Akita University ( 1 0) 原著 :秋 田大学医学部保健学科紀要 1 2( 2 ):1 1 4-1 2 0 ,2 0 0 4 老人 クラブ所属 の在宅高齢者 における精神 的健康度 につ いて 津軽谷 要 恵 湯 浅 孝 男 ヒ ユ l ∃ 【 本研究 は,在宅高齢者 の精神的健康度 について家族形態別 に違 いがみ られ るかを検討す る目的で,老人 クラブに所 属 している在宅高齢者6 4 名 ( 平均年齢 7 3 . 8±4 . 9 歳)を対象 に抑 うつ状態 の程度 と主観 的幸福感 につ いて調 査 した. 抑 うつ状態 の評価 については Ge r i a t r i cDe pr e s s i o nSc a l eの短縮版 (以下 GDS1 5 )杏,主観的幸福感の評価 につ い GCモラールスケール ( Phi l a de l phi aGe r i a t r i cCe nt e rMo r a lSc a l e:以下 PGC)の短縮版を用 い, 面接 て は改訂 P 法で実施 した. その結果,抑 うつ状態 においては家族形態別 に有意差 は認 め られなか ったが,主観的幸福感において, 家族形態別 に有意差 が認 め られ,独居群が同居群 と比較 して有意 に低 いことが明 らか とな った. その ことより,地域 における単身世帯 の高齢者へのサポー トの必要性が示唆 された. は じめに 精神的健康度 な どが主観的 QOLへの関連要 因 と して 報告 されている. 現在, わが国 は全人 口の1 9 %が6 5 歳以上 の高齢者 と 一方,在宅高齢者 の心身共 に自立 した生活 を検討 す な り,高齢社会 といわれている1 ) . 高齢者 は, 退職, るにあた り,高齢化 に伴 い一人暮 らしの高齢者 が増加 社会での役割 の縮小,経済不安,知人や配偶者 の死 と し続 けている15) とい う社会状況 をふ まえなければな ら い った多 くの喪失体験 を受 けやすい状況 にあ り, しか ない. また, 山下 ら1 6 )によると,独居 の高齢者 は主観 も社会 の構造 が複雑化 して きていることか ら, メ ンタ 的幸福感 が低 く,人生 の満足度が低 い ことが報告 され ル-ルスが主要 な課題 とされ, その中心課題 は心理的 ている. ス トレスであ るとされている2 ) . この心 理 的 ス トレス そ こで本研究 において は,社会交流 が多 い と思われ を軽減 させ るためには,身体的 に も,精神的 に も健康 る老人 クラブに所属 している在宅高齢者 を対象 に精神 で 自立 した生活 を送 ることが重要である. 健康度を表す指標 として抑 うつ状態 と主観的幸福感 に また,最近で は,在宅高齢者 の介護予防事業 として つ いて調査 し,家族形態別 に違 いがみ られ るかを検討 健康増進,転倒予防を 目的 とした事業 が,各地市町村 した. また,今後,在宅高齢者がいか に して健康的な で取 り組 まれている. これ らの事業で は,在宅高齢者 生活 を過 ごすか, につ いて も検討 したので報告す る. の身体的機能 だ けでな く主観的 QOLにつ いての検討 も重要 な側面 であ る3 )とされている.主観的 QOLは, 研究方法 主観的幸福感 と して代表 され ることが多 く,高齢者 の 主観的 幸福感 に関す る研究 は, これまで数多 く行 われ 1.対象 , 5 ) ,対人関係 といっ ている.多 くの研究では,家族関係4 対象 は,秋 田県 0市保健福祉 セ ンター主催 の健康教 た社会関係6 , 7 )や,ADL8-1 2 )や抑 うつ1 3・ 1 4)などの身体的 ・ 室 に参加 した地域 の老人 クラブに所属 している在宅高 秋 田大学医学部保健学科作業療法学専攻 Ke yWo r ds : 在宅高齢者 抑 うつ状態 主観的幸福感 家族形態 独居 1 1 4 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 2号 Akita University 津軽谷恵/老人 クラブ所属 の在宅高齢者 における精神的健康度 について (l l ) 齢者 6 4 名,6 5 8 4 歳,平均年齢 7 3. 8±4. 9歳 で, その う Wal l i s検定の結果, 有意差 が認 め られ た項 目につ い ち男 性 は1 5名 ( 平均年 齢 7 4. 6±5. 2歳), 女 性 は4 9名 てはどの群 間 にお いて有意差 が あ るか を多重比較 の 3. 6±4. 8 歳)であ った. ( 平均年齢7 Se he f f e ' sF検定 を行 った. 統計 的有意水準 は危 険率 5%未満 ( p<0. 0 5 )の ものを採用 した. 本研究 を遂行す るにあた り,対象者 に対 して,本研 究 の主 旨につ いて十分 な説明を行 い,対象者全員か ら 理解 と協力の同意 を得 た. 結 2.方法 果 1.基本的な属性 に関する回答の分布 対象者 に対 し,抑 うつ状態,主観的幸福感 に加 え, 家族形態 については,「 独居群」が1 0 名,「 配偶者群」 性別,年齢,家族形態 を面接 と自己記入式で調査 した. が1 5 名,「同居群」が3 9 名で,「同居群」 が最 も多か っ 自己記入が困難 な場合,検者が聞 き取 りを して記入 し た.各群の男女別人数 と平均年齢 は表 3に示 した. た. これ らの調査内容 の うち,家族形態 につ いては,早 2.抑 うつ度 と主観的幸福感の相関 身世帯,配偶者 との夫婦世帯,夫婦 と未婚 の子 のみで 抑 うつ度 と主観的幸福感 との間には有意 な負の相関 の同居,本人 と未婚の子 のみの同居,三世代同居, そ rニー 0. 61 8 ,p<0 . 0 01 ). 男女別 で は女性 に を示 した ( の他 の中か ら選択 して もらった.抑 うつ状態 に関 して r-0. 6 6 0 ,p<0 . 0 01 ),家族形態別 で は 「独 おいて ( は, イエサベ ー ジの開発 した Ge r i at r i cDe pr e s s i on 居群」( r-1 0. 7 0 3 ,p<0 . 0 5 )「配偶者 群」( r-0. 5 4 2 , Sc al eの1 5 項 目か らなる短縮版 ( 以下 GDS1 5) 1 7 , 1 8 )を 用 い,面接法で実施 した.質問項 目については表 1参 照.質問項 目にお いて 1 , 5, 7, l l, 1 3, 1 5は逆転項 目 ( 育 p<0. 0 5 )「同居群 」( rニー 0. 5 5 5, p<0. 0 01 ) 全 て にお 定的な選択肢) を示 している.各質 問 に 「はい」「い 3.男女別,家族形態別 における抑 うつ度の比較 いえ」で答 え, それに対 して 1点か 0点が与 え られ満 5 点 とな る. 0 -4点が正常, 5 -9点が うつ傾向, 点 は1 1 0 点以上 で うつ状態 にあると評価 され る. また,主観 的幸 福感 に関 して は, 1 1の質 問項 目か らな る改訂 PGCモ ラールスケール ( Phi l a de l phi aGe r i a t r i cCe nt e rMor alSc al e:以下 PGC)19,20) の短縮版 を用 い,面 接法で実施 した.質問項 目については表 2を参照.質 問項 目の 3 , 4, 5, 6, 8, 9, 1 0, 1 1は逆転項 目 (否定 的 な選択 いて負の相関を示 した. 男女別,家族形態別 における抑 うつ度 の比較 につい ては表 4に示 した. 対象者全体の抑 うつ状態 は, 0 -4点 の 「正常群」 5. 6%,5 -9点 の 「抑 うつ傾向群」 は31 . 3%, l o貞 は6 以上 の 「 抑 うつ状態群」 は3 . 1%で あ った. 抑 うつ状 態1 5 項 目において, 1人 あた りの得点 は, 平均 が 3 . 6 ±2. 6 点であ った.男女別 にみると, 男性 の平均 は3. 0 ±2. 4点,女性の平均 は3 . 8±2. 7 点であ り,有意 な差 は 肢) を示 している.各質問 に 「はい」「いいえ」 で答 認 め られなか った.家族形態別 にみると 「 独居群」 の え,満点 は1 1 点 となる. また, 1 1 の質問項 目は 「 心理 . 3±2. 8 点,「 配偶者群」 の平均が 2 . 9±2 . 7点, 平均 は5 」「孤独 による不満感」「老 いに対す る態度」 の . 4±2. 4点 で あ った. 有意 な各群 「同居群」の平均 が3 3領域 に分かれている. スコアが高 ければ幸福感 が強 間差 は認 め られなか ったが, 「独居群」 にお いて は い傾 向にあると評価 され る. GDS1 5評価基準か ら判断す ると 「配偶者群」や 「同 的動揺 居群」 に比較 して抑 うつ傾向がみ られた. 3.統計処理 高齢者 の抑 うつ状態 に関 して は GDS1 5の素点 の 4.男女別,家族形態別 における主観的幸福感の比較 合計 を合計得点 とした.主観的幸福感 につ いて も1 1 項 男女別,家族形態別 における主観的幸福感 の比較 に 目の素点 の合計 を合計得点 とした.抑 うつ度 と主観的 ついては表 4に示 した. 幸 福感 の関連性 につ いて は, Spe ar manの順位相 関 質問項 目1 1 項 目において, 1人 あた りの得点 は,辛 係数 を用 いた. GDS1 5と PGCの得点 につ いて, 男 . 3±2. 3 点であ った.男女別 にみ る と, 男性 の平 均が7 女間差 は Ma nnWhi t ne y検定 を行 った. また, 家族 均 は8 . 5±1 . 4 点,女性 の平均 は6 . 9±2. 4点 で あ り, 育 形態 について は,高齢者単身世帯 を 「独居群」, 配偶 意 な差 は認 め られなか った. 家族形態別 にみ る と, 者 との夫婦世帯 を 「配偶者群」, その他 の家 族 形 態 同居,三世代同居 など) を 「同居群」 とし, 3群間差 . 3±2. 8 点,「 配偶者群」 の平均 は 「 独居群」 の平均 は5 7. 7±2. 3点, 「同居群」 の平均 は7. 6±1 . 9点 で あ り, p<0. 01 ) が認 「独居群」 と 「同居群」の間 に有意差 ( は Kr us ka1 Wal l i s検定を行 った. さ らに, Kr us kaト 独居群」の方が有意 に低 い結果 とな った. め られ 「 ( 夫婦 と未婚 の子 のみで同居や本人 と未婚 の子 のみの 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 2号 , 1 1 5 Akita University ′ ・ (\ トー ▲ t J \ ヽ _ メ 表 1 高齢者 にお ける抑 うつ状 態 の分布 (N-64) 男性 独居群 配偶者 群 3(6. 1) 15( 30. 6) 8( 16. 3) 1 0( 20. 4) 8( 16. 3) 1 0( 20. 4) 8( 16. 3) 1 4( 28. 6) 1 8( 36. 7)* 30( 61. 2) 6( 12. 2) 6( 12. 2) 1 4( 28. 6) 1 2( 24. 5) 22( 44. 9)* ( G2) 0(0. 0) 1 (6. 7) 1 (6. 7) 2( 13. 3) 2( 13. 3) 3( 20. 0) 3( 20. 0) 8( 53. 3) 4( 26. 7) 5( 33. 3) 0(0. 0) 2( 13. 3) 3( 20. 0) 2( 13. 3) 7( 46. 7) 同 居 有意 差 の検 定 群 ( G3 ) 4( 1 0. 3) 1 2 ( 30. 8)Gl vs , G2.G 3 辛 4( 1 0. 9 ( 23.1) 6 ( 1. 4) 4( 1 0. 3) 6 ( 1. 4) 9 ( 23.1) 13 ( 33. 3) 2 3 ( 59. 0) 3 (. 7)GI vs . G2,G3 * 6 ( 1 5. 4) 1 6 ( 41. 0) 7 ( 1 7. 9) 1 1 ( 2 8. 2) 3 ) 5 5 7 *: pく0. 05 表 2 PG C モ ラー ル スケ ールの分布 (N-64) 栗 田汁鳩 圃場警乗南朝笠置珊 男性 女性 有意 差の検 定 独 居 群 (G l) 1 今の生活に満足していますか. 瑚) 2藤 棚2 亜 13( 86. 7) 11( 73. 3) 3 この 1年くらい.小さなことを気にするようになったと思いますか 12( 80. 0) 4 年をとって前よりも役に立たなくなったと思いますか. 10( 66. 7) 5 心配だったリ,気になったりして眠れないことがありますか. 12( 80. 0) 6 生きていても仕方がないと思うことがありますか. 13( 86. 7) 7 若いときに比べて.今のほうが幸せだと思いますか. 10( 66. 7) 8 悲しいことがたくさんあると感じますか. 15( 1 00) 9 あなたは 自分の人生は年をとるに従って, だんだん悪くなっていくと感じますか.12( 80. 0) 1 0物ごとをいつも深刻に受け止めるほうですか. 7( 46. 7) 1 1 心配事があると, 12( 80. 0) . . . . . 」 . . . . . . . . . 二 . 二 二 二 二 _ . . . . 二 . 」 . . . . . = すぐにおろおろするほうですか. 2 あなたは現在 ,去年と同じくらい元気だと思っていますか. 単位 : 人,( )内 : % *: pく0. 05 46( 93. 9) 23( 46. 9) 33( 67. 3) 22( 44. 9) 26( 53. 1) 43( 87. 8) 39( 79. 6) 33( 67. 3) 30( 61. 2) 17( 34. 7) 26( 53. 1) * 9(90.0 ) 5(50. 0) 5(50. 0) 4( 40. 0) 4(40. 0) 7(70. 0) . 4 (40 0 ) 5(50. 0) . 4( 40 0 ) 3( 30. 0) 3( 30.0 ) 配偶 者 群 ( G2 ) 1 5( 1 00) 5 3. 17 3. 4 0.) 4 6 . 1 4( 9 3 . 1 4( 9 3 . 3) 1 2( 8 0 1 2( 8 0. 4 0. 0) 0( 6 8( 3) 1( 3) 6( 0 7( 7) 3) . 0) 0) 6( 1 6.7 ) 同居 群 有意 差 の検 定 (G3) 35(89.7 ) 21(53.8 ) 2 9( 74 . 4) 22(56 . 4) 27(69. 2) 35(89.7 ) 31 79.5 )GlvsG2,G3 * 31 79. 5) 26(66.7 ) 1 5( 38 . 5) 25(64.1) ( ( . 7. 繋釦 8斜 刑 剥奪 軸 C C計 耳 か蔀 等 富商 細 掃 RJ r ノ バ ( Gl ) 1 ( 1 0. 0) 4( 40. 0) 5( 50. 0) 5( 50. 0) 1 ( 1 0. 0) 4( 40. 0) 2( 20. 0) 3( 30. 0) 2( 20. 0) 7 ( 7 0. 0) 4( 40. 0) 3( 30. 0) 1 ( 1 0. 0) 5( 50. 0) 6( 60. 0) 5 単位 : 人.( )内 : % 2( 13. 3) 2( 13. 3) 2( 13. 3) 6( 40. 0) 1 ( 6. 7) 1 (6. 7) 3( 20. 0) 6( 40. 0) 1 ( 6. 7) 5( 33. 3) 1 ( 6. 7) 5( 33. 3) 6( 40. 0) 2( 13. 3) 2( 1 3. 3) 有意 差の検 定 諦頼 車軸 \ 蝉> 9 1 今の生活に満足しているといえますか ? 2 毎 日の活動 力や世間に対する関心がなくなってきたように思いますか ? 3 生きているのが虚しいように感じますか ? 4 退屈に思うことがよくありますか ? 5 普段 は気分がよいですか ? 6 何か悪いことが起こりそうな気がしますか ? 7 自分は幸せなほうだと思いますか ? 8 どうしようもないと思うことがよくありますか ? 9 外に出かけるよりも家にいるほうが好きですか ? 1 0ほかの人より物忘れが多いと思いますか ? 11 こうして生きていることは素晴らしいと思いますか ? 1 2これでは生きていても仕方ないと思いますか ? 1 3自分が活力に満ちていると感じますか ? 1 4こんな暮 らしでは希望がないと思いますか ? 1 5 ほかの人は, 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 二 自分より裕福だと思いますか ? : : = = = 二 二 二 : = = : : 一 二 二 : 二 二 二 二 : = 二 一 一 二 : 一 二 二 二 女性 Akita University ( 1 3) 津軽谷恵/老人 クラブ所属の在宅高齢者における精神的健康度について 表 3 家族構成別の対象者の特性 独居群 ( N-6 4 ) 分布 平均年齢 1 0名 ( 1 5 . 6 %) ( 男性 1 名 ,女 性 9 名) 7 3 . 2±3 . 6 歳 配偶 者 群 1 5 名( 2 3 . 4%) ( 男性 5 名 ,女 性 1 0名 ) 7 4 . 9±5 . 3 歳 同居 群 3 9 名( 6 0 . 9 %) ( 男性 9 名 ,女 性 3 0名 ) 7 3 . 6±5 . 0 歳 表 4 男女別,家族形態別における抑うつ度と主観的幸福感の比較 全体 男性 女性 独居群 配偶 者 群 同居群 3 . 6±2 . 6 3 . 0±2 . 4 3 . 8±2 . 7 5 . 3±2 . 8 2 . 9±2 . 7 3 . 4±2 . 4 7 . 3±2 . 3 8 . 5±1 . 4 6 . 9±2 . 4 5 . 3±2 . 8 7 . 7±2. 3 7 . 6±1 . 9 1 l * * ( Me a n±SD)* *: pく0 . 01 5.在宅高齢者 における抑 うつ状態の分布 6.在宅高齢者における主観的幸福感の分布 在宅高齢者 における主観的幸福感の分布 は表 2に示 在宅高齢者 における抑 うつ状態の分布 は,表 1に示 した.抑 うつ状態の各項 目別 に男女間を比較す ると, した.主観的幸福感の各項 目別 に男女間を比較すると, 二つの項 目において有意差が認め られた. 一つ は, 9 8番 目の 「悲 しいことがた くさんあると感 じますか」 番 目の 「外 に出かけるよりも家にいる方が好 きですか」 という質問に対 して,男性全員が悲 しいことがた くさ んあると感 じていると回答 してお り有意差が認め られ とい う質問に対 して,女性の方が有意 に家 にいる方が 5 番 目の 好 きと回答 した人が多か った. もう一つは, 1 た. 「 他の人 は, 自分 より裕福だ と思 いますか」 とい う質 また,家族形態別 に比較す ると,7番 目の 「若 い と 問に対 して女性の方が有意 に他の人 は自分 より裕福で きに比べて,今の方が幸せだ と思 いますか」 という質 あると回答 した人が多か った. 問に対 して有意差が認 め られたため, S e he f f e ' sF検 また,家族形態別の比較では,二つの項 目において 定 による多重比較を行 った.その結果, 「独居群」 と 有意差が認め られたため, S e he f f e ' sF検定 による多 「 配偶者群」 に,および 「 独居群」 と 「同居群」 にお 重比較を行 った. その結果,2番 目の 「 毎 日の活動力 いて有意差が認め られ,「 独居群」 の方 が有意 に今 の や世間に対す る関心がな くな って きたよ うに思います 方が幸せではないと思 っていた. か」 という質問に対 しては 「 独居群」 と 「 配偶者群」 に,および 「 独居群」 と 「同居群」において有意差が 詰 め られ,「独居群」の方が有意 に毎 日の活動力や世 間に対す る関心が無 くなってきたように思 っていた. 考 察 1.抑 うつ度 と主観的幸福感の相関について 1 番 目の 「こうして生 きていることは素晴 らし また, 1 抑 うつ状態 と主観的幸福感の相関についての研究で いと思 いますか」 とい う質問に対 して も 「 独居群」 と は,負の相関があることが多 く報告されており⊥ 3 ) 1 4 ) 1 6 ) 2 1 ) , 「 配偶者群」 に,および 「 独居群」 と 「同居群」 にお 本研究で も同様 に負の相関が見 られ,その結果を支持 したと思われる. いて有意差が認 め られ,「 独居群」 の方 が有意 に生 き ていることを素晴 らしいとは思 っていなか った. 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 2号 1 1 7 Akita University ( 1 4) 津軽谷恵/老人 クラブ所属の在宅高齢者 における精神的健康度 について 2.在宅高齢者における抑 うつ状態について 在宅高齢者 における抑 うつ状態については,男女別, 3.在宅高齢者における主観的幸福感 について 在宅高齢者 における主観的幸福感 については,男女 家族構成別 ともに有意差 は認め られなか った. また, 差 は認 め られなか ったが,家族構成別 にみ ると, 「独 今回の対象者全体での平均点数で判断す ると,正常範 居群」の平均が5 . 3 ±2 . 8 点 に対 して 「同居群」 の平均 囲内であるため うつ傾向は低 いということが示された. が7 . 6±1 . 9 点 と,有意 に 「 独居群」の ほ うが低 い とい しか し,個人 データーで は, 全体 の3 . 1%の方 が うつ 傾向にあるとい うことも示 されているため,個人への う結果が示 された. これは,一人暮 らし高齢者 に関す る研究 において,家族内で行われてきた感情 の交流や サポー トも重要 と考え られる. 人 との結 びっ さといった機能の減少 との関連2 4 )や 日常 本研究 で使用 した GDS1 5は,抑 うつ状態 の程度 生活動作能力など身体機能の低下 との関連2 5 )について を評価す るものであるが,今回は,男女別や家族形態 報告があることより,本研究の 「 独居群」 において も 別 に有意差が認 め られた項 目毎 について検討を試みた. 家庭内での感情や社会的交流の減少が主観的幸福感の 男女別 においては,女性の方が有意 に 「 外 に出かけ 低下へ影響 したのではないか と考え られる. るよりも家 にいる方が好 き」「他 の人 は自分 よ り裕福 主観的幸福感の項 目別 における男女間の比較では, だ と思 う」とい う結果が示 された. これは,今回対象 全ての男性が 「 悲 しいことがた くさんあると感 じる」 とな った女性 の平均年齢 を考 え ると7 3 . 6±4 . 8 歳 とい と回答 し,有意差が認め られた. これは,老年期 にお うことで, この年代の女性 は,勤労者 として外 に出か ける心身の老化 に伴 う変化 により体力や視 ・聴覚の衰 けることは少 な く,家庭での仕事 に従事 していた方が え,記憶力の低下, さらには慢性の病気など以前 には 多いのではないか と考え られる.そ して,趣味や娯楽 といった余暇活動 を楽 しむゆとりもほとんど無か った なか った身体の変化を体験 した り2 6 ) することに加えて, ほとんどの男性が社会生活 において勤労者 という立場 時代を経験 して きたことが 「 外へ出かけることよりも であったのが退職す ることにより社会的役割が変化 し 家 にいる方が好 き」 ということに影響 しているのでは た り,退職後の収入が就労時よりも減少 し経済状態 に な い か と考え られ る. また,「他 の人 が 自分 よ り裕福 不安を感 じた り,配偶者や友人,親戚 との離別 などと だ と思 う」 ことにつ いて は, 女性 の9 3 . 3 %の方 が, 「 今の生活 に満足 している」 と回答 して いるものの, いった多 くの喪失体験を受 けやすい状況 にあることに より 「 悲 しいことがた くさんあると感 じている」 とい 裕福 という言葉 には経済的なイメージがあると思われ, う回答 になったのではないか と考え られる. 個人 によって程度の差 はあるが経済的不安 を抱えてい 主観的幸福感の項 目別 において家族構成別 に比較す ることが影響 して,「自分の方が裕福 であ る」 とはい えなか ったのではないか と考え られる. ると,「 独居群」のほうが 「 配偶者群」 や 「同居群」 それぞれよりも有意 に 「 若いときに比べて,今のほう 家族形態別 における抑 うつ状態 の項 目で は, 「独居 が幸せだと思わない」 と回答 していることが示 された. 群」 の方が 「 配偶者群」「同居群」 それぞれ よ りも有 これは,松本 ら2 4 )によって,「生活 で何 らかの不 自由 意に 「 毎 日の活動力や世間に対す る関心が無 くなって があって も,心配事や悩みを聞いて くれる人がいる」 きたように思 う」「こうして生 きてい ることは素晴 ら ことによって, うつ傾向が弱 まり,主観的幸福感など しいこととは思わない」 とい う結果が示 された. これ は,単身生活 とい う環境が影響 しているのではないだ が高 まることが示唆 されていることが関与 しているも の と思われる.すなわち,高齢 になって単身生活 とい ろ うか.本田 ら2 2 )によると,単身生活 に至 る背景 には 配偶者 との死別や同居家族の事情 によるものなど様 々 な要因が考え られるが,それ らの要因が高齢者の心身 う環境下では心配事や悩みを聞いて くれ る人 が, 「配 偶者群」や 「同居群」のようにいっ もそばにいるわけ ではないため,幸せであるとは思 うことがで きないの の状態 に少 なか らず影響 を与えていることは否定でき ではないかと考え られる. ないとしている. また,鳩野の研究2 3 )によれば,一人 今回の研究で得 られた結果 については,対象者の人 暮 らし高齢者の閉 じこもり出現率が増える傾向にある 数 も少な く男女比 も偏 っているため,在宅高齢者の全 ことより,単身生活では外出の頻度が減 った り,社会 との接触の機会が減 った り, ひいては毎 日の活動量の てに通用す るわけではない. しか し,比較的社会 との 交流があ り,社会的 ・文化的活動であると思われる老 減少を引 き起 こしていると考え られ,毎 日の活動力や 人 クラブに所属 していて も, 家族形態 が単身世帯 の 世間に対す る関心が無 くなってきたように思 った り, 「独居群」 においては,毎 日の活動力 や世 間 に対す る 生 きていることに対 して素晴 らしくは思えないのでは ないだろうか. 関心が無 くなって くるなど抑 うつ傾向がみ られた.全 ての在宅高齢者へのサポー トが必要であるが,本研究 の結果,特 に単身世帯 の高齢者をサポー トす るような 1 1 8 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 2号 Akita University ( 1 5 ) 津軽谷恵/老人クラブ所属の在宅高齢者における精神的健康度について 地域 における健康作 り推進事業や老人 クラブ活動,見 守 りネ ッ トワーク2 6 )な どの活動 の重要性が示 された. そ して, このサポー トが健康的で 自立 した生活 を送 る ことへ とつなが るので はないか と考え られ る. 1 0 )石原治,内藤佳津雄 ・他 :健康度 とモ ラール ・満足度 との関係.老年社会科学会3 0:7 5 7 9 ,1 9 8 9 l l )南貴昭,大迫章生 ・他 :在宅高齢障害者 の主観的幸福 感 に関す る検討 -デイケア利用者 において -.鹿児島 0:1 41 1 4 9 ,2 0 0 0 大学医学部保健学科紀要 1 おわ Uに 1 2 )横浜博子 :主観的幸福感 と活動 の関係 について. 日本 老年医学会 1 1:1 5 1 1 6 6 ,1 9 8 9 本研究で は, ある地域 の老人 クラブに所属 している 1 3 )福 田寿生,木田和幸 ・他 :弘前市 の高齢者 における主 在宅高齢者 を対象 に精神的健康度 として抑 うつ状態 と 5 (1): 観的幸福感 と抑 うつ状態 について. 日衛誌 5 主観的幸福感 について調査 した. その結果,抑 うつ状 4 2 8 ,2 0 0 0 態 において は男女別,家族形態別 ともに有意差 は認 め 5歳以 1 4 )福田寿生,木 田和幸 ・他 :地方都市 にお け る 6 られなか ったが,主観的幸福感 において,家族形態別 上住民の主観的幸福感 と抑 うつ状態 につ いて. 日本公 に有意差が認 め られ,「 独居群」が 「同居群 」と比較 9( 2 ):9 7 1 0 5 ,2 0 0 2 衆衛生雑誌4 して有意 に低 い ことが明 らか とな った.そのことより, 地域 における単身世帯 の方への様 々なサポー トの必要 性が示唆 された.今後 は,対象者 の地域 の拡大 と対象 者数 を増 や して検討を進 める必要 がある. 平成 1 3年 版). ぎ ょうせ 1 5 )厚生労働省 :厚生労働 白書 ( 0 01 い,東京,2 1 6 )山下一也,小林祥泰 ・他 :老年期独居生活の抑 うつ症 状 と主 観的幸福感について一島根県隠岐島の調査か ら-. 9:1 7 9 1 8 4 ,1 9 9 2 日本老年医学会雑誌 2 謝辞 :本研究 を行 うにあた り, ご協力 いただ きま した皆様 1 7 )Ye s a va ge , J . A. , Br i nk, T. L. ,and Ros e , T. L. :Deve l opme ntand val i da t i on ofa ge r i at r i c de pr e s s i on に厚 く御礼 申 し上 げます. s c r e e ni ng s c a l e . a pr e l i mi nar yr e por t . J . Ps yc hi at r . 文 1 ):37 49,1 983 Re s ,1 7( 献 1 ) 総 務省 :人 口統計 ( 平成 1 5年度), 入手先 <ht t p: / / 1 8 )小津利男,江藤文夫 ・他 :高齢者 の生活機能評価 ガイ ド.初版,医歯薬 出版株式会社,東京,1 9 9 9 www. s oumu. go. j p/ > 4( 1 ):5 0 5 5, 2 )高橋 祥友 :老年期 の 自殺. 心身 医学 3 1 9 9 4 3 )小林量作,黒川幸雄 ・他 :健常高齢者 にお ける PGC モ ラー ル ス ケ ー ル に影 響 す る要 因 . 理 学 療 法 学 1 9 )奥住秀之,古名丈人 ・他 :地域在住高齢者 における身 体 動 揺 量 と筋 力 と の 関 連 . Equi l i br i um Re s e ar c h59( 2 ):1 301 35,2000 2 0 )Lowt on, M. P. : The Phi l a de l phi a Ge r i at r i c Ce nt e r Mor a l eSc al e . Ar e vi s i on. J . Ge r ont ol . 30: 8589,1 975 30Suppl . 2:1 7 6 ,2 0 0 3 4)川 口晴美,川 口徹 ・他 :在宅高齢脳卒中後遺症 の主観 1:2 2 的幸福感 と家族関係 について.東北理学療法学1 2 6 ,1 9 9 9 2 1 )山下一也,小林祥泰 ・他 :社会的活動性 の異 なる健常 老人の主観的幸福感 と抑 うつ症状. 日本老年医学会雑 誌3 0:6 9 3 6 9 7 ,1 9 9 3 5) 岡本和士 :地域高齢者 における主観的幸福感 と家族 の 2 2 )本 田亜起子,斉藤恵美子 ・他 :一人暮 らし高齢者 の特 コ ミュニケー ションとの関連.日本老年医学会雑誌3 7: 性 -年齢 および一人暮 らしの理 由による比較 か ら-. 1 4 9 1 5 4 ,2 0 0 0 日本地域看護学会誌 5( 2 ):8 5 8 9 ,2 0 0 3 6) 金恵京,杉揮秀博 ・他 :高齢者 の ソーシャルサポー ト 2 3 )鳩野洋子 :高齢者 の 「閉 じこもり」 に関す る研究 の状 と生活満足度 に関す る縦断研究.日本公衆衛誌4 6( 7 ): us e boundの定義 ・出現 率 を中心 に. 況 一海外の ho 5 3 2 5 41 ,1 9 9 9 6( 1 ):2 8 3 3 ,2 0 0 0 保健婦雑誌5 7 )野 口裕二 :高齢者のソーシャルネットワークとソーシャ 2 4 )松本清子,東候光雄 :一人暮 らし高齢者への ソー シャ ルサポー トー友人 ・近隣 ・親戚関係の世帯類型方分析-. ルサポー トと精神的健康の関連性. 日本保健福祉学会 3:8 9 1 0 5 ,1 9 91 老年社会学 1 誌7 ( 2 ):81 8 9 ,2 0 01 8)古谷野亘 :モ ラールに対す る社会的活動 の影響 -活動 2 5 )Sar war iAR, Fr e dman L, Lange nbe r g P, e t , a l:Pr o- 7:3 6 4 9, 理論 と離 脱理論 の影響 -. 社会 老 年 学 1 s pe c t i ves t udyont her e l at i onbe t we e nl i vi nga r 1 9 8 3 r a nge me ntandc hangei nf unc t i onalhe al t hs t at us 9) 東登志夫,沖田実 ・他 :老人の主観的幸福感 に影響 を 及 ぼす諸要因一老人関連施設利用者 における検討-. 1:6 7 71 ,1 9 9 7 長崎大学医療技術短期大学部紀要 1 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 2号 - de mi ol 1 47( 4): 370ofe l de r l ywoma n.Am JEpi 378,1 998 2 6 )川本龍一,土井貴明 ・他 :山間地域 に在住す る高齢者 1 1 9 Akita University ( 1 6) 津軽谷恵/老人 クラブ所属の在宅高齢者 における精神的健康度 について の主観 的幸福感 と背景 因子 に関す る研究. 日本老年医 学会雑誌3 6( 1 2 ):8 6 1 8 6 7 ,1 9 9 9 A St udyoft heMe nt alHe al t hofEl de r l yPe opl eatHomeBe l ongi ng t oOl dPe opl e ' sCl ubs Me gumiTs uga r uya Taka oYua s a Cour s eofOc cupat i onalTher apy,Sc hoolofHe al t hSc i e nc e s ,Aki t aUni ve r s i t y Si xt yf oure l de r l yme nandwome n( ave r ageage73. 8±4. 9ye ar s )l i vi ngathomewhoal s obe l ongedt ool d Pe opl e ' sCl ubswe r eas s e s s e dbyi nt e r vi e wt oi nve s t i gat eanydi f f er e nc e swi t hr e gar dt ome nt alheal t hl i nke d t of ami l ys t r uct ur e .Anexami nat i onofde pr e s s i onands ubj e ct i vewe l l bei ngwasc ar r i e doutus i ngGe r i at r i c Depr e s s i onSc al e( GDS1 5)andPhi l ade l phi aGe r i at r i cCent e rMor alSc al e( PGC). Ther e s ul t sdi dnots how t hatf ami l ys t r uct ur ewasas i gni f i c antf act ori nde pr e s s i on.Howeverf ami l y s t r uct ur ewass e ent obeas l gni f i c antf act ori ns ubj e c t i vewe l l be i ng, whi c hwa sl owe ri ns ubj e ct sl i vi ngal one t hant hos el i vi ngwi t ht he i rf ami l i e s .Thi ss ugge s t st hats uppor ti sne c e s s i t at e df ore l de r l ype opl el i vi ngon t he i rown. 1 2 0 秋田大学医学部保健学科紀要 第1 2 巻 第 2号
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