精 神神 経学雑誌 第1 0 9巻 第 9号 ( 2 0 0 7 )8 1 3 ‑ 8 2 1貢 精神運動発作 を再考する 村崎光邦 Mi t s u ku niMu r as a ki Mi t s ukuniMur as aki:Re co ns i d e r at i onofPs yc ho mo t o rSe i z ur e ‑I mpor t a nc eofMe d i o‑ Do r s alThal mi cNuc l e us ‑ 精神科医がてんかんの臨床や研究に携わる機会が減少 しているのは残念なことである.拙者 「 精神 運動発作の焦点 とその発作発射伝播 に関す る実験的研究‑ とくに視床背内側核の役割 について ‑ 」が 「 精神医学の潮流」に選 ばれたのを機会に,精神運動発作について再考 したい.精神運動発 作 は,広義 には国際分類 でい う複維部分 発作 ( 一部単純部 分発作 を含 む)を意味 してい るが, 1 9 6 0 ‑1 9 8 0年当時は内側側頭葉の扇桃核や海馬から発す るてんかん発作 を総称 していた. ここでい う精神運動発作は狭義の扇桃核海馬発作の ことであり,今 日で もわれわれ精神科医が臨床の場で接す る機会の最 も多いてんかん発作である.すなわち,精神運動発作は主観発作 ( 精神発作) としての前 兆か ら始 まり,それまでの行動 を停止 して一点凝視ののち,口部,顔面,身振 り,行動 に至 る自動症 が続いて 5 0秒前後で突如終了 して もとの状態に もどる発作である.筆者 は, この一連 の精神運動発 作の脳内の発作発射の拡が りを実験てんかんを通 して明 らかにした. まず,海馬発作の一点凝視ある いは行動停止か ら始 まり,次いで扇桃核発作が自立発作発射 を生 じて自動症に至るとするもので,海 馬や扇桃核の電気刺激で容易に生 じてヒトにみるのと全 く同 じ精神運動発作が誘発され る.視床背内 側核の刺激でこれ らの発作が誘発 されることを見出し,同核が扇桃核海馬発作をコン トロールする重 要な役割を担 うことを明 らかにし,その理解を深めることがで きた.精神運動発作 とい う用語 は複雑 部分発作にとって替 えられたが,その歴史的背景 を探 ると脳波のない時代からてんかんの‑型 として 大 きな存在感 と意義を有 してお り,今 日大 きく発展したてんかんの外科的治療 も大半が この精神運動 発作を対象 とした もので,貴重な存在であ り得たと考えられる.実験てんかん学は臨床の場 に役立つ ものであってこそ意味があることを強調 してお きたい. <索引用語 :精神運動発作,複雑部分発作,自動症,肩桃核海馬発作,視床背内側核> は じめ に 962年当時,てんかんの診療, 筆者が入局 した 1 し,特 に 1 980年代 にはてんかんの外科的治療が 導入 されて,大 きな進展 をみせ,てんかん学 その 教育,研究 は精神科学の大 きな部門を占めてお り, ものは精神科学の専売特許で はな くな り,精神科 実験てんかんモデルを用いた電気生理学的研究は 医はてんかんの臨床や研究か ら徐々に退いてきて 大変 に活発で,重要な研究手段の一つであった. いる.逆 にいえば,てんかんを診 られない精神科 しか し,1 960年代後半か ら小児科や脳神経外科 医がふ えつつあ り,実は筆者 もてんかん研究か ら あるいは神経内科がてんかんの領域 に大 きく進出 遠 ざかっていて内心,駐陀た るものがある. *文献 1 8 )( 本論文 ・参考文献 とも学会会員ホームページに掲載 します) n s t i t u t eo fPs y c h o p h a ma c o l o g y 著者所属 :CNS薬理研究所,CNSI 8 1 4 表 精神 経 誌 ( 2 0 07)1 09巻 9号 1 Ps y c h o mo t o rTr i a d( Te mp o r a lEp i l e p s y ) 4) ) ( Le n n o x,1 9 5 1 1 1 .p s y c h o mo t o rp r o p e r:意識障害が強 く,精神運動興 奮 ない し抑制 を中心 とす る発作 で, あ とに健忘 を残 す. 2.a u t o ma t i s m:岨噴,身振 り,歩 行 な どの 目的の な い自動運動 を呈する発作. 3.s u b j e c t i v es e i z u r e:意識障害 はあって も軽 く,錯覚, 幻覚,離人症,既視観 な どを主 とす る発作. ものであるとしたのである. 1 9 2 9年 Ha nsBe r ge rによって脳波が発見 され, てんかんの診断に導入 されて,てんかんの発作型 と脳波所見 との相関が確立 されて,てんかん学の 第一の大 きな発展 をみた. 1 9 3 7年 Gi bbsら8 )は,精 神運動症状 が発作 と して現れて くるてんかん として精神運動発作の概 念 を提 唱 し,脳 波上 3 ‑4Hzの梯 型 波 s q uar e‑ 今 回,1 9 6 8年 に本紙 に掲載 された 「 精神運動 f l a p‑t oppe dwa ve sが生 じる とした.そ して, 1 9 4 1年 Ja s pe rとKe r s hman12)は精神運動発作 を 発作 の焦点 とその発作発射伝播 に関する実験的研 側頭葉 との関係 をしめる所見から,側頭葉てんか 究‑ とくに視床背内側核の役割 について‑ 」 * ん との名称 を提唱 した.1 9 4 9年 には,Gi bbsら7) が 日本精神神経学雑誌編集委員会か ら 「 精神医学 はその脳波上の特徴 は発作間欠期 にみられる前側 の潮流」の 1つに選 ばれた.光栄な ことである. e mpor als pi keであるとした. さら 頭部の林波 t ここで は, これを機会 に,現在,われわれの 日 に,1 9 5 1年 には Le n nox1 4 )が臨床症状 を詳 し く 常の臨床 で見 るてんかんの中で最 も多い精神運動 分析 して ps yc ho mo t ort r i adとして 3つ に ま と 発作 についての概説 を紹介 して再考 を促す ととも めた ( 表1 ) .3番 目が今 日でいう精神発作 として に,実験 てんかん学の臨床 に果たす役割の大 きさ の単純部分発作であ り,2番 目が内側側頭葉 ( 肩 に触れ,精神科医のてんかんへの情熱を呼び起 こ 桃核,海馬)か ら生 じて くる狭義の精神運動発作 すべ く, この論文 を書 く決心 をした. の中核 をなす 自動症 a ut omat i s m で あ る. こう して,精神運動発作の概念が確立 され,側頭葉て 精神運動発作 とは‑ その歴史的背景 んかん と同義的に呼ばれたが,のちに前頭葉,疏 精 神運 動発 作 ps yc homo t o rs e i z ur eとは精 神 頂葉あるいは視床や帯状回などか ら生 じることが 症状や精神運動症状が発作 として現れるてんかん 報告 され,Le nno xのい う t r i adの一番 目は これ の 1つのタイプである9 ) .今 日の国際分煩 では, ら広義の精神運動発作 を広 く見てお り,側頭葉て 局在関連性てんかん4 )で,その大部分が内側側頭 んかん より包括的なものとなる.今回, ここで と 葉てんかんであ り,発作型 としては複雑部分発作 りあげている精神運動発作 は肩桃核や海馬か ら生 c o mpl e xpa r t i a ls e i z ur e( CPS) に分類される3). 当初,精神症状や自動的運動症状がてんかん発 じた狭義の もので,内側側頭葉発作 ということに なる ( 表 2)15). 作 として現われて くるものは明確な概念がな く, てんかん等価症 e pi l e pt i ce qui val e ntの中 に一括 精神運動発作の臨床所見 されていた. ところが,近代てんかん学の父 とい 宮坂 ら17)は精神運動発作 の症状 を細 か く分析 ohnHu ghl i ngsJ ac ks o nによって1 1 ) ,代 われ る J して観察 し,い くつかの主要症状の組 み合わせで 表的な精神運動発作の 1つ とみ られていた鈎回発 患者 ごとにかな り恒常的な形で繰 り返 されること 作 unc i nat ebi t ,すなわち,何 ともいやな匂いや か ら,発作構造 を相的に分類 して発作型 を 4つに 味が したか と思 うと,意識の変容 とともに,錯覚, 分 けている ( 図1 ) .最初 の主観的発作 の相 は従 dさ j a vu,幻視 などの精神症状 を伴 った夢幻様状 莱,前兆 a ur aといわれていた ものを含み,錯覚 態 dr e amys t a t eが生 じて くる発作が鈎回に限局 や幻覚など多彩な精神症状か らなってお り,精神 した病巣の発作発射によるものであることが証明 発作が これに相当する. これに続いて,律動的に された.てんかん等価症ではな く,てんかんその 繰 り返す " 咳 き,舌なめず り,吸 う,飲み込 む" 8 1 5 精 神 医学 の潮流 :精神運動発作 を再考す る 表 2 側頭葉 てんかんの概念 とその変遷 ( 真柳 ,1 9 9 8 15 ) ,一部加筆) t e mpo r all o bee l e psy pi e da lt y p e lat e r alt y p e e tra ‑t em por ale pilep s y fro n t all o beep ilep s y pa r i e t a ll o be ep i l ep s y m i ・ ‑‑ ‑ ・‑ ・ mes i alt empor all obee pi l ep s y ( 狭義の精 神運動 発作) x c ci pia llo be o t e ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ pi l epsy Typ eITypel lTyp el l I TypeAt y p. neocor t i calepi l ep s y ( 芸悪霊孟 宗完除 いた広義の) 中に含めることで解釈すべ きものであろう9 ) . Ph a s eo 主観性発作 ( 前兆)の相 Ph a s e1 意識 混濁 または消失の相 Ph a s e2 口部 自動症 の相 Ph a s e3 「 行動性 自動症」の相 精神運動発作の責任病巣 と発作機序 近年,内側側頭葉てんかんの外科的手術が さか ん とな り,摘出 した病巣の性状の詳細が明 らかに されて きてい る ( 図 2)16). これ に よる と,内側 ys e mbr yo pl as t i c ne ur oe pi t hel i al 側頭葉硬化 とd t umor( DNT)が大半 を占めてい る. ここでい う内側側頭葉硬化 とは,古 くか らてんかんの脳病 理所見 として注 目されている海馬角硬化の ことで, 図 1 宮坂 らによる精神運動発作の発作構造 の相 的分類 と発作型の分類 ( 首坂 ら,1 9 7 0 1 7 ) ) Fal c o ne r s )は側頭葉てんかんの手術で,硬化性変 化 は海馬のみな らず,海馬鈎や房桃核および海馬 芳回などを中心に側頭葉内側面 に及ぶ ことか ら名 づけた ものである.病理学的には皮質や白質が全 な どの口部 自動症 o r alaut o mat i s m の相 が現れ 体 的 に萎縮 し,グ リオ‑ゼ を伴 って お り,Fa l ‑ る.次いで,キ ョロキ ョロ周 りを見回 りした り, c one r自身は小児期 の熱性疫撃の既往 を重要視 し 手で物をまさぐった り,つか もうとした り, また, ている. 払 い の け る よ う とす る身振 り自動 症 ge s t ur al aut o mat i s m,あるいは家 の中 を歩 き回った り, 海馬角硬化 としての成因については安陪 1)の総 説 に詳 しいが, これには一次性 と二次性がある. 人 を追いかけた り,危ない崖をよじ登 った りする 二次性 とは痘撃大発作 をもってんかん症例で,皮 歩 行 自 動 症 な ど の 行 動 自 動 症 be havi or al 復する痩撃による血流障害の結果,二次的 に海馬 aut omat i s m へ と続いてい く. こうして, これ ら に生 じた硬化性病変である.てんかんの経過中に, peIか ら の相 をどう経過 してゆ くかによって Ty この硬化性病変が成熟 して,てんかん原性焦点 と Typeat ypi c alまでの 4つに分類 してお り,精神 な り,痘撃大発作 とは別 に精神運動発作 を生 じる 運動発作 を精神発作 と自動症に分 けないで,相的, ことになる26).一方,一次性 とはてんかん発作 を 自動的に考 えた宮坂 らの描写は,狭義の精神運動 持たない症例で,出産時障害や幼少時期の外傷や 発作の経過 を現象学的に捉 えた もの として最 も優 炎症 あるいは熱性痘撃な どによって海馬角 に硬化 れた もの といえよう. 性病変 を生 じるもので, これがある年代 に達 した われわれの臨床経験か ら,Pha s eOで とまる精 神発作 ( 単 純 部 分 発 作) も あ り, ま た 直 接 Phas elか ら入 る場合 もあ り,Ty peat ypi c alの 段階でてんかん原性 を獲得 して精神運動発作 を生 じて くることになる. てんかん原性焦点 としての DNT は皮質形成異 糟 神経 誌 ( 2 0 0 7)1 0 9巻 9号 81 6 皮質形成異常 5% ̀DNT:dysembr yopl a s t i cn eu r o epl t h el l alt u T nO r a.側 頭 葉 の 手 術 b .他 の脳 葉 の 手 術 図 2 切除標本 の組織診 断 ( 三原 ,1 9 9 8 日 り ) 常 とともに大脳皮質 の形成異常 を基盤 とした病変 まさ に sLari ng と ar r estで あ る.発 作 発 射 が海 とされ, 坑= 徐標本 の組織診断によって見出された 馬 に と どまって い る場 合 に は st al ・ i l l g と ar r est ものである. このように,内側側頭葉硬化 と脳皮 の ままで,発作終了 とともに ミャ‑ ツと鳴いて も 質形成異常が精神運動発作 の二大要因であるとさ とに もどる ( 図 3)18). れ る16). 一方,扇桃核発作では発作 とともに刺激側 の眼 槍 をググー ツと閉 じる動作か ら顔面の揺核 に至 り, 精神運動発作の電気生理学的研究 さらにロ部 自動症 といえる岨嘱運動がみ られ,普 脳 のあ る部位 を電気刺 激 す る と局所性 の発作 しい流麗 とともに終 了す る ( 図 4)18). いわ ゆ る i ct alphenomel l On を生 じうることは 1 0 0年以上 自動症 の発作 その ものである.海馬刺激 による発 前か ら知 られてお り6 ) ,特 に扇桃核 や海馬 な どは 作 を何 回か起 こさせ るうちに,海馬発作 その もの 発作が容易 に惹起 され,脳幹郡,視床,大脳基底 は容易 に扇桃核 を巻 き込み,扇桃核 に自立性の発 核,小 脳 で は起 こ しに くい こ とが わ か っ て い 作が生 じて くる. このさいの行動上 のパ ター ンは た 2・13124) 一点凝視 か ら始 ま り, 自動症発作が続 くことにな 筆者の所属 した研究室で も,扇桃核や海馬 を中 る. この形 は宮坂 らのい う TypeI Iか ら. TypeI I l 心 とす る電気生理学的研究が主題 の 1つであ り, に至 るものである. この ように,精神運動発作 は 特 に原 ら10) は扇桃核刺激 による発作 と海馬刺 激 ネ コの扇桃核 や海馬 を刺激 して得 られ る発作発射 による発作 とは脳波上の発作発射 のパ ターンとそ の拡が り方 をみ ることによってすべて説明がつ く れに同期 して生 じて くる行動上のパ ター ンが異な のである. ることを明 らかにしていた. ヒ トでみる精神運動発作 はまさ しく扇桃核海馬 精神運動発作 における視床背内側核の役割 発作で,ネコの扇桃核や海馬 を刺激 して生 じる発 筆者 の報告 した実験 は,扇桃核発作時 にみ られ 作 とまった く同 じもの といえる.例 えば,海馬発 る顔面 の自動症 は視床背内側核 の刺激で も得 られ, 作では,発作開始 とともにそれ までの行動 をすべ 視床背内側核 を破壊す ると扇桃核発作時の顔面描 て停止 し, ジーつ と一点 を凝視 した姿勢 をとる. 揚が消 えるとして,精神運動発作時の視床背内側 81 7 精神 医学 の潮流 :精神運動発作を再考する A ・ ・・ :岬 ∴汗 ・= ‑ r . r l J I P. ST‥ M. r. MD. STnl . 図 3 視床背内側核刺激 と海馬発作 ( 村崎 ,1 9 6 8 1 8 ) ) A :右海馬刺激による発作発射.B:右視床背内側核刺激による発作発射.いずれ も 9 ‑1 8C / Sの林波群か らなる発作発射 r r e s t状態を示 している.Bの場合で も視床背内側核の発作発射の振 巾が小 さ く が出現 し, この間ネコは行動 を停止 した a 海馬が最大であることに注意. r. AMY.STn4 . r. MD.STI M. 」1 0 0 J ̀ Ⅴ ‑ q e C 図 4 視床背内側核刺激 と扇桃核発作 ( 村崎 ,1 9 6 818 ) ) A: 右肩桃核刺激 による発作発射.B: 右視床背内側核刺激による発作発射.いずれ も右肩桃核 に 2 ‑6C / Sか らなる発作 発射が現われ,それに同期 して右顔面 に措坊がみられる ( 右顔面筋か ら誘導 した筋電図に明 らかである) . AMY :扇桃核,HI PP. D.:背側海馬 ,MD:視床背内側核 ,F‑T :前頭 一側頭誘導,EMG:顔面筋筋電図 8 1 8 精神経誌 ( 2 0 0 7 )1 0 9巻 9号 DORSAL HI PPOCAMPUS D. PSAL T DORSAL V E N T R A L Y E N T RAL H ̲ T P P O AMPUS C " P P E O ; A : " i CA 図 5 視床背内側核 ・海馬 ・扇桃核問の機能的関連 を示す模型図 ( 村崎,1 9 6 8 1 8 ) ) PTI:下 視 床 脚,ENTO:内 喚 領 ,D. PSALT:do r s a lp s al t e r i u m, Ⅴ. PSALT:v e n t r a lp s a l t e r i u m,CA:前交連 ,PI RI:梨状葉 核 の重要性 を示唆 した斉藤2 5 )の実験 に続 いて行 侵襲 を加 えることは許 されない. われた ものである.その骨子 は,視床背内側核の なお,精神運動発作 を含む部分発作への薬物 と 電気的刺激 によって, それぞれ自立性の肩桃核発 して car bamaz e pi neとhydant oi nとが一次選択 作や海馬発作 を誘発することができることを明 ら 薬 として推奨 されるが,治療抵抗性の難治性の症 かにした点で,左右の扇桃核や海馬 と視床背内側 例 には s odi um val pr oat eが併用 され ることが少 核が, どのような線維連絡 を営んでいるかを脳部 な くない.視床背内側核内にてんかん原性焦点が 位の破壊や線維連絡の遮断を通 して,視床背内側 存在す る場合 には s odi um val pr oat eも効果 を発 核 ・海馬 ・扇桃核 間の機能的関連 を示す模式 図 揮 しうる可能性が十分 に考えられ よう. ( 図 5) を作 り上 げた ことで あ る.すなわち,覗 床背内側核 は扇桃核および海馬 と解剖学的ならび 実 験 余 話 に機能的に密接な神経回路 を形成 してお り, この 筆者の実験 は急性実験 を中心 としたが,慢性実 回路 を通 して視床背内側核が精神運動発作 を駆動 験 も多 く行 ってお り,その中で肩桃核発作や海馬 させ る可能性があるとして,その役割の重要性 を 発作 を何回 も起 こさせているうちに,電気的刺激 指摘 した ものである. を加 えないのに自立性の発作が生 じた り,二次性 すでに述べたように,精神運動発作の安任病巣 全般化発作 と考 えられる全身疫撃発作 を経験する はほ とん どが内側側頭葉の肩桃核,海馬にあ り, ことが屡々あった. この現象は精神運動発作 を繰 現在行われている最 も普遍的な外科的手術 は選択 り返す難治症例で,その経過中に二次性全般性発 的扇桃体海馬切除術 にあるといわれる15).本来 な 作のみならず, ときに精神運動発作重積に至 るこ ら,視床背内側核 も精神運動発作の責任病巣 とし とがある事実 につなが ることとい える19,20 ・ 2 1 ) .筆 て外科的手術のターゲ ッ トとな りうるとも考 えら 者 らの次の時代の実験てんかんの主流 となったキ れるが,視床背内側核 は豊富な視床内連絡 によっ ンドリング現象につなが るもので もあった.キン て周囲の視床諸核 と連絡 しあってお り,いわゆる ドリング現象 に類する現象を眼のあた りに見てい 中心脳系の一員で もあ り,脳全体の覚醒機能や記 なが ら, これ を見逃 して しまった ことは残念なこ 憶機能の中核 として も働いていることから,手術 とであった. 81 9 精神医学 の潮流 :精神運動発作を再考する お わ りに 筆者のお こなった実験てんかんモデルか ら得た ことは精神運動発作 ( 扇桃核海馬発作 ‑内側側頭 葉発作)は肩桃核 と海馬 という大脳辺縁系の二大 組織 に加 えて,それを統率 している視床背内側核 の重要性 を見出した ことである.本来,臨床医の 8 )Gi bbs ,F. A. , Gi bbs , E. L. ,Le nnox, W. G. :Epi l e p・ s y‑ apa r oxys malc e r e br aldys r hyt hmi a.Br ai n,6 0;3 7 7 ‑ 3 8 8 ,1 9 3 7 9 )原 俊夫 :精神症状,てんかん性格.現代精神医 学大系 1 1 A,てんかん Ⅰ ( 大熊輝雄,佐藤時治郎編) .中 山書店,東京,p. 1 6 7 ‑ 1 9 5 ,1 9 7 7 1 0)原 俊夫,原 常勝,中村希明ほか :動物の行動 行 う実験的研究は日常の臨床に直接 あるいは間接 と発作発射 にみ られ る海馬 ・扇桃核の異同.第 21回 日本 に役立つ ものでなければな らない. ともすれば, 脳神経外科学会,1 9 5 2年 1 0月 ( 抄) .脳 と神経,1 5;1 8 2 , 今 日,実験のための実験,研究のための研究で終 1 9 5 3 始す るのを見受 けることが稀ではない.筆者 らの 時代 は実験で得た所見がそのままてんかんの病態 の理解に役立ち, より深い理解のもとに診断 と治 療に生か してきた.筆者が精神運動発作に関わる 症例報告 を多 く行 ったの も実験で培 った知識が大 いに役立 った と確信 している19‑23).若 い先生方 の奮起を期待 して稿 を終 えたい. 11) J ac ks on,J. H∴ Onapar t i c ul arvar i e t yofe pi ・ l e ps y( ̀ i nt e l l e c t ualaur a一 ) .Se l e c t e dWr i t i ngsonJo hn Hughl i n gsJ ac ks on ( e d.byTayl or ,∫. ) .St a pl e sPr e s s , London,1 9 5 8 1 2 )J as pe r ,H. H. ,Ke r s hman,J∴ El e c t r oe nc e phal o・ gr aphi cc l as s i ic f at i on oft hee pi l e ps i e s .Ar c h Ne ur oI Ps yc hi at ,4 5;9 0 3 ‑ 9 4 3 ,1 9 41 1 3 )Kaada, B. R. :Somat omor aut onomi c and e l e c t r o‑ C or t i c o gr aphi cr e s pons e st oe l e c t r i c als t i mul a‑ 文 献 1) 安陪光正 :形態学的側面.てんかん以外の発作性 1 B,てんかんⅠ Ⅰ( 大熊輝雄,堤 疾患,現代精神医学大系 1 藤時治郎編) .中山書店,東京,p. 2 7 ‑ 4 5 ,1 9 7 7 2 )Aj mone‑ Mar s an,C. ,St ol l ,J r .J . :Subc o r t i c al c o nne c t i onsoft het e mpo r all o bei nr e l at i o nt ot e mpor al l o bes e i z ur e s .Ar c hNe ur oIPs yc hi at ,6 6;6 6 9 ‑ 68 6 ,1 9 5 1 3 )Commi s s i o nonCl as s i ic f at i onandTe r i nol m o gy o ft heI nt e r nat i onalLe agueAgai ns tEpi l e ps y:Pr o po s al t i onof̀ r hi ne nc e phal i c' ando t he rs t r uc t ur e si npr l mat e S , c atanddo g. Ac t aPhys i oISc aれd,2 4( Suppl . 8 3 ):1 ‑ 2 8 5 , 1 9 51 1 4 )Le nnox,W. G. :Phe nome nonandc o汀e l at e sof t hephyc homot ort r i ad.Ne ur ol o gy,1;3 5 7 ‑ 3 7 1 ,1 9 5 1 . 1 5 )真柳佳昭,渡辺英寿 :脳局在関連てんかん,ち‑1 側頭葉てんかん.臨床精神医学講座 9 ,てんかん ( 鈴木二 那,山内俊雄編).中山告店,東京,p. 1 91 ‑ 2 0 2 ,1 9 9 8 1 6 )三原忠紘 :てんかん発作の外科治療.臨床精神医 f or r e vi s ed cl i ni cal and el ect r oce phal ogr aphi c 学講座 9 ,てんかん ( 鈴木二郎,山内俊雄編) .中山書店, c l a s s i 丘c at i onofe pi l e pt i cs e i z ur e s .Epi l e ps i a,2 2;4 8 9 ‑ 1 4 2 ‑ 1 5 6 ,1 9 9 8 東京,p. 5 0 1 ,1 9 8 1 1 7)宮坂松衛,福 沢 等,大高 忠 :てんか んの幻 4 )Comm is s i ono nCl as s i Bc at i o nandTe r mi nol o gy 覚 ・錯覚発作 と精神運動発作.幻覚 の基礎 と臨床 ( 高橋 oft heI nt e r nat i onalLe a gueAgai ns tEpi l e ps y:Pr opos al 良,宮本忠雄ほか編) .医学書院,東京,p. 2 2 3 ‑ 2 4 6 ,1 9 7 0 f o rr e vi s e dc l as s i nc at i on ofe pi l e ps i e sand e pi l e pt i c s y ndr o me s .Epi l e ps i a,3 0;3 8 9‑ 3 9 9 ,1 9 8 9 5)Fal coner , M. A∴ Genet i c and r el at ed ae t i ol o gi c alf ac t or si nt e mpor all o bee pi l e ps y. Epi l e ps i a, 1 2;1 3 ‑ 31 ,1 9 7 1 6 )Fr i t i s c h,G. ,Hi t z i g,E∴ Ue be rdi ee l ekt r i s c he E汀e gba r ke i t de s Gr os s hi ms . Ar c h. f ur Anat om. Phys i o l o gWs c hrMe d,3 7;3 0 0 ‑ 3 3 2 ,1 8 7 0 7 )Gi bbs , E. L, Gi bbs , F. A. , Fus t er , B.: Ps yc ho mot o re pi l e ps y.Ar c hNe ur oIPs yc hi a t ,6 0;3 31 ‑ 3 3 9 ,1 9 4 9 1 8 )村崎光邦 :精神運動発作の焦点 とその発作発射伝 播に関する実験的研究‑ とくに視床背内側核の役割につ いて‑ .精神経誌,7 0;6 3 ‑ 8 2 ,1 9 6 8 1 9 )Mur as aki ,M∴ Ps yc homot ors t at us:Cas er e ・ por tand pr opos alf orcl as s はc at i on.Fol i a Ps yc hi at Ne ur oIJ pn,3 3;3 5 3 ‑ 35 7 ,1 9 7 9 2 0 )Mur as aki ,M. ,I nami ,M. ,Okamot o,K. ,e tal ∴ Ps yc homot ors t at usi nduc e dbyt e mpo r all o bee nc e pha・ l i t i s .Fol i aPs yc hi atNe ur oIJ pn,3 5;1 2 9 ‑ 1 3 8 ,1 9 81 2 1 )Mur as aki ,M. ,Okamot o,K. ,Takaha s hi ,e tal ∴ Ps yc homot ors t at us ‑ af e ma l eca s ei nt he3 4 t hwe e kof 820 pregnancy. Folia Psychiat Neurol lpn, 37; 435-442, sponses to electrical stimulation. 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In the period of 1960-1980, experimental epileptology was one of the main areas in the field of psychiatry. Now, I have been given an opportunity to reevaluate my paper, entitled "Role of the Mediodorsal Thalamic Nucleus in Temporal Lobe Seizures-An Experimental Study-", published in this journal in 1968. Therefore, I would like to reconsider psychomotor seizures, which are classified as complex partial seizures at present. The psychomotor seizures mentioned above are so-called amygdalo-hippocampal seizures. At first, I was very much interested in the amygdala and hippocampus, because these seizures are quite similar to psychomotor seizures which are clinically observed in epileptics. I observed a lot of important phenomena. A amygdaloid and hippocampal seizures are Quite different from each other, both regarding their behavior and EEG findings which are observed during the attacks. Hippocampal seizures consisted of staring in the arrest reaction. On the contrary, amygdaloid seizures showed typical automatisms, such as facial and behavioral automatisms. From these results, it was considered that the clinically observed psychomotor seizures began in the hippocampus and immediately induced the self-sustained amygdaloid seizures. In my experiments, I often observed that self-sustained amygdaloid seizures were easily' induced by hippocampal seizures. Moreover, I noted the fact that stimulation of the mediodorsal thalamic nucleus elicited both amygdaloid and hippocampal seizures. By means of stimulation and surgical interruption methods among the dorsomedial thalamic nucleus, amygdala, and hippocampus, I found that Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) 821 the dorsomedial thalamic nucleus plays the main role in amygdalo-hippocampal seizures. According to my experiments, the thalamic nucleus controls the limbic seizures. So, I concluded that the therapeutic approach to the mediodorsal thalamic nucleus is clinically very important. I think that, through these experimental studies, I could profoundly understand epilepsy itself and the development of seizure discharge in the brain, and put this understanding to good use in my clinical activities. It is my belief that experiments which are performed by clinicians field useful results which can be utilized clinically. <Author's abstract> <Key words: psychomotor seizure, complex partial seizure, automatism, amygdalohippocampal seizure, medio-dorsal thalamic nucleus>
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