後天性血友病Aについて 【症例】77 歳、男性。既往歴は狭心症、胃がん、大腸潰瘍。2013 年 5 月、近医にて歯科 治療中、右側頬粘膜腫瘤、咬傷部易出血、止血困難より血管腫が疑われ当院歯科を紹介受 診、腫瘤切除。退院後も止血困難、四肢の紫斑が見られ当院内科入院。入院時検査所見: 白血球数 3000/μl、赤血球数 198×104/μl、Hb 6.7g/dl、Ht 20.5%、血小板数 15.8×10 4/μl、PT 12.8 秒、APTT 59.9 秒、D ダイマー 0.49μg/ml。第2病日、出血傾向と APTT 延長の原因を推測するためクロスミキシング試験を実施したところ、2時間インキュベー ション後の測定においてグラフは上に凸となり、時間依存性のインヒビターパターンと判 定した。その後の追加検査にて第Ⅷ 因子活性:1% 以下、第Ⅷ 因子インヒビター 19BU/ml、 von willebrand 因子活性 245%であったため後天性血友病と診断した。第5病日よりプレ ドニン 40mg/日の内服を開始し、APTT の改善、臨床症状も軽快。第 23 病日に APTT は 正常化した。 1. この患者の問題点は、血友病の特徴である止血困難、あるいは血小板減少による紫斑が ある。特に高齢の患者なので他の合併症の危険性もあるため、注意が必要である。 2. 原因としては第Ⅷ因子(AHG 抗血友病グロブリン)の欠損が考えられる。しかし単な る血友病ではなく、本来なら治療薬として体に注入されるはずの第Ⅷ因子または第Ⅸ因 子を攻撃し、破壊してしまう「抗体」インヒビターの割合が高いため、後天性血友病が 考えられる。重症度は大きく分けて 3 段階あるが、凝固活性が 1%以下であることから、 最も重い重症であると考えられる。 3. 検査方法は、①後天性か否かを見るために既住のない突然の出血傾向かどうかを調べ、 ②APTT 延長(PT 正常)が認められた場合に疑い、③血液凝固因子Ⅷ因子活性が低下して いれば可能性が高まり、④血液凝固第Ⅷ因子に対する抗体(インヒビター)が検出されれ ば確定する。 4. 血友病には合併症があり、出血による関節症があります。特定の関節に出血を繰り返し ていると、炎症反応を起こす。初期には、関節の疼痛、腫脹、熱感などがあっても、凝 固因子を静脈注射すると、出血は比較的早く止まる。しかし出血を繰り返すうちに関節 滑膜が肥厚・増殖し、軽い外傷でも出血を生じやすくなる。関節症が進行すると関節軟 骨が破壊され、関節の変形・拘縮から、時には強直にまで至る。 5. 1983 年、血友病患者の家庭輸注療法が認められ、家、職場、学校での自己注射が可能 となった。これにより緊急性を要する出血の際にも早期対応が可能となり、出血による 痛み、関節の障害を早期に回復することができるようになった。これにより、血友病患 者の社会的行動範囲を一気に広くし、症状が気にならなくなるようにすることが治療目 標だと思う。 6. 現在では薬理的治療は進んでいるが、出血した際には激痛を伴うこともあるため、薬以 外の体にも注意が必要である。 7. 投薬治療には大きく二つがあり、一つは止血治療を目的としたバイパス製剤(APCC、 rFV11a)があり、血漿由来製剤には、第Ⅷ因子単独製剤と第Ⅷ因子-フォンヴィレブラ ンド因子複合製剤とがあります。他にも補充療法というものもあり、出血症状の出現時 に、単回もしくは複数回、間歇的(ボーラス)に輸注する最も一般的な〈間歇的(ボー ラス)補充療法、非出血時に欠乏する血液凝固因子を長期間にわたり定期的に補充する 止血管理法や、定期的に血液凝固因子を補充することで出血頻度を減らし、血友病性関 節症の発症を防ぐ目的で行われている定期補充療法、スポーツやイベント、あるいはリ ハビリテーション前に出血を防ぐ目的で血液製剤を補充する予防的補充療法がありま す。 8. 今回の症例では、病院の適切な検査方法や治療のおかげですぐに後天性血友病と分かり、 経過も良好で APTT も正常になっていった。 出典 http://gunringi.business-hp.com/hp/59th/shouroku_0030_0001.pdf
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