Vol.3:韓国・タイにおける模倣品対策

YBレポート Vol.3
韓国・タイにおける模倣品対策
特許庁から公表された「2004年度模倣被害調査報告書」によれば、模倣品の製造国 No.1
は中国、次いで台湾となっていますが、今回は、台湾に次ぐ第3位の模倣品製造国である
“韓国”と、先日、模倣品対策セミナー開催のご案内を差し上げた“タイ”につきまして、
それぞれ講習会に参加しましたのでレポートいたします。
私が感じたポイントをまず最初にご紹介させていただきます。
韓国
1.模倣品への対応については、まず、日本だったらどうするか?を考えてみる。韓国の
法制度は日本の法制度に似ているから。
2.「商標」
「意匠」の模倣事件では、刑事手続をとることが有効。
3.告訴は検察と警察にできるが、どちらに告訴するかは韓国弁護士に相談した方がよさ
そう。
タイ
1.模倣事件では、民事事件と刑事事件を比較すると、刑事事件が95%以上である。
※セミナーでは特に断りはありませんでしたが、「2004年度模倣被害調査報告書」によ
れば、タイでは「特許・実用新案」の模倣事件は僅かであり、主として「商標」
「著作権」
の模倣事件について刑事事件が95%以上である。と考えます。
2.警察に被害届を出すことが、一番容易な即時対応策になる
3.タイ以外の国で発行された書類には、公認された認証が必要なので、必要書類は事前
に揃えておく。
共通
1.イ号(模倣品)を押さえておくことや、模倣品の出所や流通状況を把握しておくこと
は大事である。調査員を雇う場合には慎重に選定すべき。
2.警告文を不用意に発送すると、相手方に逃げられる可能性があるので注意。
3.事後管理も重要。一回勝って相手が倒産しても、数年後に復活してまた模倣行為を行
うことがある。
以下、詳細をレポートいたしますので、お時間ありましたらご覧ください。
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韓国(韓国産業財産権制度と侵害訴訟 2006 年2月3日/特許庁主催)
1.法制度
韓国は、日本を真似て産業財産権制度を作ったことから、日本とほとんど同じと考えて
よい(二重出願制度や異議申立制度も廃止される予定)
。
審判は、特許審判院で行われる。韓国には、日本の判定制度のような権利範囲確認審判
が残っておりこの特許審判院で権利範囲確認審判が審理される。
特許審判院による権利範囲確認審判等の審決に対する審決取消訴訟は、ソウル地裁のよ
うな一般地裁や、ソウル高裁のような一般高裁とは異なる特許法院で審理される。
2.出願状況
特許出願について、全出願のうち3割が外国人の出願であり、その外国人の出願のうち
半分は日本人の出願である(2004 年は日本人の出願は1万5千件弱)
。
3.特許権侵害事件
※「2004年度模倣被害調査報告書」によれば、中国では「商標」
「意匠」の模倣の割合
が相対的に高いですが、韓国では「特許・実用新案」の模倣の割合が相対的に高い。
特許侵害事件への対応は基本的には日本と同じと考えて良いと思いますが、以下の点を
ご参考までに記します。
(1)相手方(侵害者)が権利範囲確認審判を請求することがあるそうです。権利者が一
般地裁へ提訴したのに対して相手方が権利範囲確認審判の審判請求を行うと、侵害
しているか否かの判断が、一般地裁と特許審判院で異なることがあるそうです。こ
うなると、一般高裁の上告審であり特許法院の上告審でもある大法院(日本の最高
裁に相当)までいかないと結論が出ず、裁判が長期化してしまうことがある。
(2)謝罪広告の掲載は、韓国憲法違反になるとの理由で認められない。
(3)間接侵害の規定はありますが、ほとんど認められない。
(4)均等論に関しては、日本のボールスプライン事件の最高裁判決を真似た大法院の判
決が出された。
4.商標権・著作権侵害事件
刑事手続をとることが有効(民事手続で損害賠償が認められても倒産されたらおしまい。
また、差止めが認められても名前を変えられたらおしまい。
)
告訴は検察と警察にできるが、どちらに告訴するかは韓国弁護士に相談した方がよさそ
う。
通関保留制度の活用(税関に商標権を申告しておけば、データベース化され自動検索シ
ステムでウォッチングしてくれる)
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5.不正競争防止法による保護
デットコピー(形態模倣)は、保護の終期の起算点が日本とは異なり、
“試作品製作など
で商品の形態が確定した日”になる。
転職者が、韓国では米国よりは少ないが日本よりは多く、営業秘密の流出が問題になり
やすい。転職を禁止することは韓国憲法による職業選択の自由と衝突するため、
「営業秘密
につながる職務を行ってはならない。」との判決を求める。
6.模倣品対策の実務的なポイント
(1)イ号(模倣品)を押さえておくことや、模倣品の出所や流通状況を把握しておくこ
とは大事であり、韓国内の現地法人・販売代理店、法律事務所、調査会社に協力を得
る。調査会社の選定は慎重に行うべき(相手方に寝返る場合がある)
。
(2)日本だったらどうするか?を考えてみる。韓国の法制度は日本の法制度に似ている
から。
(3)警告文を不用意に発送すると、相手方に逃げられる可能性があるので注意。
(4)事後管理も重要。一回勝って相手が倒産しても、数年後に復活してまた模倣行為を
行うことがある。
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タイ(タイ国模倣品対策セミナー 2006 年1月 27 日/日本弁理士会主催)
1.タイの知的財産制度の現状
(1)特許登録までには、出願から5∼6年かかる。
(2)意匠登録までには、出願から3∼4年かかる。
(3)商標登録までには、出願から1年前後かかる。
※刑法によって未登録周知商標も保護され得る。
2.タイにおける模倣の現状
フルコピーするのではなく、最近では以下のような事例が出てきている。
(1)詐称通用(passing off:自己の商品や営業を他人のそれであるかのように見せかけて
一般人に誤認させるような行為)の例として、パッケージ全体のデザイン構成は同じにし
てロゴ(例えば TOYOTA)だけを似たようなロゴ(Tiger)に変える。
(2)真正品の‘Herbal Essences’という英語表記の品質表示(薬草エッセンス)が消
費者にウケたことに目をつけ、真正品のパッケージの雰囲気を残しつつパッケージ全体の
デザイン構成を変え、パッケージに‘Herbal Complex’という「Herbal」を含む表示を
大きく入れる。
(3)本物のパッケージに偽物の中身を入れる。
(4)商標希釈も行われるようになってきている。
(5)商品(模倣品)を店にはおいておらず、注文を受けて倉庫に模倣品をとりに行くた
め、店頭調査では模倣品を発見することが困難になってきている。
(6)真正品と模倣品を混ぜて売っている。
3.タイの裁判制度
タイにも知的財産に関する専門裁判所(IP&IT 裁判所)がある。この IP&IT 裁判所で
は、3名の裁判官の合議体で審理が行われる。3名の裁判官の合議体は、法学部出身であ
る2名のキャリアジャッジと、外部から採用した専門性を有する1名のアソシエイトジャ
ッジ(技術的専門家等)から構成されている。
IP&IT 裁判所では、知財関係の民事事件(差止めや損害賠償等)を扱っている他に、知
財関係の刑事事件も扱っている。また、タイ国特許庁の判断結果に対する審理も行ってい
る。
タイ国も最高裁を頂点にした三審制である。IP&IT 裁判所は1審に属するが、IP&IT 裁
判所の判決に対しては最高裁に直接上告できる。
4.模倣品に対する対応策
知財関係では、民事事件と刑事事件を比較すると、刑事事件が95%以上である。
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理由:民事に比べて刑事は ①解決が早い,②即効力がある,③コストが安い
『刑事訴訟』
一般に3通りのやり方がある。
(1)IP&IT 裁判所へ被害届(英語で可)を出す
ただし、模倣品が1個見つかっただけでは強力な主張はできない。被害届を出せば
すぐ受理されて動いてくれるとは限らない。模倣者は、総ての模倣品を処分してから
出頭してくると考えてよい。したがって、総ての証拠を得ていなければ被害届を出す
意味がない。
(2)IP&IT 裁判所へ、提訴前に一応の証拠をもって証拠保全を行ってくれるルール12
の適用を申請する
その後起訴、または民事訴訟へと続く。
ルール12が適用されれば効果的であるが、実際はなかなか適用されない。
(3)警察に被害届(タイ語であることが必要)を出す。
警察は被害を認めた上で捜索を行い、模倣品等の押収、さらに侵害者を刑事訴追の
ため逮捕する権利を持っている。
警察では裁判所ほど証拠を厳しく要求されず、また、午前中に被害届を出して午後
に押収に行ってくれることもあるため、一番容易な即時対応策になる。
<典型的な事例>
権利者
警察に被害届を提出
・公証され認証化された委任状が必要。
・商標/特許登録証の認証謄本、あるいは著作権所有者を証明するものを提出。
・真正品と模倣品の両方のサンプルを提出すべき
↓
警察
捜索(製造機械を含む模倣品総ての押収・模倣行為の責任者の逮捕)
取り調べ(簡単な模倣・侵害行為の場合は、警察に逮捕された模倣者はこの段階で95%
が有罪を認める)
↓
検察官
検察官が証拠を含めて再検討し、IP&IT 裁判所へ起訴するか否かを判断
↓起訴
IP&IT 裁判所
模倣者は、有罪を認めれば減刑になるため、簡単な模倣・侵害行為の場合には、模倣者は、
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通常、罪状認否において有罪を認める。
典型的な刑罰は罰金と懲役。
『税関による対応策』
タイ国には、中国製の模造品が多数輸出されてくる。
税関へ商標・著作権の目録を提出し、水際取締りを活用する。
特許権を使った税関での押収はできない。
5.弁護士からのアドバイス
(1)市場の模倣行為を継続的に監視する。
(2)模倣立証のためには、模倣品の現物が必要(ただし、大きすぎる場合等には写真で
も可)
。
(3)信頼のおける私立探偵等の調査員を雇って、模倣品の出所,流通先を突き止めてお
く。調査員は成功報酬ベースで仕事を依頼するとよい。
(4)自社のみで模倣品対策をするよりも業界をあげて模倣品対策を行うことが、コスト
的にも効果的にも有効。
(5)タイ以外の国で発行された書類には、公認された認証が必要なので、必要書類は事
前に揃えておく。