海外石炭灰規格の動向とその日本への影響について

2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
【講演Ⅷ】
海外石炭灰規格の動向とその日本への影響について
田野崎 隆雄
太平洋セメント㈱研究開発部
環境プロセスチーム主席研究員
1. は じ め に
石炭灰の大部分を占める「フライアッシュ」の処理は、石炭利用面・環境影響
評 価 面・有 効 利 用 面 か ら 多 く の 検 討・研 究 が な さ れ て き た 。学 術 用 語 と し て の「 フ
ライアッシュ」とは、熱処理工程において発生する大気汚染物質の「ばいじん」
を 捕 集 し た「 飛 灰 」の こ と で あ る が 、国 際 的 に 流 通 す る「 フ ラ イ ア ッ シ ュ 」と は 、
石炭微粉砕燃焼後に捕集された飛灰を特に「管理して出荷する製品」とされてい
る 。1950 年 代 よ り 米 国 で セ メ ン ト 混 合 材 と し て 規 格 化 さ れ て 以 来 、日 本 の JIS 策
定等、各国で各種の品質保証の取組みがなされ、各種建設用途に世界中で利用さ
れてきた。
2005 年 12 月 現 在 の 時 点 で 、
「 フ ラ イ ア ッ シ ュ 」の 国 際 規 格 ISO は 存 在 し な い が 、
その萌芽となるべきものが欧州で策定されつつある。それは近年の環境問題への
関 心 の 高 ま り を 配 慮 し た も の で 、 ISO 化 さ れ た 場 合 、 日 本 や ア ジ ア 地 域 に 大 き な
影響を与えることが予想される。そこでこれら各種の関連規格類の策定の状況を
理解し、長短を理解し、対策を考える必要がある。本報告は、技術報告としては
不 正 確 な 記 述 面 も 多 い こ と を 認 め る が 、伝 え た い こ と は ひ と つ で あ る 。
「日本は規
格戦略面において大いに認識不足であり、このままでは欧米にいいように戦略で
取 り 込 ま れ て し ま う 恐 れ が 非 常 に 大 き い 」。
EU か ら は WEES&RoHs 指 令 な ど 次 々 と 重 要 な 法 令 が 登 場 し ,拡 大 生 産 者 責 任
( EPR)・ 予 防 原 則 な ど の 理 念 に 沿 っ た 政 策 を 着 々 と 実 現 し つ つ あ り 、 環 境 政 策
を政策の柱にしようとしている。一方温暖化にかかわる京都議定書離脱に関わら
ず環境政策に後ろ向きの米国がよく引き合いに出される。石炭灰の規格化に関し
ても、果たして米国はこのまま世界規格と一線をひいたままでいるのか?大いに
注目しなくてはいけない。
欧 州 中 心 の ISO 化 動 向 は 2004 年 度 「 第 1 4 回 石 炭 利 用 技 術 会 議 」 に 報 告 し て
い る の で 、こ こ で は そ れ に 詳 述 で き な か っ た こ と を 報 告 す る 。2005.4 に ACAA( 米
石 炭 灰 協 会 )等 の 主 催 に よ る 、米 国 ケ ン タ ッ キ ー 州 で 開 催 さ れ た 第 一 回 WOCA( 世
界石炭灰会議)に参加した情報も報告する。なお本報告は報告者の個人的見解で
あり、所属する機関等との公式見解ではないことを考慮されたい。部分訳には、
報 告 者 は 責 任 を 持 て ず 、引 用 の 場 合 に は 必 ず 原 典 に 当 た ら れ た い 。ま た 著 作 権( ISO、
EN、 ASTM) に も 配 慮 し て い な い 。 原 典 入 手 法 等 の 質 問 は 下 記 宛 ま で 。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
連絡先
〒 285-0802 千 葉 県 佐 倉 市 大 作 2 - 4 - 2 太 平 洋 セ メ ン ト 株 式 会 社 中 央 研 究 所
田 野 崎 隆 雄 TEL043-498-3896 e-mail:[email protected] (規 格 関 連
アドレス)
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
2. 海 外 コ ン ク リ ー ト 用 石 炭 灰 規 格 の 現 状
表 1 に 2005.11 現 在 の 海 外 各 国 の コ ン ク リ ー ト 用 規 格 一 覧 を 示 す 。
表 1 日 本 以 外 のコンクリート用 フライアッシュの仕 様
表5 prEN450-1(2004)の目次
はじめに
1 適用の範囲
2 関連規格
3 用語と定義
4 混焼に伴うフライアッシュに対する特記事項
4.1混燃物
4.2混燃によるフライアッシュ適合性について
4.3環境との共存性
5 細目
5.1 概論
5.2 化学的特性
5.3 物理的特性
5.4 他の特性
5.5 ユーザーに対する情報提供
6 パーケージングとCEラベリング
7 サンプリング
8 適合判定
8.1一般事項
8.2統計的適合性
8.3一点データによる検定
AA 危険物質および放射能の放出に関して
AB Sフライアッシュに対する水量比の検定法
AC 溶解性P2O5の計量法について
AZA EU指令に対応した条項
文献
この中で注目すべきは、欧州共通のフ
ラ イ ア ッ シ ュ 規 格 prEN450(2004)で あ る 。
-1 と -2 が あ り 、-1 は セ メ ン ト 規 格 EN197
と の 整 合 性 が 主 で あ り 、-2 は デ ー タ の ば
らつきに対するサンプリングが盛り込ま
れ て い る 。本 文 は BS 版 に よ り 、日 本 規 格
協会でも閲覧できる。
し か し 、よ り 直 接 的 に 影 響 を 及 ぼ し て い
るものは地球温暖化問題への関心の高ま
り で あ る 。2005 年 度 は 同 規 格 の 改 定 を 欧
州 各 国 に 照 会 す る 時 期 に あ た り 、 pr( 予
備印)をはずすための解説が各国石炭灰
協会により行われている。表2にその目
次を示す。
特に注目すべきは表3に示すような、
「石炭以外の燃料の混合燃焼」を前提と
した灰品質の管理である。これは化石燃料使用量の削減を図る地球温暖化対策に
対応するとともに、特に「廃棄物燃料」利用のリスクへの懸念を配慮したものと
なる予定である。廃棄物利用に伴う重金属含有量の測定など(必須ではない)ユ
ーザーのリクエストに対応するようにとしている。
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表3
1
2
3
4
5
6
7
prEN450-1 記 載 の 混 焼 燃 料 一 覧
植物性物質、木屑・麦藁・オリーブ殻他植物性繊維
非乾燥木材、栽培バイオマス
肉骨粉
都市下水汚泥
ペーパースラッジ
石油コーク
実質上無灰の気体及び液体燃料
prEN450 の 1994 年 バ ー ジ ョ ン と そ の も と と な っ た BS3892 を 比 較 す る と 、 BS を
そ の ま ま 採 用 し た 項 目( Cl や MgO 含 有 量 )が あ る 反 面 、水 量 比 や SO3 量 な ど は 緩
和されている。これは欧州統合に伴い、良質のフライアッシュを入手できない諸
国の状況に配慮した結果である。特記すべきことはドイツなどでの湿灰の利用を
踏 ま え 、 湿 分 の 項 目 を 削 除 し た 点 で あ る 。 EN450-1994 年 バ ー ジ ョ ン と
prEN450-1(2004)の 比 較 を す る と 、 化 学 成 分 の 測 定 項 目 が 増 え て い る 。 特 に ASTM
同 様 に SiO2+Al2O3+Fe2O3 量 で 規 定 し た り 、遊 離 燐 酸 分 な ど の 規 定 が 増 え た 。ま た 、
オ プ シ ョ ン な が ら も Leaching に よ る 化 学 物 質 放 出 の リ ス ク 計 測 、放 射 能 測 定 も 加
え ら れ て い る (現 在 の と こ ろ そ の 検 定 法 は 指 定 さ れ て い な い )。
こ の prEN450 の 改 定 動 向 は 今 後 、 日 本 に と っ て も 予 断 を 許 さ な い 。 な ぜ 欧 州 動
向 が 日 本 に 関 係 す る か と い う と 、 EN (European Normalization) 規 格 が 審 議 な く
し て ISO 規 格 化 さ れ る こ と が 制 度 的 に 可 能 と な っ て い る か ら で あ る 。 そ し て ISO
化 さ れ た 場 合 、 ISO と 矛 盾 し な い よ う に JIS 規 格 の 方 を 改 定 す る 義 務 を 負 っ て い
るからである。
3. k 値 規 定
以下は、イタリアセメント協会が国内建設業界向きの説明をした資料の和訳で
ある。
欧 州 セ メ ン ト 協 会( CEMBUREAU European)に よ る と 、欧 州 の 非 混 合 セ メ ン ト( CEM
I 相 当 ) は 全 セ メ ン ト 量 の 32.6%に す ぎ ず ( 全 セ メ ン ト 量 234 百 万 t )、 残 り は 表
記載の混合セメントになる。
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
表4
EN 197-1 (2001)に 基 づ く 混 合 セ メ ン ト の 分 類
セメントタイプ
フライアッシュ混 合 率
呼称
CEM
Portland
fly ash
6÷20
%
(/A);
CEM
Portland c o m p o s i t e
6÷20
%
(/A);
CEM
Pozzolanic cement
11 ÷ 3 5
%
(/A);
CEM
Composite cement
18÷30
%
(/A);
フ ラ イ ア ッ シ ュ の 混 合 率 は 下 記 に よ り 制 限 さ れ る (EN 206 - 2001):
Ceq = C + kFA ≥ Cmin
W/Ceq ≤ [W/C]max
Δ C ≤ k(Cmin-200)
FA/C ≤ 0,33
い か な る k 値 を 採 用 す る か は 、各 国 の 裁 量 と い う 。EN206-1 の 該 当 部 分 の 和 訳 は 、
5.2.5
添加物の使用
5.2.5.
一般
コンクリートで使用される添加物のタイプ1およびタイプ2は初期試験でカバーされるべきである。
( Annex A を 見 よ )
注1
大量添加による強度以外の物性に関する影響は考慮すべきである。
も し 適 合 性 が 完 了 し た ら ,タ イ プ 2 の 添 加 は セ メ ン ト 含 有 量 お よ び 水 / セ メ ン ト に 関 す る コ ン ク リ ー ト
組 成 に つ い て 考 慮 す べ き で あ る( 5.2.5.2 を 見 よ )。他 の 概 念 ,た と え ば 等 価 コ ン ク リ ー ト パ フ ォ ー マ ン
ス 概 念 ( 5.2.5.3 を 見 よ ), k 値 概 念 規 則 の 緩 和 , 5.2.5.2.2 や 5.2.5.2.3 で 定 義 し た 高 い k 値 , 他 の 添 加
( タ イ プ 1 を 含 む )や 添 加 物 の 組 み 合 せ が 使 わ れ る な ら ,そ れ ら の 適 応 性 に つ い て 確 認 し な け れ ば な ら
ない。
注2
適合性の確認は以下の事項から得られる。
――
ヨ ー ロ ッ パ 技 術 承 認 , こ れ は EN-206-1 に 合 致 す る 使 用 に つ い て , と く に 言 及 す る こ と ;
――
適 切 な 国 内 基 準 や 対 策 で , EN-206-1 に 合 致 す る よ う な コ ン ク リ ー ト へ の 添 加 物 の 使 用 に 適 す る
コンクリートの使用において適切であること。
5.2.5.2
k -値
5.2.5.2.1
一般
k -値 の 概 念 は タ イ プ 2 の 添 加 に 認 め ら れ , 以 下 を 考 慮 す る 。
――“ 水 / セ メ ン ト 比 ” は “ 水 / ( セ メ ン ト + k ×添 加 物 ) 比 ” と 置 き 換 え る 。
――
最 小 の セ メ ン ト 添 加 量 が 必 要 と な る ( 5.3.2 を 見 よ ; 20 kg/m 3 )。
実 際 の k -値 は 相 対 添 加 (specific addition) に 依 存 す る 。
EN450 に 合 致 す る フ ラ イ ア ッ シ ュ , prEN13263:1998 に 合 致 す る シ リ カ フ ュ ー ム へ の k-値 概 念 の 応 用
は ,EN197-1 に 合 致 す る タ イ プ CEM 1 の セ メ ン ト も 合 わ せ ,以 下 の 条 項 に 従 う 。 K- 値 概 念 は フ ラ イ ア
ッシュ,あるいは,もし都合良く確立するならば,他のタイプのセメントへ応用されるべきである。
5.2.5.2.2
EN450 に 合 致 す る フ ラ イ ア ッ シ ュ へ の K- 値 の 概 念
K-値 を 考 慮 し た フ ラ イ ア ッ シ ュ の 総 量 は 以 下 の 要 求 事 項 に 合 わ な け れ ば な ら な い 。
フ ラ イ ア ッ シ ュ / セ メ ン ト ≦ 0.33( 質 量 比 )
さ ら に 多 量 の フ ラ イ ア ッ シ ュ を 使 う 場 合 ,水 /( セ メ ン ト + k ×フ ラ イ ア ッ シ ュ )比 お よ び 最 小 セ メ ン
ト含有量に数えるべきではない。
以 下 の k 値 は EN971-1 に 合 致 す る タ イ プ CEM 1
セメントを含むコンクリートについて許容できる。
CEM 1
32.5
k=0.2
CEM 1
42.5 あ る い は そ れ 以 上
k=0.4
である。
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こ の k 値 の 制 定 に 乗 り 出 し た の が Rilem( 国 際 材 料 構 造 物 試 験・研 究 機 関 連 合 )
内 の TCCUA199 委 員 会 で あ り 、 2002 年 設 置 さ れ 5 年 以 内 に CEN-TC104 に 答 申 す る
としている。フライアッシュなどの混和材が混合セメントとして持ちいれられた
場合、どの程度の部分がセメント成分として働くかが、今問われている。
k 値 自 体 は 1982 年 に フ ラ ン ス の Ferét’s が 、セ メ ン ト c、水 w 、混 和 材 a の 比
率 [c/(c+w+a)] 2 で 定 義 し た も の で あ る が 、 そ の 後 様 々 な 研 究 者 が こ の 値 を 定 義 し
なおし、様々な変形式がある。どのk値を用い、セメントに添加しうる混和材の
量(フライアッシュの場合、ポゾラン反応が代表的)を定めたらよいかが議論さ
れている。5段階あるステップ(1既存規格類の調査、2既存規格類の評価、3
改 良 提 案 、 4 Rilem 推 奨 仕 様 の 提 案 と ロ ビ ス ト テ ス ト 、 5 TC 報 告 書 作 成 ) の う
ち、まだ2段階目で躊躇している。その理由は多くある石炭灰フライアッシュの
品質多様性を、無視できないことにある。
4. 欧 州 発 信 の 性 能 規 定 と 建 設 材 料 の ユ ー ロ コ ー ド
コンクリート用など建設材料の「製品仕様」となると、すでに各国とも既存の
技術標準が存在し、それは地域性が強く、気候風土・歴史性・文化に大きく影響
し た も の が 多 い た め 、EU 地 域 内 に お い て も 、一 国 の 仕 様 の 欧 州 標 準 へ の 採 用( オ
ールドアプローチ)は他国への文化の強制とも受け取られかねない、政治問題化
に 転 化 す る セ ン シ ブ ル な 作 業 で あ り 、 実 現 不 可 能 と の 結 論 に 至 っ た 。 そ こ で EU
統 合 で 採 用 さ れ た の が 、構 造 物 や 施 設 に 必 要 と さ れ る「 性 能 」を 明 示 し て 、材 料 ・
工法・手順などを詳細に規定しない「性能照査型」設計手法である。これが「ニ
ュ ー ア プ ロ ー チ 」で あ る 。こ の 考 え か た は 欧 州 の み な ら ず 、1995 年 に 締 結 さ れ た
WTO の TBT 協 定 に お い て も 「 デ ザ イ ン も し く は 記 述 的 に 示 さ れ た 特 性 よ り も 性 能
に直目した産品の要件に基づく強制基準または任意規格を定める」こととされ、
ISO 規 格 が 非 関 税 障 壁 に な ら な い こ と が 要 請 さ れ た 。
建設資材も、域内各国間で輸出入されることが多いと考えられ、ニューアプロ
ー チ 政 策 の 対 象 と な っ た 。適 用 さ れ た の は 1987 年 の「 建 設 製 品 指 令( Constraction
Producs Directive:CPD)」 で あ る 。 CPD に は 以 下 の 特 徴 が あ る 。
・ 建 設 製 品 は 、そ れ 自 身 が 建 設 物 ユ ー ザ ー の 安 全・健 康 等 に 影 響 を 与 え る わ
け で は 必 ず し も な い 。建 設 材 料 の 特 性 は 、そ れ が 建 設 物 に 組 み 込 ま れ た 状
態で建設物の特性に影響を及ぼすことによって間接的にユーザーに影響
す る 。こ の こ と か ら CPD に お け る 基 本 的 用 件 は 建 設 製 品 そ の も の で は な く 、
建設物に対して規定される。
・ 従 っ て 、建 設 材 料 と い う カ テ ゴ リ に 含 ま れ る 材 料・資 材 は 、建 設 物 に 組 み
込まれた状態での特性を発揮することが期待される。
・ こ の 分 野 は 技 術 革 新 が 著 し い 分 野 で も あ る の で 、あ る 製 品 ジ ャ ン ル に つ い
て 欧 州 規 格 と し て 標 準 化 す る こ と が 適 切 で な い 場 合 や 、標 準 化 が 追 い つ か
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ないようなものがあることが認識され、個々の評価製品の品目について、
個 別 の 評 価・認 定 を 行 い CE マ ー キ ン グ の 表 示 を 行 う 仕 組 み が 導 入 さ れ た 。
しかし「建設物の特性」とそれに組み込まれる「建設製品の特性」を関連づけ
る仕組みは非常に複雑でわかりにくい。そのために以下の仕組みの導入も必要と
なった。
・ 同じ製品であっても建設物に組み込まれて使用される部位や使用目的に
よ っ て 求 め ら れ る 特 性 が 異 な る 。「 意 図 さ れ る 用 途 」 に 対 応 し て 定 め る 必
要がある。
・ 規 定 す べ き 建 設 製 品 の 特 性 は 、当 該 製 品 に ど の よ う な 役 割 を 与 え て い る か 、
どのような特性を全体の性能評価に用いるパラメータとして規定してい
るか、により変わってしまう。
そこで必須条件の「基本的用要件」と組み込まれる「建設製品の特性」の関係
を 明 ら か に す る「 解 釈 文 書 」の 設 定 が 必 要 と な っ た 。こ れ ら の 設 計 法 や 性 能 評 価 ・
検証法の「標準」を策定することである。その役目を担うのが「ユーロコード」
で あ る 。 CEN に よ る
ユ ー ロ コ ー ド は 当 初 62 の ENV 版 と し て 策 定 さ れ 、1992-1998 年 に 出 版 さ れ た 。試
行 期 間 を 経 て 2004 年 度 か ら 投 票 が 始 ま り 、加 盟 各 国 の 法 制 化 が 義 務 づ け ら れ て い
る 。 図 1 に コ ン ク リ ー ト 用 フ ラ イ ア ッ シ ュ 規 格 EN450 の 、 ユ ー ロ コ ー ド に お け る
位置づけを示す。
ユ ー ロ コ ー ド 0 E N 1990
構 造 設 計 の 基 礎
ユ ー ロ コ ー ド 1 E N 1 9 9 1 (1 )
E N 1 9 9 1 - 1 .2
密 度 ・自 重 ・積 載 荷 重
コ ン ク リ ー ト 構 造 の 設 計
E N 2 0 6 -1
雪 荷 重
E N 1 9 9 2 - 1 .1 な ど
E N V 1 3 6 7 0 -1
コ ン ク リ ー ト
E N 1 9 7 - 1
< 基 礎 >
E N 1 9 9 1 -4 ~ 7 熱 ・ 風 ・ 施 工 中 の 作 用
< 設 計 及 び 詳 細 化 >
構 造 設 計 の ル ー ル な ど
仕 様 ・性 能 ・製 造 ・適 合 管 理
普 通 セ メ ン ト の 構 成 ・
仕 様 ・適 合 性 基 準
地 盤 デ ー タ
E N 1 9 9 1 - 1 .3
火 災 時 の 構 造 物 へ の 作 用
ユ ー ロ コ ー ド 2 E N 1 9 9 1 (2 )
ユ ー ロ コ ー ド 7 E N 1997
< 荷 重 ・作 用 >
構 造 物 へ の 作 用
E N 1 9 9 1 - 1 .1
な ど
< 構 造 安 全 性 >
コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 施 工
E N 4 5 0 - 1
コ ン ク リ ー ト 用 フ ラ イ ア ッ シ ュ の
仕 様 ・適 合 性 基 準
E N 1 9 7 - 2
E N 4 5 0 - 2
セ メ ン ト の 適 合 性 評 価
フ ラ イ ア ッ シ ュ の 適 合 性 評 価
E N 1 9 6
E N 4 5 1
セ メ ン ト の 試 験 方 法
フ ラ イ ア ッ シ ュ の 試 験 方 法
E N 1 2 6 2 0
コ ン ク リ ー ト 用
骨 材
< コ ン ク リ ー ト 製 品 >
E N 1 0 0 8
混 練 用 水
E N 1 0 0 8 0
グ ラ ウ ト ・プ レ ス ト レ ス 鋼 材 な ど
鉄 筋
図1 ユーロコードのパッケージと適用製品規格群
現 在 の と こ ろ 欧 州 内 で す ら 非 常 に 合 意 形 成 に 難 儀 し て い る の に 、 ISO 化 は よ り
一 層 の 合 意 困 難 が 予 想 さ れ る の で 、 直 ち に ユ ー ロ コ ー ド が ISO 化 さ れ る 動 き は 見
られないがその動向は予断を許さない。しかし、このユーロコードがより共通性
の高いものとして欧州を越えて普及していくことは確実と考えられる。例えば地
盤 工 学 に お け る 「 土 の 判 別 と 分 類 」 に あ っ て 欧 州 は 0.063mm を シ ル ト と 砂 の 境 界
と し て い る が 、日 米 で は 0.0075mm で あ る 。こ れ が 欧 州 基 準 に 統 一 さ れ る と 、日 米
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
の検査機関がこうむる被害が甚大である。
これらに対しては日本の立場を踏まえ、日本案の並列に努めるなどの活動が行
わ れ て お り 、 土 木 学 会 ・ 地 盤 工 学 会 で は ISO 専 門 委 員 会 を 構 成 し 、 情 報 収 集 ・ 日
本 規 格 の 整 合 行 動 を 起 こ し て い る 。 ISO-TC71( コ ン ク リ ー ト ・ 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト
及 び プ レ ス ト レ ス コ ン ク リ ー ト ) の 近 年 の 活 動 状 況 は 、 ISO/TC71 第 12 回 総 会 報
告 な ど で 紹 介 さ れ て い る 。 ま た 地 盤 工 学 会 が 対 応 し て い る ISO-TC190 に よ る
Horizontal
Project と い う 測 定 法 の 統 一 は 、 図 2 の よ う な も の に な っ て い る 。
W P 1 S a m p le
c o lle c tio n
a n d p r e p a r a t io n
O b s e rv e rs
O th e rs M S a n d A S
W P 2 S a m p lin g
P r e tr e a tm e n t
CEN TC223
CEN TC230
M S ’s C o - f in a n c in g
CEN C C M C
W P 3 H y g ie n ic
P a ra m e te r s
CEN TC260
E U D G E N V /J R C
S te e r in g
C o m m itte e
W P 4 B io lo g ic a l
P a ra m e te r s
CEN TC292
廃 棄 物
EU DG RES
W P 5 O r g a n ic
C o n ta m in a n ts
CEN TC308
W P 6 In o rg a n ic
P a ra m e te rs
CEN TC 335
汚 泥
P R O JE C T
TEAM
W P 7 M e c h a n ic a l
P r o p e r tie s
D r a f t E N ’s
W P 8 L e a c h in g
te s t
W P 1 0 P r o je c t
M anagem ent
ENV_TC
C o o r d in a tio n g r o u p
B T T a s k F o rc e
IS O T C 1 9 0
CEN TC 345
土
IS O T C 1 4 7
T e c h n ic a l a n d
s t r a t e g ic is s u e s
水
W P 9 D a ta h a n d lin g
a n d in t e r p r e t a tio n
T C = C E N T e c h n ic a l C o m m it te e , M S = M e m b e r S t a te s ( E U ) , A S = A c c e s s io n S ta t e s
図2
6. ASTM
Horizontal
Project の 組 織 及 び 概 要
International
欧州先導の規格化に、全くアメリカが無視をしているわけではない。世界最大
の 規 格 制 定 機 関 で あ る( 米 国 試 験・材 料 協 会 、旧 称 は American Society for Testing
and Materials、2001 年 か ら ASTM International と 名 前 を 変 更 し た 。以 下 、ASTM)
は 、1898 年 に 設 立 さ れ 、そ の 歴 史 も 古 く 実 績 も ISO よ り は 大 き い 。ASTM も 独 立 し
た非営利団体として、材料・製品・システム・サービスに関する規格を会員の自
発 的 な 発 案 と 総 意 に よ っ て 作 成 し 、出 版 し て い る 。
ASTM は 約 130 分 野 に お け る
標 準 試 験 方 法 、仕 様 、作 業 方 法 、ガ イ ド 、分 類 、用 語 集 を 作 成 し て い る 。ASTM の
策定する文書類は以下の6種に分けられる。
・ 標 準 試 験 方 法 ( Standards
・ 標 準 仕 様 書 ( Standard
Test
Specification)
・ 標 準 作 業 方 法 ( Standard
・ 標 準 用 語 集 ( Stand a r d
Practice)
Terminology)
・ 標準ガイド(Standard
・ 規 格 分 類 ( Standard
Method)
Guide)
Classification)
ASTM の 本 部 ( ペ ン シ ル ベ ニ ア 州 ) は 技 術 研 究 施 設 や 試 験 設 備 を 持 っ て お ら ず 、
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実 際 の 作 業 は 世 界 各 地 の ASTM メ ン バ ー に よ っ て 自 主 的 に 行 わ れ て い る 。タ ス ク ・
グ ル ー プ は 規 格 の ド ラ フ ト を 作 成 し 、分 科 委 員 会 で レ タ ー 投 票 に よ っ て 検 討 さ れ 、
分科委員会で承認された後、同文書は専門委員会と本部に同時に提出される。す
べてのメンバーがそれぞれの規格について投票する機会が与えられている。反対
投票にはその理由を書く必要があり、それに対して、次の段階に進むまでに充分
な検討が行われる。規格の最終承認は、規格委員会によって行われ同委員会は規
格 の 開 発 が 正 当 な 手 順・手 続 き を 踏 ん で な さ れ た こ と を 確 認 し た 後 、ASTM 規 格 が
出版される。
こ こ で 日 欧 と 異 な る の が 米 国 規 格 協 会 ( ANSI) の 位 置 づ け で あ る 。 ニ ュ ー ヨ ー
ク に 本 部 を お く こ の 組 織 は 、自 ら 規 格 を 開 発 す る こ と は な く 、ASTM な ど の 規 格 作
成 機 関( SDO)を 公 認 し て 、SDO が 開 発 し た 規 格 類 を 米 国 標 準 規 格 と し て い く 。ANSI
が ISO に お い て 米 国 を 代 表 す る 会 員 団 体 と な っ て お り 、現 在 の ISO 委 員 長 も ANSI
出身である。また連邦政府にあって、標準化戦略策定をたてているのがNIST
(連邦標準・技術局)である。NISTでは各種標準物質も配賦しており、現在
は 米 国 産 石 炭 灰 フ ラ イ ア ッ シ ュ 試 料 1633b と い う も の が 購 入 で き る 。
環 境 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム ISO14000 シ リ ー ズ 策 定 に ア メ リ カ の 意 見 を 派 遣 さ
せ る た め に 、SC( サ ブ コ ミ ッ テ イ )の 幹 事 を 務 め る な ど 、ASTM か ら ISO-TC207 委
員 会 に 多 く 関 与 を し て い る 。 ま た k 値 で EN450 に 関 与 し て い る Rilem や カ ナ ダ 規
格 協 会( CSA)に も 委 員 を 派 遣 し て 、影 響 力 行 使 を 測 っ て い る 。た だ し 経 済 重 視 の
国であり、興味のない分野には全く関与しない。特に環境関連分野にそのきらい
がある。
ASTM で は イ ン タ ー ネ ッ ト に よ る 顧 客 サ ー ビ ス に 努 め て お り
http://www.astm.org/cgi-bin/
SoftCart.exe
/index.shtml?E+mystore で す
べての国から検索も行える。日本語翻訳サービスもあり、
今 日 , ASTM は 全 体 的 な 市 場 の 標 準 化 の 必 要 性 の 演 説 の リ ー ダ ー シ ッ プ の 役 割 を 果 し 続 け る 。世 界 へ
ま た ASTM の 国 際 規 格 の 入 手 の 可 能 性 を 高 め て い る 間 ク ラ ス の 最 も よ い の た め に 知 ら れ て い て 標 準 の
開 発 の た め に 練 習 し , メ ン バ ー を 助 け る 配 達 , ASTM は 革 新 的 な 技 術 の 使 用 中 の forefront に す る 標
準 の 開 発 仕 事 を あ る ,。
ASTM は 企 業 の 多 様 な 範 囲 の 選 択 の 標 準 の フ ォ ー ラ ム で あ り 続 け る 標 準 化 の 挑 戦 を 解 決 す る た め に
ASTM の 傘 の 下 に 一 緒 に 来 る 。彼 ら の 企 業 の た め の 一 致 の 標 準 を 置 く た め に 近 年 , 故 国 の 保 証 ま で 及 ぶ
問 題 に か か わ る 係 争 物 受 寄 者 は ASTM の 下 に 繊 維 地 下 の 実 用 性 の 視 覚 ケ ー ブ ル 取 付 け ま で 娯 楽 航 空 の
安全から, 一緒に来た。
標 準 は ASTM で で あ る 30,000 人 の ASTM の メ ン バ ー 上 の の 仕 事 成 長 し た 。 こ れ ら の 技 術 的 な 専 門 家
は 100 ヶ 国 上 の か ら の 生 産 者 ,ユ ー ザ ー , 消 費 者 , 政 府 及 び 学 究 的 な 世 界 を 表 す 。国 際 ASTM の 参 加 は
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
世界の物質的 な興味とのすべてへ開いている, どこでも。
(原文のまま)
のように閲覧できるようになった。それに伴い会員として学生会員も募集しほと
んど無料でリクルートなどのサービスも行っているほか、教育プログラムも多く
用 意 し て い る 。ASTM の 大 き な 特 徴 は 、会 員 が 多 岐 に わ た っ て い る こ と で あ り 、消
費者・競合他社等利害関係者が手を携えて、標準化作業に当たっていることであ
る 。 ま た 欧 州 規 格 と 異 な り 、 政 府 援 助 は な く 、 運 営 資 金 の 80%は 出 版 物 の 販 売 か
ら 、 20%は 会 員 が 支 払 っ て い る 。
1996 年 国 家 技 術 移 転 振 興 法 (PL104-113)に よ り 、
「 連 邦 機 関 並 び に 省 庁 は 、任 意 コ
ンセンサス規格団体が開発または採用する技術規格を使用し、かかる技術規格を
連絡機関並びに省庁が決定する政策目的または活動の遂行手段として用いるもの
と す る 」と さ れ 、CFR( 連 邦 規 制 基 準: Codes of Feeral Register)に お い て 、900
以 上 の ASTM 規 格 が 引 用 さ れ た 。 石 炭 灰 適 用 分 野 に あ っ て も 廃 鉱 へ の 埋 め 戻 し を 、
EPA( 環 境 保 護 局 ) と OSM( 鉱 山 局 ) が 策 定 し て い る 最 中 で あ る 。
ASTM 結 成 は 鉄 道 用 レ ー ル の 標 準 化 が 発 端 で あ る が 、1902 年 に C-1 委 員 会 が 発 足
し セ メ ン ト・コ ン ク リ ー ト 製 品 の 標 準 化 が 着 手 さ れ 、建 設 業 界 と ASTM の 連 携 も 幅
広い。米コンクリート協会、土木学会、損害保険研究所などが会員となって規格
化 を 推 進 し て い る 。建 築 基 準 に お け る ASTM 規 格 は 、国 家 基 準・州 基 準・地 方 自 治
体 基 準 の 要 求 事 項 を 満 た す た め の 手 法 を 提 供 し て い る 。1990 年 代 に は 建 物 性 能 に
関 す る ASTME-6 委 員 会 は 、 ラ ド ン ・ ア ス ベ ス ト 、 鉛 汚 染 な ど の 問 題 を 取 り 扱 っ た
規格開発で重要な役割を果たした。
石 炭 灰 フ ラ イ ア ッ シ ュ の 規 格 類 は こ の な か で 審 議 さ れ る 。 評 価 方 法 は C311 で 、
規 格 値 は C618 で 示 さ れ る 。ど ち ら も 制 定 以 来 30 年 、大 き な 変 更 点 は な い が 、1968
年 以 来 の C618(2003)版 を C618(1989)版 と 比 較 す る と 、 SI 単 位 併 記 の ほ か に 、 従
来 は Na2O 量 で 規 定 さ れ て い た ア ル カ リ 骨 材 反 応 対 策 が 、モ ル タ ル バ ー 法 の み に 変
更 さ れ た 。 ま た 各 値 の ば ら つ き 幅 を ±5%と す る 追 補 が 行 わ れ て い る 。
WOCA で 聴 取 し た ASTM 関 連 の 動 き で 大 き な も の は 、 Hg 規 制 に 対 す る 対 応 で あ っ
た。しかし廃鉱への埋め戻し同様、全土一律になるものではなさそうである。外
部 機 関 と の パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 志 向 す る も の と 思 わ れ る 。そ れ は RBCA( リ ス ク に
基 づ く 適 正 処 理 ) に よ る ASTM
E1739 に 準 拠 し た 意 思 決 定 シ ス テ ム で あ る 。
7. WOCA2005 ( World of coal Ash conference)
本 年 4 月 に は じ め て 開 催 さ れ た WOCAは 、 ケ ン タ ッ キ ー 大 学 と ア メ リ カ 石 炭 灰 協
会が中心となって主催したもので、石炭灰の利用、性状などの広い分野にわたる
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
技術について報告する国際会議であり、今後2年おきに開催するとされる。会議
は 、Aggregates、FGD、Policy、SCR、Chemistry、Cement and Concrete、OSM int
eractive Forum、Unburned Carbon Conference、Agriculture、OSM interactive
Forum、 Mine Reclamation、 New productsの 12の セ ッ シ ョ ン 、 4会 場 に 分 か れ て 熱
心 な 討 論 が な さ れ た 。参 加 国 は ア メ リ カ を は じ め と し て カ ナ ダ 、オ ー ス ト ラ リ ア 、
中 国 な ど 24か 国 、 石 炭 灰 の 関 係 者 だ け で 約 520名 が 参 加 す る 大 き な も の で あ っ た 。
日本からは5機関7名の参加があった。ケンタッキー州は、
図3
左 ( コ ー ヒ ー ブ レ イ ク 様 子 ) 右 ( Hemmings博 士 に よ る 講 習 会 )
1890年 代 世 界 一 の 産 炭 地 で あ り 、年 間 約 370万 ト ン の 石 炭 を 算 出 し て お り 、産 炭
地の中でもアパラチア炭が有名で、このために主催者のひとつであるケンタッキ
ー大学には、鉱山や石炭を専門とする学部が存在する。このような背景から今回
世 界 石 炭 灰 会 議 が ケ ン タ ッ キ ー 州 レ キ シ ン ト ン で 開 催 さ れ た よ う で あ る 。 NIST標
準 試 料 1633b も 、 こ の 地 域 発 生 の 石 炭 灰 を 調 整 し て 配 布 す る も の で あ る 。
会 議 は 202の 口 頭 発 表 と 42の ポ ス タ ー セ ッ シ ョ ン が あ り 、1論 文 あ た り 発 表 25分 、
質 問 5分 で 進 め ら れ た 。日 本 の 学 会 な ど と の 大 き な 違 い は Policyと い う セ ッ シ ョ ン
が あ り 、閉 鎖 炭 鉱 埋 め 戻 し の ガ イ ド ラ イ ン( OSMと 称 す )を 公 聴 会 の 形 で 議 論 し た
り 、 脱 硫 装 置 の つ い て い な い 発 電 所 に Hg対 策 と し て 、 石 灰 吹 き 込 み の ソ ル ベ ー 法
あるいは活性炭吹き込みの導入を指導したりするものであった。現在の日本の石
炭 利 用 技 術 か ら す る と 、 20年 前 に 行 わ れ て し か る べ き こ と を 今 や っ て い る と い う
感がぬぐえなかった。
石炭灰関係の企業展示も多かった。石炭灰を製品化する企業の展示が多く灰を
熱して溶融し、固めてタイル化する技術、石炭灰を分級する機械、ボトムアッシ
ュ に よ り コ ン ク リ ー ト を 造 る 技 術 、石 炭 灰 を 凝 集 す る 技 術 な ど が 展 示 さ れ て い た 。
日本国内の石炭灰に関する技術展示では、造粒化、脱臭剤などの製品としての展
示が覆ったと記憶していたので、石炭灰を産出する地域により開発技術に違いが
あ る と 感 じ た 。 Lafarge・ Cemexと い っ た セ メ ン ト メ ー カ の 展 示 が 多 く 、 日 本 同 様
石炭灰処理におけるセメント産業の貢献が大きいように感じられた。
会 議 に は 、ポ ス タ ー セ ッ シ ョ ン も 組 み 込 ま れ て お り 、42の 発 表 が 1時 間 半 に 渡 り
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
実施された。口頭発表と重ならないように配慮されており、発表は、石炭灰の発
生量、化学分析、強度、利用方法など多岐にわたるもので活発な議論がなされて
いた。石炭採掘後に空洞ができるが、この穴埋め材として石炭灰が多く使われ、
穴埋めには流動性が必要であり、流動化処理土として石炭灰が最適と喧伝されて
いた。
製鐵所から排出される高炉スラグは均一で利用しやすいことから、火力発電所
の近くに鉄工所がある日本の場合は、石炭灰よりも高炉スラグの利用が行いやす
いことになる。ところがアメリカでは、製鐵所が消費地の近くにある場合が少な
く、他方炭坑が近くにあるので、石炭灰の利用の方が進むことになる。これに対
して日本では、国内炭鉱がもはやないことや消費地の近くに製鐵所があることな
どから、石炭灰の有効利用が進みづらいことが実感された。日本では高炉スラグ
などの鉄鋼スラグは、鉄鋼メーカーの品質管理・評価が積極的で、スラグは有価
なものとして有効利用が図られ流通している。その逆にアメリカでは石炭灰の利
用に積極的なのである。
米 石 炭 灰 協 会 と の 議 論 で 、 ア メ リ カ に は 800の 火 力 発 電 所 と 448の 電 力 会 社 が あ
る と 聞 く 。 日 本 で は 40弱 の 火 力 発 電 所 を 、 12程 度 の 発 電 会 社 が 保 有 と 答 え た 。 ア
メリカでは、ひとつの町にひとつの発電所があり規模も小さい。日本の発電所は
アメリカから見れば、一つ一つはとても大きく、会長が日本を訪れた日本の発電
所の規模を見てその大きさに大変驚いたとのこと。日本は効率化のためひとつの
火力発電所を大きくして、経済的理由のため、石炭を外国から輸入する。これに
対してアメリカでは、地元の石炭を使って発電しているので、発電所がとても身
近に感じられているようであった。このため、発電所を地元の会社として意識し
ており、発電所から出た灰は当然地元で使うという考えがあり、利用も進んでい
るものと感じた。
ア メ リ カ は 周 知 の 通 り 地 球 温 暖 化 京 都 会 議 決 議( COP3 )を 離 脱 し 、環 境 対 策 に
不熱心であるようでいて、バイオマス燃料の混燃焼等効率化の研究を鋭意進めて
お り 、連 邦 政 府 の や る こ と と 研 究 は 別 物 と 割 り 切 っ て い る よ う で あ る 。日 本 で は 、
石 炭 灰 利 用 に 関 し て は 環 境 省 46号 と い う 環 境 基 準 が 参 照 さ れ る こ と が 多 く 、 こ の
公的基準値との比較で石炭灰が有害であるかを判断されることが多い。一方アメ
リカでは、石炭灰が有害であるかをステークホルダー全員で判断する仕組みにな
っており、会場のひとつでは石炭灰の有害性に関して討論が行われていた。その
際 に た た き 台 に な る の が TCLPと い う 酢 酸 で 抽 出 す る 判 定 法 で 、 元 来 は 都 市 ご み の
腐敗対策の検定であったので、石炭灰にそのまま適用していいのかという討議と
なっていた。
ACAAか ら ア メ リ カ の 石 炭 灰 を 各 数 k g ず つ 送 付 し て い た だ い た が 、 研 究 用 で あ
る の に 係 ら ず 、MSDSシ ー ト が 添 付 さ れ て い た 。項 目 は
1 .化 学 的 性 質( 直 接 経 口
→ 急 性 毒 性 、発 が ん 性 )、2 .放 射 能 、3 .物 理 的 性 質 に よ る 珪 肺 リ ス ク を 自 主 的
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2005 年石炭灰有効利用シンポジウム
に載せているものであった。
8. お わ り に
EN450改 定 も ASTMC618改 定 も 、現 在 の 時 点 で は 日 本 に 関 係 な い や 、と 思 わ れ る 向
きが多いと思う。しかし石炭灰やその製品の輸出入が現実のものとなった現在、
どのような規格によりその安全性を担保したら、海外で信用を得ることができる
のであろうか?
欧米では専門家集団にこのような問題に対する一連の作業を委譲している。委
譲された専門家は、それなりの報酬を受け取り、契約どおりの結果を提出する。
契約に書いてない責任までは対処しはしない(明らかに予想される損害はあらか
じめ保険を立てておくし、その面でうそをついた場合のペナルテイは大きい)。
技術者の商売は、国会議員のようにその専門分野で執行代行を委託されているこ
となのである。
ところが日本の商習慣では、誠意をもって素人にもわかりやすく説明しろとい
うことが大事である。このような日本で今、鉄筋の数が足りないマンションがう
ん ぬ ん で マ ス コ ミ を 賑 わ し て い る 。皆 自 分 が 責 任 を 負 い た く な い の は 当 然 だ か ら 、
知らなかったということにしておくのが無難である。説明も利用者にはもはやわ
かりかねるほど技術は複雑であるが、利用便益は大きいと思われたものの普及は
早い。しかし欧州の常識では、ルールは皆で作るものだ。ルール作りにこそ時間
をかけ、合意したルールには皆従う。
公害被害もそうであるが、無生物責任のない日本は被害者救済が後手に回り、世
論が紛糾してはじめて、結局規制強化を始めるサイクルの繰り返しである。そし
て環境基準は厳しければ厳しいほどいいのであろうか?経済的負担は誰がするの
であろうか?結局、発展途上国に汚染負担を負わすのが、経済的に有利という結
論になるのであろうか?
アメリカ国内線の航空機利用に当たり、携帯電話利用に対する規制がないよう
に見えたのも奇異であった。利用制限に関する特別なアナウンスはなかったし、
私の隣席の人は、離陸後も延々と携帯電話で話していたし、スチワーデスも全く
文句をいわない。滑走路に着くや皆電話を始める。他方報告者がその後着陸した
欧州の空港では、同じやり方を通したアメリカ人がスチワーデスに電話をもぎ取
られていた(欧州系の飛行会社であり、ロビーに着くまで携帯は使うなと何度も
アナウンスはあった)。アメリカ製の携帯電話が、飛行機の運航に影響を与えな
いようなつくりになっているとも思えず、これは規制のあり方の差と思える。日
欧のように規制先行の国と、アメリカのように原則自由の国の差を感じさせる一
面であった。
一 方 ISOや ASTMの 規 格 類 策 定 作 業 を み て 感 じ る こ と は 、専 門 家 集 団 が 自 分 た ち の
利益を誘導するために規格作りをやっているということが明確である。日本では
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規格というものは、公明正大であって、一機関の利益のために行うなどもっての
他 と い う 態 度 で 接 す る 。欧 米 で は 人 は 放 っ て お く と よ く な い こ と を す る( 性 悪 説 )
から文書で契約し悪いことをできないようにしようという習慣が普通なのに対し
て、日本では性善説を根底におき不言実行がよしとされる。規格化策定のプロセ
スが大事であるのに、それには参加せずに、決まってから何とかしようとする日
本。一歩日本の外に出るや、日本のやり方が少数派であることが身に沁みて感じ
られる。身をもって感じる以下の指摘を引用して、本報告は終わりとしたい。産
業技術環境局基準認証ユニットによる、わが国標準化活動をめぐる環境変化の4
点である。
1. 自己責任を前提とした規制改革の進展
2. 貿易の円滑化をめざした国際規格の活用
3. 国際標準化活動を産業競争力を強化する武器にする
4. 消費者の価値観の多様化に応じた情報提供
これらを石炭灰関連規格について当てはめた場合、いかなるものであろうか?
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たのさき
氏
名
田野崎
たかお
隆雄
太平洋セメント㈱研究開発部
環境プロセスチーム主席研究員
主要経歴
1961年1月
東京生まれ
1986年3月
山口大学大学院修了
1986年4月
小野田セメント㈱(現太平洋セメント㈱)入社、現在に至る
1999年10月
2003年3月
フ ラ ン ス 、 INSA-Lyon リ ヨ ン 科 学 技 術 院
博士(環境理工学)授与
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