音楽市場のマーケットセグメンテーション 選考基準尺度を用いて

音楽市場のマーケットセグメンテーション
選考基準尺度を用いて
日本大学法学部臼井ゼミナール
西村崇人
志田将利
濱田真理
木村華子
目次
I.
はじめに 問題の所在
A) 音楽市場の現在
B) 問題の所在
C) 研究目的
II. 先行研究レビュー
A) ライフスタイル変数に基づく市場細分化
B) 選好意識変数に基づく音楽市場細分化
III. 調査概要
A) 調査目的
B) 調査仮説
C) アンケートの構成と尺度の採点方式
D) アンケートの実施対象
E) プリテストの結果
IV. 調査結果と分析
A) 統計結果
B) 音楽に対する消費者の選好基準評価尺度の結果による因子分析結
B-1)因子分析の適合度検定
B-2)因子の選出
1
B-2a)因子の命名
B-2b)5 つの音楽選好基準因子
C) 因子分析を基にしたクラスター分析の結果
C-1)音楽市場細分化のクラスター分析の結果
C-2)クラスターの命名
C-3)クラスターの基本情報の分析
C-3a)性別
D) マーケティング知覚尺度得点の平均値比較
D-1) マーケティング知覚尺度全体の統計結果
D-2) 商品戦略の統計結果
D-3) 費用価格戦略の統計結果
D-4) チャネル戦略の統計結果
D-5) プロモーション戦略の統計結果
E) クラスター別にみるジャンル嗜好得点の平均値比較
F) クラスター別にみるマーケティング知覚尺度得点の平均値比較
G) 分析結果からの結論
V. 企業インタビュー
A) 企業インタビュー目的
B) 企業選定理由
C) 企業インタビュー内容
C1)ソニー
C2)ビクター
VI. 消費者インタビューによる実証
A) 消費者インタビューの目的
B) 消費者インタビュー対象者
C) 質問内容
D) 消費者インタビュー結果
VII. インプリケーション
A) 企業インタビューおよび消費者インタビューからの考察
B) デジタル音楽・経済志向群へのマーケティングアプローチの再考
B-1) 商品戦略におけるクラスター間の差異比較
B-2) 費用価格戦略によるクラスター間の差異比較
2
B-3) チャネル戦略によるクラスター間の差異比較
B-4) プロモーション戦略によるクラスター間の差異比較
C) 今後の課題
I.
はじめに 問題の所在
A) 音楽市場の現在
日本レコード協会統計によると1、音楽市場の CD に代表されるオーディオレコード
生産金額は 2009 年には 2500 億円を割り込み 2496 億円となった。これはオーディオ
レコード生産のピーク時であった 1998 年の生産金額と比べると約半分の規模にまで落
ち込みである。
その推移がよく表れているのはミリオンセラー作品数である。オーディオレコード
生産額のピークであった 1998 年 CD シングルの 20 作品がミリオンセラーを記録して
いたが、2009 年シングル CD のミリオンセラーは生まれていない。CD が売れなくな
った要因は、諸説唱えられているが2、中でも音楽配信の登場が大きな影響を与えたと
考えられている。2005 年 343 億円でしかなかった音楽配信の市場規模は、携帯電話向
けサービスを中心に着実に成長を続け 2009 年度の生産金額は 910 億円にまで成長した。
現在、CD などのオーディオレコード市場に比べると音楽配信市場はまだ小規模である
が、音楽市場全体でみれば音楽配信市場は大きな市場機会である。また、CD という媒
体が「衰退期」に入ったとも考えられ、この状況は一層進展していくと思われる。
B) 問題の所在
デジタルテクノロジーの進展は消費者の音楽消費行動を変化させた。従来までは店
舗に直接赴き CD を購買・レンタルしていたのが、音楽配信によって店舗に赴く必要
がなくなり、好きな時にその場で音楽を購入することができるようになったのである。
また、Youtube などの動画共有サイトで音楽を自由に視聴することもできるようにな
った。デジタルテクノロジーの進展によって、消費者は音楽を聴取する際の時間・空
間的制約から解放され、いつでもどこでも音楽にふれることができるになった。
この消費行動の多様化はレコード会社にとって新たな市場機会につながる可能性を
もっているが、その反面消費行動に対応しきれずに市場機会を見落とす危険性もはら
んでいる。表1のように 2000 年代の CD が売れない時代にも関わらず、主なレコード
メーカーの総売上高は伸びていたが、2007 年度から 2008 年度にかけてその総売り高
社団法人日本レコード協会 2009 年度「音楽メディアユーザー実態調査」の結果公表
http://www.riaj.or.jp/report/mediauser/pdf/softuser2009.pdf
2 八木良太 (2007)
『日本の音楽産業はどう変わるのか ポスト iPod 時代の新展開』東
洋経済新報社
1
3
が大きく減尐した。この現象には様々の要因が影響していると思われるが、一つの見
解としてはレコード会社が音楽市場の変化に対応しきれなくなり、消費者のニーズに
見合ったかたちで商品を提供できていないからと考えることができよう。
レコード会社は高い収益を確保できるため、CD を主軸にしたパッケージビジネスに
依存してきた。もちろんマスメディアで楽曲を聴かせ、商品を手に取らせようとする
プッシュ戦略はいまだに既存のレコード会社のマーケティング手法ではあるが、はた
して消費する選択が増えた現在の消費者にとってそれは今もなお有効なのであろうか。
メディアの多様化によって購買消費行動は「検索性」
「発信性」といった特性が3より
強く消費行動に反映されつつある。また、配信が普及することで音楽産業内でのレコ
ード会社の優位性は失われつつあるのが現状である。アップル社による iTunes ストア
の日本のサービスがいまや定着しているように、この配信市場において IT 関連企業や
通信事業者は容易に参入できるし、パッケージビジネスにおいても、レコード会社だ
けが行う独占的活動ではなく、音楽プロダクションをはじめ、レコード小売店など音
楽産業内の他企業も行っている。こういったことからレコード会社が音楽産業内で一
定の位置を占めるためには、今まで以上に消費者のニーズを見極めて商品を提供して
いかなくてはならない。
表1 主なレコードメーカー総売り上げ高
主なレコードメーカー総売り上げ高
レコード関連売上高
(百万円) 800,000
593,984 595,358 601,324 605,615 605,071 541,432
600,000
400,000
200,000
331,717 314,584 326,606 327,423 308,777 273,256
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
(年度)
(資料)
『情報メディア白書 2010』
(2009)電通総研編 p,66
研究の目的
3
山本仁志他 (2001)
『音楽ソフト市場における消費者選択の多様性に対する情報チャネ
ル効果 Winner-Take-Al 現象への Agent-Based Approach』
4
デジタルテクノロジーの進展によって消費者行動とニーズが大きく変化し、音楽市
場が CD パッケージから音楽配信へとシフトしつつある事に言及した。これをふまえ、
本研究は消費行動とニーズが大きく変化したと思われる 10~20 代若年層の選好、
属性、
マーケティング活動に対する感応度の変数を明確にし、音楽市場の現状とそれらの層
のニーズを確認し、今後の市場の動向を考察することでレコード会社の音楽配信市場
のマーケティング戦略に役立つアドバイスを提供することにある。
本研究は上記の視点から、首都圏在住の 10~20 代にアンケート調査を行い、消費者
の選好や意識を探り、因子分析とクラスター分析を用いて消費者層をいくつかのグル
ープに細分化し、今現在、音楽市場の大きな消費者層である 10 代~20 代の若年層を明
らかすることを試みるものである。
もちろん、従来においても音楽市場の細分化研究は行われてきた。しかし、CD 購買
を音楽の中心的な購買行動としてとらえた細分化研究にかたよっており、デジタルテ
クノロジーの進展による消費者行動の変化に着目し、音楽配信市場に言及した研究は
数尐ない。音楽市場における消費者行動研究においてこの点は憂慮すべき点である。
II. 先行研究レビュー
A) ライフスタイル変数に基づく市場細分化
ライフスタイルとは、人間の個性的な生き方や日常的な生活の行動様式を示すこと
ば”4であるが、この「ライフスタイル」変数に基づいて音楽市場の細分化研究を扱っ
た事例として、日経産業消費研究所(2000)があげられる5。彼らは、この研究で音楽 CD
ヒットのメカニズムを考えることを研究の動機としており、その際音楽 CD をふくめ
た音楽全般に対する消費者の接し方の違いを見分けることが重要だと考察した。また、
音楽消費というのが心理的要因に影響される分野であることを指摘し、音楽にかかわ
る消費者の心理面・行動面の差異を把握するためには、
「ライフスタイル」概念の利用
が有効であるとした。そこで 10~50 代男女に対し、まず、
「ライフスタイル」について
一般的消費生活の領域と音楽に関わる消費生活についての調査を行った。その調査を
分析し一般消費生活については変数が 4 因子、音楽に関わる消費生活については 2 因
子が抽出された。これらの 6 因子から音楽 CD 消費にかかわると考えられた 4 因子「オ
ピニオンリーダー性」、「個性化志向性」、「音楽関与性」、「流行音楽関与性」を細分化
変数とし、音楽 CD 消費に関して類似性をもったグループに分け、実証分析を行った。
細分化されたグループは「音楽好関与・個性派」
「音楽好関与・先導派」「流行音楽派」
4
大須賀明(1994)
『市場細分化の基礎概念』 大阪産業大学論集 社会科学編(91)41-51
日経産業消費研究所編 (2000) 『音楽 CD ヒットの構造 消費者のライフスタイルと
購入動向』
5
5
「同調派」
「音楽低関与派」の 4 つである。この細分化された消費者層ごとに CD 購入
動向といった属性変数や、好きな楽曲のタイプといった意識変数等をプロフィール変
数としてみたところ、差異がみられた。
「ライフスタイル」変数を使って市場細分化す
ることは音楽市場においても有効であるが、この研究では CD 消費動向に限って分析
されているため、現在変化した音楽消費行動を説明しきれないと考えられる。
表2 各ライフスタイル類型の CD 購入枚数
ライフスタイル類型
音楽低関与派
同調派
流行音楽派
音楽高関与・先導派
音楽高関与・個性派
半年間での音楽CDの購入枚数
シングルの平均枚数 アルバムの平均枚数
0.65
1.24
0.86
1.76
3.21
4.44
1.52
5.57
1.17
3.84
(資料)日経産業消費研究所(2000)
『音楽 CD ヒットの構造 消費者のライフスタイ
ルと購入動向』p,24
B) 選好意識変数に基づく音楽市場細分化
服部・國領(2007)6は消費者意識変数に基づいて音楽市場の細分化を試みた。彼らは、
インターネットに代表されるメディア環境ではレコード会社、卸、小売、消費者とい
った楽曲流通構造が揺らぎ始めており、新たな収益モデルを検討をするべきであると
いう視点で研究をはじめている。情報財の収益モデルが、新しい技術や消費者の消費
形態によって柔軟に対応することが重要であるということから消費者の潜在的にもつ
音楽の消費意識を細分化している。まず、彼らは日本に居住するインターネットのメ
ディア環境を有する男女に対して、音楽の消費意識に関する調査を行った。それを手
がかりに音楽消費に関する潜在的意識変数として 4 つを導き出し、これを細分化変数
として音楽消費について同じ志向を持つグループに分け、実証分析を行った。流行に
流されやすいという特性をもつ「同調派クラスター」。2 つめのグループは音楽に文化
的価値を認め、かつアーティストとの関係性を重視するという特性をもつ「社会派ク
ラスター」
。3 つ目のグループは音楽に関する意識がどれも平均的であるという特性を
もつ「主流派クラスター」
。4 つ目のグループは流行に流されることなく自らの価値で
楽曲を探し、聴くという特性をもつ「自立派クラスター」である。
実証分析の結果、マーケティング活動に対する感応度をきいた行動変数やインター
ネットの利用時間といった属性変数をプロフィール変数としてみると各グループ間に
差が見られた。活動筆者が考える音楽情報財の収益モデル 4 つ「無償著作物モデル」
、
服部基宏・國領二郎 (2007)
経営管理研究科
6
『デジタル財の市場構造と収益モデル』慶應大学大学院
6
「有償著作物モデル」
「再配分モデル」、
「互酬モデル」それぞれのマーケティング活動
を比べたとこと、
「自立派クラスター」はアーティスト関連商品を買うと、楽曲が無料
でダウンロードできるサービスといった「無償著作物モデル」に強く反応を示した。
「社
会派クラスター」
、
「主流派クラスター」はネットでドラマ挿入曲、CM タイアップ曲な
どが検索できるサービスといった「有償著作物モデル」や地方公共団体や NHK のよう
な公共機関が提供する音楽放送やコンサートといった「再配分モデル」に反応を示し
た。
「同調派クラスター」はインターネットの利用時間やブロードバンド比率といった
属性変数でみたとき高い比率であった。このように意識変数が市場細分化に有効な手
段である事が明らかにされた。
ここまで音楽市場の細分化研究を考察してきた。これらの先行研究で用いられた変
数が消費者のニーズや欲求の把握にある程度役立つことは間違いない。これらの先行
研究で共通していることは音楽の消費意識・行動を細分化変数として市場細分化を行
っていることである。つまり、音楽消費は“心理的要因が消費に影響する余地が格段
に大きい”7ということができる。しかし、これらの研究は音楽配信を利用したり、動
画共有サイトで音楽を視聴するといった音楽消費意識をあまり考慮していない。従っ
て、その点をふまえて音楽消費意識をとらえなおし、細分化研究を行わなくてはなら
ない。
Ⅳ.調査概要
A) 調査目的
前述した市場細分化を行うために、音楽消費者に対しアンケート調査を実施した。この
アンケート調査の実施によって消費者の属性、特性、そして音楽購買における選好といっ
た市場細分化するにあたり、有効な変数を導出する。
B) 調査仮説
本研究の調査用アンケートは「消費者の基本個人情報」
「音楽に対する消費者の選好基
準評価尺度」「音楽ジャンルに対する消費者の選好基準評価尺度」「主に使用する音楽再
生機器の所持」
「主に音楽を聴取する場面」および「レコード会社のマーケティング活動
に対する消費者の知覚尺度」の6つにより構成される。
B-1)
音楽に対する消費者の選好基準尺度
本尺度は消費者が音楽を選択・聴取する際に、考慮すると思われる項目を検討した。
この項目は前述した「消費者の多様化した価値観」に迎合するための手段としての市場
細分化を用いる際の基準となる項目である。
日経消費経済フォーラム会報 (2000)『音楽 CD の消費における消費者の「ライフス
タイル」による分類』
7
7
この項目は他の音楽購買の手段がある中で、消費者が音楽購買をする際に最も重要視す
る音楽の要素を計るために設けた。作成にあたっては、文献、雑誌およびその他統計資料
などを用いて、消費者の音楽購買の際に考慮すると思われる項目を検討し作成した。
作成した詳しいカテゴリと項目、及び項目の出典については以下を参照。
表1
カテゴリ1:生活
意味:生活の中で、音楽が便利に変えることを重視する
1
私はほしい曲がすぐに見つかるので、音楽配信を利用する傾向にある
2
私はインターネットで音楽を買う際、サイトの使いやすさを重視する
3
私は音楽を買う際、簡単に曲を試聴できるので音楽配信サイトを利用す
る傾向にある
4
私は音楽を買いたいと思ったときに、その場で買えることを重視する
表2
出典
① ②
① ②
① ②
①
②
カテゴリ2:経済
意味:音楽を安価に手に入れることを重視する
5
私は月額固定料金で無制限に音楽配信曲を聴けるならば利用したい
6
私は CD よりも価格の安い配信曲を利用したい
7
私は CD を買わないでレンタルを利用する傾向にある
8
私は CD を新品で買わなくても中古で十分だと思う
9
私は音楽を買わなくても動画共有サイトで十分である
表3
出典
③④⑤
③④⑤
③④⑤
③④⑤
③④⑤
カテゴリ3:楽曲
意味:音楽の楽曲の質や中身を重視する
10 私はアーティストにこだわらず、楽曲の曲調を重視する
11 私はアーティストにこだわらず、楽曲の歌詞を重視する
12 私はアルバムで聴くよりも、様々な楽曲を 1 曲単位で聴くほうだ
表4
出典
⑥
⑥
③④⑤
カテゴリ4:アーティスト
意味:アーティストとのつながりを重視する
13 私は好みのアーティストの CD だけを買う
14 私は好きなアーティストの CD は初回限定版で購入したい
15 私は好きなアーティストのライブ DVD は必ず購入したい
16 私は好きなアーティストのサイン入り CD やグッズは多尐高額でも
入手したい
17 私は好きなアーティストのライブに必ず行きたい
18 私はファンクラブなどに参加して、好きなアーティストの音楽活動を
支援したいと思う
19 私は好きなアーティストのサイトは頻繁にチェックする
8
出典
⑧
⑧
⑦
⑧
⑧
⑧
⑧
表5
カテゴリ5:音楽体験
意味:音楽を通した体験を重視する
20 私は歌を歌いにカラオケに行く方だ
21 私は音楽を聴けて楽しめる場(クラブ、ライブハウス、ディスコ)に行く
ことが好きだ
22 私はライブにこそ音楽の価値があると思う
出典
④⑦
⑦
⑦⑨
表6 項目出典一覧
①
『音楽聴取における「いま・ここ性」 音楽配信サービスの可能態について』
先端社会研究(6)251-272 井手口彰典
②
『映像・音楽コンテンツ業界に求められる消費行動の多様化への対応』
知的資産創造 2006, 06 河津のり
③
『日本の音楽産業はどう変わるのか ポスト iPod 時代の新展開』
洋経済新報社 八木良太著
2007
④
『日本レコード協会ユーザー調査 2010年度版』
⑤
『FREE<無料>からお金を生み出す新戦略』
NHK 出版 クリス・アンダーソン著
⑥
音楽とコンビニから考える若者の消費の方向(特集1若者のメディアライフスタイル―
10 代、20 代はメディアにどう接しているのか)
宣伝会議(607), 44-47 , 2000-06
⑦
『情報メディア白書 2010』
009 ダイアモンド社刊 電通総研編
⑧
『デジタル財の市場構造と収益モデル』
慶応義塾大学大学院経営管理研究科 服部基宏・國領二郎
⑨
『エンタメ&カルチャー 音楽市場の新たな鉱脈 ロックフェス花盛り』
週刊東洋経済 (2007, 6,23)
B-2) レコード会社のマーケティング活動に対する消費者の知覚尺度
本尺度はレコード会社のマーケティング活動が、消費者に認知されている具合を測定す
るために設けた。上記の消費者の音楽購買における選好基準尺度と、この尺度を組み合わ
せることで消費者の音楽に対する価値観によったマーケティングの効果を測定することを
目的とする。本項目は表7に示される。
表7
レコード会社のマーケティング活動に対する消費者の知覚尺度
9
商
品
戦
略
費
用
価
格
戦
略
チ
ャ
ネ
ル
戦
略
プ
ロ
モ
ー
シ
ョ
ン
戦
略
1
特徴のあるCDジャケットは目に留まりやすい
2
CDに特典が付く事は、そのCDを買いたい気持ちにさせる
3
場面や気分に合わせて作られたアルバムCD(コンピレーションアルバム)は、そのCDを買いたい気
持ちにさせる
4
配信限定曲がある事は、音楽配信サービスを使わせる要因となる
5
ビデオクリップやムービーを見れることは、音楽配信サービスを使わせる要因となる
6
楽曲の内容や収録曲数が充分であれば、アルバム3000円は高いと思わない
7
アルバムCDの価格ができる限り高くないことを希望する
8
レコード会社公式webサイトのオンラインショッピングで、特価の商品を売っている事にはいい印象
がある
9
柔軟な料金制度がある音楽配信サービスには、いい印象がある
10
レコード会社公式サイトの更新頻度を気にしている
11
レコード会社公式サイトの音楽配信サービス(着メロ、うた・PC)は、楽曲の購入に役立つ
12
レコード会社公式サイトのCDオンラインショッピングは、楽曲購入に役立つ
13
街中や店内で流れる音楽は、新しい楽曲を知る場として役立つ
14
レコード会社公式サイトは、楽曲を知るのに役立つ
15
youtubeのレコード会社公式チャンネルは、楽曲を知るのに役立つ
16
新聞・雑誌記事で取り上げられることは、楽曲を知るのに役立つ
17
新聞・雑誌広告は、楽曲を知るのに役立つ
18
TV・ラジオ番組は、楽曲を知るのに役立つ
19
タイアップ(テレビ主題歌・CM使用曲)は気になる
20
SNS(My Space・mixiなど)は、アーティストや楽曲を知るのに役立つ
C) アンケートの実施対象
本研究では調査対象者を首都圏在住の 16 歳から 29 歳までとし、アンケート調査を実施
した。それぞれ対象とした理由としては、首都圏が音楽を含めた文化及び流行の発信地で
あり中心地であること、またその音楽購買は 10 代後半から 20 代後半が中心であり、他の
年齢層と比較しても、若年層が音楽購買のボリューム層であるということからである。
調査方法としては質問紙を用いた方法と Web サイトを用いた方法の 2 パターンで行った。
各方法のアンケート回収状況は以下の表8に示されている。
表 8 アンケート回収状況
10
調査方法
質問紙法
Web 調査法
回収数
407
84
有効アンケート数
359
84
無効アンケート数
48
0
Ⅴ.調査結果と分析
A) 統計結果
本研究が実施した質問紙法でのアンケート総数は 500 部であり、回収部数が 407 部、よ
って回収率は 81.4%となる。無効のアンケート数 48 部を取り除くと、質問紙法による有効
アンケート数は 359 部となり、その有効率は 88.2%に達した。
Web 調査法でのアンケート回収総数は 84 部であり、その性質上無効部数は 0 部である。し
たがって2パターンによって回収された有効アンケート総数は 443 部となる。回収され、
有効である調査サンプルの詳しい基本データは以下の表 9 に示されている。
表 9. 有効調査サンプルの基本データ
アイテム
性別
職業別
居住地別
勤務地別
変数
男
女
高校生
大学生
社会人
フリーター / アルバイト
その他
東京都
千葉・埼玉・神奈川
栃木・群馬・茨城
東京都
千葉・埼玉・神奈川
栃木・群馬・茨城
人数
216
227
147
168
100
22
6
134
253
55
223
168
51
%
49%
51%
33%
38%
23%
5%
1%
30%
57%
12%
50%
38%
12%
B) 音楽に対する消費者の選好基準評価尺度の結果による因子分析結果
アンケートの回答から、消費者の音楽購買時の選択の基準をいくつかの因子にまとめ、
音楽市場を細分化するための変数とする。
分析に際しては、統計処理ソフト SPSS12.0J を使用した。
B-1) 因子分析の適合度検定
まず、因子分析で共同因子を選出する。そして「音楽に対する消費者の選好基準評価尺
11
度」の因子分析の適切性を確認するために、事前検定として、Kaiser-Meyer-Olkin(KMO)
の標本妥当性測度及び、Bartlett の球面性検定(Bartlett’s Test of Sphericity)を実
施した。その結果は表 10 に示される。
表 10 KMO 及び Bartlett 検定
検定指標
Kaiser-Meyer-Olkin 検定
検定項目
KMO 検定適合度指標
近似カイ2乗検定
自由度
有意水準
Bartlett 検定
結果
.853
3432.275
210
.000
今回のデータでは KMO は 0.853、Bartlett の球面性検定においても有意水準 0.000 に
達したため、
「音楽に対する消費者の選考基準評価尺度」の因子分析の適用は妥当と判断
した。
B-2) 因子の選出
まず、22 項目に対して重み付けなしの最小 2 乗法による因子分析を行った。固有値の
変化(第 1 因子から第6因子まで、5.04、3.56、1.60、1.33、1.05、0.92)から判断し、
5 因子が妥当であると判断した。
そこで再度 5 因子を仮定して重み付けなしの最小 2 乗法、
プロマックス回転による因子分析を行った。その結果十分な因子負荷量を示さなかった
「私は歌を歌いにカラオケに行く方だ」という項目を除外し、再度重み付けなしの最小 2
乗法、プロマックス回転による因子分析を行った。プロマックス回転後の最終的な因子パ
ターンと因子間相関は表 11 に示す通りである。なお 21 項目の全分散を説明する割合は
60.0%となった。
12
表 11 音楽に対する消費者の選考基準評価尺度の因子分析結果
項目内容
私は好きなアーティストのCDは初回限定版で買いたい
私は好みのアーティストの曲だけを買う
私は好きなアーティストのライブDVDは必ず買いたい
私は好きなアーティストのサイン入りCDやグッズは多尐高額でも入手したい
私はファンクラブなどに参加して好きなアーティストの音楽活動を支援したい
私は好きなアーティストのwebサイトは頻繁にチェックする
私はほしい曲がすぐに見つかるので音楽配信を利用する傾向にある
私は音楽を買う際、簡単に曲を視聴できるので音楽配信サイトを利用する
私はインターネットで音楽を買う際、webサイトの使いやすさを重視する
私はCDよりも価格の安い配信曲を利用したい
私は音楽を買いたいと思ったときにその場で買えることを重視する
私は月額固定料金で無制限に音楽配信曲を聴けるならば利用したい
私はアルバムで聞くよりもさまざまなアーティストの楽曲を一曲単位で聞く方だ
私は音楽を聴けて楽しめる場に行くことが好きだ
私はライブにこそ音楽の価値があると思う
私は好きなアーティストのライブに必ず行きたい
私はアーティストにこだわらず楽曲の曲調を重視する
私はアーティストにこだわらず楽曲の歌詞を重視する
私はCDを新品で買わなくても中古で十分だと思う
私は音楽は買わなくても動画共有サイトで十分だと思う
私はCDを買わないでレンタルを利用する傾向にある
因子抽出法: 重みなし最小二乗法
回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法
9 回の反復で回転が収束
因子負荷量0.3以上(絶対値)を採択する
因子間相関
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅰ
0.914
0.722
0.68
0.634
0.624
0.512
-0.098
-0.035
-0.036
-0.088
0.18
0.078
0.174
-0.117
0.145
0.387
-0.034
0.031
-0.129
-0.009
0.096
Ⅱ
-0.022
-0.017
0.024
0.058
-0.009
0.059
0.824
0.789
0.665
0.629
0.485
0.383
0.349
-0.049
0.019
-0.063
-0.058
0.132
-0.034
0.063
0.013
Ⅲ
-0.244
-0.283
0.138
0.149
0.283
0.283
0.016
-0.039
0.06
-0.037
-0.073
0.114
-0.175
0.706
0.648
0.549
0.049
0.153
0.156
0.048
-0.066
Ⅳ
0.036
0.022
-0.013
-0.064
-0.057
0.031
0.063
-0.025
-0.007
-0.073
-0.053
0.047
0.118
0.086
0.018
-0.008
0.917
0.446
-0.045
-0.048
0.099
Ⅴ
-0.057
0.137
-0.094
-0.078
0.076
-0.074
-0.229
-0.011
-0.009
0.168
0.008
0.192
0.16
0.039
0.073
-0.016
-0.046
0.092
0.585
0.524
0.52
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
1
0.076
0.66
-0.138
-0.322
0.076
1
0.195
0.192
0.301
0.66
0.195
1
0.081
-0.179
B-2a)因子の命名
表 10 の因子分析の結果より、第 1 因子には好きな音楽アーティストとの関係性やつなが
りなどを重視する項目に高い負荷量が付与された。従ってこの因子を「アーティスト志向
性」と命名する。第 2 因子は音楽購買のシーンで特に音楽配信サービスを利用する際に重
視する項目に高い負荷量が付与されており、従ってこの因子を「デジタル音楽志向性」と
命名する。第 3 因子は音楽ライブや音楽イベントに関する項目が含まれているため、
「音楽
体験志向性」と命名する。第 4 因子は楽曲に関する項目に負荷量が付与されていたため、
「楽
曲志向性」と命名した。また第 5 因子は音楽購買の際に特に価格・値段といった費用を抑
えるための手段を訊いた項目に高い負荷量が付与されている。従ってこの因子を「経済志
向性」と名付け、計 5 つの因子の抽出が行われた。
B-2b)5つの音楽選好基準因子
(a)アーティスト志向性因子
アーティスト志向性因子にはアンケート項目の第 1,2,3,4,7,8 問の 6 項目が該当する。こ
の因子の内容はアーティストへの強い関心、憧れを示し、この因子の得点が高い場合、消
13
-0.138
0.192
0.081
1
0.218
-0.322
0.301
-0.179
0.218
1
費者がアーティストという面を重視して、音楽購買をしている傾向が強いと判断できる。
また、この因子の得点が低い場合、その傾向が弱いと言える。
(b)デジタル音楽志向性因子
デジタル音楽志向性因子にはアンケート項目の第 11,12,13,14,15,16,17 問の計 7 項目が該
当する。この因子の内容は CD 媒体の音楽ではなく、音楽配信のようなデジタル音楽に高
い関心を示して、音楽購買をしている傾向が強いと判断できる。また、この因子が低い場
合、その傾向が弱いと言える。
(c)音楽体験志向性因子
音楽体験志向性因子にはアンケート項目の第 5,6,22 問の計 3 項目が該当する。この因子
の内容は音楽を中心に据えたイベントへの関心を示し、この因子の得点が高い場合、消費
者はライブや音楽イベントへの関心・参加を重視する傾向があると判断できる。また、こ
の項目が低い場合、その傾向が弱いと言える。
(d)楽曲志向性因子
楽曲志向性因子にはアンケート項目の第 9,10 問の 2 問が該当する。その内容としては、
楽曲の中身である曲調や歌詞を、音楽購買の際に重視しているという意味が含まれる。こ
の因子の得点が高い場合、消費者は楽曲の中身をより重視する傾向にあると判断できる。
逆に得点が低い場合、その傾向が弱いと言える。
(e)経済志向性因子
経済志向性因子にはアンケート項目の 18,19,20 問が該当する。その内容としては、音楽
を購買する際にその価格や値段に注意し、音楽にかかる費用をできるだけ抑えようとする
という意味が含まれる。この因子の得点が高い場合、消費者は音楽へかける出費を減らす
ことをより重視している傾向にあると判断できる。逆に得点が低い場合、その傾向が弱い
と言える。
C) 因子分析を基にしたクラスター分析の結果
抽出された 5 因子を細分化変数として、K-means クラスター分析を行った。結果、全体
のサンプルを4つのグループに分けることができた。各グループの概要は表 12 のように示
される。
表 12 各クラスターの人数と割合
グループ
クラスター1
クラスター2
クラスター3
人数
92
118
85
14
クラスター内に占める割合
20.77 %
26.64 %
19.19 %
148
443
クラスター4
Total
33.41 %
100.00 %
さらに判別分析によって上記の 4 グループの分類を検定した。結果、サンプル分類の正確
率は 96.38%に達した。
表 13 判別分析の分類マトリクス
クラスター1
クラスター2
クラスター3
クラスター4
サンプル数
区別正確率
92
118
85
148
95.7%
94.9%
96.5%
98.0%
クラスター1
88
1
0
1
区別分析予想群
クラスター2
クラスター3
0
0
112
3
3
82
1
1
以上判別分析の分類行列から、全体の区別正確率を計算すると以下の通りとなる。
区別正確率={
(88+112+82+145)/(92+118+85+148)
}=96.38%
C-1) 音楽市場細分化のクラスター分析結果
各グループの特性を確認するために、上記の 4 グループを独立変数として、5つの音楽
購買選好基準因子、
「アーティスト関係性志向因子」
、「デジタル音楽志向因子」、「音楽体験
志向因子」
、
「楽曲志向因子」
「経済志向因子」を従属変数とし、各グループが 5 つの基準因
子に対して示す違いや特性について分析をする。
グループ間の差異を計るために、一元配置の分散分析を行った。結果、
「アーティスト関
係性志向因子」
(F=293.342、P<0.01)、
「デジタル音楽志向因子」
(F=168.880 、P<0.01)
、
「音楽体験志向因子」
(F=296.927 、P<0.01)、「楽曲志向因子」
(F=19.724、 P<0.01)
、
「経済志向因子」
(F=92.787、P<0.01)の 5 つの因子に、各グループにおいて有意差があ
ることが分かった。
表 14 因子別にみる各クラスター間の差異
因子別
クラスター別
人数
平均数
標準偏差
クラスター1
92
-1.04
0.538
アーティスト
クラスター2
118
0.87
0.549
関係性
クラスター3
85
0.72
0.560
クラスター4
148
-0.46
0.551
クラスター1
92
-0.83
0.536
デジタル音楽
クラスター2
118
-0.59
0.583
志向
クラスター3
85
0.80
0.737
クラスター4
148
0.53
0.656
15
F値
293.342
168.880
クラスター4
4
2
0
145
クラスター1
92
-1.12
0.540
音楽体験志
クラスター2
118
0.57
0.586
向
クラスター3
85
0.96
0.430
クラスター4
148
-0.31
0.510
クラスター1
92
-0.11
1.065
クラスター2
118
-0.42
0.902
クラスター3
85
0.47
0.601
クラスター4
148
0.14
0.824
クラスター1
92
0.12
0.734
クラスター2
118
-0.81
0.626
クラスター3
85
0.19
0.653
クラスター4
148
0.46
0.569
楽曲志向
経済志向
296.927
19.724
92.787
C-2) クラスターの命名
上記のクラスター分析の結果から明らかになった消費者の特徴によって、各グループの
特性を確認し、命名する。まず、クラスター1 についてはそれぞれの音楽の選好基準への反
応が比較的に総じて低いため、
「音楽低関与群」と命名する。
クラスター2については「アーティスト関係性志向」の因子が極めて強く、「楽曲志向」
「経済志向」という因子が非常に弱い反応を示している。ここからグループ 2 を「アーテ
ィスト関係性志向群」と命名する。
クラスター3 については全般的にどの因子の反応も強く、音楽に対して非常に積極的に関
わっていることが分かる。特に「音楽体験志向」の因子が他の因子と比較しても極めて強
く反応していること、また「楽曲志向」の因子も反応が強い。従ってこのクラスターを「音
楽高関与群」と命名する。最後にクラスター4は「デジタル音楽志向」と「経済志向」の
因子にそれぞれ強い反応を示していることから「デジタル音楽・経済志向群」と命名する。
以下の表 14 にそれぞれの因子に対する反応を示す。
表 14 各クラスターのプロフィール
因子
アーティスト
関係性志向
デジタル音楽志向
音楽体験志向
楽曲志向
経済志向
第 1 クラスタ
音楽低関与群
ー
×
×
×
△
△
第 2 クラスタ アーティスト
ー
関係性志向群
◎
△
○
×
×
16
第 3 クラスタ
音楽高関与群
ー
○
◎
◎
◎
○
第 4 クラスタ デジタル音
ー
楽・経済志向群
△
○
△
○
◎
◎
…「非常に高い」、○ …「高い」
、△ …「低い」
、× …「非常に低い」
・クラスター1:音楽低関与群
・クラスター2:アーティスト関係性志向群
・クラスター3:音楽高関与群
・クラスター4:デジタル音楽・経済志向群
C-3) 4クラスターの基本情報の分析
以下では 4 つのグループの性別、属性を変数として、記述統計とカイ 2 乗検定を行う。
C-3a) 性別
まずは、クラスターそれぞれの男女の差異を比較する。カイ 2 乗検定の結果によると、
男女共にグループ 4(デジタル音楽・経済志向群)に占める割合が最も多い。また、アーテ
ィスト関係性志向群には女性の割合が 32.2%と最も高く、アーティストとの結びつきや、
関係性を求めるのは男性より女性のほうがその傾向が強いことが判明した。また、男性の
27.3%は音楽低関与群に所属し、このことから女性より男性のほうが音楽に対し、価値を置
いていないことが判明した。
表 15 .性別別の各グループのカイ 2 乗検定結果
性別
男子
女子
合計
アイテム
音楽低関与群
アーティ
スト関係
性志向群
音楽高関
与群
デジタル
音楽・経済
志向群
合計
サンプル数
性別内の%
サンプル数
性別内の%
45
27.3%
47
14.5%
57
20.8%
60
32.2%
41
15.3%
44
22.9%
72
36.6%
76
30.4%
216
100%
227
100%
サンプル数
92
118
85
148
443
性別内の%
20.8%
26.6%
19.2%
33.4%
100%
カイ2乗値=18.69 P<0.01
C-3b) 属性別
次にそれぞれのクラスターに所属する属性(高校生、大学生、社会人、フリーター・ア
17
ルバイト・その他)によっての差異を比較する。カイ 2 乗検定を行った結果、クラスター
間に属性による差異は認められなかった。これにより、音楽に対する価値観というのは、
自身の所属する機関や社会的地位に影響を受けないということが分かった。
表 16.属性別の各グループのカイ 2 乗検定結果
アイテム
音楽低関与群
サンプル数
属性内の%
サンプル数
属性内の%
サンプル数
属性内の%
サンプル数
30
19.0%
35
20.8%
21
24.0%
6
アーティス
ト関係性志
向群
39
26.5%
45
27.4%
27
23.0%
7
属性内の%
17.9%
サンプル数
属性内の%
92
20.8%
属性
高校生
大学生
社会人
アルバイト/
フリーター/
その他
合計
28
22.4%
32
19.6%
19
16.0%
5
デジタル
音楽・経済
志向群
49
32.0 %
56
32.1%
33
37.0%
9
147
33.2 %
168
37.9 %
100
22.6 %
28
35.7%
10.7%
35.7%
6.3 %
118
26.6%
85
19.2%
148
33.4%
443
100%
音楽高関与
群
合計
カイ 2 乗値=5.24 P<0.01
D) マーケティング知覚尺度得点の平均値比較
D-1) マーケティング知覚尺度全体の統計結果
各グループがレコード会社のマーケティング戦略に対する反応を比較する。まず、
「レコ
ード会社のマーケティング戦略に対する知覚尺度」の全体得点から、
「商品戦略」、
「費用価
格戦略」
、「チャネル戦略」
、「プロモーション戦略」という各側面の平均数の差異を考察す
る。まず、「費用価格戦略」の得点は一番高いので、消費者は「音楽を入手する際の価格」
「音楽サービスを利用する際の料金」という費用価格戦略の質問内容に対しての欲求が高
いということが考えられる。
表 17.マーケティング知覚尺度の4つの戦略での平均数、標準偏差、ランク比較
戦略
商品戦略
費用価格戦略
人数
443
443
平均得点
平均数/質問数
標準偏差
17.77
14.81
3.554
3.703
4.20
2.73
ランク
3
1
チャネル戦略
443
11.36
2.840
3.53
4
プロモーション戦略
443
25.93
3.704
5.42
2
尺度全体
443
69.87
3.494
12.66
-
D-2) 商品戦略の統計結果
18
調査の結果により、商品戦略に関する設問中、「特徴のある CD ジャケットは目に留まり
やすい」という質問項目の得点が最も高い。従って、レコード会社が消費者の興味を惹く
ような、ユニークであったり独創的であるパッケージのデザインは、消費者のその CD に
対する関心を惹くことができる。次に得点が高い項目は「配信限定曲があることは、音楽
配信サービスを使わせる要因となる」、
「CD に得点が付く事は、その CD を買いたい気持ち
にさせる」である。これら2項目に共通していることは、楽曲以外のプレミアがつく、と
いうことである。これによって、消費者は音楽製品に楽曲だけでなく、音楽製品に付加価
値があるということを重視していることがわかる。
「商品戦略」の各設問の得点の詳細は表
17 の通りである。
表 18.商品戦略の平均数、標準偏差、ランク比較表
1
2
3
4
5
質問内容
特徴のあるCDジャケットは目に留まりやすい
CDに特典が付く事は、そのCDを買いたい気持ちにさせる
場面や気分に合わせて作られたアルバムCD(コンピレーションアルバム)は、そのCDを買いたい気持ちにさせる
配信限定曲がある事は、音楽配信サービスを使わせる要因となる
ビデオクリップやムービーを見れることは、音楽配信サービスを使わせる要因となる
人数 平均得点 標準偏差 ランク
443 4.106
1.077
1
443 3.718
1.269
3
443 3.111
1.235
5
443 3.381
1.329
2
443 3.454
1.296
4
D-3) 費用価格戦略の統計結果
費用価格戦略での平均数得点について、
「アルバムの価格ができる限り高くないことを希
望する」という設問が、最も得点が高かった。ここから消費者がアルバム CD は高いとい
う認識を持っていることが明確となった。一方で、
「楽曲の内容や収録曲数が充分であれば、
アルバム 3000 円は高いと思わない」という項目が次に高い得点を示しており、ここから楽
曲の内容が消費者に充分受け入れられるもの、またはそのアルバムの収録曲数が多ければ、
アルバム CD は適正な価格であると消費者は判断を下すといえる。「費用価格戦略」の各設
問の得点は表 18 の通りである。
表 19. 費用価格戦略の平均数、標準偏差、ランク比較表
質問内容
1
2
3
4
楽曲の内容や収録曲数が充分であれば、アルバム3000円は高いと思わない
アルバムCDの価格ができる限り高くないことを希望する
レコード会社公式webサイトのオンラインショッピングで、特価の商品を売っている事にはいい印象がある
柔軟な料金制度がある音楽配信サービスには、いい印象がある
人数 平均得点 標準偏差 ランク
443
3.542
1.408
2
443
4.515
0.895
1
443
3.275
1.125
4
443
3.479
1.133
3
D-4) チャネル戦略の統計結果
次にレコード会社のチャネル戦略における統計結果を示す。チャネル戦略において最も
得点が高かったのは「街中や店内で流れる音楽は、新しい楽曲を知る場として役立つ」と
いう、音楽が流れる場面としての流通が、消費者の音楽認知のきっかけになっていること
が分かる。また、
「レコード会社の公式サイトの音楽配信サービスは、楽曲の購買に役立つ」
19
という項目が次点に来ており、
「レコード会社公式サイトの CD オンラインショッピングは、
楽曲購入に役立つ」より高い値を示している。ここから購買する場面としての流通におい
て、デジタルを用いた販路による CD の購買とデジタルを用いた販路による音楽配信サー
ビスの利用では、音楽配信サービスの利用の方が便利であるという消費者の心理が読み取
れる。
「チャネル戦略」の各設問の得点は表 19 の通りである。
表 20.チャネル戦略の平均数、標準偏差、ランク比較表
質問内容
1
2
3
4
レコード会社公式サイトの更新頻度を気にしている
レコード会社公式サイトの音楽配信サービス(着メロ、うた・PC)は、楽曲の購入に役立つ
レコード会社公式サイトのCDオンラインショッピングは、楽曲購入に役立つ
街中や店内で流れる音楽は、新しい楽曲を知る場として役立つ
人数 平均得点 標準偏差 ランク
443 2.014
1.232
4
443 2.650
1.368
2
443 2.506
1.267
3
443 4.192
1.063
1
D-5) プロモーション戦略の統計結果
レコード会社のプロモーション戦略において、最も高い得点を示した項目は「TV・ラジ
オ番組は、楽曲を知るのに役立つ」であった。これは TV・ラジオが未だに根強く、消費者
の関心を惹くのに最も強い効力を挙げていることが分かる。また次に得点の高い「タイア
ップ(テレビ主題歌・CM 使用曲)は気になる」もそのことを強く裏付ける根拠であると言
えよう。これらのことはテレビ・ラジオが音楽製品に与える影響は今もなお非常に強く、
現状においてレコード会社のプロモーション活動において最も効果的であるということを
示す。
他方、
「YouTube のレコード会社公式チャンネルは楽曲を知るのに役立つ」という項目が
3 番目に高い値を示している。
この結果において注目したいのは、
テレビ・ラジオと YouTube
の特質の差があるにも関わらず、この項目が雑誌・新聞についての項目より比較的高い値
を示しているということである。このことから考えられるのは、テレビ・ラジオの「押し」
の売りに対し、YouTube や他のインターネットコミュニティサイトに見られる、消費者が
自ら情報を「引き」だすという性質がプロモーション戦略に影響を与えているということ
である。つまりそれは、今までのパッケージ販売に見られたレコード会社主導のプロモー
ションが、インターネットの出現によって、
「消費者が情報を引き出し、そこで初めて楽曲
を認知する」といった今までになかった消費者主導のプロモーションの登場による変化で
ある。この結果はそのようなプロモーションに対する消費者の行動の変化を影響を尐なか
らず受けていると考えられる。
「プロモーション戦略」の各設問の得点は表 20 の通りである。
表 20.プロモーション戦略の平均数、標準偏差、ランク比較表
20
質問内容
1
2
3
4
5
6
7
人数 平均得点 標準偏差 ランク
443 3.009
1.392
7
443 3.795
1.339
3
443 3.729
1.251
4
443 3.598
1.268
5
443 4.524
0.840
1
443 4.223
1.074
2
443 3.052
1.370
6
レコード会社公式サイトは、楽曲を知るのに役立つ
youtubeのレコード会社公式チャンネルは、楽曲を知るのに役立つ
新聞・雑誌記事で取り上げられることは、楽曲を知るのに役立つ
新聞・雑誌広告は、楽曲を知るのに役立つ
TV・ラジオ番組は、楽曲を知るのに役立つ
タイアップ(テレビ主題歌・CM使用曲)は気になる
SNS(My Space・mixiなど)は、アーティストや楽曲を知るのに役立つ
E) クラスター別にみるジャンル嗜好得点の平均値比較
各クラスターのそれぞれ音楽ジャンルの好みによっての反応を比較する。そのために音
楽ジャンルをポップス(映画音楽、邦楽ポップス、洋楽ポップス、クラシック)、ロック(邦
楽ロック、洋楽ロック、へヴィメタル)
、ソウル(ジャズ、ソウル・R&B、ディスコ・ダン
ス、ヒップホップ、レゲエ)の3つに分類する。この分類は日系産業消費研究所(2000)
によるものを参考とする。この 3 分類されたジャンルを従属変数とし、上記の 4 クラスタ
ーを独立変数として一元配置の分散分析を行い、その差を比較検証した。分析の結果、「ポ
ップス」
(F=6.951,P<0.01)
、
「ロック」
(F=4.500,P<0.01)、
「ソウル」
(F=9.797,P<
0.01)となり、各クラスターごとにジャンルの好みによる差異があることが認められた。
各ジャンルごとにその詳細を見ていくと、
「ポップス」に対しては最も高い反応を示した
のは、音楽高関与群である。その次にデジタル音楽・経済志向群がつづく。
「ロック」に対して最も高い反応を示したのは音楽高関与群であった。次にアーティス
ト関係性志向群が高い反応を示し、デジタル音楽・経済志向群がつづく。
「ソウル」についての反応で最も高い値を示したのは音楽高関与群である。次にデジタ
ル音楽・経済志向群がつづく。
以上の結果より、音楽高関与群がどのジャンルに対しても最も高い反応を示していると
いうことが分かった。これは音楽好感群およびその他のクラスターを、ジャンルに分けた
ものではなく、音楽選好基準というもので分けたからであり、音楽に対する関与性の具合
により分類されたものだからである。一方で、この値が高く示されるということが、音楽
に対する関与性を示しているとも言える。従って音楽高関与群の次に高い値を示すデジタ
ル音楽・経済志向群やアーティスト関係性志向群もまた、音楽に対しての関心や関与性の
高さを示している。
表 21 にジャンルの嗜好によるクラスター間の差異比較を示す。
表 21. ジャンルの嗜好によるクラスター間の差異比較
ジャンル
別
ポップス
クラスター別
人数
音楽低関与群
得点平均 標準偏差 F 値
92
21
14.50
2.337
6.951
アーティスト関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・経済志向群
音楽低関与群
ロック
アーティスト関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・経済志向群
音楽低関与群
ソウル
アーティスト関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・経済志向群
118
14.58
2.303
85
15.87
2.609
148
15.11
2.082
92
9.29
2.811
118
10.17
2.583
85
10.44
2.805
148
9.44
2.436
92
13.90
3.981
118
14.88
3.703
85
16.65
3.966
148
15.95
3.516
4.500
9.797
F) クラスター別にみるマーケティング知覚尺度得点の平均値比較
各クラスターのそれぞれ大学マーケティング戦略に対する反応を比較する。そのために
4つのクラスターを独立変数とし、マーケティング知覚尺度の4つの戦略である「商品戦
略」、「費用価格戦略」
、「チャネル戦略」、「プロモーション戦略」を従属変数とし、一元配
置の分散分析を行った。分析の結果、
「商品戦略」
(F=13.750,P<0.01)、
「費用価格戦略」
(F=14.693,P<0.01)
、
「チャネル戦略」(F=25.701,P<0.01)とクラスターごとにより
レコード会社のマーケティングの知覚に差異があることが認められた。
それぞれの戦略の側面から見ると、
「商品戦略」には音楽高関与群が最も高い反応を示し、
次にアーティスト関係性志向群とデジタル音楽・経済志向群がつづく。「費用価格戦略」で
は音楽高関与群が最も高く、次に「デジタル音楽・経済志向群」と「アーティスト関係性
志向群」がほぼ同じ値をとっている。この戦略の中で、この 2 群間に有意は認められなか
った。また、
「チャネル戦略」を見ると、音楽高関与群の次にデジタル音楽・経済志向群が
高い反応を示しており、この 2 群間においての有意差は認められなかった。
「プロモーション戦略」に対しては、音楽高関与群が最も高い反応を示しており、この
次にデジタル音楽・経済志向群とアーティスト関係性志向群が続く。この 2 群に関しての
有意差は認められなかった。表 22 にマーケティング知覚尺度によるクラスター間の差異比
較を示す。
表 22. マーケティング知覚尺度によるクラスター間の差異比較
戦略別
クラスター別
人数
得点平均
標準偏差
商品戦略
音楽低関与群
92
15.92
4.959
118
17.87
3.853
アーティスト
関係性志向群
22
F値
13.750
音楽高関与群
85
19.81
3.812
デジタル音楽・経済志向群
148
17.66
3.635
音楽低関与群
92
13.42
3.124
118
14.89
2.643
音楽高関与群
85
16.01
2.337
デジタル音楽・経済志向群
148
14.92
2.394
音楽低関与群
92
9.26
2.908
118
10.74
3.377
音楽高関与群
85
13.22
3.733
デジタル音楽・経済志向群
148
12.09
3.101
プロモーション
音楽低関与群
92
22.59
4.970
戦略
アーティスト
118
26.00
5.373
音楽高関与群
85
29.34
5.142
デジタル音楽・経済志向群
148
25.99
4.630
費用価格
アーティスト
戦略
関係性志向群
チャネル戦略
アーティスト
関係性志向群
関係性志向群
14.693
25.701
26.831
また、上記の結果と多重比較の Scheffe 法による結果より、すべてのマーケティング知覚
尺度に対し、音楽高関与群の得点が他クラスターより高いことが分かった。つまり、音楽
高関与群は音楽に対して高い関係性を持っているので、レコード会社のマーケティング行
動に対しての反応も高いということになる。一方で、音楽低関与群が総じて他のクラスタ
ーより極めて低い値をとっており、このクラスターにはレコード会社のマーケティング戦
略に対する反応が低いということが分かる。
また、アーティスト関係性志向群とデジタル音楽・経済志向群についてはレコード会社
のマーケティング活動に対する反応が音楽高関与群の次に高い。このことからレコード会
社の行うマーケティング活動に対し、比較的積極的に関係を持っているということが分か
る。
G) 分析結果からの結論
以上のことから、消費者の音楽購買をする際に重視する観点、つまり音楽の選好により
市場に存在する消費者の分類をすることが出来た。また、そのクラスターごとの特徴につ
いても得ることが出来た。以下でそのクラスターごとの特徴をまとめる。
まず音楽低関与群はジャンルの好み、マーケティング戦略の両方において他のすべての
クラスターより低い関与性が見られた。これは音楽低関与群に属する人が、
「音楽というも
のに対しあまり価値を持っていない」、「音楽に関心を持っていない」ことを示すものであ
23
り、考えられるのはこのクラスターの人にとって音楽の価値は低く、音楽以外の別のもの
に関心を強く持っているということである。従ってこのクラスターの人々に対し、レコー
ド会社のマーケティング活動は強く認識されないし、また音楽購買をする際にも、比較的
消極的であることが分かった。
次にアーティスト志向群の特徴について述べる。このクラスターの特徴としてはアーテ
ィストとの積極的な関わりを持っていたいという志向が極めて強いということである。ま
た、アーティストを重視する一方で、楽曲に対する深いこだわりをもっておらず、「自分の
気に入ったアーティストの作品であれば買う」という作品に深くこだわりをもとめるより、
アーティストに傾倒している傾向を持っているといえる。さらにこのクラスターは女性の
比率が高く、このことから女性の方が男性よりアーティストを重視するという傾向も判明
した。
音楽高関与群についてはすべての音楽選好基準に高く反応していた。これは音楽高関与
群にとって音楽が最も価値を有するものであり、その選択や購買にはこだわりが強いと言
える。またレコード会社のマーケティング知覚尺度に対しても 4 つの戦略すべてにおいて
最も高い得点をとっていおり、ここから音楽というものをあらゆる面においても非常に重
要視しているということが判明した。また、クラスターの人数を他のクラスターと比較し
て最も尐ない。これは音楽を聴く消費者の中でも、非常に積極的な人で構成されているた
めであり、したがって音楽消費者の中でも先導的な立場にいる、いわばオピニオンリーダ
ー的存在がこのクラスターを占めていると解釈できる。
最後にデジタル音楽・経済志向群についてであるが、サンプルの実に 33%を占めており、
音楽市場の中で最も多い消費者層となる。このクラスターはレコード会社のマーケティン
グ知覚尺度においても比較的高い値をとっており、またジャンルの好みにおいても音楽へ
の関心が強いことが分かった。一方で音楽への支出を非常に気にしており、音楽を聴きた
いが、出来ればそれにかけるお金を節約したいという志向を持っている。従って CD より
も楽曲 1 曲単位の単価が安い音楽配信に高い反応を示したり、CD レンタルであったり、中
古 CD での購買や動画共有サイトなどで音楽を楽しむことをすませていると考えられる。
このクラスターは楽曲への関心が高い一方で、アーティストへの関心が低い。これはすな
わちアーティストへ思い入れをするより、楽曲一曲に対し価値を見出しているクラスター
でもあると考えられ、この結果はアーティスト関係性志向群とは間逆のものとなった。
音楽への関心が高いこのクラスターは一方で音楽に書ける支出を非常に気にしており、
音楽が好きでありながらも市場に落とすお金は個々人では微々たるものと考えられる。し
かし、このクラスターが市場に占める割合は 30%以上であり、このクラスターに対しレコ
ード会社がマーケティング努力を注ぎ込むのにきわめて有効な対象であり、今後のレコー
ド会社のターゲットとしても重要であると言える。
24
Ⅵ. 企業インタビュー
A) 企業インタビュー目的
上記の分析結果から、我々の研究はレコード会社のマーケティング活動の材料になると
考えたため、レコード会社にインタビューを行った。
その目的の 1 つ目としては、レコード会社として抱える問題と本研究における問題の所
在との整合性を確認するため、そして 2 つ目として今後の音楽市場を俯瞰した際、大きな
市場機会を有しているデジタル音楽・経済志向群の消費者グループについて、レコード会
社という実務の立場からの見解を得ることにある。
B) 企業選定理由
我々の提示した問題を直に受けている大手レコード会社を企業選定の理由とした。
以下、株式会社ソニー・ミュージックエンタテイメントとビクターエンタテインメント
株式会社のインタビュー結果をまとめる。
C.インタビュー結果
C-1) 株式会社ソニー・ミュージックエンタテイメント(以下 SME)
以下 SME へのインタビュー結果をまとめる。
我々の考える問題の所在に対して SME は、デジタルテクノロジーの進展及び技術革新
というものは危機ではなく、むしろ消費者のニーズを掴むためのチャンスだと考えてい
る。SME はパッケージビジネスに依存しない、チャネル戦略を行っている。
また我々の消費選好基準尺度を用いた市場細分化戦略について SME のマーケティン
グ活動の材料としての価値はあるか尋ねたところ、レコード会社の商品はアーティスト
であり、アーティストを好きになって音楽を買ってもらうという立場なので市場細分化
戦略は意識していないという見解だった。しかし、我々の提唱する大きな市場機会を有
しているデジタル音楽・経済志向群については、消費者層の中のボリューム層であると
いうことは認識をしていながらも、そのグループに即した売り方というものは模索中で
あるということがわかった。
C-2) ビクターエンタテインメント株式会社(以下ビクター)
続いてビクターへのインタビュー結果をまとめる。
我々の考える問題の所在に対してビクターは我々と同じ見解であった。ビクターにお
いても音楽のデジタル化というものにジレンマを抱えており、今後も今まで通りのパッ
ケージビジネスに依存していくのか、または音楽配信にシフトしていくのか、そのバラ
ンスを考えなくてはならないと言っていた。
また消費選好基準尺度を用いた市場細分化戦略について、ビクターのマーケティング
活動の材料として価値はあるか尋ねたところ、レコード会社というものはある程度スケ
25
ールメリットをもってマスにアプローチしていくものなので、市場細分化戦略は考えて
おらず、マーケティングの材料にはならないという考えであった。そして、私たちの提
唱する大きな市場機会を有しているデジタル音楽・経済志向群については、マーケティ
ングの余地はあるという考えを示したが、ビクターとしての音楽消費者ターゲットは、
音楽高関与群やアーティスト志向性群であると明言した。よって実際はデジタル音楽・
志向群へのマーケティング方法は導き出されていないということだった。
D) 企業インタビューからの考察
SME とビクターでは、パッケージビジネスおよび音楽配信ビジネスへの取り組み・捉
え方の差異はあった。しかし音楽市場の現状としては、パッケージビジネスは音楽配信
ビジネスよりも利ざやが大きいことから、すべての音楽を音楽配信ビジネスにシフトし
ていくと、レコード会社の利ざやが尐なくなる。
また分析結果より導き出されたデジタル音楽・経済志向群に対するレコード会社の考
えとしては「あまり音楽にお金をかけないが、音楽に対する関心度が高い消費者グルー
プがいるという認識はあった。しかしその消費者グループに対してアプローチしていく
というよりは、もともと音楽やアーティストに関心の高い消費者グループに音楽を売っ
ていくという方が、レコード会社にとって効率的な音楽の売り方である」というもので
あった。
しかし、我々デジタル音楽・経済志向群がそのような大きな市場機会を有しているこ
とに着目し、今後さらにデジタル化した音楽製品の市場が拡大していくことを考慮した
際、その消費者グループにマーケティング努力を費やすことがレコード会社にとって有
益であると考えた。
そのためにはデジタル音楽・経済志向群に属する消費者のプロフィールを明らかにする
ことが必要である。どのような消費者がその消費者グループに存在するのか、確認するこ
とは今後この消費者グループにマーケティング活動を行っていく上で、極めて有益な材料
となるからである。従って、デジタル音楽・経済志向群のプロフィールを明らかにするた
めに、この消費者グループに属する消費者にインタビューを行った。
。
Ⅶ 消費者インタビューによる実証
A) 消費者インタビューの目的
因子分析の結果からデジタル音楽・経済志向群は、音楽に対する支出は尐ないが、
音楽に関心がある消費者で構成されたグループであると考えられる。またこの消費者
グループは、サンプル数の約 33%にあたり、この市場細分化研究においては音楽市場
を構成するボリューム層となる。このグループに対し、適切なマーケティング努力を
投入することはデジタルテクノロジーの進展により変化した音楽市場で更なる市場の
26
拡大を意味することとなる。またレコード会社へのインタビューからも「音楽に関心
がありながらも、あまりお金をかけない層が存在することは認識しているが、実際に
このデジタル音楽・経済志向に即した売り方について模索している」という回答が得
られている。
したがってこのデジタル音楽・経済志向群に属する消費者のプロフィールを明確に
することは、音楽市場を拡大させるのみならず、レコード会社にとっても有益な情報
となりえる。
そこで、魅力的な音楽消費グループであることを実証する仮説を以下に立てる。
仮説 経済音楽志向群は音楽に関心が高く、また経済面で最も反応する層である
仮説を検証するために、実際にデジタル音楽・経済志向群に属する個人に音楽消費
実態についてのインタビューをした。
B) 消費者インタビュー対象者
仮説②を検証するために、デジタル音楽・経済志向群に属する4名を対象とした。
C) 消費者インタビュー質問項目
質問構成は以下の通りである。
1.
聴取場面
2.
聴取頻度
3.
聴取時間
4.
使用音楽聴取機器
5.
楽曲認知手段
6.
音楽番組視聴の有無
7.
音楽売り上げランキングの関心度
8.
音楽共有サイト視聴の視聴状況
9.
音楽購買状況
10. 違法音楽ダウンロードサイトの利用状況
11. サブスクリプション(定額制)サービスへの関心度
12. ライブや音楽フェスティバル等の音楽体験イベントの関心度
13. 特定の好きなアーティスの有無
14. 曲重視であるかアーティスト重視か
15. 自分にとっての音楽の位置づけ
27
D) インタビュー結果
質問 1 に対する回答から「通勤・通学中」や「家で何か他の作業中に BGM として音楽
を流す」傾向があるということが分かった。また音楽の歌詞をみながらじっくり音楽を聴
くことがないということに共通性が表れた。このことから、音楽を「じっくり聴き入る」
よりも「聴き流す」傾向があると考えられる。
質問 8 については、対象者全員動画共有サイトを利用していると回答し、そこで主に音
楽も聴取しているという回答も得られた。また、質問9に対する回答では、動画共有サイ
トで視聴して気に入った楽曲を、レンタル CD 店で借りたり、中古の CD の購入をしたり
するといった購買の傾向が見られた。
一方で質問 10 に対する回答からは、動画共有サイトからそのまま楽曲をダウンロードし
たり違法ダウンロードで該当する楽曲を探すという傾向が見られた。
質問 11 のサブスクリプションに対する関心については、『音質の良さ、多くの楽曲を入
手できること、探す手間が省けることがそろえば、利用してみたい』という回答が得られ
た。
質問 13 から特定の好きなアーティストはいるという回答が得られた、。一方で質問14
からは『アーティスト重視であるより楽曲重視』であるという回答が得られた。
質問 15 からは、音楽がなくても生活はできるが、あるとより生活を豊かにするという考
えが共通していた。ここからこの消費者グループが、音楽を生活をより豊かにするための
「ひとつの道具」と見ていると考えることができる。
以上の15項目より、デジタル音楽・経済志向群には「音楽に関心はあるが、音楽にか
ける出費はできるだけ抑えたい、さらに言えばお金を払いたくない」という価値観が共通
してみられた。
以上の結果より、仮説②は実証された。
Ⅷ、インプリケーション
A) 企業インタビューおよび消費者インタビューからの考察
音楽市場を消費者の音楽消費にかかる選好という変数を用いて細分化することで、今ま
で音楽業界が捉えていた枠組みとは別の消費者グループが明確になった。それは今までア
ーティスト中心にマーケティングを構築してきたレコード会社にとっては新しい枠組みに
よる消費者グループの定義であった。
この我々の研究によって明らかになった消費者グループはそれぞれ「音楽低関与群」、
「ア
ーティスト関係性志向群」
、
「音楽高関与群」、
「デジタル音楽・経済志向群」の 4 グループ
にである。特に我々は「デジタル音楽・経済志向群」に大きな市場機会が潜在し、今後の
音楽市場において有益な顧客になると考えた。
28
その考察を基に企業インタビューを実施したが、受け答えいただいた両社とも音楽市場
はアーティストありきであり、アーティストや音楽に関心の高い消費者に音楽を売ってい
くことの方が、レコード会社にとっては効率的であり、有益な売り方であるという意見を
いただいた。それは我々の分析によって導出されたアーティスト関係性志向群と音楽高関
与群に属する消費者に売っていくことであり、我々が市場機会と捉えるデジタル音楽・経
済志向群に関しては認知こそしているもののアプローチの方法が定まっている訳ではなか
った。
本研究では結びとしてこのデジタル音楽・経済志向群に対し、有効なマーケティング活
動がどのようなものであるか提示する。そのために我々がアンケート分析に利用した「レ
コード会社のマーケティング知覚尺度」の項目ごとに各クラスター間の差異を比較し、特
にデジタル音楽・経済志向群に注視し、その消費者グループへの有益なマーケティングを
検証する。
B) デジタル音楽・経済志向群へのマーケティングアプローチの再考
B-1) 商品戦略におけるクラスター間の差異比較
「商品戦略」において、デジタル音楽・経済志向群が CD に関する項目に対し、低い値
をとっていることが分かる。ここからデジタル音楽・経済志向群に対しては CD を中心に
据えたマーケティングが大きな効果を生まないということがいえる。ただ、コンピレーシ
ョンアルバムのような場の雰囲気や、気分に合わせたようなアルバムに対しては反応が他
と比較しても高い。これは、この消費者グループがアーティストにこだわって音楽を消費
しているより、自分の気分や場の雰囲気に合うように音楽を消費している傾向が強いから
と考えることができる。
また、デジタル音楽・経済志向群は CD に対して強い思い入れを持っていない一方で、
音楽配信サービスやそれに付随するサービスには比較的高い得点をとっている。従ってこ
の消費者グループに対しては、音楽配信を基軸としたマーケティングを展開すべきである。
また「ビデオクリップやムービーを見れることは、音楽配信サービスを使わせる要因とな
る」という質問にも高い反応を示しているように、この消費者グループは音楽配信サービ
スに付随した付加価値を魅力的に感じている。そのため、音楽配信サービス上で行われる
キャンペーンをこの消費者グループに積極的に展開していくことは高い効果が得られると
考えられる。
商品戦略におけるクラスター間の差異比較
29
項目
クラスター別
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
特徴のあるCDジャケットは目に留まりやすい
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
CDに特典が付く事は、
関係性志向群
そのCDを買いたい気持ちにさせる
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
場面や気分に合わせて作られたアルバムCD
関係性志向群
(コンピレーションアルバム)は、そのCDを買いた
音楽高関与群
い気持ちにさせる
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
配信限定曲がある事は、音楽配信サービスを使
関係性志向群
わせる要因となる
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
ビデオクリップやムービーを見れることは、 アーティスト
関係性志向群
音楽配信サービスを使わせる要因となる
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
人数
92
得点平均
標準偏差
F値
3.826
1.356
118
4.203
1.001
85
4.376
0.845
148
4.047
1.026
92
3.391
1.445
118
4.178
1.010
85
4.082
1.071
148
3.345
1.282
92
2.750
1.331
118
2.915
1.209
85
3.612
1.226
148
3.203
1.100
92
2.967
1.441
118
3.314
1.412
85
3.859
1.197
148
3.419
1.178
92
2.989
1.486
118
3.263
1.317
85
3.882
1.199
148
3.649
1.087
4.415
15.086
8.982
7.035
9.513
B-2) 費用価格戦略によるクラスター間の差異比較
「費用価格戦略」の項目において、デジタル音楽・経済志向群は特にアルバム CD の価
格に関する項目に対し、低い得点を示している。ここからデジタル音楽・経済志向群が他
の消費者グループに比べても、アルバム CD の価格を高いと認識していることが分かる。
一方で「レコード会社公式 web サイトのオンラインショッピングで、特価の商品を売っ
ていることには、いい印象がある」という項目には比較的高い得点を示しており、この結
果からオンラインショッピングに関心を持っていることが分かった。従ってこの消費者グ
ループにはオンラインショッピングのような、インターネットを使った販路でのマーケテ
ィング戦略についても効果が期待できる。さらにそこで商品価格の値下げをすることで、
その効果はさらに高まると考えられる。
また、
「柔軟な料金制度がある音楽配信サービスには、いい印象がある」という項目でも
この消費者グループからは高い反応が示されている。これはデジタル音楽・経済志向群に
属する消費者が音楽を聴取するうえで費用を最も気にする層だからであり、だからこそ自
分たちに合った価格を示す音楽配信サービスには好意的な評価を与えていると考えること
ができる。
そこから考察できることとしては、音楽配信サービスを提供する側はこの消費者グルー
プに対してアプローチをする際、バリエーションを豊かにした料金制度を設けるべきであ
る。バリエーション豊かな価格体系によって、この消費者グループは自分たちに合った料
30
金プランを選択し、費用面に満足してそのサービスを使用することができる。この消費者
グループにとって費用面は音楽聴取に際して極めて重要な問題であり、ここに満足するな
らば、この消費者グループはその音楽配信サービスを永続的にしようする可能性が高い。
費用価格戦略によるクラスター間の差異比較
項目
クラスター別
音楽低関与群
アーティスト
楽曲の内容や収録曲数が充分であれば、 関係性志向群
アルバム3000円は高いと思わない
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
アルバムCDの価格が
関係性志向群
できる限り高くないことを希望する
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
レコード会社公式webサイトのオンライン アーティスト
ショッピングで、特価の商品を売っている事 関係性志向群
にはいい印象がある
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
柔軟な料金制度がある音楽配信サービス アーティスト
関係性志向群
には、いい印象がある
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
得点平均
標準偏差
F値
92
3.217
1.623
118
3.975
1.244
85
3.694
1.328
148
3.311
1.349
92
4.565
0.953
118
4.390
0.906
85
4.647
0.922
148
4.507
0.829
92
2.793
1.314
118
3.254
1.080
85
3.765
1.008
148
3.311
0.975
92
2.848
1.292
118
3.271
1.075
85
3.906
0.959
148
3.791
0.949
7.288
1.489
11.842
21.084
B-3) チャネル戦略によるクラスター間の差異比較
「チャネル戦略」全般において、デジタル音楽・経済志向群は他のグループと比較して
も高い反応を示した。これは項目が全般的にデジタル化によって生み出されたチャネル戦
略のことを指しており、言い換えるとデジタル化されたチャネルに対して、この消費者グ
ループは他の消費者グループよりポジティブであると考えることができる。
従ってデジタル音楽・経済志向群に対してはオンラインショッピングや音楽配信サービ
スを主なチャネルとすることが、この消費者グループに対しての効果的なマーケティング
を提供する前提となる。
31
チャネル戦略によるクラスター間の差異比較
項目
クラスター別
音楽低関与群
アーティスト
レコード会社公式サイトの
関係性志向群
更新頻度を気にしている
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
レコード会社公式サイトの音楽配信サービ アーティスト
ス(着メロ、うた・PC)は、楽曲の購入に役 関係性志向群
立つ
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
レコード会社公式サイトのCDオンライン アーティスト
関係性志向群
ショッピングは、楽曲購入に役立つ
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
街中や店内で流れる音楽は、新しい楽曲を アーティスト
関係性志向群
知る場として役立つ
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
得点平均
標準偏差
F値
92
1.293
0.621
118
2.000
1.212
85
2.565
1.367
148
2.155
1.255
92
1.946
1.278
118
2.390
1.301
85
3.129
1.343
148
3.020
1.270
92
1.989
1.209
118
2.314
1.196
85
3.059
1.339
148
2.662
1.170
92
4.033
1.218
118
4.042
1.105
85
4.471
0.921
148
4.250
0.975
18.807
18.599
13.133
3.616
「チャネル戦略」全般において、デジタル音楽・経済志向群は他のグループと比較して
も高い反応を示した。これは項目が全般的にデジタル化によって生み出されたチャネル戦
略のことを指しており、言い換えるとデジタル化されたチャネルに対して、この消費者グ
ループは他の消費者グループよりポジティブであると考えることができる。
従ってデジタル音楽・経済志向群に対してはオンラインショッピングや音楽配信サービ
スを主なチャネルとすることが、この消費者グループに対しての効果的なマーケティング
を提供する前提となる。
B-4) プロモーション戦略によるクラスター間の差異比較
「プロモーション戦略」において、デジタル音楽・経済志向群は「新聞・雑誌記事で取
り上げられることは、楽曲を知るのに役立つ」、「新聞・雑誌広告は、楽曲を知るのに役立
つ」というものに比較的低い反応を示した。従ってこの消費者グループに対し、新聞・雑
誌を使ったプロモーションによる効果は薄いといえる。
一方で、
「レコード会社公式サイトは、楽曲を知るのに役立つ」や「youtube のレコード
会社公式チャンネルは、楽曲を知るのに役立つ」といったインターネットを使ったプロモ
ーションには他のグループより比較的高い値を示している。従ってインターネットを介し
32
たプロモーションはこの消費者グループに対し、効果的であると考えられる。
プロモーション戦略によるクラスター間の差異比較
項目
レコード会社公式サイトは、
楽曲を知るのに役立つ
youtubeのレコード会社公式チャンネルは、
楽曲を知るのに役立つ
新聞・雑誌記事で取り上げられることは、楽
曲を知るのに役立つ
新聞・雑誌広告は、楽曲を知るのに役立つ
TV・ラジオ番組は、楽曲を知るのに役立つ
タイアップ(テレビ主題歌・CM使用曲)は気
になる
SNS(My Space・mixiなど)は、アーティスト
や楽曲を知るのに役立つ
クラスター別
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
音楽低関与群
アーティスト
関係性志向群
音楽高関与群
デジタル音楽・
経済志向群
得点平均
標準偏差
F値
92
2.207
1.209
118
2.847
1.363
85
3.906
1.231
148
3.122
1.298
92
3.207
1.580
118
3.771
1.342
85
4.353
1.032
148
3.858
1.190
92
3.435
1.462
118
3.822
1.231
85
4.082
1.136
148
3.635
1.144
92
3.207
1.516
118
3.737
1.187
85
3.941
1.138
148
3.534
1.175
92
4.446
0.930
118
4.441
0.983
85
4.741
0.620
148
4.514
0.751
92
3.967
1.208
118
4.203
1.166
85
4.506
0.840
148
4.236
0.999
92
2.120
1.274
118
3.178
1.356
85
3.812
1.210
148
3.095
1.208
26.745
11.737
4.548
5.766
2.578
3.786
27.402
C) 今後の課題
今回我々の研究では、デジタルテクノロジーの進展によって生じた消費者行動の多様化
33
と、それに伴って規模を拡大してきた音楽配信市場に対し、消費者の音楽消費にかかる選
好を軸にして、市場細分化というマーケティングアプローチを用いて解決を試みた。従っ
て我々の研究は、今後音楽市場がデジタル化に進んでいくことが前提となっている。
その点において実務の立場との意見においての差異が目立った。それは現在の音楽市場
がアーティストを中心に据えたビジネスを構築しており、我々の提唱するデジタル音楽・
経済志向群に対してのマーケティング努力の注入は極めてリスクが高く、またアーティス
トの意向を無視することになりかねないというものからであった。
デジタル音楽・経済志向群はアーティストに対し高い関与を示さず、どちらかといえば
楽曲に傾倒した人々によって構成されている。従ってこの消費者グループにアプローチす
ることは、とりもなおさずアーティストの作った作品の中身や質だけで勝負するといった
ものになる。アーティストというブランドを上手く使えないばかりか、「自分にちゃんと関
心のある人だけに買ってもらいたい」というアーティストの意向も無視することになり、
レコード会社にすればデメリットの多いことばかりとなる。
しかし、今後この市場においてはデジタル化が更に進展することは容易に想像でき、そ
の時を見据えるならば、我々の研究はその意義を見出しているともいえる。音楽市場にお
ける更なるデジタル化の波はもはや避けることはできず、万一防げたとしてもそれはデジ
タル化によって取りこむことができたはずであろう顧客層を取り逃がすことにもなりかね
ない。その顧客層こそ我々のいうデジタル音楽・経済志向群であり、デジタル化に最も高
い反応を示す彼らこそが今後デジタル化の進むこの市場を支えるメインユーザーとなりえ
る。
したがって、このデジタル音楽・経済志向群に対し有効なマーケティング戦略を構築し
ていくことは今後の音楽業界においての命題であり、この消費者グループを取り込むこと
が明日の音楽業界を作るということを我々は強く主張する。
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【参考文献】
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35
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『映像・音楽コンテンツ業界に求められる消費行動多様化への対応』知的資産創造 2006
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http://www.riaj.or.jp/
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