被害認定トレーニングシステム (DATS)を用いた支援

文部科学省 大都市大震災軽減化特別プロジェクトⅢ-3 研究成果発表会
Hands on Session「新潟県小千谷市での成功例に学ぶ-新潟県中越地震で展開された新技術」
被害認定トレーニングシステム
(DATS)を用いた支援
防災科学技術研究所
地震防災フロンティア研究センター
堀江 啓
被災者に対する支援内容の決定過程
~被災者への支援根拠としての罹災証明~
住民票がある
建物の被害
罹災証明書の発行
公的な支援
私的な支援
• 阪神・淡路大震災では
被災者の30%が罹災証
明の判定結果に不満
• 被災地の防災担当者に
とって過大な事務負担
– 量の膨大さ
– 評価基準の不明確さ
家屋被害認定業務の支援活動 [新潟県小千谷市]
Damage Assessment Training System (DATS)の導入
• 導入背景
– 方針として市内約1万5千棟の悉皆
調査の実施を決定.
– 被害認定調査は小千谷市税務課が
担当.
– 建物の専門家ではない税務課職員
では壊れた建物を評価できない
– 内閣府による被害認定運用指針は
非専門家では早急に理解できない
– 調査員の絶対数が不足している
– 外部から動員される応援調査員は
保育士や県職員などの非専門家
– 調査員の事前訓練システムがない
非専門家で対応せざるをえない状況が発生
被害認定業務総合支援システムを
構成する3つのシステム
(1)被害認定トレーニングシステム=
(被災家屋調査システムと調査員の育成を支援するシステム)
(2)被災家屋GISデータベースシステム
(3)り災証明書発行支援システム
り災台帳
義援金
被災者生
活再建支
援金
国民健康
保険減免
固定資産
税減免
介護保険
料減免
災害援護
資金貸付
他
文部科学省 大都市大震災軽減化特別プロジェクトⅢ-3 研究成果発表会
Hands on Session「新潟県小千谷市での成功例に学ぶ-新潟県中越地震で展開された新技術」
被害認定トレーニングシステム
~被災家屋調査システムと
調査員の育成を支援するシステム~
Earthquake Disaster Mitigation Research Center / NIED
被害認定調査・トレーニングシステム
の主な特徴
1.被災者の納得を得るための2段階調査プロ
セスを確立
2.非専門家の運用に配慮した外観目視用の
調査票を開発
3.効率的に学習できる訓練環境を構築
被災者の納得を得るための
2段階調査プロセスを確立
• 簡便で迅速かつ公正な調査システムの確
立を目指す
– 外観目視による迅速な調査を実施
– 外観目視による判定結果に不満があれば内閣
府の被害認定運用指針を用いて,建物内部を
含めた詳細調査を実施
被災者の納得を得るための調査プロセス
迅速性+正確性(公正性)
認定は容易
倒壊
DATS:
被災度判定チャート
+訓練
倒壊していない
第2次判定
(チェックリスト)
外観
大規模半壊・半壊・
一部損壊
全壊
外観目視による
迅速な調査
第1次判定
(倒壊建物認定)
外観
母数が多い、ある程度の知識が必要=要トレーニング
被災者の納得
を得る
ための詳細調査
再調査申請
第3次判定
(チェックリスト)
外観+内部
判定結果を納得してもらう必要がある=個別対応
内閣府による調査の流れとDATSの関係
被害認定調査のための被災度判定チャート
(判定基準の視覚化)
判定フロー(判定手順の標準化)
スタート
無
無被害
被害がある?
有
発生
層破壊
層破壊発生?
無
全壊
全壊
半壊
有(建物がゆがんでいる)
1/20以上
(1mの下振りで5cm以上)
有
大規模半壊
半壊
一部損壊
どこか潰れている階があれば、
「層破壊」
基礎が破壊している?
無
家が傾いているところが有れば、
「全壊」
まず、
被災度判定
チャート
を使用する
傾斜の有無?
1/60~1/20未満
(1mの下振りで1.5~5cm未満)
無
屋根・壁にも
損傷があり大規模半壊以上
(計40点以上)になる場合
全壊
とくに屋根、壁、基礎に着目して
被害なければ、
「無被害」
基礎が向こう側が見えるくらい
割れていて、陥没や沈下がかく
にんできれば、
「全壊」
50点~
40~49点
20~39点
屋根・壁それぞれの損
傷度をチェックシートで
点数化し最終判断する
傾斜がない場合:①へ
傾斜がある場合:②へ
1 ~19点,もしくは何らかの被害があった場合
ここでの着目ポイントは壁と屋
根だけになります。
写真に写っている屋根の部分
のうち何%に被害があるのかを
判断してください。
壁についても同様です。
判断に迷ったら
判定チェック
シートを使用する
- 判定チェックシート -
(判定根拠の数値化)
屋根として機能していな
い部分(損傷部分)の屋
根全体に対する割合)
0%
屋
根
0%を超え10%以下
10%を超え20%以下
損傷の具体的様子
被害は確認できない
損傷
点数
0
棟や軒先にずれやはがれが見られるもの
1
2
20%を超え30%以下
棟や軒先にずれやはがれが著しく、葺材(瓦など)の一部に落
下が見られるもの
4
30%を超え60%以下
棟や軒先にずれやはがれが著しく、葺材(瓦など)の落下が各
所にかなり見られるもの
7
60%を超える
屋根全体の変形と葺材(瓦など)の落下が著しく見られるもの
12
壁(基礎被害は壁に含める)
壁として機能していない
部分(損傷部分)の壁全
体に対する割合)
0%
0%を超え10%以下
10%を超え20%以下
損傷の具体的様子
被害は確認できない
ひびわれや剥落が見られるもの
損傷
点数
0
4
13
20%を超え30%以下
ひびわれや剥落がかなり見られるもの
21
30%を超え60%以下
ひびわれや剥落が著しく見られるもの
38
60%を超える
ひびわれや剥落が全面的に見られるもの
68
総合点を
算定する
①傾斜なし
屋根+壁
②傾斜あり
屋根+壁+15
非専門家による実施を考慮した調査票の開発
判定基準の視覚化
判定手順の標準化
判定根拠の数値化
効率的に学習できる訓練環境を構築
• 限られた時間内に被害認定に関する基本的知識を身につ
け判定ポイントを学習する事前講習会と実地訓練の
実施
• 過去の災害時に撮影された豊富な被害写真を用いたイ
ンタラクティブな演習プログラムを開発
• 調査員のフォローアップのための相談窓口を開設(小
千谷市で実施)
– 調査員の個別質問に対応して調査に対する理解を深める
– 質問内容を整理して,留意事項として調査員に展開
– 調査結果について調査時に撮影した写真と調査票をもとに評価
を行い,調査員の判断軸のズレを修正して判定精度を確保
調査方法に関する事前講習会と実地訓練(2004年10月28日)
「り災証明」に対する被災者の不満
文部科学省 大都市大震災軽減化特別プロジェクトⅢ-3 研究成果発表会
Hands on Session「新潟県小千谷市での成功例に学ぶ-新潟県中越地震で展開された新技術」
新潟県中越地震の教訓
-DATSの新たな課題-
Earthquake Disaster Mitigation Research Center / NIED
各自治体の実施プロセス
-ヒアリング調査結果より-
市町名
調査方針
調査対象建物数
延べ調査員数
調査期間
主体
調査体制
一次
調査
小千谷市
悉皆調査
15,975棟
11/2から県を通して県内外
県内外か
の職員による応援.1日最
らの支援
高で30人の動員体制.
DATS+内閣
専門家の 兵庫県神戸市,
府の指針
有無
防災研究機関
調査方法
外観目視調査
調査票
木造家屋は内閣府の運用
指針に準じ,一般職員によ
る実施を考慮した調査票を
使用.非木造家屋は内閣
府の運用指針を使用.
調査単位
受付期間
主体
調査体制
再調査
小千谷市
悉皆調査
住家,非住家を含めて
15,975棟
1,578人
10/28~11/15
税務課主体.
保育士の応援あり.
外観目視
調査
+
原則一棟単位
建物内部を
11/21~2/10(期間後も希
望があれば随時受付)
含めた詳細
税務課
調査
県内外か 県を通して県内の職員によ
らの支援 る応援.
専門家の
なし
有無
調査方法
内部立ち入り調査
調査票
内閣府の被害認定運用指
再調査件数
3,601件
(再調査率)
(22.5%)
再調査率
22.5%
長岡市
悉皆調査
住家,非住家を含めて
79,439棟
6,930人
10/24~11/23
十日町市
川口町
申請してきた世帯
悉皆調査
住家,非住家を含めて
住家,非住家を含めて
約2,500棟
約3,000棟
約1,200人
約220人
11/1~12/末
11/1~11/20
調査は資産税課.人員の 生活安定班(生活福祉課主
資産税課
調整などを総務課が担当 体,建築士組合に業務委託)
葛飾区など県外からの応援
11/11から動員.1日最高で が主体.途中から県を通し 埼玉県川口市から延べ50人
150人の動員体制.
た応援が得られるように
程度の応援あり.
なった.
一級建築士1名(市職員), 兵庫県尼崎市,
なし
他県からの有資格職員
民間建築関係業者
基本は内部立ち入り調査.
住民と連絡が取れない場合
内部立ち入り調査
内部立ち入り調査
は外観目視調査.
2003年宮城県北部連続地 内閣府の運用指針を使用.
内閣府の運用指針を参照し
震時の宮城県矢本町12)の 外観目視による調査項目を たが実情に合わないと判断
事例を参考にして,11月中 主体とし,内壁の被害が外 し、兵庫県尼崎市が作成した
旬から内閣府の運用指針 壁よりも卓越した場合に, 調査票をもとに大規模半壊
を元に簡便な調査票を作成 内壁を外壁と置き換えて損 の判定等を加えて使用.
害割合を算定.
し使用.
原則一棟単位
原則一棟単位
原則一棟単位
11/20~12/4(期間後も希望
11/27~
~1月末(随時受付)
があれば随時受付)
調査は資産税課.人員の
生活安定班
資産税課
調整などを総務課が担当
(生活福祉課主体)
県を通して新潟市の一級建
県を通して県内の職員によ
なし
築士の資格を持つ職員によ
る応援.
る応援.
建築技術者13名
一級建築士
一級建築士1名(市職員)
(市職員)
(新潟市職員、川口市職員)
一次調査と同じ
一次調査と同じ
一次調査と同じ
一次調査と同じ
一次調査と同じ
一次調査と同じ
約5,700件
約400件
約160件
(7.1%)
(15%)
(5.3%)
長岡市
悉皆調査
79,439棟
十日町市
申告制
2,500棟
川口町
悉皆調査
3,000棟
内閣府の指
針を簡略化
内閣府の
指針
内閣府の指
針を簡略化
住民が在宅
の場合は内
部を含めた
建物内部を
調査.留守
含めた調査
の場合は外
観から調査.
再調査率
7.1%
再調査率
15.0%
建物内部を
含めた調査
再調査率
5.3%
内閣府の指針による認定基準
阪神・淡路大震災時の全壊
内閣府の指針による認定基準
)
1
(
の
因
要
災者
いた 基準と被
つ
び
定
結
に
害認
再
い
生
被
き
発
る
大
の 針によ
が大
レ
調査
ズ
る
指
の
え
の
と
増
府
識
規
が
閣
様
・内 対する認 ライン 宅
仕
模
ー
住
に
ダ
い
害
ー
く
被
半
のボ 断しに
定
・判 から判
壊
観
・外
小千谷市における
罹災証明書の使われ方
–
–
–
–
–
被災者生活再建支援金制度
新潟県の制度による被災者生活再建支援金
)
2
住宅応急修理制度
(
因
た要
災害援護資金の貸し付け
い
つ
動
び
連
結
と
に
倒壊家屋,被災家屋から発生する産業廃棄物の
生
明書
発
証
の が罹災
査
運搬・処理
再調 な支援 容が充実
々
–
各種税の減免
様
援内
・
支
の
–・応急仮設住宅
個々
– 国民健康保険
– 介護保険
– 義援金の配布
.....など
長岡市の調査票
・内部評価を行うと必ず損害割合が増える構造
・損傷率の算定時に,損傷程度は考慮されてい
るが,各部位の損傷した割合は含まれておらず,
内閣府の指針よりも判定結果は甘くなる可能性
が強い
川口町の調査票
・損傷率の算定時に,損傷程度は考慮されて
いるが,各部位の損傷した割合は含まれてお
らず,内閣府の指針よりも判定結果は甘くな
る可能性が強い
家屋被害の評価方法の相違
程度Ⅱのクラックが
壁面全体の20%に発
生した場合の損傷率
程度Ⅱのクラックが
壁面全体の20%に発
生した場合の損傷率
内閣府:=25×0.2 =5
長岡、川口:=25
損害割合=Σ(各査定対象部位の損傷率×各部位の構成割合)
内閣府の場合の損傷率
=各部分の損傷程度×損傷面積率(%)
長岡市、川口町の場合の損傷率
=各部分の損傷程度(%)
小千谷市以外の
自治体による調査方法の課題
• 長岡市
– 内部評価を行うと必ず損害割合が増える構造
– 住民が留守の場合には内部評価を行わず,全ての建物を一律平
等に評価していない
– 損傷率の算定時に,損傷程度は考慮されているが,各部位の損
傷した割合(面積率)は含まれておらず,内閣府の指針よりも
判定結果は甘くなる可能性が強い
• 川口町
– 長岡市と同様に損傷した割合(面積率)は含まれていない
– 業務を利害関係が生じる地元建築士組合に完全に委託したこと
客観的な判定が損なわれた可能性がある
• 十日町市
– 一部損壊建物は申告内容と写真から被害確認を行って認定し,
実際の被害を確認したわけではない
– 何らかの理由で申告できない世帯が存在していた可能性がある
小千谷市と
川口町の
全壊率の分布
因
要
た
)
3
(
違
つい の小千谷市
相
び
結
法
に
生
、方
発 査基準
の
査
調
再調
間の
治体
自
・
川口町
調査の迅速性の比較
DATS設計目標値
(外観目視調査)
70
(外観目視調査)
調査効率 [棟/1班・1日]
60
50
建物内部を含めた調査
内閣府による
被害認定運用指針
40
内閣府による
指針を簡略化
27.3
30
22.9
20
(再調査)
10
DATS設計目標値
(再調査)
58.1
8.1
4.2
0
小千谷市
十日町市 長岡市 川口町
必要調査人員数(人)
調査人員数の削減効果
5000
4000
全ての建物を内部調査するよりも
同じ調査精度(公正性)を確保しつつ、
再調査率
大幅に人員を削減
=0.0%
調査を簡略化すること
で迅速性を高め、
再調査率 大幅に人員を削減
再調査率
=7.1%
=5.3%
3000
2000
再調査率
=22.5%
1000
0
小千谷市
(DATS)
内閣府
(最初から
内部調査)
長岡市
川口町
小千谷市の調査規模(調査件数15,975棟)を
想定した場合のシミュレーション結果
DATSや現行の指針(内閣府)の
運用・技術上の課題
• 「大規模半壊」への対応
• 地盤被害の評価方法の確立
• 非木造建物を対象とした訓練システムの整備
• 応急危険度判定との混同
– 住民の判定結果に対する混乱
– 調査員(とくに専門家)の確保が困難
• 頻繁に入れ替わる応援職員への訓練環境の構築
• 住民への調査に関する情報周知の徹底
• 効率的な調査を支援するツールの開発
被害認定のあり方
~今後の課題~
• 被害認定調査の目的を明確にする
• 被害認定の基準を統一する
• 人員体制を整備する
• 被害調査システムを簡潔化し、標準化する
• 情報処理システムを開発する
文部科学省 大都市大震災軽減化特別プロジェクトⅢ-3 研究成果発表会
Hands on Session「新潟県小千谷市での成功例に学ぶ-新潟県中越地震で展開された新技術」
ご静聴ありがとうございました
※本研究プロジェクトは以下の機関により実施されたものです.
・京都大学防災研究所(代表:林春男)
・富士常葉大学(代表:重川希志依)
・防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター(代表:牧紀男)
・長岡造形大学(代表:澤田雅浩)
・ESRIジャパン(代表:正木千陽)
・株式会社ニコン・トリンブル(代表:平井猛)
・京都科学(代表:岡村博)
・日本IBM(代表:大歳卓麻)
・中央グループ㈱GIS事業部(旧・㈱ブレス)(代表:武藤康生)
・(株)ナカノアイシステム(代表:茨木健介)
Earthquake Disaster Mitigation Research Center / NIED