松井家の雛祭り 解説 - 「やつしろ」のお雛祭り

松浜軒・松井文庫 平成 26 年企画展示
ま
つ
い
け
ひ
な
ま
つ
松 井 家 の 雛 祭 り
解
説
●会期/平成 26 年 2 月 8 日(土)~3 月 23 日(日) ●会場/松浜軒・松井文庫[驥斎展示場・第二展示場]
ひ な にんぎょう
松井 家 の雛 人 形
ひ
ご ほそかわはん
か ろう
ひなにんぎょう
ひな ど う ぐ
江戸時代、肥後細川藩の家老をつとめ、八代城を預かっていた松井家には、たくさんの雛 人 形 や雛道具が
伝えられています。これらは、江戸時代から近代にわたって松井家に嫁いだご夫人方が持参されたもの、また
お嬢さまの誕生を祝って調えられたものです。
いしょう
かれん
そうしんぐ
江戸時代の雛人形は、衣裳や装身具の豪華さ、そして気品と可憐さを兼ね備えた豊かな表情に魅力がありま
たち びな
じゅうにひとえ
きょうほう
す。
「松井家の雛祭り」では、雛人形の古い姿を残した「立雛」
、十二一重のかさねが美しい「享 保 雛」、豪華
こ き ん びな
だ い り びな
な衣装で高い人気を博した「古今雛」
、江戸参府の際に買い求めた「内裏雛」など、幾世代にも渡って集めら
れた雛人形がならびます。
立雛
江戸時代中期
享保雛 江戸時代中期
古今雛(琴姫所用
天保 10 年・1839)
たちびな
立雛
江戸時代中期(18 世紀)
現在のように男女一対の雛人形を飾るようになったのは、江戸時代の初頭(16 世紀)のことで、古い雛人
形はこのような立雛でした。やがて、雛祭りの普及にともない、飾りやすい安定した形の坐雛が生まれ、それ
にともない「雛道具」も種類を増し、豪華になってゆきました。
きょうほうびな
享 保雛
江戸時代中期(18 世紀)
だいりびな
こうごう
すわり
誰の所用かわからないのが残念ですが、この雛人形は、松井家に残る内裏雛(天皇・皇后をモデルとする 坐
びな
そくたいすがた
じゅうにひとえ
雛)のなかでは古い様式のものです。享保雛とは、享保年間(1716~35)に流行した束帯 姿 の男雛と十 二 単
とうしゅう
そで ぐち
すそ
の女雛、およびその形式を踏 襲 する雛人形のことです。袖口や裾衣の重ねが美しく、卵形の顔に小さな目口
とすっと伸びる鼻をあしらい、若々しくも高貴な雰囲気を漂わせています。
こ き ん びな
こと ひめ
か
や ひめ
古今雛(琴姫・加屋姫所用)
天保 10 年(1839)
、天保 11 年(1840)
め いわ
しゅうげつ
古今雛は明和年間(1764~72)
、江戸の人形師・原舟 月 が作りはじめたもので、享保雛より更に豪華な
きれ
衣装をまとっています。男雛・女雛の衣装には、種々の色糸を使って文様を織り出した贅沢な裂を用い、小さ
な目口とすっと伸びる鼻は享保雛同様ですが、わずかに年齢を重ねた深みのある表情が素敵です。
ことひめ
てるゆき
松井家では、10 代章之公(1813~87)に嫁いだ琴 姫(1813~48)のため、天保 10 年(1839)、京
き
く
や
か
や ひめ
都三条の「幾久屋」から 5 組の古今雛を購入しています。さらに、二人の間に生まれた娘・加屋姫のため、
翌年同じ店から 3 組の雛を購入。これらの古今雛が中心となり、松井家の雛祭りは広く知られています。
こ き ん びな
古今雛(こう姫所用)元治2年(1865)
げ んじ
この雛人形は、元治 2 年(1865)3 月、京都の「幾久屋」から購入した 2 組のうちのひとつ。元治元年、
みつゆき
松井家 11 代盈之公(1864~1916)に長女こう姫(1864~84)が誕生しているので、その初節句のた
めに購入されたものでしょう。
ひなまつ
雛祭りを彩る人形
うたい
ふえ
こつづみ
おお
松井家には、江戸時代末期から近代にかけて購入した小さな雛人形があります。他にも、謡 ・笛・小鼓・大
つづみ
た いこ
ご にんば やし
鼓 ・太鼓の五役を五人の童子が担う「五人囃子人形」(元治 2 年・1865)、都の最新ファッションを取り入
み
つ おれ
か えい
れたあでやかな「三ッ折人形」
(嘉永3 年・1850)などがあり、松井家の雛祭りに彩りを添えています。
ひな ど う ぐ
松井家の雛道具
こんれい
将軍家や大名家では、娘の婚礼の際には身の回り
とつ
の品々一式、いわゆる婚礼道具をあつらえて嫁がせ
ました。「雛道具」は、この婚礼道具をそっくりミ
か
ぐ
ニチ ュアにし たものです。 その内容 は、 家具 ・
ぶんぼうぐ
しょっき
ゆ うぎ ぐ
が っき
こう ど う ぐ
まもりがたな
たばこぼん
文房具・食器・遊戯具・楽器・香道具・守 刀 ・煙草盆
など、200 種に及ぶこともあります。
松井家には、天保 11 年(1840)
、松井家 10
てるゆき
か
や
代章之公の長女加屋姫のために調えられた雛道具、
げ んじ
みつゆき
元治元年(1864)
、松井家 11 代盈之公が長女こ
う姫の誕生を祝して調えた雛道具などが伝えられ
ています。いずれも松井家の家紋である「三ッ笹紋」
写真 上 三ッ笹・三ッ割笹紋蒔絵乗物(こう姫所用)江戸時代末期
写真中左 貝覆の合貝 江戸時代後期
写真中右 犬 張 子 江戸時代後期
ま きえ
が金蒔絵であしらわれています。
その他、一対の貝殻が別の貝殻とは決して合わな
おおい
あわせがい
いことから貞節のシンボルとされる「貝 覆 の 合 貝」
、
いぬ は り こ
悪魔を払い災いしりぞける守り神「犬張子」、江戸
参府のお土産に買った小物類など、多彩な雛道具が
並びます。
写真右 大正 14 年 3 月、松井明之(はるゆき)氏の長女薫子(ただこ)
様(のちの細川護貞夫人)の初節句を祝って飾られた雛祭り。松浜軒大
広間の南側の壁一面に雛壇がもうけられ、内裏雛や雛道具が所狭し
と並べられました。
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