2015 年 12 月度 研究レポート

2015 年 12 月度 研究レポート「適材適所を実現する異動に関する調査結果」
2015 年 12 月度 研究レポート
「適材適所を実現する異動に関する調査結果」
人的資産研究所
人事施策の1つである「人事異動」に焦点を当てます.株式会社ヒューマンロジック研究所と共同開発した独自の相性ロジックを用いて,
定量的で効率的な人材配置を実現し,人材の活性化に繋げることを目指しています.調査の結果,異動により社員が退職に追い込まれたり、
逆に大きくパフォーマンスが向上したりする事例が見つかってきました.それらの事例を相性の観点から分析し,考察に結びつけます.
1. はじめに
表 1
分析によって得られたタイプ別の傾向
一般的に人事異動は「人材の適材適所の実現」
「組織の活
性化」
「マンネリ化の防止」などの目的で行われています.
企業によっては一律的なジョブローテーションという形で
タイプ
主な対象者(b)
サーベイに影響する因子
チーム全体影響型
メンバー層
チームとの相性
上司影響型
リーダー層
上司との相性
メンバー影響型
マネージャー層
メンバーとの相性
制度化され,成長に異動は必要だという固定概念のもと,
頻繁に実施している企業も少なくありません.しかしなが
ら,多くの企業では人事異動の判断に明確な基準がなく,
定性的な基準で人事異動が行われることが多いと感じます.
それは一定の判断基準で行われるとはいえ、運任せの要素
も含む人事施策であると言っても過言ではありません.
人的資産研究所では育成方程式(a)に基づき,個性(P)
上記の表から見て取れることは,メンバー層・リーダー
層・マネージャー層等の成長プロセスのフェーズごとに適
と環境(E)の相性を用いて人材育成の最適化を目指してい
正な組織は異なってくる可能性があるということです(b).
ます.人事異動は環境の変化を伴う人事施策であるため,
詳細な研究を更に進めていくことで,社員の成長プロセス
異動対象者(P)と異動先(E)の相性を定量的に測定する
を人事異動によって最適化する科学的なジョブローテーシ
ことで効率的な人材配置を実現できるのではないかと考え,
ョンが実現できる可能性があります.
本調査を試みました.
本稿に記載されている内容については、著作権は当社または正当な権利を
3. 代表事例
有する第三者に帰属し、著作権法によって保護されております。
「私的使用
3.1 異動先がミスマッチだったAさんの退職
のための複製」又は「引用」等で、著作権法上認められた行為を除き、許
A さんは当時 1~2 年目に属する社員であり,本人の意向
可なく複製、編集、翻訳、翻案、放送、出版、販売、貸与、公衆送信、送
での異動後,すぐに退職を決断しました.その要因を探る
信可能化はできません。
「私的使用のための複製」又は「引用」等を超える
べく,前章で述べた分析を実施しました.A さんはメンバ
場合の使用については、当社の使用許諾が必要です。
ー層であり,タイプは「チーム全体影響型」に当てはまる
ので,異動先のチーム全体との相性を確認しました.わか
2. 過去データの分析
りやすくビジュアル化するため,チーム内の既存社員に対
して,A さんはパーソナリティの特性上,どういったポジ
相性が人事異動の効率化に繋がるという仮説はあったも
ションに位置するのかを株式会社ヒューマンロジック研究
のの,確信的なデータがあった訳ではなく,あくまで方程
所の FFS 理論(c)を用いて独自の4象限のマップにプロ
式に基づいた仮説に過ぎませんでした.そこで,まず様々
ットしました.
(図1)
なレイヤーの社員の異動(組織)履歴とサーベイ(当社独
自運用の360度評価のスコア)の情報を取りまとめ,相
性のパフォーマンスへの影響を調査しました.
その結果
「適
正な(サーベイにプラスの影響を与える)異動先は一律に
存在する訳ではなく,社員の属性によって概ね3つのタイ
プに区分される」という結論に至りました.
(表1)
b) 厳密にはパーソナリティによって上司影響型に分類されるメンバーや
a)
G
=
P
×
E ( T +
W )
成長 = 個性 × 環境 ( チーム + 仕事 )
Human Capital Lab
チーム全体影響型に分類されるマネージャー等も存在する.
c) FFS(Five Factors & Stress)理論 株式会社ヒューマンロジック研究
所が提供.人が意識的,無意識的に考え,行動するパターンを5因子とス
トレス値で計量することで,その人が保有している潜在的な強みを客観的
に理解できる.
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2015 年 12 月度 研究レポート「適材適所を実現する異動に関する調査結果」
を見た方がいい」という結論に至りました.その後結論通
りに組織編成を進めた C さんのチームは,見事な業績をあ
げ,B さんも会社を代表する社員に一気に成長しました.
稀に見る大躍進を遂げたのです.もちろん,本研究による
アドバイスのみが要因ではありませんが,目の前で理論が
現実となっていく様子を目の当たりにでき,研究の進歩に
繋がる大きな事例が得られました.
4. まとめ
前項で述べた2つの出来事のような現象は往々にして多
くの社員の身にも起きていると考えられます.A さんはた
またま部署異動となり,
相性が悪く退職してしまいました.
図 1
A さんが異動したチームのパーソナリティプロット
逆に B さんのように相性が良い環境に異動となり,才能を
開花させることもあります.つまり,異動によって社員の
図 1 から読み取れることは,A さんが明らかにチームに
運命は大きく左右されるということです.多くの社員に異
おいて異質な存在ということです.横軸である論理性にお
動はつきものです.極端に考えれば,現在活躍している社
いてチームの既存社員たちと大きなギャップがあります.
員はたまたま運が良かった,そして苦戦している社員はた
このギャップから想定されるマイナス要因としては,コミ
またま運が悪かった,というように解釈できてしまうかも
ュニケーションのギャップが挙げられます.既存社員が論
しれません.しかし,当社ではこの不確実性の高い現象を
理的な判断を求めるのに対して A さんは直観的な判断を求
科学することを目指します.果たして相性が良かった悪か
めます.A さんが「最近の雰囲気からすると絶対にこっち
っただけなのか,そうではないのか.良くするにはどうし
の方が効果出ると思いますよ!」と提案しても既存社員か
たらいいのか.全てを明らかにすべく、研究を進めていき
らは「根拠はあるの? 思い込みじゃない? 論理的に説明
ます.
来期は戦略的ジョブローテーションをはじめとした,
できるデータは?」と反論をくらってしまいます.そのコ
異動や編成に関するサービスの開発・研究を本格的に着手
ミュニケーションのギャップがチーム全体で起きてしまう
していく予定です.
ので,A さんはまるで四面楚歌,苦悩の日々を過ごすこと
が想定されます.その結果として,A さんは退職という選
択をとったと考えられます.
3.2 異動が成功したBさんの躍進
B さんは中堅の社員でしたが,なかなか芽が出ない存在
でした.ヒアリングを実施すると当時の上司の C さんを含
め,彼を知る人は「優秀そうなのはわかるけど,なんかダ
メだよな」と口を揃えて話していました.その理由は明快
で,B さんは日本人に3%程度しかいない極めて珍しい「経
営陣に多い,リーダーシップの強い攻め型の論理的なパー
ソナリティ」だったのです.いわゆる「扱いづらいやつ」
と言われてしまうケースが多いタイプです. ただ,持って
いるポテンシャルはその分大きく,大きな成果を上げる可
能性を持っています.そこで上司の C さんと相談し,B さ
んの行く末を考えました.B さんを前項の分析結果に当て
はめると,タイプの2つ目にあたる「上司影響型」のタイ
プでした.また,B さんのパーソナリティは前述の通り極
めて強い攻め型であり,
「提案型」のワークスタイルへの相
性が極めて高いという傾向も確認できました.これらの理
由から「仕事は積極的な提案業務が中心.誰かに面倒を見
させるのではなく,比較的目上の攻め型 C さんが直接面倒
Human Capital Lab
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