PDF版 - 消費者の窓

3.フ
ラ
ン
ス
3.フランスにおける消費者 ADR に関する調査報告書
加藤雅之
神戸学院大学法学部准教授
町村泰貴
北海道大学大学院法学研究科教授
1.
はじめに
フランスにおける ADR は、特に消費者紛争の解決方式として、ここ 10 年から 15 年の間
に極めて大きな成功をおさめたと評価されている。ADR による紛争処理件数は増加傾向に
あり、消費者向けの ADR を導入する企業ないし業種も増え続けている 1 。消費者団体
(ORGECO)も、消費者相談窓口を設けている。
行政庁による消費者紛争処理は、行政組織(DGCCRF)が消費者からの苦情を受け付けて
おり、また、1977 年以来、私書箱 5000 がフランスの 50 の県に設置されている。また、行
政庁と市民との間の紛争を第三者機関として処理したり行政庁に対する意見を述べたりす
ることが主たる任務の共和国調停人(Médiateur de la République)およびその地方出先
機関も、消費生活に関する行政との紛争には介在することがあり得るし、企業と消費者と
の間の紛争について申立てを受けた場合は、当該企業に関係する調停人に事件を送付する
ことが行われている。
さらには、司法調停人(conciliateur)を介した紛争解決も徐々に一般化している。
行政については、事業者と消費者の間の民事紛争解決に行政が立ち入らず、専ら事業者
に対する制裁を科すのみというフランスの基本思想があり、このことから、現地調査にお
いても ADR に関する「行政機関(organisation administrative)」については、かかる機
関を設立することについては否定的であったように思われる。他方で、前述の自発的な紛
争処理制度に公的な支援等をすることについては肯定的であり、ADR による紛争処理につ
いては今後の発展を期待する声が多かった。
以下では、フランスにおける ADR についての総論の検討と現地の各機関における現地調
査によって得られた現状および問題点について報告する2。
な お ADR に 関 し て フ ラ ン ス 語 で は les modes alternatives de règlement des
1
以下の叙述は、2007 年 3 月に発表された国家消費委員会 Conseil national de la consommation (CNC)
の報告書、特にその主要部分を占める準備報告書 Emmanuel CONSTANS, Tableau de bord de la médiation
pour le consommateurs -rapport préparatoire-, Ministère du l’économie des finances et de
l’industrie, mai 2006,< http://www.finances.gouv.fr/conseilnationalconsommation/avis/2007/
annexe2_rapport_constans_version2.pdf>に多くを負っている。
2
わが国における先行研究として、ロジェ・ペロ(谷口安平訳)
「民事及び商事における和解・調停---フ
ランス」日仏法学会編『日本とフランスの裁判観』
(有斐閣・1991)86 頁以下、山本和彦『フランスの司
法』(有斐閣・1995)特に 106 頁以下、323 頁以下、町村泰貴「フランスにおける最近の ADR 動向」亜細
亜法学 35 巻 2 号 229 頁以下(2000 年)がある。
83
litiges(MARL)ということが一般的になっているが、この言葉は多義的であるため、ここで
用語の定義を確認しておく3。
フランスでは MARL とは、二つの意味で用いられる。一つは、裁判所の判決による紛争解
決以外のあらゆる紛争解決手段を含むものとして使われる場合であり、裁判上の和解
(transaction)や仲裁(arbitrage)も含めて、広義の意味で MARL という用語を使う。これら
は、司法的な紛争解決の一場面であり、判決と同等の効力を有することから、解決のあり
方としては判決によるものと接近することになる。他方、狭義の MARL とは、司法制度によ
らない自発的な紛争解決手段を意味し、具体的には前述の調停(médiation)および司法調停
(conciliation)を示す。
現地調査において、MARL は後者の意味で用いられており、またわが国でいわゆる司法型、
行政型または民間型 ADR として想定されている内容には、狭義の意味のほうがより近いと
考えられるため、本報告書では狭義の MARL をフランスにおける ADR として位置づけている。
したがって、本報告の中心は調停と司法調停になる。冒頭に指摘したような消費者紛争 ADR
の量的拡大と成功は、主に調停に関するものであり、フランスにおける ADR を知る上で重
要なものである。
2.
フランスにおける ADR の歴史
フランスにおいても、ADR 自体は全く新しいものではなく、裁判外の紛争処理自体は、
国家による司法以前に存在していた。その意味では、現在の ADR に関する発展は、新たな
法制度を形成するものではなく、古来の制度を再発見するものであるとも指摘されている。
伝統的にフランス人は訴訟による解決を好むとされてきた。このことから、ADR は、国
家権力によって任命され国家法により正当化されてきたフランス法学に対する一つの挑戦
とも位置づけられる。裁判外の紛争解決手段の多様性は、普遍的な価値を持つ法の存在に
なじまないものであるともいえ、ADR をいかに位置づけるかは議論のあるところである。
しかしながら、既にナポレオン法典の一つとして制定された旧民事訴訟法典においても、
和解前置主義がとられ、特に日本の簡易裁判所に相当する小審裁判所では、裁判官自身の
和解勧試がなされることとなっていた。19 世紀を通じて、このような和解前置は形骸化し
て、1949 年には小審裁判所を除いて和解前置主義は廃止されたが、1970 年代に成立した現
行の新民事訴訟法典でも、
「当事者の和解を試みることは裁判官の職務に属する」との原則
を掲げ、和解前置主義も労働審判には残されていた。ただし小審裁判所では、任意的和解
前置という曖昧な形となった4。
その後、民事分野でも刑事分野でも、司法の過重負担を背景に、裁判外での紛争解決が
3
以下の記述については、Les Conciliateurs de France, Les modes alternatifs de reglemet des conflits,
colloque A.N.J.I.du 23.09.2005 を参考にしつつ、現地での聞き取り調査で得られた情報を加えて構成
している。
4
この間の経緯はロジェ・ペロ・前掲論文 88 頁以下参照。
84
志向された。民事裁判では、司法調停人 conciliateur de justice 5 の役割や調停人
médiateur の訴訟上の役割を強化する立法がなされた。刑事裁判でもいわゆる刑事調停人
médiateur pénal6による和解による訴追免除や刑の軽減などを定めた立法がなされた7。
このうち司法調停人は、控訴院長の任命にかかる民間人で、紛争当事者の申立てによっ
て和解のあっせんをする。取り扱い分野は民事紛争一般であるが、特に隣人間の紛争や消
費者紛争が取り扱いの主たる対象と考えられている。
3.
消費者法分野の ADR
3.1
行政庁による消費者紛争処理
行政庁による消費者紛争 ADR としては、1977 年に創設された私書箱 5000 Boîte postale
5000 が有名である。私書箱 5000 は消費者紛争を自発的に解決するためのもので、法的な
根拠があるものではないが、競争・消費・詐欺抑止総局 Direction générale de la
concurrence, de la consommation et de la répression des fraudes(以下 DGCCRF という
8
)の下で、その地方出先機関の援助を得て運営されている。各地方で自主的に行われてお
り、現在は、およそ半数の県において設置されている。
「各地域一人の担当者がいるのが普通、私書箱 5000 は消費者から受け取った苦情を消費
者団体と業者の代表者による会議を開催して、誰が処理するかを決め、案件の解決を促す
という自発的な制度だが、実際には業者側の会合への参加率は低い。
会議は一週間に一度開催しており、6 人~10 人の消費者団体などの代表者(全てボラン
ティア)が集まり、Boîtes Postales 5000 に宛てられた苦情を秘書が読み上げ、団体の人
が自分で担当してもよい案件を選ぶ(手を挙げる)。この担当者が解決案を模索することに
なる。こうした制度があることは消費者に積極的には広報をしていない(ただし、DGCCRF
の HP には制度の概要は載っている)
。広報をすると多くの案件が集まりすぎるのを避ける
ため。非常に簡単な制度だが、30 年間の運営はボランティアにより支持され非常に上手く
いっていると評価している。公共性をもっている制度でありので、一件につき 20~30 ユー
ロの少額の助成金が案件を扱う毎に手を挙げた者に支払われている。
」9
3.2
消費者団体による ADR への寄与
3.2.1 消費者団体による法的助言
5
1996 年 12 月 13 日のデクレにより、1978 年 3 月 20 日デクレの改正として創設された。
1993 年 1 月 4 日の法律により改正された刑事訴訟法典 41 条参照。
7
この点は町村・前掲論文 229 頁以下参照。
8
その前身は 1965 年から存在する行政組織だが、現在の設置法は Décret n°2001-1178 du 12 décembre
2001 relatif à la direction générale de la concurrence, de la consommation et de la répression
des fraudes に基づいている。基本的な任務は、公正取引、競争政策、独占禁止、消費者法政策などの法
政策立案および団体の認証などである。この組織については、以下のサイトを参照。
<http://www.dgccrf.bercy.gouv.fr/dgccrf/index.htm>
9
内閣府国民生活局 2007 年 10 月の消費者 ADR の実態調査報告
6
85
消費者団体 associations des consommateurs も、フランスにおいては消費者紛争 ADR
の一翼を担っている。認証された消費者団体は、法律10により法的助言をする権能を認め
られており、さらに調停人の役割も担っているとされている11。
3.2.2 消費者紛争委員会(CRLC)
また、1994 年 12 月 20 日の政令12によって県に消費者紛争委員会(CRLC:La Commission
de reglement des litiges de consommation)の設置が認められており、まず 1995 年にフ
ランス 100 県あるうち 10 県に実験的に設置された。そのうち現在まで CRLC が存続してい
るのはピレネー・オリエンタル県とレンヌのあるイル・エ・ヴィレンヌ県の二県だけで、
その後、2002 年に新しい試みとしてヴォージュ県に同様の委員会が新設された。これらは
現在も運営されているのは全国で3つである。最初の一年間(1995 年)は実験的に国から
の全額経済支援が与えられたが、二年目からは自ら財政支援を国以外からも得られない場
合に国からの支援も打ち切ることになっていた。イル・エ・ヴィレンヌ県の場合は幸いに
して既に組織的で強力な消費者団体の自発的、無償による活動が盛んであり、かつ Maison
de la Consommation et de l’Environnement13のような拠点があったことが幸いした。そ
のため、レンヌ市、リル・エ・ヴィレンヌ県に経済的援助を申し出て援助を得ることも出
来、国とそれぞれ 1/3 ずつの経済的支援で運営されることで合意した。それ以来同じ経済
的負担率で現在に至っている。
3.3 企業及び企業団体による ADR
企業および企業団体による調停は、現在までに数多くの機関において行われており、実
質的な紛争処理機能を果たしていると評価できる。その設立時期は大きく分けて 1990 年代
においてと、2001 年から 2002 年にかけてと、二つの波があるとされる。そのいくつかを
以下で紹介する。
3.3.1 郵便局(La Post)調停人
郵便局に関する消費者紛争は、1995 年に消費者組織と郵便局とが取り交わしたプロトコ
ルに基づいて設置された調停人が管轄する。取り扱う紛争は郵便局の提供するサービス一
般だが、特に金融サービスについても取扱い、この調停人は 2001 年 12 月の Murcef 法14に
10
Art.63 de la loi n°71-1130 du 31 décembre 1971 portant réforme de certaines professions
judiciaires et juridiques.
11
J.Calais-Auloy et F. Steinmetz, Droit de la consommation, Dalloz, 2003, p.541.
12
Arrêté du 20 décembre 1994 modifiant l’arrêté du 21 février 1987 portant création des comités
départementaux de la consummation(現在は Arrêté du 25 mars 2005 portant création et fonctionnement
des commissions de règlement des litiges de consommation)
13
消費者団体と環境団体を支援することを目的とする団体であり、団体の活動拠点となるとともに市民
に消費者・環境情報を提供することを使命としている。
14
Loi du 11 décembre 2001 portant mesures urgentes de réformes à caractère économique et financier
(経済および財政問題の改善の緊急手段に関する 2001 年 12 月 11 日の法律)
86
よる金融調停人も兼ねている。
郵便局調停人の 2007 年活動報告書によれば、2007 年中に受領した申立ては 4628 件、そ
のうち調停に適する事件として調停人が意見を発したのが 61%にあたる 2833 件で、その
大部分は 2 か月以内に応答されている。
3.3.2 交通分野の調停人
フランス国鉄も、1994 年に消費者・利用者の全国組織と締結したプロトコルに基づいて、
調停人を設置した。取り扱う紛争は旅行に関連すること一般で、荷物運送のトラブル、寝
台の確保や乗車券の販売などについての紛争が含まれている。
パリ交通局も、1990 年に消費者・利用者の組織と取り交わした合意に基づき、調停人を
設置している。取り扱う紛争は、検札の際のトラブルが主なもので、事故損害賠償につい
ては取り扱わない。
調停人に対しては、消費者はプロトコルに署名した団体を通じて、または直接、申立て
をすることができる。
パリ交通局の調停人 2007 年活動報告書によれば、年間の事件受付件数は 243 件であり、
年々増加傾向にあるということはいえるが、検札で違反行為を発見している件数が 2007
年に 120 万件もあること、交通局のカスタマーサービスに何らかの申し入れをする手紙が
同年中に 10 万通近くあることを考えると、ごくわずかな申立件数しかないとの評価も可能
である。
年別事件受付件数(2003 年―2007 年)
年
2003
2004
2005
2006
2007
事件受付件数
43
62
50
173
243
2007 年の 243 件のうち、調停人の管轄に属するとして受理された件数は 156 件であり、
申立人の主張の全部または一部が認められたものが 73 件、交通局の処理を正当と認めたも
のが 73 件、その他 10 件となっている。
3.3.3 訪問販売業団体
訪問販売連盟(Fédération de la vente directe FVD)は、訪問販売事業者と消費者の
双 方 が 入 っ て 中 立 委 員 が 主 宰 す る 訪 問 販 売 に 関 す る 調 停 対 等 委 員 会 ( Commission
Paritaire de Médiation de la Vente Directe, CPMVD)を設置している。この FVD 所属会
員企業との訪問販売トラブルはもちろん、所属外の企業とのトラブルも含めて取り扱って
いる。
ここでは申立てを書面または FVD のウェブページからすることができる。
訪問販売協会の活動報告によれば、2006 年の申し出件数が 283 件、2007 年中が 172 件で、
そのうち 2006 年中は 185 件、2007 年中は 132 件が処理された。2007 年は 2006 年の処理件
数に対して 28%の減少となっている。2007 年の処理されなかった 40 件のうち、12 件は取
87
り下げ、14 件は不受理で、その理由は企業に対する事前の苦情申立てがなかったもの(8
件)、CPMVD が相手方企業を特定できなかったもの(3 件)、相手方企業が裁判上の清算15と
なっていたもの(3 件)である。残る 14 件は CPMVD の管轄に属さないもので、訪問販売に
関係しないもの(10 件)、企業間の売買に関するもの(2 件)、損害額を定める申立て(2
件)となっている。
処理された 132 件のうち、109 件は調停が成立した。そのうち会員企業は 83 件、非会員
企業は 26 件となっており、非会員企業に対しても調停が機能していることを示している。
ただし、調停成立率は会員企業が 88%(2006 年は 94%)であるのに非会員企業は 69%(2006
年は 73%)と、それなりの格差はある。
年別処理・調停成約件数(2000 年―2007 年)
年
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
既済件数
106
132
151
149
151
153
185
132
調停成約数
93
117
139
94
117
124
161
109
調停が成立した事件の処理内容は、会員企業について 38%が契約の全部または一部無効
と返還、27%が保険による補償、18%が補償金の支払い、13%が契約の履行などとなって
いる。非会員企業については、69%が契約の全部または一部無効と返還、15%が契約の履
行などとなっている。
不調となったケースは事実関係に争いがあって合意に至らない場合や消費者側が訴え提
起を選択した場合が多いが、非会員企業の場合は裁判上の清算になったもの(5 件)16や企
業からの応答がないもの(3 件)もある。
処理に要する時間は内部規則において 2 ヶ月以内に紛争解決を試みること(4条の3パ
ラ)とされているため、申立てから 1 か月以内の処理が会員企業について 43%、非会員企
業でも 36%となっており、2 か月以内は会員企業が 31%、非会員企業は 24%となっており、
格差はあるものの、いずれも迅速に処理されている。
なお、CPMVD の調停が不調となったもので、特に悪質なケースは、訪問販売連盟が被害
者となった消費者のために、私訴原告 Partie civile となり、刑事訴追を予審判事に請求
することがある。フランスの司法の概念に「intérêt à agir(訴えの利益)」があり、この
名の下にたとえ、FDV が直接の被害者ではなかったとしても FDV 非加入企業を起訴するこ
とができる。消費者に対する不正、詐欺があることが前提であり、その上で FDV が訪問販
売という職業分野(sector)が荒らされるのを守る利益があるかが裁判所で議論されるこ
とになる。FDV が訪問販売というイメージ・信用を悪化させないために行っている行為と
言える。現在も、3 件の私訴原告としての刑事訴追と損害賠償請求が係属中とのことであ
15
我が国の破産手続に相当する。
上記の不受理事由にも裁判上の清算の場合があったが、ここでカウントされているのは調停係属中に清
算となったため不調となったケースであろうと思われる。
16
88
る。
3.3.4 金融サービス分野の調停
金融機関のうち、保険分野では、保険会社 sociétés d’assurances と相互保険会社(共
済組合)sociétés mutuelles d’assurances のそれぞれの業界で、調停人を設置している。
さらに会社内でも調停人を置いているところがある。フランス保険会社連盟調停人(FFSA:
Le Médiateur de la Fédération Française de Sociétés d’Assurances)について詳しく
みると、消費者の信頼を得られるよう処置をとる必要があった一方で、多くの保険会社社
長は第三者の介入を嫌う傾向にあり、調停人の設置には非常に長い時間と説得が必要であ
ったが、最終的に 1993 年に「調停憲章(Charte de la Médiation)」を制定し、認可され
たものである。フランスにおける保険会社の殆ど全て(約 3000)が FFSA に加入している
上、その加盟会社は憲章に自動的に加わることとなっており、調停活動を認めていること
が前提になっている。苦情申立て件数(2006 年)は保険会社への直接の申立ても含めて
2,761 件であった。
保険以外では、金融会社団体による調停人 médiateur de l’Association des Sociétés
Financières (ASF)と、金融市場当局17による調停人 médiateur de l’Autorité des Marchés
Financiers (AMF)が置かれている。ASF による調停は消費者金融や不動産融資のトラブル
に関する調停を行うが、過重債務の処理を扱うものではない。AMF による調停の主たる対
象は、貯金、投資などのトラブルである。投資信託に関するトラブルも扱っている。
ASF の 2007 年活動報告書によれば、同年中に調停人が受け取った手紙 956 通のうち、情
報提供を求めるだけのものや非会員企業に関するものを除き、843 件の調停申し立てがあ
った。さらに調停人の管轄に属するものに限ると、744 件ということである。その相手方
となる金融機関は、会員企業 75 社のうち 42 社が申立てを受けている。
そのうち、金融機関側に何らかの落ち度があって申立ての全部または一部が認められた
のが 402 件である。
AMF の 2007 年活動報告書によれば、AMF の調停人が受け付けた申立ては 2007 年中に 2155
件で、そのうち 1449 件が情報提供を求めるもので、調停申し立ては 706 件である。2007
年中に終了した調停申し立て事件は 493 件で、そのうち申立てから処理まで 6 か月以上の
期間を要した事件が 84%、6 か月未満の期間で処理されたものは 16%にとどまっている。
493 件の処理事件のうち、申立てに理由があって合意に至った事件は 66%であり、それ
以外の事件は管轄外であったり取り下げられたり、必要な資料が付けられていなかったり
するものである。
このほか、
銀行調停人 médiateur bancaire とまとめられるように、2001 年 12 月の Murcef
法により、すべての金融機関は調停人を設置しなければならないこととされ、各銀行ごと、
あるいは銀行団体に共通の調停人が設置されている。銀行取引約款にも、調停人へのアク
17
これは Commission des opérations de bourse (COB)の後継組織である。
89
セスを明記しなければならない。取り扱う紛争は、口座の開設・閉鎖、小切手や銀行カー
ドのトラブルなどである。
調停人の職業規範や手続はきっちりと定められている。申立てから 2 ヶ月で勧告をだす
が、その間時効の進行は停止される。
3.3.5 電気・ガス(EDF/GDF)の調停
フランス電気会社 EDF は 1998 年に、またフランスガス会社 GDF は 1999 年に、それぞれ
調停人を設置した。取り扱う紛争は電気ガス料金のトラブルであり、それぞれのエネルギ
ーの質など、その他の紛争についても扱う。いずれの調停人にも、社内トラブル処理がう
まく行かなかった場合に、顧客が直接申し立てることができる。
EDF の 2005 年の統計によれば、年間の申立件数は 1712 件となっており、2000 年の申立
件数が 453 件であったのに対して 4 倍近くとなっている。2004 年からは、個人の顧客だけ
でなく事業所顧客にも申立て資格を認めたため、2003 年の 1110 件に対して 2004 年が 1704
件と増大した。2005 年はその傾向を引き継いでいる。申立ては郵便またはインターネット
を通じて提出することができ、インターネット経由の申立ても 28%を占める。また申立人
は 85%と大部分が消費者と見られる個人だが、事業者からの申立ても 11%ある。
これに対して処理された紛争の件数は、2005 年で 197 件となっており、単純な増加傾向
にはない。
申立て件数と処理件数(2000 年-2005 年)
年
2000
2001
2002
2003
2004
2005
申立て件数
453
830
959
1110
1704
1712
処理件数
166
237
223
184
219
197
申立て件数と処理件数との乖離は必ずしも明らかではないが、申立て内容が処理を要し
ない単なる苦情や相談にとどまるものもかなり含まれていることが推測される。
申立ての内容は、毎年半分強(52%程度)が料金などをめぐる争いで、残りは電気工事
や窓口対応などの苦情が多い。
調停人は申立てから 2 か月で処理するというのがルールであり、実際にも 80%の事件が
2 か月以内に処理されている。大部分のケースは、調停人が書面による勧告を示して終了
するが、和解に至るケースも 39%ほどあるとされている。
3.3.6 通信分野の調停
通信分野では、電話会社の団体によってテレコム調停団体 l’Association médiation
télécom (Amet)が設置され、調停人が置かれている。Amet の調停は電話に関するすべての
紛争を取り扱うが、インターネットへのアクセスに用いられた回線に関する紛争は扱わな
い。ここでも、社内トラブル処理がうまく行かないことを前提に、直接、または消費者団
体を通じて申立てをする。
なお、消費者も電話会社も、調停受諾義務は負っていない。
90
インターネット関連紛争では、ネット調停人 Médiateur du Net : service médiation du
Forum des droits sur l’Internet がある。取り扱う紛争はインターネット・サービス・
プロバイダ関連と電子商取引関連のトラブルで、技術的な問題について関与することはな
い。その解決提案には両当事者とも受諾義務を負わず、むしろ、ネット調停人は当事者間
の対話の再開を促し、解決提案をするだけと自己規定している。
ネット調停人の 2007 年活動報告書によれば、2007 年の新規申立件数は 4095 件で、その
うちインターネット経由の申立てが 3559 件と大半を占める。ただし、そのかなりの割合は
不受理となるもので、実際に受理された件数は 460 件となっている。
受理された事件のうち、2007 年中に解決に至った割合は 87%である。
取り扱い事件のほとんど(94.8%)はいわゆる B2C、すなわちインターネット・サービ
ス・プロバイダや電子商取引事業者と消費者との紛争だが、ドメイン名をめぐる紛争やオ
ンラインオークションでの利用者間の紛争、その他利用者間のインターネットに関連する
紛争も持ち込まれる。
4.
消費者紛争 ADR の意義と方向性
4.1
2004 年 CNC 意見書
消費者問題については、迅速な紛争解決のため、さらに消費者に様々なコスト負担を強
いるべきでないことから ADR による解決が期待されている。
こうした期待と現状評価に関連するものとして、消費者国民会議(Conseil national des
consommateurs (CNC))18が 2004 年 7 月 7 日に公表した調停制度に関する意見書19を参照す
ることが有効であろう。そこでは一定の質の調停の基準を定義するレファレンスの共通の
枠を提示し、フランスにおける調停という文化の発展に寄与する目的を有する「消費者紛
争調停委員会」の設立を提案されている。
以下、意見書の内容を要約する。
消費者に関する調停への訴えを促しかつ増やすためには 2004 年の提案をさらに推し進
める必要があるとされている。多くの紛争外処理手続きがフランスには存在しており、消
費者紛争の解決をしているが、ADR の統一法といったものはまだ存在していない。それぞ
れの手続の法的根拠や法的拘束力に違いがあるためである。その中でも、調停制度につい
て行政による整備が進められている。
調停の発展は、それが専門家あるいは公権力の主導によるものであっても自発的な土台
に基づいてなされている。調停員は、消費者と事業者の中立の立場から選ばれ、紛争につ
いて解決案を提示する。これを当事者が受け入れるかは当事者に委ねられる。
18
この組織は、DGCCRF の下に置かれている。
Rapport et avis du groupe du Conseil national de la consommation sur la médiation dans les litiges
de consommation<http://www10.finances.gouv.fr/fonds_documentaire/
dgccrf/boccrf/05_02/a0020002.htm>
19
91
以上の点から、調停の質を強化するために改善が必要であるとされる。CNC による改善
点は以下の通りである。
現在は、各企業に調停員が置かれている。調停員に対する紛争処理の申し立ては、企業
を通して、または消費者団体を通して行われるが、CNC としては企業外に調停員が置かれ
るのが望ましいと考えている。とくに専門の業種については共通の調停員を置くことが妥
当であろう。
調停によることのできる紛争類型についても可能な限り広くかつ明確にすべきである。
消費者にとって、調停手続のわかりやすさ、アクセスの容易さをさらに進めることが重要
である。
調停員を置く企業は当然に調停員の意見に従うことが望ましい。このことにより、消費
者も調停員も調停制度をより発展させる動機づけとなる。
調停制度を利用している間の時効停止を求めている。その際に、時効の停止の開始時点
と終了時点を明確にすることが必要である。
さらに、調停制度をさらに消費者に広く認識させることも必要である。こうした広報に
ついては、当該企業だけでなく行政も関わる必要がある。
4.2
2007 年 CNC 意見書
2004 年の意見書に引き続き、2007 年にも、消費者紛争調停に関する意見書20が同じく CNC
によって公表されている。2007 年の意見書には、2006 年段階での準備報告書21が添付資料
とされている。そこでは、消費者 ADR の利点と問題点について以下のようにまとめられて
いる。
a)
消費者 ADR の利点
増大する紛争解決に対する必要性に答える意味で、調停には裁判手続よりも以下のメリ
ットが考えられる。以下は、上記 2006 年の準備報告書と、行政機関に対する現地調査から
明らかとなった消費者紛争 ADR のメリットをあげる。
消費者は不満を物品およびサービスの供給者に向けるが、十分な満足を得ることはでき
ない。裁判所に訴える十分な準備もできず、調停のような ADR 手続が期待されていた。
企業側にとっても、消費者との紛争を迅速に解決するために、訴訟の長期化と金銭的コ
スト、加えて企業イメージの問題を避けるために ADR の導入はのぞましい。さらに、調停
員は、あつかった調停案件をもとにして企業実務への提案をすることにより、将来の紛争
を防止することもできる。
調停の利点は、3点ある。事業者と顧客の関係を顧客の有利に再均衡できること、中立
な立場での解決、効率性および透明性の原則の適用である。
20
Avis du conseil national de la consommation relatif à la médiation et aux modes alternatifs de
règlement des litiges
21
CONSTANS,op.cit.(note 01).
92
a-1) 顧客との関係
調停人という第三者の介入により、消費者に有利に企業側との関係を調整することがで
きる。関係する企業および行政サービスの外から、調停人は事業者と消費者との間の力関
係を変え、消費者に競争と公平性の保証をすることができる。これは紛争解決の手段だけ
でなく、企業に対する消費者の信頼を増幅させる点で有効である。
a-2) 独立した調停人の必要性
独立の概念は相対的、調停人は強い信頼性を有していなければならない。この信用は、
その権威および権限に対する人的な信頼であり、調停人は匿名のサービスではなく、請求
者が名宛てをし、企業が紛争解決について信頼するものである。
調停人の信用にとって重要なのは、調停人の任命方法、委任期間、報酬の条件などであ
る。
たとえば、消費者団体は調停人の任命手続に参加しており、これによって調停人の任命
についての公平性が保たれているといえる。また、調停人はその企業から賃金を受けるも
のではない。
a-3) 効率性の必要
調停は消費者にとって無料であり、調停へのアクセスは容易でなければならず、過度に
形式を要求するべきでない、これによって調停制度の実際上の効率性が高まる。
また、調停は迅速に行われるべきであり、数週間あるいは最大でも数ヶ月程度で紛争解
決に至ることが望ましい。
紛争が法に基づいて、かつ衡平に基づいて解決されることが重要であり、納得のいく説
明も必要である。
調停案が消費者にとって望ましいものであれば、それを速やかに実行することが望まれ
る。他方で望ましくない場合には、裁判所に訴訟を提起する可能性を残すことが重要であ
る。
b) 消費者 ADR に関する問題点
b-1) 調停人の数等
2006 年の報告書の段階では、100 人程度の調停員が1年に 1000 以上の請求を扱い、場合
によっては数千の場合もあるとしている。現在では、いくつかの調停人はインターネット
による受付も可能(MINEFI, Ville de Paris, mediateur du Net)であり、ネットを利用
することで調停人の管轄外の紛争を行うことができる。
一般的には、調停は満足を与えている。しかし、小さな紛争もあれば、大きな紛争もあ
り、統計だけから有効に調停制度が機能していると判断するのは慎重であるべきである。
特に大きな紛争において消費者の満足のいく解決がなされているかが重要である。
b-2) 消費者に対する情報提供が不十分な点
93
現在の調停制度については、いまだ消費者からの認知が十分とは言えない。
企業のサービス部あるいはクレーム取り扱いセンターと調停人の関係が不明確であり、
また、調停人の公平性が保たれているかについては、調停人が企業外の人間であるとはい
え企業の側におかれているように思えるため、そのことが消費者に不信を与えている可能
性もある。
b-3) 時効との関係
調停人が取り扱っている法的紛争に関して、調停人は、調停の間に時効期間の停止が生
じないという問題で困難にぶつかる。時効期間が短い場合、調停の実現は困難であり、顧
客が訴訟提起をあきらめるのでなければ、時効期間内に結局訴訟提起をするほかない。
法はときに、調停の間における時効期間の停止を規定している。2001 年のMurcef 法に
よる適用を受ける銀行の調停人に関してである。同法は、消費者保護の目的のために金融
商品販売における透明性の確保や調停手続の容易な利用を定めている。
そのうえ現実には、調停人はしばしば、調停の間は紛争に関連する顧客あるいはユーザ
ーとの間で新たなイニシアチブを企業がとらないことを知っている。調停人の行えること
は、法的拘束力のない一時的かつ自発的なアレンジメントしかない。しかし、調停提起に
よる時効期間の法的停止はつねに望ましいわけではない、たとえば調停の訴えが詐害的あ
るいは悪意に基づくような場合である。
5.
ADR 機関の具体的内容―調停
5.1 調停機関のあり方
特定の企業や事業者団体には、調停人という紛争解決の機関が置かれて、消費者問題の
処理を行っている。代表的なものとして、企業に設置されているのが、電気(EDF)、ガス
(GDF)、鉄道(SNCF)、金融機関など、事業者団体に設置されているのが、訪問販売連盟
(CPMVD)、保険会社連盟(FFSA)などがある。その他にも上述した地域の消費者紛争を解
決するために設置されたイル・エ・ヴィレンヌ県などの消費者紛争処理委員会(CRLC)や、
インターネット上の民事事件のみを担当する、オンライン和解調停システム(Médiation)、
経済財政労働省競争・消費者・詐欺総局(DRCCRF)が運営する私書箱 5000 や、裁判官に任
命される和解調整員制度が挙げられる。これらの中にはいわゆる行政型 ADR 機関ではなく、
事業者団体が自主的においているものもある。22しかし、こうした機関が設立された経緯
には、少なからず DGCCRF が主導的な役割を担っていた。
DGCCRF 自体も全国から消費者の苦情を受け付けているが、受け付けた苦情は民事問題と
刑事問題に分類し、民事事件の場合は解決する手段として私書箱 5000、消費者団体、和解
調整員、簡易訴訟、裁判を紹介して、実際的な作業は行わない。刑事事件の場合は検事に
22
前述の各調停人の報告書等を参照されたい。ただし、金融分野については調停手続の設置が法律により
義務づけられている。
94
行政が訴追を行っている。
5.2
調停手続
5.2.1 調停手続の開始
消費者が企業の提供する物品・サービスに不満がある場合に調停手続を開始するには、
以下のようにすすめられる。
まず、消費者が消費者団体もしくは当該企業の相談窓口に対して紛争解決に関する相談
をする。その際に、問題となっている企業に調停人が存在する場合には、消費者団体は裁
判以外の手続として調停手続を示す。そこから、消費者が調停手続開始を選択した場合に
は、消費者団体から調停人に対して調停手続の開始を申し立てる。CPMVD や FFSA は消費者
が当該企業の窓口へ苦情の申し立てを行っていることを前提に受付をすることとしている。
一方、CRLC やオンライン和解調停システムのように、消費者団体や企業を通さず、消費
者が最初から調停機関に苦情を申請できるものもある。
基本的には消費者側からの申立によって、手続が開始されるが、企業からの申立が特に
排除されているわけではない。また、消費者団体からの申立が認められているほかに、共
和国調停人からの申立によって手続が開始される場合もある
5.2.2 対象となる紛争
紛争の当事者たる企業に調停人が置かれている場合には、その企業に関する消費者紛争
が対象となる。特に対象となる紛争は調停人がある企業およびサービスによって決定され
る23。調停機関が事業者団体に置かれている場合は、基本的にその事業者団体に加盟して
いる企業に関する消費者紛争が対象となる。しかし、CPMVD の場合は、訪問販売連盟に加
盟していない訪問販売会社に関する消費者紛争も扱っている。FFSA にはフランスのほとん
どすべての保険会社が加盟しているが、FFSA が扱うのは当該保険会社と消費者の交渉が決
裂したものだけである。保険会社が独自の調停機関をもっていて、そこで解決が図られる
場合もある。オンライン和解調停システムのようにオンライン上の民事訴訟や、CRLC35 の
ようにル・エ・ヴィレンヌ県24の消費者紛争といった特定の対象を設定して設立されてい
る場合は、その範囲内で発生した消費者紛争を担当することになる。私書箱 5000 は届けら
れた苦情のうち民事事件のみ、和解調整制度では民事事件のうちで家族問題、労働問題を
除いた案件を扱う。
調停手続きの対象となる紛争については、調停人ごとに毎年統計が発表される。調停制
23
一例として、2006 年度に SNCF の調停人が担当した紛争類型および割合を以下に示す。運賃の払戻に関
するもの 9%、運行の遅延に関するもの 14%、サービスに関するもの 7%、インターネットに関するもの
9%、運賃設定に関するもの 6%、不正行為に関するもの 50%、その他 5%。Médiation SNCF rapport annuel
2006.
24
CRLC35 の場合は、消費者若しくは業者がル・エ・ヴィレンヌ県に住居ないしは会社を置いていること
が要件となっている。扱うケースの80%は両者が同県に住んでおり、残りの20%は業者が県外に会社
を構えていることが多い。これらの多くはインターネット、電話などの通信会社に多い。消費者が県外に
住んでいることは殆どない。
95
度の存在は徐々に市民に浸透してきており、年々件数は増加している。申立て件数が多い
ものとしては 4628 件(2007 年)を受け付けた郵便局調停や、4095 件(2007 年)を受け付
けたインターネット和解調停システム、1712 件(2005 年)を受け付けた電気ガス調停など
があげられる。とはいえ、消費者紛争全体における割合としては決して多いとは言えない
と考えられる。フランスでは、伝統的に紛争解決を裁判で行う傾向にあり、裁判手続きに
おいて和解に至ることはあるものの、最初から紛争解決を和解などで行うことは少なかっ
たことが背景にあると考えられる。
問題となるのは、濫用的な訴えに関する特別な規定がないことである。もっとも、調停
手続きによっても、法的拘束力はないために、調停手続きの濫用はほとんどないと考えら
れている。
5.2.3 手続きの方式
手続きの方式はガス、電気などでは法定されており、書面により行われる。口頭での手
続きは行われていない。一部の調停制度に関しては、インターネットによる調停手続きも
認められており、相談数の増加の一因とみられている。オンライン和解調停システムでは、
全ての手続きがオンライン上で行われる。
CPMVD は訪問販売連盟の倫理規定に規定されており、具体的な手続きについては CPMVD
内部規定が制定されている。FFSA は 1993 年に調停人憲章を制定し調停人を認可している。
FFSA に加盟する企業は自動的に同憲章にも加入することになっている。CRLC35 は 1994 年
12 月 20 日の政令(arrêté du 20 décembre 1994 modifiant l’arrêté du 21 février 1987
portant création des comités départementaux de la consommation)によって成立し、
現在は Arrêté du 25 mars 2005 portant création et fonctionnement des commissions de
règlement des litiges de consommation によって規定されている。オンライン和解調停
システムは法務省の要請でインターネット上の権利に関するフォーラムが 2004 年、インタ
ーネット上で生じた紛争をインターネット上のみで完結して解決する基本要綱を策定した。
また、和解調整制度はデクレ(Décret no 96-1091 du 13 décembre 1996 modifiant le décret
no 78-381 du 20 mars 1978 relatif aux conciliateurs)によって活動が規定されている。
一方、私書箱 5000 を制度的に支える法的な規則はない。
5.2.4 手続きの費用
調停に関する費用はすべて無料であり、費用については調停制度を設けている企業や事
業者団体の負担となっている。企業や事業者団体にとっては、調停制度を設けていること
がイメージアップにもなるために、このような負担をしている。また CRLC35 は国と市・県
から 1/3 ずつ援助を受け、オンライン和解調停システムは公的資金(経済財政省)で運営
されている。私書箱 5000 では、消費者団体のボランティアに一つの案件を受け持つごとに
20~30 ユーロの少額の助成金が支払われる。
5.2.5 手続きの方法
96
CRLC35、ガスなどは、一般的には企業側、消費者側それぞれと個別尋問の形式をとる。
調停人は、個別に言い分を聞いた上で、必要な限りで調査をした上で、双方に紛争解決案
を提示する。FFSA では全ての過程を手紙で行い、実際に当事者と面会することはない。
FFSA、CPMVD、オンライン和解調停システム、私書箱 5000、和解調整制度のように一人
もしくは一団の調停人が一つの案件の業務の全てを担う場合と、CRLC35 のように判断を下
す調停機関と、実際の調査をする報告人というように役割が分担されている場合がある。
和解調整員と異なる点は、和解調整員が和解案の提示をしないのに対して、ガス、電気、
FFSA、CRLC35 など調停人は調停案を提示する点にある。
判断の基準は、法および公平に基づく。もっとも、法律の解釈が問題となる場面におい
て、調停人が法律の解釈をおこなうことはない。
5.2.6 手続きへの協力
調停は自発的に行われるものである。裁判外での紛争処理手続きについて企業側に応じ
る義務であるとか、協力義務は課されておらず、応じない企業に対するサンクションも課
されない。もっとも、もともと企業が調停制度を設置している場合は、拒否するケース自
体がない。一方、CPMVD のような事業者団体が設置した調停機関においては、加盟企業は
協力的とされるが、非加盟企業を扱う場合は協力が得られない場合も多い。CRLC35 や和解
調整制度などでは企業の全面的な協力が得られなくとも、手紙などで通知をするなどして
手続きを継続できる仕組みもある。前提として、消費者、事業者とも手続を取るか否かは
自由であり、企業側から手続きが開始された場合であっても、消費者がこれに応じる義務
はない。ただし、前述のとおり FFSA については手続きの協力が義務付けられている。
5.3
調停人
調停人は企業外から中立的な立場の法律の専門家が選ばれる。調停人の立場は、法の解
釈を行うことではなく、公平性に基づいて紛争解決に助言を与えることにある。
5.3.1 調停人の選択
消費者が調停人を選択することはできない。SNCF に関する紛争であれば、SNCF の調停人
が手続きをすすめる。各調停機関において調停人はあらかじめ選任された者が務める。調
停人は基本的に中立的な立場の者が望ましいとされ、CPMVD が法学の権威の大学教授を議
長に据えたり、CRLC35 では県知事が議長・副議長・陪審員を認可し、和解調整制度では裁
判官が各地域の担当の調整員を任命することで、権威付けを得ている場合もある。FFSA 調
停人は官(消費者法典に基づく公的機関)経(金融機関と顧客間の問題を検討する公的委
員会)保険(FFSA)の代表者から満場一致で選出されることで権威が保障されている。オ
ンライン和解調停システムの調停人は上部機関の“インターネット上の権利に関するフォ
97
ーラム”(国務院メンバー(Conseil d'Etat)25の会長に能力と経験に応じて任命される。
手続き中に調停人を変更することはできない。もっとも、調停制度を利用するかしないか
は自由なので、消費者の意に沿わない場合には別の手続きをとることは可能。
調停人はすべての調査を自発的に行うことが可能であり、特に義務はない。
5.3.2 調停人の守秘義務
調停人には当然に守秘義務が課せられている。
5.3.3 調停人の人数
ガスなどでは各企業、事業個体に 1 人の調停人。それに加えて 2、3 名の補佐がつき、一
つの紛争に関して何人が関わるかについての規定はない26。それ以外では CPMVD は議長、
企業側代表 2 名、消費者団体代表 2 名の計 5 名、FFSA は調停人、秘書官、助手、第二助手
の計 4 名の体制となっている。CRLC35 は議長、副議長、陪審員 6 名、報告人 7 名、秘書 2
名の体制、オンライン和解調停システムは調査主任、秘書官 2 名、補佐の計 4 名の常駐勤
務者、私書箱 5000 は各地域に秘書が 1 名と 6~10 名の消費者団体の代表がボランティアで
案件を担当しあい、和解調整制度は、地域ごとに無償ボランティアの調整者が配置されて
いる。
5.4
手続きの終了
5.4.1 調停案の提示
調停案は必ずしも調停人だけが作成するのではなく、当事者が自主的に和解に至るよう
に導くのも調停人の仕事である。調停案を作ると調停人は双方に調停案を提示する。双方
が納得すれば紛争が解決に至り、和解証明書を発行する機関もある。CPMVD、FFSA は和解
の内容を書いた和解議定書をつくり、当事者が署名をする。納得されない場合であれば、
調停案を修正することもある。
調停案で紛争解決に至らなかった場合、CMPVD、CRLC35、和解調整員は和解不成立証明書
を発行する。その後に、裁判で紛争解決をすることになった場合、その証明書を証拠とし
て提出することができる。その際、企業が和解調整機関に対して非協力的な態度をとって
いた場合、不利に働く可能性がある。裁判に進んだ場合に、調停人が裁判費用を援助する
ことは原則的にないが、訪問販売連盟では非加盟の悪徳企業に対する消費者の訴訟を資金
援助することが稀にある。
25
国務院は行政訴訟における最高裁判所機能(訴訟部)と政府提出法案や法律問題における政府の諮問機
関機能(行政部)をあわせもっている。
26
2008 年 2 月の SNCF の調整制度に関する調査よれば、同調停制度には計 5 人のスタッフが調停にかかわ
っているようである。
98
5.4.2 結果の公表
毎年、各調停機関でどのような紛争を処理したかの結果を公表している。特定の企業名
などの具体名まで記載しないが、消費者に注意を呼びかけるために統計データや業種など
の掲載を行っている機関が多い。FFSA は年報で紛争案件の概観と分野、保険の種類等の統
計は公表しているが個別案件は公表していない。CRLC35 は年報で報告人、両当事者が参加
したか、どのような解決案が示されたか等を個別案件毎に公表しているが、企業名はなく、
業種のみの記載となっている。オンライン和解調整システムは悪意のある企業であっても
会社名は発表しないが、どのようなセクターかは記載するとともに、DGCCRF に通報してい
る27。和解調整制度はインターネットでの年報の参照が可能である。
5.5
調停制度に対する認識
5.5.1 行政からの評価
十分に利用されているとは言えない現状ではあるものの、現行の調停制度に関して大き
な問題はなく、行政型の ADR 機関を特に設ける必要性については論じられていないのが現
状である。
裁判外の紛争処理制度に関してはまだまだ社会に浸透しているとは言えないため、消費
者問題について行政の側から認知を促す働きかけをする必要はあるといえる。
調停制度の発展によって、フランス人の伝統的な考え方が徐々に変化していると考えら
れる。未だ ADR の評価に関しては今後の展望を待つ必要がある。
2008 年 2 月に行った DGCCRF での調査においても、行政機関の役割は消費者問題に関す
る公法的問題、すなわち刑事罰や規制に関するものに留まり、民事紛争に対する介入には
消極的であるように見られた。もっとも、消費者問題に対する行政の関心は高く、とりわ
け消費者団体訴訟については詳細な説明を受けることができた。したがって、目下のとこ
ろ、消費者紛争における行政の役割としては、訴訟における紛争解決を整備することにあ
り、ADR のような裁判外の紛争処理手続きについては、民間主導に委ねられていると見る
ことが可能であろう。
5.5.2 消費者からの評価
公共サービスに関する調停については徐々に認知されており、妥当な紛争解決がなされ
ている。問題の解決も衡平・独立の観点からなされている。
SNCF の調停については、調停人による紛争解決案について 76%が肯定的な評価をしてお
り、全体の 51%が完全に満足をしているという調査結果も出ており(2006 年のデータ)、紛
争解決手段として機能していると考えられる。
5.5.3 消費者団体からの評価
27
所在不明の悪徳企業の場合、リストを整備しており、申請そのものを受け付けず直接 DGCCRF に通報し
ている。
99
2008 年 2 月に行った、ORGECO での調査では、消費者 ADR についての認識が十分ではない
ことを課題に挙げながら、紛争解決手段としての ADR、とりわけ調停手続に対する高い評
価を聞くことができた。
伝統的に訴訟による紛争解決を好むとされるフランスにおいて、近年徐々にではあるが
ADR 手続の利用が増加している背景には、裁判による時間的および金銭的コストの問題が
挙げられていた。現在のフランスの調停制度は、公的サービスを提供する企業が自主的に
調停人をおき、消費者との紛争解決を図っているものであり、裁判による紛争解決で問題
となるコストを避けることを可能にしている。もっとも、フランスの制度は各企業ごとに
存在するものであり、あらゆる消費者紛争を処理する性質のものではない。この点につい
て、ORGECO での調査では、特に消費者紛争を包括的に処理する機関の必要性についての回
答はなかった。現在の制度が個別の紛争処理として有効に機能している一方で、今なお、
訴訟を好むフランスの伝統が残っていることが背景にあるようにも思える。
行政型 ADR 機関に関しても、行政の役割は消費者紛争を民事的に処理するものではない
という前提があることから、こうした機関自体の必要性については否定的であるように思
えたが、一方で、消費者問題について、規制などによる行政の関与については肯定的であ
った。
6.
まとめ―フランスにおける消費者 ADR
行政庁が直接設置する ADR 機関は存在しないものの、行政庁が主導的な役割を果たして、
各地方にボランティアによる ADR 機関が設けられ、あるいは企業ないし企業団体に ADR 機
関が設けられ、それぞれの裁判外紛争解決手段が活発に機能している。裁判所においても、
事件処理の過重負担を背景に、裁判外紛争処理手続の導入と活用が進められ、一定のプレ
ゼンスを得ている。これらは消費者紛争の分野でも、その主要な解決手段の一つに位置づ
けられるようになってきた。もっとも、フランスでは伝統的に紛争解決を裁判に委ねてい
たため、裁判外の紛争手続が一般化するにはなお時間がかかると思われる。消費者紛争の
ための ADR も、紛争の数の多さと比較すれば、普及の余地はまだまだ残されており、消費
者に対する広報やアクセスしやすさ、それに信頼性や効率性などについて、なお改善の余
地がある。
一般には ADR に対する評価は概ね肯定的であり、また民法典改正において時効の停止が
議論されているなど、ADR は注目されており、今後の発展が期待される。
100
[参考資料]
(以下、内閣府による現地調査記録、2007 年 10 月)
DGCCRF Ile de France-Paris
経済財政労働省競争・消費者・詐欺地方局イル・ド・フランス県およびパリ市担当
於:DRCCRF Ile de France-Paris オフィス(パリ市3区)
相 手 : Pierre Gonzalez イ ル ・ ド ・ フ ラ ン ス 広 域 局 長 ( Directeur Interregional
Ile-de-France)
1.
DGCCRF の任務、監視領域
・ DGCCRF(競争・消費者・詐欺総局)は、1)競争、独占禁止法、合併、2)価格・不
当廉売、詐欺、3)消費者安全(食品を含む)
、という大きく3つの分野を担当してい
る。
・ 消費者問題に関しては刑事と民事がありうるが、DGCCRF に寄せられる消費者からの苦
情のうち、民事事件に関する問題に対しては、どのような解決方法があるか情報を提
供するのみ。刑事事件の場合は検事に行政が訴追を行う。基本的に行政は罰(penalize)
を与えるというのがフランスの文化。一方、アングロサクソンは基本的に民事の文化
と言えるが、フランスでも民事問題が増えている。
・ DGCCRF のスタッフは全国で 3500 人。100 人がパリ市内に駐在。
2.
DGCCRF に対する苦情の申し立て
・ 毎年当局(Ile-de France)に送られてくる苦情相談の数は年率 20%と急激に増えてい
る(資料参照:2006 年 2 万 1 千件、2007 年 2 万 8 千件(推定))。
・ その 3 分の 2 が民事紛争であり、3 分の1が刑事紛争である。
・ フランス全体の苦情の 37 パーセントがイル・ド・フランス県(パリを含む)に集中し
ている(会社がパリにあることが多いため。例えば、フランスの税金収入の 52 パーセ
ントがパリ地域圏に集中しているため、必然的に係争相手の数もパリに集中している)。
・ このような現状を放置すると消費者の業者に対する不信感を募ることになり、消費活
動そのものを停滞させかねない大きな問題になる(消費者は買わない、または安いも
のだけを買うという選択をしうる)
。更に、国際化が進む中、他国への申し立てができ
ないとなると、国内製品のみを消費しようという動きが生じ、経済、消費の国際化を
妨げることになる(インタビューでは問題にされなかったが EU 圏の紛争の調停を扱う
団体もある)
。
・ これらの問題を解決するのは非常に難しい問題であり、ゴンザレス氏も 30 年近くこの
仕事に携わっているが複雑であるが、少なくとも訴える場所(DGCCRF なども含め)が
必要。
・ 苦情の数が急増している主要な原因が幾つか考えられる。
101
1.DGCCRF がインターネットによる苦情の受付を開始したこと。手紙を書くよりも簡
易であり、より簡単に苦情を訴えやすい。
2.通信販売の数が増えたため、商品に問題があったときに今まではすぐに販売者に面
と向かって苦情を言いに行くことができたが、それが出来なくなったため(顔が見
えないと感情的になりやすい)。
3.苦情を訴えようとして電話になるが、実際に電話をしてもオペレーターに繋がらな
い。またはたらいまわしにされる。
⇒結果的に苦情を訴える相手がいない、若しくはつかまりにくくなった為、CCRF
に苦情が集中するようになった。
・ 最近の大きな問題としてインターネット業者と携帯電話会社がある。
(CCRF が取った処
置として)オペレーターに繋がるまでの電話料金を無料にさせた。そもそもおそらく
業者と電話が繋がって話ができることだけによっても苦情は 3 分の 1 に減るのではな
いかと思っている。
3.CCRF に来た苦情、紛争の処理手続き
・苦情は概略、以下の通りで行っている。
1.民事問題か、刑事問題か振り分けられる。
2.消費者に連絡をする。
a. CCRF の管轄外の問題(民事・刑事/既に特別な調停機関が存在する案
件、例えば EDF フランスガス会社, SNCF フランス国鉄, Poste 郵便局,
保険会社など)の場合は 6 日以内に消費者に連絡をする。
b. CCRF が刑事法的に問題とする係争の場合約 6 週間以内に消費者に連絡
をする。
c. 民事問題の場合、CCRF の仕事はあくまでも消費者に紛争の解決手段を
提示するだけであり、実際的な作業は行わない。
・一般的に民事問題に関する解決方法は以下の通りで、民事問題の苦情の場合、それを提
示する(ただし、裁判をした方がよい等、どれがよいとは言わない)
。
a. 私書箱 5000
b. 消費者団体(ULC など。ULC は 40 の地方支部がある)
c. 和解調整員(la conciliateur de justice)
d. 簡易訴訟(4000 euro 以下の係争のみ)
e. 裁判(4000 euro 以上)この場合弁護士や執達士との手続きが必要になる。
・ 民事問題の情報提供をする人員はパリで 4 人。フランス全土で 100~200 人程度。
・ それ以外に電話や手紙の処理をする人がおり、当局では 2~3 人。
4.Boîtes Postales 5000 (私書箱 5000)
・ 1975 年に設立。その後益々増える係争(民事裁判のみ、刑事裁判は扱わない)に関す
る消費者の問題に対してどのような解決方法があるか検討した結果、生まれた制度。
102
・ この制度に法的な規則はなく、
「手作り」で非常にシンプルな方針に則った制度である。
・ BP5000 の直接の担当者はパリで1人(各地域一人が普通)
。
・ BP5000 は消費者から受け取った苦情を消費者団体と業者の代表者による会議を開催し
て、誰が処理するかを決め、案件の解決を促すという自発的な制度だが、実際には業
者側の会合への参加率は低い。
・ 一週間に一度開催しており、6 人~10 人の消費者団体などの代表者(全てボランティ
ア)が集まり、Boîtes Postales 5000 に宛てられた苦情を秘書が読み上げ、団体の人
が自分で担当してもよい案件を選ぶ(手を挙げる)。この担当者が解決案を模索するこ
とになる。
・ こうした制度があることは消費者に積極的には広報をしていない(ただし、DGCCRF の
HP には制度の概要は載っている)。広報をすると多くの案件が集まりすぎるのを避ける
ため。非常に簡単な制度だが、30 年間の運営はボランティアにより支持され非常に上
手くいっていると評価している。
・ 具体的な数はないが、ここで扱われた係争の半分くらいは解決策が見つかっているの
ではないか。
・ 二年前(2005)は約 1500 件の係争が送られてきたが、去年度(2006)は激減して 350 件
になった。理由は去年までは DGCCRF の寄せられる係争に係わる問題は全て Boîtes
postales 5000 に転送されてきていたが、昨年からは転送しなくなったため。
・ フランス全土には 100 県があるが、現在 47 県に設置されている。
・ 本制度は公共性をもっているので、一件につき 20~30 ユーロの少額の助成金が案件を
扱う毎に手を挙げた者に支払われている。
・ 大臣によっては BP5000 という自発的制度よりも消費者専用の紛争解決システムを構築
しようとした人もあったが、今のところ、問題が複雑すぎてできていない。
5.和解調停制度(La Conciliation de Justice)
・ 和解調停人は 1978 年に導入された制度で実際の仕事は私書箱 5000 で団体の代表が行
っている作業と殆ど変わりは無いが、和解調停人は裁判官によって任命されているた
め、司法的権威が背後にあるという違いがある。
・ 私書箱 5000 とは違い、デクレ(Décret no 96-1091 du 13 décembre 1996 modifiant le
décret no 78-381 du 20 mars 1978 relatif aux conciliateurs)によって活動が規
定されている。
・ 事情に通じている必要があるため、殆どが定年退職した司法官や弁護士、または消費
者問題に関わったような公務員であり、全員無償のボランティア。全国で 300 名程度
がいる。
・ インターネットのサイトに調停人の名前と連絡先など詳細が載っているので自分の住
んでいる区・市を担当している和解調停人と電話で連絡をとり、面会することができ
る。
・ フランスの裁判制度は複雑で時間と経済的負担も大きく、判定も不確定要素が大きい
103
為、判事によって和解調停人を通した解決を勧められることもある。
・ 基本的に市役所に在駐している。
・ 消費者は無償で利用可能。家族問題(離婚など)、労働問題は扱わない。労働問題は労
働裁判所(prud’hommes)がある。
・ 紛争額が高くない場合は非常に有効な紛争解決手段である。
・ 調停人の年次総会(参加者約 200~300 名)においてゴンザレス氏は消費者問題を専門
に扱う調停組織を作ることを進言したこともあったが、調停者たちの激しい反対にあ
った。調停者が自らの仕事の領域を狭められることを好まなかったため。例えば、消
費者問題以外のみを調停人が扱うことになれば、今の扱う問題のうち、隣人問題など
に領域が限定されることになる。
・ 業者側は必ずしも資料や証拠の提出、出頭の義務はないが、万が一調停者によって解
決がなされなかった場合、調停者によって作成された証明書(和解の場合は和解証明
書、和解に失敗した場合は失敗したことを証明する証明書)が判事に提出されるため、
非協力的な態度は裁判の際に不利に働くことになる。なお、和解証明書は法的な拘束
力を持つ。
・ (事業者側が係争を持ち込むことはあるかとたずねたところ)、そのようなケースは滅
多にないが、業者側も係争をすることができるのではないか。
・ 調停人を選ぶ自由があるかどうかだが、消費者は自分の在住している区を担当してい
る調停人に解決を委託することになる。また方法なども調停者によって左右される。
・ ゴンザレス氏も一度調停をお願いしたことがあったが、和解までは一ヶ月かかった。
平均的解決時間はわからない。
・ 詳細、年報などはインターネットで参照可能。
・ 問題は消費者によく知られていないこと。
6.その他
・ 仲裁人(Médiateur)もいるが、これはフランス大統領に任命される一人だけであり、こ
の仲裁人は行政に関する係争(税金など)のみを扱う(le Mediateur d’Etat)。仲裁
者に任命された人が紛争解決を実際には行う。
・ フランス全県(100)にそれぞれ行政による消費者係争問題解決の委員会を設置しよう
とした何人かの大臣がおり、案件が提出された。しかし全てその大臣の在位中は検討
されたものの、最終的には大臣の退位と共に案件は頓挫した。
・ そ の う ち の ひ と つ の 試 み が CRLC ( Commissions de règlement des litiges de
consommation:消費者紛争処理委員会)の制度であり、成功したのはわずか二県のみ。
そのうちの一つがリル・エ・ヴィレヌ県(レンヌ)及びピレネー・オリエンタル県。
他では失敗したが、その原因は国半分、地方半分の財源案に反対意見が多かったため。
・ またこのような団体の成立にはその地方に有力な消費者団体の存在、そして民意の高
さが要求されるため、その条件を満たしたのが数県でしかなかった。
・ パリでは協力して運動する消費者団体がいなかったため、成功しなかった。
104
CRLC 35
(La Commission de reglement des litiges de consommation d’Ille-et-Vilaine)
消費者紛争処理委員会
於:Maison de Consummation et Environment
相手:Loic Alliaume MCE 会長、Henri Boulard CRLC35 副議長、Anne-Marie Girardeau 秘
書官
1. MCE について
・ MCE(訪問先の Maison de la Consommation et de l’Environnement)は 1901 年の法律
上の規定に基づく団体(association)。県庁に設立者と目的だけ申請すれば団体は設
立することができる。
・ MCE は消費者団体と環境団体を支援することを目的とする団体であり、団体の活動拠点
となるとともに市民に消費者・環境情報を提供することを使命としている。市から資
金援助を得ており、MCE の使っている建物を市所有のもの。家賃分を引かれて市から資
金が提供されている。
2. CRLC 35 の設立(資料参照)
・ 1994 年 12 月 20 日の法令(arrêté du 20 décembre 1994 modifiant l’arrêté du 21
février 1987 portant création des comités départementaux de la consommation)
によって成立(現在は Arrêté du 25 mars 2005 portant création et fonctionnement des
commissions de règlement des litiges de consommation によって規定)
・ 1995 年にフランス 100 県あるうち 10 県に実験的に CRLC が設置された。そのうち現在
まで CRLC が存続しているのはピレネー・オリエンタル県とレンヌのあるイル・エ・ヴ
ィレンヌ県の二県だけ。
(なお、35 とはイル・エ・ヴィレンヌ県の地区番号)
・ 2002 年に新しい試みとしてヴォージュ県に同様の委員会が新設された。これは現在も
運営されており、これを含めて全国に3つ。
・ 最初の一年間(1995 年)は実験的に国からの全額経済支援が与えられたが、二年目か
らは自ら財政支援を国以外からも得られない場合は国からの支援も打ち切ることにな
っていた。イル・エ・ヴィレンヌ県は幸いにして既に組織的で強力な消費者団体の自
発的、且つ無償の運動が盛んであり、かつ MCE のような拠点があったことが幸いであ
った。その為レンヌ市、リル・エ・ヴィレンヌ県に経済的援助を申し出て援助を得る
ことも出来、国とそれぞれ 1/3 ずつの経済的支援で運営されることで合意した。それ
以来同じ経済的負担率で現在に至っている。
・ なお、同県には私書箱 5000 は存在しない。その活動内容がほぼ同委員会と重なる為、
その存在意義がない。
・ 2006 年度は 25,000 ユーロで運営された。その内訳の 80 パーセントは人件費(一週間
に一度勤務する法学士、一週間一日半勤務する秘書官)。残りの 20 パーセントは諸経
105
費(郵送代、電話代、印刷代等)。なお、後述する議長、審判員、報告人は無償。実際
には 30,000 ユーロの予算が必要。詳しい内訳は別途資料参照。
3. CRLC 35 の構成(資料参照)
・ 県知事によって法的に地位を認められた議長(un président)、議長代理の 2 名。公正
さを保つため、中立的な立場を持っている人が選ばれる。現在の議長は司法官を退職
したミッシェル・ブラン氏である(3 期目)。
・ 消費者団体と業者団体から選出され、同じく県知事によって認可される 3 名づつの陪
審員(Assesseurs)。公正さを保つ為、全員同じ団体から選ばれないよう注意している。
事業者の 3 名は自動車業界(CNPA)、不動産業界(FNAIM)、小売業者の 3 者。
・ 消費者団体から選ばれた 7 人の報告人(Les rapporteurs)
。人数の限度は法令によっ
て定められていないものの、現在いる 7 人なのはそれ以上適任者を見つけることが出
来ないため。またその大半(6 人)は定年退職した消費者団体に属する人たちである。
残りの 1 人は以前労働組合運動に盛んに従事し、現在は消費者団体の運動に取り組み
つつ仕事もしており時間に余裕の持てる 53 歳の人物であった。(彼らの中に法学者な
どはいるかと尋ねたところ)、法律関係などを勉強したことがある人はいるが、すべて
そうである必要はない。そもそも報告者の仕事が非常に困難で根気と時間を要するた
め、必要な能力は法律的な専門知識ではない。また他に仕事を持っている人には勤ま
らないのが現状。
・ 報告人が業者の代表から選出されずに消費者の代表から選出されることによって、業
者からは反対意見が出たことはない<注:デクレの制度上は事業者側の報告人も置く
ことができるが、ここでは置いていない>。しかし一部の消費者団体から、そもそも
法的な解決を求めない非公式的「正義」
(和解という手法)は賛成できないとの理由で
委員会に協力をしない団体もあった(最大消費者団体である ULC-Que Choiser)。消費者
団体は消費者個人が訴訟をすることを手助けするのが本来の業務だという考えによる。
一方、当初は反対していた別の消費者団体に属する弁護士も委員会が提案する和解案
を消費者が望んでいる現状を見て意見を変えたところもある(労組系消費者団体で現
MCE 会長の出身母体)。
・ この委員会のメンバーは全員二年毎に再任ないしは新任される。その際、事務局で作
成した委員会の名簿が県知事へ渡され、認可されている。在任年限は制限されていな
い。
・ その他に事務を行う 2 名の秘書官がいる。
4. CRLC 35 の活動範囲(資料参照)
・ 扱う案件は、1)消費者若しくは業者がイル・エ・ヴィレンヌ県に住居ないしは会社を
置いていること、2)消費者問題であること(個人間は除外)、が必要。<注:デクレ
でもより詳細に CRLC で扱うことができる消費者問題の定義が ANNEX I.A に規定されて
いる。また ANNEX I.B で他の専門、地域、国の紛争処理機関がある場合にはそちらで
106
優先され、CRLC の秘書官は消費者に説明しなければならないとされている>
・ 扱う 80 パーセントのケースは消費者、業者両者共に同県に住んでいる。
・ 残りの 20 パーセントは業者が県外に会社を構えている事が多い。特にインターネット、
電話などの通信業界に多い。消費者が県外に住んでいることは殆どない。
・ 県外に拠点を置いている業者が召集に応えない場合は多々あり、その場合は和解調停
の場に来ないことも多い。しかし来ない場合も手紙で案件に対する当該事業者のそれ
なりの意向・見解が届くこともある。また遠いことを理由に来ない方が業者に都合が
良いのかもしれない。
・ 管轄外の場合は、その管轄の組織を紹介する。住宅の場合、各県に専門の委員会が存
在するためにそこで扱われる。郵便、保険なども専門機関があるため、そちらで扱わ
れる。また DGCCRF などへも紹介している。
・ CRLC 35 に寄せられる苦情の 10 パーセント(2006 年度)は裁判所から回送される案件
となっている。この数は消費者が書く質問用紙に記入欄があるので分かる。消費者が
CRLC 35 に来るのは裁判官からの勧め以外にも裁判所の受付係(同県では CRLC 35 の知
名度が割りと高い)、または市役所またはレンヌの CCRF の役員などから知らされてく
る場合もある。
・ 裁判所、ないしは市役所が CRLC 35 を勧める理由:係争額が小額であり、裁判にする
と余計な時間と費用が生じるため。または簡易裁判所や近隣判事(juge de proximité、
2002 年に制定された 4000 ユーロ以下の係争を扱う判事)などがその時に多くの問題を
扱っており、当該消費者の問題を扱えるようになるまで時間がかかりそうな場合は紹
介されている。
・ CRLC の委員会は裁判所や判事との交流をなるべく持つようにしている。今年も年度末
に例会を開くが、それに招待し、活動内容を知ってもらい意見交換などを行う予定。
2004 年度には個別の会合を開き、意見交換をする場が設けられた。
5. 実際の手続き(資料参照)
・ どのような消費者でも手紙で CRLC 35 に苦情を訴えることが可能である。
・ その方法は「単純、迅速、容易、無料」であることが重要である。なお、デクレでは
2ヶ月以内に処理することとされている。
・ どのような領域が多いか。
①
通信販売も含めた販売業
②
通信業界
③
手工業(この部門が非常に多い)
④
車の修理
⑤
金融
⑥
その他(料理、引越し、旅行業者、クリーニング)
・ 具体的な手続きは下記のとおり。
107
①
消費者からの手紙を受け取る。
②
消費者に質問用紙を記入してもらう(別途資料参照:この質問用紙に苦情の
詳しい情報が記される。また企業の苦情窓口とやり取りをしたか<注:デク
レでも議長が当該事項を確認するように求めている>、どこで CRLC 35 を知
ったか、等も記される)
。
③
秘書官が報告人(調停案作成者)を選定する(この選定が秘書官の重要な役
割であり、報告人の得意分野や性格をよく理解しておく必要がある)
。
④
消費者に報告人(調停案作成者)決定の手紙が送られる。
⑤
同時に業者に、どのような案件で、誰が苦情を訴え、CRLC 35 のどの報告人
が担当するか決定した旨の手紙が送付される。この時点ですぐに業者から和
解の提案をしてくる場合もある。ただし、家屋の建築や修繕などで複数の業
者が係わっている場合、業者の特定が難しい場合もある(業者が自分のせい
でなく、他の業者のせいにすることが多々ある)
。この場合業者の特定は報告
人の仕事になる。
⑥
報告人の調査。おおよそ 6 週間かかる。報告人が秘書官へ和解案を含んだ報
告書(Rapport)を提出する。尚、この調査にあたって、業者は必ずしも証拠
を提出する義務も、出頭する義務もない。法律によっても定められていない。
しかし非協力的な態度をとり、和解案に至らず、裁判をする場合、そのよう
な業者の態度が判事に報告される為、裁判では不利に働くことになる。また
同委員会が県知事に承認されていることによって公の力の権威付けがなされ
ている。
⑦
案件が予想外に大きな問題、刑事訴訟や多額の保証金を含んでいることが判
明した場合、調査は打ち切られ、その旨が消費者に知らされる(constat de
dessaissement)。その際、消費者がその後どこへ行けば良いか、紹介する。
⑧
報告書に記載された和解案を消費者及び業者が受託する場合もある。その場
合、両者が出頭する必要のない「単純和解(PS)Procédure simplifiée」とな
る。この際、報告人によって「和解証明書」が発行される(Protocolo d’accord
amiable)。
⑨
紛争解決委員会の招集。議長、陪審員 2 人(業者代表 1 人、消費者団体 1 人)、
報告人、秘書官、消費者、係争相手の業者(極稀に業者が弁護士同伴で来る
場合もあるが、業者が話し合いのつきたくないという意思の現れであり、CRLC
35 は当然あまり好まない)が集まり和解案を探る。陪審員が業者代表と消費
者団体代表それぞれ 1 人ずつ参加するのは公正さを保つためである。
(係争に
よっては消費者団体の代表者が業者を擁護し、業者代表が消費者を擁護する
場合もある。
)
⑩
和解案(Constat et preconisations)の提示。この和解案の有効期限は一ヶ月。
消費者、業者の両者が委員会にいる場合はその場で和解証明書が発行できる
が、業者は参加しない場合が多々ある。そのような場合でも委員会は実施さ
108
れる。また業者が参加できない場合でも委員会へ手紙で見解を知らせてくる
場合もあり、そのような時はその手紙の内容を尊重して和解案が模索される。
(CRLC 35 の委員会の意見では業者の参加が得られた場合はそれだけで和解
案が合意されやすく、参加を切に望んでいる。もし法的に参加が義務付けら
れるならばそれは好ましいとの見解)。和解案の期限が一ヶ月と規定されてい
るのも、業者が参加しなかった場合、郵送にて合意を得る必要があるからで
もある。
⑪
和 解 案 を 両 者 が 認 め る 場 合 、 両 者 が 署 名 し た 和 解 証 明 書 ( Protocole
d’Accord Amiable)を発行する。
⑫ 和解に至らない場合。和解不成立証明書(Constat de Non Conciliation)が
発行され、次の裁判へ行く際に提出できる書類となる。
⑬
秘書官がその後和解案の履行を確認する。
・ 留意点
①
消費者が争っている額は大半が小額の場合が多い。そのため、実際の調停に
おいては消費者が望んでいるのは賠償金ではなく、むしろ名誉の回復、憤り
を解消してくれる場を望んでいることが多い。このことを報告人(調停案作
成者)や委員会は承知しておく必要がある。
②
紛争解決委員会は一年に 7~10 回開催される。場合にもよるが一回に扱う案
件は 7~10 件になる。
③ 委員会は 14 :00~18:00 過ぎまで行われ、一件の和解調停は 30 分。その時
間に合わせて消費者と業者に召集の手紙が送られる。その間、両者は CRLC 35
がある MCE の建物の待合室で待つことになる。
④
履行されない場合は殆どない。委員会の和解案を遵守しなければならない法
的根拠はない。しかし委員会が国・地方・市の財政によって成り立っており、
知事によって認可されている為、公の力の権威付けがなされている。更に、
履行しないことによって裁判にかかると更に業者が不利な立場に至ることが
明白であるため。
6. 関係者の役割
(1)議長の仕事
・ 委員会の運営
・ 秘書官の仕事の監査
・ 消費者紛争解決委員会への参加(その際予め資料を知っておくこと、委員会が良い雰
囲気で過ごせるよう配慮する)
(2)報告人の仕事
・ 資料の調査。
109
・ 定期的に当該案件の消費者と業者と連絡を取る。
・ ある程度の法的な知識を必要とするが、法学者である必要はない。消費者は必ずしも
法律による解決を望んでいるわけではない。また法的に不明な点がある場合は秘書官
や法学士へ尋ねることが出来る。
・ 報告書を作成する。
・ 期限を守る。
(3)陪審員の仕事
・ 紛争解決委員会への参加(その際予め資料を知っておくこと)
・ 両者の主張を聞く。
・ 紛争のよりよい理解のために質問をする。
・ 状況を適切に判断し、和解へ至れるよう道筋を提案する。
7.結果(詳細は 2006 年度の年報 [Bilan annuel2006] 参照)
・ 1995 年 5 月~2006 年 12 月 31 日までに、同委員会は 1628 件の苦情を受理した。一年
平均約 135 件になる。
・ 内、19 パーセントは管轄外(例:住人または業者が同県に在住していない。専門の和
解調停委員会[保険、国鉄、ガス会社など]が既に存在する。民事ではなく刑事訴訟
の分類に入るものである)
・ 残りの 81 パーセントの内、全てが和解に至り、その和解案も履行されている。
・ 年報において、誰が報告人だったか、両当事者が参加したか、どのような解決案が示
されたか等を個別案件毎に公表(個別の企業名はないが、業界は記載)
・ 2006 年度に多かった案件はインターネット会社、電話会社のもの。ただし、誰に問題
を持ち込めば紛争解決できるかといった企業窓口が分かってきたので案件は処理しや
すくなった。
・ 事業者が地元でない場合、大きな企業の場合は地元の支社の関係者が出席することは
あるが、少ない。今度、珍しくボルドーからわざわざ委員会に来る業者がある。
以上
110
Le Médiateur de la Fédération Française de Sociétés d’Assurances (FFSA)
フランス保険会社連盟調停人
於:la Fédération Française de Sociétés d’Assurances
相手:Francis Frizon 調停人、Marie-Cecile LETZELTER 法務担当
1.FFSA 調停人の成立背景
・ 保険は契約をするものであり、契約は必然的に係争、苦情を生じさせる。
・ フランスでは 50 年前から保険業界も紛争が絶えないものとして非常に消費者から
の評判・イメージが悪かった。
・ 消費者の信頼を得られるよう処置をとる必要があったが、多くの保険会社社長は
第三者の介入を嫌う傾向にあり、調停人の設置には非常に長い時間と説得が必要
だった。
(銀行界では未だに自分たちに問題はなく、第三者の介入は不必要との立
場)
・ 最終的に 1993 年に当団体で「調停憲章(Charte de la Médiation)」(別途資料)
が制定され、調停人が認可された。
・ 1973 年に創設された行政の問題を共和国調停人(共和国オンブズマン・Médiateur
de la République)が最も古い調停者だが、FFSA の調停人も長い思考錯誤の結果
生じた今日社会的認知度の高い調停人となっている。
2.FFSA の構成
・ フランスにおける保険会社の殆ど全て(約 3000)の保険会社が加入している。
・ FFSA に加入している会社は「調停人憲章(Charte de la Médiation)
」に自動的に
加わることとなっており、その活動を認めていることが前提になっている。
・ 他にフランスに存在する 6 つの共済組合(相互保険会社)は FFSA に加入していな
い。
・ 上の共済組合は独自の調停人を保有している。
・ 合併しようという案も出ている。
3.FFSA の調停人(Médiateur)の選出方法と構成(詳細は「調停人憲章」参照)
・ 調停人は 1 人
・ 任期は三年・再任可能
・ 三つの機関の代表者から満場一致で選出されるため、官・経・保険からの権威が
保証されている。
¾
Institut national de la consommation の会長(消費者法典に基づく公的機
関)
¾
Comité consultatif du secteur financier の会長(金融機関と顧客間の問
題を検討する公的委員会。法令に基づき設置されている)
111
¾
FFSA の会長
・ 現在調停人二代目を勤めている Frizon 氏は保険業界と産業界の重役を歴任してき
た。
¾
当該保険協会の法律部長 15 年
¾
産業界の副社長(高級靴)
¾
保険業界の副社長
¾
保険業界(AXA)の子会社の法律関係事務局長
・ FFSA の調停人事務局の構成は 4 人(調停人、秘書官、助手、第 2 助手)。場合によ
り医学、法学の専門家の協力を得ることがある。
4.具体的手続き・和解に至るまで
【0.前段階】
・ FFSA の調停人に苦情を申し立てる前に該当保険会社との対話、説得、交渉など万
策を尽くすことが前提になっている。保険会社にとっても調停人は裁判前の最後
の手段であり、その前にあらゆる手段を尽くす必要がある。
・ FFSA に加入している各保険会社には消費者窓口の開設が義務付けられている。そ
れは調停人への係争が多くなりすぎない効果がある上、裁判に持ち込まれて顧客
との関係が終わってしまうよりも契約が続くことを前提とする関係を保つため。
・ 消費者から苦情が来た場合、直ぐに調停に移るのでなく、事業者、消費者両者に
手紙を出す。消費者には会社にまず連絡をしたほうがよいとして窓口の連絡先を
知らせる。一方、事業者には何が起きているか知らせるように会社の上層部に要
請する。
・ 各保険会社が独自の調停人を保有している場合があり、そこで和解交渉がなされ
る場合がある。
【1.消費者が手紙を書く】
・ 各保険会社との直接の解決に失敗した場合、消費者は FFSA の調停人に手紙を書い
てくる(通常、会社側から消費者の要求を拒否したとの内容であり、消費者が事
業者と事前に交渉したことが分かる)。なお、調停人に対する申し立てには決まっ
たフォーマットはない。
・ 全ての交渉は書面で行われなければいけない。
・ FFSA の調停人との連絡は全て書面(手紙)のみで行われる。消費者と保険会社の
代表、そして調停人が面会をすることも、一同に会して和解案を模索することも
ない。
【3.書類審査】
・ FFSA 調停人事務局が書類の審査を行う。
・ 書類の審査の過程で当事者に様々な資料を要求する(保険会社は6週間以内に情
報を返答しなければならない<憲章3条>)。特に契約書と両者のやり取りの手紙
を送るように要請する
112
・ 資料を要求する過程で、権利の有無が明らかになり、和解案に到達することもあ
る。
【4.和解案の提示】
・ ここまで来て和解に至らない場合は FFSA 調停人が和解案を提示する手紙を当事者、
保険会社へ送る(苦情受理後、3 ヶ月以内<憲章6条>)。和解案は事実に基づくも
のであり、法律上の権利も吟味するが、必ずしも法律上の義務の履行を迫るもの
に限定されない。和解案には消費者に義務はない、
・ FFSA 調停人の仕事はここまで。その後和解案が受託されるかどうかは両者の自由
な判断であり、和解証明書に両者がサインをすることもない。
・ 保険会社がこの和解案を受託しない場合、FFSA 調停人へ連絡が行われる。
(このこ
とはインタビューで Frizon 氏は触れなかったが憲章6条に記載されている。)
・ しかしその 98 パーセントは和解成立に至っている(これは年報を取りまとめる際、
案件がどうなったかについて質問表を各保険会社へ提出し、その回答からもわか
る。またその後被保険者から苦情が来ないことからも上手くいっていると推測さ
れる)。
・ つまり、和解案を出した 398 件のうち、和解案の 9 件は保険会社が拒否、2 件は一
部が履行され、2 件は被保険者が拒否した(2006 年度年報より)。
・ ごく稀に、被保険者から和解案が遵守されていないとの苦情の手紙が来るが、そ
の場合、すぐに該当保険会社に連絡し、だいたいすぐに履行される。
・ 年報には紛争案件の概観とともに統計でどのような分野、保険の種類の申立てが
多いかは公表しているが、個別案件は公表をしていない。
5.方針・原則・特色
・ 三つの自由がある。
①
仲介人に来る自由
②
法律に縛られない自由
③
解決案を受け入れる自由
・ それぞれの保険会社内にある相談窓口に行って万策尽きたときに訴える所
・ FFSA 調停人は判事のような役割を果たし、権威を持っており、裁判所へ行く前の
最後の砦として認識されている。
・ 和解での過程にて守秘義務は調停者、消費者、保険会社三者にあるが、法的な根
拠はない。あくまでも倫理・道徳を信用している。裁判所のように罰を下すこと
が目的とされるものではないので、弁護士や判事には伝えない当事者に不利な情
報が我々のところに伝わることもある。しかし和解を目指すことは闘うのではな
く、お互いにある程度納得できる解決方法を探ろうという善意、肯定的心情を基
盤としている。
・ 保険会社がそういった倫理を破ったことがあったが、その際、調停人から非常に
不服であるという旨の手紙を書いた。
113
・ 保険会社の契約の場合、商品の購入などと違い、被保険者と保険会社との付き合
いが続くことが前提にあるので、両者を納得させ、より良い建設的な関係を築く
ことが和解の目的となる。
・ 保険会社にとって信用問題が重要なため、和解案はほぼ守られる。
・ さらに仲介者が保険連盟の中では権威的な存在として位置しており、それぞれの
保険会社の重役とも関係があることも大きい。
・ 被保険者は無料。保険会社から連盟への会費によって実際は賄われている。保険
会社はそのお金を保険料を通じて消費者から得ていると言える。
6.その他・質問・今後の展開
・ 去年度苦情の数が激増したが、それはなぜか?また今後このような増加率をたど
った場合、4 人だけで処理し続けることができるか?
¾
激増した理由は年報にも書いてあるが、各保険会社に帰属している仲介人が
いて、その活動が今までは記載されていなかった為。去年から記載するよう
になった。その為、来年度もこのような増加率をたどることはない。一定の
数で安定している。
・ 保険協会の私書箱制度があるが、それと仲裁人制度との関係は?
¾
私書箱は割り振りをし、消費者に適当な相談窓口を案内するもの。通常は保
険会社の窓口を紹介する。
・ 各保険会社にもそれぞれの意識改革が現れてきている。以前までは仲介者のとこ
ろにくる苦情の多くは被保険者の優位的な解決案が提示されていたが、去年は 65
パーセントが保険会社に優位な解決案を提示した。それだけ保険会社が契約をき
ちんと履行しようとしている傾向にある証拠。
・ 実際には仲介者などは存在しなくていいのが理想だが、残念ながら自分たちの仕
事はなくならないと思う。
・ 保険会社側から被保険者に対して和解申請をすることは可能か?
可能だが、その場合被保険者の同意(調停人に持ち込むことに関する)が必要にな
る。保険会社は FFSA の会員であることで調停者の憲章を認可していて調停人制度
の席につく義務はあるが、消費者はその前提がない為。
以上
114
Le Forum des droits sur l’internet
インターネット上の権利に関するフォーラム
於:Le Forum des droits sur l’internet
相手:Marie-Francoise Le Tallec 事務局長(Secretaire Generale)
【Le Forum des droits sur l’internet の機構】
・ 背景
¾
急増するインターネット上の情報収集、交換する場が必要になってきたため。
¾
消費者を保護し、情報提供することが必要になったため。
・ 四つの任務
① 公、私的団体、企業のインターネットに関する規制や活動を報告し、議論する場を
提供する。
② インターネット利用者に有用な情報を提供する(150 の助言)。
③ ヨーロッパも含んだ大きなネットワークを作る(ベルギー、オーストリア、イタリ
ア、アンゴラなどと連携)。
④ 和解・調停制度を提供する
・ 予算:130 万ユーロ(注:インターネットのサイトには 114 万ユーロと記載されている)
¾
国(初年度首相府・二年度以降経済財政省)83%。
¾
登録団体からの会費 17%(団体の資産によって最低 100 ユーロから最高 1600 ユ
ーロまで会費が制定されている)
¾
会員は企業(Yahoo!、Google、eBay など)と利用者側代表という意味で消費者団
体、人権団体などの非営利団体などが加盟。会員数は現在、70。
・ 11 人の常駐勤務者がいる。
・ フランスでは国が機関を作ろうとすることが多いが、本機関は曖昧な組織とした(注:
ただし、以下の点から公的色彩を帯びている)
。
¾
国務院メンバー(Conseil d’Etat)が会長職に就いている。
¾
オンライン調停機関の代表は事務局長も兼任しているが、元々は首相府に勤めて
いた。
【Médiation について】
1.背景と成立
¾
2001 年:法務省からの要請でインターネット上の規制などについて報告書を作成
した際に、法務省からインターネット上の ADR をこれから作ることが急務である
ことを示唆された。
¾
2003 年:実際にあったインターネット上で生じた 100 件の紛争をケーススタディ
として利用し、オンライン ADR の枠組みを作る。
¾
2004 年:インターネット上で生じた紛争をインターネット上のみで完結して解決
115
する基本要綱を作成し、9 月にオンライン和解調停システムを立ち上げる。
¾
2006 年:欧州委員会にて効果的な ADR 機関の一つとして認知される。
(フランス
では他に 10 機関がリストに載り、いずれも既に 10 年来かそれ以上の活動をして
きた共和国オンブズマン、EDF、郵便局などである)
2.扱う紛争対象とその比率(2006 年年報より)
¾
民事事件のみ(5439 件申請があり、2355 件を受理(受理率 56.8%)
¾
B to C(92.8%):企業対消費者
¾
C to C(5.9%):個人対個人(消費問題:インターネット上での中古商品などの
売買や競売)
¾
P to P(0.5%):個人対個人(名誉毀損、著作権侵害など)
¾
NDD(0.8%)
:ドメイン名に関する紛争
¾
対象外:B to B(企業対企業)。しかし、有償にして事業化してはどうかという意
見は機構内にある。
¾
解決率は 88.9%。
3.予算と構成
・ 20 万~25 万ユーロで全額公的資金(経済財政省より)。
・ 4 人の常駐勤務者
① 調停主任(Chef de Mediation)(1 人):法学者、インターネット事情に通じて
いる。オンライン調停システムを立ち上げた本人。
② 秘書官(2人):法学者、インターネット事情に通じている。
③ 補佐(1 人):弁護士修習生、インターネット事情に通じている。
4.特徴
(ア)独立・自由
①
オンライン仲裁機関は 100 パーセント公的資金で成立している為、どこの企
業にも団体にも制約を受けない完全に独立した体制をとっている。
②
資金面では行政機関から全面支援を受け、共同規制機関といえる。しかし行
政機関ではなく、独立団体として活動しているため、ゆるい規制の中で自由
な活動が可能になっている(将来的には行政機関になっているかもしれない
とのコメントもあった)
。
③
DGCCRF などとは緊密な関係を持っており、頻繁に連絡を取っている。
(イ)迅速な解決
①
紛争の種類にもよるが消費問題は平均 3 ヶ月。1 日で解決する例もある。
②
インターネットプロバイダーとの紛争 3 ヶ月以上。紛争の多さとそれを受け
付ける企業内窓口の少なさが原因となっている。
116
(ウ)低コスト
①
コンピューターで紛争の振り分けが自動化されているため、そこで必要とさ
れる人件費と時間が発生しない。
(エ)容易なアクセス
①
インターネット上にある質問票をワークシート式で埋めていくことによって
簡単に申請ができる。
②
インターネット上のやり取りではすぐに領収書、書留証明書など必要書類を
スキャンして送ることが可能。
③ 自動的に管轄外のものは弾かれるようなシステムを構築中(ver4。近日中に
開始予定)。管轄外の紛争に対してはどこへ行けばよいか連絡がいくようにな
る。
(オ)満足度
① 和解案に至った 73 パーセントが「満足」、16%が「それなりに満足」と評価
された。
(カ)透明性
①
資金の調達先がどこか、紛争に関しては誰がいつどのような問題を提起して
いるか、紛争解決にどれだけ時間がかかっているか、一目でわかるなど、透
明性確保に苦心している。
②
機構が完全な透明性を保つことによって、公平性が生じ、信用を生むと考え
ている。
5.紛争数
・ 2006 年度:5,439 件、そのうち 2,355 件(43%)を受理。受理されなかったものは管
轄外など。
・ 2,355 件のうち 89%が和解案に至った。
6.紛争額の分布
¾
50 ユーロ未満:22%
¾
50-119 ユーロ:26%
¾
120-299 ユーロ:27%
¾
300 ユーロ以上:25%
7.具体的手順と問題
・ 全てオンライン上で行われる
(http://www.foruminternet.org/particuliers/mediation/)
・ 現在公開しているソフトは Version3。
・ 利用者はホームページ上の「和解」にある質問用紙を記入し送信する。
( http://www.foruminternet.org/particuliers/mediation/service-mediation.html
117
?i=1&mboFct=mfoFctSubscriptionPeople)
・ 調停者は当事者と事業へ連絡をし、二者が意見交換を出来るアカウントが作製される。
・ 自分のアカウントにて調停者と相手の 2 人と意見交換できる場で意見を書くことも可
能だが、調停者のみにメッセージを送ることも可能。これは家庭紛争の場を参考にし
た。
・ 新しいメッセージや和解案が提示されると指定のメールアドレスにすぐに連絡がいく。
・ 調停者は二者の資料を審査し、意見交換の推移を見ながら解決案へと促す役割を果た
す。
・ 意見交換を通じて解決案に至らない場合、調停者側から解決案を提示する場合もある。
8.オンライン紛争解決における諸問題など
・ あくまでも紛争の和解は平和的解決を望んでいるということが前提になっている。
・ 問題や喧嘩を起こしたいとは思っていない肯定的、積極的態度が重要。
・ 今まで身元証明や偽の証拠などが提出される問題は生じていない。
・ 法律の専門家ではないにしても、それなりに本物か偽者かわかるヒントは得られる。
・ 実績を見て法務省も E-justice について考慮の対象となっている。
・ 連絡先が不明な会社には二種類に分かれる。
— 詐欺を目的とする悪意ある会社。
z
欧州消費者センターや事情に通じている人と連絡を取り、所在を割り当てる。
z
そのような企業は会社名は明記しないが、どのようなセクターかは記して事
例を年報で報告している。また DGCCRF に連絡を取り、消費者に注意を呼びか
けるよう指摘している。
z
所在不明な悪質企業との紛争和解の申請があった場合、当該企業はブラック
リストに載せておいて、自動的に管轄外であり、DGCCRF に連絡するように消
費者に通知することにしている(ver4 の申請フォームから)
。
— 大企業で個人消費者との接触を避けるため連絡先を書かない会社。
z
こうした企業とは今まで紛争解決を仲介してきたことから Le Forum des
droits sur l’internet の中に直接の連絡先を把握しており、そこに連絡を
取ることとしている。
・ 結果的に多くの紛争を解決することは出来るが、完全に全てを解決することは不可能。
(所在が突き止められない企業など)
・ 一部の消費者団体はオンライン紛争解決に反対していた。
— 問題が起きたときに、ADR 機関などを通じて解決できるようになれば、消費者団
体の会員は消費者団体を必要とせずに、会員離れが生じ、資金面からも団結面か
らも弱体化するのではないかと危惧する声が聞こえた。
— 実際には相互に消費者の役に立ち、お互いの活動を補完することになるのだから
それは心配ないと説明している。実際にオンライン紛争解決に来た消費者を消費
者団体へと紹介したこともあれば、消費者団体からその会員を紹介された場合も
118
あった。そもそも ADR 機関は消費者の弁護人ではなく、紛争を解決に導くファシ
リテーターにすぎない。一方、消費者団体は消費者の弁護人という性格を有する
という違いがある。
9.ADR そのものに関する今後の問題
・ 和解調停を無償の場とするか、有償の場とするか、誰の為の調停なのか、などは今後
も議論が続くだろう。
・ フランスでは DGCCRF が調停は無償であるべきと決めたためにその方針に従っている。
—
国側の一部の意見として紛争を起こすのは企業なのだから企業が払うべきだとい
う主張がある。
z
それが例えば保険業界ならば一つの大きな連盟があり、問題の所在を突き止
めやすい場合は通用するかもしれない。
z
しかし、まず調停で解決できれば裁判所を使う必要もなく、裁判所を運営す
る費用も節減できる。また個人間紛争の処理費用を誰が負担するのか、とい
う問題もある。
z
またインターネット上には有象無象の会社が 3 万近く存在する。その中の連
盟で調停機構をつくろうとしても、連盟に属しない会社が必然的に多くなる。
そして連盟に属しない会社と消費者間で問題が起きた場合、誰が調停してく
れるのか?その費用は会員企業が負担すべきか、という問題が生じる。
z
更に国際間の紛争があり、それが欧州裁判所にかけるほど額が高くなかった
場合(実際当機関で扱う案件 1000 件のうち、ドイツ、イギリス、最近は中国
のサイトでも問題が生じており、100~200 件は海外のサイトである)、外国
の企業がフランスの消費者のために運営資金を投入してくれるとは思われな
い。
z
上の理由からも欧州でこうした機構を奨励していくことも必要になっている。
・ 基金をつくることも考えるべきか?常に問題となるのが財源である。
—
公的資金、私企業の資金を全て集めた基金を作り、そこに資金を投入している企業
に不利な和解が生じた場合でも、企業は資金を回収し、資金投入を止めることので
きないシステムが必要かもしれないが、それが可能か?
・ Le Forum des droits sur l’internet の調停員は選挙で選ばれたわけではなく、能力
と経験によって会長によって任命された。所属団体の代表によって選出される選挙方
式が良いのか、会長などから任命される方法が良いのか、わからない。
・ ただ、調停員とその機構に必要な要素は四つあるように思われる
— 独立性(私企業に従属しないこと)
— 自由(経済的に従属しない)
— 職業倫理を尊重できること
— 対象業界への深い知識
以上
119
Commission Paritaire de Médiation de la Vente Directe (CPMVD)
訪問販売に関する調停対等委員会
於:Fedelation de la Vente Directe(FVD)事務所
相手:Jacques Cosnefroy 事務局長、Blandine Roy 法務担当官
1.背景・理由
・ 訪問販売連盟(Fédération de la Vente Directe・FVD)、消費者団体、または DGCCRF
に寄せられる消費者からの苦情や紛争が増加に対して処理する必要が出たため。
・ 透明性を確保できるという観点から、近代的手法である調停機関を設置することに
決めた。
・ 1995 年 1 月、FVD 内に調停機関(Commission Paritaire de Médiation de la Vente
Directe・CPMVD)設置。
2.特色・活動
・ FDV の枠内に CPMVD を設置した目的。
¾
業界内で起こっている紛争の原因究明が容易になるため。
¾
消費者と企業のより良い関係を築くため。
¾
FDV が加盟企業の活動を監視、注意することが出来るため。
・ CPMVD は連盟の倫理規定(Code Ethique<Annex 参照>)3/3 及び 3/4 条に規定さ
れるとともに、具体的な手続きについては CPMVD 内部規則(Reglement interieur de
la Commmission Partitaire de Mediation de la Vente Directe)が制定されてい
る。
・ 2 ヶ月以内に紛争解決を試みることとしている(内部規則4条の3パラ)。
・ 行政とは密接な関係を持っており、DGCCRF と定期的かつ頻繁に情報交換をしてい
る(特に刑法違反を起こすような悪質事業者についての意見交換)
¾
但しその際は和解調停の間に得た消費者や企業の秘密は守る。
・ 独立・中立性
¾
独立性を保つため、CPMVD の議長は消費者団体でも企業団体にも属さない法学
の権威である大学教授が勤めている。
¾
議長に加え、中立性を保つため、企業側代表 2 名、消費者団体代表 2 名から
構成されている。
¾
資金も全額 FDV の補助により活動しており、消費者は無料。
・ 極力活動範囲を狭めない為に、契約内容に関する紛争から契約の履行に関する紛争
までを扱う。
・ 消費者は CPMVD のことを消費者団体、DGCCRF、広告、友達から知るが、最近一番多
いのはインターネットを通して知ることである。
・ 2006 年は 283 件の申し出があり、95~98 パーセントは消費者からの苦情の申し出。
120
・ そのうち 80 パーセントは消費者自らの申し出(それ以外は消費者がその前に
DGCCRF や消費者団体に持ち込み、紹介されて CPMVD に提案されている場合)
・ 283 件のうち、185 件を受け付けた。
・ 受け付けた紛争の約 3 分の 2 は FDV 加盟企業、残りは非加盟企業。非加盟企業に対
しても同じ手続きを行う。但し、FDV 加盟企業はその際に CPMVD の存在を認知して
いるのに対して、非加盟企業はそうではないのでその活動を認知してもらう必要が
ある。
・ FDV 加盟企業は手続きへの参加は義務であるが、CPMVD の審議に対して協力的。非
加盟企業は協力的である時とそうでない場合もある。(注:年報によると解決率も
加盟企業は 94%に対して非加盟企業では 73%にすぎない)
・ 和解調整機関は透明性を重視し、信用を獲得することが非常に重要。
¾
年報に以下のことを明記し、報告している。
—
資金の出所
—
どの立場の誰が委員会として活動しているかの報告
—
活動内容の報告
—
活動分野の報告
—
和解の数、種類、具体例などの提示
3.具体的手続き
・ 全て書面で行われる。消費者、ないしは企業が評議の場に立ち会うことは不可能で
はないが、今までそうした申し出はない。
・ 電話で受け付けた紛争も書面で送るよう伝える。
・ CPMVD の委員による合議制をとっている。
・ 状況によるが、大体二ヶ月に一回委員会が開かれる。
【前段階】
・ 消費者は当該企業の相談窓口への苦情の申し立てが行われている必要がある。これ
は義務。
【消費者が CPMVD に手紙を書く】
・ フォーマットも準備されているが、これでなければいけないことはない。
・ インターネットでも苦情の申し立ては可能。
・ 目的がはっきり銘記されている必要がある。また契約書・手紙(両者のやり取り)
など証拠も一緒に添付してもらう必要がある。
・ 消費者の主張が根拠のあるものでなければならない。
【CPMVD による書類の選別】
・ 当委員会で受け入れ可能な管轄内の紛争か、分類する(裁判に係争中の案件も除外)
。
・ 管轄外の紛争の場合はその理由を書いて消費者に知らせ、管轄の相談センター、裁
判所などを紹介する。
【CPMVD が手紙を出し、書類の審査をする】
121
・ CPMVD が書類の内容を分析し審査する。また企業側に当該問題にどのように対応す
る予定か明らかにするように連絡を行う。
【CPMVD が合議・和解案(avis formel)の提示】
・ CPMVD は和解案が作成せずに、和解案が両者から自然に出てくるよう促す役目も果
たす。流れから出てきた和解案も CPMVD が承認をする。
・ 法律を完全に遵守するか否かの解決案ではないが、また完全に無視するものでもな
い。また解決案には倫理的側面も加味する。
・ 消費者や企業にとっては議長が消費問題関係の権威者であることが安心を与えて
いると思う。
・ 和解案は CPMVD の五人が全員賛同したものでなければいけない。
【和解】
・ 両者が和解に至った場合は、手紙で当事者に二部ずつ「和解議定書(Protocole
d’accord)」が送られ、それぞれが署名をする。
・ この「和解議定書」が守られなかった場合は、この不履行を裁判所に訴えることが
可能となる(ただし、同じ事案の権利の可否を再び裁判で争うことはできない)
。
【和解に至らなかった場合】
・ 当事者両者に和解失敗通知書を送る。
・ FDV 加入企業に対してはその後どうなったか報告するよう伝える。
・ FDV 非加入業者などは返信のない場合があった。
・ 2006 年度の失敗に至った例
¾
5 件:消費者の主張に根拠がなく拒否
¾
2 件:より多額の罰金を要求する為、消費者が裁判を選択
¾
8 件:両者が和解案に納得できなかった
4.FDV に属していない非加盟企業に対する訴訟
・ FDV に加入していない悪徳企業を FDV が起訴することは非常に稀だが可能である。
・ 一般的には消費者を守るため、消費者が無償で紛争解決できるよう支援するために
訴訟をする。方法としては消費者と共に FDV が訴訟人となる場合と消費者だけが訴
えるのを金銭的支援する場合がある。
・ FDV が直接的な悪質企業の被害者でなくともどのような権利で訴訟できるか?
¾
フランスの司法の概念に「intérêt à agir(行動による利益)」があり、この
名の下にたとえ、FDV が直接の被害者ではなかったとしても FDV 非加入企業を
起訴することができる。
・ どこに「利益」があるのか?なぜ非加入企業を起訴するのか?
¾
消費者に対する不正、詐欺があることが前提。
¾
その上で FDV が訪問販売という職業分野(sector)が荒らされるのを守る利
益があるかが裁判所で議論されることになる。
¾
FDV が訪問販売というイメージ・信用を悪化させないために行っている行為。
122
・ 実際 2007 年 10 月 26 日現在、3 件が係争中である。そのうち一件は 2004 年から続
いており、二件は 2006 年に始まっている。
¾
具体例を、ひと言では言えないが「詐欺、偽口座、誇大・不正広告」が複雑
に絡まっている。2004 年の案件はローンを組まされるなど大きな被害になっ
た案件。
・ 損害賠償金を求めるわけではなく、行為の差止を求める訴訟。なお、賠償金を求め
る訴訟をできなくはないが、業界からしてみれば賠償請求は副次的な要求に過ぎな
いと考えている。
123
Annex : CODE ETHIQUE DE LA VENTE DIRECTE
3/3 La Commission Paritaire de Médiation de la Vente Directe (CPMVD)
La Fédération met en place une Commission Paritaire de Médiation de la Vente Directe
pour contrôler l’application du Code par les entreprises grâce à des actions
appropriées, et pour régler toutes les réclamations non satisfaites des consommateurs
concernant la démarche commerciale.
La CPMVD reçoit les plaintes et instruit les réclamations des plaignants suivant une
procédure établie.
Les plaintes sont traitées dans un délai de deux mois, et conformément à l’article
2.7, la prise en charge des réclamations est gratuite.
3/4 Les décisions
A l'occasion des litiges liés à l'application du Code, les décisions prises par la
FVD, les entreprises et par la CPMVD peuvent comprendre l’annulation de la commande,
le retour des marchandises, l’échange ou le remboursement, ainsi que toute autre
décision
appropriée,
incluant
des
avertissements
pour
les
vendeurs,
des
avertissements pour l'entreprise, l’exclusion de la Fédération et la publication
de ses actions dans son rapport annuel.
124