山崎聡士先生のテーマ抄読会 「スティル病で、なぜフェリチンが上がるのか?」 ~27 億年前にさかのぼる、鉄をめぐる生命の争いの歴史に迫る!~ 本日使用した論文は、Nature 2009,460:823, Nature 2009,457:467, RNA 2007,13:952, Mol Cell 1998,2:383, J. Biol. Chem. 2001,276:7806, PNAS 2001,98:8780, PNAS 2002,99:4596, Science 2004,306:2090, Cell Metab. 2008,8:146, Haematologica 2009,Epub, J Clin Invest. 2007,117:1755, Eur J Cln Invest. 2006,36:301, Nature 2009,457:318, J Clin Invest. 2007,117:1755, PNAS 2009,106:3800, Science. 2009,325;877, Cell. 2006,124;587, Science. 2009,325;877, Nat. genet. 2009,41;478 , Nat. genet. 2009,41;482, RNA 2007,13:952. 光合成とともに鉄をめぐる生命の争いが始まった ゲノム上の蛋白約3万個中、金属要求性蛋白は約1万であり、PCR 酵素の Mg のように酵素活性に、鉄は 重要な金属の一つである。27 億年前、シアノバクテリアによる光合成が開始され、それまで海中に溶けて いた水溶解鉄が酸化鉄となり沈殿したため、海水中から鉄が消失してしまいました。生命史上の英雄、珪 藻は、“フェリチン”蛋白の合成により、体内に鉄を貯蔵し、長い歴史を生き延びてきました。また細菌は、 感染宿主のヘモグロビンやトランスフェリンから鉄を略奪する仕組みにより生き延びることが可能になり、 鉄をめぐる仁義なき戦いが始まりました。 鉄をもって鉄を制す 血清鉄は、全てトランスフェリンと結合しており、血清以外に 貯蔵されている鉄を貯蔵鉄と呼びます。フェリチンは、貯蔵鉄 と結合する蛋白で、血清フェリチン 1ng/ml は貯蔵鉄 8mg に 相当します。この鉄の維持に暗躍しているのが、IRP 蛋白で あり、トランスフェリン受容体およびフェリチンの mRNA に結 合し、トランスフェリン受容体の翻訳には促進的に、フェリチン には抑制的に働きます。IRP の作用は“鉄と競合”しており、 鉄が過剰になると、IRP と鉄イオンとの結合し、フェリチンの翻 訳が進み、トランスフェリン受容体の翻訳が抑制されることに より、鉄を貯蔵できる環境が整えられるわけです。肝細胞など の鉄貯蔵組織は、ferroportin なる鉄門を持ち、血清に鉄を放 出しています。鉄が過剰にもれるのを防ぐために、肝細胞は Hepcidine という蛋白を分泌し、鉄門に結合することで、あっという間に ferroportin を分解してしまう仕組みを持 っています。 鉄と炎症 細菌感染などの、鉄略奪者の侵入は、生命にとっては一 大事です。細菌感染などの自然免疫の反応は、IL-6 など の炎症性サイトカインを出し、全身に危険を知らせますが、 その時に、鉄貯蔵組織の鉄門を閉め(分解し)、鉄の漏れ を防いで、侵入者と戦わなければならないのです。従って、 リウマチ患者の血清中の Hepcidine 濃度は上昇しており、 これは炎症性サイトカインなどにより、肝での Hepcidine 産生が CRP と同様増加しているからだと考えられます。さ て、察しのよい皆さんは、成人スティル病で、なぜあれほ どフェリチンが上昇するのかおわかりいただけたと思います。サイトカインストームの警報がなりまくる生体は、 鉄門を閉め、フェリチンをどんどん増やして貯蔵鉄を貯め込み、見えない敵と戦う準備を整えるのです。(文責 阿比留)
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