円滑な教職生活のスタートをめざす アクティブ・ラーニング活用授業 (実践報告) 木村重房([email protected]) 天理大学人間学部総合教育センター教職課程(非常勤) 要旨 本稿は、学生の教員としての実践力等を高めるため、私が実践しているホワイトボー ド等を利用したアクティブ・ラーニングについての報告である。そして大学でのアクティブ・ ラーニングが一層広まることをめざす。 私は授業で以下の 3 つのプロセスを大切に積み上げ取組んだ。 第一に、教室に良好なコミュニケーションをつくり、学生の心を温めて意欲を高め、教室に 自由で創造的な雰囲気を構築する。 第二に、授業で得た知識が実践力となるようアクティビティを工夫して実施する。 第三に、現在の学校現場での多様な課題を取り上げ、その解決に挑戦する。 それらを通して、たとえ現場で壁にぶつかったとしても「孤立しないで同僚や先輩に相談し、 アドバイスや協力を得て課題解決に取組み、行動することができること」を願い授業をすすめ た内容を報告する。 キーワード 実践力 ホワイトボード ふりかえりは学びの宝庫 きく Ⅰ. はじめに 中央教育審議会の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的 に考える力を育成する大学へ~(答申)」において“生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力 を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の 伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相 互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能 動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。すなわち個々の学生の認知的、倫理的、 社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッションやディベートといった双方向の講義、演習、 実験、実習や実技等を中心とした授業への転換によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課 程教育を進めることが求められる。学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び続ける力を修 得できるのである。”と答申している。また、アクティブ・ラーニングについて同答申に附された「用 語集」では“教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取 1 − 71 − り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能 力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査 学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も 有効なアクティブ・ラーニングの方法である。”と書かれている。私はそれらから、アクティブ・ラー ニングとは教室の中でみられる普通の風景、すなわち学生が「前を眺めている・聞いている・ノート を取っている」という従来型の学習「以外」の活動も行わなければならない、と考え取組んでいる。 私は「大学教育は、知識を社会で活用する力も身につける事が求められている」と考えている。も う少し踏み込んで言うと、決して「畳の上の水練」となってはならないと、心に刻み込んでいる。そ のように考えるのは、私が大阪府立高校の校長をしていた時代に次のような経験をしたからである。 経験の浅い教職員が、受動的学修で得た知識の活用方法を誤ることから、学校現場の混乱が始まる 例も多くあった。私は、教育現場で生起している課題を受動的学修の知識だけで解決できることは少 ないと感じている。私は当時、校長としてこのような課題解決のため、人材育成に努めた。その内容 は、アクティブ・ラーニングを取り入れた校内研修を繰り返し実施し、教職員の実践力等の資質向上 であった。その結果、教職員は混乱を予測して適切な早期対応を行って、混乱を未然に防ぐ力を身に つけ、 「生徒を指導して成長を促す」取組みに集中することができた。それが「生徒の進路第一希望実 現率向上」等の成果にあらわれた。この人材育成のため、私は自分の研修力の向上に努めた。これに は強い「志と馬力」が必要であった。その過程で「アクティブ・ラーニングの魅力」に出会うことが できた。具体的には、研修に取組む教員に笑顔と拍手が絶えないくらい「楽しいと感じられる研修」 である。そして、アクティブ・ラーニングを取り入れた研修で得た内容が実践力向上に結びつくと確 信した。 私が講師として行った研修は、最初は他校や教育委員会が実施している内容の「真似」から始めた。 それを自校の状況に合うように改め、目の前の生徒たちの成長に寄与する取組をすすめ、 「生徒が自ら 学ぶ意欲の向上」と「やりがいのある教師生活」を勤務校で実現できたと考えている。そう考える根 拠は、教職員による校長評価結果や生徒・保護者・地域からの学校評価結果等が 3 年間肯定的な方向 に継続して向上したことからである。その成果を一層確かなものにするため、毎年、私が中心となり 管理職等で組織したチームで教職員の資質向上等について研究し、アクティブ・ラーニングを活用し た教職員力向上研修を実施した。その成果が認められ、平成 23 年度の優秀教職員等表彰において私 が校長として受賞した。 私が実施した方法を教員をめざす学生に実施することで、天理大学でも成果をあげると信じている。 昨年、私は教育委員会等の依頼を受け、小学校・中学校・高等学校教員研修を、職場や学校外会場で、 20 名から 200 名を対象にアクティブ・ラーニングを活用して研修講師を務めた。その内容を 4 年生 の教職実践演習の授業でも実施した。その取組についても報告したい。 Ⅱ. アクティブ・ラーニングで活用する道具や質問等 A. ホワイトボード 私は、3種類のホワイトボードと黒・赤・青のホワイトボード・マーカー、イレーザー、中ホワイ トボード用スタンドを使用した。以下に活用方法を紹介する。 2 − 72 − 1. 小ホワイトボード(横 27 ㎝×縦 18 ㎝) 一人 1 セット(小ホワイトボード、イレーザー、ホワイトボード・マーカー)ずつ配布し、私の質 問に対する回答等を学生全員が同じタイミングで自分の考えを書き、私の合図で一斉に私に向けて差 し出す。この方法は教室内の全員が意見を出しやすく、一瞬で教員側も把握しやすくなる。挙手や指 名で回答を促す方法では、限られた人数が発表するが、この方法は瞬時に全員が意見を共有できる。 差し出した意見が書かれた小ホワイトボードを、教員は可能な限り読み上げることで、教室内の学生 の承認欲求を満たし、次への課題への取組意欲を高める。代表的な質問の例を以下に 5 つ紹介する。 第一に「〇×クイズ式担任先生クイズ」と名づけているアクティビティでは、担任教員の靴のサイ ズや好きな食べ物を問う 5 問程度の質問を行い、1 つの質問ごとに学生が○または×を書いて小ホワ イトボードを上に差し出し、先生役が○か×を答え学生の正解数を競う。最後に「担任の先生はこの クラス全員が大好きである?」という質問を全員に行い、○または×の記入を求める。○の者がほと んどであるが、×の者がいる可能性もある。その際には、その生徒への配慮の具体的な方法を学生全 員で考えていく。同時に、先生役には「教員のスキルとして、必ず○と答えること」を指導する。 第二に「好きな食べ物」や「得意なスポーツ」を問う。出された回答を活用して学生間の対話を促 し、良好なコミュニケーションづくりのきっかけとする。 第三に上記第一と第二を発展させ、「私の構成要素」と名づけて、ちょんせいこが 2014 年 3 月に 『ホワイトボードで学級が変わる!!話し合い活動ステップアッププラン』で“オープン・クエス 「ど チョン”として紹介している質問方法を、自問自答する。具体的な質問内容は“「というと?」、 んな感じ?」、「もう少しくわしく教えてください」、「たとえば?」、「具体的にどんな感じ?」、「どん なイメージ?」、 「エピソードを教えてください」、 「何でもいいですよ」、 「ほかには?」”である。また “あいづちの例として、 「うんうん」、 「なるほど、なるほど」、 「わかるわかる」、 「そうなんだあ」、 「へ え~」、「だよねえ」、「それで、それで」、「そっかあ」。”そして“情報がハッキリする質問「クローズ ド・クエスチョン」として数量、名前。”があり、“自己選択、自己決定を問う時の質問で「どうした い」、「どうなったらいいと思う」、「この中でどれだと思う」。”である。そして、質問や答えは言葉と して声に出さず、答えのみを黒色マーカーで小ホワイトボードに書き、自分への質問を深めていく。 具体的には、自分で自分に「私というと?」と声に出さず質問し、 「天理大学の学生です」と小ホワイ トボードに書く。 「天理大学の学生というと?」と自問し「体育学部で将来体育教員となるために努力 している」と書く。そして「もう少し詳しく教えてください」と自分に問い、自分で「自分が中学時 代教わった顧問の先生に憧れて体育教員をめざしました」と書く。最後に「エピソードを教えてくだ さい。」と自問し、「部活動で優勝した時、一緒に泣いて喜んでくれた思い出は今でも覚えています」 と書く。次に、ペア・コミュニケーション式に自分が書いた小ホワイトボードを示しながら、 「私」と 題して自己紹介を行う。 第四に、小ホワイトボードを真ん中に十字に区切り「4 つのコーナ―」と名づけて行うプレゼンテ ーションがある。具体的には、 「私を色でたとえると」 「私は 5 点満点で何点」 「私の強みは」 「そんな 私が育てたい生徒像」を 4 つに簡潔に表現して 1 分間プレゼンテーションに取組む。 第五に、「私を語る 10 の言葉」と題して 1 から 10 まで自分で自分の肯定的な内容を書き、それを プレゼンテーションし、聞き役の人から赤のホワイトボード・マーカーで「いいね」と感じた部分を アンダーラインや丸印を記入してもらい、次に交代で聞き役の「私を語る 10 の言葉」を聞く。 2. 中ホワイトボード(横 90 ㎝×縦 60 ㎝) 小ホワイトボードから、大ホワイトボード活用への過程として中ホワイトボードを使う。 3 − 73 − 具体的な活用方法は、以下の三段階である。 第一段階として「ホワイトボード対話」を行う。2人で言葉を発しないで中ホワイトボードにマー カーで言葉を書き、文字による対話を行う。質問する側と答える側に分かれ、質問する側が質問内容 をホワイトボードに書き、答える側が回答をホワイトボードに書く。終了後、二人で対話内容を確認 する。中ホワイトボードは2つに分け、1枚で二人分の内容が書けるようにする。時間は5分程度で、 質問役と回答役が役割交代を行う。 第二段階として3人から4人で取組む。「ホワイトボードしりとり」と呼ぶアクティビティを行う。 言葉を発せず、1本のマーカーを陸上競技のリレーバトンのように使い、バトンタッチしながら次々 と文字を書き連ね「しりとり」を行い、教室内で書けた単語の個数を競う。 第三段階として、3人から4人でスタンドを使用し中ホワイトボードを立てて行う。中ホワイトボー ドを人数分に区切り、2人が質問役と回答役に分かれる。他のメンバーは二人のやりとりを見守る。 質問役が最近の状況を言葉で「最近どうですか?」と回答役に質問する。回答役が答えた内容を質問 役が中ホワイトボードの区切った中に書く。最後に質問役が中ホワイトボードに書いた内容に基づい て回答役にフィードバックする。その後、見守っていた他のメンバーと質問役から回答役に助言や励 ましの言葉等をもらい終了する。これを一人5分程度で交代で取組む。 3. 大ホワイトボード(横 180 ㎝×縦 90 ㎝ 脚付) 小と中の異なるホワイトボードで大ホワイトボードへの導入を行い、最終段階として大ホワイトボ ードを活用する。最終段階の大ホワイトボードは、参加者の力をいかし効果的、効率的に話し合うた めに不可欠な道具である。この道具を活用して 4 人程度が一つのグループとなって三つの段階で、進 行役が情報共有を進める。 第一段階を「発散」と呼ぶ。進行役が内省を深める小ホワイトボード「私の構成要素」で紹介した 質問を使い、参加者が話した内容を忠実に黒のホワイトボード・マーカーで書く。進行役は自分の意 見を出さず、参加者の意見を書くことにより参加者が顔を上げて大ホワイトボードを見ることによっ て全体の理解が進む。そして、話し合いはテーマから外れることは少ない。進行役は 10 分から 15 分 程度で交代する。進行役は交代した時点で進行役の役割から参加者となり自分の意見を自由に述べて いく。 第二段階では、 「収束」と呼ばれるプロセスを行う。進行役が赤のホワイトボード・マーカーで、 「一 番言いたいこと」「行事の 1 か月前、3 週間前、1 週間前、前日、当日、後日」「生徒の幸せのために 重要なこと」等、話し合いの内容に応じた収束の軸を決め、発散内容にアンダーラインを引いたり、 新たな内容を追加して書く。 第三段階は、「活用」と呼ばれるプロセスを行う。進行役が青のホワイトボード・マーカーで話し 合いの結果の決定や選択を記入し、最後に全員の前でフィードバックして決定する。 これらのプロセスを行うことで合意形成や課題解決への取組を明確にしていく。そして誰が発言し た内容かをわからないように書くことで「Aさんの意見だから賛成」等の人間関係によって左右され ることが少なくする。そして、自分の意見も書かれ承認されたことを参加者全員が実感することによ り、コミュニケーションが促進される。その結果、参加者全員がゴールを共にめざし、自分や組織の 力を信じるチームづくりができやすくなる。言い換えれば、ファシリテーション技術を使い、大ホワ イトボードを使って教育課題の解決をめざして取組む方法である。他には行事計画や全員の状況報告 等がある。それらを行う上で、大ホワイトボードは大切な道具である。 4 − 74 − B. インタビュー式質問 質問する側が小ホワイトボードでの「私の構成要素」で紹介した質問を、答える側に行うこと によって、まるで話す人と聞く人が一緒に同じビデオを見ているような「動画モード」での情報 を共有することを目的に行う。 様々な教育現場で起こっている模擬事案の練習を繰り返すことで、保護者や生徒そして教員等 で、質問する側が答える側の話を受け止め、答える側が「きいてくれた」と感じ、気づきを得て、 意欲を高めて課題解決に取組もうとすることをめざす。質問は、ホワイトボードに書くことと同 様に重要である。そのため、授業では唱和形式で繰り返し行う。 C. 対話 私は、授業の中で対話をはぐくむことの重要性は高いと考える。中でも 1 対 1 のペア・コミュニケ ーションが最も重要である。ペア・コミュニケーションが成立している授業は、学びを深めやすいと 感じている。私は、ペア・コミュニケーションで授業の成熟度を見極めている。具体的な方法として は、知識を伝えた後に「今のことについてどう感じたか、2 分程度で隣の人と話し合ってみましょう」 とメッセージを出し、対話の機会を設けている。その中でも以下の 3 つのことを重要と考え取組んで いる。 第一は、きき合う関係をつくることが、高め合う関係づくりの第一歩であることを述べる。そして、 「きくスキル」を身につけることの価値を繰り返し説明する。 第二は、「きく」とは 4 つの意味があり、その内容は広く浅く「聞く」、深く共感して「聴く」、質 問する「訊く」、効果をあげる「効く」である、と私は考えていることを伝える。 第三は、基本となるペア・コミュニケーションのスキルを習得し、生徒との日常の会話や指導場面 からテーマを見つけ、実践的なロール・プレイを行うことである。 それらに取組む際、3 つの段階を経て行う。それは「広く浅いコミュニケーション」から「深く狭 い内容のコミュニケーション」である。 第一段階では、笑顔、挨拶、感謝の言葉、肯定的なメッセージを大切に教室にいる全員と一人当た り 30 秒程度で話す「総当たりコミュニケーション」から始める。これにより、教員として生徒に対 する声かけの方法を習得する。 第二段階では、話す者の言いたいことを引き出す質問技術を身につけることを目的として、小ホワ イトボードの「私の構成要素」で紹介した質問方法を、繰り返し練習する。具体的には「好きな食べ 物」等の身近なことからはじめ、最終的に「進路や在籍等に関する相談」等の教育現場で日々教員が 取組んでいる内容で行う。その結果、学生が教員となって生徒から課題解決の相談を受けた際、生徒 が気づきを得て意欲的に課題解決に取組むよう指導力が育成できると考えている。 第三段階では、対話を行うことによって、良好なコミュニケーションをつくり、あらゆる機会・手 段で双方向型の指導を行い、すべての学生に承認を与え続けることで、学生の心を温めることである。 私の校長時代の経験から、職員室が温かい雰囲気につつまれていれば、教員が生徒の心を温め、生 徒が課題解決に意欲的に取組みやすくなる、と感じていた。温かい職員室づくりに全力で取組んだ大 阪府立高校管理職時代の 9 年間に教員がうつ病等で休職にいたったことは皆無であった。その職員室 で行っていた温かい雰囲気づくりを、教室で学生への肯定的な声かけ・誉め言葉のシャワーを浴びせ かける等で実践している。 5 − 75 − 対話の重要性は、大阪府立高校に教諭・教頭・校長として勤務した 38 年間で痛感した。特に、生 徒の心が冷えると「どうせ…」と無気力に陥るケースや、教員につかみかかったり窓ガラスを破損さ せる等の暴れる事案が増える傾向があった。私は生徒指導課題校の校長として勤務していた頃、担任 教員全員に毎日クラス生徒人数分のクリップを右のポケットに入れて教室に入り、生徒に肯定的なメ ッセージを出した時にクリップを左ポケットに移すことを「クリップ作戦」と名づけて行うよう指示 していた。この「クリップ作戦」を半年間継続することにより、生徒の学校生活への取組状況が好転 し、結果として遅刻数、懲戒件数、中途退学数等が大きく減少する成果となって表れた。生徒の心を 教員が意図的に温めることを継続することで、生徒の意欲が向上し、目標に向けて努力する雰囲気を つくりだすことができたと考えている。その取組の 3 年後には、生徒の第一進路希望の実現率、地域 から学校評価、保護者からの学校評価等は、大きく向上した。 このような経験から、肯定的なメッセージ等を粘り強く出し続け、心を温める努力を継続すること が、教育課題解決には不可欠であると考えている。その根本は対話であり、肯定的メッセージのシャ ワーを生徒に浴びせかける「教員の努力」が不可欠であると信じている。 D. ふりかえり 天理大学の授業では「ふりかえりは学びの宝庫」を合言葉に毎授業、ふりかえりに取組んでいる。 ふりかえりを授業の受講者全員や、3 人から 4 人のグループで共有し、自分と他人のふりかえりの相 違点を実感するすることも大切である。実感した内容を学生が B6 ノートに書いて提出し、私が肯定 的なメッセージを返すことに努めている。 ふりかえりは、指導が浸透しない間は残念な反省が主な内容であったが、私が肯定的なメッセージ を出し続けることで徐々に変化し、次の学びへの意欲に発展するようになっていった。そして書かれ る量も着実に増えていった。B6 サイズの「ふりかえりノート」を通して双方向的な授業運営がさら に進んだと感じている。 具体的にどのようなふりかえりがあったかを、毎学期の最後に全員に実施する「この授業ずばり何 点」のふりかえりシートから紹介する。 最初にふりかえりノートを作成してよかったかを質問する。ほとんどの者が「たいへんよかった」 「よかった」と回答している。その理由として「自分が成長できたことが実感でき、今後の課題も自 分の書いた内容を見ることで自分なりに明らかになった。」という趣旨の回答がほとんどであった。 次に 100 点満点で授業評価を求めた。平成 26 年度は平均 93.5 点であった。その理由は「最初は経 験したことのない授業で驚いたが、3 回目からは凄く楽しくなり、自分が向上していることが実感で きたから。」という記載が多数であった。 自分をふりかえってこの授業で成長できたか?と質問した。ほとんどの者が「大変成長した」と答 えている。その理由は「対話することで成長できたから」という理由が多数であった。 そしてアクティブ・ラーニングを体験してどう感じたかについて質問した。「受け身ではいけない し、得るものがない。積極的に人と交流することで成長できると実感できたので、それを続けたい。」 と書いた者が多かった。 授業で取組んだ言語活動を 4 つ(読む・きく・話す・書く)のうち、自分が成長したと感じること については、「話す」と「きく」が最も多かった。 最後に、来年度この授業を受講する後輩へのメッセージを求めた。その内容は「実践することで自 分の長所や課題が見えてきます。一生懸命取組めば絶対変わります。」「物凄く実践的で学校現場の課 6 − 76 − 題をしっかり把握でき、その解決策も見いだせる授業ですので積極的に取組んでください。」「この授 業は、絶対に寝れないよ」等であった。 Ⅲ. 天理大学での授業で現役教員対象研修を実施 学校現場での課題や教員の現状を一層深く理解するため、教育委員会等から依頼を受け、平成 26 年 7 月から大阪市立小学校 6 校、8 月に大阪私学人権研究会宿泊研修、10 月に大阪府立高等学校首席 研修、12 月に大阪府立高校校内研修の講師となり、教員研修に取組んだ。その内容と教員のふりかえ り等を紹介し、同程度の内容を天理大学体育学部 4 年生教職実践演習で行ったことを以下に報告する。 A. 大阪市立小学校教員研修 平成 26 年 7 月から 9 月に「困難な課題を解決する支援、指導、授業の進め方」と題して学級崩壊 のない学級づくりを大阪市立小学校 6 校で別の日に実施した。研修では、小ホワイトボード等を使い アクティブ・ラーニングを活用した 2 時間研修を、実施した。その内容は「〇×クイズ」からスター トし、対話を育むためのペア・コミュニケーションを重視し、子どもの心を温め「高め合う人間関係」 のつくり方を紹介した。 ふりかえりでは、ほとんどの教員は「たいへん良い」と評価し、自由記載欄には「やはり子供たち は認めてもらうことを欲しているのだ、と再認識しました。大人だって認めてもらいたい欲求はもっ てるのだから当然だと思います。これからも教員として共に幸せを感じれるよう、今日の研修内容も 活用しながら頑張っていきたいと思いました。」等の肯定的な内容が書かれてあった。 B. 大阪私立学校人権教育研究会夏期一泊研究会 滋賀県琵琶湖ホテルで平成 26 年 8 月に全体会で 195 名の大阪私立高校教員等に「いじめを越える 信頼ベースの学級運営の進め方」と題して 2 時間の講演を行った。講演内容は小ホワイトボードを全 員に配布し「〇×クイズ」から「私の構成要素」等を行った。 全体研修会の後、分科会に分かれて 45 名の教員等に「生徒が信頼できるクラスづくり~いじめの 芽をどう摘むか~」と題して 2 時間研修を実施した。内容は、具体的ないじめのケースを出し、その ケースを通してどのように生徒を導き、学校全体でいじめを許さない学校づくりをすすめるかについ ての研修であった。ふりかえりでは「学校に持ち帰り、学校の課題解決にいかしたい」と前向きな意 見をいただいた。 C. 大阪府立学校首席研修 平成 26 年 11 月に 110 名の大阪府立学校首席に対して「チーム力向上~信頼ベースの職員室の作り 方」と題して 2 時間半の研修講師を務めた。研修では、小ホワイトボードや中ホワイトボードを活用 して対話を通してのチームワークづくりについて指導した。 ふりかえりでは「一方向的な内容でなく、自分たちで積み上げて共有するアクティブな方法での研 修であった。学校に帰り、実践したい」という意見をいただいた。 7 − 77 − D. 大阪府立高校校内研修 平成 26 年 12 月に、大阪府北部の普通科・国際教養科併設のほぼ全員大学進学をめざす「進学に特 色のある学校」に校内研修講師に招かれ研修を行った。研修では「教職員のチームワークづくり」と 題して小ホワイトボード等を活用し、課題をチームとして解決する方法を全教職員に実施した。参加 者は校長・教頭はじめ約 45 名の教職員であった。ふりかえりでは、ほとんどが「明日の教育活動に すぐにいかせる内容でたいへん満足した。」等の肯定的な内容であった。 E. 天理大学授業での実施 12 月に体育学部教職実践演習授業 4 講座 130 名に対して、現役教員対象の 4 つの研修内容を学生 が受け入れやすいよう工夫して実施した。ふりかえりでは、ほとんどの者が「たいへん良い」と評価 し、気づいたことでは「コミュニュケーションを多くとることが多く、友達のことがより深く知れて、 クラスの雰囲気がアップすると感じました。教員としてこの内容を朝の会等で取り入れたいと思いま した。」や「毎回の授業が本当に楽しく、今後にすごく大切なことだと思っています。特に今日の内容 は現役の先生方にされた研修内容の学生版だと最後に聞き、学校の先生方も私たちのように学ばれて いることを知り驚きました。いろいろなところで今日の内容をいかしていきたいと思います。ありが とうございました。」であった。 Ⅳ 天理大学でのアクティブ・ラーニングの具体的実践例 以下は私が実践したアクティブ・ラーニングを活用した授業「生徒指導・進路指導の研究」の逐語 的な記録である。 A. 一方向型授業形式で知識を伝える 近年、学校における生徒指導上の課題は多岐にわたっています。また、子どもたちの安全が脅かさ れる事件も多発しています。そのような中、子どもたちの発達段階や様々な社会状況等を踏まえなが らの生徒指導が求められています。学校において教員は、子どもたちの健全な成長と人格のよりよい 発達に向けて生徒指導に取り組み、自己存在感を高め自己指導能力を育み、基本的な生活習慣の確立 や、社会的なルールやマナーの指導を通した規範意識の指導に努めることが重要です。 教育基本法においては、第 6 条で「学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける 者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教 育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意 欲を高めることを重視して行われなければならない。」と規定しています。生徒指導の充実は、学校の 重要な使命の一つです。教員としての生徒指導力を充実するため、知識だけでなく知識をいかす技術 を獲得するアクティブな方法で学びます。 まずは、浅く広く人間関係をつくるためのアクティビティを行います。教室内の 15 人以上の人と 挨拶・笑顔・自己紹介・感謝の言葉で交流します。 B. アクティビティ 1:総当たりコミュニケーション 8 − 78 − 1 自分のノート(B6サイズ)と筆記用具を持ち、教室内を自由に歩きまわります。教室内の人と出 会い、ニッコリ笑って挨拶をし、簡単なプロフィール等の自己紹介をします。 2 1 が終わったら持参のノートに名前を書いてもらいます。終了後は、感謝の言葉をかけあい、次の 人と出会います。 3 15 人以上の方にサインしてもらってください。 4 一人の方と話すのは 2 人で 30 秒以内です。 5 それでは、全員貴重品を持ち、ノート等を持って始めます。スタートしましょう。 6 15 分たちました。最初の席に着席してください。 7 ノートに書かれた氏名を数えて 15 名以上になった人は目標達成です。 8 やってみてどうだったか、隣の人と 1 分間話し合ってください。 教員のコミュニケーション力は重要です。生徒・保護者・教員間・地域の方々と良好なコミュニケ ーションを構築するためには、浅く広くコミュニケーションをとることから始めます。そのために「笑 顔、挨拶、感謝の言葉、肯定的なメッセージ」は大切です。1 番目のアクティビティでは、その体験 をしました。 次に 1 対 1 で話します。生徒指導は 1 対 1 からスタートし、対象が全校生徒に発展する場合もあり ます。まずは、1 対 1 のコミュニケーション技術を高めることから始めましょう。 C. アクティビティ 2:ペア・コミュニケーション 1 隣の人とペアになります。 2 ニッコリ笑って挨拶をして自己紹介の後、ジャンケンをします。 3 勝った人から「最近、どんな感じですか?」と問いかけ、話し始めます 4 時間は 2 分間です。一人が一方的に 2 分話すのではなく、約 1 分ずつ話し・きき合います。 5 きく方は、好意的関心の態度できき、適度なあいづちにも挑戦してください。 6 終わりました。お礼を言い、もとに戻ります。 D. アクティビティ 3:テーマを決めてペア・コミュニケーション 1 アクティビティ 2 と違う前・後の人と向かい合い、ニッコリ笑って挨拶をして自己紹介の後、ジ ャンケンをします。 2 ジャンケンをして勝った人から「教育実習の思い出」について語ってください。教育実習にまだ 行っていない人は、教育実習への思いを話してください。 3 ジャンケンで負けた聞く人は、あいづちと好意的関心の態度できいてください。 4 時間は二人で 3 分間です。一人が一方的に 3 分話すのではなく、互いに同じくらいの時間、話し・ きき合いましょう。 5 終わりました。お礼を言い、もとに戻ります。 E. 一方向型授業形式で知識を伝える 「生徒指導の定義」について学びます。山口県教育委員会は平成 23 年に改訂版出した冊子「より よい生徒指導に向けて」で“生徒指導とは、学習指導とともに、学校が教育目標を達成するための基 9 − 79 − 本的で重要な機能であり、すべての教職員が、すべての教育活動を通じて、すべての児童生徒一人ひ とりの個性の伸長を図りながら、同時に自己存在感や社会性を育み、将来において社会的に自己実現 ができる資質・態度を高めていく指導・支援である”と述べています。学校における生徒指導といえ ば、ともすれば表面に現れた問題行動や不登校への対応等、対症療法的な面のみが強調されがちです。 しかし、問題行動等は、児童生徒とその生活環境との間での様々な葛藤から生じる「心の問題」でも あります。したがって、生徒指導に当たる際には、表面的に現れた問題行動等にとらわれることなく、 児童生徒の内面や心にしっかり意識を向けるとともに、日ごろから、一人ひとりの児童生徒のよさを 評価、理解し、児童生徒自身がそのよさに気付き、それを伸ばしていくことができるような指導・支 援に努めなければなりません。このような生徒指導を、学校生活のすべての場において十分機能させ ることが、児童生徒の問題行動や不登校等の未然防止にも効果を上げる等の教育活動全般に及ぶもの です。生徒指導とは、一人ひとりの児童生徒の個性の伸長を図りながら、同時に社会的な資質や能力・ 態度を育成し、さらに将来において社会的に自己実現ができるような資質・態度を形成していくため の指導・援助です。 F.アクティビティ4:生徒指導の定義についてのペア・コミュニケーション 1 隣の人とペアになります。 2 今の「生徒指導の定義」について、感じた事や思った事を話し合います。 3 時間は 2 分間です。 4 終わりました。何か質問はありますか? 皆さんの話し合いをきいていて、生徒指導への考えや 自分が経験してきた生徒指導が多様なことがわかりました。さらに知識を深めて実践的に学んでい きましょう。 G. 一方向型授業形式で知識を伝える では、学習指導要領ではどのように書かれてあるでしょうか。学習指導要領における配慮事項(中 学校・高等学校)から学びます。 【総則】 教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てるとともに生徒理解を深め、生徒が 自主的(主体的)に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう、生徒指導の充実を 図ること 【特別活動】 生徒指導の機能を十分に生かすとともに、教育相談(進路相談を含む。)についても、生徒の家庭 との連絡を密にし、適切に実施できるようにすること 次に、生徒指導の目的を文部科学省『生徒指導提要』から見ましょう。 1 生徒指導の目的 生徒指導の目的は、児童生徒一人ひとりの夢の実現に向け、児童生徒一人ひとりが自分自身をあり のままに認め、自己理解を深めることを基盤とし、他者とのかかわりの中で、自ら選択・判断・実行 し、その言動に責任をもつことができる力(自己指導能力)を育成することである。 2 自己指導能力 自己指導能力とは、自己をありのままに認めること(自己受容)、自己に対する洞察を深めること 10 − 80 − (自己理解)、これらを基盤に目標を確立し明確化していくこと、そして、この目標達成のため、他者 とのかかわりの中で、自発的・自律的に自らの行動を判断し実行することなどである。 また、自己指導能力の育成に当たっては、他人のためにも、自分のためにもなるという行動を児童 生徒自らが考え、それらの行動に対してきちんと責任をとるという経験を積み重ねることが必要であ る。 つまり、自己指導能力とは、 「児童生徒が、日常生活のそれぞれの場で、他者とのかかわりの中で、 どのような選択が適切であるか、自分で判断・実行し、その言動に責任をもつことができる力」であ り、「生きる力」の土台となる力ともいえる。 H.アクティビティ 5:生徒指導の目的、自己指導能力についてのペア・コミュニケーショ ン 1 アクティビティ 4 と違う人とペアになります。 2 今の「生徒指導の目的」や「自己指導能力」についてアクティビティ 4 の要領で話し合います。 3 時間は 2 分間です。 4 終わりました。何か質問はありますか? I. アクティビティ 6:教員という職業とは 1 ここで、教員はどんな職業かを考えてみます。皆さんはどう考えますか? 前・後の人と話し合 いましょう。 2 アクティビティ 5 と違う人とペアになります。 3 教員の職業について話し合います。 4 時間は 2 分間です。 5 終わりました。 6 皆さんの話をきいていて共通しているのは「生徒の幸せのために頑張る仕事」でした。しかしそ れだけでは十分ではありません。私は「生徒・保護者・地域・教員自身が幸せになることに努める 職業」と考えています。いかがですか?もう一度、同じ人と 1 分間話し合ってください。 7 終わりました。みなさんのお話をきいていると、とても重要なことに気づいている人が多いこと がわかりました。 「そのためにどんなことができるか。」ですね。生徒指導は、肯定的な自己選択・ 自己決定を、生徒が自ら行うよう導くことでもあります。そのために必要なことはまずはコミュ ニケーションの力です。中でも、私は長い教員経験の中で「きく」ことが重要だと感じています。 J. 一方向型授業形式で知識を伝える 「きく」について考えてみましょう。私の考える「きく」の分類は、以下の 4 つです。浅く広く「聞 く」、深く「聴く」、具体的な成果があがる「効く」、質問する「訊く」です。 もう少し具体的に述べます。 第一の「聞く」は生徒に廊下で「最近どんな感じ?」と「いつも元気ですね?」等の生徒の声を浅 く広く聞く声かけです。生徒はなかなか担任の先生に対しても、最初から深い話はしにくいものです。 日頃から生徒の声を聞くことに努めましょう。 11 − 81 − 第二の「聴く」は「しばらく顔見なかったけど大丈夫?」「部活動やめたらしいね、なんか事情あ ったの?」等、生徒の深い話を傾聴する技術です。 第三の「効く」は成果をあげることです。説諭することで肯定的な方向へ導くことができる場合や、 保護者との連携を家庭訪問等で深めて不登校等の改善に効果をあげる場合があります。保護者連携の 具体的な内容は家庭訪問、学校生活での肯定的内容主体の連絡ノート、生徒長所を共有する連絡電話 等があります。 第四の「訊く」は質問することです。生徒の語る内容を、まるで共に同じビデオを見ているような 「動画モード」で共有するために行います。そして、生徒の内省を深め、気づきを与えます。ちょん せいこが『話し合い活動ステッププラン』で「オープン・クエスチョン」と題して以下の9つの内容 を紹介しています。それらは「というと?」 「どんな感じ?」 「もう少しくわしく教えてください」 「た とえば?」「具体的にどんな感じ?」「どんなイメージ?」「エピソードを教えてください」「何でもい いですよ」「ほかには?」です。 K. アクティビティ 7:オープン・クエスチョン「好きな食べ物」 1 私が 9 つの質問を読みますので、私の後に全員で声を出して読んでください。では、オープン・ クエスチョンを活用してアクティビティに取組みましょう。 2 アクティビティ 2 の人とペアになり、質問する側と質問に答える側を決めます。ジャンケンをし て勝った方が質問役です。 3 質問内容記載の資料を見ながらこの 9 つの質問を繰り返しながら、答え役の話を深めてください。 時間は 3 分間です。 4 最初ににっこり笑って「好きな食べ物というと?」と問いかけます。 5 最後に「どうなったらいいと思う?」または「どうしたい?」と尋ねてください。 6 同じ要領で役割を交代します。質問することで、2 人がまるで同じビデオを見るような「動画モー ドの情景」を共有します。その上で、肯定的な自己選択・自己決定を生徒自らが行うよう導きます。 では学校現場で起こりがちな身近な例からこの質問をしてみましょう。 L. アクティビティ 8:具体的な生徒指導 1 顧問の先生に「部活動やめたいです」 アクティビティ 7 と同じ人とペアになり、質問する先生役と質問に答える生徒役を決めます。ジ ャンケンをして勝った方が先生役です。 2 先ほど練習したオープン・クエスチョンの質問を繰り返しながら、生徒役の話を深めてください。 時間は 3 分間です。 3 最初に、ニッコリ笑い「どうしましたか?」とやさしく問いかけます。 4 最後に「どうなったらいいと思う?」または「どうしたい?」と尋ねてください。 5 同じ要領で役割を交代します。 6 どうでしたか? 取組んでみてどうだったかを今の 2 人で 2 分間話し合ってください。 M. 一方向型授業形式で知識を伝える 「最大の生徒指導は授業である」とも言われます。私は「授業力が高い教師ほど生徒指導力が高く、 12 − 82 − 共に幸せを実現できる」教員であると感じられる場面を、多く見てきました。彼らが最初に取組むの は、生徒との信頼関係構築です。その方法は多様ですが「生徒の承認欲求を充足させること」が重要 です。先ほど、 「指導するとは、生徒自身が肯定的な自己選択・自己決定を促すことでもある」と述べ ました。その前提として良好なコミュニケーションがある温かい雰囲気の学級づくりが重要です。そ の実現には、教員は生徒の声をしっかり受け止め、肯定的な声かけができるかが鍵だと考えます。 担任として私が、実践してきたクラスづくりの具体的な方法を、紹介します。毎朝、左のポケット にクリップを学級人数分入れておき、学級の生徒に肯定的な声掛け、笑顔、感謝の言葉、挨拶をした 時に、クリップを右のポケットに移します。放課後にはすべてのクリップが右に入っているよう努め、 3 か月続けます。これは、担任教員自らが、教室に温かい人間関係を構築する努力の例です。この結 果、私は学級づくりに成果をあげ、管理職の方から高い評価をいただきました。 生徒の心が温まると意欲的に行動しやすくなり、たとえ失敗した時でもすぐに先生や友人に相談し、 助言や協力を得て課題解決の取組ができやすくなります。しかし、教室が冷たく残念な雰囲気では、 生徒の意欲向上が低くなり、自己肯定感も高まらず、人の悪口を言ったり貶めるような課題行動が起 こることがあります。また生徒が無気力に陥り不登校等になることもあります。生徒の心を温めるこ とが学級づくりには重要です。 教員は、生徒一人一人に承認欲求を充足するような声掛けや行動を行い、生徒が「自分や他人は力 のある大切な存在である。その人たちで構成する組織には大きな力があり、その中で頑張ることで自 分は成長できる。」と信じることができる学級づくりに取組むことが重要です。教員の生徒指導力が生 徒に与える影響はたいへん大きいものです。教員を志望する者として粘り強く資質向上に努めましょ う。 N. アクティビティ 9:ふりかえり 1 周囲の 3~4 人と、今日の授業を 3 分程度ふりかえってください。 2 全員で今日の授業全体を、 「パンパンふりかえり」と私が呼ぶ方法でふりかえります。ふりかえり を述べる前に全員で 2 つ手をパンパンと叩き、述べた後にまた 2 つ手をパンパンと叩き、次の人に 送ります。1 人 15 秒以内でふりかえりを述べてください。 3 各自のノートに今日の自分の感じたこと、気づいたこと、疑問点等、書いてください。 4 ノートを提出します。私は心をこめて読みます。皆さんも心をこめて書いてください。残念な反 省文にならないようお願いします。 Ⅴ. おわりに 天理大学非常勤講師として勤務し3年が過ぎた。その中で、私は以下の3つのことを念頭に取組んで きた。第一に現場に直結した実践的内容、第二に現役教員に対して校長として実施した校内研修と 同レベルの内容、第三に教室に温かい雰囲気をつくり学生の意欲を高め「対話とふりかえり」を 大切にする授業、である。 平成26年度、私が講師として招聘され実施した研修内容と同程度の授業を実施した。その結果、私 が得た結論は「学生も知識と共に実践的な内容を望んでいる。」である。 現役教員は、多様で深刻な課題に直面し、自分の時間を十分に確保できず終わりを見通せない多忙 感の中、日々業務に邁進している。現役教員に対しての研修では、知識を紹介するだけでは十分では 13 − 83 − ない。教員の心を温めた上で、共感できる内容を実施しなければならないと考えている。 天理大学の授業では、教員をめざす学生に対して「今、学校で生起している課題」を取り上げ、課 題解決に向け取組む方法を紹介する等、授業内容の充実に努めていかなければいけないと、常に肝に 銘じている。私にとって新たな教育方法に取組むことは、大きな挑戦である。今まで、教える立場に ある私がP(Plan)、 D(Do)、 C(Check)、A(Act)を継続することが重要だと考え取組んできた。その取 組も、校長として5年と天理大学非常勤講師として3年の8年間となった。今後も自己研鑚に努め、粘 り強く取組みたい。平成27年度も大阪府・市等から依頼を受け現役教員対象の研修講師や、教員免許 更新講習講師を務める予定である。これらの経験も活かして、一層の「授業の質向上」に努める決意 である。 注・引用文献 1)中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力 を育成する大学へ~(答申) 」P.9 平成 24 年 8 月 28 日 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/10/04/1325048_ 1.pdf 最終アクセス日 2015 年 3 月 28 日 2)中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に 向けて~生涯学び続け、主体的に考える 力を育成する大学へ~(答申) 」P.37 平成 24 年 8 月 28 日 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm 最終アクセス日 2015 年 3 月 28 日 3)ちょんせいこ(平成 26 年 3 月) 『ホワイトボードで学級が変わる!!話し合い活動ステップアッププラン』P.34 小学館 4)山口県教育委員会(平成 23 年 3 月) 「よりよい生徒指導に向けて」P.2http://www.pref.yamaguchi.ig.jp/cmsd ata/8/3/4/83450430416821c079998bfb1c3dea1d.pdf#search='%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E7%9C%8C%E6%95%99%E8% 82%B2%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A+%E3%82%88%E3%82%8A%E3%82%88%E3%81%84%E7%94%9F%E5%BE%92%E6%8C%8 7%E5%B0%8E' 最終アクセス日 2015 年 3 月 28 日 参考文献 1)文部省(平成 2 年 3 月) 「学校における教育相談の考え方・進め方」 2)国立教育政策研究所生徒指導研究センター(平成 15 年 7 月)「生徒指導資料第1集」 3)文部科学省(平成 22 年 3 月)「生徒指導提要」 14 − 84 −
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