クレジットカード ABS の包括格付基準

Structured Finance
ABS/グローバル
クレジットカード ABS の包括格付基準
セクター別格付基準
格付基準の対象範囲
目次
主な格付決定要因
データの妥当性
格付手法
裏付資産の分析
格付ストレス
法的構造
負債構造
キャッシュ・フロー分析
サーベイランス
別添
ページ
1
2
2
3
8
12
12
15
18
2138
本レポートは、2012 年 6 月 22 日付のレ
ポート「Global Credit Card ABS Rating
Criteria」に取って代わる。軽微な変更
又は更新を除き、以前の格付基準から大
きな変更はない。
アナリスト
米国
マイケル・ディーン
+1 212 908-0556
[email protected]
スティーブン・スタッブス
+1 212 908-0676
[email protected]
ハーマン・プーン
+1 212 908-0847
[email protected]
ローレン・ティアニー
+1 212 908-9168
[email protected]
欧州
アンドレアス・ヴィルゲン
+44 20 3530-1171
[email protected]
ジョアンヌ・ウォン
+44 20 3530-1077
[email protected]
ウリ・マウテ
+44 20 3530-1582
[email protected]
東京
黒田 篤
03-3288-2692
[email protected]
山下 彰
03-3288-2783
[email protected]
斉藤 直毅
03-3288-2631
[email protected]
本包括格付基準では、米国、欧州中東アフリカ地域及びアジア太平洋地域におけるクレジット
カード債権の証券化に関するフィッチ・レーティングス(フィッチ)の分析手法について述べ
ている。
本基準は、2013 年 6 月 7 日以降、新規及び既存案件に適用され、2012 年 6 月 22 日付の同名
レポートに取って代わる。本基準に前回レポートからの大きな変更はない。
主な格付決定要因
クレジットカード債権のパフォーマンス:クレジットカード ABS 案件は、裏付けとなる債権
プールのパフォーマンス変動リスクにさらされている。パフォーマンスに関する主なパラメー
ターは、貸倒償却率、利回り、月次返済率及び追加利用率(又は購入率)である。加えて、延
滞率及び超過収益率も重要なパフォーマンス上の指標である。
フィッチによる裏付資産の分析は、そのパフォーマンス変動リスクを対象としており、利用可
能な信用補完によって当該リスクが軽減されると想定している。
オリジネーターとの関係:クレジットカードは、債務者にリボルビング枠を提供しているため、
アモチ型の債権に比べて、資産パフォーマンスが、オリジネーターの継続的な運営状況とより
密接に関係する。フィッチの資産分析は、パフォーマンスに関するパラメーターにストレスを
加えることにより行うが、裏付資産のパフォーマンスは、オリジネーターが実施する措置やオ
リジネーターの財務力の悪化などの事由によっても影響を受ける場合がある。このため、フィ
ッチは、すべてのオリジネーターについて、詳細なモニタリングを実施し、オリジネーターの
市場における地位や戦略に変化が生じた場合又は変化が予想される場合には、個別案件の格付
上の想定を調整することがある。
証券化のストラクチャー・リスク及び法的リスク:証券化案件のストラクチャーは、発行証券
のパフォーマンスをオリジネーターの信用力から切り離すことを意図している。通常、オリジ
ネーターが資産を倒産隔離された特別目的事業体に真正売買により譲渡することによって達成
される。
金利リスク及びベーシス・リスク:大多数のクレジットカード ABS 案件には、程度の差はあ
るものの、金利のミスマッチがある。これは、通常、資産側の利回りと証券側の利息の指標金
利が、異なるために起こる。たとえば、資産及び負債が異なる金利を指標としている場合、投
資家に支払う金利が急激に上昇しても、クレジットカード側の金利が、遅行する変動金利を指
標としている場合や、低い水準に固定されているときなどではベーシス・リスクが顕在化する。
こういったリスクに対しても、利用可能な信用補完によりリスク緩和が図られることが一般的
である。
カウンターパーティ・リスク:カウンターパーティ・リスクは、案件がオペレーション面又は
支払義務といった面で、カウンターパーティや案件を支えるその他の主体に依拠している場合
に発生する。カウンターパーティとしては、オリジネーター、サービサー、保証提供者、口座
銀行及び金利スワップ又は通貨スワップ提供者などがあげられる。クレジットカード ABS 案
件に対するフィッチの格付は、証券化されたプールのパフォーマンスに直接連動する一方、一
定のカウンターパーティの財務力の影響も受ける。
マクロ経済リスク: 経済環境はクレジットカード ABS の格付に重大な影響を及ぼし得る。し
たがって、失業率などの主要なマクロ経済指標の評価を通じて、経済状況及びその将来予想を
考慮に入れる。
www.fitchratings.com / www.fitchratings.co.jp
2013 年 6 月 7 日
Structured Finance
データの妥当性
フィッチによる定常状態分析(すなわちベースケースの分析)及び信用分析は、オリジネータ
ー及びサービサーが過去の実績に関する正確な情報を提供することに依拠している。フィッチ
は、証券化対象資産プールに関連するオリジネーター固有の過去のパフォーマンス・データ
(過去 5 年分又は景気循環の 1 周期をカバーする期間分のいずれか長い方)を受領することを
期待する。景気循環の 1 周期をカバーするオリジネーター固有のデータが利用可能でない場合
でも、関連性の高い比較可能な市場のパフォーマンス・データを代替の情報として利用できる
場合がある。また、過去のデータが景気循環 1 周期全体をカバーしていない場合又は一貫性に
欠ける場合には、ベースケース想定に対し調整を加える場合がある。また、早期償還トリガー
などのストラクチャー上の手当もベースケースを設定するうえで考慮に入れる場合がある。
創業間もない会社やポートフォリオの規模の変動が大きい場合、より多くのデータが期待され
る場合がある。こういったデータを利用できない場合には、格付に上限が設定される場合があ
るほか、フィッチが案件格付を謝絶する場合がある。
本格付基準レポートで示した格付ストレスの適切性を分析するため、フィッチはクレジットカ
ードの過去のパフォーマンス・データの検証を行っている。フィッチは、米国のクレジットカ
ード資産の市場パフォーマンスに関する 20 年に亘るデータを有する。また、フィッチの英国
のクレジットカード指標は、2002 年 1 月以降のクレジットカード ABS の裏付資産の動向を追
跡調査している。アジアでは、韓国の案件及び市場に関する 9 年超のパフォーマンス・データ
を有している。
ストレス水準は、1989 年から 2006 年の米国におけるクレジットカードのパフォーマンスの調
査観測を通じて策定された。また、2007 年から 2009 年の景気後退期のパフォーマンス分析を
通じてさらにその有効性の検証を行っている。フィッチの調査では全体としてのパフォーマン
スのほか、プライム、サブプライム及びリテールの範疇ごとのパフォーマンスも調査している。
フィッチは、今後も有効性を検証するため調査を定期的に実施し、必要に応じてストレス水準
の更新を行う予定である。25 ページの別添 3 では直近の有効性検証作業の内容及びストレス
水準導出の際のもととなるデータセットである北東部における調査に関する情報の詳細を示し
ている。
格付手法
関連格付基準
Global Structured Finance Rating
Criteria(2013 年 5 月)
Criteria for Interest Rate Stresses
in Structured Finance Transactions
and Covered Bonds
(2013 年 1 月)
Counterparty Criteria for
Structured Finance and Covered
Bonds(2013 年 5 月)
Criteria for Servicing Continuity
Risk in Structured Finance
(2012 年 8 月)
Criteria for Rating Caps in Global
Structured Finance Transactions
(2012 年 8 月)
フィッチの格付プロセスは、証券化される債権ポートフォリオのパフォーマンス実績と階層区
分ごとの属性データを評価することから始まる。最初の分析の一環として、裏付資産及びスト
ラクチャーに関連する主なリスクを判断するフィルタリング・プロセスを行う。当該プロセス
は、特異なリスクがある案件の場合、特に重要となる。
オリジネーター/サービサーの評価は、当初格付のプロセスでは不可欠である。ここでは、オ
リジネーターの法人としてのリスク特性、審査基準、資産拡大戦略、信用リスク管理方針及び
サービシング能力を把握することを重視している。オリジネーターが直面する規制動向も考慮
対象である。オリジネーターとサービサーは、通常、同一企業であり、評価には相互に関連す
る要素も含まれる。
当初の評価に続き、フィッチでは、パフォーマンスに関する主要な三つの変数(貸倒償却率、
利回り及び月次返済率(MPR))の過去の実績とその変動を分析し、それぞれのベースケー
ス想定を導出する。定量分析に加え、フィッチは必要な場合には、この手法に定性的な調整を
行う。ここで行われた調整は、案件格付レポートなどで開示される。
案件当事者の権利義務の把握とサービサー交代などの事態が生じた場合のストラクチャーの機
能の検討を主な目的として、案件文書のレビューが行われる。また、フィッチが信用分析の際
クレジットカード ABS の包括格付基準
2
Structured Finance
に依拠した法律上の前提と案件が一致しているかを判断するために法律意見書のレビューを行
う。
各格付カテゴリーに対応する信用補完水準の評価では、クレジットカード ABS 用にフィッチ
が開発したキャッシュ・フロー・モデルを利用する。ベースケース想定は、キャッシュ・フロ
ー・モデルに入力され、各格付レベルに相応するストレスが加えられ、ノートが利用可能な信
用補完でカバーされるべき不足額を計算する。キャッシュ・フロー・モデルへのその他の入力
内容は、案件の契約文書に従って、ベーシス・リスク、手数料支出及び仕組上の特性を反映し
て調整を行う。格付カテゴリーにおける相対的な位置を示すために「+」又は「-」を付す場合、
モデルによって導出される格付カテゴリーごとの結果を線形補完する。
キャッシュ・フロー・モデルは予備格付、本格付を決定するうえで、重要な検討事項であるが、
格付は、最終的には利用可能な信用補完水準及び案件のストラクチャー上の特徴を考慮のうえ、
フィッチの格付委員会が付与する。予備格付及び本格付を付与する際には、フィッチは案件ご
とにプリセール・レポート及び新規発行レポートをそれぞれ発行する。レポートには、格付基
準に従い、案件の主要な特徴及びリスクが記載される。
案件クロージング後は、付与されている格付が常に適切なものとなるよう、アナリストは、月
次のサーベイランス手順に基づき、案件のパフォーマンスをモニタリングする。
裏付資産の分析
フィッチによる裏付資産の分析では、通常、最初にオリジネーター及びサービサーの評価を行
う。その内容は、本項及び 21 ページの別添 1 に記載されているとおりである。フィッチは、
プールのデータを分析し、裏付資産の特徴を把握する。また、利回り(年率)、月次返済率、
貸倒償却率(年率)に関する動的な過去の実績データを分析する。動的な過去の実績の評価に
おいては、債権残高変化の影響及びサービサーの債務管理計画の影響について考慮する。当該
分析の主な目的は、利回り、月次返済率及び貸倒償却率についてのベースケース想定を決定す
ることであり、詳細は以下のとおりである。
オリジネーター/サービサー業務の分析
クレジットカードにはリボルビング機能があるため、裏付資産であるクレジットカード債権プ
ールのパフォーマンスは、新規債権の継続的なオリジネーションとサービサーによる積極的な
管理に大きく影響を受けることになる。したがって、クレジットカードのオリジネーターとサ
ービサーの評価は、フィッチの格付プロセスの中で重要な部分を占める。フィッチは、オリジ
ネーターの財務力が弱い場合には、案件における追加利用率に強いストレスを加える。
フィッチのオリジネーター/サービサー評価では、当該組織のオリジネーション業務とサービ
シング業務の質及び有効性並びに設定されたガイドラインの遵守状況や業務の安定性、内部管
理手順の健全性を評価する。レビューにおいては、法人としてのパフォーマンス、オリジネー
ション並びに業界標準の指標及び定性的基準を用いたサービシングを重視している。特定のサ
ービサーに起因するリスクが大きいとフィッチが評価する場合には、格付に上限が設定される
場合や、発行体がリスク緩和策として、案件のバックアップ・サービサーを選任するなどの措
置をとる場合がある。
オリジネーター及びサービサーの業務に関するフィッチの分析手法の詳細については、21 ペ
ージの別添 1「オリジネーター/サービサー業務の評価」を参照されたい。また、24 ページの
別添 2 では、オリジネーター/サービサーのレビューにおける論点の一例を示している。
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Structured Finance
裏付資産の特徴
フィッチは、全体的な資産のパフォーマンスを深く理解するため、裏付資産の特徴を分析する。
オリジネーターの過去の実績データの分析とオリジネーター評価で発見した内容にここでの分
析内容を加え、ベースケースにおけるパフォーマンスの想定を設定する。フィッチが検討を行
う主な裏付債権の特徴は次の内容を含む。
 信用スコア
 地理的集中度
 シーズニング
 実質年率(APR)
 信用枠
 商品分野別の構成
信用スコアはクレジットカードのデフォルトを予測するのに役立ち得る。カード発行会社の多
くは、カード保有者のデフォルト確率を判断するために、洗練された信用スコアリング・モデ
ルを使用している。ポートフォリオは、通常、信用スコアの評点分布によってプライム又はサ
ブプライムに区分される。フィッチは、サブプライム債権の集中度が高いポートフォリオに対
して、追加利用率に大きなストレスを加える。
地理的に分散しているクレジットカード債権のプールであれば、地域経済の悪化や自然災害と
いった潜在的なリスクによる影響を低下させることができる。ほとんどのプライム案件の発行
体は、全国規模の発行戦略を有しており、ポートフォリオが分散している。地域的な集中が相
当程度ある場合には、フィッチではストレス水準を調整する場合がある。
シーズニングも重要である。時間が経過していないポートフォリオは、貸倒償却率が高く、実
績変動が大きくなる傾向がある。フィッチは、シーズニングが進んでいないポートトフォリオ
を評価する場合には、ベースケースに調整を加える場合がある。
発行体は、各カード保有者の信用力により信用枠や APR を設定している。これらは、通常、
カード保有者の債務返済能力により決められており、リスクが高い場合には、信用枠は小さく
かつ APR は高くなる。ポートフォリオ利回りのベースケースは、主に APR の水準とその分布
状況によって決まる。
商品構成もまた裏付資産のパフォーマンスに影響を与える場合がある。特典付きクレジットカ
ードは、一般的には特典なしのクレジットカードに比べて返済率は高く、損失率は低くなる傾
向がある。小規模事業者向けカードの場合は、消費者向けクレジットカードと異なるパフォー
マンスを示す場合がある。リスク特性が異なる別々の商品によってポートフォリオが構成され
ている場合には、ポートフォリオ構成の変化によるリスクを軽減するために、案件文書で当初
から継続的に遵守すべき商品構成の最大比率を債権プール全体に対する百分率で規定すること
が多い。
ベースケース想定の設定
ベースケースという概念は、今後 18 カ月から 24 カ月にかけて特定の変数がどのようなパフォ
ーマンスを示すかについての将来を見据えたフィッチの評価を表すものであり、最近のパフォ
ーマンスの傾向、競合環境、規制の変化及びフィッチのマクロ経済環境に関する見通しを考慮
に入れている。景気循環の 1 周期中の通常の変化では一般に格付変更は起きるべきではないと
いう、景気循環を考慮に入れた「スルー・ザ・サイクル(through the cycle)」と呼ばれる格
付コンセプトをもとにベースケース想定がおかれる。ベースケースは、将来を見据えたパフォ
ーマンス予想として決定され、どの時点でもその時点の格付に合理的に反映されるものである。
格付変更は、予想外のパフォーマンスが生じたときのみ発生すると考えられる。
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Structured Finance
フィッチは、主要な変数の過去の実績と変動の分析(ビンテージ・データ分析を含む。)を通
じて、ベースケース想定を導出している。「ビンテージ」とは、ほぼ同時期にオリジネートさ
れたカード口座のグループを指し、グループのパフォーマンスが時の経過とともに記録される。
債権プールのパフォーマンスは、シーズニングの進捗に従い異なってくる。貸倒償却率、利回
り、月次返済率は、オリジネーション後 18 カ月から 36 カ月でフラット化し、安定的な水準に
到達する傾向がある。この期間で、ティーザーレート(勧誘のための初期の低金利)、残高移
行、顧客の減尐及び早期延滞などによるプール・パフォーマンスへの影響が薄まる。
マクロ経済状況、商慣行、審査方針又は法制が変化し、将来のパフォーマンスが過去のパフォ
ーマンスから乖離していく可能性があるとフィッチが判断した場合、ベースケースに追加調整
が加えられる。
シーズニングが進んでいない(36 カ月未満の)ポートフォリオの場合、ベースケースを設定
するためには、過去の実績や類似案件との比較に加え、ビンテージ・データが重要なツールと
なる。ビンテージ・データは、オリジネーション・キャンペーンなどの追跡調査によりポート
フォリオ増大効果の除去に有効である。これによって、審査ガイドラインやカード保有者の行
動の変化による効果を把握できる。
シーズニングがかなり進んだプールの場合は、ビンテージ・データと過去のパフォーマンス実
績を組合せることで、ベースケースを導出している。ビンテージ分析に加え、各変数の過去の
実績の変動を評価し、標準偏差を計算し、過去の実績平均に適用する。こうして求められた予
想値は、ビンテージ分析とともにベースケース想定の設定をより的確に行うために使われる。
ポートフォリオに、数種類の商品性の異なる債権が含まれており、それぞれが全体の 10%超
を占めるなど、重要性が高い場合には、商品ごとにベースケースを設定し、ポートフォリオ全
体のベースケースは、各商品のウェイト付により加重平均することにより求める。案件文書で、
商品構成の最大比率が規定されている場合には、集中に関する上限値をポートフォリオのベー
スケースとして用いる場合がある。フィッチでは、リボルビング期間中は、集中に関する制約
のもとで可能な最悪の状態にポートフォリオが変わっていくという想定を置く。
ポートフォリオ利回り
ポートフォリオ利回りは、定期的に発生する APR による請求額、年間手数料、遅延手数料、
限度額超過手数料からなり、貸倒償却口座からの回収とインターチェンジ手数料が含まれる場
合 も 多 い 。 イ ン タ ー チ ェ ン ジ 手 数 料 と は 、 カ ー ド 機 関 ( Visa 、 MasterCard 、 American
Express、Discover、Novus など)からカード発行銀行に対して支払われる手数料収入で、信
用リスクの負担及び債権見合いの資金調達に対する報酬として支払われ、請求金額の 1%から
5%となっている。利回りの構成要素のほとんどは、比較的安定しており、利回りに占める割
合は小さい。クレジットカード口座の APR に基づく金利収入が、利回りのうちの相当大きな
部分を占めており、かつ変動も最も大きい。カード発行会社の金利設定は、個別のリスク水準
を踏まえて行われており、サブプライム市場で商品を提供するカード発行会社やプライベート
レーベルのカードに特化したカード発行会社の場合は、プライム市場で取扱いを行うカード発
行会社よりも利回りは高くなるのが一般的である。
ポートフォリオ利回りに関するベースケースを設定するにあたって、フィッチは、規制の変更
や競合環境が利回りの構成要素に与えると見込まれる影響の検討を行う。通常、金利収入など
核となる利回り構成要素は、信用分析上勘案するが、手数料収入やインターチェンジ手数料な
どについては、割引いたうえで考慮し、貸倒償却口座からの回収は考慮しない。手数料収入や
インターチェンジ手数料のヘアカットは、通常、カード発行者が直面する規制環境や競合環境
の変化を考慮するためのものである。規制の変更によっては、カード保有者に請求できる手数
料の種類やその水準に影響があり得る。一方、競合の激化は、カード利用に影響を与え、イン
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Structured Finance
ターチェンジ手数料に影響を与え得る。さらに、クレジットカード債務は無担保であるため、
ベースケースの設定において貸倒償却口座からの回収は考慮しない。
返済率
月次返済率には、カード保有者が支払った元本、利息及び手数料の月次回収額が含まれており、
月初残高に対する百分率で表される。この変数は、早期償還条項が発動された場合、どれだけ
早く元本が債券保有者に支払われるかを決定づける重要な変数である。アモチ型の資産とは異
なり、カード保有者の支払は均等返済ではなく、最低支払額が定められている。最低支払額は、
カード発行者が決めるが、規制の対象となる。国により異なり、米国の場合、2%から 3%に
設定されている一方、アジアでは 10%とされる国もある。
毎月最低支払額を上回る金額を支払うクレジットカード保有者も多い。顧客特性(プライム対
サブプライム)又は商品タイプ(特典付き対特典なし)も、月次返済率に大きく影響する。月
次返済率の低下は、毎月残高の一括払いを行うカード保有者数の減尐や月次支払額が尐ないカ
ード保有者数の増加によって起きる。
ベースケースにおける月次返済率の想定は、返済総額に基づき設定する。フィッチのモデルで
は、元本返済率は、月次返済総額から金利構成部分を控除することにより求めている。
貸倒償却
貸倒償却債権は、回収不能として発行体によって償却された債権を示す。貸倒償却は、契約上
の延滞又はカード保有者の倒産のいずれかによって生じる。ほとんどの国では、カード発行会
社は 180 日の延滞及び債務者の倒産通知後 60 日で発行体に貸倒償却させるというガイドライ
ンに従っている。米国の場合、通常、発行体の貸倒償却のうち 20%から 50%程度が倒産を原
因としている。サブプライム債務者の貸倒償却は全般的に高いが、契約上の貸倒償却に比べ、
倒産による割合が相対的に低いなど、経済的要因や裏付債権の質により違いがある。
ベースケースにおける貸倒償却は、通常、グロスのデフォルトに基づき決定する。貸倒償却が
ネットベースで報告されている場合、回収率を査定したうえでグロスベースに変更する。業界
では、クレジットカード債権の回収率は、通常 10%から 25%とみられているが、無担保債権
であり、フィッチの信用分析上はデフォルト債権からの回収は考慮していない。
ベースケースにおける貸倒償却の設定では、過去の実績とともに最近の審査方針の変更、延滞
動向及びマクロ経済予測を考慮に入れている。
追加利用率と債権残高
ベースケース・シナリオにおいて、フィッチは、通常、追加利用率を 100%と仮定し、元本回
収額の同額の商品購入によるクレジットカードの追加利用があるとの想定を置く。この想定の
結果、ベースケースにおける債権残高は一定となる。より上位の格付シナリオでは、追加利用
率にストレスを加える。
変数のほとんどは債権残高を分母として計算するため、安定的な債権残高は他のパフォーマン
スに関する変数に直接の影響を与える。急速に増大又は縮小しているポートフォリオでは、債
権残高が信用損失の変動を上回るペースで変動する場合があり、貸倒償却率が歪められている
可能性がある。債権残高の変動が大きい場合には、ビンテージ分析とタイムラグをとった分析
が必要になる。タイムラグをとった分析では、貸倒償却額と延滞が始まる延滞発生 6 カ月前の
債権残高とを比較することで、ポートフォリオの変動の影響を低下させ得る。
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債務管理計画
債務管理計画も考慮の対象となる。クレジットカード債権は、カード保有者が、ある月に契約
上の最低支払金額の支払を怠ると延滞と認識され、延滞が事前の設定期間(たとえば 180 日)
に達した段階でデフォルトとされる。しかし、債務管理計画と呼ばれるプログラムによって、
サービサーが返済に窮した一定の債務者の返済条件を変更する動きが広がっている。こういっ
たプログラムでは、通常、減額後金額の支払不履行までは、債権の延滞やデフォルトに分類さ
れない。
フィッチは、債務管理計画対象債権の信託の全債権に対する比率を示すデータを確認し、当該
プログラムの適用範囲を分析する。債務管理計画の影響の大きさを分析するため、フィッチは
サービサーによって適用される資格基準、当初の契約上の最低支払額と比較したプログラムの
支払条件、カード保有者による実際の支払パフォーマンス、債務管理の対象となっている顧客
に対するモニタリングの程度及び債務管理計画の完了方法と時期を考慮する。
フィッチは次の要因をマイナス要因と考えている。一般的又はあいまいな資格基準、非常に低
い最低支払額、減額した金額を支払っているものの支払額が当初支払額より尐ない債務者が多
いこと、債務者の財務力や財務パフォーマンスに関するモニタリングを最低限しか行っていな
いこと及び返済期間が長期に及び最終的にデフォルトする債務者の割合が高いことである。
フィッチは、ベースケース想定を置く際に、債務管理計画の適用範囲及びその影響の大きさを
検討する。これは、債務管理計画により過去の実績が歪められている可能性があるためである。
債務管理計画はデフォルト認識を遅らせ、信用力の変遷にマイナス効果が出る可能性があるた
め、オリジネーターの債務管理計画の影響の大きさ及び適用範囲により、案件のパフォーマン
ス記録が大幅に歪められているとフィッチが判断する案件については、格付を謝絶する場合が
ある。
資産変遷リスク
多くのストラクチャーでは、特定のカード口座において将来発生する債権(クレジットカード
顧客の将来のカード利用によるもの)が、自動的に信託譲渡される。カード発行会社は、債権
の減尐を補うために債権を追加するか、将来の案件のために裏付資産を積み上げるという選択
を行うことができる。新規債権の購入代金は、利用可能な元本回収額から支払われる(ノート
がリボルビング期間にある場合に一般的)か、信託債権のセラー持分の増加により賄われる
(ノートが償還期間にある場合に一般的)。
債権やカード口座が追加される場合、新規債権がプールの信用力を悪化させるリスクがある。
一貫性のある与信審査を長期間実施してきたオリジネーターの場合、こういったリスクは低い。
通常、債権やカード口座の追加については、適格基準やポートフォリオ基準(集中の制限な
ど)など、契約文書で当初に規定し、リスク緩和が図られる。厳格な適格基準は、担保の質の
最低水準を維持するのに役立ち、予期せぬ与信審査基準の悪化から案件を隔離する効果がある。
フィッチは、オリジネーターはこの種の契約条項を遵守すると想定しており、不適格債権のプ
ール混入リスクは信用分析上考慮していない。ベースケースでは、集中に関する制約の中で最
悪のシナリオに向かって推移していくと想定する場合がある。
フィッチは、韓国の案件で、証券化ポートフォリオの商品構成に制限を設け、質の悪化とプー
ル・パフォーマンスの大幅な悪化の防止を図るものを多く見ている。制限内容に基づき、通常、
プールからの予想損失率が最大となる商品構成を想定し、モデル上の最悪損失率を考慮して、
案件で利用可能な信用補完の有効性を検証している。
場合によっては、カード口座と債権が信託から除外されることもある。追加の場合と同様、除
外についても、発行体が資産の除外を恣意的に行う場合には、選択により資産劣化が生じるリ
クレジットカード ABS の包括格付基準
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Structured Finance
スクがある。除外の際に遵守する条件を契約文書に規定することが一般的であり、除外資産は
無作為に選択されることがほとんどである。フィッチは、時の経過に伴う担保の質の推移を計
測するため、資産の追加や除外について緊密にモニタリングを行う。
格付ストレス
フィッチの格付分析では、実際の資産パフォーマンスがベースケース想定より悪化していくリ
スクを考慮するために、パフォーマンスにストレスを加えた分析を行っている。ストレスを加
える変数は、利回り、月次返済率、貸倒償却率及び追加利用率である。
フィッチは、担保構成とパフォーマンスに関する変数を評価し、ABS の発行体と財務ストラ
クチャーのそれぞれに対して、各格付水準に対応するストレス・シナリオを個別に作成してい
る。ストレス・シナリオと想定はともに、案件ごとに決定し、業界全体のベンチマークとの比
較が行われる。
パフォーマンスに関する各変数に加えられるストレスの水準は、ベースケースの水準、ポート
フォリオの集中度及び過去の実績データの質及び変動性によって決まる。
ベースケースの水準
予想損失率が低いポートフォリオでは、それが高いポートフォリオに比べて、損失率の変動が
より大きくなる可能性がある。たとえば、ベースケースの損失率が 4%とされるプールの場合、
12%とされるプールに比べて、損失率が 4 倍の 16%となるストレス・シナリオが発生する可
能性は大きい。したがって、フィッチでは、前者の損失倍率を後者に比べて大きい数値とする
場合がある。
同様に MPR が 30%のポートフォリオは、8%のポートフォリオに比べて、景気後退時の支払
額の減尐が大きくなる可能性が高い。したがって、MPR が 30%のプールに対しては、より強
いストレスを加えることになろう。
プールの集中度
地理的な集中があるポートフォリオは、当該地域の景気後退や自然災害に対して脆弱となる可
能性があり、特定の商品への集中や人口に集中がみられる場合は、集中するセグメントに影響
する要因が追加的なリスクとなり得る。分散していないポートフォリオの場合、無作為に生じ
るイベントに対してより脆弱となり、パフォーマンスの変動が大きくなる可能性が高い。フィ
ッチは、こういったプールについては潜在的なパフォーマンスの変動性を考慮して、強いスト
レスを加える。
過去の実績データの質及び変動性
過去の実績データが限定されている場合やパフォーマンスの変動が大きい場合、オリジネーシ
ョンやサービシング業務が一貫性を欠くのではないかとの懸念が生じる。こういったポートフ
ォリオに対しては、より強いストレスが加えられる。反対に、過去の実績データが一貫してお
り、景気後退期間をも包含している場合には、加えられるストレスの水準は低くなる。
さらに、追加利用率に対するストレスに影響する要因、つまり、ポートフォリオ構成、ポート
フォリオの移転可能性、オリジネーターの強さなどは、利回りや返済率又は貸倒償却率に加え
られるストレス水準にも影響を与える。クレジットカードの利用が制約されたり、カードが失
効している場合、カード保有者が前倒しで支払う誘因は低下し、延滞する可能性は高まる。し
たがって、追加利用率に対するストレスが強くなるポートフォリオの場合は、支払及びデフォ
ルトについても強いストレスが加えられる可能性が高い。
クレジットカード ABS の包括格付基準
8
Structured Finance
利回りに対するストレス
利回りに対するストレスを決定する
際、フィッチは、カード保有者への 利回りへのストレス
請求金利と市場金利との関係を検討 (%、ベースケース想定に対するヘアカット率)
するとともに、潜在的なパフォーマ 格付水準
低位ケース
高位ケース
ンスの悪化も考慮に入れる。利回り AAAsf
35.00
45.00
30.00
35.00
に関するシナリオでは、ベースケー AAsf
Asf
25.00
30.00
スでの利回り想定に右表に記載する
BBBsf
20.00
25.00
ヘアカット率が適用される。こうい
BBsf
17.50
20.00
った事態は、設定金利の低下や延滞
水準の増加又はポートフォリオに占めるゼロ金利販促キャンペーン適用部分の増大などにより、
引き起こされる可能性がある。金利上昇シナリオにおけるキャッシュ・フローを検証する場合、
フィッチは、市場金利の上昇に対応してオリジネーターが金利を引き上げる余地があるかも検
討する。ほとんどのクレジットカード債権のポートフォリオでは、APR は変動金利とされて
おり、ベーシス・スプレッドを勘案すれば、利回りと市場金利との利ざやは低下しても最低限
の水準は維持される。なお、ベーシス・スプレッドの分析は別途行う。
ポートフォリオ利回りにストレスを加える場合、設定金利が高いポートフォリオは、マーケッ
トシェアを維持するために、金利の引き下げ圧力にさらされるため、競合上の地位も重要な要
因である。法律変更もカード事業収入を得る方法に大きな影響があるため、規制リスクもフィ
ッチがストレスを検討するうえで勘案する必要がある。たとえば、2009 年の米国における
「Credit Card Accountability Responsibility and Disclosure Act(クレジット・カード説明責任、
責務及び開示法)」の導入により、ダブル・サイクル・ビリング(double cycle billing、当請
求期間のみならず前請求期間の平均残高も金利計算時に勘案する請求方法)やユニバーサル・
デフォルト(universal default、他の債務で債務不履行があった場合に、当該カード債務も債
務不履行となる取決め)又は一定の限度額超過手数料といった商慣行は米国ではなくなってい
る。
標準的なポートフォリオの場合、フィッチは、上記のうち低位ケースに近いストレスを加える。
16 ページのベースケースの「AAAsf」格付カテゴリーの例では、フィッチはベースケースの利
回り 17%に対して、直ちに 35%のストレスを加え、モデルへの入力値を 11.05%とする。
返済率に対するストレス
消費者が経済的な苦境におかれてい
る場合、不払いリスク及び支払減額 返済率へのストレス
リスクが生じる。不払い又は不十分 (%、ベースケースに対するヘアカット率)
な額の支払は、延滞状況の悪化を招 格付水準
低位ケース
中位ケース
高位ケース
き、治癒されない場合には、貸倒償 AAAsf
35
45
80
却の増加となる。どちらの場合でも、 AAsf
30
40
75
月次返済率(MPR)は低下する。経 Asf
25
35
70
20
30
60
済的苦境により最低水準を上回って BBBsf
10
20
50
いるものの、返済額が通常より低下 BBsf
しても MPR は低下する。フィッチでは、それぞれのポートフォリオに対して、個別に返済率
ストレスを設定する。MPR が高いポートフォリオに対しては、ストレス水準を大きくする。
担保構成により、ポートフォリオごとに返済率は大きく異なり得る。このため、適用するスト
レスも異なる。ストレス環境においては、高い返済率は持続可能ではないとフィッチが考える
場合、強いストレスが加えられる。標準的なポートフォリオの場合、フィッチが使用するスト
レス水準は、上記の中位ケースに近い数字となる。16 ページのベースケースの「AAAsf」格付
クレジットカード ABS の包括格付基準
9
Structured Finance
カテゴリーの例では、ベースケースの MPR12%に対して、直ちに 45%のストレスを加え、モ
デルへの入力値を 6.60%とする。
貸倒償却に対するストレス
フィッチは、ベースケースの貸倒償却率
貸倒償却へのストレス
の想定値に倍率を乗じた値まで 6 カ月間
(倍、ベースケースに対する倍率)
で直線的に増加し、その後はボンドが完
低位ケース
中位ケース
高位ケース
済されるまでその水準が維持されるとい 格付水準
3.5
4.5
5.5+
う想定を置く。「AAAsf」の格付レベル AAAsf
AAsf
3.0
3.75
4.25+
では、フィッチは、3.5 倍から 5.5 倍又
Asf
2.25
3.0
3.5+
はそれ以上の倍率を適用している。デフ
BBBsf
1.75
2.25
2.75+
ォルト率の低いプールを裏付けとする案 BBsf
1.5
1.75
2.25+
件では、高めの倍率を適用する。ベース
ケースのデフォルト率が低いプールは、ストレス状況下のパフォーマンス変動が大きくなり得
るために、高い倍率が適用される。5.5 倍を超える倍率が適用される場合には、関連するプレス
リリース及びプリセール・レポートで理由を詳述する。最終的なストレス倍率が適用されるま
での期間 6 カ月は、貸倒償却までの日数に関するガイドラインが 180 日間となっている国が多
いことと一致させている。「AAAsf」に格付される証券では、一般的に 3 人から 4 人のカード
保有者のうち 1 人がデフォルトするシナリオにも耐えられるようになっている。16 ページのベ
ースケースの「AAAsf」格付カテゴリーの例では、7%の想定貸倒償却率に対し倍率 4.50 倍を
適用し、31.5%をモデルへの入力値としている。
追加利用率に対するストレス
追加利用率の定義は、ある月における元本返済総額に対する追加のカード利用総額の割合を百
分率で表示したものである。追加利用率が 100%であるポートフォリオでは、ノート償還期間
においても、債権元本残高は一定となる。一方、追加利用率が 0%は、単に元本回収が進んで
いくポートフォリオと債権に対応しており、ノートも同様に元本償還が進む。ベースケースの
「Bsf」シナリオでは、フィッチは通常、追加利用率を 100%と想定する。しかし、高位の格
付シナリオでは、追加利用率低下リスクを反映しストレスを加える。
各格付シナリオに対応する適切なストレス水準を設定する際、フィッチでは、次の要因を特に
考慮する。
ポートフォリオ構成
将来の追加利用率は、クレジットカード保有者のカード利用をオリジネーターが引き続き認め
る意思があるかどうかに影響を受ける。当初のカード会社、債権を購入した第三者又は米国に
おける連邦預金保険公社のような管財人によるかを問わず、オリジネーターがカード保有者の
カード利用に制限を加える決定を行うと追加利用率に悪影響が及ぶこととなる。このようなオ
リジネーターの決定はポートフォリオのリスクを検討したうえで下されるものとフィッチは予
想している。さらに、オリジネーターに信用事由が発生した際にクレジットカード債権を譲り
受ける潜在的な購入者にとっても、ポートフォリオの信用リスクは重要な考慮事項である。分
散した質の高いポートフォリオは、分散が低くリスクが高いポートフォリオに比べ、譲渡しや
すく、既存のカード利用に制限が加えられる可能性は低い。
ポートフォリオの移転可能性
Visa や MasterCard などの広い支払ネットワークと業界標準のオペレーティング・システムを利
用できるクレジットカードに対しては、限定的な数のアウトレットのみで利用可能なアウトレッ
クレジットカード ABS の包括格付基準
10
Structured Finance
ト特化型の店舗カードや特別なソフトウェア・システムのみに対応したクレジットカードに比べ
て追加利用率に対して加えるストレスは低い水準となる。店舗カードの追加利用率に対するスト
レスを 100%、つまり将来の追加利用は認められないと想定する場合がある一方、広範に利用可
能なカードの場合には、この部分のポートフォリオは他のオリジネーターに譲渡され、カード保
有者の追加利用が認められ得ると想定する場合がある。
オリジネーターの強さ
既存債権からの元本回収をノートの投資家への返済に充当しつつ、追加利用による信託内の債
権の取得に対する資金調達を行うことができるオリジネーターの能力は、オリジネーターの財
務力と分散した資金調達源を有することを示す要素である。フィッチは、格付の低いオリジネ
ーターに対しては、追加利用に強いストレス(追加利用率を低くするストレス)を適用する。
リテール銀行の広範な営業基盤と多様な資金調達源を有するオリジネーターのポートフォリオ
の場合には、追加利用に対する資金調達能力は高いと考えられ、追加利用に対するストレス水
準は低くなる。
追加利用率に対するストレスは、キャッシュ・フロー・モデルの観点から重要な意味がある。他
の条件が同じならば、追加利用に対する完全なストレス(追加利用分は信託に入らない)を適用
する案件の場合には、ストレスが加わった早期償還が起こっている期間の資金不足をカバーする
ために必要な信用補完水準は大きくなる。これは信託に債権の追加が行われる場合、完全に元本
返済される場合と比べて、月次元本回収の絶対額は大きくなることによる。さらに、ほとんどの
信託では、早期償還期間中は、元本回収はセラー持分と投資家持分との間で固定比率にて分配さ
れることになる。固定比率は早期償還開始時点で定まり、投資家持分が全額返済されるまで一定
に維持される。債権が補充される場合、元本回収の投資家配分は、完全に元本返済される場合や
プール清算シナリオに比べて大きくなり、元本返済期間を通じて投資家にはプラスに働くため、
ストラクチャー上の重要な特徴である。その結果、このようなストラクチャーでは、信託への債
権の追加は投資家へのノート償還を早める。
カウンターパーティ・リスク
クレジットカード ABS 案件のフィッチの格付は、一定のカウンターパーティの財務力への依
存という要素を含んでいる。これはオペレーション上の依存という形又は支払義務という形で
信用力に依拠しているためである。これらのカウンターパーティには、回収口座銀行、サービ
サー及び金利スワップ提供者などが含まれる。
カウンターパーティ・リスク問題への対応に関しては、通常、特定のカウンターパーティへの
依存度低下を意図したストラクチャー上の機能を案件文書で規定している。カウンターパーテ
ィ・リスクは、カウンターパーティの格付とともにエクスポージャーの種類に基づいて評価さ
れる。フィッチでは、2013 年 5 月 13 日付レポート「Counterparty Criteria for Structured
Finance and Covered Bonds」に記載するカウンターパーティ基準を適用する。このレポート
は、フィッチのウェブサイト www.fitchratings.co.jp の「格付基準」で閲覧可能である。
コミングリング・リスク及び支払中断リスク
クレジットカード ABS 案件では、カード保有者からの回収は、信託口座に送金される前にサ
ービサー名義の口座に送金されることが一般的である。信託口座に送金されるまで、回収額が
サービサー又はその口座に預金されている日数をコミングリング期間という。
サービサー又は当該口座銀行に支払不能事由又は倒産事由が生じた場合、完全な分別管理が行
われていなければ、カード保有者からの回収金は破綻したサービサー又は口座銀行の資金と混
蔵するリスク(コミングリング・リスク)がある。さらに、代替的な支払に関する手当が施さ
れるまでは、信託口座への送金が中断する可能性が高い(支払中断リスク)。
クレジットカード ABS の包括格付基準
11
Structured Finance
サービサーや当該口座銀行が、カウンターパーティ基準に定める適格格付の最低基準を満たし
ていない場合には、すべての格付ノートへの利払い中断リスクを緩和するために流動性補完が
設定されることが一般的である。詳細については、フィッチのカウンターパーティ基準を参照
されたい。
法的構造及び法律意見書
他の ABS 案件と同様に、クレジットカードの証券化では、案件の他の関連当事者の倒産その
他の破綻リスクから債権を切り離すためのストラクチャーが作られる。これは、通常、セラー
/オリジネーターが、真正売買により、一つ又は複数の倒産隔離された事業体に債権を移転さ
せることにより行う。(ただし、選択されたストラクチャー及び移転を受ける事業体の種類に
より資産移転は直接又は間接的になる。)そして移転を受けた倒産隔離された事業体の一つが
最終的に投資家に ABS を発行する。特別目的事業体(SPV)の分析に関連する検討事項の詳
細については、2013 年 5 月 24 日付レポート「Global Structured Finance Rating Criteria」
(フィッチのウェブサイト www.fitchratings.co.jp で閲覧可能)を参照されたい。
フィッチは、裏付資産から生じるキャッシュ・フロー(又はスワップ・カウンターパーティな
どの案件当事者により支払われるキャッシュ・フロー)が損なわれたり、減尐したりすること
がないことを確認した法律意見書を受領することを期待する。案件の法的構造にもよるが、フ
ィッチは特に、オリジネーターの破綻リスクからの裏付資産の隔離、債券保有者のための第一
順位での有効な担保権の設定、SPV に対する課税状況(課税対象でないか、課税される場合
は、かかる税金の内容や課税額)について検討した法律意見書を受領することを期待する。国
によって提供される法律意見書は異なり得るため、重大な差異は案件の格付レポートなどに記
載される。米国以外では、担保権の譲渡は、現地の担保法に基づき、別の法律に準拠する場合
もあろう。
負債構造
フィッチは、オリジネーター又はアレンジャーによって提案される案件の負債構造を評価する。
フィッチは、格付シナリオごとにリスクを確認し、提示された負債構造がそれらのリスク緩和
に十分か否かについて見解をまとめる。以下の項では、典型的なクレジットカード ABS の標
準的な特徴とフィッチの分析手法を概説する。ただし、特定のストラクチャー上の特徴をフィ
ッチが推薦又は承認するものではないことに留意されたい。典型的な ABS 案件のストラクチ
ャー上の特徴の詳細については、28 ページの別添 4 に示している。
信用補完
第一の信用補完は、超過収益によるものである。ストラクチャーによっては、超過収益がスプ
レッド勘定に積み立てられる場合がある。メザニン・ノートと優先ノートは、優先劣後構造又
は超過担保という形の信用補完により保護されていることが一般的である。信用補完は、現金
準備金の形態をとることもしばしば見受けられる。また、ストラクチャーによっては、ディス
カウント・レートを適用し、利回り及び超過収益の水準を引き上げるオプション(ディスカウ
ント・オプション(後述))をオリジネーターに与え、これにより信託のパフォーマンスを底
上げできる可能性がある。しかし、フィッチは、通常、こういったオプションが行使されない
と想定する。マスタートラストのストラクチャーでは、セラー持分の最低水準を設定している。
ただし、通常、これは信用補完とはならない。フィッチは、各案件に関連する信用補完のスト
ラクチャーを評価し、キャッシュ・フロー・モデルに反映させる。
クレジットカード ABS の包括格付基準
12
Structured Finance
超過収益
他のタイプの消費者向け債権と比べて、クレジットカードは利回りが比較的高く、投資家への
利払いとサービシング手数料を十分賄い、かつ貸倒償却債権の補填に充当できる水準にあるこ
とが一般的である。超過収益は貸倒償却補填後のネットベースで報告される。
パフォーマンスが良好な期間において、貸倒償却後の超過収益は、通常、プラスとなり、余剰
金はセラーに支払われるか、又は信託のスプレッド勘定におかれる。貸倒償却後の超過収益が
マイナスとなる場合は、信託がストレス状態にあり、信用補完が十分な水準になければ、ノー
トが完済されない状態にあることを意味する。
スプレッド勘定
クレジットカード ABS のストラクチャーにおいては、事前に設定されたパフォーマンス・ト
リガーに従って、超過収益が月次で劣後ノートのためにリザーブされる場合がある。しかし、
超過収益が急速に落ち込み、損失補填に十分な額のリザーブができない場合もある。したがっ
て、フィッチでは、通常「BBB+」より上の格付シナリオでは、スプレッド勘定をプラス要因
として評価しない。
スプレッド勘定により提供され得る信用補完水準を評価する場合、フィッチでは一定のストレ
ス・シナリオに対応して超過収益が発生し、当該勘定に積み立てられる可能性を査定する。そ
の際には、劣後ノートの格付カテゴリーに対応するストレス環境における変化率を重視する。
超過収益の過去の変動実績及びトリガーのストラクチャーに対する分析に基づき、スプレッド
勘定への積立てに関するベースケースを設定する。ベースケースは、スプレッド勘定により信
用補完となるとフィッチが考える金額を示したものである。過去の超過収益実績の水準が低く、
変動が大きい場合には、ベースケース上当該勘定に積み立てられる資金はほとんど又は全くな
いと想定される。したがって、同様のトリガーがあるストラクチャーの案件でも、過去の超過
収益の実績により、信用補完水準が異なる場合がある。
過去の実績は重要な検討事項であるが、ポートフォリオ利回りや貸倒償却に大きな影響を及ぼ
し得る要因のいずれによっても、超過収益の将来のパフォーマンスが過去の実績から乖離する
可能性がある点をフィッチは認識している。したがって、フィッチは、スプレッド勘定の評価
では、規制の変化、競合状況及び経済環境などの他の定性的な要素も考慮する。
また、フィッチは、個別のスプレッド勘定のストラクチャー上の微妙な差異についても検討し、
ベースケースのキャッシュ・フローに定性的な調整を行う。たとえば、短期的にパフォーマン
スが改善しても、当該勘定の取崩しまでには時間が掛かるよう設計されているストラクチャー
の場合などには追加的にプラスの評価を行う場合がある。
案件期間中、スプレッド勘定に積立てが行われる期間とそうでない期間がある。フィッチは、
当初から入金されている金額については、超過収益の水準に関わりなく、全額信用補完として
勘案するが、当初から入金されている金額でも、パフォーマンスの改善に伴い直ちに取崩しが
可能なストラクチャーの場合には、取崩しが早期償還開始事由又はノート償還事由となる場合
を除き、部分的に信用補完として勘案することとなる。
超過担保及び優先劣後構造
ノートの各クラスの合計金額を超える債権は、格付ノートをデフォルト債権のリスクから保護
する働きがある。損失は、通常、下位クラスのノートにまず割り当てられる。損失及び元本返
済の優先ノートと劣後ノートへの割当てに関する特徴は信用補完に影響する。
クレジットカード ABS の包括格付基準
13
Structured Finance
現金担保勘定
現金担保勘定は、一定の資金不足補塡のために取崩すことができるように案件当初に入金、設
定された勘定である。現金担保勘定が利用可能であれば、サービシングの中断といった事由が
発生した場合でも流動性が提供される。現金担保勘定の資金が短期証券に投資される場合には、
それにかかるカウンターパーティ・リスクを評価する。
ディスカウント・オプション
一定のクレジットカード ABS 信託は、ポートフォリオ利回り及び超過収益を向上させる方法
として、債権元本の回収額を実質的に金利回収として再分類するディスカウント・オプション
の利用を選択できる場合がある。
ディスカウント・オプションの実施方法としては、主に次の二つの方法が一般的である。既存
のすべての債権元本に適用する場合と特定日以降に追加又は購入された新規の債権元本に適用
する場合である。いずれの場合であっても、マスタートラストのボンドの最終償還期日又は信
託のうち最も期日が遅いボンド償還まで継続されるものでない限り、フィッチはプラス要因と
して評価しない。
セラー持分
クレジットカード信託では、通常、譲渡人は信託の持分(譲渡人参加又はセラー持分と呼ばれ
る)を一定以上に維持する必要があり、この水準は 4%から 7%とされることが多い。信託の
セラー持分は、通常、投資家持分とパリパスとされているため、貸倒償却などの資産のパフォ
ーマンス悪化から投資家持分を保護する機能はない。
しかし、セラーは通常、詐欺的取引、希薄化又は相殺によって生じた損失については、信託に
弁済する義務を負っている。セラーが信託に弁済義務を負っていても、資金がない場合には、
これをカバーするためにセラー持分が使われる場合がある。したがって、フィッチでは、契約
上のセラー持分の最低水準とこういったリスクの程度を比較した分析を行う。
ノートの元本償還
クレジットカード債権を裏付けとするノートには、通常、最終償還期日と予定償還期日が設定
されている。満期一括償還型の案件の場合、コントロールド・アキュムレーション期間後に予
定償還期日が設定される。フィッチの格付は、最終償還期日までにノート元本が償還される可
能性に対して付与されている。
フィッチは、案件文書とサービシング報告書を精査し、ノートの償還開始時期を確認する。通
常、償還は、償還トリガーに抵触したとき又は償還予定日など事前に決められた日のどちらか
早い時期から開始される。
フィッチは、案件特有の文書を精査し、トリガーが、特定されたリスクに対する緩和材料とし
てどの程度機能するかを確認する。
パフォーマンス・トリガー
格付対象ノートは裏付資産のパフォーマンス・リスクにさらされているため、ほとんどのスト
ラクチャーではパフォーマンスに基づくトリガーが設定されている。典型的なパフォーマンス
によるトリガーには、次のものが含まれる。
 超過収益の 3 カ月平均がマイナスとなること
 月次支払の 3 カ月平均が設定値を下回ること
クレジットカード ABS の包括格付基準
14
Structured Finance




延滞率の 3 カ月平均が設定値を越えること
予定償還期日に元本の全額償還を怠ること
セラー持分が設定値を下回ること
ポートフォリオの元本残高が投資額を下回ること
超過収益には、利回り、経費率及び貸倒償却率の影響が統合されており、パフォーマンスに関
する主要な指標であるとフィッチは考えている。いずれかの指標が悪化したときは、これを打
ち消すプラス効果がない場合、超過収益の水準は低下する。
マイナスの超過収益は、ネット利回りでは貸倒償却を完全には補塡できず、信託の資産基盤が
浸食されていることを示す。したがって、こういった事態が発生した場合、ノートの早期償還
が発動することをフィッチは期待する。
このほかのパフォーマンスに基づく追加のトリガーをもつストラクチャーをフィッチはプラス
に評価する場合がある。たとえば、利回りや貸倒償却率又は月次返済率といったパフォーマン
ス指標に対し、個別にトリガーを設定する場合などである。こういったトリガーは、一定のオ
リジネーターの過去の実績が不安定である場合や、フィッチが将来のパフォーマンスに関し特
に懸念を持っている場合などにおいて、特に重要性が高まる。
セラー及びサービサー・トリガー
ノートは一定のカウンターパーティのパフォーマンスの影響を受けるため、カウンターパーテ
ィのパフォーマンスによる早期償還トリガーが設定されることが多い。一般的なトリガーは以
下のとおりである。
 契約書上に規定されている預金又は支払義務の不履行又は履行不能
 必要時の信託への債権移転の不履行又は履行不能
 表明保証違反が治癒されないこと(60 日以内が一般的)
 セラー又はサービサーに、デフォルト、破産、支払不能、再建型倒産手続といった一定の
事由が発生すること
キャッシュ・フロー分析
ストラクチャーにおける資産側と負債側のキャッシュ・フローを分析するために、フィッチ独
自のキャッシュ・フロー・モデルが使用される。分析の目的は、資産プールにストレスがかか
った状態において、信託回収資金で、各ノートに対し、期日どおりの利息支払、最終償還期日
までの元本償還を実施できるかを検証することにある。16 ページ記載の表では、早期償還期
間の累積不足額を補填するのに十分な、異なる格付カテゴリーにおける信用補完の例を、固定
金利の場合と変動金利の場合で例示している。
フィッチは、予定償還開始時期以降の期間をモデル分析の対象とする。実際には、トリガーに
抵触した場合など、より早期に償還が始まる場合もあるが、そういったシナリオは最長償還可
能期間が長期化するため、ストレスの程度は緩くなる。
フィッチでは、キャッシュ・フロー・モデルを個別に調整して、各案件固有の追加的な特徴を
組み込む。キャッシュ・フロー・モデルは、最終格付の決定にあたって重要な検討事項ではあ
るが、格付はフィッチの格付委員会が定量的要因と定性的要因の両方を考慮のうえ、最終的に
付与する。
クレジットカード ABS の包括格付基準
15
Structured Finance
フィッチのベースケースとストレス・シナリオ— 例
(%)
ベースケース
変数
フィッチのストレス・シナリオ
想定
「AAAsf」
「Asf」
利回り
17
35
25
「BBBsf」 時期
月次返済率
12
45
35
貸倒償却率
7
4.5
3
追加利用率
100
30
20
利回り
—
11.05
12.75
月次返済率
—
6.6
7.8
8.4
貸倒償却率
—
31.5
21
15.75
追加利用率
—
70
80
85
信用補完 (固定金利)
—
17.5
8.5
5 —
信用補完 (変動金利)
—
20.5
10.5
6 —
利回り
17
35
25
月次返済率
12
45
35
貸倒償却率
7
4.5
3
追加利用率
100
100
100
利回り
—
11.05
12.75
月次返済率
—
6.6
7.8
8.4
貸倒償却率
—
31.5
21
15.75
追加利用率
—
0
0
0
信用補完 (固定金利)
—
35.5
24.5
19.5 —
信用補完 (変動金利)
—
39.5
27.5
21.5 —
20 直ちに低下
30 直ちに低下
2.25 段階的に 6 カ月で上昇
15 —
モデルへの入力
13.6
追加利用率のストレスを 100%としたとき
20 直ちに低下
30 直ちに低下
2.25 段階的に 6 カ月で上昇
100 —
モデルへの入力
13.6
資産側のモデリング
資産側のストラクチャーは、信託の債権の動きに合うように作成する。毎月の総回収額は、月
初債権残高にストレスを加えた月次返済率を乗じて求める。総回収額のうち利息相当分は、ス
トレスを加えた想定利回りを乗じて求め、元本相当部分は、総回収額から利息相当分を控除し
て求める。月次貸倒償却額は、月初債権残高にストレスを加えた貸倒償却率を乗じて求める。
追加利用額は、当月の元本回収額にストレスを加えた追加利用率を乗じて求める。月末債権残
高は、月初債権残高から元本返済額、月次貸倒償却額を控除し、追加利用額を加算した金額と
なる。
利回り、返済率及び追加利用率のストレスは直ちに適用し、貸倒償却のストレスは、6 カ月間
かけてストレス水準まで上昇していくという想定を置く。
負債側のモデリング
負債側のストラクチャーは、フィッチの分析対象となるノートの動きに合わせ作成する。フィ
ッチは、固定比率又は変動比率など案件の配分規則に基づき、月次元本回収額、利息回収額及
クレジットカード ABS の包括格付基準
16
Structured Finance
び貸倒償却額をノートに割り当てる。元本回収額は、ノート元本の償還に割り当てられ、利息
回収額から、サービサー手数料、ノート利息額及び貸倒償却額を控除する。ストレスがかかっ
た期間においては、控除後の金額が月次でマイナスとなる場合がある。償還期間中の月次不足
額合計と最終償還期日におけるノートの未償還残高の合計と、利用可能な信用補完の水準とを
比較し、ノートに、与えられた格付ストレスに対する十分な耐性があるか否かを判断する。
早期償還期間中の元本回収は、早期償還開始時点での債権額に対する投資金額の割合をもとに
定率で割り当てられる。一方、利息回収額は、固定比率又は変動比率のいずれの場合もある。
詳細は 28 ページの別添 4「信託タイプ及びマスタートラストの特徴」を参照されたい。金利
が定率で割り当てられるものは、新規債権が早期償還期間中にも追加される場合は、案件にと
って有利となるが、新規債権は信託に追加されないとフィッチが判断した場合には、この特徴
のメリットは勘案されない。倒産手続適用申請を行う可能性が高い小規模な小売業者の場合に
は、信託の元本残高は証券化資産の元本回収と軌を一にして減尐していくためである。フィッ
チは、通常、キャッシュ・フロー・モデル上で金利の定率割当てという特徴の効果を勘案する。
この効果を勘案しない場合又は割引いて評価する場合は、案件レポートなどで開示する。
感応度分析
フィッチ独自のキャッシュ・フロー・モデルは、ノートが格付ストレスに耐えられるか否かの
検証のほかに、ノートの感応度分析にも使用する。感応度分析により、ベースケースとは異な
るシナリオが起きた場合のノートの耐性についての理解を深めることができる。詳しくは、34
ページの別添 5 を参照されたい。格付感応度分析の結果は、案件がさらされている複数の動的
なリスク要因を踏まえた格付結果の可能性の一つとしてのみとらえるべきである。格付感応度
を将来の格付パフォーマンスを示すものとしてとらえるべきではない。
サービシング手数料
フィッチのモデルでは、ストレス・シナリオにおいてサービシング手数料を優先的な費用とし
て扱う。ストレスがかかっている時期に、代替又はバックアップ・サービサーへの手数料の支
払は、常に優先的な項目となるとフィッチは予想しているためである。サービサー手数料の金
額と支払順位は、利用可能なキャッシュ・フロー及び最終的な損失カバレッジに影響するため、
格付の観点からは重要な検討事項である。契約上のサービサー手数料が実際のコストを賄うの
に十分でないと判断する場合には、モデル上、ストレスが加わる期間を通じて高い手数料金額
を想定する。
フィッチは、契約文書に従って代替的なサービシング契約が存在するか吟味する。信託の中に
は、当初のセラー/サービサーが、履行不能となった場合又は一定の条件に抵触した場合には、
第三者が事前に定めた手数料水準でポートフォリオのサービシングを行うことに合意している
ものがある。事前に定めた手数料水準を信用分析上プラスに評価するか否かは、バックアッ
プ・サービシング契約の内容、提供されるサービシングの種類及び水準、サービシング業務及
び運営基盤の移転可能性並びに関連当事者の財務力及び運営能力を精査したうえで判断する。
契約条件によっては、信託のキャッシュ・フローから継続的なバックアップ・サービシング手
数料を控除する場合がある。
金利リスク及びベーシス・リスク
ノートの利息費用をモデル化する場合、フィッチはノートの金利構造を考慮に入れ、金利環境
が変化した場合を検討する。
変動金利ノート
クレジットカード ABS の包括格付基準
17
Structured Finance
変動金利ノートが発行される案件は、市場金利が上昇した場合のノート利息負担増大リスクに
さらされている。フィッチは、2013 年 1 月 25 日付「Criteria for Interest Rate Stresses in
Structured Finance Transactions and Covered Bonds」(金利基準)(フィッチのウェブサイ
ト www.fitchratings.co.jp で閲覧可能)に従って金利上昇シナリオを設定し、キャッシュ・フロ
ーの検証を行う。
クレジットカード案件においては、ノートの残高が大きい、償還期間開始当初のリスクが相対
的に大きい。フィッチでは、通常、金利基準のうち短期ストレスを償還期間の開始当初に適用
する。
このシナリオでは、資産利回りと市場金利との関係が重要な検討事項となる。利回りは市場金
利に直接はリンクしていないが、ある程度柔軟に金利変更を行い得る場合には、資産の利回り
と市場金利の利ざやは低下しても最低限のプラスは維持するとフィッチは仮定する。しかし、
変動金利ノートを発行している案件の場合、資産側の利回りは低下する一方、ノートの費用が
増加するため、市場金利の上昇の正味の影響は常に厳しいものとなる。この分析は、他の利回
りのストレス・シナリオでも反映される。詳細は、本レポートの 8 ページ「格付ストレス」の
項を参照されたい。
裏付けとなるクレジットカード債権契約に金利再設定に関する特約条項がある場合、フィッチ
は、金利上昇シナリオでこういった条項を勘案する。しかし、ベーシス・リスクやタイミング
のミスマッチは、個別に検討する。
固定金利ノート及びスワップ付ノート
固定金利ノートや金利スワップ付ノートの場合、モデル上、約定金利を使用する。市場金利は
この場合でも資産利回りを通じ案件に影響を与える。フィッチは、モデル上、市場金利が一定
又は低下していく場合を想定する。
サーベイランス
フィッチのクレジットカード ABS 案件のすべての格付が、常に案件の状況を適切に反映する
よう、サーベイランス担当者は、裏付プールのパフォーマンスと債権キャッシュ・フローの詳
細分析をもとに、クレジットカード債権のサーベイランスを継続する。
パフォーマンス指標
クレジットカード債権を裏付けとする信託の継続的なサーベイランスでは、主要なパフォーマ
ンス指標、つまり月次返済率、利回り、延滞水準、貸倒償却、超過収益、信用補完水準(ただ
しこれらに限られない)などに関する信託から報告される実際のパフォーマンスと、将来のパ
フォーマンスに関するフィッチの予想を考慮に入れる。
各月次報告日付のサービサー報告書には、信託のノート返済、資産パフォーマンス及びポート
フォリオ特性が詳しく記載されており、フィッチは、この報告から得られる主要なパフォーマ
ンス・データと関連情報を精査する。データは当初予想、類似案件のパフォーマンス及び傾向
値と比較され、過去の実績水準からの乖離が調査される。
見直しの頻度
案件が予想外のパフォーマンスを示している場合には、詳細な見直しを行い、格付アクション
に関する提案が格付委員会に提出される。パフォーマンスが予想の範囲内にある場合は、詳細
な見直しは年に 1 回行う。
クレジットカード ABS の包括格付基準
18
Structured Finance
方法
サーベイランスの方法は、フィッチの当初格付の手法と同様であり、キャッシュ・フロー分析
の前に裏付資産のパフォーマンスとストラクチャーの変更(もしある場合)の検討を行う。分
析においては、各クラスのノートの保護として利用可能な信用補完水準を重視し、ストレス状
況のもとで案件が格付水準に相応するリスクに見合う損失水準に対して耐性があるかどうかに
焦点を当てている。各ノートに損失が発生し始める水準についての計算結果は、パフォーマン
スの悪化というストレスに対し、ノートがどれだけ余裕があるかを示すものである。
時間の経過に伴って、パフォーマンスの傾向値が、過去の実績に比べ良好な場合や悪化してい
る場合がある。信託資産のパフォーマンス実績が当初のベースケースや信託構成の想定から大
きく乖離し始めた場合、フィッチはポートフォリオに関する詳細な分析を実施し、ベースケー
ス想定を変更する場合がある。この結果、信用補完水準、ひいては信託が発行したトランシェ
の格付に影響が出る場合がある。
キャッシュ・フロー分析が、クレジットカード案件の分析のすべてではない。格付アクション
は、信託やシリーズに関するあらゆる分析の結果であり、前述の要因とパフォーマンスの変化
が格付ノートにどう影響する可能性が高いかを踏まえた、今後の案件のパフォーマンス予想に
関するフィッチの見方を反映している。
ストレス環境
債権の性格から、外的要因が信託のパフォーマンスに影響を与えることは明らかであり、失業
率、クレジットカード借入、消費者の負債水準及び自己破産などが証券化資産のパフォーマン
スに与える影響に関するフィッチの見方を格付アクションに組み入れる。
サーベイランス継続中には、クレジットカード ABS 案件のパフォーマンスのモニタリング上、
厳しい景気状況が続く期間中の損失倍率の低減をある程度考慮に入れることがある。フィッチ
の「スルー・ザ・サイクル」格付アプローチでは、「AAA」や「AA」といった高格付のノー
トに対しては、格下げが必要となるまでのある程度の倍率低減を許容する。このアプローチは、
非常に高格付のノートは安定しており、通常の景気循環に伴う変動に対応して格付が変動する
ものではないという考えを反映したものである。
フィッチでは、損失倍率の範囲(サーベイランス倍率)を格付カテゴリーごとに定めることが
あり、その場合、案件に格付を当初付与した時点で用いた倍率とは異なり得る。サーベイラン
ス倍率は、景気状況によるパフォーマンスの変化を吸収するために格付水準ごとに低減を許容
したものである。新規案件への格付に使われる倍率の範囲と同様、予想貸倒償却が大きいプー
ルに対する倍率は小さくなる。これは、高いデフォルト率が今後見込まれるプールの損失変動
は低下するためである。損失カバレッジ倍率は、ネット損失の予想金額と利用可能な信用補完
水準を比較し、計算される。フィッチは、案件のシーズニング及びクロージング時点で既に分
析に組み込まれているストレスなどもサーベイランス分析上勘案する場合がある。
裏付資産の変化
案件文書に従い、設定された条件の範囲で、クレジットカード口座が信託に追加され、又は信
託から除外される場合がある。口座の追加は、ポートフォリオ構成にプラスの効果がある場合
とマイナスの効果がある場合がある。フィッチは、口座の追加又は除外に関するすべての予定
の通知及び階層別データの送付を受けることを期待している。フィッチは、階層別データを分
析し、資産プール全体のパフォーマンスに与える影響を予想する。
追加される口座の規模が大きい場合又はブランドや商品性が異なるなど種類が大きく異なる債
権によって構成されていると判断される場合は、フィッチは、本レポート 3 ページの裏付資産
クレジットカード ABS の包括格付基準
19
Structured Finance
の分析の項で概説した手順に応じて、分析プロセスを広範に実施する。フィッチは、更新した
資産分析に基づいて信用補完水準が十分にあるか否かの検討も併せて行う。
格付基準の対象範囲と制約
本包括格付基準では、米国、欧州中東アフリカ地域及びアジア太平洋地域におけるクレジット
カード債権の証券化に関するフィッチの分析手法について述べている。本基準は、これまでに
見た案件におけるリスクやその特性に対処するように策定されている。本基準で説明されてい
るすべての要素を満たしていない案件であっても、信用リスクに対処できる十分なストラクチ
ャーや緩和措置があれば、格付可能である場合もある。反対に、本基準では対処できない裏付
資産にかかるリスクや法的リスク、仕組上のリスクが含まれている案件もあろう。そのような
場合、フィッチは、別の格付手法を検討したり、格付に上限を設けたり、完全に格付付与を謝
絶する場合もある。
クレジットカード ABS の包括格付基準
20
Structured Finance
別添 1:オリジネーター /サービサー業務の評価
フィッチのオリジネーター/サービサーの評価プロセスにおいては、オリジネーション及びサ
ービシング業務の質及び有効性とともに定められているガイドラインの遵守状況、業務の安定
性及び内部管理体制の健全性に関する分析を行う。法人としてのパフォーマンス、オリジネー
ション、そして業界標準のベンチマークや定性的指標を用いたサービシングを行っているかと
いった三つの主要な要因を評価上重視している。
法人としてのパフォーマンス
フィッチの評価では、その会社が案件期間を通じて活動を続けていくことができるかどうかを
判断するため、サービサーのコーポレート・ストラクチャー(運営実績、特徴、安定性、財務
状況など)に関する調査を行う。この評価作業の一環として、合併買収活動、拡張計画、一部
の業務の縮小又は撤退予定など事業パフォーマンスに影響を与える事項について調査を行う。
ポートフォリオの買収を含む積極的な拡大目標がある場合には、サービサーの取扱可能量や資
源又は統合に関する計画や実施状況についてより詳細な調査が必要になる。
フィッチでは、与信審査やサービシング関連の職員に関しては、三つのレベル、すなわち、上
級幹部、中間管理職及び中核スタッフの経験及び在職期間などを確認する。職員の採用、離職
率及び定着率は評価上重要な観点であり、経営陣の安定性と奥深さを示すものである。教育訓
練や成果報酬体系もオリジネーター/サービサー評価に含まれる。
フィッチは、カード発行会社の法人としてのリスク管理体制についても評価を行う。ここでは、
内部管理実施体制が組織規模や業務内容からみて適切かどうかを検討する。また、オペレーシ
ョナル・リスクの監視体制、規制リスクの管理体制並びに内部及び外部監査を含む監査機能の
管理体制についても評価する。職員の勤務状況の監視、不正行為回避手法も含まれる。
フィッチは、オリジネーション、与信審査及びローン・サービシングに関するシステムを調査
する。これには、勧誘、与信審査、口座管理、回収、損失軽減措置などオリジネーション及び
サービシングの中核機能に不可欠なすべてのシステムの主な機能性などが含まれる。統合状況、
自動化及びシステム・メインテナンスが重要な評価要素である。通常のデータ・バックアップ
や非常用電源などを含む災害復旧計画や事業継続計画も重要な検討事項である。
オリジネーション及び与信審査業務
フィッチのオリジネーター/サービサー評価プロセスでは、カード口座のオリジネーション・
プロセス及び戦略の評価が含まれている。オリジネーション評価で重視しているのは、会社と
しての中核能力や戦略目標に合致するオリジネーション手法を策定・実施するオリジネーター
/サービサーの能力である。ダイレクトメール、電話マーケティング又は電子メールといった
複数の経路を通じた方法の利用やクロスセル機会の利用など、顧客候補への連絡管理や新規口
座勧誘に洗練された手法をとっているかといった点も評価の対象とする。新規口座のオリジネ
ーションで重要な点は、キャンペーンのターゲットとなる顧客に対するオリジネーターのスコ
アリングの有効性及び自社システムによる信用スコアと利用できる外部の信用スコアの活用状
況である。
信用スコアの決定、信用枠の設定及び金利設定方法が、個別状況を反映させたものであるか、
効率的に活用されているか、定期的に有効性の検証が行われているかといった点も評価の対象
となる。過去のプログラムの結果やビンテージ・データの反復的な組入れ状況についても評価
する。与信決定及び承認プロセスも、評価対象となる。
クレジットカード ABS の包括格付基準
21
Structured Finance
フィッチは、オリジネーターが提供しているクレジットカードの種類を調査する。証券化プー
ルのパフォーマンス予想の参考となるクレジットカード商品の特徴について分析を行う。たと
えば、特典プログラム、低金利の提供又はオリジネーション経路の違いによる影響などである。
調査の過程で発見した内容は、裏付資産を分析する際に参考にする。
サービシング業務
クレジットカード ABS のサービシング機能のうち調査対象となるのは、口座管理、支払処理、
顧客サービス、損失軽減措置及び回収業務などである。クレジットカード債権のサービシング
にあたって重要となるのは、様々なサービシング機能の質を確保するための監督体制である。
さらに、フィッチは、経営陣による各分野の管理監督状況についても評価する。サービサーが
特に顧客サービスや回収など一部の機能を外部委託している場合には、こういった機能をサー
ビサーが会社内部で実行する能力について評価し、外部委託先への管理監督体制の質について
も評価する。
口座管理
フィッチが確認する口座管理機能の業務分野は次の内容を含む。
 顧客口座スコアリング及びスコアカードの有効性検証
 口座開設、口座維持、設定金利/利回りの管理などの商品ライフサイクル管理
 承認手続きの有効性
 信用枠管理
支払処理
フィッチのこの分野における主要な懸念のひとつは、カード利用者口座へのサービサーによる
支払の正確性、効率性である。フィッチが確認する請求及び支払処理の機能は次の内容を含む。
 請求手順と適時性
 支払処理の適時性と管理
 ロックボックス(会社を経由しない銀行による直接の小切手処理)管理と捕捉率
 例外的な支払処理、自動処理によらない支払処理
顧客サービス
サービサーは日々顧客とのやりとりがあり、顧客サービス機能は重要である。債務者アンケー
トや苦情処理方針の適用などのベストプラクティスの実施状況について調査する。また、品質
管理や顧客サービス担当者のモニタリングも重要な検討事項である。フィッチが調査する顧客
サービス機能の内容は次の内容を含む。
 顧客からの電話の管理
 顧客との交信、電子メール管理
 苦情管理
 電話が繋がるまでの平均時間や電話が繋がらずに電話が切られる割合などの各種指標
回収、損失軽減措置、償却口座からの回収
サービサーの回収とデフォルト管理業務の有効性は、ABS ポートフォリオのパフォーマンス
に影響を与える重要な要素のひとつである。フィッチが調査する、回収、損失軽減措置及び償
却口座からの回収に関する業務分野は次の内容を含む。
 連絡管理戦略(contact management strategy)と回収手法、顧客連絡先確認作業(skip
trace effort)を含む
クレジットカード ABS の包括格付基準
22
Structured Finance



債務者対応(treatment)、債務返済困窮時対策(hardship program)及び損失軽減努力、
常習者対策を含む
回収担当者一人当たりの延滞口座、適格者連絡率、自動ダイヤル浸透率などの各種指標。
延滞状況が深刻化する債務者の割合と傾向についても検討する。
貸倒償却と償却債権からの回収率
フィッチは、オリジネーター/サービサーが顧客の支払行動からリスクの度合いをスコアリン
グする手法を通じ、これを回収戦略及びコンタクト方法に活かしている場合、たとえば、顧客
のリスク分類により自動ダイヤル装置の戦略的利用や電話連絡への優先付けを行い、熟練した
質の高い回収担当者に高リスクの顧客を担当させるなどを行っている場合は、プラスに評価し
ている。
クレジットカード ABS の包括格付基準
23
Structured Finance
別添 2:オンサイト・レビューにおける論点例
会社及び経営の全体像







沿革及び組織図
クレジットカード部門の概要及び業歴
戦略的事業計画
取扱ポートフォリオ残高の過去の実績、現状、今後の見通し
外部委託している機能及びその管理監督手順
内部監査、外部監査及び規制当局による検査
規制上のリスク管理、コンプライアンス並びに各種方針及び手続き
カード口座のオリジネーション





オリジネーション戦略、目標及び成長見通し
マーケティング戦略及び目標
申込手続き、与信審査、承認、信用枠の付与及びプライシング
与信審査での例外扱い、詐欺の防止措置及び審査の質の管理
スコアカードの開発及び適用
カード口座の管理及びサービシング





信用枠の管理、承認、口座の保持率、限度額超過にかかる戦略
キャッシュ・マネジメントのプロセス(請求書の発行、送金経路、例外など)
顧客サービス(電話、インターネット、郵便物及び紛争処理)
顧客との紛争の管理
信用情報機関への報告
回収及びデフォルトの管理







従業員の教育及び研修、インセンティブや質の確保
回収実務、回収プロセスやタイムラインの概要
回収戦略及び評価(外部委託先の利用を含む)
自動ダイヤルの利用や連絡先確認などの連絡先管理体制
債務者対応プログラムや損失を軽減するための支払計画
債務者倒産時の対応及び処理プロセス
貸倒償却と償却債権からの回収率やその取り組み
バックアップ・サービシングの実績



サービシング・ポートフォリオ及び過去の経験
管理可能なキャパシティ
移管計画及びサービシング契約のストラクチャー
インベスター・レポーティング


報告の適時性及び正確性
提供データの質
テクノロジー


テクノロジーの概要及び使用するシステム
システム構想、稼働能力、事業継続計画
施設の実査及び電話のモニタリング
クレジットカード ABS の包括格付基準
24
Structured Finance
別添 3:クレジットカードに関するストレス水準の検証調査:判
明事項とフィッチの米国北東部における調査
フィッチでは、キャッシュ・フロー・モデルで使用しているストレス・シナリオの検証作業を
定期的に行っている。1989 年から 2006 年のクレジットカードのパフォーマンス実績に関する
調査によってストレス水準を策定しており、2007 年から 2009 年の景気後退期のパフォーマン
スの分析によってさらに検証を行っている。
フィッチの米北東部の調査
フィッチでは、2006 年にクレジットカードのパフォーマンスの変動性に関する調査を行い、
利回り、月次返済率(MPR)、貸倒償却水準、延滞水準及び超過収益の 1989 年から 2006 年
までの過去の実績のうちの極端な変動を示したものについて検討を行っている。調査の目的は、
フィッチのクレジットカード担保に対するストレスについて、過去の実績に合わせたベンチマ
ークを策定し、基準を作成することである。この調査では、全体のパフォーマンスの検証を行
うとともに、プライム、サブプライム及びリテールの分類による検証も行っている。検証のた
め調査したのは、123 の信託から変数(利回り、貸倒償却、MPR)ごとに 38,000 を超えるデ
ータセットであり、1990 年代初頭以降の個別の信託のほかにマスタートラストから発行され
た 800 超のシリーズのデータを含んでいる。調査では、景気後退やビンテージに関する調査も
行っており、これにより実際には経験していない投資適格の中でも高位の格付に適用するスト
レス水準を策定することが可能となっている。
データの対象期間には、全国的な景気後退時期が 2 回含まれている。すなわち 1990 年と
2001 年である。2001 年の景気後退は、1990 年の景気後退と期間は同程度(8 カ月、National
Bureau of Economic Research(全米経済研究所) の分析による)であるが、厳しさという点
ではさほどではなく、短期間で経済回復に至っている。Bureau of Economic Analysis(商務省
経済分析局) のデータによれば、米国経済は 1990 年から 1991 年の景気循環で過去のピーク
を越えるのに 4 四半期を要したのに対し、2001 年の景気後退期では 1 四半期で回復している。
この期間には、カード発行会社の広範な統合が進んだ。
ストレスの検証のため、利回り、MPR、貸倒償却及び延滞に関するデータを時系列的に調査
し、変動の大きい期間を分析した。観測値は、標準化のうえ序列付を行っている。そして百分
位点を対応させ、各格付カテゴリーに見合うストレスのベンチマークとした。観測データの中
での最上位の数値は、業界全体の数値及び当該信託のなかで集計された統計値からの乖離の程
度を調べている。観測データの百分位点の変化率を現在使用しているストレス水準と比較し、
ストレス水準が十分かつ合理的な水準であると判断した。
ポートフォリオ比較
(%、1990 年から 1992 年の変化)
貸倒償却率
全国
3.60%から 5.21%に 45.00%増加
北東部
3.75%から 6.80%に 75.00%増加
月次返済率
13.56% から 14.07%に 3.75%増加
13.59%から 12.00%に 11.60%減少
利回り
20.25%から 20.75%で安定
20.00%で安定
失業率
5.16%から 6.76%に 31.00%増加
3.25%から 8.25%に 250.00%増加
個人倒産申立て
51.00%増加
334.00%増加
注:この比較では、北東部には、メイン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、ニュー
ヨーク州、ニュージャージー州及びコネチカット州が含まれる。
クレジットカード ABS については、パフォーマンスや格付が大きく変動した事例が尐なく、
潜在的なデフォルト・シナリオを過去のパフォーマンスのみから作成することはできない。ス
クレジットカード ABS の包括格付基準
25
Structured Finance
トレス水準のベンチマークを策定するために、1990 年の景気後退期と 2001 年の景気後退期に
おける貸倒償却率の変動性の比較を行っている。
競合環境が厳しくなっていたため、2001 年に景気が減速し始めると、与信審査基準は緩めら
れた。ビンテージ・データによれば 2001 年のビンテージは、業界を通じ全体的に劣ったパフ
ォーマンスを示している。二つの景気後退期のビンテージ・データを比較し、このデータと景
気後退期以外のデータとの比較を行った。一方のポートフォリオは厳しい経済環境に対して耐
性を示しており、これにより与信審査基準の変更による影響のシミュレーションを行っている。
複数の全国的なクレジットカード発行会社を含む業界の様々の情報源から提供されたデータを
使って、フィッチはパフォーマンスに関する統計数値について特定地域分を抜き出している。
1990 年の景気後退時の当該地域における貸倒償却、MPR 及び利回りの比較を行った。この実
際に起きたシナリオを低位の投資適格格付に適用する基準として使用し、これを非常に保守的
にして高位の投資適格格付に対する基準を作成している。
1989 年を景気後退前の基準年として、メイン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、マ
サチューセッツ州、ロードアイランド州及びコネチカット州からなる北東部が米国において、
パフォーマンスが最悪の地域であると判断した。比較のために用いられた情報は、1990 年の
景気後退期における合成したクレジットカード・ポートフォリオを利用して抽出している。
貸倒償却率の大幅な上昇は、個人倒産
と失業率が北東部の一部において増大
したことを反映している。倒産はクレ
ジットカードの貸倒償却の主要な要因
であり、クレジットカード損失の
50%程度までを占めている。
Bank of New England の破綻
フィッチの格下げ
格下げ後
時期
格下げ前
1989 年 8 月
A
BBB+
1989 年 12 月
BBB+
BB+
全国レベルでの貸倒償却の増加は、北 1990 年 1 月
BB+
CCC
東部で観測されたほどは厳しいもので 1991 年 1 月
CCC
D
はなく、米国では個別地域と同程度の
経済変動が同時に全体で起きることは
ほとんどないことが理由である。米国では、景気後退は地域ごとに順番に経験していくことが
多い。
調査では、貸倒償却及び倒産に関しては、明確な発見があったものの、ポートフォリオ利回り
及び MPR に関する結果は決定的なものとは言えない。これらの変数は、クレジットカード市
場における競争、残高移行の増加及びコ・ブランドカードの導入など他のいくつかの要因も影
響しているとフィッチは考えている。その結果、景気後退期の MPR 及びポートフォリオ利回
りに対する効果のみを抽出することは困難である。
この期間中、Bank of New England など北東部の低位の投資適格格付が付されていたいくつか
の地方銀行の財務が悪化し破綻している。景気後退の深刻度及び対応するクレジットカードの
貸倒償却の状況から、過去の実績に基づいて、フィッチは北東部の状況の観測値及びそれに続
く信用問題を用いて、「BBBsf」の格付カテゴリーに対応するストレス・シナリオを策定して
いる。
2007 年以降のパフォーマンスによる検証
次ページの表は 2007 年初頭から 2010 年 3 月までの景気の山から谷までの米国のプライムの
パフォーマンスを示している。クレジットカード損失率と相関関係が高い失業率は、この期間
に 4.6%から 10.1%に急上昇しており、個人倒産の申立ても 82%増加している。クレジット
カードの貸倒償却は、2007 年の 4.31%から 2.65 倍の 11.52%となったものの、全期間を通じ
て返済率は安定していた。ディスカウント・オプションを適用した債権の効果を除いたグロス
クレジットカード ABS の包括格付基準
26
Structured Finance
利回りは約 10%低下したが、これは金利の指標となるプライムレートが低下したことが主な
要因である。利回り低下は、カード発行会社の金利を再設定する努力によって一部相殺されて
いる。
ポートフォリオ比較  米国プライムカードの指標
(%、2007 年から 2010 年の変化)
全国ベース
貸倒償却
a
4.31%から 11.52%に 2.65 倍上昇
月次返済率
利回り
19.00%で安定
b
18.28%から 16.00%に 10.18%低下
失業率
個人倒産申立て
4.6%から 10.1% (ピーク時)に 2.20 倍上昇
a
82.50%増加
a
倒産申立てと貸倒償却は、2005 年に倒産が大幅に増加したことにより、 2007 年はじめは人為的に低く抑えられていた。
b
ディスカウント・オプションの効果は、グロスの利回り計算からは除去している。ほとんどの利回り低下は、指標金利であるプライム
レートの低下によるもので、カード発行会社の金利再設定の努力によって一部相殺されている。
これらの分析の結果は、フィッチのストレス水準は保守的ではあるが、厳しすぎるものではな
いことを示している。過去の観測値から導いた信頼区間と比較した場合、ストレス・シナリオ
は各格付に対応するリスクと釣り合っている旨、調査により有効性が検証できた。利回り及び
MPR に対するシナリオは、実際に観測されたパフォーマンスに比べると保守的となっている。
これは、カード発行会社によるポートフォリオの金利の再設定が、厳しい規制のもとで制限さ
れる可能性があること及び分析対象とした観測期間よりもマクロ経済環境が厳しいものとなる
可能性があることを考慮したものである。
クレジットカード ABS の包括格付基準
27
Structured Finance
別添 4: 信託タイプ及びマスタートラストの特徴
フィッチは、オリジネーター及びアレンジャーから提示された案件の負債構造を検討する。フ
ィッチは、各格付シナリオにおけるリスクを特定し、ストラクチャーがそういったリスクを緩
和することができるか否かについて見解をまとめる。本項では、クレジットカード ABS の典
型的なストラクチャー上の特徴を概説している。ただし、いかなる特定のストラクチャー上の
特徴も、フィッチが推奨又は承認するものではない点について留意されたい。
マスタートラスト - リンク・ストラクチャー
マスタートラスト・ストラクチャーでは、発行体は、担保となる同一の債権プールによって裏
付けられている同一信託から複数の証券を発行することができる。どのシリーズの証券の裏付
けとなっているかを示すような債
マスタートラスト
権の分別は一切行われない。すべ
ての債権は、当該信託によって発
クレジットカード・マスタートラスト
行されたすべての証券の裏付けと
して債権プールを構成している。
信託証書の投資家又はノート投資
家の投資額が常に全額クレジット
カード債権に投資されることを確
実にするために、セラー持分の規
シリーズ
シリーズ
シリーズ
模は信託債権残高の一定の最低比
率を下回らないように常時維持し
クラスA
クラスA
クラスA
なければならない。回収額及び損
クラスB
クラスB
失は、投資家とセラーの間でプロ
クラスB
ラタに割り当てられ、元本不足の
資
資
資
補填に充当できないため、セラー
持分は、投資家に対する信用補完
としては機能しない。さらに、セラー持分には投資家への利息支払い、担保プールのサービシ
ング手数料、貸倒償却及びその他の信託費用を支払った後の債権プールからの超過利息が割り
当てられる。セラー持分又は譲渡人持分に関する最低水準が設定されていない信託は、不正行
為又は希薄化リスクをカバーするため、追加的な信用補完が案件に組み込まれることになる。
セラー持分が最低基準を下回る場合、セラーは、信託にクレジットカード債権を追加する義務
を負う。セラーが追加債権を拠出できない場合、早期償還が始まる。規模の大きな債権の追加
拠出(1 回で 20%を超える増加となる追加又は 3 カ月で 15%を超える増加となる一連の複数
回の追加と定義されることが通常)に先立って、フィッチはプールの担保構成を精査し、信用
補完水準を設定した時点のプール構成と比較する。さらに、ほとんどのマスタートラストは、
格付会社の確認を条件にクレジットカード口座を無作為に選び、債権を信託から除外すること
が認められている。
オーナー・ノート・トラスト
C 号ノートに対するオーナー・トラストは、クレジットカード ABS の負債のうち通常、最劣
後部分となる担保投資金額(collateral invested amount, CIA)の販売を目的として開発された。
このストラクチャーは、CIA に割り当てられるキャッシュ・フローをオーナー・トラストに移
転し、このキャッシュ・フローに対する権利によって裏付けられたノートを発行するものであ
る。
クレジットカード ABS の包括格付基準
28
Structured Finance
オーナー・トラストのストラクチャーにさらなる信用補完を施すことにより、発行体は A 号、
B 号及び C 号のノートの発行が可能となった。マスタートラストがオーナー・トラストに対し
担保証書(collateral certificate)を発行し、裏付けとなるキャッシュ・フローを異なるトラン
シェに割り当てる。このストラクチャーは、後に洗練され、新たにマスター・オーナー・ノー
ト・トラストを設定することにより、2 段階の移転を経る必要なしに直接ノートが発行される
ようになった。(下図参照)
発行体信託(デリンク・トラスト)
発行体信託(Issuance Trust)とは、
デリンク(遮断)されたマスタートラ
ストのことで、異なる条件、満期、金
利をもつ各クラスを独立して販売する
ことができる。
ほとんどのストラクチャーでは、調達
期日が同じ伝統的な、A 号、B 号及び
C 号のノートを発行することも、満期
の異なる優先ノート及び劣後ノートを
独立に発行することも可能である。後
者のように、複数の満期をもつ発行シ
リーズを活用し、戦略的に各格付レベ
ルに対する投資家需要に訴えかけるこ
とにより、発行体は調達機会をより効
果的に管理できる。
信託
クレジットカード・マスタートラスト
シリーズ
証書
シリーズ
シリーズ
クラスA
クラスA
クラスB
クラスB
資
資
クレジット
複数の発行が行われるシリーズの特徴
ート
カード・オー
的な内容の一つは、劣後ノートのすべ
ナートラスト
てのサブクラスが同シリーズの複数の
クラス
クラス
クラス
優先クラスを支えていることである。
証書
A-3
A-1
A-2
(つまり複数発行が行われるシリーズ
クラスB-2
は、クロス担保を活用している。)ノ
クラスB-1
スプレッド
ートはいつでも発行できるが、優先ノ
定
クラス
クラス
クラス
ートは、案件の関連契約で規定されて
C-1
C-2
C-3
いる必要劣後金額が発行時点で満たさ
れる場合のみ、劣後ノートの予定満期
スプレッド 定
に関わりなく発行可能となる。したが
って、優先ノートを支える劣後ノートの元本償還予定日を優先ノートの元本償還予定日以前に
設定することも可能となる。ただし、この場合、満期を迎える劣後ノートの償還の前に代わり
の劣後ノートを発行する必要がある。
劣後ノートの元本償還予定日以前に代わりの劣後ノートが発行されない場合には、劣後ノート
に割り当てられる予定だった元本回収は当該劣後ノートが支えている優先ノートの元本積立勘
定に当該優先ノート残高の満額に至るまでリザーブされる。これにより、優先ノートの投資家
に対する保護は維持され、劣後ノートの償還は予定よりも遅れることになる。この場合の劣後
ノートの償還時期は、その時期の元本返済率による。フィッチでは、付与された最高位の格付
に相当するストレス環境においても、期日どおりの利払いとノートのそれぞれの最終償還期日
までの元本の返済が可能であれば、この種のメカニズムも特に問題ないものと考えている。
クレジットカード ABS の包括格付基準
29
Structured Finance
マスタートラストの特徴
クレジットカード ABS のマスタートラストは、キャッシュ・フロー割当方法によって一般的
にソシアリスト(socialist)又はノンソシアリスト(nonsocialist)と呼ばれる。ソシアリスト
信託では一般的に、信託全体の回収金と資金不足とをすべてのシリーズの合計ベースの必要性
に応じて割当てを行う。ノンソシアリスト信託では、各シリーズのプロラタ割合によって割当
てを行うものである。どちらのタイプのマスタートラストも再割当てを行うグループが一つ以
上ある場合がある。ほとんどの信託では、すべてのシリーズが属するグループが一つあるだけ
である。信託のストラクチャーによるが、同一グループに属するシリーズは、元本及び/若し
くは超過収益を分け合い、ディスカウントが許容され、又は金利を定率で割り当てる場合があ
る。
元本の共用
同一グループに属するシリーズではすべて、アキュムレーション期間又はアモチゼーション期
間においては、元本回収の超過分の配分がどのシリーズに対してもできることとされている。
リボルビング期間中のシリーズには、元本返済義務がないため、当該シリーズに割り当てられ
る元本回収金は、再割当てに利用可能である。また、シリーズのコントロールド・アキュムレ
ーション又はコントロールド・アモチゼーション所要額を超過する回収額は再割当てに利用可
能である。元本の再割当ての特徴は、その他のシリーズが追加的なリスクを負担することなし
に、投資家に期日どおりの元本返済を行う確実性を高めていることである。
超過収益の共用
超過収益をグループに属するシリーズ内で分け合う方法にはいくつかの種類がある。金利回収
分を必要額に応じて各シリーズに割り当てるソシアライズド・グループとしてグループをつく
る場合がある。グループの全シリーズの利息費用合計は、各シリーズの加重平均金利となる。
したがって、金利が一番高いシリーズへの割当てが、最大となり、金利が一番低いものへの割
当てが最小となる。各シリーズへの超過収益は、それぞれ同様の利息費用となるため同一とな
る。その結果、事実上、ソシアライズド・グループ又はソシアリスト信託では超過収益をキャ
ッシュ・フローの分配前の段階で共用している。Citibank Credit Card Master Trust、Citibank
Issuance Trust 及び Chase Issuance Trust (従前 Bank One Issuance Trust と呼ばれていたも
の) はソシアライズド信託の例である。
他の信託では、金利回収額を信託残高に基づきプロラタ・ベースで割り当てる。各シリーズは
金利をプロラタ・ベースで受け取ることになり、金利費用が一番低いシリーズの超過収益が最
大となる。超過収益は、利息費用の大きいシリーズの超過収益がゼロとなった場合など他のシ
リーズへの再割当に利用可能となる。
キャッシュ・フローの割当て
信託が単体の信託であるかマスタートラストであるかに関わりなく、クレジットカード証券化
案件では同一の一般的な支払ストラクチャーが使われている。
典型的な案件ストラクチャーでは、三つの異なるキャッシュ・フロー期間がある。リボルビン
グ期間、コントロールド・アキュムレーション又はコントロールド・アモチゼーション期間及
び早期償還期間である。それぞれの期間には異なる役割があり、キャッシュ・フローの割当て
方法が異なっている。この支払ストラクチャーは、利息が毎月支払われ、元本が満期に一括し
て支払われる伝統的な事業会社債を模して設計されている。リボルビング期間中、利息の支払
いは行われるが、元本の支払いは行われない。コントロールド・アキュムレーション又はコン
トロールド・アモチゼーション期間には、利息の支払いが行われるほか、毎月一定額の回収元
クレジットカード ABS の包括格付基準
30
Structured Finance
本が指定口座に入金されるか、投資家への返済に充てられる。早期償還期間中は、利息支払い
のほか、できる限り早く元本返済を行う。
回収金額は、金利又は元本のどちらかの回収として分類される。三つのいずれの期間でも、金
利の回収は、債権残高に対する現在の投資金額の比率に基づき、変動比率で割当てが行われる
のが一般的である。月次の金利回収額は、投資家への利息、サービシング手数料及び当月に貸
倒償却の対象となった債権に充当される。これらの支払充当後の残余収入は超過収益と呼ばれ、
セラーに支払われるのが通常である。しかし、元本回収額の割当ては、各期間において異なる。
クレジットカード・キャッシュフローのタイ
セラー
6
米ドル
5
米ドル
資
リ
ライン
分
分
ルビン
0米ドル
48カ
リ ルビン
60カ
定
84カ
リボルビング期間
リボルビング期間中、利息回収額は、信託内の費用(貸倒償却、社債利息及びサービシング手
数料)に充当され、元本回収額は、所定のカード口座で発生した新たな債権の購入に充てられ
るか、新規債権がない場合にはセラー又は譲渡人の持分の一部に充てられる。残高維持に必要
な新規債権が十分にない場合、セラー又は譲渡人の持分が最低必要水準を下回ることになり、
早期償還が発動される。案件によっては、元本回収の超過額は、超過元本入金勘定に入金され、
セラー又は譲渡人から信託に移転可能なクレジットカード債権が出てくるまで維持されるケー
スもある。早期償還リスクは、セラー/譲渡人が最低水準を超える持分を維持する誘因となる。
リボルビング期間は、通常 2 年から 5 年で事前に定めた一定期間続く。
コントロールド・アモチゼーション又はコントロールド・アキュムレ
ーション
リボルビング期間終了後、コントロールド・アモチゼーション又はコントロールド・アキュム
レーション期間が開始する。コントロールド・アモチゼーションの場合、通常 12 カ月とされ
る場合が多く、毎月当初投資額の 12 分の 1 に相当する元本回収額は、再投資されずに当初定
めたスケジュールに従って投資家に返済される。シリーズによっては、これより期間が長く
(短く)、金額が尐ない(多い)場合がある。所定額を超える元本回収額は、リボルビング期
間同様新規債権に再投資される。利息は月初証券残高に対してのみ支払われる。
コントロールド・アキュムレーションでも同様の手続きが行われるが、所定額の支払は毎月、
信託口座又は元本入金勘定に入金され、予定満期日まで維持される点が異なる。この特徴はソ
フト・ブレット償還と呼ばれる。アキュムレーション期間の終わりには、投資額全額が元本入
クレジットカード ABS の包括格付基準
31
Structured Finance
金勘定に入金されており、投資家は予定満期日に一括で元本償還を受ける予定となる。元本入
金勘定に入金された資金は、短期の高格付投資先で運用される。
短期の高格付投資先からの利息は通常ノート金利を下回る場合が多い(つまり逆ざやとなる)
ため、アキュムレーション期間開始に先立ち、リザーブ勘定が設定されることが一般的である。
元本入金勘定の資金が積立てスケジュールより遅れ、予定償還日に投資家への支払に不足する
場合には、最終償還期日まで投資家に対し元本回収額を返済し続け、最終償還期日には信託が
残存債権を売却し、投資家への償還に充当し終了する。
コントロールド・アキュムレーション期間の長さは案件によって異なり、事前に定めた返済率
テストを満たす限りは、通常 1 カ月まで短縮できる。このテストでは、直近のパフォーマンス
をもとに、当該月に回収された金額が投資家への全額返済に十分な金額であるか否かを判断す
るものである。フィッチは、当該期間内に期限を迎える追加的な債務についても検討し、キャ
ッシュ・フローが必要額を満たしているか否かを確認する。利息は毎月総投資残高に対して支
払われる。このストラクチャーでは、投資家はアキュムレーション期間中、利息のみを受け取
る。
早期償還又は加速償還
早期償還はクレジットカード ABS に共通のストラクチャー上の特徴である。通常、事前に設
定した早期償還事由(加速償還事由)に抵触した場合、案件は自動的に早期償還期間(加速償
還期間)に入り、予定償還日より前に直ちに投資家への元本返済が始まる。各案件に共通する
早期償還事由は、セラー/サービサーによる表明保証違反、セラー/サービサーによる必要時
の信託への債権移転の不履行、セラー又はサービサーに一定のデフォルト、倒産又は債務超過
の事由が発生することなどである。
超過収益、信用損失又は MPR などパフォーマンスに関する数値が一定値に達した場合に、早
期償還が起こることもある。最も一般的なものは、超過収益トリガー又はベース・レート・ト
リガーで、超過収益の 3 カ月平均がマイナスとなった場合に、早期償還に入るといったもので
ある。超過収益は、シリーズに関するポートフォリオ利回りから費用を控除したもの(金利及
び手数料として回収した額から金利費用、貸倒償却割当額、サービシング及びアドミニストレ
ーション手数料並びにネットのデリバティブ費用を控除したもの)と定義されることが一般的
であるが、この計算に超過収益持分を組入れることができるかなど信託によっては若干の違い
がある。
案件期間中、資産の急激な悪化、セラー/サービサーの問題又は一定の法的な問題が起きた場
合には、リボルビング期間、アモチゼーション期間又はアキュムレーション期間のどの時期で
あっても、早期償還が発動され得る。この場合、案件は自動的に早期償還期間に移行し、予定
より早く(予定より遅い場合も限定的にはあり得る。)、直ちに投資家への償還が開始される。
すべての元本回収額及び元本入金勘定にある金額は投資家に支払われ、優先証書又は優先ノー
トから償還される。優先ノートの投資家への完済後、はじめて劣後ノート投資家への元本支払
いが行われる。早期償還又は加速償還期間における元本の回収は、早期償還期間開始時点にお
ける投資額の割合に基づき一定比率で割当てが行われる。当初の比率は、早期償還期間を通じ、
すべてのクラスの償還が完了するまで一定に保たれる。
規制を受けるアモチゼーション
一定の英国のクレジットカード信託に特有なものとして、アモチゼーション期間が、最低期間
に関する規制の対象となり、関連の信託契約に定められる場合がある。その結果、パフォーマ
ンスを理由とした早期償還トリガーに抵触するなどして開始した早期償還期間が、短期間で返
済を行うだけの十分なキャッシュ・フローがある場合でも、12 カ月や 18 カ月といった最低期
クレジットカード ABS の包括格付基準
32
Structured Finance
間に延長されることがある。このストラクチャーの目的は、マスタートラストが早期償還の対
象となった場合にオリジネーターに潜在的に生じ得る流動性ストレスを減らすことにある。
金利の定率での割当て
この形式では、キャッシュが最も必要な時期である償還事由発生以降に、金利回収のうち、よ
り大きな割合を投資家に割り当てるものである。事由抵触後は、金利回収のうちのセラー持分
の一部は、投資家持分に対応する利息やサービシング費用(又は貸倒償却)の補塡に利用でき
る。たとえば、早期償還が発動されたときのセラー持分が 10%である場合、投資家持分が完
済されるまで、金利回収額の 90%が投資家持分に割り当てられる。この特徴を有しない案件
では、償還期間を通じて、投資家はプロラタ割合で金利の回収額を受け取ることになる。キャ
ッシュ・フローのシミュレーションでは、ストレス・シナリオにおいても、金利の超過割当て
による補完はかなりに上るものとなり、当初必要な全体の信用補完の水準は減尐することにな
る。
クレジットカード ABS の包括格付基準
33
Structured Finance
別添 5: 格付感応度
本項では、リスク要因にストレスを加えた場合にモデルが示す格付感応度に関する考え方を示
している。格付感応度は、入力変数を変えた場合のモデル上の影響を示しているに過ぎない。
フィッチは、裏付資産のパフォーマンスが当初予想を外れた場合のノートの格付感応度に関す
る分析を本格付基準レポートに示す方法に基づいて、すべてのクレジットカード ABS に対し
て実施する。この手法においては、ノートの利用可能な損失カバレッジ水準の低下を招く複数
のストレス・シナリオを考慮する。その結果、損失カバレッジ低下の程度により、一定のノー
ト格付は潜在的な格下げの対象となりやすくなる場合がある。
既存案件に対する格付アクションは、貸倒償却の程度、予想損失に対する損失カバレッジの低下
(倍率の低下)と、分析時点の定量的要因と定性的要因に関する検討内容により決定される。感
応度分析の実施においては、フィッチは当初のベースケース想定に対してストレスを加えた値を
キャッシュ・フロー・モデルに入力し、これにより各ノートに利用可能な信用補完がどの程度の
倍率に低下するかを検証している。案件は複数のリスク要因にさらされており、格付感応度分析
の結論は、単に潜在的な結果の一つを示すものとしてのみ解釈されるべきである。格付感応度を
将来の格付パフォーマンスを示すものと解釈すべきではない。
フィッチのベースケースのストレス・シナリオ例
(%)
変数
利回り
月次返済率
貸倒償却率
追加利用率
モデルへの入力
利回り
月次返済率
貸倒償却率
追加利用率
信用補完(固定金利)
信用補完(変動金利)
ベースケース
想定
フィッチのストレス・シナリオ
「AAAsf」
「Asf」
「BBBsf」 時期
17
12
7
100
35
45
4.5
30
25
35
3
20
20
30
2.25
15
—
—
—
—
11.05
6.6
31.5
70
12.75
7.8
21
80
13.6
8.4
15.75
85
—
—
17.5
20.5
8.5
10.5
直ちに低下
直ちに低下
段階的 6 カ月で上昇
—
5 —
6 —
一要因が変化した場合の格付感応度
複数の要因が変化した場合の格付感応度
フィッチの感応度分析は、案件の当初
デフォルトの増加に対する格付感応度
のベースケース想定にストレスを加え、
A号
B号
C号
すべてのクラスの発行ノートへの格付 ベースケース
AAAsf
Asf
BBBsf
上の影響を検証するものである。たと 当初格付
AAAsf
Asf
BBBsf
えば、右表では、ベースケースに比べ ベースケース比 25%増加
AAAsf/AAsf Asf/BBBsf BBsf
貸倒償却率が 25%、50%、75%と上 ベースケース比 50%増加
ベースケース比 75%増加
AAsf
BBBsf
BBsf
昇した場合をそれぞれ弱いストレス、
中程度のストレス、厳しいストレスと
している。貸倒償却がベースケース比
75%増加した場合、A 号ノートに利用可能な信用補完水準は、「AAsf」格付(「AAAsf」格付
水準ではなく)に対応する貸倒償却ストレスを支えることができる水準であることを上表「デ
フォルトの増加に対する格付感応度」は示している。(損失カバレッジ倍率が格付カテゴリー
二つの境界付近に位置する場合、格付感応度の表は、両方の格付を表示している。)
クレジットカード ABS の包括格付基準
34
Structured Finance
また、格付感応度分析では、1 変数に
どの程度のストレスが加われば、格付
が 1 カテゴリー格下げされるか、非投
資適格水準まで格下げされるか、又は
「CCCsf」まで格下げされるかのそれ
ぞれを分析する場合もある。フィッチ
はキャッシュ・フロー・モデル上、ま
ず貸倒償却のみをベースケースから格
付アクションが取られる可能性が高い
レベルまでストレスを加える。この際
には、利回り、MPR や追加利用率な
ど他のモデル上の想定は一定とする。
次に「AAAsf」に格付されたノートが
「AAsf」に格下げされることを想定し
て、「AAsf」に見合う利回り、MPR
及び追加利用率を適用する。これによ
り、(「AAAsf」から「AAsf」への格
下げが起こるのは)ベースケースに対
しデフォルト率が 2.0 倍又は 100%増
加した場合であることがわかる。ベー
スケース・デフォルト率がこういった
上昇を見せた場合には、A 号ノートの
「AAsf」への格下げが検討される可能
性が高くなる。
クレジットカード ABS の包括格付基準
追加利用率低下に対する格付感応度
ベースケース
A号
B号
C号
当初格付
追加利用率が
50%低下
追加利用率が
75%低下
追加利用率が
100%低下
AAAsf
AAsf
Asf
Asf/BBBsf
BBBsf
BBBsf/BBsf
Asf
BBBsf
BBsf
BBBsf
Bsf
Csf
デフォルトの増加と MPR の低下に対する格付感
応度
ベースケース
A号
B号
C号
当初格付
ベースケース比デフォルトが
25%増加し、MPR が 15%低下
ベースケース比デフォルトが
50%増加し、MPR が 25%低下
ベースケース比デフォルトが
75%増加し、MPR が 35%低下
AAAsf
AAsf
Asf
Asf/BBBsf
BBBsf
BBBsf/BB
sf
Asf
BBBsf
BBsf
BBBsf
BBsf
Bsf
デフォルトの増加に対する格付感応度
ベースケース
当初格付
1 カテゴリーの格下げが起こる
デフォルトの増加(ベースケー
ス比)
非投資適格格付への格下げが
起こるデフォルトの増加(ベー
スケース比)
「CCCsf」への格下げが起こる
デフォルトの増加(ベースケー
ス比)
A号
B号
C号
AAAsf
2.0x
Asf
2.1x
BBBsf
1.9x
5.3x
2.8x
1.9x
7.1x
3.8x
2.5x
35
Structured Finance
別添 6: カードの種類
クレジットカード ABS の裏付けとなる担保は、顧客の商品購入や場合によってはキャッシン
グによって発生する債権で構成されている。クレジットカード ABS は、汎用クレジットカー
ド ABS と小売カード ABS の二つの範疇のどちらかに当てはまる。
汎用カード
汎用カードは、特定の小売店だけではなく、どこでも支払に利用できるカードである。Visa や
MasterCard と提携しているクレジットカードの債権が、汎用クレジットカード ABS の残高の
過半を占めている。Visa と MasterCard は、クレジットカードを消費者に直接発行しておらず、
クレジットカードを発行する加盟銀行をサポートする機関として機能している。
Visa や MasterCard の機関に頼らずに、全米の市場に浸透している有力な汎用カードの発行会
社は Discover と American Express のみである。支払ネットワークを立ち上げ、維持していく
ための初期費用が多額に上ることと、クレジットカードの各顧客層を通じて競争が厳しいこと
から、参入障壁は高い。
アフィニティカード
アフィニティ・プログラムは共通の関心を有する構成員グループをターゲットとしている。た
とえば、医療関係者の団体、自動車レースのファン又は大学の同窓生などが、団体のロゴ、好
みのドライバーの写真、校章などを入れたクレジットカードを作っている。この種のカードは、
グループの結束から顧客ロイヤルティが強い。Bank of America が、アフィニティカードの最
大の発行会社のひとつである。
コ・ブランドカード
自動車会社、航空会社、小売業者をはじめ多くの会社がカード発行銀行と提携し、クレジット
カードのマーケティングを共同で行っている。会社にとっては商品の販売促進、銀行にとって
は債権積み上げが目的である。こういったコ・ブランドカードは、カード保有者の使用に対し
特典が提供される。特典は、新規の車の購入に対するキャッシュ・バック、無料の航空券、あ
るいは多くの小売業者で利用できる割引クーポンなどである。このプログラムでは、カード利
用者が延滞した場合、特典が失効するときがあり、カード利用者が期限内に請求額の支払を行
う誘因となっている。コ・ブランドカードの分野では、HSBC と General Motors Corp.や
Citibank と American Airlines、あるいは JPMorgan Chase & Co.と Continental Airlines などの
共同事業がある。費用負担及び収入配分の取り決めは各プログラムで異なる。
セキュアードカード
これらのカードは、信用力の低い層に対して提供されている。セキュアードカードの支払の担
保として、通常、利用可能な信用枠の全額又は一部をカバーする金額のキャッシュ又は為替を
カード保有者が提供する必要がある。セキュアード・クレジットカード口座が延滞となり、通
常の手段で回収できない場合、カード発行会社は、カード保有者が支払義務を果たすため預金
を引き出せる。これらのカードは、信用力の高い層向けに発行されるカードと比べ、一般的に、
信用枠、残高が小さく、APR は高く、グロスの貸倒償却は高くなる傾向がある。
クレジットカード ABS の包括格付基準
36
Structured Finance
リテールカード
リテールカード ABS は、ストアカードの発行会社とプライベートレーベル・カード発行会社
の両方を含んでいる。ストアカード発行会社は、独自のクレジットカード・プログラムの管理
を行っている小売業者で、一方プライベートレーベル・カード発行会社は小売業者のためにク
レジットカード・プログラムの運営を行っている会社である。
ほとんどの小売店では、顧客が汎用クレジットカード又は小売店の独自カードのどちらでも利
用できるようにしているが、カード保有者にとっては、リテールカードの利用によりその他の
カードの信用枠を温存することによって、債務負担を区分管理できるメリットがある。たとえ
ば、消費者が新しい冷蔵庫を買うために Sears カードを使い、一定期間に亘って定額の返済を
行い、汎用のクレジットカードの信用枠を使わないといった場合などである。小売業者にとっ
ては、顧客ロイヤルティを高め、貸出による利益増大を図るといったメリットがある。
デュアルカード
いくつかのプライベートレーベル・カード発行会社は、プライベートレーベル・カードと銀行
が発行する汎用カードの両方の特徴を備えたデュアルカードを提供するプログラムを始めてい
る。コ・ブランドカードと同様、デュアルカードも小売業者と共同でブランド化し、マーケテ
ィングされているほか、Visa、MasterCard、American Express や Discover などのクレジット
カードのネットワーク運営機関と提携している。ただし、デュアルカードでは、信用枠の一部
を特定の提携先小売業者専用とし、残りの信用枠には制限を設けない仕組みとしている。顧客
にカードの統合を勧め、デュアルカードを発行する手法により、購入金額の増加や、販売促進、
与信審査及び顧客サービスの統合、さらに顧客ロイヤルティの維持にも役立つとするカード発
行会社もある。さらに、デュアルカードは、顧客の消費行動(たとえば競合先でのショッピン
グなど)に関する情報の入手を容易にし、個別のマーケティング戦略の改善に役立てることが
できる。
クレジットカード ABS の包括格付基準
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Structured Finance
別添 7: 過去の早
事例
米国のクレジットカード証券化案件では、公開されている案件のうち 8 件が過去に早期償還事
由に抵触している。これらの発行体は、Chevy Chase FSB、Conseco Private Label Master
Note Trust、 First Consumers Credit Card Master Note Trust、Next Card Master Note Trust、
Spiegel Master Trust、Southeast Bank, Republic Bank (Delaware)、Advanta Business Card
Master Trust であり、最後の発行体がもっとも最近に起こった事例である。米国以外では、
2003 年に韓国の公開案件で 1 件早期償還が発動された事例がある。
Chevy Chase 案件では、投資家はベース・レート・トリガー事由(3 カ月超過収益を 2%に設
定)を放棄する旨議決し、案件は、超過収益は減尐したものの平常の運営が継続された。証券
は投資家に損失を招くことなく当初予定どおりに償還された。
Conseco Finance Corp.は 2002 年 12 月 19 日に会社更生の申立てを行ったため、信託が早期
償還に入った。2003 年 6 月にはセラーである Mill Creek Bank Inc.が案件のディフィーザンス
を行い、投資家は全額償還を受けた。
First Consumers Credit Card Master Note Trust は、ベース・レート・トリガーに抵触したた
め、2003 年 3 月に早期償還に入った。2003 年 6 月にはポートフォリオのサービシングが、
First National Bank of Omaha に移された。2001 シリーズの A 号ノートは 2007 年に償還され、
63 百万米ドルの B 号ノートについては、13 百万米ドルの損失が発生している。その他のクラ
スは、全額償還されている。
NextCard Master Note Trust 案件は、フィッチが格付を行っていないが、いずれも Southeast
Bank と Republic Bank の案件で早期償還が開始し、投資家には損失なしに当初予定時期より
も早期に償還が完了している。
Heilig-Meyers Master Trust は、ファイナンス契約を裏付けとするもので、典型的なクレジッ
トカード案件とは言えないが、クレジットカード案件と類似のストラクチャーで証券化され、
2000 年 8 月に早期償還に入った。債務者からの支払は郵送ではなく店舗に持参し支払われて
いた部分も多かったため、サービシングの移転及び店舗網の完全な閉鎖により、ポートフォリ
オは大幅に悪化した。フィッチは、早期償還開始の半年後に案件を非投資適格に格下げした。
投資家が返済を受けられないとの見通しを反映して 2002 年 12 月にすべての格付を「D」に格
下げした。回収率は 50%未満となった。
Advanta Business Card Master Trust は、フィッチが格付していないが、超過収益の 3 カ月平
均がマイナスとなったため、2009 年 5 月に早期償還に入っている。2011 年 5 月 31 日時点で、
A 号ノートは全額償還されていた。B 号ノートについては、元本償還を受けているところであ
るが、一部が償却される見込みであり、C 号、D 号ノートについては、すでにそれぞれ元本残
高が償却されている。
Kookmin Credit Card をオリジネーターとする韓国のクレジットカード ABS 案件である Plus
One Ltd.では、90 日超延滞の 3 カ月平均が 4.425%に達し、2003 年 6 月に早期償還トリガー
に抵触した。平均で 50%を超える高い MPR のため、ノートは 2 カ月以内に償還を終えた。
クレジットカード ABS の包括格付基準
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Structured Finance
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び免責事項をご覧ください(www.fitchratings.co.jp :「格付の定義」>「信用格付を理解する:利用と制
約」)。さらに、格付の定義及び利用規約は弊社のウェブサイト www.fitchratings.co.jp に掲載されていま
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実に関する情報に依拠しています。フィッチは、格付方法に則り依拠する事実に関する情報について、合理的な範囲での調査を行い、当該証
券に関して又は当該法域において利用可能な範囲内で独立した情報源による合理的な検証を行います。フィッチにおける事実に関する調査の
方法及びフィッチが利用する第三者による検証の範囲は、様々な要因により異なります。その要因とは、格付対象証券とその発行体の性質、
当該証券が募集・販売される、かつ/又は、発行体が所在する法域における要件及び慣行、関連がある公開情報の入手可能性及び性質、発行
体の経営陣及びその助言者へのアクセス、監査報告書・「合意された手続」に基づく報告書・鑑定評価書・アクチュアリアルレポート・エン
ジニアリングレポート・法律意見書・第三者によるその他の報告書等第三者による既存の検証の利用可能性、当該証券に関して、又は、発行
体が属する法域において十分な能力を有する独立した第三者による検証の利用可能性等です。フィッチの格付利用者は、事実に関する調査の
強化又は第三者検証のいずれによっても、フィッチが格付に関して依拠する情報のすべてが正確かつ完全であることを確保することはできな
いことを、理解すべきです。発行体及びその助言者は、募集書類及びその他の報告書によりフィッチ及び市場に提供する情報の正確さについ
て最終的な責任を有します。フィッチは格付の付与にあたり、財務諸表等に関しては独立監査人、法務・税務に関しては弁護士といった専門
家が任務を果たすことに依拠しなければなりません。さらに、格付は本質的に将来を見据えたものであり、事実として検証できない将来の事
象に関する仮定や予測を含みます。その結果、格付は、現時点の事実を検証するにもかかわらず、格付付与又は据置時に予想されない将来の
事象や状況に影響されることがあります。
本資料に記載された情報は、いかなる表明又は保証もなしに「あるがまま」に提供されるものです。フィッチの格付は証券の信用力に関する
当社の意見です。この意見は、フィッチが継続的に評価・更新している既定の格付基準及び手法に基づいています。従って、格付はフィッチ
の集合的な成果物であり、個人又は個人からなるグループが、単独で格付に対する責任を負うものではありません。特別に言及されない限
り、格付は信用リスク以外の要因によって生じる損失のリスクを含意するものではありません。また、当社はいかなる証券の販売又はその勧
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