成熟期における事業所給食企業の食材調達に関する一考察

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成熟期における事業所給食企業の食材調達に関する一考察
῎῎ 輸入冷凍野菜を事例に ῎῎
菊
地
ῌῌ は じ め に
ῌ 問題意識と課題
昌
弥*
るなかで῍ この課題は決して小さくないと考えら
れるῌ
では῍ 成熟期において外食企業はコスト削減の
国産野菜の需要拡大のための方策として業務用
ためにどのような行動をとっているのであろう
への対応が叫ばれているῌ 例えば῍ 安部 ῌ 小林
かῌ 農林水産省統計情報部が +33/ 年に実施した
῏,***ῐ は῍ 食の外部化が進展する中で῍ 業務用野
ῑ輸入農畜水産物流通調査報告書ῒ をみると῍ 外食
菜の利用ῌ仕入動向がわが国の野菜市場に与える
企業はコスト削減の観点から商社῍ 食品卸売会社
影響度合いも強まっているとしたうえで῍ 実需者
等を介して輸入野菜の調達を導入している実態を
ごとに῍ その仕入に要請される商品ῌ食材特性に
理解することができる,ῐῌ 外食産業市場において
応じたきめ細やかな生産ῌ供給体制を講じること
市場成熟の進展とともに競争がより激化している
が必要である῍ と指摘しているῌ また῍ 日本施設
ことを踏まえると῍ 同行動は一層進展していると
園芸協会もこれと同様の見解を示しており῍ 外食
考えられるῌ そこで῍ 本稿では同需要のなかでも
産業等国内実需者の求める価格ῌ品質などを明ら
特に引合いが強いといわれる輸入冷凍野菜を対象
かにして῍ その達成に向けた生産ῌ流通ῌ販売計
に-ῐ῍ 成熟期において事業所給食企業がコスト削
画を作成するべき+ῐ῍ と論じているῌ しかしなが
減のためにどのような食材調達を行っているのか
ら῍ こうした一方で῍ 肝心の業務用需要の動向に
を解明し῍ 今日における業務用需要の動向を把握
関して詳細に論じている先行研究は小田 ῏,**.ῐ
したいῌ
の成果に留まるに過ぎず῍ これだけでは十分とは
なお῍ ここで外食産業のうち事業所給食産業に
いえないῌ というのは῍ 成熟期では価格競争が展
焦点を当てるのは῍ 同産業の場合῍ + 食あたりの
開されるため῍ それに対応したコスト削減のため
販売単価が低く῍ 食材費も低いという特徴がある
の行動と価格競争を回避するための製品差別化の
ため῍ 廉価な輸入野菜を特に多く使用しているか
行動がとられるが῍ 小田は後者について解明して
らと考えたからであるῌ
いるものの῍ 前者については深く言及していない
῍ 事例企業の概要
からであるῌ 先行研究において美土路 ῏,***ῐ の
+ῐ G 社の概要
ῑ中ῌ外食企業にとって基調は低食材コストの最
G 社は +302 年に資本金約 ,+ 億円で設立され
大限の追求にあり῍ 営業上のメリットが高いと判
たῌ 営業所数は約 +,1** ケ所῍ 従業員は約 , 万人
断される場合には国産食材や有機農産物利用のた
であるῌ G 社は全国にあるオフィス῍ 官公庁の食
めの産地開発や契約栽培に取り組むが῍ それは限
堂等の施設と契約し῍ カフェテリア῍ 定食などの
定的といわざるを得ないῒ という指摘があること
方式で給食を + 日約 -/ 万食提供しているῌ また῍
も踏まえると῍ 今日の業務用需要の動向を把握す
この他にも自身で店舗経営を行うとともに῍ 食
* 東京農業大学大学院
材῍ 食品῍ 厨房機器῍ 備品等の販売も行っているῌ
農村研究 第 +** 号 ῏,**/ῐ
186
同社の ,**- 年度における売上高は約 22* 億円で
少しており῍ ,*** 年時点で , 兆 +,+3/ 億円市場と
あり῍ このうち῍ 社員食堂等給食事業の割合は
なっているῌ このうち῍ 社員食堂等給食について
0/῍ 程度であるῌ 同社は外食産業全体の中でも上
は῍ +331 年の + 兆 .,30* 億円から ,*** 年の + 兆
位 -* 社以内に属する大手企業であるῌ G 社は
.,.13 億円へと - 年連続῍ 一方の弁当給食につい
メ῎カ῎から直接食材を仕入れるケ῎スが多いῌ
ても +330 年の 0,3+1 億円から ,*** 年の 0,1+0 億
G 社は ISO+.**+ と ISO3**+ を取得しているῌ
円へと . 年連続で縮少しているῌ
もう一つは῍ 販売価格の低下であるῌ 日本フ῎
,ῐ H 社の概要
H 社は +30* 年に資本金 , 億 +,*** 万円で設立
ドサ῎ビス協会が +332 年に実施した ῑ外食産業
されたῌ ,**- 度における売上金額は約 +*/ 億円で
経営動向調査報告書ῒ によると῍ メニュ῎価格面
あるῌ H 社における弁当給食のデリバリ῎事業の
での施策として῍ メニュ῎価格の据え置きを実施
割合は -/῍ 程度であり῍ この他にも惣菜のデリ
した企業の割合が /-.-῍῍ メニュ῎価格の引下げ
バリ῎事業῍ 病院ῌ有料老人ホ῎ム等の社会福祉
を実施した企業の割合が -3.-῍῍ メニュ῎価格の
施設での給食事業および売店事業を手がけてい
引上げを実施した企業の割合が 0.0῍ となってい
るῌ 営業所数は約 ,0* ケ所῍ 従業員数は約 ,,***
た ῏表 ,ῐῌ しかし῍ ,*** 年の調査では῍ メニュ῎
人であるῌ 同社は弁当給食産業において大手に属
価格の据置きを実施した企業の割合が .-.3῍῍ メ
するῌ 同社では問屋とメ῎カ῎の両方から食材を
ニュ ῎ 価格の引下げを実施した企業の割合が
仕入れており῍ その割合は約 1 : - と前者が多いῌ
.1.,῍῍ メニュ῎価格の引上げを実施した企業の
主な商圏は関東地域であるῌ H 社の弁当製造工場
割合が /.1῍ となっており῍ メニュ῎価格の引下
は HACCP を取得しているῌ
げを実施した企業が増加する一方で῍ 価格を据置
いた企業が減少しているῌ この点からも῍ 今日に
ῌῌ 外食産業市場の停滞
おいて市場成熟の度合いが進展し῍ 競合企業との
外食産業市場が成熟期を迎えているということ
については῍ 茂木῍ 小田等の成果によって既に指
摘されているῌ よって重複を避けるため深くは触
れず῍ 次の , 点についてのみ言及するῌ
競争が激化していることを窺い知ることができ
るῌ
῍ῌ
成熟期における外食企業のコスト削減の
ための食材調達
一つは῍ 売上金額の停滞であるῌ 表 + は外食産
業市場の動向を示したものであるῌ これをみる
ῌ 調理の外部化の進展
と῍ 外食市場規模は +331 年に ,3 兆円とピ῎クを
成熟期に入り῍ 競合者との競争が激化したこと
迎え῍ その後῍ - 年連続で市場規模が縮小してい
から外食産業全般においてメニュ῎価格を低下せ
るῌ また῍ 小論で対象とする事業所給食産業も
ざるを得なくなったῌ これは῍ H 社の属する弁当
+331 年の , 兆 +,2-2 億円をピ῎クに - 年連続で縮
給食市場においても同様であり῍ H 社の販売する
表 +
外食産業市場の動向
῏単位 : 億円῍ ῍ῐ
+33* 年
+33+ 年
+33, 年
+33- 年
+33. 年
+33/ 年
+330 年
+331 年
+332 年
+333 年
,*** 年
外食産業市場規模
前年比
,/0510*
+*34.
,1,5-*2
+*04+
,115-.+
+*+42
,1150/*
+**4+
,115*.,
3342
,125000
+**40
,205/*,
+*,42
,3*51*,
+*+4/
,1.530+
3.40
,1-51++
334/
,1+510/
334-
給食主体部門
+3,5+1+
,*-5+*0
,*15,1-
,*25**,
,*35/*.
,+,5*/.
,+25/20
,,,5/3/
,+251+-
,+,5-+*
,++52.1
+250*+
+350*1
,*5011
,*522-
,+5,00
,+5-/2
,+5033
,+52-2
,+51.0
,+5-+*
,+5+3/
+,5..05+/2
+-5*105/-.
+-52.3
052,2
+.5*10
052*1
+.5.,.
052.,
+.5.00
0523,
+.512,
053+1
+.530*
05212
+.5233
052.1
+.5//0
051/.
+.5.13
051+0
0.5/23
035,*,
1*5*02
0350.2
015/-2
0050+,
0153+0
025+*1
005,.2
0+5.*+
/353+2
うち事業所給食
社員食堂等給食
弁当給食
飲料主体部門
῏出所ῐ 外食産業総合調査研究センタ῎ ῑ外食産業統計資料集ῒ ῏,**,ῐ より作成ῌ
187
成熟期における事業所給食企業の食材調達に関する一考察
弁当の価格は ,*** 年の .-* 円ῌ食から ,**. 年の
低下させ῍ 総コストを削減するためであるῌ
-2* 円ῌ食へと低下しているῌ H 社は食材率 ῐ食材
では῍ これらの効果について考察してみようῌ
仕入額ῌ販売金額ῑ を約 -/ῌ に設定しているため῍ +
まず῍ 食材費の低下についてであるが῍ 表 / は国
食あたりの食材費は +/*./ 円から +-- 円へと低下
産冷凍野菜と中国産冷凍野菜との価格差を示した
することとなったῌ このうち῍ 毎食必要な米飯に
ものであるῌ ここでは῍ 外食産業が調達している
関しては + 食 0* 円程度と変化が無く῍ 固定化さ
国産冷凍野菜と中国産冷凍野菜の仕入価格につい
れていたことから῍ ῒおかずΐ となる食材の費用を
て記載している統計資料がないことから῍ 前者に
+ 食あたり 3*./ 円から 1- 円へと約 , 割削減した
関しては日本冷凍食品協会の資料から生産金額
ことになるῌ
を῍ また῍ 後者に関しては野菜供給安定基金の資
このような状況から῍ H 社では今まで以上に加
料から輸入価格 ῐCIF 価格ῑ を参考としたῌ そのた
工済みの廉価な輸入野菜を積極的に使用するよう
め῍ 同表から事業所給食企業が国産を使用した場
になったῌ ちなみに῍ 表 - は H 社が使用している
合と中国産を使用した場合との格差を考察するに
冷凍野菜を示したものであるが῍ これをみると῍
あたり῍ 事業所給食企業は国内の冷凍野菜製造
カット済みの根菜類῍ 果菜類等の中国産を幅広い
業者῍ 冷凍野菜開発輸入業者とそれぞれ直接取引
.ῑ
品目にわたり購入していることが分かる ῌ これ
をする῍ 国内の冷凍野菜製造業者῍ 冷凍野菜開
は῍ 売上金額に占める食材費῍ 人件費が大きな割
発輸入業者のマ῎ジンが同一である῍ 配送等納
合を占めるなか ῐ表 .ῑ῍ 廉価な中国産を使用する
品条件が同一である῍ と仮定するῌ すると῍ ῒさと
ことにより食材費を低下させ῍ また῍ 加工済みの
いもΐ῍ ῒほうれんそうΐ ともに/ῑ῍ 中国産は国産の
野菜を使用することにより῍ 調理場での人件費を
- 割程度の価格水準にあり῍ これを使用すること
による食材費削減の効果は大きいと推測すること
表 ,
外食産業のメニュ῎価格面での施策
ῐ単位 : ῌῑ
合計
価格の値上げ 価格の据置き 価格の引下げ
+332 年
,*** 年
+**4*
+**4*
040
/41
/-4.-43
-34.14,
NO
つぎに῍ 人件費の低下についてであるが῍ 中国
不明
で既にカットした野菜を使用する場合と日本で野
*42
-4-
菜を購入し῍ それをカットした場合の加工コスト
ῐ出 所ῑ 日 本 フ ῎ ド サ ῎ ビ ス 協 会 ῒ外 食 産 業 経 営 動 向 調 査 報 告 書ΐ
ῐ,***ῑ より作成ῌ
表 -
ができるῌ
はどの程度異なるのかを推計してみようῌ ここで
は῍ カット作業は比較的単純な労働のため῍ 両国
H 社が使用している輸入冷凍野菜 ῐ,**- 年῏,**. 年ῑ
商品名
いんげん
きくらげ
くわい
ごぼう
ごぼう
ごぼう
こまつな
さといも
さといも
しいたけ
だいこん
たけのこ
たけのこ
ちんげんさい
なす
にんにくの芽
れんこん
加工内容
産地
.῏/ cm カット
/῏2 mm スライス
/ mm スライス
乱切り
千切り
笹がき
.῏/ cm カット
丸型
/ mm スライス
+ῌ. カット
乱切り
乱切り
千切り
.῏/ cm カット
乱切り
.῏/ cm カット
乱切り
中国福建省
中国福建省
中国福建省
中国山東省
中国山東省
中国山東省
中国山東省
中国山東省
中国山東省
中国淅江省
中国福建省
中国淅江省
中国淅江省
中国山東省
中国淅江省
中国福建省
中国淅江省
ῐ出所ῑ H 社からのヒアリング調査より作成ῌ
包装形態
+* kg 袋
+ kg῔+* 袋入
+ kg῔+* 袋入
+* kg 袋
+ kg῔+* 袋入
+ kg῔+* 袋入
+ kg῔+* 袋入
+* kg 袋
/** g῔,* 袋入
/** g῔,* 袋入
+* kg 袋
/** g῔,* 袋入
+ kg῔+* 袋入
/** g῔,* 袋入
+* kg 袋
/ kg῔, 袋入
+* kg 袋
農村研究 第 +** 号 ῏,**/ῐ
188
表 .
表 /
外食産業における売上金額に占める食材費
および人件費の割合
῏単位 : ῍ῐ
食材費
一般飲食店
病院給食
事業所給食
-.4,
-24.
.24+
国産冷凍野菜と中国産冷凍野菜の価格差
῏単位 : 円ῌkgῐ
価
人件費
-+4,
-/4+
-.40
῏出所ῐ 農林水産省 ῑ外食産業原材料需要構造調査結果の概要ῒ
῏+33/ῐ より作成ῌ
ῌ 中国産さといも
῍ 国産さといも
ῌῌ ῍
῎ 中国産ほうれんそう
῏ 国産ほうれんそう
*4+*,
,30
῎ῌ ῏
の従業員において生産性格差が発生していないこ
と῍ 日本向けであるため῍ 両国でのカット規格は
格
+*.
-0+
*4-
῏出所ῐ 日本冷凍食品協会 ῑ冷凍食品に関連する諸統計ῒ ῏,***ῐ῍ 野菜
供給安定基金調査情報課 ῑ輸入野菜の動向ῒ ῏,***ῐ より作成ῌ
῏注ῐ 中国産は輸入価格῍ 国産は生産価格であるῌ
同一であること῍ 人件費に注目するため῍ 両国で
カットする野菜の価格は同一であることを前提と
が低下するῌ こうしたことから῍ H 社は冷凍野菜
するῌ そうしたうえで῍ + t の野菜をカットするに
開発輸入業者に対して使用量῍ 使用頻度の高い商
あたり῍ 両国共に従業員 +* 人で . 時間を要する
品を +* kg 袋の包装形態で輸入するように依頼し
0ῐ
とする ῌ また῍ 中国の女工ひとりあたりの月給
たῌ この結果῍ 表 - にみられるように῍ いんげん
を + 日 2 時間労働῍ 月 ,/ 日勤務の条件で + 月 0**
カット῍ ごぼう乱切り῍ さといも῍ だいこん乱切
元と仮定し῍ 時給を算出すると῍ - 元 ῏+ 元῔+- 円
り῍ なす乱切り῍ れんこん乱切りの 0 品目が既に
とすると῍ -3 円ῐ となるῌ ゆえに῍ 加工コストは +
導入されているῌ 同包装形態の場合῍ 包材コスト
t あたり - 元 ῏-3 円ῐ ΐ. 時間ΐ+* 人῔+,/0* 円と
を削減できるうえ῍ 袋詰め作業も簡素化できるた
であるῌ 一方῍ 日本の従業員の時給を + 時間 2**
め῍ コストは +* 円ῌkg 前後安くなるῌ ゆえに῍ H
円とすると῍ 加工コストは + t あたり 2** 円 ΐ .
社では包装形態の大型化を進展させることによっ
時間ΐ+* 人῔- 万 ,,*** 円となるῌ すなわち῍ 労
て῍ 労働コストだけではなく῍ 食材費の削減にも
働コストの安い中国への ῑ調理の外部化ῒ を進展
取り組んでいる3ῐῌ
させることによって῍ + t あたり - 万 ..* 円῍ 実に
約 +3./ 倍ものコスト削減が可能となるのであ
る1ῐῌ
῍ 条件提示による過剰商品の調達
冷凍野菜はある時期に一度に大量の商品を加
工ῌ生産するうえ῍ 賞味期限が製造日から , 年間
前述のように῍ 社員食堂等給食市場も成熟して
と長期間にわたるῌ それゆえ῍ 生鮮野菜に比較し
いることから῍ H 社だけではなく῍ G 社において
て安定供給が容易であり῍ 価格も乱高下すること
も同様の傾向がみられ῍ 同社も開発輸入業者に対
はないῌ また῍ 原料である生鮮野菜をブランチン
して῍ みじん切り῍ +ῌ. カット῍ 斜め切り῍ スライ
グ後に凍結しただけの簡易な加工野菜であるた
ス῍ 乱切り等῍ 多様な形態に加工した冷凍野菜を
め῍ 品質の差異が小さく῍ 代替性が高いῌ こうし
多品目輸入するよう要望しているῌ こうした結
たことから῍ 外食企業およびそのベンダ῎企業は
果῍ 今日では多くの開発輸入業者が多品目多規格
冷凍野菜の調達においてより良い条件が提示され
にわたって中国産冷凍野菜を輸入している2ῐῌ
た場合のことを考え῍ リベ῎ト締結や PB 商品生
ῌ 包装形態の大型化
産等メリットのある条件が提示されていない限
業務用の冷凍野菜の場合῍ 包装形態は ῑ/** gΐ
り῍ 特定企業と契約取引することは極めて少な
,* 袋入ῒ と ῑ+ kgΐ+* 袋入ῒ が一般的となってい
いῌ
るῌ ところが῍ H 社のように + 日 , 万 .,*** 食も
このような取引環境のなか῍ 輸入冷凍野菜市場
の食数を調理する場合῍ 一度に大量の野菜を使用
も成熟期を迎え῍ 冷凍野菜開発輸入業者間では価
するため῍ /** g や + kg の袋をひとつずつ開け῍
格競争が進展したため+*ῐ῍ 外食産業の至るところ
しかもその包材を毎回捨てる行動をとれば生産性
で仕入ル῎トの切替えが発生することとなったῌ
成熟期における事業所給食企業の食材調達に関する一考察
189
冷凍野菜開発輸入業者の場合῍ 前年実績をもとに
切な数量を発注することが困難であったῌ ちなみ
原料となる野菜の作付けを行い῍ それから商品を
に῍ + ケ῎ス ῐ/** g῔,* 袋入῕+* kgῑ の包装形態で
生産することが多いため῍ これにより῍ 大量の
あれば῍ 個数は -,*῏/** 個となり῍ その幅は最大
デッドストックを抱える企業が多数出現したῌ 冷
+2* 個となるῌ ゆえに῍ 仮に + 万個を発注する場
凍野菜の保管には῍ 半月あたり約 , 円ῌkg の保管
合῍ 最低数量に合わせれば -, ケ῎ス῍ また῍ 最大
費用がかかるうえ῍ 廃棄するにも最低 -* 円 ῌ kg
数量に合わせれば ,* ケ῎ス必要となり῍ +, ケ῎
程度の費用を必要とするῌ よって῍ 冷凍野菜開発
スもの格差が生じる可能性があったため῍ 場合に
輸入業者はこうした商品を迅速に販売するため
よって欠品が発生することがあったῌ
に῍ 低価格販売を進展せざるを得なくなったῌ
G 社ではこうした事態を回避するため῍ ,**. 年
そうしたなか῍ これに目を付けたのが弁当給食
から冷凍野菜開発輸入業者に対してさといもの袋
企業であるῌ これらが販売する商品は日替わりで
あたりの数量を ,0 個と限定し῍ しかも + 個あた
あるため῍ スポット的な食材を受け入れることが
りの重量を +1 ῏ ,- g という規格で PB 商品を生
可能であるῌ H 社ではこれを積極的にメニュ῎に
産させることにしたῌ しかも῍ 注目すべきは῍ 厳
取り入れ῍ 短期間で使用する条件を冷凍野菜開発
格な選別を行った商品の生産コストは῍ 選別工程
輸入業者側に提示することにより῍ 廉価商品を更
人員の増加῍ 作業効率の低下を招くことから割高
に低価格で調達しているῌ 例えば῍ ある冷凍野菜
になるため῍ 通常であれば῍ 購入価格も上昇する
開発輸入業者においてデッドストックとなった中
にも拘らず῍ 輸入冷凍野菜市場が成熟しているこ
国産冷凍小松菜カット / t について῍ + 日 , 万
とから῍ 買い手市場が形成されており῍ 従来通り
.,*** 食という食数を利用して + 食 -* g の分量で
の価格で納品させることに成功していることであ
毎週 , 回使用し῍ . 週間以内に使い切るという条
る+-ῑῌ こうすることによって῍ G 社はさといも +
件を提示し῍ 保管費用が嵩まないよう早めに処理
万個あたり最大で + 万 2,*** 円分の食材費を削減
することを確約することによって῍ 通常価格より
することができるようになった+.ῑῌ こうした動向
も . 割以上も安く購入したことがあるῌ H 社で
は H 社にもみられるようになってきており῍ ブ
は῍ 同対応によって競合者との競争に優位を発揮
ロッコリ῎等さといも以外にもその導入が検討さ
することができるとともに῍ 副菜の食材費を削減
れているῌ
した分を主菜の食材費に振り分けることもできる
++ῑ
῍ 安全性への対応
ため ῍ 顧客を引付ける食材を多少高くても使用
G 社は安全性に関しても積極的に取り組んでい
できるようになり῍ 商品の差別化戦略も講じやす
るῌ 例えば῍ 残留農薬問題で特に注目された中国
くなっているῌ
産冷凍ほうれんそうの場合῍ 同社では῍ ῒ農地ΐ῍
しかし῍ 以上のような対応が講じられるように
ῒ農薬ῌ肥料ΐ῍ ῒ栽培ΐ῍ ῒ残留農薬検査ΐ῍ ῒ工場ΐ῍
なったため῍ 過剰が新たな過剰を生むことにな
ῒリスク管理ΐ῍ の 0 項目について独自に基準を設
り῍ 通常価格で商品が流通せず῍ 輸入冷凍野菜の
定するとともに ῐ表 0ῑ῍ 同社の担当者が冷凍野菜
相場がさらに下落するという影響が発生してい
開発輸入業者の担当者と海外産地に同行し῍ その
+,ῑ
内容をチェックしているῌ このように῍ G 社では
ῌ 商品規格の厳格化
安全性にも留意したうえでのコスト削減を追求し
これまで G 社が購入していた ῒさといもΐ は
ているῌ
る ῌ
/** g 袋あたり +0῏,/ 個という規格であったῌ 外
一方῍ H 社では食材仕入担当者が海外産地に同
食産業では῍ バラ凍結されている商品を発注する
行することはないものの῍ 冷凍野菜開発輸入業者
とき῍ 食数を考慮し῍ 何個という単位を用いるこ
に対して中国および日本で実施した残留農薬検査
とが多く῍ この場合῍ 発注する個数が多いほど適
や細菌検査の結果報告書の提出を求めるなどの対
農村研究 第 +** 号 ῏,**/ῐ
190
表 0
項
G 社における中国産冷凍ほうれん草の取扱い基準
目
農地
農薬ῌ肥料
内
容
+
過去に栽培した作物及び使用した農薬が確認できる書類を有している
,
土壌ῌ水質検査を実施している
-
自営農地もしくは契約農地のいずれかで栽培している
.
常駐管理者の存在
+
使用する農薬は厚生労働省が定める残留農薬基準値がある῍ また῍ 農林水産省で登録されていること
,
自社 ῏外部検査機関を含むῐ にて残留農薬検査が実施でき῍ 結果を管理している
-
農薬ῌ肥料の使用 ῏散布方法等ῐ について管理者が存在している
.
農薬の使用日ῌ使用量ῌ使用回数の管理ができる
/
使用前ῌ使用後の農薬について適正な管理 ῏処理ῐ をしている
栽培
+
栽培管理表にて計画的な栽培を行っている
残留農薬検査
+
収穫前原料の検査 ῏農地区画毎ῐ
,
工場搬入時の原料検査 ῏農地区画毎ῐ
-
半製品についての検査 ῏農地区画毎ῐ
工場
リスク管理
+
加工工程表の作成と実施管理
,
原料毎 ῏農地区画毎ῐ のロット管理 ῏他区画の原料と混在しないようにῐ
-
異物除去への対策 ῏金属探知機等ῐ
.
ブランチングῌ冷却ῌ凍結の温度管理 ῏記録管理ῐ
+
輸入停止になった場合の対応 ῏使用数量の確保ῐ
,
代替品のトレ῎サビリティ῎ ῏既存取り扱い商品と遜色の無い品質及び安全管理が可能なことῐ
῏出所ῐ G 社資料から作成ῌ
応によって使用する野菜の安全性を確認してい
るῌ
ῐῌ お わ り に
では῍ わが国の冷凍野菜製造業者はどのような
展開方向をとることが必要なのであろうかῌ その
ひとつに῍ 食感や味覚等の品質を強調し῍ 製品差
別化戦略に傾斜することによって上述の動向とは
業務用需要のなかでも特に引合いが強いといわ
異なる方向を選択する道があるῌ だが῍ 冷凍野菜
れる輸入冷凍野菜を対象に῍ 事業所給食企業がコ
はあくまで῍ 料理の素材であり῍ 必ず調理してか
スト削減のために導入している食材調達を中心に
ら食するため῍ 調味料の品質や調理技術が向上す
分析した結果῍ 事例企業は῍ ῌ 調理の外部化の進
るとともに῍ それへの要求は小さくなると推測さ
展῍ ῍ 包装形態の大型化῍ ῎ 条件提示による過剰
れるῌ また῍ 作物によって異なるが῍ 冷凍野菜の
商品の調達῍ ῏ 商品規格の厳格化῍ という行動を
場合῍ 生産に際して複数回の洗浄工程を経ること
とっており῍ コストのなかでも大きな割合を占め
から῍ 風味や栄養成分が低下することがあり῍ 差
る食材費と人件費の削減に取り組んでいたこと῍
別化が困難であるという要素も存在しているῌ そ
また῍ 安全性にも留意していることを明らかにし
してさらに῍ 事業所給食を対象とした場合῍ 食材
たῌ そのため῍ 供給者側は今日の業務用需要を満
費が低いため῍ 品質が良くても高価な食材は使用
たすにあたり῍ 新たな労働の強度と更なる低価格
できない可能性が高い+/ῐῌ したがって῍ 製品差別
路線の追求を同時に必要とされることになったῌ
化戦略を選択した場合の効果は限定的であると考
しかも῍ コトラ῎ῌア῎ムストロング ῏,**+ῐ の製
えられ῍ それよりもコスト削減を追及していくこ
品ライフサイクル論によると῍ 成熟期は῍ 導入期῍
との方が重要になっていくであろうῌ
成長期に比較して長く続くとされており῍ 外食産
表 1 は経済産業省 ῑ工業統計ῒ よりわが国の食
業市場では競争が引き続くと予想されることか
料品製造業の産業構造を示したものであるῌ これ
ら῍ これへの対応は重要となるであろうῌ
をみると῍ + 人あたり有形固定資産が低い産業ほ
成熟期における事業所給食企業の食材調達に関する一考察
表 1
産業別にみた食料品製造業のパ῎ト率と
従業員 + 人当たり有形固定資産額
῏単位 : ῍῍ 百万円ῐ
産業分類
パ῎ト率
従業員 + 人当たり
有形固定資産額
冷凍水産物製造業
野菜缶詰ῌ果実缶詰ῌ農産保存食料品製造業
パンῌ菓子製造業者
.-4.*4.
./42
,+41
-34*
./4.
+.4*
+*43
+043
34/
*4./
*4/,
*40*
*431
+4,3
+41.
-4-/
.4++
.4//
/4//
冷凍調理品製造業
畜産食料品製造業者
調味料製造業
製穀ῌ製粉業
動植物油脂製造業
糖類製造業
でんぷん製造業
191
後に急速凍結するだけであり῍ それほど高度な技
術を必要としないため῍ 冷凍水産物製造業と同等
の設備で生産が可能なうえ῍ パ῎ト労働力に依存
した生産システムを導入することができるからで
あるῌ したがって῍ 国内の冷凍野菜製造業は῍ 人
件費が中国等海外産地と比較して高いにも関わら
ず῍ 労働集約的生産構造にあると考えられるた
め῍ 上述の需要に対応するべく῍ 新たに生産工程
を組み入れると῍ 人件費が大きく増加し῍ その分
生産コストも高くなってしまうῌ しかも῍ 同生産
῏出所ῐ 経済産業省 ῑ工業統計表 ῏産業編ῐῒ ῏,**+ 年ῐ より作成ῌ
῏注ῐ +ῐ 上記の数値は従業者 -* 人以上の事業所に関するものであるῌ
,ῐ パ῎ト率は従業者数合計に占めるパ῎トῌアルバイト等の割
合であるῌ
構造の場合῍ 固定費が大きくないため῍ 規模の経
どパ῎ト率が高く῍ そうした産業は労働集約的な
取り組んでいくことが重要となろうῌ 言うまでも
生産構造にあると捉えることができるῌ ちなみ
なく῍ このことに関して冷凍野菜製造業者単独で
に῍ 冷凍野菜製造業は調査対象に含まれていない
の対応では実現困難であり῍ 原料を供給している
ものの῍ 冷凍水産物製造業と類似した構造にある
野菜産地等他の主体の協力が必要不可欠となろ
と推測されるῌ というのは῍ 上述のように冷凍野
うῌ こうした点について῍ 今後῍ 更なる研究成果
菜の場合῍ 原料をカットし῍ それをブランチング
の蓄積が望まれるῌ
済が働きにくいῌ ゆえに῍ 業務用需要に対応して
いくには人件費と原料費の圧縮に対して積極的に
注
+ῐ 日本施設園芸協会編 ῏,**+ῐ を参照ῌ 同成果では῍
め῍ 実際には若干この格差は縮まるῌ
国内の野菜産地に対してこのことを論じているが῍
2ῐ 菊地 ῏,**,ῐ を参照ῌ
この提言はそれだけに留まらず῍ 国内の食料品製造
3ῐ この他にも῍ ゴミの削減にも貢献するῌ 外食産業
業者にも該当すると考えられるῌ
,ῐ 同調査によると῍ 外食産業が輸入品を取り扱う第
総合調査研究センタ῎ ῑ外食産業廃棄物減量化等対
策事業報告書ῒ ῏+33.ῐ によると῍ 事業所給食企業は
一の理由として῍ 価格が国産に比較して安いことを
ゴミ回収῍ 処理上の問題点として῍ ῑ食材は一般に過
あげているῌ ちなみに῍ 農産物では .-./῍ となって
剰 包 装 で あ るῒ を 最 も 多 く あ げ て し て い た
いたῌ
-ῐ 例えば῍ 藤島 ῏+331ῐ῍ 高橋 ῏,**,ῐ などの指摘が
あるῌ
.ῐ 小田 ῏,**.ῐ は῍ カット済みの野菜を使用するメ
῏./.*῍ῐῌ また῍ 外食産業全体としても -2.+῍ と῍
同様の結果がみられたῌ このことからも῍ 大量調理
する事業所給食企業にとって包装形態の大型化はメ
リットが大きいといえるῌ
リットとして῍ 人件費削減の他に῍ ῌ 人手不足の補
+*ῐ 菊地 ῏,**.ῐ を参照ῌ この成果は῍ 冷凍野菜開発
助῍ ῍ 使用する水の削減῍ ῎ 廃棄物処理の回避῍ ῏
輸入業社は販路維持の為に顧客に対してリベ῎トや
調理場の縮小および厨房設備の簡素化等をあげてい
割引等を組み合わせたプロモ῎ションミックスを講
るῌ
じている実態を明らかにしているῌ この点からも輸
/ῐ ここでさといもとほうれんそうを取りあげるの
入冷凍野菜市場が成熟期を迎えていることを窺い知
は῍ 中国産冷凍野菜の中でも同野菜の輸入量が多い
ることができるῌ また῍ 価格動向に関し῍ 冷凍野菜
からであるῌ
開発輸入業者 A 社῍ K 社῍ L 社に対して調査したと
0ῐ 現地 ῏山東省ῐ でのヒアリング調査の結果から同
数値を適用したῌ
1ῐ ここでは῍ 関税や為替の影響を加味していないた
ころ῍ +332 年から ,**, 年にかけてすべての企業に
おいて低下傾向を確認することができたῌ なかで
も῍ さといもにおいて顕著であり῍ A 社では ,,*
農村研究 第 +** 号 ,**/
192
円ῌkg から +2* 円ῌkg へと K 社では +2* 円ῌkg か
食企業 H 社問屋NO社外食産業 という従
ら +/* 円 ῌ kg へ と L 社 で は ,./ 円 ῌ kg か ら +3*
来にはみられなかった流通経路が形成されていた
円ῌkg へと低下していた
++
H 社からのヒアリングによると 主菜にかける上
限価格は -/ 円ῌ食であるとのこと
+,
H 社は冷凍野菜の場合 すべてを問屋の NO 社か
+- 冷凍野菜開発輸入業者にとっても顧客の PB 商品
を生産ῌ販売することにより 他の業者に販路を容
易に切替えられるリスクを軽減することができると
いうメリットがある
ら購入しているが 冷凍調理食品に関してはメ
+. 仮に + 食につき さといもを + 個付けるとした場
カから直接購入しているものもある
冷凍調理食
合 G 社の + 日の提供食数は -/ 万食であるため 最
品市場も輸入冷凍野菜市場と同様に成熟期を迎えて
大で 0- 万円のコスト削減効果がある
おり デッドストックの廉価販売が進展しているな
+/ ちなみに 農林水産省統計情報部が平成 1 年に実
か H 社は冷凍野菜と同様にバイイングパワを発
施した 輸入農畜水産物流通調査報告書 によると
揮してメカから極めて廉価に買付けていた
し
外食産業は +*,*ῑ 程度の価格差でなければ国産
かも そうして買付けた一部の商品については NO
を選択しないという結果がでている
社へ転売していた
すなわち メカ事業所給
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193
成熟期における事業所給食企業の食材調達に関する一考察
A Study on Food Supply of O$ce Meal Service Company in the Period of Maturity :
A Case Study of Imported Frozen Vegetables
Masaya KIKUCHI (Graduate School, Tokyo University of Agriculture)
Recently, business-use as the measure for demand expansion of domestic vegetable has become a
focus of concern.
In this paper, I analyze the food supply in terms of cost reduction which has been introduced by a meal
service company.
The result of investigation clarified the following four actions.
+) Progress of
outsourcing of cooking, ,) enlargement of a packing form, -) food supply of overproduction goods by
presentation of conditions, .) strictness of a goods. Namely, o$ce meal service company was tackling the
curtailment of food expense and personnel expenses which account for a big part in cost.
I also examined the deployment direction of the domestic frozen vegetable manufacturer with regard
to these trends. The result shows that it is important to tackle compression of personnel expenses as well
as materials expenses due to the fact that although personnel expenses are high, the domestic frozen
vegetable industry is labor-intensive production structure.