解答例

Neko note
解析学 A レポート問題の解答とコメント(10/20 出題分)
土田旭
まずは用語の復習をしよう.
defn
• γ は複素平面 C 上の曲線 (curve) ⇐⇒ γ : [α, β] → C:連続写像.
defn
TE
• γ は複素平面 C 上の道 (path) ⇐⇒ γ : [α, β] → C:区分的 C 1 級写像.
上の状況下で γ(α) = γ(β) のとき,閉曲線 (閉道) という.写像 γ : [α, β] → C が区分的 C 1 級であると
は, 区間 [α, β] 上で連続であり, 区間 [α, β] の有限部分集合 {α =: s0 , s1 · · · , sn := β} を除いてできる部
分区間 (α, s1 ), · · · , (sn−1 , β) 上で C 1 級であるときをいう.
NO
複素平面 C 上の閉曲線 γ に関する a における指数(または回転数)Ind(γ; a) を
∫
1
dζ
Ind(γ; a) :=
2πi γ ζ − a
で定義する. ちょっと計算練習をしよう. n ∈ Z とする.
Why 1.11. γn (t) = eint (t ∈ [0, 2π]) に対して, Ind(γ, 0) = n を示せ.
Proof.
∫
∫ 2π
1
1
1
ineint
dζ =
dt
2πi γ ζ
2πi 0
eint
∫ 2π
1
n
=
in dt =
(2π − 0) = n.
2πi 0
2π
defn
KO
Ind(γ, 0) =
t が 0 から 2π まで動くとき, γn (t) は原点の周りを反時計回りに n 回まわるわけですから, 回転数とい
う名前はイメージ通りですね.
次の補題は, 回転数の重要な性質の一つを示す.
NE
Lem 1.11. γ を C 上の閉曲線とする. C \ γ ∗ の任意の点 a に対して, Ind(γ; a) は整数値をとる.
ここで,
1
Ind(γ; a) =
2πi
defn
である. これを受けて,
g(s) :=
1
2πi
∫
s
α
∫
β
α
γ ′ (t)
dt
γ(t) − a
γ ′ (t)
dt (s ∈ [α, β])
γ(t) − a
とする. g(s) は [α, β] 上定義され, 連続な複素関数である. これを s について微分すると
g ′ (s) =
1 γ ′ (s)
2πi γ(s) − a
1
(s ∈ (α, β))
を得る (γ が微分可能な各区間において). ところで,
)
d ( −2πig(s)
e
(γ(s) − a) = e−2πig(s) (−2πig ′ (s))(γ(s) − a) + e−2πig(s) · γ ′ (s)
ds
= e−2πig(s) (−2πig ′ (s)(γ(s) − a) + γ ′ (s))
=0
(上の g ′ (s) の計算より)
Why 1.12. e−2πig(s) (γ(s) − a) = 定数 となることを示せ.
TE
である.
Proof. h(s) = e−2πig(s) (γ(s)−a) とおく. γ が区分的 C 1 級であるので, ある有限集合 {α = p0 , p1 , · · · , pn =
β} ⊂ [α, β] を除けば γ は C 1 級である. 上の議論から, 各区間 (α, p1 ), (p1 , p2 ), · · · , (pn−1 , β) において
h(s) は定数関数となる;
NO
h|(α,p1 ) ≡ C0 , h|(p1 ,p2 ) ≡ C1 , · · · , h|(pn−1 ,β) ≡ Cn .
h(s) が [α, β] 上で連続であることから, C = C1 = · · · = Cn となり, h(s) は [α, β] 上の定数関数となる;
h|[α,β] ≡ C.
Why 1.12 より,
e−2πig(α) (γ(α) − a) = e−2πig(β) (γ(β) − a)
であって, g(α) = 0 なので
e2πi(−g(α)+g(β)) = e2πig(β) = 1
KO
となり, g(β) = Ind(γ; a) ∈ Z が結論される.
Why 1.13. Ind(γ; a) = 2, Ind(γ; b) = 1 となることを説明せよ.
右の図をみる. 点 a には左向きに 2 回, 点 b には左向きに 1 回, 閉曲線 γ が巻
き付いていることが見て取れる. ホモトピーを作れない人の解答としてはこれ
NE
でよい.
Why 1.14. 二つの閉曲線がホモトピックであるという関係は同値関係であることを示せ.
もっと一般的に, 連続写像がホモトピックであることが同値関係であることを示そう. 二つの連続写像
がホモトピックであるという関係は次のように定義される.
2
定義. X, Y を位相空間とし , f, g : X → Y を連続写像とする.
f と g がホモトピックであるとは, 連続写像 H : X × [0, 1] → Y が存在して
H(x, 0) = f (x), H(x, 1) = g(x)
を満たすときにいう.
以後、I := [0, 1] とする.
TE
Proof. f ∼ g で f は g とホモトピックであることを表す. 示したい事は, 連続写像 f, g, h : X → Y に対
して次の3つの条件が成立することである.
1. f ∼ f ,
2. f ∼ g =⇒ g ∼ f ,
3. f ∼ g, g ∼ h =⇒ f ∼ h.
NO
1: ホモトピー H を H(x, t) := f (x) ∀t ∈ [0, 1] とすればよい.
2: f ∼ g より, ∃H : X × I → Y s.t. H(x, 0) = f (x), H(x, 1) = g(x) である. これを用いて F (x, t) :=
H(x, 1 − t) と定義すれば, g と f をつなぐホモトピーができる.
3: f ∼ g, g ∼ h より, ∃H : X × I → Y, ∃G : X × I → Y s.t. H(x, 0) = f (x), H(x, 1) = g(x),
G(x, 0) = g(x), G(x, 1) = h(x) である. これを用いて,

[
]
1


t ∈ 0,
 H(x, 2t)
[ 2]
F (x, t) =
1


,1
 G(x, 2t − 1) t ∈
2
KO
と定義すれば, F は f と h をつなぐホモトピーになる. 以上より, ホモトピックという関係は, 位相空間
の間の連続写像全体の空間の同値関係となる.
特に, 連続写像として部分位相空間 D ⊂ C 上の連続閉曲線 γ0 , γ1 : [α, β] → D を考えれば, Why 1.14
の形になる. 閉曲線であることを保ちながら変形するという条件
H(α, t) = H(β, t) ∀t ∈ I
を追加しても同値関係であることは崩れない. なぜなら, (S 1 ∼
= R/Z より) 閉曲線は位相空間 S 1 から位相
NE
空間 C への連続写像であると思えるからである.
Ex 1.19. 星形領域 D 上のすべての閉曲線 γ0 , γ1 はホモトピックである.
星形領域 D には, ある点 a が存在して, a と任意の点 x ∈ D を結ぶ直線 [a, x] が D に包含される. こ
の点 a を曲線(定値曲線という)と考えて, a に縮めるホモトピーを作ればよい. で, このホモトピーは
直線ホモトピーでよい;
H : [α, β] × I → D,
H(s, t) = tγ(s) + (1 − t)a.
3
Why 1.15. 任意の s ∈ [α, β], t ∈ I において H(s, t) ∈ D が成り立つことを示せ.
Proof. 星形の定義から, D 上の点 γ(s) と a をつなぐ直線は D に包含される. したがって, どんな s, t に
対しても H(s, t) ∈ D が成り立つ.
つぎの目標は回転数がホモトピー不変量であるという定理である.
TE
Thm 1.21. D ⊂ C を領域, γ0 , γ1 を D 上の閉道とし, γ0 ∼ γ1 とする.
このとき, D に属さない全ての点 a に対して
Ind(γ0 ; a) = Ind(γ1 ; a)
が成り立つ.
この定理を示すために, 次の補題を用意する;
NO
Lem 1.22. D 上の閉道 γ0 , γ1 : [α, β] → D が与えられているとする.
点 a ∈ C が ∀s, u ∈ [α, β] で
|γ1 (s) − γ0 (s)| < |a − γ0 (u)|
を満たしているとき,
· · · (∗)
Ind(γ0 ; a) = Ind(γ1 ; a)
が成り立つ.
これを示すために, 次の疑問を晴らす. というのもそもそも,Ind(γ, a) は a ∈ C \ γ ∗ に対して定義さ
KO
れていたからである.
/ γ1∗ が成立することを示せ.
Why 1.16. (∗) が成立するとき, a ∈
/ γ0∗ かつ a ∈
Proof. a ∈ γ0∗ または a ∈ γ1∗ が成立するとして, 矛盾を導こう.
a ∈ γ0∗ が成立するとすると, ある c0 ∈ [α, β] が存在して, a = γ0 (c0 ) となる. (∗) で u = c とすると,
NE
|γ1 (s) − γ0 (s)| < |γ0 (c0 ) − γ0 (c0 )|
=0
となり, 複素数体上の絶対値 | · | が正であることに矛盾する.
a ∈ γ0∗ が成立するとすると, ある c1 ∈ [α, β] が存在して, a = γ0 (c1 ) となる. s = u = c1 のときも (∗)
が成立して
|γ1 (c1 ) − γ0 (c1 )| < |γ1 (c1 ) − γ0 (c1 )|
となる. ところがこれは両辺が同じ実数であることに矛盾する.
Why 1.16 によって, 次の閉道 γ を定義することが可能である;
γ(s) :=
γ1 (s) − a
.
γ0 (s) − a
4
γ(s) について
γ1′ (s)
γ0′ (s)
γ ′ (s)
=
−
γ(s)
γ1 (s) − a γ0 (s) − a
が成り立つので,
Ind(γ; 0) = Ind(γ1 ; a) − Ind(γ0 ; a)
(∗)
< 1
TE
を得る. 左辺 Ind(γ; 0) が 0 になることを示して, 補題の結論を導こう. 任意の s ∈ [α, β] に対して
γ0 (s) − γ1 (s) |1 − γ(s)| = γ0 (s) − a NO
であるので, 0 ∈
/ D(1; 1), 特に 0 ∈
/ γ ∗ である. D は凸集合で, 原点 0 を除いて 1/z は正則なので,
∫
1
dζ
Ind(γ; 0) =
2πi γ ζ − 0
( ∫
)
dζ
=0
∵
=0
γ ζ
となる.
この Lem 1.22 を用いて, 目標の Thm 1.21 を示そう. 定理の仮定より, 閉道 γ0 と γ1 をつなぐホモト
ピー H : [α, β] × I → D が存在する. H は定義から連続写像なので, H([α, β] × I) は C のコンパクト部
分空間であり, したがって閉集合である. また a ∈
/ D より, 特に a ∈
/ H([α, β] × I) が成り立つ.
KO
Why 1.17. ある ε > 0 が存在して, 任意の (s, t) ∈ [α, β] × I に対して
|a − H(s, t)| > ε
が成り立つことを示せ.
Proof. H([α, β] × I) の補集合 H([α, β] × I)c について, 定義から
a∈
/ H([α, β] × I) ⇐⇒ a ∈ H([α, β] × I)c
である. H([α, β]×I) が閉集合であることから H([α, β]×I)c は開集合であるので, ある正の実数 ε′ > 0 があ
NE
って, a を中心とする開円盤 D(ε; a) は D(ε; a) ⊂ H([α, β]×I)c を満たす. したがって任意の s ∈ [α, β], t ∈ I
に対して |a − H(s, t)| ≥ ε′ となる. 正数 ε を 0 < ε < ε′ となるように取り直せば, H([α, β] × I) の任意
の点 H(s, t) に対して |a − H(s, t)| > ε が成り立つ.
私(土田)の気まぐれで, 別解も載せておく.
Proof. 距離空間 C は T3 空間であるから, a の開近傍 U = D(a, ε) と H([α, β] × I) の開近傍 V が存在し
て U ∩ V = ∅ となる. 特に D(ε; a) ∩ H([α, β] × I) = ∅ であるから, H([α, β] × I) の任意の点 H(s, t) に
対して |a − H(s, t)| > ε が成り立つ.
Thm 1.21 の証明の続きは次回に続く.
5