ビジネス航空 その現状と問題点 その1

ビジネス航空
その現状と問題点
日本ビジネス航空協会 理事・特別顧問
Kei Knowledge Inc 代表
その1
中溪 正樹
グローバルにもローカルにも、非営利が原則ではあるが営利も絡む我が国の「ビジネス航空」は航空
業界の何処に占位するのだろうか?多くの航空人が確かな答えを知らないビジネス航空の世界だが、
本編2回シリーズで読者の知見は増すだろう。ビジネス航空とは(第1回)
、ビジネス航空とパイロット
(第2回)で「ビジネス航空」の骨子に触れて頂いた。
編集委員会
はじめに
ビジネス航空は欧米では近年ビジネスツールとして重宝されているが、わが国では最近になっては
話題になりつつあるも、いまだ夜明け前の状況である。本稿では Part Ⅰでビジネス航空とは何か?
及びわが国での問題点について、更に Part Ⅱでパイロット関連にハイライトをあてて解説する。
PartⅠ ビジネス航空に関わる一般的解説
1. ビジネス航空とは
ビジネス航空とはビジネス目的で行う自家用機或いはチャーター機による貨客の運送を意味す
る。例えば自社、或いは取引先の海外を含む拠点に人員や貴重品を輸送する場合や、企業の施設や
工場の視察ツアーや、自社製品のデモの為に得意先を招聘する場合、或いはセールスマンや医者な
航空の区分
運航を行う者
目的、用途
①
軍
軍、警察等
人員物資の輸送
②
定期航空
航空会社
貨客の運送
不定期航空
航空会社、又は
チャーター事業者
③
貨客の運送
(観光などビジネス目的以外)
貨客の運送
(ビジネス目的)
④
ジェネラル・アビ
エーション( ① ~
③以外の航空)
①~③以外の者
対価
名称
(Military)
有償
エアーライン
有償
パブリックチャーター
有償
ビジネス航空
無償
レジャーなど
無償
自家用
農薬散布など
有償
使用事業
(Aerial Operation)
表1-1 航空の区分
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どが拠点から数百マイル離れた受持ち地域をカバーする為の使用等々である。
航空を区分すると表1-1のようになる。ここでエアーライン、観光目的等の大規模チャーター、
或いは自衛隊機による輸送はよく知られるところであるが、これ等の何れにも属さない航空の区分
がジェネラル・アビエーションである。例えばビジネス目的やレジャー目的での自家用機の運航や、
農薬散布、測量、操縦訓練など貨客の運送以外の特定の目的で行われる運航などがジェネラル・ア
ビエーションの区分に属する。
日本では民間航空と言えば、100%近くが定期航空、すなわちエアーラインによる貨客の運送で
あり、その他の区分は一般には存在すら知られていないのが実情であるが、米国では事情が全く違
い、ジェネラル・アビエーション機は20万機以上であるのに対し、エアーラインの飛行機は1万機
に満たない。
ビジネス航空はジェネラル・アビエーションの区分で自家用機により無償で行われる場合と、不
定期航空区分で個別チャーター(オンディマンドチャーター)して有償にて行われる、2つの場合
がある、つまり“自家用車”なのか“ハイヤー”なのかの違いであり、適用される法律や規則も異
なっている。
2. ビジネス航空の3つの基本形態
ビジネス航空は仕組みの上から、以下の3つの形態に分類されるが、更にそれらの中間的なもの
も含め更なるバリエーションがあり、
利用者は夫々のニーズに応じて、
最も相応しい形態を選択する。
2-1 フル・オーナーシップ 自家用機による無償のビジネス航空で、最も典型的かつ古典的なのはオーナーが所有する機体を、
ビジネス目的で、オーナー自身がパイロットとして飛ばす場合で、整備は通常専門事業者に委託す
るが、パイロットを委託する場合もある。
その発展形として大企業が複数機からなるフリートを有し、これを専従のパイロットや、整備従
事者などで構成する自社運航部門が運航するコーポレート・オーナーの場合は最もフレキシブルな
運用とすぐれた安全管理を実現できる特徴を有している。
2-2 フラクショナル・オーナーシップ 個人又は規模の小さい企業の場合、航空機を丸々一機所有するのは費用負担が重すぎたり、利用
効率が悪い場合があるので、機体を分割所有するのがフラクショナル・オーナーシップである。我
が国では法規上の裏付けがないので未だ存在していないが、(禁止されてはいない)米国ではその
為の法規も整備され、ビジネス航空普及の推進力となっている。 オーナーがn人である場合、機体の1/nを分割して所有し、持ち分に応じた使用権を手に入れる。
もしn=4で、この機体が年間800時間飛行できるとすると、1人のオーナーは年間、800/4=200
時間 利用する権利を有することになる。(nの最大値はFARで16と決められている) 2012 JAN
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運航や整備はプログラム・マネージャーと称される国から認可を受けた専門業者に委託し、オー
ナーは一定の年間維持費、及び燃料費など実際の飛行時間に応じて発生する運航変動費を支払う仕
組みになっている。
2-3ビジネス・チャーター (図1-4)
国の認可を受けたチャーター事業者が有償で運航する航空機をビジネス目的で利用する場合で、
たまにしか利用しない場合に向いている。
機体としては事業者が所有するもの以外にフラクショナル・オーナーからリースすることで原価
の低減が図られている。
以上の3つの形態について、適用される法規も含めてまとめたものが表1-2である。
適用される運航基準
ビ
ジ
ネ
ス
航
空
自家用航空
(無償)
商用航空
(有償)
形態
所有者
フル・オーナー
シップ
個人
コーポレート・
オーナーシップ
法人
フラクショナル・
オーナーシップ
個人又は
法人
Part 91K
チャーター
(オンディマンド)
法人
Part 135
米国 FAR
日本 航空法
Part 91
他国との
航空協定上の
制約
航空法の
運航要件
なし
航空法の
航空運送事業
認可要件
あり
表1-2
3. ビジネス航空利用の効用
欧米でビジネス航空が利用される理由については以下が挙げられる。
•
•
•
何時でも、どこへでも行ける、スケジューリングの柔軟性
ビジネス航空専用のターミナル施設(FBO)に自家用車でアクセスし、one stop でCIQが
行えるなど、時間効率が良い。
プライベートで快適な環境の中で移動中に効率よく執務(商談や会議を含め)出来る。
• プライバシー、とセキュリティーがタイトに守られる。
1997年に米国のLouis Harris & Associate IncによりS&P 500社を対象に行われた、ビジネス航空
の利用者やパイロットに対するアンケート調査では、以下のように概括されている。
• ト ッ プ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト ( 会 長 、 社 長 、 CEO, CFO, 役 員 等 ) President, Board of
Directors”)による利用は22%にしか過ぎない。その他のマネージャー(Vice President,
General Manager, Director等)による利用が50%、そして20%は技術、営業、或いはサー
ビススタッフが利用している。
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• 一企業当たり平均 327 人が過去6カ月にビジネス機を利用している。
• ビジネス機を運航している企業の59%は従業員500人以下であり70%は1000人以下である。
• 個人が複数回利用する場合を1人と勘定すると企業当たり平均85人が利用している
• 利用者はビジネス機に搭乗した場合殆どの時間を仕事に費やしている。: 平均36%の時間
を会議に充てており、残りの約30%を個々人の仕事に費やしている。
• ビジネス機を利用している場合はオフィスでの執務中より20%生産性が高いとしているが、
一方航空会社を利用している場合はオフィスでの執務中よ40%生産性に劣るとしている。
• ビジネス航空の47%のフライトは定期航空の就航密度の低い空港を利用しており、33%は
ビジネス航空用途に適した2次的な空港を利用して行われている。
• ビジネス航空を利用する理由
・定期航空会社への接続に利用: 1%
・保安上の理由: 6%
・航空会社のサービスが無いから: 19%
・航空会社利用では仕事のスケジュールに間に合わないから: 64%
・その他: 9%
• S&P 500社を調査した結果2003年から2007年の間に於いてビジネス機のユーザー企業は幾
つかの重要な財務指標に於いて利用しない企業を凌駕している。
4. ビジネス航空の実績 以下は2009年のビジネス航空の実績に関する我が国と米国および世界各国との比較であるが、米
国のみならず、その他の国々に比しても相当程度差のある事ことが明らかである。
• 表4-1は2007年~2009年の日本におけるビジネス航空実績の推移を日本国籍機及び外国籍機
の機数及び日本国内空港国への着陸回数を以て示すデータである。(出所:日本ビジネス
航空協会)
日本国籍機によるビジネス航空
外国籍機によるビジネス航空
年
機数
国内着陸回数
機数
国内着陸回数
2007 年
56
8683
629
2284
2008 年
54
6223
820
2046
2009 年
55
5661
740
1980
表4-1
FAA 実績データ 固定翼ビジネス機数 米国 ( 2009 年)
Engine
Type
機数
Business
Corporate
データ・ソース:FAA
飛行回数 (飛行時間 /1.4)
Air-Taxi
Total
Business
Corporate
Air-Taxi
Total
Piston
(単発を除く)
4377
971
1123
6471
290679
116508
236634
643821
T-prop
1737
1718
1079
4534
1227
771
1998
3996
Jet
1048
6189
2489
9726
4421
1778
6199
12397
Total
7162
8878
4691
20731
296326
119056
415383
830766
表4-2
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• これに対し表4-2は2009年の米国籍機による機数と年間飛行回数の実績である。表4-1と比
較すると、機数では日本55機に対し米国は20,731機であり、又飛行回数では日本の5661回・
年に対し米国の830,766回・年が比較の対象である。
• 表4-3は英国のFlight Grobal社による、各国のビジネス・ジェットの機数(2009年)である。
ここでは日本の機数は48機となっているが、表4-1で55機となっている。その理由は後者の
場合双発のピストン機をビジネス機数に勘定していることにある。
世界のビジネス機の数 (2009 年)
公用機を含む、ピストン機を除く 出所:Flight Global 社
国名
ターボジェット
ターボプロップ
合 計
米国
1392
6542
17934
ブラジル
421
501
922
カナダ
412
452
864
メキシコ
597
248
845
ドイツ
375
164
539
英国
277
78
355
オーストラリア
126
210
336
フランス
135
173
308
オーストリア
256
20
276
スイス
147
56
203
ポルトガル
189
3
192
印度
111
76
187
イタリア
124
36
160
スペイン
123
33
156
ロシア
86
20
106
ケイマン
100
1
101
中国(香港、澳門を含む)
77
11
88
サウジ
64
19
83
UAE
75
5
80
バーミューダ
65
4
69
日本
25
23
韓国
14
1
15
台湾
2
1
3
48(注)
表4-3
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5. わが国ビジネス航空の問題点
上記第4項で述べたわが国のビジネス航空が世界に遅れている理由については、戦後一時中断の
後再開されたわが国の民間航空は、一貫して航空会社の大型機による大量運送に政策の重点が置か
れて制度や設備が整えられた結果、小型機運航の世界はいわば置き去りにされてきたことにあるが、
具体的に項目を挙げると
• 主都圏ではビジネス航空にとって利便性の良い空港は羽田しかなく、成田も距離的には
•
50km圏外に位置している。 いずれも定期航空で混雑する空港であり、ビジネス航空の発
着枠数には限界があり、欧米にみられるビジネス航空専用空港が必要である。
我が国にはビジネス機専用ターミナル施設(FBO)がないので、ビジネス機利用者も航空会
社利用旅客と同じ動線をたどるのでセキュリティーやプライバシーが守れないし、CIQの時
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
間効率が悪い。
ビジネス・チャーター機の整備や運航にかかわる規制が航空会社などの大型機材とは区別
されていない(米国のFAR Part 135など)
運航や整備に係る規制/基準が粗く、規制への合否が国の検査官に委ねられているきらい
がある。
整備に関しては整備士の資格が型式限定であったり、年次の耐空性検査制度があるなどが
整備のコスト高を呼んでいる。
操縦士の確保が困難(詳細は後述)
事業用操縦士を養成する学校が極めて限定されている
ライセンス付与や資格維持に関わる検査は官のみが行い、民間への委譲はなされていない。
軍の操縦士の民間航空での位置づけがされていない
機体維持コストを下げるための分割所有制度(フラクショナル・オーナー)の法制度がない
自家用外国籍機の日本への離着陸及び国内移動に伴う事前手続きにリードタイムを要する。
ビジネス・ジェットは分不相応の贅沢であると言う、社会の理解-カルチャーが根強いので
利用側にも躊躇いがあり、国としても積極的な施策を打ち出し難いきらいがある。
上述の諸問題の解決について日本ビジネス航空協会は2005年以来、国に要望してきたが、この数
年で国としての本格的取り組みが行われるようになり、その中でいくつかの具体的施策が示され、
今後の展望に期待されるところである。
6 ビジネス航空の安全性
6-1 10万回飛行当たり人身事故発生率
安全性を数値で表す指標の一つである人身事故の発生率(10万回飛行当たり)について、図6-1
はIBAC(注)によるものであるが、全世界のビジネス運航の実績を2003年から2009年の7年間に
ついて5年毎の移動平均で示したものである。
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注)IBAC(International Business Aviation Council)は世界各国のビジネス航空協会の上部団体
ビジネスジェットの人身事故発生率 (単発ターボプロップを含む):出所IBAC
Y軸:10万回飛行当たり人身事故発生件数
X 軸:例、2005-2009は2009年を最終年とする5年間移動平均
人身事故発生率 10万回飛行あたり
表6-1
ここでCommercial(Air Taxi)は、ビジネスチャーター(2.3参照)を指し、Corporateはコーポ
レート・オーナー運航(2.1参照)を、またowner-operatedは個人オーナー運航(2.1参照)を指し
ている。 そしてAll Business Aircraftは上記3項目の平均である。
Commercial Airline はボーイング社による定期航空の実績数値であるがIBACとは算出前提が異な
るであろう為、あくまでも比較参考値である。
単純に数値だけを比較するとCommercial Airline はコーポレート・オーナー運航と等価である
が、All Business Aircraftより一桁優れている。
定期航空の場合は同じ区間を繰り返し飛行するのに比べ、ビジネス航空の場合は航行援助施設や
空港設備の貧弱な地点を含む不慣れな区間を飛行しているなど環境条件が異なるので数字だけの比
較で優劣を決めることはできない。
又定期航空ではほとんど使用されていない小型ターボプロップの事故発生率が最近のビジネス・
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ジェットの主力であるターボジェット機より約4倍大きいことも、All Business Aircraftの数値を押
し上げる理由になっている
むしろこのようなハンディがあるにも拘わらずコーポレート・オーナー運航の場合は定期航空と
数値上同等の実績を示しているのは、定期航空と同等あるいはそれ以上安全であると言える。
この安全性の高さの理由として、大切な会社の人財に万一の事がないように、自主的に運航基準
(定期航空会社の法的要求に基づくマニュアルと同様なもの)を定め、かつ効果的に実践する体制(安
全管理体制)が敷かれている事が近年注目されるようになった。
6-2. ”Industry Code of Practice” IS-BAO
このようなコーポレート・オーナーによる自主的運航基準やその実践体制はIndustry Best
Practiceと言われるものであるが、ビジネス航空の安全性を推進する役目にあるIBACは数ある
Industry Best Practiceを基にチャーターにも自家用オーナー運航にも適用するべく汎用の運航
基 準 (“ Industry Code of Practice ”) で あ る IS-BAO ( an International Standard for Business
Aircraft Operations)を2002年1月に設定した。 その狙いはIS-BAOが提唱する運航基準及びその実践体制(安全管理体制と言われるもの)をビ
ジネス航空界に敷衍し、全体の安全性をコーポレート・オーナー運航並みに引き上げることにある。
又IS-BAOは国際品質基準ISOと同様、IBACが運航者を監査の結果、IS-BAO要件を満たしている
と判断された場合は当該運航者がIBACに認証登録される制度となっている。(日本では岡山航空
㈱が認証登録されている)
一方世界の航空に係る技術基準を制定しているICAO(国際民間航空機関:国連の一部)も近年
の小型機運航の量の増加や、定期航空並みへの質の変化に対応するため、非商用機の運航に係る技
術基準であるICAO ANNEX 6 Part 2 を大幅に改訂した。 内容的にはIS-BAOのアプローチを大幅に取り入れたもので、最大離陸重量が5.7トンを超える飛
行機、ターボジェット機、及び客席が10席以上の航空機の運航を行う者には”Industry Code of
Practice”(IS-BAOを特定している訳ではないが、同等のもの)に基づく安全管理体制の確立が義
務化されている。
このANNEX 6 Part 2の改訂はすでに2008年7月に発効しているが、2010年11月には順守義務が
生じることになっており、日本もICAO加盟国として批准している。 従ってごく近い将来にはビ
ジネス機の安全性が補強されると考えてよい。
(次号に続く)
中溪 正樹氏のプロファイル
1959 年大阪大学工学部卒業後、1998 年まで日本航空株式会社にて主として整備および運航に関わる技術業務に従事。
1998-2000 年、北海道国際航空㈱にて安全管理体制の構築を含む航空会社経営に従事(社長)
2003 年から日本ビジネス航空協会 副会長、事務局長を経て現在は理事・特別顧問
2011 9 月 日本航空協会より航空功績賞を受賞
[email protected] www.keiknowledge.com
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ビジネス航空
その現状と問題点
その2
日本ビジネス航空協会 理事・特別顧問
Kei Knowledge Inc 代表
中溪 正樹
PartⅡ ビジネス航空とパイロット
1. 日本及び米国のパイロット・ライセンス保有者の数
表-1は2006年から2009年のライセンス種類別の保有者の人数である。
日本及び米国における操縦士人数
年
2006
ライセンス種類
2007
2008
2009
米国
日本
米国
日本
米国
日本
米国
日本
訓練生
84666
?
84339
?
80989
?
72280
?
?
211096
?
222596
?
自家用操縦士
219233
211619
?
事業用操縦士
117610
3619
115127
3713
124746
3667
125738
?
定期運送用操縦士
141935
4666
143953
4722
146838
4975
144600
?
注 1:米国の数値はFAAによるもので、表中の各年の 12 月 31 日付け、
注 2:日本の数値は「数字で見る航空」(航空振興財団)による 表中の各年の翌年の1月1日付けのもの
注 3:日本の定期運送用操縦士で特定本邦航空運送事業以外の人数は各年 300 人強である
表-1
これらパイロットがどのような分野で仕事に従事しているのかを事業分野ごとの機数のデータ等
を基にここ数年について類推したものが表 ‐ 2である。(但し多くの種類のデータを一定の前提で
継ぎ合わせたものであり為、あくまでも概数であり精度を問えない)
・ゼネラル
機数と操縦士数
国
・アビエーション
定期航空会社
・ビジネス
(コミューターを除く) ・チャーター
・コミューター
(注 1)
航空機数(機)
定期運送用操縦士
操縦士(人)
事業用操縦士
自家用操縦士
米国
7,000
230,000(注 2)
日本
750
1,250
米国
40,000
100,000
日本
5,000
300
米国
40,000
80,000
日本
400
4,000
米国
?
220,000
日本
?
?
注 1:航空機数には回転翼機を含んでいる(米国約 10000 機、日本約 800 機)
注 2:内、約 150,000 機は自家用機である。
表-2
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これから言えることは:
•米国の定期航空会社の機数や操縦士数は日本の約10倍の規模であるが、定期航空以外の分
野の規模が日本とは比べ物にならないくらい大きく、多くの操縦士がビジネス航空を含め、
多くの航空機の運航を支えている。
•米国では数多くの定期運送用操縦士が定期航空以外の分野に従事している。これは定期航
空会社以外の場合であってもターボジェット機や、客席数が10席以上の飛行機、または多
発のコミューターに使用される飛行機の機長には定期運送用操縦士ライセンスが要求され
ること、及びビジネス・チャーター運航では定期運送用操縦士ライセンスの保有を前提に
して、運航上のフレキシビリティー(必要着陸滑走路長や計器進入開始条件などに於ける)
を付与しているなどの理由による。また次の2項に述べるように養成体系が確立している
ため十分な人数の定期運送用操縦士が確保されているという現実も大きな理由である。
従って日本で日本国籍機によるビジネス航空を本格的に立ち上げようとすると、操縦士不足に直
面することは明らかであり、その解決のためには操縦士の養成、ライセンスや資格の付与および維
持に関わる制度の見直しが必要である。
また養成体系の確立には時間を要するので、その間はビジネス・チャーター運航に関しては一定
の条件下(最大座席数で限るなど)で事業用操縦士が機長に任用されるなどの措置が必要であろう。
(日本では、最大離陸重量が5.7tを超える航空機または9.08tを超える回転翼航空機を使用して行う
航空運送事業の機長には、定期運送用操縦士の資格が要求される)
2. 米国における操縦士の養成
米国では操縦士養成の制度が確立しており、その門戸が開かれているため効率的に養成や昇格を
可能ならしめている。
ライセンス取得に至る要件が客観的かつ具体的にFARで示されており、それにしたがって民間
の養成施設あるいは各種のcertified operatorが合否の判定までを含めた養成を行っている。
更に軍のパイロット保有者から民間航空パイロットへの移行基準をFARに定め、合理的かつ効
率的に移行を行うことで、特に定期運送用操縦士の養成人数を確保している。
2-1 ライセンス取得要件
取得要件がFAR Part 61で詳細かつ具体的に定められている。(表-3) 特に学科及び実地試験に
ついては評価項目と合否の基準が判定者の主観に影響されないよう様に配慮されている
ライセンス種類
Plivate(自家用)
Commercial(事業用)
ATP(定期運送事業用)
経験要件
FAR 61.109
FAR 61.129
FAR 61.159
前提資格
なし
FAR 61.123
FAR 61.153
学科試験項目
FAR 61.105(b)
FAR 61.125(b)
FAR 61.155(c)
実地試験項目
FAR 61.107(b)
FAR 61.127(b)
FAR 61.157(e)
表-3
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2-2 指定養成施設
FAR で FAA が 認 可 す る Pilot School (FAR Part 141 に 定 め ら れ て い る ) 及 び Training Center
(FAR Part 142に定められている) について施設の法的資格、運営、カリキュラムを含む訓練審査
の方法について細かく取り決められている。
Pilot Schoolは訓練やカリキュラムの管理、Training Centerは訓練審査の実施というのが主な棲
み分けとなっている。
特徴的なことは
(a)Airline Transport Pilot Certification Course(定期運送事業用操縦士コース)が設定できる
(Appendix E to Part 141)
(b)Examining Authorityを有するSchoolの場合は自社の認可された試験官がFAAに依らず最終
合否を決定できる(FAR 141.65)
(日本にも特定本邦航空運送事業やそれ以外にも独立した養成学校があるが、事業用操縦士の養成
までである。)
2-3 Certified Operator による操縦士の養成
上記2-2とは別に FAR Part 91K, Part121,Part135に基づくCertified Operator(国の認可を受け
た運航者)でもそれぞれFAR Part 91K, Part121,Part135で定められた基準に従ってpilotの訓練及
び資格の取得が出来るようになっている。
ここではAirline Transport Pilot Certification の他、上位のPIC SIC などの資格取得および維持
が行えるようになっているが、この場合も自社の認可された試験官がFAAに依らず最終合否を決
定できる。
(日本にも同様の制度はあるが、どこまで国の検査を省略できるか、等についてて必ずしも明確に
は公開されていない。)
2-4軍のパイロットの活用
日本とは異なり米国では軍のパイロットを、民間航空のパイロットのリソースとして活用してい
る。その為の要件がFAR 61.74に示されている。
基本的には軍の rating(aircraft rating, instrument rating, type rating)に基づいて、それと同
等の事業用操縦士ライセンス を付与するものである。
現在有効な軍のライセンス保持者には知識審査のみを以て付与し、過去に有効な軍のライセンス
保持者には知識試験に加え実地試験を以て付与するものである。
その事業用操縦士ライセンスをアップグレードして定期運送用操縦士ライセンスを取得出来る
が、ここでも軍での経験実績がクレディットされるので、比較的短期間でライセンスが取得できる
ようになっている。
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終わりに
我が国のビジネス航空には様々な問題があり、爆発的な成長は期待できないが、もともと外国で
実証されているようにニーズが高いこと、そしてここ数年問題が解決に向かっているので、それに
合わせてなだらかな成長が期待される。
操縦士に関わる問題が顕在化しないよう、取り組みが期待される。
以上
中溪 正樹氏のプロファイル
1959 年大阪大学工学部卒業後、1998 年まで日本航空株式会社にて主として整備および運航に関わる技術業務に従事。
1998-2000 年、北海道国際航空㈱にて安全管理体制の構築を含む航空会社経営に従事(社長)
2003 年から日本ビジネス航空協会 副会長、事務局長を経て現在は理事・特別顧問
2011 9 月 日本航空協会より航空功績賞を受賞
[email protected] www.keiknowledge.com
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