(H14.11.25)「小型船舶の安全強化」

助成事業
競艇の交付金による日本財団の
助成金をうけて作成しました。
昭和36年4月3日第3種郵便物認可
平成14年11月25日
(年4回25日)
発行
ISSN 0912-7437
日本海難防止協会情報誌
【特集】
2002
秋・冬
NO.515
小型船舶の
安全強化
ウクンダAシリーズの
常時着用型・海上作業衣
安全性
ウクンダ
空気
着心地の良さ
優れた作業性
<実用新案登録済>
《空気密封式浮力体の構造》
の決め手は空気密封式浮力体!
圧力
空気
外圧を受けると圧がかかっていな
い部分へ空気が自由に移動します
ので、発泡浮力体のように着用時
にかさばることはありません
ウクンダA8型・A9型は、より安全に作業を行って頂く為、両脇及び胴締ベルトサイズ調整機能等の突起物を全
て救命衣の内側に収納しました。また、肩・背中・脇部は高伸縮なパワーネットの採用でジャストフィット!
ウクンダA8型 〈空気密封式浮力体100%使用〉
脇調節
ベルト
パワーネット
ホイッスル
製品重量 約580g
初期浮力 約7.7kg
空気密封式
浮力体
胴締ベルト
バックル
◇ ウクンダA8型は、空気密封式浮力体を前面部左右各3本、後面部左
右に各3本の計12本を配した空気密封式浮力体100%により全浮力を
有する、特に柔軟性に富んだ救命衣です。
◇ 表布及び裏布は風通しが良く肌触りがさらさらなメッシュ生地を使
用した、身体に良く馴染む夏向きの仕様です。
ウクンダA9型 〈空気密封式浮力体+発泡樹脂浮力体〉
パワーネット
脇調節ベルト ホイッスル
製品重量 約570g
初期浮力 約7.7kg
空気密封式浮力体
胴締ベルト
柔軟加工発泡浮力体
バックル
◇ ウクンダA9型は、空気密封式浮力体を前面部左右各2本、後面部左右に
各3本の計10本を配し、外因からの更なる保護の為に表布と空気密封式浮
力体の間に柔軟加工発砲浮力体“メローフォーム”をプラスしています。
◇ 表布はナイロン生地に耐寒性ウレタン樹脂をコーティングし防汚性を高
めています。
ウクンダA8型・A9型は、船舶安全法に定められた救命胴衣としての型式承認は受けておりません。
また、両製品の仕様は作業性向上のため、予告なく変更する場合がありますので、ご了承ください。
国土交通省型式承認・船舶用救命器具製造メーカー
日本船具株式会社
http://www.nihon-sengu.co.jp
本 社 東京都港区白金台1-5-5 TEL03-3447-7272 FAX3447-7204 君津工場 千葉県君津市外箕輪80-1 TEL0439-52-6114 FAX52-6201 富津工場 千葉県富津市宝竜寺354-2 TEL0439-66-0387 FAX66-1776 阿寒工場 北海道阿寒郡阿寒町富士見1-16-9 TEL0154-66-2993 FAX66-2773
日本海難防止協会情報誌
目 次
2002
秋・冬
NO.515
【特集】小型船舶の安全強化
生死を分けた救命胴衣!田中利夫
!
重なる事故を乗り越えて!くろべ漁業協同組合・日本海難防止協会
#
救命胴衣装着用 SART!小川政泰
$
自己責任がベース!山地哲也
"
小型船舶関係の法律改正
小型船舶操縦士制度の見直しについて
%
!国土交通省海事局海技資格課
ライフジャケットを取り巻く最近の状況
!国土交通省海事局安全評価室
!海上保安庁警備救難部救難課
命を守るライフジャケット
(
水救会の救助実績!水難救済会第二事業部
'
&
改正に対する現場の意見
*
関西ヨットクラブの現場の声!日本海難防止協会
+
救命胴衣の見直しと法改正!吉川師義
小型船舶操縦者の遵守事項について!栗山昂久
下松漁協の現場の声!日本海難防止協会
!福田康信
.
救命胴衣改善への期待
0
命の大切さあっての漁業!浜渕久嗣
,
改正に関与した方々の所感
救命衣着用義務化へ大きな前進!天下井清
小型漁船安全対策!急展開の経緯!宮澤晴彦
3
新たなスタート!宮原邦之
救命衣は海のユニホーム!佐久間猛
小型船舶交通安全法の制定を!西山知範
浮いて・浮かぶ家族の笑顔!菅野瑞夫
1
4
6
2
5
その他
新刊紹介 船舶衝突の裁決例と解説
)
日海防からのお知らせ
/
科学の力で領土を広げる!谷伸・有波操
7
台風の高波による海難・事故!日本海難防止協会
8
海の気象 気象衛星の画像で台風の強度を推定する方法!土屋昭夫
主な海難
:
うごき・編集レーダー
;
9
海と安全 2002・秋・冬号
1
生死を分けた救命胴衣
∼サロマ湖沖遊漁船海難の概要と教訓∼
紋別海上保安部警備救難課長
はじめに
平成14年9月14日、遊漁船「はやぶさ」
がサロマ湖沖で転覆沈没し、結果として7
た なか
田中
とし お
利夫
に帰投せよ。」である。対策本部解散に至る
9日間の悪戦苦闘はこの時始まった。
海難の概要
人もの方がなくなられるという悲惨な海難
この海難については、現在も調査を続け
が発生した。最後の行方不明者の遺体を発
ており、確定的なことは記載できないが、
見し、ご家族に引き渡してからまだ1カ月
これまでに収集した情報を概括すると次の
に満たない。この執筆を依頼された日は、
とおりである。
私と部長が今回の海難救助活動に協力して
69メートル、定
遊漁船はやぶさ(長さ8.
くれた方々へのあいさつ回りをやっと終え
員12人、10人乗り組み)は、平成14年9月
たその日である。海難発生原因等について
14日早朝、サロマ湖内にある登栄床(トエ
はいまだ調査中であり、このような誌面に
トコ)漁港を出港し、湖の外に出てカレイ
掲載するのは時期尚早との感もあるが、亡
釣りをしていた。船長のD氏は、知人から
くなられた方々やご家族の無言のメッセー
「はやぶさ」を借りて、職場の同僚9人と
ジをより多くの人々に一刻も早く伝え、事
旭川から出かけてきたのである。同日9時
故の再発を防止することが我々海上保安官
ごろ、
「はやぶさ」は釣り場をサロマ湖内に
の責務であると思えたので、執筆をお受け
変更するため、サロマ湖第1湖口に向かっ
した。
た。当日、サロマ湖の沖合いは時化気味で、
悪戦苦闘の始まり
日ごろから湖口の入出航で苦労している地
元漁民は、出港を見合わせる者が多かった。
単身赴任の私が休暇で札幌に帰宅してい
10時ころ、第1湖口の沖合いに達した「は
た9月14日午前11時過ぎ、携帯電話が小さ
やぶさ」は、船尾から大きな追い波を受け
な音を立てた。電話は紋別海上保安部から
て不安定となり、なんらかの理由(返し波
で、内容は「サロマ湖沖で10人乗りの遊漁
を受けたとの証言もある。)で横波を受けて
船が転覆、5人救助(内2人は意識不明)
、
転覆、その後沈没した。
残る5人が行方不明。所属船には出動指令
転覆当時、船橋で操船していたD氏を除
済み。保安部に対策本部を設置した。直ち
く9人は全員が甲板上に出ていた。また、
2
海と安全 2002・秋・冬号
A氏、B氏の2人はそれぞれ自分の救命胴
事関係者と漁業組合から事故発生の通報が
衣を着用していたが、他の8人は救命胴衣
118番で第一管区海上保安本部
(以下一本部)
を着用していなかった。船内には11着の救
司令センターに伝えられ、巡視船、航空機
命胴衣が使われないまま搭載されていた。
に捜索の指令が下った。また、巡視船の潜
転覆の約50分後、A氏はクーラーボック
水士や羽田特殊救難基地の特殊救難隊にも
スに捕まって浮いていた C 氏とともに湖外
紋別海上保安部への派遣が命じられた。さ
の海岸にたどり着き、湖口付近にいた港湾
らに、沈没した船体捜索のため、一本部は
工事関係者に救助を求めた。ほぼ同時にB
サイドスキャンソナー(高性能音波探知機)
氏は、湖口付近水面を「助けてくれ。
」
と叫
調査隊を急きょ編成し、現場へ派遣した。
びながら漂流しているところを、港湾工事
一方、地元の警察、消防、3救難所(サ
関係者に救助された。D氏、E氏は湖口付
ロマ湖では三つの漁業組合所属船が稼動し
近の湖内水面に浮いているのを地元漁船に
ており、これらの漁業組合は、それぞれボ
発見救助されたが、搬送先の病院で死亡が
ランティアの海難救助組織を編成している。
)
確認され、死因はいずれも溺死であった。
も活発な捜索活動を開始し、地元の湧別町
このように、A、B、C、D、E氏の5
から災害派遣要請を受けた陸上自衛隊も捜
人は転覆後、比較的短時間の内に海岸にた
どり着き、あるいは漁船等に発見救助され
たが、残る5人は行方不明となった。
必死の捜索
14日午前10時55分ごろ、救助した港湾工
索に加わった。
紋別海上保安部は、これらの捜索勢力と
協力・調整して、事故発生の9月14日当日
から最後の行方不明者を発見収容した22日
まで、必死の捜索を続けた。この間の延べ
捜索勢力は、船艇88隻、航空機53機、人員
海と安全 2002・秋・冬号
3
約3,
800人である。
海底の船体発見と引き上げ
早朝から準備作業を開始し、遅くとも同日
午前中に引き上げを完了する計画が決定し、
計画通り「はやぶさ」は引き上げられた。
サイドスキャンソナーによる船体の捜索
引き上げられた「はやぶさ」の船内には、
は、事故発生の翌日15日から始まった。こ
9着(内2着は子供用)の救命胴衣が流さ
の時、救難所所属船も、行方不明者の捜索
れずに残っていた。
に合わせて、各船が装備している魚群探知
機を利用した船体の捜索を行っていたが、
悲惨な結末
15日は発見できなかった。16日の夕刻、こ
船体引き上げ後も懸命に行方不明者の捜
の日の捜索もあと十数分で終了するという
索を続けたが、19日まで発見できなかった。
ぎりぎりの時間に、
「はやぶさ船体発見」の
20日午前11時50分ごろ、サロマ湖口沖合
報告がサイドスキャンソナー調査隊から飛
いで最初の漂流遺体が発見された。続いて
び込んできた。調査隊には特殊救難隊を同
21日に2遺体、さらに22日に2遺体がサロ
行させており、船体と思われるエコーを探
マ湖内や外海で次々に発見され、指紋照合
知するたびに潜水調査するという作業を繰
とご家族の確認によって、すべてが「はや
り返していたので、報告を受けたときは、
ぶさ」の乗船者であることが判明した。
すでに水中での船名確認も終了していた。
結局、この海難は、事故当日に死亡が確
行方不明者はいないのか、潜水士を特殊
認された2人を含め、乗船者10人中7人が
救難隊に合流させ詳細な潜水調査を再度実
死亡するという悲惨な結末を迎えた。7人
施したが、船内およびその付近に行方不明
全員が溺死である。
者はいなかった。
船体が発見されたサロマ湖口付近の海域
事故原因と防止策
は、強い潮流と複雑な海底地形で、普段か
どのような状況に陥って転覆したか、そ
ら磯波が立ちやすい場所である。加えて、
のとき船長はどのような措置をとったかな
翌17日午後からは天候悪化が予想されたの
ど、事故原因に関する詳細はいまだに判明
で船体引き上げは17日午前中までが勝負で
していない。今言えるのは、!事故当時の
ある。船体発見当日の夜、船体引き上げに
湖口沖合いは相当に大きな波が発生してお
関する船主の意向を確認したところ、なる
り、地元の経験豊富な船長でもサロマ湖へ
べく早く引き上げたいとの回答があったの
の進入を回避し、入港地を変更した者がい
で、現場で港湾工事を行っている建設会社
たほどであった、"サロマ湖への進入に先
にその意向を伝えるよう助言し(結果とし
立って、地元の経験者はいったん沖合いで
て引き上げは建設会社の好意により無償で
船を止め、波の大きさ、周期などを確認し、
行われることとなった。
)
、
直ちに実質的な作
進入の可否を判断するのが通例であるが、
業計画について建設会社担当技師等と打ち
これまでの調査では「はやぶさ」にはその
合わせを行った。打ち合わせの結果、17日
ような挙動が認められない。の2点であり
4
海と安全 2002・秋・冬号
『常に状況把握とその評価を怠らず、不安
を感じたら計画を変更する勇気と柔軟性を
持つこと』が本海難の教訓の一つである。
生死を分けた救命胴衣
く自然に励行されることを願ってやまない。
待ち続けた家族
行方不明となった5人のご家族は、海難
が発生したその日からサロマ湖の海岸で父
この海難を振り返ると、救命胴衣を着用
親、夫、息子、兄弟の帰りを待ち続けてお
していた2人はいずれも救助され、着用し
られた。どんな思いで海を見つめておられ
ていなかった8人は、クーラーボックスに
たのか、どんな思いで遺体発見の知らせを
掴まっていたC氏を除いてすべて死亡して
お聞きになったのか、ご家族の心境を察す
おり、改めて救命胴衣着用の必要性を痛感
ると、今でも、やりきれなさと、どこにぶ
する。
「はやぶさ」に救命胴衣がなかったわ
つけてよいのかわからない強い怒りがこみ
けではない。着用しようと思えば、着用で
上げてくる。
きる救命胴衣は搭載されていた。海難の態
様はさまざまで、すべてのケースで救命胴
衣を着ていれば100%救助されるとはいえな
おわりに
紋別海上保安部は、救命胴衣着用の徹底、
いが、救助率が格段に向上することは間違
サロマ湖における事故防止対策の充実など
いない。救命胴衣は暑い、動きにくいとい
に今後一層力を入れて取り組むこととし、
った感情はわからなくはないが、自分の命、
すでにその作業を開始している。今回の事
家族の大きな悲しみを思えば、何を迷うこ
故で亡くなられた方々やそのご家族からい
とがあろうか。
「船に乗ったら下船するまで
ただいた無言のメッセージを無にしないよ
救命胴衣を着用する。
」これが何の疑問もな
うに……。
海と安全 2002・秋・冬号
5
重なる事故を乗り越えて
くろべ漁業協同組合 (社)
日本海難防止協会
表
はじめに
富山県で初めての「海難防止活動推進モ
デル漁協」に認定されたくろべ漁業協同組
合は、平成12年に「くろべ漁協海難防止対
策委員会」を設置し、海難防止活動を積極
設立
合併
改名
合併
合併
改名
くろべ漁業協同組合の歴史
S2
4・1
0・1
S3
2・1
1・1
3
同 上
S3
8・8・1
5
H1
0・4・1
同 日
H1
4年現在組合員数
H1
4年現在所属船
的に行っている。救命胴衣の着用運動はじ
め、一人乗りの刺し網漁船21隻に、海水に
生地漁業協同組合設立
生地西部漁業協同組合と合併
黒部漁業協同組合と改名
下浦漁業協同組合と合併
石田漁業協同組合と合併
くろべ漁業協同組合と改名
59
8人(内正18
0人)
5t未満 1
0
0隻
(内船外機3
0隻)
5∼1
0t
4隻
1
0∼2
0t
7隻
触れると自動的に電波を発信してエンジン
が停止、同時に警告灯が点滅する「転落時
自動停止装置」を装備するなど、独自の活
動が評価されている。
くろべ漁協では、黒部市の二つの漁協が
合併した平成10年から12年にかけ、3件の
海中転落事故で3人の犠牲者を出している。
この不幸な事故が教訓となって海難防止の
松野組合長
富山参事
取組みに力を注ぐこととなり、組合長のリ
ところが、合併前までなかった海中転落
ーダーシップのもと事故防止に積極的に取
による死亡事故が、合併後2年あまりのう
組んでいる。
ちに3件も発生した。このことが、海難防
このたび、くろべ漁協の松野組合長、富
止活動にこれまで以上に取組むインパクト
山参事に当協会の津田常務理事が話を伺う
を与えた。
機会があったので、その内容をまとめて紹
(事故1)平成10年10月25日、好天、一人
介する。
乗りでソデイカ漁を行っていた漁船の様子
重なる死亡事故
がおかしいので、僚船が近づいてみると、
船主の姿が見えないため、捜索を始めた。
合併にはいろいろな困難を伴ったが、平
海上保安部のヘリ・防災ヘリ・県警ヘリ・
成10年4月1日、石田漁業協同組合との合
数十隻の僚船・プレジャーボートなどが連
併で黒部市の漁業協同組合は一つになり、
日捜索したが、未だに手がかりはつかめて
平仮名の「くろべ漁業協同組合」として再
いない。
出発した。
6
海と安全 2002・秋・冬号
事故の教訓:救命衣を着ていなかったこ
とが救助できなかった要因の一つだった。
これを機に、救命胴衣着用の徹底を図るこ
ととした。
(事故2)平成11年4月22日、一人乗りで
バイかご縄漁を行っていた漁船が帰港せず
、
15
(04時ごろ事故が発生したと思われる)
時に家族から組合への通報を受けて捜索を
開始した。僚船とヘリにより捜索した。暗
くなってからは、僚船には探照灯がなく捜
索ができなかった。また、ヘリは夜間着陸
が出来ない事情で夜間は基地へ帰った。探
照灯のある黒部市の消防艇だけで夜間の捜
索を続けたが、発見できなかった。その後、
夜中に水揚げ後出航した19トン型漁船によ
って発見された。行方不明者は救命衣を着
用していたが、すでに死亡していた。
事故の教訓:僚船が探照灯を持っていなか
った反省から、夜間の捜索に備えて10隻程
度の僚船に探照灯(一基20万円ぐらい)を
設備することを検討した。ヘリの24時間捜
索体制への運動も必要である。連絡の遅れ
が発見できなかった要因の一つとの反省か
ら、家族との定時連絡を行うこと、家族が
不審に思ったときには先ず組合に連絡する
黒部漁港全景
ことを徹底した。
て、その船に知らせた。僚船2隻は直ちに
(事故3)平成12年3月21日、晴天、一人
現場に向かったが、その間30分は経過して
乗りのヒラメ刺し網漁船の船主が海中転落
いた。約1時間後にカッパの空気で浮いて
で死亡した。この方は、サバイバル訓練で
いた本人を救助し、人工呼吸をしたが、間
積極的にプールに飛び込んだ方で、救命衣
に合わなかった。
をいつも着用していたが、この日に限って
事故の教訓:いつも救命衣を着けている方
着用していなかった。前日の深酒で漁に出
がこの日に限って着けていなかったこと、
たことを心配した家族は、岸からすぐの漁
家族からの通報が遅れたことが悔やまれる。
場の近くまで自転車で見にいったが、船に
今後蘇生術の訓練も必要と考える。また、
は人影はなかった。家族は、組合には連絡
救急車に電気ショックの器具が装備されて
せずに、港口で僚船が戻ってくるのを待っ
いないことも今後の課題である。
海と安全 2002・秋・冬号
7
救命胴衣着用啓発文一例
事故防止の取組み
組合では、合併前から海難防止への意識
は高く、組合長を先頭に、救命衣の着用を
叫んできた。平成9年には、組合員全員に
着用してもらうべく、一着当りの組合員負
000円で配布した。合併後も旧石田地
担を1,
区の組合員にも同様に配布した。
そのような状況のもとで、犠牲者の出た
ことを嘆き、事故の原因を究明、今後の対
策を議論した結果、プールでのサバイバル
訓練を実施することとなった。
黒部市のプールを借りて、合羽等を着け
て飛び込み,運動能力や救命衣の浮力等を
確かめることで、救命衣着用の推進を試み
た。しかし、自らプールに飛び込む人は少
なく、傍観しているものが多かった。そし
て、翌年に3人目の犠牲者が出てしまった。
このことが引き金となって「くろべ漁協
海難防止対策委員会」が結成された。
同委員会では、過去3回の事故の原因か
ら、救命衣着用のための対策を検討した。
その結果、啓発文書の配布、事故発生時の
プールでの飛び込み実験
初動体制と連絡網の確立、プールでの飛び
確立した。また、くろべ漁協災害連絡網を
込み実験の実施などを決めた。
確立して、組合関係者がいち早く情報を入
!
手・伝達できるようにした。
啓発文書の配布
どうしたら漁業者に徹底させることがで
きるかという視点から検討の結果、
「自分の
#
飛び込み実験
救命衣の着用が徹底しない要因は、当地
命は自分で守る」ことを認識させるために、
区の漁業者の多くが北洋漁業経験者で、沿
繰り返し反復活動が必要ということ、チラ
岸操業を侮っている一面があること、高齢
シなどは、見た目にきれいなだけではダメ
化による運動能力の衰えの認識に欠けてい
で、見た人がドキッとするようなものであ
ることが考えられる。このため、合羽装着
ることを念頭に工夫した。
時の転落体験と運動能力の再認識が必要と
"
のことから、平成12年9月、2回目のプー
初動体制と連絡網
過去の反省から、事故発生の初動体制を
8
海と安全 2002・秋・冬号
ルでの飛び込み実験では80人が参加、海上
保安部、県漁連、日本海難防止協会、黒部
市、警察署、消防署の応援のもと実施した。
エンジン非常停止装置を装備
海難防止対策委員会で事故の原因を分析
した結果、!事故はなぎのときに発生しや
すい。"救命衣を着用していれば助かった。
#事故に早く気付けば初動態勢が早くとれ
る。などの結論を得た。そこで、救命衣は
必ず着用させるという前提で、事故を早く
知らせる方法の開発を地元通信関係業者に
依頼したが、コスト問題などから開発が進
まなかった。その後、平成13年1月に、万
一海中転落しても自動的にエンジンが停止
する装置の開発を知った。エンジン非常停
止装置「かえる」で、値段も7万円ぐらい
と、思ったより安かった。
組合では、平成13年5月、一人乗り漁船
の1隻にデモとして導入した。その結果は
好評で全船に取りつけるべきであることを
確信し、県漁連へ提案した。県漁連では命
を預かる機器であるため性能の評価を検証
する必要があるとの見地から一人乗り漁船
21隻に装着することを決定し、機器を支給
することとなった。取り付け費用は組合の
負担とした。
(かえるの概要)
この装置は、発信機から電波が出ると受
黒部漁港岸壁風景
また、
「かえる」には、同時に作動する予
備端子3個があるので、これを利用すれば、
信機に接続されたエンジンの電源が切れて、
非常事態を知らせる、サイレン・発煙筒・
エンジンが停止するという仕掛けになって
フラッシュライトなどを装備し、付近にい
いる。乗組む人が、ペンダント型のリモコ
る僚船に知らせることができる。21隻には、
ン発信機を常時携帯しておれば、万一海中
パトランプをつけている。
転落したとき、リモコンが濡れると自動的
さらに、海中転落以外にも、例えば、揚
に電波を発し、エンジンの電源が切れてエ
網機に挟まれそうになったとき、揚網機の
ンジンが停止する。
停止スイッチに手が届かなくても「かえる」
海と安全 2002・秋・冬号
9
海難防止講習会プログラムの一例
1
2
3
4
5
6
7
8
開 会
挨 拶
救命胴衣とその情勢(日本海難防止協会)
救命胴衣着用の必要性について(伏木海
上保安部)
啓発ビデオ上映
救命胴衣とその性能について(県漁連)
水中転落実施体験
! 着衣のまま転落した場合の運動能力
体験
" 救命胴衣装着時転落した場合の運動
能力体験
# 救命胴衣の種類とその装着感および
浮力等性能体験
閉 会
注:全員、操業状態で飛び込みますので
(合羽、長靴等)を持参して下さい。
地元新聞から
したがって、自分の船に縄梯子(一本物
にダマを作り、海中から自力ではい上がり
やすくする。両舷に1カ所づつ取りつける
のが望ましい)を常備して置くよう指導し
た。その結果、
「縄梯子の装備」が定着した。
のリモコンで停止することができる。すで
に1隻の漁船がそのような体験をしている。
(1
9トン型からの要望)
過去に、19トン型のいか船で事故があっ
モデル漁協に認定
伏木海上保安部から「海難防止活動推進
モデル漁協」認定の話があり、平成13年12
月22日、黒部市生地水産卸市場で富山県内
た。
移動中に一人の漁船員がいなくなった。
漁協として初めての「海難防止活動推進モ
いつどこで海中転落したのかが他の者には
デル漁協」の指定プレートが伏木海上保安
分からなかった。このようなとき「かえる」
部長から組合長に授与された。
のような装置があれば、海中転落すると警
このとき、伏木海上保安部長は「救命胴
報が鳴る。警報が鳴れば誰かがエンジンを
衣着用や転落時自動停船装置の導入など、
停止する。3個ある端子を利用してランプ
海難防止に努められ、昨年は無事故でした。
やブザーをつける。などしてより早く事故
他の模範となっていただきたい」と述べ、
を知らせ、救助につなげることができる。
組合長は「これを機会に気持ちを新たに海
また、
「かえる」をつけることによって、安
難防止、安全操業に努めたい」と述べた。
心感が得られる。現在、一人乗りでない19
また、授与式に合わせて海難防止対策委
$型からも「かえる」を装備したいとの要
員会の委員長が安全宣言を行い、誓いを新
望が出ている。
たにした。
(縄梯子の装備)
海中転落者が自船にたどり着いても船上
今後に向けて
にはいあがることは容易ではない。プール
モデル漁協と認定されたが、まだまだツ
での飛び込み実験でも、自力でははい上が
ギハギの状況で、足らないところが多いが、
れない結果が出ている。
一つ一つをやっていくことにより、さらに
1
0
海と安全 2002・秋・冬号
安全対策を充実していきたいと考えている。
(救命衣の着用率の向上)
救命衣の着用率は、以前よりは向上した
が、今一つだ。救命衣は、人から言われて
着用するようではダメで、自ら着用する気
持ちを起こすようになるまで啓発を続ける
必要がある。幸いモデル漁協に認定されて、
組合員にいい影響が出ているので、モデル
漁協として恥ずかしくない着用率にしたい。
常時着用している救命衣の消耗は、結構
激しく、使っているうちにだんだん浮力が
500円、
落ちてくる。新替えの場合、組合が8,
000円を負担しているが、組合の負
本人が3,
担には大変なものがある。
(海難防止訓練など)
後継者一人の養成も大切であるが、現役
の組合員の命を大切に守ることがより重要
(要望したいヘリの発着)
ヘリコプターの夜間の離発着ができ、24
時間体制でヘリの捜索救助ができるように、
臨時に発着のできる場所を決めておくなど、
関係機関の配慮を要望したい。
であるとの認識のもとに、毎年一度は、組
海上保安庁のヘリコプターには、暗闇で
合員参加の海難防止訓練を続けていこうと
も捜索のできる赤外線捜索監視装置を装備
考えている。しかし、毎年プールの飛び込
しているとのこと、空からヘリによる捜索、
みというのではどうか。マンネリ化しない
海上では、探照灯を持った僚船による捜索
ようにするにはどういう工夫をすればよい
ができれば今までよりも改善される。
のか、悩んでいる。
今年は、地元のマリンフェスタに合わせ
法令改正の感想
て、小型船安全協会と合同で、ジェットス
組合は、今回の小型船舶に関する「船舶
キークラブにも参加を要請して行いたく、
職員法の一部改正」および「小型船舶安全
また、海上保安庁ヘリコプターによる救助
規則等の一部改正」を評価している。
訓練などが可能なら効果的だと考えている。
特に、一人乗り漁船における救命衣の常
それと、最近は映像が効果的な傾向にあ
時着用義務化を歓迎する。自動車における
るので、日本海難防止協会でビデオを作っ
シートベルト着用の導入が、やがて習慣と
て貸していただけるとありがたい。
なったように、法制化が救命衣着用率の向
また、今後は、漁船だけでなく、プレジ
上につながればと期待する。ただ、さくら
ャーボートやジェットスキーにも参加を呼
マークでなければダメでは困る。作業性の
びかけていきたい。いずれにしても根気よ
よい救命衣でよいことにして貰いたい。
く続けることが大切である。
海と安全 2002・秋・冬号
1
1
救命胴衣装着用 SART
―本船用 SART の救命胴衣への応用―
(社)
日本船舶品質管理協会
(社)
日本船舶品質管理協会は、船用品の品質改善に関する調
査研究を日本財団の助成を得て実施していますが、今般「海と
業務部長
お がわ
小川
まさやす
政泰
(参考)生存艇の所定の位置
SART の生存艇への取り付け位置は、遠距離からレーダーに
安全(救命胴衣特集)」の編纂に当たり、本船用 SART を救命胴
よる探知性能を確保するため海面上1!以上の高さに取り付け
衣用に改良した個人用 SART の調査研究について、
本船用 SART
られます。
の解説を含め、その概要を紹介します。
本船用の SART(レーダートランスポンダ
ー)は、我が国が開発した GMDSS 関連の重
捜索・救助の船舶または航空機レーダーが
とら
捉えたレーダー映像を図に示しています。
要な救命設備で、船舶が非常時に救命いかだ
写真1は、船舶探知圏内に待受け状態の
や救命艇等(以下生存艇という。)
に搬入して
SART(生存艇)が入ると、レーダー画面に生
使用されるもので、捜索者がいち早くこれら
存艇の位置を先頭に8マイルにわたって12個
を発見し、また、接近するためのロケーティ
の連続短点(SART 信号という。
)が表示され
ング機能を果たしているものです。
た様子を示し、明らかに船舶や島でないこと
従来の生存艇の捜索は、双眼鏡が主流のた
が識別できます。写真2は、捜索救助レーダ
め、夜間や荒天時等視界が悪い場合に発見が
ーが2マイル程の近傍に近づいたレーダー映
困難でしたが、SART は、船舶または航空機
像で、12個の連続短点 SART 信号は同心円状
用レーダーによる捜索を可能にし、生存艇の
に変化します。なお、この状態で SART は、
所定の位置に取り付けられた SART は、夜間、
連続的な応答表示(音または光)を示し、遭
荒天を問わずレーダー探知距離からの発見と
難者に捜索救助船が接近したことを知らせる
接近を容易にしています。
ことになります。
写真1
1
2
SART が遠方にある場合の映像
(1
2個の連続短点が表示される)
海と安全 2002・秋・冬号
写真2
SART が近い場合の映像
(1
2個の連続短点は同心円状に表示される)
(参考)
IMO(国際海事機関)の要求基準によると、レーダーによる
SART の最大探知距離は、海面高1!の SART について、海面
高15!に設置した出力10キロワットの船舶用レーダーで5マイ
ル以上、また、3,
000フィートで飛行する航空機用レーダーでは
30マイル以上とされています。
なお、
(社)日本船舶品質管理協会が平成12年度日本財団の助
成を受け、相模湾の実海面で実施した円偏波方式アンテナを採
用した SART の視認性評価試験では、船舶用レーダーの最大探
写真3
SART 本体部
写真4
SART を装着した人形ダミーの浮遊状態
湾の実海面においてレーダーによる視認性
の評価実験を実施しました。
知距離は14マイル、航空機用レーダーでは37マイルでした。こ
試験の結果、個人用 SART のアンテナ高
の数値は、IMO 現行基準の水平偏波アンテナの SART より、円
は、僅か海面上約10センチメートルの高さ
偏波アンテナの SART の方がより遠距離からの探知能力に優れ
ていることを実証しました。この成果は、IMO へ提案し、SART
のアンテナに係る性能要件の改正を図りたいと考えています。
救命胴衣装着用の個人用 SART(以下、
でしたが、海面高約5!および15!の巡視
船艇レーダーにおいては、航海モードで約
000フィート
2マイルの近傍から、また、3,
個人用 SART という)は、昨今のプレジャ
の上空を飛行する航空機(ヘリコプター)
ーボートや小型漁船等の海難事故防止に係
では、捜索モードで約12マイルの遠方より
る関係当局の啓発活動「救命胴衣常時着用
視認できました。
化推進運動」にも呼応して、現行の本船用
以後、この結果はレーダー実験車による
SART の機能を救命胴衣に応用したもので
SART 応答波の観測結果を含めて詳細に解
す。
析されますが、救命胴衣装着個人用 SART
写真3は個人用 SART 本体部で、ほぼタ
は、本船用 SART と同様に夜間や荒天時等
バコ箱大の形状で十分に救命胴衣のポケッ
視界が悪い場合においても、捜索・救助に
トに装着でき、使用にあたっては、本体底
あたってその有効性が実証されたものと考
部に位置する電源スイッチを引抜く構造と
えています。
なっています。
写真4は、個人用 SART を救命胴衣のフ
なお、
本個人用SARTは、
現行本船用SART
の電波受発信部と円偏波方式アンテナを採
ァスナー付ポケットに収納した人形ダミー
用し、電池容量は SART 待受け時間24時間、
の浮遊状態で、フレキシブルなケーブルで
作動時間は4時間として試作されたもので
接続された円偏波方式のヘリカルアンテナ
すが、本個人用 SART を広く普及させるた
をファスナー部から露出させて垂直に立て
めには、SART をさらに小型化、低廉価し
た状態で、胴衣の胸部に海面上約10センチ
て、より汎用性の高いものにしなければな
メートルの高さに維持するように取り付け
らないと考えています。
られています。
はんよう
このため当協会は、現在、本調査研究の
救命胴衣用 SART の有効性の確認は、先
中で、さらに小型低廉価 SART の開発を目
(金)
海上保安庁の巡視船艇およ
に11月1日
指して調査研究をしているところですが、
び航空機の支援をいただき、また、陸上海
年内に基礎的な試験を実施し、その成果を
浜部にはレーダー実験車を配置して、駿河
期待しているところです。
海と安全 2002・秋・冬号
1
3
自己責任がベース
英国のプレジャーボートの安全対策
(社)
日本海難防止協会ロンドン連絡事務所長
このたび、英国海上保安庁(Maritime
表
Coastguard Agency : MCA)を訪問し、
(上段:件数、下段:%)
1
9
9
8 1
9
9
9 2
0
0
0 2
0
0
1
レクリエーション
活
動1
海難事故発生件数
MCA がまとめた統計によれば、1998年か
ら2001年の船舶および航空機に関連する事
故の発生件数は、表のとおりである。
800件前後の
この統計によれば、毎年、4,
事故が発生し、このうちのレクリエーショ
プレジャーボートの安全対策
5
5
9
3
5
8
3
0
9
3
0
0
2
8
0
7.
6
6.
8
6.
5
5.
7
漁
船
(1
2m以上)
3
7
0
3
1
5
3
4
7
3
9
3
7.
9
6.
9
7.
5
8.
0
1
0
6
1
0
3
1
3
7
1
7
8
2.
3
2.
3
3.
0
3.
6
1
9
1
8
1
9
2
5
0.
4
0.
4
0.
4
0.
5
そ
の
航
空
合
1
2
者法、以下「新法」という)のように、操
救命器具等の備え付け義務がないこと、ま
5
3
7
漁
船
(1
2m未満)
いない。具体的には、我が国での小型船舶
縦免許に相当する資格認定制度がないこと、
4
5
8
9.
1 1
0.
1 1
1.
7 1
1.
3
のプレジャーボートに法的規制が行われて
操縦士の免許(船舶職員及び小型船舶操縦
7
2.
8 7
3.
5 7
0.
9 7
0.
9
4
2
9
(1)レクリエーション活動に係わる事故
7㍍未満)
のうち大部分を占める小型船(13.
3,
4
2
43,
3
3
43,
2
6
73,
4
9
5
商 業 活 動 船2
400件前後、
その割合
ン活動に伴う事故は3,
は70%以上を占めることが伺える。
てつ や
哲也
船舶および航空機の事故
プレジャーボートの安全対策の現状等につ
いて情報収集する機会を得たので報告する。
やま じ
山地
3
他3
機
計
4,
7
0
64,
5
3
74,
6
0
74,
9
3
0
レクリエーション活動は、空気ベッド等の玩具、
釣船、カヌー、ゴムボート、ジェットスキー、
動力プレジャーボート、手漕ぎボート、セール
ボード、ディンギー、ヨット、サーフボード及
びプレジャーボート等への補給船を含む。
商業活動船は、潜水支援船、フェリー、客船、
沖合プラットフォーム、艀、高速船、商船、掘
削船、旅客用ヨット、タグ、バージ及び土運船
を含む。
その他には、海軍船、動力装置及びその他を含
む。
た、新法において規定された一定の場合の
止強調運動を公式に発表し、レクリエーシ
救命胴衣着用義務、飲酒操船等の禁止およ
ョン活動実施者に対する安全のための情報
び一定の場合の小型船舶操縦者自らによる
およびアドバイスの提供を開始した。
操船義務規定が存在しないこと等である。
これは“Voluntary Code of Best and
(2)2000年1月、海運担当相が、海難防
Safe Practice for Leisure Craft Users”
1
4
海と安全 2002・秋・冬号
というポケットサイズの防水性コード(チ
録活動もレクリエーション活動実施者の安
ェックリスト)を作成し、レクリエーショ
全意識とマナーによるところが大きい。
ン活動実施者に配布している。このCode
(4)MCA では、プレジャーボートを含む
は強制化されるものではなく、あくまでも
レクリエーション活動の安全対策について
レクリエーション活動実施者の安全意識の
は、法的規制よりも教育活動を重視し、そ
啓発活動を図ることを目的としたものであ
の活動を実施している。具体的には、子供
る。
現在も、MCA は各種イベント等を通じ、
を対象とした安全啓発グッズ(ポストカー
Code の配布を継続している。
ド、シール等)を作成、学校等教育機関を
(3)また、MCA では“Yacht and Boat
訪問し、また、各種イベントを活用し、親
Safety Scheme”というレクリエーション
子等に対する教育活動を実施している。こ
活動実施者による自主的な船舶登録活動を
れは直ちに結果が現れる方策ではないが、
進めている。これは、海難事故等発生時、
子供が成長した際、自発的に救命胴衣を着
船舶の特定、関係者への連絡を効率的に行
用する等の安全意識を植え付け、安全に対
うために開始されたものである。現在、約
する「文化」を長期にわたり、変化させた
28,
000隻が登録されているが、レクリエー
いとのことである。さらに、テレビコマー
ション活動に供される船舶等が約200万隻と
シャル等のマスメディアを通じ、安全啓発
いわれる中、登録の割合は少なく、この登
活動を実施している。
ロイター=共同通信提供
海と安全 2002・秋・冬号
1
5
(5)今後のプレジャーボート等に対する
は、基本的に政府機関から独立した民間ボ
法的規制に関しては、消極的な意見が聞か
ランティア機関である王立救命艇協会:
れた。新たな法を制定し、規制を実施すれ
RNLI が救助活動を実施している。
ば、その規制内容を担保するための措置、
この形態について、RNLI 関係者に質問し
具体的には、検査、取締り等を実施するこ
たところ、
「政府が介入すれば官僚的になり、
とが必要となり、これに要する人員、資機
海難救助活動に何日も要してしまうだろう」
材等の予算措置を講じなければならないと
との答えが返ってきた。英国においては、
いうものである。
海難救助活動の他にもさまざまなボランテ
担当者は、夏期、週末等には多くのプレ
ィア活動が普及し、多くの国民が自己の時
ジャーボートが出航するが、現在の組織・
間を活用しボランティア活動に参加してい
予算の状況で検査、取締りを行うことは極
る。これは政府の活動を補完するというよ
めて困難であると述べた。また、法的規制
りも、独立、並行して国民生活に必要な活
を行うかどうかの判断は、安全対策の推進
動を実施しており、政府の施策がなくとも
と前述のようにその担保措置に係る資源等
国民自らが自己の生活を支えるという意識
の要素を総合的に見極めなければならず、
が、多くの英国民の中に存在しているので
これには政治的判断を要する問題であると
はないかと考える。
述べている。
(4)当初、プレジャーボートの安全対策
所
見
に国家として法的規制を行わないのは奇異
にも感じたところであるが、前述のような
(1)今回の調査においては、前回平成12
国民意識、また、日本と英国の国家観の相
年10月の調査時に承知した各種安全啓発活
違(いわゆる「福祉国家」と「夜警国家」)
動を現在も継続していることを確認した。
があるとすれば、英国において法的規制を
(2)我が国においては、国民の生命およ
行うことなく、自らの責任において海上レ
び財産を保護するのは国家の責任であると
クリエーション活動を実施し、政府として
一般的に理解されているところであり、プ
は必要に応じて安全啓発活動を実施すると
レジャーボート等に係る事故についても、
いう方策も、納得できるところであると感
その対策については法的規制を行う手法を
じた次第である。
とっている。事実、本年(平成14年)も「船
舶職員法」を「船舶職員及び小型船舶操縦
者法」と名称変更し、危険な操縦の禁止、
酒酔い操縦の禁止、救命胴衣の着用、有資
格者による自己操縦等の規定を追加した。
(3)英国に着任以来、英国の海難救助体
制について調査する機会を得たが、英国に
おいては沿岸50マイル以内の海難について
1
6
海と安全 2002・秋・冬号
小型船舶関係の法律改正
国の第7次交通安全基本計画における海上交通の安全の目標の一つに、海難および
船舶からの海中転落による死亡・行方不明者を平成17年までに年間200人以下とするこ
とが掲げられた。
その目標達成の一環として、海難事故および死亡・行方不明者が多い小型漁船やプ
レジャーボートの安全に関係する法律の一部が改正された。
その骨子は、小型船舶操縦者の資格の簡素化、小型船舶操縦者の遵守事項の強化か
らなっている。特に、遵守事項は、危険な操縦の禁止、酒酔い操縦の禁止、救命胴衣
の着用の義務化、有資格者による自己操縦の義務化、違反者に対する再教育講習制度
の新設などからなっている。
この法改正に基づく省令は、まだ出されていないため、細目が分からない面もある
が、その方向性は示されており、所管の行政当局の解説文等をご参照いただき、関係
法令の施行される平成15年6月までに十分ご理解願いたい。
また、当局の解説文の他に、海中転落の発生状況等、民間ボランティア団体の救助
活動等についてもそれぞれの関係者に示してもらった。
小型船舶操縦士制度の見直しについて
∼船舶職員法の一部改正∼
国土交通省海事局海技資格課
死傷者数も約700人に達しています。今後、
船舶職員法の
一部改正に至る経緯と背景
小型船舶の安全で健全な利用を促進してい
近年における国民の水上レジャー活動に
ずれにおいても、その安全対策の充実を図
くためには、プレジャーボート、漁船のい
対する関心の高まりや余暇活動の多様化、
っていくことが喫緊の課題となっています。
水上オートバイなどさまざまなタイプの船
こうした状況を踏まえ、国土交通省にお
舶の増加等に伴い、小型船舶を利用した水
いては、
「プレジャーボート利用改善に向け
上レジャー活動は活発化しており、今後と
た総合施策に関する懇談会」の下に「小型
も、その健全な発展を図っていくことが大
船舶操縦士制度等検討小委員会」を設け、
きな課題となっています。
プレジャーボート、漁船、遊漁船など幅広
現行の船舶職員法に基づく小型船舶操縦
い関係者の方々からのご議論を通じて、小
士制度の基本的枠組みは、昭和49年の法改
型船舶操縦士制度の抜本的な見直しに向け
正で創設されたものですが、制度創設当時、
た検討を行い、昨年12月に取りまとめが行
約37万人であった免許取得者は、平成12年
われました。
度末には270万人を超えるまでに増加してき
これらを踏まえ、小型船舶に係る利用者
ています。また、制度創設当時の免許取得
ニーズの変化に的確に応えるとともに、小
者の多くは漁業者の方々が中心でしたが、
型船舶の航行の安全を一層図るため、小型
現在ではプレジャーボートの利用者が約7
船舶操縦士制度の抜本的な見直しを内容と
割を占める状況となっており、免許取得者
する「船舶職員法の一部を改正する法律」
の実態は量的にも質的にも大きく変化して
が、平成14年6月7日に公布されました。
います。このため、利用者ニーズを的確に
踏まえた本制度の簡素・合理化を図ること
が強く求められています。
改正の概要
新しい法律名は「船舶職員及び小型船舶
他方、利用者の裾野が拡大する中で、小
操縦者法」となり、平成15年6月から施行
型船舶による海難は増加傾向となっていま
を予定しています。以下に今回の改正内容
300件を超
す。平成12年度には海難件数が2,
の概略を説明します。
え、その内訳をみると、プレジャーボート
(1)小型船舶操縦者と船舶職員の
が5割、漁船が4割となっており、さらに
1
8
海と安全 2002・秋・冬号
資格体系の分離
現行の法体系においては、小型船舶の船
長は、大型船舶の船長・機関長・通信長等
と同様に、
「船舶職員」として位置付けてい
ますが、この「職員」という用語は、組織
による船舶運航を前提としたものでありま
した。
小型船舶は資格を持った船長1名で運航
可能であるため、この「職員」という用語
は、必ずしも適当とはいえず、プレジャー
ボートの利用者等にとって違和感がありま
した。
そこで、今般、小型船舶の船長を「小型
船舶操縦者」として位置付けるとともに、
船舶職員の資格体系から小型船舶操縦者の
資格体系を分離することとし、法律の名称
も「船舶職員及び小型船舶操縦者法」と改
図
めることになりました。
する(新)二級小型船舶操縦士に再編成す
(2)小型船舶操縦士の資格区分の
ることとし、後述する水上オートバイ専用
再編成等
! 資格区分の簡素・合理化
(5区分から3区分へ)
の特殊小型船舶操縦士とあわせ、全体とし
て3区分に簡素化することとしました。
また、
(新)一級小型船舶操縦士と(新)
現在の資格区分は、一級小型船舶操縦士
二級小型船舶操縦士については、利用する
から五級小型船舶操縦士の5区分に細分化
船舶のトン数を5トン未満とする限定免許
されている上、航行区域と船舶のトン数と
制度を設けるとともに、従来の湖川小馬力
いう2つの基準によって資格を分けている
限定の制度も引き続き維持することとし、
ため、利用者にとって複雑でわかりずらい
利用する船舶に応じた利用者のニーズにも
といった声が多く寄せられています。免許
細かく対応することとしています。
交付の実態をみても、大半が一級又は四級
さらに、こうした資格区分の簡素・合理
であり、あまり利用されていない資格区分
化に併せ、試験内容についても、例えば機
も存在します。
関理論に関する知識の簡素化や六分儀の取
このため、資格区分の簡素・合理化とい
扱いの廃止など、安全に配慮しつつできる
う観点から、航行区域5海里を基準として
限り簡素なものとすることとしています。
資格を大きく2区分とし、外洋まで航行す
一方、旅客を扱う小型船舶操縦士につい
る利用者に対する(新)一級小型船舶操縦
ては、一般の試験に加えて、人命救助等に
士と、沿岸付近のみを航行する利用者に対
関する知識や能力を内容とする講習の受講
海と安全 2002・秋・冬号
1
9
を義務づけることとし、安全対策の充実を
図ることとしています。
"
という実態となっています。
このため、今般の改正においては、小型
水上オートバイ専用資格の創設
船舶操縦者に対する遵守事項として次の事
(特殊小型船舶操縦士の創設)
項を法令上で明確化しました。
現在の資格区分においては、水上オート
!
酒酔い等操縦の禁止
バイ専用の資格区分が存在しないため、水
船舶を安全に運航し、海難・事故を防止
上オートバイの利用者も一般の小型船舶と
するためには、操縦者は正常な判断能力を
同様に、五級以上の免許を取得する必要が
有する状態で操縦することが必要です。
あります。しかしながら、水上オートバイ
このため、事故につながる危険性が極め
の操縦方法や運動特性は、一般の小型船舶
て高い、飲酒、過労その他の影響により正
と大きく異なることから、水上オートバイ
常な判断ができない状態における操縦を禁
と一般の小型船舶の利用者に同じ資格を求
止することとしました。
めることは、双方の利用者にとって過大な
"
負担も生じるうえ、近年における水上オー
小型船舶は運動性能が高いため、一瞬の
トバイによる海難の増加に鑑みれば、安全
操作により状況変化が生じやすい場面があ
の観点からも水上オートバイの特性に見合
ります。
った教育が必要となっています。
有資格者による自己操縦
このため、交通のふくそう度が高く衝突
このため、今回の資格区分の再編成に当
等の危険性が高い、港内や航路内を航行す
たって、免許取得に当たっての利用者の負
るときは有資格者が自らその小型船舶を操
担軽減と水上オートバイの安全向上の観点
縦しなければならないこととするとともに、
から、水上オートバイ専用の資格区分を設
水上オートバイについては常時有資格者自
け、水上オートバイに特化した知識や能力
らが操縦しなければならないこととしてい
を重点的かつ効率的に習得していただくこ
ます。ただし、漁船等の事業用船舶、ヨッ
ととしました。
ト、試験・教習艇等、自己操縦を義務付け
(3)小船舶操縦者が遵守すべき事項の
ることが適当でない船舶は例外として除く
明確化
酒酔い操縦の禁止やライフジャケットの
こととしています。
#
遊泳者等に対する危険操縦の禁止
着用といった小型船舶の安全な航行を確保
小型船舶は、大型船舶に比べて運動性能
するために小型船舶操縦者が当然に遵守す
も高く、喫水も浅いことから、遊泳者等へ
べき事項については、従来、マナーやシー
の不用意な接近を招きやすく、遊泳妨害や
マンシップに期待されていました。しかし
遊泳者との接触等によるトラブルや事故の
ながら、小型船舶による海難は増加傾向に
事例が後を絶たない状況となっています。
あるとともに、免許取得者の増加に伴い、
このため、遊泳者等に対し危険を及ぼす
経験も浅く、必ずしもマナーやシーマンシ
おそれのある操縦を禁止することとしてい
ップを身に付けていない方々も少なくない
ます。
2
0
海と安全 2002・秋・冬号
表
現 行 資 格
新
資
1
級
小
型
2
級
小
型
3
級
小
型
2級小型+特殊小型
4
級
小
型
2級小型+特殊小型
(限定有り)
(注)1.
5
級
小
型
2級小型+特殊小型
(限定有り)
(注)1.
格
1級小型+特殊小型
同
上
(注)1.4級及び5級については、現行資格で乗れる船舶の範囲に応じ、新資格に船舶の大きさ、航行区域等の限
定を設ける予定
2.昭和49年の船舶職員法の一部改正法(附則第4条)により、総トン数の限定された1級及び2級の免許に
ついては、新資格においても同じ限定を設ける予定
! 救命胴衣等の着用
ことができるように措置することとしてい
小型船舶は、大型船舶に比べて、風浪等
ます。
の自然条件の影響や船体動揺等が大きいた
具体的な免許の移行は上の表のとおりと
め、落水の危険性が高く、落水事故への適
することとしており、例えば、現在の四級
切な対応が重要となっています。落水者の
小型船舶操縦士の免許については、
(新)二
生存率は、救命胴衣着用者は8割、未着用
級小型船舶操縦士の総トン数5トン未満限
者は2割となっており、救命胴衣を着用す
定免許及び特殊小型船舶操縦士の免許とみ
ることは極めて有効です。
なされ、従来どおり、航行区域5海里以内、
このため、水上オートバイの乗船者や子
総トン数5トン未満の小型船舶(水上オー
供など落水の可能性が高い場合には、救命
トバイを含む。)を利用することができるよ
胴衣の着用を義務付けることとしています。
う措置することとしています。
(詳細は22ページ「ライフジャケットを取
り巻く最近の状況」をご参考ください。
)
その他、船舶の航行の安全をより一層確
保するため、発航前の点検や適切な見張り
の実施について、明確化することとしてい
ます。
また、小型船舶操縦士の資格に係る海技
免状については、小型船舶操縦免許証に名
称を変更し、免許証の様式も一新されたも
のとすることとしています。
なお、現行の海技免状については、当該
免状の有効期限の間は引き続き有効であり、
また、これら遵守事項の違反者に対して
施行日以降特に新たな免許証に引き換える
は、安全意識の向上を図る観点から、初心
必要はありません(更新時に引き換えるこ
に返って海のルールを身に付けてもらう教
とになります。)。
育的措置が有効であるため、一定の違反者
に対する再教育講習制度を設けることとし
ました。
現行の免許受有者の移行
現行の小型船舶操縦士の免許受有者の方
々につきましては、現在の免許で利用する
新制度の施行
新制度は平成15年6月からの施行を予定
しており、現在、新制度を円滑に実施する
ために必要な、関係政省令等の改正や新た
な免許登録システムの構築等の所要の準備
を進めているところです。
ことができる小型船舶は引き続き利用する
海と安全 2002・秋・冬号
2
1
!!!!!!!!!!!
ライフジャケットを取り巻く最近の状況
国土交通省海事局安全基準課安全評価室
!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
はじめに
近年、プレジャーボートを利用したマリ
る評価検討会」を開催し、次のとおり海中
転落事故対策に関する提言を取りまとめま
した。
ンレジャーの普及に伴い、プレジャーボー
!着用措置の法制化の検討
トの海難事故が増加しています。また、漁
"常時着用により適したライフジャケット
業従事者の高齢化、一人乗り操業の増加に
伴い、小型漁船からの海中転落事故も多発
の導入
#啓蒙・啓発活動の実施
しています。このような状況の中で、平成
その後、この提言を踏まえて更なる検討
13年3月に中央交通安全対策会議(会長:
を進め、!については、小型船舶に乗船す
内閣総理大臣)において「第7次交通安全
る際、ライフジャケット着用等の船外転落
基本計画」が策定され、
「年間の海難及び船
に備えた措置を講じることの義務化を法制
舶からの海中転落による死亡・行方不明者
化し、"については、常時着用により適し
数を平成12年の331人から平成17年までに200
たライフジャケットとしての技術基準の見
人以下にする」と具体的目標を設定し、そ
直し・新設を行い、#については、ライフ
の達成のため「救命胴衣の着用率向上」が
ジャケット着用推進会議の実施により、提
重点施策の一つとして位置付けられていま
言された内容の実現に努めてきたところで
す。
す。これらの概要について、簡単に説明し
救命胴衣(以下「ライフジャケット」と
いう。
)は、海中転落事故等の際に人命を守
るためのものであり、その着用率を高める
ことは人命の損失を防ぐために極めて有効
ます。
ライフジャケットの着用措置の
法制化について
ですが、依然として未着用による被害が後
国では、一向に減少しない漁船の海難に
を絶たず、着用率向上が喫緊の課題となっ
よる死亡事故、増加するプレジャーボート
ています。
の海難に対し、抜本的な予防措置が必要で
国土交通省では、平成12年7月に明石海
あるという認識のもと、自己責任を前提と
峡沖で発生したプレジャーボート乗船者の
した着用運動の推進に加え、より一層の着
海中転落事故を受け、同年8月から翌年3
用率の向上を図るため、小型船舶操縦者が
月まで学識経験者及び海事関係者からなる
乗船者にライフジャケットを着用させる措
「小型船舶用救命胴衣の常時着用化に関す
置を講じることを、小型船舶操縦者の遵守
2
2
海と安全 2002・秋・冬号
事項として「船舶職員及び小型船舶操縦者
法」において法制化しました。
(法改正についての詳細は18ページ「小型
船舶操縦士制度の見直しについて」をご参
照ください。
)
着用の具体的な義務対象者は、小児(1
、PWC(水上オートバ
歳以上12歳未満の者)
イ等)の乗船者、一人乗りで操業する小型
漁船の乗船者を予定しています。また、そ
れ以外の暴露甲板上にいる乗船者について
も、着用に努めることが規定される予定で
す。
このとき着用するライフジャケットは、
小型船舶用救命胴衣を始め、小型船舶用浮
力補助具、作業用救命衣、一般船舶用救命
胴衣のいずれでも構いません。
技術基準の改正について
参考写真
について、小児は年齢により体重が大きく
ライフジャケットの着用措置の推進にあ
異なるため、体格に応じた適切な浮力サイ
たっては、単に着用措置の法制化を行うだ
ズのものを選択できるように見直しを行い
けではなく、常時着用により適したライフ
ました。
ジャケットを普及させることが求められて
!着心地についての要件の導入
います。
・軽量でかさばらず、柔軟で着用者の身体
このため、平成14年7月に公布された小
型船舶安全規則等の一部を改正し、ライフ
ジャケットの技術基準につき、常時着用に
より適したライフジャケットとするための
技術基準の見直し・新設等の改正を行い、
によくなじむこと。
・容易に着用できて、誤着用されないよう
に作られていること。
・着用して船内活動を行うのに支障がなく、
なるべく通気性がよいこと。
平成14年10月から施行しました。
"小児用の浮力サイズの見直し
(1)小型船舶用救命胴衣の
5#以上
・体重40#以上の小児 → 浮力7.
技術基準の見直し
小型船舶用救命胴衣について、安全性の
向上に加えて着心地についての要件を取り
入れ、常時着用により適した要件に改める
とともに、小型船舶用救命胴衣(小児用)
0#以上
・体重40#未満の小児 → 浮力5.
0#以上
・体重15#未満の小児 → 浮力4.
(2)小型船舶用浮力補助具の
技術基準の新設
5
小型船舶用救命胴衣に求められる浮力7.
海と安全 2002・秋・冬号
2
3
!を浮力5.
8!に緩和するとともに、安全性
(3)色要件の緩和
に加え、着用性・作業性・デザインの多様
ユーザーの着用意識をさらに高めること
性等を十分に考慮し、常時着用により適し
を目的として、より優れたデザインのもの
た「小型船舶用浮力補助具」の技術基準を
を普及させるため、一般的なプレジャーボ
新設しました。
ートなどの比較的沿岸を航行する小型船舶
小型船舶用浮力補助具を船舶安全法適用
(旅客船を除きます。)に備え付ける小型船
対象となっている小型船舶に救命設備とし
舶用救命胴衣の色については、これまでの
て備え付ける場合には、小型船舶用浮力補
橙黄色系統の色に制限しないこととしまし
助具の浮力が少ないことから、海象が平穏
た。
な平水区域を航行区域とし、船体が不沈性
を有し、かつ、キルスイッチ(操船者が落
水した際にエンジンが止まるなどの機能)
を有した船舶に限定されます。それに対し、
ライフジャケット着用推進会議
について
国土交通省は、海上保安庁、水産庁と共
船舶職員及び小型船舶操縦者法に定めるラ
催で、国や海事関係団体の情報交換、連携、
イフジャケットの着用措置の場合には、小
協力によりライフジャケットの着用を推進
型船舶操縦者が航行の状況を勘案してライ
するため、
「ライフジャケット着用推進会議」
フジャケットを着用させることとなるため、
を開催しています。昨年に引き続き、今年
平水区域以外であっても、平穏な海象気象
も7月4日に第2回会合を開催し、国や海
状況であれば小型船舶操縦者の判断により、
事関係団体の最近の取り組みや平成14年度
乗船者に対し小型船舶用浮力補助具を着用
の啓発活動計画について情報交換が行われ
させることができます。
ました。
また、昨年の第1回会合では、ユーザー
がライフジャケットを購入・選択する際の
一助として、型式承認を受けたライフジャ
ケットの情報を国土交通省のホームページ
に掲載することが合意されており、今年5
月に「ライフジャケット(救命胴衣)コー
ナー」を開設し、ライフジャケット着用の
必要性や技術基準、国内で製造販売されて
いる救命胴衣の一覧などの掲載を開始しま
した。
(URL : http :!!www.mlit.go.jp!kaiji!
lifejacket!LJHP!lj.htm)
2
4
海と安全 2002・秋・冬号
命を守るライフジャケット
海上保安庁警備救難部救難課
型漁船106人、プレジャーボート等58人で、
はじめに
うち、死亡・行方不明者数は小型漁船75人
海上保安庁では、第7次交通安全基本計
(71%)、プレジャーボート等29人(50%)
画に基づき船舶海難および船舶からの海中
であり、海中転落により死亡・行方不明と
転落による死亡・行方不明者数を平成17年
なる割合は非常に高いものがあります。
までに、年間200人以下(平成13年は320人)
また、平成9年から平成13年までの海中
とするため、さまざまな施策を実施してい
転落者数と死亡・行方不明者数の状況は図
るところです。
1のとおりで、毎年、海中転落により100人
ここでは小型漁船・プレジャーボート等
から海中転落による事故の発生状況とライ
フジャケットの有効性および海中転落した
場合の対応を紹介します。
海中転落による事故の発生状況
平成13年に発生した海中転落者数は、小
図1
前後の方が死亡・行方不明となっています。
ライフジャケットの有効性
平成8年から平成12年までの調査では、
着用・未着用による生存率は、未着用者19
%、着用者77%となっています。
(図2)
また、平成13年における海中転落した乗
小型漁船・プレジャーボート等の海中転落と死亡・行方不明者状況
海と安全 2002・秋・冬号
2
5
船者の場合、小型漁船が、着用者4人、未
着用者102人、プレジャーボート等は、着用
者8人、未着用者50人であり、これらの着
用率を見ると、小型漁船4%、プレジャー
ボート等14%と非常に低い結果となってい
ます。
最近発生した事例(事例!、")を見て
もライフジャケット着用の有効性は明らか
です。死亡・行方不明者数を減少させるた
め、海上保安庁では平成17年度までに着用
率50%以上の達成を目指しています。
海中転落に備えて
海中転落した場合には、まず、海上に浮
いていることが重要であり、ライフジャケ
ットを着用しておけば簡単に浮くことがで
き、転落によるパニックや、体力の消耗を
図2
防ぐこともできます。
また、救助機関へ速やかに通報し、迅速
かまっていた1人のみが救助され、未着用
な救助活動につなげるためには、通信手段
者7人全員が死亡した。
を確保しておくことも重要です。
"
このことから海上保安庁では「大切な命
平成13年11月、遊漁を行っていたプレ
ジャーボートが浸水転覆し4人が海に投げ
を自分で守るために」をテーマに
出されたが、全員ライフジャケットを着用
!
ライフジャケットの着用
しており、かつ、乗組員が防水携帯電話を
"
携帯電話の携行(防水パックの利用)
所持していたことから、この電話で救助機
# 118番の有効活用
関に通報し、当庁巡視艇に全員無事救助さ
の3つを基本とする自己救命策確保キャン
れた。
ペーンをマリンレジャー安全推進旬間や海
難防止強調運動等あらゆる機会をとらえ積
極的に展開しています。
事例
!
遊漁船が磯波を受けて転覆、乗組員全
員が海に投げ出され、ライフジャケットを
着用していた2人とクーラーボックスにつ
2
6
海と安全 2002・秋・冬号
水救会の救助実績
民間ボランティア団体としての活動
(社)日本水難救済会第二事業部
(社)
日本水難救済会は、海や海浜で遭難
140カ所、救難所
救済所(支所を含む)も1,
した人や船などの救助を行う唯一の全国的
員は5万1千人を優に超える組織となりま
な民間ボランティア団体として活動してお
した。
り、また、近年のマリンレジャーへの関心
過去3年間の救助実績を見ますと、海難
の高まりに伴う、沿岸海域におけるプレジ
出動件数は、11年398件、12年391件に比べ、
ャーボート等の海難の多発傾向に対しても、
平成13年は467件と急増しております。
迅速に対処できるよう救難体制の整備に努
示しましたが、13年になって、プレジャー
めてきました。
平成9年から始めた地方組織の整備拡充
によって平成13年2月にはすべての臨海都
道府県に各水難救済会が設置され、現在、
プレジャーボート
(平成9年、同1
3年の比較)
区分
プレジャー 出動件数
ボート(隻) (件)
9
救助人員
(名)
ボートの救助人数、出動件数とも漁船のそ
れを上回っています。
以下、地方水難救済会が取り扱ったプレ
ジャーボート海難のうち、特に困難な救助
救助実績比較表
年
平成9年と平成13年を比較したものを表
活動を伴ったケースについて紹介します。
事例1
1
3
7
(3
8
0)
4
3
(1
0
9)
5
1
(1
4
2)
1
3
2
5
9
(4
3
0)
1
1
8
(2
2
8)
1
4
3
(3
0
0)
のためボードは流され、本人はノリ養殖筏
増 減
1
2
2
8
9%増
7
5
1
7
4%増
9
2
1
8
0%増
帰りを案じていた友人が警察、保安庁を
平成11年10月9日午後、東京湾富津沖で
サーフィンをしていた男性一人が転覆、風
につかまり救助を待っていた。
経て富津救難所に救助を依頼してきた。
漁
船
区分
(平成9年、同1
3年の比較)
救助人員
(名)
漁
船
(隻)
出動件数
(件)
9
1
0
4
(3
8
0)
6
2
(1
0
9)
8
4
(1
4
2)
1
3
1
2
2
(4
3
0)
9
6
(2
2
8)
1
3
3
(3
0
0)
年
所長は、捜索が夜間となり、狭隘な水路
を航行しつつ現場に行くことから、水路に
熟知した救助員を選抜、救助器材の中でも
(
)内は全体数
投光器の準備を万全にして、そのため、現
場までは最短距離で到着、午後6時になっ
て、夜間、潮流の早い悪条件の中、救助員
が一致協力して救助した。
海と安全 2002・秋・冬号
2
7
事例2
平成12年9月24日正午、息子一人と父親
は、自己のプレジャーボートで遊漁にでた
が、磯場に近づきすぎたため、座礁した。
その後、徐々に浸水し、さらに波の打ち込
みがあって転覆した。
両人は、船につかまり、救助を待ってい
たところ、午後4時20分ごろ、白浜救難支
所(和歌山県)の救助員が乗船中の救助船
参考写真
(救助員所有漁船)がこれを発見二人を救
り、足船のプレジャーボートが砂浜に乗り
助した。
上げ、帰還不能となった。
現場は、暗礁が多く、磯波もあり地形を
美浜救難所では、暗闇と高い風浪という
熟知していなければ、早急な救助は困難だ
悪条件にもかかわらず、ウエットスーツを
ったろうと思われる。
着用した救助員がサポートしつつ、ゴムボ
ートを救助艇と海岸との間を数回往復させ、
(一人は保
1週間を要して14人を救助した。
事例3
平成13年8月17日午後5時過ぎ、3歳児
を含む海水浴客15人が美浜町(福井県)の
断崖下の海岸で海水浴中、風浪が激しくな
安庁ヘリが吊り上げ救助。)
なお、本件は、初の当会名誉総裁高円宮
殿下表彰の栄に浴した。
く,船舶所有者、傭船社、保険会社等の方
新刊紹介
々も参照できるようにまとめたものである。
船舶衝突の裁決例と解説
海事補佐人・弁護士
小川洋一編著
執筆には、小川総合法律事務所の弁護士
2人、海事補佐人3人、元保険関係者の計
6人があたり、内容に信頼と深みを与えて
いる。
船舶が衝突する状況はさまざまであり、
A5判、472ページ、定価6720円(税込み)
法令条文の適用が困難なものも多い。しか
発送費430円、発行所:!成山堂書店
し、そもそも「航法」は「航行船が停泊船
Tel 03!3357!5861 Fax 03!3357!5867
を避け、停泊船は灯火を掲げる」というよ
本書は、海上交通三法(海上衝突予防法、
うな、単純な習慣から始まっており、現在
海上交通安全法、港則法)に関する海難審
でもこの概念を表す規定として「船員の常
判の指導的裁決例を整理して、図と解説を
務:Good Seamanship」がある。本書は、
加え、船舶の運航に携わる実務者だけでな
この「船員の常務」に重点をおいている。
2
8
海と安全 2002・秋・冬号
改正に対する現場の意見
小型船舶の安全強化のための小型船舶操縦士制度の見直しおよび小型船舶安全規則
の改正を、現場関係者はどう受けとめているのだろうか。
とりわけ、救命胴衣に関わる安全規則の改正については、改正前から関心の大きい
問題であった。
相変わらず死亡・行方不明者の多い小型漁船の関係者の中から、漁業協同組合の役
員や漁業者、地方の漁船海難防止協議会役員、また、海難事故ワーストワンの続くプ
レジャーボート関係者の中から、小型船安全協会の役員、マリーナの関係者等からそ
れぞれ率直な感想を聞いた。
また、これまでの安全対策の取組みや事故例についても述べてもらった。
今回の改正には、概ね賛同が得られたと思うが、個々人が「自分の命は自分で守る」
という意識の有無が「年間200人以下」という目標達成の成否のカギを握るといえよう。
関係者のこれまで以上の啓発活動と海に働き・海を楽しむ者の自覚の高揚に期待し
たい。
関西ヨットクラブの
現場の声
日本海難防止協会
(関西ヨットクラブの概要)
関西ヨットクラブは、神戸明石大震災後、
新西宮ヨットハーバー
(明石海峡の事故のこと)
西宮市に完成した埋立地の一角に完成した
平成12年7月、当クラブに近い播磨マリ
新西宮ヨットハーバー内にある。会員は、
ーナの親子4人乗りのモーターボートが明
ヨット、モーターボート合わせて220隻、関
石海峡で親子3人が落水・死亡するという
西で最大規模の近代的な施設である。
事故が話題になった。あの事故で残念だっ
(最近の事故)
たのは、地元の安全指導員が亡くなったお
関西ヨットクラブの所在する新西宮ヨッ
父さんに口を酸っぱくして「子供にはライ
トハーバー内で、今年の「海の日」に落水
フジャケットを着けるように」と何度も言
事故があり、ベテランヨットマンの野本謙
ったが、聞き入れなかったことだ。亡くな
作氏(77歳)が死亡した。
った男の子はバウ(舳先)が好きで、バウ
この日、子供達を乗せる「海の日」のイ
にいることが多かっただけに、ライフジャ
ベントが無事終了、フリーになった野本氏
ケットを着けさせていたらと悔やまれる。
は、18時過ぎ、自分のヨットで独航するた
(これまでの救命衣着用の状況)
め桟橋に行ったが、ヨットの舫が何かの理
ヨットレースでは、運営者が波高などで
由で外れており、ヨットは桟橋から少し離
判断して着用させている。レース以外では、
れていた。野本さんは「自分のことは自分
個人の判断になるのでさまざまである。
でする」という哲学をお持ちの方だったの
(法改正に対する意見)
で、泳いでヨットに乗るべく飛び込んだが、
○ライフジャケットの子供への着用義務化、
そのまま水没、20時ごろになって、8!の
輻輳海域での有資格者の操縦、酒飲み操縦
海底から収容されたが、すでに帰らぬ人と
の禁止など、今回の法改正はよいのではな
なっていた。そういう状況なので、救命衣
いか。
は着けていなかった。
○今回の法改正によって、安全が強化され、
野本氏は、大阪大学の名誉教授で、流体
事故の減少につながると思うが、それに追
力学の権威として知られ、とくに、第1回
随して、保険料が下がらないとおかしい。
アメリカズカップの日本艇のチーフデザイ
(その他)
ナーとして有名、ヨット界の功労者だった。
○平成14年10月14日、神戸海上保安部長か
また、自身もシングルハンドで乗っていた
ら「ライフジャケット着用モデルマリーナ」
ベテランヨットマンだった。
に認定された。
3
0
海と安全 2002・秋・冬号
備え付けのものは成人用の救命胴衣で、使
救命胴衣の見直しと
法改正
よしかわ
吉川
救命胴衣の技術基準の改正は、遅すぎた
感はあるが、!浮力補助具の使用が認めら
社団法人関西小型船安全協会
副会長
用できないのが通例であった。
みつよし
師義
プレジャーボートの海難事故防止と健全
な海事思想の普及を目的に、ボランティア
れた。"小児用救命胴衣の種類の拡充と常
時着用が義務化された。#救命胴衣の色の
制限を撤廃された。等が見直しされたこと
は大いに歓迎したい。
活動を展開して、はや20数年が経過した。
また、プレジャーボートの海難事故の多
当時、マリンレジャーは、ごく一部の裕
発に対応するために、船舶職員法が改正さ
福な人たちの間で楽しまれ、一般大衆には
れた。小型船舶操縦士免許を取得するため
無縁な存在で、それなりにマナーとルール
に必要な知識とされた科目には、プレジャ
が維持されていて、海難事故も現在のよう
ーボートや小型漁船等に、必要だとは考え
に深刻なものではなかった。
られない大型船に関する内容が多く見受け
その後、国民生活の向上と余暇の増加に
られた。教習に従事する関係者も、大型船
より、マリンレジャーはより大衆化され、
出身者が多く、小型船に対する経験不足も
国民生活の一部となるにつれ、プレジャー
反省すべき点であると思われる。船舶職員
ボートの在籍数も飛躍的に増加した。それ
法が改正され、船舶職員と、プレジャーボ
にともなって海難事故も増加をし始めた。
ートや漁船の小型船舶操縦者に資格体系が
マリンレジャーの大衆化は、シーマンシッ
分離されて、プレジャーボートの安全確保
プや自己責任をよりどころにしていた従来
のため、小型船舶操縦者には、より必要な
の法制度が適用しなくなってきたのである。
小型船舶に関する知識を習得させ、安全の
当協会は、海上安全指導員が、海上での
向上を図るための順守すべきルールが明確
安全パトロール、現場指導を通じ、プレジ
化されたことにより、プレジャーボートの
ャーボート愛好者に“救命胴衣の常時着用”
海難事故が、よりゼロに近づくことを期待
を指導してきた。プレジャーボートの運動
している。
性能と使用実態から見て、船内に定員数の
今改正では、上級免許を従来よりも取り
救命胴衣を備え置くだけでは、救命胴衣搭
やすくした「プロモーションシステム」が
載の目的が達せられないことは、過去の海
導入された。すでに取得している免許で、
難事例から明らかであったからである。
習得済の知識や能力(技能)を免除される
また、プレジャーボート愛好者からは
“救
昇進方式であるが、改正の目的が、小型船
命胴衣は定員数備えている”のだから、法
舶の安全の向上であるから、安全確保に関
は守っている、と逆襲されることが多々あ
する事項については、安易に簡素化するこ
った。せめて、小児、子供には救命胴衣を
となく、十分に目的を達成できる内容に考
着用させるように強く指導したとしても、
慮されることを、切に願うものである。
海と安全 2002・秋・冬号
3
1
普及と発展に寄与することを目的として設
小型船舶操縦者の
遵守事項について
長
くりやま
栗山
舶の安全な航行を確保するためにさまざま
な活動を続けています。
社団法人関東小型船安全協会
会
立された法人であり、永年にわたり小型船
たかひさ
昂久
船舶職員法の一部を改正する法律が平成
14年6月に公布(平成15年から施行予定)
当協会が開催する海上安全講習会では小
型船舶の安全教育、また、海上安全指導員
による海上安全パトロール・現場指導を実
施しています。
されました。
詳細は他に譲ることとして、
「小
しかし、当協会の会員以外の一般のプレ
型船舶操縦者の遵守事項」についてあらた
ジャーボートの利用者に対する教育・指導
めて取り上げてみます。
は徹底しているとはいえる状況ではないし、
小型船舶の安全な航行を確保するために
また、これらの方々はマナーやシーマンシ
小型船舶操縦者が当然のこととして遵守す
ップを学び身に付ける機会も少ないのが現
べきことについては、従来、規制も少なく
状ではないかと思います。
個人の自由にゆだねられている部分が多く、
はんちゅう
今後、新たに義務づけられた遵守事項の
マナーやシーマンシップの範 疇としてとら
周知、励行を図るための教育活動、安全活
えて指導・教育が行われてきました。
動をこれらの方々にまで広げていかねばな
今回の法律改正に伴い、
「小型船舶操縦者
らないと考えているところであります。
の遵守事項」が明確に定められ、安全を図
一方、国土交通省の海洋教育に関する検
るため守らなければならない責務が義務づ
討会議においても行政、海事団体などの関
けられました。
係者の連携協力のもと、青少年に対する海
小型船舶の海難の増加とともに、マナー
洋教育の充実を図る必要があるとの方向性
やシーマンシップを身に付けていない方々
が示され、当協会としても、現在、幼少期
が多いという実態からすればやむを得ない
からの海事思想の普及および安全思想の啓
ことでしょう。
発活動として取組んでいる児童とその父兄
義務づけられたことにより、事故の防止
に対する「海洋学習・体験乗船」および「海
や安全の向上を図るうえで一歩前進したと
に学ぶ集い」などの企画を増加させ、健全
考えている人もいるのではないでしょうか。
な海洋レクリエーションの振興をさらに進
私もその一人ではありますが、今後、これ
めるための活動に積極的に取りんでいくこ
らの遵守事項をどのように周知し、また、
ととしています。
理解していただけるかが課題であると思い
ます。
当協会としては、小型船舶に関する社会
的な動向に的確に対応してまいりますので、
当協会は、小型船舶の海難を防止すると
今後とも、国、地方自治体、海難防止団体
ともに、運航マナーの向上を図ることによ
および日本財団のご指導ご支援並びに海上
り安全で秩序ある海洋レクリエーションの
保安官の協力をお願いする次第です。
3
2
海と安全 2002・秋・冬号
下松漁協の現場の声
日本海難防止協会
(下松漁協の概要)
組合員125人、所属船220隻(3∼5$)
下松漁協の漁業者のみなさん
主な業種:底引き、釣り、小型定置網など
るための梯子については、市販のものがな
(下松漁協所属船の事故)
かったので、檜の材料を支給し、各人で工
○
4.
9トン、2人乗り)
底引き船
(FRP 製、
同士が操業中、A船の舳先がB船の右舷に
夫して作った。
(救命衣の着用の現状)
接触、A船のバルバスバウがB船の機関場
組合としては、いつも着けておくよう指
に突っ込み、B船が沈没した。幸い両船の4
導しているが、着けていないものが多い実
人には怪我はなかったが、B船は使用でき
態にある。着けていない場合でもいつでも
なくなった。海難審判の結果は勧告だった。
手に届くところに置いているようだが。
B船の反省点として、!漁獲物の選別作
(法改正に対する意見)
業中は、見張り不十分で操船不自由となる
車のシートベルトと同じことだと思う。
ので、いつもは黄色ランプを点けていたが、
一人乗りの漁船に救命衣の着用が義務づけ
このときは点けていなかった。"右舷側の
られたことはよかったと思う。また、法定
近くにA船を認めたが、当りはしないと思
品にこだわらず作業性のよい救命衣でもよ
って、艫を見ていた。#その日、乗せてい
くなったことは、現実的な判断だと評価し
た高校生の孫をびっくりさせてしまったの
たい。今後は、一人乗りに限らず、全員が
で、今後乗りたがらないかもしれない。
常時着用の努力をすることと自分の命は自
○
分で守ることを自覚することが肝心だ。
別のC船は霧で視界不良のため、位置
が分からなくなり、漂流。気がついたら、
(酒飲み操縦の禁止に関して)
向かいの九州だったということがあった。
○
これまでも、網を揚げ終わったときなど、
操業中に大型船やプレジャーボートが
やれやれ、チョット一服の感覚で、煙草の
すぐ近くを通り、危険を感じたことはよく
みが一服点けるようにお酒を飲んでいる。
ある。とくに、プレジャーボートのマナー
あくまでも仕事中なので、大酒を飲む人は
が悪い点を何とかしてほしい。
いないので問題はないと思うが。
(漁協の安全対策の主なもの)
(その他の意見)
事故の後、組合では、北海道の作業衣を
○
海技資格が簡単に取れることにも、小
参考にしながら、平成12年に、作業衣型と
型船の安全上問題があるのではないか。
ポーチ型のいずれかを各人に選んでもらい、
○
組合で購入して貸与した。また、船に上が
的なものとして定められないものか。
故障とか異変のあるときの合図を全国
海と安全 2002・秋・冬号
3
3
のように述べられています。
「命か救命胴衣かということになると単
救命胴衣改善への期待
純に救命胴衣とはならない。カッパは必需
品、さらに救命胴衣を着ると汗をかき、体
力を消耗するので常時着用というわけには
宮城県漁船海難防止協議会
事務局長
ふく だ
福田
やすのぶ
康信
いかない。乗っているだけではなく漁労作
業を行うのだから7∼8時間も着用するこ
とは体力的に無理と思う。涼しい季節でも
宮城県では漁業が大変盛んで、県の主要
産業の一つに位置づけられています。
2時間もすれば下着を着換えなくてはなら
ない。結局、波や作業の状況により着る着
しかし、漁業者数の減少と高齢化の進行
ないの判断をすることになる。息子が漁師
が課題となっており、後継者育成の面から
として働くようになれば2人で漁ができる
も、安全な漁業の確立が急務となっていま
が、自分が歳を重ねれば息子1人での漁と
す。宮城県の漁業者の多くは一人乗り等の
なる。それだけはさせたくない。」
小型漁船によっており、このため漁船から
本件の事例を踏まえ、本年3月全漁連の
転落して尊い命が失われる痛ましい事故が
調査に対し、
「現在の救命胴衣は漁労作業に
多く発生しています。特に一人乗り漁船に
負荷が大きいなど改善の余地があり、着用
焦点を絞りますと、平成12年以降の漁船海
を勧めるうえで遠慮がある。」と回答したば
難の状況は表のとおりです。
かりです。
ご覧のとおり何れも救命胴衣を着用して
いないのはどうしてでしょうか。
の必要性を訴えていますが、救命胴衣を着
13年9月救助された漁業者の手記には次
表
年 月
救命胴衣 年
着用状況 令
私共は海難防止講習会等で救命胴衣着用
けた漁業者になかなかお目にかかれないの
一人乗り漁船員の海中転落等の状況(平成12年∼1
4年)
状
況
生
還
死
亡
1
2.
2
な し
3
8 海中転落、僚船1
0分後引き揚げたが死亡
○
〃
な し
4
3 海中転落、
(旋回中の無人漁船発見により判明)
○
6
な し
6
5 海中転落、
(座礁している無人漁船の発見により判明)
○
7
な し
5
3 海中転落、
(無人の漁船発見、水を飲んでいないので、急病と推定される)
○
な し
6
8 脳内出血により意識不明、操船不能、漁船旋回、僚船救助、病院に搬送
〃
な し
7
4 岸壁から漁船に移乗する際誤って転落
○
1
3.
1
な し
6
4 離島のため、漁船を利用して年始挨拶の帰途船上で脳内出血
○
9
な し
4
8 うねりを軽視したため海中転落6時間後遊漁船が救助
1
0
な し
4
7 牡蠣水揚げ中海中転落、翌日水死体発見
1
4.
9
な し
6
1 1トン漁船転覆、船底上で救助を求めているところ警備艇が救助
1
2
3
4
海と安全 2002・秋・冬号
○
○
○
○
が浜の実態です。
なってもよいわけですから、いくつかの救
このたび小型船舶安全規則が改正され、
命胴衣を使い分けることになると思われま
救命胴衣の着用が義務付けされると聞いて
すので、我々としては漁業者が試着するな
おります。これによれば、漁船の運航実態
どにより最も自分にあるいは作業内容に適
(航行区域、天候、通信手段の有無、一人
した救命胴衣を選択できるよう、今後各種
乗りか否か等)に応じて、規格が緩和され
救命胴衣を取り揃えて、漁業者への着用推
た救命胴衣(端的な例として救命補助具な
進啓発を図っていきたいと考えています。
るものの導入がある。
)の着用が許されるい
わばソフト、ハード両面から実態に即した
対応をとるもので、漁労作業への負荷が大
幅に軽減されたものになると聞き、施行さ
れた暁には、人命の損失は飛躍的に減少す
るものと期待しています。
最近、この規則改正を見越して各種救命
胴衣が開発されつつあります。
運航実態に応じて着用する救命胴衣が異
日海防からのお知らせ
協力会員への加入ご希望の方は、当協会
総務部へご連絡下さい。
電話 03−3502−2231
協力会員入会のご案内
当協会は、海難防止と船舶等による海洋
汚染防止の周知宣伝および調査研究を事業
の柱として種々活動しています。
「海と安全」の季節表示について
「海と安全」の本号は、秋号として発行
する予定でしたが、下記の理由により、秋
近年、海洋の多面的な利用に対する国民
・冬号としました。従って、平成15年2月
の期待は一段と高まり、本協会の役割はま
に発行する「海と安全」は、春号となりま
すます重要となっています。
す。
このため当協会では、事業の一層の充実
従来のように、2月発行を冬号、5月春
と進展を図るため、協力会員制度を設けて
号、8月夏号、11月秋号では、それぞれの
います。
月の月末25日発行ということもあって、季
協力会員の対象は、本協会の事業を後援
節感にずれを感じるとの意見が多かったた
000
する団体または個人で、
会費は年間一口5,
め、2月春号、5月夏号、8月秋号、11月
円です。会員になられますと、情報誌「海
冬号というように、季節表示を改めること
と安全」を一口につき、年4回(季刊)お
としました。どうぞご了承下さい。
届けします。
海と安全 2002・秋・冬号
3
5
命の大切さ
あっての漁業
高知県下ノ加江漁業協同組合
参事
はまぶち
浜渕
ひさつぐ
久嗣
一人乗りで操業する5トン型かつお一本釣漁船
最近、海上での事故が頻繁に起こってい
と。#漁船の台張りに手摺を設けること。
るため、当組合では、船主と度重なる協議
$救命胴衣を着用すること。などを取り決
を行って、事故防止に努めています。
めました。$の救命胴衣については、市か
平成に入り3件の海中転落事故が発生し
ら助成を得ることもできました。
ました。2人は行方不明、1人は死亡で発
漁が続くと高齢化にある漁師にとっては
見されました。原因不明のこれら事故につ
体力の衰えということが避けられなくなり
いて検証しましたが、確たることは分かり
ます。そこで、少しでも労力軽減になるよ
ませんでした。ただ、いずれも天候不良が
うにと、漁港に自動計量システムを設備し、
原因とは考えられないのです。漁船には無
漁船のかめ(漁倉)のコンテナ化を推進し、
線が装備されており、僚友と漁模様を話し
水揚げ時の合理化を図りました。
ながら操業を行いますが、近年無線に出な
これらの取り組みにより、幸いその後の
い者が増え、このことも安全面、操業面に
海中転落事故はありません。安全意識を一
影響があるものと考えられます。
層高め、体調を維持することによって海難
組合では、連絡が取れなかったり、他地
が防げるものと思います。魚価の安定、漁
区の漁船からおかしい旨の連絡があったり、
家安定はもちろん、命の大切さを一番に考
1隻だけ帰って来なかったり等々、操業中
えなければならないと思います。
の異常を確認しますと、沖合船主会と連絡
今回の安全規則改正により、平成15年6
し、捜索を開始します。たとえ漁があって
月から「一人乗り漁船の救命胴衣着用の義
も、操業は中止して船主会長の指示のもと、
務化」が施行されるとのことですが、法制
その日の最大限まで捜索を行います。帰港
化に先駆けて、当組合が自主的に救命胴衣
後、今後の捜索対策を協議し、5日間ほど
の常時着用運動に取組んできたことを誇り
捜索に従事します。もちろん海上保安署と
に思います。そして、全国の一人乗り漁船
も連携し、近隣組合にも協力していただき、
の海中転落による死亡者や行方不明者の減
互助精神の同等な立場で理解を深めての捜
少につながることと確信し、評価するもの
索活動となっています。
です。
私たちは、どうすればこのような事故を
命を大切にする施策が、高齢化と後継者
防げるか協議し、!連絡(無線)を取り合
不足に悩む漁業界の打開に貢献することで
うこと。"体調の悪い日の操業を避けるこ
しょう。
3
6
海と安全 2002・秋・冬号
改正に関与した方々の所感
今回の小型船舶の安全強化のための法改正を前に、国土交通省では、
「プレジャーボ
ート利用改善に向けた総合施策に関する懇談会」の下に「小型船舶操縦士制度等検討
小委員会」を設け、また、
「小型船舶用救命胴衣の常時着用化に関する評価委員会」
、
引
き続き「ライフジャケット着用推進会議」を設け、協議を重ねた。
これらの委員会や会議には、学識経験者、海事関係者(プレジャ−ボート、漁船、
遊漁船など)を中心に幅広い関係者が熱心に、使命感をもって議論に参加されたが、
その中から6人の方々に、改正に関する所感を求めた。
苦労話、満足感、やり残し感等、さまざまの感想が述べられているが、共通してこ
れからの改正点の啓もうと実践の重要性を訴えている。
明石海峡で起きたプレジャーボートの親子三人死亡事故から3年、ようやくライフ
ジャケット常時着用に向けて動きだした。
全漁連の宮原常務理事が「今回の改正は、新たなスタート」と述べられているのが、
全体を象徴しているように思う。
航行、高齢者の安全操業対策および着やす
救命衣着用義務化へ
大きな前進
北海道大学大学院水産科学研究科
教授
あま が
い
天下井
きよし
清
い救命衣の改良開発についての検討を行う
ため、北海道の補助を得て調査研究事業を
立ち上げ、また、全道を歩き、実態を把握
すればするほど漁業者が無防備であること
を知り、翌平成5年度と6年度にわたり日
本財団の助成金を得て「小型漁船用常時着
用型安全衣基準の調査研究」を企画したの
はじめに
が牧野専務である。
私はそれらの事業に参加する中で、
「漁業
近年の漁船および遊漁船、プレジャーボ
経営の根幹は安全操業にある」という牧野
ートによる海難事故の多発、増加に伴う死
専務に共鳴した。なぜなら私も「漁業と安
亡・行方不明者数の大幅減少のための抜本
全は一対」という考えに至り、漁業安全に
的措置として、このたび、小型船舶安全規
関する学問分野を確立したいと考えていた
則にかかわる省令改正によって、小型船舶
からである。
85!の小型船舶
用救命胴衣に替って浮力5.
用浮力補助具が新たに認められた。
漁業者の生命を守り、漁業の振興を願っ
そして2年度にわたって取組んだ結果、
軽量で作業性の良い、常時着用できる救命
のための安全衣が開発できた。
て活動してきた一人として誠に感慨深い。
5!にすること
安全衣基準の中で浮力を6.
11)等で紹介した、北海道
本誌511号(01.
については、委員の間で最後まで意見の一
5!)の
における常時着用型安全衣(浮力6.
致を見なかった。しかし、着られない救命
開発と啓発普及の地道な取組みが認知され
衣より「みんなが着られる安全衣」という
たんだ、といううれしさが込み上げてくる。
ことで、呼吸可能な姿勢で浮遊できる浮力
そして、ここに至る十数年を回顧し記録に
0!で十分浮遊でき
の検証に重点を置き、6.
とどめたい。
ることを確認した。一方、メーカー側から、
牧野専務理事のこと
昭和49年に社団法人北海道漁船海難防止
センター(現北海道漁船海難防止・水難救
独立発泡方式で浮力材を製作する技術とし
0!とい
てバラツキがあるので、最小浮力6.
5!としてはどうかとの提
うのならこれを6.
案があり、この意見をとり入れた。
済センター、以下センター)が誕生し、漁
最終報告書をまとめるまでに、当時の運
船の海難防止活動の柱として、昭和56年か
輸省(現国土交通省)海上技術安全局、日
らオレンジベスト運動(救命衣を着よう運
本財団からなぜ型式承認外救命衣なのかと
動)に取組まれてまもなくの昭和58年に、
いうことで説明を求められ、牧野専務と二
センターの専務理事として牧野英一さんが
人で上京したことを昨日のように思い起こ
就任した。そして平成4年度、漁船の安全
す。牧野専務は額に汗を流し、全ては漁業
3
8
海と安全 2002・秋・冬号
者の生命を守るためと頑張られた。
南部社長のこと
平成4年10月16日、日本船具株式会社の
三谷さんは平成12年8月に作られた「小
型船舶用救命胴衣の常時着用化に関する評
価検討会」の担当者でもあり、
「海難による
死亡・行方不明者を減少させるには、まず、
南部一彦社長とは、センターで当時の牧野
救命衣着用であり、その次は浮沈船である」
専務に引き合わされたのが始まりであった。
というアイデアと意欲の持ち主と知り、安
社長は前年11月、北海道阿寒町に3番目の
全衣基準についての資料を差し上げたとこ
工場を新設し、根室海上保安部警備救難課
ろ、検討会に披露するということになり、
長から、道内の漁業者の海中転落事故が多
第3回評価検討会から、私も参加すること
いこと、その対策としての救命胴衣の改善
となった。その平成13年3月の提言によっ
が急務である旨の話を聞き、ご自身で道東、
て省令改正のレールを敷いたのが三谷室長
道北の浜をまわって実態を見聞し、常時着
である。
用できる救命胴衣の必要性を痛感し、開発
に取組んでいた。
同検討会には、北海道海難防止・水難救
済センターの佐久間猛専務理事、今回の技
南部社長がヨットマンであったためか、
術基準の責任者であるぎ装研の板垣恒男主
ヨット協会で制定し使用していた浮力5∼
任研究員、オブザーバー参加した東洋物産
6!の無検定の救命衣と同様の発想から、
株式会社高田義則マリン部長、そして私の
5!前後の製品「ウクンダ」を開発し、
浮力6.
計4人の北海道における安全衣開発に携わ
その普及に打ち込んでいたときで、社長は
った人たちが奇しくも集まったのである。
「漁業者に救命衣を着用させたい」と、熱
私の話は、救命衣を必要と考え着用させ
い口調で語った。私たちは意気投合し、科
たいと考える多くの関係者、団体等の多様
学的な根拠に基づく、着やすい常時着用型
な動きの一断片であるが、ともかくこの省
の安全衣の開発を誓ったのであった。当然、
令改正が、海に生活する漁業者や、マリン
南部社長も安全衣開発の委員となった。
レジャーで海を楽しむ人々の生命を支える
しかし、平成6年、空気密封式浮力体の
一歩となることを喜びたい。
開発に成功するや浮力の基準緩和に消極的
になったのは残念であったが、忘れられな
い人である。
三谷安全評価室長のこと
平成12年9月11日、底引網漁船「第五龍
寶丸」の転覆事故を受け発足した事故再発
防止検討会の一員として参加し、海事局
(当
時海上技術安全局)安全評価室長であった
三谷泰久さんと知り合った。
利尻島での常時着用型安全衣の普及講習会
海と安全 2002・秋・冬号
3
9
ート調査や現地でのヒアリング、各種パン
小型漁船安全対策
!急展開の経緯
北海道大学大学院水産科学研究所
助教授
みやざわ
宮澤
はるひこ
晴彦
フレットの作成等々が行われ、現場での「運
動化」を喚起するために、さまざまな知恵
と努力が積み重ねられた。その結果、少な
からぬ地区で安全対策の創意的な取り組み
が生まれ、またそれが全国的な教訓として
示されていったと思う。とかく陰に隠れが
ちで、系統的に調査されることも少なかっ
はじめに
水産庁の漁業就業者確保育成事業の一環
た安全対策の地域的取り組みが多数掘り起
こされ、光を浴び、各地区の取り組みを刺
激することとなったのである。
として、我々が沿岸・小型漁船の安全対策
そもそも安全対策は水揚げの増加につな
に取り組み始めてから既に足かけ8年にな
がるものではないことから、自発的・積極
る。ここでは、委員会の座長としてこの事
的取り組みが起こりにくい。そのため、継
業に関わってきた立場から、取り組みの経
続的で地道な働きかけ=運動作りの取り組
過について簡単に紹介しておく。また、委
みが欠かせないのだが、その点で我々の活
員会の中心的テーマであった救命衣着用推
動は決して小さくない意味を持っていたと
進の課題において、事態の急展開・前進が
思う。
みられたことの経緯について、私的感想を
交えて述べてみようと思う。
運動作りの流れ
遅々たる歩み
しかしながら、小型漁船の海難・労災事
故による年間死亡者数は、
この間も110∼120
さて、当初我々は安全対策について漁業
人という高い水準で推移していた。特に、
者一人一人に対する意識啓発が大切と考え、
救命衣の着用率は、安全対策の取り組みが
漁業者向けパンフレットを20万部以上作成
強められていたにもかかわらず、一部の先
し、全国の漁協に配布するなどの活動を行
進的な地区を除いて低いままだったと思わ
った。しかし、文書を配布するだけではや
れる。海中転落や転覆、衝突によって海に
はり効果が上がらない。せっかくのパンフ
投げ出されて死亡に至るケースが多いだけ
レットも、漁協の事務所に積まれたままと
に、救命衣さえ着用していれば救助される
いう状態すらみられた。そこで、2年目以
確率は格段に高まったはずである。そう思
降、我々は安全対策の「下からの運動化」
うと、率直に言って現実の動きの鈍さに対
を図ることに注力した。
して、やり場のない苛立ちすら感じていた。
その中で、全国会議での経験交流、指導
委員会では、
「やはり救命胴衣の浮力要件
者のための「手引き」作成、安全対策活動
緩和と着用義務化が必須ではないか。」との
の先進事例掘り起こし、そのためのアンケ
意見が大勢を占めていった。私が本誌490号
4
0
海と安全 2002・秋・冬号
(99.
11)に「救命衣着用問題を考える−陸
と海の対称性について−」という一文を寄
せたのも、まさにこうした“こう着状態”
にもがいていた時期だったと思う。
事態の急展開
この本誌490号に寄せた一文というのは、
正念場はこれから
やや手前味噌な駄文を弄した気がするが、
このような経緯を述べた意図については付
言しておきたい。確かに事態は急展開した
が、それまでには長い道のりがあり、それ
だけに運動の積み重ねとさまざまな知見の
自動車のチャイルドシート着用義務化が迅
蓄積があったということ。また、積年の思
速な流れで実現したのに対して、救命衣に
いを込めた関係者全員の熱意が、事態の急
関する義務化・法制化を含めた検討が全く
展開をもたらしたということ。つまり、情
立ち後れていることを告発したものだった
緒的かもしれないが、やはり関係者の粘り
のであるが、私自身は、当局たる当時の運
強く地道で熱心な努力があってこそ制度化
輸省がこの告発に対して直ちに反応してく
の道が開けたということを強調したかった
るとは思ってもみなかった。正直なところ、
のである。
既に行政に対する期待は全く薄れていたの
である。
ところが、その号が発行されるやいなや、
無論このような取り組みの姿勢はこれか
らも重要であろう。救命衣に関する新制度
の樹立は、単に器を作り替えたに過ぎない。
運輸省の方が私の所に駆け込んできた。実
それが実効をあげ、事故死者数の大幅な減
を言うとその時、私は「勇み足の告発」に
少につながるかどうかは、これからの運動
対するお叱りを受けるものと身構えていた
如何による。
「下からの運動化」を強め、支
のだが、運輸省の方々は全く予想外の対応
援し、新たな器が飾り物のガラスの器にな
をされた。つまり、
「漁船の安全対策につい
らないよう、これまでの取り組みをさらに
ては、先生の言われる通り我々の対応が不
発展させていくことが求められている。
十分であった。ついては、救命衣の問題に
ついて抜本的な検討を開始したい。是非協
力して欲しい。
」
というのである。もちろん
私はこれに同意した。この瞬間、内心、胸
の高鳴る思いがしたのを今でも思い出す。
事態が急展開したのはそれからである。
紆余曲折を経ながらも、検討は急ピッチで
進んだ。そして、ここで詳細を説明する余
裕はないが、救命衣の浮力基準緩和や1人
乗り漁船の着用義務化がついに実現したの
である。
海と安全 2002・秋・冬号
4
1
を進めなければならないことなどの事情か
新たなスタート
ら、着用の動きは自発的な運動として各地
で広がっていきました。東北・北海道のみ
ならず、瀬戸内海や日本海側でも徐々に普
全国漁業協同組合連合会
常務理事
みやはら
宮原
くにゆき
邦之
及活動が進められるようになりました。
しかし、ご承知のとおり各地において、
このたび、国土交通省、日本海難防止協
救命胴衣に対して、作業性が悪い、通気性
会はじめご関係の皆様のご努力により、技
が悪い、かっこ悪いなどの不満があり、普
術基準が改正され、従来漁業で使用してい
及運動にとっての壁になっておりました。
た安全衣・救命衣が補助具として法的に認
次第に、系統内の関係者からも自動車の
められたことをありがたく思っています。
シートベルトのように着用の義務化が必要
安全規則の改正は、小型漁船の漁業者に
ではないのかとの声が上がるようになりま
とってありがた迷惑であったという歴史が
した。JF 全漁連もそういう方向で考えてい
あります。漁船にも法定備品を持たせると
ましたので、各漁協にアンケートを行った
いう大きな流れがありましたが、当時は、
ところ、肯定的な意見が圧倒的だというこ
漁業者は青壮年が多いということもあって、
とが分かりました。
自分の命は自分で守る、自分は大丈夫だと
こうした背景を受けまして、JF 全漁連で
いう安全神話のようなものが大勢を占めて
は6年前から東水大の宮澤先生(現・北大)
いて、法による強制には反対でした。
を座長とする安全指導委員会を設置し、日
30年が経った今日、当時安全神話を信じ
本海難防止協会・北海道漁船海難防止セン
ていた人々も年老いて、はたして自分の身
ターはじめ関係者にも参加していただき、
は自分で守れるのかという時代に変わって
安全対策推進をはかっておりました。
しまいました。そのようなことを踏まえ、
平成11年に発生した明石海峡でのプレジ
JF 全漁連では、沿岸漁業のさまざまな安全
ャーボートの親子三人の死亡事故がきっか
対策を展開してきました。
けとなって、当時の運輸省安全室の三谷室
海水温の低い北の海では、落水事故が即
長に検討会を立ち上げていただき、安全指
生命の危機に直結することから、東北・北
導委員会の委員も多数参画して、学者・行
海道で、救命衣の普及啓発活動が進められ
政・系統が一体となって使命感に燃えた熱
てきました。また、JF 全漁連では、このよ
心な討議をしたことが、今回の改正につな
うな運動が全国でどのように展開されてい
がってきたのです。
るのかを調査し、事例紹介を行いました。
今回の改正は、新たなスタートなのです。
やがて、自分の命を守るということだだけ
どの浜でも救命衣を着用した楽しい漁業活
でなく、遭難すれば捜索活動で休漁するな
動にしてほしいものです。子供たちの描く
ど他人に大きな迷惑をかけること、新規就
絵には、
「漁業者は必ず救命衣を着けている」
業者を確保するためにも安全な環境づくり
となるようにしたいものです。
4
2
海と安全 2002・秋・冬号
救命衣は
海のユニフォーム
社団法人北海道漁船海難防止
さ
く
ま
85!以上(7.
5!未満)の
います。また、5.
浮力のある救命衣については、小型船舶用
浮力補助具として新たに認められました。
私どものセンターが、平成5∼6年に開
・水難救済センター専務理事
佐久間
気性などに配慮し着心地の良さを追及して
たけし
猛
『人の命は地球より重い』と言います。
この世の中で一番大切なものは、何よりも
人命であることは間違いありません。
5!の「小
発し普及に力を注いできた浮力6.
型漁船常時着用型安全衣」が、名実ともに
認められることになり、関係者の一人とし
て喜んでいます。
今般の改正は画期的なものであり、ご尽
海で働く者やマリンスポーツを楽しむ人
力されました、国をはじめ有識者やメーカ
たちの命を守るのが、救命衣(救命胴衣、
ーなど関係の皆さまに敬意を表する次第で
安全衣、ライフジャケットなど)であり、
す。しかし、いくら立派な救命衣が開発さ
海のユニフォームであると思っています。
れても、着用されなければ何もなりません。
海で活動する者なら誰でも、救命衣着用
来年6月から、一人乗り漁船や水上オー
の必要性を認めていますが、
「自分に限って
トバイなどにも、着用を義務付ける法規制
事故なんかない」とか「着用すると動きづ
が整備されると聞いていますが、この機会
らい」などの理由で、あまり着用されてこ
に着用率100%を目指して、関係者が一丸と
なかったのが実状だと思います。
なって啓発普及等について、頑張らなけれ
平成14年9月14日、サロマ湖の沖合で、
遊漁船が転覆し、3人が救助されましたが、
ば真の成果は上がらないと思います。
当センターは、今般の改正により救命衣
7人が死亡・行方不明になる海難事故が発
の基準緩和という大変強い味方を得ました
生しました。救命衣を着用していたのは10
ので、昭和56年から実施している、オレン
人中2人であり、2人とも救助されていま
ジベストの常時着用運動の先進地として、
す。救命衣さえ着ていれば全員助かったと
恥ずかしくないように、これからも、海難
思われるだけに、誠に残念でなりません。
防止パレードや講習会などあらゆる機会を
このように、近年減少傾向にあるとはい
通じて、救命衣の常時着用を関係者に訴え
え、人命に係る海難事故が、依然として跡
を絶つことなく発生しています。
て行きたいと思っています。
私は、漁業をはじめ海で活動する者の基
特に、一人乗り漁船やプレジャーボート
本は安全から始まると思います。安全のな
など小型船舶に多いことから、着用率を高
いところに漁業もマリンレジャーもないと
め海での犠牲者を減らすために、このたび
思います。このたびの改正により、海難に
の法改正による救命衣に関する見直し等の
よる犠牲者が激減するとともに、水産業を
措置が図られたものと思います。したがっ
はじめ海上交通の発展に大きく寄与するこ
て、救命衣は従来よりも軽量で作業性、通
とを心から念願しています。
海と安全 2002・秋・冬号
4
3
が当たった衝撃で艇が一瞬急激に傾き、ホ
小型船舶交通安全法
の制定を
されたという。予期しない瞬時の出来事で
あった。
*
日本海難防止協会
前専務理事
イールの上を飛び越すように海中に投げ出
にしやま
西山
とものり
知範
ヨット「たか」号(7人乗り組み)海難
は佐野三治氏が著書「たった一人の生還」
に書いている。1991年12月開催のグアムレ
*
また小型船舶海難による大量死亡事故
ースにおいて、25メートルを超える暴風の
が発生した。去る3連休初日の9月14日、
ため、セールがズタズタに裂け本艇で漂流
10人乗り組みの遊漁船がオホーツク海に接
中、大きな波を受けて転覆、6人が救命筏
するサロマ湖口で転覆し7人が死亡した。
に乗り移り27日間に及ぶ漂流の末、翌92年
救命胴衣を着用していた2人とクーラー
1月25日奇跡的に佐野氏一人が生き残り救
ボックスにつかまって浮いていた1人は助
かったが、救命胴衣を着けていなかった7
人は全員亡くなった。
助されたものである。
グアムレースで搭載が義務付けられた
EPIRB(非常用位置指示無線標識)は点検
救助された乗船者の両親が新聞記者の取
・確認を行わず、納入時のままとなってい
材に対し、
「息子はいつも『金槌だから救命
た。
「本体とバッテリーを接続するコネクタ
胴衣は欠かせない』と言っていたと語って
ーが、つながっていなかったことに気付か
いる。救命胴衣の着用の有無が生死の運命
なかった。」と述懐している。レースに備え
を分けた。
本艇は上架陸揚げして船底をペーパーでピ
カピカに磨き上げるほど、入念に整備して
*
次にベテランセーラーの話。日本で最
いたけれども、救命機器については発航前
も著名なヨットマン、故南波誠氏(ヨット
の検査を実施していなかった。EPIRB が作
レースの最高峰であるアメリカズカップで
動していれば早期に発見救助されたであろ
キャプテンを務めるほか、講演、テレビな
う。
どで多彩な活動を行っていた)が、SAIL
OSAKA '97のレースにおいて「三角波」状
の波が泡立つ暴風下、落水し行方不明とな
った。
ハーネス(救命胴衣兼用)装着の必要性
を感じて、経験の浅いクルーにはハーネス
を付けるよう指示していたにもかかわらず、
本人は装着していなかった。
当時のクルーの話によると、大きな横波
4
4
海と安全 2002・秋・冬号
H1
4・2月 大型貨物船と衝突、大破した漁船(銚子港)
このように小型船舶においては、さ細な
船舶海難による死亡・行方不明者は依然と
不注意が原因でかけがえのない多くの人命
して後を絶たない。小型船舶の海難を論ず
を亡くすという悲劇が発生している。
るとき、よくマナーやモラルが問題視され
るが大型船に比し社会的影響が小さい故を
*
今般「小型船舶安全規則」が改正され
持ってわい小化してきたと思われる。
た。小型船舶用救命胴衣の技術基準が見直
小型船舶海難の死亡・行方不明者を減少
され小児用が設定されるとともに「小型船
させるための抜本的措置を講ずるに当たっ
舶用浮力補助具」が新しく導入されること
ては、自己責任には限界があるということ
となった。今後、常時着用に適したより着
から、救命胴衣着用等の安全対策が検討さ
心地の良い救命衣が普及することにより小
れたと理解している。
「船舶職員法」が免許
型船舶海難による死亡行方不明者が大幅に
制度の見直しに合わせ改正されることとな
減少することが期待される。
り、名称を変え「船舶職員及び小型船舶操
そのためには、まず第一に着用措置の励
縦者法」となった。
行を図る必要がある。着用措置に関しては
そして同法に上記救命胴衣にかかる規定
新たに「船舶職員及び小型船舶操縦者法」
の外、飲酒・薬物使用制限、出入港・狭水
第23条の30(小型船舶操縦者の遵守事項)
路航行時の自らの操縦、発航前の検査、適
に『小型船舶操縦者は、小型船舶に乗船し
切な見張りの実施、その他の小型船舶の航
ている者が船外に転落するおそれがある場
行の安全を図るために必要な措置が定めら
合として国土交通省令で定める場合には、
れた。これらの条項は小型船舶操縦者が当
船外への転落に備えるためにその者に救命
然航行の安全を図るために遵守しなければ
胴衣を着用させることその他の国土交通省
ならない基本的責務を定めたものである。
令に定める必要な措置を講じなければなら
個別法として、小型船舶に関する交通安
ない』と規定された。
『省令で定める場合』
全法の制定が望まれる。
の省令に定める必要な措置とは、どのよう
な事態を想定しているのか。その実効を担
保するためには、小型船舶操縦者の客観的
判断基準を設定することが必要であろう。
*
大型船(非小型船舶)については船舶
の大型化、高速化、海域利用の多様化を背
景に危険を防止するために関係法令・規程
の整備改正等必要な措置が講じられるとと
もに、船舶の構造、設備、運用等ハード・
ソフトの両面から改善がなされた。
一方、小型船舶についてはどうか。小型
海と安全 2002・秋・冬号
4
5
えいれば助かる可能性が高い」ということ
浮いて・浮かぶ
家族の笑顔
かん の
菅野
その事例を二つ紹介します。
!
平成10年9月、相模湾でプレジャー
ートから離れてしまい、夜間を経て約21時
間漂流していた女性が救助される。救命胴
(株)
ゼニライトブイ
常務取締役
です。
みず お
瑞夫
はじめに
古い話で恐縮ですが、私は釧路海上保安
、底引き網に掛
部勤務時に(昭和53年54年)
衣を着用していた。
"
平成11年7月、北海道日本海側沖合に
おいて、荒天で転覆した漁船第73長生丸の
船底にしがみついて約2昼夜も漂流してい
た漁船乗組員3人が救助された。
(残念なが
ら1人は病院で死亡。)
かって揚収された無残な状態の数々の遺体
救命胴衣を着用していない場合、漁船員
を検視しましたが、
「もしや」との思いで駆
については、仕事着として合羽、長靴を着
けつけた遺族の方々が、変わり果てた身体
用していることから、海中転落した時には
や着衣の一部で夫や子を確認し流す涙に、
浮上し難い、また泳ぎ難いことから、水を
私も毎度貰い泣きをしました。
飲んでしまい、パニックになり、泳ぐこと
そのような悲惨な状況をみて「何とかな
が困難な状態に陥ってしまいます。
らないものか!」と、北海道漁船海難防止
“シマッタ・救命胴衣を着けていればよ
センター釧路支部の方々と一緒になって考
かった!”と思いつつ命を失った人も多か
え、救命胴衣業者から各種救命胴衣を取り
ったと思われます。
寄せ、検討を始めました。そのころから
「救
なお、上記2事例は、季節的に海水温度
命胴衣の常時着用化」を唱え、今までライ
の暖かい海での漂流なので生存に至ったも
フワークとして取り組んできました。
のですが、冬季、厳寒の海に投げ出された
このたび、私の長年の念願が叶う法的措
置が採られるということで、喜びに耐えま
場合には時間が勝負であり、特に下記の早
期連絡が生存の可否に直結します。
せん。そこで、その背景を簡単にまとめて
また、浮いていない場合は、行方不明者
みることにしました。皆様方に常時着用化
の捜索が漁協所属船などによって長期間実
について理解をいただく参考になれば幸甚
施されることになりますし、その努力にも
です。
かかわらず発見に至らない例が多く見られ
浮いてさえいれば
ます。
残念ながら生存が叶わない場合でも浮い
海中転落者(本稿では衝突事故などによ
てさえいれば、多くの人々に迷惑を掛ける
って海に投げ出された人を含む)の命が助
こともなく、また、遺族も心の整理がつく
かるために、まず言えることは「浮いてさ
ものといえましょう。
4
6
海と安全 2002・秋・冬号
早く連絡さえすれば
リアー)を搭載した飛行機を先発させ、続
いて特殊救難隊員を乗せたヘリコプター
(フ
浮いていても、その事態をどこにも連絡
リアー装備)を出動させた。現場は荒天の
できない場合は、荒天下では呼吸困難・体
暗夜であったが、先に現場に着いた航空機
力消耗により、また水温が低い場合は体温
がフリアーで船体を発見し、ヘリコプター
を奪われることにより、時間の経過は死に
がその位置を基に捜索しフリアーで人影を
直結します。
捕らえた。暗闇のなか接近したら2人が手
特に漁船の場合は、発見が容易な明るい
間に海中転落した場合でも、夕方の入港時
を振っているのを映像で明確に確認された。
(写真参照)
間になっても入港しないことが分かってか
ら捜索に出動し、無益に時間を失ってしま
うケースが多く見受けられます。
海上保安庁では、迅速な救助を行うため
に我が国周辺に救助体制を整えています。
巡視船艇やヘリコプター等の航空機は、海
難の情報があれば直ちに現場に急行し、高
性能の機器を活用し、迅速な発見・救助を
可能なものにしています。
その他、水難救済会や所属漁協なども情
報があれば直ちに出動する体制にあります。
しかし、連絡が無ければどうしようもあ
りません。
ヘリからフリアーでキャッチした遭難者二人
その後の救助の詳細は省略するが、真っ
暗闇で、かつ風が強く、ヘリコプターの操
縦が困難な状況下、波が高い海上に特殊救
難隊員が降下し、無事2人を救助した。
極めて困難な状況下、転覆から救助まで
約2時間という迅速・的確な救助であった。
海上保安庁の捜索・救助能力の優秀さを
含めて、連絡さえあれば早期の救助が可能
である事例を紹介します。
[事例] 平成12年10月、漁船八号幸栄丸
が時化のため転覆したが乗組員2人は救助
された。
同船は御前崎沖合いにおいて荒天のため
転覆した。深夜0時過ぎに保安部に連絡し
た後に2人は海に飛び込み、発泡スチロー
ル製のフロートに体を結び付け漂流し救助
を待った。
図
海水温度と生存時間(通常の着衣状態)
常時着用化のキーワード
海上保安庁はまず、赤外線をとらえて映
以前、なかなか進まない救命胴衣の着用
像にする高性能な捜索・監視システム(フ
化について、私が検討会等で意見を申し上
海と安全 2002・秋・冬号
4
7
げたことは次の二つのフレーズに集約され
ます。
!“着られないものより
着られるものを”
"“携帯電話をポケットに”
今までの救命胴衣が着用されない理由の
裏返しの対策を立てることが必要です。
浮力基準の軽減化により、軽く、薄く、
通気性のよいもの、また、色彩規制の緩和
により、カラフルな、ロゴマークや模様プ
リントの入ったものにすると、着やすく、
着たくなるというものです。
この浮力の緩和を企図する意見は、ほと
く済むような数々の対策が採られているこ
とはご承知と思います。
んどの海中転落は比較的沿岸部に近いとこ
車に比べて船の事故は環境も異なり多種
ろで発生していること、連絡手段の確保の
多様ですが、みすみす助かる命を損なうよ
措置をとれば、捜索・救助が早期に行われ
うなことのないように、海を愛し、海に係
ることを理由・背景にしています。
わる仕事をしている私たちは、車と同じ思
前者については、国土交通省の作成する
基準に基づき各メーカーが製作するでしょ
想をもって対策に取り組むことが必要と考
えます。
う。後者については、事実先行で、携帯電
前述の内容は、私がライフワークとして
話の普及により、携帯電話の連絡による救
いる関係から主として「小型漁船」を想定
助が多くなっていると聞いています。また、
して書きましたが、プレジャーボートにつ
私が以前から切に望んでいた防水型携帯電
いても基本的には同じことです。
話も発売されました。最近の「海上保安新
聞」の某社の広告では“水に浮く「Iモー
ド」”
というキャッチフレーズのものが掲載
されています。
必ず、防水型携帯電話を救命胴衣や小型
「家族の涙」を「笑顔」に変えようでは
ありませんか。
なお、かつて漁協にお伺いしたときに、
幹部など方々から「救命胴衣の常時着用を
組合員に指導するにしても、根拠が無いの
船舶用浮力補助具のポケットに入れて、航
で強く言えない。」との声が聞かれましたが、
海し、操業してほしいものです。
今回の法的措置は指導強化のよりどころと
おわりに
しても効果を上げるでしょう。
新制度の施行に合わせて、関係機関、関
自動車の世界においては、事故防止対策
係団体が一致協力して、救命胴衣(補助具
のみでは「命」を助けるには十分でないと
を含む)常時着用の一大キャンペーンをし
して、仮に事故になっても乗車している人
てほしいものと切に願っております。
間の命は助かるように、また負傷しても軽
4
8
海と安全 2002・秋・冬号
もちろん、私も全面協力いたします。
科学の力で領土を広げる
―わが国の大陸棚―
たに
海上保安庁海洋情報部海洋調査課大陸棚調査室長
谷
フリーアナウンサー
有波
ありなみ
谷
しん
伸
みさお
操
国連海洋法条約では、大陸棚を200海里
以遠まで伸ばすことができる地形・地質上
の条件を定めています。条件に合致する時
には、国連の「大陸棚の限界に関する委員
会」にデータを添えて2009年までに申請し、
審査を受け、勧告に従う必要があります。
有波 本日はわが国の大陸棚画定に向けて
有波
調査などを行っている谷大陸棚調査室長に
のでしょうか。
お話をお伺いしたいと思います。
谷
谷 82年の国連海洋法条約により海岸から
7倍にあたる約
おり、わが国陸地面積の約1.
200海里までの管轄海域として排他的経済水
65万!が新たに大陸棚となる可能性がある
域が新たに設けられましたが、大陸棚とい
ことがわかりました。
わが国の大陸棚延伸の可能性はある
海上保安庁では83年から調査を進めて
う海底下の管轄権についても新たな概念が
採用され、排他的経済水域の海底および海
底下、さらに一定の要件を満たせば200海里
を超えて設定できることとなりました。
有波 大陸棚を拡げるということですが、
私たちの日常生活にどのように影響するの
でしょうか。
谷
大陸棚では、生物・非生物資源の探査
今後どのような調査を行っていくの
や開発に関して排他的な権利が認められて
有波
います。既にわが国の大陸棚が、鉱物、エ
でしょうか。
ネルギー、生物資源に恵まれていることが
谷
わかっています。例えば、多量のメタン・
精密な調査を行います。また、本年内閣に
ハイドレードが確認されており、わが国の
「大陸棚調査に関する関係省庁連絡会議」
天然ガス使用量の100年分存在するといわれ
が設置され、政府全体で2009年の期限に向
ています。
け、調査を推進することとなりました。
有波 すてきですね。では大陸棚はどうす
有波
れば拡がるのでしょうか。
ました。
概略調査をほぼ終えましたので、今後、
本日は有益なお話ありがとうござい
海と安全 2002・秋・冬号
4
9
台風の高波による
海難・事故
日本海難防止協会
波は見かけ以上に危険なもの
「海と安全」97年7月号に、当時の日本
水路協会海洋情報センターの永田所長の寄
稿「波は見かけ以上に危険なもの」があり
ます。その中から高波に関しての記述を要
海難・事故
太平洋上を北上した台風22号の影響で平
成14年10月13日、釣人の海中転落やサーフ
ァーの漂流など海難・事故が多発しました。
約します。
…予報で「3"の高波」が来るといった時、
実際にどんな高波が来るかを正確に理解し
ている人は極めて少ないのが現状です。
海岸へ出かけられるとき、海の波を観察
してほしいものです。大きな波・小さな波、
★午前4時17分、伊東市川奈埼灯台の南約
長い波・短い波が複雑に入り混ざって、常
2.
5キロで伊東市の刺し網漁船・第二海幸丸
に形を変えながら海岸に寄せてくるのが眺
8トン)が高波を受け乗組員親子が投げ
(1.
められるはずです。
出され、親(68)が死亡。
一体、気象庁の予報する波高とは、どの
★午前8時半ごろ、熱海港防波堤で釣人17
波の高さをさしているのでしょうか。専門
人が高波により海中転落、男性二人が死亡。
的な言葉になりますが「有義波」と呼ばれ
★午前9時ごろ、鎌倉市腰越漁港のテトラ
る仮想的な波の波高なのです。
ポットの間でサーファーが死亡しているの
「波高計で波の記録を約20分間取り、そ
が発見された。足にはサーフボードがつい
こに現れる個々の波について高さと周期を
たままだった。
それぞれ読み取り、次にそれを大きなもの
★午前9時50分、茅ヶ崎市鳥帽子岩付近で
から順に並べて、初めの三分の一の波を選
サーファー二人が漂流の通報。11時20分、
び出し、それらの波高と周期の平均の波高
湘南保安署巡視艇が二人を救助。
を求めて、この平均の波高と周期を持つ波」
★午前10時37分、東伊豆町稲取の防波堤で
と定義されています。
釣人13人が孤立していると静岡県警から通
統計的な研究結果では、
「最大の波」の波
報。11時8分、漁業者の誘導で消防が救助。
高は「有義波」の波高の約2倍になること
漁業者が釣人に行かないよう注意したが、
が分かっています。
無視して行って孤立。
気象庁が「3"の高波」と言ったら「た
★午後零時ごろ、三重県志摩町片田の東約
まには6"近い波も来るのだ」と理解して
1!で埼玉県川口市のプレジャーボートが
ほしいのです。波の高い時に岩場に降りる
横波を受け転覆。
乗船者二人のうち女性
(31)
ならば、ざっと見渡して認められる大きそ
は伊勢航空基地のヘリが吊り上げ救助。父
うな波の2倍の波が来ることを覚悟して、
親(65)は死亡。
あまり水際に近づかないことです。……
5
0
海と安全 2002・秋・冬号
!!!!!!!!!
!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
気象衛星の画像で台風の強度を推定する方法
気象庁予報部予報課
太平洋台風センター
つち や
あき お
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
1.はじめに
土屋
昭夫
しました。
このような台風の災害を防止・軽減する
北西太平洋に発生する台風は1971∼2000
ためには、気象庁が発表する台風情報(存
年の統計によると1年に平均26.
7個で、こ
在位置・強さ・大きさ・移動やその予想な
8個、上陸
のうち日本に接近するものは10.
ど)を十分利用して台風に備えることが必
するのは2.6個です。日本に接近・上陸する
要です。この台風情報はどのようにして作
台風の中には、伊勢湾台風などのように非
られるのでしょうか。ここでは、台風の強
常に大きな災害をもたらすものがあります。
さを決める技術の一端をご紹介します。
今年の7月には台風第9号による大しけの
ため、志布志湾の西岸にパナマ船籍の貨物
図1
予報官
2.台風の発生と雲域の特徴
船が乗り上げ、船体が中央付近で2つに折
台風は、北西太平洋の北緯10度から20度
れ、乗組員4人が死亡する海難事故が発生
付近の東西方向に横たわる帯状の活発な積
中心の周りに螺旋状の厚い雲域を持つ台風
第1
1号の可視画像(1
9
9
7年8月1日1
5時)
図2
眼を持つ台風第1
1号の可視画像
(1
9
9
7年8月1
3日9時)
海と安全 2002・秋・冬号
5
1
乱雲から発生することが多く、その中でも
月に世界最初の気象衛星タイロス1号が米
特にフィリピンの東海上で多く発生します。
国で打ち上げられた時から始まりました。
この雲域は熱帯収束帯と呼ばれ、南半球か
台風に伴う特徴的な形状を示す衛星の雲画
ら赤道を越えて吹き付ける南西風と北半球
像を見た気象学者たちが、その衛星画像か
の北東貿易風がここに吹き集まって上昇流
ら台風の中心位置はもとより、強度も推定
が発生し、ほぼ年間を通して積乱雲が発生
できるのではないかと考え、研究を始めま
します。熱帯収束帯に発生する個々の積乱
した。その中で最も実用化に成功したのが
雲は、発生から消滅までの寿命が数時間以
「ドボラック法」です。米国大気海洋庁
下と短いのですが、積乱雲が寄り集まり集
(NOAA)の V. F.ドボラックは、最初に可
団を形成すると寿命が長くなります。この
視画像を用いた強度推定法を開発し、後に
集団の中で特に活発な積乱雲群が次第に回
夜間でも利用できる赤外線画像を用いた方
転を始め、その回転の中心付近で持続的に
法を確立しました。これが広く普及してい
積乱雲が発生するようになると熱帯低気圧
ます。
の誕生です。
3.気象衛星による台風の監視
と観測
4.ドボラック法とは
V. F.ドボラックは台風の発達に伴う雲域
のさまざまな変化の中から、典型的な3種
熱帯低気圧のうちで中心付近の10分間平
2m!s 以上になったも
均風速の最大値が17.
のを台風と呼びますが、熱帯の海上は気象
観測データが非常に少なく、風速の値から
台風の発生を直接確認するのは極めて困難
です。そこで活躍するのが気象衛星です。
気象衛星は地表付近から出る電磁波を測定
します。その波長と強さに基づいて雲画像
が作られます。このような技術をリモート
センシング技術と呼びます。雲画像から台
風の強度を推定する方法はこのリモートセ
ンシング技術をさらに応用したものと言え
るでしょう。
北西太平洋の熱帯低気圧や台風の動向は、
主に気象衛星「ひまわり」により気象庁で
常時監視し、その雲画像の特徴から台風の
強度(中心気圧や最大風速)を推定してい
ます。この推定法の技術開発は、1960年4
5
2
海と安全 2002・秋・冬号
図3
中心を取り巻く下層雲域と、厚い対流雲域が離れて
いる台風第1
1号の可視画像(1
9
9
7年8月8日1
5時)
類の発達のパターンを見出しました。最も
際に観測された最大風速や中心気圧と関係
典型的な発達パターンは、中心付近を螺旋
づけました。
(らせん)状に雲域が取り巻くものです。
ドボラック法には、上で紹介した雲域の
最初は塊状であった雲域が、台風の発達に
特徴を判定する方法のほかに、台風強度に
伴い次第に回転しながら中心付近を螺旋状
対応した指数を衛星画像から求める方法が
この螺旋
に取り巻く雲パターンです(図1)。
さらに2つ含まれています。そのうちの一
状の雲域の中心からの長さが長いほど強い
つは、雲域の前日からの発達程度を画像か
台風で、1周以上取り巻くとその中心付近
ら読み取り、その変化量を前日の強度の値
に眼ができることが多くなります。
に加えて強度指数を求める方法です。もう
もう一つの典型的な発達パターンは、台
一つは、彼が分類・整理した台風の雲域の
風の中心付近が円形状の雲域に常に覆われ
発達モデル図の中から、自分が解析してい
るものです。台風の中心付近で積乱雲の発
る台風と雲パターンが最も似ているものを
達が続くため、円形状の厚い雲域が形成さ
一つ選ぶ方法です。この発達モデル図から
れます。台風が強まると、その中心付近の
台風の強度指数を求めることができます。
円形状の厚い雲域は雲頂高度を上げながら
これら3つの方法で求めた台風強度指数
拡大します。さらに強まると、円形状の雲
から、状況に応じてその時点で最も信頼性
域の中心付近に眼ができます。眼を持った
の高いものを一つ選び、それを台風の強度
台風では、眼を取り巻く円形状の厚い雲域
推定に用います。これにより、さまざまに
の直径が大きいほど、そしてその雲頂高度
変化する台風の雲パターンに柔軟に対応す
が高いほど、さらに眼の中の雲頂高度が低
ることができ、台風強度の推定精度を高く
いほど強い台風です(図2)。
保つことができるため、ドボラック法が広
3番目の典型的な発達パターンは、台風
く実用的に用いられるようになりました。
の中心付近は下層雲のみからなる螺旋状の
ドボラックは大西洋のハリケーンについ
雲の列だけで、積乱雲による厚い雲域が少
て調べたのですが、我が国でも衛星による
し離れている場合です。台風の発達に伴い、
台風観測は基本的には彼の方法を用いてい
厚い雲域と下層雲のみからなる螺旋状の雲
ます。この観測と船舶や観測所のデータを
域とが接近して重なり始め、さらに発達す
検討し、最終的な台風情報として提供して
ると厚い雲域内に螺旋状の下層雲が移動し
います。
ます(図3)。
V. F. ドボラックは、これらの雲の発達パ
ターンごとに、雲域の特徴を判定する具体
的方法と、その判定結果を台風強度に対応
させる方法をフローチャートに示しました。
5刻みの指数
台風の強さは1から8まで0.
(台風強度指数)で表し、航空機などで実
海と安全 2002・秋・冬号
5
3
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!
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"
●
#
●
9月14日1000(サロマ湖口灯台か
晴れ
はやぶさ
8.
69㍍
N 44°
−11.
6′ ら 真 方 位17度 約 転覆 うねり
(日本) (乗組員10人)
E143°
−47.
2′0.
7海里)
視 程
3㍍
10㌔㍍
死亡
5
8月3日1215(石狩湾港北防波堤
くもり
プレジャ エキサイター 0.
6!
機関
N 43°
−11.
0′灯台から真方位219
うねり
ーボート (日本) (乗組員3人)
故障
E141°
−14.
3′度約4.
5海里)
視 程
15
45
気象・海象
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5
海難
種別
14
0
14
40
発生日時および発生場所
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平成1
4年8・9・
10月発生主要海難
50 150
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5
13
海と安全 2002・秋・冬号
総トン数
(人員)
35
5
4
0
遊魚船
13
"
船 名 等
30
!
5
25
No 船 種
12
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主な海難と統計
海上保安庁提供
死 亡
行方不明
なし
10㌔㍍
「プレジャーボート「エキサイター」
(0.
6トン、3人乗組み)が、午後0
8月3日午後5時40分ごろ、
時ごろに石狩湾新川河口を出港したまま戻ってこない」旨の電話通報が小樽海上保安部にあった。
同部では、直ちに巡視艇2隻を捜索に当てるとともに、VHF による行方不明船の緊急放送を実施し
たところ、同日午後7時ごろ、緊急放送を聞いたセメント運搬船「第5芙蓉丸」
(総トン数3,
568トン、
11人乗組み)が新川沖合約7海里にて機関故障のため漂流している「エキサイター」を発見、小樽海
上保安部に通報した。
通報を受けた同部では、付近海域を捜索中の巡視艇やぐるまを急行させ、同日午後7時20分ごろ、
同船と会合、曳航を開始し、午後8時40分ごろ小樽港に入港した。同船乗組員3人は、命に別状は無
いものの長時間の漂流により疲労を訴えていたことから、保安部手配の救急車に引渡し、救助を完了
した。
7人
9月14日午前10時55分ごろ、第一管区海上保安本部に「サロマ湖で遊漁船が転覆している」との118
番通報があり、巡視船艇4隻、航空機4機、特殊救難隊隊員6人が直ちに現場に急行した。
その後の調査で、転覆したのは遊漁船
「はやぶさ」
(8.
69メートル)
、
10人乗組みであり、5人が救助さ
れ(うち2人死亡)
、
残る5人が行方不明となっていることが判明した。また、転覆した船体について
は、既に沈没し、その所在も不明となっており、14日および翌15日の捜索では、行方不明者および船
体に関する手がかりは得られなかった。
16日午後5時25分、沈没した船体が発見され、その後の捜索により、22日までに5人の行方不明者
全員が遺体で発見された。
なお、救命胴衣未着用者8人のうち、7人が死亡し、救命胴衣を着用していた2人は無事救助され
たことから、救命胴衣着用の重要性が改めて確認された。
# 自動車
HUAL
10月1日1849
雨
56,
835!
(竜王埼灯台から真 乗揚
専 用 EUROPE
N 34°
−41.
26′
10㍍
波浪
方位43度約275㍍) げ
(乗組員24人)
運搬船 (バハマ)
*台風21号通過中
E139°
−26.
71′
10月1日午後6時49分、当庁はバハマ船籍自動車専用運搬船
「HAUL EUROPE」
(56,
835トン、24人
乗組み)からの遭難信号を入手した。
H号と衛星電話にて連絡をとったところ、同船は伊豆大島の南東側にある波浮港沖約50メートルに
乗揚げており、機関室に浸水、左舷へ15度傾斜していることが判明、直ちに巡視船5隻を現場に急行
させた。
乗組員を救助するため、2日午前0時55分、特殊救難隊が同乗した当庁航空機が現場に到着したも
のの、台風21号による荒天のため救助を一時見合わせ、日出後に作業を再開することとなった。
午前5時15分ごろ、特殊救難隊員3人がH号に降下、乗組員24人は午後2時50分までに全員無事に
吊り上げ救助された。船体については、11月5日現在、船主手配の業者等により、搭載油の抜取り作
業、浮流油の防除作業等を実施中である。
上7月
中8月
下9月
船舶海難発生状況(速報)平成14年7・8・9月
(
)
単位:隻・人
!月
海難種類
用
途
揚
転
覆
25
4
タ ン カ ー
8
2
旅
船
5
1
プレジャーボート等
16
15
14
他
5
2
1
船
33
5
8
24
一
般
舶
突
乗
船
貨
船
衝
そ
物
客
の
漁
遊
漁
合
船
6
計
98
29
火
災
爆
発
浸
水
機
関
故
障
推
進
器
障
害
舵
障
害
行
方
不
明
運
航
阻
害
安
全
阻
害
そ
他
1
計
行死
方
亡
不
明・
30
1
1
1
5
17
4
1
0
6
6
11
1
3
1
1
1
21
10
7
13
1
5
合
の
3
1
3
2
25
6
3
9
2
2
1
1
5
113
1
25
7
59
6
2
15
16
247
15
"月
船
15
7
タ ン カ ー
5
5
旅
船
1
2
プレジャーボート等
28
21
貨
一
般
船
舶
そ
物
客
の
漁
遊
漁
合
他
5
船
26
船
3
計
83
1
23
8
11
0
3
0
15
128
2
2
15
0
62
3
1
6
3
22
1
2
3
1
8
2
6
2
5
43
9
9
0
12
18
3
1
8
1
1
1
9
29
21
1
1
1
0
4
1
22
4
18
6
0
248
13
29
0
11
1
#月
船
22
2
タ ン カ ー
7
2
旅
船
5
プレジャーボート等
10
7
6
他
5
3
1
船
46
7
4
貨
一
般
船
舶
そ
物
客
の
漁
遊
合
漁
1
1
船
8
1
1
計
103
22
13
2
1
1
1
1
4
9
1
14
6
1
13
4
2
1
3
8
4
1
25
12
2
1
1
1
12
0
11
0
17
8
1
8
0
71
9
12
0
87
8
1
2
0
12
230
18
「E!
mail アドレスの変更」
都合により平成1
4年1
2月から E!
mail アドレスを変更します。
新アドレスは5
6ページ末尾の奥付にあります。
海と安全 2002・秋・冬号
5
5
日本海難防止協会のうごき(8,9,10月)
本協会は、日本財団助成金、日本海事財団補助金および関係官公庁等の委託金により各事業を実施しています。
月 日
8・2
8・2
8・6
8・6
8・28
8・29
会
議
名
海上インシデント・データバンクに関す
る調査研究委員会
東京国際空港の再拡張に係る航行安全基
礎調査検討会
石垣港港湾計画改訂に係る船舶航行安全
対策調査委員会
東京湾リスクアセスメント委員会
東京国際空港再拡張による航行安全基礎
調査作業部会
次世代航路基準基礎調査検討会
9・2
石垣港港湾計画改訂の一部変更案に係る
船舶航行安全対策調査検討会
9・18
海事の国際的動向に関する調査研究委員
会(海洋汚染防止関係)
函館港小型LNGタンカー航行安全対策
調査委員会
海運・水産関係団体連絡協議会に係る海
運・水産等関係団体打合せ会
東京国際空港の再拡張に係る航行安全基
礎調査作業部会
東京湾における液化ガスタンカーの夜間
航行に関する委員会
伊勢湾における液化ガスタンカーの夜間
航行に関する委員会
那覇港船舶航行安全調査委員会
9・19
9・25
9・27
10・4
10・7
10・9
10・10
那覇港臨港道路空港線工事航行安全連絡
協議会・幹事会
10・25
10・29
函館港小型LNGタンカー航行安全対策
調査委員会
次世代航路基準基礎調査検討会
10・30
10・31
那覇港船舶航行安全調査委員会
東京湾船舶交通体系委員会
編集レーダー
主
な
議
題
!事業計画 "海上インシデント情報の収集・分析手法の検討
#ヒアリング実施法案
!東京港第一航路案および東京西航路案
"航路案の検討(シミュレーション)
!4万 GT 級および7万 GT 級旅客船のシミュレーション実施結
果のまとめ "安全性の検討 #安全対策案 $報告書案
!大規模海難による影響項目の整理 "詳細検討の対象とする
影響項目の抽出 #影響発生プロセスの調査
!海上交通流シミュレーション結果の評価・検討
"ビジュアル操船シミュレータの実施
!航路の概念・定義について "航路幅員の算定式の検討・整
理 #航路法線(屈曲部)の算定方法
!大型旅客船バース、危険物積載船バース等の一部変更に係る
検討 "安全性の検討
(4万 GT 級旅客船のシミュレーション
実施結果のまとめ) #安全対策 $報告書案
!前回委員会議事概要の承認
"MEPC48の対応方針案についての検討
!前回委員会議事概要 "入出港に係る航行安全対策
#係留・荷役中の安全対策
!事業計画 "資料(アンケート結果)
#東京湾の海上船舶交通に関する意見交換
!操船シミュレータ実施結果
"航路運用の考え方
!前年度のレビュー
"今後の検討の方向性および検討課題
!前年度のレビュー
"今後の検討の方向性および検討課題
!業務計画案 "計画改訂による施設形状、防波堤の配置等
#操船シミュレーションの実施方案
!那覇港沈埋トンネル情報管理室における航行安全情報管理業
務の運用実績等(報告) "今年度第1回航路標識配置変更
実績(報告) #那覇港沈埋トンネル工事の概要(説明)
$今年度第2回航路配置変更案(審議) %航路変更に伴う
航行安全対策(審議)
!前回委員会議事概要 "工事中の安全対策 #報告書案
!航路の概念・定義 "航路幅員 #航路水深 $航路法線(屈
曲部)
!操船シミュレーションの結果 "航行安全対策
!浦賀水道・中ノ瀬航路における追越しおよび制限速力の検討
"海上交通流シミュレーションの実施および評価
★今年は暑さから寒さへ
ろう法改正について特集した。なかんずく、一人
の移ろいが急だ。どちら
乗り小型漁船や小学生未満の子供へのライフジャ
さまも風邪に気をつけて
ケット着用の義務化に期待したい。
この冬をお過ごし願いたい。また、時化の多くな
★次号春号では、導入の決まった AIS(船舶自動
る冬の海、各船舶には事故のない安全航海を祈る。
識別システム)を特集する予定。
(村上)
★今年は、日本に上陸または接近した台風が多か
った。21号を中心に海浜での事故が多かった。特
徴的だったのは、波に因る事故が目立った。サロ
マ湖沖での遊漁船が転覆沈没して10人中7人が死
亡したのをはじめ、台風の高波で小型漁船や釣り
人など海のレジャーで多くの犠牲者が出た。
★台風が遠くにあっても、高波が押し寄せる。ざ
っと見渡して大きい波の2倍くらいの高波が来る
ことを知っておきたい。なるべく、日本に台風が
近づいているときには海へ近寄らないことだ。
★本号では、小型漁船の安全強化につながるであ
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海と安全 2002・秋・冬号
海と安全
No.515(36巻、秋・冬号)
発 行 平成1
4年1
1月2
5日
発行所 社団法人 日本海難防止協会
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海と安全
第36巻 秋・冬号 ●昭和36年4月3日第3種郵便物認可 ●通巻515号 ●平成14年11月25日発行 ●購読料・年間送料とも5,000円