消費税法の諸問題 経済学研究科 11M3064 福山枝里子 はじめに 社 会 保 障 と 税 の 一 体 改 革 に む け 、2014 年 8 月 10 日 に 、消 費 税 増 税 も 含 め た 社会保障・税一体改革関連法案が可決、成立した。これにより、地方消費税を 含 め 5%で あ る 消 費 税 は 、 2014 年 4 月 に は 8% 、 2015 年 10 月 に は 10%へ と 、 2 段 階 で 引 き 上 げ ら れ る こ と と な っ た 。 現 在 、わ が 国 の 税 収 の 約 2 割 を 消 費 税がまかなっている。そして、今後もさらに消費税は重要な税金になる で あ ろ う と 考 え ら れ る 。そ こ で 、本 稿 で は 、「 消 費 税 法 」 に 規 定 さ れ た 消 費税を検討する。 今 後 も 重 要 な 税 金 と な る で あ ろ う 消 費 税 に は 、さ ま ざ ま な 問 題 が あ り 、 た と え ば 「 益 税 問 題 」、「 逆 進 性 の 問 題 」 な ど が あ げ ら れ る 。 本 稿 で は 、 そ の よ う な 消 費 税 の 問 題 を 、「 消 費 税 法 」 か ら 起 因 し て い る 問 題 と し て 、「 益 税問題」を含めた税収ロスの問題を中心に検討する。税収ロスを検討すること によって、効率的に税収を確保することを期待する。本稿の構成は次のとおり である。 第 1 章では、わ が国の 消費税法につ いてみる 。第 1 節では、現 行の 消費税法 の 理 解 を 深 め 、第 2 節 で は 、わ が 国 の 消 費 税 を 、OECD の VAT Revenue Ratio を利用し諸外国と比較を行うことによって、わが国の消費税が効率的であるか を検討する。第 3 節では、わが国の消費税法が改正を行うたびに、どのように 効 率 的 に な っ て い る の か を 、よ り 現 実 に 近 づ け た 修 正 VRR を 用 い て 検 討 す る 。 第 2 章 で は 、消 費 税 法 等 の 諸 問 題 が ど の よ う な も の か を 理 解 す る 。第 1 節 で は 、い わ ゆ る「 益 税 」の 発 生 方 法 や 範 囲 を 理 解 し 、第 2 節 で は い わ ゆ る「 益 税 」 で は な い 「 益 税 」で あ る 95%ル ー ル に つ い て み る 。 第 3 節 で は 、 現 行 の 消 費 税 法では消費税を課すことのできない、電子商取引の消費課税問題の原因を検討 する。第 4 節では、消費税法ではないが、個人輸入を行った際に、郵便小包を 利用して輸入すると、消費税が課されていない、少額貨物無条件免税について 検討する。 第 3 章では、本稿で使 用する「税 収ロス」の 定義を行う 。第 1 節、第 2 節で は「益税」の定義を行うために、2 つの判例をとりあげ、法的視点から検討す る 。 第 3 節 で は 、「 税 収 ロ ス 」 と は 何 か の 定 義 を 行 う 。 1 第 4 章 で は 、「 税 収 ロ ス 」 が ど の 程 度 発 生 し て い る の か 、 も し く は 、 法 改 正 に よ り ど の 程 度 解 消 し た の か を 推 計 す る 。 第 1 節 で は 、「 益 税 」 に よ る 税 収 ロ スを、第 2 節では「電子商取引の消費課税問題」による税収ロスを、第 3 節で は「少額貨物無条件免税」による税収ロスを推計する。この結果から考えられ ること、今後の課題を第 4 節で検討する。 2 第 1 章 日本における消費税法 現 在 、わ が 国 の 税 収 の 約 2 割 を 消 費 税 が ま か な っ て お り 、2010 年 に お け る 消 費 税 収 の 構 成 比 は 24.2%と 、 過 去 と 比 較 し て も 上 昇 傾 向 に あ る 。 出 所 )『 国 税 庁 統 計 年 報 』 よ り 作 成 。 図 1-1 消 費 税 収 の 構 成 比 の 推 移 ま た 、現 在 、消 費 税 率 は 5%だ が 1 ) 、今 後 、2014 年 4 月 に は 8%、2015 年 10 月 に は 10% へ と 、2 段 階 で 引 き 上 げ ら れ る こ と が 決 ま っ た 。本 章 で は 、わ が 国 の消費税とはどのようなものか、消費税法についてみる。 消 費 税 と は 、「 直 接 消 費 税 」 と 「 間 接 消 費 税 」 に 分 類 さ れ る 。 前 者 は 、「 最 終 的な消費行為そのものを対象として課される租税」 2)で あ り 、 例 え ば 、 ゴ ル フ 場利用税、入湯税がある。後者は「最終的な消費行為よりも前の段階で物品や サービスに対する課税が行われ、税負担が物品やサービスのコストに含められ 国 税 の 消 費 税 4%の ほ か に 、地 方 消 費 税 1%が 含 ま れ て い る 。詳 し く は 本 章 1 節でとりあつかう。 2) 金 子 (2011)p.585。 1) 3 て最終的に消費者に転嫁することが予定されている租税」 3) で あ る 。 こ の 「 間 接 消 費 税 」は 、 「 一 般 消 費 税 」と「 個 別 消 費 税 」と に 分 類 で き る 。 「一般消費税」 は、 「 原 則 と し て す べ て の 物 品 お よ び サ ー ビ ス の 消 費 に 対 し て 課 さ れ る 租 税 」で あ り 、「 個 別 消 費 税 」 は 、「 法 令 の 定 め に よ っ て 特 に 課 税 の 対 象 と さ れ た 物 品 や サービスに対してのみ課される租税」 4)で あ る 。 図 1-2 消 費 税 の 分 類 本 稿 で と り あ つ か う「 消 費 税 」と は 、 「 間 接 消 費 税 」の「 一 般 消 費 税 」で あ る 「 消 費 税 」で あ り 、以 下 、断 り が な い 限 り 、「 消 費 税 」と は「 消 費 税 法 」に 規 定 されているものを指す 5)。 ま た 、 消 費 税 法 に 規 定 さ れ て い る 消 費 税 は 、 税 率 が 4%で あ る (消 法 29)。し か し 、本 稿 で は 、計 算 の 単 純 化 た め に 、地 方 消 費 税 を 含 め た 5%で す べ て の 計 算 を 行 う 。 詳 し く は 本 章 第 1 節 に て と り あ つ か う 。 本章第 1 節では、この消費税法の導入から、改正を経た、主に現行の消費税 法がどのよう なものか をみる。第 2 節で は、わが国の消費 税を他国 との比較を す る た め OECD(2011b)の 、VAT Revenue Ratio(以 下 、 「 VRR」と い う 。)を 紹 介 し 、あ わ せ て 検 討 す る 。そ し て 第 3 節 で は 、OECD(2011b)の VRRを 使 用 し 、わ が国の消費税がどれほど効率的であるかをみる 6)。 金 子 (2011)p.585。 金 子 (2011)p.585。 5) 本 稿 で は 、 消 費 税 法 の こ と を 「 消 法 」 、 消 費 税 法 施 行 令 の こ と を 「 消 法 令 」、 消 費 税 法 施 行 規 則 の こ と を 「 消 法 規 」、 消 費 税 法 基 本 通 達 の こ と を 「 消 法 基 通 」 と い う 。ま た 、条 文 の 符 号 を「 1、2、・・・」は 条 を 、 「 ① 、② 、・・・」は 項 を 、 「一、 二 、 ・・・」 は 号 を あ ら わ し て い る 。 6) こ こ で い う 「 効 率 的 」 と は 、 す べ て の 財 ・ サ ー ビ ス に 単 一 税 率 を 課 す こ と を 指 し て い る (OECD(2011b)p.106.)。 In theory, the tax is therefore at its most “efficient” when imposed on all goods and services at a single standard rate. 3) 4) 4 第 1 節 消費税法の導入と改正 わ が 国 の 消 費 税 法 は 、1988 年 (昭 和 63 年 )12 月 30 日 に 施 行 さ れ 、1989 年 (平 成 元 年 )4 月 1 日 か ら 実 施 さ れ た 。こ の 消 費 税 法 が 導 入 さ れ る 前 、わ が 国 で は 個 別消費税の体系が採用されていた。しかし、個別消費税は、①税収ポテンシャ ル が 小 さ い う え 、② 伝 統 的 な 公 平 負 担 の 原 則 に は 合 致 す る が 7) 、 税 制 の 中 立 性 に は 欠 け て お り 、③ 制 度 と し て 複 雑 に な り が ち で あ っ た 。そ し て 一 般 消 費 税 は 、 ④所得税減税のための唯一の代替財源だったという理由のもと、個別消費税に 8) 。 こ の よ う な 流 れ の 中 、 わ が 国 で も 、 かわり一般消費税の採用が主張された 個別消費税の体系よりも、すべての消費に対して「広く薄く」課税する一般消 費税の体系の方が好ましいという意見が強くなった。一般消費税導入に対して は、反対論も強かったが、抜本的税制改革の一環として導入された。 導入されたわが国の消費税は、 「 広 く 薄 く 」課 税 を す る こ と を 目 的 と し て お り 、 国 内 取 引 、 輸 入 取 引 に 対 し て 課 税 さ れ 、 消 費 税 額 を 計 算 す る 仕 組 み は 、 EU と 同 様 に 仕 入 税 額 控 除 法 が 採 用 さ れ た 。 し か し 、 仕 入 税 額 控 除 の 方 法 は 、 EU が 採用していたインボイス方式ではなく、帳簿方式が採用された。 図 1-3 課 税 方 法 7) 「 伝 統 的 な 公 平 負 担 の 原 則 」 と は 、「 生 活 必 需 品 や 準 生 活 必 需 品 は 課 税 の 対 象から除かれるべきであり、かつ奢侈性の高い物品ほど重く課税されるべきで あ る と い う 考 え 方 」 で あ る 。 (金 子 (2011)p.591。 ) 8) 金 子 (2011)pp.591-592。 5 また、わが国の消費税は次のようないくつかの特色と問題点をもっている。 わ が 国 の 消 費 税 は 、ⅰ )課 税 ベ ー ス が 広 く 、ⅱ )税 率 が 低 く か つ 単 一 税 率 で あ り 、 ⅲ )免 税 点 が 高 く 、ま た 、ⅳ )簡 易 課 税 制 度 、限 界 控 除 制 度 が 採 用 さ れ て お り そ し て ⅴ )課 税 期 間 が 長 い 特 色 が あ る 9) 、 10 ) 。 ⅰ )の 課 税 ベ ー ス が 広 い こ と は 、制 度 が 簡 素 に な り 、税 制 の 消 費 中 立 性 が 維 持 されるのみではなく、低い税率で税収が確保できる点で優れている。ただし、 11 ) 、 消 費 税 の 逆 進 性 と い う 点 で 問 題 と 生活必需品も課税の対象とされており なっている 12 ) 。 ⅱ )に つ い て 、 単 一 税 率 が 採 用 さ れ た 理 由 は 、 単 一 税 率 は 簡 素 で あ り 、 ま た 、 消費中立的な税制の要請に応じるためである。そして、低い税率が採用された 理由は、消費税導入による経済の悪影響をおさえ、導入に対する国民の違和感 等 を 緩 和 す る た め で あ る 。し か し 、2014 年 4 月 以 後 は 6.3%(地 方 消 費 税 と あ わ せ て 8%)、2015 年 10 月 以 後 は 7.8%(地 方 消 費 税 と あ わ せ て 10%)と 、消 費 税 率 の引き上げにより、生活必需品への軽減税率等の案が検討されていること等か ら、単一税率を維持することは今後困難になると考えられる。 ⅲ )に つ い て 、免 税 点 を 高 く し 、免 税 事 業 者 の 範 囲 を 広 げ た の は 、消 費 税 の 転 嫁が中小事業者には困難であったこと、また、導入の抵抗を和らげるためだと 考えられる。しかし、免税事業者を増やすことは、過少もしくは過大転嫁や便 乗 値 上 げ を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ っ た 。 税 制 調 査 会 (2002)は 、 6 割 強 の 事 業 者 が免税事業者となっていること、免税事業者が多いことによる消費税に対する 国民の不信があること、そして、免税点の水準が諸外国に比べて高いことを理 由 に 、「 免 税 事 業 者 の 割 合 を 現 在 の 6 割 強 か ら 相 当 程 度 縮 小 さ せ る べ く 、 現 行 の免税点制度を大幅に縮小する」とした 13 ) 。 導 入 時 に は 3,000 万 円 と い う 免 税 点 だ っ た が 、 2003 年 (平 成 15 年 )改 正 に よ り 免 税 点 は 1,000 万 円 ま で 引 き 下 げられた。 限 界 控 除 制 度 は 1994 年 (平 成 6 年 )改 正 に よ り 廃 止 さ れ て い る 。 金 子 (2011)pp.596-600。 11) 1991 年 (平 成 3 年 )改 正 に よ り 、 非 課 税 の 範 囲 が 広 げ ら れ 、 こ の 問 題 は 緩 和 はされているが、食料品は非課税とされなかったため、現在も議論の対象とさ れている。 12) 消 費 税 の 逆 進 性 に つ い て は 、 本 稿 で は 検 討 し な い 。 13) 税 制 調 査 会 (2002)p.9。 9) 10) 6 ⅳ )は 、控 除 で き る 仕 入 税 額 の 計 算 を 、実 額 で は な く 概 算 で お こ な う た め に 採 用された制度である。これは、納税事務の簡素化とコストの軽減のために、税 額の算定を容易にして欲しいという中小企業からの要望に基づいて採用された 措 置 で あ る 。 簡 易 課 税 制 度 は 、 導 入 当 時 、 み な し 仕 入 率 は 、 90%と 80%の 2 区 分であり、また、基準期間の課税売上高が 5 億円以下の事業者に適用を認めて い た 。 し か し 、 こ の 制 度 は 、 適 用 上 限 が 高 す ぎ る う え 、 仕 入 率 が 80%未 満 の 事 業者に、消費者から預かった税額の一部をみずからの手に留保することを公認 す る 結 果 と な る た め 、「 益 税 」 が 発 生 す る と い う 理 由 に 批 判 が 強 か っ た 。 1991 年 (平 成 3 年 )に は 適 用 上 限 を 5 億 円 か ら 4 億 円 に 、 み な し 仕 入 率 も 90%、 80% の 2 区 分 か ら 、90%、80%、70%、60%の 4 区 分 へ 改 正 さ れ た 。1994 年 (平 成 6 年 )に は 、 適 用 上 限 を 2 億 円 ま で 引 き 下 げ 、 み な し 仕 入 率 も 90%、 80%、 70%、 60%、50%の 5 区 分 に 改 正 さ れ た 。し か し 、税 制 調 査 会 (2002)は 、「 基 本 的 に は す べ て の 事 業 者 に 対 し て 本 則 の 計 算 方 法 に よ る 対 応 を 求 め る べ き 」 14 ) と し て い る 。 な お 、 2003 年 (平 成 15 年 )改 正 で は 、 簡 易 課 税 制 度 は 残 さ れ 、 適 用 上 限 は 5,000 万 円 ま で さ ら に 引 き 下 げ ら れ た 。 ⅴ )の 、課 税 期 間 が 長 く な る と 、長 く な っ た 分 だ け 、消 費 者 か ら 預 か っ た 税 額 の「運用益」が発生する。そのため、中間申告と納付の制度が設けられた。し か し 、 そ れ で も 運 用 益 の 問 題 に 十 分 に 対 処 で き な い た め 、 1991 年 (平 成 3 年 ) 改 正 、1994 年 (平 成 6 年 )改 正 、2003 年 (平 成 15 年 )改 正 と 、制 度 が 見 直 さ れ た 。 こ の よ う に 、 消 費 税 の 問 題 点 を 解 決 す る た め に 、 1991 年 (平 成 3 年 )、 1994 年 (平 成 6 年 )、2003 年 (平 成 15 年 )、2011 年 (平 成 23 年 )に 消 費 税 法 が 改 正 さ れ 、 問題点は改善されつつある。次より、現行制度がどのようになっているのかを みる。 1-1. 現 行 の 消 費 税 の 概 要 消 費 税 の 基 本 的 な 流 れ は 図 1-4 の よ う に な っ て い る 。 14) 税 制 調 査 会 (2002)p.10。 7 図 1-4 消 費 税 の 流 れ わが国では、国内取引と輸入取引を課税の対象としている。国内取引とは、 国 内 に お い て 事 業 者 が 事 業 と し て 対 価 を 得 て 行 う 資 産 の 譲 渡 、貸 付 け 、ま た は 、 役 務 の 提 供 (消 法 4① )で あ り 、 輸 入 取 引 は 、 保 税 地 域 か ら 引 き 取 ら れ る 外 国 貨 物 (消 法 4② )で あ る 。 1-2. 課 税 の 対 象 わが国の課税の対象として、国内取引、輸入取引とをあげたが、さらに詳し く み る と 図 1-5 の よ う に な る 。 図 1-5 取 引 分 類 8 課税の対象となる国内取引は、①国内において、②事業者が事業として③対 価を得て行う④資産の譲渡、貸付け、または、役務の提供という、この 4 要件 を満たす取引である。そして、この 4 要件を満たす資産の譲渡、貸付け、また は役務の提供のことを課税資産の譲渡等という。 ① に つ い て 、 国 内 取 引 か 国 外 取 引 か の 判 定 (消 法 4③ )は 、 ⅰ )資 産 の 譲 渡 ま た は貸付けの場合は、原則として、資産の譲渡または貸付けが行われる時におい て 、そ の 資 産 が 所 在 し て い た 場 所 、ⅱ )役 務 の 提 供 の 場 合 は 、原 則 と し て 、役 務 の 提 供 が 行 わ れ た 場 所 で 行 わ れ る 。 た だ し 、 ⅰ )と ⅱ )は 原 則 で あ り 、 例 外 も 存 在 す る (消 法 令 6① 、② )。ⅰ )に つ い て 、例 え ば 、特 許 権 、実 用 新 案 権 、意 匠 権 、 商標権等の譲渡、貸付けが行われた場合には、その特許権等の登録機関の所在 地で判定を行う。そして、2 カ国以上で登録している場合には、譲渡、貸付者 の所在地で判定をする。また、著作権等の譲渡、貸付けが行われた場合は、そ の譲渡・貸付者の住所地で判定が行われる。また、資産の所在場所が明らかで ないものについては、譲渡・貸付者の事務所等の所在地で国内取引の判定を行 う 。ⅱ )に つ い て も 、同 様 の 規 定 が 設 け ら れ て お り 、例 え ば 、情 報 の 提 供 ま た は 設計の役務の提供を行った場合は、情報提供者または、設計者の事務所等の所 在地が判定基準になる。そして、役務の提供で、役務の提供地が明らかでない ものは、役務提供者の事務所等の所在地で判定を行う。 次 に 、 ② の 「 事 業 者 」 と は 、 個 人 事 業 者 及 び 法 人 を い う (消 法 2① 三 、 四 )。 な お 、国 、地 方 公 共 団 体 お よ び 人 格 の な い 社 団 等 も「 事 業 者 」に 含 ま れ て い る (消 法 3、 60)。「 事 業 と し て 」 と は 、 法 人 が 行 う 活 動 は す べ て 事 業 と し て と り あ つ か わ れ る 。た だ し 、個 人 事 業 者 の 場 合 は 、事 業 と し て と り あ つ か わ れ る も の は 、 事業者としての取引のみである。なお、個人事業者が事業の用に供していたも のを家事のために消費しようした場合は、事業として対価を得て行われた資産 の 譲 渡 と み な さ れ る (消 法 4④ 一 )。 そして、③の「対価を得て行う」取引である。対価を得て行う取引であるた め、贈与や寄付金等は原則として課税の対象とはならない 15) ただし、以下の行為は対価を得て行う取引である。 ① み な し 譲 渡 (消 法 4④ ) ② 資 産 の 譲 渡 等 に 類 す る 行 為 (消 法 2① 八 、 消 法 令 2① ) 9 15 ) 。 最 後 に 、④「 資 産 の 譲 渡 」、 「 資 産 の 貸 付 け 」、お よ び 、 「 役 務 の 提 供 」で あ る 。 この「資産の譲渡等」の範囲は消法令 2 において規定されている。 こ の ① 国 内 に お い て 、② 事 業 者 が 事 業 と し て ③ 対 価 を 得 て 行 う ④ 資 産 の 譲 渡 、 貸付け、または、役務の提供のうち、どれか 1 つでも満たさない場合は、課税 の 対 象 に は な ら な い 取 引 (以 下 、「 不 課 税 取 引 」 と い う 。 )と な る 。 輸入取引における課税の対象は、保税地域から引き取られる外国貨物である (消 法 4② ) 16 ) 。 こ こ で い う 外 国 貨 物 と は 、 関 税 法 2① 三 に 規 定 す る 外 国 貨 物 で あり、輸出の許可を受けた貨物および外国から本邦に到着した貨物で輸入が許 可 さ れ る 前 の も の を い う (消 法 2① 十 )。 1-3. 非 課 税 消 費 税 は 、国 内 に お い て 行 な わ れ る 資 産 の 譲 渡 等 を 課 税 の 対 象 と し て い る が 、 一部、消費税になじまないものや社会政策的配慮により消費税を課さないこと を 規 定 し て い る (消 法 6① )。 こ れ を 非 課 税 取 引 と い う 。 出 所 )『 DHC コ メ ン タ ー ル 消 費 税 法 』 p.1342 よ り 引 用 。 図 1-6 国 内 取 引 に お け る 非 課 税 また、保税地域から引き取られる外国貨物も、国内における非課税取引との バ ラ ン ス を 図 る た め 、 図 1-7 の よ う な 非 課 税 取 引 を も う け て い る (消 法 6② )。 16) こ こ で い う 保 税 地 域 と は 関 税 法 29 に 規 定 す る 保 税 地 域 を い う (消 法 2① 二 )。 10 図 1-7 輸 入 取 引 に お け る 非 課 税 非 課 税 取 引 は 、 売 上 が 課 税 の 対 象 か ら 除 外 ( 消 費 税 を 課 さ な い )さ れ て お り 、 また仕入税額の控除は認められていない。 1-4. 輸 出 免 税 次は輸出免税についてみていく。輸出免税は、事業者が国内において行う課 税資産の譲渡等のうち、その資産が輸出される、あるいはその役務の提供が国 外 で 行 わ れ る 場 合 に 、 消 費 税 を 免 除 す る こ と で あ る (消 法 7① )。 図 1-8 免 税 取 引 の 範 囲 免 税 取 引 と な る も の は 図 1-8 の と お り で あ る (消 法 令 17① 、② )。免 税 取 引 は 、 課 税 の 対 象 か ら は 除 外 (消 費 税 を 免 除 )さ れ て い る が 、 そ の 仕 入 れ に 含 ま れ て い る消費税額を、控除する、または、還付を受けることはできる。 こ こ で 「非 課 税 取 引 」、「免 税 取 引 」、お よ び 、「不 課 税 取 引 」を ま と め る と 表 1-1 のようになる。これらは、消費税法の対象から、もしくは、課税の対象から除 外されている点で共通しているが、その考え方はすべて異なっている。 11 表 1-1 非 課 税 取 引 、 免 税 取 引 お よ び 不 課 税 取 引 の 比 較 1-5. 納 税 義 務 者 ここでは納税義務者についてみる。国内取引の納税義務者は、国内において 課 税 資 産 の 譲 渡 等 を 行 っ た 事 業 者 で あ る (消 法 5① )。 ま た 、 輸 入 取 引 の 納 税 義 務 者 は 、 外 国 貨 物 を 保 税 地 域 か ら 引 き 取 る 者 で あ る (消 法 5② )。 た だ し 、 中 小 事業者の事務負担を軽減する等のため、免税点制度を設けている。そのため、 すべての事業者が納税義務者とはならない。 現行の消費税法では、事業者のうち、その課税期間の基準期間における課税 売 上 高 が 1,000 万 円 以 下 で あ る 事 業 者 は 、 原 則 に か か わ ら ず 、 そ の 課 税 期 間 に おける消費税の納税義務が免除される 17) (消 法 9① )。 基 準 期 間 と は 、 個 人 事 業 者の場合は、その年の前々年をいい、法人の場合は、その事業年度の前々事業 年 度 を さ す (消 法 2① 十 四 )。 基 準 期 間 に お け る 課 税 売 上 高 と は 、 基 準 期 間 中 に 行った課税資産の譲渡等の対価の税抜き額の合計額から、売上返品等を控除し た 金 額 を い う た め 、 売 上 と 必 ず し も 一 致 す る と は 限 ら な い (消 法 9② )。 こ の 免 税点制度が適用されている事業者を免税事業者とよび 18 ) 、 消 費 税 を 納 税 し て いる事業者を課税事業者とよぶ。 免 税 点 制 度 の 見 直 し は 、 2003 年 (平 成 15 年 )改 正 の 、 適 用 上 限 が 3,000 万 円 以 下 か ら 1,000 万 円 以 下 に 引 き 下 げ ら れ た こ と 以 外 に も 行 わ れ て い る 。 1997 年 (平 成 9 年 )の 税 率 引 き 上 げ 時 に は 、 資 本 金 1,000 万 円 以 上 の 新 設 法 人 に は 免 税点制度は不適用とした 19 ) 。ま た 、2011 17) 年 度 (平 成 23 年 度 )改 正 で は 、前 年 ま ただし、別段の定めがある場合はこの限りではない。 「 免 税 点 制 度 」 は 、「 事 業 者 免 税 点 制 度 」、「 免 税 事 業 者 制 度 」 等 の 呼 び 方 が あ る が 、 本 稿 で は 、 引 用 等 以 外 は 、「 免 税 点 制 度 」 と よ ぶ 。 19) 新 設 法 人 と は 、そ の 事 業 年 度 の 基 準 期 間 が な い 法 人 (社 会 福 祉 法 人 を 除 く 。) の う ち 、 そ の 事 業 年 度 開 始 の 日 に お け る 資 本 金 の 額 ま た は 出 資 の 金 額 が 1,000 万 円 以 上 あ る 法 人 で あ る (消 法 12 の 2① )。 18) 12 た は 前 事 業 年 度 の 上 半 期 の 課 税 売 上 高 が 1,000 万 円 を 超 え る と 免 税 点 制 度 は 適 用できないこととなる。このように、消費税導入時に比べると、免税事業者の 適用範囲は狭くなったと考えられる。 1-6. 課 税 標 準 次に、課税標準をみる。国内取引の課税標準は、原則として、課税資産の譲 渡 等 の 対 価 の 額 で あ る (消 法 28① )。 こ の 対 価 の 額 と は 、 対 価 と し て 得 る 金 銭 の みならず、金銭以外の物や権利なども含まれる。輸入取引の課税標準は、関税 課 税 価 格 (Cost, Insurance and Freight; CIF価 格 ) 20 ) 、個 別 消 費 税 額 、と 関 税 額 の 総 和 で あ る (消 法 28③ )。 課 税 標 準 額 と は 、 そ の 課 税 期 間 中 に 国 内 で 行 っ た 課 税資産の譲渡等のうち、免税取引とされるものを除いた課税資産の譲渡等に係 る 課 税 標 準 で あ る 金 額 の 合 計 額 で あ る (消 法 45① 一 )。課 税 標 準 額 に 消 費 税 率 を 乗 じ 、消 費 税 額 は 計 算 さ れ る 。わ が 国 の 消 費 税 の 税 率 は 4%の 単 一 税 率 で あ る (消 法 29)。 消 費 税 5%と は 、 こ の 消 費 税 法 の 規 定 す る 消 費 税 4%の ほ か に 、 地 方 消 費 税 が 含 ま れ て い る 。地 方 消 費 税 は 、消 費 税 額 を 課 税 標 準 と し て 25%の 税 率 が 課 さ れ る 。 そ の た め 、 4%+ 1%(=4%×25%)の 5%が 消 費 税 と し て 支 払 わ れ て い る。 1-7. 税 額 控 除 税 額 控 除 に は 、 仕 入 れ に 係 る 消 費 税 額 の 控 除 ( 以 下 、「 仕 入 税 額 控 除 」 と い う 。 )(消 法 30① 、 37① )、 売 上 に 係 る 対 価 の 返 還 等 を し た 場 合 の 消 費 税 額 の 控 除 (消 法 38① )、 貸 倒 れ に 係 る 消 費 税 額 の 控 除 (消 法 39① )が あ る が 、 本 稿 で は 、 仕入税額控除のみをとりあつかう。 わが国では、消費税の税の累積を排除するために、前段階税額控除方式を採 用している。前段階税額控除方式とは、課税標準額に対する消費税額から課税 仕入れに係る消費税額を控除する方法である。わが国の仕入税額控除は、課税 標準額に対する消費税額から、国内において行った課税仕入れおよび保税地域 か ら 引 き 取 る 課 税 貨 物 に 係 る 消 費 税 額 を 控 除 す る こ と と な っ て い る (消 法 30① )。 ここでいう課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、 20) CIF 価 格 と は 、 目 的 地 ま で の 運 賃 と 保 険 料 を 売 買 価 格 に 含 め た 価 格 で あ る 。 13 も し く は 借 り 受 け 、 ま た は 役 務 の 提 供 を 受 け る こ と を い う (消 法 2① 十 二 )。 次に、仕入控除税額の計算方法をみる。仕入控除税額とは、課税仕入れに係 る消費税額から実際に控除できる税額である。この仕入税額控除は実額による 控 除 と 、 概 算 に よ る 控 除 を 認 め て お り 、 仕 入 控 除 税 額 の 計 算 方 法 は 図 1-9 の よ うに区分される。 図 1-9 仕 入 控 除 税 額 の 計 算 方 法 の 区 分 まず、実額による控除、つまりは仕入控除税額の計算の原則をみる。仕入控 除 税 額 の 計 算 方 法 は 、そ の 課 税 期 間 中 の 課 税 売 上 高 が 5 億 円 を 超 え る か ど う か 、 ま た は 5 億 円 以 下 の 場 合 で は 、課 税 売 上 割 合 が 95%以 上 か ど う か に よ っ て 異 な る (消 法 30② )。 課 税 売 上 割 合 と は 、 そ の 課 税 期 間 中 で 、 国 内 に お け る 資 産 の 譲 渡 等 の 対 価 の 額 に 占 め る 課 税 売 上 高 の 割 合 を い う (消 法 30⑥ )。 な ぜ 、 こ の よ う な課税売上割合を計算するかというと、仕入れにかかる消費税を控除できる範 囲が課税売上にかかる部分だけだからである。 課 税 売 上 高 が 5 億 円 以 下 、か つ 、課 税 売 上 割 合 が 95%以 上 の 時 は 全 額 控 除 が 適 用 さ れ る (消 法 30① )。 こ れ は 仕 入 控 除 税 額 の 計 算 を 簡 便 化 す る た め で あ る 。 課税売上高が 5 億円を超える場合に、全額控除を適用できない理由は、課税売 上高が 5 億円を超える場合は、大企業であると考えられるためである。このよ うな大企業は事務処理能力があると考えられるため、たとえ課税売上割合が 95%以 上 で あ っ て も 、2011 年 度 (平 成 23 年 度 )改 正 に よ り 、2012 年 (平 成 24 年 )4 月 1 日以後に開始する課税期間には全額控除が認められなくなった。 14 そ し て 、課 税 売 上 高 が 5 億 円 を 超 え る 、ま た は 、課 税 売 上 割 合 が 95%未 満 の 場 合 は 、個 別 対 応 方 式 (消 法 30② 一 )、ま た は 一 括 比 例 配 分 方 式 で 計 算 す る (消 法 30② 二 )。個 別 対 応 方 式 と は 、そ の 課 税 期 間 中 に お い て 行 っ た 課 税 仕 入 れ 等 の 消 費税額を①課税資産の譲渡等にのみ要するもの、②課税資産の譲渡等とその他 の 資 産 の 譲 渡 等 に 共 通 し て 要 す る も の 、 ③ そ の 他 の 資 産 (非 課 税 資 産 )の 譲 渡 等 に の み 要 す る も の に 区 分 し 、 仕 入 控 除 税 額 を ① + ② ×課 税 売 上 割 合 と 計 算 す る 方 式 で あ る (消 法 30② 一 )。 図 1-10 個 別 対 応 方 式 の 考 え 方 また、一括比例配分方式は、個別対応方式のように区分せず、仕入控除税額 を 課 税 仕 入 れ 等 の 税 額 ×課 税 売 上 割 合 と 計 算 す る 方 式 で あ る (消 法 30② 二 )。 図 1-11 一 括 比 例 配 分 方 式 の 考 え 方 一括比例配分方式を選択した事業者は、2 年間は強制で一括比例配分方式が 適 用 さ れ る (消 法 30⑤ )。 次に、概算による仕入控除税額の計算をみる。概算で仕入控除税額を計算す る 方 法 と し て 、 簡 易 課 税 制 度 が あ る (消 法 37① )。 簡 易 課 税 制 度 は 、 中 小 事 業 者 の事務負担の軽減のために設けられた制度である。適用するためには、その基 準 期 間 に お け る 課 税 売 上 高 が 5,000 万 円 以 下 の 事 業 者 で 、 か つ 、 「消 費 税 簡 易 課 税 制 度 選 択 届 出 書 」を 提 出 し な け れ ば な ら な い (消 法 37① )。 簡 易 課 税 制 度 に 15 よ る 場 合 の 仕 入 控 除 税 額 は 、 課 税 標 準 額 に 対 す る 消 費 税 額 ×み な し 仕 入 率 と 計 算 す る 。つ ま り は 、売 上 か ら 仕 入 れ に か か る 消 費 税 額 の 計 算 を す る 方 法 で あ る 。 み な し 仕 入 率 は 、事 業 区 分 に よ り 表 1-2 の と お り に 定 め ら れ て い る (消 法 37① 、 消 法 令 57① 、 ⑤ 、 ⑥ )。 表 1-2 み な し 仕 入 率 事業区分 みなし仕入率 該当する事業 卸売業 第1種事業 90% 小売業 第2種事業 80% 製造業、建設業、鉱業、農林水産業等 第3種事業 70% 飲食業、金融・保険業等、および第1種~第3種、第5種に該当しない事業 第4種事業 60% 不動産業、運輸通信業およびサービス業(飲食店業を除く) 第5種事業 50% 以 上 が 、現 行 の 消 費 税 法 で あ る 。現 在 、2014 年 4 月 以 後 6.3%(地 方 消 費 税 と あ わ せ て 8%)、2015 年 10 月 以 後 7.8%(地 方 消 費 税 と あ わ せ て 10%)と 、消 費 税 率の引き上げに伴い、複数税率等の案が検討されている。しかし、諸外国にお いては、消費税は単一税率が望ましいということがほぼ共通認識である。そこ で 、 2 節 で は 、 OECD の VRR を 用 い て 、 単 一 税 率 が 望 ま し い と さ れ る 理 由 を みる。 第 2 節 VRR OECDは 2008 年 か ら 、「 VRR」 と い う 概 念 を 用 い 21 ) 、 付 加 価 値 の 税 収 能 力 を 示 し て い る 。 実 際 の 税 収 (actual VAT revenue)を 、 理 想 的 な 課 税 ベ ー ス (the potential tax base)に 標 準 税 率 (standard VAT rate)を 乗 じ た も の で 割 る こ と で 、 実際の税収と理想的な税収との違いを示す指標である。1 に近いほど、施行さ れ て い る VAT法 が 理 想 的 な VATに 近 い こ と を 示 し て お り 、 こ れ は 免 税 点 制 度 等 の 影 響 が 少 な い 、 つ ま り は 税 収 ロ ス が 少 な い と も 考 え ら れ る 。 VRRは 、 次 の よ うにあらわされる。 21) OECD(2008) ”Consumption Tax Trends 2008”, p.67。 16 VRR = VR B・r ただし: VR : 実 際 の 税 収 (Actual VAT revenues) B : 理 想 的 な 課 税 ベ ー ス (Potential tax base) r : 標 準 税 率 (Standard VAT rate) である。 しかし、理想的な課税ベースをどのように評価するかはとても困難である。 そ こ で OECD(2011b)は 、VATと は 、結 局 は 最 終 消 費 に 対 す る 税 で あ る た め 、SNA の最終消費支出を理想的な課税ベースと想定している。なお、最終消費支出に は 、「 民 間 最 終 消 費 支 出 」 だ け で な く 、「 対 家 計 民 間 非 営 利 団 体 最 終 消 費 支 出 」、 「政府最終消費支出」が含まれている 22 ) 。 こ れ は 、 「対家計民間非営利団体最 終 消 費 支 出 」と「 政 府 最 終 消 費 支 出 」は 、流 通 の 最 終 段 階 の 消 費 支 出 と み る と 、 消 費 税 を 支 払 う べ き と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 ま た 、 最 終 消 費 支 出 は 、 SNA上 は消費税を含んでおり、理想的な課税ベースに近づけるために、最終消費支出 か ら 消 費 税 を 取 り 除 く 必 要 が で て く る 。 こ の 結 果 と し て 、VRRは 次 の よ う に あ らわされる。 ここで: VR VRR = VR (FCE − VR)・r : 実際の税収 FCE : 最 終 消 費 支 出 (Final consumption expenditure) r : 標準税率 である。 Final consumption expenditures by NPSH and general government should be considered as final consumers for VAT purposes since they are at the last place in the value chain.(OECD(2011b)p.107.) 22) 17 OECD(2011b)が 推 計 し た 、 VRR の 結 果 は 次 の と お り で あ る 。 表 1-3 VAT Revenue Ratio (VRR) Standard VAT rate 2008 AUSTRALIA AUSTRIA BELGIUM CANADA CHILE CZECH REPUBLIC DENMARK FINLAND FRANCE GERMANY GREECE HUNGARY ICELAND IRELAND ISRAEL ITALY JAPAN KOREA LUXEMBOURG MEXICO NETHERLANDS NEW ZEALAND NORWAY POLAND PORTUGAL SLOVAK REPUBLIC SLOVENIA SPAIN SWEDEN SWITZERLAND TURKEY UNITED KINGDOM Unweighted average 10.0 20.0 21.0 5.0 19.0 19.0 25.0 22.0 19.6 19.0 19.0 20.0 24.5 21.0 15.5 20.0 5.0 10.0 15.0 15.0 19.0 12.5 25.0 22.0 21.0 19.0 20.0 16.0 25.0 7.6 18.0 17.5 1976 1980 1984 1988 1992 1996 0.65 0.57 0.64 0.61 0.63 0.50 0.61 0.53 0.60 0.49 0.44 0.64 0.64 0.61 0.60 0.60 0.55 0.64 0.56 0.7 0.6195 0.57 0.52 0.6 0.50 0.44 0.30 0.21 0.45 0.43 0.52 0.62 0.45 0.30 0.63 0.46 0.46 0.43 0.40 0.4 0.60 0.49 0.56 0.33 0.54 0.56 0.28 0.51 0.66 0.66 0.63 0.57 0.26 0.56 0.9 0.69 0.39 0.69 0.64 0.47 0.32 0.59 0.97 0.52 0.42 0.50 0.59 0.42 0.57 0.41 0.45 0.50 0.70 0.53 0.48 0.5 0.5329 0.49 0.6 0.45 0.47 0.5408 0.36 0.39 0.45 0.49 0.5 0.5065 0.60 0.47 0.59 0.69 0.44 0.58 0.54 0.51 0.60 0.42 0.44 0.54 0.53 0.68 0.40 0.72 0.59 0.57 0.25 0.57 0.99 0.60 0.43 0.56 2000 0.46 0.62 0.51 0.67 0.66 0.44 0.60 0.61 0.50 0.60 0.48 0.53 0.59 0.60 0.64 0.45 0.70 0.61 0.68 0.29 0.60 0.98 0.67 0.42 0.60 0.44 0.68 0.53 0.52 0.78 0.45 0.48 0.58 2003 0.55 0.61 0.48 0.7 0.69 0.42 0.60 0.60 0.49 0.55 0.48 0.46 0.54 0.59 0.63 0.41 0.68 0.69 0.75 0.30 0.57 1.07 0.56 0.42 0.54 0.54 0.65 0.53 0.52 0.75 0.47 0.49 0.57 2005 0.56 0.61 0.50 0.69 0.70 0.59 0.62 0.60 0.51 0.55 0.46 0.49 0.62 0.66 0.64 0.41 0.72 0.66 0.87 0.31 0.61 1.03 0.58 0.46 0.58 0.61 0.67 0.56 0.55 0.76 0.38 0.48 0.59 2007 0.55 0.61 0.51 0.69 0.72 0.56 0.65 0.60 0.50 0.55 0.47 0.59 0.60 0.64 0.69 0.43 0.69 0.65 0.91 0.34 0.62 0.97 0.63 0.53 0.53 0.53 0.69 0.55 0.57 0.77 0.36 0.48 0.60 2008 0.49 0.61 0.49 0.74 0.75 0.59 0.62 0.58 0.49 0.55 0.46 0.57 0.54 0.55 0.68 0.41 0.67 0.65 0.93 0.35 0.60 0.98 0.57 0.49 0.51 0.54 0.68 0.46 0.58 0.77 0.35 0.46 0.58 Difference 2000 - 2008 0.03 -0.01 -0.03 0.06 0.09 0.15 0.02 -0.03 -0.01 -0.05 -0.03 0.05 -0.05 -0.05 0.04 -0.05 -0.03 0.04 0.25 0.06 0.00 -0.01 -0.10 0.07 -0.09 0.10 0.00 -0.07 0.06 -0.01 -0.10 -0.03 0.00 出 所 )OECD(2011b), p.109。 た だ し 、 2008 年 以 降 の SNA デ ー タ は す べ て の 国 で 公 表 さ れ て い な い た め 、 そ れ 以 降 の 計 算 は さ れ て い な い 。 OECD(2011b)に よ る と 、 2008 年 の わ が 国 の VRR は 0.67 で あ る 。 2008 年 に お け る 各 国 の 比 較 を 表 し た の が 、 図 1-12 で あ る。 18 出 所 )OECD(2011b), p.112 を 一 部 修 正 。 図 1-12 2008 年 の VAT Revenue Ratio こ の 結 果 か ら 、わ が 国 の 消 費 税 は 各 国 と の 平 均 よ り も 理 想 的 な VAT に 近 い こ と を 示 さ れ て い る 。こ の 理 想 的 な VAT と は 、単 一 税 率 を 適 用 し 、か つ 、課 さ れ た VAT を す べ て 徴 収 で き る 状 況 で な け れ ば な ら な い 。 つ ま り 、 VRR が 低 い と いうことは、複数税率の適用などを採用しており、標準税率を課す課税範囲が 狭 か っ た り 、VAT の 徴 収 が う ま く 行 わ れ て い な か っ た り す る こ と を 示 し て い る 。 VRRが 1 に な る こ と は 稀 で あ り 、そ の 理 由 を OECD(2011b)は 、① 多 く の 国 が ゼロ税率を含めた軽減税率を採用していること、②保健医療等に非課税がもう け ら れ て い る こ と 、 ③ 免 税 点 制 度 が 採 用 さ れ て い る こ と 、 ④ VATに 関 す る 税 法 が 100%施 行 さ れ て い な い こ と 、 ⑤ VATが 課 さ れ る 可 能 性 の あ る 財 と サ ー ビ ス と、国民経済計算で報告される消費とに差がある可能性があることをあげてい る 23 ) 。 第 3 節 修 正 VRR 第 3 節 で は 2 節 で 説 明 し た VRRを 使 用 し 、わ が 国 の 消 費 税 が 導 入 さ れ た 1989 23) OECD(2011b)p.110。 19 年 か ら 消 費 税 法 改 正 を 経 て 、 消 費 税 に お け る 効 率 性 が あ が っ た か を み る 。VRR が 1 になることが稀である理由として、②非課税がもうけられていること、③ 免税点制度が採用されていることがあげられていた 24 ) 。 つ ま り 、 VRRは 消 費 税 法 に 影 響 さ れ て お り 、こ の 理 由 ② 、③ を 含 め た 法 改 正 が 行 わ れ た の ち に 、VRR が よ り 1 に 近 づ け ば 、法 改 正 に よ り 消 費 税 が 効 率 的 に な っ た と み る こ と が で き る。つまりは、益税等を含めた税収ロスの少ない消費税制になったと考えられ る 。 そ こ で 本 稿 で は 、 こ の VRRを 使 用 し 、 法 改 正 が 消 費 税 に ど れ ほ ど 影 響 を 与 え た の か を み る 。 な お 、 こ こ で 使 用 す る VRRは 、 国 際 間 比 較 を 行 う わ け で は な い た め 、 次 の 点 で OECDと は 異 な っ て い る 。 こ れ は 実 際 の 課 税 ベ ー ス に よ り 近 づ け る た め で あ り 、 こ の VRRを 本 稿 で は 修 正 VRRと よ ぶ 。 ま ず 、 修 正 VRR は 、 理 想 的 な 課 税 ベ ー ス か ら 帰 属 家 賃 の 数 値 を 控 除 し て い る 。帰 属 計 算 (Imputation)と は 、SNA の 特 有 な 概 念 で あ り 、財 貨 ・ サ ー ビ ス の 提供ないし享受に際して、実際は市場でその対価の受払が行われていないのに もかかわらず、それがあたかも行われたかのようにみなして擬制的取引計算を 行うことをいう。この帰属計算のひとつに帰属家賃があり、これは消費税計算 に は 関 係 が な い 。 そ の た め 、 修 正 VRR で は 、 帰 属 家 賃 は 計 算 に 含 ま れ て い な い。 次に、住宅投資である。最終消費支出に新規住宅購入費は含まれていない。 そのため、この新規住宅購入費分を、理想的な課税ベースに含める必要がでて く る 。 新 規 住 宅 購 入 費 は 、 総 固 定 資 本 形 成 (Gross Fixed Capital Formation)の 有形固定資産に計上されている。 そ し て 、家 計 最 終 消 費 支 出 (Final Consumption Expenditure of Households) に つ い て も 注 意 が 必 要 で あ る 。家 計 最 終 消 費 支 出 に は 、「 国 内 」と「 国 民 」の 2 つの概念がある。 「 国 内 」の 概 念 は 、国 内 市 場 に お け る 最 終 消 費 支 出 は 、あ る 国 の国内領土における居住者たる家計および非居住者たる家計の最終消費支出で あ る 。他 方 、 「 国 民 」の 概 念 は 、居 住 者 た る 家 計 の 最 終 消 費 支 出 は 、国 内 市 場 に おける最終消費支出に、居住者たる家計の海外での直接購入を加え、非居住者 たる家計の国内市場での購入を差し引いたものである。統合勘定、所得支出勘 定には、後者の「国民」の概念で計上されている。しかし、消費税は、国内市 24) OECD(2011b)p.110。 20 場における最終消費支出、つまりは前者の「国内」の概念が必要であるため、 こ こ で い う 「家 計 最 終 消 費 支 出 」は 、「国 内 家 計 最 終 消 費 支 出 」と 「非 居 住 者 家 計 の 国 内 で の 直 接 購 入 」の 和 で あ る 。 以 上 を ま と め 、 修 正 VRR は 次 の よ う に あ ら わ す 。 ただし、 修 正 VRR = 実際の消費税収 理 想 的 な 課 税 ベ ー ス ・5% 理想的な課税ベース = �家 計 最 終 消 費 支 出 − 帰 属 家 賃 � +対家計民間非営利団体最終消費支出+政府最終消費支出+住宅購入 家計最終消費支出 である。 = 国内家計最終消費支出 + 非居住者家計の国内での直接購入 な お 、 今 回 使 用 し た SNA は 2009 年 確 報 で あ る 。 OECD(2011b)と 同 様 の 計 算 を し た VRR と 、 修 正 VRR の 数 値 の 結 果 は 表 1-4 の と お り で あ る 。 21 表 1-4 VRR と 修 正 VRR の 比 較 1989年 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 VRR 0.40 0.52 0.54 0.55 0.57 0.56 0.56 0.57 0.57 0.72 0.73 0.69 0.68 0.68 0.67 0.70 0.72 0.71 0.69 0.68 修正VRR 0.41 0.53 0.55 0.56 0.59 0.57 0.58 0.59 0.61 0.77 0.78 0.74 0.74 0.74 0.73 0.76 0.78 0.77 0.75 0.74 出 所 ) SNA よ り 計 算 。 次 に 、 こ の 修 正 VRR を 消 費 税 法 改 正 の 流 れ を 併 せ て み る と 図 1-13 の よ う に なる。 図 1-13 修 正 VRR と 改 正 の 流 れ 22 修 正 VRR の 数 値 と 改 正 を 比 較 す る と 、 わ が 国 の 消 費 税 法 は 、 改 正 を 行 う こ と に よ っ て 効 率 的 な も の に な っ て い る 。特 に 、1994 年 (平 成 6 年 )改 正 は 、わ が 国の消費税法をより効率的なものにしたといえる結果がでた。 ただし、わが国の消費税法には、まだ問題が残されている。そこで、第 2 章 では、改正され改善されてきた問題とともに、現在の消費税法では改善できな い問題についてみる。 23 第 2 章 消費税法等による諸問題 本章では、消費税法等による諸問題として、とりわけ、益税問題、電子商取 引の消費課税問題、および、少額貨物無条件免税における問題についてみる。 まず、 「 益 税 」に つ い て 、山 本 は 、益 税 の 定 義 を「 財 務 省 や 税 制 調 査 会 の 考 え るような『消費者が負担した税が事業者に留保されて国庫に支払われていない も の 』で は な く 、 『益税とは法構成上の不備から事業者が本来納付すべき税が納 付されていないもの』と広くとらえ、本来の付加価値税理論から観察すべきで ある」 25) と し て い る 。 「消費者が負担した税が事業者に留保されて国庫に支払 わ れ て い な い も の 」と は 、1994 年 の 税 制 調 査 会『 税 制 改 革 に つ い て の 答 申 』(以 下 、『 1994 年 答 申 』 と い う 。 )に 言 及 さ れ て い る 26) 。 『 1994 年答申』であげら れているものは、免税点制度、簡易課税制度、および、限界控除制度から発生 す る 益 税 で あ り 、 詳 し く は 本 章 1 節 に て み る 。 山 本 は 、 図 2 -1 に 示 す よ う に 、 税制調査会の言及する益税がすべてではなく、益税を「法構成上の不備から事 業 者 が 本 来 納 付 す べ き 税 が 納 付 さ れ て い な い も の 」と 広 く 捉 え る こ と に よ っ て 、 益税の範囲を広げ、さらに、免税事業者からの仕入れにかかる仕入税額控除と 課 税 売 上 割 合 が 95%以 上 の 場 合 の 課 税 仕 入 れ に か か る 消 費 税 額 の 全 額 控 除 を 認 め て い る こ と (以 下「 95%ル ー ル 」と い う 。)を あ げ て い る ルによる益税は巨額であるとしている 27) 。特 に 95%ル ー 28) 。 山 本 は 「 多 段 階 課 税 を 行 う 消 費 税 の性格からすれば、仕入税額控除の対象となるのはあくまで課税売上げに対応 する課税仕入れにかかる消費税に限定するというのが付加価値税の理論」であ ることを前提におき、この原則を守ろうとするならば、すべての事業者がプロ ラ タ 計 算 (課 税 売 上 割 合 を 乗 ず る 計 算 )を し な け れ ば な ら な い と 指 摘 し た 29) 30 ) 。 た だ し 、山 本 は 95%ル ー ル に よ る 益 税 は 巨 額 で あ る と し た が 、具 体 的 な 益 税 の 規 模 を 推 計 し て い る わ け で は な い 。 95%ル ー ル の 推 計 は 井 藤 が 行 っ て い る 。 井 藤 の 分 析 に よ る と 、 2008 年 度 の 実 績 値 で 、 14 社 に 生 じ た 益 税 額 を 合 計 は 、 山 本 (2008)p.428。 税 制 調 査 会 (1994)p.20。 27) 山 本 (2008)pp.428-429。 28) 山 本 (2008)p.249。 29) 山 本 (2008)p.249。 30) た だ し 、 プ ロ ラ タ 計 算 の 煩 雑 さ を 考 慮 に い れ 、 中 小 事 業 者 の 特 例 と し て は 残すことに反対はしていない。 25) 26) 24 11,976 百 万 円 ( 年 ) で あ っ た 31 ) 。 ま た 、 大 企 業 の 課 税 売 上 割 合 の 概 算 計 算 を す る と 、 ほ と ん ど の 会 社 が 99%以 上 で あ っ た 。 出 所 )山 本 (2008)『 租 税 法 の 基 礎 理 論 [新 版 ]』 pp.428-429 を 基 に 作 成 。 図 2-1 山 本 の 考 え る 益 税 の 範 囲 ま た 、 梯 ・ 平 田 は 、 図 2-2 よ う に 2 種 類 の 益 税 が 存 在 す る と し て い る 32 ) 。 出 所 )梯 ・ 平 田 (2009) 「 消 費 税 法 上 の 益 税 問 題 と そ の 解 消 」 p.98 を 基 に 作 成 。 図 2-2 梯 ・ 平 田 の 考 え る 益 税 の 範 囲 31) 32) 井 藤 (2010)p.130。 梯 ・ 平 田 (2009)p.98。 25 梯・平 田 が 指 摘 す る 益 税 の ひ と つ は 、一 般 的 な 認 識 に お け る「 益 税 」で あ り 、 それは、 「消費者が負担した消費税相当額が事業者に留保されて国庫に納付され ないというもの」 33) で あ る 。 も う ひ と つ は 、 「付加価値税の理論からみても法 構 成 上 の 不 備 か ら 事 業 者 が 本 来 納 付 す べ き 税 が 納 付 さ れ て い な い も の 」 34) で あ る 。 前 者 は 、『 1994 年 答 申 』 に 言 及 さ れ て い る 益 税 と 同 様 で あ る と 考 え る 。 後 者 は 、 免 税 事 業 者 か ら の 仕 入 れ に か か る 仕 入 税 額 控 除 、 95%ル ー ル 、 お よ び 、 95%ル ー ル を 適 用 で き な い 95%未 満 の 場 合 で も 一 括 比 例 配 分 方 式 を 採 用 し 、 本 来控除を認めるべきでない非課税売上対応課税仕入れの一部の控除を認めるこ とにより発生すると指摘している 35 ) 。 山 本 と 梯・平 田 に は 若 干 の 違 い は あ る が 、両 者 と も が『 1994 年 答 申 』に 言 及 された、いわゆる「益税」の他にも益税は発生しているとしており、それは、 法構成上の不備から事業者が本来納付すべき税が納付されていないものと指摘 す る 。『 1994 年 答 申 』 に お い て 言 及 さ れ て い な い 益 税 に つ い て は 、 本 章 第 2 節 でみる。 しかし、この益税問題は、幾度にわたる税法改正が行われているため、先行 研究の示す通り縮小していると思われるが、本稿において、消費税法の諸問題 のひとつとしてとりあつかう。 次に、電子商取引の消費課税問題である。これは、本章第 3 節にて詳しくと りあつかう。電子商取引の消費課税問題は、現行の消費税法が追いついていな いため、縮小されつつある益税問題より重要な問題であると考える。 最後に、少額貨物無条件免税の問題である。詳しくは本章第 4 節にてみる。 こちらは、消費税法としての問題ではないが、今後の市場拡大を考えると見過 ごすことのできない問題であると考える。 以上を本稿でとりあつかう消費税法の諸問題とする。 第 1 節 いわゆる「益税」 ここでは、いわゆる「益税」についてみる。 33) 34) 35) 梯 ・ 平 田 (2009)p.98。 梯 ・ 平 田 (2009)p.98。 梯 ・ 平 田 (2009)p.98。 26 「 益 税 」 と は 、 明 確 に 規 定 さ れ て い る わ け で は な い が 、『 1994 年 答 申 』 に お い て 、「 買 い 手 が 支 払 っ た 消 費 税 額 で 事 業 者 の 手 許 に 残 る も の 」 36 ) と さ れ て い る。これら益税は、消費税導入時に、事業者の事務負担を軽減するために採ら れた、中小事業者の特例措置に発生すると指摘されている 37) 。 『 1994 年答申』 において整理された中小事業者の特例措置と益税の関係は、以下のとおりであ 38 ) 。 る ① 事業者免税点制度については、免税事業者が消費課税に伴い消費税分 として仕入れ価格の上昇分を上回る価格の引上げを行ったとすれば、そ の差額に相当するいわゆる益税が発生する。 ② 簡易課税制度については、みなし仕入率が実態を上回って乖離してい る場合にはいわゆる益税が発生する。 ③ 限界控除制度については、本来納付すべき税額の一部を事業者の手許 に残すような仕組みとなっており、本制度による控除額がいわゆる益税 となっている。 本節では、現行制度で採用されている①免税点制度と②簡易課税制度につい て詳しくみる 39 ) 。 1-1.免 税 点 制 度 (消 法 9) 免税点制度は、消法 9 に「小規模事業者に係る納税義務の免除」に規定され て い る 。 こ れ は 、 課 税 売 上 高 が 1,000 万 円 以 下 で あ る 事 業 者 に つ い て は 、 消 費 税を納める義務を免除する制度である。免税事業者は、消法 9 に「消費税を納 める義務を免除する」との文言のとおり、納税義務を免除されているだけなの で 、仕 入 れ の 際 に 支 払 っ た 消 費 税 分 を 転 嫁 す る こ と は 可 能 で あ る と 解 釈 で き る 。 『 1994 年 答 申 』に よ る と 、こ の 免 税 点 制 度 は 、消 費 税 分 と し て 仕 入 れ 価 格 の 上 昇分を上回る引上げを行ったとすれば、その差額が益税となる 40 ) 。 税 制 調 査 会 (1994)p.20。 税 制 調 査 会 (1994)p.20。 38) 税 制 調 査 会 (1994)p.20。 39) ③ の 限 界 控 除 制 度 は 、1994 年 の 税 制 改 革 (1997 年 施 行 )で 廃 止 さ れ て い る た め、本稿ではとりあつかわない。 40) 税 制 調 査 会 (1994)p.20。 36) 37) 27 図 2-3 事 業 者 免 税 点 制 度 に よ る 益 税 発 生 の 仕 組 み ここでは、免税点制度による益税の発生の仕組みをわかりやすくするため、 図 2-3 の 取 引 を 例 に あ げ る 。(a)は 、消 費 税 導 入 前 の 取 引 で あ る 。(b)は す べ て が 課 税 事 業 者 で あ る 取 引 で 、(c)は 小 売 業 者 を 免 税 事 業 者 で と し た 取 引 で あ る 。た だし、どの事業者が課税事業者であるのか、または、免税事業者であるかは、 消費者にも事業者にもわからない。 小 売 業 者 が 課 税 事 業 者 で あ っ た (b)の 場 合 で は 、 消 費 税 を 含 め た 8,400 円 で 仕 入 れ を 行 い 、 税 込 み 10,500 円 で 販 売 、 消 費 税 を 100 円 納 付 し て い る た め 、 粗 利 益 は 2,000 円 で あ る 。 し か し 、 小 売 業 者 が 免 税 事 業 者 に な る と 、 仕 入 れ に 28 支 払 っ た で あ ろ う 消 費 税 額 400 円 の 控 除 が で き ず 、粗 利 益 を 確 保 す る た め に 消 費 税 額 400 円 分 を 商 品 に 転 嫁 す る と 考 え ら れ る 。『 1994 年 答 申 』 で は 、「 仕 入 れ価格の上昇分を上回る引上げ」としているため、仕入れに支払ったであろう 消 費 税 額 400 円 を 、商 品 10,000 円 に 転 嫁 し た 10,400 円 で 販 売 し て も 益 税 は 発 生しない。しかし、消費者は小売業者が免税事業者であることを把握していな い た め 、 本 来 の 価 格 10,500 円 で 販 売 さ れ て も 違 和 感 は な い 。 仮 に 、 小 売 業 者 が 課 税 事 業 者 で あ る 時 と 同 様 、 10,500 円 で 販 売 し た 場 合 、 10,401 円 以 上 で 販 売 し て い る た め 、 益 税 が 発 生 す る 。 図 2-3 で 示 し た 、 今 回 の ケ ー ス で は 、 100(=10,500- 10,400)円 の 益 税 が 発 生 し て い る と 考 え ら れ る 。 1-2. 簡 易 課 税 制 度 (消 法 37① ) 次 に 簡 易 課 税 制 度 に つ い て み る 。 簡 易 課 税 制 度 は 、 消 法 37 に 「 中 小 事 業 者 の仕入れに係る消費税額の控除の特例」として規定されている制度である。事 業 者 の 基 準 期 間 に お け る 課 税 売 上 高 が 5,000 万 円 以 下 で あ る 場 合 、 課 税 仕 入 れ 等の税額の合計額は、課税標準額に対する消費税額に、みなし仕入率を乗じて 計算した額となる。しかし、このみなし仕入率が実態を上回って乖離している 場合に益税が発生する 41 ) 。 こ こ で 、 み な し 仕 入 率 と は 、 消 法 令 57 に お い て 表 2-1 の よ う に 定 め ら れ て い る 。 表 2-1. み な し 仕 入 率 事業区分 みなし仕入率 該当する事業 卸売業 第1種事業 90% 小売業 第2種事業 80% 製造業、建設業、鉱業、農林水産業等 第3種事業 70% 飲食業、金融・保険業等、および第1種~第3種、第5種に該当しない事業 第4種事業 60% 不動産業、運輸通信業およびサービス業(飲食店業を除く) 第5種事業 50% 出 所 )消 法 令 57 を 基 に 作 成 。 簡 易 課 税 制 度 に よ る 益 税 発 生 の 仕 組 み を 、 図 2-4 で 説 明 す る 。 こ こ で は 、 卸 売業者が簡易課税制度を採用している例である。 41) 税 制 調 査 会 (1994)p.20。 29 図 2-4 簡 易 課 税 制 度 に よ る 益 税 発 生 の 仕 組 み 図 2-4 の 卸 売 業 者 が 、6,300 円 で 仕 入 れ 、8,400 円 で 小 売 業 者 に 販 売 し た 取 引 で は 、 原 則 計 算 で 算 出 さ れ た 納 付 す る 消 費 税 額 は 100(=400-300)円 で あ る 。 し か し 、簡 易 課 税 制 度 が 採 用 さ れ た 場 合 、卸 売 業 は み な し 仕 入 率 が 90%で あ る の で 、納 付 す る 消 費 税 額 は 40(=400-(400×90%))円 と な る 。こ の 差 額 60(=100-40) 円が益税である。 第 2 節 95%ル ー ル 次 に 、 95%ル ー ル に つ い て み る 。 山 本 に よ る と 、 い わ ゆ る 「 益 税 」 と は 別 の 益 税 と し て 、課 税 売 上 割 合 が 95%以 上 の 場 合 に 全 額 仕 入 税 額 控 除 を 行 う こ と に より、事業者の手許に残るといった益税が考えられるとしている 42 ) 。 課 税 売 上割合とは、その事業者が国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計 額 の う ち 、 課 税 資 産 の 譲 渡 等 の 対 価 の 額 の 合 計 額 の 占 め る 割 合 で あ る (消 法 30 42) 山 本 (2008)pp.428-429。 30 ⑥ )。益 税 の 定 義 を 広 く 解 釈 し た 山 本 の 意 見 に よ り 43) 、井 藤 は 、 「制度上の不備 によって非課税売上げについて仕入税額控除ができないという不利な事項を有 利な方式にしたという意味での益税」 44) と 述 べ 、95%ル ー ル も 益 税 を 発 生 さ せ る 要 因 と し て 捉 え て い る 。そ の た め 、税 制 調 査 会『 1994 年 答 申 』で 指 摘 さ れ て い な い が 、 こ の 95%ル ー ル に も 問 題 が あ る と 考 え ら れ る 45) 46 ) 。 消 法 30 に お い て 、 事 業 者 は 国 内 に お い て 行 っ た 課 税 仕 入 れ 等 に か か る 消 費 税を、課されるべき消費税額から控除することができる。この控除できる消費 税額の計算において、課税売上高が 5 億円以下である、かつ、課税売上割合が 95%以 上 の 時 は 全 額 控 除 が で き る よ う に な っ て い る (消 法 30② )。 今 回 は 、 個 別 対 応 方 式 で 控 除 税 額 を 計 算 す る (法 30② )。 個 別 対 応 方 式 と は 、 課税仕入れ等につき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲 渡等のみに要するもの、課税資産の譲渡等及びその他の資産の譲渡等に共通し て要するものと区分を明らかにしている場合に適用できる計算方法である。例 えば、製品に係る仕入れを行ったら、それは課税資産の譲渡に係る仕入れにな るため、全額控除することができる。しかし、土地を販売するために、土地造 成 費 用 を 支 払 っ た と す る 。 土 地 は 非 課 税 売 上 に な る の で 、 こ の 支 払 い (仕 入 れ ) は、その他の資産の譲渡等のみに要するものであり、控除はできない。 図 2-5 で 95%ル ー ル に よ る 益 税 の 発 生 を 説 明 す る 。本 来 な ら ば 、(a)の 個 別 対 応方法で仕入控除税額を計算するはずなのだが、課税売上高が 5 億円以下で、 課 税 売 上 割 合 が 95%以 上 の 場 合 で は 、 (b)の よ う に 全 額 控 除 が で き る 。 山 本 (2008)p.428。 井 藤 (2010)p.124。 45) な お 、 2010 年 度 (平 成 22 年 度 )11 月 16 日 に 、 税 制 調 査 会 は 「要 望 に な い 項 目 」に て 95%ル ー ル の 改 正 を 提 案 し た 。こ こ で は 、「事 業 者 の 事 務 負 担 に 配 慮 す る観点から講じられている制度の趣旨に鑑み、この制度の対象者を中小事業者 に 限 定 す る 」と あ げ ら れ て い る 。 46) た だ し 、こ の 議 論 は 2011 年 (平 成 23 年 )改 正 以 前 の も の で あ る 。95%ル ー ル は 、 2011 年 (平 成 23 年 )改 正 に よ り 、 課 税 売 上 高 が 5 億 円 以 下 で あ る 事 業 者 に のみ適用となった。そのため、発生していると考えられる「益税」は縮小して いると考えられる。 43) 44) 31 図 2-5 95% ル ー ル で 考 え ら れ る 益 税 図 2-5 の ケ ー ス は 、 95%ル ー ル を 適 用 で き る た め 、 仕 入 れ に か か る 消 費 税 額 は全額控除できる。しかし、仮に個別対応方式で計算した場合と比較すると、 (a)と (b)の 差 額 (② の 一 部 と ③ 全 額 )分 の 消 費 税 額 だ け 多 め に 控 除 で き 、過 剰 控 除 が存在する。 第 3 節 電子商取引の消費課税問題 本章第 2 節までは、現行の消費税法における諸問題についてみたが、ここで は現行の消費税法では消費税を課すことができない取引についてみる。 こ の 消 費 税 を 課 す こ と が で き な い 取 引 に は 、 電 子 商 取 引 (Electronic Commerce)が あ げ ら れ る 。で は 、な ぜ 電 子 商 取 引 に お い て 消 費 税 を 課 す こ と が できないケースがあるのか、詳しくみる。 3-1. 電 子 商 取 引 と は まずは、電子商取引とは何かをみる。電子商取引という言葉は、近年におい 32 ては一般的に用いられているが、この言葉は具体的にどのような事柄を指して 用いられているのかは不明確であったり、論者によってこの用語が意味してい る内容が異なったりしている 47) 。 わ が 国 で は 、 経 済 産 業 省 が 『 平 成 11 年 度 電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 規 模・実 態 調 査 』に お い て 、 「 商 取 引 (=経 済 主 体 間 で の 財 の 商 業 的 移 転 に 関 わ る 、受 発 者 間 の 物 品 、サ ー ビ ス 、情 報 、金 銭 の 交 換 )を 、イ ンターネット技術を利用した電子的媒体を通して行うこと」と定義している。 な お 、 経 済 産 業 省 は 、 電 子 商 取 引 実 態 調 査 を 1998 年 度 (平 成 10 年 度 )よ り 継 続 的に実施しており、 『 平 成 22 年 度 我 が 国 情 報 経 済 社 会 に お け る 基 盤 整 備 (電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 )』 (以 下 、『 平 成 22 年 度 電 子 商 取 引 実 態 調 査 』 と い う 。) に お い て 、 OECDの 定 義 を 引 用 し 、 次 の よ う に ま と め て い る 電子商取引 48) 49 ) 。 50 ) 広義 コ ン ピ ュ ー タ ー ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム を 介 し て 商 取 引 (受 発 注 )が 行 わ れ、かつその成約金額が捕捉されるもの。 狭義 インターネット技術を用いた、コンピューターネットワークシステム を 介 し て 商 取 引 (受 発 注 )が 行 わ れ 、か つ そ の 成 約 金 額 が 捕 捉 さ れ る も の 。 ま た 、 電 子 商 取 引 は 、 事 業 者 間 (Business to Business)取 引 (以 下 、「 BtoB取 引 」と い う 。)と 、事 業 者 ・ 消 費 者 間 (Business to Consumer)取 引 (以 下 、「BtoC 高 橋 (2001)は 、 様 々 な 論 者 が 行 っ て い る 電 子 商 取 引 の 定 義 を 検 討 し て い る 。 (高 橋 (2001)pp.16-20.) 48) 経 済 産 業 省 (2011)p.13。 49) た だ し 、OECD(2011a)で は 、2009 年 に こ の 定 義 が 一 つ に ま と め ら れ て お り 、 電子商取引は、 「 コ ン ピ ュ ー タ ー ネ ッ ト ワ ー ク を 介 し て 商 取 引 が 行 わ れ た 、製 品 もしくはサービスの販売、購入である」とされていて、ほぼ広義の意味となっ て い る 。 (OECD(2011a)p.72.)。 50) 『 平 成 22 年 度 電 子 商 取 引 実 態 調 査 』 で は 、 見 積 の み が コ ン ピ ュ ー タ ー ネ ッ ト ワ ー ク で 行 わ れ 、受 発 注 指 示 が 人 に よ る 口 頭 、書 面 、あ る い は 電 話 、FAX を 介 し て 行 わ れ る よ う な 取 引 は 電 子 商 取 引 に 含 め て い な い 。ま た 、E メ ー ル (ま た は そ の 添 付 フ ァ イ ル )に よ る 受 発 注 の う ち 、定 型 フ ォ ー マ ッ ト に よ ら な い も の は 電子商取引に含めないものとしている。 47) 33 取 引 」と い う 。)に 分 け ら れ る 51 ) 。本 稿 で は 、狭 義 の 電 子 商 取 引 に つ い て と り あ つかっている。次に、なぜ電子商取引の一部が問題になるのかを検討する。 3-2. 問 題 の 所 在 先に述べておくと、電子商取引のすべてが問題になるという事ではない。電 子商取引で、問題となるところは、国と国とをまたぎ、かつ、事業者・消費者 間 取 引 、 つ ま り は 、 越 境 BtoC 取 引 の み で あ る 。 で は 、 な ぜ 越 境 BtoC 取 引 が 問題になるのかをみる。 本稿第 1 章で紹介したように、現行の消費税法は、国内において事業者が行 っ た 資 産 の 譲 渡 等 に 消 費 税 が 課 さ れ る (消 法 4① )。 そ し て 、 国 内 取 引 に お い て の 納 税 義 務 者 は 、 事 業 者 で あ る (消 法 5① )。 問 題 の 所 在 を わ か り や す く す る た め、現行の消費税法について、ⅰ)国内取引とⅱ)輸入取引に分けてみる。 図 2-6 で 示 す の が 、ⅰ )国 内 取 引 で あ る 。国 内 取 引 に は 、「課 税 対 象 取 引 」、「課 税 対 象 外 取 引 」(以 下 、「不 課 税 取 引 」と す る 。)が あ り 、さ ら に 「課 税 対 象 取 引 」は 、 「課 税 取 引 」、 「免 税 取 引 (消 法 7)」、 「非 課 税 取 引 (消 法 6① )」に 分 け ら れ る 。 課 税 される国内取引とは①国内において、②事業者が事業として、③対価を得て行 う、④資産の譲渡、貸付け、および、役務の提供である。国内取引の判定につ い て は 、 消 法 4③ 、 消 法 令 6 に お い て 判 定 さ れ る 。 図 2-6 国 内 取 引 『 平 成 22 年 度 電 子 商 取 引 実 態 調 査 』で は 、BtoB 取 引 と は 、「企 業 間 ま た は 、 企 業 と 政 府 (中 央 官 庁 お よ び 地 方 公 共 団 体 )間 」と し て い る 。 51) 34 次 に 、 図 2-7 で 示 す の が 、 ⅱ ) 輸 入 取 引 で あ り 、 輸 入 取 引 は 、 保 税 地 域 か ら 引 き 取 ら れ る 外 国 貨 物 に 消 費 税 が 課 さ れ る (消 法 4② )。そ し て 、納 税 義 務 者 は 、 保税地域 52 ) か ら 外 国 貨 物 を 引 き 取 る 者 で あ る (消 法 5② )。 こ の 保 税 地 域 か ら 引 き 取 ら れ る 外 国 貨 物 に つ い て は 、図 2-6 で み た 国 内 取 引 の よ う に 、「事 業 と し て 」 対価を得て行われるものには限られない。つまりは、一般消費者であっても、 消費税の納税義務者となる。 図 2-7 輸 入 取 引 この消費税法のもと、コンピューターネットワーク上で取引が行われた場合 を み て い く 。 商 品 は 、 有 形 物 (ex.音 楽 CD)と 無 形 物 (ex.音 楽 デ ー タ )に 分 類 し て い る 。こ こ で は 、問 題 を わ か り や す く す る た め 、音 楽 CDと 音 楽 デ ー タ を 輸 入 し た場合についてみる。このように固定した理由は、取引した商品の消費税課税 の 区 分 を 行 う た め で あ る 。消 費 税 が 課 税 さ れ る 要 件 の 一 つ に 、 「国内において行 わ れ る 取 引 」が あ り 、こ の 国 内 判 定 を 行 う 際 に 、こ の 取 引 が 資 産 の 譲 渡 な の か 、 資産の貸付けなのか、または役務の提供なのかを区分しなければならない。し か し 、白 木 も「 電 子 商 取 引 に お け る 消 費 課 税 の 区 分 が 明 確 に な っ て い な い 」 53 ) と指摘しているとおり、デジタルコンテンツの課税区分の判定は困難である。 な お 、こ こ で い う 保 税 地 域 と は 、関 税 法 29 に お い て 規 定 さ れ て い る も の で あ り 、そ の 中 に 関 税 が あ る (消 法 2② )。ま た 外 国 貨 物 は 、関 税 法 2① 三 に お い て 規 定 す る 外 国 貨 物 で あ る (消 法 2⑪ )。 53) 白 木 (2009)p.113。 52) 35 表 2-2. 消 費 課 税 の 区 分 ま ず は 、 国 内 に お い て 音 楽 CD、 音 楽 デ ー タ が 取 引 さ れ た 場 合 で あ る 。 音 楽 CDま た は 音 楽 デ ー タ を 販 売 し た 場 合 は 、 本 稿 で は 、「 役 務 の 提 供 」 に 該 当 す る と考えた 54) 。音 楽 CDと は 、 「 ケ ー ス 」、 「 ジ ャ ケ ッ ト 含 め た ブ ッ ク レ ッ ト 」、 「コ ン パ ク ト デ ィ ス ク ( CD) と い う パ ッ ケ ー ジ 媒 体 」、「 CDに 収 録 さ れ て い る 音 楽 デ ー タ 」 等 そ れ ぞ れ の 製 品 が 一 つ の 商 品 を 構 成 し 、 販 売 さ れ て い る 。 音 楽 CD とは収録されたデータを聴くことが最大の目的であると考えるため「 、資産の譲 渡 」 と い う よ り も 、 デ ー タ の 使 用 許 可 と み て 「 資 産 の 貸 付 け 」 (消 法 2② 、 消 法 基 通 5-4-2) 55) 56 ) 、 も し く は 、 サ ー ビ ス を 受 け る 「 役 務 の 提 供 」 と 考 え る こ と も で き る 。し か し 、個 人 が 、音 楽 CDを 購 入 す る こ と に よ り 、音 楽 デ ー タ な ど の 著作物が無限の使用許可を与えられているとは言えず、個人で聴く場合は著作 音 楽 CD は「 資 産 の 譲 渡 」と す る 先 行 研 究 が 多 い 。音 楽 CD の よ う な パ ッ ケ ージの場合は資産の譲渡の対価、データの提供の対価は使用料と、対価の性質 が 異 な る こ と が 考 え ら れ る 。本 稿 で は 、「 音 楽 CD」、「 音 楽 デ ー タ 」と は 何 か を 検 討 し て い な い 。そ の た め 、本 稿 で は「 役 務 の 提 供 」と し て 、分 析 に と り く む 。 55) (定 義 ) 第 2 条 2 こ の 法 律 に お い て 、「 資 産 の 貸 付 け 」 に は 、 資 産 に 係 る 権 利 の 設 定 そ の他他の者に資産を使用させる一切の行為を含むものとする。 56) (資 産 を 使 用 さ せ る 一 切 の 行 為 の 意 義 ) 5-4-2 法 第 2 条 第 2 項《 資 産 の 貸 付 け の 意 義 》に 規 定 す る「 資 産 を 使 用 さ せ る 一切の行為」とは、例えば、次のものをいう。 (2) 著 作 物 の 複 製 、 上 演 、 放 送 、 展 示 、 上 映 、 翻 訳 、 編 曲 、 脚 色 、 映 画 化 そ の 他著作物を利用させる行為。 54) 36 権者などの権利者の許諾がなくてもいいという規定により、使用を許されてい ると考え、 「 資 産 の 貸 付 け 」で は な い 。つ ま り は 、著 作 権 保 持 者 と 個 人 消 費 者 の 間 に は い り 、音 楽 CDと い う 媒 体 に よ り 市 場 に 音 楽 デ ー タ を 供 給 す る と い う サ ー ビ ス 、つ ま り は「 役 務 の 提 供 」行 っ て い る と 考 え 、本 稿 で は 、音 楽 CDを「 役 務 の提供」とする。月額の利用料も、白木の指摘どおり、デジタルデータを取得 す る た め の 対 価 で あ る と 考 え 、 「役 務 の 提 供 」の 対 価 に 該 当 す る と 考 え ら れ る 。 で は 、 音 楽 CD と 音 楽 デ ー タ が 「 役 務 の 提 供 」 で あ る と し て 、 国 内 取 引 が 行 われた場合をみる。 図 2-8 国 内 に お け る BtoB 取 引 と BtoC 取 引 音 楽 CDと 音 楽 デ ー タ を 「 役 務 の 提 供 」 と み る な ら ば 、 国 内 取 引 の 判 定 は 「当 該 役 務 の 提 供 が 行 わ れ た 場 所 」と な る (消 法 4③ 二 ) 57) ( 課 税 の 対 象 ) 57 ) 。 図 2-8 の よ う な 取 引 は 、 第 4 条 3 資 産 の 譲 渡 等 が 国 内 に お い て 行 わ れ た か ど う か の 判 定 は 、次 の 各 号 に 掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行 37 役 務 の 提 供 が 行 わ れ て い る の は 国 内 で あ る た め 、音 楽 CDも 音 楽 デ ー タ も 国 内 取 引に該当し、①国内において、②事業者が事業として、③対価を得て行う、④ 資産の譲渡、貸付け、役務の提供であり、課税の対象となる。 次に、輸入取引についてみる。保税地域から外国貨物を引き取る者が納税義 務者であり、事業者、一般消費者に関係なく徴収される。まずは、外国貨物を 引 き 取 る 者 が 事 業 者 で あ る 場 合 を 図 2-9 に 示 し た 。 図 2-9 の と お り 、 音 楽 CD に 関 し て は 、 税 関 に お い て 消 費 税 が 徴 収 さ れ て い る。また、消費者に販売した場合にも、消費税が徴収されている。しかし、音 楽データに関しては、税関を通らないため、税関で消費税を徴収することはで き な い 。 し か し な が ら 、 国 内 で 消 費 す る (消 費 者 の 手 許 に わ た っ た )際 に 、 消 費 税が徴収されている。この「資産の譲渡等」では、事業者が消費税を納付して いる。 図 2-9 越 境 BtoB 取 引 うものとする。 2 役 務 の 提 供 で あ る 場 合 当 該 役 務 の 提 供 が 行 わ れ た 場 所 (当 該 役 務 の 提 供 が 運 輸、通信その他国内及び国内以外の地域にわたつて行われるものである場合そ の他の政令で定めるものである場合には、政令で定める場所) 38 以 上 の よ う に 、 越 境 BtoB 取 引 に お い て も 、 消 費 税 は 徴 収 で き る 。 最 後 に 、越 境 BtoC 取 引 を み る 。こ れ を 図 2-10 に 示 し た 。音 楽 CD は 、越 境 BtoC 取 引 に お い て も 、 税 関 に お い て 消 費 税 が 徴 収 さ れ て お り 、 問 題 は な い 。 しかし、音楽データの場合は、税関や納税義務者となる事業者を通過しない。 この取引は、事業者、税関を通さない取引のため、取引の事実を把握されるこ となく、消費税は徴収できない。これらは同等の経済的効果が得られるのにも 関 わ ら ず 、 音 楽 CD は 消 費 税 が 徴 収 さ れ 、 音 楽 デ ー タ は 消 費 税 が 徴 収 さ れ て い ない。 図 2-10 越 境 BtoC 取 引 さ ら に 、 音 楽 デ ー タ を 消 費 税 法 に あ て は め て み る 。 音 楽 デ ー タ の 越 境 BtoC 取 引 は 、「 役 務 の 提 供 」 な の で 、 国 内 取 引 の 判 定 は 「当 該 役 務 の 提 供 が 行 わ れ た 場 所 」と な る (消 法 4③ 二 )。 し か し な が ら 、 役 務 の 提 供 が 行 わ れ た 場 所 は サ ー バ ー 上 で あ り 、ど こ か 明 ら か で は な い 。そ こ で 、消 法 令 6② 七 の 、「役 務 の 提 供 に 係 る 事 務 所 等 の 所 在 地 」が 適 用 さ れ る 。仮 に 、国 内 に 事 務 所 等 を 所 在 し て い る 場 合 は 課 税 さ れ る の だ が 、 そ う で な い 場 合 は 、 「国 外 取 引 」と 判 定 さ れ 、 不 課 税 取 引 と な る 。 音 楽 デ ー タ の 越 境 BtoC 取 引 は 、 消 費 税 法 に お い て 課 税 の 対 象 外 と 39 なる。そのため、消費税が徴収できないことは違法ではなく、この問題は、消 費税法が現在行われている取引に追いついてないと捉えることもできる。 3-3. 実 際 に 起 こ っ て い る 問 題 3-2 で み て き た 状 況 を 作 り 出 す こ と に よ っ て 、 こ の 問 題 は 現 在 顕 著 に あ ら わ れ て い る 。 現 在 は 、 以 前 か ら 問 題 視 さ れ て い た 、 例 え ば 音 楽 CD と 音 楽 デ ー タ 等、同じ経済効果があるにも関わらず、消費税の課税対象になるかまたは課税 対象外かという問題ではない。同じデータとデータにおいて、同様の問題が実 際に生じている。これは、現行の消費税法で徴収されないことを利用し、電子 書籍等で値引きといった形で価格にあらわれ、企業間の競争に支障をきたして いる。 実際にどれほどに差が生じているか、例えば冲方丁著の『天地明察』の電子 書籍でみる。 表 2-3 価 格 と 規 約 等 の 比 較 出 所 )各 ホ ー ム ペ ー ジ 。 こ の 『 天 地 明 察 』 は 、 Amazon.co.jpの Kindleス ト ア 、 楽 天 koboで は 、 540 円 で 販 売 さ れ て お り 、紀 伊 國 屋 書 店 BookWeb、SONYの Reader™ Store、BookLive! で の 価 格 は 567 円 で あ る 58) 58 ) 。こ の 差 は 5%で あ り 、消 費 税 の 部 分 で あ る と 考 え 本 稿 で は 、『 天 地 明 察 下 』 の 2012 年 11 月 25 日 で 比 較 し て い る 。 40 ら れ る 。Amazon.co.jp、楽 天 koboと 、紀 伊 國 屋 書 店 BookWeb、SONYの Reader ™ Store、 BookLive!の 違 い は サ ー バ ー の 設 置 場 所 で あ る 。 出 所 )日 本 経 済 新 聞「 消 費 増 税 な ら 外 国 勢 有 利 、ネ ッ ト 配 信 各 社 、募 る 不 公 平 感 」 (2012 年 6 月 25 日 付 。 )を 一 部 加 筆 修 正 。 図 2-11 現 在 の 問 題 Amazon.co.jpの Kindleス ト ア の サ ー バ ー は 米 国 に あ る 。 そ の た め 、 図 2-11 の C社 と な る 。 Amazon.co.jpの 『 特 定 商 取 引 法 に 基 づ く 表 示 』 の 「 販 売 価 格 」、 「 消 費 税 」に お い て 、「 た だ し 、MP3 お よ び ダ ウ ン ロ ー ド 版 PCソ フ ト 等 一 部 の 商 品 に つ い て は 、消 費 税 は 課 税 さ れ ま せ ん 」と 規 定 さ れ て い る 59) 。さ ら に『 消 費 税 に つ い て 』 で は 、「 Amazon.co.jpが 販 売 す る Kindle( 電 子 書 籍 )、MP3、ダ ウ ン ロ ー ド 版 PCソ フ ト 商 品 お よ び Amazon.co.jpが 提 供 す る ア プ リ に は 、消 費 税 は 課 税 さ れ ま せ ん 。 出 版 社 が 販 売 す る Kindle ( 電 子 書 籍 ) は 、 消 費 税 が 課 税 されます」とあり、この差額は消費税にかかる価格であると考えられる 60 ) 。 Amazon.co.jp『 特 定 商 取 引 法 に 基 づ く 表 示 』 http://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html/ref=hp_left_sib?ie= UTF8&nodeId=643004(2012 年 11 月 25 日 確 認 )。 60) Amazon.co.jp『 消 費 税 に つ い て 』 59) 41 ま た 、2012 年 1 月 に カ ナ ダ の 電 子 書 籍 大 手「 Kobo」を 買 収 し た 楽 天 も「 Kobo」 を C社 と し て い る と 考 え ら れ る 。 『 Kobo電 子 コ ン テ ン ツ 販 売 規 約 』の「 そ の 他 の 条 件 」 で 、「 Koboサ ー ビ ス に お け る 全 て の 販 売 は 、 法 の 抵 触 の ル ー ル に か か わ りなく、適用のあるオンタリオ州法及びカナダ連邦法に準拠します。本規約の いずれかの規定が無効又は法的に執行不能の場合、その他の規定は影響されな い も の と し ま す 。」と し て お り 、日 本 の 消 費 税 法 の 適 用 範 囲 外 で あ る と 主 張 し て いる 61 ) 。 こ の よ う に 、 本 来 は 課 税 で き る と 考 え ら れ る も の で あ っ て も 現 行 の 消費税法では消費税の課税対象外であるため、このように価格に差異が生じて いる 62 ) 。 3-4. 小 括 以 上 の よ う に 、 越 境 BtoC 取 引 に お い て 音 楽 デ ー タ の よ う な 、 デ ジ タ ル コ ン テンツをとりあつかう取引では、消費税は課すことができない。 各 国 で 音 楽 デ ー タ を 配 信 し て い る 事 業 、例 え ば 、iTunes Store、Mac App Store、 App Store、な ら び に iBookStoreは 、各 国 の 価 格 が 異 な っ て し ま う 対 策 と し て 、 「日 本 で 発 行 さ れ た ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、 iTunes Card、 iTunes Store ギ フ ト カ ー ド 、コ ン テ ン ツ コ ー ド 、お よ び ア ロ ー ア ン ス 」が 支 払 い 方 法 と し て 使 用 で き る と定めており 63 ) 、日 本 に 居 住 し な が ら 米 国 の iTunes Storeか ら の 購 入 は で き な い よ う に 規 定 し て い る 。 日 本 国 内 で 購 入 さ れ た ギ フ ト カ ー ド 、 iTunes Card 、 コンテンツコード、およびアローアンスは、日本国内およびその領域内でのみ 使 用 可 能 と な っ て お り 、iTunes内 に お い て は 、越 境 BtoCは 規 約 に お い て で き な いようになっている。 http://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=642972 (2012 年 11 月 25 日 確 認 )。 61) 楽 天 kobo『 Kobo 電 子 コ ン テ ン ツ 販 売 規 約 』 http://rakuten.kobobooks.com/termsofsales(2012 年 11 月 25 日 確 認 )。 財 務 省 は 2014 年 を 目 途 に こ の よ う な 国 内 企 業 と 海 外 企 業 の 格 差 の 解 消 を 図 る予定である。 ま た 、国 外 企 業 C 社 が 配 信 だ け を 担 当 し 、B 社 が 販 売 者 の 場 合 に は 国 内 取 引 として消費税課税される可能性は高いとされている。 63) iTunes 使 用 規 約 (http://www.apple.com/legal/itunes/jp/terms.html)。 62) 42 し か し な が ら 、 本 節 3-3 で み て き た よ う に 、 消 費 税 の 「 課 税 取 引 」 か 「 不 課 税取引」の違いによる価格の差を利用し、同業他社より顧客獲得を目指す動き に対し、現行の消費税法では対処ができていないことは事実であり、今後の電 子商取引の市場拡大、消費税増税に伴い、さらなる問題となると考えられる。 第 4 節 少額貨物無条件免税 最後に、少額貨物無条件免税についてみる。輸入取引を行った際、郵便物小 包を利用して輸入すると、消費税が課されない場合がある。 関 税 の 税 率 等 を 定 め る 、 関 税 定 率 法 14⑱ の 無 条 件 免 税 64) 、 お よ び 輸 入 品 に 対 す る 内 国 消 費 税 の 徴 収 等 に 関 す る 法 律 (以 下 、 「輸 徴 法 」と い う 。 )13① 一 に お いて 65 ) 、 「課 税 価 格 の 合 計 額 が 1 万 円 以 下 の 物 品 」に つ い て は 、 消 費 税 を 免 除 すると定められている。この少額貨物の無条件免税は、納税者の事務負担の軽 減をするとともに、税関における円滑な通関処理を維持するために、消費税導 入 (1989 年 )に 伴 い 創 設 さ れ た も の で あ る 。 な お 、課 税 価 格 と は 、 貨 物 の 価 格 に 保 険 料 等 を 加 え た も の で あ る (関 税 定 率 法 4)。 こ れ よ り 、個 人 輸 入 を し た 場 合 は ど の よ う な 手 続 き が あ る の か 詳 し く み る 66 ) 。 個人輸入する貨物を、ⅰ)国際宅配便、ⅱ)一般貨物、ⅲ)郵便小包のどの 輸送方法を利用するかによって、税関での手続きは異なる。 ⅰ )国 際 宅 配 便 に つ い て 、国 際 宅 配 便 を 利 用 し た 場 合 の 通 関 手 続 き は 、通 関 業 (無 条 件 免 税 ) 第 14 条 18 課 税 価 格 の 合 計 額 が 1 万 円 以 下 の 物 品 ( 本 邦 の 産 業 に 対 す る 影 響 その他の事情を勘案してこの号の規定を適用することを適当としない物品とし て 政 令 で 定 め る も の を 除 く 。)。 65) (免 税 等 ) 第 13 条 次 の 各 号 に 掲 げ る 課 税 物 品 で 当 該 各 号 に 規 定 す る 規 定 に よ り 関 税 が 免 除されるもの(関税が無税とされている物品については、当該物品に関税が課 されるもの とした場合にその関税が免除されるべきものを含む。第 3 項にお い て 同 じ 。)を 保 税 地 域 か ら 引 き 取 る 場 合 に は 、政 令 で 定 め る と こ ろ に よ り 、そ の引取りに係る 消費税を免除する。 1 関 税 定 率 法 第 14 条 第 1 号 か ら 第 3 号 ま で 、 第 3 号 の 2( 国 際 連 合 又 は そ の 専 門 機 関 か ら 寄 贈 さ れ た 教 育 用 又 は 宣 伝 用 の 物 品 に 係 る 部 分 に 限 る 。)、第 3 号 の 3、 第 4 号 、 第 6 号 か ら 第 11 号 ま で 、 第 13 号 、 第 14 号 、 第 17 号 又 は 第 18 号 ( 無 条 件 免 税 ) に 掲 げ る も の 66) 税 関 ホ ー ム ペ ー ジ を 参 考 に し て い る 。 (http://www.customs.go.jp/tsukan/kojinyunyu.htm) 64) 43 者が代行する。 ⅱ)一般貨物について、一般貨物として商品が日本に到着すると、航空会社 や 船 会 社 か ら 商 品 の 受 取 人 に 通 知 が あ る 。こ の 通 知 を 受 け た と き 、「仕 入 書 」、「運 賃 明 細 書 」な ど 輸 入 通 関 手 続 き に 必 要 な 書 類 を 添 え て 、通 関 業 者 に 通 関 を 依 頼 す る か 、自 身 で 貨 物 が 保 管 さ れ て い る 倉 庫 を 管 轄 す る 税 関 に 出 向 き 、「輸 入 (納 税 ) 申 告 書 」に 上 記 書 類 を 添 付 し て 通 関 手 続 き を 行 う 。な お 、通 関 業 者 に 依 頼 す る 場 合は、通関手数料、国内における運送料などがかかる。 ⅲ ) 郵 便 小 包 を 利 用 し て 輸 入 に つ い て 、 ま ず は 、 課 税 価 格 が 20 万 円 以 下 の 場 合 を み て い く 。 20 万 円 以 下 の 場 合 は 賦 課 課 税 方 式 が 適 用 さ れ る 。 出 所 )税 関 ホ ー ム ペ ー ジ (http://www.customs.go.jp/tsukan/kojinyunyu.htm)一 部加筆修正。 図 2-12 郵 便 小 包 を 利 用 し て 輸 入 す る 場 合 ① 無 税 ・免 税 品 の 場 合 郵便事業株式会社から、郵便物の受取人に直接配達される。このため、 消費税は徴収されていない。 44 ② 課税品の場合 課税品の場合は、イ) 税金の合計額が 1 万円以下の場合、ロ) 税金の合計額 が 1 万 円 を 超 え 、 30 万 円 以 下 の 場 合 、 お よ び 、 ハ ) 税 金 の 合 計 額 が 30 万 円 を 超える場合の 3 つに区分される。 イ) 税金の合計額が 1 万円以下の場合 税 関 外 郵 出 張 所 か ら 受 取 人 あ て に 「 国 際 郵 便 物 課 税 通 知 書 (以 下 、 「課 税 通 知 書 」と い う 。 )と 郵 便 物 が 直 接 配 達 さ れ る の で 、 そ の 場 で 税 金 の 納 付を郵便事業株式会社に委託すれば受け取ることができる。 ロ ) 税 金 の 合 計 額 が 1 万 円 を 超 え 、 30 万 円 以 下 の 場 合 郵便事業株式会社から、郵便物の到着と税額等が、電話などにより連 絡がくる。郵便物は、連絡された税金等がすぐに支払える場合、配達を 希望すると、直接配達されるので、その場で税金の納付を郵便事業株式 会社に委託すれば受け取ることができる。税金等がすぐに支払えない場 合は、郵便事業株式会社から、課税通知書が送付されるので、課税通知 書を持参のうえ、指定された郵便局等へ行き、納付書の交付を受け、銀 行の窓口または、郵便局の貯金窓口で税金を納付すれば、郵便物を受け 取ることができる。 ハ ) 税 金 の 合 計 額 が 30 万 円 を 超 え る 場 合 課税通知書が送付されるが、郵便物は配達されない。課税通知書を持 参のうえ、指定された郵便局等へ行き、納付書の交付を受け、銀行の窓 口または郵便局の貯金窓口で税金を納付すれば、郵便物を受け取ること ができる。 ③ 「外 国 か ら 到 着 し た 郵 便 物 の 税 関 の 手 続 き の お 知 ら せ 」 と い う ハ ガ キ が 届 い た場合 ハガキに記載されている必要書類と、このハガキを税関外郵出張所あ てに郵送または持参するか、ハガキに記載された税関外郵出張所に電話 で連絡をとる。税関では、これらの書類と商品を照らし合わせ、価格な 45 どを確認する。問題がなければ、①または②同様の方法で受け取ること ができる。 次 に 、 課 税 価 格 が 20 万 円 を 超 え る 場 合 は 、 申 告 納 税 方 式 が 適 用 さ れ る 。 ④ 課 税 価 格 が 20 万 円 を 超 え る 場 合 外 国 か ら 課 税 価 格 が 20 万 円 を 超 え る 郵 便 物 が 日 本 に 到 着 す る と 、 郵 便物の受取人に郵便事業株式会社から、通関手続きの案内文書が送られ る。 案 内 文 書 が 送 ら れ て き た ら 、 「仕 入 書 」な ど 輸 入 (納 税 )申 告 に 必 要 な 書 類を揃えて、郵便事業株式会社や、他の通関業者に輸入通関手続きを依 頼するか、自身で郵便物が保管されている通関支店を管轄する税関外郵 出 張 所 に 出 向 い て 輸 入 (納 税 )申 告 を 行 う 。関 税 等 の 税 金 を 納 付 し た 後 に 、 輸入が許可されると、郵便物が受取人に配達される。なお、関税との料 金 は 、現 金 に よ る ほ か 、マ ル チ ペ イ メ ン ト ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し て ATM やインターネットバンキングなどを利用して支払うこともできる。 以上から、①の場合には、消費税が免除されている。今後、インターネット の 普 及 に 伴 い 個 人 輸 入 が 増 加 し 、 低 額 (課 税 価 格 の 合 計 額 が 1 万 円 以 下 )の 物 品 の取引を行う消費者が増えれば、免除される消費税も増加すると考えられる。 経 済 産 業 省 『 平 成 23 年 度 電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 』 に お い て 、 越 境 電 子 商 取 引 を 行 う 理 由 に 、「 国 内 で 購 入 す る よ り も 価 格 が 安 い 」 と い う 理 由 が 多 く 、 国内の販売額よりも低額の物品になれば、個人輸入が増えると考えられる。 こ れ ら 、い わ ゆ る「 益 税 」、電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 、少 額 貨 物 無 条 件 免 税 の 問 題 を 本 稿 の 消 費 税 法 の 問 題 と し て と り あ つ か う 。し か し 、 「 益 税 」の 定 義 が 現在曖昧であるため、第 3 章では裁判例を用い、本稿でとりあつかう「益税」 の定義をさらに明確にする。 46 第 3 章 判例研究 ここでは、いわゆる「益税」が、裁判においてどのようにとりあつかわれた か を み る 。 本 章 第 1 節 で は 、 東 京 地 裁 平 成 2 年 3 月 26 日 判 決 を と り あ げ 、 い わゆる益税を裁判ではどのように認識しているかを法的視点から検証する。第 2 節 で は 、 大 阪 高 裁 平 成 6 年 12 月 13 日 判 決 を と り あ げ 、 消 費 税 と は 原 価 の 一 部なのか、また過剰転嫁の可能性があるかどうかを法的視点から検証する。そ して、第 3 節では第 1 節により定義が曖昧である益税についてまとめたのち、 今後問題となるであろう税収ロスの定義を行う。 第 1 節 消費税府の立法行為と国家賠償責任等 (東 京 地 裁 平 成 2 年 3 月 26 日 判 決 。 判 例 時 報 1344 号 pp.115-125.) 本件は、消費税法が定める仕入税額控除制度、簡易課税制度、および、免税 点制度は、実際の仕入れにかかる消費税額よりも過剰の控除をなし得る可能性 があること、また、運用の如何によっては消費者に過剰転嫁する可能性がある ことも問題とされた。本稿では過剰控除、過剰転嫁を含めた益税を中心にとり あげる。 【事実の概要】 本 件 は 、原 告 X が 、消 費 税 法 は 憲 法 違 反 で あ る と し て 、違 憲 の 法 律 を 成 立 さ せた国会議員の立法行為は、公務員の不法行為にあたるとして国賠請求した事 案である。 Xは 、 消 費 税 法 は 、 消 費 税 法 4 条 1 項 、 同 法 5 条 に お い て 、 事 業 者 を 納 税 義 務 者 と 規 定 し て い る が 、 税 制 改 革 法 11 条 1 項 67 ) 、 消 費 税 法 附 則 30 条 、 国 税 庁長官通達の内容、および、政府広報における説明において、事業者は単なる 徴収義務者であり納税義務者は消費者であると解釈でき、これを前提とするな 67) 税制改革法 第 11 条 事 業 者 は 、 消 費 に 広 く 薄 く 負 担 を 求 め る と い う 消 費 税 の 性 格 に 鑑 み 、 消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。その際、事業者は、必要と認め るときは、取引の相手方である他の事業者又は消費者にその取引に課せられる 消費税の額が明らかとなる措置を講ずるものとする。 47 ら ば 、「消 費 者 に 対 す る 過 剰 転 嫁 の 危 険 性 及 び 業 者 間 の 不 公 平 」を も た ら す た め 、 不 合 理 が 生 じ る と 主 張 し た 。 こ れ に 対 し Yは 、 消 費 税 法 5 条 1 項 は 事 業 者 を 納 税 義 務 者 と し て い る こ と は 明 ら か で あ る と 主 張 し 、そ し て 、税 制 改 革 法 11 条 1 項は上位規範でもなく、政府広報における説明等も消費者を納税義務者である と規定したものではない、または、消費税の納税義務者の問題とは無関係であ ると主張した。 ま た 、 X は 、 仕 入 税 額 控 除 制 度 (消 費 税 法 30 条 1 項 )、 簡 易 課 税 制 度 (同 法 37 条 1 項 )、は 、事 業 者 が 消 費 者 か ら 消 費 税 分 を 徴 収 し な が ら 、こ れ を 国 庫 に 納 入 し な い こ と を 是 認 す る 点 で 、租 税 法 律 主 義 を 定 め た 憲 法 84 条 に 違 反 し 、ま た 、 税 の 過 剰 転 嫁 等 に よ っ て 国 民 の 財 産 権 を 侵 害 す る 点 で 憲 法 29 条 に 違 反 す る と し た 。 そ し て 、 仕 入 税 額 控 除 制 度 、 簡 易 課 税 制 度 、 お よ び 、 免 税 点 制 度 (同 法 9 条 1 項 )は 、 事 業 者 間 に 不 合 理 な 差 別 を も た ら す 点 に お い て 憲 法 14 条 に 違 反 す るとしている。Y は、仕入税額控除制度は、課税の公平の確保および最少徴税 費用等の租税原則を踏まえており、新税制の適用を受ける事業者の事務負担へ の配慮という社会経済に対する政策的見地から、簡易課税制度および簡易課税 制度は、中小企業の事務負担への配慮という見地から行っているため、不合理 で は な く 、 合 理 性 を 有 す る た め 憲 法 84 条 、 29 条 お よ び 14 条 に 違 反 し な い と 主張した。 【判旨】棄却 1. 消 費 税 の 内 容 消費税法および税制改革法は、消費者が納税義務者である、消費者から徴収 すべき具体的な税額、徴収しなかった場合の事業者への制裁等が定められてい ないため、消費者に納税義務を課したものとはいえず、また、国税庁長官通達 等に対しても法律上の権利義務を定めたものではなく、最終負担を消費者に転 嫁するという消費税の考え方と矛盾するものではないため、 「事業者が納税義務 者 で あ る こ と の 根 拠 と は な り 得 な 」く 、以 上 の こ と か ら 、 「 消 費 者 は 、消 費 税 の 実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない」とし 48 た 68 ) 。 2. 消 費 税 の 問 題 点 2-1. 仕 入 税 額 控 除 制 度 仕入税額控除制度においては、消費者が事業者に対して支払う消費税分は、 「 商 品 や 役 務 の 提 供 に 対 す る 対 価 の 一 部 と し て の 性 格 し か 有 し な い 」た め 、 「当 該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負 う も の で は な い 。」 そして、 「 仕 入 税 額 控 除 制 度 は 、事 業 者 が 行 う 仕 入 れ に つ き 仕 入 れ 先 が 免 税 業 者 で あ る か 如 何 を 問 わ ず 一 律 に 仕 入 れ 額 の 103 分 の 3 を 税 額 控 除 す る こ と を 認 めているが、免税業者からの仕入れには消費税相当額は上乗せされないから、 一 部 に 過 剰 控 除 が 生 じ 」、 こ れ を 考 慮 し な い ま ま 、 商 品 等 の 本 来 の 対 価 に 対 し 、 一 律 に 3%分 を 上 乗 せ し た 場 合 、 「事業者が消費税として国に納付している額以 上 の 額 を 消 費 者 に 過 剰 転 嫁 す る こ と に な る 。」 こ れ を 消 費 者 側 か ら 見 た な ら ば 、 「事業者自身が取得するといういわゆるピンハネをしたような結果になること も 否 定 で き な い 」が 、消 費 税 の 転 嫁 に つ い て 、 「具体的な転嫁額については事業 者の取引上の意思決定に任されている」のであって、その対価の決定は取引上 の事情等を総合的に判断したうえで決定されるものであるから「 、消費税分の価 格への転嫁が、必然的に過剰転嫁を生ぜしめるともいいがたいし、消費税法自 体 が 右 過 剰 転 嫁 を 積 極 的 に 予 定 し て い る も の で は な い こ と も 明 ら か で あ る 。」 また、消費税法は事業者の事務処理の負担軽減を図るために、仕入税額控除 制 度 を 採 用 し た た め 、こ の 制 度 の 下 で は 、 「過剰転嫁の生じる危険性があるもの の、それは必然的に過剰転嫁になるという程度のものではなく、市場経済の中 での適切な転嫁を期待することによってある程度回避可能なものと認められ る 。」ま た 、免 税 事 業 者 の 売 上 割 合 が さ ほ ど 大 き く な い 点 や 、こ れ に か わ る イ ン ボイス方式が簡便で優れていると認められるだけの根拠もない点から、仕入税 額 控 除 制 度 が 不 合 理 で あ る と は い え な い と し 、以 上 か ら 、 「仕入れ税額控除制度 は、運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネを 68) 本件において、消費税と憲法との関係は、憲法の一義的な文言に違反する も で は な く 、消 費 税 法 の 立 法 行 為 が 不 法 行 為 と な る と は 到 底 い え な い と さ れ た 。 49 許す余地があるという点で問題がなくはないが、これを不合理とまではいえな い」とされた。 2-2. 免 税 点 制 度 税 制 改 正 法 11 条 1 項 に お い て 、 免 税 点 制 度 は 、「 免 税 業 者 が 消 費 者 か ら 消 費 税分を徴収しながら、その全額を国庫に納めなくて良いことを積極的に予定し て い る も の で な い こ と は 明 ら か で 」あ り 、 「 消 費 税 を『 適 正 に 転 嫁 す る も の と す る』と規定していることに鑑みると、事業者免税点制度の適用を受ける免税業 者 は 、原 則 と し て 消 費 者 に 3 パ ー セ ン ト 全 部 の 消 費 税 分 を 上 乗 せ し た 額 で の 対 価の決定をしてはならないものと解され」るので、便乗値上げが生じることは あり得るが、これは消費税法自体の意図するところではないとされた。事業者 免税点制度の目的は、 「 消 費 税 が 、我 が 国 の 企 業 に と っ て 馴 染 み の 薄 い も の で あ り、その実施に当たっては種々の事務負担が生じるので、その軽減を図る」た めであり、特に零細事業者に対して配慮したものなので、この立法的配慮が明 らかに不合理ということもできないとされた。 2-3. 簡 易 課 税 制 度 簡易課税制度も、 「 中 小 企 業 者 の 納 税 事 務 の 負 担 軽 減 を 図 り 、売 上 高 の み か ら 納 税 額 を 算 出 で き る よ う に し た も の 」で あ り 、 「運用如何によっては過剰転嫁の 危険性があるものの、仕入れ税額控除制度と同様適切な転嫁によりこれは回避 で き る 問 題 で あ る 。」 ま た 、 適 用 基 準 を 5 億 円 と し た こ と が 明 ら か に 不 合 理 で あると認めるだけの根拠もなく、簡易課税制度が不合理であるとはいえないと された。 3. 事 業 者 間 の 不 公 平 に つ い て 事業者間の不公平について、仕入税額控除制度を採用することにより受ける 利益は、 「 結 果 的 に は 、全 く 免 税 業 者 か ら の 仕 入 れ に 頼 ら な い 業 者 と 、全 面 的 に そ れ に 頼 る 業 者 と の 間 に 、納 税 義 務 上 差 異 が 生 ず る 結 果 を も た ら す 」が 、 「多く の 業 者 は 免 税 業 者 か ら も そ う で な い 業 者 か ら も 仕 入 れ を 行 な い 得 る 」う え 、 「そ の 恩 恵 を 受 け る 機 会 は 理 論 上 は ど の 業 者 に も あ る こ と 、控 除 割 合 が 3 パ ー セ ン 50 トであること、並びに仕入先が免税業者である確率がそれほど高いものである こ と を 消 費 税 は 予 定 し て い な い こ と を 考 慮 す る な ら ば 、」仕 入 税 額 控 除 に よ る 事 業間の不公平の程度は、不合理な程度には達していないとされた。 免 税 点 制 度 も 、「 免 税 業 者 が 得 る 可 能 性 の あ る 最 大 限 の 利 益 は 対 価 の 3 パ ー セ ン ト 以 下 で あ り 、割 合 と し て さ ほ ど 高 く は な い 」う え 、年 間 売 上 金 額 が 3,000 万円以下の事業者がこの制度により利益を得るので、 「立法上右制度による程度 の差別が現段階で不合理であるとまでいいきれない」とされた。 簡易課税制度は、売上高 5 億円以下の事業者に認められており、これに該当 する事業者はいくらかの利益を得る機会はあるが、しかしながら、それが租税 政策上不合理であるとまでいえないとされた。 【評釈】 本件は、消費税法が定める仕入税額控除制度、簡易課税制度、および、免税 点制度は、実際の仕入れにかかる消費税額よりも過剰の控除をなし得る可能性 があること、また、運用の如何によっては消費者に過剰転嫁する可能性がある ことが問題とされた。そして、裁判所は、この可能性は否定できないが、これ ら制度から発生する問題は不合理な程度には達しているとはいえないとしてい る。 、、、 本 判 決 に 対 し 、阿 部 は 、 「 税 制 改 革 法 は 適 正 な 転 嫁 を 要 求 し て い る か ら 、事 業 者に対し、消費者に対する実質的な過剰転嫁を法的に保障しているとはいえな いとするが、税制改革法の文言は訓示規定で、実質的には意味がないし、制度 は事業者のいわゆる益税を保障しているのである」 69 ) と し て い る 。こ れ は 、こ の判決が消費税法によって益税の発生を認めていると理解しつつも、その解決 策や法的保障等がないことを根拠に、益税を保障する結果となってしまい、消 費者に社会的影響をあたえるとしている。また、同様な評釈として、吉良は、 仕 入 税 額 控 除 制 度 、簡 易 課 税 制 度 、免 税 点 制 度 の 規 定 は 、「原 告 等 主 張 の よ う に 消費者に支払った消費税が、事業者の手元に残り、国庫に納まらない場合のあ ることを可能にしているものであること及び課税の不公平をもたらしているこ 69) 阿 部 (1992)p.127。 51 とは否定できない事実」 70) で あ る と 指 摘 し 、本 判 決 は 、「事 業 者 の い わ ゆ る『 益 税 』と な る 場 合 が あ り 得 る こ と を 制 度 的 に 容 認 し て い る (積 極 的 に と は い え な い ま で も 消 極 的 に 認 め て い る )」 71 ) と 批 評 し て い る 。こ れ ら 2 つ の 批 判 は 、消 費 税 法の下では益税が発生する場合があり、裁判所はこれを認容したものと評価し ている。 【私見】 本 件 裁 判 所 は 消 費 税 法 の 下 で 、 過 剰 転 嫁 お よ び ピ ン ハ ネ (益 税 )を 認 め た 結 果 となっている。判旨では、消費税法に様々な論点が存することを認めてはいる が、解決策等が具体的に問われることもなく、事業者の裁量にまかされている と こ ろ を み る と 、消 費 税 法 は 、阿 部 の い う「 事 業 者 の い わ ゆ る 益 税 の 保 障 」 72) や、吉良のいう「事業者のいわゆる『益税』となる場合があり得ることを制度 的 に 認 容 し て い る (積 極 的 に と は い え な い ま で も 消 極 的 に 認 め て い る )」 73 ) と の 指摘は当を得るものと考えられる。また過剰転嫁について、仕入税額控除制度 では、判旨は「市場経済の中での適切な転嫁を期待することによってある程度 回避可能なものと認められる」とするが、消費税を対価の一部としたうえでの 「適切な転嫁」とはどのようなものであるのかが具体的にその内容を明らかに されておらず疑問に残る。 ま た 、 判 旨 は 免 税 点 制 度 に つ い て み る と 、「 原 則 と し て 消 費 者 に 3 パ ー セ ン ト全部の消費税分を上乗せした額での対価の決定をしてはならないものと解さ れ る 」 と す る 。 こ こ で い う 適 切 な 転 嫁 は 、「 売 上 に か か る 対 価 の 3%未 満 」 を 指 すものと解され、その範囲内ならば転嫁可能なことになる 74 ) 。 し か し 、 「事業 者 間 の 不 公 平 」の「 事 業 者 免 税 点 制 度 に よ る 差 別 」お い て 、 「免税業者が得る可 能 性 の あ る 最 大 限 の 利 益 は 対 価 の 3 パ ー セ ン ト 以 下 で あ り 、割 合 と し て さ ほ ど 高くはな」く、立法上、免税点制度による「程度の差別が現段階で不合理であ 吉 良 (1991)p.5。 吉 良 (1991)p.5。 72) 阿 部 (1992)p.127。 73) 吉 良 (1991)p.5。 74) 仕 入 れ に 対 す る 3%未 満 な ら ば 、免 税 事 業 者 が 消 費 税 を 転 嫁 で き て い な い た め、このように解釈した。 70) 71) 52 る と ま で は い い き れ な い 」と し て い る 。こ れ は 、 「 売 上 の 3%以 下 の 利 益 な ら ば 、 転嫁による値上げも適正な転嫁」であると解釈できる。 ここで、適正な転嫁とはどの程度のものなのか疑問が残る。そこで、本章 2 節においては、適正な転嫁がどの程度のものかをみる。 なお、仕入税額控除制度、免税点制度、および、簡易課税制度の益税発生の 方法や益税の範囲については本章 3 節において詳しく検討する。 第 2 節 三菱タクシーグループ運賃値上げ申請却下国賠事件 (大 阪 高 等 裁 判 所 平 成 6 年 12 月 13 日 判 決 。 判 例 時 報 1532 号 pp.69-74.) 本 件 で は 、一 般 乗 用 旅 客 自 動 車 運 送 事 業 等 (以 下 、「 タ ク シ ー 事 業 」と い う 。) を 営 む X が 、消 費 税 実 施 の 2 年 後 に な っ て か ら の 消 費 税 の 転 嫁 を 理 由 と す る 運 賃 値 上 げ 申 請 を 行 っ た が 、消 費 税 導 入 時 で は な く 約 2 年 後 に 申 請 を 行 う そ の 特 殊性から、同業他社のような簡易的な審査ではなく、道路運送法 9 の基準に適 合 し て い る か 審 査 を 行 う こ と と な っ た 。し か し X が 申 請 の た め の 必 要 書 類 を 提 出せず、結果として申請が却下された事案である。ここでは、転嫁とは何かを 中心にとりあげる。 【事実の概要】 タ ク シ ー 事 業 を 営 ん で い る X(原 告 ・ 被 控 訴 人 = 附 帯 控 訴 人 ・ 被 上 告 人 )は 、 平 成 元 年 4 月 か ら 実 施 さ れ て き た 消 費 税 (相 当 額 )を 消 費 者 に 転 嫁 す る こ と と し た と こ ろ 、 大 阪 運 輸 局 長 (以 下 、「 運 輸 局 長 」 と い う 。)か ら 、 そ の た め に は 道 路 運 送 法 (平 成 12 年 法 86 号 に よ る 改 正 前 の も の 。)9 条 の 運 賃・料 金 (以 下「 運 賃 」 と い う 。 )変 更 認 可 申 請 が 必 要 で あ る と 指 導 さ れ た た め 、 こ れ に 従 っ て 平 成 3 年 3 月 、右 申 請 を し 、同 年 4 月 に 受 理 、同 年 6 月 公 示 、同 月 及 び 翌 月 X に 対 す る 聴 聞 手 続 を 経 て 、 同 年 9 月 に 右 申 請 を 却 下 し た (以 下 、「 本 件 却 下 決 定 」 と い う 。)。な お 、X と 同 一 地 域 で タ ク シ ー 事 業 を 営 む 同 業 他 社 の 、消 費 税 を 転 嫁 す る た め の 運 賃 値 上 げ 認 可 申 請 は 、 平 成 元 年 2 月 及 び 3 月 に な さ れ て お り 、聴 聞 手 続 等 を 行 う こ と な く 3 月 17 日 ま で に 認 可 さ れ て い る 。 ま た 、 平 成 3 年 3 月 か ら さ ら に 平 均 11.1 パ ー セ ン ト の 運 賃 の 値 上 げ が さ れ て お り 、X の 運 賃 と は 相 53 当に金額の差がでている。 X は、運輸局長は、本件申請を遅くとも平成 3 年 5 月までに受理すべきであ ったにもかかわらず、法的根拠もなく、X に対し、本件申請をするように指導 し 、 ま た 右 申 請 の 審 査 手 続 き を 遅 延 さ せ た 上 、 こ れ を 却 下 し た と し て 、 Y(国 ― 被 告 ・ 控 訴 人 ― 附 帯 被 控 訴 人 ・ 上 告 人 )に 対 し て 、 平 成 3 年 6 月 な い し 8 月 分 の消費税相当額の損害賠償を求めた。 一 審 (大 阪 地 方 裁 判 所 平 成 5 年 3 月 2 日 判 決 。 判 例 時 報 1454 号 pp.61-70.)で は 、本 件 処 分 は 違 法 と 判 断 さ れ 、2 月 分 の 消 費 税 相 当 額 に つ き Xの 請 求 が 認 め ら れ た 。 控 訴 審 も 、 基 本 的 に 一 審 の 判 断 を 維 持 し 、 Yに よ り 上 告 が な さ れ た 75 ) 。 【判旨】棄却 ま ず 、一 審 の 大 阪 地 方 裁 判 所 は 、 「 税 制 改 革 法 が『 事 業 者 は 、消 費 税 を 消 費 者 に転嫁するものとする』と定めているのみで、税制改革法はもとより消費税法 においても、事業者に消費税の転嫁義務を課した規定はなく、また、転嫁する と し て も 、そ れ を い つ か ら と す る か に つ い て の 定 め も 置 い て い な い 」と し 、 「消 費 税 が 適 用 さ れ る の は 平 成 元 年 4 月 1 日 以 降 で あ る が 、消 費 税 の 納 税 義 務 者 で ある事業者が消費税相当額を消費者に転嫁すること、すなわち、商品代金等の 値 上 げ を す る か 否 か 、ま た 値 上 げ を す る と し て 、そ の 程 度 及 び 時 期 に つ い て は 、 専 ら 事 業 者 の 判 断 に 委 ね て い る と い う こ と が で き 」、「 消 費 税 の 転 嫁 を す る か し ないかは事業者の判断によることとされているのであるから、右原告らの決め た 経 営 方 針 を 直 ち に 違 法 と し て 非 難 す る こ と は で き な い 」と し て い る 。た だ し 、 「消費税の転嫁は運賃額の変更、すなわち運賃の値上げとして表れることにな る 」 た め 、「 除 外 規 定 も な い 以 上 、 消 費 税 の 転 嫁 を 理 由 と す る も の で あ っ て も 、 タ ク シ ー 運 賃 の 変 更 に つ い て は 」、 運 輸 局 長 の 認 可 が 必 要 で あ る 。 ま た 、「 事 業 者 が 国 に 納 付 す べ き 消 費 税 は 道 路 運 送 法 9 条 2 項 1 号 の『 原 価 』を 構 成 す る も Y は こ の 判 決 を 不 服 と し 、上 告 を 行 い 、破 棄 自 判 と な っ た 。最 高 裁 に お い て 、 原 審 の 判 決 を 棄 却 し て い る が 、こ れ は 、 「原価計算の算定根拠等を明らかにしな か っ た 」た め 、 「 原 価 計 算 の 合 理 性 に つ い て 審 査 判 断 す る こ と が で き 」ず 、道 路 運 送 法 9 条 2 項 1 号 の「 基 準 に 適 合 す る か 否 か の 判 断 す る に 足 り る だ け の 資 料 の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱 し、又はこれを濫用した違法はないというべきである」として、消費税の転嫁 については言及していない。 75) 54 の で あ り 」、 運 輸 局 長 が 、「 本 件 値 上 げ 認 可 申 請 の 審 査 に 当 た っ て 、 法 令 に 定 め て あ る 諸 手 続 を 踏 み 、ま た 本 件 却 下 決 定 の 理 由 と し て 、右 道 路 運 送 法 9 条 2 項 1 号 の 要 件 が な い と し た の は 当 然 の こ と と い え る 」が 、 「納税義務者は事業者で は あ る も の の ( 消 費 税 法 5 条 )、 実 質 上 の 負 担 者 は 消 費 者 で あ る と の 消 費 税 の 趣 旨 」を 考 え る と 、 「消費税転嫁の場合にも通常のタクシー運賃値上げの場合と 全く同じ観点からこれを審査すべきであるとするのは、少なくとも当を欠くも の と い わ ざ る を 得 な い 」と し た 。つ ま り 、 「 消 費 税 は『 円 滑 か つ 適 正 に 転 嫁 す る 』 と さ れ て い る 」た め 、 「 事 業 者 が 転 嫁 す べ き も の と 決 断 し 、運 賃 の 値 上 げ 認 可 を 申 請 し て き た 場 合 に は 」、 運 輸 局 長 は 、「 申 請 の 内 容 が 、 不 当 違 法 な 目 的 に よ る 値 上 げ な ど 、転 嫁 が『 円 滑 か つ 適 正 』で な い と み ら れ る よ う な も の で な く 、 『円 滑かつ適正』に転嫁することを目的とするものであると認められる場合には、 右 申 請 を 認 可 す べ き 」で あ り 、 「 本 件 申 請 に つ い て は 、認 可 を 拒 む べ き 理 由 、す な わ ち 、右 転 嫁 が『 円 滑 か つ 適 正 』で な い と 認 め る に 足 り る 事 情 は 見 当 た ら ず 、 右転嫁は『円滑かつ適正』になされるものというべきであるから、道路運送法 9 条 2 項 1 号の要件がないとの理由により、右申請を却下した決定は、判断そ のものも誤っているといわなければならない」とした。 しかし、X の認可があるまでは消費税の納付義務は免除されるべきであると の主張に対しては、 「 事 業 者 に は 転 嫁 義 務 は な い し 、資 産 の 譲 渡 等( タ ク シ ー に よ る 旅 客 の 運 送 は 、 消 費 税 法 2 条 1 項 8 号 の 役 務 の 提 供 に 当 た る 。) に つ い て 税を課すとする消費税制度の中において、原告らが主張するような免除規定も ないから、原告らの右主張を採ることはできない」とした。 控 訴 審 の 大 阪 高 等 裁 判 所 も 、一 審 の 判 決 を 支 持 し 、 「消費税の転嫁を理由とす るタクシー運賃の値上げについても、道路運送法所定の認可が必要であると判 断 す る 」と し て い る が 、 「 本 件 の よ う に 、消 費 税 転 嫁 を 目 的 と し て タ ク シ ー 運 賃 の値上申請がなされたときは、地方運輸局長は、円滑な転嫁に資するため、速 やかにその審査をし認可の許否を決すべきである」と改めた。 【評釈】 本 件 は 、消 費 税 導 入 時 に 消 費 税 分 を 転 嫁 す る た め の 運 賃 値 上 げ を X は 見 送 り 、 約 2 年 後 に 転 嫁 の 申 請 を 地 方 運 輸 局 長 に し た と こ ろ 、運 輸 局 長 が こ の 申 請 を 却 55 下する処分を下し、X がこれを不服として、この処分が適法に行われた場合に 得られた利益の賠償を求めた事案である。なお、本件では、運輸局長は、X が 消費税実施の 2 年後になってからの消費税の転嫁を理由とする運賃値上げ申請 だったことを理由に、その特殊性から、道路運送法 9 条の基準に適合している か審査を行うための必要書類の提出を求めていたが、X が提出を行わなかった ため、本件却下処分を下している。ここでは、本件を通じ、消費税の適正な転 嫁とは何かみていく。 本件で、瀬領は、消費税が原価であると判断されて、その上で、消費税の趣 旨や制度に鑑み、不当違法な目的による円滑かつ適正な転嫁でない要件を満た す時には、運賃値上げを認可しなければならないとするのが判決の理論である としており 76) 、 消 費 税 は 原 価 で あ る と 解 釈 が で き る 。 消 費 税 は 原 価 で あ る と の 解 釈 が で き る な ら ば 、道 路 運 送 法 9 の 基 準 に 適 合 し て い る か の 審 査 を 行 う べ きである。しかし、本件については、低すぎる疑いのある運賃について全面的 に審査を行い、消費税導入時に申請を行った同業他社については簡略な審査で 済 ま せ た こ と に 対 し 、古 城 は 、 「 ① 運 輸 局 長 が 、他 事 業 者 の 消 費 税 転 嫁 の た め の 申請についても全面審査を行っており、本件で全面審査を行っても差別的取扱 いではない、あるいは②差別的であっても、本件では、全面審査を行う合理的 理 由 が あ り 違 法 で は な い 、の ど ち ら か の 理 由 を 明 ら か に す る 必 要 が あ っ た 」 77) と述べている。この解釈は、本件が消費税を転嫁するにあたり、その原価構成 を み て い な い 点 で 問 題 と し て い る 。橋 本 は 、 「 運 輸 局 長 は 、法 の 趣 旨 に の っ と り 、 法に定められた認可を行うことが要請されるのであり、消費税法や税制改革法 が こ れ に 優 先 す る 行 為 規 範 を 定 め た と は 解 さ れ え な い で あ ろ う 」 78 ) と し 、消 費 税転嫁のための値上げを根拠とした原告の請求を認容すべきではないとした。 本判決において、 「 適 正 な 転 嫁 」と は 訓 示 規 定 で あ る の に も か か わ ら ず 、法 に 定 められた認可を行われず、実際に全面審査を行われていなかったため、消費税 分だけの転嫁なのか判断しかねる。 76) 77) 78) 瀬 領 (1993)p.97。 古 城 (2000)p.238。 橋 本 (2000)p.33。 56 【私見】 判 旨 に お い て 、消 費 税 の 転 嫁 の た め の 値 上 げ は 認 可 す べ き だ と さ れ た が 79) 、 どこまでが許容されている転嫁なのだろうか。消費税転嫁問題の政府の対処方 法 の ひ と つ で あ っ た 税 制 改 正 法 11① で は 、「 消 費 税 を 円 滑 か つ 適 正 に 転 嫁 す る ものとする」と規定された。消費税の転嫁問題とは、高橋によると、事業者側 における懸念と、消費者側における懸念がある 80 ) 。 事 業 者 側 に お け る 懸 念 と は、消費税分を価格に上乗せできるかどうかの懸念であり、消費者側における 懸念とは、消費税の転嫁による便乗値上げが起こらないかという懸念である。 こ の 懸 念 に 対 す る 対 処 方 法 の ひ と つ で あ っ た 税 制 改 正 法 11① は 、地 裁 に お い て 、 「事業者に消費税の転嫁義務を課した規定ではなく、また転嫁するとしてもそ れをいつするかについて定めも置いて」おらず、また、転嫁による「商品代金 等の値上げをするか否か、また値上がりするとして、その程度及び時期につい ては、専ら事業者の判断に委ねているということができ」ると解釈された。事 業者側からすれば、転嫁の判断を委ねられているため、この事業者における懸 念、つまりは、消費税分を価格に上乗せできるかどうかの懸念は解決されるの だ が 、消 費 者 側 か ら す れ ば 、不 当 な 転 嫁 で あ っ て も そ れ が「 商 品 の 対 価 の 一 部 」 であり受け入れなければならないとみることができる。 本 件 に お い て 、こ の 税 制 改 革 法 11① は 、消 費 者 側 の 消 費 税 の 転 嫁 に よ る 便 乗 値上げが起こらないかという懸念に対する対策として不十分な規定であること がわかる。そして、転嫁の程度についてもとても曖昧なものであると考えられ る。これゆえに、過剰転嫁も存在していると考えられる。 最 高 裁 判 決 (平 成 11 年 7 月 19 日 一 小 法 廷 判 決 。 判 例 時 報 1688 号 pp.123-128.)で は 、 「運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみ で、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかったというのであるから、同局 長において被上告人らの提出した書類によっては被上告人らの採用した原価計 算 の 合 理 性 に つ い て 審 査 判 断 す る こ と が で き な か っ た も の と い う こ と が で き 」、 本 件 申 請 が 道 路 運 送 法 9 条 ② 一 の「 基 準 に 適 合 す る か 否 か を 判 断 す る に 足 り る だけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断」は違法で はないとしている。これは、書類不備のため本件申請を認めないとしただけな ので、転嫁のための値上げを認可しているかどうかの解釈はできないものと考 える。 80) 高 橋 (1989)p.64。 79) 57 第 3 節 本稿における税収ロスの定義 消費税は導入当時から、様々な問題点を残しており、消費者と事業者の価格 に対する転嫁についての裁判が何件か存在する 81 ) 。 消 費 者 が 「 消 費 税 」 で あ ると考え負担した一部分に益税は確かに含まれているが、その益税の範囲も不 明確であると考えられる 82 ) 。 そ こ で 、 本 章 第 3 節においては、判例からみる 益 税 を ま と め る と と も に 、 第 2 章 で と り あ つ か っ た 、 税 制 調 査 会 (1994)、 お よ び、先行研究が益税と考えるものをまとめ、本稿における益税の定義を行う。 益税の定義を明確にしたのち、これらを税収ロスに含める。 3-1. 仕 入 税 額 控 除 制 度 まず、仕入税額控除制度についてみる。 例 え ば 、 不 当 利 得 返 還 請 求 控 訴 事 件 (大 阪 高 等 裁 判 所 平 成 2 年 6 月 28 日 判 決 税 務 訴 訟 資 料 No.176, p.1355-1359.)が あ る 。 こ れ は 、 原 告 X は 、 被 告 Y1 に 消 費 税 相 当 分 と し て 612 円 徴 収 さ れ た が 、 本 来 一 般 消 費 者 は 、 消 費 税 を 負 担 す べ き 拘 束 は 受 け な い た め 、 右 金 員 は Y1 に お い て 不 当 利 得 で あ る と し 、ま た 、被 告 Y2 に 、行 政 指 導 の 名 の も と に 、Y1 に 対 し 、前 記 消 費 税 相 当 分 の 徴 収 を 教 唆 し た 事 件 で あ る 。こ れ に 対 し 、Y1 が 顧 客 か ら 受 領 し た 消 費 税 相 当 額 は 、平 成 元 年 4 月 か ら 施 行 さ れ た 消 費 税 法 に 基 づ い て 受 領 し て い る も の で あ り 、不 当 に 利 得 し た も の で は な い と 主 張 し た 。Y2 は 税 制 改革法及び消費税法の運用の一環として事業者に消費税の徴収等に関して必要 な指導等を行っているにすぎず、何等の違法は存しないと主張した。 原 審 で は 、 Y1 の 右 612 円 の 徴 収 は 法 律 上 の 原 因 に 基 づ く も の で あ る こ と は 明 ら か で あ っ て 、同 被 告 が 右 金 員 を 不 当 に 利 得 し た も の と は い え な い と し 、Y1 に対する不当利得という点が失当であるなら、右が不当利得であることを前提 と す る Y2 の 違 法 の 主 張 も 失 当 と い う べ き で あ る と し 、 棄 却 し た 。 控 訴 審 で も 、 Y1 の 右 の 行 為 は 税 制 改 革 法 ( 同 日 法 律 第 108 号 ) に 基 づ い て なされた適法の行為であるので、法律上の原因のない利得行為とはいえず、右 金員の取得は不当利得とはなりえない。それゆえ、右の価格転嫁等の消費税の 実 施 、 運 用 に つ い て 指 導 し た Y2 の 不 当 利 得 の 責 任 は な い と 判 断 さ れ 、 棄 却 さ れた。 82) 実 際 に は 、 転 嫁 を 行 え な い 事 業 者 も 存 在 し て い る と 思 わ れ る 。 81) 58 図 3-1 仕 入 税 額 控 除 制 度 に お け る 問 題 仕入税額控除制度では、免税事業者が取引の間に入ることにより、問題が起 こ る と さ れ て い る 。図 3-1 で は 、(a)は 消 費 税 導 入 前 で あ り 、(b)は す べ て が 課 税 業 者 で あ り 、 (c)は 卸 売 業 者 が 免 税 事 業 者 と な っ た 場 合 の 取 引 の モ デ ル で あ る 。 (b)の す べ て が 課 税 事 業 者 で あ る 場 合 は 、消 費 者 の 考 え て い る 税 負 担 と 納 税 者 が 行 っ て い る 納 税 額 は 同 額 で あ る 。(c)の 場 合 の よ う に 、免 税 事 業 者 が 取 引 の 間 に 入ると 83 ) 、 消 費 者 が 納 め て い る と 考 え て い る 消 費 税 額 の 一 部 が 国 庫 に 納 め ら れ ず 、 免 税 事 業 者 よ り 仕 入 れ を 行 う 課 税 事 業 者 の 利 益 が 発 生 す る 。 図 3-1 で 、 消 費 者 は 10,500 円 の 商 品 を 購 入 し た 場 合 に は 、500 円 の 消 費 税 を 納 め て い る と 考 え て い る が 、 実 際 の 納 付 額 は 405 円 で あ り 、 そ の 差 額 95 円 が 、 課 税 事 業 者 の 利 益 と な っ て い る 。 こ の 95 円 部 分 が 存 在 し て い る と い う こ と は 東 京 地 裁 も (c)の 場 合 に お け る 卸 売 業 者 は 、 粗 利 益 を 確 保 す る た め に 製 造 業 者 か ら 仕 入 れた時に負担した消費税分だけを対価に転嫁している。 83) 59 認めており、 「 消 費 税 分 の 一 部 に つ い て は 事 業 者 が 国 庫 に 納 付 せ ず 、事 業 者 自 身 が取得するといういわゆるピンハネをしたような結果になることも否定できな い」としている。つまり、これは益税であると解釈できる。 3-2. 免 税 点 制 度 お よ び 簡 易 課 税 制 度 次に、免税点制度についてみる。 図 3-2 免 税 点 制 度 に よ る 問 題 免税点制度では、免税事業者が消費者から消費税分を徴収しながら、その全 額 を 国 庫 に 納 め な く て も よ い こ と を 認 め て い る 点 が 問 題 と さ れ て い る 。し か し 、 こ こ で は ピ ン ハ ネ (益 税 )と し て で は な く 、 消 費 者 へ の 転 嫁 に つ い て 判 旨 は の べ て い る 。 そ こ で 、 税 制 改 正 法 11① が 、「 消 費 税 を 円 滑 か つ 適 正 に 転 嫁 す る も の とする」と規定しているため、適正な転嫁である場合は、益税とせず、そうで ない場合を益税として捉えることとする。 図 3-2 の (d) で 免 税 点 制 度 の 問 題 を 説 明 す る と 、 消 費 者 は 500(=10,500 × 5/105)円 の 消 費 税 を 支 払 っ て い る と 考 え て い る が 、 実 際 に は 400 円 し か 国 庫 に は納められていないということである。 「 適 正 な 転 嫁 」に つ い て 、判 旨 で は 、 「事 60 業 者 免 税 点 制 度 の 適 用 を 受 け る 免 税 業 者 は 、原 則 と し て 消 費 者 に 3 パ ー セ ン ト 全部の消費税分を上乗せした額での対価の決定をしてはならないものと解され る 」 と し て い る と こ ろ 、 (d)の 小 売 業 者 は 10,500 円 未 満 の 販 売 な ら ば 適 正 な 転 嫁 で あ る と 解 釈 で き 、 10,499 円 で 販 売 し た 際 は 適 正 な 転 嫁 で あ る 。「 免 税 業 者 が 得 る 可 能 性 の あ る 最 大 限 の 利 益 は 対 価 の 3 パ ー セ ン ト 以 下 で あ り 」と あ る と こ ろ か ら 、 こ こ で 益 税 (適 正 な 転 嫁 で は な い と さ れ る 部 分 )と し て と ら え ら れ る も の は 、 対 価 の 5%(こ こ で は 500 円 )か ら 、 適 正 に 転 嫁 さ れ た 499 円 と の 差 額 の 1 円 で あ る (解 釈 1)。 図 3-3 免 税 点 制 度 に お け る 解 釈 ただし、免税事業者が仕入れにあたり転嫁される消費税は、消費者に転嫁で き る と 認 め ら れ て い る と こ ろ 、499 円 部 分 の 99 円 は 適 正 な 転 嫁 と は 説 明 し 難 く 、 消 費 税 は 原 価 を 構 成 す る も の で あ る と の 考 え 方 か ら 、99 円 は 便 乗 値 上 げ と し て 解 釈 す る こ と も で き る (解 釈 2)。 し か し 、 消 費 税 法 は 便 乗 値 上 げ を 意 図 し た も のではないところから考えると、ここで益税として捉えられるものは、対価の 5%(図 3-2 で い う と こ ろ の 500 円 )か ら 、仕 入 れ に あ た り 転 嫁 さ れ た 400 円 と の 差 額 、つ ま り は 100 円 で あ る と 思 わ れ る (解 釈 3)。本 稿 で は 、解 釈 3 を 用 い る 。 そして、簡易課税制度での問題の発生方法は、本稿 2 章で説明した、税制調 査 会 『 1994 年 答 申 』 の 、 い わ ゆ る 「 益 税 」 と 同 じ で あ る 。 判 旨 に お い て 、「 運 用如何によっては過剰転嫁の危険性がある」と認めている。 61 3-3. 税 収 ロ ス の 定 義 益税とは「適正な転嫁」がなされていないときに発生し、それが事業者の手 許 に 残 る も の と 考 え ら れ る 。東 京 地 裁 (平 成 2 年 3 月 26 日 判 決 )に お い て は 、 「適 正 な 転 嫁 」 に つ い て は 、「 原 則 と し て 消 費 者 に 3 パ ー セ ン ト 全 部 の 消 費 税 分 を 上乗せした額での対価の決定をしてはならないものと解される」とし、販売額 の 消 費 税 率 未 満 で あ る な ら ば 「 適 正 な 転 嫁 」 と 解 釈 で き る 。 大 阪 地 裁 (平 成 5 年 3 月 2 日 判 決 。 )、 大 阪 高 裁 (平 成 6 年 12 月 13 日 判 決 。 )に お い て は 、「 消 費 税相当額を消費者に転嫁すること、すなわち、商品代金等の値上げをするか否 か、また値上げをするとして、その程度および時期については、専ら事業者の 判断に委ねているということができる」とされており、転嫁をするもしないも 自由であり、その転嫁する額もまた、事業者の判断に任せられていることにな っている。つまりは、消費税は適正に転嫁さするものであるとされていても、 実際どの程度転嫁されるべきか等については法的には曖昧であると考えられ、 そ こ か ら 益 税 を 定 義 す る こ と は 困 難 で あ る 。こ こ で は 、 「 適 正 な 転 嫁 」に 便 乗 値 上げを含めないものとしてとりあつかう。 こ れ ら 裁 判 例 に よ る 法 的 視 点 か ら み る「 益 税 」と 、税 制 調 査 会『 1994 年 答 申 』 に お け る 「 益 税 」 を 比 較 す る と 表 3-1 の よ う に な る 84) 84 ) 。 ただし、現行において、限界控除制度は廃止されているため、この点は考 慮していない。 62 表 3-1 判 例 か ら み る 「 益 税 」 と い わ ゆ る 「 益 税 」 の 比 較 出 所 )税 制 調 査 会 (1994)と 判 例 よ り 作 成 。 免税点制度、簡易課税制度においてはほぼ同じ扱いをとっている。免税点制 度 に つ い て は 、東 京 地 裁 (平 成 2 年 3 月 26 日 判 決 。)で は 、転 嫁 の 上 限 が 判 旨 の 中 で 間 接 的 に 触 れ ら れ て お り 、法 的 視 点 か ら み る「 益 税 」と 、い わ ゆ る「 益 税 」 と は 若 干 異 な っ て い る 。 こ の 違 い は 、 大 阪 地 裁 (平 成 5 年 3 月 2 日 判 決 。 )、 大 阪 高 裁 (平 成 6 年 12 月 13 日 判 決 。 )の 、 消 費 税 は 対 価 の 一 部 で あ る と さ れ て い る た め 、事 業 者 免 税 点 制 度 も 法 的 視 点 か ら み る「 益 税 」と 便 乗 値 上 げ の 合 計 が 、 いわゆる「益税」と同様のものと考えられる。 こ れ ら 結 果 の う え 、 さ ら に 先 行 研 究 の 考 え る 「 益 税 」 を ま と め る と 表 3-2 の ようになる。 63 表 3-2 「 益 税 」 の 定 義 の 比 較 先 行 研 究 の い う「 益 税 」は 、仕 入 税 額 控 除 制 度 に よ る 95%ル ー ル (表 3-2 仕 入 税 額 控 除 制 度 の 発 生 要 件 ② )と 、 一 括 比 例 配 分 方 式 を 採 用 し た 場 合 (表 3-2 仕 入 税 額 控 除 制 度 の 発 生 要 件 ③ )が 、追 加 さ れ て い る 。95%ル ー ル に お い て は 、本 稿 2 章 2 節で紹介したように益税は発生していると考えられる。しかし、一括比 例配分方式を採用した場合はそうであるとは言い難い。 一 括 比 例 配 分 方 式 と は 、本 稿 1 章 で 紹 介 し た 、課 税 売 上 割 合 が 95%未 満 で あ るとき、課税仕入れに含まれていた税額の控除、つまりは、仕入控除税額を計 算 す る 方 法 の ひ と つ で あ る (消 法 30② 二 )。 個 別 対 応 方 式 は 、 課 税 期 間 中 の 課 税 仕入れ等の消費税額を、①課税売上のみに対応する課税仕入れ等、②非課税売 上げのみに対応する課税仕入れ、③課税売上と非課税売上に共通して対応する 課 税 仕 入 れ に 分 け 、 仕 入 控 除 税 額 = ① + ( ③ ×課 税 売 上 割 合 )で 計 算 す る 。 こ れ に 対 し 一 括 比 例 配 分 方 式 は 、仕 入 控 除 税 額 =(① + ② + ③ )×課 税 売 上 割 合 で あ る 。 梯 ・ 平 田 (2009)の 指 摘 す る と お り 、 一 括 比 例 配 分 方 式 に す る こ と に よ り 、 本 来 64 は控除することのできない非課税売上のみに対応する課税仕入れに係る消費税 額も、課税売上割合の分のみ控除可能となる 85 ) 。 し か し 、 そ の 反 面 、 図 3-4 で示したように、課税売上のみに対応する課税仕入れに係る消費税額も課税売 上割合の分のみの控除となるため、個別対応方式を採用した方が、納付税額が 少なくなる場合もある。 図 3-4 個 別 対 応 方 式 と 一 括 比 例 配 分 方 式 の 控 除 額 個別対応方式と一括比例配分方式との大きな違いは、この課税仕入れ等の消 費税額をどの売上げに対応しているのかを区分するかしないかでる。仕入控除 税額の計算を簡便に行う方法として一括比例配分方式が採用されており、簡便 性からみれば、一括比例配分方式が優れていると思われる。本稿では、個別対 応方式と一括比例配分方式の優劣を決めることができないため、一括比例配分 方式から発生する益税と捉えることはできない。そこで、本稿では、個別対応 方式、一括比例配分方式の計算方法からからくる差は益税とは捉えない。 これらの益税の問題は、現在も発生していると考えられるが、数多くの先行研 究が述べている通り、税法改正によって縮小されていると思われる。 近似、問題とさ れるの は、本稿第 2 章 第 3 節 でとりあげた、電子商 取引の消 費課税のとりあつかいである。しかし、これらは上記益税の定義には含まれな 85) 梯 ・ 平 田 (2009)p.98。 65 い 。な ぜ な ら ば 、こ れ ら 益 税 の 定 義 は 、 「 事 業 者 の 手 許 に 残 る も の 」が 共 通 し て いるためである。電子商取引においては、現行の消費税法では消費税が徴収で きないため、値引きといった形で価格に現れ、企業間の競争に支障をきたして い る 。 こ れ は 、「 事 業 者 の 手 許 に 残 る も の 」 で は な い た め 、「 益 税 」 で は な い 。 本 稿 第 2 章 第 3 節 で と り あ つ か っ た と お り 、本 来 は 課 税 で き る と 考 え ら れ る も のが、現行の消費税法では消費税の課税対象外であるため生じている問題であ り、これを「税収ロス」として定義することにより、この電子商取引における 消費課税問題をとりあつかうことができる。 そして、 「 税 収 ロ ス 」と 定 義 し 、イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 に 付 随 し て 、同 時 に 考 え ら れ る 個 人 輸 入 の 問 題 も こ こ で と り あ つ か う 。こ れ は 、本 稿 第 2 章 第 4 節 で あ げ た 通 り 、郵 便 物 小 包 を 利 用 し た 場 合 に 課 税 価 格 の 合 計 額 が 1 万 円 以 下 の 物 品 に つ い て は 、 消 費 税 を 免 除 さ れ る 関 税 定 率 法 14⑱ お よ び 輸 徴 法 13① 一 の 問 題である。納税者の事務負担の軽減をするとともに、税関における円滑な通関 処 理 を 維 持 す る た め に 、 消 費 税 導 入 (1989 年 )に 伴 い 創 設 さ れ た も の で あ る が 、 現在はこの少額貨物無条件免税における免税額もインターネットの普及により、 増加しているのではないかと考えられる。そのため、本稿ではこの少額貨物無 条件免税における免税も「税収ロス」と定義する。 以上により、本稿では税収ロスを「本来納付される税が納付されていないも の」と定義し、益税による税収ロス、電子商取引の消費課税問題による税収ロ ス 、少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ る 税 収 ロ ス が ど の 程 度 の も の か を 本 稿 第 4 章 に て 推計することとする。 た だ し 、 95%ル ー ル に つ い て は 、 そ れ を 推 計 す る 方 法 を 見 つ け る こ と が で き な か っ た 。95%ル ー ル に お け る 益 税 推 計 の 先 行 研 究 と し て 井 藤 (2009)が あ る 86 ) 。 こ の 推 計 方 法 は 、2008 年 度 の 有 価 証 券 報 告 書 か ら 、連 結 売 上 高 の 大 き い 上 場 企 業を十数社ほどサンプリングし、その中から個別財務諸表を抽出していくつか の前提条件をもとに課税売上割合を計算し、当該年度の課税売上高についてど のくらいの益税額が生じているかを算定している方法である。有価証券報告書 井 藤 (2010)が 行 っ た 分 析 に よ る と 、2008 年 度 の 実 績 値 で 、14 社 に 生 じ た 益 税 額 を 合 計 は 、11,976 百 万 円( 年 )で あ っ た 。ま た 、大 企 業 の 課 税 売 上 割 合 の 概 算 計 算 を す る と 、 ほ と ん ど の 会 社 が 99%以 上 で あ っ た (pp.128-130。 )。 86) 66 と は 、 金 融 商 品 取 引 法 24 に そ の 提 出 者 義 務 者 が 規 定 さ れ て い る 。 こ の 95%ル ー ル は 2011 年 (平 成 23 年 )改 正 に よ り 、 2012 年 (平 成 24 年 )1 月 1 日 か ら は 、 課 税 売 上 高 が 5 億 円 を 超 え る 場 合 に は 、個 別 対 応 方 式 又 は 一 括 比 例 配 分 方 式 の いずれかの方法により仕入控除税額の計算を行うこととされたため、課税売上 高が 5 億円以下の課税事業者にしか適用ができなくなった。そのため、有価証 券 報 告 書 を EDINET(Electronic Disclosure for Investors’ NETwork ; 「 金 融 商 品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」) に掲載している企業はこの基準には適合しにくい。また、推計のために、例え ば、 「 雑 収 益 は 課 税 取 引 お よ び 非 課 税 取 引 か ら な る も の と し 、各 々 50%ず つ か ら 構成されるものとする」等の仮定が多く存在していること 87 ) 、 お よ び ミ ク ロ 的な推計であるなどの理由により、本稿では推計を行わない。 し か し 、 2011 年 (平 成 23 年 )改 正 に よ り 、 95%ル ー ル に よ る 「 益 税 」 は 大 幅 に縮小されたと考えられる。 87) 井 藤 (2010)pp.128-129。 67 第 4 章 税収ロスの推計 第 3 章 に お い て 、 本 稿 の 税 収 ロ ス は 、「 本 来 納 付 さ れ る 税 が 納 付 さ れ て い な い も の 」で あ り 、 「 益 税 」、 「 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 」、お よ び 、 「少額貨物無 条件免税」から発生しているものと定義した。本章では、これらがどの程度発 生しているか推計する。 第 1 節 「益税」から発生する税収ロスの推計 本節では、いわゆる「益税」の発生原因である「免税点制度」と「簡易課税 制度」から生じている税収ロスの推計を行う。 1-1. 先 行 研 究 「 益 税 」か ら 発 生 し て い る と 考 え ら れ る 税 収 ロ ス を 推 計 し て い る 先 行 研 究 は 、 表 4-1 の よ う な 研 究 が あ る 88 ) 。 表 4-1 い わ ゆ る 「 益 税 」 を 推 計 し た 先 行 研 究 橋 本 (2002)は 、『 1995 年 産 業 連 関 表 』 か ら 理 論 的 な 税 収 を 推 計 し て い る 。 橋 本は、理論上の税収を次の式でもとめ、理論上の税収と実際の税収との差額を 88) ただし、推計結果に対しては、どの先行研究も、すべて中小事業者に対す る 特 例 措 置 に よ る 減 収 額 (い わ ゆ る 「 益 税 」 )に 相 当 す る と 解 釈 で き る わ け で は ないとしている。 68 益税としている 89 ) 。 納税額=実効税率 × (国内生産額 − 中間財投入額 − 投資財購入額 − 輸出額) + 通関時の輸入品への消費 非 課 税 取 引 項 目 と し て は 、「 住 宅 賃 貸 料 」、「 教 育 」、「 医 療 ・ 保 健 」、「 公 務 」、 「 社 会 保 障 」と し 、ま た 、 「 金 融 ・保 険 」に つ い て は 手 数 料 部 分 の み 課 税 さ れ る も の と し て と り あ つ か っ て い る 。 さ ら に こ の 税 収 を 1999 年 度 ベ ー ス の 数 字 に 調 整 を 行 い 推 計 さ れ た 理 論 的 に 考 え ら れ る 税 収 は 、 143,700 億 円 で あ り 、 税 収 決 算 額 126,154 億 円 と の 差 額 、 17,546 億 円 を 益 税 と し て い る 。 鈴 木 (2011)は 、 SNAを 使 用 し 益 税 を 推 計 し て い る 。 消 費 税 の 理 論 上 の 課 税 ベ ースは、家計の消費支出の総額であるため、非課税品目を除く各家計の消費支 出の総額が消費税の理論上の課税ベースと仮定している 90 ) 。 ま た 、 消 費 税 は 家 計 の み な ら ず 、政 府 自 身 も 負 担 し て い る こ と も 考 慮 に い れ て い る 。そ の た め 、 消費税の理論上の課税ベースを民間最終消費支出、住宅投資および政府最終消 費支出の合計額から非課税品目の割合を取り除いたものとした。 理論上の課税ベース = (民 間 最 終 消 費 支 出 + 住 宅 投 資 + 政 府 最 終 消 費 支 出 ) × 非課税と考えられる割合 非課税品目の割合は、 『 家 計 調 査 年 報 』の 品 目 分 類 か ら 非 課 税 消 費 項 目 と 考 え られる消費額の合計値を消費支出で割ることによって算出している。鈴木が非 課 税 項 目 と し た の は「 家 賃 地 代 」、 「 火 災 保 険 料 」、 「 保 健 医 療 サ ー ビ ス 」、 「年極・ 月 極 駐 車 場 借 料 」、 「 自 動 車 保 険 料 (自 賠 責 )」、 「 自 動 車 保 険 料 (任 意 )」、 「 郵 便 料 」、 「 授 業 料 等 」、「 教 科 書 」 お よ び 「 損 害 保 険 料 (非 貯 蓄 型 保 険 )」 で あ る 。 ま た 、 政 府 最 終 消 費 支 出 の 非 課 税 項 目 は 、 支 出 項 目 で あ る 「 一 般 公 共 サ ー ビ ス 」、「 防 衛 」、 「 公 共 の 秩 序・安 全 」、 「 経 済 業 務 」、 「 環 境 保 護 」、 「 住 宅・地 域 ア メ ニ テ ィ 」、 89) 90) 橋 本 (2002)p.49。 鈴 木 (2011)p.50。 69 「 保 健 」、 「 娯 楽 ・ 文 化 ・ 宗 教 」、「 教 育 」、「 社 会 保 護 」の う ち 、「 防 衛 」、「 公 共 の 秩 序 ・安 全 」、 「 保 健 」、 「 教 育 」お よ び「 社 会 保 護 」と し て い る 。鈴 木 の 推 計 結 果 で は 、 2007 年 に お け る 益 税 額 は 0.5 兆 円 で あ る 。 そ し て 、 上 田 ・ 筒 井 (2011)は 、 産 業 連 関 表 の デ ー タ を 使 用 し 、 課 税 取 引 と 非 課税取引とに区分したうえで、各最終需要の「税額割合」 91 ) を 計 算 し 、 SNA から得られる最終需要のデータに税額割合を乗じることによって、毎年度の理 論税収値を計算している。各最終需要の税額割合を計算するには、税込み価格 で表示される産業連関表の各部門間の取引について、課税取引と非課税取引を 区分し、消費税額を取り除いた税抜価格表示での産業連関表を作成することが 必 要 に な る 。上 田・筒 井 は 非 課 税 取 引 を「 住 宅 賃 貸 料 」、 「 住 宅 賃 貸 料 (帰 属 家 賃 )」、 「 公 務 」、「 教 育 」、「 医 療 ・ 保 健 」、「 社 会 保 障 」、「 介 護 」、「 そ の 他 の 公 共 サ ー ビ ス 」、お よ び「 金 融 」の う ち「 公 的 金 融 (帰 属 利 子 )」、 「 民 間 金 融 (帰 属 利 子 )」、 「生 命 保 険 」、「 損 害 保 険 」 と し た 。 な お 、 産 業 連 関 表 の 「 金 融 」 は 、 取 引 基 本 表 で 「 公 的 金 融 (帰 属 利 子 )」、「 民 間 金 融 (帰 属 利 子 )」、 「 公 的 金 融 (手 数 料 )」、 「 民 間 金 融 (手 数 料 )」、 「 生 命 保 険 」、 「損 害保険」の 6 つに分類できる。しかし、これは行データについてみた場合であ り 、 列 デ ー タ で み た 場 合 は 「 金 融 」、「 生 命 保 険 」、「 損 害 保 険 」 の 3 つ に し か 区 分 さ れ な い 。 そ こ で 「 金 融 」 の 帰 属 利 子 部 門 (非 課 税 部 門 )と 手 数 料 部 門 (課 税 部 門 )に よ る 中 間 投 入 等 を 区 分 す る た め に 、行 デ ー タ か ら 得 ら れ る 帰 属 利 子 部 門 と 手数料部門の国内最終需要の大きさの比率を、売上比率であると考え、列デー タの「金融」の金額を、帰属利子部門に対応した仕入れと、手数料部分に対応 した仕入れに区分した。上田・筒井により推計された理論税収値と税収実績値 の 差 は 2009 年 度 で は 0.4 兆 円 で あ る と し た 。 1-2. 推 計 方 法 産業連関表による益税の推計方法は,課税取引と非課税取引を明確に区別で き な い と い う 問 題 点 を 抱 え て い る 。鈴 木 (2011)の SNAを 用 い た 推 計 は 、 『家計調 査年報』の品目分類から非課税消費項目と考えられる消費額の合計値を消費支 91) 当該付加価値生産にあたって課された消費税の全体の付加価値額に対する 割 合 の こ と 。 (上 田 ・ 筒 井 (2011)p.12。 )。 70 出で割ることによって非課税消費額のシェアを算出しており、非課税取引につ いてみるならば、より細かくみることができると考えられる。しかし、統計で 使 用 さ れ て い る 金 額 の 単 位 が 10 億 円 で あ り 92) 、 そ の 額 が 大 き い 。 そ の た め 、 生じてくる誤差も億単位となると考えられる。また、政府最終消費支出に関し ては非課税の項目の設定が困難であると考える。鈴木が非課税項目としたもの は 、「 防 衛 」、「 公 共 の 秩 序 ・安 全 」、「 保 健 」、「 教 育 」 お よ び 「 社 会 保 護 」 で あ る が、この根拠は述べられていない。本来は支出の内訳で非課税項目を考えるべ きであるが、この項目自体も大まかなものであり、また、計上されている金額 の単位が億であるため、推計結果への影響は大きいものであると考える。その た め 、本 稿 で は『 産 業 連 関 表 』 し 93) を 用 い た 推 計 方 法 を 行 う 。橋 本 (2002)を 踏 襲 94 ) 、益 税 に よ る 税 収 ロ ス を 推 計 す る 。本 稿 で 使 用 す る デ ー タ は 、 『 1990 年産 業 連 関 表 』、 『 1995 年 産 業 連 関 表 』、 『 2000 年 産 業 連 関 表 』、 『 2005 年 産 業 連 関 表 』 である。これらを用いる理由は、改正ごとに税収ロスがどのように変化してい る の か を 比 較 す る た め で あ る 。こ れ は 、 『 産 業 連 関 表 』は 過 大 推 計 に な り や す い ため、各年度を用いることにより、税収ロスの額よりも税収ロスの推移に重き を 置 い て い る た め で あ る 。消 費 税 法 の 改 正 と 施 行 、そ し て 、産 業 連 関 表 は 図 4-1 のように示され、各改正による税収ロスの推移を比較することにより、その改 正による影響がわかる。 図 4-1 消 費 税 法 の 改 正 と 施 行 お よ び 『 産 業 連 関 表 』 の 公 表 年 表 ただし、小数点以下第 1 位まで表されているため、億円単位でわかる。 『 産 業 連 関 表 』 の 単 位 は 100 万 円 で あ る 。 94) た だ し 、 『産業連関表』を用いて推計する益税は過大推計になる。また、非 課税部門の定義の違い等により、各先行研究との差はおおきくなる。 92) 93) 71 次 に 非 課 税 部 門 の 設 定 で あ る が 、 本 稿 で 非 課 税 部 門 と す る も の は 、「 金 融 (帰 「 保 険 」、 「 住 宅 賃 貸 料 」、「 公 務 」、「 学 校 教 育 」、「 医 療 」、「 社 会 保 障 」、 属 利 子 )」、 「 介 護 」 で あ る 。「 金 融 (帰 属 利 子 )」 の と り あ つ か い は 上 田 ・ 筒 井 (2011)を 踏 襲 す る 。上 田 ・ 筒 井 (2011)で は 、 「 そ の 他 公 共 サ ー ビ ス 」も 非 課 税 取 引 と し て と り あつかっているが、 「 そ の 他 公 共 サ ー ビ ス 」と は 、厳 密 に は 非 課 税 部 門 と は い え ない。産業連関表の「その他公共サービス」とは、基本分類でいうと「対企業 民 間 非 営 利 団 体 」と「 対 家 計 民 間 非 営 利 団 体 (除 別 計 )」で あ る 。「 対 企 業 民 間 非 営利団体」とは、例えば、織物協同組合、商工会議所、経済団体連合会等であ り 、「 対 家 計 民 間 非 営 利 団 体 (除 掲 別 )」 は 、 宗 教 団 体 、 労 働 団 体 、 学 術 団 体 な ど である。 ここで、宗教法人について考える。宗教法人は、一般の事業者と同様に納税 義務者である。宗教法人の収入には、寄付金や喜捨金等が多くあると考えられ るが、寄付金や喜捨金は課税の対象ではない。しかし、宗教法人のような場合 は、それら課税の対象外で得た金銭で課税仕入れを行うと考えられる。このよ うな場合には、国・地方公共団体等に対する特例が規定されており、一般事業 者 と は 異 な る 消 費 税 計 算 が 行 わ れ る ( 消 法 60)。 国 ・ 地 方 公 共 団 体 の 特 別 会 計 、 公共法人、公益法人等、または、人格のない社団などの仕入控除額の計算にお いては、一般の事業者とは異なり、補助金、会費、寄付金等の対価性のない収 入を「特定収入」として 95 ) 、 こ れ に よ り 賄 わ れ る 課 税 仕 入 れ 等 の 消 費 税 額 を 仕入れ控除額から控除する調整が必要とされる。 95) 特 定 収 入 の 意 義 は 、 消 基 通 16-2-1 に 規 定 さ れ て い る 。 72 図 4-2 国 等 と そ の 他 の 事 業 に お け る 収 入 比 較 図 4-3 国 、 地 方 公 共 団 体 等 に 対 す る 特 例 73 このような特例が存在するため、宗教法人の基準期間における課税売上高が 1,000 万 円 を 超 え 納 税 義 務 が あ る 場 合 に は 、 喜 捨 金 等 も 考 慮 に い れ た 計 算 が な されている。そのため、本稿では非課税部門としてとりあつかわない。 また、 「 住 宅 賃 貸 料 (帰 属 家 賃 )」は 非 課 税 で は な く 、不 課 税 部 門 と し て と り あ つかう。この帰属家賃は、1 章と同じく、帰属計算であるため、消費税の対象 外とする。 そして、本稿の非課税部門については次のような注意を必要とする。消費税 は、原則として、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡 や貸付けおよび役務の提供、ならびに、輸入取引を課税の対象としている。し かしながら、これら取引であっても「消費に負担を求める税としての性格から 課 税 の 対 象 と し て な じ ま な い も の 」 や 、「 社 会 政 策 的 配 慮 か ら 課 税 し な い も の 」 がある。現行では、これらを非課税取引とし、消費税を課さない取引としてい る (消 法 6① 、 ② )。 今 回 の 推 計 に お い て 、 非 課 税 部 門 を も う け る に あ た り 、 非 課 税 部 門 は 非 課 税 資 産 し か 販 売 し な い と 仮 定 さ れ る た め 、中 間 投 入 に お い て も 、 これらには消費税が課されていないものとしてとりあつかうことが必要である。 図 4-4 非 課 税 部 門 の と り あ つ か い 74 図 4-4 で 、B 部 門 を 非 課 税 部 門 と す る な ら ば 、 本 来 な ら ば A 部 門 の 中 間 投 入 は、①+③+④と仮定すべきである。しかしながら、実際の取引を、例えば、 「学校教育」でみるならば、非課税となる部分は、授業料、入学料等、取引の 最終段階が多いため、これら中間投入を推計に含めないことにすると、過剰な 税収ロスが発生する。そのため、本稿では、A 産業の中間投入を①+②+③+ ④としている。 ま た 、『 産 業 連 関 表 』 は 価 格 の 評 価 方 法 と し て 、「 生 産 者 価 格 評 価 」 と 「 購 入 者価格評価」がある。両者の違いは、個々の取引額に流通経費、すなわち商業 マージンおよび国内貨物運賃が含まれているかいないかである。本稿では、よ り消費税計算に近づけるため、使用しているものはすべて、商業マージンおよ び国内貨物運賃が含まれている「購入者価格評価」である。 そして、 『 産 業 連 関 表 』は 暦 年 で 評 価 さ れ 、消 費 税 納 税 額 を 示 す『 国 税 庁 統 計 年 報 』 は 4 月 1 日 か ら 3 月 31 日 ま で の 年 度 で 評 価 さ れ て い る 。 異 な る 計 算 期 間であるため、誤差は生じる。 免税点制度と簡易課税制度における税収ロス、つまりは、益税における税収 ロスの推計は以下の式になる。 益税における税収ロス=理論的な消費税税収額-実際の税収額 ただし、 理論的な消費税収額 = �国 内 生 産 額 − 輸 出 � × 税 率 − �中 間 投 入 額 + 投 資 財 購 入 額 � × 税 率 + 輸 入 × 税 率 である。 以 上 に よ り 、 推 計 さ れ た 益 税 は 表 4-2 の よ う に な る 。 75 表 4-2 益 税 に よ る 税 収 ロ ス (単位:億円) 推計される益税額 33,471 27,508 18,648 7,408 年代 1990年 1995年 2000年 2005年 本 稿 に お い て 推 計 し た 、2005 年 に お け る 益 税 に よ る 税 収 ロ ス は 7,408 億 円 で あ る 。 表 4-2 の 結 果 か ら 、 税 収 ロ ス は 減 少 し て い る こ と が わ か る 。 第 2 節 電子商取引の消費課税問題による税収ロス 次に、電子商取引の消費課税問題による税収ロスの推計を行う。本稿では林 (2009)の モ デ ル を 参 考 に す る 。 た だ し 、 本 節 で は 電 子 商 取 引 に お け る 消 費 課 税 問題はデジタルコンテンツ取引のみとした。 図 4-5 電 子 商 取 引 の 概 念 図 76 こ れ は 、デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ と 物 品 に よ り 、問 題 の 所 在 が 異 な る た め で あ る 。 本 稿 2 章 2 節 で 紹 介 し た よ う に 、 越 境 BtoC 取 引 に お い て 、 現 行 の 消 費 税 法 で 消費税を課すことができない取引はデジタルコンテンツをとりあつかった場合 である。物品の場合は、2 章 3 節で紹介したように、消費税法により消費税を 課 す こ と が で き る が 、 関 税 定 率 法 14⑱ 、 輸 徴 法 13① 一 に お い て 免 税 と さ れ て いることが問題である。そのため、少額貨物無条件免税の問題は、デジタルコ ン テ ン ツ の 越 境 BtoC 取 引 の 問 題 と は 別 の 問 題 と し て 、 本 章 3 節 に よ り 推 計 を 行う。 電 子 商 取 引 か ら 発 生 し て い る と 考 え ら れ る 税 収 ロ ス は 2 段 階 で 推 計 す る 。電 子 商 取 引 か ら 問 題 と さ れ る 税 収 ロ ス は 、 越 境 BtoC 取 引 の み で あ る 。 し か し 、 越 境 BtoC 取 引 に か か る 輸 入 取 引 の 規 模 を 、 取 引 種 類 別 に 算 出 し た マ ク ロ デ ー タが存在しないため、全体のデジタルコンテンツにかかる電子商取引を推計す る必要がある。 2-1. 第 1 段 階 第 1 段 階 で は 、電 子 商 取 引 に よ る 国 内 消 費 者 の 品 目 別 の 年 間 消 費 金 額 の 推 計 を 行 う 。こ の 推 計 は 、総 務 省『 ICTの 経 済 分 析 に 関 す る 調 査 報 告 書 』(以 下 、 『平 成 18 年 度 ICTの 経 済 分 析 に 関 す る 調 査 』 と い う 。 )の モ デ ル を 参 考 に す る 96 ) 。 『 平 成 18 年 度 ICTの 経 済 分 析 に 関 す る 調 査 』で は 、1 年 間 に イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し て 家 計 が 購 入 し た BtoCの 市 場 規 模 を 需 要 サ イ ド か ら 計 算 し て い る 。そ の 方 法は、6 歳以上の個人が過去 1 年間に電子商取引によって購入した平均購入額 にその電子商取引の利用者数を乗じて購入総額を推計するものである。具体的 に は 、『 平 成 22 年 国 勢 調 査 』 (総 務 省 )の 確 報 値 に 、『 平 成 22 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』か ら 得 ら れ る イ ン タ ー ネ ッ ト 利 用 者 の 割 合 (利 用 率 )と 、イ ン タ ー ネ ッ ト 利 用 者 に し め る 電 子 商 取 引 利 用 者 の 割 合 (購 入 率 )、 電 子 商 取 引 利 用 者 の 年間の平均購入金額を乗じて、積和する計算方法である。 な お 、『 平 成 18 年 度 ICTの 経 済 分 析 に 関 す る 調 査 』 で は 、 購 入 階 層 を 6 歳 以 上 と し て い る が 、 本 稿 で は 20 歳 以 上 と す る 。 そ の 理 由 と し て 、 経 済 産 業 省 の 『 平 成 22 年 度 電 子 商 取 引 実 態 調 査 』 に お い て 、 わ が 国 の 越 境 BtoCの 決 済 方 法 96) 総 務 省 (総 務 省 (2007)『 平 成 18 年 度 ICT の 経 済 分 析 に 関 す る 調 査 』 p.83。 77 は 表 4-3 の よ う に な っ て い る 97 ) 。 表 4-3 電 子 商 取 引 利 用 時 の 支 払 手 段 決済方法 インターネット上でのクレジットカード支払 インターネット上での第三者支配サービスによる支払(Paypal, Alipay等) 配達受取時の代金引換支払(現金、クレジットカード、小切手等) インターネット上でのネットバンキング振込 インターネット上でのデビットカード支払 インターネット上での電子マネー支払(Edy, Suica等) 窓口・ATM端末等での振込(銀行、郵便局、コンビニ等) 電話料金・通信料金等への上乗せによる支払 その他 利用したことがある割合 66.8% 4.7% 32.7% 18.2% 4.2% 6.1% 36.9% 4.2% 0.3% 出 所 ) 経 済 産 業 省 (2011) 『 平 成 22 年 度 我 が 国 情 報 経 済 社 会 に お け る 基 盤 整 備 (電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 )』 p.106. 表 4-3 を み る と 、「 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で の ク レ ジ ッ ト カ ー ド 支 払 」 が 66.8% と、電子商取引の決済はクレジットカードを利用する割合が高い。クレジット カードを発行するには審査が必要であり、6 歳の子供が購入する場合は、保護 者 の ク レ ジ ッ ト カ ー ド を 使 用 す る も の と 考 え る 。ま た 、18、19 歳 も 未 成 年 で あ り、クレジットカードを発行するには保護者の許可を必要とするケースがほと んどであると考えられる。 また、日本語または外国語のサイトを閲覧し、必要項目を入力して購入にい たることを考えると、6 歳の子供が購入できるとは考えにくい。そこで、本稿 で 推 計 す る も の は 、 自 ら ク レ ジ ッ ト カ ー ド が 発 行 で き る で あ ろ う 20 歳 以 上 を 対象とした。 そして、インターネットから購入する方法としては、パソコンを端末として 使 う 場 合 と 携 帯 電 話 を 使 う 場 合 が あ る が 、 最 終 的 に 越 境 BtoC 取 引 に お け る 消 費税税収ロスに、携帯電話からの購入をすべて含めると過大推計であると考え ら れ る 。例 え ば i モ ー ド は 、i モ ー ド メ ニ ュ ー か ら 各 サ イ ト へ 移 動 す る 場 合 が ほ と ん ど で あ る と 考 え ら れ る が 、i モ ー ド メ ニ ュ ー に サ イ ト を 登 録 す る に は 、NTT ド コ モ の 独 自 の 掲 載 基 準 を 満 た さ な け れ ば な ら な い 。 今 回 は 越 境 BtoC 取 引 に おける消費税の税収ロスを推計するため、海外事業者がこのような掲載基準を 97) 経 済 産 業 省 (2011) 『 平 成 22 年 度 電 子 商 取 引 実 態 調 査 』。 78 満たし、わが国の携帯電話会社専用の回線を使用することは少ないと考えられ る。そのため、携帯電話からの購入は、携帯電話利用率に、さらにスマートフ ォン保有率とタブレット端末保有率を乗じることにより、これを携帯電話から 行 う 越 境 BtoC 取 引 の 割 合 に 使 用 す る 。 な お 、 こ の ス マ ー ト フ ォ ン 保 有 率 、 タ ブ レ ッ ト 端 末 保 有 率 は『 平 成 22 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』に 掲 載 さ れ て いる。 『 平 成 22 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』に お い て 、デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ は 「 ソ フ ト ウ ェ ア( コ ン ピ ュ ー タ プ ロ グ ラ ム )」、 「 音 楽 」、 「 映 像 」、 「 ゲ ー ム 」、 「ニ ュ ー ス ・ 天 気 予 報 」、「 着 信 メ ロ デ ィ ・ 着 う た 」、「 待 ち 受 け 画 面 」、「 電 子 書 籍 」、 「 有 料 メ ー ル マ ガ ジ ン 」、「 そ の 他 」 お よ び 「 無 回 答 」 に 分 類 さ れ て い る 。 本 稿 で 、越 境 BtoC 取 引 と し て 考 え ら れ る 項 目 を 、 「 ソ フ ト ウ ェ ア 」、 「 音 楽 」、 「 映 像 」、 「 ゲ ー ム 」、「 ニ ュ ー ス ・ 天 気 予 報 」、「 電 子 書 籍 」、 お よ び 、「 有 料 メ ー ル マ ガ ジ ン」とした。 これらを推計する第 1 段階は次のようになる。 X btoc = � � � Pi,j ui,j,k ri,j,k Ci,j,k k ただし、 j i k ∈ {1,2}, j ∈ {1,2}, i ∈ {1,2, … 8} X btoc : 企 業 か ら 家 計 へ の 品 目 別 の 販 売 額 ( 購 入 者 価 格 ) P : 人口 u : 人口に対するインターネット利用者の割合 r : インターネット利用者に対する品目別の電子商取引利用者の割合 C : 電子商取引利用者の品目別の年間平均購入額 j : 男女 i : 年 齢 階 層 ( 20 歳 以 上 ) k : パ ソ コ ン ま た は 携 帯 電 話 (ス マ ー ト フ ォ ン 、 タ ブ レ ッ ト 端 末 の み ) である。 79 こ の 式 の 概 念 図 は 図 4-6 の 通 り で あ る 。 図 4-6 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス の 推 計 の 第 1 段 階 概 念 図 2-2. 第 2 段 階 第 2 段 階 で は 、デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 電 子 商 取 引 に よ る 国 内 消 費 者 の 年 間 輸 入金額を推計する。 80 出 所 )林 (2009)「 グ ロ ー バ ル 経 済 下 で の 日 本 の 消 費 税 制 の あ り 方 ― 電 子 商 取 引 の 取 扱 い を 中 心 と し て ― 」 p.48 一 部 加 筆 修 正 。 図 4-7 第 2 段 階 概 念 図 第 2 段 階 で は 、第 1 段 階 で 推 計 し た デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 品 目 別 の 年 間 電 子 商 取 引 金 額 に 、 越 境 BtoC 取 引 を お こ な い う る と 考 え ら れ る 最 大 の 輸 入 割 合 を 乗 じ る こ と に よ り 、 越 境 BtoC 取 引 の 規 模 を 計 算 す る 。 林 (2009)は 、 海 外 事 業 者から電子商取引をおこないうる最大の輸入割合を、第一生命保険相互会社の シ ン ク タ ン ク ・ ラ イ フ デ ザ イ ン 研 究 所 が 2002 年 に 公 表 し た 『 外 国 語 で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 』の 調 査 を 参 考 に し 、一 定 の 外 国 語 運 用 レ ベ ル(「 仕 事 レ ベ ル 」、 「 日 常 会 話 レ ベ ル 」、 「 辞 書 を 片 手 に 読 解 す る レ ベ ル 」)と 回 答 し た 者 の 男 女 別・年 齢 別 の 割 合 と し て い る 。し か し 、本 稿 で は 、経 済 産 業 省 が 公 表 す る 、 『平 成 22 年 度 電 子 商 取 引 実 態 調 査 』 に お け る 、 今 後 の 越 境 電 子 商 取 引 の 利 用 意 向 についての回答割合を使用する。これは、越境電子商取引を利用したいかどう か の 質 問 に 対 し 、越 境 電 子 商 取 引 を 「積 極 的 に 利 用 し た い 」、「機 会 が あ れ ば 利 用 し た い 」と 回 答 し た 割 合 で あ る 。「 積 極 的 に 利 用 し た い 」 と の 回 答 は 3.5%、「 機 会 が あ れ ば 利 用 し た い 」 と の 回 答 は 15.4%で あ り 、 電 子 商 取 引 を お こ な い う る 最 大 の 輸 入 割 合 を 、 両 者 の 合 計 で あ る 18.9%と す る 。 こ れ は 次 の よ う に あ ら わ される。 81 Ybtoc = X btoc × Ej ただし、 Ybtoc : 品 目 別 の 年 間 輸 入 電 子 商 取 引 金 額 Ej: 越 境 BtoC 電 子 商 取 引 を 「 積 極 的 に 利 用 し た い 」、「 機 会 が あ れ ば 利 用 し たい」と回答した割合 である。 上 記 結 果 に 、 消 費 税 率 5%を 乗 じ 、 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ スを推計する。 Tbtoc = Ybtoc × t ただし、 Tbtoc: 考 え ら れ る 消 費 税 収 額 t: 消 費 税 率 である。 2-3. 推 計 結 果 上 記 で 示 し た モ デ ル に 従 っ て 推 計 を 行 っ た 結 果 は 、 表 4-4 の と お り で あ る 。 表 4-4 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス ソフトウェア 音楽 映像 ゲーム ニュース 電子書籍 有料メールマガジン 計 (単位:億円) 電子商取引で考えられる税収ロス パソコン 携帯 計 2.20 0.04 2.24 3.26 0.44 3.71 1.46 0.10 1.56 1.00 0.22 1.22 0.63 0.17 0.80 0.56 0.07 0.62 0.17 0.05 0.22 9.29 1.08 10.38 現 在 、 10.38 億 円 の 税 収 ロ ス が 発 生 し て い る と 考 え ら れ る 。 現 状 で は 、 電 子 商取引の消費課税問題による税収ロスとしての額は少ない。しかし、本稿第 2 82 章 第 3 節 3-3 で 指 摘 し た よ う に 、 企 業 間 に 支 障 を き た す 問 題 で あ る た め 、 イ ン パクトが小さいからといって見過ごすわけにはいかない問題である。 第 3 節 少額貨物無条件免税による税収ロス 少額貨物無条件免税により発生していると考えられる税収ロスの推計方法も、 本 章 第 2 節 と 同 様 で あ る 。第 2 節 と 同 様 の 推 計 方 法 を 用 い る 理 由 は 、個 人 輸 入 を行う際にはインターネットを用い輸入することが多いと考えるためである。 ただし、第 3 節での対象は物品である。 図 4-8 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ る 税 収 ロ ス の 推 計 の 第 1 段 階 概 念 図 なお、少額貨物無条件免税における平均購入金額は、年齢階層別のデータが 存 在 し な い た め 、 す べ て の 年 齢 階 層 に 物 品 別 年 間 平 均 購 入 金 額 を 林 (2009)は 使 用している。ただし、この推計方法では過大な税収ロスが推計されると考えら れる。 『 平 成 22 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 で は 、 購 入 物 品 は 、「 パ ソ コ ン 関 連 (パ ソ コ ン 本 体 、 周 辺 機 器 、 OS 等 の ソ フ ト ウ ェ ア (DVD-ROM 等 の 物 品 に 限 83 る ))」、「 書 籍 ・ CD・ DVD・ ブ ル ー レ イ デ ィ ス ク (電 子 書 籍 な ど デ ジ タ ル 配 信 さ れ る も の は 含 め な い )」、「 衣 料 品 ・ ア ク セ サ リ ー 類 」、「 食 料 品 (食 品 、 飲 料 、 酒 類 )」、「 趣 味 関 連 品 ・ 雑 貨 (玩 具 、 ゲ ー ム ソ フ ト 、 楽 器 、 ス ポ ー ツ 用 品 、 文 房 具 な ど )」、「 各 種 チ ケ ッ ト ・ ク ー ポ ン ・ 商 品 券 (交 通 機 関 、 コ ン サ ー ト 等 の チ ケ ッ ト 、 ギ フ ト 券 な ど )」、「 旅 行 関 係 (パ ッ ク 旅 行 申 込 、 旅 行 用 品 購 入 等 )」、「 金 融 取 引 (イ ン タ ー ネ ッ ト に よ る 銀 行・証 券・保 険 取 引 な ど )」、お よ び 、 「 そ の 他 (家 具 、 家 電 製 品 、自 動 車 関 連 部 品 な ど )」に 分 類 さ れ て い る 。こ こ で 、非 課 税 取 引 だ と 考 え ら れ る も の が 、「 各 種 チ ケ ッ ト ・ ク ー ポ ン ・ 商 品 券 」 と 、「 金 融 取 引 」 で あ る。そのため、これらは少額貨物無条件免税における問題外であるため、本稿 ではとりあつかわない。 次 に 、「 パ ソ コ ン 関 連 」 に つ い て だ が 、 こ れ は パ ソ コ ン 本 体 、 周 辺 機 器 、 OS の ソ フ ト ウ ェ ア (DVD-ROM 等 の 物 品 に 限 る )を 指 し て い る 。 し か し 、 こ れ ら の 物 品 で 1 万 円 以 下 の 物 品 は 少 な い と 考 え ら れ る た め 、す べ て を 推 計 に 含 め る こ とは過大な税収ロスを推計する要因となる。 また、 「 旅 行 関 係 」に つ い て は 、パ ッ ク 旅 行 の 申 込 は 郵 便 小 包 で 輸 入 す る 取 引 ではないため、推計の対象外である。ただし、旅行用品購入に関しては、郵便 小 包 を 利 用 で き る 取 引 で あ る た め 推 計 に 対 象 内 で あ る 。そ こ で 、 「 旅 行 関 係 」を すべて推計から除外することもできない。 最後に、 「 そ の 他 」に つ い て は 、家 具 、家 電 製 品 、自 動 車 関 連 部 品 が 内 容 と し て あ げ ら れ て い る が 、こ れ ら の 多 く は 1 万 円 以 下 で 購 入 で き る も の と は 考 え に くい。 し か し 、『 平 成 22 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 の デ ー タ で は こ れ ら が ど れ 程 の 割 合 か わ か ら な い 。 そ こ で 本 稿 で は 、 年 代 は 異 な る が 、『 平 成 23 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 の 「 家 庭 内 か ら イ ン タ ー ネ ッ ト で 商 品 ・ サ ー ビ ス を 購 入 す る 際 の 1 回 あ た り の 上 限 金 額 」の 結 果 を 使 用 し 98 ) 、1 回あたりの上限金 『 平 成 23 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 は 、 「家 庭 内 」と 「家 庭 外 」で イ ン ターネットを行うという分類で推計しているため、 「家庭外からインターネット で商品・サービスを購入する際の 1 回あたりの上限金額」データも存在する。 『 平 成 23 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』は 、「家 庭 内 」と 「家 庭 外 」ど ち ら に お い て も 、「パ ソ コ ン 」と 「携 帯 」が 手 段 と し て あ が っ て い る 。 「 家 庭 内 」の 方 が 利 用 し て い る 割 合 が 高 い た め 、こ こ で は 、「家 庭 内 か ら イ ン タ ー ネ ッ ト で 商 品・サ ー ビ ス を 購 入 す る 際 の 1 回 あ た り の 上 限 金 額 」を 使 用 し て い る 。 98) 84 額 が 10,000 円 以 下 で あ る 割 合 を 乗 じ る こ と に よ り 、 さ ら に 現 実 的 な 税 収 ロ ス を推計する 99 ) 。 出 所 )総 務 省 『 平 成 23 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 を 基 に 作 成 。 図 4-9 「パ ソ コ ン 関 連 」を イ ン タ ー ネ ッ ト で 購 入 す る 際 の 1 回 あ た り の 上 限 金 額 図 4-9 は 、「 パ ソ コ ン 関 連 (パ ソ コ ン 本 体 、 周 辺 機 器 、 OS 等 の ソ フ ト ウ ェ ア (DVD-ROM 等 の 物 品 に 限 る ))」 を 購 入 す る 際 の 1 回 あ た り の 上 限 金 額 で あ る 。 『 平 成 23 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 に は 、電 子 商 取 引 を 行 っ た 場 合 の 1 回あたりの上限金額のデータが、物品別に掲載されている。 以上の推計方法により発生していると考えられる少額貨物無条件免税による 税 収 ロ ス は 表 4-5 の よ う に な っ た 。 『 平 成 23 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 で は 、 年 間 平 均 金 額 が 掲 載 さ れ ていないため、市場規模の推計には向いていない。そのため、本稿では『平成 22 年 度 通 信 利 用 動 向 調 査 (世 帯 編 )』 を 用 い て い る 。 99) 85 表 4-5 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ る 税 収 ロ ス パソコン関連 書籍・CD・DVD・ブルーレイディスク 衣料品・アクセサリー類 食料品 趣味関連品・雑貨 その他 計 (単位:億円) 少額貨物無条件免税による税収ロス パソコン 携帯 計 24.79 0.09 24.88 45.05 0.41 45.46 42.75 0.55 43.30 33.61 0.27 33.88 39.07 0.36 39.43 24.59 0.16 24.75 209.85 1.85 211.70 こちらの推計結果は、 「 旅 行 関 係 」の 問 題 点 が 解 決 さ れ て お ら ず 、ま だ 過 大 推 計 と 考 え ら れ る が 、 211.70 億 円 の 税 収 ロ ス が 発 生 し て い る 。 第 4 節 今後の展望 本 章 1 節 、 2 節 、 3 節 に て 、「 益 税 」、「 電 子 商 取 引 」、「 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 」 による税収ロスの推計を行った。本節では、これら結果より今後の消費税をど のようにすべきなのか考える。 4-1. 益 税 に よ る 税 収 ロ ス に つ い て 益税による税収ロスについては、消費税法改正により縮小している。本稿で は 、産 業 連 関 表 の 公 表 時 期 に 合 わ せ た 推 計 で あ り 、2005 年 ま で の 税 収 ロ ス ま で し か 推 計 が 行 え て い な い 。 2005 年 に お け る 益 税 は 7,408 億 円 で あ る が 、 2005 年 以 降 も 消 費 税 法 の 改 正 が 行 わ れ て お り 、 例 え ば 、 2011 年 (平 成 23 年 )改 正 に よ り 、 2012 年 (平 成 24 年 )1 月 1 日 施 行 の 95% ル ー ル に お け る 益 税 の 縮 小 、 ま た 、 2011 年 6 月 に 免 税 点 制 度 の 適 用 者 の 縮 小 が 行 わ れ る 等 100 ) 、 2005 年以降 においても縮小傾向にあると考えられる。 本稿では、帳簿方式、インボイス方式の比較等を行っていないため、今後も 帳簿方式を採用した場合、さらなる益税の税収ロスを縮小することを考えるな らば、簡易課税制度の廃止を提案する。 消 法 9 の 2 が 改 正 さ れ 、当 課 税 期 間 の 基 準 期 間 に お け る 課 税 売 上 高 が 1,000 万 円 以 下 で も 、 特 定 期 間 の 課 税 売 上 高 が 1,000 万 円 を 超 え た 場 合 に は 、 当 課 税 期間においては課税事業者となることとされた。 100) 86 簡易課税制度は、納税事務の簡素化とコスト軽減のために税率の算定を容易 にしてほしいという中小事業者からの要望に基づいて採用された措置である。 導 入 当 時 は 、 課 税 売 上 高 が 5 億 円 以 下 の 事 業 者 に 、 売 上 に か か る 税 額 の 90%、 80%相 当 額 を 仕 入 税 額 と み な し て 控 除 す る こ と を 認 め ら れ て い た た め 、 納 税 事 務の簡素化、コスト軽減という目的は達成できていたと考えられる。しかし、 現 在 は 消 費 税 法 が 改 正 さ れ 、 課 税 売 上 高 が 5,000 万 円 以 下 の 事 業 者 に 適 用 さ れ る 。ま た 、事 業 を 5 種 類 に 分 け 、事 業 の 種 類 ご と に 、み な し 仕 入 率 90%、80%、 70%、 60%、 50%を 使 用 す る が 、 こ の 事 業 の 種 類 ご と に 分 類 す る こ と が 複 雑 で あり、納税事務の簡素化、コスト軽減という導入当時の目的は達成できていな い と 考 え ら れ る 。そ の た め 、こ の 制 度 を 継 続 し て い く 理 由 が み つ か ら な い た め 、 簡易課税制度の廃止を提案する。 4-2. 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス に つ い て 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス は 、 現 在 10.38 億 円 で あ る と 考 え られる。また、こちらは過大推計になっている可能性が高いが、それを考慮し ても現在において、税収ロスからみるインパクトは小さいと考えられる。 表 4-6 デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ 別 越 境 BtoC 取 引 の 市 場 規 模 商品 日本消費者 米国から輸入 中国から輸入 米国消費者 日本からの輸入 中国からの輸入 計 (単位:億円) 中国消費者 日本からの輸入 米国からの輸入 計 計 電子書籍のダウンロード 1 2 3 35 18 53 60 59 119 音楽・映像コンテンツのダウンロード 4 1 5 141 130 271 56 48 104 コンピュータ、ゲームコンテンツのダ ウンロード(オンラインゲームを含む) 計 3 0 3 22 18 40 78 54 132 8 3 11 198 166 364 194 161 355 出 所 )経 済 産 業 省 (2012)『 平 成 23 年 度 我 が 国 情 報 経 済 社 会 に お け る 基 盤 整 備 (電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 )』 p.65 一 部 修 正 。 し か し 、 経 済 産 業 省 (2012)が 推 計 し た 結 果 の 表 4-6 か ら 101 ) 、 現 時 点 の 日 本 消 費 者 の 越 境 BtoC取 引 に お け る デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ 市 場 規 模 は 、米 国 や 中 国 と 経 済 産 業 省 (2012)の 市 場 規 模 の 推 計 方 法 は 、 本 稿 と 同 様 で あ る 。 た だ し 、 中国については、地域によるインターネット利用率に大きな差があるため、行 政 区 分 を GDP に よ っ て ラ ン ク 分 け し 、 各 層 に お け る イ ン タ ー ネ ッ ト 人 口 を 算 101) 87 比べて小規模で 102 ) 、 今 後 わ が 国 の 市 場 規 模 が 拡 大 す る と 考 え る と こ れ ら の 問 題も、見過ごすことができない問題となると考える。 表 4-7 越 境 BtoC 取 引 の 市 場 規 模 と 市 場 規 模 の 発 展 の ポ テ ン シ ャ ル 2010年 市場規模 日 パターン① 本 パターン② パターン③ 346 454 580 859 (単位:億円) 2011年 145 234 310 710 出 所 ) 経 済 産 業 省 (2012) 『 平 成 23 年 度 我 が 国 情 報 経 済 社 会 に お け る 基 盤 整 備 (電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 )』 p.62, p.67 一 部 修 正 。 表 4-7 は 経 済 産 業 省 (2012)が 、越 境 BtoC取 引 の 市 場 規 模 発 展 の ポ テ ン シ ャ ル を 推 計 し た 結 果 で あ る 。 経 済 産 業 省 (2012)は 、 イ ン タ ー ネ ッ ト お よ び 電 子 商 取 引 利 用 者 の 越 境 BtoC取 引 を 利 用 す る か ど う か の 態 度 に 応 じ 3 つ の 段 階 に わ け 推計している 103 ) 。パ タ ー ン ① は 、 「 特 に ECに 関 心 の 高 い 層 を 取 り 込 み 」、ア ン ケ ー ト か ら 、 越 境 BtoC取 引 を 利 用 し て い な い 利 用 者 の う ち 特 に 越 境 BtoC取 引 に 対 し て 関 心 の 高 い 層 が 、今 後 越 境 BtoCを 利 用 す る と 仮 定 し た パ タ ー ン で あ り 、 進 展 の レ ベ ル と し て は も っ と も 穏 健 な 想 定 で あ る 。 パ タ ー ン ② は 、「 ECに 比 較 敵 関 心 の 高 い 層 を 取 り 込 み 」、 パ タ ー ン ① の 越 境 BtoC取 引 利 用 者 の 基 と な る 越 境 BtoC利 用 者 を 含 む 、 電 子 商 取 引 利 用 者 全 体 が 拡 大 し 、 そ の 結 果 と し て 越 境 BtoC取 引 利 用 者 も 拡 大 す る と い う 想 定 で あ る 。パ タ ー ン ③ は 、 「 ECに 関 心 が あ る 層 を 取 り 込 み 」、 越 境 BtoCが 一 般 的 に 利 用 さ れ る と 想 定 し 、 越 境 BtoC、 国 内 出している。さらに、各行政区分を都市と農村の 2 つに各層を分割し、インタ ーネット人口を推計している。このインターネット人口に各国の統計情報を基 にした電子商取引の利用率を乗じることによって電子商取引両者人口を推計し ている。 102) 人 口 等 の 影 響 も あ る が 、 そ れ を 考 慮 に い れ て も 、 ま だ 市 場 規 模 は 小 さ い と 考えられる。 103) た だ し 、 『 平 成 23 年 度 我 が 国 情 報 経 済 社 会 に お け る 基 盤 整 備 (電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 )』で は 中 国 に お け る イ ン フ ラ 整 備 状 況 を 勘 案 し て い る 。そ の た め 3 つの段階ではなく、4 つの段階になっている。本稿では、中国のインフラ 整備状況はとりあつかわないため 3 つの段階とした。 88 BtoCを 問 わ ず 、電 子 商 取 引 に 関 心 の あ る 層 を す べ て 取 り 込 む こ と を 想 定 と し て いる。 表 4-8 現 在 の 市 場 規 模 を 1 と し た 場 合 の 将 来 の 市 場 規 模 パターン① パターン② パターン③ 2010年 1.31 1.68 2.48 2011年 1.61 2.14 4.90 表 4-8 は 、 表 4-7 の 市 場 規 模 を 1 と し た 場 合 の パ タ ー ン ① 、 ② 、 ③ の 市 場 規 模 を 表 し て い る 。2010 年 と 2011 年 を 比 較 す る と 、 今 後 は さ ら に 電 子 商 取 引 の 規 模 は 急 速 に 増 え て い く と 予 想 さ れ て い る こ と が わ か る 。2011 年 の パ タ ー ン ① に つ い て み る と 、1.61 倍 に な る と 推 計 さ れ る 。今 回 の 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス は 、 10.38 億 円 と 推 計 さ れ た が 、 今 後 わ が 国 の 消 費 税 が 10% ま で 増 税 さ れ る こ と を 含 め て 考 え る と 、単 純 計 算 で 10.38 億 円 の 3.22 倍 、つ ま り は 、 33.42 億 円 の 税 収 ロ ス が 発 生 す る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 こ れ か ら 電 子 書 籍の規模が拡大すると予想されること等を含めると、さらなる税収ロスが発生 すると思われる。 ま た 、 電 子 商 取 引 の 越 境 BtoC 取 引 に お い て 消 費 課 税 さ れ な い こ と は 、 税 収 ロ ス の 問 題 と し て で は な く 、 本 稿 2 章 3 節 、 3-3 で も 紹 介 し た よ う に 、 企 業 間 の競争に支障をきたしている問題ともいえる。 そこで、財務省は、インターネットで配信される音楽や電子書籍に消費税を 課すため、海外企業への登録制度を導入する方針である 104) 。 登 録 制 度 と は 、 EUで 採 用 さ れ て い る 制 度 の ひ と つ で 、 デ ジ タ ル 財 の 供 給 を 行 う EU域 外 の 事 業 者 は 、EUの 任 意 の 1 カ 国 に 登 録 し 、登 録 し た 国 の 税 率 で VATを 納 税 す る 制 度 で ある。わが国では、海外の事業者に日本の税務当局への登録を求め、消費課税 の漏れをなくす案を検討している 105 ) 。 EUで は デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 消 費 地 の 定 義 を「 サ ー ビ ス の 提 供 地 」か ら「 消 費 者 の 通 常 の 居 住 地 」に 変 更 し 、デ ジ タ ル コ ン テ ン ツ の 越 境 BtoC取 引 に お い て 104) 105) 日 本 経 済 新 聞 (2012 年 11 月 14 日 付 け )。 日 本 経 済 新 聞 (2012 年 11 月 14 日 付 け )。 89 も、課税範囲に含まれるようにしたうえで、登録制度を採用した。しかしこの 税 制 に は 、EU域 内 の 消 費 者 を 相 手 に 商 売 を す る 域 外 の 事 業 者 を ど の よ う に 把 握 し登録させるか、域外事業者の事務負担とコスト、消費者の課税地の判定が困 難ではないか、小規模事業者の乱立により執行面で大混乱が生じるのではない かという問題が指摘されていた は生じなかったとされている 106) 。 こ の よ う な 問 題 が あ っ た が 、 実 際 に 混 乱 107 ) 。 しかし、わが国の場合でみると、電子商取引における消費税不課税を逆手に とって事業を行っているようなケースも存在していると思われるので、強制力 をもたせなければ実行は難しいと考えられる。サーバー上の取引の把握は困難 であるため、この登録制に各事業が登録してくれるか、もしくは登録させるた めにどのように強制力を与えるかが問題になってくると考える。 4-3. 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ る 税 収 ロ ス に つ い て 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ る 税 収 ロ ス は 、211.70 億 円 の 税 収 ロ ス が 発 生 し て い ると考えられる。 表 4-9 商 品 別 越 境 BtoC 取 引 の 市 場 規 模 商品 日本消費者 米国から輸入 中国から輸入 書籍・雑誌(電子書籍のダウンロード は含まない) 音楽・映像のソフト(CD・DVDなど)(コ ンテンツのダウンロードは含まない) コンピュータ、ゲームソフト(コンテンツ のダウンロードは含まない) 米国消費者 日本からの輸入 中国からの輸入 計 (単位:億円) 中国消費者 日本からの輸入 米国からの輸入 計 計 30 0 30 19 14 33 53 83 136 31 0 31 24 23 47 38 57 95 14 0 14 41 23 64 135 109 244 AV機器(ゲーム機を含む) 6 0 6 13 13 26 147 125 272 生活家電(冷暖房機、掃除機など) 5 0 5 17 5 22 68 68 136 衣料・アクセサリー 9 1 10 29 66 95 160 214 374 140 1 141 471 604 1075 1096 1235 2331 合計 出 所 )経 済 産 業 省 (2012)『 平 成 23 年 度 我 が 国 情 報 経 済 社 会 に お け る 基 盤 整 備 (電 子 商 取 引 に 関 す る 市 場 調 査 )』 p.65 一 部 修 正 。 106) 107) 森 信 (2004)p.59。 森 信 (2004)p.59。 90 経 済 産 業 省 (2012)が 推 計 し た 結 果 の 表 4-9 か ら 108) 、 現 時 点 の 日 本 消 費 者 の 越 境 BtoC取 引 に お け る 物 品 市 場 規 模 も 、米 国 や 中 国 と 比 べ て 小 規 模 で あ り 109 ) 、 今 後 わ が 国 の 市 場 規 模 が 拡 大 す る こ と も 考 え ら れ る 。 本 節 4-2 で も 取 り 上 げ た よ う に 、 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ る 税 収 ロ ス も 、 単 純 計 算 で 681.67 億 円 に 増 加することが今後予想される。 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 の 問 題 の 所 在 と な っ て い る 、関 税 定 率 法 14⑱ の 無 条 件 免 税 お よ び 輸 徴 法 13① 一 の 少 額 貨 物 の 無 条 件 免 税 は 、納 税 者 の 事 務 負 担 の 軽 減 を するとともに、税関における円滑な通関処理を維持するために、消費税導入に 伴い創設されたものである。 しかし、現在は税関において、消費税等の電子納付が採用されており、消費 税導入時とはまた納税方法が変化している。現在税関が採用している電子納付 は、ひとつはマルチペイメントネットワークであり、もうひとつがリアルタイ ム 口 座 振 替 方 式 (ダ イ レ ク ト 方 式 )で あ る 。マ ル チ ペ イ メ ン ト ネ ッ ト ワ ー ク と は 、 官公庁、地方公共団体及び民間企業等の収納機関と金融機関等を通信回線で結 び 、 公 共 料 金 等 を 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 等 を 通 じ た パ ソ コ ン 、 携 帯 電 話 、ATM等 の 金融機関の各チャネルを利用して納付することができるようにし、その納付が された時に当該納付に係る情報が金融機関から収納機関に通知されるサービス を提供しているものである 110) 。 一 方 、 リ ア ル タ イ ム 口 座 振 替 方 式 は 、 マ ル チ ペ イ メ ン ト ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し た 電 子 納 付 の 新 た な 方 法 と し て 、 輸 入 (納 税 ) 申告と同時に納税者の預金口座から直接納付する方法である。現在は、課税価 格 が 20 万 円 を 超 え る 場 合 に 、 利 用 さ れ て い る こ れ ら の 方 法 を 利 用 す れ ば 、 納 税 者 の 事 務 負 担 の 軽 減 に は つ な が る 可 能 性 が あ り 、輸 徴 法 13① の 少 額 貨 物 無 条 件免税制度の廃止の可能性がでてくるのではないだろうか 108) 111 ) 。 「 そ の 他 」に つ い て は 、物 品 の ほ か に サ ー ビ ス も 含 ま れ て い る と 考 え ら れ 、 サービスを輸入する際には、郵便小包を利用しないため省略した。 109) 人 口 等 の 影 響 も あ る が 、 そ れ を 考 慮 に い れ て も 、 ま だ 市 場 規 模 は 小 さ い と 考えられる。 110) 詳 し く は 、 税 関 ホ ー ム ペ ー ジ に 紹 介 さ れ て い る 。 (http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/mpn/mpn_gaiyou.htm) 111) た だ し 、 本 稿 で は マ ル チ ペ イ メ ン ト ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 す る た め に か か る コ ス ト が 、納 付 す べ き 消 費 税 額 よ り も 低 い か ど う か の 検 討 を 行 え て い な い た め 、 この方法を採用すべきとはいえない。 91 4-4. ま と め 本 稿 で は 、益 税 に よ る 税 収 ロ ス 、電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス 、 少額貨物無条件免税による税収ロスを推計した。益税による税収額は今後も縮 小 す る 傾 向 に あ り 、問 題 と さ れ る 電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 に よ る 税 収 ロ ス は 、 現在においてまだ少額であることがわかった。しかし、電子商取引による消費 課税問題は、消費税法により、各企業間の競争へ影響を与えているため、早期 対応策が必要とされる。 また、少額貨物無条件免税による税収ロスは、採用している制度が消費税導 入時のままであり、改善の余地があると考えられる。 92 おわりに 本稿では、消費税法の諸問題として、税収ロスについて考察した。現在わが 国 税 収 の 約 2 割 を ま か な っ て い る の が 消 費 税 で あ り 、ま た 今 後 の 消 費 税 率 の 引 き上げにより、さらに重要な税金となるであろう。 第 1 章 で は 、 わ が 国 の 消 費 税 は 、 OECD の VRR で み れ ば 、 諸 外 国 に 比 べ 効 率 的 で あ る こ と が わ か っ た 。ま た 、消 費 税 法 改 正 、と り わ け 1994 年 (平 成 6 年 ) 改正は、消費税法をより効率的なものにしたと評価できた。 しかし、まだ解決されていない、もしくは解決されきれていない問題を、第 2 章でみた。 「 益 税 」は 、税 制 調 査 会 が 言 及 し た 制 度 だ け に 発 生 し て い る わ け で は な い と い う 、先 行 研 究 が 多 く 存 在 し 、 「 益 税 」と い う 定 義 自 体 が 曖 昧 で あ る こ とがわかった。 「 益 税 」を 定 義 す る た め に 、さ ら な る 検 討 が 必 要 で あ っ た 。ま た 、 本稿で最大の問題と考えている、電子商取引の消費課税問題については、越境 BtoC 取 引 に お い て 、 取 引 を 把 握 で き な い だ け で は な く 、 把 握 で き た と し て も 現行の消費税法では課税の対象にならないことが問題であった。音楽データの 取引を把握できたと仮定した場合、現行の消費税法にあてはめた結果、音楽デ ータは、課税の対象外となった。これは、その取引が行われた場所がサーバー 上で明らかでないため、その提供に係る事務所等の所在地で国内取引かどうか 判定され、国外取引に該当した。つまりは、不課税取引であり、消費税法がカ バーしきれていない問題であった。この問題は、実際に電子書籍の価格にも影 響を与えており、解決を急ぐ問題であった。また、インターネット少額貨物無 条件免税について、個人輸入を行った際に、郵便小包を利用して輸入すると、 消費税が課されない、少額貨物無条件免税についても、検討をおこなった。こ れ は 消 費 税 法 自 体 の 問 題 で は な い が 、イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 と 発 展 に と も な い 、 消 費 税 導 入 時 か ら 採 用 さ れ て い る 関 税 定 率 法 14⑱ お よ び 輸 徴 法 13① 一 が 問 題 であると考えた。そこで、消費税にまつわるひとつの問題として本稿ではとり あげた。 第 3 章では、第 2 章の問題を「税収ロス」のひとつであると定義した。第 2 章のみでは、 「 益 税 」の 定 義 が 曖 昧 で あ る た め 、裁 判 事 例 を と り あ げ 、法 的 視 点 か ら も「 益 税 」へ の 接 近 を 試 み た 。3 つ の 視 点 か ら の「 益 税 」を 比 較 し 、 「益税」 93 の 定 義 を 行 っ た 。し か し 、 「 益 税 」で は 、電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 、少 額 貨 物 無 条 件 免 税 に よ り 発 生 し て い る 問 題 を 取 り 上 げ ら れ な い の で 、本 稿 で は 、 「益税」 も「税収ロス」のひとつとしてとりあげた。そして、これら広範囲の「税収ロ ス 」 を 、「 本 来 納 付 さ れ る 税 が 納 付 さ れ て い な い も の 」 と 定 義 し た 。 第 4 章 で は 、「 税 収 ロ ス 」 が ど の 程 度 解 消 さ れ て い る の か 、 も し く は 、 発 生 しているのかを推計した。 「 益 税 」に よ る 税 収 ロ ス は 、法 改 正 が 行 わ れ る に つ れ 減少していることがわかった。ただし、現在、導入時の目的を果たしきれてい な い 簡 易 課 税 制 度 を 廃 止 す る な ど 、ま だ 改 善 の 余 地 が あ る よ う に 思 わ れ る 。 「電 子 商 取 引 の 消 費 課 税 問 題 」 に よ る 税 収 ロ ス は 、 現 在 10.38 億 円 で あ る と 推 計 結 果がでた。税収ロスとしてのインパクトはちいさいものの、各企業間の競争へ 影響を与えているため早期解決が望まれる。そして「少額貨物無条件免税」に よ る 税 収 ロ ス は 、211.70 億 円 で あ る と 推 計 結 果 が で た 。イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 と 発 展 に と も な い 、消 費 税 導 入 時 か ら 採 用 さ れ て い る 関 税 定 率 法 14⑱ お よ び 輸 徴 法 13① 一 も 見 直 さ れ る べ き で は な い だ ろ う か 。 本 稿 で は 、推 計 に よ り「 益 税 」は 確 実 に 減 少 し て い る こ と 、ま た 、 「電子商取 引 の 消 費 課 税 問 題 」、「 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 」 の 現 在 の 税 収 ロ ス と 、 今 後 予 想 さ れる税収ロスがわかった。この結果を踏まえ、わが国の消費税法は、まだ改善 の余地があること、早急に改善しなければならないことが存在していることが あるとの結論を得た。今後は、特に「電子商取引の消費課税問題」について、 今回検討できなかった、消費区分は何か、また、どのように課税を行うべきか 等を検討課題とする。現在提案されている電子商取引の消費課税の課税方法は 各国間での協力が必要不可欠であるため、諸外国の消費税法も参考に比較検討 し 、 あ わ せ て 「 益 税 」、「 少 額 貨 物 無 条 件 免 税 」 の 対 応 策 も 検 討 し 、 今 後 わ が 国 がとるべき消費税法とは何かを併せて検討課題とする。 94 【参考文献】 ・ OECD (2008), “Consumption Tax Trends 2008: VAT/GST and Excise Rates, Trends and Administration Issues”, OECD Publishing. ・ OECD(2011a), “OECD Guide to Measuring the Information Society 2011”, OECD Publishing. ・OECD (2011b), “Consumption Tax Trends 2010: VAT/GST and Excise Rates, Trends and Administration Issues”, OECD Publishing. ・阿 部 泰 隆 (1992)「 消 費 税 の 合 憲 性 」 『 別 冊 ジ ュ リ ス ト (租 税 判 例 百 選 第 3 版 )』 No.120, pp.126-127. ・ 井 藤 丈 嗣 (2010)「 課 税 売 上 割 合 が 95%以 上 の 場 合 に 生 ず る 益 税 問 題 ― 消 費 税 率 の 引 き 上 げ を 見 据 え て ― 」『 税 研 』 日 本 税 務 研 究 セ ン タ ー , pp.123-132. ・井 藤 丈 嗣 (2012)「 消 費 税 に 関 す る 過 年 度 改 正 の 効 果 と そ の 検 証 」 『 税 理 』Vol.55, No.14, pp.97-105. ・ 上 田 淳 二 ・ 筒 井 忠 (2011)「 消 費 税 の 税 収 変 動 要 因 の 分 析 ― 産 業 連 関 表 を 用 い た 需 要 項 目 別 の 税 額 計 算 ― 」 KIER DISCUSSION PAPER SERIES, KYOTO INSTITUTE OF ECONOMIC RESEARCH, 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