4. ド イ ツ

4.
ド
イ
ツ
4.ドイツ
第一部
ドイツにおける消費者紛争を扱うADRの現状と課題
寺川 永
関西大学法学部准教授
1.
はじめに
(1) ドイツは、司法制度、とりわけ裁判制度が完備された国の一つである。ドイツでは、
通常の裁判制度であっても、訴訟手続の進行にはさほど時間も費用もかからないといわれ
ている 1。裁判外紛争処理制度(ADR)は、裁判制度に代替する必要性があってはじめて利
用される。それゆえ、一般論として、ドイツでは、英米法圏など、訴訟に多大の費用と時
間がかかる国々に比較すると、ADR を利用するインセンティブはそれほどなく、紛争を解
決するというシステム全体においても、ADR が果たす役割は大きくないといわれている 2。
他方、ドイツといえども、たとえば、訴額に比して訴訟費用がかさむ場合や、裁判所の負
担軽減を図る目的がある場合に、裁判制度を利用する前に、まずは ADR による紛争解決が
推奨され、また、試みられることがある。そうした場面において各々の ADR がどのような
目的で設置され利用されているかについては、「ADR」という用語そのものがきわめて多義
的であることとあいまって 3、後にみるように、慎重に検討される必要があるだろう。
ドイツにおいても多数の ADR が存在しているが、ドイツの場合には、コスト面を理由に
ADR が積極的に利用されるという局面があまり多くはなく、その結果として ADR に関する
規定の発達を遅らせている。たとえば、訴訟費用には、裁判所に収める裁判手数料のほか
に弁護士費用も含まれ、いったん訴訟で敗訴すると、原則として相手方の弁護士費用も含
めた全費用を負担しなければならない(民事訴訟法 91 条)。しかしながら、そのような費
1
マンフレッド・ヴォルフ((訳)森勇)「訴訟前および訴訟中における斡旋と調停」比較法雑誌 38 巻 4
号 14 頁以下(2005 年)では、区裁判所において訴訟に要する期間は、通常、訴え提起から判決まで 4 ヵ
月ないし 6 ヵ月であり、裁判所の手数料も後述の義務的調停制度と比べて高いわけでもなく、訴訟費用を
援助する制度も存在することが指摘されている。また、裁判所および裁判官の総数の違いに起因する利用
の便、さらには、「権利保護保険」といわれる弁護士保険(この点については本文を参照されたい。)な
どによって、訴訟費用の負担も軽減されていることも指摘できよう。
2
この点については、アーレンス教授(オスナブリュック大学)からのご示唆をいただいた。さらに、岡
崎克彦「ドイツにおける裁判外紛争解決及び法律相談制度の実情(1)」判時 1724 号 19 頁(2000 年)では、
ドイツの ADR が訴訟に比べてそれほど利用されていない原因の一つとして、「裁判(訴訟)制度が公平で
比較的迅速かつ廉価なものとしてよく機能しており、あえて裁判外紛争解決制度を利用するインセンティ
ブが乏しいこと」が指摘されている。また、「A ドイツ連邦司法省ヒアリング報告」によれば、裁判費用
扶助制度などによって国民の訴訟負担を軽減する方法が充実しており、司法手続のコストもEU加盟諸国
のなかでも低廉である、という(150 頁参照)。
3
たとえば、山本和彦=山田文『ADR 仲裁法』7 頁(日本評論社、2008 年)によれば、理論的には、裁判
以外の方法で紛争解決が図られる過程全般を ADR ととらえることができることを指摘する。すなわち、第
三者の役割や介入の態様・強制性の有無等に無限の可能性があることを前提とすると、その外延を一義的
に定めるのは容易ではなく、紛争解決過程を社会的事実としてみるのであれば、最も基本的な紛争解決過
程である当事者間の相対交渉もある一方で、相対交渉を経ることなく、一方当事者が第三者に相談するこ
とで紛争が解決される場合も多々ある、という。
125
用負担を援助する制度として「訴訟費用援助(民事訴訟法 114 条以下)」が認められている
4
。また、裁判上および裁判外の費用負担リスクを敗訴者に代わり保険者が負担する「権利
保護保険(民事訴訟法 125 条以下)」という制度がある。これは、①収入のいかんにかかわ
らず、保険料さえ支払えば費用負担リスクを回避できること、②かかった費用を保険金と
して受領するものであるので、後から償還する必要がないこと、③敗訴した場合に相手方
の費用もカバーされること、などの点で、訴訟費用援助との違いがみられる 5。このよう
な制度は、市民が過大な費用負担の心配をすることなく訴訟に持ち込むことを容易にさせ
る一因にもなっているといえるだろう。
以上のような背景には、そもそも紛争解決は、国家が関与する訴訟の場面で行うことが
本則であって、その建前によって司法制度が運用されており、そこからはみ出す裁判所外
の紛争処理制度には補完的な位置づけしか与えられておらず、この意味で、国家の関心が
及んでこなかったからといえるかもしれない 6。
実際、ドイツの ADR に対しては、裁判制度に比べて積極的に活用されていないとか 7、
ADR の内容が不透明であり、ADR を扱う紛争処理機関(ADR 機関)は市民の信頼を勝ち得て
いないとさえいわれている 8。その原因として、ADR における手続の概要や特色が十分に
周知されていないことや、訴訟を好む国民性のほかに、手続きの中立性という点で ADR が
国民に信頼されていないことなどが指摘されている 9。たとえば、自動車の修理、建築、
靴、医療などの各分野において、ADR は存在する。手続にかかる費用は、通常無料であり、
調停や仲裁にあたる者は、それぞれの領域出身の経験豊富な専門家である。それにもかか
わらず、一部を除いてこうした ADR は人気がなく、さほど利用されていないようである。
彼らが被告と同じ領域の人間であることも多く、客観的な中立性に疑念が抱かれているこ
とが、その原因として考えられる
10
。
さらに、通常の民事訴訟手続に比して手続保障が十分ではない点を、ドイツで ADR が隆
盛をみないことの最大の原因である、と指摘するものがある
11
。たとえば、ADR の場合に
は、調停や仲裁にあたる者の中立性や独立性という観点から、訴訟関係人に対して「法的
審問請求権」12が十分に保障されていないと主張される
13
。そして、ADR の結果に裁判所を
4
岡崎克彦「ドイツにおける弁護士とその業務の実情について(四)」判時 1720 号 25 頁以下(2000 年)。
このほかにも、財団法人法律扶助協会『英国・ドイツの法律扶助』166 頁以下(1992 年)も参照した。
5
岡崎・前掲注 4 26 頁。これによれば、権利保護保険の起源は、1917 年のル・マン自動車レースの事故
の際の被害者同盟にさかのぼり、ドイツでの最初の権利保護保険は 1928 年に登場したといわれている。
6
この点につき、吉田元子『裁判所等による和解条項の裁定』58 頁(成文堂、2003 年)および 90 頁脚注
(109)を参照した。
7
石川明『調停法学のすすめ』8 頁(信山社出版、1999 年)など。
三上威彦「比較法的視点からみたわが国 ADR の特質」ジュリ 1207 号 65 頁以下(2001 年)。この点につ
いては、既にハンス・プリュッティング((訳)三上威彦)
「ドイツの側から見た裁判外の紛争解決(ADR)」
石川明編著『比較裁判外紛争解決制度』19 頁、特に 24 頁以下(慶應義塾大学出版会、1997 年)で同様の
指摘がなされている。
9
岡崎・前掲注 2 19 頁。
10
ペーター・ゴットバルト((訳)出口雅久=本間学)
「ドイツにおける民事司法改革への努力」立命 277
号 303 頁(2001 年)。
11
三上・前掲注 8 71 頁。
12
「法的審問請求権」とは、ドイツ連邦共和国基本法 103 条 1 項(
「何人も、裁判所において、法的審問
8
126
拘束する効力を付与する場合に、そのための手続保障をどこまで要求すべきなのかを考え
るべきである、という
14
。
もっとも、ドイツではこうした考え方に対するアンチテーゼとして、次のような ADR へ
の追い風ともいうべき状況がうまれていた。まず指摘できるのは、司法の負担軽減の要請
に基づく立法的な対応である。すなわち、1990 年代以降、民事訴訟第一審の新受事件が急
増する一方、各州の歳出削減策の影響により、司法予算の増加を見込めない状況になって
きた。このため、全体として裁判所の負担を軽減するとともに経費をも節減する必要に迫
られ、「弁護士和解(民事訴訟法 796a 条から 796c 条までの規定)」に関する規定が新設さ
れた
15
。それは、依頼者の名前で代理権に基づいて弁護士が締結した裁判外の和解につい
て裁判所または公証人による執行宣言を通じて執行力を付与するものである
2002 年の民事訴訟法改正法
可能となる
16
。
17
による同法 278 条の改正もまた、この文脈において理解が
18
。これによれば、提訴前に裁判所外の和解所において合意の試みがなされた
場合、または和解弁論が成果をあげる見込みがないことが明白な場合を除いて、訴訟係属
後は、最初に和解弁論が行われ、それによる紛争解決が実現しなかったときになってはじ
を請求する権利を有する。」)に基づくものであり、裁判所の裁判は、訴訟関係人が意見を述べる機会が与
えられた事実と証拠に基づいてのみ、行われなければならない、ということを要求するものである。この
点につき、ボンド・ピエロート=ベルンハルト・シュリンク((訳)永田秀樹ほか)『現代ドイツ基本権』
402 頁以下(法律文化社、2001 年)、園田賢治「民事鑑定における当事者権」九法 84 号 51 頁、特に 72 頁
以下(2002 年)およびコンラート・ヘッセ((訳)初宿正典=赤坂幸一)
『ドイツ憲法の基本的特質』353
頁(成文堂、2006 年)を参照した。
13
三上・前掲注 8 71 頁。もっとも、三上威彦「ドイツの裁判外紛争解決制度(ADR)について」石川明
編著『比較裁判外紛争解決制度』54 頁(慶應義塾大学出版会、1997 年)では、ADR が裁判外の手続であ
り、それが、delegalization、deformalization、deprofessionalization という長所をもつものである
とするならば、ある意味で必然的に、手続保障が訴訟よりも緩やかなものにならざるを得ないとしつつも、
現在のドイツにある ADR のすべてが、そのような制約の範囲内で、できるだけ手続保障の確保を実現しよ
うと努力している、という。
14
三上・前掲注 8 71 頁。
15
吉田・前掲書注 6 58 頁以下。
16
弁護士和解は、1990 年 12 月 17 日付の司法簡素化法(Rechtspflege-Vereinfachungsgesetz vom
17.12.1990)により民事訴訟法に導入されたものであるが、当初は仲裁手続に関する第 10 編に規定されて
いた(旧民事訴訟法 1044b 条)が、その後、仲裁手続法の新規定に関する法律(Gesetz zur Neuregelung des
Schiedsverfahrensrechts vom 22.12.1997)により、強制執行に関する第 8 編に民事訴訟法 796a 条以下の
規定が新設されることになった。なお、弁護士和解そのものは実体法上の和解であり(したがって債務名
義ではない)、民法 779 条に基づく和解契約の締結によって成立する。これらの点につき、吉田・前掲書
注 6 61 頁、62 頁および 64 頁を参照した。
17
Reformgesetz zur Zivilprozessordnung vom 27.7.2002.
18
民事訴訟法 278 条 1 項は、改正前民事訴訟法 279 条 1 項 1 文を踏襲した規定であり、裁判所に対して手
続のあらゆる段階で和解的解決に配慮することを求めている。裁判所に対して、同条 3 項は、和解弁論な
らびに和解の試みに際して、当事者本人の出頭を命じるよう求め、同条 4 項は、和解弁論に当事者が欠席
した場合、手続の休止(民事訴訟法 251 条)を命じるよう求めている。同条 5 項は、裁判所に、両当事者
に和解弁論への出頭を指示したり、裁判外の紛争解決を提案したりすることを認め、両当事者がこれに同
意した場合には、手続の休止を命じることも認めている。同条 6 項は、両当事者が、裁判所に書面で和解
案を提出したり、裁判所から書面で提示された和解案を書面で受諾したりすることで、和解を締結し、裁
判所が、当該和解の成立およびその内容を決定によって確認することが認められている。以上の点につき、
吉田元子「民事訴訟の和解的終了方法に関する一考察」上法 48 巻 3・4 号 144 頁以下(2005 年)を参照
した。
127
めて口頭弁論が実施されることになった(民事訴訟法 278 条 2 項)19。
他方で、以上のような立法的工夫とともに、裁判所の経験に基づく実務的対応もみられ
る。ドイツの各州が裁判所内で訴訟に代わる紛争解決方法として、裁判所付設型の調停が
試験的に導入されたこと
20
がこの例となる。いわゆる「裁判所内調停」と呼ばれるもので
あり、裁判所に係属した民事事件について当該訴訟の担当裁判官ではない(事前に特別な
研修を受けた)裁判官が調停官となり、司会進行役に徹して、事件についての見解を示し
たり合意内容を提案したりすることなく、実施するというものである
21
。これまでに導入
した州は、バーデン=ヴュルテンベルク、バイエルン、ベルリン、ヘッセン、メクレンブ
ルク=フォアポンメルン、ノルトライン=ヴェストファーレン、ニーダーザクセン等であ
る
22
。
本稿では、以上のような現状をふまえたうえで、消費者紛争を扱うものに対象を絞って
ドイツの ADR について論じることにしたい。
(2) わが国では、ADR を、その運営主体(設営機関)を基準にして分類することがある
23
。
最初の分類基準は、裁判所が運営主体か、そうでないかによる分類である。裁判所内の制
度かそれとも裁判所外の制度かによる区別がこれにあたる。①裁判所が主体となる ADR(こ
れを「司法型 ADR」と呼ぶ。)には、民事調停(通常の調停事件のほかに特定調停も含まれ
る)や家事調停が含まれる。後者の裁判所外の制度は、さらなる分類基準として、公式の
機関が運営主体となるものと、そうでないものに区別される。②公式の機関による ADR と
しては、行政委員会や行政機関のように行政が主宰するものであり、相談・あっせん機関
として、国民生活センターや自治体の消費生活センターなどがある。これらは、「行政型
ADR」として分類される。また、仲裁・調停機関として、公害等調整委員会、建設工事紛争
審査会などがある。他方、③非公式の機関による ADR は、
「民間型 ADR」として位置づけら
19
吉田元子「ドイツにおける裁判所内調停の試み」南山 29 巻 2 号 171 頁以下(2006 年)。もっとも、餘
多分亜紀「ドイツ民事裁判事情」判タ 1149 号 65 頁(2004 年)によれば、義務的和解弁論手続の導入に
ついては、裁判所、弁護士双方とも、その効果に批判的である、という。とくに弁護士の立場からは、既
に原告側代理人として相手方と交渉している場合が多いにもかかわらず、訴え提起後に当事者本人が義務
的和解弁論手続のために裁判所へ出頭させられるのは全くの無駄であり、むしろ余計な事件や費用等の負
担を生み出すとの批判がある、という(68 頁)。
20
吉田・前掲注 16 172 頁。吉田論文は、2002 年から 2005 年までに行われたニーダーザクセン州におけ
る裁判所内調停のモデルプロジェクトについて、その運営状況と関係者による評価について論じている。
21
塚田奈保「ドイツにおける裁判所内調停の試み」判タ 1242 号 89 頁(2007 年)。塚田論文は、シュレー
スヴィッヒ=ホルシュタイン州のリューベック地裁における裁判所内調停について、その手続や傍聴によ
る実体験をふまえたコメントなど示唆に富んでいる。
22
各州の概要については、連邦司法省のサイトで知ることができる。
http://www.bmj.bund.de/enid/3cc9924004fdd8c7c1fdd3708f358bac,6442d2305f7472636964092d09333037
36/Mediation_-_au_ergerichtliche_Streitbeilegung/Gerichtsnahe_Mediation_in_den_Bundeslaendern
_p4.html。
23
以下の分類について、和田仁孝編『ADR 理論と実践』14 頁以下(有斐閣、2007 年)を参照した。設営
機関による分類のほかにも、①結果産出の手続構造による分類(解決案の具体的内容に対する合意を調達
しようとする「調整型 ADR」か、あらかじめ第三者の審理・判断にしたがうという一般的合意の下に手続
を開始させる「裁断型 ADR」か)、②解決結果の効力による分類(解決結果に執行力を持つか否か)およ
び③手続目的による分類(ADR 手続自体が何を目的としているか)が指摘されている(14 頁以下)。
128
れている
24
。民間型 ADR には、交通事故紛争処理センターのような財団法人もあれば、製
品分野ごとのPLセンター、日弁連や各弁護士会による仲裁センターなどがある。
(3) 以上を要約してみると、一般的には、運営主体を基準として、ADR を次の三つのタイ
プに分類することができる。すなわち、①調停や仲裁など、裁判所付設型の ADR を「司法
型 ADR」、②行政機関(ないしは、これに準ずる機関)主導型の ADR を「行政型 ADR」、③民
間(業界)団体主導型の ADR を「民間型 ADR」として分類することができる。しかしなが
ら、ドイツの ADR について、このような分類に基づいて分析を加えたとしても、その成立
当初の時代背景や根拠規定等を総合的に判断すれば、必ずしも正確にかみ合わないものが
存在するように思われる。
またドイツでは、民事訴訟法が連邦法として全国共通のものではあるが、司法が州の事
項であるうえに、全国的に均一化されたものとして司法サービスが運営されるべきである
との要請は、実際にはわが国においてみられるほどには高くない。そして、地域的な差異
や各裁判所による実務の運営のあり方の相違が比較的大きく
25
、また、それが許容される
という現実も存在している。一つの例を挙げれば、ドイツでは、消費者団体が運営主体と
なれば「民間型 ADR」となるが、そうした運営には公的な資金援助を受けており、その意
味では「純粋な」民間型 ADR とはいえない面もあるからである
26
。
(4) 以下では、こうした運営主体による分類の意義を認めつつも、細部においてそれに必
ずしもこだわることなく、ドイツにおける消費者紛争を扱う ADR の全体像を素描すること
にしたい。そのため、とくに次に掲げる項目に焦点をあてて論じることにしたい。
第一に、ドイツにおける消費者紛争を扱う ADR 機関の概要を示すことにする(第一章)。
低調との印象を否定できないドイツでさえ、特に専門性が要求される分野について、いく
つかの ADR で成功しているものがある。
第二に、1999 年の民事訴訟法施行法(以下、
「民訴法施行法」とする。)の改正により生
まれた義務的調停制度の概要と各州の対応について紹介したい(第二章)。
第三に、比較的最近になって発足した「保険オンブズマン」について述べる(第三章)。
すでにドイツでは同様の機能を有する ADR として「銀行オンブズマン」の経験があるが、
そこで生じた問題点をふまえて、「保険オンブズマン」が新たに導入されることになった。
これは近時のドイツでの ADR の一つの重要な試みであり、本稿においても触れておく意義
がある。
最後に、ごく簡単にではあるが、ドイツにおける ADR に関する最新の情報を提供して、
24
和田・前掲注 23 15 頁以下。
塚田・前掲注 21 88 頁。ほぼ同様の機能を有するであろうと思われる機関であっても、州によって名
称が異なる。たとえば「調停所」を意味する名称として「Schlichtungsstelle」「Gütestelle」
「Einigungsstelle」「Vermittelungsstelle」など、多様である。
26
ドイツ消費者センター総連盟の年次報告書(2007 年/2008 年)
(http://www.vzbv.de/downloads/Jahresbericht_vzbv_2007_08.pdf)によれば、2007 年には連邦食料食
糧・農業・消費者保護省から 870 万ユーロの資金援助を受けている。
25
129
本稿の結びとしたい。
なお、各団体へのヒアリングについては、角田美穂子横浜国立大学准教授(ドイツ連邦
司法省、交通紛争処理解決あっせん所)、三丁目亜子ドイツ国弁護士(ノルトライン・ヴェ
ストファーレン州消費者センター、保険オンブズマン)による有益なレポートがある。詳
細についてはこちらをぜひ参照されたい。
さらに、本稿において示される具体的な ADR に関する叙述の内容は、これらを前提とし
たものであることを付言しておく。なお、以下では、上記のレポートについて次のような
略記を用いて引用する。
・ ドイツ連邦司法省(以下、「角田 A」とする。)
・ ノルトライン・ヴェストファーレン州消費者センター(以下、「三丁目 B」とする。)
・ 保険オンブズマン(以下、「三丁目 C」とする。)
・ 交通紛争処理解決あっせん所(以下、「角田 D」とする。)
2.
消費者紛争 ADR 機関の概要
消費者紛争を扱う ADR 機関は、冒頭にも述べたように、実際にはあまり利用されていな
いという問題点があるとはいえ、多様な機関が多数存在していることを指摘することがで
きる
27
。われわれの調査によれば、現在、ドイツには合計 113 の ADR 機関が存在する(角
田 A)。
2.1
仲介人/仲介所
(1) 19 世紀末のプロイセンの制度
28
に端を発する「仲介人(Schiedsperson)」および「仲
介所(Schiedsamt)」29は、バーデン=ヴュルテンベルク、バイエルン、ブレーメン、ハン
27
ドイツの ADR を網羅的に紹介するものとして、岡崎・前掲注 2、同「ドイツにおける裁判外紛争解決及
び法律相談制度の実情(2)(3)・完」判時 1726 号 11 頁、1727 号 23 頁(2000 年)、三上・前掲注 8 および
同・前掲注 13 の各論文が詳細である。また、消費者紛争を扱う ADR を網羅的に紹介するものとして、や
や古いが Rainer Miletzki, Formen der Konfliktregelung im Verbraucherrecht, 1982.; Hans Prütting,
Schlichten statt Richten?, JZ 1985, 261. がある。なお、ヨーロッパ消費者センター・ドイツ
(http://www.eu-verbraucher.de/de/so-machen-sie-sie-geltend/kooperation-mit-weiteren/)では、
「銀行」「(オンラインショッピングを含む)小売業」「自由業」「手工業」「自動車業」「賃貸借事件」「旅
行」「保険」などの項目に分類し、それぞれの ADR 機関へのアクセスが示されている。ヨーロッパ消費者
センター・ドイツは、1998 年 7 月 9 日以降、キールに設置され、シュレースヴィッヒ=ホルシュタイン州
消費者センターの施設にある。同センターに加え、ヨーロッパ委員会からも資金的な援助を受けている。
国内外の消費者のために、国境を越える分野に関する紛争における消費者保護を目的として活動している。
28
Hans Prütting (Hrsg.), Außergerichtliche Streitschlichtung, Handbuch für Praxis, 2003, S. 95.
当時は、現在の商工会議所の前身にあたるところに設置されたようである。この点につき、Hans-Jürgen
Ahrens / Wilhelm L. Pastor, Der Wettbewerbsprozeß, 6. Aufl., Kap.13, Rn. 1.(第 6 版は未公刊で
あるが、アーレンス教授のご厚意により、関連箇所の原稿を拝見させていただいた。この場を借りてお礼
申し上げたい。)
29
訳語について「仲裁局」とされることもあるが、いわゆる「仲裁」(当事者の合意によって、第三者に
紛争解決のために判断を委ねる制度(民事訴訟法 1025 条以下))が行われる「仲裁裁判所
(Schiedsgericht)」とは区別する意味で、本稿では「仲介所」の訳語をあてている。なお、ブランデンブ
ルク州やザクセン=アンハルト州は「Schiedsstelle」と称されている。Hans Prütting (Hrsg.), a.a.O.,
130
ブルクの各州を除く 12 の州に存在する
30
。
(2) 仲介人は、少なくとも 30 歳以上の、当該仲介所の管轄区域に居住する者でなければな
らず、かつ、その地域において、世間一般による名声や信頼を得た者でなければならない。
法律に関する特別な教育を受けている必要はない
31
。公的な役職に就く資格や、選挙権が
あること、財産に関する処分権が制限されていないことなどが求められている
32
。
仲介人は、争いを調停するにあたって、争いの原因を明らかにすることよりも平和的な
解決に努めなければならない。また、仲介人は、重要性の乏しい案件も扱うことで生じる
裁判所の負担を軽減するという、濾過フィルターとしての役割も果たしている
33
。
(3) 仲介所の役割は、それぞれの州法によって規定されている。各州によって差異がある
ものの、ここではニーダーザクセン州の場合を例にして取り上げる
34
。まず、各市町村が
一つまたは複数の仲介所を設けなければならない(市町村の仲介所に関するニーダーザク
セン州の法律 1 条)。また、小規模の市町村が、他の市町村と共同の仲介所を設けることが
できる(2 条)。仲介人は、州法上、「その人格および能力が職務に適するものでなければ
ならない」
(3 条)と規定されているにすぎないが、法曹資格を有していないものの、人生
経験豊富なその街の有識者の中から、市町村議会によって選任される(4 条)ことがある。
そして、当該地域にある区裁判所の所長の認可を受けて(5 条)職務に就くことになる。
仲介所の運営費は市町村が負担することになる(12 条)35。
(4) 手続は、申立人の書面または口頭による申立てによって開始される(20 条、21 条)。
審理は口頭で行われる。合意が成立すると、調書に内容が記載され、仲介人とともに当事
者が署名する。調書は債務名義となり、強制執行の対象となる(36 条)。申立人は、申立
てに際して 11 ユーロの費用を納めなければならず、調停が成立した場合には、さらに 10
ユーロの費用を収めなければならない。もっとも、調停の中で費用負担について定めるの
で、最終的に申立人がすべて負担することにはならないようである。また、費用負担者の
事情や、事案の規模や困難さを考慮して、費用を最大 38 ユーロまで増額することができる
(47 条)36。
S. 95.
30
社団法人連邦ドイツ仲介人 (Bund Deutscher Schiedsmänner und Schiedsfrauen e. V. = BDS)
(http://www.schiedsamt.de/)
31
Hans Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 13.
32
Carolin Jenkel, Der Streitschlichtungsversuch als Zulässigkeitsvoraussetzung in Zivilsachenm,
Diss. Berlin., 2002, S. 81.
33
Hans Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 13.
34
岡崎・前掲注 2 26 頁。
35
岡崎・前掲注 2 26 頁。
36
岡崎・前掲注 2 26 頁。
131
(5) 仲介人は、通例、刑法上の私訴
37
について訴訟前の和解勧試(刑事調停)が行われる
際などに活動し、民事調停についてはその範囲が制限され、その存在も一般には知られて
いない模様である
38
。もっとも、その刑事調停でさえ、社会関係の変化や、名誉毀損や軽
度の傷害の場合には慰謝料を請求する可能性があるので、法上の手続よりも民事法上の手
続がとられていることなどを原因として、申立件数は減っているようである
39
。法律的に
さほど複雑でない案件であれば、裁判所に訴訟提起をすることなく紛争を解決するという
メリットがあるものの、申立件数の減少を理由に、その役割は付随的なものとされている
ようである
2.2
40
。
公共法律情報および和解所
(1) 仲介所のない地域、たとえば、ハンザ都市ハンブルクにある「公共法律情報および和
解所(Öffentliche Rechtsauskunft- und Vergleichsstelle = ÖRA)」は、仲介所とほぼ同
等の役割を果たしている。単なる法律相談だけではなく、軽微な刑事事件や民事事件につ
いて調停的な解決が図られている
41
。ハンブルクにおける公共法律相談の歴史は古く、
1922 年、当時の民生局に公共法律相談所が設置されたときに遡る。その二年後に、(現行
の)民事訴訟法 794 条 1 項 1 号の「調停所(Gütestelle)」に指定された。これにより、公
共法律情報および和解所で締結された和解に基づいて強制執行が可能になっている
お、1946 年には、刑事訴訟法 380 条
42
。な
43
の「和解所(Vergleichsstelle)」にも指定された。
同様に、ハンザ都市リューベックにも「公共法律情報および和解所」がある
44
。1905 年
に設立された後、1933 年にいったん活動が停止されたが、1947 年 4 月 1 日に再開された。
リューベックに定住する弁護士が、資力に乏しく、自力では弁護士を雇うことができない
市民に対する助言を名誉職として行っている。2006 年には 2622 件の問い合わせがあった
45
。
37
「私訴」とは、住居侵入・名誉毀損・傷害・器物損壊など特定の犯罪の場合、被害者または告訴権者は、
検察官にあらかじめ訴えることなしに、その事件について自ら区裁判所に訴えを起こし、相手方の処罰を
求めることができることを意味する(刑事訴訟法 374 条以下)。この点につき、田沢五郎『独=日=英ビ
ジネス経済法制辞典』717 頁 (Privatklage)(郁文堂、1999 年)を参照した。
38
Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 13.
39
Carolin Jenkel, a.a.O., S. 81 f. 岡崎・前掲注 2 26 頁によれば、ニーダーザクセン州について、
1980 年における申立件数が、民事調停が 181 件、刑事調停が 2497 件であるのに対して、1997 年における
それは、民事調停が 588 件、刑事調停が 831 件である。また、ニーダーザクセン州内の仲介人の総数が
680 人(1997 年)であることから、各仲介人の年間平均処理件数が 1 件以下にとどまっており、少なくと
も民事調停は必ずしも十分に利用されているとはいえない、とされている。そして、その原因として、①
国民の間で仲介所の存在が知られていないこと、②法的な素養のない者が仲介人になっているため、法的
な解決ができないのを申立人が恐れること、③裁判所が比較的迅速かつ低廉に利用できるので、仲介所を
利用するインセンティブがないことなどが挙げられている。
40
Carolin Jenkel, a.a.O., S. 82.
41
三上・前掲注 8 68 頁。
42
Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 13 f.
43
刑事訴訟法 380 条は、親告罪における示談ないし調停の前置主義に関する規定である。
44
Carolin Jenkel, a.a.O., S. 83. Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 14. によれば、ベルリンにもあるよ
うである。
45
http://www.luebeck.de/aktuelles/presse/pressedienstarchiv/view/2007/3/070205L/。この件数には、
リューベックに住む者だけでなく、リューベック近隣の自治体の者も含まれる。
132
(2) 公共法律相談を受けることのできる人は、経済的事情から弁護士の相談について必要
な手段を調達することができない低収入の市民である。この要件の審査は、依頼者の自己
申告にまかされていて、疑いが生じた場合にのみ、依頼者の経済的事情について疎明資料
の提出が要求される。ただし、相談事項が社会法上の問題(たとえば、各種保険、戦傷扶
助、雇傭促進法、社会保障法上の問題に関連する場合)には、収入の制限はなく、誰でも
法律相談を受けることができるものとされている
46
。民事法上の調停に必要な費用は、申
立費用が 20 ユーロ(手続に関する助言を含む)、手続費用が、たとえば、調停の対象とな
る物の価値が 500 ユーロまでの場合には、5 ユーロである(公共法律情報および和解所の
手数料規則 3 条 2 項、同 3 項)47。
(3) 公共法律情報および和解所には、主として以下の業務がある
48
。
①「法的助言(Rechtsberatung)」。あらゆる法領域について経験豊かな専門家によって、
法的助言が行われる。助言を受ける者は、ハンブルクで生活または働いている者で、
収入や財産が少ない者に限定されている。すでに弁護士による助言を受けている場合、
法的保護が保障されている場合、あるいは、同業組合または利益団体を通じて法的助
言を受けることができる場合には、助言を受けることはできない。
②「調停(Schlichtung)」。ハンブルク内外にいるすべての自然人およびハンブルク内外
にあるすべての法人のために、民事法上の問題について調停が行われる。債務を負う
者がハンブルクで生活している場合に限り、刑事法上の諸問題についても、調停(和
解勧試)が行われる。
③「メディエーション(Mediation)」。親族法や相続法上の問題や、労働法および経済法
上の問題について、メディエーションが行われる
46
49
。
木川統一郎=吉野正三郎「法律相談と法律扶助」判タ 471 号 45 頁(1982 年)。Monika Hartges,
Außergerichtliche Konfliktlösung in Deutschland --Modell ÖRA--, Diss.Bremen, 2003, S.58 ff.も
参照した。
47
Gebührenordnung für die Öffentliche Rechtsauskunft- und Vergleichsstelle vom 1. Dezember 1998
(HmbGVBl. 1998, S. 254).
48
公共法律情報および和解所
(http://fhh.hamburg.de/stadt/Aktuell/behoerden/soziales-familie/oera/start.html)
(2008 年 5 月
25 日取得)。Hartges, a.a.O., S. 63 ff. では、公共法律情報および和解所の業務内容を、①労働法に
おける法的助言、②賃貸借法における調停、③商法における調停、④家族法におけるメディエーション、
⑤刑法における和解勧試に分けて、解説されている。
49
吉田・前掲書注 6 93 頁脚注(134)によれば、「Mediation」も「Schlichtung」も、日本語では「調停」
と訳すことができるが、両者は完全に同義というわけではない。すなわち、
「Mediation」とは、中立な第
三者が紛争に介入するもので、メディエーター(Mediator)は当事者の紛争解決の試みに際して助力をする
が、固有の判断権限を有してはいない、と理解されている(また、英語の「mediation」は、ドイツ語で
表現するのであれば、むしろ「仲介」を意味する「Vermittelun」に近いという。)。「Schlichtung」は、
当事者が第三者の判断に従う手続と理解されており、
「Mediation」のほかに、仲裁もこれに含まれる。し
かしながら、用語の利用基準は必ずしも明確ではなく、両者の間に境界線を明確に引くことは、現在では
できなくなってきているようである。
公共法律情報および和解所では、家族法や労働法に関する案件については、Mediation というように、
事案ごとに分けているかのような印象も受けるが、メディエーターが固有の判断権限を有していない点で、
133
2.3
不正競争をめぐる紛争を扱う「調停所」
(1) 消費者紛争という制約をしないのであれば、発明品に関する紛争(「従業員」対「使用
者」)に関する ADR 機関(仲裁所。従業員の発明に関する法律 28 条以下)などが存在する
が
50
、なかでも消費者紛争 ADR として注目に値するのは、不正競争をめぐる紛争を扱う「調
停所(Einigungsstelle)」51である
52
。
調停所は、民事訴訟法 1025 条以下の「仲裁裁判所」とは異なる
53
。後者は仲裁契約に
基づいて活動するのに対して、前者は一方の当事者の申立てに基づいて活動する。調停所
に裁定権限はなく、そのような行為も認められていない
54
。
民法 204 条 1 項 4 号および 12 号、民事訴訟法 91 条 3 項ならびに同 794 条 1 項 1 号など
の「調停所(Gütestelle)」は、州の司法行政機関によって設置されているのに対して、不
正競争を扱う調停所は、州政府によって商工業会議所に設立されている。もっとも、機能
的には、両者は類似していると考えられている。また、後述する義務的調停制度の「調停
所」(民訴法施行法 15a 条)とも区別されている
55
。
(2) 調停所の設置等に関する事項については、現在、不正競争防止法 15 条に規定されてい
る
56
。州政府は、商工会議所に、不正競争防止法に基づいて請求がなされる民事紛争を解
決するための調停所を設置する(1 項)。このような民事紛争においては、相手方が同意す
るときには、調停所に申立てをすることができる(3 項 1 文)が、相手方の同意がない場
合には、調停所に申し立てることはできない。しかしながら、問題となる競争行為が消費
者に関わるものである場合に限り、紛争事件について相手方と話し合うために、各々の当
事者は、相手方の同意を要することなく、調停所に申立てをすることができる(3 項 2 文)。
調停所での手続に関する手数料は徴収されない。不正競争防止法 15 条 11 項には、調停所
に対して手数料を徴収する権限は認められていない。また、旅費や弁護士費用といった当
事者が立て替えた金銭も、調停所が判断する訴訟費用には含まれない。したがって、不正
競争防止法 15 条 7 項により和解の中で合意に達してない場合には、それぞれの当事者自身
が負担しなければならない
57
。
やはり上記のような基準に従って、分類されているものと思われる。
50
この点につき、三上・前掲注 8 67 頁および同・前掲注 13 37 頁以下およびそこに掲げるホルスト・
ブリューヒャー=ペーター・ヘッケル((訳)林陽子)「ドイツにおける裁判外での紛争解決手段」自正
43 巻 2 号(1992 年)を参照した。
51
文献によっては「合意所」と訳されるケースが多いが(たとえば、岡崎・前掲注 2 21 頁(もっとも、
同 22 頁では「和解所」)、ここではひとまず「調停所」との訳語をあてておくことにする。
52
この点に関する記述については、Andreas Ottofülling, Außergerichtliches Konfliktmanagement nach
§15 UWG, WRP 2006, 410 ff.、Ahrens / Pastor, a.a.O., Kap.13. および Wolfgang Hefermehl / Helmut
Köhler / Joachim Bornkamm, Wettbewerbsrecht, 24. Aufl., 2006, S. 1200 ff. を参照した。
53
Ahrens / Pastor, a.a.O., Kap.13, Rn. 5.
54
Ottofülling, a.a.O., 411.
55
Ottofülling, a.a.O., 410 f.
56
2004 年の法改正以前は不正競争防止法 27a 条に規定されていた。
57
Ottofülling, a.a.O., 424.
134
(3) 調停所は、ドイツ裁判官法に基づいて裁判官職の資格を有する主任一名と、陪席する
委員により構成される(不正競争防止法 15 条 2 項 1 文)。不正競争防止法 8 条 3 項 3 号に
より、差止請求権が与えられているドイツ消費者総連盟などの適格性を有する組織による
申立ての場合には、同数の事業者と消費者が陪席する委員となり、そうでなければ、少な
くとも二名の専門知識のある事業者が、陪席する委員となる(2 項 2 文)。主任は、競争法
の分野に精通する者でなければならない(2 項 3 文)。とくに、不正競争に関する紛争が消
費者に関わるものである場合、事前に調停所の申立てがないままに訴訟が提起されること
になったときには、裁判所は当事者の申立てによって新たな期日を定め、その期日までに、
友好的な和解を成立させるよう、調停所に申し立てるように当事者に命ずることができる
(10 項 1 文)。すでに調停所に手続きが係属している場合には、調停所の申立後に、申立
ての相手方が請求権不存在の確認を求める訴訟を提起することは、認められていない(10
項 4 文)。
(4) 調停所の職務は、形式的には、当事者間の平和的解決に努めることにある(不正競争
防止法 15 条 6 項 1 文)にあるが、実質的には、競争に関する行為を評価することにある
58
。
調停所は、両当事者に対して、書面によって、理由を付した調停案を提示することができ
る(6 項 2 文)が、調停所は、事実関係を評価する地位にあるにすぎないのであり、上述
のように、裁定までの判断は求められていない。
調停所で成立した和解について、強制執行を行うことができる(7 項 2 文)。調停が申し
立てられた場合、時効は停止する(9 項 1 文)
。このような効力が生じるのは、差止請求権
者が調停所に申し立てる場合にしかすぎない。すなわち、差止めを履行する義務を負う者
が調停所に申し立てる場合、差止請求権者の同意がなければ、時効中断の効力は生じない
59
。
(5) わが国では、調停所の利用頻度は著しく低いとの評価が、これまで一般的であった
60
。
61
これに対し、ドイツでは、調停所の新受件数に関する「不正競争防止センター」 による
統計によれば、近時、一定の成果をおさめているといえる。たとえば、1996 年から 2005
58
Ahrens / Pastor, a.a.O., Kap.13, Rn. 6.
Ahrens / Pastor, a.a.O., Kap.13, Rn. 15., Hefermehl / Köhler / Bornkamm, a.a.O., S. 1209, Rn.
34.
60
たとえば、三上・前掲注 8 67 頁によれば、1974 年から 1983 年までの 10 年間に、わずか 34 件の利用
しかなかったことが指摘されている。
61
不正競争防止センター(Wettbewerbszentrale)は、不正競争防止法 8 条 3 項 2 号および競争制限禁止法
33 条 2 項に基づいて、不正競争に対する権利を実現するために、国内外で活動する自主規制団体(社団
法人)である。事務所は、国内に七ヵ所(バートホンブルク(フランクフルト)、ベルリン、ドルトムン
ト、エッセン、ハンブルク、ミュンヘン、シュトゥットガルト)存在する。法的調査、法的助言、情報提
供および法的実現を通じて、公正な取引および公正な経済競争の促進に寄与することを任務としている。
この点につき、不正競争防止センターのサイト
(http://www.wettbewerbszentrale.de/de/institution/profil/auftrag/)(2008 年 5 月 31 日取得)を
参照した。
59
135
62
年までに行われた調停所の新受件数は、約 1 万 4000 件に達している
。もっとも、2007
年の新受件数は 785 件と、1996 年(1936 件)に比しておよそ三分の一しかないが、このよ
うな減少の原因としては、以下の二点が挙げられている。すなわち、①従来から問題とさ
れていたテーマの一つであった、値引き(単なる値下げではなく、たとえば、特定の人間
集団もしくは商品数量について、または購買者の特定の給付に対する報酬として供与され
る値引き
63
)などが、関連する規定の廃止に伴い、もはや調停所の手続の対象とされなく
なったこと、②事実関係が単純である場合や、明らかに競争に違反している場合には、調
停所に申し立てる前に差止め請求がなされることが多く、このような場合には、もはや調
停所に申し立てることが不要とされていること、が指摘されている
2.4
64
。
医療紛争に関する調停所および鑑定委員会
(1) 消費者の苦情に対して、業界団体が消費者の苦情を受け付ける ADR 機関としては、自
動車手工業会の仲裁所
65
、建築家会議所における調停所
66
、靴製造業者の団体による靴苦
情処理調停所など、各種の同業組合等によって運営されているものがある
67
。以下では、
特殊な専門性が求められている業界団体の活動に属する事項について、ADR が有効に機能
している例として、医療紛争に関する調停所および鑑定委員会について触れたい
68
。
(2) ドイツでは、裁判所で争われる医療過誤訴訟が急速に増加したこと、および、それに
伴い、医師の負担する責任保険料(医師は、自分の開業している各州の医師会に加入し、
医師責任保険に加入しなければならない)が増加したこと、あるいは、医療過誤訴訟にお
ける鑑定人である医師の鑑定結果に対する不信感を背景として、調停所と鑑定委員会が、
62
Ottofülling, a.a.O., 426 ff.
田沢・前掲書注 37 736 頁 (Rabatte)。
64
不正競争防止センターの年次報告書(2007 年)
(http://www.wettbewerbszentrale.de/de/publikationen/jahresberichte/ で入手可能)(2008 年 5 月
31 日取得)139 頁以下。
65
Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 14. によれば、顧客と自動車修理工場との間で、修理の必要性、修理
の適切さ、あるいは修理代金額の適正性に関して争いがある場合に、調停所が利用される。調停手続の利
用は、その後に行われる裁判手続を排除するものではないが、裁判所は、明らかな瑕疵が存在しない場合
には、調停案(Schiedsspruch)で示された事実に拘束されることが多いというのが、自動車に関する調停
所による調停手続の特徴であるとされている。
66
建築調停については、ウーヴェ・ボイゼン=ブリッタ・ハルターマン((訳)大濱しのぶ)
「ドイツにお
ける建築調停」石川明編著『比較裁判外紛争解決制度』237 頁(慶應義塾大学出版会、1997 年)、中村也
寸志「ドイツにおける専門訴訟(医療過誤訴訟及び建築関係訴訟)の実情」判時 1696 号 32 頁(2000 年)
を参照した。
67
このほかにも、Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 14 f. によれば、車体製造業の調停所、中古車販売業
の調停所、レッカー業(故障車牽引業)の調停所、繊維クリーニングの苦情処理のための調停所、塗装業
のための調停所、電気工業のための調停所、板金工、衛生品、暖房器具および毛皮加工のイヌング(同業
組合)の調停所がある。さらに、個々の分野における調停所の他に、商工業会議所にも、以上に挙げた手
工業以外のすべての手工業のための調停所が存在する。
68
Prütting (Hrsg.), a.a.O., S. 15. によれば、自由業の各部会においても、たとえば、弁護士会の仲
介手続(Vermittlungsverfahren)、建築士会の調停所、州薬剤師会の調停所、連邦医師会、州歯科医師会、
州獣医師会の調停所がある。
63
136
69
各州の医師会によって設置されている
70
。いずれの機関も 1975 年にそれぞれ開設された
。
まず、バイエルン州の医師会が、損害保険団体である賠償傷害自動車保険協会と共同で、
医師の賠償責任を裁判外で処理するために、調停所をミュンヘンに設置した。この機関は、
医師側の賠償責任保険が関与しており、賠償責任保険の支払いの前提として、医師側の法
律上の損害賠償責任の有無を判断する役割を担っている。したがって、賠償責任保険に加
入していない医師が相手の場合には、原則的に利用できないという制約がある。1976 年に
は、西ベルリン(当時)、ブレーメン、ハンブルク、シュレースヴィッヒ=ホルシュタイン、
ニーダーザクセンの各州の医師会から構成される北ドイツ医師会により、ハノーファーに
北ドイツ医師会医師責任問題に関する調停所が設立されている
71
。
鑑定委員会は、まず、ノルトライン州の医師会によってデュッセルドルフに開設された。
この機関は、医療過誤を主張する患者とそれを否認する医師の両者からの申立てを受けて、
その医療事故に鑑定を実施し、申立者に対して鑑定結果を報告する役割を担っている。し
たがって、患者は、鑑定結果によって直接的に保険の支払いを受けることはできない。鑑
定結果が医療過誤の存在を肯定するものであれば、それをもとに医師ないし医師が加入す
る賠償責任保険に対して請求権を行使する方法を採ることになる。当事者は、調停所また
は鑑定委員会を利用するにあたって、費用を支払う必要はない。調停所および鑑定委員会
の運営費用は、調停所については主として保険会社が、鑑定委員会については州の医師会
が拠出している。当事者が、手続において依頼した弁護士費用は、各当事者が負担する
72
。
(3) 医療事故紛争の当事者は、調停所および鑑定委員会の報告書に拘束されない。調停所
および鑑定委員会に鑑定を依頼したにもかかわらず、当事者は、その報告書の結論に従わ
ず、改めて裁判所に訴訟を提起することも可能である。なお、調停所が医師の責任を肯定
した場合であっても、保険会社は、それに従って賠償責任保険を給付する義務はない。調
停所および鑑定委員会の報告書は、現実の医療紛争を解決するために大変大きな影響力を
もっているが、それは形式的な意味での強制力にあるのではなく、それが権威のある鑑定
人により作成されたという点にある
73
。
69
以下の記述については、浦川道太郎「ドイツ医師会の調停所と鑑定委員会」年報医事法学 11 号 16 頁以
下(1996 年)、J.タウピッツ(
(訳)潮見佳男)「医師の損害賠償責任をめぐる紛争解決への医師の関
与」
『(国際シンポジウム)現代司法における専門家関与と市民参加』47 頁(2004 年)、我妻学「ドイツに
おける医療紛争と裁判外紛争処理手続」都法 45 巻 1 号 49 頁(2004 年)、同「医療紛争と裁判外紛争処
理手続」仲裁と ADR2 号 90 頁、とくに 94 頁以下(2007 年)に負うところが大きい。
70
我妻・前掲注 68 54 頁によれば、1970 年代においては、医師の過失責任が認められるか否かを患者が
判断するために必要な医療記録の収集や閲覧を求めることが困難であったことから、当該医師を刑事告訴
することによる刑事捜査を利用して、医療記録の収集・閲覧および鑑定が行われていた。もっとも、その
後の判例(BGH BGHZ 85, 327.)により、自然科学的に具体化可能な所見、投薬や手術記録などの診療上
の記録に限り、裁判外の閲覧が認められており、現在では、刑事訴追によって必要な資料収集が行われる
ことはなく、患者は、診療記録などの医療情報の閲覧を医師や医療機関に直接請求しているようである(58
頁)。
71
我妻・前掲注 69 54 頁以下。
72
浦川・前掲注 69 19 頁以下。
73
浦川・前掲注 69 20 頁。
137
2.5
その他
(1) 各州に設けられている消費者センターの役割も看過することはできない。たとえば、
消費者が悪質な取引方法により損害を被っている場合には、その者が消費者センターに苦
情を申し出て、消費者センターが当該企業に対して警告をし、さらには、訴訟へと展開す
74
ることができるからである
。これらの機関は、紛争の前段階において有効に機能するも
のであり、仮に「消費者 ADR」という枠組みで捉えるのであれば、これらの機関も当然そ
の範疇に含まれることになろう。また、このような苦情相談やあっせんにとどまらず、州
によっては、後述する義務的調停制度を通じて、消費者紛争を扱う ADR 機関としての消費
者センターも存在する。この点は、三丁目弁護士によるノルトライン=ヴェストファーレ
ン州消費者センターの調査報告書(三丁目 B)に詳しい。
(2) また、近時、連邦食品・農業・消費者保護省により、パイロットプロジェクトとし
て設置された交通紛争処理解決あっせん所(Schlichtungsstelle Mobilitaet)がある
75
。
長距離移動において公共交通機関を利用した旅行者と当該交通機関との間で生じた紛争
を解決するためのあっせんが行われている。詳細は、角田准教授による調査報告書(角
田 D)を参照されたい。
3.
3.1
義務的調停制度
概要
(1) 義務的調停制度は、主として区裁判所などの民事第一審裁判所の負担を軽減するため
に採用されたものである
76
。この制度に関する主要な事項は、民訴法施行法 15a 条に規定
されている。民訴法施行法 15a 条によれば、一定の事件について訴えを提起しようとする
者に対して、訴訟を提起する前に裁判外での紛争解決の試みを行うことを義務づける内容
の立法権限が、各州の立法者に与えられている。その結果、各州での立法により、訴えを
提起する前に裁判外での紛争解決を試みたかどうかが訴訟要件の一つとなり、仮に裁判外
での紛争解決の試みをすることなく、訴えが提起された場合には、そのような訴えは不適
法として却下されることになる
77
。
(2) 民訴法施行法 15a 条の対象となる事件は、以下の通りである。
①区裁判所における 750 ユーロを超えない財産法上の請求(15a 条 1 項 1 号)
74
消費者センターの概要については、戸波美代「消費者と『裁判外紛争処理制度』」国民生活研究 36 巻
4 号 35 頁以下(1997 年)。
75
http://www.schlichtungsstelle-mobilitaet.org(2008 年 5 月 26 日取得)。
76
秦公正「民間団体 ADR における紛争解決の試みと調停前置主義の適用に関する研究」平成国際 9 巻 1
号 172 頁(2004 年)。石川明「強制的調停前置制管見」判タ 1097 号 77 頁(2002 年)も参照した。
77
秦・前掲注 76 172 頁。
138
対象とする理由:この種の請求では、事件の重要性が訴訟手続にかかる時間および費
用と釣り合わないため、
②営業活動が問題とならない一定の相隣関係上の事件(15a 条 1 項 2 号)
対象とする理由:この種の事件では、当事者間の関係が継続性を有するものであり、
両者の関係を再生し、保持していくことが必要であるため、将来に向けられた解決が
必要であるため、
③新聞や放送によってなされたのではない個人的な名誉毀損事件(15a 条 1 項 3 号)
対象とする理由:この種の事件では、法律および事実に関して単純な紛争であり、当
事者間の話し合いで解決でき、刑事訴訟法 380 条と同等化が図られるため、である。
これらの事件について、訴えを提起しようとする者は、裁判外での合意の試みが不成功
に終わったことについての証明書を、訴えとともに提出しなければならない
78
。
(3) 民訴法施行法 15a 条によれば、義務的調停手続を行うことができる裁判外紛争解決所
は以下の通りである。すなわち、
①州の司法行政庁が設置または公認した紛争解決所(15a 条 1 項 1 文)、
②紛争解決を恒常的に行っている紛争解決所(15a 条 3 項 1 文)、
③州法によって公認された紛争解決所(15a 条 6 項 1 文)
、である
79
。
具体的に指摘すれば、①には、たとえば、ハンブルクやリューベックにある公共法律情
報および和解所が含まれるほか、かつてはバイエルン州の民事事件調停所などが含まれて
いた
80
。これらの紛争解決所では、弁護士、現職(定年退官後)の裁判官が手続を主宰し
ている。また、北ドイツに古くから存在する仲介人も、①に含まれる。もっとも、必ずし
も法曹資格を有するわけではない仲介人を①に含めることに対しては批判もある
81
。①で
成立した合意は、民事訴訟法 794 条 1 項 1 文の規定により、執行力が付与されている
82
。
また、一定の要件を満たす民間団体の紛争解決所にも義務的調停を行うことが認められ
ている。ただし、義務的調停を行うことができるのは、
(a) 紛争解決を継続的に行っている紛争解決所で、かつ、
(b) 両当事者がその紛争解決所を利用する合意をしている場合に限られる。
一定の要件を満たす民間団体の紛争解決所も、義務的調停を行うことができるとされた
点については、以下のような点を理由に賛成する立場と反対する立場がある。すなわち、
(a) 民間団体の紛争解決所の専門性を利用できる、
(b) 再度、州公認の紛争解決所で紛争解決の試みをするのは、成功の見込みも少なく当
事者にとって無駄となる、
78
秦・前掲注 76 173 頁。
秦公正「裁判外の紛争解決を促進する方法について」比較法研究 66 号 248 頁(2005 年)。
80
1990 年から区裁判所に設置されていたバイエルン州の調停所は、裁判所付設型の ADR 機関であったが、
2000 年 12 月 31 日をもって休止されている。この点につき、吉田・前掲書注 6 94 頁。
81
秦・前掲注 76 175 頁。ただし、仲介人制度については、今日では実質的な機能は失われているという。
この点につき、三上・前掲注 8 67 頁以下。
82
秦・前掲注 79 249 頁。
79
139
(c) 州財政の負担軽減につながる、
(d) 州公認の紛争解決所と競争関係ができる、などを理由として賛成する立場がある。
他方、中立性の懸念される紛争解決所に手続をさせるのは疑問であり、しかも、結果的
に、州がそのような懸念のある紛争解決所における紛争解決を是認したことになってしま
う点を理由として、反対する立場がある。
②で成立した合意については、執行力は付与されず、私法上の和解の効果にとどまると
されている
83
。
③については、当該解決所で成立した合意に執行力が付与されるなど、州公認の紛争解
決所と同様の法的効果が与えられている
84
。
(4) 時効中断の効果について。 旧ドイツ民法 209 条 2 項 1a 号は、州公認の紛争解決所に
おける紛争解決の申し立てについて時効中断の効果を与える規定を置いていた。他方、民
間団体の紛争解決所における紛争解決の申立てには、時効中断の効果は与えられておらず、
民訴法施行法 15a 条が新設されてからも、時効の規定に関しては、そのままの法律状態が
続いていた。しかしながら、このような規定では、時効完成をおそれる当事者は、民間団
体の紛争解決所を利用しようとは考えないであろうし、仮に利用していたとしても、時効
を中断させるためにラント公認の紛争解決所に再度申立てをする必要に迫られ、さらに、
民間団体の紛争解決所に紛争解決の申立てをした当事者が、時効完成が近いことに気づい
ていなかった場合には、時効が完成してしまい、請求権が消滅するおそれがあるなどの批
判があった。
そこで、ドイツの立法者は、州公認の紛争解決所と民間団体の紛争解決所の時効に関す
る法的効果の差を取り払うことを目的として、民法 204 条 1 項 4 号を設けた。この規定は、
それまでの時効中断の効果を時効停止の効果にあらためたうえで、州公認であれ民間団体
の紛争解決所であれ、当事者が紛争解決を申し立てた場合には時効が停止し、この効果は、
紛争解決が終了してから 6 ヶ月間継続すると定めている。ただし、この規定の適用を受け
ることができるのは、あらゆる民間団体の紛争解決所ではなく、民訴法施行法 15a 条 3 項
1 文と同じ要件が課されている
3.2
85
。
各州の対応
(1) バイエルン、ノルトライン=ヴェストファーレン、ブランデンブルク、バーデン=ビ
ュルテンブルク、ヘッセン、ザールラント、ザクセン=アンハルト、シュレースヴィッヒ
=ホルシュタインの各州で、民訴法施行法 15a 条による義務的調停制度が立法化された
83
84
85
秦・前掲注 79
秦・前掲注 79
秦・前掲注 79
86
。
249 頁。
249 頁。
249 頁以下。
86
Christian Deckenbrock / Roman Jordans, Auswirkungen der obligatorischen Streitschlichtung nach
§ 15 a EGZPO auf den Zivilprozess, JA 2004, 913.
140
各州の対応に若干差異はみられるものの、ほぼ同じ内容の州法によって規制されている
87
。
(2) バイエルン州では、すでにミュンヘン、ビュルツブルク、トラウンシュタインおよび
レーゲンスブルクの区裁判所に付設されていた調停所での経験を反映して、2000 年 4 月に、
民事事件における義務的な裁判所外の紛争処理及び裁判所構成法の規定の改正に関する法
律
88
が立法化された
89
。
2000 年 9 月 1 日以降に裁判所へ持ち込まれた紛争のうち、民訴法施行法 15a 条所定のも
のについては、裁判所への訴え提起に先立って当該紛争を合意により解決するよう試みら
れたことを前提に、その訴えが適法なものとされる。バイエルン州では、義務的調停に際
しては、当事者の出頭が念頭に置かれているため、手続は、原則として、同一の地方裁判
所の管轄内に住居、本店または営業所を有している当事者間にのみ、行われる。
義務的調停制度については、その影響を体系的に把握するために調査が行われ、①義務
的調停は、訴額 750 ユーロ以下の財産法上の争いには適さない、②相隣関係および名誉保
護の争いについては、有効な制度である、③さらなる法領域、たとえば、家事事件、遺産
事件、区分所有権に関する事件、賃貸借に関する事件に導入するかは、検討の余地がある、
との評価が得られることになった
90
。そのため、少額事件に関する規定は、2005 年 12 月
31 日をもって失効されたが、残りの事件に関しては、2008 年末まで引き続き義務的調停が
行われている。
(3) ノルトライン=ヴェストファーレン州
91
では、民事訴訟法 794 条 1 項 1 号の意味での
調停所の認可および義務的な裁判所外の紛争処理に関する法律
の概略が定められている
92
において、仲介所の手続
93
。
上記の法律によれば、財産法上の紛争については、請求権の対象が 600 ユーロまでの事
87
各州の対応については、以下に掲げる文献のほかに、Die Umsetzung des § 15 a EGZPO in den Ländern,
NJW 2001, Beilage zu Heft 51, S. 9 ff. も参照した。
88
Bayerisches Gesetz zur obligatorischen außergerichtlichen Streitschlichtung in Zivilsachen und
zur Änderung gerichtsverfassungsrechtlicher Vorschriften (Bayerisches Schlichtungsgesetz BaySchlG) vom 25. April 2000 (GVBl 2000, S. 268.).
89
この点につき、吉田・前掲書注 6 72 頁以下を参照した。その他、バイエルン州に関する以下の記述に
ついては、Jens M. Scherpe, Außergerichtliche Streitbeilegung in Verbrauchersachen: ein
deutsch-dänischer Rechtsvergleich, 2002, S. 80 ff.および Reinhard Greger, Abschlussbericht zum
Forschungsprojekt≫Außergerichtliche Streitbeilegung in Bayern≪, 2004. (バイエルン州司法省の
サイト http://www.justiz.bayern.de/ministerium/aktuelles/projekte/schlichtung/(2008 年 5 月 26
日取得)で入手可能)を参照した。
90
http://www.justiz.bayern.de/ministerium/aktuelles/projekte/schlichtung/(2008 年 5 月 26 日取
得)。
91
ノルトライン=ヴェストファーレン州司法省のサイトでは、相隣関係の争いなど、事案ごとにどの ADR
機関に行けばよいのか、その根拠規定は何かなどが市民にわかりやすく掲載されている。
http://www.streitschlichtung.nrw.de/streit/streitsuch.php(2008 年 5 年 26 日取得)。
92
Gesetz über die Anerkennung von Gütestellen im Sinne des § 794 Abs. 1 Nr. 1 der
Zivilprozessordnung und die obligatorische außergerichtliche Streitschlichtung in
Nordrhein-Westfalen (Gütestellen- und Schlichtungsgesetz - GüSchlG NRW) vom 9. Mai 2000 (GV. NRW.
S. 476).
93
吉田・前掲書注 6 76 頁以下。
141
件についてのみ、義務的調停が要求されている(同法 10 条 1 項 1 号)
。他方、義務的調停
は、同一の地方裁判所管轄内に住居、本店または営業所がある当事者間でのみ行われてい
る(同法 10 条 2 項)。
調停機関は、仲介所のほかに、公認された調停所や、公認されていない調停所(たとえ
ば、三丁目 B の州消費者センター)である。かつてのバイエルン州の場合と同様、公認を
得ようとする場合にのみ、最低条件が満たされている必要がある。しかしながら、そのよ
うな条件は、主として、公認される調停所が「その人格および能力によれば、仲裁所にふ
さわしい」ものでなければならないという点、ならびに、いずれの当事者にも、手続のな
かで意見を述べる機会が与えられなければならないという点に、制限されている。手続の
独立性や透明性などに関する準則は、ノルトライン=ヴェストファーレン法には規定され
ていない。公認されていない調停所には、法的な枠組み条件が与えられていない。したが
って、その役割分担や手続は、そのような調停所の主宰者の裁量に委ねられている。この
点については、三丁目 B を参照されたい。
(4) 上記の州以外にも、バーデン=ヴュルテンベルク州では、すべての区裁判所に、調停
所が置かれている。調停人として、弁護士が予定されている。弁護士は、所属する弁護士
会によって、区裁判所にある調停人リストに登録されている。事務処理の委託は、区裁判
所の書記課の書記官によって引き受けられている。ヘッセン、ブランデンブルク、ザクセ
ン=アンハルト、ザールラントの各州では、ノルトライン=ヴェストファーレン州と同様
の方法で行われている。調停は、原則として、組合、仲介所、もしくは、名誉職の仲介人
によって行われている。シュレースヴィッヒ=ホルシュタイン州では、仲介所と並んで、
弁護士が調停人として予定されている
94
。
(5) 各州のすべてに共通する問題として、民訴法施行法 15a 条 2 項 5 号による督促手続に
よって、義務的調停を免れるといった行為が批判されている。また、実際に調停で解決す
る見込みがない場合にも、現行の規定では調停前置が強制されることになる状況に対する
懸念が表明されており、必ずしも義務的調停制度が成功裏に終わっているわけではない
4.
95
。
オンブズマン制度
94
Jens M. Scherpe, a.a.O., S. 101.
Deckenbrock / Jordans, a.a.O., 917. たとえば、ドイツ連合弁護士協会
(http://www.brak.de/seiten/01.php)
(2008 年 6 月 2 日取得)の意見書においても、裁判上の督促手続
で債権を主張することで、義務的な紛争解決を回避することができるうえに、そのような督促手続によっ
て義務的な紛争解決を回避できない場合においても、当事者が、義務的な紛争解決の場に出頭しないこと
で手続そのものを骨抜きにしている、などを理由に、民訴法施行法 15a 条の適用範囲の拡大に対して反対
の立場がとられている。この点につき、http://www.brak.de/seiten/pdf/Stellungnahmen/2005/Stn32.pdf
(2008 年 6 月 2 日取得)を参照した(4 頁)。
95
142
4.1
銀行オンブズマン
(1) 1992 年に、ドイツ銀行協会により、民間銀行と顧客との紛争を簡易、迅速かつ低廉に
解決するための制度として、民間銀行オンブズマン制度が設けられた
96
。
「オンブズマン」というのは、ドイツに馴染みのない名称であるが、スカンジナビア諸
国に由来するものである。主として、行政機関の濫用や不正に対する市民の苦情を受け入
れ、これに援助することを試みる代理人を意味するが、現在ではEUの国際的な語法によ
れば、より広い意味で捉えられている
97
。すなわち、今日では、一般に、紛争が行政法上
の性質を有するものであるか民事法上の性質を有するものであるかに関わりなく、その紛
争を裁判外で処理する者がオンブズマンであると理解されている
98
。
手続を主宰するオンブズマンには、ドイツ銀行協会の理事会が法曹有資格者から任命さ
れている。顧客は、消費者に限定され、自営業者の事業活動に関する苦情は対象とはなら
ない。対象となる紛争は、ドイツ銀行協会に加盟する民間銀行と顧客との間の紛争のみで
あり、公的金融機関に関する紛争は対象外である
99
。
(2) 申立人は、事実関係を記した申立書と書証を顧客苦情所に提出する。顧客苦情所にお
いて申立てが不適法であると考える場合には、オンブズマンにより適法性が審査され、オ
ンブズマンが不適法と考える場合には、これを却下する。そして、顧客苦情所が申立てを
適法とし、または、オンブズマンが適法と考える場合には、顧客苦情所は、苦情の対象と
なった銀行に対して申立書を送付する。
銀行は、1 ヵ月以内に顧客の主張に対する意見を述べなければならず、これが申立人に
通知される。実務上は、この段階で銀行が顧客と話し合って、紛争を解決してしまうこと
が多い。銀行が顧客の苦情を自ら処理しなかった場合には、顧客苦情所は、オンブズマン
に事件を送付する。
手続は、1 名のオンブズマンによって行われ、口頭審理を行うこともできるが、書証以
外の証拠調べを行うことはできない。オンブズマンは、法律の規定に従い、公正な裁量の
もとに調停意見を下すことになるが、区裁判所の事物管轄に関する事件(2006 年現在、訴
96
岡崎・前掲注 2 25 頁以下の記述のほかに、以下の文献を参照した。Thomas Hoeren, Der Bankombudsmann
in der Praxis, NJW 1994, 362.; Karl Dietrich Bundschuh, Erfahrungen mit dem Bankombudsmann, in
Jürgen Basedow (Hrsg.), Anleger- und objektgerechte Beratung, Private Krankenversicherung, Ein
Ombudsmann für Versicherungen, 1999, S 213.; Thomas von Hippel, Der Ombudsmann im Bank- und
Versicherungswesen, 2000.; Jens M. Scherpe, Der Bankenombudsmann - Zu den Änderungen der
Verfahrensordnung seit 1992, WM 2001, 2321.
97
たとえば、Jürgen Basedow, Small Claims Enforcement in a High Cost Country: The German Insurance
Ombudsman, in Peter Wahlgren (eds.), What is Scandinavian Law ?, 2007, p 53. によれば、ドイツ
で「オンブズマン」というときは、立法府(議会)とはなんら関係がなく、むしろ、司法制度の代替手段
であることから、「オンブズマン」という名称は、スカンジナビアの人々に誤解を招くかもしれない、と
いう。
98
Wolfgang Römer, Der Ombudsmann für private Versicherungen, NJW 2005, 1251, 1252.
99
岡崎・前掲注 2 25 頁。なお、公営銀行オンブズマンについては、
http://www.voeb.de/de/ueber_uns/ombudsmann/(2008 年 5 月 26 日取得)。2003 年 9 月 1 日以降は、2002
年 10 月までハム地方裁判所の裁判官であったヴァンガード氏がオンブズマンに就任し、その代理人には、
ヴェルター教授(ライプチッヒ大学)が務めている。
143
額 5000 ユーロ以下の事件(ドイツ銀行業の顧客の苦情処理のための手続規則 4 号 5 項 a)
(調停案の拘束力に関する規定))について、この調停意見は、銀行に対して拘束力を有す
る
100
。
(3) 手続に要する費用は、ドイツ銀行協会が負担する(同 5 号 2 項 1 文)。顧客は、無償で
手続を利用することができるが、代理人を通じて手続に関与することもできる。その際の
費用(代理人に要した費用)は各自の負担となる(同 5 号 3 項 1 文)101。
4.2
保険オンブズマン
(1) 保険オンブズマン制度の導入については、すでに 1970 年にドイツの保険業界で検討さ
れていたが、オンブズマンの設置は連邦保険監督庁(当時)の抵抗にあい、挫折した。そ
の後、欧州の保険市場の自由主義化の流れの中、連邦保険監督庁の事前認可制が創設され
て以後、保険オンブズマンの導入を促す声が増え、2000 年に実現することになった
102
。
「保険オンブズマン」とは、保険業界によって ADR 機関として設立された社団法人であ
るとともに、定款に従い同社団法人の機関が選任する手続主宰者のことをも意味する。ま
た、財源や運営の点で保険業界に依存しているが、組織としては独立した機関であるとさ
れている
103
。
インターネットなどの通信手段を介して締結された保険契約における紛争の調停は、民
間の健康保険および介護保険については「民間の健康保険および介護保険のためのオンブ
ズマン」に委任され、それ以外の保険については、保険オンブズマンに委任されている
104
。
(2) オンブズマン制度の目的は、紛争を解決することにある。そして、紛争終結に至る形
態がいくつか存在する。具体的には、①保険者は、オンブズマンにすすめられて、相手方
の苦情に従う、②対象額が 5000 ユーロ以下である苦情の場合には、オンブズマンは、案件
について決定を下す、あるいは、③対象額が 5000 ユーロを超えて、かつ 50000 ユーロ以下
の案件について、オンブズマンは、拘束力はないものの、法的な観点に基づく勧告を出す
ことになる。オンブズマンによる決定の非対称的な効力(片面的拘束力)は注目に値する。
すなわち、定款によってオンブズマンに加盟している保険会社は、対象額が 5000 ユーロ以
下の苦情を伴うあらゆる案件において、オンブズマンの決定に従うことになる。他方、そ
のような決定は、裁判所に訴訟を提起する可能性が常に残されている保険契約者を拘束す
100
岡崎・前掲注 3 25 頁。
岡崎・前掲注 3 26 頁。
102
Thomas von Hippel, a.a.O (Fn. 96)., S. 20 ff. 保険オンブズマンについては、Römer, a.a.O (Fn.
98). のほかに、Knut Hohlfeld, Überlegungen zur Einführung eines Ombudsmanns im
Versicherungsbereich, in Jürgen Basedow (Hrsg.), a.a.O (Fn. 96)., S 223.においても、既に、保険
オンブズマンの設置にあたって、まずは銀行オンブズマンの経験や他国の保険オンブズマンの検討の必要
性が説かれていた (S. 230.)。このほかに、Jens M. Scherpe, Der deutsche Versicherungsombudsmann,
NVersZ 2002, 97.を参照した。
103
三丁目 C(保険オンブズマン調査報告 162 頁参照)。
104
保険に関する通信取引契約における消費者紛争の処理のための調停機関に関する規則 1 条。
101
144
ることはない
105
。
なお、手続その他については、三丁目 C に詳細な報告がある。
5.
結びにかえて
(1) 以上のように、ドイツにおいて消費者紛争を扱う ADR は、ADR 機関そのものは相当数
存在するものの、有効に機能していると評価できるものは多くはないようである。その根
底には、以下のような事情の存在を指摘することができる。
まず、ADR の場合には、当事者の自由意思による紛争解決の可能性があることが前提で
ある。それがない場合には、当事者は裁判制度を利用する、ということになる。したがっ
て、当事者において争いがあるにもかかわらず、あえて当事者によって ADR が利用される
には、一般に、ADR の利点であると指摘されているコストや迅速な解決といった面での優
位性が当事者によって評価されている必要がある。しかしながら、これらの面で、ドイツ
の場合、消費者紛争を扱う ADR が裁判制度に比べて優位にあるとはいえない状況がみられ
る。
もっとも、だからといってドイツにおいて ADR の存在意義が失われているとか、逆に、
裁判制度が優位にあると結論づけるのはやや早計であろう。むしろ、個別の紛争の具体的
状況に適した形でいくつかの選択肢を消費者に与えることは、日常的に頻発する消費者問
題のより円満な解決を導くことに資するものとなるからである。
ただ、その一方で、金融や保険といった、専門性が高く、情報量や交渉能力の格差から
消費者に不利になりがちな領域で、訴額があまり高額とはならないものについて、定型的
で迅速な解決が求められる場面では、裁定者の決定に片面的拘束力を付与するオンブズマ
ン制度の利用には、メリットがあるように思われる。このような手法の可能性については、
今後もさらに注目していく必要があるだろう。その際には、実効性の確保という面から、
制度構築に際して、消費者にとってより利用しやすいものとなるような工夫としての機能
面での充実が求められる。
(2) 他方、ドイツをはじめとするEU諸国に共通の問題として、EU指令との関係もある。
EU議会は、最近になって、民事事件および商事事件のメディエーションの一定の観点に
関するEU委員会および議会による指令(いわゆる「メディエーション指令))の提言を是
認した
106
。国境を越えて生じる紛争のみを対象としている上記指令は、とくに、以下に掲
げる事項を定めている。
①メディエーションのなかで知ることになった内容の秘密保持。これにより、メディエ
ーションの会話内容が第三者に知られることもなく、メディエーションがオープンな
雰囲気のなかで行われることが可能となる、といった点が保証される。
②メディエーション(の手続き)のなかで達成された合意の執行可能性。このことが、
105
106
Basedow, above, at fn. 97, p 55.
アーレンス教授のご厚意により、連邦司法省のメールマガジンの内容をご教示いただいた。
145
そのような合意を実際に実行に移すことができる、という点をもたらす。
③メディエーションの開始による時効期間の停止。これにより、メディエーションが行
われている間の請求権の時効が進行しない。
④メディエーション指令は、おそらく、2008 年夏にEU委員会による議決の後、施行さ
れるものと思われる。各加盟国は、メディエーションを裁判外紛争処理の現代的方法
として法律に定めるために、三年間の猶予が与えられている。
(3) ドイツには、現在、メディエーションに関する法規定がない。そこで、連邦司法省大
臣ジプリス氏は、国境を越えて生じる紛争および国内の紛争のための法規定の必要性およ
び考えうる内容を検討するために、専門家集団を招集した。著名な学識会の代表者、職能
団体および各州の代表者による専門家集団を招集した。
ジプリス氏のコメントは以下の通りである。
「裁判と比べて、メディエーションは、多くの場合において数多くの利点をもたらして
います。当事者はメディエーターに支援されながら、当事者自らによって描いた将来像を
考慮し、双方にとって有益なものとなる解決策を見つけだそうと試みています。このよう
にして、人的な関係および商的な関係が獲得され、新たな条件で築かれることが可能とな
ります。特に、感情的な負担が軽くなり、経費の節約となります。」
「私は、当事者が、市
民社会における争いごとを、裁判所を利用しなくても自己責任のもとで解決するできるも
のと思っております。このような法文化を私はさらに推し進めていきたい。招集された専
門家集団の皆様方は、この点について多大なる貢献をもたらしてくれることでしょう。」
メディエーションに関する、迅速性やコスト面での利点などは、従来ドイツで行われて
きた数々の ADR に通じるものである。そうであるならば、そこで生じた数々の問題をふま
えながら慎重に対応することが求められるように思われる。今後の動向を待ちたい。
146