遺言書作成から遺言執行・成年後見・相続 ~高齢者やそのご家族のトータルサポート~ 2010(平成22)年5月22日 神奈川県行政書士会所属 NPO法人神奈川成年後見サポートセンター所属 行政書士:内山 宣男 【目次】 Ⅰ.はじめに Ⅱ.遺言書作成の依頼(2009年4月28日~) Ⅲ.遺言執行の開始(2009年6月~) Ⅳ.成年後見人候補者の依頼と任意後見契約書作成の相談(2009年9月) Ⅴ.後見業務の開始(2009年11月~) Ⅵ.後見人の仕事 Ⅶ.相続へ Ⅷ.まとめにかえて 1 Ⅰ.はじめに 1. 教員から行政書士への転身 2. 超高齢社会の到来 一人暮らしの高齢者の増加 介護の必要な夫婦のみ世帯の増加(老老介護→認認介護) 認知症高齢者の増加 3. 高齢者・障害者に安心を提供し、法的サポートができる行政書士を目指す 相続・遺言作成・成年後見などの分野を中心に仕事をする 福祉の知識も必要 Ⅱ.遺言書作成の依頼 1. それは一本の電話相談から始まった!(昨年4月28日) 【概要】 甲(遺言者) 乙(夫) 丙(長女) 丁(長男) 甲:70代半ばの女性。4月下旬に胆嚢癌の手術。予後半年の診断 乙:80歳前後。認知症。妻と共に東京から有料老人ホームに転居。 丙:夫・子と神奈川県内に居住。父の成年後見申立てを検討中。 丁:十数年前より米国在住。米国人と結婚。子どもあり。国籍変更の予定有。 ※甲乙夫妻は長く東京A区の自宅で二人暮らし。昨年末から甲の体調が悪化し、 昨年3月に丙の尽力で神奈川県B市内の有料老人ホームに入居。 丙は乙の成年後見申立てを東京の司法書士に相談中。(申立先は横浜家裁) 甲は、4月下旬にB市内の病院に入院し、胆嚢癌の手術を行う。 その前後から、今後のことが気にかかり、遺言を作ろうと考える。 手術翌日、丙より遺言書起案の電話相談。連休中に病室で甲と面談。 2 2.遺言内容の検討 (1)作成が間に合うか-「急ぐ」という言葉に惑わされない 遺言者本人の気持ち・真意を直接確認(家族への遠慮がないか) 公正証書遺言を勧める【資料1】 (2)財産の割当てをどうするか ① 夫の判断能力が低下している →夫の遺留分の確保 ② 長男が海外に長期滞在している →不動産や預貯金口座を割り当てず、定額の現金を割当て ③ 不動産の持分は1/8(5/8 は乙、2/8 は丁の名義) →丙に全部与えるか、乙に与えるか ④ 預貯金は2行、有価証券は1社、保険2社 (3)執行者は誰に? 丙を取り巻く事情 丙丁の姉弟関係 (4)付言事項をどう書くか…遺言をスムーズに執行するために 遺言者本人の気持ち・意思の尊重 遺言書を開示する場を想定、読むことになる相続人の気持ちを推測 (5)ちょうど1ヶ月で作成できた!(5月29日) 3.まもなく電話が・・・・ 【資料2参照】 遺言書の作り直し? * 本文?付言事項? * どうして?その真意は? * 再度、面談→事情を聞き、対処策検討 * 付言事項に対する補足事項を作成(6月12日) 4.遺言者の死亡(6月13日) 3 【資料3参照】 Ⅲ.遺言執行の開始 1.遺言書・補足事項の開示(6月18日) 丁の日本滞在中に 遺言執行者就任通知を交付【資料4】 今後の流れを説明し、丙丁に用意してもらう書類等を指示。 遺言者が所持していた通帳や証券取引報告書などの書類を預かる。 *遺言書に対する丙丁の反応は? 2.金融機関等での相続手続き 通帳や証券を預かる *C銀行…HP から「相続手続きの流れ」 「相続確認表兼貯金等支払停止依頼 書」【資料5】等をダウンロードし、記入の上、近くの窓口へ提出。 →正式な相続に関する必要書類【資料6】が送られてくる 被相続人の戸籍謄本・住民票除票、貯金証書払請求書、貯金通帳・キャ ッシュカード、公正証書遺言、遺言執行者の印鑑証明書・本人確認資料 *D銀行…近くの支店窓口で、「相続手続き説明資料」【資料7】をもらう。 →相続関係届書、相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書【資料8】、被相続人 が亡くなったことを示す戸籍謄本、預金通帳・カード、公正証書遺言、 遺言執行者の印鑑証明書などを提出(遺言執行者だけで進められない) *E証券会社…直接解約・換金できない 【資料9】 →遺言執行者名義の証券口座を開設し、被相続人名義から移した上で、 執行者が債券や投信などの売却の指示を出し、換金 *F生命保険…加入している定期年金の未受領分 保険証書【資料10】、死亡診断書 or 死亡証明書、被保険者の住民票除 票や戸籍謄本、執行者の印鑑証明書と本人確認資料 *Gがん保険 【資料11】 死亡保険金は相続人が受け取る手続きをしたが、未受領の医療保険給付 金は遺言執行者から請求してほしいとのこと。 →給付金等請求書、死亡記載のある戸籍謄本、診断書兼入院証明書、執 行者の印鑑証明書 4 3.不動産の名義変更は * 法定相続人が受遺者となる場合は、相続人が登記申請(執行者はできない) 「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、……当該遺産を 当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべ きである。」 「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、… …何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続に より承継される。」(最判平 3.4.19)【資料12】 * 東京の司法書士さんへ依頼することに * 判断能力の低下している乙には委任状をもらえない →先に成年後見の申立手続きをすることにする * 後見人に就任後、相続人と共同で申請 4.相続財産の計算・相続人への引渡し * 遺言執行用の財産確認書を作成【資料13】 * 執行報酬・実費等を差し引き、各相続人の銀行口座に振り込み (7月23日完了) * 別途、各相続人に遺言執行報告書を交付→受領証の返送を依頼【資料14】 5 Ⅳ.乙の成年後見人候補者の依頼・戊の任意後見制度の相談 甲(故人) ぼ 戊(長女の夫) 乙(本人) 丁(長男) 丙(長女・申立人) 1.乙が認知症だった! この数年、乙は認知症が進行していて、甲が生活を支えてきた。 甲の遺言作成依頼の前から、丙は乙の成年後見申立を検討中 (書類作成は東京の司法書士に) 2.後見開始の申立【資料15】 7月14日 横浜家庭裁判所に(申立人・後見人候補者とも丙) 主な目的は不動産売却(財産管理と身上監護は基本) 丙の夫・戊が体調悪化 →家裁より第三者の後見人をすすめられる 3.私が後見人候補者に 8月頃、丙の依頼で後見人候補者となることに (遺言執行者は後見人候補者になれるか) 10月6日に家裁で候補者面接・事情聴取の予定 →前日に戊が死亡、面接の延期→10月20日実施 4.戊へ任意後見制度の説明(9月10日)【資料16】 戊は2,3年前にがんが見つかり、手術 判断能力には問題なし 戊の実家の不動産の活用を検討→契約書に自署できない状況に 5.後見開始・後見人選任の審判(10 月 30 日特別送達受領)【資料17】 →11 月 13 日審判確定 → 19 日登記完了 ハプニング① 本人の住所が違う!→更正の審判へ ハプニング② 申立書類の控えがない→書類交付申請書提出 6 Ⅴ.後見業務の開始 不動産を売却することに…… (兄弟) 甲(故人) 乙(被後見人・本人) 丙(長女) 兄(故人) 兄の妻 丁(長男) 昨年2月より、東京都A区の実家は空き家状態(固定資産税や水道光熱費の負担) 丙は防犯・防災上、独居の伯母(本人の兄嫁)の生活に迷惑をかけていない かを心配する →丙の主導権で売却していくことに 7月頃、大手不動産仲介会社(H社)に売却を相談 隣地と使用貸借契約公正証書(H15 作成)の存在が課題 9月、乙丙丁共有名義の土地・家屋の売却方針を隣地所有者へも報告 →兄嫁や兄の長男も了解!? 11月22日、H社より、買主(Iさん)が現れたとの連絡。 28日に契約書締結の予定 後見開始・後見人選任の審判(10 月 30 日特別送達【資料17】) →11 月 13 日審判確定→19 日登記完了 ハプニング① 本人の住所が違う!(老人ホームの部屋を替わっていた) 住所変更の上申書→更正審判【資料 18】→新住所での登記 →登記事項証明書の交付申請・受領【資料19】 ハプニング② 申立提出書類の控えがない→財産目録が作れない! 家裁へ書類交付申請【資料20】 後見事務計画書・財産目録提出→後見業務の開始 28日の売買契約書締結に間に合った!! ※ 注: 「居住用不動産処分許可の審判」が必要だが、事前に家裁に相談し、 事後に申立てをすることに。【資料21】 ホッとしていたら、思わぬトラブルが…… 7 Ⅵ.後見人の仕事……「財産管理」と「身上監護」 1.金融機関での後見人登録手続き 各金融機関での取扱いは様々なので、注意!!(例【資料22】) 準備するもの…登記事項証明書、通帳、印鑑、キャッシュカード、 後見人の実印、印鑑証明書、新しい銀行印など →その後、日常的には通帳記入や必要な費用の引き出し 2.郵便局で、郵便物の転送手続き(1年ごとに更新すること) 3.市役所での手続き 介護保険、国民健康保険或いは後期高齢医療保険、国民年金、障害者福祉、 生活保護などに関する書類の送付先変更 低所得の場合、利用負担額の軽減や介護保険料減額の手続き【資料23】 (高額介護サービス費、後期高齢者医療限度額適用標準負担額減額、高額介護合算療養費) 4.年金事務所、共済組合、年金基金事業者での手続き【資料24】 被後見人が加入している年金の各保険者に連絡、関係書類の送付先変更 5.利用している介護事業所や介護施設、障害者施設などへの手続き 通帳を新しくした場合は自動引落し手続き 関係書類の送付先変更 6.本人の自宅、介護施設、病院などへ定期訪問し、生活状況の把握 親族・キーパーソンほか関係職種から聴き取り、協力関係の構築 後見人一人の力で、本人の生活を支えきることは難しい 本人の生活状況や収支、資産、希望に即したサービスの利用を選択、契約 7.本人のために行った後見活動や支払った実費などを記録 →一年分まとめて、後見事務経過一覧表や財産目録等を家裁に報告 →それにあわせて、 「後見人等に対する報酬付与の申立」 【資料 25】を行う。 報酬は後払い、一年間の後見業務や本人の財産状況を勘案し家裁が決定 8 8.その他、臨時的・緊急的・一時的な活動 (1)居住用不動産の売却・賃貸借・抵当権の設定等 (2)遺産分割協議への参加、遺留分の請求、相続の放棄・限定承認など (3)税務署への確定申告、相続税等の申告 (4)日本年金機構(旧社会保険庁)への年金受給手続き (5)法務局への不動産相続などの登記、本人等の住所や本籍変更の登記 (6)訴訟提起等裁判所への手続き(後見人のみ) (7)多額の借金がある場合→地裁で自己破産手続き (8)資産や収入が少なく、生活していけない場合→市区役所で生活保護申請 (9)本人の具合が悪くなったときの入院に関する契約・治療費の支払い (医療行為の同意、入院に関する保証人・身元引受人となることは除く) (10) 本人の介護が必要になったとき→市区町村へ要介護認定申請 本人が障害を負ったとき→障害者手帳や自立支援法の福祉サービス申請 (サービス利用については介護保険優先の原則あり) (11) 在宅から施設入所する場合、或いは入所している施設から次の施設 に移る場合、その施設の選択・決定、契約、費用の支払 (12)本人の生活に必要な物品の購入、費用の支払 後見人等には取消権がある(補助人は同意権が与えられている場合)が、 被後見人等が行った日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消 せない。 (13)本人が亡くなったときの対応(下記のⅦを参照) 家裁への報告【資料26】と法務局への終了登記【資料27】も 9 9.後見人等の職務でないこと ① 本人の結婚、離婚、養子縁組、遺言などの身分行為 ② 本人の医療行為、手術、献体、臓器移植、延命措置などの同意や拒絶 ③ 連帯保証人、身元保証人、身元引受人などに就任すること ④ 介護、介助、通院の付添いなどの事実行為 ⑤ (保佐・補助の場合)代理権目録に記載されていない法律行為 10.後見人等が特に注意すること。(特に親族の場合) * 本人と後見人等の財布を別々にし、支出は本人の利益に繋がることに限る * 本人の財産から、後見人の配偶者や子、その他親族への贈与は控える * 本人に係る金銭の収支をはっきり記録しておく * 支出などで判断に迷うときは家庭裁判所の担当者に相談する 11.後見人等は責任が重大! * 後見人等に不正な行為、著しい不行跡があったときは解任される。 親族後見人による被後見人の財産横領→親族相盗は不適用、刑事上の責任 * 後見人等に一旦なると、辞めたいからといって辞めることはできない。 →正当な理由と裁判所の許可が必要(後任の後見人も決める) * 後見活動の判断基準は「本人の利益にかなうかどうか」 →成年後見制度の目的は「本人のために」という一点 * 場合によっては、家族・親族と対立することも辞さず!! * 特に身寄りがない場合 * 親族がいるが、音信がない、或いは絶縁している場合 * キーパーソンや関係職種との連携・協力 10 Ⅶ.相続へ(将来に向けて) (1)本人の死亡→相続の開始 死亡時点で後見人の職務終了→親族に連絡、親族が葬儀や埋葬など 後見人は2ヶ月以内に管理計算をし、相続財産を相続人に引渡す 本人に身寄りがない場合→死亡届、葬儀や埋葬、供養なども。 相続財産管理人の選任を申し立てた上で、相続財産を引き渡す。 遺言があり、執行者の指定がある場合は執行者に引き渡す。 ※ 身寄りがいない場合の死亡届は? 戸籍法第八十七条 左の者は、その順序に従って、死亡の届出をしなければな らない。但し、順序にかかわらず届出をすることができる。 2 第一 同居の親族 第二 その他の同居者 第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人及び 任意後見人も、これをすることができる。 (2)相続の流れ ① 相続人の調査…判明済み 甲(妻・故人) 乙(被後見人・本人) 丙(長女) 丁(長男) ② 相続財産の調査…判明済み 後見人が管理計算した上で、相続人に引渡し 11 ③ 遺産分割の協議 丙丁の間で、乙の相続財産をどのように分割するか協議・決定 それぞれの考え・意向は? 姉弟関係は? ④ 遺産分割協議書の作成 丁が海外に長期滞在中…印鑑登録証明書がないので、サイン証明が必要 分割の仕方は? (現物分割・換価分割・代償分割) ⑤ 銀行口座の預貯金等の解約・払戻し ⑥ 有価証券の相続 (2社2口座) (4社5口座) ⑦ 生命保険の保険金請求 (2社3件) ⑧ 相続税申告手続き(税理士さんを紹介) ⑨ 不動産はなし 12
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