モバイルe-コマースプロジェクト~いつでもどこでも安全な電子商取引の

モバイル e-コマースプロジェクト
∼いつでもどこでも安全な電子商取引の実現を目指して∼
株式会社エヌ・ティ・ティデータ
産業システム事業本部 ライフソリューション事業部
企画営業担当 課長 吉田 敏之
1. はじめに
(株)NTTデータでは、平成12年度より、(株)NTTドコモ、ソニー(株)と共同で、「モバイル eコマース」の実証実験に取り組んでいます。
本実証実験は、総務省の認可法人である通信・放送機構(TAO)より情報家電インターネット技術研究
開発事業の一つとして受託したもので、携帯情報端末、非接触ICカード、インターネットおよび無線パケ
ット通信網を利用した電子商取引における処理方式の安全性・即時性・有効性などの実用性をフィールド実
験により検証するものです。本稿では、本実証実験の取組みについてご紹介致します。
2. 取組みの背景
現代社会において、非接触ICカードは、鉄道をはじめとする交通機関系での導入が進みつつあります。
ICカードの特徴により、リチャージにより繰り返しカードを利用できること、マルチアプリケーションが
搭載可能であることから、乗車券機能だ
けでなく、電子マネーや電子チケットなど他の電子バリューへの利用拡大が期待されています。ただし、I
Cカードにそれらの電子バリューをチャージするには特定の端末装置が必要で、その装置のある場所に出向
く必要があります。
一方、インターネットの普及に伴い、インターネット経由での商品の購入・サービスやチケット等の予約
等が盛んに行われるようになり、さらには携帯電話やPDAなどの移動端末の普及により、携帯情報端末を
用いたインターネットへのアクセスも普及してまいりました。
そこで、両者を組合せ、携帯情報端末でのインターネットアクセスにより、手元の非接触ICカードに電
子バリューをチャージ可能とすれば、いつでも、どこでも居ながらにして即座に手元に電子バリューを獲得
できる新しい e-コマースが実現できるのではないかという発想が生まれました。これが「モバイル e-コマー
ス」実証実験への取組みの背景です。
3. システムの特徴
本実証実験において開発したシステムのイメー図を<図1>に、試作端末と非接触ICカードを<図2>
に示します。
本システムの特徴は以下の通りです。
① いつでも、どこでもバリューを入手可能:
非接触ICカードリーダライタを搭載した携帯情報端末から無線通信を通してセンタにアクセスし、
CAFISR(注 1)によるクレジット決済でバリューを購入し、手元の非接触ICカードにバリューを
書き込む方式とし、センタの運用時間内で、無線通信のエリア内であれば、いつでもどこでもバリュ
ー入手が可能です。
② 安全確実にバリューを入手可能:
PKI(注2)、共通鍵といったセキュリティ方式を採用することで、ネットワーク、端末で発生し
うる盗聴、改竄、成りすまし、否認などの不正を防止し、安全確実なバリューの入手を実現していま
す。
③ 利用時は非接触ICカード単独で利用可能:
バリューの利用時には、非接触ICカード単独で利用します。既存の非接触ICカードゲートシス
テム等の設備がそのまま利用可能であり、非接触ICカードの特徴である高レスポンス・高耐久性等
の特徴を活かすことができます。
モバイル経由での高セキュリティな電子バリュー
モバイルe-コマース
システムセンタ
・携帯情報端末
・非接触ICカード
インターネット
電子バリュー
ダウンロード
電子マネー
¥
¥
¥
CAFIS
移動体パケット
通信網無線局
電子チケット
コンテンツ
非接触 IC カードでの電子バリュー利用例
電子マネーを
SFとして利用
電子チケットで
入場ゲート通過
電子マネーで
飲料購入
地下鉄自動販売機
自動販売機
イベントホール・コンサート会場
図2 携帯情報端末
及び非接触 IC カード
図1
モバイル e-コマースシステムイメージ
4. 各社の主な研究開発項目
本実証実験において、3社は以下のように得意領域を分担して取り組んでいます。
(株)NTTデータ:
認証方式・決済方式・電子バリュー管理方法に関する要件の検証
① 携帯情報端末、認証局、電子決済局、各所との安全な通信方式の開発及び実用性の検証
② 電子バリュー管理方式の開発及び実用性の検証
(株)NTTドコモ:
携帯情報端末に関する要件の検証
① モバイルe-コマースに適した各種アプリケーションソフトウェアの検証
② インターネット・DoPaを利用した電子商取引におけるセキュアなプロトコルの開発と検証
③ フィールド実験における運用スキームの確立
ソニー(株):
カードアクセス方式に関する要件の検証
① 非接触ICカードアクセス制御ソフトウェアの開発及び実用性の検証
② 携帯情報端末装着型、非接触ICカードリーダ/ライタの開発及び実用性の検証
③ モバイルe-コマースに適したICチップファームウェア(注 3)、モジュラーの開発及び実用性の検
証
5. 実証実験
現在、開発したシステムについて、実運用レベルでのシステムの安全性・確実性・有用性および利用者の
利便性を検証するため、札幌市を中心にモニタ約300人によるフィールド実験を、本年8月より来年 1 月
まで実施中です。
モニタには、電子バリューをチャージするための携帯情報端末と、非接触ICカードを配布し、以下の実
験を実施しています。
①
電子マネー実験
(ア)携帯情報端末により、モバイル環境で電子マネーを購入して非接触ICカードへ格納
(イ)札幌市営地下鉄東西線19駅、南北線1駅の改札機66台で電子マネーを電子乗車券として利用
(図3を参照)
(ウ)地下鉄構内、千歳空港など指定の自動販売機9台での電子マネーによる商品(飲料)購入(図4を
参照)
②
電子チケット実験
本年8月25日に北海道厚生年金会館にて実施されたMAXコンサートを始めとし、今後、数イベン
トにて電子チケット実験の実施を予定しています。
(ア)携帯情報端末により、モバイル環境で電子チケットを購入して非接触ICカードへ格納
(イ)コンサート会場等で会場に設置したゲートを通過して入場(図5を参照)
図3
地下鉄自動改札機
図4
自動販売機
図5
イベントゲート
なお、フィールド実験にあたり、電子マネーの発行体及び札幌市営地下鉄での非接触ICカード実験フィ
ールド、非接触ICカード対応自動販売機サービスの提供を、札幌総合情報センター株式会社にご協力頂い
ております。
6. 今後の展開
「モバイル e-コマース」の仕組みは、今回のフィールド実験における電子バリューやその利用方法に限ら
ず、様々なバリューと用途への展開が考えられます。
・ 電子マネー:店頭での支払、自動販売機、駐車場・施設等各種自動精算機
・ 電子チケット:コンサート、映画、スポーツ
・ 交通系:乗車券、指定券、航空券、定期
・ 行政系:各種証明書
フィールド実験の成果を踏まえ、様々なシーンで「モバイル e-コマース」を活用いただけるよう、実用化
に向け今後さらに検討を重ねていきたいと考えています。
(注1) Credit And Finance Information System の略。
「CAFIS」は(株)NTTデータの登録商標。1984年 2 月よりサービス開始。クレジットカード会社、金融機関、企業、加盟店、
の相互間で、クレジット情報および、資金移動情報(銀行 POS サービス、企業内 CD サービスにおける資金移動情報)
を中継するサービスを提供している。
(注2) PKI
(Public Key Infrastructure)
公開鍵暗号技術と電子署名を使って、インターネットで安全な通信ができるようにするための環境のこと。「公開鍵基
盤」と訳される。
(注3) ファームウェア
マイクロプロセッサを動かすソフトウェア。機器の高度化・複雑化を支える要素技術のこと。