「消費者の変化に対応する米国小売業の姿(PartⅡ)」

「消費者の変化に対応する米国小売業の姿(PartⅡ)」
Excell-K
(株)ドムス・インターナショナル
代表 松村 清
前月号に続いて消費者の変化に対する小売業の対応について述べてみよう。
1) ストレスフリーの店作り
米国人は以前より労働時間が長くなっている。その為小売店選択において短時間ショッピン
グ機能を求めている。そして 10 人中 6 人はストレスフリーショッピング(イライラしない
ショッピング)を求めている。実際、ロサンゼルスにある筆者の住まいの近所にあるラルフ
スーパーマーケットはレイアウト変更も含めた大掛かりな改装に加えて売り場を 2000 坪超
のサイズに広げたため、今までのショッパーにとっては売り場が非常に分かりづらく買い物
がしにくいストレスのたまる店になった。そこで店舗が取った対策は「ストレスフリーで買
い物のしやすい店」という戦略で、床掃除のパートタイマーにまで売り場の場所を徹底して
覚えさせ、少しでも迷ったり探しものをしている顧客がいるとすぐに声をかけて売り場に案
内するストレスフリーの買い物を提供している。レジ待ちを嫌う顧客の為に、エキスプレス
レジやセルフレジも数多く設置した。ドラッグストアのウォルグリーンやライトエイドの大
型店では店内にヘルスケアガイドと呼ばれる売り場案内をするコンシェルジュを配置した。
健康食品や OTC を含めたヘルスケア売り場では、自分の欲しい商品の売場やブランド探し
に手間取っている顧客にお手伝いする役割だ。現在ドラッグストアの顧客の平均滞店時間は
7.5 分だ。ヘルスケアコーナーで商品選びに時間がかかってはあっという間に 7.5 分が経過し、
他の売場に行ってくれず購買点数が上がらないからというのも、コンシェルジュ配置の理由
でもある。
購入した商品が不満足なら、使用した後でも返金に応じる「満足保証」を殆どの小売業で実
施している。生花 1 週間鮮度保証、青果の鮮度保証、アパレルの満足保証、チラシ商品が売
り切れた場合、後日その商品が入荷したときチラシ期限が過ぎてもチラシ価格で購入できる
「レインチェック」というシステム、店内価格表示より高い価格でスキャンした場合はその商
品を無料、安くスキャンした場合は安いままの価格でお客に商品を渡す「正確価格保証」、ウ
ォルマートのセービングキャッチャープログラムのように購入価格より他店で安い価格があ
った場合差額を返す「最低価格保証」、ターゲットやノードストロムのように定番価格で購入
後 2 週間以内に同企業がその商品をディスカウント販売した場合、差額を返金する「定番価
....
格保証」等、顧客をイラっとさせない保証制度を提供している。
また品揃えされていない商品は出来るだけお取り寄せする「Yes, I Can!」サービスを実施
している。それも 48 時間以内に取り寄せ商品がお客の手に渡るよう努力をしている。
迅速なレジを目指して、ウォルマートの店舗によっては SPH コンテストをしている。1 時間
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当りにスキャンした商品数を争うコンテストで、チャンピオン初め優秀レジ係の写真付きで
スキャン数を表示している。ウォルグリーンは満足度調査を常時行っており、買い物の度に
満足度合いをネットで応えてもらえるようにしている。その中から月に一度抽選が行われ 1
等は 3000 ドルの賞金がもらえる。それ程にハッスルフリーの店作りに力を入れている。
2) 新しい店作りの試み
a) 店舗のダウンサイジング
スーパーマーケットのトレーダージョーやホールフーズマーケット、オフィス用品のステ
ープルズやホームファッションのベッド・バス&ビヨンドの小型店、ディスカウントスト
アのシティターゲットやウォルマートのネイバーフッドマーケット、ドラッグストアのコ
ンビニエンス型、7-イレブンの再活躍など、小型フォーマットが非常に受け入れられている。
その理由として、人々の都市への流入、世帯構成人員の減少、多忙な人やシニア&ミレニ
アルズの増加によるクイックショッピング志向の増大、少量ショッピングの増加などが挙
げられている。
b) 主通路と副通路
ある調査によると、顧客が店内で使う時間は、主通路での買い物時間 39%、副通路での買
い物時間 18%、売り場移動やレジでの時間 44%だが、主通路の買い物時間が増加し、逆に
副通路でのショッピングが減少している。そのため副通路での買い物のしやすさと、レジ
での待ち時間の減少が大きな課題となっており、対策として、関連陳列・ソリューション
陳列を強化している。またレジではセルフレジやエキスプレスレジを設置する企業が増え
ている。ドラッグストアではお客が 3 人レジに並んだら新しいレジをオープンすることを
鉄則としている
c) レジ前売り場及び関連陳列の充実
スモールバスケット(少量買い)ショッパーが増加し、全体の 2/3 もいると言われている。
この人たちは売り場の 1/3 しか歩かない買い物客だ。どんなに素晴らしい棚割りや陳列を
作っても、なかなかその売り場まで行ってくれない時代だ。セルフサービス方式では顧客
の目に留まらなければ、物は買われない。そこで強化しているのが「レジ前と関連陳列」
だ。買い物をすれば必ず行くところがレジ前だからだ。そのレジ前は販売目標と責任者を
決めて管理されている。陳列される商品として、バッテリー、キャンディー、チューイン
ガム、雑誌などの定番商品は当然あるが、それだけでは飽きが来て注目度が落ちるため、
時期に合わせて季節物や新製品が陳列されている。関連陳列では「顕在ニーズ関連陳列」
と「潜在ニーズ関連陳列」がされている。ジュース売り場にストローを、ワインコーナー
にワインオープナーを陳列するのは顕在ニーズ関連陳列だが、ベビーコーナーに育児で疲
れた母親を意識してのチョコレートを陳列するのは潜在ニーズ関連陳列だ。ドラッグスト
アでは 500 の関連陳列案を本部から店舗に提供され、店長が自分の商圏に合った関連陳列
を実施している。日本では関連陳列がバイヤーの縄張り争いからなかなか前に進まないが、
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そうは言っていられない時代が目の前に来ている。
d) 新買い物かごの出現
街中店舗の増加によりショッピングバスケットにも変化が生じている。通路を余り広く取
れないドラッグストアや小型のスーパーマーケットでは、ショッピングカートは大き過ぎ
る。かといって買い物かごでは数点の商品の買い物時には重くなるという両方の欠点を補
うため、買い物かごにローラーがついていて床に置いて引っ張れるものが出現している。
シニア人口が増加している今非常に重宝がられている。
3) ポイントカードの曲がり角
バーゲンハンターを含めた新規客をむやみやたらに集める戦略より、常連客を作りロイヤル
カスタマー化して、そこに集中してお金を使った方がより効果的であるということで、1990
年代以降ロイヤリティマーケティングが盛んに行われてきた。成功物語としてはテスコ傘下
のダンハンビー社が挙げられるが、イギリスの超大手スーパーマーケット・テスコや米国の
超大手スーパーマーケット・クローガーの成長に大いに貢献したと言われている。現在では
テスコが売りに出したダンハンビーUSA の株をクローガーが購入して「84.51」という会社
を立ち上げた。テスコのダンハンビー社売却の頃から、米国の小売業がポイント提供型のロ
イヤリティプログラムに少し距離を置き始めた。スーパーマーケット業界において、ロイヤ
リティプログラムメンバー数は 2013 年に前年比 1%、そして 2014 年に 2%減少している。
ロイヤリティカード発行枚数と実際に使用している枚数の比率(アクティブ率)は 42%にな
り、2 年連続で減少している。少々距離を置き始めた要因は、小売業サイドから見ると、カ
ードメンバー数が減少し始めたこと、消費者が一人当たり 10 枚以上のロイヤリティカード
を持ち差別化の武器になりにくくなったこと、カードメンバー購入履歴からの分析結果をタ
イムリーに現場で活用しきれないこと、投資対効果が低いことがある。消費者が持ちたがら
ない理由には、魅力的な特典が少ないこと、カードを持ち歩くことが面倒なこと、自分のプ
ライバシーが覗かれる心配があることなどがある。
英国スーパーマーケット第 6 位のウエイトローズは、他小売業がやっているポイントプログラ
ムをやらず、次のような独自の戦略をとっている。
a) メンバーシップカードを見せれば(買い物をしなくても OK)、コーヒーか紅茶が無料
b) 平日 5 ポンド、週末 10 ポンド以上の購買をすると新聞が無料
c) 会員カードを利用した買い物に対し、自動的に懸賞に対する抽選権が獲得出来、毎月一人
に食品 5000 ポンド、10 人に 500 ポンド分が当たる。買い物の頻度が多いほど抽選に多く
応募できる。これらにより頻度多く当チェーンで買い物をする理由を与えている
d) PB は 2 大売れ筋のバターおよびミルクは超低価格の 1 ポンドで提供
e) 会員向けに特定商品の中から会員が選択した 10 品目を 20%引き
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