卒業論文 ゴルフ場の経営再建 1999.1.29 早川ゼミ 山下 大起 目次 表紙 1P 目次 2P はじめに、 3P 第1章 ゴルフというスポーツの現状 4P 第2章 ゴルフ場経営の仕組みと現状分析 9P 第3章 ゴルフ場再建に向けて 終わりに、 14P 24P 参考にした資料・文献の一覧 25P 表 26P∼ はじめに、 私は、1994年4月に一橋大学に入学し、体育会ゴルフ部に籍をおき、スポーツ産業 論を学ぶゼミに所属したのでこのテーマを選ぶことにしました。1980年代後半から始 まったバブル景気も崩壊し、長引く不況のため大型企業の倒産が相次ぐなど日本経済の危 機が叫ばれています。一方、個人の生活はというと、労働者の実働時間は年々減少してい ますがリストラや時間外労働のカットオフなど人々に余暇を楽しむ経済的・精神的ゆとり はないようです。さまざまな余暇活動の参加人口は減少し、レジャー産業の売上高は大幅 に落ち込んでいます。ここでバブル景気の動向とともに参加人口が上下したバブルの象徴 とも言えるレジャー、ゴルフ産業を取り上げてみます。 ゴルフ産業と一口に言っても預託金問題で揺れているゴルフ場や練習場、ゴルフ用品タ イガー・ウッズの出現により大きく注目されているプロゴルフ業界、アマチュアゴルフ、 果てはゴルフ宅急便などの付随産業など、いろいろ切り口がありますがここではゴルフ場 の経営問題を中心に取り上げてみたいと思います。 ゴルフ場は運営形態により3つに分けられます。預託金会員制、民間パブリック制、公 営パブリック制の3つですが日本にある2000以上のコースの大多数が会員制のゴルフ 場である。今、週刊誌等で問題とされている預託金問題はこの預託金会員制のゴルフ場の 事です。この預託金問題をからめ、ゴルフ場経営の現状を分析し、問題点の解決を模索し ながらゴルフ産業全体を考えていきます。 第1章では、ゴルフというスポーツが社会においてどういう位置付けにあるのか、どの 程度一般大衆に浸透しているのかを実際にプレーする側からと、ゴルフ場や練習場、ゴル フ用品など提供する側からの2つの視点から分析します。第2章は、ゴルフ場経営の仕組 とその成立過程を考察し、問題点を把握します。第3章では、実際のゴルフ場の経営再建 に向けて、いろいろな提案を行いたいと思います。ここでは、ゴルフ場だけでなくゴルフ 産業、ゴルフ業界全体への提言も行いたいと思います。 不況の真っ只中にあり経営難に陥っている企業、業界はゴルフ業界以外にもあります。 ここではゴルフ産業を取り上げましたが、考え方は他の業界にも通じるものがあると思い ます。一企業だけではどうしようもならないことは業界全体で取り組まなければならない のではないでしょうか。 第1章 ゴルフというスポーツの現状 ゴルフ産業を考えるにあたって最初に押さえておきたいことは、ゴルフというスポーツ そのものが社会においてどういう位置付けにあるのか、一般大衆にどれほど浸透している のかということである。ゴルフというスポーツの位置付けをはっきり確定しないでゴルフ 産業を云々言っても机上の空論で説得力に欠けるものとなってしまうと考えたからである。 そこで、ゴルフスポーツを、する側からと場所・用具等を提供する側からの2つの視点か ら分析してみたいと思う。 Ⅰ.する側から見たゴルフ ⅰ.ゴルフ人口 まず、ゴルフの参加人口の状況について「レジャー白書′98」の資料に基づいて考察 してみる。平成9年で、コース1300万人、練習場では1400万人と他のスポーツと 比較しても十分に大衆の間に浸透しているといえる(表1)。一般にゴルフは金持ちの道 楽であって庶民にはあまり縁のないスポーツとの見方が強い、というのが私のイメージで あったが、実際はスキーや野球と同程度の人気を誇っているようである。参加人口の最近 9年間の動向を見てみると、バブル景気とともに順調に参加人口を伸ばしてきたゴルフ業 界は、バブル崩壊とともに参加人口も減少したかに思えたが、実際は、コースは横ばいに 近い微減であり、かつての水準を保っている。しかし、練習場の参加人口は年々減少し、 平成5年には1940万人を数えたものが平成9年には1400万人にまで減少している (表1)。ゴルフというスポーツは初心者がいきなりコースに出てプレーするというわけ にはいかないスポーツである。練習を積み、マナーを勉強して他のお客やコース管理者に 多大な迷惑がかからない程度に上達してからでないとコースに出てはいけない、という暗 黙の決まりが存在するからである。練習場は中上級者の技術向上の場であるとともに初心 者ゴルフを始めるにあたって最初に訪れる場所でもある。バブル景気とともに練習場の参 加人口が伸びたのは初心者が大幅に増えたからということがいえる。逆に、バブル崩壊と ともに練習場の参加人口が減少したのは、この初心者がいわばブームに乗っかってゴルフ を始めたのはいいが、結局ゴルフ愛好者として定着しなかったといえるのではないか。長 期的に見ると子供人口は年々減少しているので、このままなんら対策を練る事なく無策の ままであれば参加人口が減少していくのは間違いないであろう。 ⅱ.所得別、年代別、性別からみたゴルフ 次に、どういう人達がゴルフに参加しているのだろうか。ここに性・年代別余暇活動参 加率を調べた資料がある。これを見てもらえればわかると思うが、コースにしろ練習場に しろ参加しているのは30代から50代の男性がほとんどである(表2) 。練習場では2 0代の男性女性ともに多少高くはなっているがコースでの参加率とは開きがある。参加者 のほとんどが30代から50代の男性という現状は何を意味しているのか。つまりこれは ある程度以上の経済力のある人達、接待等でゴルフをする人達といえるのではないか。1 回当たりのコースの平均プレー費用が18,000円、年間平均費用が183,600円 と他のスポーツと比べても非常に高額である(表3)。所得の低い20代ではプレー費を 捻出するのは大変苦しいものであろう。また、所得が多くなる30代から50代でも夫婦 そろってプレーできるほどではないのだろうし、男性社会の日本では女性だけで高額な遊 びをすることに抵抗があるのかもしれない。若い人達や女性は練習場には行くがコースに はなかなか行けないというのが現状である。 ⅲ.回数 一人当たりの年間の平均活動回数を見てみよう。コースでは平成元年、平成3年に12. 6回だったものが、平成9年には10.2回と年間で2.4回減少したが、練習場では平成 2年に19.5回だったものが、平成9年では18.4回で1.1回しか減っていない(表 4) 。これは、コースに行くかわりに練習場に行き支出を抑えていると考えられる。表5、 6を見てもらうとわかるが、実はバブル崩壊後は実収入が増加しているにもかかわらず、 実質消費支出は減少している。相つぐ金融機関の破綻、失業率の増加など先行きが不透明 な中で、万が一のために支出を抑えている傾向がうかがえる(*1) 。 ⅳ.今後のゴルフ人口の予測 今後のゴルフ産業を考えるうえで参加人口の動向の予測は欠かせない。そこでゴルフへ の参加希望率(将来やってみたい、あるいは今後も続けたいとする人の割合)を調べると、 男性ではスポーツの中では1位なのだが、余暇活動全体の中では17位であり、女性では 20位以内にも入っていない(表7) 。余暇活動の潜在需要(参加希望率−現在の参加率) では20代の男性で6位にゴルフ(コース)が入っているだけである(表8) 。これは今 後大幅な参加人口の増加は望めないということを表している。また、参加希望率が男性で スポーツの中では1位といっても余暇活動全体では低いので、他のスポーツに流れるわけ ではないが、他の余暇活動に流れる可能性をはらんでいる。人々が余暇活動に求める楽し みや目的として、 《2》友人や知人との交流を楽しむこと、 《5》健康や体力の向上をめざ すこと、《7》自然に触れること、 《15》技術や腕前の向上をめざすこと、《20》腕を 競い競争することなどゴルフの面白さや楽しみに関することは平成元年以降、軒並み減少 しているのに対して、《1》心の安らぎを得ること、《3》身体を休めること、 《6》日常 生活の解放感を味わうことといったものが増加している(表9) 。日本人は仕事や日常生 活でかなり疲れているのだろう。余暇に安らぎを求める傾向が高くなっている(*2) 。 ⅴ.まとめ する側からのゴルフ、参加者からの観点からいえば、バブル景気とともにゴルフの参加 人口も大きく増加した。この頃は日本全体が金余り状態であり、人々は家計に余裕を感じ 新たな余暇活動にこぞって目を向けた時期であった。レジャー、リゾート志向が高まり、 金持ちの道楽という認識にあったゴルフが、身近なスポーツとしてとらえられるようにな ったのである。特に、若い人達や女性の参加が増加した。しかし、結果的に見れば、バブ ル崩壊とともにこれらの人達はゴルフ愛好者として定着する事はなく、ただのブームに終 わってしまったと見るのが妥当だろう。定着しなっかた原因については、高すぎる利用料 金や初心者にとってはうるさすぎるマナーなどいろいろ考えられるがそれについては後で 述べるとする。 Ⅱ.提供する側から見たゴルフ ゴルフというスポーツを人々に提供する場合、3つの観点から見る事ができる。すなわ ち、モノ、場所、サービス(情報)の3つである。モノとはゴルフクラブ( 倶楽部では ない)やボール、手袋、ウェア、シューズなどゴルフをするときに使用する道具の事であ り、場所はそのままコースや練習場を指し、サービス(情報)とはゴルフのレッスンやゴ ルフスクール、どこそこのゴルフ場がいいとか安いとか、この用具は初心者向きだなどの 情報を扱うゴルフ雑誌、ゴルフ宅急便、ゴルフ場近くの宿泊施設や交通手段を斡旋したり する旅行業者などゴルフに付随する産業を指す。まずは場所について考察する。 ⅰ.場所 場所については、ショートコースやパットパットゴルフを含めたコースと、打ちっぱな しと呼ばれる練習場の2つに分けられる。初心者はまず練習場で技術を磨いてからコース へ行くことになる。つまり、練習場の参加人口が増加して初めてコースの参加人口も増加 するのである。 ・コース (社)日本ゴルフ場事業協会(NGK)が毎年行っている「ゴルフ場利用税の課税状況 からみたゴルフ場の数・利用者数等」の資料からコースの現状を考察してみる。全国のゴ ルフ場数は1995年度末で2,273コースとなっている(表10)。全国のゴルフ場 数は日本経済の成長とともに増加の一途をたどってきており、最近10年間で見ると年平 均約80コースずつ増えている。一方、第1章でも述べたように利用者数は横ばいに近い 微減で推移しており、延べ利用者数では、最盛期の平成4年1億232万5000人をピ ークに、平成5年、6年、7年と3年連続のダウンで9751万2000人、約4.7% 減となった。また、1ゴルフ場当たりの利用者数でみても、最盛期の平成2年52,36 1人から平成7年では42,900人で約18.1%も減少している。過去には第1次オ イルショックによる影響で前年度実績割れを起こしたことがあるが、今回は平成3年から 5年連続でダウンを余儀なくされ、低迷期の記録を更新中である。バブル景気の真っ只中 にあった頃は、接待ゴルフや企業コンペ、女性ゴルファーの台頭で、ゴルフ場はいつも満 杯でプレーしたくてもできない、予約も思うようなときにとれない時代であった。バブル の頃は利用者数の伸びに対してゴルフ場の数が足りない需要過多であったが、同時にゴル フ場の建設ラッシュがあり、それが完成するころにはバブルははじけていた。よって、現 在のゴルフ場の供給過多を引き起こしている。利用料金については、各ゴルフ場が生き残 りをかけてプレイフィの値下げやダンピング合戦による値引き等を行っているため、客単 価の落ち込みが激しくなっており経営上は苦しくなっている(*3) 。 ・練習場 練習場の現状について「ゴルフ練習場の今後の在り方に関する調査研究」(座長片山健 二)1995年3月、@産業研究所編をまとめた月間レジャー産業1995年10月号の 記事によると、練習場に関しては、コースと同じくバブル期のブームに乗っかって、ゴル フ練習場の営業を開始したものが半数近くを占めていた。しかし、バブル崩壊とともにゴ ルフ練習場に行く人が大きく減少している(表1)ためにコース以上に供給過多となって いる。顧客の利用状況(この一年以内の利用者)を見ると、利用客が減っているとする練 習場が75%に達している。集客面では80%以上、競合面では60%以上の練習場が問 題を抱えていると回答している(*4) 。 ⅱ.モノ ゴルフ用品市場は、商品が高額なため最も景気の影響を受けやすい分野である。バブル 崩壊後のプレーヤーの減少などにより、市場は落ち込みを見せていたが、チタンブームに よる市場の活性化、新商品の投入により消費者の関心が高まったことなどで、クラブの市 場は平成8年までは回復傾向にあった。しかし、ここ2年は頭打ちの状態が続いているの が現状である。チタンクラブでは、特に米国ブランドのチタンクラブなどが目立つが、日 本のメーカーではミズノをはじめ、ブリジストンスポーツ、ダンロップなど大手メーカー の健闘が目立っている。ゴルフ用品の輸入は、海外メーカーのチタン製品強化や国内メー カーの海外生産シフトの強化などによって増加の傾向にある。しかし、ゴルフクラブはチ タン人気に頼っているのが現状であり、ゴルフ用品市場の頭打ちを打開する新製品は出て いない(*5) 。 ⅲ.サービス ゴルフ雑誌やゴルフ宅急便、ゴルフスクール・レッスン、ゴルフツアーなどバブル期の ブームとともに、これらの新サービスが生まれた。これらは皆、ゴルフ人気に寄り掛かっ たものであったため、ゴルフブームが去るとともに下火になっているのが現状であろう。 (*1)レジャー白書′98のP.12家計消費の動きより (*2) 〃 P.20日本人の余暇動機より (*3) (*4)月刊レジャー産業1995年10月号ゴルフ産業特集記事を参考した。 (*5)一橋大学 商学部 浜家成人氏のスポーツ産業論授業レポートを参考した。 第2章 ゴルフ場経営の仕組みと現状分析 日本におけるゴルフ場はほとんどが会員制クラブで、パブリック制は少ない。というの も、ゴルフ場の建設には多大な資金が必要となるからである。ゴルフ場の保有数世界1位 はアメリカで1万カ所以上の断トツである。次いで日本がくるのだが、アメリカの場合、 国土が広くゴルフ場開発のための土地の購入に莫大な資金を必要としないのに加え、建設 にも山を切り開いたり、削ったりと必要以上に手を加えたりしないため費用が抑えられる。 日本の場合、なるべく真っすぐで平なホールで、総ヤード数が7,000ヤード前後がよ いゴルフ場であるという事がまかり通っており、どのゴルフ場もそれに合わせようとして 山を削ったり、埋め立てをしたりして建設費が膨らんでしまうのである。そこで膨大な資 金を調達するために考え出されたのが、日本独自のシステムである預託金システムである。 Ⅰ.預託金問題 ⅰ.預託金問題とは? この預託金システムとバブル景気による利用者数の増加、1987年の開発についての 規制緩和を行ったリゾート法の施行(*6)がゴルフ場の建設ラッシュを引き起こしたの である。預託金システムとは、ゴルフ場経営会社が会員権を発行しその代金を預託金とし て会員から借り受けるシステムである。この預託金は無利子・無担保で調達でき、かつ預 託金であるため税金がかからないという大きなメリットがあり、預託金の運用に関しても、 ゴルフ場の開発だけに限定することなく自由に運用できる。リゾート法により、農地転用、 林地開発などの規制が緩和され、都市計画区域外での水源涵養保安林や農地振興地域の農 用地指定を解除してまで山間部での開発が可能となった。こういった状況のもとバブル期 の金余り大企業や銀行などが財テクの対象として参入してきて建設ラッシュが始まったの である。 今、ゴルフ場経営者をピンチに陥れているものが、この預託金システムなのである。預 託金会員制の会員が権利として主張できるのは、優先的なプレー権と一定期間経過後(た いてい10年)の預託金の返還請求権の2つしかないことを押さえておきたい。ゴルフ会 員権は名義書き換え料を払えば他人に譲渡することができる。会員権の発行数は限られて いるため、欲しい人がそれを上回る場合は額面より高い値段で他人から譲り受けるしかな い。そこで、ゴルフ会員権の売買を扱う市場とブローカーが生まれたのである。この市場 が拡大し流通相場が預託金額、つまり会員権の額面を上回っている限り、会員権保有者は ゴルフ場経営会社に返還を求めるよりも市場で売ったほうが高く売れるので、ゴルフ場経 営会社は預託金を返還する必要はないのである。バブル期は、この会員権市場は投機の対 象ともなり流通相場も右肩上がりで上昇した。新しく開設するゴルフ場も会員権の値上が りを想定して最初から高額な額面をつけたりした。預託金会員制の旨みはまさにこの返還 しなくてもいい部分にあるのである。しかし、今、長引く不況の影響でゴルフ会員権の流 通価格が額面よりも下回るという状況が生じ、ピーク時のおよそ25%にまで落ち込んで いるのである。市場で売っても損をするだけなので、プレー目的ではなく投機目的で会員 権を買った人達は、今後も会員権の値上がりにあまり期待できない以上、預託金額だけで も回収しておこうという動きにでたわけである。つまり、ゴルフ場経営会社に預託金の返 還を求めたのである。1999年から年間償還額は1兆円を突破し返還期のピークを迎え る2001年には1兆4132億円以上になるとの試算が出ている(表11) 。既にゴル フコースやクラブハウスに使ってしまったり、預託金を海外で運用してしまっているゴル フ場経営会社は、この預託金返還問題に頭を悩ませているのである。 実は預託金返還問題にゴルフ業界が遭遇したのはこれが初めてではない。第1次オイル ショック当時に経験しているのである。このとき、預託金返還請求に直面したゴルフ場経 営会社が苦肉の策として打ち出したのが、理事会の決定による一方的な預託金の据え置き 期間の延長という裏技である。「天災地変その他の不可抗力が発生した場合には、理事会 の決議により据え置き期間を延長できる」というクラブ会則の規定を利用し、据え置き期 間を延長するゴルフ場経営会社が続出した。これに対し、会員がゴルフ場経営会社に対し て契約違反だとして、訴訟が全国で相次いだものの、払えないものは払えないと開き直っ たゴルフ場経営会社に対し泣き寝入りとなるケースが多かった。預託金は無担保債権であ るため、ゴルフ場経営会社が万が一倒産したとしても債権回収の優先率は低く資産の保全 はむずかしいので、無理に要求して倒産させたのでは会員権は紙くず同然となりかねない からである。しかし、その後の裁判で、会員の承諾を得ない一方的な据え置き期間の延長 決議は無効と認定され現在に至っている。 ⅱ.解決策 据え置き期間の延長という裏技が禁じられたゴルフ場経営会社は、直面している預託金 返還請求問題にどう対処すればよいだろうか。幾つか方法が考えられる。 一つは単純に、預託金の据え置き期間の延長を会員に対してお願いすることである。そ のためには、会社の経営内容や財務内容、今後の見通しや経営方針を誠意をもって説明す ることが必要である。ただし、あくまでお願いなので、嫌だと言われればそれまでである。 二つ目は預託金返還の分割払いをお願いする方法があるがこれも一つ目と同じく断られれ ばそれまでである。三つ目が会員の追加募集による資金調達が考えられる。しかし、会員 権が売れなくて相場が下がり今の状況が生じたのに、さらに会員権が売れるだろうか。低 価格で乱発して会員数が増え過ぎれば既存会員から嫌われて、かえって返還請求が増える のではないかという事に注意が必要である。四つ目に会員権の分割である。会員権所有者 に幾つかの会員権を無償で交付する方法である。しかし、これも三つ目の会員権の追加募 集と同じ注意が必要である。五つ目が会員権の株式化である。ゴルフ場経営会社の株式に 振り替える株主会員制への移行である。会員は株主であるので、株主総会に出席して運営 方針等について発言することができる。 以上のように幾つか妥協案をあげてみたが、しょせんは一時しのぎである。預託金から 得られる収入に比べれば、運営面で得られる収入は微々たるものであり、預託金の返還請 求の全てに応えることは不可能である。では、どうしたらよいのか。解決策は一つである。 つまり、会員権の流通価格が額面よりも上回ればいいのである。そのためには、ゴルフ場 経営会社はプレイヤーにとって魅力あるゴルフ場作りを行い、プレイヤーにそのゴルフ場 の会員権が欲しいと思わせればいいのであるが、現実問題としてそれはかなり難しいだろ う。ゴルフ場の具体的な運営に関しては事項で述べるとする(*7) 。 Ⅱ.ゴルフ場の運営 ⅰ.収入 ゴルフ場の経営を立て直すには、当然ながら収入を上げ経費を節約すればよい。まず、 収入について考えてみる。 一般にゴルフ場の預託金以外の収入は、プレー費(グリーンフィ、キャディフィ、ロッ カー費等) 、年会費、会員権の名義変更に伴う書き換え料、売店・食堂での売上が主であ る。その割合はプレー費が約70∼80%、売店・食堂の売上は10∼20%である(* 8) 。なお、会員権の名義書き換え料、年会費は会員制をしいているゴルフ場だけである。 プレー費の収入についていえば、単純計算で、入場者数×平均客単価で表せる。コース の参加人口は10年前と比べても変わりないが、ゴルフ場数が増加しているため1ゴルフ 場当たりの入場者数は減少している。最盛期の平成2年には年間52,361人であった ものが、平成7年には42,876人にまで大きく減少している(表10)。一方、平均 客単価の方は、バブル期に物価の上昇率をはるかに上回るペースで料金の改定が行われた が、昨今の不況で各ゴルフ場が生き残りをかけて、入場者獲得のために大幅値下げ、ダン ピング合戦を行い、結果として客単価は下がってきている。売店・食堂での売上に関して も同じことがいえる。入場者数も客単価も減少しているため当然収入は大きく減少してい る。会員権の名義変更に伴う書き換え料についてはコンスタントに計算できないものなの でここでは触れないことにする。 入場者数について詳しく考察してみると、不況のときはメンバーの入場数はそれほど減 少しないが、ビジターの入場数が大きく減少することがよくいわれる。これは、付き合い などで平日に他のゴルフ場にも足を運んでいたメンバーが、不況時はどこよりも安くプレ ーできるホームコースに戻って行くためである。そのため、土、日曜の入場者数はそれほ ど減っていないのだが、平日の入場者数の落ち込みは深刻なものとなっているようである (*9)。また、接待ゴルフや社用コンペの開催の減少も、平日入場者数の減少の大きな 原因となっている。 ⅱ.支出 一方、支出の主なものとしては、人件費、コース管理費、税金、減価償却費等である。 これらのうち最も割合の高いものは人件費であり、ゴルフ場にもよるが支出のうち平均し て30∼40%を占めている(*10)。従業員には正社員、ハウスキャディ、臨時アル バイト・パート(キャディを含む)がいる。最近では不況を乗り切るための経費削減やプ レー料金値下げの一環としてセルフプレーを導入するなどして人件費を抑えるゴルフ場が 増えている。月間レジャー産業1995年10月号の全国新設ゴルフ場の運営実態アンケ ート調査をみても、人員削減の傾向は顕著であり、特にハウスキャディの削減にその傾向 が強く見られる。従来18ホールのゴルフ場の場合、一日で最大約40組プレーすること ができるのでキャディーも40人必要であったが、全くハウスキャディーを雇用しないゴ ルフ場も出始めた。このように新設ゴルフ場では当たり前になってきている完全セルフ制 やセルフとキャディの併用制も、既設のゴルフ場ではそれほど採用しておらず、完全セル フ制を実施しているゴルフ場が約9%、併用制が約22%といわれる(*11) 。 次いで多いのがコース管理費や減価償却費などの設備にかかわる費用である。これもゴ ルフ場によって大きく違うので一概にはいえないが、支出に対して大きな割合を占めるの は間違いない。良質なゴルフコースを維持するために必要な経費であるが、バブル期に作 られた大きく豪華なクラブハウスやレストランなどの人件費を含めた維持管理が経営を圧 迫させているケースも見受けられる(*12) 。 (*6)1987年中曽根内閣の時に可決、施行された法案。リゾート法の正式名称は総 合保養地域整備法といいリゾート施設の開発に関する規制を緩和する法律のことである。 (*7)月刊レジャー産業1995年10月号、1997年1月号の預託金問題に関する 特集記事を参考した。 (*8)ゴルフ場セミナー(ゴルフダイジェスト社発行)1994年10月号、月間レジ ャー産業1995年10月号の「全国新設ゴルフ場の運営実態アンケート調査」を参考に した。 (*9)月刊レジャー産業1995年10月号の「入場者数から見たゴルフ場に関する特 集記事」を参考した。 (*10)ゴルフ場セミナー(ゴルフダイジェスト社発行)1994年10月号、199 5年4月号「ゴルフ場運営のためのサンスウ」 、ゴルフ場亡国論(藤原書店発行) 「資料3 長野県内ゴルフ場平均雇用、経費等の状況」の資料を参考した。 (*11)ゴルフ場セミナー(ゴルフダイジェスト社発行)1995年10月号の「今月 のティ・オフ」を参考した。 (*12)レジャー白書’98のP.63「経営上の問題点」 (表12)より。 第3章 ゴルフ場再建に向けて Ⅰ.ゴルフ場への提言 これまでゴルフというスポーツとゴルフ場の経営について分析してきたわけであるが、 ゴルフ場経営に関してまとめてみると、全国2000以上のゴルフ場の大多数が預託金会 員制をしいており、そこから生じた預託金問題に頭を悩ませているのがまず一番にいえる だろう。預託金問題を解決する方策は色々考えられるが、根本的な解決策といえば会員権 の市場流通価格を額面よりも上回らせる事で、そのためには、まずそのゴルフ場の会員権 が欲しいと人々に思わせることである。とはいっても、預託金問題を抱えているゴルフ場 の多くは、バブル期に会員権価格が高騰することを見込んで最初から異常な高値をつけた ことが原因となっているので、会員権の市場流通価格を額面よりも上回らせるにはバブル が再燃しない限り不可能に近いだろう。では現実問題としてどのようにして解決を図るの がよいだろうか。結局は地道な経営努力をして利益を上げ、預託金請求に少しずつ答えて いくしかないのではないか。ここでその具体的な経営努力の方針を示してみたいと思う。 ⅰ.低価格路線が時代の流れ 最初に決めなければいけないことは、基本的な経営方針の決定である。今、世の中は不 況の真っ只中にあり、先行きの見えないことに大きな不安を抱いている人々がほとんどで ある。以前から高すぎると言われてきたゴルフの利用料金では、人々がゴルフを控えるよ うになるのは当然のことだろう。多くのゴルファーのニーズが低価格路線へと傾いてきて いるのは確実である。もちろん、今までのように充実したしたサービスを行う高級路線の ままでいいという人もいるだろう。ゴルフ場経営者はどういう人々がプレーしに来ている のか、今後はどういう人達に来て欲しいのかを明確にする必要がある。そのうえで、利益 をもっと上げるためにはどういう方針を取るべきなのか、低価格な大衆路線でいくのか、 それともこれまで同様高級路線でいくのかを決めなければならない。 大衆路線でいく場合、低価格料金を実現するためには入場者増による収入アップと経費 削減による支出の減少の両方が必要である。料金を下げたのに入場者はそれほど増えなか ったでは経営が余計に苦しくなるだけである。多くのゴルフ場が生き残りをかけて料金引 き下げを行っている中で、安易な値下げだけではかえって自分の首を絞めることになりか ねない。安易な値下げではなく徹底した値下げを行うか、値下げと同時に他のゴルフ場と の差別化を行うかをしなければならない。 ⅱ.経費削減 ∼過剰サービスの廃止∼ ・キャディ制からセルフ制への移行 経費削減を実行するためには過剰ともいえるサービスをやめるべきである。経費削減の 最も手っ取り早い方法は人件費の削減である。前述の新設ゴルフ場のアンケート調査によ ると、従業員数の少ないゴルフ場では30人以下という所もある。これはセルフ制をしい ているからであるが、このセルフ制への移行は低価格料金の実現には必要不可欠である。 ゴルフ場に行って感じる過剰サービスは?という質問に対して、最も多く返ってくる答え がキャディに関するものである。私自身キャディのアルバイトをしていたのだが、正直な 話キャディの必要性があまり感じられなかった。キャディのする仕事は、プレーヤーの安 全確保、スムーズな進行を促す、ヤーデージやグリーンのラインを教える、カートを運ぶ などであるが、危険な所には監視員を置き、コース内を巡回して遅れている組には注意を 促すという方法を取ればよいし、そもそもヤーデージやグリーンのラインを読んでやる必 要すらないと私は思っている。ゴルフのおもしろさとは戦略を練ってそのコースを攻略す ることにあるからである。自分で考えることもせずに答えを教えてもらって攻略してどこ がおもしろいのか。もちろん初めて来た人はどこに罠が仕掛けてあるか分からないと攻略 もくそもないが、そういう人に対してはきっちりとしたガイドブックを渡してあげればよ いのではないか。乗用カートを使用すればゴルフバッグを運んでもらう必要もないだろう。 古い名門コースなどは高齢者の会員が多いせいかセルフプレーに対する反感が根強く残っ ている。またゴルフ場としても、いきなり長年働いてくれたキャディを切るわけにもいか ないので、定年制を設けて徐々に減らしていくことが必要になってくるだろう。まずは当 分の間、キャディ・セルフ併用制になる。この併用制から完全セルフ制への移行には時間 が掛かるが、いずれセルフ時代の到来は必至である(*13) 。 ・過剰サービスのとりやめ また、キャディだけでなくクラブハウスの維持運営に関しても多くの経費がかかってい る。バブル期に新築、改築されて巨大で豪華になったクラブハウスを運営するには多くの 人員が必要であるし、備品も必要になってくる。クラブハウスには無駄だと思える設備や サービスが多々ある。その一つにロッカールームがあげられる。着替えるスペースは必要 だが、浴室の脱衣場がそのままロッカールームになっているようなシステムで十分である。 浴室についていえばあの使いたい放題のバスタオルや櫛、ブラシも無駄である。ロッカー に一セットだけ入れておけばいいのではないか。レストランにも無駄が多い。やたらと値 段が高く、量も多くてとても全部は食べられない。ゴルフ場にはゴルフをしに行くのであ って豪華な食事をしに行くのではない。食事が目的ならそれなりのレストランに行くだろ う。それよりもバイキング方式を導入し、調理コストを下げて低価格で提供した方がお客 に喜ばれるだろう。9ホールに一か所はある休憩所も設備と人件費の無駄である。いすと 飲料水用の自動販売機があればよいだろう。パンや果物を置いてあるのをよく見かけるが、 あれを食べている人を見かけたことはほとんどない。トイレにある山積みのタオルも過剰 サービスの一つである。これもロールタオルやエアータオルで十分である。グリーンマー クやグリーンフォーク、ティを好きなだけ取らせるゴルフ場があるが、この金額だって馬 鹿にならないだろう。本来、スポーツをするときに使う道具はスポーツをする人が各自用 意するべきものであろう。欧米スタイルのようにフロントとマスター室を一緒にした料金 前払い制度にすれば人員削減になる。ゴルフをする人だけが異常に甘やかされているよう に感じるのである。これらのサービスは無いほうが良いといっているのではなく、これら のサービスをするために高い料金を徴収するくらいならそんなサービスはやめて低価格の 利用料金を実現するべきだと思うのである(*14) 。 以上のように過剰なサービスをやめて徹底した合理化を推し進めればかなりの低価格が 実現できるのではないだろうか。ただし、これだけでは安いだけのことはあるとしか見て くれないかもしれない。前述したが低価格な利用料金だけで入場者が増えなければ意味が ない。人々にあそこのゴルフ場に行ってみたい、もう一度行きたいと思わせるような魅力 あるゴルフ場作り、サービスが必要なのである。 ⅲ.入場者数増加のための提案 メンバーがゴルフ場に来るのは当然である。会員権を購入できるほどの収入のある人な ら利用料金を気にすることもないだろうし、格安のメンバー料金も来場につながるだろう。 問題はいかにしてビジターを確保するかである。平日の入場者の減少が経営の危機を招い ていると先に述べたが、企業コンペや接待の減少が平日のビジターの入場減につながって いる。そこで、ビジターの入場増を考えてみる。まず、魅力あるゴルフ場作り以前に入場 規定の見直しが必要である。最近では減ってきたが、今でもビジターだけでの入場を断る ゴルフ場は存在する。行きたいと思っていても会員権を持っている知り合いがいないので 入場できないという人々もいるだろう。会員優先の運営は維持しつつも、会員同伴の原則 の緩和を行う必要がある。それから、メンバーに経営の現状を公開して理解と協力を要請 し、入場者獲得を目指す。メンバーは好不況にかかわらずプレーしてくれるのであるから メンバーの利用状況を分析して、メンバーと同伴者に対する入場優遇策を実施する(*1 5) 。 ・初心者の獲得 以上、ビジターが来やすいように環境を整えたうえで、魅力あるゴルフ場づくりを考え てみる。大衆路線で行く場合、ゴルファー人口の増加、より幅の広い新たな大衆の獲得、 つまり初心者の獲得が必要である。第1章でゴルフのプレー人口はコースでは10年前か ら横ばいだが、練習場では大きく減少していて、その理由は初心者が定着しなかったから だと推察したが、この初心者を捕まえることから始めたい。入場者数を増やすということ は既存のゴルファーを他のゴルフ場から奪うということだが、初心者を獲得することでも ある。下手な奴はコースに出るな!といった乱暴な風潮がゴルフ業界内にあることは確か で、そのためか初心者に配慮したゴルフ場を見かけることはあまりない。逆にいえば初心 者に優しいゴルフ場作りをすれば初心者の入場は簡単に増えるのではないか。確かにラウ ンドに不慣れな初心者は周りに迷惑をかけることは多いが、最初は誰もが初心者なのであ り、暖かい目で見守り注意が必要なら注意をする。初心者を連れて来た先輩ゴルファーや 練習場だけでなく、ゴルフ場も初心者を受け入れる態勢を整える努力がもっと必要である。 そうすれば、ゴルフ場だけにとどまらずゴルフ産業全体が活性化し、また新たなゴルファ ーを産みだしていくことになるだろう。具体的な方策としては、ビギナーズ・デイを設け ることがひとつ考えられる。比較的空いている平日に、インは通常どうり6分間隔20組 で、アウトは初心者用に8分間隔15組でスタートさせればいいのではないか。これなら 初心者も周りは皆初心者のいる組なので、遅れて他の組の人達に迷惑がかかると余計な気 を使わなくてすみ、伸び伸びプレーできてゴルフ本来の楽しみを十分満喫できるのではな いか。併せて、初心者専用のビギナーズ・ティを設けたり、スムーズなラウンドをするた めの注意事項が書いてある初心者専用のスコアカードを配布すればもっとよいと思う。ア メリカのフェニックス州にあるデサートマウンテンのレニゲイド・コースは、驚くことに 全ホールのグリーンにピンが2本立っている。設計者のジャック・ニクラウスはプレーヤ ーのレベル毎の戦略性を高めるためにツイン・フラッグにしたと言っているが、初心者に 配慮した斬新なアイデアだと思う。初めてコースに出た人にはスコアカード付きの写真立 てなんかの記念品を付ければ非常に喜ばれるだろう。客に喜ばれる本当のサービスとはこ ういうものではないだろうか(*16) 。 ・女性ゴルファーの獲得 新たなゴルファーを獲得するにおいて、初心者と同様二つ目のターゲットが女性ゴルフ ァーである。最近はレディース・デイを設けて女性ゴルファーの獲得に力を入れているゴ ルフ場も増えてきたが、大部分のゴルフ場は、本当に女性に来て欲しいのだろうかと疑い たくなるものである。レディース・デイを設けて料金の値下げを行っているだけのゴルフ 場がほとんどではないか。女性の立場に立って本当のサービスとは何かということを真剣 に考えたほうがよいだろう。まず、レディース・ティがいい加減である。女性の平均的な ドライバーの飛距離は150ヤードである。それなのにレディース・ティはレギュラー・ ティのほんの少し前におざなりに置かれているだけのゴルフ場がほとんどであり、なかに はレディース・ティのないゴルフ場もあるくらいである。飛距離は体力に比例するものな のでおざなりなレディース・ティでは、パーはもちろんボギーだって難しいだろう。女性 ではミドルホールでいえば250ヤードくらいが女性にとって戦略的に一番おもしろい距 離なのではないだろうか。もちろん、女性にも飛ばし屋はいるだろうし、上手な人ならレ ディース・ティでは物足りないと感じる人もいるだろう。そういう人はレギュラー・ティ からラウンドすればいいのである。男性と比べて体力的に劣る女性でもパーやバーディを ゲットする喜びを感じさせてあげるべきである。そもそも、各ホールに設定されているパ ーとは、ミスをしないでツーパットでそのホールをあがったときの指標である。それをゴ ルフ場サイドがきちんと理解していればおざなりなレディース・ティの設置はしないはず である。コース内にもっとトイレを設置して欲しいという意見も女性ゴルファーからよく 聞くが、実際は売店にしかないのが実情である。体力的に劣る女性では18Hすべてを歩 いてまわるのもきついという話もよく耳にするが、確かに何度も打たないとグリーンに届 かないので、プレーが遅れがちになり走らなければならない事もあり、ラウンド後はくた くたになっている人もよく見かける。乗用カートをもっと導入すればよいと思う。また、 レストランの食事も女性のことをあまり考えていないように見える。男性でもボリューム があり過ぎるように感じているのに女性ならなおさらであろう。もっと軽いメニューを充 実させるべきである。体型を気にする女性が多いのでカロリー数を表示するのもよいので はないか。男性でも肥満や糖尿病の人が食事に気を使っているケースもあるので、こうい う簡単に改善できることはどんどん行うべきである(*17) 。 ・ジュニア・学生ゴルファーの獲得 三つ目のターゲットはジュニア・学生ゴルファーである。ジュニア・ゴルファーに対し ても初心者や女性ゴルファーと同様、その立場に立ったサービスを行うべきである。メン バーの家族を招いてゴルフスクールを開催するのも大事なことであるし、学生ゴルフ部の 練習にコースを格安でまわらせてあげることも大事である。将来の貴重な顧客源を今の内 に獲得しておくのも長期的な視野で見れば必要なことである。 ・マナー 新たなゴルファーを獲得する際、重要だと考えていることがひとつある。それは、うる さすぎるとも言えるマナーに関することである。快適で良質のゴルフコースを維持するた めにはプレーヤーに守ってもらわなければならない最低限のルールは絶対に必要である。 しかし、何でこんな事しなければならないの?と言いたくなるようなことがマナーとして 存在していて、それを守らない人は、紳士のスポーツであるゴルフをする資格がないと言 われてしまう。入場するときはブレザーを着用しなければならないこと、ラウンドすると きの服装はチノパンにポロシャツ、クラブハウス内では脱帽すること、さらに言えばプレ ーの遅延もマナーの問題だそうである。まだまだ他にもどうでもいいとしか思えないよう なマナーが数多く存在するが、こういったマナーの高さが新たなゴルファーの獲得、ゴル フ人口の増加を阻んでいる一因になっているのではないか。大会やコンペでもないのに服 装が決まっているのはなぜか。試合用のユニフォームが決まっているのは仕方がない。テ ニスや野球も試合用のユニフォームを着て試合を行うが、練習中の服装まで決められては いない。ジャージにTシャツでプレーしたっていいのではないか。大体、チノパンにポロ シャツという格好自体スポーツする格好に向いているとは思えない。若い人達がゴルフと いうスポーツに対してもっているイメージは、おっさんのするスポーツだとか、金持ちの するスポーツといったものである。ではなぜ、日本ではこうもうるさくマナー、マナーと 言われるようになったのだろうか。わたしが思うには、ゴルフが日本に持ち込まれた当初 からゴルフは庶民の手の届かない高級な遊びであったのだろう。ゴルフは、貧乏人にはと てもできない遊びを自分たちはしているのだ、というステータス意識を刺激するものだっ たのだろう。事実、自分の金でゴルフをやっている奴はほんの一握りだ、女子供はコース に来るなというような乱暴な意見を持っているゴルフ場関係者は現在でも多い。厳しい入 会資格もその現れだろう。20歳以上で日本国籍を持つ人、JGA加盟の他のゴルフ場に 在籍していること、ハンディ証明書添付、在籍2年以上の正会員2名の推薦が必要、印鑑 証明書添付などがパターンである。こういった成金趣味的なステータス意識を隠すために、 やたらとマナーをうるさく言って紳士のスポーツであることをアピールしたのではないか と思う。このことは庶民のゴルフへの参加を制限する効果を見事に果たし、長らくゴルフ 人口の増加を阻んできた。またゴルフ場側もステータス意識を満足させるために豪華な施 設を作り、過剰なサービスを行い、高額な料金を取ることで新たなゴルファーを生み出さ ないようにしてきたというのが私の考えである。バブルとともにゴルファーの数もゴルフ 場の数も増加し、ゴルフ産業も右かた上がりの成長を続けたが、バブルの崩壊とともに、 新たに増えたゴルファーもコースにあまり出ないまま去って行った。残ったのは増え過ぎ たゴルフ場である。一度作ってしまった施設はブームが去ったからといって取り壊すわけ にもいかない。預託金として多額の金を集めて使ってしまったからである。つまり何が言 いたいかというと、一ゴルフ場当たりの利用者数が大きく減少している現状を考えた場合、 高い料金やうるさすぎるマナーで利用者を制限してきたような今までのやり方では、ステ ータス意識を満足させたいという人々だけを対象にしていたのでは経営が成り立たなくな っているのではないかということである。増え過ぎてしまったゴルフ場の大衆路線への移 行は時代の流れである。いずれゴルフ場に若いカップルや家族連れでやって来る人々が増 えていくことになるだろう。その賑やかな状況を、騒がしくお思いになって、紳士のスポ ーツが汚されるとおっしゃるならば、どうぞ異常なほどにマナーにうるさいステータス意 識を十分に満足させてくれる高級路線のゴルフ場に行ってくださいと言いたい。もちろん、 純粋にゴルフが好きで、ゴルフというスポーツそのものを楽しんでいるんだという人達も いるだろう。そういう人達には私の言っていることもわかってもらえると思う。話が横に それたが、どうせ大衆路線へと移行しなければ経営が行き詰まるのなら、徹底して大衆路 線を目指すゴルフ場があってもよいと思う。動きやすい好きな格好をして、大声で笑いあ いながらプレーするゴルフだってあってもよいだろう。 以上のような提案をすべて実行すれば、メンバーの人達から苦情が出されると思う。低 価格路線を推進して、大衆路線で多様な人がゴルフ場を出入りすれば、会員であることの 利点は優先的なプレー権しかなくなってくるからである。しかしそうしないと経営が行き 詰まって倒産しかねないのだということをメンバーに十分に説明して、理解してもらうし かないだろう。 ・リピーターの創出 新たな顧客の獲得と同じく、リピーターの創出も大事なことである。上にあげてきたこ とは初心者や女性専用のゴルフ場にしかできないものではない。中・上級者をも満足させ るようなコース造り、サービスも同時に行いたい Ⅱ.ゴルフ付随産業とのタイアップ 第1章で少しゴルフ付随産業について触れたのは、ゴルフ場や付随産業それぞれ単体だ けでこの不況を乗り切るよりも、ゴルフ産業全体で力を合わせて対処したほうが効率がよ いと考えているからである。それぞれが複合的にタイアップ関係を作り、相乗効果を期待 しようというのである。ゴルフ付随産業には、ゴルフ練習場、ゴルフ用品市場、ゴルフ場 周辺の宿泊施設・レストラン・交通手段、 ゴルフ雑誌などのマスコミなどが上げられる。 実 際によく行われているものに、ゴルフ練習場とゴルフ場との提携がある。ゴルフ練習場で ゴルフスクールを開催しレッスンを行いながら、定期的に提携しているゴルフ場でラウン ドをさせるものである。特に日中、比較的時間の空いている主婦や学生を対象としたもの が多い。ただ、このゴルフスクールが成功するかしないかは、インストラクターが重要な 役割を担っていて、スクール生と指導者との信頼関係そのものがレッスンの成果に顕著に 表れる。複数のゴルフスクールを受講している人が、全く正反対のことを教えられた、ち ゃんと指導しているのかと言っていたことがあった。ゴルフ練習場におけるゴルフスクー ルというと、今やどの練習場でも平日の集客対策として実施しているが、どの練習場でも 質のよい指導者がいるとは言い難い。ゴルフ場側としても提携を結ぶ練習場は慎重に選ん だ方がよい。技術がしっかりしていて人格的にも優れているようなメンバーにゴルフスク ールの指導を依頼するのもいいかもしれない。研修生を抱えているゴルフ場はこの研修生 を派遣するのもよいと思う。 ゴルフ用品を扱う小売店と提携を結ぶのはどうだろうか。入場してくれたお客に対して 提携している小売店を紹介するのである。小売店は提携しているゴルフ場でプレーしたお 客に対しては割引を行い、逆に小売店側もそのゴルフ場を紹介し、ゴルフ場も割引でプレ ーさせるのである。お互い新たな顧客を獲得できるというわけである。また、中古商品や 売れ残りのゴルフクラブを、ゴルフ場や練習場でレンタルしてもらうのである。お客側と しても、いろいろなクラブを試すことができるので喜ばれるのではないか。 旅行代理店との提携は、海外やリゾート地のゴルフ場が観光客目当てで行っているケー スが見られる。国内においてはリゾート地以外ではあまり聞いたことがないが、日本全国 ほとんどのところに温泉があるので、ゴルフと温泉をセットにしたツアー企画を立てるの はどうだろうか。旅行代理店主催のコンペと温泉旅館、その土地の美味いものをセットし ての団体ツアーを募集するのである。単独で行くよりはるかに安い値段で楽しめるのでは ないだろうか。 スキーツアーのようにJRと提携してみるのも考えられる。JRとガーラスキー場の提 携のように移動費とプレー費をセットで販売するのである。 Ⅲ.ゴルフ業界全体への提案 ⅰ.プロゴルフ ゴルフ産業全体を活性化させることがゴルフ場や練習場、ゴルフ用品市場を活性化させ ることにつながる。まずプロゴルフの活性化はアマチュアゴルフ業界の活性化のためには 必須である。 韓国やアメリカで再びゴルフブームが巻き起こったのも朴・セリやタイガー・ ウッズの出現によるところが非常に大きい。新たなゴルファーを獲得するためにゴルフ場 サイドがいろいろな努力をするよりも、ブームを起こした方が手っ取り早いだろう。もち ろん今度はブームだけで終わらせずに、文化として定着させる努力が必要なことは言うま でもない。海外で活躍できるスター選手の育成に力を注ぐべきで、国内でしか通用しない 簡単すぎる試合コースの改善や、海外挑戦しやすい環境を整えることが必要である。日本 のトーナメントの賞金が高すぎることも選手が海外へ出て行かない原因のひとつであろう。 日本のアマチュアゴルファーもプロゴルファーも甘やかされ過ぎなのである。そして、プ ロゴルファーはもっとメディアを利用してゴルフ人口を増やすために、大衆に、特に若い 人達にゴルフの魅力を伝えて欲しいものである。また、先にも少し述べたが、学生ゴルフ ァー、ジュニアゴルファーの育成の充実に力を入れ、海外で勝てるプロゴルファーの養成 を行う必要がある。日米学生対抗での、日本のトップクラスの学生ゴルファーでひと月の 平均ラウンド数が8回だったのに対し、アメリカの学生ゴルファーのひと月の平均ラウン ド数は24回だったそうだ。ゴルファーの底辺からして違い過ぎるのである(*18) 。 ⅱ.学校教育 ゴルフ場や練習場が学校教育や部活動に積極的に協力することは非常に大事なことであ る。大学や私立の学校では取り入れている所もあるが、公立の小・中・高校では皆無に近 いというのが現実である。学校を卒業して社会人になるとほとんどスポーツを行う機会が なくなってくる。さいわい、ゴルフは社会人がするスポーツの中ではメジャーなスポーツ といえる。学校でゴルフの技術と最低限のマナーを学ぶことができれば、日本国民の生涯 スポーツとして定着するだろう。そうなれば、ゴルフはスポーツというより文化と言える ようになるだろう。人工的な自然とはいえ自然に触れることの少ない現代人にとって貴重 なリフレッシュになるのは間違いないだろう。 Ⅳ.まとめ 結局ゴルフというスポーツは金持ちの道楽という見方から脱却し切れていないのが現状 といえるだろう。利用料金が高額なため景気に左右されやすいスポーツ産業といえる。景 気という一事業主だけでどうにかできないものに頼って経営を続けることが大変危ういも のであることは、今の長引く不況を見ればわかるだろう。各ゴルフ場は生き残りをかけて 熾烈な競争を始め、倒産するゴルフ場も続出することだろう。しかし逆に考えれば、様々 な方策・改革を実施してこの競争を乗り越えることが出来たなら今後長らく経営は安泰と なろう。様々な方策・改革のおかげで入場者は増え、競争相手は減るのである。つまり、 今のこの状況はチャンスなのである。 今後の21世紀のゴルフ業界について、ゴルフ愛好者の所得増加があまり見込めない、 生産人口の減少、ゴルフのレジャー・社会要素の減退などを理由に需要の先細りを予測す る人が多い。しかし、ゴルフというスポーツの持つ楽しさや面白さを廃れさすのはもった いないと思う。余暇時間の増加、自然とふれあう機会の減少、運動時間の減少を考えれば、 スポーツの重要性、特にゴルフの重要性が高まることは間違いないと言える。このまま低 価格路線が突き進めば、スキーや釣りと同じくお手軽なスポーツとして人々の間に浸透す るだろう。 ゴルフというスポーツが日本に文化として定着するかどうかはこの不況に対して、ゴル フ場だけでなくゴルフ業界全体がどのように対処していくかにかかっている。この不況の おかげでゴルフ場側とゴルファー側との間の意識レベルのギャップが縮まっているのは確 実である。ゴルフが文化として定着するために、ゴルファーが何を求めているのか、人々 が何を求めているのかを考えるチャンスを与えられたと思ってこの不況を乗り切って欲し いと願う。 (*13) (*14) (*15)(*16)(*17)ゴルフ場セミナー(ゴルフダイジェス ト社発行)1995年3月号、4月号「これからの既設コース」を参考した。 (*18)月刊レジャー産業1995年10月号のゴルフ産業に関する特集記事を参考し た 終わりに、 ゴルフ場経営の再建というタイトルに落ち着いたのは提出締め切りの1週間前でした。 当初の構想では、ゴルフ場はもちろん、プロゴルフからマスコミまでゴルフ業界全体の現 状を分析して、今後のあり方を模索するという“THE GOLF”のようなものを作成 するつもりでいましたが、さすがに広げ過ぎの感じがしないでもなく、実際に資料集めの 段階で挫折しました。そこで方針転換をして、ゴルフ産業だけに焦点を絞って研究・分析 していたのですが、それでも、わたしの力不足からまとめきれないということで、ゴルフ 場の経営にまで焦点を絞ってみました。結果からいえば、わたしの力量ではこれくらいで ちょうどいいと思いますが、出来栄えは不満の残るものとなっています。なにぶん、卒業 に必要な単位がゼミを含め24単位も残っていたものですから、毎日授業に出て、レポー トをこなし、テスト勉強をしなくてはならないことが非常に大きな障害でした。入学して からの4年半を散々遊びまくっていたのですから自業自得なのですが、さすがに今頃にな ってようやく、もう少しまじめにやっておけばよかったと思うに至りました。 この卒論の内容に関しては、第3章のゴルフ場への提案を、簡単でもいいので(とはい っても詳しいことはできませんが)マーケティング理論を用いて分析してみたかったです。 思いつくままに提案をしているだけなので、もう少し説得力のある内容にした方がよかっ たのではないかと思っています。 参考文献・資料 ・レジャー白書’98 財団法人 余暇開発センター ・月間レジャー産業 1995年3、10月号、1997年1月号 ・ゴルフ場セミナー 1994年10、12月号1995年3、4、6、10月号 ゴルフダイジェスト社 ・ゴルフ場亡国論 山田國廣 編 藤原書店 ・スポーツ・レジャークラブ経営のすべて 片岡 力 経営情報出版社 ・ゴルフ場問題入門 長野 晃 せせらぎ出版 ・ゴルフ場・リゾート開発と住民 日本共産党中央委員会出版局 ・ゴルフ場・リゾート開発 ∼地域に何をもたらすか∼ 信州大学/地域開発と環境問題研究所編 @大学図書 ・一橋大学 商学部 浜家 成人氏の1998年度スポーツ産業論の授業レポート
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