日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷 透明性への道筋

日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
透明性への道筋
石油・LNG特別レポート
日本エネルギー経済研究所による序文
SEPTEMBER 2016
Takeo Kumagai, Senior Editor, Asia Oil News and Analysis
Eriko Amaha, Associate Editor, Asia LNG
Jonty Rushforth, Global Editorial Director, Oil and Shipping Price Group
Shelley Kerr, Director, LNG, Coal, Nuclear
www.platts.com/oil
OIL
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
S&Pグローバル・プラッツ特別レポートへの序文
要旨
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
ƒƒ 日本の石油業界は岐路に立っている。国内需要の縮小と石油
精製セクター再編を契機に、透明性の高い価格形成メカニズ
ムを導入する時期が来ている。
日本の石油市場における製品価格の透明性確保の問題は、産
業界で最も活発な議論が交わされる問題の一つである。
石油製品の価格は10年ほど前まで、極めて透明であった。元売
りと呼ばれる大手石油会社は、輸入原油CIF価格(JCC)を小売業
者への卸価格の基準としていたからである。
この価格体系は2008年秋に見直しを余儀なくされた。国際
原油市場が極めて流動的となり、元売りの卸価格が国際市況
の変動に対応できなくなったためである。CIF価格は1~2ヵ
月のタイムラグの下、月単位で発表されていたが、小売市況
は元売りの卸価格の決定前に、いち早く国際市況に反応して
いた。そして元売りは国際原油市場での変化に対応すべく、
日本国内のスポット市場に連動した週単位による価格決定
方式を導入した。
しかし現在では、すべての市場関係者が受け入れられるシステ
ムとはなっておらず、一層の改善が依然として求められている。
欧米市場と比べて、
日本市場にはオープンなスポット市場が存
在していない点で異なっているからである。石油市場の健全な
成長と信頼できる価格報告システムの創設が、現在の状況に対
する解決策となりえる。
翻ってアジアのLNG市場では、価格決定方式がどうあるべきか
が問われる重大な転機にある。LNGの長期売買契約では、原油
価格への連動方式がここ数十年間アジアで採用されてきた。
こ
の方式では、原油価格に対しての傾き係数がフォーミュラでい
くらであるべきかといった問題が常に厳しい争点であったもの
の、2008年頃までは一般的に妥当なものとして受け入れられて
きた。
しかしその後、原油価格の連動方式に依存しているままでは、
拡大するLNG・天然ガス価格の地域間格差を是正する事は構
造的に難しいという認識がLNG買主間で広がった。
LNGの買主は供給源の多様化のみならず、契約形態や価格体
系の多様化を通じてLNG調達諸条件の改善を追求している。
ま
た、LNG需要をとりまく環境変化に敏速に対応できるように売
買契約における仕向地条項の緩和や撤廃も働きかけている。
こ
うした買主の取り組みは、LNG・ガス価格の地域間の価格差拡
大によって、加速された。
この地域間価格差は、
「アジアプレミア
ム」
と呼ばれるに至った。
ƒƒ 日本の石油業界では、石油製品スポット価格の指標形成を求
める声が高まっている。現在の国内スポット価格指標は、実際
に製品が取引可能な価格に収斂していないというのが複数
の石油元売り会社の間で共通認識となっている。
ƒƒ S&Pグローバル・プラッツは、
日本で透明性の高い石油製品
価格の指標形成にニーズがあると判断し、2016 年4月25日に
約11年ぶりに国内で石油製品の海上価格アセスメントを再
開した。
また、
プラッツは2016年末までに陸上価格アセスメン
トを再開させる予定である。
ƒƒ プラッツは長年にわたって米国メキシコ湾、
アムステルダ
ム/ロッテルダム/アントワープおよびシンガポールといっ
た 3つの重要な地域を中心に、世界の石油製品市場を取材し
てきた。
これら 3地域での市場からはさまざまな教訓をえてお
り、
日本国内石油製品市場のアセスメントにおいても活用で
きると考えている。
ƒƒ プラッツはこれまで、世界各地の流動性が高い石油市場に焦
点を絞って強みを強化させてきた。今後はあらゆる国際石油
市場でも集中して展開していく。
日本の石油製品の取引は、内
需が減少し業界再編が進む中でも、依然として流動性が維持
されている。
ƒƒ プラッツは日本市場に目を向ける際、海外の流動性が高い石
油市場での経験を生かしながら、学び続けている。
プラッツが
これまで培ってきた経験を日本の石油製品市場で動員するこ
とで、石油製品の価格体系に透明性が高まることが期待され
る。具体的には、特定の地点での燃料油の現物価格といった
ものである。
ƒƒ LNG市場では2014年以降、原油価格に連動する長期契約と
スポット価格との相関性が薄れてきた。
プラッツが公表する
Japan Korea Marker(JKM)の LNGスポット価格でも、原油価
格よりも先行して下落したことがあげられる。
ƒƒ JKMスワップ市場では、参加者の数が増え取引も洗練され多
様化している。
これはLNG市場の迅速な成熟化と、
コモディテ
ィ化が進んでいるためと考えられる。
2013年にLNG価格のアジアプレミアムが最高潮となった頃、公
正で適正なLNG価格決定方式を導入する方法のひとつとして
アジアでのLNGトレーディングハブの概念が浮上した。
日本、
ア
ジアの買主にとり不利な価格状況をもたらしている主たる原因
は、
アジア地域の需給を適切に反映する価格決定方式がないこ
と、活発に取引される市場がないことと考えられている。
また、
需要増加の失速と供給過剰の感もある直近のアジアのLNG市
場環境も、買主・売主ともに新しい価格決定方式を検討する新
たな要因となっている。
ƒƒ 日本政府は5月にLNG取引ハブの実現やアジアの LNG価格
指標の確立といったLNG戦略を発表した。
この構想は市場環
境を見ても時宜をえている。世界のLNG 市場では、液化能力
のさらなる新規稼働を控え、十分な供給が得られる見込み
である。2020 年までに年産約1億 5,110万トンの新規 LNG
液化施設の稼動が予定されている。
これらがすべて計画通り
に稼動すると、2020 年における全世界の LNG の年間供給
能力は年産約4億 2,600万トンとなる。世界のLNG需要 は年
間 3億 7,270万トンと予測されており 大幅な供給過剰が見
込まれる。
プラッツによる当特別レポートは、
こうした価格形成に関する
課題や取組が包括的に論じている。
ƒƒ 2020年代初めまでは、LNGの供給過剰に加えてLNG船も過剰
感が続くことで、市場の柔軟性が高まることになる。
また、
トレ
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石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
ーダーなど市場参加者の増加が見込まれており、
スポット市
場の取引も活性化する見込みである。
ƒƒ 日本ではエネルギー市場の自由化と規制緩和が進んでおり、
市場全体の参加者も増えつつある。電力・ガスの小売り市場
では競争のさらなる激化が予想されており、LNGを燃料や原
料としているこれらの市場参加者は、価格指標の分散をはじ
め、競争力のある調達戦略を迫られている。
こうした点からも
日本を含めたアジアのLNG需給状況を反映する正確で信頼
できる価格形成メカニズムの必要性が高まっている。
ƒƒ プラッツのJKMは既に、
アジアでは日本をはじめインド、
さら
にはメキシコ、
ブラジルといった国々でも参照価格として取
引契約で使われている。
これは、
プラッツのLNG 価格アセス
メントの経験とアプローチが市場で信認されていることを示
している。
はじめに
日本の石油業界は岐路に立っている。
石油精製セクターでは、過去10年で最大規模の業界再編が起
きる可能性がある。
日本の石油製品需要と原油処理量
4
(100万バレル/日)
燃料油販売量
原油処理量
3
2
1
0
2010-11年
2013-14年
2014-15年
2015-16年
2016-17年
2017-18年
出典:日本エネルギー経済研究所
売買契約に関して、原油連動型以外の価格決定方式を模索して
いる。
日本のエネルギー市場が自由化および規制緩和の道を
進む中、競争的な調達の必要性が高まっており、
日本の公益事
業者も価格決定方式におけるリスクを多角化させるため、LNG
のハブ価格指標とスポット価格指標の両方を活用するようにな
ってきている。
この特別レポートでは、
日本の石油精製セクターに起きてい
る変化、石油製品の新たなスポット価格の指標形成の可能性
と、LNGスポット価格の指標形成の動きについて検討する。
この再編の結果次第で、
石油製品市場の構造はもちろんのこと、
日
本における石油製品の価格形成にも影響が及ぶ可能性がある。 石油精製業界の再編
日本の石油元売り会社の収益は、石油価格の下落による在庫
評価損を主因とする大きな打撃を受けているとS&Pグローバ
ル・レーティングのアナリスト、薩川千鶴子氏と柴田宏樹氏は指
摘する。
現在の石油市場は供給過剰である上に、価格形成メカニズム
にも不明瞭な部分があることから、石油元売り会社の収益性は
低く、不安定な状態であると薩川氏と柴田氏は語っている。
一方で相当量のLNGが、新規稼働プロジェクトから市場に供給
が開始されていることから、LNGのスポット価格と原油価格連
動との相関関係が薄れつつある。
こうした状況を背景に、
アジア
におけるガス価格指標確立へのニーズが高まる中、
日本はLNG
取引ハブの実現の可能性を探っている。
日本のLNGの買主も、
アジアにおける需要と供給を正確に反映
したスポット価格指標の確立を求めている。買い手は、LNGの
日本の精製能力
(100万バレル/日)
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日本最大の元売り会社のJXエネルギーの持ち株会社であるJX
ホールディングスと東燃ゼネラル石油は、2017年4月に経営統
合する計画だ。一方、出光興産と昭和シェルも来年4月に新会社
の下での合併を予定している。
いずれの経営統合も、公正取引委員会による承認を受ける必
要がある。
また、出光興産と昭和シェルの合併については、出光
興産の創業家が強硬に反対している。
したがって現時点では、
これらの経営統合が成立するか否かは
不透明である。成立した場合、誕生する二つの巨大グループは、
併せて日量300万バレルの精製能力をもつことになり、国内の
ガソリン市場(日量92万バレル)の約80%のシェアを占める見
込みだ。
ガソリンは、
日本の燃料油需要(日量310万バレル)の
約3分の1を占めている。
こういった元売り会社の経営統合が進めば、
日本におけるガソ
リンの非系列玉、つまりスポット玉は縮小する可能性がある。統
合後の各グループは、精製および流通施設を最適化して、効率
性と利益性を最大化すると考えられるからだ。非系列系の販売
業者は、通常、特定の元売り会社と提携関係を結ぶのではなく、
スポット市場やトレーダーからガソリンを仕入れている。
4
3
2
1
0
日本の元売り業界は、国内の石油需要が減り続ける中で、全面
的な再編のただ中にある。現在進められている各社の経営統
合の動きが収束するのは2017年4月頃と見込まれる。その結
果、
日本の元売り業界は現在よりもスリム化した姿に生まれ変
わる可能性がある。
2008年3月 2009年3月 2010年3月 2011年3月 2012年3月 2013年3月 2014年3月 2015年3月 2016年3月 2017年3月
出典:石油連盟、
プラッツ
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だが、
スポット玉が国内市場から全く消えてしまうということで
はない。元売り会社にとって、
スポット玉は計画的、あるいは計
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
画外であるかを問わず、需要と供給のミスマッチによって必ず
生じるからである。
5,310万キロリットル(日量92万バレル)、軽油需要は前年比0.2
%増の3,370万キロリットル(日量58万バレル)
としている。
2015年度時点の日本の非系列ガソリンは、国内流通シェアの
18.4%を占め、
これに対し、系列ガソリンは81.4%と経済産業省
は推計している。
石油価格体系の変遷
今回の経営統合の動きは、中長期的に見れば信用度の改善と
いう点で、石油精製セクターにプラスの影響を与えるとS&Pグ
ローバル・レーティングは考えている。経営統合によって供給過
剰を減らし、市場競争を緩和することができれば、石油元売り業
者の収益性およびキャッシュフローを大幅に改善できる可能性
があるからだ。
日本の石油業界では、国内需要の縮小を背景に業界再編が進
む中で、国内の石油製品の価格体系の透明性を高める方法の
模索が始まっている。
日本の石油製品市場には、
スポット市場で取引される製品の
価格と小売消費用に供給される製品の卸値との関係が中核に
ある。
また、短期的には再編コストによって財務健全性が損なわれる
可能性もあると薩川氏と柴田氏は指摘する。
この二つの関係をより正確に把握するために、双方の価格体系
での透明性の向上が求められている。
減少を続ける日本の石油需要および精製能力
元売り会社は、系列の販売業者向けに供給する石油製品の週
ごとの卸価格の設定方法を見直す一方で、卸価格の基準として
利用できる新しいスポット価格指標を模索している。
日本の燃料油の需要は、1999年度に2億4,597万キロリットル(
日量424万バレル)に達して以来、減少を続けている。
軽油の需要は、1996年度の4,606万キロリットル(日量79万バ
レル)、
ガソリン需要は2004年度の6,148万キロリットル(日量
106万バレル)を境に減少に転じた。
2000年3月末時点では、
日本には38の製油所があり、
その合計精
製能力は日量535万バレルだった。
しかし、
その後は製油所の統
廃合が相次ぎ、
現在では22か所、
合計精製能力は日量382万バレ
ルまで減少している。
石油元売り会社は今後、
エネルギー供給構
造高度化法2次告示への対応で、
さらに日量37万バレルの常圧
蒸留装置の処理能力の削減が見込まれることから、
2017年3月末
までに精製能力は日量345万バレルまで落ち込む公算が大きい。
複数の元売り会社はプラッツの取材に対し、現在の国内の石油
製品のスポット価格指標は不透明なアセスメントプロセスに基
づいており、
もっと透明性の高いプロセスに変える必要がある
と語っている。
ある日本の元売り会社は、
「石油製品の価格指標には国内外需
給環境等が適正に反映され、価格のアセスメントのメカニズム
に透明性が確保されることが重要と考える」
という。
日本における石油製品の卸価格の設定方式も年々進化してき
てはいるが、
まだまだ改善の余地はあると、経産省も業界も考
えているようだ。
元売り会社が、卸価格の設定方式を最初に大きく変えたの
は、2008年10月に価格改定の頻度と基準を変更した時である。
2014年7月に経産省が示した新たな基準により、
日本の石油元
売り会社は、2014年3月末時点では45%であった残油処理装置
の装備率を、2017年3月末までに50%に引き上げることが求め
られている。
この新基準を達成するためには、既存の設備で残
油処理装置能力の増強か、
自社製油所の常圧蒸留装置能力の
削減が考えられるが、ほとんどの元売り会社は後者を選択する
と予想される。
この時、元売り会社は卸価格の改定の頻度を月ごとから週ご
とへ変更したほか、その基準を輸入原油CIF価格から、
日本の
価格報告機関であるリム情報開発が公表する価格および当
時の東京工業品取引所の石油製品先物価格などへの連動方
式に変更した。
一方で、
日本の燃料油需要は、主にナフサの販売減や火力発電
向けC重油需要減などによりさらに減少を続け、2016年度には
47年ぶりの低水準になるとの見通しを日本エネルギー経済研
究所が7月25日に発表した。
元売り会社は2008年に行われた卸価格決定方式の変更によっ
て、数か月前の価格を反映した輸入原油CIF価格ではなく、その
時々の石油製品市況を反映した卸価格を週ごとに改定できる
ようになったのだ。
同研究所は、
日本の2016年度の燃料油需要は、前年比2.5%減
少の1億7,610万キロリットル(日量303万バレル)
となり、47年
ぶりに1億8,000万キロリットルを下回ると予測している。
また、
この価格決定方式では、石油製品の販売業者にとっても
役立つものであった。指標であるリムのスポット価格を参考に
すれば、卸価格をある程度予測することができ、
自社の仕入れ
コストを把握することができるようになったからだ。
エネ研の基準シナリオに基づく同予測では、2016年度末まで
の日本の原子力発電所における原子炉の累積再稼働基数は7
基で、発電量は198億キロワットアワーという前提条件に基づ
いている。
また、同2016年度予測では、
日本の燃料油需要の約30%を占
めるガソリン需要については、前年とほぼ変わらず横ばいの
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この価格体系は、数年にわたり効果的に機能していたが、次第
にいくつかの課題が生じてきたといわれている。複数の石油元
売り会社によると、
リムによる国内石油製品の価格アセスメント
が、実際に市場で取引可能な価格に必ずしも収れんしていない
というのである。同社の価格アセスメントプロセスの透明性に
疑問を呈する声もある。
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
また、国内の石油製品の指標価格が、原油の調達コストよりも
低いことがあるため、
自社の精製マージンが圧迫されていると
感じている元売り会社もあった。
もちろん元売り会社の精製マージンが大幅に縮小した背景に
は、
日本における過剰精製能力が起因している側面もあるだろ
う。
しかし、国内の石油製品の指標価格への懸念をきっかけと
して、石油元売り会社は2014年に再び卸価格体系を変更した。
複数の元売り会社は2014年、
リムが公表する国内の石油製品
価格アセスメントを主な基準とするのではなく、
ドバイといった
国際的な原油指標や海外の石油製品指標価格なども勘案した
新たな価格体系を採用した。
しかし、元売り会社はこれらの指標をもとに算定する卸価格方
式の中身は公表していない。
この価格体系の下でも次第に、価格の変動要因を追跡するの
が難しくなっており、その不透明性に批判が高まっている。
エネ研・石油情報センターが最近行った調査によると、価格体
系が変更された2014年以降、元売り会社の卸価格とリムの指
標価格との価格差は拡大したことが明らかになった。
この3月に経産省に提出された同調査報告書では、2014年度
以降、
日本の元売り会社の卸価格は、輸入原油CIF価格、小売価
格、そしてリムが公表しているスポット市場の海上価格や陸上
価格と比べても、明らかに高いことを指摘している。
また、2014
年後半から原油価格が下落した際にも、卸価格は高めに推移
したという。
もう一つ、現在の卸価格体系への批判として挙げられているの
が、一部の元売り会社が行っているとされる週ごとに改定して
いる価格への事後的な調整に対するものだ。
こういった調整が
あると、世界の石油価格の変動が激しい時ほど月間の卸価格は
影響を受けることになる。
日本の公正取引委員会は、卸価格の遡及的な修正が恒常的に
行われると、取引条件の不透明化につながり、
そうした慣行は系
列販売業者の事業運営コストに影響を与えうると指摘している。
経産省がこの7月に公表した報告書においても同様の指摘がさ
れている。元売り会社が通知する卸価格は実質上、
「建値」
とみ
なされていることから、基準が不明瞭なまま事後に改定される
と、市場メカニズムが歪められるのみならず、販売業者の事業
をも損なうものだとしている。
このため、市況実態に基づいた
卸価格が設定され、事後調整が行われるにしてもその基準が
明確化されることで、販売業者のためにもなると指摘している。
政策の動向
経産省は2月、
日本における石油の価格形成に関わる課題を含
む一連の政策審議を開始した。2017年前半にも政策の方向性
をまとめるとしている。
同省は7月に出した報告書の中で、現在、
日本の価格報告機関
によって公表されている国内の価格指標は、信憑性に疑念をも
たれているとしている。
また、
「陸上スポット価格が海上スポット
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価格を下回る」
という経済的な側面から考えれば逆転している
べき現象が常態化していると指摘している。
海上価格は一般的に、元売り会社同士、あるいは元売り会社と
商社がタンカー単位で大口取引するため、小口取引に基づく陸
上価格よりも低いはずであると指摘している。
同報告書では、元売り会社、販売業者、商社など、様々な市場関
係者の間で健全な取引慣行を確立し、価格報告機関や公説取
引市場による競争活性化を通じて、公正かつ透明で信頼性の
高い卸価格形成メカニズムのさらなる整備が重要であるとし
ている。
また、経産省は政策審議の一環で石油元売り会社に対し、卸価
格決定方式の明確化のほか、販売業者や商社に通知する卸価
格を事後的に調整する際には、その実施基準を明らかにするよ
う求めた。同時に政府としては、事業者に対するガイドラインを
どのように設定するべきか検討を行っていく。
経産省はまた、
日本の石油製品需給を適正に反映し、市場参加
者からも高い信頼を得られるようなスポット価格指標を確立す
るために価格報告機関に対し、証券監督者国際機構(IOSCO)
による
「石油価格報告機関に関する原則」の遵守を求めた。
同省はまた、
リムが日本の石油価格の主な指標になっている現
状に対し、国内市場で他の石油価格報告機関との競争を促すと
ともに東京商品取引所での石油製品の先物取引の活発化のた
めの政策を検討している。
2012年10月に発表されたIOSCOの「石油価格報告機関に関す
る原則」
とは、石油価格報告機関(プラッツもその一つ)の機能
および監督を向上させ、デリバティブ契約で参照される石油価
格アセスメントの信頼性を高める目的で策定されたものであ
る。
Ernst & Youngが2013年、2014年、2015年に独立して実施した
監査により、
プラッツのガバナンスと管理体制および、ポリシー
と編集手法は最高水準であり、IOSCOの「石油価格報告機関に
関する原則」に適合していることが確認された。
経産省はまた、
日本で国内需給を適切に反映した卸価格指標
の構築に合わせて、元売り会社に対し信頼性の高い卸価格指
標に連動させることで、国内需給をより反映した形に見直すこ
とで、事後調整の常態化を避けるように求めている。
これに対し、石油連盟の木村康会長は、卸価格の決定は元売り
会社が販売業者との関係に基づき自主判断に委ねられるべき
であると指摘した。
木村氏は一方で、石油製品指標価格が複数あれば、売り手にと
っても、買い手にとっても参考にすべき選択肢が増えるとも語
っている。
プラッツが行った日本の石油業界関係者に対する調査では、国
内市場の売り手および買い手ともにアクセスが容易で再現性
があり、
「公正かつ透明性が確保された」石油製品の価格指標
の形成が必要だという点では意見が一致した。
しかし、石油製
品の価格指標に対する取り組やその採用については、意見はま
ちまちであった。
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
これまで日本の元売り会社は、成熟した国内市場において、利
益性よりも市場シェアの確保を優先してきた。S&P グローバル・
レーティングは、透明性の高い石油製品の価格設定は元売り会
社にとって有益であると考えている。
また、透明性の高い価格設
定を行うことによって、小売段階での過当な価格競争を緩和で
きるばかりでなく、そうでなくても非常に利幅が薄い元売り会
社のマージンおよびキャッシュフローを改善することにつなが
ると考えている。
プラッツ日本国内MOCアセスメント中に行われた成約、
オファー、
ビッド件数
300
成約
オファー
ビッド
250
200
150
100
50
プラッツ、
東京商品取引所の動向
0
4月
出典:プラッツ
5月
6月
7月
8月1日∼10日
このように、
日本では透明性の高い石油製品価格の指標形成
に明らかなニーズがあると判断し、
プラッツは、2016年4月25日
に約11年ぶりに国内で石油製品の価格アセスメントを再開し
た。
まずは、
スポット海上価格のアセスメントから着手した。
停止により、元売り会社のスポット購入が増加したことが挙げ
られる。
プラッツは、Market On Close(MOC)
アセスメントプロセスによ
り、東京湾、中京、阪神を受渡地とする89RONガソリン、硫黄分
10ppm以下の超低硫黄軽油、灯油、低硫黄および高硫黄のA燃
料油(軽油と燃料油を90:10の比率でブレンドしたもの)のFOB
価格のアセスメントを行っている。
しかし、7月の同ガソリン平均価格は前月比で10.7%下落し、平
均42,145円/キロリットルとなった。
これは主として、国際的な
指標原油の価格が下がったためであるが、加えて、国内の製油
所の定期修理が最も多く重なる6月のピーク時期を過ぎたこと
から、市場への供給量が増えたからである。
このMOCアセスメントプロセスを通して、
プラッツは通常取引
日においては、一日を通して市場情報を収集、検討、公表してい
る。
また、公表した情報すべてを分析した上で、最終的に公表す
る価格アセスメントを出している。
プラッツが公表している東京湾海上ガソリン価格とRON 92ガ
ソリンのシンガポール中値(Mean of Platts Singapore:MOPS)
とを詳しく見てみると、
これらの価格は、5月から7月にかけてよ
く似たトレンドを辿っていたが、国内の価格アセスメントの日々
の変動は、
日本の需供動向を概ね反映していたと考えられる。
プラッツの海上価格アセスメント再開後の5月のMOCアセスメ
ントプロセスでは、市場参加者数の増加が見られた。
この時は、
原油価格の上昇をはじめ、米ドルに対する円安や、製油所の定
期修理のほか、予期せぬ故障などが重なり、石油製品価格が底
支えされたのである。
5月から7月にかけては、
プラッツのMOCアセスメントプロセス
中に行われた取引件数は増加し、5月には14件であったもの
が、6月には17件、7月には26件となった。
また、
プラッツが評価
した東京湾の海上ガソリン価格は、4月末から5月末にかけて
は10.9%上昇の43,162円/キロリットル(63ドル/バレル)だ
った。
6月のプラッツの東京湾海上ガソリン平均価格は、前月比で
9.4%上昇し47,205円/キロリットルだった。
この価格上昇の背
景には、製油所の定期修理のほか予定されていなかった操業
プラッツの日本国内ガソリンとシンガポールガソリンFOB価格ア
セスメントの比較
(円/キロリットル)
50000
(ドル/バレル)
60
48000
56
46000
52
44000
48
42000
40000
44
東京湾海上ガソリン価格(左)
シンガポールのRON92無鉛ガソリンFOB価格(右)
5月10日 5月19日 5月30日
6月8日
6月17日 6月28日
7月8日
40
7月19日 7月28日
出典:プラッツ
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プラッツは一定期間にわたり市場関係者と協議を重ねた
後、2016年末までに日本で石油製品の陸上価格アセスメントを
再開し、公表を始める予定である。
東京商品取引所の濵田隆道社長は4月の定例記者会見で、同取
引所が2017年3月末までに導入する予定のガソリン、軽油、灯
油の新たな0番限現物市場に関して、
プラッツの公表する日本
の石油製品価格を利用することに決めたと語っている。
この計画の下、東京商品取引所は、2017年1月から3月をめど
に、新たに0番限のガソリン、軽油、灯油の海上および陸上での
現物市場で、
プラッツが公表する月間平均価格に連動する形
で、最終決済価格にする見込みである。
現在、東京商品取引所では、東京湾の海上受渡ガソリン、軽油、
灯油のほか中京陸上受渡ガソリン、灯油において6か月先まで
の先物が上場されている。
JCC連動LNG価格とジャパン・コリア・マーカー
(JKM)
1985年頃以降、
日本のLNG契約は、原油価格連動型の長期契
約が主流であった。石油は天然ガスの競合燃料であり、LNGの
液化プロジェクトに伴う大型の資金調達のために、20年近い長
期契約が求められた。
日本の買い手が、
よく採用している価格算定式は、Japan Crude
Cocktail(JCC)
と呼ばれる、
日本に輸入される全原油平均価格
をベースに輸送費その他のコストを加味する定数を用いたも
のである。
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
プラッツは、2009年2月2日より、LNGスポット価格、
ジャパン・コ
リア・マーカー(JKM)のアセスメントを開始した。当時価格は、7
ドル/百万英国熱量単位(MMBtu)
と査定され、原油連動型の
長期LNG価格よりもずっと低い価格で推移していたが、2011年
3月に福島第一発電所の事故の影響により、
日本の電力会社が
不足の需要分を補うためにスポット市場に殺到し、
スポット価
格が急上昇した。
日本のLNG輸入量はその後着実に増えてゆき、財務省および
国際LNG輸入者協会(GIIGNL)のデータによれば、2014年には
8,850万トンに達し、そのうち、
スポット購入と短期契約による
LNGは30%を占めている。
2014年初旬まで、
スポット市場で追加のLNGを購入するかどう
かの判断は、長期契約の価格と密接に結びついていた。
スポッ
ト価格が高ければ、買い手は、増加許容量(upward quantity
tolerance)条項などを利用して、長期契約の下でより多くの量
を購入しようとしたし、
スポット価格が低ければその逆であっ
た。
しかし、需要と供給の季節ごとの変動によって、
スポット価
格が長期契約の価格と比して鋭く上昇・下落することはままあ
ることである。
これにより、JKMと長期契約のLNG価格との間に
密接な相関性が生じていた。
アジアにおけるLNGは、欧州や米国におけるガスと比べて、か
なり高い価格で取引されていたことから、裁定取引で利益を得
る機会が生じてくる。GIIGNLによれば、欧州市場からの“再積み
上げ”による転売は、2010年には10万トンであったが、2014年
には640万トンと過去最多を記録するまでに増加した。
プラッツが公表しているJKMは、2013年には平均16.21ド
ル/MMBtuだったのに対し、英国の市場価格であるNational
Balancing Point(NBP)は平均10.42ドル/MMBtuであった。欧
州からアジアまでの平均的輸送費は3ドル/MMBtu程度だっ
たから、その差額だけでも、再積み上げをしてアジアに転売す
る気にさせるだけの十分な利ザヤが稼げることが、
プラッツア
ナリティクス・エクリプス・エナジーのデータからいえる。
LNG価格指標の多様化
高いLNG価格に対する懸念から、供給源や価格指標を多様化し
て、原油価格への敏感性を低減させようという動きが出てきた。
また、業界からは、上流プロジェクトへの投資の増加や、LNG契
約における柔軟性(仕向地制限条項をなくすなど)
を求める声
が高まり、
日本のLNG産消年次会議でも議論された。
こうした流れの中で、
日本のLNG買い手企業は2013年から2014
年を中心に、
自社のポートフォリオにヘンリーハブ価格に基づ
くLNGも加えようと米国産LNGを購入する一連の契約を締結し
ている。
その結果、2015年に日本の買い手企業が、キャメロン、
コーブポ
イント、
フリーポート、サビーンパスなどの米国のLNGプロジェク
トと契約した総量は約1,700万トンに達し、
日本の2015年におけ
る総輸入量の20%に上った。
米国産LNGは仕向地制限がないものも多く、パナマ運河の拡張
によって航海に要する日数が短縮され、輸送費が低減するとの
期待も寄せられた。
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月間平均価格の推移
(ドル/MMBtu)
20
(ドル/バレル)
140
15
110
10
80
5
50
0
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
W. India(左)
JKM(左)
NBP(左)
JCC(右)
HH(左)
20
出典:プラッツアナリティクス・エクリプス・エナジー
その間、NBPなど、他のハブの価格指標も益々活用されるように
なってきており、
スポット価格を指標化して契約価格に連動させ
る動きも見られるようになった。2011年以来、
スポット価格に連
動した複数の短期契約が締結された。中には、全面的に連動し
ているものもあれば、一部だけ連動させてハイブリッド契約とし
ているものもある。例えば、中部電力は2014年11月にフランス
のGDFスエズと合計20隻程度のLNG短期売買契約を結んでい
る。
この契約では一定期間の間、契約価格の約10%をJKM価格
に連動させている。
原油とスポットLNG価格の相関
2014年2月、
プラッツが発表するJKMは、かつてない高価
格の20.20ドル/MMBtu(117.44ドル/バレル)を記録し
た後、継続的に下落し始めた。JKMの下落は、2014年秋に
100ドル/バレルを割り込んだ石油価格の下落よりも先
行してはじまった。
これは原油価格と連動した長期契約価格とスポット
LNG市場との相関関係が薄れ始めた開始点となっ
た。
プラッツJKMは、2014年末には約半分の10.025ド
ル/MMBtu(58.28ドル/バレル)
まで下落した。
プラッツJKMの下落は、主として、
スポット市場における
根本的な需要と供給の不均衡によるものであった。パプ
アニューギニアのLNGプロジェクトをはじめとする新規プ
ロジェクトの生産開始により増加した供給、そしてアジア
地域の経済の減速との関係によって起こったのである。
2015年の大半は、
プラッツJKMは、6.50~8.20ド
ル/MMBtu(37.79~47.67ドル/バレル)の範囲で、小
幅な値動きで推移した。
この時期、買い手企業は大量の
在庫を抱えていたことから、需要が減退し、その上にオー
ストラリアのクイーンズランド・カーティスLNGプロジェク
トなどの新規プロジェクトからの供給増もあって、それま
で乱高下していたスポット市場が落ち着いたのである。
また、石油価格が急速かつ激しく下落したことにより、石
油価格の変化と、その影響がLNGの長期契約に表れる際
のタイムラグ、
またスポット価格との関連、影響等も再認
識されることとなった。
日本におけるほとんどのLNG長期契約は、それまでの3
カ月間の平均JCC価格に基づいて決定されている。JCC
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
は、2月に50ドル/バレルを割り込み、3月に入ると回復
し始めた。一方で、日本のLNG輸入価格は下がり続け、6
月には449.38ドル/トン(8.64ドル/MMBtu)まで落ち
込み、7月になってようやく回復したことが、データから分
かる。
運転を再開され、国内の電力需要も年率0.33%のプラス成長
となっている。
日本では、国内の電力・ガス小売市場の規制緩和を推進し、送
電網やガスパイプラインの自由化を進めていることから、余剰
LNGの問題はいっそう注目を集めている。
日本の電力会社やガス会社は、引き続き規制緩和に直面
しているが、石油とガス価格の連動がなくなり、価格分離
が進むことは、
これらの公益事業者にとって有益であると
S&Pグローバル・レーティングは考えている。LNG調達源
を多角化する助けになるともに、石油・ガス会社に対する
交渉力が増す可能性もあるからだ。
経済産業省は、2020年代前半までにLNG取引ハブの形成を目
指して、LNG基地への第三者アクセスの確保、パイプライン網
の接続、地下貯蔵施設など必要なインフラを整備するための
アクションプランをまとめた。
同プランでは、価格形成の選択肢として、国際的な価
格報告機関によるアセスメントやLNG取引のプラット
フォームについても議論されており、日本だけでなくア
ジアの需要と供給の状況を反映する指標の形成を目
指している。
しかしながら、
日本のスポットLNG市場が十分に発達し、
フルに機能するようになるまでには、かなり時間がかか
るかもしれない。
日本のLNG買い手企業は、エネルギー
の安定供給を重視しており、長期供給契約の方を好む傾
向があると薩川氏と柴田氏は指摘する。
LNGスポット価格指標とハブの形成
LNGの余剰と規制緩和
アジア地域で操業を開始する新規LNGプロジェクトが増えて、
地域の需要が満たされるにつれ、大西洋や中東地域からアジ
アへ流れ込むLNGの取引量は縮小し、地域間の価格差も大幅
に減少した。
プラッツアナリティクスのデータによれば、大西洋地域からア
ジアへは輸送されるLNGの量は2015年には前年比20%減少
し、1,650万トンとなった。
その間、エネルギー節約のためのさまざまな取り組みが国内
で広く定着するとともに、再生可能エネルギー源の利用が少し
ずつ増えてきたことから、
日本の買い手のLNG需要は減少を続
けた。加えて、
日本の買い手企業が長期契約によって確保した
LNG量が予測する需要に対して上回っていることが明らかにな
ってきた。早ければ2017年ごろには、余剰LNGが出てくると予
想されており、2023年ごろまで供給過剰が続くとプラッツアナ
リティクス は予測している。
また、
日本のLNG需要は2020年には6,850万トンまで減少する
と見込まれる中で、契約によって年8,750万トンものLNGを既
に確保されているため、年1,900万トンもの余剰LNG が生じる
可能性があるとプラッツアナリティクスはみている。
この前提
条件としては、
日本で2022年10月までに合計16基の原子炉が
80
(トン/年)
需要の実績値・予測
契約量
40
20
2007年 2011年 2015年 2019年 2023年 2027年 2031年 2035年 2039年
出典:出典プラッツアナリティクス・エクリプス・エナジー、財務省
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小売市場における競争が強まるにつれて、
日本の公益事業者は
これまで以上に価格に敏感になると予想される。
また、ヘッジン
グへのニーズも高まる可能性があることから、
スポット取引を
促進する上でスワップや先物といった金融ツールが重要な役
割を果たすようになると考えられる。
また、2020年代前半には、相当量の長期LNG契約が相次いで
終了し始めることから、価格指標を多様化する機会も生じると
予想される。GIIGNLのデータによれば、2021年に終了するカタ
ールとの年間700万トンの契約満了を始めとして、2020年から
2015年にかけて合計で年2,600万トン相当の長期契約が次々
と満了を迎える。
とは言え、
アジアを代表するハブの形成は、たやすいことでは
ない。
この場合、売り手は買い手を確保するための具体的な場所や
能力へのアクセス手段を持たなければならないし、買い手の方
も自社の本拠地がどこであれ、その場所へのアクセスが必要と
なる。
60
0
LNG市場は、新規プロジェクトからの供給が溢れ、今後数年以
内にかなりの供給過剰になることが予想されている。そうした
中で、規制緩和策が実施され、電力・ガスの小売市場の自由化
により市場参加者も増えている。
日本が物理的なハブの実現を目指すのであれば、LNGの受け
渡しを可能にするために、LNG基地や貯蔵施設への第三者アク
セスを確保することが不可欠となる。
日本のLNG需要と契約量の比較
100
LNG取引ハブを確立し、
アジアのLNG需給のファンダメンタル
ズを反映する価格指標を形成するには、今ほど絶好のタイミン
グはないかもしれない。
8
日本政府は、第三者アクセスを確保するための法整備を進
めており、LNG基地運営者に対し、
タンクやバースの利用情
報の開示を求める。
この新法は、2017年4月から施行される
予定である。
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
日本には現在、35のLNG輸入基地があり、その合計タンク容量
は約1,800万立方メートルである。
しかし、
これまでは既存の公
益事業者に利用が限定されてきたため、新規参入者が今後ど
の程度の容量を実際に利用できるのかはまだ不明である。
さらに、ハブが実現した場合、十分な流動性と国内外からの
参入が得られるかどうかも不明である。
プラッツアナリティク
ス・ベンテック・エナジーでは、ヘンリーハブ価格が現在の2ド
ル/MMBtu程度から、2020年までに約4ドル/MMBtuまで上
昇すると予想している。ヘンリーハブ価格の上昇は、米国のLNG
をアジアへ売ろうとする者にとっては困難を意味する。
また、
日本では、
この先しばらくの間、LNGがだぶつく可能性が
高いものの、その余剰LNGのうち、仕向地制限がかかっていな
いものはどれだけあるのか、本当に転売が可能なのかは、不明
である。
また、
日本のガスパイプライン網は必ずしも十分に接続されて
いるとは言えず、
システム全体のどの地点でも売り手や買い手
がガスを注入あるいは引き出すことができるようなバーチャル
ハブを実現するのは現状では困難である。
さらに、供給の安定確保と競争力のある市場形成を両立させる
ことも難しさを伴う。ハブの透明性を確保するためには、データ
開示および運用情報の伝達が迅速に行われる必要がある。
しかし、何にもまして大きな課題となるのは、時間との競争であ
る。近年では、最終投資決定にこぎつける新規LNGプロジェクト
がめっきり減っており、ひとたび需要が追いつけば、再び供給が
ひっ迫する可能性があるからである。
日本の市場参加者が、
自由化に伴う変化に対応して体制を整え
ていくには、時間を要すると予想される。
したがって、引き続き
注意が必要であり、不確実性は残る。
2,600万トン/年に増加するのに対し、全世界の需要量は3億
7,270万トン/年と予想されている。約6,000万トン/年の仕向
地制限のないLNGが米国から市場に流入することも考えると、
スポット市場の流動性が大幅に向上する可能性は決して低く
ない。
FSRU(浮体式貯蔵再ガス化設備)技術により、陸上受け入れ基
地よりコストが抑えられLNG市場へのアクセスが比較的容易に
なった。エジプト、
ヨルダン、パキスタンなど、中東・南アジア諸
国は過去数年間の間にLNGの輸入を開始し、低価格でLNGを
調達してきている。
一般的に陸上LNG基地では長期契約を結び供給を確保
する例が多いが、
こうした新しいLNG市場参入者は長期
契約を結ぶことなく、世界のLNG市場へのアクセスを得
た。その後、パキスタンは長期安定供給を確保するため
の契約を締結したが、FSRUという選択肢は、価格に敏感
で、エネルギーミックスにおけるLNGの長期利用計画が
不明確かな他の買い手にとっては魅力的な選択に映る
ようだ。
今年になって、
スポットLNGの需給は入札という形で市場に表
れてきている。1月から7月末までに、約100を超える売買入札が
行われており、350を上回るカーゴがスポット、
ストリップ、短期
の契約を通して取引された。
買入入札を落札する多くがトレーダーであり、
これがスポット市
場を支えている原因にもなっている。
トレーダーは、
カーゴのデ
リバリーの最適化を図ると同時に、
ショートポジションをつくり、
そのポジションをカバーするためにスポット市場でカーゴを調
達しようとする。
過渡期にあるLNGスポット市場
他の商品市場と同様、効果的に機能するスポット市場の発展
の鍵となるのは、信頼性の高い価格形成である。JKMスワップ
市場では、参加者の数が増え、取引も洗練されてきている。
これ
は、LNG市場の迅速な成熟と、LNGのコモディティー化が進んで
いるためと考えられる。
一方、LNGスポット市場は着実に発展を続けている。多数の新
規プロジェクトが操業を開始するとともに、市場への新規参入
も進んでいる。
今年の1月から7月にかけて、4,279ロットのJKMスワップがICE
を通じて決済された。2015年は年間を通して2,791ロット決済
されたのと比べて大幅な躍進である。
液化能力は2020年までに合計で1億5,110万トン/年増強され
る計画となっている。その結果、全世界のLNGの供給能力は4億
しかし、注目すべきは、流動性が絶対的に高まっていることに加
えて、かなり先のフォワードカーブにまで流動性の高まりが見ら
れることである。7月現在で、
カレンダーイヤー2017年のスワッ
プまでの取引が行われている。
ICE決済プラッツ JKMスワップ取引
4500
同時に、異なる期間との間や、英国NBPなど他市場とのスプレッ
ド取引が登場してきていることも、市場の成熟を示すさらなる
兆候といえるだろう。
(ロット)
4000
3500
3000
2500
プラッツのアプローチ
2000
1500
1000
500
0
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年1-7月
1ロット:10,000 MMBtu
出典:ICEデータ
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プラッツは独立性と透明性の確保を基本方針として追求してい
る。世界の商品市場をみる際に注力しているのは、公正な市場
価格を評価するということである。つまり、一般的な市場参加者
がある特定の日に市場で売買した場合に取引できる価格のア
セスメントを重視している。
石油・LNG特別レポート
日本における石油製品と LNG の価格形成の変遷
プラッツは価格アセスメントにおいて、特定のサプライヤーや
買い手、あるいは特定の取引関係を反映するつもりはない。透
明性こそが価格報告プロセスにおいて不可欠であると強く考え
ている。
よって、すべての市場参加者は、
どの日をとってもなぜ
その評価になったのかわかるようになっている。
プラッツは、
こ
れらの中核となる価格アセスメントの原則を数十年にわたって
培ってきた。
また、
これらの価格アセスメントが安定し、実際の
市場での取引価格を反映したものになるように様々なプロセ
スを構築してきた。
プラッツは長年、世界中の石油製品市場をつぶさに取材してき
た。中でも米国メキシコ湾、
アムステルダム/ロッテルダム/ア
ントワープおよびシンガポールといった 3つの地域は特に重要
な役割を占めてきた。
石油市場が、
日々分析している世界中の市場と同じであると考
えている。
LNGのスポット市場では、今後さらなるコモデイテイー化が進
むことで流動性も高まり、
アジア市場の需給を反映した指標が
必要になってくる。
プラッツでは、既にJKMというLNGのスポッ
ト価格アセスメントを提供しており、
日本の市場では価格発見
メカニズムとして支持されている。
・プラッツの JKM は既に、
アジアでは日本をはじめインド、
さら
にはメキシコ、
ブラジルといった国々でも参照価格として取引契
約で使われている。
これは、
プラッツのLNG 価格アセスメントの
経験とアプローチが市場で信認されていることを示している。
プラッツは、JKM 価格アセスメントプロセスを遂行するにあた
これら 3 地域の石油製品市場では取引の流動性が極めて高く、 り、証券監督者国際機構(IOSCO) の「石油価格報告機関に関す
大量のスポット取引がプラッツのMOC(マーケットオンクロー
る原則」に準拠しており、Ernst & Young が独立して実施した
ズ)
アセスメントプロセスで日々報告されている。
IOSCOへの準拠を保証する監査も通っている。LNG市場はこれ
から更に成長し、成熟していく中で、
プラッツは市場の流動性の
こうした地域での取材でさまざまな知見を培っており、
これら
高まり、参加者の増加、取引の多様化などをアセスメントのプロ
の経験は、
日本の国内市場で価格アセスメントをする際にも活
セスに反映させていく方針である。
用できるであろう。
例えば、現在JKMで使われている価格発見プロセスを原油や石
プラッツは、あらゆる石油市場において現物の受け渡しを実行
油製品のようなさらに成熟し発展した市場で使われているもの
することは石油の取引と市場価格を発見する上で不可欠であ
に近づけるという提案をしている。そうすることで、市場参加者
ると考えている。
また1つの取引価格が市場全体を反映させる
に対する透明性が高まるばかりでなく、価格発見プロセスで使
ことはないと考えている。
われる情報の質が向上し、価格は時間によって変化するという
原則がよりアセスメントに反映されるであろう。
プラッツがこれまで培ってきた経験を日本の石油製品市場で
活用することにより、石油製品の価格体系に透明性が高まるこ
また、
プラッツは規模が拡大し、
ますます高度化していく JKM
とが期待される。具体的には、特定の地点での燃料油の現物価
スワップ市場の取引を引き続き注視していく。今後はスワップ
格といったものである。
市場のフォーワードカーブのアセスメント期間を更に先まで伸
ばす予定で、先物市場で価格の透明性が増すと考えられる。
こ
プラッツは、公表する価格に利害関係を有しておらず、価格の
れは金融市場での先物取引の増加とスポット市場でのヘッジ
上下により利益を得ることは一切ない。
プラッツが注力してい
ニーズの増加に対応したものである。
るのはあくまで、公表した価格が実際の市場を表しているかど
うかである。
一方で、
日本ではエネルギー市場の自由化と規制緩和が進ん
でいることから、国内の電力・ガス市場の価格透明性向上に貢
上述の理由から、
プラッツは、
日本市場でも独自のサービスを
献すべく下流市場の動向にも注視していく考えである。
提供できると考えている。
プラッツは今後とも、
日本の市場参加者や規制当局と協議を保
日本の石油製品取引は、内需が減少し業界再編が進む中にあ
ちつつ、価格発見ソリューションを提供していく方針である。
こ
っても、依然として流動性が維持されている。
また、
日本の石油
の方針のもと、100年以上培ってきた経験をいかしつつ現行の
業界では石油製品価格において透明性および市場連動型の価
取引慣習を反映させた個々の商品市場で透明性の向上を目指
格メカニズムに関心が集まっている。つまり、
プラッツは日本の
していきたい。
詳細については、ホームページをご覧いただくか、弊社の営業担当者までお問い合わせください:
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ヨーロッパ・中東・アフリカ
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中南米
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10
アジア太平洋
+65-6530-6430
ロシア
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