「家畜福祉のグローバリゼーション と日本型家畜福祉のあり方」

「家畜福祉のグローバリゼーション
と日本型家畜福祉のあり方」
北海道大学
北方生物圏フィールド科学センター 耕地圏ステーション大学院
農学研究院 家畜生産学
近藤誠司
今なぜ家畜福祉か?
・消費者の意識
虐待があるとしたらやめてほしい
残虐な飼い方をした家畜の生産物は
購入したくない
・動物愛護
・ 食 品 の「量・質・環境負荷軽減・
動物福祉」は互いに独立ではな い 。
・食品の安心・安全
日本の法的規制
1973 動物の保護及び管理に関する法律
1975 犬及びねこの飼養及び保管に関する法律
1976 展示動物等の飼養及び保管に関する法律
1980 実験動物の飼養及び保管に関する法律
1987 産業動物の飼養及び保管に関する法律
1999 動物愛護管理法
EU・英国の家畜福祉に関する規制
EU における家畜福祉(Animal Welfare)に関する法規
1986 産卵鶏の保護
1999 ケージ面積の規制
2003 非エンリッチ・ケージの新設・改築・使用の禁止
1991 豚の保護
2001 成長した雌豚を繋留することの禁止、床面積などの規制
2003 新設・改築の禁止
(2013 全面禁止)
スイス・アルペン酪農の
ホエー飼養ブタ
中国・杭州南部農村の
昼寝ブタ
1998 8週齢以上の肉用子牛
の閉鎖型単飼ペンの新築・改築
禁止
(2008から飼養禁止)
Fox,1984より
英国
1822 牛に対する残虐と不当な扱いを防ぐRichard Martin法
1911 動物保護法(Protection of Animal Acts)—9回の改正
(以下が違法、虐待、不必要な苦痛、動物同士の闘争・いじめの関与、
理不尽な有毒物質・有害物質の投与、不適切かつ非人道的な手術、囲
われた動物のハンティング、処理して放した動物のハンティング)
1925−1977 芸動物、愛玩動物、闘鶏、動物遺棄、動物宿泊、乗馬、
イヌの繁殖、販売、蹄鉄工、残酷な繋留)
王立動物虐待防止協会
(RSPCA)
1822年設立、1832年王立に運営
経費(寄付と遺贈)
144億円/年
1968 農業法:農地で飼養されるあらゆる家畜の福祉の保護
1990−1993
1990—1998
1997
2003
1993
1990
市場における動物福祉規則
市場における作業標準
(輸送)動物の福祉規則(WATO)
EU委員会の動物輸送に関する規則と連携
屠場における家畜福祉に関する規則
肉用子牛の閉鎖型単飼ペン飼育の禁止
飼養動物福祉評議会(FAWC)
1979年 設立された諮問機関
政府に助言
ルース・
ハリソン著
1964
1925−1977 芸動物、愛玩動物、闘鶏、動物遺棄、動物宿泊、乗
馬、イヌの繁殖、販売、蹄鉄工、残酷な繋留
残酷な繋留
販売
芸動物
家畜福祉の技術的課題
Animal Welfare
・動物は苦痛を感じうる
・ある種の苦痛は不必要
・不必要であるのに苦痛を与え続けるのは倫理の問題
→ 問題は殺すことではなく、殺し方である。
畜産を肯定
Animal Right
・あらゆる動物は生きる権利がある。
・何人もそれを犯すことはできない。
畜産を否定
避けられる苦痛?、避けられない苦痛?
・去勢
・密飼
・鼻輪
・霜降り形成のためのVA欠乏飼料
・断尾
家
畜
福
祉
の
度
合
収益
R.N.Bennet,Economics, In Animal Welfare (M.C.Appleby and B.O.Hughe eds.) Chapter 16, 235248,1997,Cab International, Wallingford.より引用・改編
次の5つの自由(5 Freedom)が国際的に認識されている。
1)
飢えや栄養失調から逃れられること
2)
恐怖と苦痛から逃れられること
3)
物理的不快感から逃れられること
4)
痛み、傷害および病気から逃れられること
5)
自然な行動パターンを発現できる自由
RSPCA福祉標準の5つの義務
・責任感と気配りのある管理
・高度な技能と知識に基づく誠実な管理者精神
・適切な飼育環境の設計
・思いやりのある取り扱い
・人道的な屠殺
「フリーダム・フード」保証計画1994年
5つの自由(5 Freedoms)
1)飢えや栄養失調から逃れられること
きちんとエサをやりましょうー飼料給与管理
Cow Comfort?
2)恐怖と苦痛から逃れられること
殴ったり、いじめてはいけません
3)物理的不快感から逃れられること
環境を整備しましょう
4)痛み、傷害および病気から逃れられること
衛生管理をちゃんとやりましょう
5)自然な行動パターンを発現できる自由
放生会
自然な行動パターンを発現できる自由
自然な行動パターン?
技術としての家畜福祉は普遍的か?
家畜福祉のグローバリゼーション?
家畜福祉は;
・消費行動のmotivationになる可能性?
食品の「安心」に関わる問題?
WTOの動向を含めて、「グローバリザーション」に
関連する問題?
グローバリザーションは何を意味するか(CIWFの理解)
CIWF:Compassion in World Farming
家畜生産物の市場は世界市場である。
市場がグローバル化するとともに物を売る側(流通)の力は
強く、幅広くなっている
消費者が欲する物を買うポテンシャルが制約を受けて
いる
生産者が彼らの動物の為に望むものが制約を受けて
いる
動物福祉と環境を気づかう能力は制約を受けている
WTOは;
福祉の領域で輸入品を禁止していない
輸入品が動物保護法または環境保護法に従わなけ
ればならないと主張していない
すなわち;
福祉基準を導入したいグループのいずれの国にも不
利益をもたらす
より高い福祉基準を持つ生産者、また促進したい生産
者に不利益
より高い福祉生産品を要求する消費者に不利益
CIWFの見解
・EUとそのメンバー国は、より高い福祉基準の導入を強い
られている。
・より進んだ福祉生産物のコストは上昇し、EUより低い基準
とEUより低いコストの輸入品に対して、競争的に不利にな
っている
・2つの生産物の差別化はWTO規則下で抑えられている。
・以上から動物福祉はグリーンボックス(緑の政策)に含ま
れるべき
・既にOIE(国際獣疫事務局、165カ国加盟)はこのプロセス
を始めている。
2000 EUはWTO農業委員会に「家畜福祉と貿易」という
論文を提出
「自由貿易を阻害せずに家畜福祉WTOに配慮した生産が
継続できるようにという非貿易的関心事項の検討を要請」
・欧米では「有機農業」は新たな成長産業部門
・国連コーデックス委員会の合意に基づく認証制度は家
畜福祉条項が盛り込まれている
EUにとって家畜福祉は経済戦争の側面もある
EU
WTO
Welfare Quality Project
2004年から5カ年計画
OIE
動物福祉の原則に関する指針」
2005年5月にOIE総会で決定
EU委員会による研究助成事業「家畜福祉品質」
“Welfare Quality Project”(2004年5月から5年間)
公式テーマ:食供給の各段階を通した家畜福祉の総合研究:
消費者の意向から家畜福祉の改善及び高家畜福祉飼養の保証まで
総予算額:1,700ユーロ(23.8億円、1ユーロ=140円)
欧州12カ国、39研究所・大学が参画
代表:H.J.Blokhous教授(オランダ・ワーゲニンゲン大学、レリースタッド農業研究所)
(1)家畜福祉に関する消費者、流通業者、生産者の意向
(2)確固たる家畜福祉現場評価法確立
(3)特定の低家畜福祉状況の改善戦略
以上がまず3年で先行
(4)家畜福祉モニターシステム及び情報提供システムの改良
→家畜福祉改善戦略
EU動物福祉5カ年行動計画2006ー2010年
(1)動物福祉の最低基準引き上げ
(2)福祉分野における研究および動物実験の3R原則促進
Replacement(代用), Reduction(減少), Refinement(改良)
(3)動物福祉に関する品質表示・規格化の導入
(4)家畜飼養者や一般市民への動物福祉に関する情報提供と
共通認識の促進
(5)EUは動物福祉分野における国際的なイニシアティヴを保持
「動物福祉の原則に関する指針(世界家畜福祉ガイドライン)」
OIE総会2005年5月採決
1)「動物の健康と福祉の間には重大な関連性がある」
2)「国際的に認知されている5つの自由」
3)「実験動物に関する指針(3つのR)
Replacement, Reduction, Refinement)」
4)「動物福祉に関する科学的評価」
5)「動物の利用の意義(動物の利用は人類の幸福に寄与している)」
6)「動物を利用する上で実行可能な範囲での最大限、動物の福祉が保
証される様な倫理上の責任」
7)「福祉自体が生み出す経済性」
8)「システムよりもその結果が福祉基準やガイドラインの基本」
動物福祉問題に対してOIEが関与する動物
いわゆる農用家畜(養殖漁業も含む)、伴侶動
物、研究・試験・教育用の動物、サーカス・動
物園の展示動物やレクレーション・娯楽に使用
される動物
特に農業や養殖漁業に使用される動物を
優先的に扱う
「魚の福祉ガイドライン」
2006年提案、2007年採決を計画
家畜福祉の概念とグローバリゼーション
安全・安心・技術
ー消費者の要求
ー生産者の要求
ー経済性
グローバリゼーションと、「人と家畜の関係」、「宗教」、
「(食)習慣」、「風俗」は
両立するのか?
中国・杭州市の
狗肉レストラン
にて、
人と家畜の関係や倫理は
地域性をもつ。
風土、宗教、・・・・
アジア的共生と欧米的区別
旧約聖書
・動物は人と異なる
Gen.9:13, Matt. 10:29-31
・動物を生贄に
Exo12:6, Lev.15:14,15,16:9
近代ヨーロッパの天国のイメージ
動物はシカとハトくらいしかいない
(ドイツ・ネレスハイムのベネディクト会教会の天井画)
仏教の曼陀羅
さまざまな動物が人とともに描かれている
(京都、大徳寺 仏涅槃図)
安田喜憲、動物たちの地球 138:176-177、1994
家畜福祉に関する意識調査(佐藤・岡本、家畜管理学会誌、32:43-53,1996)
595人にアンケート調査
日本人とオーストラリア人学生(Braithwaite and Braithwaite,1982)との比較
共通するもの
許容度の高いもの:食肉および医療目時での屠殺
許容度の低いもの:遊びとしての殺し、虐待
若干異なる点
食肉目的(日本14.5%、豪州8%)、毛皮利用(日本44.7%、豪州47.0%)
大きく異なる点
イヌとサル
生類憐れみの令(18世紀初め)
馬や牛も生類憐れみの令の対象とされただろうか?
老衰や病気の為に動けなくなった馬や牛を野山に捨てた場合の罰則は
シカ、イノシシ、オオカミなどの害獣も保護の対象?
トリ(カラス、鳶)サカナ,貝、亀も対象?
ペットは飼ってもいいのか?
人の保護は?
生類憐れみの令は何年くらい続いたか?
犬公方徳川綱吉の善政 板倉聖宣 (アニマ、106(1)44-49、1982)
「江戸動物図鑑」港区港郷土資料館、2002(刊行物発行番号14057-7511)
「江戸動物図鑑」港区港郷土資料館、2002(刊行物発行番号14057-7511)
5つの自由(5 Freedoms)
1)飢えや栄養失調から逃れられること
きちんとエサをやりましょうー飼料給与管理
2)恐怖と苦痛から逃れられること
殴ったり、いじめてはいけません
3)物理的不快感から逃れられること
環境を整備しましょう
4)痛み、傷害および病気から逃れられること
衛生管理をちゃんとやりましょう
5)自然な行動パターンを発現できる自由
→ 殺すことは問題ではなく、殺し方・飼い方である。
牛を快適に飼う
Cow Comfort
牛が快適に暮らす
Welfare
プロダクション・ウエルフェアという概念の確立
我々が勝手にComfortだ、Welfareだといっても国際的に通
用しない・・・
日本型(東洋型)家畜福祉基準の確立→2010年
プロダクション・ウエルフェアという概念
・5つの側面を総合評価するシステム研究
・ウエルフェアと家畜の健康、畜産物の質・量の研究
アニマル・ウエルフェア畜産技術開発