2015年1月24日 イノベーティブ経済セミナー 子育て支援の地理学 ―地域的文脈と生活空間に注目して― 大分大学 久木元美琴 少子化の負の影響 • • • • ①社会保障制度:年金・医療・介護 ②経済:労働力不足,消費の縮小 ③地域社会:地域活力,社会関係資本 ④政治への影響:投票 2 子育て支援はなぜ必要か • 急激な少子高齢化の緩和 人口減少と少子高齢化は止められないが,急速な減少による 負の影響を抑制しなければならない • 女性労働力の活用 産業構造の転換と共働きの増加 非正規雇用・給与水準の低下 3 「子育て支援」と「地理学」? • 子育てを取り巻く資源や環境の地域差 • 地域差を理解し,それを踏まえた支援のあり 方を検討する必要性 4 本日の内容 1 はじめに:子育て/保育をみる地理学的視点 2 都市空間と子育て ― 待機児童問題を手がかりに 3 地域の基幹産業と保育 4 「地域の実情に応じた」子育て支援のあり方に向けて 5 2 都市空間と子育て 6 大都市圏で高い待機児童率(保育所不足) ・待機児童が生じているのは上位2割の自治体 ・都市部の自治体で待機児童全体の8割を占める 利用児童数 (%) 待機児童数 (%) 7都府県・ 指定都市・ 中核市 1,052,617人 (51.6%) 20,454人 (80.6%) その他の 道県 988,357人 (48.4%) 4,930人 (19.4%) 2,040,974人 (100.0%) 25,384人 (100.0%) 全国計 なぜ都市では待機児童率が高い? 都市部とそれ以外の地域の待機児童数 (厚生労働省・平成21年4月1日) 全国市町村別の待機児童率(2005年度) 資料:厚生労働省調査 7 待機児童を発生させる複合的な要因 -歴史的な施設ストックの整備不足,産業構造の転換 -女性のワーキングスタイル(民間企業,長時間通勤) -乏しい親族サポート→育児の外部化 -地価の高さ・用地確保の難しさ 正規 雇用 大都市圏 民間 非大都市圏 公務 通勤 通勤 時間 手段 世帯 構造 核 長い 鉄道 家族 自家 拡大 短い 8 用車 家族 就 低 高 3 地域の基幹産業と保育 • 女性労働力が必要な産業を基盤とする地域 → 保育供給への先進的な取組 9 就業率の男女差が大きい職業 事務職:大都市圏で高い 生産工程・労務:中部地方 販売・サービス職:地方温泉 観光地で高い⇒特殊な勤 務時間から延長保育サービス 凡例 販売・サービス職比率(%) へのニーズ 0.0 - 22.5 22.5 - 27.0 (武田・木下2007) 27.0 - 31.5 31.5 - 39.9 39.9 - 73.1 0 250 500 1,000 km 10 石川県七尾市における高い長時間保育実施率 都道府県 順 位 都道 府県 1 東京 2 神奈川 七尾市認可保育所 における保育時間 19:00まで 25 22:00まで 1 24:00まで 1 翌1時まで 2 認可保育所計 29 20時以降 延長比率 7.1 % 保育所 総数 1,651 ヶ所 6.1 871 3 奈良 4 滋賀 4.6 194 3.3 239 5 長崎 6 石川 3.0 437 2.8 390 6 大阪 8 宮崎 2.8 1,150 2.7 405 9 千葉 9 島根 2.6 686 2.6 265 10 広島 2.4 619 都道府県別の夜間延長保育実施率 (2006年) 11 国に先んじた長時間保育サービスの充実と拡大 地域による対応(保育所A) 1973年 旅館経営者+寺社が設立 企業による対応 1977年 企業内保育所設置 私立保育所による対応(保育所B) 1990年代以降,長時間保育の開始 旅館従業員のニーズを対象 2000年代 私立保育所C・Dでの長時間保育 旅館従業員以外の利用者も対象 私立保育所・行政による夜間保育 行政による助成 ・観光を基幹産業とする地域 の労働力確保 ・認可外保育所の不在 ・潜在ニーズを見越した参入 ・ノウハウの蓄積 ←旅館労働力確保の必要性を背景 とする合意形成 12 工業都市における保育 • 神奈川県川崎市における学童保育の 先進的導入 • 1960年代:高度成長期における人口 流入→臨海部利用者を対象とした公 的学童保育の開始(保護・収容) • 地域の基幹産業→保育供給の合意形 成がとられやすい傾向 施設分布の推移 4.地域の実情に応じた 子育て支援に向けて 14 保育をめぐる問題と解決の地域差 • 「都市」と「田舎」の二項対立を脱するために • 大都市都心/大都市郊外/地方都市/地方縁辺部・・・ • • • • • 民間サービスの地域差 ボランタリーな主体の活用可能性 地方圏の「豊富な親族サポート」の現在 地方都市の多様性をどうとらえるか 市町村合併と保育サービス 15 今後の研究課題 • 地方圏における子育て支援の研究は手薄 • 中心市街地活性化と子育て支援- 商店街空き店舗等を活用 した福祉・子育て支援の実態 • 需要サイド:子育て世帯の居住地選択と育児 • 都心周辺部再開発エリア「都内最後の大規模再開発」待機児童問題 ←通勤利便性,親族からの距離,地域イメージの「漂白」 - 【参考】都心湾岸部(豊洲): (久木元・小泉2013,Kukimoto et al. 2014) マンション建設によるアッパーミドル共働き世帯の流入←通勤利便性,資産価値 民間保育サービスの旺盛な利用,支払能力による格差 16
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