Newsletter4

文化・歴史・消費者
Newsletter
2009 年 2 月
第4号
消費文化史研究会
◆第四回会合報告
2008 年 12 月 27 日
「ファッション―流行は人を動かすか?」
発表者 眞嶋史叙(学習院大学)
コメンテーター 新井潤美(中央大学)
眞嶋氏の報告は、初期近代
から現代までの英国消費社会
の変遷を、ファッションをめぐる
文化史的考察と統計学的分析
を結びつける独自の手法を通
して検証するものであった。
まず、現代日本で流行してい
る「ファスト・ファッション」が、イ
ギリス消費社会の展開の中で
生じたことを指摘し、研究のア
クチュアリティを明示すると同
時に、「ファッション」を歴史の
中で多面的に分析することを通
して、従来の経済史の方法とは
一線を画する意図を述べた。
次いで、通時的な軸に沿っ
て、イギリスにおける「ファッショ
ン」と「産業」の結びつきについ
て、時代ごとに変容する様相を
指摘しつつ、いくつかの分析概
念を駆使しながら整理した。宮
廷から一般市民への「嗜好のト
リクルダウン現象」が生じた名
誉革命後のイギリス商業社会
に「ファッション」概念の成立を
見出すとともに、18 世紀後半、
服装の階級差が薄れ、流行メ
カニズムがビジネスとして「制
度化」された状況に、「ファッシ
ョン・サイクル」の起源を認める
意見を提示した。
さらに、既製服の普及とその
ファッション化の過程を消費文
化という観点から検証すること
で、これまでデザイナーの才能
の問題に還元されがちであっ
たファッションの近代史を、より
動態的な社会像を炙り出すか
たちで書き換えることができる
と論じた。19 世紀の高名なデ
ザイナーであるチャールズ=ワ
ース、20 世紀前半のマークス
&スペンサーなどの量販店、
第二次世界大戦後の貴族の主
導によるファッション・ショーが
具体例として言及された。
21 世紀のファスト・ファッショ
ンの源流として、1960 年代と
1980 年代を重視するという視
点も示された。すなわち 1960
年代には、大衆ファッション市
場の興隆にともなう産業構造
全般の激変があり、1980 年代
には大手製造業者によるブラ
ンド・イメージの戦略的利用、
大手販売店によるシンプルな
デザインの高品質の衣料品の
重点化に見られるように、ファッ
ション市場の多層化・断片化が
決定的に生じたのである。加え
て 1990 年代にファッション産
業がグローバルな市場経済の
中で苦闘を強いられたことの例
証としてマークス&スペンサー
の株価のデータが紹介された。
「 消 費」 とい う行 為 を 通じ て
「教養」と「産業」が相互浸透す
る場としての「ファッション」とい
う明確な把握に基づき、「ファッ
ション」という謎に多角的な観
点から迫る報告であった。
(文責:田中裕介・成城大学)
◆次回会合案内(2009 年 3 月 14 日 ※詳細は裏面)
発表者:菅靖子(津田塾大学)
(編集)
新広記
田中裕介
眞嶋史叙
永田透
研究会事務局
学習院大学 眞嶋研究室
〒171-8588
豊島区目白 1-5-1
急速に都市化した近現代
イギリスにおいて「緑化」を
めぐる人びとの思考は大き
く変化した。それは都市とい
う近代的な住環境にどのよ
うに反映されたのだろうか。
本報告では、19 世紀から
20 世紀初期のイギリス人の
自然環境に対する感受性の
変遷を浮き彫りにするという
全体的な構想の下に、都市
生活者にとって最も身近で
あった(人造植物も含む)観
用植物や植物デザインなど
を利用した私的空間の緑化
(「緑」の配置、栽培)の諸相
を検討する。
なぜ「緑化」がこの時期に
急速に普及したのか、園芸
の趣 味が貴族の 奢侈から
大衆の健全な「合理的余
暇」や精神的な慰めへとい
かにしてコンテクストを広げ
ていったのか、植物による
地域や階級のアイデンティ
ティの表象がどのように形
成され固定化していったの
か。以上の問いに答えつ
つ、ヴィクトリア朝初期に道
徳性・啓蒙性を帯びていた
緑の消費文化が、次第に自
己認識あるいは階級の表象
の画一化を担っていったプ
ロセスを把握し、イギリスの
近代化の表象として室内緑
化の役割を再考したい。