新潟空港における国際航空貨物のサービス戦略 について 齋藤 輝彦1・渡辺 朋洋1・栗林 1港湾空港部港湾計画課(〒950-8801 孝典2・新井 小百合1 新潟市中央区美咲町1-1-1 新潟美咲合同庁舎1号館) 2富山河川国道事務所工務第二課(〒930-8537 富山県富山市奥田新町2番1号) 新潟県内で発生する国際航空貨物の9割以上は成田空港等の新潟県外の空港で利用されている 事 が 荷 主 等 のヒ ア リ ン グ 調査 で 判 明 し ている.これは路線・便数が少ない,取扱可能な貨物が限 定されている等の事柄が理由として挙げられる.そこで行政関係者,民間団体等で構成する検討委員 会を設置し,新潟空港の受け入れ態勢と航空サービスの現状把握を行い,対応策の検討を行った. 本論文では,新 潟 県 内 か ら 発 生 す る 国 際 航 空 貨 物 の 動 向 と 新 潟 空 港 の 国 際 航 空 取 扱 貨 物 量 増 加 に向けた可能性及び方向性を提言する. キーワード 新潟空港,国際航空貨物,貨物ターミナル,ULD,チャーター便 1. はじめに (1) 全国の国際航空貨物の動向 2006~2008年の品目別輸出額の平均伸び率を見ると, 輸送機器を含む機械類,衣類等雑製品の航空輸送が減 少している.その一方で,食料品の航空輸送は海上輸 送と比較しても顕著に伸びている(図-1参照).この 理由として,近年世界的な日本食ブームの広がりやア ジア諸国の経済発展に伴う富裕層の増加等により,高 品質な日本産食品の輸出が拡大したと考えられる2). 特にイチゴ,桃,ブドウ等傷みやすく輸送にスピード が要求されるものが多いため,航空便の利用が拡大さ れたと予想される. (2) 新潟空港の国際航空貨物の動向 新潟県で発生及び消費される国際航空貨物量は,成 田空港を利用しているものが9割以上を占めている (図-2参照).また,新潟空港において,国際便の発 着回数は増加傾向にあるのに対して,国際航空取扱 20 航空 (%) 18 貨物量は変化はあるものの近年は減少傾向にあり, 平成19年は599tに留まっている(図-3参照). 特に1997年直前と2001年以降に大きな減少傾向が見 られるが,1997年直前の減少はロシアの貨物専用便が 騒音規制により就航不可能となったこと及びアジア通 貨危機が要因となったと考えられる. その後,アジア通貨危機が収束した1998年から,国 際航空取扱貨物量は増加傾向に転じ2001年に年間 図-2 新潟県内で発生及び消費される利用空港別の国 際航空貨物量の割合(重量ベース,平成19年9月)3) 海上 15 10 8 5 5 5 5 3 1 機械類 0 食料品等 化学薬品 複製品 0 原料別製品 -5 -10 -5 -6 図-1 品目別輸出額の平均伸び率(2006~2008 年)1) 図-3 新潟空港国際航空貨物取扱量の推移(1989~2007 年)4) 4,000t近くまで回復したが,機材の小型化等によりその 後減少の一途をたどっている. (3)本論文の検討主旨 北陸地方は,対岸に位置する近年経済発展が著しい 東アジアや北東アジア諸国と,わが国の3大都市圏と を繋ぐ場所にあり,貿易上地理的優位性という大きな ポテンシャルを活かすためには,国際物流機能の充実 が重要となる. そこで,北陸地方整備局が事務局となり平成17年度 に北陸地域国際物流戦略会議を設置した.同会議では, 北陸地方の物流に係る課題及び施策について関係者が 幅広く議論し,北陸地方における国際物流機能の改 善・強化及び利用促進等の提言をとりまとめた. これを受け,新潟空港の利用促進について,平成20 年度に整備局が中心となり,有識者,航空運送事業者 (以下フォワーダーという.),航空会社,空港関係 者,行政(国・県・市)等新潟空港の関係者で構成さ れた「新潟空港における貨物ターミナルビルのあり方 検討委員会」を開催し,新潟空港の物流面での現状の 課題を共有すると共に利用拡大に向けた方策を検討す ることとした. 本論文では,この検討委員会での議論を踏まえ,新 潟県内から発生する国際航空貨物の動向と新潟空 港の国際航空取扱貨物量増加に向けた可能性及び 方向性を提言する. (2) 路線・便数について 平成19年12月時点で,成田空港では33路線の国際線 が就航し,定期便発着回数が週約2,899回である. 一方 で,新潟空港では6路線の国際線が就航し,定期便発 着回数が週40回である. 荷主は航空貨物を安く,早く,安全に運ぶ事を望ん でいる.このため荷主のニーズに応じた経路(利用空 港)を提案するフォワーダーは,コスト縮減と積み残 しリスク低減の観点から,大都市圏空港発着便のよう な便数の多い路線を好む.また,積み替えや手続きの 手間を嫌うため,目的地への直行便が多く,路線が多 方面にある成田空港等大都市圏空港を利用する傾向が ある. 図-4 ULD1) ※ULD=コンテナやパレット等の航空貨物搭載用補助機材や.コンテ ナやパレットを利用して貨物が一塊になった状態をさす.貨物の積み 卸しや運搬等の全行程で機械を利用できるため,1 度に 1t~5t の貨 物も搭載可能となり,貨物へのダメージ軽減やセキュリティの確 保が可能となる. 表-1 新潟空港の国際線ダイヤ(2009 年 5 月)1,4) 2. 新潟空港の課題 航空会社 目的地 ULD 機材 月 火 水 木 金 土 日 大韓航空 ソウル × B737 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 既存のデータから新潟空港における国際航空取扱貨 物量減少の要因について検討したところ,以下の理由 が挙げられた. ①取扱可能な貨物が限定されている ②路線・便数が少ない ③貨物上屋の運用効率が悪い ④大都市圏空港を利用した場合に比べて運送費用 が高い ウラジオストク ハバロフスク × TU154 ○ 航空 ウラジオストク × TU204 ハルビン × A320 上海 × A319 グアム × B737 中国南方 航空 中国東方 航空 コンチネンタル 航空 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ※A320,A319は新潟空港に就航している国際線ではULD対応のものと なっていない (1) 取扱可能な貨物について 新潟空港に就航している定期便にはユニット・ロー ド・ディバイス(以下 ULD という.図-4 参照)搭載 可能な機材は投入されていない(表-1,図-5 参照). このため,貨物はベリースペース(座席の下の下部貨 物室)にバラ積み貨物として搭載されることになる. この場合,積み卸し作業は人力を介するため,輸送重 量が 1 個当たり 50kg に制限されることとなる. 新潟空港では国際チャーター便で ULD 搭載可能な 機材が就航する場合もあるが,その発着頻度は,現在 のところ新潟空港に就航する全ての国際便発着回数の 1%程度に留まっている. ソウル便・グアム便で就航。 A330 は 2001 年一時的に就航した 中国(ハルビン)便で就航 ソウル便 イタリアチャーター便 中国チャーター便 図-5 ULD搭載可否別航空機の種類1) < 分離型 > < 一体型 > 新潟空港 航空会社上屋 航空会社上屋 フォワーダー上屋 配置形式の目安 フォワーダー上屋 5,000 ton/ 年 一体 5,000~10,000 ton/ 年 一体または分離 10,000 ton/年 以上 分離 図-6 貨物ターミナルの配置形式 1) 表-2 冷凍冷蔵庫の規模の比較 1) 新潟 空港 延べ床面積(国際) 航空会社上屋(m2) フォワーダー上屋(m2) 燻蒸庫 ULD 置場(m2) 冷蔵庫(m2) 冷凍庫(m2) 設置場所 計画取扱貨物容量(トン/年) 2007 年度国際貿易 取扱量(トン) *国内と国際の区別無し 仙台 空港 1,705 1,057 648 97 290 15 1 *1,438 3,533 61 367 189 34 フォワーダー上屋内 広島 空港 1,290 573 717 56 446 (4) 運送費用について 物流のコスト構造は基本的に重量逓減制であり,輸 送する貨物の総量が大きくなるほど単位当たりの運賃 単価は安くなる.このため, フォワーダーは貨物の集 約を図り混載化することで収益を得ている.また,輸 出入において航空貨物輸送を利用する場合,運送に要 する経費のうち航空運賃の占める割合が高く,陸上輸 送にかかる費用の差はトータルコストに大きな影響を 及ぼさない.このような事からフォワーダーは長距離 を陸送しても便利な大都市圏空港に貨物を集約する傾 向があり,荷主にとっては近くの地方空港を利用した 場合の方が割高になる状況が生じている. 3. 検討結果及び方向性 以上の現状・課題に対し,新潟空港の利用拡大を図 るため以下の方向性を示す. (1) 機材の大型化に向けた取り組み 貨物1個当たりの制限重量を引き上げ取扱貨物量の 増加を図るためには,ULD搭載可能な大型機の就航が 不可欠である.大型機の就航は,機材に見合う旅客数 を確保することが重要となる. 新潟空港の国際便旅客数は近年25万人程度で横ばい で推移している(図-7参照).そこで新潟県及び新潟 市の検討を踏まえ,旅客の利便性を向上させるため本 年4月より新潟駅と新潟空港を20分間隔で直通するリム ジンバスの運行が開始された.更に上越新幹線の乗り 入れも検討されており,利便性の向上による旅客数増 加に向けた取り組みが進められている.また,新潟空 港利用のパッケージツアーを企画した旅行会社に対す るインセンティブの付与や,外国人旅行者のリピータ ー確保の取り組みは,旅客数の増加に有効であると考 えられる. (2) 路線・便数の改善 a) ソウル便の活用 新潟空港は 6 方面の国際線の運航があるが,その中 でもソウル便は,毎日運航している.このため積み残 千人 250 100 599 1、925 1,400 国際線合計 1400 1000 冷凍冷蔵 庫棟 8,300 国際線発着回数 1200 251 11,000 国際線降客数 200 150 11,000 国際線乗客数 回 (3) 貨物上屋の運用効率 貨物ターミナルビルの配置形式は,航空会社上屋と フォワーダー上屋の位置関係により,一般的に一体型 と分離型の 2 種類ある(図-6 参照).新潟空港の場合, 計画取扱貨物容量を 11,000t/年で設定されており,大量 の貨物の取扱に便利な分離型が採用されている.分離 型は年間 5,000t 以上の計画貨物容量で設定された空港 で採用されることが多い.しかし,現在の新潟空港の 取扱貨物量は,国際,国内を合わせても 2,600t 程度で あり,計画の 4 分の 1 程度に留まっている(図-1 参 照).このため,分離型は一体型と比較して動線が長 くなり,運用の効率性を向上させる上でのネックとな っている. またヒアリングによると,食品等の生鮮品の利用ニ ーズは高く,貨物上屋に設置された冷凍冷蔵庫の容量 不足が問題となっている.計画取扱貨物容量が同レベ ルの国内空港と比較した場合,新潟空港の冷凍冷蔵庫 の規模は非常に小さく,これらを必要とする食品等の 生鮮品の利用ニーズに対応できていないことが問題と なっている 5)(表-2 参照).そのため,新潟で発生及 び消費される生鮮品は成田空港を利用し,宅配業者の クール便により対応せざるを得ないという実感がある. 更に生鮮品の輸入において,冷凍冷蔵庫が航空会社上 屋になくフォワーダー上屋にあるため,輸入許可がお りるまで冷凍冷蔵庫に搬入できないことも課題となっ ている. 800 600 400 50 200 0 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 図-7 新潟空港国際便旅客数の推移(H10 ~H19 年) 0 年度 しが発生した場合でもソウル便の場合は,翌日送るこ とが可能であり,積み残しによる配送遅延を最小限に とどめることができる.更に仁川空港は世界各地への 路線を有しており,新潟空港の路線の少なさを補完す ることが可能となる.現在でも「小千谷の錦鯉」の輸 送にはソウル便が使用されており,香港や北米等様々 な地域への輸送に活用されている.新潟空港を活性化 させるためには,ソウル便の更なる活用を呼びかける 取り組みが必要である. b) 物量に応じたチャーター便の誘致及び活用 ロシア方面の国際線では,旅客の手荷物による貨物 スペースの混雑により,貨物の積み残しが頻繁に発生 している.特にロシア向けの輸出が多い切花の出荷時 期に積み残しが多くなり,ロシア便への信頼性を低く している. そこで,岡山空港ではボジョレーヌーボ-輸入の時 期に貨物チャーター便が就航している事例があるが, 新潟空港でも 1 月~3 月の切花出荷時期に,貨物チャ ーター便を誘致する取り組みで増便できれば,積み残 しが解消され貨物量増加に繋がると考えられる.貨物 チャーター便においては,低騒音貨物輸送機の導入も 進んでおり,過去に問題となった騒音も解決されてい る(図-8 参照). 現在の国際線旅客用チャーター便は,台湾や中国向 けのものが大半を占める.新潟県では桃やブドウ等台 湾や中国で需要の伸びている生鮮品の生産が盛んであ るため,台湾や中国向けの旅客用チャーター便を利用 すれば,ソウルを経由せずとも直行便で運ぶことが可 能となる. 定期便と異なりチャーター便は,就航日時,機体の 情報,貨物の空き情報等を簡単に把握する手段が今の ところ存在せず,就航しているチャーター便を活かし きれていない.そこで新潟県の荷主やフォワーダーに 対して,メールマガジン配信等で情報提供をする仕組 み作りや,インセンティブを与えることで,旅客用チ ャーター便貨物スペースの積極的な利用に繋がると考 えられる. (3) 施設の改善 新潟県は,果物や花等生鮮品の生産量及び輸出量が 多い.例えば新潟県のイチゴのブランドである「越後 姫」は,果肉が非常に柔らかいため振動の影響で傷が できてしまい輸送が困難であった.しかし,生産者と 農協が共同で開発した振動に強い容器を利用すること で,海外への輸出も可能となった. 図-8 低騒音貨物輸送機 5) このように生鮮品の取扱量増加が見込めれば,冷凍 冷蔵庫や食物検疫施設の役割は更に重要となることか ら,不足している冷凍冷蔵庫を増設することが生鮮品 の貨物量増加に繋がると考えられる. また,現在の取扱貨物量では新潟空港の分離型の貨 物ターミナルは非効率な運用を強いられている.しか し配置形式を一体型に改修すれば,今後新潟空港の航 空取扱貨物量が増加した際に手戻りが生じてしまうた め,航空取扱貨物量が増えるまで,フォワーダー上屋 の使用を一時中止し,航空会社上屋のスペースの一部 を転用して,一体型として運用する等の対策も考えら れる. (4) トータルコストの改善 現在新潟県では,新潟空港において搭載貨物1kg当た り2円の助成を行っている.しかし,フォワーダーへ のヒアリングによると,運送にかかるトータルコスト は,新潟空港を利用した場合と比較して成田空港を利 用した場合の方が格段に安価になっている.そのため, 助成額を増やせば,成田空港から新潟空港へシフトす るとの意見もあり5),今後更なる検討が必要である. 4. あとがき 検討委員会では空港や貨物に関連する機関との連携 により,平成 21 年度以降も新潟空港貨物ターミナルの 利用促進に向け更なる検討を重ね,対策を実行してい く事が確認された. 新潟県で生産,消費される貨物を新潟空港で取扱う ことができれば,空港周辺地域の経済が活性化され, 空港の有効利用にも繋がる.今後も地域の活性化を支 援するため,関係者が連携する場を提供していくこと が北陸地方整備局の取り組みとして重要である. 謝辞:本業務の遂行にあたり活発な議論をしていただ いた検討委員会の委員の方々,ヒアリングに協力して いただいた航空会社及びフォワーダーの方々に厚く御 礼申し上げます. 参考文献 1) 日本空港コンサルタンツ:平成 20 年度 新潟空港におけ る貨物ターミナルのあり方検討業務 2) 農林水産省:平成 20年度 食料・農業・農村白書 3) 財務省:貿易統計 生産地/消費地別物流図 都道府県別 (中部) 4) 国土交通省航空局:暦年・年度別空港管理状況調書新潟空 港 整 備 推 進 協 議 会 事 務 局 : 航 空 時 刻 表 (2009.5.1. ~ 2009.5.31) 5) 日本空港コンサルタンツ:平成 19年度 北陸地域航空貨物 需要動向調査
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