論 文 内 容 の 要 有意に上昇していたが、FA 値に有意な変化を認めなかった ROI や線維束をグループ C と 旨 した。FA 値、ADC 値いずれも有意な変化を認めなかった ROI や線維束をグループ D とし 論文提出者氏名 論 文 題 森岡茂己 た。FA 値の有意な上昇と ADC 値の有意な低下のいずれか、もしくは両方を認めた ROI や 線維束をグループ E とした。 目 Effects of chemotherapy on the brain in childhood: Diffusion tensor imaging of 【結果】<ROI 解析> FA 値の有意な低下は左右の前方の脳室周囲白質 (左側, p=0.005; 右側, p=0.019)、左右の放線冠 (左側, p=0.002; 右側, p=0.035)、脳梁膝部 (p=0.001)で認 subtle white matter damage めた。左右の前方の脳室周囲白質 (左側, p=0.011; 右側, p=0.019)、左右の放線冠 (左側, p=0.017; 右側, p=0.003)で ADC 値の有意な上昇を認めた。 論文内容の要旨 【緒言】急性白血病 (ALL) や非ホジキンリンパ腫 (NHL) の治療成功率は年々向上して 左右の前方の脳室周囲白質と左右の放線冠はグループ A に、脳梁膝部はグループ B に分 おり、今まで以上に治療後生存者の生活の質 (QOL) に目を向ける必要性が高まっている。 類された。左右の後方の脳室周囲白質と内包後脚、脳梁膨大部はグループ D に分類された。 治療後生存者の神経学的合併症は QOL に影響するため、治療関連の神経学的異常をモニタ グループ C やグループ E に分類された ROI はなかった。 リングすることは重要である。この研究では拡散テンソル画像 (DTI) とそれを基にした < tractography 解析> tractography を用いて、新規に診断された ALL と NHL の小児について評価した。研究目 (p=0.047)を通過する線維束で FA 値の有意な低下を認めた。脳梁全体 (p=0.005)、膝部 的は、化学療法が白質に影響を与えているのか、もしそうならその影響を受けやすいのは (p=0.024)を通過する線維束で ADC 値の有意な上昇を認めた。 どこか、を明らかにすることである。 脳梁全体 (p=0.005)、 膝部 (p=0.034)、体部 (p=0.017)、峡部 脳梁全体、膝部を通過する線維束はグループ A に、脳梁体部、峡部を通過する線維束は 【材料と方法】2004 年 1 月から 2010 年 12 月までに ALL または NHL と新規に診断さ グループ B に分類された。脳梁膨大部を通過する線維束、左右の内包後脚を通過する線維 れた小児に対し、治療開始時と維持療法開始時に DTI を施行した。そのうち、中枢神経浸 束、左右の運動路、左右の感覚路はグループ D に分類された。グループ C やグループ E に 潤を認めた者、検査期間中に放射線治療や骨髄移植を受けた者、検査期間中に明らかな神 分類された線維束はなかった。 経合併症を認めた者を対象から除外した。発症時に 1.5 歳未満の者、検査の間隔が 7 か月 【考察】治療前後を直接比較することにより、化学療法が脳の白質に影響を及ぼしてい 以上の者も除外した。また、初回検査未施行者、体動によるアーチファクトで 2 つ以上の ることが明らかとなった。グループ B に分類される ROI や線維束はあったが、グループ C 線維束を描出できなかった者も除外した。対象は 17 例で、ALL が 15 例、NHL が 2 例、 に分類される ROI や線維束はなく、FA 値のほうが ADC 値よりも鋭敏な変化の指標である 男児 9 例、女児 8 例、診断時の平均年齢は 5.3 歳(1.6-13 歳)であった。DTI 撮像には Philips ことが示唆された。グループ A を明らかな変化群、グループ B を軽度変化群、グループ D Medical Systems の 1.5 テスラ装置、画像解析には同社の PRIDE を使用した。 を変化の乏しい群と考えることができ、これにより化学療法に対する脆弱性の部位ごとの <Region of interest (ROI) 解析> 違いについて評価できた。 左右の前方の脳室周囲白質、左右の後方の脳室周囲白 質、左右の放線冠、左右の内包後脚、脳梁膝部、脳梁膨大部に ROI を設定し、得られた ROI 解析および tractography 解析での 4 つに分画した脳梁線維束の比較から、領域が前 ROI の FA 値、ADC 値を計測した。 方であるほど化学療法に対する脆弱性が顕著であると考えられた。また、内包後脚を通過 <tractography 解析> 内包後脚を通過する線維束、運動路、感覚路、脳梁全体を通過す する線維束、脳梁全体を通過する線維束の結果から、投射線維よりも交連線維のほうが化 る線維束、さらに脳梁を 4 区画に分けて膝部、体部、峡部、膨大部を通過する線維束を描 学療法の影響を受けやすいということが示唆された。ROI 解析では脳梁膝部はグループ B 出、各線維束の FA 値、ADC 値を計測した。線維束の描出の停止基準は FA 値 0.15 とした。 に分類されたが、tractography 解析では脳梁膝部の線維束はグループ A に分類されており、 ROI 解析、tractography 解析で得られた FA 値、ADC 値を、ウィルコクソン符号付順位 和検定を用いて治療前後でそれぞれ比較検討した。解析には Excel add-in software を用い、 両側検定で p 値 0.05 未満を有意とした。多重比較検定は行わなかった。 中心部に比べて脳表部分が化学療法により脆弱であることが示唆された。以上より、髄鞘 化が遅い領域ほど化学療法に対する影響を受けやすいという傾向がみられた。 血液悪性腫瘍に対する化学療法で障害を受けやすいのは前頭葉の白質であり、化学療法 解析結果を基に、各 ROI、線維束を 5 つのグループに分類した。FA 値の有意な減少と に対する脆弱性は髄鞘化の程度と相関しているであろうことが本研究で示された。この結 ADC 値の有意な上昇を認めた ROI や線維束をグループ A とした。FA 値の減少は有意であ 果は化学療法が血液悪性腫瘍の患児の神経発達に負の影響を及ぼしていることを示唆して ったが ADC 値に有意な変化を認めなかった ROI や線維束をグループ B とした。ADC 値が おり、長期的な神経学的合併症の予防を考える上で非常に有用な情報である。
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