1. 乳房再建について(総論) 1)乳房再建にはどのような方法があるか 乳房再建の方法は乳がん術式、患者さんの状態によって様々なものがありますが、乳がん術式ごとに大まかに 分けると以下のようになります。 ◎乳房切除(全摘)術の場合 乳房インプラントによる再建: 健康保険適応となったシリコン製の乳房インプラントを用いて再建します。組 織拡張器(エキスパンダー)を併用した二期法が現在のところ一般的です。 自家組織による再建(皮弁法): お腹や背中などの自分の組織を移動することにより再建します。血管が繋が ったまま移動する方法(有茎皮弁法)と、一旦切り離してから移動する方法(遊離皮弁法)があります。 ◎乳房温存(部分切除)術の場合 乳房形成術による再建: 乳房温存術後に残った乳房組織を利用して乳房の形態を整える方法です。 自家組織による再建(充填術): 損なわれた組織を乳房切除術と同様に皮弁法を用いて充填することで再建し ます。 このほか、乳癌手術で乳輪乳頭を合併切除された場合には乳輪乳頭を再建することも可能です。 2)乳房再建の適応について 乳房再建は希望する方法によって適している人、適していない人が異なります。詳しくは「6. 乳房インプラ ントによる乳房再建」 「7. 自家組織による乳房再建」の項を参照してください。 3)乳房再建の時期・手術回数について 再建の時期を表す用語として「一次再建、二次再建」、必要な手術の回数を表す用語として「一期再建、二期 再建」があります。 ・一次再建 (同時再建、即時再建も同じ意味です) 乳がんを切除する手術と乳房再建のための手術を同時に行う方法です。一次再建と言っても、1 回の手術です べてが完了するとは限らず、2回目の手術が必要となることもあります(二期再建の項を参照してください)。 一次再建の利点としては乳房の喪失感をあまり感じないですむこと、手術の回数が少なくてすむことが挙げられ ます。欠点としては、手術までの短期間に乳がん治療と乳房再建の両方について理解し、手術方法を決定しなけ ればならないことがあります。 ・二次再建 乳がんの手術や化学療法などの補助療法が一段落したところで再建を行う方法です。利点は再建手術の内容に ついてじっくり考える時間をとれることです。欠点としては再建までは乳房を失った状態で暮らさなくてはなら ないこと、手術の回数が一回多くなることが挙げられます。二次再建を選択した場合、乳がんの手術と乳房再建 の手術は別々の日程になりますから、それぞれの手術を別の病院で受けることも可能です。乳房再建を行ってい る病院が地元にないという場合でも、乳がんの手術は地元の病院で受けて、乳房再建は二次再建として別の施設 で受けるという方法も考えられます。 ・一期再建 1 回の手術で乳房のふくらみ (乳房マウンドと言います) を作る方法です。一般的に乳がん手術では、乳腺組 織に加えて乳輪乳頭や乳房の皮膚の一部も切除されることが多く、再建手術では乳腺組織の体積を補充するだけ でなく、皮膚も補う必要があります。このため、身体の他の部分から皮膚を補充できる方法 (自家組織による再 建) を用いる場合や、皮膚の切除が非常に少なくて補充が不要な場合に可能な方法です。 ・二期再建 乳房マウンドを 2 回の手術で作る方法です。乳がんの手術で切除された皮膚の不足分を補うため、まず 1 回目 の手術で組織拡張器 (エキスパンダー) を再建部位に埋め込みます。その後数週から数ヶ月かけてエキスパンダ ーに少しずつ生理食塩水を注入して膨らまし、再建部位の皮膚を伸ばしていきます。皮膚の余裕が十分できてか ら、エキスパンダーを取り出してシリコンインプラントや自家組織と入れ替える 2 回目の手術を行います (詳し くは「6. 乳房インプラントによる乳房再建」、「7. 自家組織による乳房再建」の項を参照してください。)。 これらの用語を組み合わせて「一次二期再建」、 「二次一期再建」といった表現をすることがあります。 乳輪・乳頭の再建手術は、乳房マウンドの再建が完了したあとに行うのが一般的で、「一期、二期」といった 手術の回数の中には含めません。 2. 乳房再建を受ける前に(知ってほしいこと) 1)術後薬物療法と乳房再建について 乳がんは手術後、再発を予防するために、ホルモン療法、化学療法、分子標的治療(ハーセプチンなど)を行 う場合があります。がんの進行状況、サブタイプと呼ばれるがんの性格(ホルモン陽性かどうか、HER2 という 因子をもっているかどうか)によって使用する薬剤が異なります。 ホルモン療法と再建:閉経前の場合はホルモン療法としてタモキシフェンを内服し、必要に応じて排卵を止め る注射もします。閉経後の場合はアロマターゼ阻害剤やタモキシフェンを内服しますが、どの薬剤も再建に影響 しません。ホルモン療法中に再建を行っても問題はないので、安心して再建手術を受けてください。 化学療法と再建:化学療法はアドリアマイシン系、タキサン系などいろいろな種類があり、術後の再発予防に は 3 か月から 6 か月、治療を行います。白血球減少、吐き気や脱毛、しびれ感、口内炎、倦怠感、爪や肌のトラ ブルなど様々な症状を伴う場合があります。再建手術は緊急を要する手術ではなく、むしろ感染を起こさないこ とや創部皮膚の血流や進展性などが重要なので、化学療法終了後の体調の良い時期に受けるほうがよいと思いま す。副作用で白血球が減少している時期は感染に弱くなるので特に注意が必要ですし、ほかの副作用も精神的に 負担となることが多く、無理のない予定を組むことをお勧めします。 分子標的治療(ハーセプチンなど)と再建:化学療法と併用して分子標的治療を行う場合も上記と同様です。 単独の場合は再建手術に影響しません。ただし、ハーセプチンは心機能を低下させる危険もあるので、手術に際 しては、必要に応じて心電図や心エコーなどで確認することもあります。 いずれにしても、乳腺外科医、薬物療法の担当医、形成外科医と細かく連絡を取り合って、相談の上、再建時 期、方法、合併症対策を決めてゆくことが大切です。 (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: 術後ホルモン療法中ですが、再建手術を受けても良いでしょうか? A: ホルモン療法は 5 年から 10 年と長期間に及びます。ホルモン療法中でも再建手術は問題ないので受けてく ださい。 Q: 手術の説明で乳房の切除と一緒にエキスパンダー留置を勧められました。まだ病理結果もわかっていないの に、入れて大丈夫でしょうか? A: もし病理結果で、ホルモン剤や化学療法、分子標的治療薬が必要ということになっても再建計画は上手に組 み立てられるので差し支えありません。ホルモン剤を併用しても再建には差し支えなく、化学療法をすることに なっても、エキスパンダーでの拡張も無理をせず、終了後に十分な組織拡張とインプラントへ入れ替えをすれば 問題ありません。形成外科、薬物療法担当医とよく相談してください。 Q: 化学療法や分子標的治療薬を受けると再建の出来上がりの美しさに差が出ますか? A: 何の影響もありません。ご安心ください 2)放射線照射と乳房再建について 放射線照射の目的は、癌の局所再発を下げて、それに関連する全身転移を予防することです。照射回数は一般 的には 25 回(50 グレイ)を基準として、手術の状況に応じて追加をすることはあります。照射は週 5 回、連続 して行います。 乳房切除術後の一般的な放射線照射部位 ・鎖骨上下リンパ節領域 ・胸壁 ・胸骨傍リンパ節領域 放射線照射と再建の順番は特に決まったものはありませんが、病期の状態、施設の方針によって下記のような 順番が主となります。 形成手術 乳房切除術 エキスパンダー 人工乳房/自家移植 ① ② 放射線療法 放射線療法 ① 乳房再建中~後に乳房照射をする場合 エキスパンダーで拡張しているときに照射をする場合と、人工乳房に入れ替える、もしくは自家移植をおこ なった後に照射をする場合があります。 ② 乳房照射後に乳房再建をする場合 切除術後 3~6 週間後より照射をおこない、乳房再建をおこないます。 化学療法はそれぞれの時期に応じて入ってきます。 放射線照射と再建時期に関しては、安全に行うために乳腺外科医・形成外科医・放射線腫瘍医の話し合いによ って決まります。 長所と短所はそれぞれにありますが、いずれにしても照射することによる人工物の感染や逸脱、再建した部分 の萎縮などの合併症があります。 Q: 合併症を最小限にするために大切なことはなんですか? A: 放射線照射により皮膚炎が起こります。炎症とその後に起こる乾燥対策が大切です。 照射中~後半に起こること: 照射している皮膚が赤くなったり、かゆみを感じたり、ヒリヒリしたりします。 照射後~終了後 1~2 か月くらいに起こること: 皮膚の赤みは落ち着きますが、まだらに色素沈着が起こり、乾燥します。 照射後時間が経過して起こること: 淡い色素沈着が残ることがあります。乾燥しやすくなり、目立ちませんが体毛が抜けます。 照射中~1 か月くらいの期間には、皮膚に炎症が起きていますので、適切に回復させることが一番になります。 ステロイド外用剤を使用することもありますが、短期間ですと使用には問題なく、早めに保湿に移るためにも必 要です。担当医に相談してください。 放射線照射後の皮膚は、ドライスキンの状態になりますので、適切なお手入れが必要です。 放射線照射部位のお手入れ方法 <洗い方> 石けん(固形・液体)は、刺激の少ないものを選び、泡立て、できるだけ手を使い、ていねいに優しく洗いま しょう。スポンジや目の粗いタオルでゴシゴシ洗うと皮膚を傷つけることがあるので気をつけましょう。 注意:放射線照射でついた黒ずみ(色素沈着)は、強くこすっても消えず、時間と共に薄くなってきます。こす ることによって色素沈着が強くなることがあるので気をつけてください。 <保湿> 洗浄後は患部をこすらないようにポンポンと押さえるように水分をとるように拭くとよいでしょう。 入浴・シャワー後にはできるだけ早めに保湿をすることをおすすめします。 季節に関係なく、継続的に保湿をすることが大切です。保湿剤にはクリームとローションなどの種類がありま すが、乾燥が強いときにはクリームが効果的です。担当医に相談し、照射後の炎症が治まったことを確認後、ヘ パリン類似物質クリーム等を使用するとよいでしょう。 放射線照射した部分に、指の腹を使って「の」の字を書くように、なでるように洗い、保湿剤を塗るといよい でしょう。首(鎖骨上の部分)に照射したときには、肩から背中部分(手が届く範囲)にも放射線があたってい ますので、忘れずにお手入れしましょう。 3)喫煙・肥満などの乳房再建のリスク要因について 喫煙は乳房再建に悪影響を及ぼします。これから乳房再建を受けるのなら、禁煙しなければなりません。もし 一次再建を受けるのなら、すぐに禁煙しなければいけませんし、二次再建でも手術を受ける日程が決まっている なら、直ちに禁煙すべきです。 喫煙は乳房再建の合併症率を高くします。結果として失敗に終わる可能性も高くなります。喫煙により体内の ニコチンと一酸化炭素の血中濃度が高くなり、血管が細く狭くなり、皮膚や筋肉の血流が悪化します。血流が悪 くなると、手術の傷の治りが悪くなり、乳房インプラントでも自家組織再建でも、さまざまな合併症を引き起こ す原因となります。 乳房皮膚の壊死、脂肪壊死、皮弁壊死、感染などを合併すると、全体の治療期間が長くなります。再手術を受 ける可能性や、期待した乳房ができない可能性もあるので、喫煙をされている方は、直ちに禁煙しましょう! 一方、肥満は乳房再建に悪影響を及ぼすという報告があります。体格指数(BMI: Body Mass Index)=体重(kg) ÷身長(m)÷身長が 25 以上を肥満と定義します。肥満が高度だとまず高血圧、糖尿病などの生活習慣病の合併 率が高くなります。手術時には脂肪が厚くて点滴が入りにくく、全身麻酔のための気管挿管が難しくなります。 また肺が膨らみにくい状況なので、術後に無気肺などの呼吸器の合併症を起こすことがあります。 乳房再建では皮下脂肪が厚いことが有利となる場合があります。自家組織による乳房再建の場合、腹部などか ら再建に必要な脂肪を十分に確保できるからです。しかしそのために太りすぎることは勧められません。肥満の 場合、手術操作に時間を要します。結果として出血、皮弁壊死などの合併症が多くなるという報告があります。 また乳がん患者さんは術後補助療法の副作用で、短期間で急に太るケースも見受けられます、乳房の大きさや形 の左右差は体重による影響を大きく受けるため、再建後も体重の変動に注意しましょう。 肥満の患者さんが乳房再建を受ける場合、ご自身の健康のためにも食生活の見直し、運動などで無理のないダ イエットを継続し、目標の体重を目指しましょう。減量が難しい場合、肥満の専門外来の受診も検討しましょう。 4)乳房再建の費用 乳房再建は保険診療で行われる場合と、自費診療として行われる場合があります。乳房再建および乳頭乳輪再 建の費用の概算について表にまとめました(保険3割負担)。費用は入院期間、麻酔法、手術内容、片側もしく は両側などにより違いますので、詳細は治療をお受けになる施設に問い合わせて下さい。 手術内容 入院期間 麻酔 費用(片側) 費用(両側) エキスパンダー挿入術 7 日~14 全麻 15〜20 万円 20〜25 万円 (組織拡張術) 日間 インプラント(人工乳房) 5 日 ~7 全麻 17〜22 万円 25〜30 万円 による乳房再建術 日間 遊離皮弁(穿通枝皮弁)による 10 日~14 全麻 40〜45 万円 70〜80 万円 乳房再建術 日間 有茎筋皮弁(広背筋皮弁や腹直 10 日~14 全麻 33〜40 万円 50〜55 万円 筋皮弁)による乳房再建術 日間 乳がん手術+ 7日~14 全麻 30〜35 万円 40〜50 万円 エキスパンダー挿入術 日間 乳がん手術+ 10 日~14 全麻 50〜55 万円 95〜100 万円 遊離皮弁による乳房再建術 間 乳頭再建術+ 0~5 日間 局麻 12〜14 万円 17〜20 万円 植皮による乳輪形成術 全麻 (2015 年 5 月 某大学病院での調査) *乳房再建では高額療養費制度を適用できます。年齢や所得に応じて患者さんが支払う医療費の上限が定められ ています。 *乳房再建に関連して行われる脂肪注入、脂肪吸引、健側乳房の豊胸術・縮小術・固定術,乳輪乳頭への刺青は、 保険適応がなく自費診療として行われることが一般的です。 *保険制度での医療費は改定される場合がありますので、最新の情報をご確認下さい。 3. 乳房温存手術と乳房オンコプラスティックサージャリー 腫瘍の広がりが比較的限局している早期乳がんに対し、腫瘍部に正常な部分を一部つけて乳房を部分的に切除 し、さらに残った乳房に放射線照射を行う治療を乳房温存療法と呼びます。また、乳房を部分的に切除し乳房を 残す手術のことを乳房温存手術と呼びますので、乳房温存療法は、『乳房温存手術+乳房照射』と言い換えるこ とができます。乳房温存療法は乳房全摘術を行った場合と乳がんで亡くなる可能性が変わらない、というデータ が報告されたため、現在では乳がんの標準治療となっています。 乳房温存手術は本来、単に乳房が残っているというだけなく、乳房らしい形が温存されていることが望まれま すが、切除量や切除部位によって大きな変形をきたしてしまうこともあります。そのため、特に最近は根治性(オ ンコロジー)と整容性(プラスティックサージャリー)の両立を目指したオンコプラスティックサージャリーと いう概念が普及してきました。 乳房温存手術では、まず、がんの部分をきちんと取りきって、その欠損部を埋めることが必要となります。欠 損部を埋める方法としては残っている乳房内の組織を移動して乳房の形を形成する方法と、乳房外の周囲の組織 を移動して充填する方法があります。 1)乳房温存手術と乳房形成術 乳房内の組織を移動して乳房の形を形成する方法です。欠損部が小さければこの方法で乳房の形を作ることが できますが、乳房の全体のサイズは小さくなります。欧米では、対側乳房を小さくして乳房の対称性を保つこと が多いですが、日本では対側の乳房縮小術(自費)を望む人は少ないため、乳房のサイズ差はあっても対側に類 似した形に乳房を形成することを目指すことが多いです。乳房の形を類似させるために乳頭乳輪を移動させて乳 房形成を行うこともあります。 (どのような人に適しているか) 切除量(欠損部)が小さい人 乳房が比較的大きく、乳房に対する切除量の割合が小さい人 2)で述べる乳房外からの組織の移動を希望しない人 (利点) 乳房外に凹みや新たな傷ができない (欠点) 乳房サイズが健側より小さくなる 大きな移動を行うと移動した組織が硬くなることがある(特に脂肪化の強い乳房) 欠損部が大きいと、この方法で良い形の乳房を形成することはできない (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: どんな傷ができますか? A: 腫瘍が皮膚に近い場合は腫瘍のある場所に傷ができますが、そうでない場合は乳輪周囲や乳房外側や乳房下 縁など目立たない場所になる場合もあります。気になる方は術前に主治医に確認してください。ただし、温存手 術の場合、術後放射線治療を行うため比較的、手術の傷は目立たなくなりますし、あまり傷の場所や大きさにこ だわりすぎると、逆に乳房の形が変形してしまうことがあります。 Q: 取ったところが大きく凹みますか? A: 凹みが目立たなくなるように周囲の組織を移動して充填しますが、欠損部が大きいと多少凹んだり、あまり 凹んでいなくても移動して充填した組織が硬く触れるようになることがあります。 2)乳房温存手術と充填術 乳房外の組織を移動して乳房の形を形成する方法です。欠損部が大きい場合はこの方法を用いないと乳房の形 を作ることができません。主に乳房の周囲にある組織を使用します。よく使用されるのは、乳房より足側の皮膚 や脂肪と、乳房より外側〜背中の皮膚や脂肪や筋肉(外側脂肪弁、広背筋皮弁、穿通枝皮弁など)です。 (どのような人に適しているか) 切除量(欠損部)が大きい人 乳房が比較的小さく、乳房に対する切除量の割合が大きい人 手術した側の乳房サイズが小さくなることが嫌な人 (利点) 欠損部が大きくても比較的良好な乳房の形を作ることができる 乳房サイズの左右差ができにくい (欠点) 乳房外に凹みや新たな傷ができる 手術時間が長くなり身体への負担も大きくなることがある 切除断端陽性で再手術となった場合、移動してきた組織も切除しなければいけなくなる 行える施設が限られる (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: どんな傷ができますか? A: 乳房より足側や外側の組織を移動する方法では、腫瘍をとるための傷から行えることが多いですが、背中の 組織をもってくる方法のうち広背筋皮弁や穿通枝皮弁は背中に新たな傷ができます。 Q: おへそ周囲の余っているお腹の脂肪はもってこれないんですか? A: 乳房のすぐ足側の組織はつながった状態で上に引き上げて用いることができますが、おへその周りの脂肪は 切り離さないと移動できないので、通常は使用しません。持ってくる場合は、血管をつながないと硬くなります し、血管をつなぐ場合はかなり大きな手術になりますので、乳房全摘しての再建をおすすめします。 4. 乳房インプラントによる乳房再建 1)エキスパンダーと乳房インプラントによる一次二期乳房再建 乳がんで乳房切除を受けると同時に、皮膚を伸ばすためのエキスパンダーを再建部位に埋め込み、皮膚が十分 伸びてから、エキスパンダーを取り出してシリコンインプラントに入れ替えて乳房を再建する方法です。 エキスパンダーは、大胸筋の下に埋め込み、エキスパンダー内に注射器で生理食塩水を少しずつ注入すること で、皮膚と大胸筋をしっかり伸ばします。伸展期間が短いと組織はすぐに縮んでしまうので、伸展には6ヶ月は 必要です。 (どのような人に適しているか) 乳房が比較的小さくて下垂がない人 乳がん手術で大胸筋や乳房の皮膚がしっかり残っている人 身体への負担が少ない手術を希望する人 (利点) 乳房切除の傷のみで、乳房外に新たな傷ができない 手術の身体への負担が少ない (欠点) やや硬さのある乳房になる 再建乳房の形は変わらないので、年とともに健側乳房が下垂すると左右差が生じる インプラントの外側に形成されたカプセル(被膜)が拘縮して乳房が変形したり、インプラントの破損などによ り、将来インプラントの入替などのメンテナンスが必要になることがある (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: 術後に放射線治療を予定していますがインプラントによる再建はできますか? A: エキスパンダーを挿入した状態でも放射線治療を施行してくれる施設はありますので、各病院でお尋ね下さ い。 Q: 局所再発がみつかりにくくなることはないですか? A: エキスパンダーやインプラントは、もともと乳腺組織のあった大胸筋と皮膚の間ではなく、大胸筋と肋骨の 間に埋め込みますので、皮膚や大胸筋前面などにでてくる局所再発がみつかりにくくなることはありません。 2)エキスパンダーと乳房インプラントによる二次二期乳房再建 乳がんで乳房切除を受けた後、しばらくしてから、まず皮膚を伸ばすためのエキスパンダーを再建部位に埋め 込みます。皮膚が十分伸びてから、エキスパンダーを取り出してシリコンインプラントに入れ替えて乳房を再建 する方法です。 エキスパンダーは、もともと乳腺のあった大胸筋と皮膚の間ではなく、大胸筋と肋骨の間に埋め込み、エキス パンダー内に注射器で生理食塩水を少しずつ注入することで、皮膚と大胸筋をしっかり伸ばします。伸展期間が 短いと皮膚はすぐに縮んでしまうので、伸展には6ヶ月は必要です。 (どのような人に適しているか) 乳房が比較的小さくて下垂がない人 乳がん手術で大胸筋や乳房の皮膚がしっかり残っている人 身体への負担が少ない手術を希望する人 (利点) 乳房切除の傷のみで、乳房外に新たな傷ができない 手術の身体への負担が少ない (欠点) やや硬さのある乳房になる 再建乳房の形は変わらないので、年とともに健側が下垂すると左右差が生じる インプラントの外側に形成されたカプセル(被膜)が拘縮して乳房が変形したり、インプラントの破損や変位な どにより、将来インプラントの入替などのメンテナンスが必要になることがある (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: 運動はできますか? A: 手術後1ヶ月は、エキスパンダーやインプラントが移動しないようにスポーツや運動は控えてください。そ の後は、運動に支障はありません。 Q: 放射線照射後でも再建はできますか? A: 放射線照射を受けると皮膚は硬くなり伸びにくくなりますので、エキスパンダーでの伸展が困難なことが多 いです。ただ、充分に伸展して再建することも可能ですので、形成外科医にご相談下さい。 5. 自家組織による乳房再建 1)広背筋皮弁による乳房再建 背中の皮膚・脂肪・筋肉を乳房切除術が行われた部位に移動して、損なわれた組織の代わりに充填する手術で す。移動は移植組織を栄養する血管がつながった状態で、振り子のようにわきの皮膚の下を通して行います。 (どのような人に適しているか) 人工物を使用したくない人 乳房の比較的小さい人 乳房温存手術を受ける人 (利点) 血流が安定しており、移植した組織が良く生着する 自然な柔らかい乳房ができる (欠点) 背中に手術の傷あとが残る あまり大きな組織が採取できないため、大きな乳房の再建は行えない (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: 背中の筋肉が無くなると運動ができませんか? A: 広背筋は手を後ろに回したりするときに使う筋肉ですが、その機能を代償するような筋肉がありますので日 常生活や軽い運動に支障を来すことはありません。 Q: 背中の傷あとは目立ちますか? A: 移植組織が小さい場合にはブラジャーのラインに沿った傷あと、移植組織が大きい場合には皮膚のしわの線 に沿った斜めの傷あとが残りますが、通常あまり目立ちません。 Q: 背中の筋肉を採った場合には背中の凹みが目立ちませんか? A: 背中の筋肉の厚みは薄く、皮膚の下の浅い部分にある脂肪も残りますので、背中の凹みが目立ちすぎること はありません。 2)穿通枝皮弁による乳房再建(腹部) 腹部の臍より下の皮膚・脂肪を栄養血管とともに乳房切除術が行われた部位に移動して、損なわれた組織の代 わりに充填する手術です。移動は一旦栄養血管を切り離し、わきの血管や胸の内側の血管と顕微鏡下において吻 合することで行います。 (どのような人に適しているか) 人工物を使用したくない人 乳房の比較的大きい人 乳房全摘術を受ける人 (利点) 自然な柔らかい乳房が再建できる 人工物と比べて術後のメンテナンスの必要性が少ない (欠点) 下腹部に手術の傷あとが残る 顕微鏡下の操作が含まれるため比較的長時間の手術となり、 また血管閉塞による皮弁壊死のリスクがある(約5%未満) 妊娠希望のある若年女性には適応しづらい (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: お腹の筋肉が弱くなって日常生活に支障はありません か? A: お腹の筋肉(腹直筋)とその支配神経は温存されますの で、日常生活や運動に支障を来たすことはほとんどありませ ん。 Q: 手術後は長期間の安静が必要ですか? A: お腹の筋肉が温存されますので、早期(通常術翌日)の離床・歩行が可能です。 Q: どのくらいの入院が必要で、いつ頃から日常生活に戻れますか? A: 個人差はありますが、入院期間は平均 2 週間程度で、軽作業であれば退院後すぐに可能なことが 多いです。 Q: 血管閉塞が起こってしまった場合、再建はもうできませんか? A: 人工乳房や脂肪注入を用いる方法で再建は可能です。 3)穿通枝皮弁による乳房再建(その他) 穿通枝皮弁は、筋肉は採らずに残して、穿通枝と呼ばれる血管のみ付けて、皮膚および脂肪のみを移植する方 法です。乳房再建の場合は、腹部の他に、大腿部(太もも) ・臀部(お尻) ・背部より採ることができます。大腿 部・臀部は血管をいったん切り離し、乳房近くの血管に顕微鏡を用いてつなぎます。背部は血管がつながった状 態で乳房欠損部へ移動します。 (どのような人に適しているか) 大腿部:乳房が比較的小さく、下垂している人,将来の出産希望のある人 臀部:乳房が比較的大きく、前へ突出している人,将来の出産希望のある人 背部:乳房温存手術(外側領域の部分切除術)後の人 (利点) 温かく、柔らかい乳房ができる 腹部の穿通枝皮弁が使用しづらい理由があるが、穿通枝皮弁を希望する場合に選択できる (欠点) 皮弁を採る部分に傷あとが残る 乳房の皮膚色や性状が異なるため、皮膚を補う場合は、あらかじめエキスパンダーを用いることがある 手術が難しいため、手術のできる施設が限られる。 6. 乳輪乳頭再建について 1)健側乳頭からの移植 乳輪乳頭を温存できなかった場合、乳房再建の最後の仕上げとして乳輪乳頭の再建を行います。 手術の方法 健側の乳頭を半切して患側に移植します。 乳頭が長い場合は乳頭の途中で水平に切開して採取します。乳頭の幅が広い患者さんでは、縦に切開して片側半 分あるいは V 字型に採取します。再建側では、移植した乳頭の周囲に tattoo や皮膚移植で乳輪を再建します。 皮膚移植は大腿内側基部の色素沈着した皮膚や健側乳輪の一部を使用します。 (どのような人に適しているか) (乳輪)乳頭のサイズが大きい人 健側の(乳輪)乳頭の縮小を希望する人 (どのような人に適していないか) 将来授乳の可能性がある人(授乳ができる方法もあります) 健側に傷をつけたくない人 放射線治療などで移植する部位の状態が良くない人 (乳輪)乳頭を採取する側にも乳がんの既往がある人 (利点) 質感、色調の対称性が得やすい。 採取した側の乳輪乳頭の縮小ができる。 (欠点) 完全に生着しないことがある(色素沈着、色素脱出、瘢痕などの原因となる)。 採取した側に傷あとが残る。 乳頭が長い 乳頭の幅が広い場合 乳頭が全体に大きい場合 2)局所皮弁による再建 再建した側の乳房の皮膚に皮下脂肪をつけた組織(皮弁)を立ち上げて乳頭の丸みを作ります。その周りに乳 輪を作ります。大きく分けて2つの方法があります。 1. 局所皮弁とタトゥーを組み合わせる方法 この手術法はいろいろな種類がありますが、スター皮弁(星の形、三つ葉に似た形をしているためその名前が つきました)とスケート皮弁(エイの形をしているためその名前がつきました)が一般的に用いられています。 スター皮弁はタトゥーを行い、色を付けます。スケート皮弁は乳輪部に植皮、乳頭部にタトゥーが必要です。 (どのような人に適しているか) 健側の乳頭が小さい人 両側乳癌で乳頭乳輪が両側ともない人 将来授乳の可能性がある人 (適していない人) 患側皮膚に術後照射されている人 (利点) 健側の乳頭を傷つけない 植皮の範囲が小さい(スケート皮弁) 植皮をしないでよい(スター皮弁) (欠点) 二期的にタトゥーが必要です 乳頭形成の手術と乳輪形成術と 2 回手術が必要です 長期的に見ると、皮弁は柔らかい組織で支持組織がないため、乳頭が平らになります タトゥーは数年たつと薄くなるので追加のタトゥーが必要です スター皮弁のシェーマ デザイン:三つ葉、星形 両側の皮弁を持ち上げる。 両脇の翼の部分の皮弁を縫 中央の皮弁には脂肪を付け 合し、乳頭側面を形成する。 て挙上する その他は縫い合わせる 中央の脂肪のついた皮弁で 真皮脂肪弁で乳頭上部を蓋 乳頭上部に蓋をするよう閉 をするように被覆する。 側面を縫い合わせる じる 術後 3 ヶ月以上経過して二期的に乳頭乳輪部にタトゥーをいれて色をつけます。タトゥーについては別の項目 で詳しく述べられていますので参照して下さい。 スケート皮弁のシェーマ デザイン 皮弁を持ち上げる 中央は脂肪がついた 皮弁になり、両翼は脂 肪がつかない皮弁と なる 両翼を縫い合わせる 乳輪部に大腿の皮膚 を移植し、縫合したと ころ 術後 3 ヶ月以上経過して二期的に乳頭部にタトゥーをいれます。入れない場合は乳頭が白くなります。 後療法:乳頭がつぶれないよう抜糸などが終了したら、3 ヶ月くらいはスポンジで乳頭乳輪を保護します。 (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: 移植に用いる皮膚は大腿のどのあたりからもってくるのですか? A: 太ももの内側の股の部分の色が黒いところです。外陰部ではなくその外側になります。 Q: 大腿の皮膚採取部の傷あとは目立ちますか? A: 盲腸の傷あとのように 1 本の線状になります。股の部分はしわがある部分ですので、しわに傷が隠れて傷あ とはあまり目立ちません。 Q: タトゥーは保険診療ですか? A: タトゥーは保険適用でないので自費診療になります。 Q: 乳頭乳輪の手術のあとどのくらいしたら仕事やスポーツができますか? A: 乳頭乳輪はつぶれないようしばらくガーゼやスポンジなどで保護しますが、事務仕事であれば 1 週間後から は可能です。スポーツや激しく動く場合は 1 ヶ月後から可能です。 Q: 再建した乳頭に感覚はありますか? A: 再建した乳頭の感覚は通常ありません。長期的に見ると周囲から神経が回復してさわると分かる程度に回復 するようです。 Q: タトゥーは数年すると色が消えるとのことですが、植皮の色はどうなりますか? A: 植皮は個人差があります。色がそのままの方もいれば薄くなってくる方もいます。ただ、 薄く残るので消 えることはないようです。 3)刺青(メディカルタトゥー) 乳房および乳輪乳頭の再建手術が終了した段階で、最後の仕上げとして刺 青(メディカルタトゥー)による乳輪乳頭部の着色を行います。 通常は、乳頭再建手術の後、最低 2〜3 ヶ月あけてから行います。 局所麻酔を施しますが通院手術として可能であり入院する必要はありません。 施術後、時間経過とともに色素はやや薄くなります。 施術に伴う感染やアレルギー反応といった合併症はほとんどありません。 メディカルタトゥーは保険外診療であり自費となります。 (Q&A)患者さんからよく受ける質問 Q: 費用はいくらかかりますか? A: 保険外診療のため自費となります。費用はそれぞれの施設によって異なりますので、お受けになる施設にお 問い合わせください。 Q: 施術時間はどれくらいかかりますか? A: だいたい 30 分~1 時間くらいです。 Q: 麻酔はしますか? A: 通常、局所麻酔(注射の麻酔)で行います。 Q: 入院の必要はありますか? A: 通院手術として可能ですので、入院の必要はありません。 Q: 1 回の施術で終わりますか? A: 通常、時間経過とともに色素はやや薄くなりますので、後日に追加のタトゥーが必要になることがあります。 Q: MRI 検査は受けられますか? A: メディカルタトゥーで通常使用する染料は金属を含みますが、非常に微量のため MRI 検査に支障をきたす こと(発熱によるやけどなど)はまずありません。ただし使用している染料は各施設によって異なりますので、 念のためお受けになる施設にお問い合わせになることをおすすめします。 Q: 乳頭の再建手術の前にタトゥーを行うことは可能ですか? A: 一般には、乳頭再建手術が終了してからタトゥーを行うことが多いのですが、乳頭再建手術の前あるいは同 時に行う施設もありますので、お受けになる施設にお聞きください。
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