米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査

米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
橋場 義之
はじめに
フリーペーパー(無料新聞)が世界を席巻している。スウェーデンの放送
会社「MDG」が1995年2月、ストックホルムで無料日刊紙『メトロ』を創
刊して以来、『メトロ』はいまや世界16カ国で発行されるほどの成功を収め
るまでになった。これをきっかけに、各国で多くのフリーペーパーが登場し、
既存の有料紙の基盤を危うくさせている。韓国・ソウルでは『メトロ』を含
めて6紙が発行され、一般紙の街頭販売やスポーツ紙の売れ行きにも影響が
出ているという1。
米国の日系社会で重要な位置を占めてきた有料日系紙(邦字紙)も例外で
はない。筆者は2004年夏、他の研究者2人2とともに日系紙調査のためカリ
フォルニアを訪れ、聞き取り調査を行ったが、代表的な日系紙である羅府新
報(ロサンゼルス)、北米毎日新聞(サンフランシスコ)の経営者・編集者
たちも一応に、こうしたフリーペーパーの登場に危機感を抱いていることが
分かった。
インターネットとフリーペーパー。この2つは、国を問わず、伝統的なメ
ディアである新聞(有料)の基盤そのものを揺るがしている大きな現代的要
因であることは否定できない。そこで、本稿はこうした問題意識をベースに、
日系紙と合わせて聞き取り調査をしたカリフォルニアの有力フリーペーパー
2紙について、その現状や発行側のメディア観などを報告する。
なお、一般的に「フリーペーパー」と呼ばれるメディアには、生活情報紙
や雑誌なども含まれているが、本稿では「ニュース」を中心に扱う、日刊ま
たは週刊の、無料の新聞という意味に限定して使用する。
1
『新聞協会報』2005年1月25日付
澁澤重和・昭和女子大教授と村野坦・日本新聞協会審査室審査委員
2
−29−
米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
験者である。そうした彼らがあえて新聞発行に踏み切れたのは、最も肝心な
コンテンツに関して、サンケイスポーツやデイリースポーツといった既存の
スポーツ紙との提携ができたからであろう。
さらに、日刊サンの初期には、文字通り提携紙の記事の切り張りで苦労し
たとはいえ、デジタル技術とインターネットの普及に伴って、紙面作りが格
段に簡易化されたことが大きいことは見逃せない点であろう。「今では世界
中どこでも作ることが可能な業界です。コンピューター上で製作した紙面を
ファイルの形で印刷所に送っていますから、極端なことを言えば、日本語が
分かるということを前提にすれば、電話線があれば、北海道でも東京でも九
州でもハワイでもタイでもどこでも新聞は作れるんです」という牧野の言葉
が象徴的である。
読者層については、両紙とも「日本人」を対象にしている。米国における
日本語新聞といえば、移民後に定住した「日系人」を対象にしている「羅府
新報」のような「日系紙」のイメージが強いが、両紙はそうではない。この
ことは、週刊ベイスポの読者調査が端的に物語っているといえよう。
こうした読者層をターゲットに想定することは、記事内容にも必然的に反
映されることになる。記事の内容については、両紙ともその主たる分野を「ス
ポーツ・芸能」に集中している。また日本のスポーツ紙に共通する風俗情報
や競馬・競輪情報を除いているのも同じである。一般の新聞は、ストレート
ニュースを継続的にフォローすることで「世界のいま」を描こうとしている。
すなわち、
「ニュースの継続性」が重要な特徴であるが、両紙の場合はスポー
ツ・芸能の分野のニュースに限定しているとはいえ、話題中心であり、「継
続性」についてはそれほど重要視していない。週刊ベイスポの場合は、発行
が週刊であるだけにその傾向が一層強くなるのも当然であろう。
通常の日本のストレートニュースはいまや、海外にいてもインターネット
を通じて容易にアクセスすることが可能になった。また、日本の若者にとっ
ては「ニュース」はテレビで“見る”ものというのが常識になっているとも
いわれる。そうしたことを踏まえ、牧野と小野里のメディア観に触れる発言
を紹介することで本稿を締めくることにする。活字媒体としてのフリーペー
パー、そして既存の有料新聞の今後を占う上で、無視できない声を反映して
いると思うからである。
<日刊サン・牧野>
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橋場 義之
5. 職業
6. 家族構成
(同社HP http://www.bayspo.com/about/index.html 「2004年度市場調査」から)
6.経営
一部で有料の購読もあるが、主力は広告収入である。しかし、前述の日刊
サンとは違って、広告を出してもらった店に必ず配布する、というのではな
く、実際の配布先は広告とは切り離して別に考えているという。
小野里は、これまでの苦労と自信を次のように語った。
「今でこそかなり問い合わせが入るようになってきました。しかし、発行
当初はまったく逆で、当初はうちの方から営業に行ったって、“こんなもの
は読まないよ”“ ベイスポって何?”“あなたどこの誰?”、やっぱりそうい
う反応でしたね。無料ですから、皆多分ありがたがって読むだろうとタカを
くって・・・。いや、いや、なかなかベイスポという名前が浸透しなかったで
すね。名前が通ってきたというのが(スタートしてから)半年終わった時で
すね。しっかりお客さんの方から、“広告を載せたいんだけど”と連絡いた
だけるようになったのは、ここ2年ぐらい」
おわりに
これまで見てきた2つのフリーペーパーの概要から、いくつかの共通する
点を抽出してみたい。
まず、両紙の発行人について。日刊サンの牧野がカメラマンとして日米を
舞台にゴルフなどのスポーツを対象にジャーナリズム活動をしてきた点を除
けば、牧野も週刊ベイスポの小野里も、新聞発行に関してはまったくの未経
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米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
<図3>
■ 読者プロフィール グラフの( )内の数字は、昨年のアンケート時の数字
景気の回復に伴い駐在員、会社員の方々が大幅に増加。高学歴も相変わらず!
1. アメリカでの滞在期間
2. 年齢
48%の方々がベイエリア在住5年以内と
最も購買力がある層がBaySpoの読者全体
なっています。これは駐在員、研究者が
の80%を占めています。
多いシリコンバレーという土地の特性を
40代の方々が昨年比5%増となりました。
よく表しています。
3. 性別
4. 最終学歴
今年も圧倒的に女性読者の多さが目立ち
4年制大学卒業以上の読者が全体の約55.5
ました。
%を占めています。
昨年度:女性58%、男性42%
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橋場 義之
る」(小野里)というだけに、読者層は幅広い。
中でも、女性の読者が約6割を占める。スポーツ紙というと男性の新聞と
いうイメージが強く、「イメージがなかなか女性とつながらなかったんです
よ。それでちょっとロゴの色を女性っぽく暖色系を使って、丸っこくしたん
です」(小野里)という。広告の内容も、食べ物とか美容に関するものが多
いのは、女性をターゲットにした戦略といえそうだ。
(同紙が調査した利用状況と読者プロフィールは、下記の図2、3を参照)
<図2>
■ ベイスポ利用状況 グラフの( )内の数字は、昨年のアンケート時の数字
ベイエリアのほとんどの方が、毎週ベイスポを楽しんでいます!お家での購読者が多
いから、保持性も抜群!
1. ベイスポをどこで読んでいますか?
2. どのくらいの頻度でベイスポを読んで
いますか?
自宅での購読が圧倒的に多くを占めてい
ることから、BaySpoは保持性の高い新聞
であることが伺えます。
BaySpoは、毎週発行しているので、読者
の95%の方々がほぼ毎週BaySpoを読んで
いることがわかります。「ほぼ毎週欠かさ
ず」の読者が圧倒的に増加しています。
(同社HP http://www.bayspo.com/about/index.html 「2004年度市場調査」から)
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・ ローカルニュース(地元ローカルニュースのダイジェスト)
・ シリコンバレービジネスニュース
・ ベイエリア街のお医者さん(医療・医者情報)
・ ベイスポカントリークラブ(ベイエリアゴルフ場・ゴルフクラブ情報)
・ ベイエリアのイベント情報
・ ベイエリアの不動産情報
・ クライシファイド
・ ベイエリアで暮らす(ローカルで活躍される日本人のインタビュー)
・ その他特集記事
4.デリバリー
配布先(図1を参照)は、日系人が1週間に1回は行くであろうスーパー
マーケットや書店、レンタルビデオ店、日本食レストランなど約200カ所。
紙面データは水曜日に印刷会社に渡し、木曜日の朝に印刷が出来上がると、
専属契約している配達会社が木曜日、金曜日にかけて配達して回る。スター
ト当初は「自分達で車に積んで、朝から晩まで配っていました」(小野里)。
<図1>
配布地域
北カルフォル二ア
・ バークレー
・ サンフランシスコ
・ サンノゼ ・ シリコンバレー
・ サクラメント
・ サンタクルーズ
・ モントレー
(同社HP http://www.bayspo.com/about/index.html 「媒体概要」から)
5.読者層
読者対象としているのは、日本から来て生活している日本人。「日本のス
ポーツ・芸能というコンテンツが老若男女問わず皆さん興味を持っておられ
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橋場 義之
布している(有料購読も一部ある)。日本のスポーツ紙「デイリースポーツ」
と提携し、日本のスポーツ・芸能ニュースを中心に掲載する。地元ニュース
も取材・掲載している。
2.設立経緯
小野里は、1995年にカリフォルニア州立サンノゼ大学卒業後、1996年に同
社を設立。当初はシャブシャブ屋を開く計画もあったが、1995年にロサンゼ
ルス・ドジャースに来た野茂英雄の試合を見に行っていた時、ロサンゼルス
で日刊サンに出会った。これがヒントとなり、「サンフランシスコの市場向
けに工夫すれば商売として面白いものになると考えた」(小野里8)という。
3.制作・編集
2003年4月から提携しているデイリースポーツから、インターネットで記
事・写真を受け、自社用にコンピューターでレイアウトしている。それ以前
は、別の通信社(固有名詞は不詳)から同様に行っていた。この時は、一般
ニュースも掲載していたが、即時性の強いニュースはネット上で見ることが
できることから「スポーツでもストーリー性のある記事」が中心だという。
同紙の特徴は、デイリースポーツのどの記事を選ぶか、そしてどのような
紙面レイアウトをするかを、すべて日本在住のスタッフにまかせていること
だ。編集長で副社長の鶴見洋は「日本で何が話題になっているか知りたいと
いう読者が多い。ですから、日本側に記事をピックアップさせています。全
部が全部日本で作るのではなくて、広告はもちろんこちらで作るので、スペー
スを空けておくよう指定する。日本側で作り上げたものを社内にあるうちの
サーバーに電子的に送ってきます」9と明かす。もちろん、米国側スタッフ
にも記者が5人(社員2人と、学生のインターン3人)いて、ベイエリアの
地元ニュースをカバーしている。
記事の締め切りは、発行の前週の水曜日だ。
<主なコンテンツ>
・ 最新芸能&スポーツ記事(デイリースポーツ社提供)
・ グルメガイド(レストラン情報)
・ ビューティークラブ(美容&健康情報)
2004年9月3日、サン・マテオ市内の週刊ベイスポ編集局でインタビュー。以下、小
野里の発言はすべてこのインタビューによる。
9
鶴見のインタビューも上掲の小野里と同じ。
8
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米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
6.経営
創刊当初は有料だった。最初の1年は25セントで、あとは50セント。1年
目は2千部ほど、2年目からは4千部ほど発行した。スタートから14年後の
1998年から無料化に踏み切ったが、その理由は①広範囲の流通に伴う集金上
のネック。個人宛の郵送は前払制とはいっても有料の読者をつなぎとめてい
くのがむずかしい②書店での一般販売にも限界があった③当時、周囲にも隔
週のフリーペーパーが増えてきた――などである。
収入源としての広告については、営業担当スタッフ3人が集稿している。
広告を出してもらう代わりに、広告を掲載した新聞を配達するというバー
ター方式だ。特に同紙が他のメディアと違って有利なのは、求人広告のペー
ジが充実していることだという。3ページ半の紙面をこれに当て、週1回の
掲載を最近は週2回に増やしている。余りディスカウントしない広告なので
「これがなかったら、とっくにつぶれていますよね」と牧野。求人広告全体
の3分の1から半分が寿司職人の求人で占められているのは、ロサンゼルス
における近年の寿司ブームが大きく反映しているのだそうだ。
ただ、牧野によると、すでに決まっている配達ルートから大きくはずれた
ところにある店などへの配達が難点だという。また、広告を出してもらって
いなくとも新聞を配っているのが、「10軒か20軒はある」という。
Ⅲ.週刊ベイスポ
The Japanese Weekly Entertainment Paper BaySpo
1.概要
創刊は1999年5月7日。日刊サンが無料紙となっ
た1年後のことである。発行元は、「Inter-Pacific
Publications,Inc.」社(サン・マテオ市)。小野里
晃(1969年生まれ)が1996年に設立した。小野里
は同社CEO兼会長。タブロイド版32 ∼ 40ページ建
て一部カラーで、毎週金曜日発行。サンフランシ
スコ、サンノゼなど北カリフォルニアの、サンフ
ランシスコ湾を囲むベイエリアと呼ばれる地域で
週刊ベイスポ2004年9月3日
毎号約2万部(当初は約1万部だった)を無料配 付1面
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橋場 義之
とか非常に少ないんですね。ですから、テクニカルな部分だけでカバーして
きた。始めたころはファックスが非常に遅くて1日分送るのに2時間ぐらい
かかるんですね。そのころは電話代が高かったですから、だからファックス
で2時間かかっちゃうと、国際電話2時間使うわけで、毎日ですから、それ
が大変でしたね」
4.デリバリー
紙面が刷り上るのは、午後2時ごろ。それから3人のドライバーが、リト
ル・トウキョウ周辺からロサンゼルス郡南部とオレンジ郡東北部の日系人客
が多いレストランやスーパー、書店など約150カ所に配布している。ロサン
ゼルス郡は東京都と同じくらいの広さがあり、ロサンゼルス市以外に市が数
十もあるため、運転手は1日1人で160キロ走って、新聞を届けている。だが、
配達地域が広いということと交通渋滞もある上、「(厳密な工程時間が決まっ
ていないため)例えば、今日は(午後)1時半に出来るけど、明日は2時と
か、そういう時間のずれがある」(牧野)ので、なかなか配達時間が決まら
ないのが悩みという。
5.読者層
毎日約1万部を発行している同紙だが、どんな読者層なのか。牧野は、日
系人ではなく、国籍や老若を問わず“日本人”なのだという。また、実質的
な読者は、発行部数の約2倍はいるともいう。
牧野はこう語っている。
「私たちの読者は、日系人じゃない。簡単に言うと日本人です。国籍を持っ
ている、持っていないということとは別。うちの新聞は全部日本語ですから、
日本語の読み書き、少なくとも読めない限り、読まれない」
「読者は1万人どころじゃない。新聞1部を1人では読んでないからだ。
例えば、レストランに20部配りますね。最初の10人は(手にした1部を)持っ
て帰る。残りの10部は来た人が皆読んで置いて、読んで置いて…ですから、
そのレストランに50人日本人きたら、そのうちの35人は読んでいると思うん
ですね。だから、
20部置いたら実質的には倍ぐらい読んでいると思うんです」。
「日本に関心のない人、日本人でも日本に関心のない人はたくさんいる。
これはむしろ若い人の方に多い。年を取れば取るほど、回帰というか、日本
の出来事、および日本に対する郷愁とかから目が日本に向いてくる」
−36−
米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
「私はここ(ロサンゼルス)に1965年に来ているんですよ。来たころは日
系の新聞が3つあったんですよね。羅府新報さんと加州毎日さんと新日米と。
これが大体均衡していたんです。羅府新報さんが部数的にはちょっと上でし
た。新日米さんがつぶれまして、そのお客さんはどういうわけか羅府新報さ
んに行って、加州毎日は廃れる一方、広告なんかなかなか出していただけな
い。羅府新報は広告がいっぱいで、出したくても出せない。私は新聞事業に
それほど興味があったわけではないですけれど、それでもっと新しいメディ
アがあった方が良いんじゃないかと。また、当時、読売新聞刷っていたんだ
けど当時はフィルムで持って来てたんですよ。ですから、1日遅いんですね。
それで、これは素人考えですけれど、最初はファクスで日本とリアルタイム
で出来るんじゃないか、ということで、私は1976年ぐらいからサンケイスポー
ツでゴルフの記事を書いたり写真を取ったりして、原稿送っていたので、そ
ういう関係で共同通信にも知っている方がいて、じゃあ、この両方から記事
をもらってそれで、ここで細々とやってみようか、それが始まりの動機です
ね」
3.制作・編集
提携している日本のスポーツ紙『サンケイスポーツ』からゲラ段階のスポー
ツ・芸能記事をもらって、必要なものを選んで紙面構成するのが基本的なや
り方だ。2003年以降現在は、PDFで記事を送ってもらい、それを米国側で
プリントして切り貼りしている。構成された紙面はスキャンし、ファイルで
印刷業者に渡している。一般ニュースは共同通信からの配信を受けている。
制作スタッフは米国側4人、日本側1人。
スタートからしばらくは、朝刊のゲラ(校正紙)を毎日日本からファクス
で送ってもらい、切り張りしたものをフィルム化した。その後、日本にいる
スタッフがゲラをスキャンし、それをインターネットで送ってもらっていた
こともあった。
ブランケット版の新聞をタブロイド版にするのだが、当時のファックスは
画質がよくないので、約30%拡大したゲラをファックス送信してもらい、そ
れを縮小することで比較的きれいな紙面になったという。写真は小さくでき
ないので、記事の分量で紙面配分を調節している。
牧野は、スタート当初の苦労をこう話している。
「基本的にうちの新聞はほとんど全部が日本から来る記事で、現地で取材
−35−
橋場 義之
在、全米日本語プリントメディアの中で最高部数(ロサンゼルス版5万部・
サンディエゴ版1万部、各月2回発行、月間合計12万部)を誇る情報誌へと
成長」6している。海外で発行されている日本語メディアとしては最大級の
発行部数といえよう。取り扱うテーマは、地元の生活情報から日本の芸能情
報、世界の時事問題まで多岐にわたっている。サイズは横265ミリ、縦335ミ
リの変型で、右開き縦書きのカラー印刷。2004年9月1日号は152ページだっ
た。
Bridge U.S.A. の創刊は1989年6月。やはりカリフォルニア州トーランス
市に設立されたBridge U.S.A.社が、発行している。サイズは横がA4と同
じ210ミリ、縦はA4より23ミリ長い320ミリ。右開き縦書きのカラー印刷。
ロスアンゼルス版は毎月1、15日の2回発行(推定読者数 35,000)
、サンフ
ランシスコとサンノゼの各版は毎月1日発行(推定読者数15,000)
。2004年
9月1日号は124ページだった。同社は出版のほかラジオ放送やイベントの
企画運営などの事業も展開している。
Ⅱ.日刊サン The Japanese Daily Sun
1.概要
創刊は、1984年7月6日。ロサンゼルスのダ
ウンタウンの一角にある「リトル・トウキョウ」
で、牧野泰(1939年生まれ)が設立した。発行
形 態 は 無 料 の タ ブ ロ イ ド 版 日 刊 紙( 日 祭 日 休
刊)、32ページ建て(発行当初は8ページ)。発
行部数はロサンゼルスを中心に約1万部。日本の
スポーツ・芸能・社会に関するニュースが中心
だが、政治・経済・国際などの一般ニュースも。
創刊当初は有料で、1部25セント、1年後に50
セントに値上げした。1998年から無料化した。
日刊サン2004年9月1日付1面
2.設立経緯
牧野は次のように語っている7。
6
同社HP http://www.us-lighthouse.com/profile.htm
2004年8月30日、ロサンゼルス市内の日刊サン編集局でインタビュー。以下牧野の発
言はすべてこのインタビューによる。
7
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米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
毎週1回(金曜日)
ニュース、生活情
報、スポーツ、芸
能、娯楽、地域情
報等
405 Publishing LLC
2161 W. 182nd. St. #105
Torrance, CA 90504
T:
(310)329-1533
Lighthouse
(ロサンゼルス版)
毎月2回(1日、
16日)
ニュース、生活情
報、スポーツ、芸
能、娯楽、地域情
報等
www.US-Lighthouse.com
Lighthouse
(サンディエゴ版)
毎月2回(1日、
16日)
ニュース、生活情
報、スポーツ、芸
能、娯楽、地域情
報等
www.US-Lighthouse.com
San Diego ゆうゆう
毎月2回(1日、16日)
ニュース、生活情
報、スポーツ、芸
能、娯楽、地域情
報等
655 Ruffner St. #290
San Diego, CA 92111
T:
(858)576-9016
TV Fan
毎月1回(10日)
TVガイド、日系
人の歴史、随筆、
料理紹介等
www.tvfanshop.com
U.S. Frontline News
毎週1回(金曜配布)
NY,LA生活情
報、ニュース、イ
ンタビュー、通信
販売案内他
www.usfl.com
La La La
英字新聞 (南カリフォルニア)
機関名
Cultural News
Sushi and Tofu
放映時間
内容
連絡先
毎月1回(1日)
日本に関する文
化紹介、行事紹
介等
www.culturalnews.com
毎月1回(月末)
日本食文化、レ
ストラン情報、
ニュース一般、
観光情報等
www.sushiandtofu.com
上記<表1>の「日本語情報誌」に分類されている中で、多くの読者層を
獲得しているのが、LighthouseとBridge U.S.A.である。
Lighthouseは1989年1月創刊。カリフォルニア州トーランス市にある
TAKUYO CORP.が、ロサンゼルスを中心に月2回発行している。
「2003年現
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橋場 義之
UTB
(KSCI/Ch18-LA ,Ch
48-SD)
月―金 7:30-8:00a.m.
土8:00-10:00p.m.
日9:00-10:00p.m.
ニュース、娯楽番
組、大河ドラマ、
情報番組等
www.utbhollywood.com
日本語ラジオ (南カリフォルニア)
機関名
放映時間
内容
月―金 8:00-9:00 a.m.
ニュース、娯楽、
歌謡番組等
www.bridgeusa.com
日系コミュニテイラジ
日 12:30-1:30 p.m.
オ(AM 1460)
ニュース、宗教、
音楽、朗読他
Nikkei Community Radio
10132 Woodman Ave.
Mission Hills, CA 91345
T:
(818)893-8232
TJS
毎日
(専用受信器が必要) 4:00 a.m.-1:00 a.m.
ニュース、音楽、
娯楽、スポーツ、
生活情報等
www.tjsla.com
Bridge USA
(FM106.3)
連絡先
邦字新聞 (南カリフォルニア)
機関名
放映時間
内容
連絡先
羅府新報(日・英語) 日刊(日曜休刊)
毎日新聞抜粋記事、 羅府新報社
ニュース、生活情 259 S. Los Angeles St.
報、コラム、川柳、 Los Angeles, CA 90012
スポーツ等
T:
(213)629-2231
日刊サン
日刊(日曜休刊)
スポーツ、芸能、
ニュース等
Nikkan San
340 E. 2nd St, #330
Los Angeles, CA 90012
T:
(213)617-3670
US Japan Business
News
毎週(月曜)
企業ニュース
312 E. 1st St. #300
Los Angeles, CA 90012
T:
(213)626-5001
日本語情報誌 (南カリフォルニア)
機関名
Bridge USA
放映時間
内容
毎月2回(1日、
15日)
ニュース、生活情
報、スポーツ、芸
能、娯楽、地域情
報等
−32−
連絡先
www.bridgeusa.com
米・カリフォルニアの日系フリーペーパー調査
いまは7千5百部」(伊達民彦・北米毎日編集長)5に落ち込んでいるという。
<表1>は、在ロサンゼルス日本総領事館がそのHPでアップしている「日
系メディア」の一覧である。カリフォルニア州の場合、南カリフォルニア地
域を在ロサンゼルス総領事館、中北カリフォルニア地域を在サンフランシス
コ総領事館がそれぞれ分けて管轄しているが、在サンフランシスコ総領事館
のHPには同様のデータがないため、カリフォルニア州全体を包括的に捉え
ることはできなかったので、あくまで参考としておきたい。
なお、今回の調査で判明した限りでは、サンフランシスコなど中北カリフォ
ルニア地域の日系活字メディアとしては、前掲の『北米毎日新聞』と『日米
タイムス』の他に、無料紙・誌として『週刊ベイスポ』、
『Bridge U.S.A.』、
『Front
Line』『Avenue』『Japan Sports』などがある。
<表1>南カリフォルニア及びアリゾナ州の日系メディア(在ロサンゼルス
日本総領事館調べ、http://www.la.us.emb-japan.go.jp/web2003/m07_12.htm
より抜粋)
日本語テレビ (南カリフォルニア)
機関名
Magicbell Comm.
Inc.(KXLA/Ch44)
放映時間
内容
連絡先
日 6:30-8:00p.m.
ニュースやドラマ、
宗教、情報番組等
www.magicbell.tv
フジサンケイ
(KSCI/Ch18-LA, Ch
48-SD)
月―金6:30-7:30a.m.
月―金
11:30p.m.-12:00p.m.
金 8:00-9:00a.m.
土10:30p.m.-11:30p.m.
日6:30p.m.-8:30p.m.
フジTVのニュー
ス、スポーツ、ま
んが、ドラマ、娯
楽番組等
www.fujisan kei.com
JATV
(KSCI/Ch18-LA,
Ch48-SD)
土7:30-8:00p.m.
報道番組(主にロ
ーカルニュース)
www.jatv.net
KEMPO-TV
(KXLA/Ch44)
土7:00-8:00p.m.
報道特集、教育番
組
23441 Golden Spring St.
#318
Diamond Bar, CA 91765
T:(909)594-9996
TV ジャパン
(ケーブルTV)
24時間放送
NHKニュース、
娯楽番組、大河ド
www.tvjapan.net
ラマ、情報、子供、
スポーツ番組等
−31−
橋場 義之
Ⅰ.カリフォルニアの日系メディア状況
今回取り上げる2つのフリーペーパーの位置を知っておくために、まず、
カリフォルニアにおける日系メディアの状況を概観しておく。
米国には、明治初期以来多くの日本人が移住し、サンフランシスコでは早
くも1886(明治19)年に『東雲雑誌』という名のタブロイド判8ページの日
本語新聞が発行された。これは短期間で廃刊になったが、サンフランシスコ
では1892年12月に初の日刊紙『桑港新聞』が、ロサンゼルスでも1903年4月
に『羅府新報』が創刊されるなど、以後、シアトル、デンバー、ニューヨー
クなど各地で数多くの日本語新聞が生まれた。これらは、消長を繰り返した
が、30紙近くが日米開戦時まで発行していた3。
カリフォルニアでは現在、ロサンゼルスなど南カリフォルニア地域の『羅
府新報』(1903年創刊)と、サンフランシスコなど中北カリフォルニア地域
の『北米毎日新聞』(1948年創刊)、
『日米タイムス』(1946年創刊)の3紙が、
主要な日刊邦字新聞として日系社会で読まれ続けている。
しかし、明治期の移民からすでに1世紀を超える現在、カリフォルニアの
日系社会も大きく変わってきた。
まず挙げられるのが、主力読者層であった日系1、2世の人口の自然減で
あり、これに伴って日本語を読める日系人の数が減少していることである。
また、長期滞在する日本人ビジネスマン等の在留邦人の数も、1990年代初頭
に起きた日本経済のバブル崩壊の影響を受けて減少した。ここ数年は増加に
転じているものの、主力日系企業での日系紙購読の需要の回復は依然みられ
ていない。一方、多メディア時代への突入とともに、日本語によるテレビ・
ラジオ、雑誌、日本の大手新聞社の衛星版、インターネット等の日系メディ
アも盛んに生まれてきている。これに加えて台頭が目立つのが、広告収入を
ベースにした無料の新聞、雑誌類、すなわちフリーペーパーなのである。
こうした社会・メディア環境の変化によって、いまや既存の日系紙の存在
は、大きく揺らいでいるというのが現状といえるだろう。事実、発行部数も
羅府新報は「20年前には2万3千部だったのが、いまは1万6千部」(長島
幸和・羅府新報編集長)4に、北米毎日新聞も「ピーク時の1万2千部と比べ、
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田村紀雄「アメリカの日系新聞百年②」
『読売新聞』1985年8月21日付
2004年8月31日、ロサンゼルス市内の羅府新報社でインタビュー
2004年9月2日、サンフランシスコ市内の北米毎日新聞社でインタビュー
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橋場 義之
「インターネットは見てもあきますよね、それに、(便利といっても)コネ
クトしなきゃいけない。(新聞社のHPの記事も)本当のリードの部分だけで
すよね。ですから、何にもないときは、リードだけで満足しているでしょう
けれども、例えば事故だとか何かあったとき、もっと見ようと思ったらイン
ターネットでは無理ですよね。そうすると、電子メディアというのは、今の
状況では、思ったより脅威ではない。ロサンゼルスでもニューヨークでもそ
うですけれど、外国にいると、確かにもっとみんなインターネットで見ると
思うんです。メディアのないところですね。例えば、日本語のメディアのな
いテネシーとか、そういうところへ行ったらみんなものすごい勢いでイン
ターネット見ていると思うんですよ。でも、活字離れしているといっても日
本人の活字に対する愛着っていうのは、とくにアメリカとか外国にいたら日
本にいる人たち以上に活字から離れにくいんじゃないでしょうかね」
<週刊ベイスポ・小野里>
「日本側の状況というのはよく見えていないんですけれども、こちらから
しますと、紙が残るか残らないかというと、僕は残ると思っています。ただ、
紙の中でも無料の紙は残るけど、有料の紙って言うのは難しいんじゃないか
なあ、と。ご存知の通り、読売新聞の衛星版がアメリカから昨年(2003年)
撤退しました。これはまったく大きな動きだと思いますね。じゃあ、朝日新
聞(の衛星版)が伸びているか、そうでもないんじゃないかなあ。まあ、こ
の地域で見れば、サンフランシスコで有料、無料紙含めてどこが一番読者が
いるか、おそらくうちだと思うんですよ。やっぱり、お金を払いたくないっ
ていう消費者の心理には、情報は無料というのが当たり前というインター
ネットが影響しているんじゃないかと思います。じゃあ、ネットでお金が稼
げるようになるかというと、またそれは難しいんじゃないか、と」。
「海外に住む日本人で、今一番不自由なのは日本のテレビが見られないこ
と。皆さんビデオを借りに行ってるんですよ。レンタルビデオ屋で、水戸黄
門ですとか、トリビアの泉とかいう日本のテレビ番組がテープに2つ2時間
分入っている。レンタルビデオ屋さんは、2本録画してから送ってきます。
それを1週間に2本、3本と借りる。それが今、インターネットで日本のテ
レビ番組をダウンロードして見れちゃう、当然無料ですし、次の日に見れる
わけですね。そういう時代になってきている。ですから次はそっちの方が、
大きな目標だと思います」
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