して、今度はどういう人たちが入って来るかというと、イスラーム過激
派のアルカイダといわれる勢力です。アルカイダという名前聞いたことありますか?どう
いうときに聞きました?……聞いたことある人……ある?……ない?
(3)アフガニスタンにおける反タリバン戦争
中東にアフガニスタンというタリバン勢力の強い国があります。2001 年 9.11 事件が起こ
ります。9.11 事件はタリバンというイスラーム過激派が、アルカイダと呼ばれているテロ
組織と繋がって起こした最大規模のテロ事件です。タリバンとアルカイダが繋がった結果、
5
アフガニスタンはタリバンの巣になってしまったのです。アルカイダはオサマビンラビン
という人が親分の組織です。それで 9・11 事件後 2001 年にタリバンを倒す運動が起こりま
す。アメリカがアフガニスタンで仕掛けた反タリバン戦争です。このアフガニスタンで戦
争が起ると、タリバンはパキスタンに逃げる。中国、タジキスタンにも逃げる。トルクメ
ニスタンは結構国境が熱いのでなかなか行かない……。イランにも一部入る。イランを抜
けてイラクにも行く、シリアにも行く、エジプトにも行く、スーダンにも行くというかた
ちで、はるばるアフガニスタンからアフリカまでどんどん勢力を拡大してゆきます。そう
したアルカイダ・イスラム過激派勢力が、マリで紛争を起こしたツアレグ族に働きかけて
ゆきます。誰に対してテロを起すのかというと、マリ紛争の場合は、テロ化したツアレグ
族がマリ政府と闘いながらテロを起してゆくということになります。
(4)マリ紛争へのフランスの介入
次の問題はですね、2013 年 1 月 13 日フランスがマリ紛争に介入します。フランスは元々
マリを支配していた植民地支配者ですから、マリのウランとか金とか資源に対する採掘の
利益を得てきた国です。ですから、そうした資源の開発という利益を守るためには、紛争
には介入しながら何とかマリからビジネスチャンスがなくならないようにするということ
なんです。その時フランス政府は「フランスはすでに 750 人の兵を送ったが、さらに 2,500
人を送る。フランスがマリを去るのは、マリに安全で正当な政府、公平な選挙プロセスを
見、テロリストの脅威が亡くなった時だ」という声明を出しました。フランスがどうして
マリ紛争に介入して兵を送るのかというと、マリに正当な政府が出来て、紛争が止み、公
正な選挙が行われて、民主化が進み、テロリストの脅威がなくなるためにと言っています。
逆に言うと、脅威が認められる間は、フランスは介入するという声明を出して軍を送って
いるわけです。
カナダ、デンマークもフランスに後方支援を約束しながら、フランス軍がマリで闘い易
いように戦略的な支援を行ったり、食料を送ったりするわけです。なぜこうした国々もフ
ランスに支援をするのでしょうか。これまでお話ししたことを総合して考えてください。
だれか……どうですか。
(生徒)フランスがマリから持ってきた資源をわけてもらう。
資源を分けてもらうため……そうですね。というのはどういうことかと言うと、こうい
う国々もマリの資源をねらって投資してるんですね。投資という言葉、わかりますか……
つまり、金塊の山を開発するために技術者を送って、金を掘り起こすとか、そこで会社を
興すとか、同じウランという資源をとるために採掘場をつくり、人々を雇い……そういう
6
投資をするわけですね。ですからこういった国は、何のことはない投資国なんです。です
からフランスと一緒に介入することによってマリの資源がフランスだけのものにならない
ようにしよう。それがフランスと一緒になって分けてもらうという意味です。
(5)二ジェール紛争におけるイスラム武装勢力
それで今度は、問題はニジェール。紛争はドミノ式に続きます。2012 年 5 月 23 日にニジ
ェール紛争が起こります。マリ紛争 4 か月後です。ニジェール北部で、フランス原子力大
手のアレバのウラン加工施設とニジェール軍の基地が、車爆攻撃を受けます。マリのイス
ラム武装勢力「西アフリカ統一聖戦運動」が犯行声明を出しました。このイスラム武装勢
力にはアルカイダも入っています。「イスラム法に反したフランスの戦争に、ニジェール
が協力したことに報復するのだ」という声明でした。この声明は何を言ってるのでしょう
か。イスラム法というのは、このシャリーアと言われているコーランから読み取った法律
の体系です。結婚・相続といった生活を規定する内容から、社会関係から経済制度、例え
ば利子はとらないなどといったさまざまな内容に及んでいます。そしてこれに基づいた政
治を行うことが、コーランを忠実に実施することであるというふうに考えています。そう
したことに反するフランスの戦争に、ニジェールが協力したことに対して報復すると言っ
ているわけですから、マリのイスラム勢力が結局は、ニジェールでこういう紛争を起こす
ということになります。
話が非常に込み入って申し訳ないです。要は、簡単な図式にまとめますと、結局植民地
時代から今も変わらずに、フランスはマリやニジェールの資源をどんどん取ってしまって
いる。それをマリやニジェールの政府が許しているのを、アルカイダ、ツアレグ勢力は不
満に思っているのです。つまり政府がフランスと組んで、自分たちの資源をフランスに譲
り渡していることに対して、政府を攻撃しているということになります。
ニジェール政府軍は、マリ北部でのフランス主導のイスラム勢力掃討作戦に軍を派遣し
て、フランス側につくというかたちを取るので、イスラム勢力であるアルカイダ、ツアレ
グ族は、ニジェール軍と戦わなければならないということになります。ですから、ツアレ
グ族にとっての主な標的は、自分たちの国家の政府軍であるということになります。
(6)アルジェリア人質事件
今度は、マリ、ニジェールで起こったことがアルジェリアで起こります。アルジェリア
人質事件です。2013 年 1 月 16 日の早朝、アルカイダ系の「イスラム聖戦士血連同盟」(こ
ういう名前いちいち覚えなくっていいですよ、言わないと説明できないから言っているだけです
から……)がアルジェリア東部の天然ガス精製プラント(アルジェリアの国営企業と、イギリ
ス、ノルウェーとの合併)、これには日揮という日本の企業も化学プラントで参加していま
7
した。その結果、そこで働いていた、アルジェリア人 150 人、アメリカ人 7 人、日本人 10
人、フランス人 2 人、イギリス人 2 人、アイルランド人 1 人、ノルウェー人 13 人のうち
41 人の外国人が人質にとられました。4 日後にアルジェリア政府の特殊部隊が突入 37 人が
死亡、日本人 10 人も死亡するという事件が起こりました。
日本ではどういう報道がされてきたか、当時のことを覚えていますか?どういう報道が
ありました?……。日本は何とかして日本人を救出したい、でも全然情報がない……と言
っていたんです。情報がないからどういう策をとったらよいかもわからない。それで安否
確認もできないという不安が続くわけです。この事件が起こった時、私は凄くいやな予感
がしたんですね。日本の人たち助からないのではという予感でした。何故かというと日本
は、他の国もそうですけれども、何とかして、人質の命を守らなければならないと考える
わけです。人質の命を守るということは、イスラムのアルカイダ系の過激派グループと何
らかの結着をつけなければいけないわけです。人質を解放するためにはどういう結着のつ
け方、方法があるでしょうか……。どうですか?
(生徒)相手の要求を呑む。
どういう要求ですか?……お金ですよね。ですからパキスタンで日本人がつかまったり、
アフガニスタンでカメラマンがつかまった時、日本政府は、秘かにお金を渡しながら人質
を解放してきたんです。この場合、そうするかどうかということになるわけですけれども、
実際、日本には情報が入って来ない。私は凄く嫌な予感がしたのですが、その嫌な予感と
いうのは、ニジェール、アルジェリアの外国の会社に手渡すことによって、国家予算、財
政収入を賄っていますから、外国人の手による資源開発を守ろうとします。一方、テロリ
ストに大金を手渡してしまったら、テロは繰り返されます。ですから、アルジェリアは徹
底的に資源開発を守るために結局人質は犠牲になっても強行突破でテロリストを殲滅(せん
めつ)、殺してゆく、その際に人質も死ぬ、それは止むを得ないのだという選択をとるとい
うことです。そういう非常に悲惨な話です。
丁度この事件が起こった直後に私は、カナダの友人から一通の電子メールをもらいまし
た。その友達というのは、実はモロッコのベルベル人と言われる遊牧民の出身の方で、そ
の人は自分が小さい時にお母さんと一緒にフランスに移って、移民としてフランス人とし
て生活をしていました。でも差別が激しいので、フランスでは生活するのが大変だという
ことで、カナダに移民として移りました。彼女は作家として成功していますが、大変な生
活をして生き延びてきたベルベル人なんです。
「日本人があんなに人質になって日本政府は情報もないし、身元の安否確認が出来ない
8
として心配している。でも残念ながらあの人たちは助からないと思う。何故かというとフ
ランスとアルジェリアは、植民地の関係を、18 世紀からずっと続けているから。アルジェ
リア政府はそれを簡単にやめるわけがない。フランスの投資系が続々とやって来て、企業
を興し、工場をつくり、プラントを作るということがなくなってしまったら、アルジェリ
アは国家収入が途絶える。だからアルジェリアは徹底的に国を守るためには、アルカイダ
系のイスラム過激派と闘わなければならない。闘うときに血が流れる。過激派も亡くなる
かもしれないけども人質も亡くなる。それは止むを得ないのであって、これが 18 世紀以来
続いてきた歴史の教訓。」というメールを私に送ってきました。アルジェリアは結局 4 日
後に突入して、日本人は 10 名亡くなったということです。
それで、アルジェリア人質事件の背景としてあるのが、マリ紛争が起こった時に、マリ
の大統領はフランスに介入を要請しているんです。マリ紛争というのは、マリ軍とフラン
ス兵士が、アザワド地域というイスラム過激派支配地域-ここにはツアレグ族も住んでい
るんですが-に攻撃したという紛争です。アルジェリアにいるツアレグ族は、マリ政府が
フランス側について、自分たちと同じ民族を攻撃するのを許した、ということに対する報
復を目的にアルジェリアでテロを起し、マリで起こったことがニジェールに波及すると、
ニジェールにいるツアレグ族がニジェール政府に対して反乱を起こすということになって
くるわけです。
3 なぜテロは起こるのか ―― 資源の呪い
では何故テロが起こるのかというという質問の話に移ります。先程の表をもう一度見て
もらいます。貧困率を見ていただきます。リビアは国家予算GDPの 98%が石油収入で成
り立っている国です。石油収入がふんだんに入ってくれれば人々は豊かになるはずなのに、
豊かにならずに一日一ドル以下の生活を強いられている人たちが 65%もいる。アルジェリ
アは石油、天然ガスがありますけれども、それが国家予算にどのくらいの割合であるのか
わからないけれども、アルジェリアのような石油、天然ガスがあるような国でも 25%の人
が貧困状態にいる。マリは 30%です。ニジェールはウラン世界第三位を誇る資源国ですけ
れども 60%の人が貧困、世界の中でも最も貧しいと言われる人たちがニジェールにいる。
こんなことが何故起こるのかということが問題なのです。簡単に言ってしまうと、イスラ
ム過激派は、こうした貧困層の人たちをターゲットに誘います。動員をかけます。
では何故こういった貧困が無くならないかということです。それが「資源の呪い」とい
うことです。資源の呪い Resource Curse とはどういうことでしょうか。天然資源に恵ま
9
れた国家では、資源を輸出するという経済、つまりフランスの技術者が来て、ニジェール
でウランを掘って、ウランを輸出すればそれで国家収入になるという輸出依存型の経済運
営をしていて、それ以外の産業が育成されない。日本は資源がありません。資源が豊富な
イランなどに行くと、「日本はいいわね、資源が無くて……」と言うのです。資源が無く
ていいわねって、それ皮肉なんですか、私が聞くと、資源がないから紛争が起こらない、
……と言うんですね。「資源がないから、人々は一生懸命仕事をする」と言われたことは、
私にとって目から鱗が落ちたという経験でした。
どういうことかというと、その国の一部の上層部の人間だけが、植民地国家と一緒にな
って、その資源の恩恵に浴していくので、それ以外の大衆には資源が配分されない。その
結果、人々は国家を信用しなくなります。フランス人が来てウランを取って逃げても、政
府は知らん顔してる。むしろフランス人と一緒になって私腹を肥やして、私たちは全然豊
かにならない。元々アルジェリアは農業国だし、農業は盛んなところですけど農業に対す
る投資も全然行われない。それから資源開発に対する技術は、フランスが来て、カナダが
来て、ベルギーが来てやれば出来てしまうので、自分たちの技術を持とうとしない。先進
国に依存するばかりの状態が続いていく。そして今お話ししたように資源輸出経済の恩恵
は一部のエリートのものにしかならない。一般大衆は全然豊かにならない。これが貧困が
アフリカから無くならない理由なのです。全てが悪循環です。
アフリカから貧困が無くならない理由は、資源があるからであって、資源があるが故に
外国が技術開発をしながら資源を採掘をし、その利益が一部のエリートのもとにしかなら
ず貧困が残る。残された貧困の人たちはアルカイダのような世界的なネットワークに組み
込まれる。アフガニスタンを追われたアルカイダの人たちが、世界各国に散らばってそう
した人たちが、不満な人たちを取り込んで、そこに根を張りながら紛争を起してゆく。そ
してエリート集団の政府に対して反乱を起こすという報復を行ってゆく。その過程で外国
から来ていた投資家たち、企業経営者、技術者も標的となって今回のようなアルジェリア
人質事件が起こるという負のサイクルとなってゆくわけです。それが紛争とテロの連鎖と
いうことであります。
4 質疑応答
ここで 10 分ぐらい、きょうのお話しを聞いてわかったところ、わからなかったところを
話し合ってグループで一つだけ質問を作ってください。感想でもいいです。四人で一つの
グループにしましょう。四人のうちの一人をグループ代表に決めてもらって、その人が代
10
表して質問してくださいね。
(生徒)

資源がなくならない限り紛争は無くならないということですか。

自爆テロの兵士は、命が失われることを何とも思っていないのですか。

マリからニジェールからアルジェリアへと紛争が飛び火しているのを止められない
のですか。

何故イスラム教だけ過激派が生まれるのか。

イスラム教の教えに、人を殺すことについての決まりはないのですか。
すごくいい質問がいっぱい出ましたね……。順次、答えながらこれまでの話を補足して説
明します。
まず、資源がなくならない限り紛争は無くならないということですか。
本当は、資源があっても平和に暮らしていく方法はいくらでもあるはずです。でも問
題なのは、国家の政府エリートたちが、富を再配分しない。例えば、私たちの場合、納
めた税金が公共事業その他いろいろと使われていく中で、税金が廻ってさまざまなとこ
ろにゆきわたります。また、所得に応じて税金の額を変えていったりして、公正公平な
やり方で富が人々に分け与えられるのです。そういう仕組みが無いので、富がエリート
に集中してしまいます。だから、富がエリートだけに集中しない政治に変えていかなけ
ればならないと思います。また、投資する側にも問題はあります。独裁的な政府の方が
話がつき易いから、そういう状態に甘んじています。サウジアラビアの石油をめぐって、
アメリカが国王と話しがつき易いからです。ですからそこのところにも問題があります。
私たちは、こうした政府が政治を変えていくように働きかけて行かなければならないし、
先進国がそうした政府を温存しているというやり方にも、声をあげてゆかなくてはなら
ないと私は思っています。
自爆テロの兵士は、命が失われることを何とも思っていないのですか。
これはイスラム法の中に、人を殺すについての決まりはないのかという質問と繋がって
います。つまり、本当のイスラム法と言うのは、コーランに基づいています。きちんと解
釈すれば、コーランでは人を殺してはいけないと書いてあります。ですから過激派の人た
ちは、コーランを誤って解釈しています。そこが根本的な問題です。命を落とすことにつ
いてどう考えているのかというと、ジハードという自分の敵を殺してしまったら、自分は
天国にいける。これまた誤った解釈で、これが一番の問題ですね。ですから、これは本当
のイスラームではないと思いますけれども、誤った解釈を自分たちで作り上げ、それを理
11
由に貧しい人たちを取込みながら、テロ活動をしてゆくという構造がそこにあると言える
かと思います。
何故イスラム教だけ過激派が生まれるのか。
実は過激派と言うのはイスラームだけではありません。例えば、ヒンズー教の原理主義
の人たちは、インドのモスクを破壊するというような事件をしばしば起こしています。ま
た、キリスト教の中に原理主義、過激派はいます。どのような宗教にも過激派はいます。
ところが何故このようにイスラームの過激派が注目されるのかと言うと、余りにも事件が
大きいからです。そして過激派の影響を旧植民地支配国であったアメリカやイギリス、日
本もそうですが、先進国がそうした過激派からの攻撃を受けるからです。だからメディア
もよく取上げるからですね……。
マリからニジェールからアルジェリアへ紛争が飛び火しているのを止められないので
すか。
連鎖を断ち切るにはどうするか。これは本当に難しい問題だと思いますが、一つの方法
は、現地の人々が考える公平性とは何かと言う考え方、私たちは民主主義、民主主義と言
ってますけれども、私たちが考える民主主義とツアレグ族の人たちが考える公平さとは違
うかも知れない、つまり現地の人たちには現地の人なりの価値観、生活習慣、社会関係が
あります。そういう人たちの考える公平性と言うようなものを、どのように実現していく
のかということについて手を貸してゆかなければならないと思うのです。それは例えばN
GOの仕事かも知れないしということですね……。
5 むすび ―― ガーナからの電子メール
終わりの時間が近づいて来ましたので、今朝、私が受け取った電子メールのお話をして
終りたいと思います。
私は名古屋大学に 11 年おりましたけれども、その 11 年間に様々な大学院生が修士号を
取って海外に出たり、日本にいてさまざまな場面で活躍しています。また、多くの留学生
を教えてきました。今朝届いたメールは、ガーナで仕事をしている日本人の近藤あきら君
という学生からのメールでした。
そのメールは何かというとガーナのチョコレート生産、あそこはイギリスが支配をして
いるところで、チョコレート CACAO が独占的にイギリス人の企業家に渡って、ガーナ自身
では全然チョコレートの製品化ができない、という状況に陥ってきたという歴史がありま
す。そこでいかにしたらガーナ人の手によって、チョコレートが作れるようになるのかと
いうことで、僕が技術訓練をやっていますというメールでした。つまり、自分たちの手で
12
如何にして仕事を得て、それを再建に繫げてゆくか、ということをやっているということ
ですね。「今まで僕がしてきた仕事は、日本の政府開発援助というお役所の仕事で、援助
してあげようという目線の仕事が多かったのです。しかし、今回の仕事は初めての対等の
立場で一緒に仕事をしようという雰囲気がようやく出来てきた。僕は本当に嬉しい」とい
うメールでした。鍵はそういうところにあると私は思いました。
やっぱり現地の人たちが考える価値、公平性といったことを尊重するような仕組みをつ
くりながら、現地の人が自分の手で国家を作っていくということに対して、さまざまな協
力をしてゆくし、私たちもそこから勉強してゆくことが大切なことではないかと思うので
す。時間になりましたので私の授業はこれで終わります。
皆さん御静聴ありがとうございました。どうぞ頑張って勉強してください。
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