規模別発見推移関数を用いた油ガス田究極埋蔵量分布の推定

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
規模別発見推移関数を用いた油ガス田究極埋蔵量分布の推定
Estimate of the Ultimate Reserve Size Distribution of Oil and Gas Field using the
Discovery Function by the Size of Field
小 池 政 就 *・ 茂 木 源 人 *・ 末 次 浩 詩
Masanari Koike
Gento Mogi
**
Hiroshi Suetsugu
(原稿受付日 2008 年 4 月 16 日,受理日 2008 年 8 月 1 日)
In predicting area, size, and timing of the oil and gas field discoveries, it is essential to accurately estimate the ultimate size
distribution of oil and gas fields. The size distribution of oil and gas fields is generally considered to be either “lognormal” or
“fractal”. However, these analyses do not necessarily estimate the geologically ultimate size distribution of the fields, because
the former underestimates truncated small size fields and the latter tends to overestimate those.
Based on the examination of these previous studies, we propose a methodology to estimate the geological size distribution
of oil and gas field incorporating the discovery functions of each size segment. The size distribution in a basin is estimated
using holomorphic beta function by accumulating each discovery transition function according to the field’s size including
truncated or ignored small ones in previous analyses. As a result, the intrinsic size distributions of oil and gas field in regions
of our study are estimated as a long tail distribution with a peak in the smaller-scale oil and gas fields than corresponding
lognormal distribution. The total ultimate recoverable reserves calculated based on the estimated distributions are between
the ones obtained from lognormal distribution and from fractal distribution.
が欠かせなくなっている.結果として現在では,本来の資
1.背景
1.背景
源関連分野のみならず計量経済分野などの広い領域におい
油ガス田の規模分布に関する研究では,油ガス田が集積
て検討が進められている.
する堆積盆地や,いくつかの堆積盆地を含むより広範な地
域を対象として,地質学的観点のみならず過去の統計値を
2.目的
2.目的
基にした時系列的な推定が行われている.特に,各地域の
未発見鉱量は,個別の油ガス田に関する成因や貯留層の形
本研究の目的は,油ガス田の分布に関する諸説の妥当性
状および油ガスの性質などの分析を基にしながら,複数の
と課題の検証を通し,より信頼性の高い状態把握と探鉱効
油ガス田が集積する堆積盆地,もしくはより広範囲な地域
率の向上,更には今後の発見動向推測の手段を導くことに
において究極的な規模分布を推定し,既発見油ガス田の規
ある.
模分布を差し引くことにより求められることが多い.堆積
石油および天然ガスの今後の生産量推移を予測する際,
盆地毎の規模分布に関しては,これまで,世界でも最も早
既存の油ガス田からの生産はもとより,今後,どこでどの
い時期から油ガス田の開発が進んだ米国(例えば
程度の規模の油ガス田がいつ発見されるのかという予測が
1)
2)
Denver-Julesburg 盆地 や Texas-Permian 盆地 等)を中心と
して,探鉱の進捗および発見数の増加に伴い北海
ージーランド
4)
3)
必要不可欠である.つまり,世界の各地域でそれぞれの規
やニュ
模の油ガス田がどれくらい残されているかが問題となる.
等の他地域にも対象を広げて研究が進めら
それにはまず地域もしくは堆積盆地単位で究極的な油ガス
れている.
田の規模分布の把握が求められるが,これまでは,手法や
特に昨今のように,石油および天然ガスという現代社会
使用データの不確実性から,各推定結果には大きな差異が
を支えてきた化石燃料の生産減退が真剣に議論される中で
存在していた.本研究では先行研究における課題の検証を
は,今後の資源ポテンシャルを測る上でその意義がより高
通した既発見油ガス田の規模分布の分析を行い,未発見分
まっている.また,実際に資源開発に携わる者にとっても,
をも含めた究極的な規模分布のより合理的な推定方法を提
資源が減少する一方でより高コストでより激しい競争にさ
案する.
らされている現状では,当該分野の分析を踏まえた地域の
選定や伴う人員の配置および技術開発といった戦略の構築
3.用語の解説
3.用語の解説
石油には通常の原油のほかに随伴ガス,ガスコンデンセ
*
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻
〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
e-mail [email protected] (Masanari Koike)
e-mail [email protected] (Gento Mogi)
**
株式会社野村総合研究所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内 1-6-5 丸の内北口ビル
e-mail [email protected]
ート,NGL を合わせて在来型石油と呼ばれるものがある.
加えて天然ビチューメンといった超重質油やオイルシェー
ルなどの非在来型石油も存在するが,本研究の対象は在来
型石油でありこれら非在来型石油は対象外としている.
15
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
5)
天然ガスはその地質学的産状によって油田系ガス,水溶
.
性天然ガス,炭田ガスの三つに大別される.油田系ガスは
しかしこれらの分析では経済限界以下の小規模鉱床につ
油田において原油とともに産出するか,または油田地帯の
いては存在しないものとして無視されており,必ずしも鉱
含油地質系統中に遊離型鉱床を成して存在するガス,水溶
床の地質学的な規模の分布を評価しているわけではない.
性天然ガスは原油または石炭の鉱床を有しない地質系統中
つまり小規模鉱床の物理的な存在数は論文中の報告数より
で主として地層水中に溶解状態で存在するガス,また,田
はるかに多いものと推定され,パレート分布やフラクタル
ガスは炭田地帯で炭層または炭層付近の地層から産出する
分布を主張する意見はこのような根拠に基づいている.実
ガスである.
際に同地域の油ガス田分布の変化を時系列で捉えた場合,
本稿で用いられる資源量及び埋蔵量の定義については
後になるほど小規模油ガス田の発見割合が増えているとい
SPE/WPC 基準を参考に以下のように定める.資源量は通常,
う報告が多くなされている.この主張に沿えば,今後原油・
累計生産量,可採埋蔵量,未発見資源量あるいは未発見回
天然ガス価格の上昇や技術革新により小規模鉱床の経済性
収潜在量,及び埋蔵量成長の4つに大別されている.これ
が向上し,これら小規模鉱床の発見・開発が増加すると,
ら4つの合計量は究極可採資源量とも表現されており,本
油ガス田の規模分布は対数正規から,より小規模なものの
稿でもこれを用いている.可採埋蔵量(Reserves)とは,
割合が多い分布へと移行していくものと考えられる.
資源量のうち i)既発見,ii)回収可能,iii)経済性を有する,
フラクタル分布に基づく分析の代表例としては,全米研
iv)残存している,という4つの条件を満たすものである.
究委員会(National Research Council)の助言を受けた米国地
単に埋蔵量という場合も通常は可採埋蔵量を意味し,残存
質調査所(USGS)による,米国および米国以外の世界各地域
量として扱われる.究極可採量(Ultimate Recovery)は,
における未発見資源量の確率分布がある 6) 7).これはデラウ
油田単位での最終的な総生産量を意味し,評価時点までの
ェア大学の Schuenemeyer 氏と USGS の Drew 氏による,テ
累計生産量に同時点での可採埋蔵量および埋蔵量成長を加
キサス陸域の Frio Strand Plain 盆地における油田の規模別発
えた量とする.
見実績の観察に基づいている
8)
.両氏は同盆地において,
1959 年,1969 年,1985 年と年数が経過するに従い,発見
可採埋蔵量に大きく影響する指標として,地中に存在す
る油ガスの原始埋蔵量に対してどれだけ実際に回収できる
実績のピークが,より小型の油田へと移動している事から,
かを表す回収率がある.この値は必ずしも一定ではなく,
同盆地における油田の究極埋蔵量の規模分布がフラクタル
評価の都度,新たな地質状況が明らかになったり,回収技
分布であると仮定し,これと既発見油田の分布との差から,
術の向上が起こったり,といった環境変化を反映しつつ決
未発見油田の規模分布を推定している.USGS の未発見資
定される.二次回収や,EOR(増進回収法:通常のガス圧
源量の推測もこのような手法に基づいている.但し,USGS
入法や水攻法で得られるより高い置換効率を目的とした採
による未発見資源量の推定は,必ずしもこのような統計的
収法であり,熱攻法,ミシブル攻法,ケミカル攻法,微生
手法を用いた分析だけによるものではなく,各地域におけ
物攻法などが含まれる)を行わない油田の回収率は,貯留
る地質の専門家の調査をも考慮していることに留意しなけ
層の排油機構や地域によっても異なるが,大体 20~40%程
ればならない.
度,天然ガスでは 60~80%と言われている.
5.先行研究における課題
5.先行研究における課題
4.油ガス田の
4.油ガス田の規模
油ガス田の規模分布状況に関する先行研究
規模分布状況に関する先行研究
前項で述べたとおり,これまで油ガス田の究極規模分布
油ガス田の究極規模分布に関しては従来から主に,対数
に関しては対数正規分布とする説が先行し,その課題を埋
正規分布であるとする意見と,パレート分布もしくはフラ
める形でフラクタル分布という説が生まれてきたが,依然
クタル(べき乗)分布であるとする意見がある.
として以下のような課題が残されている.
対数正規分布であるとする主張は主に発見実績の状況を
[1] 現状では油・ガス田のどちらか,もしくは別々に規模
根拠としており,典型的な検証例としては Arps らによる米
分布の分析が行われている
国 Denver-Julesburg 盆地の既発見油田規模分布の分析があ
[2] 既発見鉱床規模分布の多くは,フラクタル分布からも
る 1).また,Kaufman は前述の Denver-Julesburg 盆地に加え
かなり外れている
カナダのアルバータ州,米国ルイジアナ州およびオクラホ
[3] 既発見鉱床規模分布の一部から全体の究極規模分布
マ州の各地域の合計 16 の堆積盆地において石油・ガス田の
を推測している
規模分布を分析し,対数正規分布の適合性を主張している
16
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
まず[1]の課題については,石油も天然ガスも起源は同様
うなキャップロックが存在せず,地表近くに層状に広がり
の有機物に由来しており,主に地層中における熟成度の違
軽質分の蒸散が進んでいると考えられ,等価な石油埋蔵量
いによって分かれているに過ぎず,規模分布の推定の際に
への換算が困難なために,本研究では考慮の対象としない.
は一括して捉えることが望ましい.実際に地層構造やトラ
まず,各地域における既発見油ガス田を規模別および発
ップの形状のみからでは油田かガス田かを認識するのは困
見時期別に区分を行う.尚,各油ガス田は原油および NGL
難である.このため,本研究においては,天然ガスを全て
に天然ガスを原油換算して合算したものとしている.また
原油換算し,炭化水素鉱床の規模分布として分析を行った.
油ガス田は発見時から年数を経るに従い,技術動向や経済
性を考慮して随時再評価されるため
また,フラクタル分布が直線となるように,油ガス田の
10)
,本研究では Wood
任意の規模以上の累積数を縦軸,規模を横軸とした両対数
Mackenzie 社 の 直 近 の 可 採 埋 蔵 量 デ ー タ ( Proved +
グラフに,既発見油ガス田のデータをプロットした場合,
Probable)を用いている.
大規模な油ガス田の部分のみに注目した状態でも,[2]で指
摘されるように,フラクタル分布を表す「べき乗直線」の
Number of discovered field
140
内もしくは外に外れる例が確認されている.これは,鉱床
の大きさの範囲に,上限は堆積盆地の規模,下限は石油分
子や砂粒子の大きさ,といった制約が働くため,実際の規
模分布は,規模の両端部で,べき乗直線から内側に外れる
という認識にも関連している
9)
.しかしながら,これら分
布の上限および下限に近い両端部を除いた部分でも,累積
規模分布が曲線となる場合があるため,推定されるべき乗
2005
120
1995
by 1985
year
100
1975
80
1965
1955
60
1945
40
1935
1925
20
1915
0
直線が,どの接点を通るのか,また仮に推定されるべき乗
Size segment of 2P reserves (MMBOE)
直線が,上に凸の累積規模分布曲線の内側を通るとした場
合には,そのべき乗直線から外側に外れた部分をどう捉え
図1 西カナダ地域の規模別油ガス田発見推移
るのか等の悠意性が残り,結果として推測される究極埋蔵
量にも大きな差異が生じることになる.
図 1 のように西カナダ地域では,探鉱の進捗に伴い小規
これは[3]の課題とも共通しており,フラクタル分布を仮
模油田の発見割合が高くなっていることが分かる.これは
定した場合には,大きな鉱床の方が見つかりやすく既発見
西シベリア地域でも同様である.
率が高いとの認識から,既発見鉱床の規模分布のうち,比
較的大規模な鉱床の発見実績の部分にフラクタル関数を当
1,000
Cumulative Number of
Discovered Field
てはめ,全体の究極的な規模分布を推定するため,既発見
率が小さい規模の既発見鉱床数データが,ほとんど考慮さ
れない.
6.課題の
6.課題の検証
課題の検証
本章ではこれまで指摘された課題を,実際の油ガス田デ
ータを用いながら検証する.対象地域については,世界の
100
2005
1995
1985
1975
1965
1955
10
1
1
油ガス田集積地域のうち,比較的探鉱が進んでおり,一定
10
100
1,000
10,000
Size of 2P reserves (MMBOE)
量の油ガス田データが利用可能な,以下の 2 地域を選択し
図 2 西カナダ地域の規模別油ガス田発見推移(両対数図)
た.
・西カナダ地域(アルバータ州を中心とした堆積盆地)
図 2 は,図 1 と同じデータについて,油ガス田の数を規
・西シベリア地域
模の大きい順に累積し,両対数グラフで示したものである.
この図からも,探鉱の進捗に伴い小規模油ガス田の発見数
西カナダ地域には,石油および天然ガスと同様の成因と
が伸び,累積規模分布グラフの小規模部分がより大きく上
されるオイルサンドの膨大な鉱床が存在しているが,オイ
方にシフトしていることが分かる.但しこの累積規模分布
ルサンド鉱床には,石油および天然ガス鉱床に見られるよ
グラフの比較的直線的な部分にフラクタル関数を当てはめ
17
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
る場合,両地域ともに導出される直線の傾きが 1 以上にな
よび発見年による時系列で区分を行う.各規模クラスの未
る事から,小規模油ガス田の究極的な存在数が発散してし
発見分をも含めた究極油ガス田数を
まう.これは油ガス田の究極規模分布が,アフィン変換に
スの究極油ガス田数は ∑ f (i ) と示される.ここで,油ガ
よって部分が全体に一致する自己アフィンである自己アフ
ス田規模クラス i の,時点 j での既発見率を(1)のように定
ィンフラクタル(self-affine fractal)であるとの仮定に
義する.
0
i
基づいている.また前章で述べた通り,既発見油ガス田の
f (i, j )
f (i)
δ (i, j ) =
規模分布から推定されるフラクタル分布を一意に決定する
f 0 (i) とすると全クラ
-(1)
0
ことは困難で,同堆積盆地における究極埋蔵量の値には恣
また,油ガス田規模全体の,時点 j での既発見率を(2)
意性があることが分かる(図 3 F-1~3 参照)
.
のように定義する.
Cumulative Number of
Discovered Field
D( j ) =
∑ f (i, j )
∑ f (i )
1,000
0
i
以上よりこの地域での探鉱開始から全ての油ガス田発見
2005
F-1
100
-(2)
i
までは以下のように示される.
F-2
F-3
10
δ (i, j ) = 0 at D ( j ) = 0
-(3)
δ (i, j ) = 1 at D( j ) = 1
-(4)
1
1
10
100
1,000
10,000
次に,上記(1),(2)より油ガス田規模クラス i の時点 j
Size of 2P reserves (MMBOE)
での既発見率 δ (i, j ) は全体の既発見率 D( j ) の関数になって
図 3 西カナダ地域のフラクタル関数の導出例
いるとして,次のような不完全ベータ関数を正則化した関
数で表した.
図 3 のフラクタル関数はそれぞれ以下の基準によって導
出されている.
δ (i, j ) = I (a (i ), b(i )) =
D( j )
F-1:
既発見最大油ガス田を起点とし分布の接点を通る
よう導出
F-2:
B (a (i ), b(i ))
D( j )
-(5)
B ( a(i ), b(i ))
但し(5)の右式分母のベータ関数は, R (a ), R(b) > 0 を満たす
既発見最大油ガス田を起点とし大型油田の分布状
a, b に対して以下の積分で定義される.
況をなるべく尊重するように導出
F-3:
1
B(a, b) = ∫ t (1 − t ) dt
最大及び大型油ガス田は堆積盆地規模の制約上制
a −1
b −1
0
-(6)
限されていると想定し,累積分布曲線に妥当と思
われる位置で接するように導出
また,(5)の右式分子の不完全ベータ関数は,0 < D ( j ) < 1 に
結果として対象地域全体の未発見資源量も異なってくる
対して以下の積分で定義される.
ため,究極可採資源量の推測には不確実性が残る.
D( j)
B ( a, b) = ∫ t (1 − t ) dt
a −1
b −1
-(7)
D( j )
0
7.油ガス田規模別発見関数を用いた規模分布
7.油ガス田規模別発見関数を用いた規模分布評価の提案
油ガス田規模別発見関数を用いた規模分布評価の提案
関数(5)で表される曲線を発見推移曲線と定義し,発見実
績がこの曲線上となるように a (i ), b(i ), f 0 (i ) を求める.こ
前章までに確認された課題を踏まえ,ここでは小規模油
こで目的関数 z は最小二乗法により以下式で表される.
ガス田をも含めた規模別油ガス田の発見推移関数を用いて
[
z = min ∑ ∑ { f (i) × δ (i, j ) − f (i, j )}
究極的な規模分布を推定する手法を提案する.これまで発
i
2
j =1
0
]
-(8)
見実績の一部から全体の究極規模分布を推定してきたが,
ここでは小規模油田をも含めて過去の発見実績から発見推
次に,油ガス田探鉱の特徴として“小規模油ガス田は経
移関数を規模別に導出し,それらを積み上げた結果として
済性が低く探鉱の対象にならない(発見実績から欠如)
”と
全体の究極規模分布を推測する.
いう経済性の影響を定式化する.経済性を満たさない小規
まず各地域における既発見油田について各規模クラスお
模の油ガス田は試掘の対象にならないこともあり,本来は
18
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
報告された発見数よりも多く存在していると想定される.
600
Ultimate number of field
経済性の有無については,探鉱時点での採掘および輸送コ
ストや価格等で決まるため,一概に油ガス田の規模だけと
は限らないが,本研究においてはの設定値を参考に経済限
界規模を 4MMBOE と設定した.
この場合 4MMBOE 以下の油ガス田について,規模 i の油ガ
ス田の報告されている発見数は本来の発見数を 1 とすると
c(i)(0<c(i)<1)となっているとして,経済性による探鉱へ
500
400
c2(i)
200
100
0
の影響を表すパラメータ c(i)を設定し,次のように目的関
Size segment of 2P reserves (MMBOE)
数に組み込んだ.
[
z = min ∑ ∑ {c(i) × f (i) × δ (i, j ) − f (i, j )}
i
2
j =1
0
]
~2005
c1(i)
300
図 5 西シベリア地域の油ガス田究極規模分布
-(9)
試算結果から,油ガス田の究極規模分布は,両地域とも
尚,経済限界以下の油ガス田に対する探鉱努力を示すパ
に,既発見分布より小規模なクラスにピークを移した分布
ラメータ c(i)を本研究では以下の 2 通りに設定した上で試
となる事が推測できる.探鉱努力の度合いによる違いにつ
算を行った.i m は経済限界以下の油ガス田規模のうち最大
いては,どちらも,小型油田に対する c(i)の値を,より低
規模クラスとする.
[1] c1(i): i
くした場合(c2(i)のケース)の方が,各規模クラスの究極
= i m では 0.5 と設定,i m 以下では油ガス田規
油ガス田数が大きくなっている.
尚,両地域における推定究極規模分布と既発見鉱床規模
模に従って減少し,最小の油ガス田規模で 0.25
分布との差は,それぞれの探鉱度合いを仮定した場合の未
(西カナダ)または 0.2(西シベリア)
.
[2] c2(i): i
= i m 以下の油ガス田に対する探鉱努力は同等
発見資源量のポテンシャルを示している.それぞれの c(i)
の仮定における未発見資源量の推定値は,西カナダで
と仮定し,規模に関わらず 0.5 で一定.
2,724 百万バーレル(c(i)=c1(i))及び 1,925 百万バーレ
以上により,これまで既発見実績に含まれていなかった
ル(c(i)=c2(i)),西シベリアで 171,053 百万バーレル
油ガス田をも考慮した発見推移曲線の導出が可能となる.2
(c(i)=c1(i))及び 116,874 百万バーレル(c(i)=c2(i))
通りの探鉱努力パラメータの設定に伴い,各地域でそれぞ
である.これらを USGS の両地域における推定値と比べた
れ 2 通りの試算値を得た(図 4 及び図 5 参照)
.尚,図 4
場合,50%の確率で存在すると推定されている F50 値より少
には図 3 に示したフラクタル分布の場合の曲線を,比較対
なく 95%の確率で存在すると推定される F95 値よりは多い
象のため F-1~3 として示してある.
という範囲に収まっている.多くの専門家の間で,USGS
の評価値が楽観的であると捉えられている事を考慮すると,
本研究の試算結果は妥当な範囲にあると考えられる.
Ultimate number of field
180
160
140
~2005
120
c1(i)
100
c2(i)
80
F-1
8.結論
F-2
60
本研究では,これまでの油ガス田究極規模分布に関する
F-3
40
分析の評価を行うとともに,各鉱床規模クラスの発見推移
20
0
関数を用いた究極的な油ガス田規模分布の推定法を提案し
た.比較的探鉱が進んだ 2 つの油ガス田集積地域を対象と
した試算の結果,油ガス田究極規模分布はいずれの地域の
Size segment of 2P reserves (MMBOE)
場合も対数正規分布とフラクタル分布の中間の,小規模油
図 4 西カナダ地域の油ガス田究極規模分布
ガス田にピークをもつロングテールの分布が得られた.ま
た、各地域における規模クラス毎の究極油ガス田数は,規
模が小さくなるにつれて単調増加するわけでもなく,また
最頻規模クラスや全体分布形状もそれぞれ異なるものとな
った.これらは従来のように,まず全体の究極規模分布形
19
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
状を特定してしまう手法に対し,より自由度が高まった結
果と言える.今後の課題としては,本研究の試算で得られ
付録
た究極油ガス田分布の傾向が,地質条件等の異なる他地域
においても一般的と言えるかどうか検証していく必要があ
以下に西カナダ,西シベリアの両地域における試算の結
ると考えられる.
果を示す.
表 1 西カナダ地域の究極油ガス田数および変数の試算
謝辞
結果(c1)
2P Reserves
(MMBOE)
~2
2~4
4~8
8~16
16~32
32~64
64~128
128~256
256~512
512~1024
1024~2048
2048~4096
合計
本研究を進めるにあたり,Wood Mackenzie 社の Ben McNeil
氏および冨本哲也氏には貴重なご助言とデータの提供を頂
きました.ここに改めて感謝の意を表します.
参考文献
参考文献
1)
Arps, J.J. and Roberts, T.G., 1958. Economics of drilling for
Cretaceous oil on East Flank of Denver-Julesburg Basin.
AAPG Bulletin, 42 (11), 2549-2566.
2)
c(i)
0.25
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1.171
2.011
1.041
0.886
2.266
1.839
2.642
3.050
2.257
0.020
0.020
0.094
結果(c2)
2P Reserves
(MMBOE)
~2
2~4
4~8
8~16
16~32
32~64
64~128
128~256
256~512
512~1024
1024~2048
2048~4096
合計
James L. Smith and Geoffrey L. Ward; Maximum
likelihood estimates of the size distribution of North Sea oil
fields. Mathematical Geology, 13, 5, (1981), 399-413.
Mare-Jones, Beatrice V., Quantifying undiscovered oil and
gas in the Taranaki Basin, New Zealand Petroleum
Conference Proceedings, (2004).
5)
2.883
5.009
2.107
1.744
2.037
1.470
1.423
1.406
0.676
1.00E-07
1.00E-07
1.00E-07
b(i)
表 2 西カナダ地域の究極油ガス田数および変数の試算
73, 8, (1989), 967-976.
4)
a(i)
John C. Davis, and Ted Chang; Estimating potential for
small fields in mature petroleum province. AAPG Bulletin,
3)
No. of Ultimate
Oil & Gas Fields
27.3
48.8
75.0
155.0
121.9
158.0
93.1
57.5
39.0
22.0
6.0
1.0
804.5
Kaufman, G. M.; Statistical decision and related techniques
in oil and gas exploration: Prentice-Hall, Englewood Cliffs,
c(i)
0.5
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
No. of Ultimate
Oil & Gas Fields
12.1
42.4
62.5
129.3
117.3
152.0
91.9
57.0
38.6
22.0
6.0
1.0
732.1
a(i)
2.663
4.521
2.095
1.713
1.971
1.408
1.332
1.309
0.661
2.98E-06
1.28E-06
1.00E-07
b(i)
0.949
1.522
1.020
0.879
1.954
1.605
2.221
2.549
2.025
1.099
0.752
0.129
NJ, (1963).
6)
USGS; 1995 National Assessment of United States Oil and
表 3 西シベリア地域の究極油ガス田数および変数の試算
Gas Resources. U.S. Geological Survey Circular 1118,
結果(c1)
United States Government Printing Office, Washington,
2P Reserves
(MMBOE)
~2
2~4
4~8
8~16
16~32
32~64
64~128
128~256
256~512
512~1024
1024~2048
2048~4096
4096~8192
8192~16384
16384~32768
32768~65536
合計
(1995).
7)
USGS;
U.S.
Geological
Survey
World
Petroleum
assessment 2000-Description and Results. USGS Digital
Data Series DDS-60 (2000).
8)
Schuenemeyer, J. H. and Drew, Lawrence J.; A forecast of
undiscovered oil and gas in the Frio strand plain trend; the
unfolding of a very large exploration play, AAPG Bulletin,
75, 6, (1991), 1107-1115.
9)
井上正澄; 石油資源の将来-生産量推移・油田規模分
布・究極資源量に関する考察-.石油技術協会誌, 69, 6,
(2004), 679-691.
10) Christian, Louis; Size distribution of Middle East fields and
reserves growth issues draw focus, Oil & Gas Journal, 105,
34 (2007).
20
c(i)
0.2
0.3
0.4
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
No. of Ultimate
Oil & Gas Fields
97.3
156.0
221.8
348.5
512.2
485.8
205.5
163.9
86.3
52.9
56.4
28.2
8.2
2.0
3.1
2.0
2430.0
a(i)
2.446
1.481
1.672
0.764
0.860
1.091
1.018
1.334
1.087
1.03E+00
2.02E+00
1.00E+00
3.64E+00
1.87E+00
4.39E+00
5.74E+02
b(i)
9.356
4.131
3.943
1.072
0.526
0.774
1.964
2.671
3.134
2.575
5.737
2.515
32.743
12.743
23.714
4144.302
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, o. 5
表 4 西シベリア地域の究極油ガス田数および変数の試算
結果(c2)
2P Reserves
(MMBOE)
~2
2~4
4~8
8~16
16~32
32~64
64~128
128~256
256~512
512~1024
1024~2048
2048~4096
4096~8192
8192~16384
16384~32768
32768~65536
合計
c(i)
0.5
0.5
0.5
0.5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
No. of Ultimate
Oil & Gas Fields
49.3
91.5
147.9
232.4
334.0
316.8
164.8
131.5
75.8
46.4
49.5
24.8
8.1
2.0
3.1
2.0
1680.0
a(i)
1.816
1.387
1.708
0.810
0.841
1.076
1.039
1.358
1.106
1.02E+00
2.03E+00
9.97E-01
3.47E+00
1.74E+00
4.06E+00
4.93E+02
b(i)
3.259
2.479
3.067
1.402
0.561
0.766
1.746
2.224
2.492
1.981
4.132
1.949
20.589
7.740
13.972
2340.972
21