第 49 回 知的財産マネジメント研究会

第 49 回
知的財産マネジメント研究会
全体セッション
「米国特許入門&米国知財大学院の紹介」
平塚
開催日
三好様
:2004年6月26日(土)
開催時刻:13時00分
終了時刻:14時35分
開催場所:東京大学先端科学技術研究センター
4号館2階講堂
隅藏
それでは、時間になりましたので、本日の全体セッションを始めさせていただきた
いと思います。全体セッションは、毎回、いろいろな方にお話をいただいていますけれど
も ,6 月 26 日 の き ょ う は ,
「 米 国 特 許 入 門 & 米 国 知 財 大 学 院 M I P の 紹 介 」と い う こ と で 、
皆 さ ん は M I P を お 聞 き に な っ た こ と が ご ざ い ま す で し ょ う か 。 Master of Intellectual
Property、 知 的 財 産 の 修 士 と い う こ と で す が 、 実 際 に 、 こ の M I P の 学 位 を お 持 ち で あ り
まして、東京理科大学、知的財産本部の知財マネージャーでいらっしゃいます平塚三好先
生にお話をいただくことになりました。だいたい1時間ぐらいお話をいただいて、あと、
皆様にご質問、ご討論などをしていただければと思っております。それでは、平塚先生、
よろしくお願いいたします。
平塚
隅藏先生、ご紹介をいただきまして、ありがとうございました。ご紹介に与りまし
た、私は東京理科大学知的財産本部の知財マネージャーを務めさせていただいております
平 塚 三 好 と 申 し ま す 。私 の 簡 単 な キ ャ リ ア を 申 し 上 げ ま す と 、東 京 理 科 大 学 の 大 学 院 の 間 、
人工知能等の研究に携わっておったんですが、修士課程を出ましたあと、商社に入りまし
て 、 知 財 ビ ジ ネ ス の 立 ち 上 げ を し よ う と 思 っ て い た の が 15、 6 年 前 で ご ざ い ま す 。 そ の 時
期は、知財ビジネスという言葉自体も違和感があって、全く受け入れられない状況でした
ので、私は商社を離れまして、一旦実務の世界、特許事務所のほうに勤めさせていただい
て 、 10 年 以 上 い た わ け で す 。 そ の 過 程 で 、 私 の 上 司 、 一 色 国 際 特 許 事 務 所 の 一 色 健 輔 と い
う所長が、6年前の時点で、来るべき日本の知的財産立国に向けて人材を養成するんだと
いう趣旨で私を派遣してくださいました。当時、知的財産に関する修士過程を設けている
ロースクールというところがございまして、派遣されたという格好でございます。
のちほど、知的財産大学院のことについてはご紹介させていただきたいと思いますが、
日本でも、内閣府主導、政府主導により、人材育成というところで知財に関する専門職大
学院の整備基盤をはじめ、知的財産立国ということを推し進めておりまして、我が東京理
科 大 学 で も 、来 年 4 月 か ら 、知 的 財 産 に 関 す る 専 門 職 大 学 院 を 設 置 す る 予 定 で 、私 を 始 め 、
隅 藏 先 生 に も ご 協 力 い た だ い て 、準 備 を 進 め さ せ て い た だ い て お り ま す 次 第 で ご ざ い ま す 。
今回は、特許入門というところで、アメリカの特許の実務の深いところには立ち入らず
に、簡単にこういうものがありますよというところでご紹介させていただきたいと思いま
す。全体の目次としましては、まず、アメリカ特許入門をお話しをさせていただいて、そ
の特徴、いろいろなアイテムを説明させていただいたあと、私のひとつの研究テーマでも
ございますNASAの技術移転プログラムの概略をご紹介させていただければと思います。
そのあと、私が実際に行きましたフランクリン・ピアース・ローセンターという大学院が
ございまして、そこの紹介と、カリキュラム等もご紹介させていただければと思います。
また、現場の卒業式の様子もビデオ上映させていただいて、現地の様子等を観ていただけ
ればと思います。また、簡単ではございますが、東京理科大学のTLOの産学連携の取り
組み等についてもご紹介させていただければと思います。たまたま夕方のセッションで、
本学発のベンチャー企業の副社長を務めております村上教授がお話しするということもご
ざいまして、併せてご紹介させていただければと思います。また最後に、さきほど申し上
げました東京理科大学専門職大学院、知財戦略専攻について、お話しできる範囲内で軽く
ご紹介させていただければと思っております。よろしくお願いいたします。
早 速 、 ア メ リ カ 特 許 入 門 と い う こ と で 、「 プ ロ パ テ ン ト 時 代 」 と い う と こ ろ か ら 、 ま ず 、
1
話をさせていただきます。なぜプロパテントか。プロパテントという言葉は、皆さんは当
然 ご 存 じ で す ね 。知 ら な い 方 は い ら っ し ゃ い ま す か 。知 っ て い る 方 。は い 、わ か り ま し た 。
プロパテントというのは、特許強化政策。特許権を重視した政策をするという意味合いと
考えてよろしいかと思いますが、そのプロパテント以前は、アンチパテント時代と言われ
ま し て 、反 ト ラ ス ト 法 、独 禁 法 が 幅 を 利 か せ て い て 、特 許 と い う も の は 反 競 争 的 な 考 え 方 、
市場を増長させるものだということで、パテントというものを冷遇していた時代がござい
ました。ところが、ある時期からプロパテントに変わってきました。その原因となったの
は 、ベ ト ナ ム 戦 争 で 、ア メ リ カ 経 済 が 弱 体 、疲 弊 化 し た の が き っ か け で す 。背 景 と し て は 、
ア メ リ カ で 発 明 さ れ た 技 術 が ご ざ い ま す 。ア メ リ カ で 発 明 さ れ た 技 術 で あ る に も 関 わ ら ず 、
その技術を利用して、外国、たとえば日本企業、ほかのアジアの企業がアメリカで発明さ
れた技術を用いて商品化して、アメリカ市場に投入する。その結果、アメリカ企業の商品
が 売 れ な く な る 。ア メ リ カ で 発 明 さ れ た 技 術 な の に 、外 国 企 業 に そ の 技 術 が 商 品 化 さ れ て 、
アメリカ経済が圧迫され、アメリカ経済がうまく成長しない。これはちょっと不合理でし
ょう、不公平でしょうというところで、そういう背景がございまして、特許強化政策、ヤ
ン グ ・ レ ポ ー ト と い う ん で す が 、1980 年 代 で 、ア メ リ カ 産 業 の 産 業 競 争 力 を 回 復 す る ん だ
と。その政策のひとつとして、知的所有権の強化提案をヤング・レポートという格好で出
されました。
皆さんはご存じの方もいるかもしれませんけれども、ヤング・レポートの各アイテムに
つ い て 簡 単 に ご 説 明 さ せ て い た だ き た い と 思 い ま す 。ま ず 1 番 目 、
「 A 」で す ね 。C A F C
とは、皆さんは聞いたことがございますか。ない人。はい、わかりました。これは連邦巡
回 控 訴 裁 判 所 (Court of Appeal for the Federal Circuit)と い っ て 、 舌 を 噛 ん で し ま う よ
うな言い方ですが、要は特許専門裁判所でございます。日本も、ついこの間、法案が通り
まして、知財専門の高等裁判所が設置されます。これは日本で言うところの高等裁判所な
んですね。向こうは、連邦制度という日本とは違った特有の制度がございまして、各地区
の連邦地方裁判所から知的財産権に関する訴訟が起こされて、それが高等裁判所に控訴さ
れるんですね。各州の連邦地方裁判所から、その州の連邦高等裁判所に控訴されていたん
ですね。ですから、各州の連邦裁判所ごとに、同じ事案、同じケースであったとしても、
判例がまちまちになることがあったわけです。ニューヨーク州では、あるケースは勝って
いる。もしウィスコンシン州だったら負けてかもしれないといった判例にばらつきがあっ
たわけです。特許法の解釈にばらつきがございました。そういった各裁判所でばらつきが
あるという特許法の解釈、判例とかに統一的な見解、解釈をして、拘束力の高い判例を生
み出すことで、アメリカ合衆国全体として、効率のよい、且つ、信頼性の高い判決を出す
ことで、特許権の行使をしやすくするということにより、知財に関する高等裁判所の一本
化 と い う こ と で 、特 許 と 書 い て お り ま す が 、知 財 に 関 す る 専 門 の 高 等 裁 判 所 を つ く っ た と 。
日本でももう設置される予定でございますけれども、CAFCをつくったというのが1点
目でございます。
2点目は、均等論というのがございます。均等論というのは、権利範囲を拡大しようと
する意図でもって出てきた考え方ですが、この均等論という言葉を知っていらっしゃる方
はどのぐらいいらっしゃいますか。ではだいたいわかっていらっしゃいますね。知らない
方にも一応ご説明させていただきますと、クレーム(特許の権利範囲、技術的範囲を確定
2
する表現、文章)の文言上は侵害していないんですね。ですけれども、所定の条件、たと
えば置換、交換、置き換えが容易であるとか、目的とか作用効果が同一であれば、発明が
均等だと解釈される考え方です。たとえばクレームのなかに、アルミと書いたとします。
素材をアルミと特定したんだけれども、ある特許権者に対するコンペティター、競合他社
は銅を使っていたと。単純な事例ですが、銅を使っていた場合は、権利範囲は、素材はア
ルミと特定していますので、銅とした場合は、当然権利範囲には文言上含まれないと。し
かし、もしアルミを銅に置き換えることが簡単だと。発明の目的と作用効果等が同一であ
れば、それは均等だということで、アルミと文言上書いてあるにも関わらず、銅で実施し
ていた第三者、競合他社とかに関しても、それは権利侵害だと認めるような考え方でござ
います。そういう均等論というものを持ち出しました。この均等論というものは、最近は
見直されまして、あまり均等論が適用されるケースは少なくなる方向にございます。それ
については、またのちほどお話しさせていただきます。
次にまいります。ヤング・レポートのなかの三倍額賠償ですね。三倍額賠償につきまし
て は 、皆 さ ん は 聞 い た こ と が あ る と 思 い ま す け れ ど も 、特 許 法 の 第 284 条 、故 意 侵 害 で す 。
侵害に当たっては、故意の場合は通常の賠償額の3倍の賠償額、巨額の賠償額が科せられ
るという罰則というんですかね。三倍額賠償という制度が導入されました。これは特許権
者にとって非常に有利で、侵害者にとっては非常に不利、下手をすると会社が潰れてしま
う と い う こ と に も つ な が る か と 思 い ま す 。た と え ば ポ ラ ロ イ ド vs コ ダ ッ ク の 件 で は 、イ ン
スタントカメラの訴訟で聞いたことがあるかと思いますが、マサチューセッツ州の連邦地
裁 で は 、判 決 で は 9 億 940 万 ド ル 、だ い た い 当 時 の 日 本 円 に 換 算 す る と 1200 億 円 を 支 払 え
と い う ふ う な 判 決 が 下 り て お り ま す 。1200 億 円 と い っ た ら 非 常 に 巨 額 で 、経 営 に 大 き な 打
撃を与えることだと思います。金で解決がつくだけではなくて、まず、カメラも回収せよ
と い う 命 令 も 出 た ん で す ね 。イ ン ス タ ン ト カ メ ラ も 売 っ て い ま す よ ね 。あ る い は 、販 売 店 、
あるいは問屋さんに相当するところにあると思うんですが、販売対象の流してしまったカ
メラも回収せよと。あと、インスタントカメラの生産設備も除却せよという命令も出まし
た。非常に負けたコダック社にとっては大打撃であったということでございます。
ま た 、日 本 企 業 が 巻 き 込 ま れ た 件 と し ま し て は 、ハ ネ ウ エ ル vs ミ ノ ル タ の 件 で す 。こ れ
も有名なケースで、皆さん、ご存じかもしれませんけれども、ミノルタのカメラのαシリ
ーズ、オートフォーカスの機構の部分がハネウエルの持っている特許権を侵害しているん
だ と い う こ と で 、 1991 年 、 166 億 円 の 和 解 金 を ミ ノ ル タ が ハ ネ ウ エ ル 側 に 払 っ た と い う 格
好 で す 。 こ の 166 億 円 と い う 金 額 が ミ ノ ル タ に と っ て ど の 程 度 の 打 撃 か と 申 し ま す と 、 そ
の 同 年 、 1991 年 の 経 常 利 益 が ミ ノ ル タ は 48.6 億 円 で す 。 そ れ に 対 し て 、 和 解 金 が 166 億
円 だ と い う こ と で 、3 倍 以 上 で す 。本 当 は 48.6 億 円 の 経 常 利 益 黒 字 だ っ た の が 、そ れ に 対
し て 166 億 円 を 払 え と い う 判 決 が 出 ま し た の で 、 次 の 年 、 1992 年 に は 84.7 億 円 の 赤 字 に
転落ということで、日本も同様かもしれませんけれども、アメリカ市場において、特許を
軽視した販売をすると、会社の存亡さえ揺るがしかねないというのがこういった判決で出
ております。ただ、こういう故意侵害に対する三倍賠償のケースは枚挙に暇がないほどた
くさんございますが、2つ挙げますと、このような格好です。
次 は 、 仮 差 止 命 令 。 日 本 で も ご ざ い ま す ね 。 Preliminary Injunction。 暫 定 的 差 止 命 令
とも言います。日本でもこの制度はございますけれども、訴訟期間中、もしくは判決が出
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るまでは侵害行為の差し止めはできないんですけれども、侵害の蓋然性が非常に高いと。
しかも、被侵害者、特許権者のほうの被害がどんどんでかくなる。判決まで待っていられ
ないという事情がある場合には、被侵害者、侵害される側の救済措置として仮差止命令を
出すことが可能としました。だいたい多くの訴訟は、この命令の発動で終了する場合が多
いかと思います。判決が出る前に、仮差止命令が出てしまう。それで、和解というか、決
着がつくというケースです。
ヤ ン グ ・ レ ポ ー ト の 次 の 「 E 」 の と こ ろ で は 、「 関 税 法 337 条 の 改 正 」 と い う こ と で す 。
こ れ は 特 許 法 で は な く て 、 関 税 法 の ほ う で す が 、 I T C (International Trading
Committee)、 国 際 貿 易 委 員 会 と い う の が ご ざ い ま し て 、 こ れ は 非 常 に ア メ リ カ の 特 許 権 者
にとって有効な有利な制度になりました。実際に、アメリカ企業が日本企業を訴えるに当
た っ て 、I T C に 提 訴 す る ケ ー ス が か な り 多 い か と 思 い ま す 。こ れ は 1988 年 に 改 正 さ れ た
もので、アメリカに輸入した商品等が国内産業へ大きな打撃を与え、それが侵害品である
と い う 場 合 に は 、通 常 、特 許 権 者 側 に 立 証 の 責 任 が あ る わ け で す 。こ れ は 当 た り 前 で す が 、
アメリカの市場に入ってくる日本企業の商品等はアメリカの特許権を侵害していますと、
立証責任は当然提訴する側のアメリカ企業側にあるんですが、損害の証明を不要としまし
た。これで非常に訴訟がしやすくなった。あと、ITCのほうでは、提訴されたら、1年
以 内 に 決 着 を つ け な く ち ゃ い け な い 。決 定 を 下 さ な け れ ば い け な い と い う 縛 り が あ り ま す 。
普 通 の 裁 判 で す と 、 3 年 5 年 10 年 、 長 く て 20 年 ぐ ら い か か る ケ ー ス も あ る ん で す が 、 1
年以内に決着をつけなくちゃいけないということで、非常にすぐに決着がつき、早期解決
が図れるということで、アメリカの特許権者に非常に有効で、他の海外の企業、たとえば
日本企業にとっては非常に恐い、恐れられているITCの提訴の仕方でございます。これ
もヤング・レポートで挙げられた方策です。
次 は 、「 特 許 法 271 条 (g)の 制 定 」 と い う ん で す が 、 特 許 法 の 中 身 に 入 り ま す と な じ み の
ない方もいらっしゃるかと思うので、軽く済ませますが、製造方法の特許ですけれども、
一般に簡単に単純に申し上げますと、製造方法の特許は当然アメリカ国内でしか有効では
ないので、アメリカ国内でその特許の方法を用いて製造した場合は侵害なんですね。です
から、アメリカ国外、たとえば日本とか、ほかのアジアの諸国で製造した場合は、その製
造方法に関する特許の直接侵害にはならないわけですが、アメリカ国外で製造したとして
も、アメリカの製造方法に関する特許、発明を用いて製造したのであれば、もしその製品
がアメリカ国内に入り込んだら、それで侵害というふうなところまで、いいか悪いかは別
にして、ヤング・レポートでは出されております。
あと、反トラスト法。これは独占禁止法。これは特許法に対する反対の考え方ですが、
反 ト ラ ス ト 法 の 適 用 を 消 極 化 す る ん だ と い う 考 え 方 で す 。プ ロ パ テ ン ト 時 代 で は 、ナ イ ン・
ノー・ノーズというライセンスの条項というのがあるんですが、ナイン・ノー・ノーズに
つきましては、ライセンスに詳しい方もいらっしゃいますし、文献等を調べればおわかり
になるのでここではあまり詳しくは申しませんけれども、違法な価格協定、特許プール、
グランドバック条項といった項目がございますが、そういったナイン・ノー・ノーズとい
った、アンチプロパテント時代によく使われた反トラスト法のライセンスに関する契約条
項は、プロパテント時代においては、合理的な経済政策として正確ではないとして、適用
は消極化とヤング・レポートではされておりました。
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今度は、アメリカ特許法の「特有な制度」ということで、簡単に説明させていただきま
す と 、 ま ず 、「 先 発 明 主 義 」。 こ れ は も う 皆 さ ん は よ く ご 存 じ だ と 思 い ま す 。 そ れ に 対 す る
概念として、先に出願した主義、先願主義という考え方がございますけれども、要は先願
主義というのは、日本もそうなんですけれども、アメリカ以外のだいたいの先進諸国はそ
ういう制度を採っていますが、同じ発明があった場合、先に特許庁に出願手続きをしたも
のが勝ち。そちらのほうに先に出願した人に特許を認めるというルールにしています。い
いか悪いとかは別にして、そういうルールにしました。ところが、アメリカでは先発明主
義。先に特許庁に出願したかどうかはともかくとして、先に発明した人に特許権を与える
という制度でございます。立証の問題等が難しいということがございまして、ラボノート
をきちんと付けるとか、そういう手当が、大学の教授、先生方でも必要になってくるかと
思いますが、日本でも、ラボノートというものを導入している趨勢にあるようですけれど
も 、そ の 先 発 明 主 義 で も 、ア メ リ カ 国 内 で し か 発 明 日 は 認 定 し て な か っ た ん で す ね 。要 は 、
外国で発明したのを立証したとしても、その外国での発明日はアメリカの特許法でいうと
ころの発明日とは認定してくれないので、現実に外国からアメリカの特許庁に出願した日
を発明日と認定されていたので、アメリカ国内での発明が優遇されていたということで、
これはちょっとフェアでないところがあったんですが、法改正になりまして、アメリカ国
外、たとえば日本でも、発明日を認定するようになりました。ですから、ラボノートとか
をきちんとつければ、それが立証されれば、日本での発明日をアメリカの特許庁で正当な
ものとして認められる発明日と認定されるように変わりました。
先願の効果についてお話ししたいんですが、これは日本のプラクティスと実務に詳しく
ないとちょっとぴんと来ないかもしれませんけれども、こういうことがあると覚えていた
だければいいんですが、特許された先願、特許になった先に出願したものはそのあとの出
願の「進歩性」の判断材料になってしまうというところです。日本の場合は、進歩性にま
でいかないで、新規性の判断材料なんですね。新規性というのは、発明が同一かどうかと
いうところで判断されるんですが、アメリカにおいては、特許になった先願については、
後願、あとから出願したものに対して、進歩性の材料にまでされてしまいます。新規性、
進 歩 性 に つ い て は ち ょ っ と 細 か く な り ま す の で 、こ こ で 割 愛 さ せ て い た だ き ま す け れ ど も 、
こういうものがあるよと覚えていただければと思います。
また、
「 ③ 審 査 請 求 制 度 な し 」と い う こ と で 、全 て 審 査 す る と い う 格 好 に な っ て お り ま す 。
それで、
「 ④ 」で 公 開 制 度 で す ね 。法 改 正 ま で は 、出 願 公 開 制 度 と い う も の は あ り ま せ ん で
した。4、5年ぐらい前ですか。国際調和の観点から法改正がありまして、アメリカ出願
においても、出願公開がされるようになりました。いわゆるサブマリン特許の問題がひと
つの要因ではあるんですが、実態的には出願公開制度を導入したことになっているとは、
私は個人的には思っておりません。というのは、出願公開の対象というのは外国対応出願
だけなんです。要は、アメリカ単独出願は公開されないままです。要は、外国対応出願は
どういうことかというと、日本で出願しました。それを基礎として、パリ条約上の優先権
を主張してアメリカに出願するといった外国との紐付き、外国関連出願のみ出願公開の対
象とします。アメリカ以外の国ではだいたい出願公開制度を採っておりますので、もとも
と外国で公開されるものを再度アメリカで公開するに過ぎないんです。要は、外国で出願
公開されないもの、アメリカ単独出願のみのものは公開されないということで、依然とし
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て、出願公開制度の実態的なところは改善されていないと私は思っております。従いまし
て、拒絶された出願がございますね。やはり公開されません。アメリカ単独出願につきま
しては、拒絶された出願は公開されないです。あと、特許化が遅ければ、やはりそれだけ
公開が遅れるという弊害がいまだに残っている現状かと思います。
次に、簡単に流させていただきますと、アメリカでは、再発行出願、再審査出願という
のがございまして、再発行出願は、特許が成立したあと、特許の全部、または一部が実施
不能または無効である場合に出願できる。特許成立後2年以内であれば、クレーム拡張も
可能だと。そういったプラクティスがございます。実際、私はこの再発行出願の手続きは
したことはございませんけれども、そういう制度があります。
あと、再審査ですね。先行技術に基づいて特許になったあと、もう1回再審査を特許庁
に請求することが可能です。これは、権利行使を受けた、裁判等を起こされた第三者、被
告が特許を無効とするために再審査を行う場合もさることながら、それ以外に、特許権者
自ら、権利行使をする側、訴訟をこれから起こすぞとする側も、特許の有効性を再確認、
担保する意味で、この再審査を使うケースのほうが多いように感じます。私も毎年1ヶ月
か2ヶ月ぐらいアメリカのローファームで実務の研修を受けておるんですが、この再審査
は何度か経験しておりますが、ほとんど裁判を起こす際に負けたくないわけですよね。で
すから、特許を無効にされたら困りますので、有効性を確認するうえで、もう一度特許庁
に審査をお願いする趣旨で使うことが多いような感じがいたします。
ま た 、「 ⑦ 」 の 権 利 化 期 間 。 出 願 日 か ら 20 年 と な り ま し た 。 サ ブ マ リ ン 特 許 の 終 焉 と 申
し上げましたが、いろんなサブマリン特許――ギルビー特許だとか、レメルソン特許だと
か、いろいろございましたけれども、出願公開制度がなかった時期、いまでもアメリカ単
独出願はございませんけれども、公開もなくて、そのあと、出願だけをして潜っている。
ちょっと耳慣れないかもしれませんが、一部継続出願とか、分割出願といったいろんなノ
ウ ハ ウ を 繰 り 返 す と 、出 願 か ら 特 許 化 ま で の 期 間 が 異 常 に 長 く す る こ と が 可 能 な ん で す ね 。
そ れ で 、 権 利 期 間 は 、 法 改 正 前 ま で は 、 特 許 に な っ て か ら 17 年 だ っ た ん で す 。 で す か ら 、
出 願 し て か ら 、 理 論 上 、 40 年 50 年 経 っ て か ら 特 許 に な っ て 、 そ れ か ら 、 17 年 間 権 利 が 認
められると。そういったサブマリン、まさに潜水艦が急浮上してくると。たとえば日本企
業の商品がアメリカ市場に出回った頃を見計らって、一部継続出願とか、分割出願という
ものをうまく使って特許化を図る。サブマリンが急に急浮上してくるような格好で、問題
となっていたんですが、いまは国際調和、ハーモナイゼーションというところで、出願日
か ら 20 年 と い う 縛 り が つ き ま し た の で 、と り あ え ず サ ブ マ リ ン 特 許 は 完 全 に は ま だ な く な
ってはおりませんけれども、ほぼ終焉に近い状態になったというところでございます。
次は、
「 抵 触 審 査 」で す ね 。こ れ は 先 発 明 主 義 な ら で は 考 え 方 で す が 、同 一 発 明 に つ き ま
して、先に出願したんだけれども、あとから発明した場合とか、出願したものとすでに特
許になったもので、どっちが先に発明したのかということで、先後願の判断をしなければ
ならない抵触審査、インターフェアランスという手続きが必要になってきます。これは先
発明主義ならではの面倒な手続き(面倒といったら語弊がございますが)がございます。
これはアメリカの代理人、アメリカの弁護士にとってはいい仕事のネタになりますので、
抵触審査があるがゆえに、先発明主義は残しておこうというロビー活動がなされたという
噂も実しやかに流れている次第でございます。
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あと「⑨出願人」です。出願人は、発明者だけが出願人になれます。たとえば企業の従
業員が発明者で、特許を受ける権利を譲渡したとしても、出願人はあくまで発明者と。権
利になってから譲渡するという格好になっております。日本では、特許を受ける権利を譲
渡して、企業さんが出願人となるケースがありますが、アメリカのプラクティスでは、あ
くまでも発明者のみが出願人になれると。権利になったあと、企業に譲渡するという制度
になっております。
あとは、
「 宣 誓 制 度 」で す ね 。こ れ は ア メ リ カ な ら で は な ん で す け れ ど も 、真 実 か つ 最 先
の発明者であることを宣誓するデクラレーションというのがあるんですが、委任状と一体
化しているのが多いんですけれども、デクラレーションのドキュメントにサインアップす
るという制度がございます。
「 ⑪ 米 国 で な さ れ た 発 明 」。出 願 す る に 当 た っ て 、第 一 国 は ア メ リ カ に し て く れ よ と 。外
国 出 願 は 、原 則 と し て 、ア メ リ カ 出 願 後 6 ヶ 月 と 。そ う い う 縛 り が ご ざ い ま し た 。第 一 国 、
つまり、アメリカでなされた発明については、いちばん最初に海外で権利化しないでくれ
よと。アメリカでいちばん最初に権利化してくれよと。それで、外国出願するのは、アメ
リカ出願後6ヶ月を過ぎてからと。そこにいるアメリカで発明をなした人間が日本人など
の外国人であっても、それは同様です。アメリカの権利化、つまり、アメリカの知的財産
を優先的にとるような方策も残っております。
ま た 、「 秘 密 特 許 」。 秘 密 特 許 と い う の は 、 国 防 上 の 安 全 保 障 の 発 明 に つ い て は 秘 密 保 持
ということで、特許の発行を保留することが可能になっております。あと、拒絶に対する
不応答ですが、ここらへんのことはプラクティスに関しますので、ダーッと軽く話させて
いただきます。不応答の取り扱いですが、いきなり放棄、擬制となります。日本では拒絶
理由が付いたら、それに対して応答しない場合は、拒絶査定が発せられます。それに対し
て審判等をするんですが、アメリカではいきなり放棄、擬制になります。もちろんその放
棄に対して、審判、継続出願等の手当てが可能ですが、拒絶査定という制度はございませ
ん。
次 は 、「 情 報 開 示 義 務 」。 こ れ が か な り 重 要 で す 。 Information Disclosure Agreement と
いうことで、これは非常に重要なプラクティスです。アメリカ特有ですが、国家公権力た
る強力な特許権、独占排他権を得るのであれば、情報開示義務、つまり、自分の特許出願
にとって不都合、無効につながるような情報を得たとすると、普通は隠してしまいますよ
ね。せっかく多額のお金を出して特許出願したわけですから、その特許性を脅かすような
不利な情報は、都合が悪いですから出したくないですよね。しかし、これはきちんと出さ
なければいけない。エクイティ、公平という考え方がございまして、誠実でなければなら
な い 。「 ク リ ー ン ・ ハ ン ド 」と 言 う ん で す が 、ク リ ー ン ・ ハ ン ド( き れ い な 手 )で な け れ ば
いけないということで、不利な情報だからこそ、きちんと開示しなさいという厳しい義務
がございます。これはIDS違反になると無効になってしまいます。日本企業は、一頃、
このIDS違反で訴訟に負けているというケースが多かったように、私は判例を見ますと
思います。特許を潰すのにいちばんいいやり方は、アメリカの特許実務を知らない海外企
業に対して、
「 I D S 違 反 で し ょ う 」と い う こ と で 無 効 に し て し ま う と い う ケ ー ス が 多 か っ
たです。
具体的にどういうことかと申しますと、だいたい日本企業は、まず、日本に特許出願し
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ます。そのあと、それを基礎出願として、優先権主張して、アメリカに出願しますね。こ
こらへんのところはわかりますでしょうか。わからなくても、このようなことがあるとい
う こ と で 、ち ょ っ と 重 要 な こ と な の で 、耳 に 挟 ん で い た だ け れ ば と 思 い ま す 。そ の 場 合 に 、
基礎出願となった日本出願の審査請求がなされて、拒絶理由通知が来ます。その時に、そ
の新規性なり、進歩性なりが否定する材料として、リファレンス、引用文献、特許公開公
報だとか、各会社の技報だとか、論文、そういう証拠物件というんですかね。技術情報を
引 用 さ れ ま し て 、特 許 庁 の ほ う か ら 、
「 あ な た の 発 明 は こ う い う 特 許 公 開 公 報 、論 文 、技 報
等に開示されたものから、容易に発明できたでしょう」もしくは「同じでしょう」という
ような不利な情報が上がってきたとします。それは日本のプラクティスだから、アメリカ
と は 関 係 な い だ ろ う と 、10 年 前 と か は 考 え て い た 企 業 が 多 か っ た ん で す ね 。と こ ろ が 、そ
れに対して、それを基礎出願としてアメリカ出願した場合は、出願人、日本企業は、その
不利な拒絶理由通知に添付されてきた、特許庁から上がってきた、日本の特許出願に対し
て 不 利 な 情 報 、特 許 化 を 阻 害 す る よ う な 事 由 と な る よ う な リ フ ァ レ ン ス 、公 開 公 報 、論 文 、
技報はその場で知得したわけですね。それをきちんとアメリカの特許庁に遅滞なく速やか
に提出する必要があります。審査官の審査の便宜に供することもさることながら、日本の
特許出願にとって不利な情報は。当然アメリカ出願にとっても不利であろうと。それがほ
とんどだと思いますが、ですから、日本の特許出願の審査の過程で挙げられてきた不利な
情報はきちんとアメリカの特許庁にも遅滞なく速やかに、遅れてもだめですね。あまり遅
れてもいけません。妥当な理由がない限り、遅れてもいけないんですが、それを速やかに
出さなければいけないんですね。それを出さないと、無効であると。アンクリーン・ハン
ドだと。要は、特許庁を騙したと。審査官を騙したと。フロードだということで、これは
クリティカルに厳しく無効になるケースが多いです。
IDS違反だということは、立証も簡単ですしね。日本の特許庁の包袋(審査、審判経
過)を調べれば、基礎出願の審査・審判経過の情報は得ることができますから、その拒絶
理由通知に挙げられてきたインフォメーション――技報、論文、公開公報がそのままちゃ
んとアメリカの特許庁に遅滞なく提出されていたかどうかというのは、簡単に確認できま
すので、そこのところをさぼってしまうと、それは審査官を騙したと。国家公権力たる独
占排他権の特許権を得るに当たって、審査官を騙したと。フロードだとみなされて、無効
になります。これはアメリカ法、誠実であること、クリーン・ハンドであることに根ざし
た特有の考え方だと思いますが、このIDS違反で、せっかく何百万もかけて特許になっ
たものが、また、訴訟費用もかけて特許になったものが無効になって、敗訴になってしま
う と い う こ と が ご ざ い ま す 。私 が ロ ー ス ク ー ル に 行 っ た 時 代 も 、
「IDS違反だけは気をつ
けろよ」と厳しく言われていましたし、毎年、インターンシップでローファームで研修を
受けさせていただいておりますけれども、IDSには非常に神経を皆さんが使っておりま
す。
次 が 「 最 良 の 実 施 例 」。 Best Mode と 言 う ん で す が 、 特 許 出 願 明 細 書 に は 最 良 の 実 施 例 を
書きなさいという規定がございます。日本でも、最良の実施例を書くようにという規定と
いうか、項目ができましたけれども、権利行使不能の事由だとか、無効の事由にはなって
いないんですが、アメリカでは独占排他権という国家公権力を与える以上は、その見返り
として、最良の実施形態をパブリック・ドメインとして開示しなさいよというのが要件と
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されております。これも非常に重要な神経を使わなければならないプラクティスですね。
出 願 時 に 、Best Mode。た と え ば 化 学 で 言 い ま す と 、あ る 化 学 合 成 物 質 を 製 造 す る 方 法 を 特
許にしたと。特許出願したと。その時に製造する方法の発明を実施するに当たって、いち
ば ん 効 率 の よ い 方 法 が わ か っ て い た ん だ け れ ど も 、特 許 を 課 す る に は そ こ ま で 書 か な い で 、
開 示 損 、 競 合 他 社 に Best Mode ま で 開 示 し た く な い と 。 ち ょ っ と 効 率 の 悪 い も の を 出 し ち
ゃうというのが心情ですよね。心情というとあれですけれども、特許になるぎりぎりの程
度に実施例を出しておけばいいやと。競争原理が働いている資本主義経済においては、最
も良い製造方法までは開示したくないというのが人情というか、考え方だと思います。し
か し 、 そ れ が Best Mode を 違 反 し て い る と 、 も う こ れ は 権 利 行 使 不 能 に な っ た り と か 、 無
効 化 を 招 き ま す 。た と え ば 特 許 出 願 時 点 で は 、Best Mode、製 造 方 法 に つ い て 最 も 良 い パ ラ
メータなりなんなり、プロセスなりを明細書には書かないで、ちょっと効率の悪いものを
書 い て お い た 。 と こ ろ が 、 自 社 で 出 し た 技 報 ( 技 術 報 告 書 ) で は Best Mode を 載 せ た 。 論
文 で も Best Mode を 載 せ て し ま っ た と 。 そ れ が わ か る と 、 こ れ は Best Mode 違 反 で し ょ う
ということで、権利行使不能になったり、無効化になったりということで、先のIDSに
続 い て 、 特 許 裁 判 に な っ た 時 に 、 Best Mode 違 反 で 権 利 行 使 不 能 に 陥 ら せ る 手 法 と し て よ
く 使 わ れ て お り ま す 。 そ う い う わ け で 、 I D S と Best Mode は 重 要 だ と い う こ と を 覚 え て
いただければと思います。
時 間 が 迫 っ て き ま し た 、あ と は 軽 く 急 ぎ 足 で い き た い と 思 い ま す 。
「 仮 出 願 制 度 」と い う
のがございます。これは日本でいえば、国内優先権制度に近いものかもしれませんが、ク
レームは記載しなくてもいいから、明細書とか、図面をパッと出せばいい。それから1年
以内にきちんとクレームを書いて出すと。この仮出願制度というのも非常に有効なやり方
で、私も何度か使ったことがございます。
次は、
「 侵 害 行 為 の 類 型 追 加 」と い う こ と で 、
「 輸 入 ま た は 販 売 の 申 し 出 も 、侵 害 ! 」と 。
オファーするのも侵害というのがございます。ここらへんのアメリカのプラクティスにつ
いてはたくさん本が出ていますし、インターネットでも出ていますので、お調べいただけ
ればと思います。
最近の「動向」ですが、プロパテント政策についてさきほど説明しましたけれども、プ
ロパテント政策を見直しするということで、さきほど言いましたが、権利範囲の拡大する
考え方の均等論を見直すということで、ワーナー・ジェンキンソン判決とか、フェスト判
決というのが出ています。反トラスト法は特許法と相反する考え方ですが、独占禁止法に
基 づ い て 、司 法 省 と か 、連 邦 取 引 委 員 会 は マ イ ク ロ ソ フ ト と か 、イ ン テ ル を 訴 え て い る と 。
皆さんもご存じかもしれませんが、そういうことが数年前にありました。
「保護範囲の拡大」ですね。とは言っても、保護範囲の拡大、要は新しい技術の変化、
発展に合わせて、特許の保護対象も変えていかなくちゃいけない。隅藏先生はよくご存じ
だ と 思 い ま す が 、遺 伝 子 構 造 そ の も の も 特 許 化 で き る と か で す ね 。日 本 は 別 に し て で す よ 。
数学的アルゴリズム、一頃何年か前に有名になったカーマーカー特許というのも特許にな
っております。純粋な数学的アルゴリズムそのものは特許の保護対象には当然ならないん
ですが、それを用いて産業上の利用性を満たす程度にアプリケーション等で、アプリケー
ションというのはソフトだけではなくて、いろんな設備とかに用いるまで応用するような
ところまで落とし込めば、特許化は可能です。カーマーカー特許につきましては、最適資
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源割当方法というのがあるんです。線形計画法を使った最適資源割当方法と言いまして、
巡回セールスマン問題って聞いたことがございますか。そういうのがあるんですが、そう
いった線形計画法を用いて、最適な設計手法、資源の割当方法なんですが、アルゴリズム
そ の も の は 特 許 に な ら な い ん で す が 、カ ー マ ー カ ー さ ん は 、そ れ を 長 距 離 電 話 の 中 継 経 路 、
アメリカの長距離電話がございますね。ワシントンからサンフランシスコに電話をする場
合に、どういう経路を用いていったら、資源が最小化できるか。これは巡回セールスマン
問題に近いと思いますが、いろんな中継経路を何万通りと考えられるんですが、そのなか
で最も効率のよい資源を最小化できる中継経路を素早く、近似解ですけれども、出すとい
うところにまで、クレームを産業上の利用性という用件を満たす程度に落とし込んで、ク
レームしたので、日本でも結局成立して、裁判でも争ったんですけれども、カーマーカー
特許は裁判でも支持された状況で、日本でも認められております。
あとは皆さんが知っているとおり、ビジネスモデル特許ですね。ビジネスメソッド、ソ
フトウェア関連、インターネット関連、金融関連、これらが複合的に関連しているのもご
ざいますが、ステートストリートバンクトラストシグネチャーファイナンシャルグループ
の出した、単なる数式やビジネスの方法というのは、特許にならないとされていたんです
が 、ビ ジ ネ ス の 方 法 で あ っ て も 、
「 有 用 で 具 体 的 で 有 形 的 な 効 果 」、英 語 で 言 う と 、
「 Useful,
concrete and tangible result」 が あ れ ば 、 特 許 に な り 得 る と 、 C A F C が 1998 年 に 判 決
を出しております。以上が、アメリカの特許法入門ということでございます。
次に、私がちょっと調査しておりますNASAの技術移転について、簡単に軽くお話し
させていただきます。NASAというのは、ご存じのとおり、日本で言えば、昔で言うと
ころの宇宙開発事業団に相当するところですが、非常に高度な技術を発明なさっていると
ころです。
「 ス ピ ン ア ウ ト 」と い う 言 葉 を よ く 使 っ て い ま す け れ ど も 、N A S A の 技 術 移 転
ネットワークというものを構築していて、やはりアメリカの産業競争力を高めるというこ
とをミッションとして、せっかくNASAで高度な技術を得たんだから、それを単に商業
化、コマーシャルライズするだけではなくて、やはりアメリカの競争力を上げるというこ
とをミッションにして、積極的に技術のスピンアウトをしています。NTTCというセン
タ ー が ご ざ い ま す 。 National Technology Transfer Center、 技 術 移 転 ネ ッ ト ワ ー ク の ハ ブ
と呼ばれております。それを取り巻く格好でスポークに相当するんですけれども、RTT
C s 、 Regional Technology Transfer Centers と い う の が ご ざ い ま す 。 こ の N A S A が 全
米6カ所に設置する地域技術移転センターがございます。
その6カ所のうちの1カ所、CTCというのがございまして、ちょうど私がのちほど説
明 し ま す ロ ー ス ク ー ル 、 知 財 専 門 職 大 学 院 が 位 置 す る Center For Technology
Commercializaion, Inc.と い う の が あ る ん で す が 、 こ こ が 技 術 分 野 で の 仲 介 機 能 を 有 効 に
発揮しているアメリカの事例として挙げられている、現地ではよく知られている機関でご
ざいます。マサチューセッツ州ボストンの郊外に位置しております。ここの機関の人たち
と私はいろいろな知己がございまして、いろいろな情報機関等をいまでもしているんです
が、お手元にCTCに関する資料がございますので、それをのちほどご覧いただければと
思 い ま す が 、 ミ ッ シ ョ ン と い う の が や は り 書 い て あ り ま し て 、 ミ ッ シ ョ ン は そ こ に 「 Make
American More Competitive」 と 書 い て あ る ん で す ね 。 単 に N A S A の 技 術 を 移 転 し て 、 コ
マーシャリゼーションをするんではなくて、アメリカの競争力を上げるんだと言っており
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ます。まず、そういうのをポリシーとして挙げております。書いてあるとおり、NASA
だけではないんですね。国防総省、ペンタゴンですね。その他の政府機関、そして、大学
ですね。NASAだけでなくて、ほかの国防総省とか、ノンプロフィットのオーガニゼー
ション、非営利団体、研究開発団体のものもまとめて技術移転しますよ、商用化しますよ
という非営利団体でございます。ただ、きちんと厳選して、極めて革新的な(イノベーシ
ョ ン で す ね ) 技 術 を 対 象 と し て 、 厳 選 し た 上 で 、 そ の 商 用 化 を 促 進 し て い ま す 。 1988 年 の
創 設 以 来 、最 初 の 10 年 間 で は 、60 を 越 え る 民 間 企 業 と の 技 術 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 締 結 と 、
6つの新規企業の立ち上げを実現しております。技術の提供やマッチングだけにとどまら
ず、市場にニーズの把握、ニーズに合った商品開発のためのパートナーの発掘、その企業
化までを総合管理するとしております。たくさん案件はあるんですが、非常に厳選して、
必ず成功させることをポリシーとしているようです。
対象技術は、想定される市場規模が大きく、波及効果の高いものを選択している。技術
移転の対象企業は、中核的技術、想定される市場との適合性、あとトップの熱意ですね。
やはり人が大事ですので、トップの熱意、リスクをとる力があるかとか、基準で評価して
厳選しています。必要なパートナーを見つけて、技術移転の条件を決める交渉にも参画し
ています。技術移転の成功を確保するため、具体的に積極的に関与しております。
あ と は 、N A S A の ほ か の 技 術 移 転 、関 連 機 関 と し て 、S T T R と い う の が ご ざ い ま す 。
Small Business Technology Transfer と い っ た も の が ご ざ い ま す 。 S T T R と い う の は 小
規模ビジネスの企業家精神を通じて、大学等の非営利研究機関等の研究成果に関する技術
移 転 を 促 進 す る と さ れ て お り ま す 。あ と 、S B I R 、Small Business Innovation Research、
またこれも小規模ビジネス、いわゆるベンチャー企業等ですね。NASAのR&Dに参加
する機会を提供します。アウトじゃなくて、今度はインです。ベンチャー企業でNASA
のミッション、ジョブに積極的にR&Dにコントリビュートする機会を与えて、NASA
のミッションの遂行に役立つ企業を募集するということをしております。このSBIRの
ミ ッ シ ョ ン と し て は 、雇 用 の 促 進 及 び ア メ リ カ の 国 際 競 争 力 の 進 展 を 図 る と し て お り ま す 。
また、NASAのソフトウェア技術移転センター、これは歴史は古いんですが、ジョージ
ア大学に設置されておりまして、産業界、政府機関及び学術機関に対して、NASAのプ
ロジェクトで開発された先端的なソフトウェアをできるだけ安価で提供するようにしてお
ります。ライセンスの対象となっていないプログラムについては、無償でアメリカのユー
ザーに対して若干修正を施して利用可能としていますし、NASAの開発したコードの一
部も、外国はだめなんですが、アメリカ国内の一部に限定すれば、商用製品、市場に出回
る商品でも使用可能としております。これについては、話を細かくすると際限がなくなっ
てしまいますので、ご紹介レベルで、のちほど別の機会があれば、まとめてお話しさせて
いただきたいと思います。
本題と言いますか、次の議題の米国知財大学院の紹介をお話しさせていただきます。昨
今では、日本でも、知的財産立国ということで、知財に関する専門家の養成の基盤整備と
いうものが叫ばれておりますが、それに応じて、各大学さんも知的財産大学院の準備をな
さっています。これの先導的といいますか、現地では有名なフランクリン・ピアーズ・ロ
ー・センターというのがございます。名立たる日本企業の知財部も毎年数名を派遣してお
ります。ここは地方の無名スクールです。はっきり言って、言い方は悪いですけれども、
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地 方 の 無 名 ス ク ー ル で す が 、 知 財 の 分 野 で は 全 米 ト ッ プ グ ク ラ ス で す 。 1992 年 か ら 2002
年 で は ト ッ プ 5 を 維 持 し て 、1997 年 も し く は 6 年 8 年 の 3 年 連 続 だ っ た と 思 い ま す が 、あ
と 2000 年 等 数 回 ナ ン バ ー 1 に 輝 い て お り ま す 。い ま 、知 財 で は 非 常 に 知 ら れ て お り ま す が 、
ここはロースクール全般としては地方の無名スクールです。ちなみに同列には扱えないで
すが、スタンフォード大学も昔は地方の無名校だったんですね。歴史が違うから同列には
考えられませんけれども、スタンフォードも地方の無名校だったんですけれども、いまで
は非常にトップクラスの有名なロースクールになっていますが、フランクリンも知財がフ
ォーカスされるにつれ、有名になってくるのではないかと感じております。
フランクリンの知財コースについて説明させていただきたいと思います。3種類ござい
ま す 。 ま ず 、 M I P 、 D I P 、 I P S I と 3 種 類 ご ざ い ま し て 、 ひ と つ が Master of
Intellectual Property と い う こ と で 、 ア メ リ カ 知 的 財 産 権 修 士 の 学 位 が 授 与 さ れ る と 。
1年制です。前期と後期の2学期。これは一頃MBAというものが流行ったかと思います
が 、そ れ の Intellectual Property 版 と 考 え て い た だ け れ ば わ か り や す い か な と 思 い ま す 。
こ の 1 年 間 の 間 で 30 単 位 。 30 単 位 と い う の は 、 私 に と っ て 非 常 に き つ か っ た ん で す が 、
30 単 位 を 消 化 す る 必 要 が ご ざ い ま す 。 あ と 、 D I P ( Diploma of Intellectual Property)
は 、 半 年 間 、 前 期 の み で 一 応 Diploma と い う 学 位 に 準 ず る も の を 与 え る よ う に し て お り ま
す。1 年間フルに留学させるのも、企業側としてはきつい。DIPで必要な科目だけを取
ってくればいい。お前は特許マンなんだから、商標までやる必要がない。著作権までやる
必 要 が な い と い う ふ う な と こ ろ で 、D I P だ け に 参 加 す る 方 も い ら っ し ゃ い ま す 。
「 ③ 」と
し て 、 I P S I ( Intellectual Property Summer Institute) と い っ て 、 夏 の 知 的 財 産 の
講習会がございます。1 週間の試験期間を含めて、最大7週間。2ヶ月ぐらいですね。6
月 の 後 半 か ら 8 月 い っ ぱ い ま で や っ て お り ま す 。も う そ ろ そ ろ 始 ま っ て い る か と 思 い ま す 。
ちなみに、フランクリンは、IPSIをアメリカだけではなくて、中国にも輸出しており
ます。輸出するという言い方はちょっと御幣がございますが、中国の清華大学にIPSI
をそのまま教員を派遣して、アメリカの知的財産を中国の方々に教えるようにしておりま
す。その点、やはり中国も経済的に非常にいま上昇気流にございますし、知的財産につい
ても、それに応じて、アメリカのIPSIをそのまま清華大学で運営できる程度に、知財
マインドが上がっているかと思っております。日本でも、そのくらいの知財マインドが上
がってくることを期待しているわけです。
次に移らせていただきます。どのような授業といいますか、運営をなされているかと言
う と 、各 科 目 に つ い て は 、厳 格 な 試 験 の 結 果 に よ っ て 単 位 の 取 得 並 び に 評 価 、A + か ら C − 、
D が 決 定 さ れ ま す 。修 了 の 要 件 は 、M I P 、D I P と し ま し て は 、所 定 単 位 以 上 で あ っ て 、
各科目の評価に応じた点数の平均値が所定値以上でないとだめなんですね。要は、単位は
取 れ た 。C − 以 上 な ん だ け れ ど も 、全 部 C − だ と 落 ち る わ け で す ね 。所 定 の 平 均 値 以 上 じ ゃ
ないと落ちると。私の代ではいなかったんですけれども、平均値を割ってしまうと厳格に
落ちます。アメリカのロースクールは非常にそこらへんは厳格でして、ドライでして、単
位が取れなかった。平均値を割ってしまったというと、厳格に落ちてしまいます。
お話をちょっと戻させていただくんですが、MIP、フル 1 年間行けない場合は、DI
P で 取 っ た 単 位 と 、I P S I で 取 っ た 単 位 を コ ン バ イ ン し て 、30 単 位 を ク リ ア し て 、尚 且
つ所定の平均値以上になれば、最終的には「①」のMIPが取れるような格好になってお
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ります。要は、DIPだけを最初半年間行くと。そのあと、何年かかけて夏のコースに参
加 し て と 、単 位 を 蓄 積 し て い く と い う 格 好 で 、最 終 的 に Master、M I P を 取 る 方 も い ら っ
しゃいます。フランクリンに行く方の参考のためにお話し申し上げました。
元に戻しますと、中段ですね。反対に、教員のほうは授業内容及びティーチングスキル
について、アンケート方式で、多様な項目別の評価を生徒から受けます。というのは、授
業 が や は り 厳 し い で す 。僕 も 英 語 が あ ま り 得 意 で な か っ た と い う の も あ る ん で す け れ ど も 、
たとえ英語が得意であったとしても、アメリカ人も根をあげていましたので、厳しかった
んですが、だいたい睡眠は、僕の場合、3時間半か4時間ぐらいしか取れなかったです。
朝 6 時 ぐ ら い に 図 書 館 に 行 っ て 、夜 中 の 12 時 ぐ ら い ま で 1 人 で 勉 強 し た り 、グ ル ー プ で 勉
強したりといった生活を繰り返しておりました。というのは、下にありますように大量の
宿題が毎回出されますし、一方的な講義だけでなくて、学生の議論も評価の一要素として
います。フランクリンでは、先生が生徒の顔を覚えてしまっていますので、そういうこと
はなかったんですが、いろんなアメリカの大学では、生徒の座る席というのはきちんと決
まっているんですね。それで、きちんと予習してきて、ディスカッションして、授業にコ
ン ト リ ビ ュ ー シ ョ ン し た か と い う こ と で 、生 徒 に 当 て て 、そ れ に 対 す る 議 論 の 内 容 を 見 て 、
点数を付けていくという厳しい生徒の評価をしております。その反対として、教員は、マ
ー ク シ ー ト 方 式 で 40 ぐ ら い の ア ン ケ ー ト 項 目 が あ っ て 、
「宿題の出し方は適切か」
「内容は
適 切 か 」「 発 言 内 容 は 適 切 か 」「 指 導 内 容 は 適 切 か 」 と い っ た 多 様 な 項 目 別 の 評 価 を 、 生 徒
から受ける格好になります。そういった意味で、ファカルティ・ディプロップメントと言
うんですが、教員の適性、あるいは向上、ティーチングスキル、メソッドのスキルに努め
ているというのがロースクールの授業の仕方、運営になっております。
なぜ無名のロースクールが、知財に関してはトップクラスなのかということで、科目の
充実というのが挙げられます。教員というよりは、科目の充実が主たるものかなと思いま
す 。一 般 に ロ ー ス ク ー ル で す と 、勢 い 学 術 論 的 な 授 業 が 多 く て 、卒 業 し て 実 践 力 と な る か 、
即戦力になるか、戦力の予備軍となり得るかというと、ちょっと疑問だったわけですね。
しかし、実務に直結した演習科目というものを重視しております。たとえば特許実務及び
特許訴訟手続きⅠ、Ⅱということで、特許出願明細書を書く訓練をやり、訴訟の手続きに
関するいろんなプラクティスの訓練をするクラスがあります。いま、Ⅰ、Ⅱと書いてあり
ますけれども、ファースト、セカンドという格好であります。商標法とか、法律をもちろ
ん教えますけれども、登録実務、出願書を作る訓練、そして、中間処理ですね。オフィサ
ーアクションに応答する、オピニオンを書く訓練をする等のクラスが充実しております。
ちょっと英文和訳が稚拙で申し訳ないんですが、
「 デ ジ タ ル 時 代 の 特 許 情 報 採 取 」と い う の
は、特許無効化のための情報を採取するために、どのようなデータベースを使って、キー
ワードを選定したらいいのかという特許無効化のためですね。あと、有効化確認のための
いろんなツールの使い方、実践練習をしています。
あ と 、お も し ろ か っ た の は 、知 財 紛 争 の た め の 異 文 化 間 交 渉 と い う ク ラ ス が あ る ん で す 。
要は、アメリカのアトーニー、弁護士が日本の企業のビジネスマンと特許侵害訴訟の前の
権利交渉段階で行う場合に、相手の文化のバックグラウンドをきちんと調査したうえで、
ウイークポイントを分析し、交渉するプラクティスを実際にやるんです。ですから、韓国
から来た方、欧米から来た方、アメリカ人、そして、南米から来た方、インドの方、いろ
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んなバックグラウンドの方を用意する。たとえば日本人のウイークポイントはここだと、
韓国の方のウイークポイントはここだと、ヨーロッパのウイークポイントはここだと、ウ
イークポイントをきちんと把握する。あと文化全般ですね。ビジネスの際のマナー、お辞
儀の仕方もきちんと学んだ上でやるようにとか、そういった異文化間交渉もするようにす
るためのクラスがありました。あとは法律情報検索、意見書作成、模擬裁判(ムートコー
ト)ということをやって、要は、これを卒業した人はその場で即戦力になることを想定し
て、演習、演習、演習、訓練を行っております。また、知財と経営、法律、科学技術の融
合科目ということで、知的財産訴訟、知財税務、知財価値評価、商事法及び破産法におけ
る知財、バイオテクノロジー訴追手続といった、特にバイオテクノロジーにいまでも特化
した訴訟手続等も教えております。ITというよりも、バイオテクノロジーだけがなぜか
フォーカスされております。
科目詳細につきましては、お手元の資料を見ていただければと思います。いろんな科目
がございます。スポーツ法とか、商事法及び破産法における知財、いろいろ科目がライン
アップされております。ここまで充実したラインアップがあるのは、やはりフランクリン
ぐ ら い で は な い か と 思 い ま す 。音 楽 管 理 、ラ イ セ ン ス と か 、そ う い っ た 部 分 で す ね 。あ と 、
インターンシップというのもございまして、企業の知財部にどんどん夏の間インターンシ
ップに行って、現場の実務の手伝いをしながら、現場の雰囲気、あるいは現場の実情を学
んでくるというのがございます。
学生生活ですが、1年間苦しい生活です。アメリカの方はさほど苦しくないかもしれま
せんが、いろんな国から、生活環境も変わるものですから、しかも、寂しい片田舎にある
ん で す ね 。で す か ら 、勉 学 と 生 活 の 苦 楽 を 共 に 分 か ち 合 う と い う こ と で 、
「 修 了 後 は 、国 際
的な知財人脈となる」というのは間違いですね。国際的な知的財産の人脈が構築できると
いうか、できますので、それは非常に財産となりました。
ここで、言葉だけでなくて、現地の様子ということで、簡単に卒業式の様子を7、8分
ほど上映させていただければと思います。卒業式ということで、みんなさっぱりした顔を
しております。ちょっと我慢して観て頂ければ、こういう雰囲気ですよと。これは卒業式
に行く前の記念写真のシーンでございます。こういう帽子をみんな被るんですね。ちなみ
に、このなかで、アメリカのロースクールとか、アメリカのカレッジ、ユニバーシティに
行った方はいらっしゃいますか。では新鮮ですね。これは卒業式の会場に向かう学長ディ
ーン、幹部、教授、学部長の方々が移動している最中です。片田舎と言いながらも、非常
に き れ い な と こ ろ で す 。ニ ュ ー ハ ン プ シ ャ ー の コ ン コ ー ド に 位 置 し て い る ん で す け れ ど も 、
ニューハンプシャーというのは、マサチューセッツ州の北にあるボストンから車で1時間
半 ぐ ら い の と こ ろ で す 。 こ の 時 は 、 M I P ( Master of Intellectual Property) の ク ラ ス
は 50 名 程 度 世 界 中 か ら 集 ま っ て お り ま し た 。ロ ー フ ァ ー ム の ア ト ー ニ ー も お れ ば 、政 府 か
ら派遣された幹部の方もいらっしゃいました。あと、日本企業から派遣された部課長クラ
スも何人かおりました。学長が、いま、いろいろ冗談を言いながら、演説を始めたところ
ですね。音も出ませんし、時間も押していることですし、ここらへんで止めさせていただ
いて、次に移らせていただければと思います。
手 前 味 噌 で 申 し 訳 な い ん で す が 、東 京 理 科 大 T L O の 産 学 連 携 の 取 り 組 み と い う こ と で 、
こんな格好でお話を簡単にさせていただきます。実は、東京理科大学というのは、東京大
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学 と 非 常 に 深 い 縁 が ご ざ い ま し て 、東 京 大 学 の 学 士 21 名 の 有 志 が 東 京 物 理 学 校 と い う こ と
で 創 設 し ま し た 。創 設 メ ン バ ー は 東 大 の 学 士 21 名 で す 。初 め は 夜 間 学 校 と し て 始 め ま し て 、
実験器具を東大から夕方借りてきて、夜間教えて、終わったら、その実験器具を東京大学
に返しに行くという毎日をやっていたそうです。しかも、授業料はほとんど取らなかった
そ う で す 。し か も 、教 員 は 無 給 で や っ て い た 。こ れ は な ぜ か と い う と 、こ れ は 金 儲 け と か 、
そういうのではなくて、理学の普及をもって、国運の発展の礎と成すと。理学の普及が国
の 発 展 の 礎 と な る と い う 信 念 を 持 っ て 、東 京 物 理 学 校 を 開 い た と い う と こ ろ が ご ざ い ま す 。
学 生 に 対 し て も 、ほ と ん ど 授 業 料 も た だ に し て お り ま し た 。入 学 試 験 も ほ と ん ど な し で す 。
その代わり、徹底した実力主義です。アメリカより厳しいと思いますが、実力のない者は
ど ん ど ん 落 と し て い っ た 。留 年 大 学 と し て 有 名 で 、い ま で も そ の 流 れ が 残 っ て お り ま し て 、
留 年 す る 方 は 非 常 に 多 い で す 。私 の 時 代 も 、4 年 間 で 卒 業 し た の は や は り 半 分 以 下 で し た 。
確か、留年ワーストワンに私のいた応用物理学科がランキングされていたと思います。留
年をたくさんさせることがいいか悪いかは別にして、僕の時代は、1年から2年に上がる
時が非常にハードルが高くて、応用物理学科であるにも関わらず、一般教養の英語1科目
が 58 点 だ っ た が ゆ え に 落 ち て し ま っ た 友 人 も お り ま す 。一 般 教 養 の 英 語 1 つ で 落 と す ん で
すね。それがいいかどうかは別にして、非常にそういうところが厳しいところでございま
す。いま、東京理科大学は、神楽坂、野田、久喜にございますが、それ以外に山口東京理
科大学、諏訪東京理科大学ということで、3大学ございます。教育職員、研究者は外部研
究 を 含 め ま す と 、 750 名 以 上 と い う 格 好 で ご ざ い ま す 。
この前、スタンダード&プアーズ社というところで格付け評価をしていただきまして、
キャノン、味の素、TDK、キリンビール、NTTドコモ、東京電力さんと同等のAA−
評価を受けたというところです。ベンチャー企業も、東大さんと比べものにならないぐら
い 少 な い ん で す け れ ど も 、 10 ほ ど 出 て お り ま す 。 き ょ う も 、 た ま た ま 夕 方 か ら 、 弊 学 の 村
上教授がバイオベンチャーの分科会でお話しさせていただくと思います。バイオマトリッ
ク ス 研 究 所 の 村 上 康 文 教 授 が 、10 あ る ベ ン チ ャ ー 企 業 の な か で 最 も 成 功 し て い る と こ ろ で
す の で 、も し ご 興 味 が あ れ ば 、是 非 お 話 を 聞 い て い た だ け れ ば と 思 い ま す 。遺 伝 子 の 検 査 、
研究開発並びに開発技術の提供、理化学、医学用機器の製造、輸入輸出販売としておりま
す。
さきほどのフランクリンと関連するんですが、東京理科大学も、専門職大学院を大々的
に と い い ま す か 、 昼 間 、 夜 間 も 含 め て 、 1 学 年 100 名 近 く を 募 集 し て 、 2 年 制 で す が 、 知
財戦略専攻という格好で、知的財産立国の整備に向けて、まず、人づくりというところで
開設予定です。細かいところは、昨日、文部科学省に設置申請に行った時に、認可されて
い な い う ち に は 、 あ ま り 情 報 開 示 す る な と 言 わ れ て お り ま す の で 、 ま た 、 11 月 下 旬 以 降 、
皆様にきちんとした格好で、こういうカリキュラムで、こういう教員でやらせていただく
と宣伝広告なり、ご紹介をさせていただくことになると思いますけれども、隅藏先生にも
ご協力いただいて、いま、専攻を整理しているところでございます。是非とも、知財に関
して、本当に知財立国というのは日本で重要だと思います。皆さんもご存じのとおり、い
くら技術開発をしても、アジア諸国で簡単に真似をされて、模倣品が出てしまっている。
やはり知財で守っていくのがひとつの施策かと思いますので、こんな暑い土曜日に来てく
ださるぐらい、皆さんの知財マインドも高いので、知財マインドを自分のところでホール
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ドするだけでなくて、ほかの職場とか、学校に戻って、こういった知財マインドを皆さん
に伝播していただいて、五穀豊穣という言葉がございますけれども、世界調和のもと、日
本の産業経済が発展するように、研究会員の皆さんが知財マインドをどんどん広げていた
だければと思います。私の稚拙な講演でしたが、ご清聴いただきまして、ありがとうござ
い ま し た ( 拍 手 )。
隅藏
どうもありがとうございます。それでは、残りの時間で、平塚先生に対して、ご質
問、コメントなどがございましたら、いただければと思いますが、どうぞ。
質問者1
どうも丁寧なご講演をありがとうございました。このなかで、米国特許法入門
のところで、三倍額賠償というのがございますね。その点について、教えていただきたい
ん で す が 、普 通 、ト ー ツ と か 、シ ビ ル ラ イ ア ビ リ テ ィ の 場 合 は 、ピ ュ ニ テ ィ ム・ダ メ ー ジ 、
懲罰的な損害賠償がありますよね。多分ここは米国特許ですから、これはフィデラル・ロ
ーだと思うんですが、ここではフィデラル・ローとして、ピュニティム・ダメージの上限
を規定しているという解釈でよろしいんでしょうか。
平塚
すみません。もう一度最後のほうをお願いします。
質問者1
要するに、実際の損失の3倍までという枠を多分ここで決めているという具合
に理解したんですが、ここでピュニティム・ダメージとして、3倍までの上限を決めてい
るという。
平塚
上限というか、三倍行為だということで、3倍だと。
質問者1
平塚
要するに、逆に、ピュニティム・ダメージは、それ以上はだめだと。
それ以上はないかと思います。アッパーだとキャップをつけていると思います。で
す か ら 、 2 倍 の こ と も 当 然 ご ざ い ま す 。 こ の 時 に 特 許 法 284 条 で 、 三 倍 額 賠 償 と い う も の
が改めて規定されたんですが、それまでは三倍額賠償がなかったかというと、そんなこと
はないんですね。やはり二倍賠償、三倍賠償というのがあったんですけれども、ここでヤ
ング・レポートという格好で、三倍額賠償を奨励するではないですけれども、積極的に使
っていいよというところで出したというところですので、プリミティブだという解釈で私
はよろしいんじゃないかと思っております。
質問者1
平塚
どうもありがとうございました。
私は残っていますので、個人的に留学等でご相談がありますれば、僕のところに来
ていただければ。
質問者2
講演をありがとうございました。東京大学の吉田と申しますが、米国の特許の
特有な制度のところでお聞きしたいんですが、
「 ④ 出 願 公 開 は 外 国 対 応 出 願 の み 」と あ っ た
んですが、これは法改正以前は外国対応出願も公開されなかった。
平塚
ええ、出願公開制度自体がなかったんです。
質問者2
そのメリットは何でしょうか。日本の場合だと、出願すると全て公開されて、
特許にならなくても、あとから。
平塚
後願排除効ですね。
質問者2
はい、そうですね。後願排除効があると思うんですが、逆に公開しないことの
メリットは何ですか。
平塚
サブマリンですね。企業は気が付かないですね。日本でしたら、遅くとも1年半後
に必ず全ての出願は公開されますので、ある特定の企業のたとえばカメラだったらカメラ
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に関する出願公開をモニターしていれば、将来、どれが権利になるかというのは予測がつ
くんです。あるいは権利にならないか。ところが、アメリカの特許の場合は、公開制度が
ないということで、そういうことがわからなかったわけです。それは特許権者にとっては
特に有利だったわけです。潰す材料も出されません。出願公開すれば、日本で言えば、情
報提供等いろいろあるんですが、第三者も審査請求できますし、無効にするための材料を
取り揃えて、無効化もできますし、あるいはどうしても無効にできないのであれば、設計
変 更 と い う こ と も で き る わ け な ん で す 。こ の 特 許 を 外 そ う と 。こ れ は 特 許 に な っ て し ま う 。
無効化できない。だったら、設計変更しましょう。それから、市場に投入しましょうとい
うことも可能なんですけれども、公開制度がないと、もう市場に出回っちゃったと。存在
すらわからないですから、何が特許になるのかと。たとえばミノルタのカメラのαシリー
ズ が ボ ン と 売 れ た 頃 を 見 計 ら っ て 、特 許 が 突 然 飛 び 出 す 。ま さ に サ ブ マ リ ン で 眠 っ て い た 、
潜水艦状態にあったものが突然飛び出してくると、特許権者に非常に有利で、権利侵害を
し て い た こ と も わ か ら な い わ け で す 。い き な り 侵 害 だ と い う こ と で お 金 を と ら れ て し ま う 。
あ る い は 、差 止 め に な っ た ら 、商 売 を や め ろ と 言 わ れ て し ま う 。こ れ は 特 許 権 者 に と っ て 、
非常に有利で、有利すぎるものだったわけです。以上のようなことで、ご回答になります
でしょうか。
ということで、アメリカの特許制度は、国際調和、ハーモナイゼーションの観点から見
ますと、非常にぶーぶーと言ったらおかしいですけれども、非常に文句が出ています。こ
れは独断じゃないかと。国際調和、世界特許制度という構想にもつながらないですし、こ
れは問題となっております。
隅藏
ほかに何かございますでしょうか。私から1点。NASAの技術移転のところにつ
いて、お聞きしたいのは、NASAの技術に基づいてベンチャーもできているということ
で し た け れ ど も 、そ れ が ほ か の 用 途 に い く ん だ っ た ら 、別 の ル ー ト も あ る ん で す け れ ど も 、
主にたとえばロケットの部品ということですと、使うのは結局NASAじゃないですか。
そうすると、NASAの側がベンチャーとか下請けに対してすごく強い立場にあるという
か。
平塚
なりますね。
隅藏
最終的に、それで、私は調べた話ではないんですが、噂として聞いた話だと、NA
SAが強い立場であることをいいことに、下請けが権利を持っているものも、特許の権利
をあまり守っていないケースもあるんじゃないかというような。
平塚
噂を私も同様に聞いております。そういう弊害はございますね。
隅藏
ですから、ほかの分野と違って、たとえばロケットなんかはNASAだけしか飛ば
せないわけで、そういう独占的な地位にあることの特徴というか、問題点、お気づきの点
がございましたら。
平塚
いや、そこまでは、私はまだ内情を。なかなか向こうも悪いことは私のコンタクト
も話さないもので、いい話しか聞いていないんですが、主にロケットの部品というよりは
材料のスピンアウトが多いですね。素材、スペースシャトルの実験等で得られた素材等、
あるいはスペースシャトルをつくる過程で得られた耐久性の高いセラミックスとか、そう
いった素材を提供するということも多い事例だと聞いております。
下請けに対して、強い立場を利用して、好ましくない、あまり優遇しないというのは、
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NASAだけに限らず、いろいろとあるかと思いますが、NASAとしては、テクノロジ
ー・トランスファー・ネットワークというのをきちんと整備して、アメリカの競争力を高
めようというふうな基盤整備ができていることに非常に着目はしております。旧宇宙開発
事業団でも、この前の京都の産学連携の取り組みでも、お話を聞かせていただきましたけ
れども、それを見習ってどんどんやっていくという方向です。是非そういうところを日本
でも見習えればいいのではないかなと思っております。いいところだけを吸収して、悪い
ところは吸収しないというところです。これから鋭意調査させていただいて、調査に値す
るものがあれば、報告するに値するものがあれば、皆様にお話しできる機会があれば、し
たいかなと思っております。
隅藏
ほかに何かございますでしょうか。きょうは、アメリカの特許の話と、NASAの
話と、そして、知財の大学院の話、それから、東京理科大の取り組みの話といろんなお話
をいただきましたけれども、この機会に。
平塚
あとは個人的に私のところに来ていただいても、お話しできる範囲でお話しさせて
いただきます。留学相談とかですね。
隅藏
そうですね。留学をする時には、入学資格というのはどういうふうになっているん
でしょうか。
平塚
MIPの場合は、やはり大卒及び学士を取ったのに準ずる資格を有していることに
加 え て 、 英 語 力 、 T O E F L 530 以 上 と か 、 そ う い っ た も の が ご ざ い ま し た 。 そ れ だ け で
す。あとはもう授業のコントリビューションと評価という感じで、あまり入り口は狭くな
いと思います。
隅藏
よくLLMという法律のマスターのコースだと。
平塚
リーガル・ロー・イン・マスターですね。
隅藏
日本で法学部を出ていないといけないという縛りがあるところがありますが。
平塚
そうですね。MIP以外にLLMを授与されるんですが、それは法学部出身である
こ と が 要 件 で す 。一 応 法 律 の 修 士 号 で す か ら 、法 学 部 以 外 の 方 の 理 系 出 身 者 で 、Master of
Intellectual Property と い う 格 好 に な っ て い ま す 。 L L M と い う 記 載 を 漏 ら し て し ま っ
たんですが、法学部出身者であれば、LLMを授与されます。
隅藏
そうですか。コースは同じなわけですね。
平塚
はい、コースは全く同じです。ただ、法学部出身者であれば、希望すれば、LLM
ももらえますし、MIPのほうがいいと言えば、MIPもいただける。
隅藏
両方はもらえないわけですね。
平塚
両方同時にはもらえなくて、二者択一だったと思います。
隅藏
入学したら、何%ぐらいの人が卒業できるんでしょうね。
平塚
実は、DIPというのが救済策なんです。MIPの前にDIPという半年間のコー
スがありましたけれども、要は、MIPでドロップしてしまいそうな人は前期でわかっち
ゃ う わ け で す ね 。途 中 で 帰 り た い と 。学 費 は 1 年 間 300 万 ぐ ら い し ま し て 、高 い ん で す よ 。
ですから、正直なところ、僕は自費だったら、DIPで帰ってしまったかもしれないんで
すが、組織のお金をいただいて、組織の同僚、後輩、先輩方が働いているなか、お勉強さ
せていただくので、なんとかMIPをもらって帰らないとまずいというところもありまし
て、DIPじゃなくMIPで帰ってきたと。DIPが実は救済策の一面がございます。前
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期でこれ以上は無理だなという人のための救済策で、DIPをあげるよと。これは裏話で
すね。要は、表面上、ドロップがないように見えます。MIPで入ったんだけれども、D
IPに切り替えて、半年で帰るというところで、そういう救済策がありましたので、私の
学年では、全員コンプリートしました。ちなみに、DIPを授与されて帰った方は5名ほ
どおります。
隅藏
なるほど。それではあとはよろしいでしょうか。また個別にご質問をいただければ
と思いますが、きょうは、非常に多岐に亘るお話をいただきまして、また東京理科大の今
後の取り組みについては、今後いろいろアナウンスもあるかもしれないということで、き
ょうは、平塚先生、どうもありがとうございました。
平塚
皆様、お暑いなか、お集まりいただきまして、ありがとうございました。今後とも
よ ろ し く お 願 い い た し ま す ( 拍 手 )。
(終了)
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