CANON TECHNOLOGY HIGHLIGHTS

CANON TECHNOLOGY HIGHLIGHTS 2009
この冊子はFSC認証紙、およびVOC(揮発性有機化合物)・鉱物油不使用で
生分解性や脱墨性にも優れたインクを使用しています。
〒146-8501 東京都大田区下丸子3-30-2 ホームページ canon.jp/
CTH11 1008SZ 40.5 Printed in Japan
CANON
TECHNOLOGY
HIGHLIGHTS
2OO9
make it possible with canon
CANON
TECHNOLOGY
夢を実現する技術、不可能を可能にする技術、
地球環境・社会を持続させる技術──
キヤノンは創立以来、時代を切り拓く独創的な
「技術」の開発と蓄積に努めてきました。
1 つの発見から誕生した新しい技術の種を
大切に育て上げ、これを製品として開花させる。
こうしたプロセスの背景には、
次世代を見すえたビジョンの設定、
オリジナル技術へのこだわり、
新しい技術領域へのチャレンジなど、
一貫したキヤノンの姿勢が息づいています。
■ CONTENTS ■
■ Message from Top Management
P.2
■ 入力機器
P.22
内田 恒二
コンパクトデジタルカメラ
P.22
代表取締役社長
一眼レフカメラ
P.24
デジタルビデオカメラ
P.26
スキャナ
P.28
■ キヤノン テクノロジーの俯瞰
P.4
クロスメディアイメージングの実現へ
■ 出力機器
■ 技術力で社会と環境に貢献
■ Discussing Canon Technology
P.6
P.8
生駒 俊明
■ Canon Core Technology
インクジェットプリンタ
P.30
大判インクジェットプリンタ
P.32
レーザビームプリンタ
P.34
ネットワーク複合機
P.36
プロダクション複合機
P.42
■ 露光装置
取締役副社長
P.30
P.44
半導体露光装置
P.44
液晶露光装置
P.46
P.12
撮像
P.12
電子写真
P.14
■ 光学機器
P.48
インクジェット
P.16
■ 医療機器
P.51
露光装置
P.18
表示(ディスプレイ)
P.20
■ 基盤技術
P.52
プラットフォーム技術
P.52
デバイス技術
P.58
生産技術
P.62
品質技術
P.66
■ 環境配慮技術
P.68
■ 未来を拓くテクノロジー
P.70
1
M e s s a g e f r o m To p M a n a g e m e n t
「共生」の実現をめざして、キヤノンの技術は
■「共生」の実現をめざす企業として
キヤノンの企業理念は、「共生」です。共生とは、文化、習慣、言
語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に
働いて、幸せに暮らしていける社会のこと。キヤノンの技術は、この
「共生」を実現していくものでなくてはなりません。
また、これまでのキヤノンの成長や利益の源泉となってきたのも、
技術にほかなりません。キヤノンは、生活水準の向上や社会文化の発
展へ貢献する技術イノベーションを次々と起こすことによって、世界
に名を知られる企業へと大きく成長してきました。
いま、世界は「持続可能(サステナブル)な社会」へと大きく変革
をすすめ、キヤノンも、これから 100 年、200 年と繁栄をしつづ
ける企業をめざしています。 世界にとっても、ものづくり企業である
キヤノンにとっても、技術はますます重要になっていきます。
■ものづくり企業としての本質
ものづくりでは、コアとなる技術を開発する力、それを実際にもの
にして製品に盛り込む力が問われます。キヤノンは、光学を核に、メ
カトロニクス、エレクトロニクス、ファインケミカルなどを融合し、
撮像や電子写真など「製品のコアとなる技術」を生み出すとともに、
製品化技術、生産技術やノウハウを磨き、競争力のある高付加価値製
品を送り出してきました。
さらに、キヤノンは強い意志をもって、高い「品質」を培う力を
いっそう強化しています。「デザインが良い」、「使い勝手が良い」、
「機能が良い」、「信頼性・耐久性が高い」、「コストパフォーマンスが
良い」製品を、これからも出しつづけていくことが、キヤノンの本質
であるといっても間違いありません。
2
未来へ向かって進みます。
■クロスメディアイメージング
いま、キヤノンは「人々の想いや考え、さまざまな映像や情報を、
時間や空間を越えて、『意のままにリアルに』表現・再現し、創造性の
発揮と活用、こころの豊かさを支援していくこと」をビジョンとして
掲げています。そして、その実現手段である「映像機器の高度な協働」
を「クロスメディアイメージング」と名付けました。これは“リアル”
を追求するカメラ・ビデオカメラ・プリンタ・ディスプレイなどの
入出力機器、画像処理技術・カラーマネジメントなどの技術プラット
フォームと、“意のままに”を可能にするユーザーインタフェース・通
信・ネットワーク・画像認識・画像検索などの多岐にわたる技術群を
さらに深化させ高度に連携させていくことにほかなりません。
キヤノンは「クロスメディアイメージング」をさらに発展させ、
自ら掲げるビジョンの実現に向けて邁進していきます。
キヤノン株式会社 代表取締役社長
クロスメディアイメージングの実現へ
キヤノン テクノロジーの俯瞰
キヤノンは、入力から出力、静止画から動画まで、映像製品の高度な協働を追求しています。
キヤノンのコアテクノロジーから広がる、「創る」「伝える」「見せる」イメージング技術は、
今までにない豊かなコミュニケーションを人々に提供していきます。
情報を
コンパクト
デジタルカメラ
X線
イメージセンサー
情報を
一眼レフカメラ
創る
スキャナ
ネットワーク
カメラ
伝える
技術
カラーマネジメント技術
通信技術
技術
液晶露光装置
半導体露光装置
デジタルビデオカメラ
テレビレンズ
ム技術
ォー
ットフ
プラ
ス技術
デバイ
術
生産技
露光装置技術
撮像技術
術
品質技
慮技術
環境配
基盤技術(→P52)
プラットフォーム技術・デバイス技術・生産技術・品質技術・環境配慮技術
製品の技術の土台となり、全製品に共通して使われる技術。
製品開発から生産、リサイクルにいたるまで
トータルにかかわり、キヤノン全製品に活かされています。
4
現在の技術のさらなる発展へ
技術領域の拡大へ
液晶プロジェクター
インクジェット
ブリンタ
ネットワーク複合機
情報を
見せる
SED
技術
レーザビームプリンタ
大判インクジェット
プリンタ
有機EL
ディスプレイ
プロダクション複合機
知的映像処理技術
医用イメージング技術
将来の技術
表示技術
インクジェット
技術
電子写真技術
将来の技術(→P70)
最先端の光学技術をコアにした「みる」技術、
高度画像処理技術を応用した「判断する」技術、
人工知能研究による「行動する」技術など、
未来のキヤノンの事業創出に邁進しています。
コアテクノロジー(→P12)
撮像技術・露光装置技術・電子写真技術・インクジェット技術・表示技術
キヤノンの核となる5つの技術群。
クロスメディアイメージングでは、これら5つのコア
テクノロジーをさらに革新しながら、新しく核となる
技術の創出に取り組んでいきます。
5
技術力で社会と環境に貢献
キヤノンは創立以来、時代を切り拓く独創的な技術で社会に貢献してきました。
70年以上におよぶ歴史は、技術開発の歴史そのものです。
つねに独自技術にこだわり、研究開発を重視し、それまでにない製品を提供し続け、
社会の利便性の向上に貢献し、新しい価値を創造しています。
独創的なものづくりの実現
米国特許登録件数
優れた技術者の育成
キヤノンの技術力は、先進技術の開発と基盤技
キヤノンには、優れた技術の研究開発に貢献し
術の蓄積で成長しています。技術力を測る指標
た社員を顕彰する独自の認定制度「Member of
の1つである特許においても、キヤノンは世界
the Canon Academy of Technology」があ
中の企業が集まるアメリカの特許登録件数で過
ります。キヤノン・アカデミーメンバーは、
去16年間にわたり3位以内を維持しています。
「技術のキヤノン」を代表するにふさわしい技
2007年上位5社
術のスペシャリストたちです。
1
IBM
3,135件
2
SAMSUNG ELECTRONICS
2,733件
3
キヤノン
1,989件
4
松下電器産業
1,948件
5
INTEL
1,866件
各専門分野について高い見識と業績をもつメン
バーの研究成果は、社内はもちろん、社外から
も学会活動や論文発表などを通じて特別な評価
を受けています。すでに社外の権威ある賞を受
けている人もいます。
アカデミーメンバーは、さらなる技術の研鑚、
社内の後進技術者の育成、社外に向けたキヤノン
技術のアピールなどを行っていきます。
※米国商務省発表による。
週間合計件数として発表された数値を元に算出。
キヤノンの研究開発拠点
世界各地で事業展開しているキヤノンは、アメ
4
リカ、ヨーロッパ、アジア各地域に研究開発・
生産・販売拠点を開設しています。独自の技術
を背景に、各地域の文化、多様性を尊重し、各
2
3
5
7
6
1
8
国・地域の人々のニーズに応える企業活動を積
9
極的に展開しています。
10
1 キヤノン株式会社
6 Canon India Software Development Centre
2 Canon Development Americas, Inc.
7 佳能信息技術(北京)有限公司
3
6
Canon U.S. Life Sciences, Inc.
8 佳能(蘇州)系統軟件有限公司
4 Canon Technology Europe Ltd.
9 Canon Information Technologies Philippines, Inc.
5 Canon Research Centre France S.A.S.
10 Canon Information Systems Research Australia Pty. Ltd.
技術による多彩な社会貢献
「真のグローバルエクセレントカンパニー」をめざすキヤノンは、事業活動以外の側面でも、
社会的責任を果たす努力をしています。現在、キヤノンは、世界各地で自然環境保護活動や
社会・文化支援活動を展開し、キヤノンの映像機器の提供や研究の支援をしています。
また「文化財未来継承プロジェクト」では、日本の文化財を最新のデジタル技術によって保
存し、後世に継承することを目的にキヤノンの技術が活かされています。
「文化財未来継承プロジェクト」
(愛称:綴≪つづり≫プロジェクト)
文化財の保護を目的とした、特定非営利活
動法人 京都文化協会との共同プロジェク
ト。
屏風や襖絵を始め、日本古来の貴重な文化
財をデジタルデータとして記録・保存し、
キヤノンの大判インクジェットプリンタを
活用して原寸大に出力。限りなく本物に近
い作品を再現できるため、貴重な文化財を
よりよい環境のもとで劣化を防ぎながら保
存することが可能です。
上:綴プロジェクトにより、京都・龍安寺に里帰りを
果たした伝 狩野孝信筆「琴棋書画図」
下:大判インクジェットプリンタで原寸大にプリント
宇都宮大学との産学連携
光学の体系的な教育の場がない、いまの日本。2007年4月、光学技術者の育成と最先端の
光学研究の場として、キヤノンは宇都宮大学と協力して「オプティクス教育研究センター
(Center for Optical Research and Education:略称CORE)」を開設しました。
幾何光学、波動光学などの基礎光学から、応用領域、先端光学までの体系的な教育と、新技
術や新しい価値を生み出すイノベーションの創出をめざします。
従来の共同研究、受託研究といった産学連
携とは一線を画す「CORE」。光学機器
のトップメーカーとしてキヤノンは、
「CORE」が世界をリードする研究機関
となるよう、社員を光学教育の講師として
派遣するなど、さまざまな支援・協力をし
ています。
7
D i s c u s s i n g C a n o n Te c h n o l o g y
「夢を実現していこう」と考えながら、
キヤノンの強みが
新たなイメージング世界の創出に
活かされていく
キヤノンのこれまでの大きな技術の柱には、光学技術と精密技術
などがあげられるでしょう。カメラなどにより培われたこれらの技
術は、半導体露光装置へと展開し、キヤノンの先進性を示す典型的
な製品となっています。
また、いわゆる IT 関連技術でも、LSI 設計技術や画像処理技術な
ど強い技術を有しています。
同時にキヤノンは、技術を複合・融合させた製品づくりでも定評
があります。例えば電子写真技術では、静電気を利用した複写機や
プリンタを市場に展開して、世界的な評価を得てきています。意外
にも静電気は、フランクリンが検証して以来、およそ 250 年間に
わたって完全に制御する術を確立できていない物理現象です。この
ように扱いの困難な現象を長い経験の積み重ねとノウハウの蓄積に
より実現してきました。そのことは、インクジェットプリンタ技術
にもいえることです。
つまりキヤノンの技術力は、光学技術と精密技術および周辺領域
の技術分野を、現場に立脚したノウハウで複合・融合し、先鋭化す
ることで、めざましく発達してきたのです。
まさに、「技術」と「技能」の融合で実現された現場力の粋といえ
ます。現場力の観点では、セル生産方式や自動化、キーデバイスの
内製化といったものづくり重視の体制もキヤノンの強みといえます。
また、トナーやインクといった製品も材料技術の結晶であり、現
在、キヤノンの成長の源泉となっています。
このようなキヤノンの技術力を将来にわたって発展させていくた
めに、引き続き、強い技術を継続的に強化していきます。
さらには、2005 年から、キヤノンの技術力推進の方向性として
打ち出している「クロスメディアイメージング」では、従来の取り
組み分野を広げ、既存の技術力の強みを活かしながら、広範で新し
いイメージングの世界を開拓していきます。
キヤノン株式会社 取締役副社長
チャレンジを続けていく。
クロスメディアイメージングを
どのように、
進化させていくか?
新しいイメージングの世界を、どのようにして人
クロスメディアイメージングは
未来の可能性に向かって
展開される
キヤノンのイメージング技術の根幹には、
類のために役立てるのか、どうやって社会生活を豊
CMOS センサー技術や画像処理技術などの各製
かにする手段としていくのか、これから私たちのア
品に共通する先鋭的基盤技術があります。クロス
イデアで克服していくべき最大課題のひとつです。
メディアイメージングでは、これらの技術を伸ば
例えば、新しいイメージング領域として取り組むべ
し、さらに広い領域を手がけていく予定です。こ
きものとして、ヘルスケア(健康産業)分野があげ
れまでにない新しい領域を創造していける可能性
られます。
があります。
キヤノンでは通常の視覚で観察できるレベルを超
例えば、社会的に注目されているロボット技術
えて、人体の内部までを可視化する技術の開発に京
は、キヤノンの精密技術が貢献できる分野です。
都大学と協働で取り組んでいます。
センシング技術や制御技術などの追求、イメージン
癌や血管病などの疾病に対して、超音波、光、磁
グ技術との融合も強く求められています。ここで大
場などのエネルギー場と人体との相互作用から、病
きなテーマの 1 つとなるのが、「スーパーマシン
巣部を可視化し、診断情報を得るというもので、
ビジョン」です。これは、人間の知覚の 75 %を
キヤノンの高次なイメージング技術が効果を発揮し
占めるとされる視覚のポテンシャルをさらに拡大、
ていくはずです。
高機能化して「新しい視覚」を提供しようという未
来型イメージング技術です。ここでは、キヤノンの
デバイス技術が実現した 5 0 0 0 万 画 素 C M O S
センサー(→ P.58)や、MR 技術(→ P.72)が活
きてくるでしょう。さらには、すばる望遠鏡を始め
とした宇宙へのチャレンジも考えられます。
未来型イメージングでは、可視の波長領域を超え
る光波をとらえるイメージングはもとより、味覚・
聴覚・嗅覚などあらゆる感覚を活用するイメージン
グも、研究開発の対象となります。基礎研究として、
ブレインファンクション(脳機能)にも踏み込んだ
研究も深めていく必要があると考えています。
9
自由闊達で風通しのいい雰囲気の中、
優れた技術者が
存分に研究開発に打ち込める
環境を整備
クロスメディアイメージングの広がりを理解しても
らうため、領域開拓の可能性がある分野を例に取りま
したが、これらをどのように活用していくかについて
は、もちろん企業としての熟慮が必要です。製品化に
は、方向修正を重ねていく必要もあるでしょう。ただ、
キヤノン創業以来の企業 DNA としては、「人間尊
重」
、「技術優先」
、「進取の気性」があります。
この考えから、「オリジナル技術」へのこだわりを強
くもつ伝統が生まれました。
この「オリジナル技術」は、単に独自であればよい
クロスメディアイメージングには無限の可能性がある
というものではなく、優れて独創的な技術でなければ
ということを、ぜひ理解していただきたいと思います。
なりません。また、キヤノンにとっての「オリジナル
この新しいイメージング領域の開拓時に、最も重要
なことは、「そこに夢があるか」ということです。ビジ
技術」とは、コア・ケイパビリティ(競争の源泉とな
る中核力)を伸ばす技術でなくてはなりません。
ネスとしての広がりだけでなく、私たちが実現したい
ものづくり企業のコア・ケイパビリティとは、単に
未来像を現実のものとするための情熱、より心豊かな
既存技術の応用からだけでは決してつくり出せないも
社会をつくるための課題に挑む心意気をもって、イ
のです。キヤノンは「オリジナル技術」に強くこだわ
メージング技術で可能となる新しいことにキヤノンは
り、自社開発にこだわって歴史を重ねてきました。そ
チャレンジしていきたいと思います。
の結果として、コアになる技術や製品が生み出され、
キヤノンは研究開発を重視しており、連結ベースで
2006 年以降、年間 3000 億円を超える規模の研究
技術的な強みを確立してきたのです。
この体制を維持、推進していくために、10 年先は
開発費を投じており、この方針は、今後も継続され、
もちろんのこと、さらに将来に向かって、全社を通じ
新しい研究開発の体制と環境づくりにも反映されてい
て研究開発部門の技術経営を強化していくことが必要
きます。
です。そのために、2008 年 1 月、技術戦略委員会が
「技術フロンティア研究センター」では、未来志向の
設置されました。科学技術全般はもとより、市場への
基礎分野の研究が行われ、長期的視点に立ち、サイエ
広汎で客観的な視野の取得、それにもとづく的確な将
ンスの領域からスタートし、テクノロジーへ展開させ
来ビジョンの策定と新領域への技術提案がなされてい
ていく、「技術の芽」の創出を重視して研究を始めてい
くことで、キヤノンの「オリジナル技術」にもとづく
ます。
開発力は、一層鍛えられていくはずです。
こうした研究開発環境は、これからも整備され、高
度化していきます。キヤノン株式会社研究開発部門の
みならず、世界各地の研究拠点を結ぶグローバルな
ネットワーク、さらには外部研究機関や大学などとの
共同研究も、今以上に積極的に展開していくこととな
ります。
10
キヤノンのオリジナル技術は
的確なマネジメントのもとで
開発される
D i s c u s s i n g C a n o n Te c h n o l o g y
壮大な技術の夢を紡いでいく。
チャレンジをくり返す
その姿勢こそが
キヤノンの“技術者魂”
キヤノンはこれまで、さまざまな技術イノベーション
により製品を提供してきましたが、実はこれはキヤノン
の技術史に連綿と名を連ねる技術者たちの功績だとも
いえます。彼らは、幾多の失敗を重ねながらも、粘り
強くチャレンジをくり返し、成功してきました。
キヤノンの社風が自由闊達で、研究開発と生産部門
が直結する体制により情報共有が進んでいることも、
キヤノンの技術開発力を支えてきました。この社風を
強みとして存続させ、全社の技術者同士の交流、情報
共有も積極的に進めていきたいと考えます。また、自
由な発想で新技術の開発を提案、実行していく「異能」
な個人に追い風を送る社風も強化されていくでしょう。
私自身も、技術者同士の徹底した議論の場として
「イノベイティブ技術フォーラム」などのイベント、若
手技術者との定期ランチミーティングを通じて、広く
技術者と交流しています。そのような機会の中で、若
手技術者の提案から、実際の研究テーマとなった事例
もあります。
今後もキヤノンは、多数の技術の芽を育て、技術の
夢を紡いでいくことでしょう。チャレンジと失敗をく
り返しながら、オリジナル技術は生み出され、万全の
体制のもと、大きなビジョンに向かって強化されてい
くはずです。多くの技術者に、チャレンジ精神をもっ
て開発に臨んでもらいたいと思います。
チャレンジ精神こそがキヤノンの“技術者魂”なの
ですから。
11
Canon Core Technology
キヤノン製品の核となるコアテクノロジーは、一朝一夕に成し遂げられたもの
ではありません。その背景には、技術者たちのきらめく発想と想像力、不断の
努力と無数の失敗、そして限りない挑戦があります。
撮像
カメラメーカーとして歩んできたキヤノンは、撮像技
術の発展とともに会社も発展してきました。長い年月
を経て蓄積された圧倒的な光学技術と精密技術のノ
ウハウ、さらに世界最高水準のセンサー技術と画像
処理技術を開発して、
撮像の世界をリードしています。
5000 万画素の CMOS センサー
■光学技術の発展と蓄積
1937 年、
「世界一のカメラ」をつくることを目指し
そして、DO レンズの開発もあります。1990 年代半
て創立したキヤノン。キヤノンの歴史は先端光学技術の
ば、技術者は屈折型レンズとは逆の色収差がおこる回折
開発の歴史でもあります。これまで、延べにして数百を
型光学素子をレンズに採用することで、効果的な色収差
超えるレンズの傑作を生み出してきました。
補正ができると考えていました。精密加工技術を駆使し
例えば、長い間不可能だといわれてきた蛍石レンズ。
て回折光学素子を実現、2001 年に世界で初めて DO
通常の光学ガラスでは得られない鮮やかで繊細な描写を
レンズの製品化に成功し、望遠レンズの大幅な小型軽量
実現するために、色収差が極小という理想的な特性をも
化と高画質化を達成します。
つ蛍石をどうしてもレンズに使いたいという熱い想いか
そのほかにも、自由曲面レンズ、光学 3 倍ズームなが
ら、蛍石の人工結晶化に成功。さらに、それまでの光学
らも大きさがユーロセント以下に収まる超小型レンズユ
ガラスのような研磨ができないデリケートな素材に、通
ニット、放送用 100 倍ズームなど、キヤノンのレンズ
常の 4 倍の時間をかけて研磨する特殊加工技術を開発。
のマイルストーンは枚挙にいとまがありません。そして、
1969 年世界初の蛍石採用レンズを世に送り出します。
高度なセンサー技術を応用したオートフォーカス技術
また、非球面レンズにもこだわりました。通常の球面
や、世界で初めて実用化した超音波モーター、光学式手
レンズでは理論的に中心部と周辺部との焦点位置がずれ
振れ補正技術など、撮影に欠かせないテクノロジーもカ
てしまいますが、非球面レンズならばそれを解消できま
メラメーカーならではのノウハウの蓄積によって次々に
す。0.1μ m(1μ m = 1m の 100 万分の 1)以内とい
開発。カメラがアナログからデジタルに移った現在も発
う精度の実現を目指した技術者は何度も形状測定と加工
展を続けています。
をくり返し、設計技術、加工技術、超精密測定技術を確
またレンズを始めとした光学技術は、電子写真技術、
立。1971 年には、一眼レフカメラ用として世界で初
そして半導体露光装置や液晶露光装置といったキヤノン
めて非球面レンズを採用したレンズを発売しました。今
の多角化に貢献、まさにキヤノン技術の根幹を支えるコ
では 0.02 μ m の加工精度で非球面レンズを生産してい
アテクノロジーとなっています。
ます。
■ CMOS センサーへのこだわり
1987年、まだカメラがアナログだった時代、キヤノン
初の AF 一眼レフカメラ EOS650 のフォーカスセン
サー用にバイポーラ型増幅センサー BASIS を開発、搭
載しました。このセンサーの可能性に気づいた技術者は
これを詳細に分析、昇華させていったのが CMOS セン
DO レンズ採用の一眼レフカメラ用交換レンズ
EF70-300mm F4.5-5.6 DO IS USM(2004 年発売)
12
サーの始まりです。
13 年後、2000 年発売のデジタル一眼レフカメラの
撮像素子として、自社開発の CMOS センサーを採用す
型で、汎用画像処理に適した独自のアーキテクチャーを
ることに決定しました。
「もし開発が上手くいかなかっ
採用。さらに、世界レベルで見ても最早期に、検証を高
たら、このカメラの製品化はない」という使命感をもっ
品質かつ短期でできる C 言語で開発し始めました。
て、技術者は開発に着手しました。
CMOS センサーは、一般的に CCD と比較して低消
開発において最もこだわったのが画像の美しさ。そし
てスピード。
「デジタルカメラだから画像はこんなもの。
費電力、速い読み出しスピード、低コストという利点
1 枚撮ると何秒も待たなければならない」などの妥協は
がある一方、当時はまだまだ感度が悪く、ノイズが多
考えられませんでした。
いという欠点が指摘されていました。特に固定ノイズ
最初の映像エンジンは 1999 年 10 月に
はキヤノンの画質基準にとても達するものではありま
PowerShot S10 に 1 チップデジタル信号処理 IC(ま
せんでした。この欠点を克服するために、キヤノンは
だ無名でした)として搭載されました。そして 2003
製造上の工程全てを洗い出し、4 トランジスタ式ダブ
年に 3 代目のエンジンが DIGIC として登場。2008 年
ルサンプリングノイズキャンセル方式を開発。ノイズ
の DIGIC 4 で 6 代目になります。DIGIC 4 は圧倒的な
のクリアに成功しました。
高速化を実現、人の顔
一方で、通常のコンピュータやメモリー素子に比べて、
を識別・検出しピント
リーク電流で 1000 分の 1 程度のクリーンなトランジ
を合わせる顔優先機能
スタをつくる必要がありました。リークの原因は製造工
も強化、高速暗部補正
程における重金属汚染とシリコン結晶構造の乱れ。当初
や動画機能の強化も加
はほとんど全部が不良品ということもありました。しか
えた最新鋭の映像エン
し、徹底したクリーン化技術とプロセス技術を確立し、
ジンです。
映像エンジン DIGIC 4
ようやく EOS D30 の発売にこぎ着けました。
今では、CMOS センサーの画素数は 2000 万画素を
■デジタルビデオカメラ用 DIGIC DV
超え、さらに 5000 万画素 CMOS センサーの開発にも
また、デジタルビデオカメラの世界でも、この映像
成功しました。また、フルハイビジョンビデオ動画をと
エンジン DIGIC が活躍しています。デジタルビデオカ
らえる微小サイズのセンサーにまで発展しています。
メラの時代が到来した 1990 年代に開発に着手し、
1994 年に実用化したカメラ信号処理 LSI の DIC がそ
■独創し続ける映像エンジン DIGIC
撮像センサーがフィルムなら、最終的な画づくりとし
ての現像処理に相当するのが映像エンジンです。
1990 年代中頃、他社のデジタルカメラはマイクロ
コンピュータで画像処理を行うものが一般的で、その処
理には 1 枚の撮影毎に何秒もかかっていました。
の基礎となる技術ですが、2003 年には DIGIC DV を
発表し、動画と静止画それぞれに最適な画像処理(画づ
くり)を実現しました。これは、2005 年にさらなる
高速化と高画質化を実現したハイビジョン対応の DIGIC
DV II へと進化していきます。
デジタルビデオカメラの場合、デジタルスチルカメラ
キヤノンでは、当初ビデオカメラに使われていたビデ
と違って撮像センサーと映像エンジンは常時稼働し続け
オ信号処理 LSI に新しい LSI を加えて製品に搭載してい
なければなりません。一般に、高精細な画像処理アルゴ
ましたが、とても満足のいくものではありませんでした。
リズムを高速で連続動作させるためには多くの電力を必
そこで 1996 年秋、画像処理を 1 チップのシステム
要としますが、キヤノンでは画像処理技術と LSI 設計技
LSI で行おうというプロジェクトが、まだデジタルカメ
術のノウハウと経験をフルに活かし、高画質と省電力を
ラの製品企画もない段階にスタートしました。
両立した独自のデジ
当初は CCD からの画像処理だけでなく、レンズの絞
タルビデオカメラ用
り、シャッター速度、フォーカス、ストロボの制御や、
エンジンをつくりあ
電源の管理、液晶表示の処理、メモリーへの記録工程を
げています。
も含んだもので、どんなデジタルカメラにでも搭載でき
るエンジンを目指しました。
また、マイクロコンピュータは逐次処理するノイマン
型の計算機ですが、映像エンジンは当初から非ノイマン
映像エンジン DIGIC DV II
13
Canon Core Technology
電子写真
「右手にカメラ、左手に事務機」その事業多角化に向けた合言葉のもと、キヤノンが挑
戦したのは特許包囲網とも言える電子写真技術でした。さまざまな障害にも負けず、
努力し続けてきた成果はいま、オフィスのみならず、印刷文化まで変えようとしてい
ます。
ドラム
ドラム
■普通紙に写真を印刷したい
電子写真の基礎技術は、1938 年アメリカのチェス
ブレード
普通紙
ター・ F ・カールソンによって発明されました。この技
マグネット
術を用いた米ハロイド社(現在のゼロックス社)が初の
バイアス
普通紙複写機(PPC)を開発した 1959 年以降、電子
写真は、さまざまな世界で用いられる重要な産業技術と
普通紙
一成分方式
二成分方式
乾式一成分ジャンピング方式と二成分方式の比較
(1 μm =1m の 100 万分の 1)の絶縁性トナーを正確
して発展を遂げています。
電子写真は、光によって電気的性質が変化する感光材
に感光ドラム上に飛ばすことで画像鮮鋭度を格段に高め
の上に、目に見えない電気的な画像(電位の潜像)をつ
た「乾式一成分ジャンピング現像方式」の NP-200J を
くり、これを目に見える状態にして紙などの媒体に表現
発表します。微量の外添剤を加えた新しいトナーの開発
する技術です。可視化するには粉体などを付けるのです
や、現像時のキャリア電圧に常識をくつがえす交流方式
が、当初は摩擦帯電させて飛ばしたり液体で付けたり磁
を採用、セルフォックレンズをはじめとした新しい光学
気で直接描くとか、様々な方式が試されていました。ア
系の搭載などにより、構造はシンプルとなり、圧倒的な
イデアと試行の勝負、全く違う方式がいろいろと出てき
小型化、低価格化を実現、世界中で大好評を博しました。
た群雄割拠の時代です。キヤノンがこの分野に本格的に
その陰には、難しいアイデアでも可能性があれば「徹
取り組んだのは 1962 年。世界中で繰り広げられてい
底してチャレンジしよう」という、キヤノンの開発風土
た技術開発競争の中で「NP 方式」を発明したのは、そ
がありました。
の 3 年後のことでした。
キヤノンが NP 方式で感光材料として採用したのは、
■目からウロコがおちた! 一体型カートリッジ
ゼロックス社が採用したセレンではなく、カメラの露出
革命的な発想の転換が 1982 年に起きます。それま
計の材料で社内にたくさんあった CdS(硫化カドミウ
での複写機は、定期的なメンテナンスが必要だったため
ム)でした。その上に固い絶縁層をコーティングした 3
業務用にしか使用が見込めませんでした。しかし、
「ト
層構造のドラムが特徴で、メンテナンスが随時必要で極
ナーとドラムなど主要部品をまとめて交換する」という
めてデリケートなセレンドラムに比べ、はるかに高い
「一体型トナーカートリッジ方式」の発想と技術の開発
メンテナンス性を実現しました。
により、キヤノンは家庭で複写機を使用するという新た
な分野を開拓しました。製品となった PC-10/20 とそ
■常識への挑戦
の発展形である「ファミリーコピア」は、電子写真の技
1979 年には、それまでの二成分(導電性トナーと鉄
粉)方式では不可欠だった濃度調整機構を廃し、数μm
電子写真技術のプリントプロセス
術と生産から販売までのビジネスを大きく様変わりさせ
るほどのインパクトをもっていました。
ネットワーク複合機、レーザビームプリンタ(LBP)
、プロダクション複合機などは、
同じ原理でプリントを行っています。
1 帯電
2 露光
3 現像
4 転写
5 定着
感光ドラム表面にマイナスの静電
気を帯びさせます。
光で感光ドラムに画像を描きます。
レーザー光の照射部分は静電気が
なくなります。
トナーを感光ドラムに近づけると、
静電気のない部分にだけトナーが
付着します。
感光ドラムを用紙に密着させ*、用
紙裏側からプラス電荷を与えて、
トナーを用紙に移します。
トナーが転写された用紙に熱と圧
力を加えて、トナーを用紙に定着
させます。
*カラー製品のほとんどは、感光ドラムから中間転写ベルトにトナーを移し、それを用紙に移す方式になっています。
14
キヤノン初の複写機、NP-1100 の内部
■ネットワークへの積極的対応
さらに、2003 年には全くの新天地に飛び出すこと
になります。複写機にシリコンバレーから発生したシス
一体型カートリッジ
テム・オン・チップが搭載されネットワーク上のコアマ
シンとなります。プリンタ、ファクス、スキャナ機能に
■アナログからデジタルへ、さらにカラー化へ
世の中がデジタルへと急速に変化した 1980 年代に
ドキュメント管理機能まで加わって、ネットワーク複合
機へと進化したのです。
は、キヤノンの電子写真はレーザーとデジタルの世界を
切り開きました。1979 年開発のレーザビームプリンタ
■オフセット印刷への挑戦状
LBP-10 を基本に、半導体レーザーと 100 万枚刷って
そして今、プリントオンデマンドの世界で、オフセッ
も劣化が少ないアモルファスシリコンを感光ドラムの素
ト印刷に匹敵する印刷物を、コピーの手軽さで供給する
材として採用した NP-9030 を経て、1987 年には世
という技術を実現しています。電子写真技術のもともと
界初のデジタルフルカラー複写機 CLC-1 を登場させま
持っていた可能性は、デジタル技術の発展やコンピュー
す。CLC-1 には初の温湿度センサーを搭載し、8 時間前
タとの親和性、さらにはネットワーク上での変貌を経て、
からの変化を検知して帯電、露光量などをコントロール
またさらに新しい分野にまで踏み出そうとしつつありま
してカラー画質を維持する技術も用いられました。
す。基本的概念をブレークスルーさえできれば、現在は
これにネットワーク機能を追加した CLC500(1989
年)はフルカラー DTP の世界を拡大。さらに CMYK
巨大な imagePRESS C7000VP も 10 年後にはデス
クの上に乗っているかもしれません。
各色の 4 連ドラムに超音波モーターを使用した
CP2100(2000 年)では、LED アレイや転写残トナー
キヤノンの電子写真技術は、まさに発想のブレイクス
を回収再利用するクリーナーレス・トナーリユース機能
ルーの繰り返し。他が試みさえしない新発想への果敢な
を開発。オフィスにカラー革命を起こします。
挑戦は「より美しい画像をより簡単に」という電子写真
技術の基本的要素をどん欲に追い求めた結果にほかなり
ません。
CP2100 の 4 連ドラムとエンジン部
15
Canon Core Technology
インクジェット
6,144 個のノズルから、最小1 pl という極小のインク滴を、均一かつ正確に用紙に着
弾させる高密度プリントヘッド技術「FINE(Full-photolithography Inkjet Nozzle
Engineering)
」
。ここにいたるまでには、数々の秘話が存在します。
■技術誕生のきっかけ
また、インクの「コゲ」も大きな課題でした。100
1970 年代半ば、複数メーカーが圧電素子を利用し
万分の 1 秒という一瞬で数 100 度にも達するヒーター
たピエゾ方式インクジェットの開発を競う中、キヤノン
表面ではインク成分が分解・変性して不溶性堆積物が沈
はいち早くインクジェット技術の可能性に着目し、技術
着。数百万回も繰り返されるうちに熱が伝わらなくなる
開発を進めてきました。1981 年に電卓用モノクロ印
ことがあります。
“Kogation(コゲーション)
”という
字装置 Y-02 を販売する一方で、さらなる進化に向けて、
国際的共通語とまでなったこの現象は、解決不可能とさ
より優れた新たなインクジェット方式の追究を進めてい
え思われましたが、さまざまな解析方法の開発と膨大な
ました。
実験をくり返し、ついに“Kogation”問題の解決にい
たりました。そして、特許出願から 8 年後の 1985 年、
キヤノン初のバブルジェット方式インクジェットプリン
タ BJ-80 を発売しました。
■“光”でつくる革新的ノズル
BJ-80 登場から 20 年余り。その間、モノクロから
カラーへ、また文字中心からグラフィクス、さらには写
真画質へと進化してきました。写真画質の実現には、イ
ンク滴の微小化が必須ですが、そこには多くの課題があ
りました。
インクジェット技術開発のきっかけとなった「ハンダごてと注射針」
特に、数千個以上のノズルを高精度につくり込む技術
そんな中、ある小さなアクシデントが起こりました。
は最も重要です。わずか 1pl(1pl = 1 リットルの 1 兆
インクを詰めた注射器の針にハンダごてが偶然触れてし
分の 1)という極めて微小なインク滴を正確な位置に飛
まったそのとき、針先からインク滴が勢いよく噴出…。
ばすためには、すべてのノズルを 1 万分の 1mm レベル
これを見過ごさなかった技術者のひらめきが、ヒーター
の精度で精密につくり上げる技術が必要です。
の加熱によりインク滴を押し出すという独自のインク
従来、ノズルやそこに連なる複雑な内部流路は複数の
ジェット技術の発明につながり、1977 年 10 月 3 日、
微細加工部品を貼り合わせてつくるしかありませんでし
キヤノンは世界初のサーマルインクジェット(バブル
た。しかし、複数の微細加工部品の貼り合わせで数千も
ジェット)技術の基本特許を出願しました。
のノズルをすべて超高精度につくるには限界があります。
キヤノンはいち早くその限界を見極め、1992 年か
■非常識への挑戦
ら革新的な製法技術に挑戦してきました。キヤノン独自
しかし、製品化にいたるまでにはたくさんの障害があ
の材料技術と、半導体製造に用いるフォトリソグラフィ
りました。そのひとつがヒーターの耐久性。ヒーターは
技術を駆使し、貼り合わせなしで精密なノズルをつくる
インクを吐出する微小なノズルの内壁に、半導体製造技
ヒーター
術を用いて作られます。半導体素子にとって水分や電解
質は大敵ですが、キヤノンは、敢えてその大敵であるイ
ンクをヒーターに接触させ、気化させるという非常識に
挑戦しました。粘り強い試行錯誤の結果、薄くても確実
吐出口
にインクと電気的に絶縁でき、かつ気泡生成/消滅時の
強い衝撃に耐えられる高性能な絶縁膜を開発し、ヒー
ターを保護する事で実用化にいたりました。
16
ノズル模式図
ノズル
FINE のヘッドから吐出するインク滴(イメージ図)
世界初の製法です。
“光”でノズルをつくる画期的なこ
■モバイルから大判まで
の技術は、約 7 年間におよぶ開発期間を経て 1999 年
インクジェット技術は、用紙などのメディアに非接触
発売の BJ F8500 に搭載され、圧倒的高画質をもって
でプリントできる唯一無類の技術です。非接触のため、
インクジェットプリンタの歴史を塗り替えました。
さまざまな材質にプリントが可能です。キヤノンでは、
「FINE」と名づけられたこの技術は現在ではキヤノンの
全インクジェット製品に搭載されています。
ホームユースやモバイル用などのほか、ポスターや建築
図面などのプリントに適した最大幅約 1.5m もの大判プ
リンタまで展開しています。
■美しいプリントを求めて
製品の技術発展史は、同時にインク技術の発展史でも
現在、インクジェットプリンタの能力は、解像力など
あります。普通紙への対応、フルカラー化という課題を
の面では視認限界を超えた領域までに達したとされてい
超え、今、さまざまなニーズに対応して高度な進化を遂
ます。しかし、新たな可能性を求めて困難な課題に取り
げつつあります。インクには、安定した吐出、微細なノ
組み続けてきたキヤノン技術陣は歩みをとどめることな
ズルを詰まらせないこと、世界各国・地域の有害物質規
く、今後も、画質や性能の向上、高機能化はもちろん、
制をクリアする安全性、そしてもちろん、画質の良さや、
新たな領域への展開を進めていきます。
長期間のプリント保存に耐える画像堅牢性などが求めら
れます。
キヤノンは、高発色で光沢性に優れた染料インクや耐
候性に優れた顔料インクなど、これら多くの厳しい要件
を満たすインクを開発しています。
染料インクについては、高い画像堅牢性を実現した
「ChromaLife100」を 2004 年に導入。2008 年には、
さらに美しく画像堅牢性を高めた「ChromaLife100+」
を開発し、アルバム保存 300 年以上、耐光性約 40 年、
耐ガス性はオゾンガスで約 10 年、混合ガスで約 20 年
を実現 * しました。
顔料インクでは、写真出力で自然色を再現でき、プロ
フェッショナルからの要求にも応えることができる
「LUCIA」を開発。さらに、LUCIA でプリントする前に
クリアインクを紙にコーティングすることで、普通紙で
もにじみにくい「PgR 技術」も開発しました。
また、染料インクと顔料インクを化学反応させる「リ
* アルバム保存性、耐光性、耐ガス性(オゾンガス)は、社団法人電子情報技術産業協会発
行のデジタルカラー写真プリント画像保存性評価方法(JEITA CP-3901)の屋内耐熱性、屋
内耐光性、屋内耐オゾン性および寿命判断基準に準じてキヤノンが算出した予測値です。
なお耐ガス性(混合ガス)は、温度:24 ℃、湿度 60%の一定条件下で、ガス混合比率を屋
内環境の実測平均値(O3 : NOx : SOx = 3:19:1)と同じ設定にし、濃度 100 倍で加速試
験を行いました。
【寿命判断基準】ドライバの各用紙のデフォルト設定でプリントした BK、C、M、Y 各色の
単色/反射 OD 値が 1.0 および 0.6 で、OD 値が 20 ∼ 35 %(各色単位で設定)低下した
時点。プロセス BK 中の Y、M、C 各成分(各構成色)の褪色濃度差が 12 ∼ 18 %以上ず
れた時点。
(Wilhelm Imaging Research, INC の画像寿命判断基準: WIR v3.0 Endpoint
Criteria Set に準拠)
アクティブインク」を開発し、大判プリンタの分野での
高精細プリントを実現しています。
用紙とインクの組合せは、いずれも「キヤノン写真用紙・光沢ゴールド」と「BCI-321」
「BC-311」
(耐光性約 40 年は BCI-321 のみ)において実現しています。
17
Canon Core Technology
露光装置
「ムーアの法則」でも知られるように、高度情報化社会の根底を支える半導体は驚異的な
速度で発展しています。それを支えるのが半導体露光技術。キヤノンの半導体露光技術
は常に最先端に対応し、さらに進んだ次世代技術の開発も進めています。
一方で、急速に普及が進む大画面液晶テレビ。大型化、ローコスト、高いスループット
での生産要求にキヤノンの液晶露光装置技術が応えます。
■国産初の露光装置開発
進み、この技術は液晶露光装置に移行していきます。
半導体集積回路はフォトマスクに描画された回路パ
ターンをウエハーに光学的に転写することで形成されま
■微細化への挑戦
すが、キヤノンがこの分野に進出したのは、フォトマス
1984 年からは、より微細な線幅を追求するために
ク作成用として超高解像レンズの設計を検討し始めた
光源の短波長化が進みます。水銀ランプの g 線
1965 年にまでさかのぼります。このレンズをウエ
(436nm)
、i 線(365nm)から(1nm は 1m の 10
ハーサイズが 2 インチの等倍プロジェクション方式半導
億分の 1)
、フッ化クリプトン(KrF : 248nm)
、フッ化
PPC-1 国産初の半導体露光装置
体焼き付け装置「PPC-1」
アルゴン(ArF : 193nm)と次々に短い波長光源に移
に搭載したのは 1970 年
行。光学系も通常のガラスでは透過率や均一性が劣るた
のこと、国産初の半導体露
め、光源に適した新しい硝材を開発し、解像性能の向上
光装置でした。しかしアラ
を図りました。当然、マスク(レチクル)もウエハーの
イメント(位置合わせ)が
ステージ制御も超精密となり、アライメント精度にも精
手動で、ウエハーサイズが
密化が要求されるようになりました。
3 インチに移行しつつあっ
キヤノンは初のステッパー(縮小投影型露光装置)と
たこともあり、この方式が
して 1984 年に g 線による FPA-1500FA を発売、
発展することはありません
1990 年発売の FPA-2000i1 では i 線に対応していき
でした。
ます。1996 年には
FPA-3000EX3、
■プロキシミティ (近接)露光方式の露光装置
1974 年にはマスクとウエハーの間を 10 ∼ 20 μ m
1997 年には FPA3000EX4 を発売、
(1 μ m は 1m の 100 万分の 1)離して平行光で転写
これはパルス発光の
するプロキシミティ(近接)露光方式による PLA-300F
フッ化クリプトン
を発売します。この方式は線幅 4 μ m 程度でしたが、
(KrF : 248nm)エキ
ウエハーサイズは 3 インチで、ウエハー自動供給装置を
シマレーザーを光源
備えて量産性能に優れていました。
に採用しました。
FPA-1500FA
その後 1977 年に発表した世界初のレーザースキャン
オートアライメントを備えた PLA-500FA がベストセ
ラーになり、事業立ち上げから約 10 年で、内外から半
導体露光装置メーカーとして認知されました。
■スキャニング・ステッパーの誕生
1997 年にはレチクルとウエハーを同期スキャンし
て露光する技術を開発、それまでの「静止して露光」と
いう世代から「動きな
■ミラー方式の露光装置もあった
18
がら露光」する新しい
1979 年には、解像性能に優れ 5 インチウエハーに
世代へと突入し、これ
対応したミラープロジェクション(反射型投影露光)方
らの技術を搭載した
式、線幅 2 μ m という MPA-500FA、さらに 1985
FPA-4000ES1 を発表
年には 6 インチウエハーに対応した MPA-600FA を発
しました。1998 年に
売。1980 年代の 64KB ∼ 256KB の DRAM 量産に
発 売 し た F P A -
寄与しました。その後、半導体チップの線幅の微細化が
5000ES2 はレチクル
FPA-5000ES2
とウエハーステージを高速・高精度化し、世界最高レベ
端技術を盛り込んでいます。装置の制御対象軸数は100
ルの生産性を実現。300mm(12 インチ)ウエハーに
を超え、制御する DSP(デジタル制御プロセッサ)も
も対応し、スキャニングステッパーの代表機となります。
6000MFLOPS 以上の処理能力をもつにいたっていま
さらに 2003 年には FPA-6000 シリーズ、2007
す。さらに将来を見すえ、現行波長の限界を超えるため
年には FPA-7000 シリーズとプラットフォームを改良
の研究開発として、新しいプロセス技術であるダブルパ
し、露光装置はさらに進化していきます。
ターニングへの対応や、高屈折率液体の探査も進めてい
7000 シリーズは、2 つのウエハーステージをもつこ
ます。
とで飛躍的に生産性を向上させるとともに、レンズとウ
エハーの間を超純水で満たして投影レンズの開口数を上
げる液浸露光技術や偏光照明系の採用など、多くの最先
■次世代技術への挑戦
また、次世代露光技術とされる EUV(Extreme
Ultra Violet :極端紫外線)露光技術でも、超高精度多
層膜ミラー反射光学系や装置真空技術などの基本要素技
術の確立に成功。SFET(小画角露光装置)により線幅
26nm の露光成果を得ています。
FPA-7000 シリーズプラットフォームの概念図
■大画面化を加速する液晶露光装置
EUV で露光されたパターン(出典: NEDO 技術開発機構)
現在)。厚さ 0.7mm のガラス基板は真空吸着機能で重量
キヤノンでは、1986 年、携帯型液晶カラーテレビ
約4トンのステージに固定され、
レーザー干渉計を用いて
が発売され始めた当時に、7 インチパネルを一括露光お
位置と回転を制御しながらリニアモーターによって秒速
よび 15 インチパネルを 4 分割つなぎ露光するミラープ
750mm の高速で駆動。
マスクステージと基板ステージ
ロジェクション方式等倍アライナー MPA-1500 を開発
を個別同期スキャンすることにより、
サブマイクロメート
しました。この方
ルの位置誤差に抑える高精度同期制御も実現しています。
式は、1.5 ∼ 3 μ
m の高解像力が得
精密光学機器でありながら、本体は質量100トン。一
られ、大画面化と
方、求められる精度は目で見ることすらできないナノス
生産性に優れてい
ケール。この「巨大スケールを超精密に」という課題は、
たため、その後の
発展し続ける IT 産業を支えるキヤノン露光装置技術開発
キヤノン製液晶露
の命題です。
光装置のデファク
トスタンダードに
なっていきます。
MPA-1500
現在では 55 型ワイドテレビ用パネルを 6 面同時
(57 型 3 面も可能)に露光し、毎時 323 枚という高処
理能力を実現した MPAsp-H700 を開発。市場ニーズ
の一歩先を行くソリューションを提供しています。
MPAsp-H700 が全面露光できるガラス基板サイズ
は、2,200 × 2,500mm と世界最大(2008 年 10 月
第 8 世代ガラス基板サイズ対応の液晶露光装置
19
Canon Core Technology
表示(ディスプレイ)
キヤノンのさまざまな表示(ディスプレイ)技術への取り組みは、今後さらに多様化す
るディスプレイへの要求に応えつつ、同時に、新たな映像世界であるクロスメディアイ
メージングへの進化をめざす、フューチャービジョンの表れでもあります。
第 3 世代 AISYS
■映画並みの品質を提供するプロジェクター
で、明るさのムラをなくすという、照明の高効率化と画
2004 年、キヤノンは液晶プロジェクターに新しい
面照度の高品位をめざした「第 2 世代 AISYS」を開発し
ました。第 1 世代では横方向のみであったシリンドリカ
技術を投入しました。
従来多くのプロジェクターに使用されていた透過型液
ルレンズアレイを縦方向にも採用。色分離合成系のプリ
晶には、画素の間にある駆動素子により投写画像に格子
ズムを縦配置にし輝度をアップ、ダイクロイック特性と
状のグリッドが映ってしまうという欠点があります。
PBS(偏光ビームスプリッタ)の両方を合わせもつ
画質を優先するキヤノンは画素間がシームレスな反射型
HBC(ハイブリッド・ビーム・コンバイナー)方式の
液晶パネル「LCOS(Liquid Crystal On Silicon)」を採
光合成系を採用して光学素子を合理化しました。
第 2 世代では、高輝度・高コントラストの両立に加え、
用しました。
しかし、LCOS にはコントラストには優れる反面、
照明の高品位化にも成功しましたが、そのために複雑な
明るく出来ないという欠点がありました。技術陣はこの
構造となってしまいました。そこで 2008 年には、大
コントラストと明るさの両立という課題に挑戦し、
幅なコストダウンも見すえ、シンプルな構造をめざした
LCOS を照明する光を縦方向と横方向で異なる光学作
「第 3 世代 AISYS」に挑みます。
用をもつ光学系「AISYS」を誕生させました。偏光と光
第 3 世代 AISYS では、第 2 世代で注目を集めた 2 組
学作用の関係を根本から再構成するという試行錯誤のす
のシリンドリカルレンズアレイに代えて、ランプ直後に
え、LCOS に入る光を横方向では平行にしてコントラ
縦と横のシリンドリカルレンズを一体化した非対称フラ
ストをアップ、縦方向では収束光として明るさをアップ
イアイ(蝿の目)レンズアレイを採用しました。これに
させることに成功しました。同時に色分離合成光学系・
より、レンズ枚数の大幅な削減が可能となりました。高
投射光学系をも新開発、明るく高コントラストで階調性
コントラストを維持しながら、明るさの向上とサイズと
に優れた液晶プロジェクターをコンパクトなサイズで実
コストの低減を両立。さらに、演色性の高いランプの採
現しました。
用と目の官能特性の考慮から見直し、より忠実な色再現
2006 年には高輝度・高コントラストを両立した上
も実現しています。
同時に、第 3 世代では LCOS パネルを自社開発。こ
れにより、AISYS、投写レンズ、LCOS、ドライブ IC
スクリーン
投写レンズ
LCOS(B)
などのすべてのキーパーツを自社開発としました。
LCOS(R)
■新事業の立ち上げを目指して
・薄型ディスプレイ、SED へのチャレンジ
LCOS(G)
PBS
第 3 世代 AISYS の色分離合成系
20
偏光分離面
ランプ
「SED(Surface-conduction Electron-emitter
Display :表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)
」は
CRT(ブラウン管)と比べて低消費電力でありながら、
同じ動画追従性や高いコントラスト、そして高精細でゆ
や発光を促すサポート材料などを検討、最高水準の色純
がみのない優れた描写力をもつという、理想的なディス
度やエネルギー効率をもつ有機発光材料を開発してい
プレイといえます。キヤノンでは、薄型ディスプレイと
ます。
して注目されている SED の開発を進めています。
製造技術面では、有機膜蒸着から封止(有機 EL 層の
SED の構造は、CRT の電子銃に相当する電子放出部
保護)までを高度な真空環境下で行うため、真空加工技
を画素の数だけ設けています。心臓部の電子放出部では、
術を保有するグループ会社のキヤノンアネルバ、トッキ
2 つの電極間に作成された幅が数 nm(1nm = 1m の
との技術連携を強化しています。さらに日立ディスプレ
10 億分の 1)の極めて狭いギャップに電圧をかけると、
イズとの共同による多面的な技術開発によって、高効率、
片側から電子が放出。その一部がガラス基板間にかけら
色純度および高寿命をもつ有機 EL ディスプレイの製品
れた電圧で加速され、蛍光体に衝突して発光するしくみ
化をめざし、邁進しています。
です。
・液晶や有機 EL ディスプレイを支える TFT
液晶や有機 EL ディスプレイの画素回路として使われ
ている薄膜トランジスタ(Thin Film Transistors)の
半導体材料には、ポリシリコン(多結晶シリコン)やア
モルファス(非晶質)シリコンが使われています。
しかし、双方とも高温製造のほかに、さまざまな問題
SED の電子放出部
がありました。アモルファスシリコンは反応速度が遅い
技術陣はナノレベルの電子放出部での分析・解析か
上に寿命が短く、一方、比較的反応速度の早いポリシリ
ら、その材料技術、さらには駆動技術、製造技術まで、
コンは大画面化が困難でした。さらにアモルファスシリ
一層の改善に向けた開発を進めています。
コンの最大の問題は、通電時間が長くなると特性が変化
・グループ会社の力を集結、有機 EL ディスプレイ してしまう点でした。液晶では TFT をスイッチングの
バックライトを必要とする液晶とは異なり、有機 EL
みに用いるため通電総時間は短く、この問題は深刻化し
(Organic Light Emitting Diode)は素子自体が発光
ませんが、有機 EL のように素子に電流を流し続ける場
し、低消費電力で発熱が少なく、薄型軽量で、良好な色
合には、重大な欠点となります。
再現性、高いコントラスト、動画応答性とピーク輝度の
最近、この分野で注目を集めているのが「透明アモル
高さ、視野角依存性がないなど、画質の面でも優れた特
ファス酸化物半導体 TFT」です。2004 年、インジウ
性をもっています。
ム、ガリウムなどの金属のアモルファス酸化物が半導体
有機 EL は、陰極と陽極の間に電子(−)輸送層/有
として優れた性質をもつことが発見されました。動作原
機 EL 発光層/正孔(+)輸送層を設け、電圧により発
理が異なるので、従来のアモルファスシリコンに比べて
光層の有機材料が励起し、再び元に戻る時に光を放出す
速度が 10 倍で、かつ低電圧でも動作可能。しかも高い
る現象を利用しています。その正孔輸送層にはキヤノン
信頼性と生産性をもつ素材として期待されています。
が 1970 年代から電子写真の感光ドラムに使用してい
キヤノンは、このまったく新しい可能性のある素子に
る OPC(Organic Photo Conductor :有機感光体)の
チャレンジ、半導体デバイスとして実用化のための材料
正孔輸送材料を応用することができます。さらに、長年
探索を開始し、適度なガリウムを加えた素材が適切な電
培ってきた有機材料技術を駆使、さまざまな発光材料
子移動度と安定性をもつことを発見しました。
アモルファス酸化物半導体はまだまだ未知数な面が多
有機感光体
有機EL
い素材ですが、材料としての安定性やトランジスタとし
保護膜
CT
陰極
ての基本性能が高く、製造上、大画面にも対応できます。
電子輸送層
シリコン半導体に不可欠な高温(350 ∼ 450 ℃)の
発光層
正孔輸送層
正孔輸送層
光電変換層
陽極
CG
AI
工程がなく、室温で製造できるため、極薄で曲げること
さえできるプラスチック上に回路形成が可能です。壁に
掛けずに「貼る」ディスプレイ、丸めて収納できるモニ
光 電荷へ変換
電荷 光へ変換
ターも夢ではありません。
有機感光体と有機 EL の比較概念図
21
先進のオリジナル技術がコンパクト化&高画質を実現
コンパクトデジタルカメラ
キヤノンのコンパクトデジタルカメラには、カメラメーカーとして長年培ってきた数々の高度な技
術が注入され、多くのユーザーから高い評価を獲得しています。小さなボディに最先端の光学技術、
カメラ制御技術、電子デバイス技術を高密度に実装することで、高画質・高機能なコンパクトカメ
ラを実現させています。
コンパクトデジタルカメラのしくみ
映像エンジン
撮像素子(光を電気信号に変換する素子)を使って撮影された画像情報
をデジタル信号に変換し、メモリーカードに記録する小型カメラ。
高精細画像を高速に処理する画像処理プロセッサ
→「DIGIC 4」「フェイスキャッチテクノロジー/モーションキャッチテクノロジー」
「iSAPS テクノロジー」
撮像素子
色再現性に優れた原色フィルタ方式を
採用した CCD(電荷結合素子)
ズームレバー/シャッターボタン
メモリーカード
高速で大容量化の容易な SD カードや MMC(マルチ
メディアカード)を記録媒体に採用
レンズユニット
UA レンズを採用、レンズシフト式手ブレ補
正機構(IS)も搭載した超小型レンズユニット
薄型ボディに手ブレ補正機能付き光学 5 倍ズームを実現する
レンズシフト式手ブレ補正機構(IS)付き超小型レンズユニット
薄型ボディに光学 3 ∼ 5 倍ズームレンズを搭載し
*1 UAレンズ(Ultra high refractive index Aspherical lens)
超高屈折率ガラスモールド(GMo)
の 1 つである非球面レンズ。この
非球面レンズのほかに、光学特性
の異なるさまざまなレンズを最適
に組み合わせることで、キヤノン
レンズならではのシャープで抜け
のよい描写を可能としている。
*2 レンズシフト式手ブレ補正機構
(IS : Image Stabilizer)
手ブレ補正の方式には、
(1)レンズシフト式(光学式)
(2)バリアングルプリズム式
(光学式)
(3)CCDシフト式(光学式)
(4)電子式
などがある。レンズシフト方式に
よる手ブレ補正は、補正範囲が広
く、ほとんど画質が劣化しないと
いうメリットがある。
*3 セラミックボール支持方式
シフトレンズのベアリングには、
セラミックボールを採用。磁気の
影響を受けにくい上に、金属に比
べ熱変形が少なく、低摩擦なので
応答性も高い。二軸ガイドバー方
式などと違い金属バネなどを使用
せず、なめらかに安定した動作を
する。
22
補正光学系レンズを撮像素子に対して平行移動させ、
ている IXY DIGITAL シリーズ。このレンズユニット
光軸が被写体からずれるのを補正するしくみです。補
には、キヤノンが独自に開発した「UA レンズ*1」を
正光学系レンズを支えて動かす駆動方式には「セラ
1 枚または 2 枚使用、レンズユニットは業界トップク
ミックボール支持方式*3」を採用、精度の高い制御回
ラスの超小型サイズを実現しています。
路との相互作用で、なめらかで正確な動作と優れた応
この画期的なユニットにはさらに、キヤノン独自の
答性を実現しています。
手ブレ補正技術が生んだ「レンズシフト式手ブレ補正
この IS と「モーションキャッチテクノロジー」
(→
(以下 IS)が搭載され、より使いやすく
機構(IS) 」
P.23)
、
「高感度対応」の 3 つの機能を組み合わせる
進歩しています。IS はキヤノンが 1980 年代から開
ことで、ブレのないきれいな写真がコンパクトカメラ
発してきた光学式の手ブレ補正技術から生まれ、従来
で手軽に撮影できるようになっています。
*2
は一眼レフカメラ用交換レンズに採用されていまし
た。これは、カメラの揺れを超小型の振動ジャイロ
センサーで検出、ブレ量を解析して、ユニット内の
UAレンズ
シフトレンズ
駆動概念図
金属に比べ熱変形が
少なく、低摩擦なので
応答性も高い。
IXY DIGITAL のレンズユニット(一例)
シフトレンズのセラミックボール支持方式
さらなる高速化と大幅な機能強化・性能向上を実現
DIGIC 4
*4 画像処理プロセッサ
コンパクトデジタルカメラのレンズを通して入って
ス化も実現、カメラ本体の小型化にも貢献しています。
きた光は、撮像素子(CCD)によって電気信号に変換さ
DIGIC 4 *5 では、画像処理のさらなる高速化を達
れます。その信号から、自然な色を再現し、豊かな階
成。新たなノイズリダクション技術や高速暗部補正、
調をもち、ノイズの少ない画像データを生成するのが
など新機能の搭載、動画機能の強化、フェイスキャッ
画像処理プロセッサです。
チテクノロジーやモーションキャッチテクノロジーの
る信号処理が一般的だった頃から
性能アップなど、大幅な機能強化と性能向上を実現し
信号処理のLSI化に取り組み、デジ
タルカメラの高速連写、高画質化
キヤノンデジタルカメラの画像処理プロセッサ
*4
「DIGIC」は、独自のアーキテクチャを採用し、非常に
入
力
CPU コア部、プログラムを格納す
るメモリー部、タイマー機能、外
部との入出力部が、1つの集積回路
につくり込まれたマイクロコン
ピュータ。デジタルカメラの画像
信号処理には高速演算が必要なた
め、キヤノンはソフトウェアによ
を実現してきた。
ています。
高速な演算処理を実現する高性能システム LSI(→
*5 DIGIC 4
出
力
IXY DIGITALシリーズ、PowerShot
P.56)です。
シリーズ、EOS シリーズに共通し
て使われるキヤノンのデジタル画
像処理プロセッサ(「映像エンジン」
DIGIC は、独自のアルゴリズムにより偽色やモアレ
の低減、長時間露光時のノイズ除去などの処理を高速
ともいわれる)の最新バージョン。
に実行したり、高感度時のノイズ低減、液晶モニター
DIGIC本体はハイエンド処理までカ
バーする高性能プロセッサで、各
機器に搭載の際に、機種ごとの特
信号出力の高精細化なども行っています。また、プロ
性に合わせて最適な機能を発揮す
映像エンジン DIGIC 4
セッサ部分とメモリー部分を積層構造化して省スペー
るようカスタマイズされる。
自動で被写体の顔を認識し、顔に最適な設定をする/自動で被写体ブレを抑える
露
光
フェイスキャッチテクノロジー/モーションキャッチテクノロジー
DIGIC 4 には、フレーム内にいる人物の顔を自動的
に認識してピントや露出を最適に制御する「フェイス
同じく iSAPS テクノロジーで最適撮影条件を決定、
被写体ブレを抑えます。
キャッチテクノロジー」、被写体の動きを判断して適
これら最新のテクノロジーは、高速演算を実行する
正な感度、シャッタースピード、絞りをコントロール
DIGIC の性能と、画像処理アルゴリズムに込められた
する「モーションキャッチテクノロジー」が搭載されて
キヤノンのカメラ技術の蓄積の高度な融合で実現され
います。
ています。
光
学
/
医
療
フェイスキャッチテクノロジーは、DIGIC の高速レ
スポンスにより複数の顔をすばやく検出
[顔優先 AF なし]
[顔優先 AF あり]
(最大 35 人の顔を検出し、最大 9 人まで
の検出枠を表示)、DIGIC 4 に搭載した顔
検出アルゴリズムと iSAPS テクノロジー
とを組み合わせることにより、即座に主被
写体を判別します。
基
盤
またモーションキャッチテクノロジー
は、DIGIC が被写体の動きの有無を検知し、
フェイスキャッチテクノロジー(顔優先 AF 機能)
高速かつ高精度な制御を可能にする
iSAPS テクノロジー
キヤノンには、これまでのカメラ開発で蓄積してき
た膨大な写真データベースがあります。その撮影デー
度向上、AE や AWB *7 の最適な制御を可能にしてい
環
境
ます。
タからユーザーの特性を統計的に分析、
「レンズの焦
点距離やズーム位置」
、
「周辺の明るさ」
、
「被写体まで
高
の距離」の相互関係をデータベース化しています。
そのデータベースが「Photographic Space」(右
図)で、これをもとにユーザーが撮影しようとする
*6 (iSAPSハイスピード)AF
事前に解析した撮影シーンに応じ
てあらかじめフォーカス位置を予
測、短時間でピント合わせを可能
としている。
撮
影
頻
度
シーンを予測、カメラを最適な状態に高速で制御する
システム「iSAPS(intelligent Scene Analysis
based on Photographic Space)テクノロジー」
低
明
近
れた撮影パラメータがカメラ内のデータに加味され、
カメラと被写体間の距離を推定、AF
*6
の高速化や精
明るさ
被写体の距離
を開発しました。この技術により、直前の撮影で得ら
遠
Photographic Space の概念図
ある焦点距離のもとでの被写体位置の分布。
暗
未
来
*7 (iSAPS インテリジェント)
AE/AWB
選択した撮影モードごとに最適化
したアルゴリズムを適用、その
時々のモードと環境に応じた露出、
ホワイトバランスが得られ、撮影
の失敗が少なくなる。
23
卓越した技術とチャレンジが生み出す豊かな表現力
一眼レフカメラ
カメラメーカーとして創立したキヤノンは、究極の一眼レフカメラを追求し続け、イノベーティブな
製品を次々と生み出してきました。世界的に高い評価を得ている自社開発のレンズや CMOS セン
サー、映像エンジンが描写する高画質な画像は、キヤノンの光学技術と最先端のデジタルイメージン
グ技術のたまものです。
一眼レフカメラのしくみ
撮像素子(光を電気信号に変換する素子)を使って画像
測光センサー
ペンタプリズム
エリア AF に最適対応した
63 分割測光センサー
フォーカシングスクリーンの被写体像を
正立正像に変換
を記録するレンズ交換式のカメラ。
フォーカシングスクリーン
被写体像を映し出すスクリーン
ローパスフィルタ
→「ハイブリッド赤外カットローパスフィ
ルタ」
撮像素子
シャッターレリーズスイッチ
自社開発の CMOS センサーを採用。
光を感じて電気信号に変換する特性
をもち、フィルムカメラのフィルム
メモリーカード
に相当する
→「大型 CMOS センサー」
メインミラー
→「CMOS センサー技術」(→ P.58)
シャッター
撮影の瞬間には上に跳ね上がり、撮像素子に
光があたる。
露光時に開いて撮像素子に光を導く。
二次結像レンズ
被写体像を AF センサー上に導く
2 対の非球面レンズ
サブミラー
レンズからの光を AF 測距光学系に
導く楕円ミラー
映像エンジン
撮像素子から読み出した信号を高速に処理する
画像処理プロセッサ(DIGIC III)
セルフクリーニング
センサーユニット
→「DIGIC 4 」(→ P.23)
→ 「EOS Integrated Cleaning
System」
エリアAFセンサー
→「新エリア AF 技術」
超高速連写と動体予測 AF 撮影を実現する
新エリア AF 技術
キヤノンの一眼レフカメラ EOS シリーズの
この技術は、エリア AF 精密光学系と独自開発の「高
AF(オートフォーカス)技術は 1987 年に誕生、快
感度・新エリア AF センサー*2」の搭載、そして緻密な
速・快適 AF としてインパクトを与えました。以来、
AF演算アルゴリズム開発によって実現されています。
当初の中央 1 点 AF から、3 点 AF(1990 年)、5 点
AF(1992 年)、45 点エリア AF(1998 年)と発展、デ
ジタルカメラにも引き継がれて進化を続けています。
最新のエリア AF 技術は、「19 点クロス + アシスト
26 点」の AF システム*1 となっています。総測距点数
は従来と同じ 45 点ですが、任意に選択できる 19 点
:クロス測距点(19点)
:アシスト測距点(26点)
のすべてがクロスタイプ(被写体の縦線成分と横線成
24
*1 19 点クロス + アシスト 26 点
AFシステム
このエリア AF センサーは、最高級
機種の EOS-1D Mark III/EOS-1Ds
Mark III に搭載。約 10 コマ/秒の
動体予測AIサーボAF連続撮影とい
う超高速撮影を可能にして、プロ
カメラマンの AF 撮影をサポートし
ている。
分を十字測距で同時検知)で、しかも被写体の縦線成
*2 高感度・新エリアAFセンサー
エリア AF 専用の CMOS センサー。
感度が高く、低輝度限界性能が向
上(−1∼18EV、常温・ISO100)
しているため、暗い撮影場所でも
AF撮影が可能となっている。
外周領域の被写体をとらえるために常に待機)するか
分検出はプロ仕様の大口径レンズ群対応(F2.8 ∼ 4
測距光束)という、広視野・高精度のエリア AF です。
エリア AF センサーの測距点配置図
19 点のクロス AF フレーム(中央+ 18)は任意選択可。26 点のアシスト AF フ
レームと合わせて計45点のAFフレームで被写体をとらえるため、動きが激し
く予測が困難なシーンも瞬時にAF撮影できる。
また、26 のアシスト測距点は、F5.6 光束対応・横
線成分検出能力を備え、19 のクロス測距点の中で撮
影者が選択した測距点を強力にアシスト(選択測距点
たちで働き、特に約 10 コマ/秒の動体予測 AI サーボ
AF 連続撮影時の被写体捕捉能力向上に大きく貢献し
ています。
エリア AF センサー
高精細・高感度・低ノイズの撮像素子
大型 CMOS センサー
入
力
デジタル一眼レフカメラの最重要キーパーツの 1
平・垂直方向にほぼ 1 画素分分離、干渉の原因とな
つである CMOS センサー(→ P.58)。キヤノンは独自
る高周波成分をカットしています。このローパスフィ
の半導体露光技術を活かして自社開発・自社生産して
ルタは、CMOS センサー表面などの反射で発生する
います。現在は 35mm フルサイズと APS-H/APS-C
赤ゴーストやかぶりを抑える「赤外カットフィルタ」も
センサー(36×24mm)
EOS-1Ds
サイズの 3 種類があります。
兼ねたハイブリッド構造となっています。
EOS-1Ds Mark II
型 CMOS センサーは 1010 万画素/1510 万画素と
高い解像度を実現。8 チャンネル信号読み出し、映像
赤外吸収ガラス
(1280万画素/2005年)
EOS-1Ds Mark III
(2110万画素/2007年)
EOS 5D Mark II
ダイクロイックミラー
(赤外光を反射)
と進化。
CMOSセンサー
への対応など、フィルムを大きく超える新たな写真表
次のような対策がされている。
(1)カメラ内部でのゴミ発生を抑制
位相板
(直線偏光を円偏光に変換)
ミラーやシャッター作動時に発
生するゴミに着目、機構や構成
材料素材の徹底見直しを行い、
ローパスフィルタ
(被写体像を垂直方向に分離)
カメラ内部で発生するゴミを抑
● EOS Integrated Cleaning System *4
センサー表面のダストに対しては、
「出さない・付
けない・残さない」をコンセプトに開発した、
「セル
数が撮像素子の画素ピッチに近い場合に起きる「干渉」
機構を採用。
(3)付着したゴミを超音波振動で振
るい落とす
センサー前面にローパスフィル
ソフトウェアによるトータルな処理システムで対策を
実施しています。
駆動による超音波振動で振るい
落とす。落ちたゴミはローパス
光
学
/
医
療
フィルタ周辺部に広く配置した
吸着シート面に吸着固定される。
(4)ダストデリートデータ取得・付
密封部材
赤外吸収ガラス
加機能/ソフトウェアによる自動
ゴミ消し処理
油分を含むゴミなど(3)で除去し
きれない場合は、ゴミ位置情報
が原因です。この現象を低減するため、CMOS セン
CMOSセンサー
ローパスフィルタ
サー前面には「光学ローパスフィルタ」が配置されま
す。キヤノンはローパスフィルタとして、位相板を 2
圧電素子
保持部材
枚の単結晶板で挟んだ 3 層構造の「ハイブリッド赤
外カットローパスフィルタ」を開発。被写体像を水
るゴミ付着を低減する帯電防止
タの一部と一体化した「セルフク
リーニングセンサーユニット」を
搭載。付着したゴミを圧電素子
フクリーニングセンサーユニット」などの動作機構と
撮像素子のみで撮影したデジタル画像は、偽色や色
モアレが発生します。この現象は、被写体の空間周波
露
光
制。
(2)センサーへのゴミ付着を抑制
センサーユニットに静電気によ
ハイブリッド赤外カットローパスフィルタの構造
●ハイブリッド赤外カットローパスフィルタ
*4 EOS Integrated Cleaning
System
ローパスフィルタ
(被写体像を水平方向に分離)
35mm フルサイズ CMOS センサー(原寸大)
出
力
(2110万画素/2008年)
エンジン DIGIC による約 10 コマ/秒の高速連続撮影
現を開拓しています。
(1110万画素/2002年)
(1670万画素/2004年)
EOS 5D
35mm フルサイズ大型 CMOS センサー *3 は
2110 万画素を頂点とし、APS-H/APS-C サイズ大
*3 35ミリフルサイズ大型CMOS
セルフクリーニングセンサーユニットの構造
を画像に付加(あらかじめ白無
地被写体を撮影しデータ取り込
み/記憶)
、付属のソフトウェア
(Digital Photo Professional
Ver.3.2∼)による「一括自動ゴ
ミ消し機能」で処理。
基
盤
望遠レンズの小型化と軽量化を実現する
DO レンズ
カメラ用「DO(Diffractive Optics)レンズ」は、
レンズ EF400mm F4 DO IS USM に搭載し、高性
回折光学系と屈折系では色収差 がまったく逆に発生
能を維持したまま望遠レンズの大幅な小型化と軽量化
する性質を利用し、ガラスレンズの表面に精密な回折
を実現しました。また、回折格子の材料や形状、構造
精度で近接、積層構造にし
などをさらに研究して、回折光学素子を 3 積層にし
*5
格子を接合し、数μ m
*6
たキヤノンが世界で初めて開発したレンズです。
キヤノンは、DO レンズを一眼レフカメラ用交換
環
境
た 3 積層型 DO レンズを開発。EF70-300mm
F4.5-5.6 DO IS USM に搭載し、望遠ズームレンズ
の小型化にも成功しました。
[1.屈折レンズ]
青緑赤
[1.と2.の組み合わせ]
[3積層型DOレンズ]
回折格子
[2積層型DOレンズ]
回折格子
色収差
[2.DOレンズ]
赤緑青
色収差を打ち消す
逆の色収差
DO レンズによる色収差補正の原理
ガラスレンズ
DO レンズの構造
ガラスレンズ
*5 色収差
光は波長によって屈折率が異なる
ため、色ごとに像のできる位置が
ずれる。これが色のにじみ、色収
差となる。通常、色収差は、屈折
率の異なる凸レンズと凹レンズを
組み合わせて収差を相殺すること
で補正する。
未
来
*6 μm(マイクロメートル)
1 μ m は 1m の 100 万分の 1 =
0.001mm。
25
高画質にこだわる技術が切りひらくハイビジョン映像世界
デジタルビデオカメラ
動画と音声からなるビデオ映像には、写真とはまた違った高度なデジタルイメージング技術が求め
られます。大量のデータ処理の高速化だけでなく、機器のポータビリティ(小型・省電力)も重要
な開発テーマ。本格ハイビジョン時代を迎え、キヤノンは独自技術を結集して高品質フル HD ビデ
オカメラを送り出しています。
撮像素子
ビデオ用に自社開発したフル HD CMOS センサー
デジタルビデオカメラのしくみ
→「フル HD CMOS センサー」
撮像素子(光を電気信号に変換する素子)を使って映像と音声を
記録するビデオカメラ。
コーデックエンジン
ビデオ映像と音声を記録メディアに
合わせて圧縮・伸長するレコーダ部の
専用プロセッサ
手ブレ補正光学系(レンズシフト方式)
画質を損なわずに手ブレを補正する光学式手ブレ
補正機能
→「HD ビデオレンズと手ブレ補正機能・ AF 機能」
HD ビデオレンズ
ガラス非球面レンズを使用した光学ズームレンズ。
グラディエント ND フィルタ、高屈折率非球面
(UA)レンズ(高級機の一部)を採用
→「HD ビデオレンズと手ブレ補正機能・ AF 機能」
外測AF センサー
映像エンジン
被写体までの距離を計測するセンサー
→「HD ビデオレンズと手ブレ補正機能・
撮像素子からの電気信号をビデオ映像に
変換するカメラ部の画像処理プロセッサ
AF 機能」
→「DIGIC DV II」
ハイビジョン対応のビデオカメラ専用映像エンジン
DIGIC DV ll
デジタルビデオカメラのカメラ部の撮像電気信号処
理プロセッサが「DIGIC DV」です。ハイビジョン映像
映像の記録・再生だけでなく、動画と静止画の同時撮
影、高速連写などの多彩な機能を実現しています。
に対応するために「DIGIC DV II」に進化、フル HD 対
応の高画質を実現しています。
ビデオ映像の信号処理では、動画特有のノイズ*1、
特に暗部と平坦部のノイズの低減が必要となります。
60 コマ/秒の高速撮影に対応しながら、低消費電力
*1 動画特有のノイズ
動画は静止画に比べてランダムノ
イズが目立ちやすく、また暗所撮
影など撮影コンディションによっ
てノイズがのりやすい。ビデオカ
メラのノイズ対策は、スチルカメ
ラとは違うアプローチが必要にな
る。
も実現させていかなくてはなりません。
キヤノンでは、独自開発の画像処理アルゴリズムで
ノイズを低減し、鮮やかな色再現性と豊かな階調性を
もつ美しい映像記録を可能にしています。
また、処理能力をアップすることで、ハイビジョン
映像エンジン DIGIC DV ll
ビデオカメラの映像処理プロセス
ビデオカメラは、被写体の撮像電気信号をビデオ映像に変換する「カメラ部」と、その映像を記録メディアに記録・
再生する「レコーダ部」で構成されています。映像処理の各プロセスに、キヤノン独自の技術が活かされています。
[カメラ部]
26
[レコーダ部]
レンズ
撮像素子
映像エンジン
ハイビジョンコーデックエンジン
記録メディア
結像
電気信号に変換
画づくり
圧縮・伸張
記録・再生
ハイビジョンの高解像度映像に対応する
HD ビデオレンズと手ブレ補正機能・ AF 機能
入
力
フル HD 対応のビデオカメラでは、レンズの高い解
像力が要求されます。キヤノンはレンズにガラス非球
面レンズ*2 を採用、その位置と形状の最適化を図り、
ハイビジョンに適したレンズ構成に仕上げています。
また、ビデオ撮影時の手ブレは、ズーム倍率が高く
[球面レンズ]
[非球面レンズ]
[手ブレが発生した場合]
[補正光学系シフトによる
手ブレ補正後の状態]
なるほど映像への影響が大きくなりますが、手ブレ対
策には低周波から高周波までの幅広いブレを検知して
補正する光学式手ブレ補正機能を採用しています。こ
の補正技術は、キヤノン独自のレンズシフト式補正技
術を発展させたもので、補正光学系レンズを平行移動
ブレ
させて光軸のブレを補正します。
撮像素子
補正レンズ
ハイビジョン撮影では、わずかなピントずれも目立
ちやすいものですが、すばやく正確なピント追従を実
出
力
シフト
非球面レンズによる焦点の一致とシフト方式手ブレ補正の原理
現するため、「ハイスピード AF 機能」も搭載されて
います。これはまず、外測 AF センサーが被写体まで
の距離を演算して迅速にレンズを移動させ、その後
CMOS センサーがレンズを通過した像のピントを正
1 距離を演算し、レンズを移動
●
2 ピント合わせ
●
露
光
撮像素子
被写体
確に合わせます。2 つのセンサーの利用により、すば
2
●
やく正確な AF 機能が実現されています。
1
●
外測AFセンサー
ハイスピード AF の概要
*2 非球面レンズ
球面だけでなく曲面(レンズ径の方
向に連続的に曲率を変化させた面)
をもつレンズ。球面レンズでは1枚
で光を1点にシャープに結像させる
ことが難しいが、非球面レンズで
は可能。
光
学
/
医
療
高速・低消費電力でフル HD 対応
フル HD CMOS センサー
デジタル一眼レフカメラ用の CMOS センサー(→
P.25)はフィルムサイズですが、デジタルビデオカメ
ラ用の CMOS センサーはボディの小型化に合わせて
小面積である必要があります。しかもハイビジョン放
送の美しさを実現するには、ハイビジョン信号と同じ
基
盤
水平 1920 ×垂直 1080 画素(約 207 万画素)の読み
出し・記録に対応するのが理想で、画素は超高密度に
実装されなければなりません。
キヤノンは、デジタル一眼レフカメラ用の CMOS
センサー技術を進化させ、フル HD *3 ビデオカメラ用
CMOS センサーの開発に成功しています。このセン
サーのイメージサイズは 1/3.2 型で、動画約 200 万
環
境
画素、静止画約 300 万画素が埋め込まれています。
この高密度化は「画素縮小化技術」(→ P.59)によって
実現されました。
また、CMOS センサーの特長である高速読み出し
と低消費電力に加えて、豊富な色情報をもつ原色フィ
ルターを採用、偽色やモアレの少ない豊かな色再現性
能が実現されています。オンチップノイズ除去回路を
搭載し、低照度での低ノイズ特性も達成しています。
フル HD デジタルビデオカメラ用 CMOS センサー
*3 フルHD(対応)
デジタルテレビ放送の映像信号に
は、アナログテレビと同じ走査線
525 本の方式(SDTV)と、720 本、
1080 本の方式(HDTV)がある。こ
のうち、最も解像度の高い1080本
の方式をフル HD(High Definition)
と呼ぶ。「HDTV1080i」では有効画
素数が「1920 × 1080、1440 ×
1080 /フレーム」となっている。
つまりフルHD対応とは、テレビの
デジタルハイビジョン放送と同じ
性能をもつビデオカメラのこと。
未
来
27
高精細スキャン技術で広げるデジタルデータの活用
スキャナ
フィルムや写真、ドキュメントを取り込んでデジタルデータ化するスキャン技術には、キヤノンの
独自技術が数多く盛り込まれています。キヤノンはスキャナ専用機だけでなく、複写機のスキャナ
機能も含めて高精細スキャンを追求してきました。そこでは高度な光学技術、電子デバイス技術、
ソフトウェア技術などが融合しています。
スキャナのしくみ
スキャナは原稿(フィルムや写真や文書)に光をあて、
撮像素子で読み取ってデジタルデータ化する装置。
(透視図は CCD 方式のフラットベッドスキャナ)
反射ミラー
光源
高輝度の白色 LED 光源
光路長(光が進む経路)を確保するために
使われるミラー
→「白色 LED の導光技術」
レンズユニット
光源から原稿にあたった光を
撮像素子に導くレンズ(非球面 ST レンズ)
FAREガラス
赤外光と通常光の光路長差を調整するガラス
撮像素子(CCD)
光を電気信号に変換する CCD センサー
フィルム原稿用照明
キャリッジ
フィルムをスキャンする場合の透過用の照明。
光源は白色 LED もしくは蛍光ランプ
→「画像補正技術」
光源・ミラー・レンズ・撮像素子
を内蔵する光学ユニット。キャ
リッジごと動いて原稿をスキャン
(走査)する
コントローラ
キャリッジ駆動モーター
CCD からのデータを処理する
専用画像処理プロセッサ
CCD 方式と CIS 方式
キヤノンのフラットベッドタイプスキャナには、CCD 方式と CIS 方式の 2 種類があります。
CCD 方式は白色 LED などの光源で原稿を照らし、高精度な光学系と高密
[CCD方式]
[CIS方式]
度のCCDラインセンサーで読み取る高精細、高画質を追求したモデルです。
CIS(Contact Image Sensor:コンタクトイメージセンサー)方式は、光源
にRGB3色のLEDを用い、原稿と同じ幅のCISで読み取る、薄型・省電力
モデルです。
28
光源
スキャン方向
ライトガイド
ガラス LED
ミラー
レンズ
CCD
RGBフィルタ スキャン方向
ガラス
セルフォック
レンズ
受光素子
作業効率の向上と省エネルギー化を実現する
白色 LED の導光技術
従来の CCD 方式のスキャナは、蛍光ランプを光源
量を確保でき、ウォームアップ時間はゼロを実現。ス
にしていました。蛍光ランプは起動時やスリープモー
キャン後のランプ点灯も不要になり、省エネルギーと
ドからの復帰直後に温まるまでのウォームアップ時間
なっています。
(約 30 秒)が必要でした。LED
*1
を光源に使用する
とウォームアップ時間が不要になりますが、LED は
CanoScan 8800F
ランプ光量
点光源のため均一な光量の線光源に変換する技術が不
ランプOFF
スキャン開始
可欠です。
キヤノンは、CIS 方式のスキャナで培ってきた
LED の導光技術を応用、LED の設置方法や光を導く
スキャンボタン押下
*1 LED (Light Emitting Diode)
ウォームアップ時間
(常温約30秒)
スキャンボタン押下
色 LED を光源として採用することができました。こ
出
力
発光ダイオード。半導体素子の1種
で電流が流れると光る。蛍光ラン
従来機
ランプ光量
ライトガイドの形状などを研究することで、高輝度白
れにより、スキャナを起動させた直後から安定した光
入
力
プに比べて圧倒的に小型、軽量、
ランプOFF
スキャン開始
白色 LED 採用によるウォームアップ時間の削減
長寿命、低消費電力だが、光量が
少ないのが欠点だった。最近は高
輝度化が進み、幅広く使われるよ
うになっている。
さまざまな原稿の画像補正を多彩に実現する
画像補正技術
露
光
スキャナの性能では、本体メカニズムに加えてスキャナからのデータを処理、画像を正しく再現するドライバ
機能も重要です。キヤノンのスキャナ用ドライバ「ScanGear」には、使いやすいだけでなく、さまざまな画像
処理機能が盛り込まれています。このような画像処理技術は、キヤノンのデジタルイメージング機器に共通する
プラットフォーム技術をベースに、スキャナに特化して工夫を重ねている技術です。
●ごみ傷除去機能
●逆光補正機能
高解像度スキャナでは、目に見えないフィルム上の
逆光で撮影された写真の補正は、画像を解析して修
微細なごみや傷まで鮮明に読み込んでしまいます。ご
正が必要な部分を抽出、その部分の暗さの程度に応じ
み傷除去機能は、赤外 LED による赤外光でごみや傷
て画像全体の明るさやコントラストを調整します。
光
学
/
医
療
を検出し、光源による走査で得た画像からごみや傷の
大きさ・形状、周囲データの特徴を判断し、ハード
ウェア処理とソフトウェア処理を高度に融合させて、
画像を美しく再現します。
基
盤
(イメージ図)
(イメージ図)
ごみ傷除去機能
逆光補正機能
●褪色補正機能
環
境
●とじ部の影補正機能
色褪せや色かぶりした画像のヒストグラムを解析
開いた本をスキャンした時にできるとじ部の影を目
し、色相・カラーバランス・コントラスト・彩度を自
立たなくします。とじ部が浮いてできた影を、濃度
動補正して、変色する前の色を鮮やかに再現します。
テーブルの形状認識により検出し、明るさを自動的に
補正します。
未
来
(イメージ図)
(イメージ図)
褪色補正機能
とじ部の影補正機能
29
美しさと速さを極める写真プリント技術
インクジェットプリンタ
手軽に高品位の写真プリントができるインクジェットプリンタは、写真の楽しみ方を大きく変えました。
またたく間に、キレイな写真を、手元で鑑賞できる技術は、インクやヘッドをはじめとする精密技術の
集大成です。要素技術をとことん極めて積み上げていくキヤノンの技術の総合力が、インクジェットプ
リンタの描写力を高めています。
インクジェットプリンタのしくみ
用紙搬送機構
ヒーターによって気泡(バブル)を発生させ微細なインク滴を吐出し、
用紙が前面給紙カセットと後
紙に吹き付けてプリントする。
紙)、本体に内蔵されたユニッ
トで自動両面プリント/コピー
トレイから送られ(2Way 給
ができる機構
スキャナ
キャリッジ
プリントヘッドとインクタンクを載せて左右に
インクタンク
走査してインク滴を吐出するためのユニット
色ごとに独立した 4 ∼ 10 色の
インクタンク
カードスロット
各種メモリーカードから直接プリントする
「カードダイレクト」のためのスロット
微細なインク滴をコントロールする
FINE (Full-photolithography Inkjet Nozzle Engineering)
キヤノンは、インクジェットプリンタの基本メカニ
にある全てのインクが吐出されるため、充填されたイ
ズムを発明後、新発想を加えながら独自技術を育てて
ンク滴が効率よく押し出されます。インク滴の速度も
きました。その基幹技術が「FINE」です。FINE のイ
従来の 1.5 倍以上と高速化され、ヘッドの移動による
ンク吐出メカニズムとプリントヘッド製造技術によっ
気流の影響も小さくなり、着弾精度が向上しました。
て、印刷品質の画質、階調性、画像安定性が飛躍的に
●ナノ精度の半導体露光装置を用いたヘッド製造技術
向上しています。
インク滴の微細化とプリントの高速化には、より多
●最小 1pl のインク滴を正確に吐出するメカニズム
*1
くのノズルをより広い範囲にわたって高精度につくり
写真画質の実現には、インク滴の微細化や吐出の高
込む技術が必要です。FINE のプリントヘッドは、約
精度化が不可欠です。しかし、従来方式ではインク滴
20 × 16mm という親指の先ほどのチップに 6,000
を微細化すればするほどプリントヘッドの移動による
個以上のノズルを並べることができます。これは、
気流の乱れや、温度変化によるインク粘度変化の影響
キヤノンが得意とする半導体製造技術や独自の材料技
で、吐出量や着弾位置にばらつきがありました。
術、斬新なプロセス技術を駆使して、ヒーターやノズ
FINE のヘッドでは、一度の発泡でヒーターの直下
ルをウエハーに一体形成することで作られています。
約φ9μm
5plノズル
加熱・気泡発生
*1 pl (ピコリットル)
1plは1リットルの1兆分の1。
30
FINE の吐出方式
インク滴吐出
ヒーターの下に吐出口がある
ため、ヒーター下にあるすべて
のインクがばらつくことなく
吐出される
1plノズル
2plノズル
プリントヘッド部およびノズルの拡大図
普通紙で美しいプリントを実現する
PgR 技術
インクのにじみやすい普通紙で、印刷物やポスター
のようにきれいなプリントができる技術が「PgR *2」
で、顔料インクの顔料成分と反応、紙表面で顔料を定
技術です。この技術は、新開発の「クリアインク」を普
着させます。キヤノンは、PgR 技術の確立にあたり、
通紙にコーティング後、顔料インク 「LUCIA」(→
インク材料の綿密な検討と微量のクリアインクをむら
P.33)で印刷することで、普通紙への高品位なプリン
なく均一に塗るためのローラーなどのメカ機構を新し
トを可能にしたシステムです。
く開発しました。
*3
入
力
クリアインクは多価金属イオンをふくむ透明インク
出
力
*2 PgR
Pigment Reaction の略。
用紙にクリアインクを塗布。
顔料インクを吐出。
顔料インクが着弾後、紙面上で反応。
高発色と高速定着を実現。
*3 顔料インク
構成要素の 1 つである色素が非常
に微細な粒子として分散してい
るインク。耐候性に優れている。
PgR 技術のインク定着プロセス
写真を美しく長持ちさせる
露
光
ChromaLife100+
キヤノンは、純正染料インク*4 と純正写真用紙の組
の美しさ、インク濃度の高さ、色あせしにくいという
み合わせにより、アルバム保存 300 年以上、耐光性
点も重要になります。インクの染料構造の変更と写真
約 40 年、耐ガス性はオゾンガスで約 10 年、混合ガ
用紙のインク受容層に添加した堅牢性向上剤により、
*4 染料インク
構成要素の1つである色素が分子レ
スで約 20 年という長期間*5 にわたって写真を美しく
保存できるシステム「ChromaLife100+」を開発して
耐ガス性や耐光性が従来より大幅に向上しました。ま
ベルで溶けているインク。写真と
の相性がよい。
います。
やかな色を長期保存できます。
た、レッド領域の色再現性が拡大し、さらに豊かで鮮
光
学
/
医
療
*5 アルバム保存300年以上、耐光
性約40 年、耐ガス性約10 年(オ
ゾンガス)/約20年(混合ガス)
キヤノンが加速試験によりシミュ
インクジェットプリンタのインクは、熱安定性、微
レーションしたものであり、保証
細な形状(1pl の正しい球状)の保持、安全性など多く
値ではない。なお、予測値の評価
方法および判断基準はP.17に掲載。
の性能が同時に求められます。色の特性として、発色
より高品位な写真補正を実現する
自動写真補正技術
自動写真補正技術は、インクジェットプリンタ本来
の印刷性能を最大限に活かすため、写真を自動で解
ら特徴量を解析した結果を利用してシーンを分類する
画像解析技術が活用されています。
析・分類し、的確な補正を行う技術です。
この技術によって、ポートレートは人が好ましいと
人物の顔を検出(顔検出)した後、画像の特徴量を解
感じる顔色や明るさに、風景写真は鮮やかで印象的に、
析して撮影シーンを推定(シーン分類)します。次に顔
顔と風景の両方が写っているスナップは自然な肌色と
検出とシーン分類の結果、撮影情報を加味して補正を
メリハリのある風景を両立した写真に、自動で仕上げ
実施します。顔検出には従来よりさらに高度化した顔
ることができます。また、自動写真補正と同時に赤目
検出技術、シーン分類には膨大な画像データベースか
補正*6 をすることも可能です。
入力画像(例)
シーン別適正化
ポートレート
① 画像の中から顔領域を検出
② 画像の特徴量を解析して
撮影シーンを推定
③ シーン分類結果と撮影情報に
応じて補正効果を適正化*7
環
境
適正化結果(例)
夜景
自動写真補正プロセス
基
盤
赤目補正
*6 赤目補正
人物をストロボ撮影すると赤目に
なることがある。これは眼球網膜
の毛細血管がストロボ光で反射さ
れて起きる現象。
*7 補正効果の適正化
具体的な補正には、色かぶり補正、
露出補正、顔色補正、顔明るさ(逆
光)補正などがある。これにシーン
分類結果による「シーン別適正化」
(トーン調整、彩度アップ)、場所に
よって補正レベルを変える「特定
色強調」などを行い、写真全体を
ほどよく補正していく。
未
来
31
超大型ポスターも図面も高精細に高速出力する先進技術
大判インクジェットプリンタ
インクジェットプリンタの技術は、大判プリントの世界も変革しています。プリントヘッド技術
「FINE」(→ P.30)は、大面積を高精細、高速にプリントするワイドヘッドの開発につながりました。
大判プリンタは、壁面をおおうアート作品や建築 CAD、文化プロジェクトにまで活用されて、活
躍の分野を広げています。
大容量インクタンク
大判インクジェットプリンタのしくみ
色ごとに独立した 5 ∼ 12 色のインクタン
インクジェットプリンタと同じ原理でヒーターにより発生させた気泡
ク(330 ∼ 700ml)。チューブを介してヘッ
ドにインクを供給するチュービング方式
が微細なインク滴を吐出し、大判用紙にプリントする。
→「LUCIA」「リアクティブインク技術」
マルチセンサー
ヘッド位置調整、紙幅検知、
自動カラーキャリブレーション
(色校正)のためのセンサー
プリントヘッド
幅 1 インチ(2.54cm)の「1 イ
ンチワイドヘッド」。ヘッド
1 個で 6 色に対応。1 色分は
2,560 ノズルで、12 色機に
は ヘ ッ ド を 2 個 搭 載
(2,560 × 12 = 30,720 ノ
ズル、2,400 × 1200dpi)
キャリッジ
ヘッドを左右に走査してインク滴を吐
出する機構。プリント結果を読み取る
センサーやカッターも搭載
巻取装置
2,560ノズル×6色 2,560ノズル×6色
プリントした用紙を自動巻き取りする装置
画像処理からプリンタ制御までを高速処理する
L-COA
大判プリンタの心臓部「L-COA」は、大容量の画
像データの処理と印刷データの作成 、プリンタの最
*1
伝送タイムラグの短縮を実現し、大幅なスピードアッ
プを達成しました。
適制御をつかさどる専用イメージプロセッサです。
30,720 ノズルから最小 4pl *2 のインクを吐出
する「1 インチワイドヘッド」を L-COA が制御
することで、大判プリンタの高画質印刷と高速
高性能/高集積
出力*3 を実現しています。
*1 大容量のデータ
A0判(841×1,189mm:A4の16
枚分)のプリントを作るためのデー
タ容量はおよそ3GBになる。
L-COA は、キヤノンのプラットフォーム技
り開発されました。このチップでは、従来は複
*2 pl(ピコリットル)
1plは1リットルの1兆分の1。
*3 高速出力
最速でA0サイズを約53秒で出力。
32
L-COA
術「システム LSI 統合設計環境」(→ P.56)によ
高精細
画像処理
数のチップで行っていたプロトコル処理、画像
処理、本体制御を 1 チップ化して、システム系
の処理も集積化。これにより各処理の高速化と
イメージプロセッサ「L-COA」とその概念図
高速
エンジン制御
プロの目に応える画質を実現する 12 色顔料インク
*4 染料と顔料
LUCIA
インクは、色素・溶剤・添加剤・
水で構成されています。色素が分
子レベルで溶けているのが染料イ
入
力
ンクで、色素が溶けずに分散して
プリンタで使われるインクには、染料インクと顔料
いるのが顔料インク。染料インク
は発色がよく写真との相性がよい、
Yインク
Rインク
Gインク
GY 混色
YR 混色
インク*4 があります。染料インクのような光沢感をも
ちながら、顔料インクの鮮やかさと耐候性があるイン
顔料インクは耐光性に優れている
など、それぞれに特性がある。
クが、キヤノン開発の「LUCIA」です。
キヤノンは「LUCIA」の 12 色顔料インクとして、
*5 補色
CG 混色
RM 混色
色相環の配置で対称にある色。補
色関係にある色同士は隣りあうと
強調されて、彩度が高く見える。
CMY のインク色に対して色相的に対称(補色 関係)
*5
の RGB の特色インク、濃淡 2 種類のグレーインク*6
BC 混色
を開発。色再現性が拡大して、全カラー領域でバラン
Cインク
(例:マゼンタの花にグリーンの葉な
MB 混色
Bインク
ど)
Mインク
スの取れた発色が可能になっています。光沢のある用
暗部の階調の粒状感を低減する。
清澄感の豊かなカラー表現
紙など、多彩な用紙で高発色のプリントが可能です。
出
力
*6 濃淡グレーインク
またグレー部の印刷ではカラーイ
ンクの使用量を少なく、光源の影
響を受けにくいプリントにする。
CMYRGB インクによる全カラー領域表現
CAD 図面などの高精細プリントを実現する 5 色染顔料インク
リアクティブインク技術
建築図面や設計図面の出力には微細な線を正確に描
実現し、極小文字の距離精度± 0.1 %、最小線幅
画する必要がありますが、キヤノンは、CMYK の染
0.02mm で極細線や極小文字のプリントを可能にし
料インクに顔料マットブラックインクを反応させるこ
ました。さらに、1,200dpi レンダリング処理により、
とで、文字や線の境界でのにじみを防止するリアク
斜線や曲線はより滑らかに、小さな文字もつぶれるこ
ティブインク技術を独自に開発しました。
となくクリアに再現します。
露
光
「5 色染顔料リアクティブインク」は、鮮明な黒を
光
学
/
医
療
カラーインク
(染料)
マットブラックインク
(顔料)
化学反応
にじみの少ない
ブラックとして定着
リアクティブインク技術の概要
基
盤
ポスターやアルバムなどのレイアウトを簡単に自動編集する
*7
ダイナミックレイアウトエンジン(DLE )
キヤノンの大判プリンタ専用のポスター作成ソフト
コンテナ同士の間隔を伸縮するバネに見たて、
コンテン
ウェア「PosterArtist 2008」には、独自開発の
ツの理想サイズとバネの長さの差が最小になるよう自
DLE技術が搭載されています。DLEはポスターで使用
動調整するものです。このアルゴリズムを採用した新
するコンテンツを、それらの数とサイズに応じて適切
開発のオートデザイン機能により、仕上がりのイメー
に自動レイアウトするものです。その結果、煩雑な操
ジやテキスト、使用する画像など最小限の項目を入力
作なしで、プロデザイナー品位の仕上がりを得ること
するだけで、最適な配色とレイアウトのデザイン案が
ができます。
自動で生成されます。
環
境
基本アルゴリズムは、コンテンツ収容の可変可能な
ポスター候補
DL E技術
・風合い
・文字フォント
・配色
・基準デザイン
バネを押し合う
レイアウト
自動生成
未
来
コンテナ間のコネクタにかかるエネルギーが最小に
なるように自動でレイアウトする
オートデザイン機能の概要
*7 DLE
Dynamic Layout Engine の略。
33
小型・薄型化を追求して世界のニーズに応える電子写真技術
レーザビームプリンタ
キヤノンは、レーザビームプリンタ(LBP)の開発において、さまざまな角度からユーザーのニーズ
をとらえ、すみやかに応えてきました。画質、スピード、操作性などの基本性能の向上はもちろん、
ネットワーク対応、拡張性の実現、環境配慮など、時代の要求に合わせた製品開発を続けています。
レーザビームプリンタのしくみ
レンズ系
電子写真方式(→ P.14)によりレーザー光で感光ドラムを走査し、
ポリゴンミラーからのレーザー光を各色の
感光ドラムへ導くレンズ
描いた像にトナーを付着させて紙に転写、プリントする。
定着ベルト
紙に転写したトナーを
熱と圧力で定着させる
ベルト
レーザーダイオード
CMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラッ
ク)4 色分のレーザー光を発生するユニット
ポリゴンミラー
高速回転(2 ∼ 3 万回転/分)してレーザー光
を走査するミラー
一体型カートリッジ
メンテナンスを容易にするため CMYK 各色
ごとに感光ドラムと帯電器、現像器などを
一体化したカートリッジ
中間転写ベルト
各色の感光ドラムに形成されたトナー画像
を合成、紙に転写するためのベルト
転写パッド
感光ドラムから中間転写ベルトへの転写(1 次転写)時にプラス電界をかけて
トナーを転移させる機構(従来の転写ローラーに替わる新開発機構)
→「パッド転写高画質化技術」
プリンタの負荷を軽減し高速出力を実現する
カラー CAPT(Canon Advanced Printing Technology)
プリンタに出力する画像データは、ホスト(PC)
高性能化する PC を活用するこのしくみにより、プ
にインストールされるドライバソフト「カラー CAPT」
リンタコントローラに負担をかけず、データ容量が大
と、プリンタコントローラによって生成されます。
きなページでも、少ないプリンタメモリーで高速にプ
キヤノンが開発したカラー CAPT の特長は、ホス
ト側で GDI
*1
コマンドから描画(レンダリング)、デー
タの圧縮までを高速に行い、
インタフェースを介して
リントができます。最新の「カラー CAPT3.0」では、
ネットワーク接続が強化され、さらに快適なプリント
が可能となっています。
プリンタコントローラのメモリーに送ることです。
コン
トローラの機能は、データの画像処理は行わず、メモ
リーに格納された高圧縮データを伸長する処理を実施
します。
Windows PC
アプリケー
ション
*1 GDI (Graphic Device Interface)
Windows に搭載されているグラ
フィクス処理を行うプログラムの
1 つ。
GDI
プリンタ
プリンタ
ドライバ
コントローラ
PDL*2
一般的なPDL
プリント
実行
GDI
コマンド
プリント
実行
レンダリング
GDI
コマンド (ソフトSURF)
PDL変換
エンジン
ビットマップ
レンダリング
ビットマップ
*2 PDL (Page Description
Language)
ページ記述言語。文字や図形など
の位置情報や書式情報などの印刷
データを指示するための言語。
34
カラーCAPT
カラー CAPT のデータ処理概念図
高圧縮ビットマップ(Hi-SCoA)
(パイプライン転送)
シンプルな機構で画質を向上させる電界制御技術
パッド転写高画質化技術
LBP のカラー画像は、イエロー、マゼンタ、シアン、
入
力
り、シャープな文字印刷を実現しました。このシー
ブラック各色の感光ドラムに作像されたトナーを中間
トの電気抵抗を小さくすることで転写のための電圧
転写ベルト上に順次 1 次転写、色重ねしたトナー像を
も、従来の約 1/10 に抑えられ、機器全体の小型化
作って形成されます。この 1 次転写の際、従来は転写
と低コスト化に貢献しています。
ローラーをプラス帯電させることで、マイナス帯電し
ているトナーをベルト上に転移させていました。
新しく開発された「パッド転写高画質化」技術では、
中間転写ベルトの 1 次転写部材にパッドと摩擦抵抗
出
力
が少ない特殊な導電性シートを採用しています。従来
の回転体ローラーでは、はく離放電などによるトナー
の飛び散り現象を抑えるため、部材追加やローラーを
大きくする必要がありました。
導電性シート
感光ドラム
中間転写
ベルト
転写パッド
この技術では導電性のシートを採用する事で部材
低摩擦
追加などの必要がなくなり、小さくシンプルな構成
を実現しました。このシートにプラス電圧をかける
2次転写対向
ローラー
ことでマイナスを帯びたトナーを中間転写ベルトに
引き寄せ、転写時のトナーの飛び散りなどがなくな
露
光
パッド転写高画質化技術
カラー機の高さを抑え薄型化を実現した
LBP 薄型化技術
オフィスのデスク周辺で使われる LBP に対する小型化へのニーズは高く、キヤノンはさまざまな技術革新に
光
学
/
医
療
取り組んできました。A4 カラー LBP の最薄(高さ 262mm)のローフォルムを実現した設計技術が「LBP 薄型化
技術」です。この技術は各機構を小型・薄型化する技術で構成されています。
● 4 in1 薄型レーザースキャナ
●薄型高圧電装技術
従来のレーザースキャナは、4 つの感光ドラムに 4
徹底的に小型・薄型を図るために高圧電源基板も薄
つのレーザースキャナで走査していました。「4 in1
型に新開発し、本体側面に収めました。LBP は機器
レーザースキャナ」は、1つのポリゴンミラーに向かっ
の特性上、高圧電流を印加する必要があるので、電源
て 4 色分のレーザー光を斜めにあてて光路を 4 方向に
基板が大きくなる傾向があります。薄型化するために、
分け、ミラーで反射してそれぞれの感光ドラムへ導く
従来は電磁トランス*3 を用いていた高圧電源をピエゾ
という方法です。ポリゴンミラーをスキャナ本体中央
トランス に変更、高さを約半分の 8.0mm に抑えま
の低位置に配置し、レーザーの光路を綿密に設計する
した。また、トランスの周波数制御回路を新開発の
ことで実現したのが、高さ 50mm というさらなる薄
IC チップに集約、回路面積を 1/3 にしています。
型化を達成した「4 in1 薄型レーザースキャナ」です。
●薄型化構造設計技術
基
盤
*4
LBP 本体を薄型にするため、トナーカートリッジ
の配列は従来の垂直方向から水平方向とし、引き出し
式のオペレーションを開発しました。さらに、自然対
環
境
流を利用した放熱ファンのない「ファンレス設計」、筐
体剛性と軽量化に注目した本体設計も行いました。
4 in1 薄型レーザースキャナ
16.0mm
トランス
8.0mm
PZT
FET
HV_R
ピエゾ高圧電源
薄型高圧電装技術による高圧電源基板
HV_R
HV_C
HV_R
HV_C
L
Al
Cap47
従来の高圧電源(電磁トランス)
EI10.2
*3 電磁トランス
電磁誘導で電圧の高さを変換する
変圧器。電磁誘導を利用する電磁
コイルのトランスが従来型。
未
来
*4 ピエゾトランス
圧電素子(セラミック)のピエゾ効果
を利用するトランス。
35
軽快なオフィスワークを実現するために先進テクノロジーを集結
ネットワーク複合機
ネットワーク複合機は、オフィスドキュメントの入出力・保管・送受信と、あらゆる業務を 1 台で
こなします。電子写真技術を培ってきたキヤノンが、先進のネットワーク技術、ドキュメント処理
技術、ソフトウェア技術を結集してこの 1 台は誕生しています。時代のニーズにあわせたセキュリ
ティ技術の充実も図られています。
スキャナユニット
白色キセノン管照明と CCD
センサーにより原稿を読み
取るスキャナ
ネットワーク複合機のしくみ
電子写真方式(→ P.14)でプリント。
右図のように、各色ごとにレーザーユニットとドラ
ムユニットをもつ「タンデム方式」のほか、1 つの
ドラムで画像を形成するワンドラム方式がある。
ドラムユニット
「現像」を行う機構。感光ドラム、
帯電ローラー、現像器、現像ロー
ラーを一体化し、CMYK 各色ごと
に配置
→「アドバンスド FLAT4 エンジン」
iRコントローラ
デュアル CPU とグラフィックエンジン、レンダリングエン
ジンを 1 チップ化したシステム LSI、拡張メモリー、画像
処理専用チップを搭載したネットワーク複合機の心臓部
→「コントローラ・アーキテクチャ」
レーザーユニット
レーザー光を走査して感光ドラムに「露光」を行う機
構。タンデム方式では CMYK 各色ごとに配置
→「アドバンスド FLAT4 エンジン」
中間転写ベルト
定着ユニット
各色の感光ドラムに形成されたトナー画像
をベルト上で合成、紙に転写する機構
紙に転写されたトナーを熱と圧力で定着させる機構
→「ツインベルト定着」
カラー画像を高精細に高速出力する
アドバンスド FLAT4 エンジン
タンデム方式*1 のレーザーユニットでは「高精細 4 ビーム」方式を採用し、同時に発振された 4 本のレー
ザー光はポリゴンミラーとレンズを介して、CMYK それぞれの感光ドラムの上に照射されます。レーザー光を
制御するポリゴンミラーは対角寸法 20mm の小型 4 面形状で、1 分間に 3 万 7 千回という高速回転でありなが
ら、回転モーターを小型化、軸受部を改良することで動作音を下げることにも成功しました。
●レジストレーション補正
残トナーを再帯電して電荷のばらつきを抑制した後、
タンデム方式はワンドラム方式*1 と比べて、色ズレ
現像ローラーで回収する「クリーナレス・トナーリ
や画像濃度のブレが発生しやすいといわれています
ユースシステム」を開発、ユニットに組み込んでいま
が、キヤノンでは高度なセンシング技術を利用し、こ
す。これによりドラムユニットの小型化、感光ドラム
の問題を解決しています。色ズレは、中間転写ベルト
の長寿命化、トナーの安定した回収・再利用が可能と
上に形成された各色のパターンをフォトセンサーで計
なりました。
測し、各色の感光ドラムに対する書き込み位置を自動
*1 タンデム方式とワンドラム方式
複写機の画像形成方式の種類。タン
デム方式は、CMYK 各色ごとにそ
れぞれレーザーユニットとドラム
ユニットをもち、並列に配置する
方式で、高速化に向いている。ワ
ンドラム方式は製品にレーザーユ
ニットとドラムユニットは1つずつ
で、CMYK 各色で共有する方式で、
小型化に向いている。
*2 パッチ
各種調整の元となる基準トナー像。
一般的には、感光ドラムや中間転
写ベルトの上に形成されて、ク
リーナーで回収される。
36
補正。画像濃度のブレは、中間転写ベルト上に形成さ
れた各色の色パッチ*2 との濃度を、薄い色にも強い高
ポリゴンミラー
精度の RRPS センサーで読み取り、自動補正します。
●クリーナレス・トナーリユース
トナーボトル
フォトセンサー
ミラー
システム
現像ローラー
ドラムユニット
一般的に複写機では、感光ド
現像器
帯電ローラー
補助帯電ブラシ
ラムにトナーが一部転写されず
に残る現象があり、回収にはクリー
各色パターン
読み取り部
ニングブレードを使用します。
キヤノンでは、補助帯電ブラシで
トーリックレンズ
レジストレーション補正
中間転写ベルト
感光ドラム
クリーナレス・トナーリユースシステム
複合機のランダムな処理を確実に実行する
コントローラ・アーキテクチャ
プリント、コピー、スキャン、ファクス、ネット
入
力
[逐次処理]
ワーク入出力、ボックス内のデータ活用など、コンカ
スキャナ
レント処理(同時並列複合処理)を実行するネットワー
ファクス
ク複合機では、そのデータ処理量がばく大になります。
キヤノンは、製品の心臓部として複数の機能を高効率
に処理する専用プロセッサ「iR/iPR コントローラ」
送信
ネットワーク
を開発しました。この専用プロセッサは、キヤノンの
「システム LSI 統合設計環境」(→ P.56)によって独自
保存
プリント
出
力
に開発された LSI です。
カラー機用の「カラー iR/iPR コントローラ」では、
[同時並列複合処理]
システムを制御する 666MHz と 400MHz のデュア
スキャナ
ル CPU *3、全画像を同一次元で処理するグラフィッ
クエンジン、プリントデータを処理するレンダリング
送信
ファクス
エンジン「SURF」などが専用プロセッサとして 1
保存
チップ化されています。コントローラボードには、こ
の専用プロセッサ、標準 1GB(最大 1.5GB)の拡張メ
プリント
ネットワーク
モリー、1,200dpi の画像処理を効率的に行う専用
露
光
*3 デュアルCPU
1 つの CPU パッケージ内に 2 つの
CPU コアを実装した CPU。並列処
理できるので CPU の処理能力があ
チップなどが搭載されています。
逐次処理と同時並列複合処理の概念
がる。
読みやすさを向上した高精細ドキュメントを再現する
S トナー
ネットワーク複合機やレーザビームプリンタで使用
などの高濃度部は適度なグロス(てかり)感があり、テ
される「S トナー」は、マイクロカプセル構造をもつ微
キストはマットな風合いで読みやすく仕上がります。
光
学
/
医
療
粒子トナーです。
S トナーは原料を化学反応(重合反応*4)させて作
られるため、1 個 1 個が球形で大きさがそろっていま
す。そのためにエッジがシャープで細線がきれいな美
しい出力画像をつくりだすことができます。
またこの S トナーは、ワックス成分を球形トナー
ワックス
の中心部に内包しているため、トナーを定着した紙が
定着ローラーから離れやすくなります。さらに、写真
S トナーの構造
基
盤
*4 重合反応
高分子化合物のように、多数の原
子が共有結合している「重合体(ポリ
マー)」を合成する化学反応のこと。
安定高速出力と低消費電力化を達成する
ツインベルト定着
たくさんの人が同時に使用するオフィスのネット
環
境
ワーク複合機には、安定した高速出力が求められます。
IHコイル
キヤノンでは、トナーを熱と圧力で定着させる定着ユ
ニットに、調理器具などで使われている「IH *5」技術
(→ P.69)と 2 本のベルトを使った新発想の「ツイン
ベルト定着」を開発しました。
ベルトを採用することで、従来のローラー方式に比
定着ベルト
べて線から面へと加圧範囲が広がり、高速出力でのト
ナーの定着安定性が大幅に向上しました。定着ベルト
未
来
を外側(用紙と接する側)から IH コイルで加熱する
ことや定着ベルトに低熱容量素材を採用することで、
加圧ベルト
従来のハロゲンヒーター方式より約 1.2 倍の熱効率を
達成、低消費電力化にも成功しています。
ツインベルト定着のしくみ
*5 IH (Induction Heating)
家電の炊飯器や電磁調理器に代表
される電磁誘導を利用した加熱方
式。
37
ネットワーク複合機
ビジネスモデル構築をサポートする
MEAP/MEAP-Lite
「MEAP *1」は、ネットワーク複合機に搭載され
なお MEAP のコンセプトを LBP に搭載させた
たアプリケーション・プラットフォームで、コピーを
「MEAP-Lite」も開発し、サーバーレスプリンティン
はじめとする複合機の機能を、ユーザーのニーズやオ
グシステム構築に役立てています。
フィスの業務にカスタマイズさせたアプリケーション
として、コンピュータを介さずに実行することを可能
にします。
Custom UI
MEAP アーキテクチャは、主に、基本的な実行環
境を提供する MEAP プラットフォーム、システム関
本体機能アプリケーション MEAPシステムサービス
Copy/送信/
BOX/Print
CPCA
Class
Library
技術によって OS 非依存を実現しています。
MEAP によってネットワーク複合機は、IT 端末と
*1 MEAP
Multifunctional Embedded
Application Platform の略。
MEAPアプリケーション
MEAPプラットフォーム
連の機能を提供する MEAP システムサービス、複数
の MEAP アプリケーションの 3 つで構成され、Java
Custom Workflow
System Integration
Application
Manager
Java(J2ME)
Personal Profile
Controller
Utility
Class
Library
リアルタイムOS
しての可能性を飛躍的に拡大し、外部の機器やシステ
MEAP アーキテクチャの構成
ムとの連携もさらに広がります。
出力パフォーマンスを向上させる
プリンティングシステム
ネットワーク複合機で高速・高解像度な出力を実現しようとすればするほど、コントローラに大きな負荷が
かかります。キヤノンでは、各製品に最適なデータ処理を行い、コントローラに過大な負荷を与えずに、効率
よく高速・高解像度出力するプリンティングシステムを開発しています。
● LIPS LX/CARPS2
●高速 RIP
ネットワーク複合機やレーザビームプリンタには、
一般的なプリンタの RIP はソフトウェアで行ってい
キヤノンが開発したプリンタ専用ページ記述言語
ます(ソフトウェア RIP)
。しかし、データ量の多い
LIPS の「LIPS LX」を搭載しています。LIPS LX は、
カラー機の場合、ソフトウェア RIP では高速な処理が
プリントデータを構成する各データの処理を PC とプ
できないことが多いため、ハードウェア RIP での処理
リンタ間で効率よく負荷分散するロードバランシング
が必要となります。
機能を実現しており、プリンタの RIP *2 性能に合わ
キヤノンは、今後のプリンタのさらなる高速化、
せることで最適なデータ処理を実現しています。なお、
高解像度化の方向性を見すえ、ソフトウェア RIP と
従来の「LIPS IV」と組み合わせることで、
「LIPS V」
してもハードウェア RIP としても利用できる高速
と呼びます。
RIP のコア技術を開発し、製品に搭載しています。
また、低価格機向けのページ記述言語「CARPS2」
また、キヤノンは、内部処理のさらなる最適化や並
では、 LIPS LX の技術を生かして、PC 側でデータ
列化による高速対応と、内部データの圧縮によって
処理を行うことで、処理性能の低いプリンタでも高速
高解像度データを高速に処理する技術の開発も進め
なプリントを実現しています。
ていきます。
Windows PC
CARPS2
プリンタ
プリンタの性能に応じて負荷分散を行う
ページレイアウト
データ
処理
データ
処理
LIPS IV
グラフィック処理
LIPS V
画像処理
LIPS LX
*2 RIP
Raster Image Processor の略。
ページ記述言語(PDL)からビット
マップデータを生成するプロセス
のこと。
38
ロードバランシング
PC
LIPS LX ロードバランシング概念図
プリンタ
紙原稿を自動解析して再利用可能な電子ドキュメントを生成する
ドキュメント処理技術
入
力
キヤノンのネットワーク複合機では、読み取った原稿をコピーするだけでなく、原稿を解析して文字や図形や
イメージ領域に分割し、各領域に最適な処理を行い、再利用可能な電子ドキュメントを生成する、
「ドキュメン
ト処理技術」を搭載しています。
ドキュメント解析技術
サーチャブルPDF変換技術
高圧縮PDF変換技術
高解像度で精彩な
文字画像
二値化
文字部分抽出
文字部MMR圧縮
出
力
文字色付与
合成
アウトラインPDF変換技術
文字部消去
下地部JPEG圧縮
解像度変換
サーチャブル
高圧縮PDF
低解像度、高周波除去
により超高圧縮可能
ドキュメント処理技術に基づく PDF *3 変換の概念
露
光
●画像から文字や図形を識別する
●高品位ドキュメントと低容量を両立する
「ドキュメント解析技術」
「高圧縮 PDF 変換技術」
ドキュメント処理技術の最初の処理として、スキャン
「高圧縮 PDF 変換技術」は、ドキュメント解析技
した紙原稿からレイアウトを解析し、文字や図形、イ
術により個別に抽出された文字や画像データを複数の
メージなどをそれぞれオブジェクトとして抽出、基本
レイヤーに分離して、それぞれのレイヤーごとに最適
データを生成する「ドキュメント解析」を行います。さ
な圧縮を行います。これにより、高解像度のままで圧
らに、認識技術により各データに、ベクトル化や画像
縮率をあげることに成功しました。従来、150dpi で
処理、圧縮処理などの必要な処理を加え、高品位なド
約 2MB に圧縮された A4 カラー画像を、この技術で
キュメントの生成を可能にしています。
は 300dpi 相当で約 1/10(200KB)以下に圧縮で
キヤノンでは、特に認識技術の高度化を図っており、
きます。キヤノンはこの技術を世界で最初に複合機に
文字認識に関しては、活字だけではなく手書きの漢字、
搭載し、特にデータ容量の大きなカラー文書画像デー
数字、カタカナ、ひらがな、アルファベット、記号の
タのハンドリング性能を飛躍的に向上させました。
光
学
/
医
療
一部にも対応し、英語や欧州言語のほか、中国語、韓
国語などの多言語化も展開しています。
●どの環境でも精細な文字表示を実現する
「アウトライン PDF 変換技術」
●画像 PDF の文字検索を可能にする
「サーチャブル PDF 変換技術」
基
盤
「高圧縮 PDF 変換技術」をさらに進化させたのが「ア
ウトライン PDF 変換技術」です。従来は、スキャン画
「サーチャブル PDF 変換技術」は、「ドキュメント
像から抽出した文字データ、背景データを合成してい
解析技術」で抽出、認識された文字データをテキスト
ましたが、アウトライン PDF では文字データをベク
レイヤーとして画像に付加することで、PDF ドキュ
トルデータに変換して圧縮し、画像データの再生環境
メント中の文字検索を可能にします。処理速度は、
に依存せずに高精細な文字を表示することを可能とし
A4 用紙で毎分 7.5 枚と高速で、精度も 97.75 %
ました。
(日本語自社評価サンプル)と高精度です。また、日
アウトライン PDF で変換したデータは、Adobe
本語だけでなく英語をはじめ、欧州やアジアの各種言
Illustrator を使用することで、文字やグラフィック
語にも対応しています。
データの再利用が可能で、文書画像の再利用の範囲が
環
境
大きく広がります。
[従来方式のPDF]
[アウトラインPDF]
「アウトライン PDF 変換技術」による、環境に依存しない、なめらかな文字表現
未
来
*3 PDF(Portable Document
Format)
アドビシステムズ社が開発した文
書交換フォーマットで、文書のや
り取りやインターネット上の文書
公開などに広く使われている。
39
ネットワーク複合機
ハード/ソフト両面でセキュア環境を提供する
セキュリティ技術
キヤノンでは、ネットワーク複合機を中核としたオフィスでの情報の流れを「ドキュメントサイクル」ととら
え、紙文書・電子データを問わず、ハードとソフトの両面からトータルなセキュリティを提供しています。
●画像や文書の著作権を保護する「電子透かし技術」
「電子透かし技術」は、写真、イラストなどの画像、
換データに埋め込みます。最後に、逆フーリエ変換*1
DVD などの動画、文書のコンテンツ著作権保護のた
して画像データに戻します。パルス状の信号は逆変換
めに用いられるセキュリティ技術の 1 つです。この
の過程で画像全体に拡散されるため、電子透かしの有
技術では、最初に著作権者の氏名、作成日などの電子
無は外観上からは分かりません。なお、埋め込んだ電
透かし情報をコード化し、次に埋め込み位置を示す
子透かしの情報は埋め込み時の「鍵」情報がないと検
「鍵」情報に従いコード化した透かし情報をデジタル
出できません。
著作物に埋め込むことができます。
さらにキヤノンでは、ノイズに紛れて判別しにくく
埋め込む方法は対象に応じてさまざまです。静止画
なった信号を数学的に処理して復元する「誤り訂正符
像の場合(一例)は、画像データをフーリエ変換*1 に
号化技術」の応用技術も開発。これによりコンテンツ
より周波数変換した変換データをつくり、次にパルス
の一部を不正に削除、書き換えられても、埋め込み情
状の信号にした電子透かし情報を「鍵」情報に従い変
報の復元を可能としました。
オリジナル画像
透かしの埋め込み
電子透かしを埋め込んだ画像
(透かしは視覚的に判断できない)
a
C non
˝ I n c.
˝ Canon Inc.
*1 フーリエ変換と逆フーリエ変換
画像などを解析し、その変化の度
合いを分析、解析した結果を周波
フーリエ変換による
周波数データ化
数に変換するのが、フーリエ変換。
鍵情報の埋めこみ
パルス状の信号挿入
逆フーリエ変換による
画像データ化
逆フーリエ変換は、その逆で、周
波数から画像など元の状態に変換
すること。
電子透かしの概念
●簡単処理で重要情報を守る「地紋技術」
不正な複製を防止するセキュリティ技術として、
すると、小ドットで描画した模様は複写機に読み取ら
「地紋技術」があります。キヤノンは専用紙を使わず、
れずに消え、複写物には大ドットで描画した隠し文字
普通紙に任意で隠し文字を埋め込み、コピー時に隠し
列のみが残るという原理です。特に、大ドットと小
文字が浮き上がる「地紋印刷技術」を開発しました。
ドットの境界部を処理する技術に着目することによ
この技術では、大ドットでコピー後に残る隠し文字
列を、小ドットでコピー後に見えなくなる背景部を描
り、濃度の均一性の向上と、隠し文字列を目立たなく
することを可能としました。
画します。コピー前の地紋は、大ドットと小ドットの
濃度がつりあった均一な背景模様に見えます。コピー
コピー前の地紋
コピー後の地紋
A
小ドット
大ドット
A
コピー
コピー後(複写物)
コピー前
コピーすると隠し文字列が
浮かび上がるように設計
=
>
濃度
潜像部
地紋技術の原理
40
濃度
背景部
潜像部
背景部
ハードの機能を最大限に活用する
ドキュメントソリューション
入
力
キヤノンは、ネットワーク複合機やプロダクション複合機などのハードウエアの開発とともに、一連のソフト
ウェア「imageWARE」の開発も行っています。紙文書を電子文書化して最大限に活用するこれらのソリュー
ションは、オフィスのワークフローの効率化、コストの削減を実現しています。
入力
●ユーザー業務ソリューション
イメージ
データ
○柔軟なシステム構築で最適なソリューションを提案
テキスト
データ
統合化/一元化
imageWARE Business Solution
デバイスのコントロール技術とドキュメントのハン
image WARE Business Solution
ドリング技術をコアにした「ソリューションプラット
管理
セキュリティ
出
力
加工
フォーム」です。さまざまな機能をコンポーネント化
マネジメント
し、効率よくカスタマイズできるためユーザーのニー
検索
閲覧
ズに最適な業務システムを構築できます。
連携
○高品位帳票を中心とした企業向けプリント基盤の提供
imageWARE Form Manager
連携
業務アプリケーション
基幹システム
ビジュアル化/
可視化
キヤノンが独自開発した帳票フォーマット生成技術
を核に、1,000 台以上の大規模な同時プリント、拠
露
光
点でのプリントを完全保証、認証プリントなど企業規
模で利用可能な統合プリントシステムです。
出力
imageWARE Business Solution の構成
○多彩なニーズに応える高効率総合印刷管理システム
imageWARE Prepress Manager
基幹データ(CSV、テキストなど)
imageWARE Print Job Manager
「imageWARE Prepress Manager」は、POD(プ
imageWARE Form Manager
リント・オン・デマンド)市場を対象に、高品位な印
高品位/
高機能帳票
刷物を作成するための支援ソフトウェアです。複数の
異なるソフトウェアで作成した文書データやスキャナ
で読み取ったイメージデータを 1 つのファイルにまと
帳票設計・作成
大量バッチ印刷
ICカード認証印刷
帳票印刷管理
PDF
フレキシブルなシステム構成
め、完成イメージをプレビューしながら編集できます。
「imageWARE Print Job Manager」は、パソコンから
光
学
/
医
療
PDF出力による
保存、送信
imageWARE Form Manager のシステム構成
の遠隔操作で離れた場所のプリンタの稼動状況やジョ
ブの状態を一元的に管理できるシステムを構築します。
DTP
アプリケーション
コンピュータ
JDFパーサー
●デバイス管理ソリューション
○システム管理者のプリント機器管理業務を効率化
imageWARE Enterprise Management Console
PDF/TIFF/
PS/JPEG
JM Hot
Folder
JDF
ドレス帳の配信、プリンタドライバのインストールな
Prepress
Manager
ど、これまで複数のユーティリティで行っていた作業
○機器の使用状況を適正に記録・管理
Print Job
Manager
imagePRESS
Server
JDF
ネットワークに接続されるプリント機器の設定、ア
を一元管理することができます。
基
盤
imagePRESS
C7000VP
imagePRESS
C7000 VP
JDF
JDF Connector
imageWARE Prepress Manager / Print Job Manager の
システム構成
環
境
imageWARE Accounting Manager
プリントやコピーなどの総出力数を部門やユー
ザー、機器ごとに集計・分析します。機器ごとに履歴
を保存、必要に応じて参照できます。
○不正プリント、コピーなど紙媒体経由の情報漏洩を抑止
imageWARE Secure Audit Manager
プリントやコピー、スキャン、ファクスなどのジョ
ブの内容を、画像ログとしてデータベースに保存・管
理することができます。セキュリティの向上に役立ち
画像変換(解像度&フォーマット変換)
OCR画像特徴抽出
サービスプロバイダ
データサーバー
iRエージェント
ログ情報
画像データ
ネットワーク複合機
Printer Driver
Add-in
クライアントPC
Printer Driver
Add-in
Webサーバー
ログ情報
画像/テキストデータ
プリンタ
エージェント
プリントサーバー
ドライバ
エージェント
クライアントPC
Web
サーバー
システム設定/
エージェント管理
検索
(属性・全文・画像)
監査者/ フィルタリング
管理者PC &メール通知
システム
マネージャ
未
来
クライアント
イメージ
サーチサーバー
ます。
imageWARE Secure Audit Manager のシステム構成
41
プロの眼を満足させるデジタルイメージング技術
プロダクション複合機
プロダクション複合機 imagePRESS は、キヤノン初のプロフェッショナル向けカラーオンデマンド機
です。オフセット印刷に匹敵する高画質・高精細を実現するとともに、少部数印刷など必要な時に必要
な部数を印刷する生産性を備え、耐久性・信頼性に優れた、キヤノンの技術が注ぎ込まれています。
レーザーユニット
プロダクション複合機のしくみ
拡散の少ない赤色ツインビームレーザーを
電子写真方式(→ P.14)で印刷。プロフェッショナル向けカラーオンデマンド機に必要な高精度
採用。「1,200dpi × 1,200dpi/256 階調」
での高精細な画像書き込みを実現
レジストレーションや、多彩なメディア対応を可能にする弾性中間転写ベルト、メディア等速を
実現するためのデュアル定着を採用している。
iPRコントローラ(→ P.37)
プロダクション複合機の心臓部。
デュアル CPU とグラフィックエン
ジンを 1 チップ化したシステム
第1定着器・第2定着器
紙に転写されたトナーを 2 つの経路で定着
LSI(→ P.56)、拡張メモリー、
させる機構。第 1 定着は定着ローラーと加
圧ベルト、第 2 定着器は定着・加圧とも
80GB 大容量ハードディスク 2 台
を搭載
ローラー方式を採用
→「デュアル定着」
中間転写ベルト
各色の感光ドラムに形成されたトナー画像をベルト上で合成、紙に転写するための
ベルト。多様な用紙に対応できる「弾性樹脂ベルト」を採用
→「オートレジストレーション」
感光ドラム
紙に画像を形成するため、レーザー光で照射した部分にトナーが付着
印刷画質に匹敵した色再現を実現する
V トナー
プロダクション複合機用にキヤノンが独自開発した
トナーが、「V(Vivid color)トナー」です。これは平均粒
径 5.5 μ m
*1
の微粒子の粉砕トナーで、ワックス成分
ることで、印刷で使われるさまざまな用紙に対するグ
ロスの最適化を行い、均一な光沢感をもたらします。
また、キヤノンは V トナーとともに現像剤*2 を構
や顔料は、微分散技術によって微細で均一に分散され
成する「T キャリア(Tough Carrier)」も新開発し、
ているため、オフセット印刷に匹敵した高い色再現を
相乗効果によって粒状感を抑えたなめらかな画像を実
達成できます。また、トナーの熱溶融特性を向上させ
現しました。
*1 μm (マイクロメートル)
1 μ m は 1m の 100 万分の 1 =
0.001mm。
*2 現像剤
トナーの現像を促進する。プリン
タの中でトナーとキャリアを混ぜ
合わせて使用される。
42
従来
V トナー(拡大イメージ)
現像剤の状況
VトナーとTキャリア
両面印刷時の画像位置精度を高める
オートレジストレーション
印刷物では裁断、製本などの後加工工程があるため
の熱により用紙の実寸が若干縮小しますが、この用紙
用紙上での画像位置に高い精度が必要です。キヤノン
縮小による印刷位置のズレを防ぐために開発されたの
は、オートレジストレーション機構として 3 つの機
が「2 面目縮小描画」です。裏面画像形成時にあらか
能を開発しました。
じめ主走査/副走査方向とも縮小して描画し、表裏面
「アクティブレジ」は、給紙された用紙を斜送コロ
を用いてサイド基準板に突きあてることで、用紙向き
入
力
に印字される画像の大きさが同一になるように制御し
ます。
と印字画像向きを正確に合わせることができます。
「レジパッチ」は、転写時に中間転写ベルト上の画
[機能なし]
[機能あり]
表面 裏面
表面 裏面
出
力
像先端部に印字されるパッチを検知、制御します。用
紙の搬送タイミングを制御するので、用紙の先端/後
端方向の印字位置を正確に合わせることができます。
両面印刷では、
表面印字時、定着器
通過熱で用紙が縮みます
用紙向きを補正
紙の表裏の画像
位置精度が要求
[表面印字]
用紙
A'(裏面)を小さく印字する
ことでA(表面)と同じ
サイズに記録ができます
[裏面印字]
給紙方向
時間経過後、
癒押しサイズが復帰します
されます。裏面
斜送コロ
(2 面目)印刷時
露
光
サイド基準板
には、表面(1 面
目)画像定着時
アクティブレジの概念
2 面目縮小描画の概念
2 つの搬送経路でメディアごとに最適な印刷をする
デュアル定着
プロダクション複合機では、厚紙やコート紙は 2
つの定着器で定着を行うデュアルパスで処理されま
性を確保しながら実現しています。
す。最初に通紙する第 1 定着器は定着ローラーと加
圧ベルトによる定着方式、第 2 定着器は定着・加圧
デュアルパス搬送経路
条件:コート紙、エンボス紙
150g/m2 を越える普通紙
第 2 定着器
*3 用紙種類
商業印刷にはさまざまな紙が利用
ともにローラーによる定着方式を採用。高い光沢感を
生み出します。薄紙や再生紙などは、第 1 定着器の
第 1 定着器
みを通ります。
条件:150g/m2 以下の普通紙
このように、用紙種類*3 によって自動的に搬送経路
されている。表面にコーティング
加工をしたコート紙やアート紙の
他、一般印刷に使われる上質紙や
中質紙、再生紙など。それぞれに
厚紙から薄紙まであり、加工方法
も多種類あって、用紙の種類は多
様である。
バイパス搬送経路
を変えることで、どの紙厚でも 70 枚/分(A4 ヨコ)
光
学
/
医
療
の印刷速度を維持する「メディア等速」を、光沢均一
デュアル定着システム
基
盤
リアルタイムで画像濃度を制御する
新 ARCDAT *4
プロダクション複合機では、大量印刷時の色味を安
さらに、主走査レーザー光量を自動的に制御する
定性して維持するために、独自のリアルタイムキャリ
「デジタル濃度ムラ補正」によっても、濃度均一性は
ブレーションシステム「新 ARCDAT」を独自開発し
ています。
大幅に向上しています。
環
境
パッチ(Y)
これは、感光ドラム上のパッチ濃度を検知して理想
YY
濃度とのズレ分を補正、ハーフトーン領域の濃度を常
M
C
Bk
1枚目
パッチ(M)
に一定に保つ技術です。階調表現の再現のために設定
パッチ(Bk)
されたすべてのスクリーンパターンに対して制御をか
け、常に階調や濃度のズレの絶対値を計測します。こ
Y
M
れにより生産性を落とすことなくリアルタイムでの濃
C
Bk
パッチ(C)
2枚目
1枚目
補正データが反映される(Y、
M)
度保持ができるようになりました。
また、トナー補給状況を常に監視する「ATR
*5
」
Y
M
C
はビデオカウント情報と、現像器、感光ドラムの 2
3枚目
2枚目
1枚目
補正データが反映される(C、
Bk)
箇所のセンサー情報を反映し、機内温湿度の変化に応
じて濃度制御を行います。
Bk
新 ARCDAT 制御概念図
*4 ARCDAT
Automatic and Reciprocal Color
Density Adjustment Technology
の略。
未
来
*5 ATR
Automatic Toner Replenisher の
略。
43
進化を続ける半導体産業を支える最前線テクノロジー
半導体露光装置
高性能化・高機能化と、日々進化する半導体の世界。今やその線幅は、45nm から 32nm へと
進化を続けています。キヤノンの半導体露光装置は、最先端の厳しい要求に対応しながら、一歩
先を見すえた技術開発に注力してきました。これらの技術は、キヤノンの光学技術や制御技術を
けん引する役割も果たしています。
レチクルチェンジャー
半導体露光装置のしくみ
半導体の製造では「露光→現像→処理」の工程を
数十回くり返す。そのため、複数枚のレチクル
半導体露光装置は、シリコンウエハーと呼ばれる基板の上に回路パターンを縮
が格納可能となっている
小投影露光する装置で、数百の工程に及ぶ半導体チップの製造において、特に
重要な役割を担っている。1 枚のウエハー上に数百のチップを逐次移動(ス
テップ)しながら露光するため、ステッパーとも呼ばれる。
レチクル/レチクルステージ
レチクルはウエハーに露光する回路パターンをガラス(石
英)基板に描画した原板。フォトマスクともいう。レチク
ルステージはレチクルを載せて、ウエハーステージと同期
しながら移動する→「ステージ同期制御技術」
ウエハーステージ
ウエハーを載せて、レチクルステージと同期
しながら逐次移動する
→「ステージ同期制御技術」
投影レンズ
最先端の光学技術を結集し、極低収差を実現している
→「液浸露光技術」
照明光源
レチクル上の回路パターンを照明する光源として、可
視光より波長の短い紫外領域の光(i 線ランプ、
KrF/ArF エキシマレーザー)を使用する
光
波長
i線
KrFエキシマレーザー
365nm
248nm
ArFエキシマレーザー
193nm
超純水で微細プロセスを実現する
液浸露光技術
半導体チップの微細化に対応するには、露光装置の
液膜を安定して形成する独自の液膜液浸法を開発、
光源を短波長化するか、投影レンズの開口数(NA )
FPA-7000AS7 は世界最高レベル NA1.35 の反射
を大きくする必要があります。NA はレンズとウエ
屈折型投影レンズを搭載しています。今後に向けて、
ハーの間を満たす媒質の屈折率に比例するため、例え
超純水に代わる高屈折率液体の探査やダブルパターニ
ば空気の代わりに超純水(屈折率 1.44)を利用するこ
ングと呼ばれる新たなプロセス技術の研究など、現行
とで、これまでの限界といわれた NA を 1.44 倍に拡
波長の限界を超えるための研究開発も進めています。
*1
張することができます。この原理を応用して開発され
たのが、液浸露光技術です。
この技術を使うと、現在レンズ光学系で使える最も
波長の短い ArF エキシマレーザー(波長 193nm *2)
*1 NA (Numerical Aperture)
レンズの分解能の指数で、焦点に
集光される光線の最大入射角度の
sin 値に媒質の屈折率を掛けた値。
レンズの明るさと考えてよい。
*2 nm(ナノメートル)
1nm は 1m の 10 億分の 1 =
0.000001mm。
44
純水
純水
回収
投影レンズ
では 65nm が限界とされていた線幅を、さらに微細
供給
化することが可能です。液浸露光技術は、現在の製造
シリコンウエハー
設備を大幅に変更することなく線幅の微細化が可能と
なるため、設備投資などコスト面の負担を低減するこ
ウエハーステージ
とができます。
キヤノンは、投影レンズとウエハーの間に超純水の
超純水を使う液膜液浸方式
半導体の高い良品率と生産性を両立する
ステージ同期制御技術
半導体を支える技術として、線幅の微細化技術とと
す。キヤノンは、FPA-7000 シリーズより 2 つのウ
もに重要なのがステージの同期制御技術です。ステー
エハーステージを搭載、ウエハー表面計測と露光とを
ジの位置決め精度は半導体の良品率に、移動速度は時
それぞれのステージで並行動作させることにより、高
間あたりの生産性に影響します。
精度と高スループットを両立しています。
入
力
スキャンアンドリピート方式*3 の半導体露光装置
両ステージとレンズは除振支持され、リニアモー
は、ウエハーステージとレチクルステージを同期させ
ターで非接触に駆動します。両ステージは 6 軸微動
て連続的に動かしながらウエハー露光を実行します。
ステージ、レンズには多数の自動調整機構が内蔵され、
レチクルとウエハーの両方のス
ウエハー上の正しい位置にフォーカスを合わせて均一
装置の同期制御対象軸は合計で 100 以上。各軸の変
式。ウエハーステージのみが動く
な露光量でレチクルパターンを露光するために、各部
位は、キヤノンの高精度センシング技術によって計測、
の動作は非常に高精度に制御されます。
専用コントローラの制御アルゴリズムによって制御さ
45nm という微細な線幅を実現するには、ウエハー
の平坦度*4 も見逃せません。ウエハーのわずかな凹凸
*3 スキャンアンドリピート方式
テージを動かしながら露光する方
出
力
ステップアンドリピート方式と較
べ焦点深度がとれ、チップサイズ
の大型化に対応が容易といったメ
リットがある。
れます。
両ステージには「駆動反力キャンセル機構」を採用、
に合わせて、1 ショットごとに両ステージとレンズの
逆方向に動くカウンターマスを設け、振動なく加速し
位置を補正しないと、微細な線を露光できないからで
て精密な位置制御を実現します。
*4 ウエハーの平坦度
ウエハー全体のそりだけでなく、1
ショットの範囲(20mm2 くらい)
の数 nm レベルの凹凸も問題にな
る。
トータルな生産性向上を支援する
露
光
露光装置アプリケーションプラットフォーム
半導体露光装置のソフトウェアは、ハードウェア性
現在 FPA-7000 シリーズにはこのプラットフォー
能を最大限引き出すのみならず、トータルな生産性向
ムが適用されており、今後は「レシピサーバー*6」な
上に寄与するという重要な役割を担っています。ソフ
どと連携し、ソリューションシステムへと展開してい
トウェアシステムの核となるアプリケーションプラッ
く予定です。
光
学
/
医
療
トフォームは、複数の CPU/OS をつなぐインフラと、
基本的な制御やデータ管理を支えるプラグイン可能な
フレームワークとで構成され、多様化する半導体メー
カーのニーズに迅速に応えることを可能にしています。
オンラインや GUI、EES
、半導体メーカーの生
*5 EES (Equipment Engineering System)
装置制御システム
装置エンジニアリングシステム。
レシピ
サーバー
セルコントローラ
*5
産管理システム用のインタフェースを共通化しただけ
でなく、それをオープン化したことにより、装置内外
装置エンジニアリング
システム(EES)
コーティング/
現像装置
ウエハー
計測装置
露光装置
各種
アプリケーション
の向上には、露光装置だけでなく
周辺装置との連携が不可欠。デー
タを共有するためのシステムやイ
ンタフェースを備える。
*6 レシピサーバー
からさまざまなデータへのアクセスやきめ細やかな制
アプリケーション
プラットフォーム
御が可能となり、ソリューションの提供を容易にして
ウエハー露光のためのレシピ(制御
情報)を装置毎に作成・編集可能で
基
盤
あり、生産管理システムと連携す
各種アプリケーションの役割
います。
半導体製造における精度や生産性
る。
30nm 以下の次世代半導体を実現する
次世代露光技術
キヤノンでは、将来の技術として、より短波長の光
「EUV *7」を利用する露光装置の研究を進めています。
装置は次世代マスク基板技術開発のパターン転写特性
評価に使用され、優れた成果を得ています。
環
境
EUV は波長が 13.5nm と短いため、レンズを用い
マスクステージ
る屈折光学系を使用できず、超高精度な多層膜ミラー
EUVマスク
で構成する反射光学系を用います。また、EUV は大
照明系
気中を透過しないため、装置全体を真空状態にする装
置技術や、ミラーの超精密加工技術(→ P.63)、ナノ
メートルオーダーの位置決め技術、汚れを防止する環
境制御技術など、さまざまな要素技術開発が必要です。
投影系
キヤノンは、2 枚ミラーの投影光学系を搭載した小
画角のEUV露光装置(SFET )を開発、NEDO(新エ
*8
ネルギー・産業技術総合開発機構)の「次世代半導体材
料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」の実験装置
として Selete(半導体先端テクノロジーズ)に納入。
ウエハーステージ
EUV光源
真空系、
環境制御系
*7 EUV(Extreme Ultra Violet)
極端紫外線。
未
来
*8 SFET(Small Field Exposure Tool)
つくばスーパークリーンルーム産
EUVA ホームページ(http://www.euva.or.jp/)より
EUV 露光装置の投影光学系
学官連携研究棟に設置。世界トッ
プクラスの 26nm(ハーフピッチ)の
解像度を達成している。
45
大画面液晶テレビの製造に欠かせない超大型露光の技術
液晶露光装置
大画面液晶テレビが急速に普及しています。液晶テレビのキーパーツの液晶パネルは、大型ガラス
基板に微細な画素回路を広範囲・高精度に露光する技術でつくられます。キヤノンの液晶露光装置
は、第 8 世代ガラス基板サイズに対応、57 型ワイドテレビの一括露光も可能。キヤノンは、この
装置のトップメーカーとなっています。
液晶露光装置のしくみ
液晶露光装置は、ガラス基板上に微細な画素パターンを転写し、ディスプレイ
やテレビの液晶パネルを製造する装置。キヤノンの液晶露光装置(マスクアラ
イナー)は、独自のミラー投影光学系のミラースキャン方式を採用している。
マスク
光源
ガラス基板に投影する
超高圧水銀ランプ。
画素回路パターンの原板
紫外線領域の 3 波長
(g/h/i 線)を使用
マスクステージ
マスクを載せて、基板ステージと同期しながら
逐次移動するステージ
ミラー投影光学系
台形ミラー、凹面ミラー、凸面ミラーで構成。
継ぎ目のない広い露光幅を確保できる光学系
→「大型凹面ミラー」
ガラス基板
パネル 6 枚または 8 枚分の大きさのガラス基板。
世代によって大きさが違い、現在最大は第 8 世代で
2,200mm × 2,500mm (厚さ 0.7mm)
基板ステージ
ガラス基板を真空吸着して固定、マスクステージと
同期しながら逐次移動するステージ
→「超大型ステージ」
世界最大直径*1 ・高精度のミラーを製造する
大型凹面ミラー
キヤノンの液晶露光装置は、投影光学系にミラーを
域で 3 μ m の解像力が得られています。
用いた「ミラースキャン方式」を採用しています。ミ
ラー投影光学系は、構成がシンプルで基板サイズの拡
大に対応しやすい、広い露光領域を得られる、レンズ
のような色収差がなく像性能が劣化しないなどのメ
*1 世界最大直径 2008年10月現在。
リットがあります。
*2 μm(マイクロメートル)
1 μ m は 1m の 100 万分の 1 =
0.001mm。
すが、投影ミラーも高精度のものが必要となります。
*3 第8世代
ガラス基板の大きさの変遷は、「世
代」で表される。基板が大きいほど
大画面化に対応でき、多面取りに
よって生産性も上がるので、急速
に世代はアップしてきた。現在の
最先端は第 8 世代で、次世代は第
10 世代となる予定。次世代に対応
した装置開発も進められている。
46
液晶露光では数μ m *2 精度でパターン露光をしま
特に凹面ミラーは、大画面を継ぎ目なくワンパスで露
光できる露光幅を確保できる大口径であれば、格段に
生産性が上がります。
キヤノンは、ミラーの超精密加工技術(→ P.63)を
活用、世界最大の直径 1,514mm、表面加工精度
0.015 μ m の第 8 世代*3 超高精度凹面ミラーの開発
に成功しています。この凹面ミラーにより、露光幅全
大口径・高精度の凹面ミラー(直径 1,514mm)
大型基板を秒速 750mm で露光する
超大型ステージ
キヤノンの最新式液晶露光装置は、9(幅)×
達後 0.2 秒で完全停止ときわめて高精度。両ステージ
11.6(奥行)× 5.8(高)m、本体重量が 100t、マスク
の位置制御、速度制御には、レーザー干渉計(→
と基板のステージの可動部はそれぞれ 1t および 4t も
P.61)による位置計測技術が用いられています。
あるというキヤノン最大の製品です。
入
力
この超大型ステージの高性能・高速駆動により、
液晶基板サイズの大型化にともなって基板ステージ
も大型化、可動部重量が増大していきます。重量増加
55 型ワイドパネルで毎時 323 枚の高スループット
が達成されています。
はステージ性能の劣化につながるため、キヤノンは、
比重が小さく剛性の強い材料を
出
力
選定、部品強度を保ちながら軽
量化を図った超大型ステージを
開発しています。
この基板ステージとマスクス
テージは、
それぞれエアベアリン
グ保持されていて、非接触リニ
アモーターで駆動します。比較
的重量の軽いマスクステージ
露
光
が、重量の重い基板ステージを
追いかけることで完全同期する
「マスタースレーブ制御」となっ
ています。基板ステージの駆動
性能は、開始後 0.5 秒で秒速
第 8 世代ガラス基板サイズ対応の液晶露光装置
750mm に達し、停止位置に到
光
学
/
医
療
グループ会社の技術――キヤノンアネルバ株式会社
大型パネルの成膜工程を支える
真空成膜形成技術
真空成膜*4 形成技術は、真空中で薄膜を形成する技
術で、液晶パネル製造では配線工程で「スパッタ成膜
*5
この装置は、急成長する液晶パネル製造現場で、パネ
基
盤
ルコストの低減と生産性向上を同時に達成しています。
方式」が使われています。これは「スパッタリング現
象」による成膜方法で、トランジスタの配線回路に使
われるアルミニウムやモリブデンなどの金属類の薄膜
をガラス基板に形成します。
キヤノンアネルバは創業以来、独自の超高真空技術
*4 真空成膜
通常、物質表面に薄膜(厚さ 1 μ m
以下)を形成するには、「メッキ」ま
たは「真空成膜」で行う。真空中で行
う真空成膜は、膜厚コントロール
がしやすい。真空成膜法には、原
料を熱して蒸着させる「真空蒸着」、
気体原料の化学反応を利用する
「CVD」
、物理反応を利用する「ス
パッタ」がある。
を培い、半導体やストレージデバイス、パネルデバイ
スの成膜装置を製造してきました。液晶パネルの製造
では、ガラス基板の世代アップに合わせて「アネルバ
方式」と呼ばれる基板の縦型搬送システムを開発、従
来の水平搬送による基板のたわみや装置設置面積の問
環
境
題を解決しました。また、スパッタリングを構成する
カソード部も独自の「矩形分割カソード」を開発、同一
の真空室内で 3 種の膜原料(ターゲット)を連続に、基
板 2 枚に同時成膜できるしくみにしています。形成
される膜は、均一な優れた膜質で、ターゲット利用率
も向上しています。
キヤノンアネルバの LCD 用スパッタリング装置
(C-3711 シリーズ)
*5 スパッタ成膜
不活性ガス(Ar:アルゴンなど)が含ま
れる真空中のガラス基板と膜原料
(ターゲット)に電圧をかけると、Ar
がイオン化(Ar+)、ターゲットに向
かって高速移動して衝突、ター
ゲットを構成する原子や分子がは
じき出される(スパッタリング現
象)。はじき出た原子や分子が基板
上に付着し、薄膜が形成される。
未
来
47
光学機器
キヤノンが光学機器メーカーとして培ってきた光学技術は、幅広い領域で活用されています。
高精細液晶プロジェクター、HDTV 放送用ズームレンズやネットワークカメラ、1,000 万光年の
彼方を観測する望遠鏡「すばる」など、高い性能と信頼性が求められる現場で、プロユーザーの要
求に的確に応えています。
小型化と高画質化を両立させた新光学システム
AISYS(Aspectual Illumination System)
*1 映像表示素子
透過型と反射型の液晶パネルがあ
り、透過型は液晶パネルの画素の
液晶プロジェクターの映像表示素子*1 に、キヤノン
「フライアイレンズ*4」も第 3 世代用に新規開発し、簡
は反射型液晶パネル「LCOS(Liquid Crystal On
素なレンズ構成で光を独立コントロールすることに成
Silicon)」を独自開発、内製して搭載しています。
功しています。
LCOS は高精細映像表示に理想的なパネル素子です
AISYS では、光源ランプを発光効率の高い AC
と組み合わせて使用しなければならない
ランプに変更、照明光学系の小型化・低コストを実
映像に格子状のグリッドが映る。
ため、明るさと小型化を実現しようとするとコントラ
現しながら、クラス最高水準の高輝度を達成してい
反射型は駆動回路が液晶素子の背
面にあるため、格子感のないシー
ストが低下するという特性があります。この従来の光
ます。
ムレスな画像が投写できる。
学系の弱点を克服する目的で開発され
内部に駆動回路があるため、投写
*2 PBS
偏光ビームスプリッタ
*3 光もれ
LCOS や PBS は偏光特性があり、
入射角の大きな光では光もれが発
が、PBS
*2
た独自の光学システムが、
「AISYS(エ
イシス)
」です。
AISYS の照明光学系は、光源からの
光束を収束させる際、上下方向と水平
生、コントラストが低下する。
方向を独立に制御します。光束を上下
*4 フライアイレンズ
方向は大きな角度で収束させて輝度を
ハエの眼のように単レンズが縦横
にびっしりと並んだレンズ。
横から見た図 光学系の役割:明るさUP、小型化
ランプ 防爆凸レンズ フライアイレンズ コンデンサレンズ
PBS LCOSパネル
上げ、明るさをアップ、水平方向は小
さな角度で収束させて PBS や LCOS で
発生する光もれ*3 を防止し、コントラ
ストをアップしています。
上から見た図 光学系の役割:コントラストUP
現在、AISYS は第 3 世代に進化、多
数のレンズが 2 次元に並んだ凹面レンズ
AISYS の照明光学系構成
照明光学系
色分離合成系
照明光を RGB の 3 色に分離し、3 つの
LCOS に導き、そして LCOS から反射され
た各色の画像を合成する光学素子
光源ランプの光を偏光し、明るさとコン
トラストの両立を図りながら色分離合成
系に導く。フライアイレンズを使用
光源ランプ
照度むらの少ない AC ランプ
反射型液晶パネル LCOS
格子感のない画像表示素子
投写レンズ
大口径のズームレンズ
AISYS
照明光学系・色分離合成系・ LCOS から構成される
光学システム
液晶プロジェクターの光学システム
48
世界最高峰の放送用ズームレンズに先進の AF 機構を搭載
AF 搭載 100 倍 HDTV ズームレンズ
キヤノンの放送用 TV レンズは、優れた光学性能と
高い信頼性で市場の支持を得ています。世界初の
ジタルサーボシステムも標準搭載されています。
「100 倍 HDTV ズームレンズ」は、その最上位モデル
です。
入
力
フト式光学防振機構や、高精度レンズ操作が可能なデ
最新モデルの DIGISUPER 100AF では、キヤノン
独自の AF 機構を搭載。位相差方式測距センサーの採
このレンズは、新硝材の UD(Ultra-low
用で、フルハイビジョン映像にふさわしい高い合焦精
Dispersion)ガラスや蛍石などの光学素子製造技術
度、高速移動する被写体に焦点を合わせたままの追従、
と、素子特性を最大に発揮する光学設計技術により、
大きく外れたピントからの高速フォーカス合わせなど
実用的なレンズ本体の大きさのまま色収差や像面湾曲
を実現して、プロカメラマンのニーズに応える実用的
などの補正を行うことで 100 倍ズームを実現しまし
なフルタイム AF を可能にしました。
出
力
た。撮影状況に応じて防振特性の切り替えが可能なシ
露
光
カーレース中継での実用例
フォーカス操作に触れず、常時AFで撮影するプロカメラマン
DIGISUPER 100AF の使用例
光
学
/
医
療
遠隔映像をネットワークでモニタリング・録画する
ネットワークカメラ・遠隔録画ソフト
キヤノンのネットワークカメラ VB シリーズは、Web ブラウザや専用ビューワソフトを利用して遠隔映像の表
示やカメラの制御を簡単に行うことができるシステムです。
●高画質・高機能ネットワークカメラ
●ネットワークビデオレコーダソフト
1 秒間に最大 30 フレームの VGA(画素数:
ネットワークカメラの映像をサーバーに録画できる
640 × 480)映像を視聴者に対して発信することが
遠隔モニタリング用ソフトで、1 台の録画サーバーあ
可能なカメラで、高画質撮影、低照度撮影が可能です。
たり同時に最大 64 台まで録画可能です。複数台の録
また、動き検知、画像アップロードなどインテリ
画サーバーを統合して利用することも可能です。また、
ジェント機能を備え、ビューワからカメラの機能を
LAN やインターネットを利用した映像監視システム
自由に遠隔操作できるため、従来の固定カメラとは
のため、広域の防犯システムや工場や店舗のモニタ
まったく違った臨場感のある映像が得られます。さら
リングシステムを構築できます。
に、監視・モニタリングシステムやコミュニティの映
像配信を簡単に構成できます。
伝送に HTTP
ビューワは複数映像表示の自由なレイアウトが可能
環
境
で、直観的な操作感を提供します。ネットワークを介
このシステムでは、カメラ制御の情報や映像情報の
*5
基
盤
して他のシステムとの連携も可能です。
を採用し、インターネット関連ソフ
トウェアとの親和性を高めました。
ビューワPC
ポケットPC
ネットワークカメラ
インターネット
ネットワークカメラのシステム構成例
携帯電話
未
来
*5 HTTP (Hyper Text Transfer
Protocol)
ハイパーテキスト転送プロトコル。
WebサーバーとWebブラウザなど
のコンテンツデータ(HTML など)の
送受信に使われている。
49
光学機器
宇宙の新発見をサポートするキヤノンのレンズ技術
国立天文台ハワイ観測所「すばる望遠鏡」
ハワイ島マウナケア山頂には、世界各国の研究機関の天文台が設置され、世界トップクラスの大型望遠鏡が活
躍しています。その中の 1 つが、日本の国立天文台が運用する大型望遠鏡「すばる」です。
すばる望遠鏡の最大の特長は、口径 8m 以上の光学赤外線望遠鏡の中で唯一、「主焦点」を備えていることです。
この主焦点は、月の直径とほぼ同じ 30 分角の広い視野を観測できる特長をもちます。すばる望遠鏡の主焦点に
設置されている主焦点カメラ*1 の優れた結像性能は、
特に遠くに存在する天体の観測、銀河の誕生・進化や
宇宙の大規模構造の探求などに発揮され、次々とめざ
ましい成果をあげており、すばる望遠鏡は現在、世界
主焦点
可視
カセグレン副鏡
主焦点補正光学系
可視
ナスミス副鏡
中の天文学者から絶大な信頼を得ています。この優れ
ナスミス焦点
(可視)
赤外副鏡
た主焦点の性能を左右する補正光学系に、キヤノンの
レンズ技術が活用されています。
1999 年のファーストライト以来、すばる望遠鏡は
天文学の進歩に寄与してきました。さらに広視野の次
主鏡
ナスミス焦点 (赤外)
第三鏡 (可視/赤外切換)
世代主焦点カメラの開発も計画されています。今後も
すばる望遠鏡は天文学の発展に欠かせない存在とな
カセグレン焦点
り、現在天文学の最大の課題とされている「ダークエ
ネルギー*2」の解明や、銀河系の生い立ちの究明に役
立っていくでしょう。
すばる望遠鏡の全体構造
●すばる望遠鏡主焦点補正光学系
●鏡面検査装置
主焦点は、カセグレン焦点などに比べて焦点距離が
すばる望遠鏡は、主鏡(口径 8.2m の一枚鏡)で反射
短いため、広い視野角で明るい像を得ることができま
した光を、各焦点(主焦点、カセグレン焦点、ナスミ
す。しかし従来の設計では、主焦点に必要な補正光学
ス焦点)で結ぶ反射型望遠鏡です。主鏡はその重量に
系が大きくなりすぎるため、大型望遠鏡には主焦点を
より変形することがありますが、主鏡の変形は観測精
設置できませんでした。キヤノンは、従来比で大きさ
度に大きく影響します。そこで、すばる望遠鏡は主鏡
で約 70 %以上、重さで約 50 %以上を削減した高性
の変形を調整する装置として「シャックハルトマン鏡
能のレンズユニットを開発、搭載を可能にしました。
面検査装置」を備えており、キヤノンはこの装置の開
このレンズユニットは 5 群 7 枚構成で総重量
発にも大きく貢献しました。
170kg、見える範囲の面積はカセグレン焦点(視野
角 6 分角)に比べて 25 倍の広さです。
さらにこのレンズユニットは、「大気分散現象*3」
この装置は、各焦点に結ぶ光束をミラーで取り出し、
コリメータレンズで平行光にして、マイクロレンズア
レイに入射させます。そして、マイクロレンズそれぞ
を高い精度で補正します。これは屈折率が同じで波長
れの結像を CCD で取り込み、主鏡面を制御するしく
分散特性の異なる材料を使った 2 枚のレンズを使い、
みです。この装置の高分解能も、すばる望遠鏡の安定
このレンズを光軸に直角にシフトして大気分散を補正
した観測性能に大きく貢献しています。
するというキヤノン独自のシステムで、ユニット全体
の軽量化に大きく貢献しています。
*1 (すばる望遠鏡)主焦点カメラ
「Suprime-Cam(スプリームカム)」
の愛称がある。約 8000 万画素の
デジタルカメラに相当する CCD
カメラ。
*2 ダークエネルギー
宇宙の実態の約 96 %は未解明で、
約 73 %のダークエネルギー(暗黒
エネルギー)と約 23 %のダークマ
ター(暗黒物質)で構成される。
ダークエネルギーの正体解明は 21
世紀の宇宙物理学の最大の課題。
すばる望遠鏡で得られる銀河のデー
タから解明される可能性がある。
マイクロレンズ
アレイ
CCD
コリメータ
レンズ
主鏡焦点
大気分散補正系
レンズ
非球面レンズ
シフトして
大気分散を補正
主鏡が変形すると
結像位置がずれる
正規の光路
主鏡が変形しているときの光路(黄色)
変形した主鏡面(点線)
主鏡
*3 大気分散現象
星の光が地球大気圏に入るときに、
波長による屈折率の違いが原因で
光がにじんで見える現象。
50
アクチュエータ
主焦点補正光学系のしくみ
シャックハルトマン鏡面検査装置のイメージ
医療機器
キヤノンは、独自の光学技術とデジタルイメージング技術を活かし、医療のデジタル化やネット
ワーク化に対応した機器を提供してきました。
診断時の負担の少ない X 線デジタル撮影装置や眼科機器は、確実に医療業界に浸透しています。
入
力
X 線撮影診断を確実にサポートする
X 線イメージセンサー
医療診断に欠かせないX線撮影は、デジタル化・オン
開発にあたってはノイズの低減が大きな課題でした
ライン化が進んでいます。キヤノンの X 線イメージセン
が、キヤノンは専用 IC、信号処理回路、電源などを独
サー「LANMIT *4(Large Area New MIS Sensor
自で開発。ノイズの少ない、有効撮影範囲 43 ×
and TFT)
」を搭載した CXDI シリーズは、低線量で
43cm、720 万画素の大画面イメージセンサーを実
高画質の医用データを得られるデジタルラジオグラ
現しました。
フィ機器です。
出
力
読み取られた X 線画像は、わずか 3 秒でモニター
LANMIT は、蛍光体を光センサー上に積層した平
表示されます。システムは、汎用インタフェースを採
面構造で、蛍光体層とアモルファスシリコンなどの 5
用、最新の医用情報通信規格に対応したコントロール
層構造の光センサーからなります。人体を透過した X
ソフトウエアを装備しているため、撮影画像は院内の
線を蛍光体層で可視光線へと変換し、光センサーが直
ネットワークを利用して情報共有や病院外への転送し
接読み取ります。蛍光体には、光変換効率が高いヨウ
て活用することが可能です。遠隔地医療や緊急医療の
化セシウム(CsI)を採用することで、必要 X 線照射
現場で威力を発揮しています。
露
光
量の低減と画像の高精細化を両立しています。
上部電極
X線
n型アモルファス
シリコン
アモルファス
シリコン
蛍光体
シリコン窒化膜
カバー CFRP
衝撃吸収シート
アルミシート
光
学
/
医
療
蛍光板
アレイ基板
*4 LANMIT
キヤノンは1993年に研究開発を開
ガラス基板
絶縁体 下部電極
ポータブルタイプ CXDI-50C の構造
LANMIT 断面図のイメージ
始、1998年にはLANMITを搭載し
た世界初の X 線デジタル撮影装置
(CXDIシリーズ)を発売した。
眼圧をフルオートで高精度測定する
フルオート非接触眼圧計
眼科治療で必要な「眼圧 」の測定は、角膜の圧力
*5
基
盤
これらの技術を搭載した「フルオート非接触眼圧計
を測定して実施されます。測定には「非接触眼圧計」
TX-F」は、簡単な操作で安全かつ正確に眼圧測定が
が使われ、これは対物レンズの中心に埋め込まれた空
行えます。眼科病院以外にも人間ドックや生活習慣病
気噴射ノズルを被検眼に近接させ、角膜の中心に空気
検診などで導入が進んでいます。
を吹き付けて計測するしくみです。従来の手動操作の
機器は、眼の動きを追従するため正確なアライメント
操作が難しく、検査者の熟練が必要でした。
環
境
キヤノンは、この眼圧測定操作をフルオート化する
ため、次のような技術を開発しました。
1. 広い範囲から被検眼を検出する安全でスピーディ
なラフオートアライメント駆動技術
2. 動きやすい被検眼でも被検眼角膜頂点の位置を
対物レンズ
空気噴射ノズル
正確、かつ敏速に検出するファインオートアライ
メント駆動技術
未
来
3. 被検眼に空気噴射ノズルが近接しすぎないように
制御する安全駆動制御技術
4. 測定部(対物レンズ)をスムーズに移動させる
3 次元駆動技術
非接触眼圧計 TX-F の患者側外観および空気噴射ノズル部拡大図
*5 眼圧
眼球内の眼内液の圧力のこと。眼
圧異常でおこる病気に「緑内障」
があり、失明原因の上位を占めて
いる。
51
プラットフォーム技術
進展するネットワーク環境の変化とともに IT 技術の高度化がますます加速しています。キヤノンは
そのスピードに対応できるよう、IT 技術を要素技術別に構造化し、技術の共有化を図る「プラット
フォーム技術」の向上を図っています。最新のデジタル技術を様々な製品で共通利用することで、
製品開発のスピードアップと品質向上を実現しています。
機器統一高画質カラーを実現する
カラーマネジメントシステム技術
個々の入出力機器は再現可能な色範囲(色域))がそれぞれ異なるため、ディスプレイやプリンタで出力した
色味が、元々の入力画像の色味と異なってしまう、という問題がありました。
キヤノンでは、入出力機器において高画質かつ統一性のある色味を再現するための活動を進めてきました。永
年蓄積してきた画像計測・評価技術、画像処理技術をもとに、オリジナルを正確に再現する色や、人が「好まし
い」と感じる色の数値化を行い、目標色を「キヤノン統一高画質カラー」色設計指針として設定しました。また、
それらを実現するための設計・評価ツール群を開発し、統合画像設計環境を構築しました。これらは現在、ほぼ
全ジャンルのキヤノンのイメージング機器に搭載されています。
また「キヤノン統一高画質カラー」をさらに発展させ、色の「見え方」に大きくかかわる照明や紙の特性なども
考慮し、色差が少ない、より正確なカラーマッチングを実現する高精度カラーマネジメントシステム(CMS))
技術「Kyuanos」を開発しました。
●高精度カラーマネージメントシステム技術 「Kyuanos」
正確なカラーマッチングの実現には、入出力機器や
ディスプレイ(sRGB)
紙の組み合わせごとにプロファイル(色設計データ)が
必要になります。従来、このプロファイル作成には膨
大な人手と時間を費やしていました。
「Kyuanos」で
は自動プロファイル作成が可能となるなため、プロ
フェッショナルの要求精度に対応した高精度カラー
マッチングが容易に実現できます。
レーザビームプリンタ
近年、各入出力機器の色再現範囲が拡大したことで、
従来の標準色空間(sRGB)やビット長(8 ビット)では
正確な色表現が困難になっています。そこで
「Kyuanos」では、従来の制限を受けずに各機器の色
インクジェットプリンタ
機器による色再現の違い
表現能力を最大限に引き出す方法として、拡張色空間
や多ビット化(16 ビット、32 ビット)などに対応し、
鮮やかで階調性に優れた色再現を実現しています。
また、
「Kyuanos」のもう一つの特徴は、異なる照
明環境への対応です。
「Kyuanos」では、色に対する
人間の視覚特性、画像の「見えかた」に大きく影響す
る照明発光特性(蛍光灯下であるか白熱電球下である
かなど)や機器の色表現特性など、それぞれのデータ
を数値化しています。それらのデータを用いて画像変
[Kyuanosなし] 同じ色のポスターでも、異なる環境光の下では異なる色に見える。
換することにより、異なった照明環境下でも、「色の
見えの一致」を可能にしました。
[Kyuanosによる環境光補正効果] 異なる環境光の下でも、同じ色に見える。
Kyuanos による見え方の違い
52
デジタル機器のコネクティビティを実現する
通信ネットワーク技術
入
力
キヤノンでは、プリンタやデジタルカメラなどの入出力機器を簡単にネットワークに接続し、「いつでも、どこ
でも」利用できる環境を提供するため、通信技術の開発に取り組んでいます。
サービス・サーバ
オフィス
モバイル
接続からサービス実行までの自動化とその標準技術(例:LAN接続)
自動接続(簡単設定)
LAN
ネットワーク接続(IPv6など)
高速無線通信技術
出
力
インターネット
サービス探索(DLNA/UPnPなど)
LAN
LAN
サービス接続
機器自動接続技術
サービス間の調停
家庭
サービス実行(Webサービスなど)
ホームオフィス
高速無線接続技術と機器自動接続技術のイメージ例
露
光
●高速無線通信技術
高速無線通信技術は機器を「いつでも、どこで
●機器自動接続技術
「接続自動化」の技術には、DLNA *1 やディレク
も」利用できる高速無線通信の環境を実現します。
トリサービス*2 などに代表される規格があります。し
キヤノンは、標準無線技術の Bluetooth や無線 LAN
かし、これらの規格同士での互換性がないことが多く、
(IEEE802.11b/g/a/n など)
、WirelessUSB など、
統合する規格は標準化されていません。規格が異なれ
カメラやプリンタなどの製品への組込みに特化して通
ば通信はできませんが、たとえ同じ規格の機器同士で
信パフォーマンスの向上を図ってきました。この技術
も、実際には、広域ネットワークを介した接続では自
は共通プラットフォーム化され、キヤノンの各製品に
動接続が困難となっています。
最適化されたうえで搭載されています。
光
学
/
医
療
あらゆる機器間における自由なネットワーク接続が
また、次世代高速無線通信技術の開発や、より簡単
期待されている反面、インターネットには既に複数の
で、かつセキュアな無線接続を実現するミドルウェア
異なる通信規格が存在しているため、ユーザーは複数
群の開発、無線技術の標準化にも取り組んでいます。
の規格ごとに異なる通信ソフトウェアを用意したり設
定を変更する不便さを強いられているのが現実です。
●高速映像通信技術
キヤノンでは、入力から出力までさまざまな機器を
ネットワーク接続された機器間で映像通信を行う場
開発し、機器同士のシステム化を進めています。その
合、刻々と変化する信号や通信の品質を制御する技術
ため、キヤノンではユーザーの不便さを早急に解決す
が必要となります。キヤノンの高速映像通信技術は、
ることを目的として、接続の規格が異なる機器間およ
ハイビジョン映像と高品位なオーディオ信号のネット
び広域ネットワーク上でも自動接続するというソフト
ワーク化を実現、高精細映像の品質を保持したまま高
ウェアの開発に取り組んでいます。また、日々進化す
速伝送できる技術となっています。
るネットワーク技術の動向を把握し、次世代を見すえ
さらに、この技術を利用し、ネットワークを利用した、
た開発を行っています。
基
盤
臨場感ある遠隔地間でのコミュニケーションを実現す
環
境
る「遠隔地間コミュニケーション技術」の開発も行って
います。
*1 DLNA (Digital Living Network Alliance)
家電、モバイル、PC などの間で
データを相互にやり取りするため
の標準化を推進する団体、および
ガイドライン。
未
来
*2 ディレクトリサービス
ネットワークに接続された機器の
位置情報などを管理、検索できる
ネットワーク管理のシステム。
53
プラットフォーム技術
データの論理的互換を進める
XML 技術
異なる情報システム間で、構造化された文書やデータの共有を、容易にするためのデータの論理互換を実現す
るフォーマットとして利用されているマークアップ言語*1 である XML は、地上波デジタル放送のデータや国土
地理院の地図データなど、近年さらに身近な存在となってきています。キヤノンでは、XML の課題である製品に
おける処理パフォーマンス向上を実現しながら、先を見すえた XML 技術の開発を行っています。
●バイナリ XML 技術
*1 マークアップ言語
「タグ」という特定の文字列を埋め
込んで文書やデータの意味・構造
を記述する。他に、HTML や
SGML などがあり、XML は
SGML から派生。
*2 W3C
The World Wide Web Consortium
の略で、WWW で利用される技術
の標準化をすすめる団体のこと。
*3 Webアプリケーション
Web の機能を利用したアプリケー
ション。ユーザーがリクエストす
● Atom プロトコル連携技術
テキスト形式の XML をコンピュータが直接理解で
地図サービスや写真共有サービスなど多くのサービ
きるバイナリ形式で表現する技術です。XML を小型
スが Web アプリケーション*3 として提供されるよう
製品で扱うためには、XML のデータサイズ 1/5 以下、
になってきました。Web アプリケーションでは
処理パフォーマンス 5 倍以上を実現するバイナリ化
Atom プロトコルと呼ばれる Web 標準インタフェー
が不可欠です。しかし、バイナリ化の方式は各メー
スを用いてコンテンツの送受信がおこなわれます。
カーによって異なるため、XML のメリットである相
互運用性が失われてしまいます。
キヤノンでは、複合機やデジタルカメラなどの製品
がこの Atom プロトコルを使って、Web アプリケー
キヤノンは、今後普及が見込まれる W3C *2 標準の
ションと直接コミュニケーションできるようにするた
バイナリ XML 仕様の策定を推進しています。また、
めのソフトウェアを開発しています。今後はさらに電
2D グラフィック記述言語などで使われる XML デー
子署名や暗号化、ユーザー認証などのセキュリティ機
タに最適化された構造パターンの圧縮方式やエンコー
能の XML 対応を進めながら、機器とインターネット
ディング方式を独自開発し、キヤノンのイメージング
の融合サービスを促進していきます。
機器が最高の XML 処理性能を発揮できるよう実用化
を進めています。
ると、サーバがコンテンツを生成
して提供するしくみを提供する。
Microsoft
XPS
Microsoft
Open XML*4
Adobe
Mars
Microsoft OPC
*4 Open XML (Office Open
XML)
Microsoft 社の Office 2007 のデ
フォルトフォーマットとして導入
Oasis
ODF
Adobe UCF
ZIP (標準)
XML(標準)
された XML ベースのフォーマッ
ト。仕様はISO国際標準化されてい
る。
対応予定の XML オープンドキュメントの標準技術
単語の類似性と意図を推測して文書を検索する
文書概念検索技術
電子化された文書が急増すると、検索の必要性が高ま
るだけでなく、検索する側の要求も多様化してきます。
キヤノンは、単語と単語の関係や類似度を判定する
「キーリレーション検索」技術と、業界初となる単語の
概念(多次元意味属性)を判断する「概念ベクトル検
キーリレーション検索
概念ベクトル検索
単語間の関係が類似している
文書を抽出
検索質問文と検索対象文書
の単語をそれぞれ医療、コ
ンピュータ…などの分野に
分類し、その関係が類似し
ている文書を抽出
索*5」技術を開発しました。これらの技術は、ネット
ワーク複合機対応のソフトウェア「imageWARE
検索質問文
学生
による
講義
Document Manager」に実装され、多様化する文書
検索のニーズに応えています。この 2 つの技術を統
検索結果
抽出
合したシステム「文書概念検索技術」では、検索対象の
学生が講義する
授業を開始した
特徴に応じて技術を使い分けています。
文書概念検索技術は、検索質問文を指定すると、質
*5 概念ベクトル
ベクトルとは大きさ・方向をもっ
た量(方向量)のこと。この場合は単
語の概念を数量化、特徴をとらえ
てベクトルで表現、ベクトルの類
似によって統合的に文書の概念の
類似を判断する。
54
他人のコンピュータに
入り込み、相手のプロ
グラムを破壊するワー
ムと呼ばれる自己増殖
プログラムによる被害
が…
同じ単語は存在しないが、
内容は類似
問文に含まれる単語の“類似性”に基づいて意図を推
測し、同様の概念を含む文書を探し出します。この技
ウイルス定義ファイル
を用いたメール送受信
におけるファイル感染
型ウイルスの検出
非抽出
術を使うと、同一の単語(共通単語)が含まれていな
学生の講義出席率は
前期55%、後期62%
であった
くても、概念的に近似の文書を探し出すことができ、
学生による講義ではない
インフルエンザウイル
スがこの冬猛威をふる
うことが予測されてい
る。昨年インフルエン
ザの治療薬不足による
…
的確な文書を入手する可能性が飛躍的に高まります。
検索したい内容に、
より正確に一致した内容を
検索可能
文書概念検索結果のイメージ例
共通単語の数に関係なく、
内容全体が類似した文書を
検索可能
指定した画像から、類似した画像・シーンを検索する
画像検索技術
入
力
デジタルカメラやデジタルビデオカメラの普及にともない、静止画や動画を撮影・保存する機会やインター
ネットを通じたやり取り、データベースの利用が増えてきました。キヤノンの画像検索技術は、キーワードなし
で直感的にイメージ検索できるため、大量データをすばやく的確に検索できます。
●類似画像検索技術
画像データベースの中から似ている画像を検索する
動画データ
技術です。検索したい静止画像を 1 つ選び、
「色味」
「パターンの規則性」
「構図」の 3 要素の重要度を指定
出
力
して検索することで、選んだ画像と拡大/縮小関係に
ある画像や、撮影角度に変化のある画像も検索されま
す。一覧表示された検索結果を絞り込むことで、すば
やく目的の画像にたどり着くことができます。
検索したい画像
この技術は、情報漏洩対策としてネットワーク複合
機対応のソフトウェア「imageWARE Secure Audit
類似比較
Manager」(→ P.41)にも応用されています。プリン
ト、コピー、ファクスを行ったユーザー情報と画像の
露
光
特徴から画像情報の漏洩者チェックが可能です。
●動画類似画像検索技術
静止画データ
検索結果
類似画像検索技術を発展させ、動きの激しいシーン
であっても適正な数だけ切れ目を検出、代表するキー
フレームを自動的に生成します。検索の元となる静止
画像を選ぶと、類似したシーンのキーフレームを検索、
いシーンをピンポイントで探すことが可能です。
光
学
/
医
療
画像表示/シーン再生
結果を一覧表示するので、膨大なデータの中から観た
静止画・動画の類似画像検索技術の概念
リッチで直感的な使用感を提供する
ユーザーインタフェース(UI)プラットフォーム技術
機器の操作性を高める UI 技術は、機器の機能や性能を引き出し、製品の差別化に重要な役割を果たします。
キヤノンでは製品の高機能化、多機能化にともない、先進的で使いやすい UI を実現する技術を開発し、製品競
争力に結び付けています。また、これらを効率的に設計する環境も構築、製品開発のスピードアップを進めてい
基
盤
ます。
● SVG UI 技術
人に優しい製品の操作性の実現をめざしています。
SVG *6 はベクター形式のグラフィックフォーマッ
キヤノンの音声認識エンジンは、あらかじめユーザー
トです。キヤノンでは、SVG を利用し、より美しく、
の声を登録しなくても高精度に音声を認識できます。
より使いやすいグラフィカル・ユーザーインタフェー
ノイズに強いという特徴ももち、業界トップレベルの
ス(GUI)の実現をめざしています。
音声認識率を実現しています。また、テキストを音声
SVGは、図形や文字の描画ができるだけでなく、図
に変換するキヤノンの音声合成エンジンは、製品組込
形にぼかしや影を加えるフィルタ機能や、図形の位置
み分野では業界最高レベルの自然で明瞭な合成音声を
や色を時間とともに変化させるアニメーション機能を
実現しています。これらキヤノンの音声認識・合成
備えています。キヤノンでは、このような特徴を生か
エンジンは、ネットワーク複合機などで利用されて
して、アニメーションを利用した視覚効果やディスプ
います。
レイサイズによらないスケーラブル表示など、表現力
に富んだ次世代UI の技術開発を行っています。
ユーザー:
「片面から両面」
コピー機:
「片面から両面」
(VoiceMaster)
(PureTalk)
●音声 UI 技術
UI 技術としては、音声の活用も盛んになっています。
キヤノンでは、ユーザーの声による自動操作や音声ガ
イダンスに従って製品を操作する環境を提供し、より
音声認識/音声ガイダンスによるコピー操作
環
境
*6 SVG (Scalable Vector
Graphics)
ドットの集合体として描画する GIF
やJPEGなどの「ラスター形式」とは
異なる「ベクターグラフィック形式」
のフォーマットで、ベジェ曲線や
矩形などの数学的な記述を XML
ベースのマークアップ言語で表現
する。拡大縮小をしても画質が劣
化しない。また、マークアップの
記述を一部書き換えることにより、
図形の色や形状を容易に変更する
こともできる。
未
来
55
プラットフォーム技術
機器組込み用、内製リアルタイム OS
DRYOS
キヤノンは、小型機器用への組込み用のリアルタイ
また、ファイルシステムやネットワーク機器などの
として、「DRYOS」を独自開発しました。
ミドルウェア、USB などに対応するデバイスドライ
DRYOS は、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ
バも開発され、多様化するデジタル製品のニーズに応
をはじめとした、キヤノン機器に採用されています。
えています。このような基本ソフトウェア群を自社開
DRYOS の核となるモジュール(カーネル*2 モジュー
発することにより、ソフトウェアモジュールの再利用
ル)は、機器のさまざまなニーズやハードウェア資源
や共有利用を促進し、製品の高性能化、高機能化にス
に応じて、最小 16KB から柔軟に構成できるように
ピーディに対応しています。
ム OS
*1
なっています。現在、10 種以上の組み込み向け
CPU に対応していますが、PC 上で動作する OS シ
ミュレータもサポートし、実機を使わない製品開発が
可能となっています。
各種ミドルウェア
*1 リアルタイムOS
ユーティリティ
ミドルウェア
処理をリアルタイムで実行する
OS。機器に組み込まれて使用され
ファイルシステム
FAT/exFAT
ネットワーク
IPv6/IPsec
ることが多い。
*2 カーネル
OSの中核部分。CPU、メモリ、周
辺デバイスなどのシステムリソー
POSIX I/F
μITRON4.0
カーネル
カーネル
OSシミュレータ
スを管理し、ソフトウェアとハー
ドウェアを効率よく実行するため
の基本機能を提供する。
DRYOS のモジュール階層構造
大規模なシステム LSI を効率よく開発する
システム LSI 統合設計環境
キヤノンは、製品に必要なハード・ソフトのシステム全体を 1 チップに搭載した「システム LSI
」を自社開発
*3
しています。このシステム LSI はわずか数ミリ∼数センチ四方の小さなチップですが、内部に非常に大規模なシ
ステムが実装されており、製品の機能を左右する重要な部品です。キヤノンは、システム LSI の自社開発を他社
に先駆けて 1990 年代から取り組み、DIGIC(→ P.23)や iR コントローラ(→ P.37)、L-COA(→ P.32)などを各
製品向けに開発、製品の小型化と高機能化を実現しました。
複数機能を集約した LSI の開発には、多数の技術者との協調や効率的な開発環境が必要です。キヤノンは高効
率な「システム LSI 統合設計環境」を独自開発、仕様検討から物理設計まで全工程を総合的に行っています。
●設計支援環境
●プロジェクト管理環境
LSI の設計支援としは、独自開発の設計支援ツール
プロジェクト管理環境では、設計者やプロジェクト
「MayDay」を開発しました。MayDay は理解しやす
リーダーなどを対象としています。
「障害管理」では、
い Web ベースのツールで、数百名規模のチーム各人
開発フローとリンクしながら各プロジェクトでバグの
の意思疎通と作業進捗をサポートします。また、
情報を共有、複合的な条件検索と追跡ができます。
MayDay を構成する「コンピュートファーム」では
「IP *4 サポートシステム」では、複数の製品で共有で
多数の CPU やツールのライセンスを管理、要求に応
きる機能をプログラム(IP コア)としてデータベー
じて最適な計算サーバーとライセンスを提供、ツール
スに登録、IP コアの再利用を促進することでサポー
を自動実行します。
「構成管理」では、コンパイルや
ト工数を低減し、開発期間を短縮します。
シミュレーションに必要なファイルとディ
レクトリ全体の成果物を管理、設計資産を
*3 システムLSI
CPU、メモリ、専用LSIなどで実現
していた機能を1個のチップ上に集
積した大規模集積回路のこと。シ
ステムLSIでは、複数のチップを使
用する場合のような配線が必要な
くなるので動作が高速化する。ま
た、1チップなので基板上の専有面
積が小さくなり、基板の小型化、
機器の小型化もできるようになる。
*4 IP
Intellectual Propertyの略。
56
容易に再利用できます。
(設計支援環境)
MayDay
MayDay
WEB
GUI
コンピュート
ファーム
共有データベース
設計DB
構成管理
プロジェクト管理環境
統計DB
障害管理
IP サポートシステム
システム LSI 開発の全体像
管理DB
機器の動作メカニズムを解析する
インプロセス可視化技術
入
力
インプロセス可視化技術とは、製品の動作プロセスを直接観察(光学観察)し、製品の動作メカニズムを明確に
する技術です。この技術はキヤノン製品のトナーの現像・定着プロセスやインクの吐出プロセスの解明に役立て
られ、製品設計や技術革新に貢献してきました。
LBP や複写機のトナー 1 個の直径は数μ m *5、インクジェットプリンタのインク液滴は 1 滴 1pl *6 と極めて
微細であると同時に、非常に高速な運動であるため、その現象を正確にとらえるのは極めて困難です。また、い
ずれも製品内部の非常に奥深くて狭い部分で生じる現象であるため、覗くことすら難しいのです。サンプルや装
置の製作、超高速度カメラでの撮影、画像解析など、現象観察には高度な技術が応用されています。
●トナーの現像プロセスの可視化
出
力
●トナーの定着プロセスの可視化
トナーが感光ドラムに向かって飛ぶ様子の可視化技
定着部材によるトナー溶融→広がり→再固化を観察
術。わずかなすき間を飛ぶトナーの動きと規則性を分
装置でとらえます。温度、圧力、変位を測定した力学
析、機構配置や最適制御電圧などを解明しています。
的なデータと統合してシミュレーション、定着機構の
部材開発やトナーの特性解明に役立てています。
ライト
感光ドラム
帯電ローラー
現像ローラー
●インク液滴吐出プロセスの可視化
インク液滴吐出プロセスは、吐出から紙へ着地する
まで 1 万分の 1 秒以下と超高速のため、キヤノンは
露
光
光の波長に迫る空間分解能と 100 万分の 1 秒レベル
の時間分解能の解析技術を開発しています。
ライト
感光ドラム側
現像ローラー側
高感度カメラ
*5 μm (マイクロメートル)
1μmは1mの100万分の1。
光
学
/
医
療
トナーの現像プロセスの可視化
トナー現像プロセスのインプロセス可視化技術の概念図
感光ドラムに向かって飛ぶトナーの様子を可視化
*6 pl (ピコリットル)
1plは1リットルの1兆分の1。
現象を分析して製品性能を予測する
シミュレーション技術
製品開発段階で、製品内で起きる現象を分析したり、製品の性能を予測するシミュレーション技術は、技術研
究や新製品開発期間の短縮に役立っています。
●電子写真プロセスのシミュレーション
LBP や複写機の電子写真プロセスは、帯電、露光、
基
盤
●プリントヘッドのシミュレーション
インクジェットプリンタのプリントヘッドの開発で
潜像、現像、転写、定着、クリーニングのプロセスで
は、良好なインク液滴吐出状態を作るためにノズルの
画像を形成します。画像形成に重要なこのそれぞれの
構造の設計がきわめて重要になります。キヤノンでは、
プロセスは、いずれも複合的かつ複雑な現象で、計算
インク液滴の吐出現象を計算するシミュレーションプ
による予測は今まで困難でした。
ログラムを開発、ノズルの構造と駆動条件から吐出詳
キヤノンでは電子写真プロセスのシミュレーション
細挙動を予測することに成功しています。ヘッドを試
技術を独自に開発し、新たな技術の研究や新製品開発
作する前に、ノズル構造と吐出状態の関係を把握する
の効率化につなげています。
ことで、高性能のヘッドを短期間で開発することが可
環
境
能となりました。
未
来
複写機における転写プロセスのシミュレーション例
インク液滴吐出状態のシミュレーション例
57
デバイス技術
キヤノンのデバイス技術は、製品の魅力を引き出すキーデバイスをつくり出しています。
特に CMOS センサーはキヤノンの誇るキーデバイスで、デジタルカメラの高画質化に大きく貢献してき
ました。キヤノンは最先端の光学技術、電子回路技術、超精密加工技術を融合し、数々のデバイスを内製
化しています。
また産業用コンポーネントとして、自社・他社の研究機関や生産現場で活躍しているデバイスもあります。
技術の積み重ねで、多画素化・高速化・高画質化を実現
CMOS センサー
キヤノンのデジタル一眼レフカメラやデジタルビデオカメラの撮像素子には、CMOS センサーが使われてい
ます(→ P.25)。CMOS センサーは光センサーにより構成された画素が平面上にびっしりと並んだもので、各画
素に蓄積された光量を並列に読み出します。
デジタルカメラの撮像素子には CCD センサー*1 も利用されますが、CMOS センサーは並列読み出しのため、
高速化できるメリットがあります。デメリットとしては 1 画素ごとに画素アンプやメモリー、スイッチがつく
り込まれているため、ノイズがのりやすい(画質が劣化しやすい)ことがあります。
キヤノンは、デジタルカメラの多画素化や高速化のためには CMOS センサー技術の確立が必要であると考え、
最先端の光学技術、電子回路技術、超精密加工技術を結集、製造プロセスや回路設計を磨きながら、低ノイズ
で高画質の CMOS センサーの量産を成功させました。現在、キヤノンの CMOS センサー技術は、5000 万画
素を超える次世代素子をつくり出すまでに成長し、他社の追随をゆるさないコア・コンピタンシー技術の 1 つ
となっています。
フォトダイオードポテンシャル設計技術
フォトダイオード
ゲート
光利用技術
e e
マイクロレンズ
カラーフィルタ
*1 CCDセンサー
光センサーに蓄積された電荷をバ
ケツリレーのように転送する「電
荷転送方式」になっている。構造
光量アップを図るレンズとフィルタの改善
ノイズ源
は光センサー、転送ゲート、フォ
トダイオードと単純で、比較的簡
単に高画質が得られるが、データ
の読み出し速度が遅い。
光電荷
理想的な蓄積構造をシミュレーション
CMOS センサーの断面模式図
●受光素子技術
・光利用技術
*2 μm(マイクロメートル)
1 μ m は 1m の 100 万分の 1 =
0.001mm。
*3 カラーフィルタ
光はカラーフィルタでRGB(赤、緑、
青)に分けられてデータとなる。こ
のカラーフィルタの特性が画像
データの色再現性に関係する。
・暗電流低減技術
CMOS センサー上に並ぶ光センサーは、1 つが
光センサーでは、高温や長時間露光によってリーク
数μ m *2 角程度の極小サイズです。この 1 つずつ
電流*4 や暗電流*5 が発生します。これがノイズの原因
にいかに多くの光を取り込みノイズを減らすかが、
となるため、キヤノンは徹底的な原因追求を行いまし
CMOS センサーの性能の決め手となります。
た。材料解析技術を駆使して、材料を結晶構造から解
キヤノンでは、微細加工技術を駆使、各光セン
析しました。その結果、暗電流にはシリコン基板の結
サーにマイクロレンズを形成して、光量アップを図
晶欠陥などが影響していることを発見。回路が動作す
りました。また、色再現性に重要なカラーフィルタ*3
る表層部に結晶欠陥をなくし、動作に関係ない深部に
の改良を重ね、カラー光センサーとしての性能向上
結晶欠陥を封じ込めるシリコン基板製造技術を開発、
を実現しています。
暗電流の低減を実現しました。
表層部
デバイス活性領域
深さ
(μm)
0
20
40
*4 リーク電流
電子回路上の絶縁されている場所
で電流がリーク(漏えい)してしまう
現象。
60
80
100
*5 暗電流
光がない状態でも電荷が発生する
ことがあり(熱が原因のことが多
い)
、その際に流れる電流。
58
120
シリコン基板断面写真
●デバイス設計技術
・フォトダイオードポテンシャル設計技術
・画素縮小化技術
光センサーは、受けた光によって発生する電荷を蓄
デジタル一眼レフカメラに搭載される CMOS セン
積します。その電荷を各画素から読み出し、画像デー
サーのサイズは、35mm フルサイズまたは APS-
タが形成されます。キヤノンは、デバイスシミュレー
H/APS-C サイズです(→ P.25)。センサーの多画素
タを使って理想的な蓄積構造をシミュレート、最適な
化は、センサーの表面積は同じままに画素サイズが縮
デバイス設計を行っています。これにより、蓄積構造
小することで実現されています。また、ビデオカメラ
や光利用効率、読み出し効率のよいセンサーが短期間
用の CMOS センサーではボディの小型化を実現する
に設計されています。
ため、キヤノンは数ミリ角の表面積に多画素をつくり
・低ノイズ読み出し回路技術
込む技術を追求しています。
光センサー自体のノイズが低減しても、データを読
画素サイズが微細になると、画素や配線のパターン
み出す回路にノイズが多いのでは意味がありません。
設計技術だけでなく、生成した素子を分離する半導体
キヤノンは「4 トランジスタ方式」と呼ばれる画素構
プロセス・製造技術も重要な課題となります。
造とノイズキャンセル回路*6 により、低ノイズ読み出
キヤノンでは、分離領域を縮小する画素縮小化技術
しを実現しています。この技術は、全国発明表彰発明
「STI (Shallow Trench Isolation)」を導入、同時に
賞を受賞(2004 年)、その優位性が認められて現在は
暗電流の低減も達成して、高画質多画素 CMOS セン
業界標準技術として広く採用されています。
サーの量産を実現しています。
光信号
(S) 画素
信号+ノイズ
記憶用メモリー
CMOS センサーの 1 画素は、光を
電子に変える光電変換部(光セン
サー:フォトダイオード)、画素
出力信号
(S)
4トランジスタ画素構造
ジスタ型)されるのが一般的だっ
たが、キヤノンは転送スイッチを
ノイズキャンセル回路
0.22μm
出力信号(S)=(信号+ノイズ記憶用メモリー)−(ノイズ記憶用メモリー)
0.03μm
分離領域を細分化できた
STIの採用でバーズビークが短くなり、
CMOS センサーの低ノイズ読み出し回路技術
露
光
アンプ、信号をリセットするリ
セットスイッチで構成(3トラン
ノイズ
記憶用メモリー
リセット
スイッチ
出
力
*6 ノイズキャンセル回路
[STI方式]
[従来方式]
転送
画素アンプ
スイッチ
入
力
CMOS センサーの素子分離技術
追加(4トランジスタ型)。転送
スイッチを利用して「ノイズ」と
「ノイズ+信号」を切り離して呼
び出し、ノイズを正確に除去する
「ダブルサンプリングノイズキャ
光
学
/
医
療
ンセル方式」を開発した。
●製造技術
・クリーンルーム技術
・歩留まり向上技術
CMOS センサーは、他の半導体デバイスと同じく
CMOS センサーは、他にあまり例がないほど大き
で製造され、その過程で半導体露
な面積のデバイスで、歩留まり*8 向上は厳しい課題
光装置も使用されます。デバイスが微細化すればす
でした。キヤノンは、不良品の電気的な計測結果と
るほどクリーンルームは厳重に管理される必要があ
物理的欠陥をピンポイントで自動的に照合する「歩
り、キヤノンは「0.1 μ m 以上の微粒子が 1 立方
留まり解析システム」を開発、あらゆる要素から不
フィート中に 1 個以下」のクリーンルームを実現、
良が起こった工程や原因を特定させています。この
最高設備の中で最先端の CMOS センサーを製造して
システムを利用し、工程、原料、装置などの改良を
います。
続けることで歩留まりを向上させています。
クリーンルーム
*7
基
盤
電気的検査
信号パターンを入力し、
座標を検出
環
境
クリーンルーム
半導体露光装置
・大画面デバイスプロセス技術
デジタル一眼レフカメラ用の 35mm フルサイズの
欠陥・不良座標位置を照合
検査情報を照合・解析して、
歩留まりに影響を与える
工程や欠陥を特定する
結果を工程や
半導体露光装置に
フィードバック
物理的検査
欠陥の座標位置を自動検出
DUV(Deep UV)式装置
CMOS センサーは、36 × 24mm のセンサー領域を
もっています。これは、半導体露光装置が 1 回で露
光できる面積をはるかに超えています。キヤノンで
検出位置へ移動し、
詳細を解析
不良内容を判断し、
自動保存
は、半導体露光装置の多数回露光技術を確立して高
精度なつなぎ合わせに成功、大型 CMOS センサーの
量産を可能にしています。
歩留まり解析システムの概要
SEM式装置
自動元素分析
*7 クリーンルーム
室内の空気の洗浄度が管理、保持
されている空間。半導体製造工場
や医療施設、食品工場などに設置
されている。空気中の浮遊微粒子
の数や大きさが清浄度レベル以下
に管理され、使用する材料や水な
どの清浄度も保持されている。温
度、湿度、圧力、照明などの環境
も管理されている。
未
来
*8 歩留まり
製品の生産数に対する良品(全生産
数−不良品)の割合。良品率。歩留
まりの向上とは、いかに不良品を
減少させるかということで、製品
コストや利益に大きく影響する。
59
デバイス技術
ナノスケールの動きまで正確に検出する
エンコーダ
エンコーダは、対象物にスケール(目盛り)を取り付け、そのスケールをカウントして角度や移動距離を測定
するセンサーです。キヤノンは、最先端の光計測技術を利用して、超精密・超高精度のエンコーダを開発してい
ます。
●レーザーロータリエンコーダ(LRE)
●マイクロリニアエンコーダ(MLE)
半導体レーザーを光源に、光の回折 ・干渉 現象
LED を光源とした独自の反射回折干渉方式を利用
を利用して角度を検出します。独自のプリズム光学系
したエンコーダで、超寿命、超小型サイズを実現して
を使用したことによって小型化を実現。産業用ロボッ
います。最高分解能は 1000 分割器との併用で
トアームの角度調整や放送機器用カメラの雲台などに
0.8nm *3。半導体露光装置のステージ用センサー、
使われています。
ハードディスク検査器、半導体計測機器などに使われ
*1
*2
ています。
半導体レーザー
波長 780nm
(出力) 5mW
干渉計
(受光素子)
ビームスプリッタ
*1 回折
光の特性の1つ。光は波の性質をも
つので、物体にあたると物体の影
の部分に回り込んでいく。その現
ミラー
ミラー
グレーティング
ディスク
(直径36mm)
象のこと。
Pm2.8μm
*2 干渉
光の特性の1つ。光は波の性質をも
つので、同じ位相の光と合わさる
と明るくなる。180 度位相がずれ
ている光と合わさると打ち消し
合って暗くなる。その現象のこと。
*3 nm(ナノメートル)
1nm は 1m の 10 億分の 1 =
反射素子
反射素子
MLE の原理図
0.000001mm。
LED の光をコリメータレンズで平行光にして回折格子を介してスケールに照
射、そこで生じた回折光をヘッド側の回折格子(4 分割)を介して受光、位相の
回転軸
レーザーロータリエンコーダの原理
ズレで位置検出をする。
速度ムラや回転ムラを非接触検出する
レーザードップラ速度計
レーザードップラ速度計は、アフォーカル光学系*4
状態から秒速− 200 ∼ 2000mm、− 50 ∼
を通してレーザー光を照射し、移動・回転している対
5000mm の速度の測定が可能です。プリンタや複写
象物の速度を非接触で計測する装置です。
機の用紙搬送速度や速度ムラの検出、感光ドラムの回
レーザー光をコリメータレンズによって平行光にし
て回折格子で分割します。E/O 周波数シフタ(周波数
転ムラ検出、工作機械の駆動部の回転や送りムラの検
出など、研究開発や生産現場で使われています。
をシフトさせる素子)によって周波数差のできた 2 つ
の光を測定物に照射し、その散乱光を集光レンズを通
してフォトダイオードに取り込み、得られた光のビー
ト信号(ドップラ周波数)から速度を測定します。静止
Z
Y
X
フォトダイオード
E/O周波数シフタ
回折格子
*4 アフォーカル光学系
非焦点(焦点距離が無限大)の光
学系であり、レンズに平行光が入
射し、同じく平行光が射出する。
望遠鏡やビームエキスパンダー
(レーザー光のビーム径を広げるた
めの光学モジュール)に使われる。
60
コリメータ
レンズ
集光レンズ
アフォーカル光学系
半導体レーザー
レーザードップラ速度計
レーザードップラ速度計の原理図
対象物
高度なレーザー加工を実現する
ガルバノスキャナ
レーザー加工機は、ミラーを高速に駆動し、レー
て、ミラーの角度位置を検出します。高度な位置決
ザー光の位置決めをして穴あけやカッティング、ト
め精度、くり返し再現性、整定速度の高速化を同時
リミングなどを行う装置です。
に達成しているガルバノスキャナは、レーザー VIA
キヤノンの「ガルバノスキャナ 」はレーザー加
*5
入
力
ホール*6 加工機や 3 次元造形機などに搭載されて、
工機へ搭載する高精度レーザースキャナで、独自の
携帯電話などの高密度基板の加工や、フラットパネ
エンコーダ技術を採用。用途に応じて最適に制御す
ルディスプレイ(FPD)、太陽電池パネルの生産な
るフルクローズドデジタルサーボ技術と組み合わせ
どに役立っています。
出
力
ガルバノ
(X軸)
ガルバノ
(Y軸)
ロータリエンコーダ+モーター
ロータリエンコーダ+モーター
反射鏡(X)
レーザー
*5 ガルバノスキャナ
反射鏡(Y)
高感度電流計のガルバノメーター
の機構を応用したスキャナなので
fθレンズ
ガルバノスキャナという。ガルバ
ビルドアップ基板
ノという名称は、イタリアの物理
学者ルイージ・ガルヴァーニから。
*6 VIAホール
ガルバノスキャナ
ガルバノスキャナを搭載したレーザー VIA ホール加工機の原理図
多層基板の各基板上に作られた回
路の配線を接続するために開ける
穴。VIAとは「∼経由」の意味。
露
光
0.08nm の微小変位や振動を非接触検出する
超小型レーザー干渉計
レーザー干渉計は、光反射面をもつ対象物の運動
状態(変位や振動)をレーザー光を使用して非接触で
EB(Electron Beam)描画装置のステージ位置決め、
光
学
/
医
療
精密駆動機械の微振動解析などに使われています。
測定するセンサーです。キヤノンではマイケルソン
干渉方式*7 を採用した「マイクロレーザーインター
フェロメータ」を開発、0.08nm という超高分解
能を達成しています。
この干渉計は、半導体レーザーの採用とキヤノン独
*7 マイケルソン干渉方式
光源からの光を2つ以上に分割、対
象物からの反射光(測定光)と固定し
た反射面からの反射光(参照光)を、
再度合わせて干渉させる。
自の光学設計で 32(W)× 47(D)× 19(H)mm、重さ
約 50g という小型化・軽量化を実現。各種機器組み
込み時のスペース効率を大幅に向上させ、自動車用燃
料噴射装置のピエゾ素子特性評価、半導体露光装置や
基
盤
マイクロレーザーインターフェロメータ
超音波振動でフォーカスやズームを動かす
超音波モーター(USM)
「USM(UltraSonic Motor)」は、一眼レフカメラ
な力で駆動することが可能です。電磁モーターに比べ
EOS の EF レンズ用フォーカス駆動アクチュエータと
て高トルクで、コギング*8 などの欠点もなく、同じト
して、キヤノンが世界で初めて開発しました。
ルクなら小型化が可能です。高精度な制御ができる点、
超音波モーターは、ステータ(弾性体)に超音波域の
環
境
駆動音が静かな点も特長です。
波形振動を発生させ、これに接触したローター(移動
体)を摩擦力で駆動します。小さな振動のくり返しで
動かすのでギアで減速する必要がなく、低速かつ大き
ローター
未
来
ステータ
振動波
リング USM、マイクロ USM、マイクロ USM II(左から)
USM の原理図
マイクロUSMはコンパクトデジタルカメラのズームレンズなどに活用。
超音波による振動を直線・回転運動に変える。
*8 コギング
電磁モーターは電磁石と永久磁石
の磁気吸引力で動かすので原理的
にゴツゴツした動きになる。これ
をコギングという。
61
生産技術
24 時間 365 日稼動をめざした完全無人化ラインの実現、新機能や高性能、低コストを実現する
キーコンポーネントや加工装置の内製化、最先端をいくナノ領域での超精密加工・計測技術など、
次世代のものづくりを担う生産技術は、製品そのものの開発と並ぶ重要な技術分野となっています。
コスト、スペース、信頼性のニーズを高い次元で満たす
トナーカートリッジ生産システム
生産システムの自動化は、生産スピードや品質の向
変化するため、従来は自動化が困難とされていました。
上、ならびに低コストを実現するために非常に有効な
それを供給から切断加工、容器への精密貼り付け、検
手段です。キヤノンは製品の競争力を高めるという観
査までを独自の技術開発によって全自動化しました。
点から、24 時間 365 日稼動する自動化ライン
*1
の
確立をめざしています。
キヤノンのレーザビームプリンタ(LBP)用ト
そのほかにも、グリス溶剤のような液状物を塗布する
「高精度適量塗布装置」も実用化しています。
こうした生産装置は、キヤノンで独自に開発し、装
ナーカートリッジの生産では、部品加工から組み立て、
置設計を行ってつくり上げています。3D-CAD や解
検査、梱包に至るまで数百もの工程を自動化した独自
析シミュレーション、バーチャルリアリティなど最新
の「一貫生産システム」が稼動しています。例えば自
の設計技術を駆使して、生産装置をスピーディに具現
動化装置の 1 つに、トナーを密封するための「モル
化。現在は、
「完全無人化ライン」の実現に向けた世
トプレーン自動貼り付け装置」があります。モル
界最先端の技術開発に挑戦しています。
トプレーンはスポンジと両面テープが一体となった
シール材で、温度や湿度、張力の影響によって形状が
*1 自動化ライン
トナーカートリッジやインクカー
トリッジの組み立てに使われてい
る。ラインの歩留まり率(製品の良
一体型トナーカートリッジ
品率)はほぼ 100 %を達成。低コス
ト、省スペース、信頼性を高い次
キヤノンのトナーカートリッジは、感光ドラム、帯電器、クリーナ、現像器な
どが組み込まれた独特の「一体型」(1982 年開発)。取り扱いしやすいため、
元で実現したラインは国内の複数
生産工場で稼動している。2009 年
には米国バージニアでも稼動予定。
メンテナンスが簡単でリサイクルが容易にできる。
◆カートリッジの薄型・一体化技術は累計数百の特許を取得。
◆使用済みカートリッジの回収・リサイクルは1990年から世界規模で実施。
トナーカートリッジ自動化生産ライン
機能をバランスよく発揮させる素材を独自開発
ケミカルコンポーネント技術
製品のもつ機能を十分発揮させるための部品や材料
を「機能性部材」と呼び、キヤノンでは、複写機や
LBP に使われる高画質定着部材、静電転写ベルト・
中間転写ベルト、導電性機能分離型ローラー、低摩擦
ブレードなどが該当します。キヤノンは、その製品が
作動する各プロセスでどのような物理現象が生じてい
るかを詳細に解析。必要とされる特性を徹底的に見極
めた上で、機能をバランスよく発揮させる素材の独自
複写機・ LBP に使われる各種ローラー類
開発と内製化を行っています。
具体的には、プラスチック、ゴムなどの基本的な有
機系高分子材料を、化学反応、変性、ブレンドなどの
手法を使って適切な素材に加工し、さらに加工プロセ
スを経て、コンポーネントとして完成させます。この
ような技術を「ケミカルコンポーネント技術」と呼ん
でいます。キヤノンでは、この他にも機能性部材の加
工装置の内製化にも取り組んでいます。
62
複写機・ LBP に使われる転写ベルト
光学素子のナノメートルオーダー精度を実現
加工・計測装置技術
レンズやプリズムなどの光学素子は、設計技術の進
箱型構造の「メトロロジボックス」や、被測定物ワー
歩とともに球面から非球面へ、軸対象から自由曲面へ
クガイドを挟む上下 6 枚のミラーを利用したレー
と進化を続けています。ナノメートルオーダー* 2 の
ザー干渉計を用いて触針の運動誤差を解消する制御方
の
法などを採用し、ナノメートルオーダーの計測を実現
精度を必要とする光学素子において、曲率変化
*3
大きい自由曲面の加工には独自の加工・計測装置の開
入
力
しています。
発が必要となります。
キヤノンの自由曲面加工装置は、高速で運動する刃
先位置を高精度に制御するため、高剛性空気軸受けや
出
力
高性能制御装置などを独自開発しています。また、光
学素子に触針を接触させながら全面を超高精度で測定
する自由曲面測定装置では、精度基準として、特殊な
Z
Y
Z
X
Z軸スライダー
上側プローブ メトロロジボックス
Y
X
多点支持機構(Zミラー自重補償)
上側参照ミラー
重量補正システム
B軸ロータリーテーブル
*2 ナノメートルオーダー
ナノメートルの単位(nm)で表され
るレベルのこと。1nm(=1/100万
mm)∼ 1000nm(= 1/1000mm)。
被加工物
機構学的支持
このようなナノの世界になると、
波長トラッカ
ごくわずかな温度差や気圧差も精
度に大きく影響する。そのため装
C軸ロータリーテーブル
X軸スライダー
露
光
置には精度基準を厳密に保ち、影
響項目すべての誤差をキャンセル
ベースプレート
していく機構上の工夫が随所に必
要となる。
ベース定磐
下側プローブ
Y軸スライダー
エアマウント
被測定物(非球面レンズ)
下側参照ミラー
ワークスライド
X-Yベースプレート
被測定物搭載台(ワークガイド)
自由曲面加工装置(A-Former)
機構学的支持
自由曲面測定装置(A-Ruler)
*3 曲率変化
曲率は線や面の曲がり具合を表す
数字。自由曲面レンズは曲がり具
合が一定でなく大きく変化するた
光
学
/
医
療
め、特殊な加工技術が必要になる。
原子サイズの精度が要求される多層膜ミラーをつくる
IBF(Ion Beam Figuring)加工技術
EUV *4 露光装置では、異なる数種類の材料膜を交
互に積層した多層膜ミラーが必要です。この非球面ミ
ラーの加工には、原子サイズ相当(水素の原子半径が
基
盤
約 0.1nm )の世界最先端となる超精密加工精度が
*5
要求されるため、キヤノンでは形状修正加工法として
「IBF(Ion Beam Figuring)加工技術」に取り組ん
でいます。
IBF 技術はイオンビーム(IB)を利用して、表面の
粗さを維持したまま形状を高精度加工できるほか、IB
ガンの加工径を選ぶことで、広範な空間周波数領域の
形状修正を行うことも可能です。独自開発の IBF 装置
実験では、ミラーを 0.36nmRMS
*6
環
境
加工前:0.36nmRMS
から
0.13nmRMS へと加工することに成功。これは世界
最高レベルの形状精度で、IBF 加工技術による高精度
加工の可能性が確認されました。
IBF 装置の開発は、NEDO(新エネルギー・産業技
*4 EUV (Extreme Ultra Violet)
極端紫外線。
術総合開発機構)から EUVA(技術研究組合極端紫
*5 nm(ナノメートル)
1nm は 1m の 10 億分の 1 =
0.000001mm。
外線露光システム技術開発機構)に委託された「極端
紫外線露光システム開発プロジェクト」のテーマとし
て行われています。
加工後:0.13nmRMS
ミラー材料を用いた形状修正実験結果
未
来
*6 RMS (Root Mean Square)
二乗平均平方根。平均二乗偏差と
も呼ばれ、数値の散らばり具合を
表す。
63
生産技術
高精度の非球面レンズ、DO レンズを量産化
モールド技術
非球面レンズ*1 や、表面に光の回折現象を発生させ
の検討を重ね、温度と寸法変化についてシミュレー
る微細構造を持った回折光学素子 (DO レンズ→
ションを行い、高温でも狂いのない金型を実現。ガラ
P.25)などの製造では、レンズ生産で最も高度な金
スモールドでつくられたレンズは、屈折率などの自由
型製造技術をはじめ、キヤノンの独自技術が注ぎ込ま
度が高いことから数多く使用されています。
*2
れています。
●レプリカ技術
球面レンズの表面に紫外線硬化樹脂を重ねて金型形
状を転写し、硬化させます。キヤノンは微細形状を
もった金型の加工技術、樹脂の性質や物性について研
究を重ね、ナノメートルオーダーで微細形状を制御し
て転写する技術を完成させ、現在は種々のレンズ製造
が可能となっています。
*1 非球面レンズ
球面でない曲面(レンズ径の方向に
連続的に曲率を変化させた面)をも
つレンズ。球面レンズに比べて収
差を小さくでき、カメラのレンズ
大口径レンズ
(液晶プロジェクター用)
精巧な非球面の金型にプラスチックを充填してレン
ズを成形。高精度で安定した成形のためにさまざま
だけでなく眼鏡レンズにも使われ
る。
な工夫が施されています。コンパクトカメラの非球
*2 回折光学素子
レンズには屈折系(光の屈折現象を
利用)と回折系(光の回折現象を利用)
●ガラスモールド技術
があり、両方の組み合わせで光学
特性を発揮させる。
非球面レンズ製造用金型
●プラスチックモールド技術
面レンズの成形などに採用されています。
超精密加工を施した非球面の金型でガラスを直接プ
レスします。キヤノンは、ガラス材料、金型素材など
トーリックレンズ
ダハプリズム
(レンズシャッターカメラ、デジタルカメラ用)
(LBP、複写機用)
多目的最適化解析で試作レスを推進
仮想試作技術
試作機や生産工程で発生する製品上の問題点をあら
コンパクトカメラのズーム鏡筒の例では、相反する
かじめ予測して解決する CAE *3 は、キヤノンの研究
ズーム駆動時間と消費電流の 2 つの目的に対して、
開発、製品開発、生産技術および試作の各部門で活用
多目的最適化解析を行い最適解の集合であるパレート
されています。CAE は実機解析技術、計測技術とと
解を導き出しました。さらに、ズーム駆動時間を
もに試作レスを実現するコア技術として、開発期間の
2/3 に短縮し消費電流も減少させるという、解析者
短縮やコストの削減、製品の性能・機能・品質の向上
の意思による選好解を導き出しています。
に貢献しています。
設計改良提案型
仮想試作
仮想試作は、3D データで製品基本構成上の問題点
進化
を検証する 3D-DMR *4 技術、加工データの自動生成
を行う CAM *5 技術、CAE 技術を主な要素技術にし
ています。
この中核となる CAE では、最適化解析(CAO :
Computer Aided Optimization)
、多目的最適化解
大規模・複雑系
問題の解決
実機置換検証型
仮想試作
複合問題の解決
小規模問題の解決
CAO
最適化解析
CAE
析、機能・性能を安定化させるロバスト最適化解析を
*3 CAE (Computer Aided Engineering)
コンピュータによる設計・開発支援
システム。製品の設計支援のほか、
強度や安全性などのの解析、機能や
性能のシミュレーションなどが含ま
れる。
*4 3D-DMR (3D-Digital Mockup Review)
仮想組立の技術。
駆使して、
「試作機に置き換えるために検証を行う仮
想試作」から「設計段階で改良を提案する仮想試作」
CAE 技術の進化
へと高度化を進めています。
キヤノンにおける仮想試作の事例としては、コンパ
クトカメラのズーム鏡筒の最適化解析があります。製
品の設計の際には、組み立て・解体性、ユーザビリ
ティ、安全性、駆動性などを保証する必要があり、
CAE では機器全体の駆動機構解析を実施し、複数の
*5 CAM (ComputerAided Manufacturing)
コンピュータによる製造支援システ
ム。この場合はデータを生成、製造
の観点からシミュレーションする。
64
目的を同時に最適化する「多目的最適化解析」を行っ
ています。
ズーム鏡筒の多目的最適化解析機構モデル
ロバスト最適化
多目的最適化
目的:
コスト削減
日程短縮
品質向上
回路の設計段階で動作やノイズを予測
実装設計支援技術
複写機をはじめとする事務機の高機能化(高画質、
高速処理、フルカラー)にともない、制御回路のデー
シミュレーション解析」などの実装設計支援技術を導
タ処理能力は年々加速度的に進歩しています。しかし、
入しています。この技術により、試作テスト段階での
回路の動作周波数が高速になるにつれ、安定動作と低
動作精度が向上し、開発期間の大幅な短縮に貢献、最
ノイズ化の両立が難しくなります。
新機能を搭載した製品を迅速に市場へ投入することが
キヤノンでは、回路のプリント基板上で伝送される
入
力
子機器から発生する電磁波ノイズを予測する「電磁界
可能となりました。
電気信号の到達時間を数十ピコ秒*6 単位で解析する
Voltage(V)
「伝送線路シミュレーション解析」や、設計段階で電
出
力
5
4
3
2
1
0
-1
-2
0
5
10
15
Time(ns)
20
25
高速デジタル回路基板の伝送線路シミュレーション解析
露
光
デジタル複写機リーダー部の電磁界シミュレーション解析例
*6 ピコ秒
1ピコ秒は1兆分の1秒
機器の小型化・軽量化を実現
高密度実装技術
半導体の微細化、高速化、高機能化は、デジタル製
ミュレーション解析技術」や、微細はんだ付けに欠か
品の小型化・軽量化を可能にしてきました。半導体は
せない「はんだ印刷技術」の研究開発も進行中です。
製品内部のプリント配線基板に並んでいますが、半導
体が進歩すればするほど狭ピッチで高密度に実装する
光
学
/
医
療
FLASHメモリー
第二層
SDRAM
必要があります。こうした実装技術もキヤノンは独自
開発し、製品の小型化・軽量化を実現しています。
複数の半導体を 1 つのパッケージに集約するのは
「SiP(System in Package)技術」です。
「CSP
第一層
基
盤
(Chip Scale Package)実装技術」は、半導体パッ
ケージの裏面に設けたエリア状の接続パッドにはんだ
ボールを形成、加熱して基板に接合します。パッケー
ジと基板のはんだ接合部の高信頼性を実現する「シ
デジタルカメラに採用された SiP の概念
1.6mm の鉄板 2 枚に、10mm 鉄板の剛性をもたせる
環
境
プレス生産技術
総重量が 100kg 以上にもおよぶ高速複写機の安定
稼動を実現させるために、キヤノンでは本体フレーム
の剛性解析を行い、新しい発想で最適な構造・部品形
状を設計して、製品に反映しています。例えば、複写
機の本体フレームの剛性を担う底板には、一体成形で
外界からの力に強いモノコック(応力外皮)構造を他
未
来
社に先駆けて採用しました。わずか 1.6mm の鉄板 2
枚にディンプル(くぼみ)形状の絞りを入れたプレス
加工を施し、重ね合わせることで 10mm 鉄板に匹敵
する剛性(たわみ量)を実現しました。
複写機に採用されているディンプル底板
65
品質技術
精密な製品を製造しているキヤノンにとって、製品の品質を保証する技術はとても重要です。
品質の維持・向上のためにキヤノンは、各種の評価技術、シミュレーション技術、解析技術を駆使して
きました。2008 年には公的認証試験が実行できる実験棟が玉川事業所に完成し、より高い製品の品質
管理をめざします。
高度な技術による「品質至上主義の徹底」が、日々進化する製品の安全性や信頼性を支えています。
キヤノンの品質保証
キヤノンは「世界一の製品をつくり、最高の品質とサービスを提供し、世界の文化の向上に貢献すること」を企業目的の 1 つ
として掲げ、その実現のために、
1. お客様のニーズを見極め、最新の技術を利用し、高品質で優れた製品と迅速なサービスを提供すること。
2. 製品やサービスの不具合により消費者の身体や財産を損なうことのないよう万全を期すこと。
を柱とした品質向上に努めています。
そして、
「Canon Quality」それはお客様の安全・安心・満足」という品質メッセージを掲げ、 お客
様に「安全」で「安心・満足」いただける製品やサービスを提供するために、製品の企画・開発から
生産、販売・サービスに至るすべての段階において徹底した品質活動に取り組んでいます。
[Canon Quality お客様の安全・安心・満足]
安全(Safety)
:「壊れない、怪我をしない、不具合がない」
安心(Smartness) :「使いやすい、デザインがいい、信頼できる」
満足(Satisfaction):「良かった、素晴らしい、これからもずっと使い続けたい」
Canon Quality マーク
快適性や使いやすさを評価する
人間・生理計測評価技術
キヤノンは製品評価技術として人間・生理計測評価
Mounted Display)
(→ P.72)では、心拍数などの
を重視、視覚系(映像負荷)の疲労評価技術に始まり、
自律神経系活動を計測し、映像視聴時に生じる精神性
快適性や使いやすさなど、人間の操作感(作業負荷)
ストレス系の評価手法の開発をめざしています。
を評価する技術の研究と開発を進めています。
この研究では例えば、複写機の給紙トレーを引き出
す時の筋電位・把持力、ディスプレイを使用する時の
視線、ストレス性発汗など、ユーザーの生理反応を計
測、データを蓄積しています。これを従来の視覚系
(映像負荷)の製品評価に加え、操作系(作業負荷)
、
精神性ストレス系(精神作業)評価へ拡大して、
「人
に優しい」製品開発に結び付けようとしています。
こうした研究で、大判インクジェットプリンタ(→
P.32)の設計では、筋力負荷のシミュレーションを
もとに、腕と腰への負担がより少ないロール紙セット
位置を明確化しました。また、HMD(Head
筋電位測定によるロール紙セット位置の検討
振動や騒音を効率的に低減する
SEA 法による振動・騒音解析
*1 SEA(Statistical Energy
Analysis)法
統計的エネルギー解析法。統計的
な考えとエネルギーの概念を取り
入れた振動・騒音解析手法で、自
動車や船舶、建築分野で特に利用
されている。
振動・騒音の伝播経路が明確にな
ると、対策すべき部分を的確に把
握することができ、製品の振動・
騒音を効率的に低減することが可
能となる。
66
キヤノンでは、製品から発生する振動や騒音を低減
の解析に有効です。
することを目的に「SEA 法*1」という解析手法を利
用しています。これは製品内部の部品間での振動エネ
ルギーの流れを解析し、騒音の原因となる振動の伝播
経路を明確にする技術です。
例えば、モーターなどから入力される力と部品の振
動から、エネルギーの損失率や部品間でのエネルギー
の流れを解析しており、振動源と騒音源が異なる場合
「解析結果に基づき行った対策事例(エネルギー伝播抑制事例)
」
製品使用時の環境保全に貢献する
化学物質安全性評価技術
製品使用時に排出される VOCs(揮発性有機化合物)、
粉じん、オゾン、微粒子などの化学物質はケミカルエ
入
力
と「ドイツエコラベル認定試験所」の 2 つの認定を業界
で初めて取得しています。
ミッションといわれ、製品使用時の環境保全のために
この技術によって、キヤノンの多くの製品は、ドイ
低減しなくてはなりません。キヤノンは、ケミカルエ
ツの「ブルーエンジェル」などのエコラベル*2 を取得
ミッション測定を 2000 年から本格的にスタートさ
しています。
せ、
「事務機器から発生するケミカルエミッションの
採取方法及び分析方法」の標準化にも積極的に取り組
んできました。JIS 規格や ISO 規格の作成にも大きく
出
力
貢献しています。
*2 エコラベル
ケミカルエミッションの測定には、特殊な環境試験
商品の環境への配慮度がわかる
マーク。エコマークつきの商品は、
室が必要です。キヤノンはさまざまな製品のサイズに
そのラベル制度の認定基準に達し
対応した環境試験室を設けており、測定処理能力は業
ている。ドイツの「ブルーエン
界トップクラスとなっています。2005 年には、ケ
ミカルエミッション測定試験所として「ISO17025」
環境試験室でのケミカルエミッション測定
ジェル」は世界で初めて制定され
たエコラベルで、厳格な認定基準
をもつ。
部品の品質信頼性を保証する
露
光
レーザーダイオードの新故障解析手法
製品の品質信頼性を確保するためには、製品を構成
する部品 1 つ 1 つの品質信頼性が確保されていなくて
でも検出できなかった異常を指摘し、高信頼性部品を
確保できるようになりました。
はなりません。キヤノンでは、製品に搭載される IC
などの半導体部品や抵抗、コンデンサなどの電子部品
光
学
/
医
療
に対し部品認定制度を運用し品質信頼性の確認を行
なっています。それを支えているのが、独自に開発し
た電子部品評価・解析技術であり、レーザーダイオー
ドの新故障解析手法や LSI の故障箇所同定技術、構造
評価技術などの技術が開発されています。
*3 SEI(Seebeck Effect
Imaging)
「レーザーダイオードの新故障解析手法」は、半導
体部品の中でも特に重要なレーザーダイオード(LD)
の内部構造異常(結晶欠陥など)を赤外レーザー光に
」を利用して高精度
よる「SEI *3(ゼーベック効果像)
LD チップ欠陥検出像
緑の部分が欠陥箇所。
に検出するものです。これにより、LD 製造メーカー
物質の温度差が電圧に変換され
る現象を利用した手法。赤外
レーザー光を照射し、その際の
熱により LD チップ内部に発生し
た熱起電力電流を画像化し、結
晶欠陥や結晶破壊痕などの異常
部を検出する。
基
盤
公的認証試験が実行できる
実験棟新設
キヤノンは品質技術をさらに高めていくために、玉
く、キヤノン独自の製品安全技術基準を設定して品質
川事業所に新たに実験棟を建設しました。この実験棟
を向上させています。公的認証試験ができる高度な設
は、キヤノンの品質評価・実験の拠点となる予定です。
備を自社内に保有することで、キヤノンがめざしてい
新実験棟では、騒音規格(ISO7779)
、電磁環境
環
境
る「実質安全*5」の向上につながっていきます。
試験規格(CISPR22、CISPR24、FCC Part15 な
ど)
、安全規格(UL94、EN62441)などの公的規
格にもとづく認証試験*4 を遂行することができます。
カメラ/事務機業界初の楔(くさび)レスタイプの吸
音壁を導入した半無響室も備え、大型製品の測定も可
能になります。さらに高感度マイクなどの導入で測定
範囲が広がります。
価スピードが向上し、キヤノン製品の品質向上に大き
く貢献できるようになります。
キヤノンでは、法令で定められた安全基準だけでな
未
来
*4 公的認証試験
2009年より実施予定。
このような実験棟の完成により測定試験の精度と評
2008 年秋竣工予定の新実験棟
*5 実質安全
法令で規制されていなくても実
際の製品使用状況を想定して安
全を確保していく考え方。
67
環境配慮技術
キヤノンは、環境への影響を考え、製品を「つくる」
(開発・生産ステージ)
、
「つかう」
(使用ステージ)
、
「いかす」
(リサイクルステージ)といった製品ライフサイクルのすべてにおいて、環境負荷低減活動を
推進しています。キヤノンは、環境負荷低減活動推進のベースとなる独自の環境配慮技術の開発にも注
力し、地球環境保全への貢献をめざしています。
生産時の排トナーを固形・加工する
排トナー再利用 [つくる]
複写機やプリンタで使われるトナーは、生産工程に
おいて規格外の大きさの粒子が発生することがありま
投入
すが、トナーの種類によってはトナーとして再利用で
固形化・物性
改質排トナー
きず、排トナーとなります。
トナー生産
キヤノンでは、溶融固化装置を用いて排トナーを固
めたり、その物性を改良することで、工場で使用され
るパレットなどの材料として再利用できるしくみづく
トナー溶解
固形化装置
規格外の
排トナー
循環物への加工
りを進めています。
樹脂パレット
などへの
循環利用
有価売却
生産工場での排トナー再利用プロセス
生産段階での VOCs レスをめざす
揮発性有機化合物の代替技術 [つくる]
さまざまな製品の部品加工には一般的に有機溶剤系
の塗料や洗浄剤が使用されています。キヤノンでも例
幅に抑制しています。さらに、VOCs レスの洗浄剤
への切り替えも行っています。
外ではなく、プリンタやカメラなど多くの製品で外装
部品の塗装・洗浄工程に有機溶剤を使用してきまし
た。有機溶剤は使用すると VOCs(揮発性有機化合
物)ガスが発生するので、排出量を削減する必要があ
ります。
キヤノンは VOCs レスの洗浄剤・塗料への切り替
え、溶剤回収装置*1 の導入により、VOCs の除去、
排出の大幅削減にいち早く取り組んできました。現在、
*1 溶剤回収装置
低濃度 VOCs ガスを回収して高濃
度化する装置。この装置技術によ
り VOCs ガスを 90 %以上回収。高
濃度 VOCs ガスは、液化され、洗
浄工程内でリサイクルされる。
塗料は VOCs を含まない水溶性塗料の導入を開始し
ています。また洗浄工程では、ガス回収しやすい低拡
散性 VOCs の洗浄剤に切り替え、回収リサイクル機
能を付与した生産装置を導入することで大気排出を大
フッ素系溶剤の回収リサイクル機能を付与した生産装置
オゾン排出を約 1/1000 以下にする
オゾンレス帯電技術 [つかう]
複写機やレーザビームプリンタなどの電子写真製品
以下、電圧も約 1/5 以下に低減しました。この技術
では、感光ドラムを帯電させて電気的な像を形成しま
によってオゾン対策の機構も不要となり、複写機や
す。従来は、約 5 ∼ 10kV の高電圧をかけてコロナ
レーザビームプリンタの小型化も実現しています。
放電*2を起こすコロナ帯電方式が用いられており、放
電により発生するオゾン(O3)を取り除くためのフィル
ターやエアーフロー機構が必要でした。
そこでキヤノンでは、導電性ローラーに交流と直流
*2 コロナ放電
とがった電極(針電極)に電圧を
かけると起きる放電現象。暗所で
は王冠状の光(光冠:コロナ)が見え
る。
68
を重畳した電圧をかけて感光ドラムを帯電させる
「ローラー帯電方式」を開発。空気中の放電を利用す
るコロナ帯電方式よりオゾンの発生量を約 1/1000
帯電ワイヤー
O3 3
O
O3
O3
感光ドラム
コロナ帯電方式
(空気イオン化 大)
オゾンレス帯電技術の概念
帯電ローラー
感光ドラム
ローラー帯電方式
(空気イオン化 小)
待機時の消費電力を大幅に低減する
トナー定着技術 [つかう]
入
力
複写機やレーザビームプリンタは、定着ローラーで熱と圧力を加えて、トナーを用紙に定着させます(→
P.14 参照)
。従来のローラー定着方式では、ローラー内部のヒーターでローラーを温めるため、プリント待機
中もヒーターをつけておく必要がありました。
●オンデマンド定着(SURF)技術
キヤノン独自の「オンデマンド定着方式」では、熱
伝導効率が高く熱容量が低い「定着フィルム」と、線
状の「セラミックヒーター」を採用しています。薄い
定着フィルムとセラミックヒーターが接触する構造
定着ローラー
で、定着フィルムが回転するときだけヒーターが作動、
ます。この機構で待機に必要な電力が不要になり、製
品によっては定着ユニットの待機時消費電力ゼロを実
プリント紙
定着
定着
画像
画像
面
面
ヒーター
現しました。
カラー機では「カラーオンデマンド定着方式」を開
定着フィルム
プリント紙
フィルムを介してトナーに熱を与えて画像を定着させ
セラミック
ヒーター
トナー
加圧ローラー
トナー
加圧ローラー
オンデマンド定着方式のしくみ
発。定着ベルトは、白黒用定着フィルムの基層と表層
トナーの定着性を高めます。基層は樹脂と金属の 2
ニーズに対応することが可能となっています。
露
光
表層
の間にゴム層を挟んだ 3 層構造。柔らかいゴム層で
種類があり、製品毎に使い分けることで、さまざまな
出
力
[オンデマンド定着方式]
[ローラー定着方式]
ゴム層
基層
回転方向
補強ステー
セラミックヒーター
定着ベルト
ヒーターホルダー
● IH 定着技術
定着
プリント紙
レーザビームプリンタでは「IH *3 定着方式」も採用
定着ニップ
加圧ローラー
しています。これは薄肉金属パイプの表面を表層で薄
く覆った定着ローラーを使用。内蔵コイルに高周波電
流を流し、誘導加熱によってローラー自体を発熱させ
光
学
/
医
療
駆動方向
カラーオンデマンド定着方式のしくみ
ます。自己発熱ローラーは熱変化するため耐久性に課
題があります。キヤノンは、材料の熱特性や機械特性
定着ローラー
を検討し、ローラーの保持方法や定着器の構造を改良
して 50 万枚のプリントに耐える定着ローラーを完成
させました。また、低損失高周波インバータ電源の開
発熱域
コア
コイル
定着
交流電流
発により、安定した温度制御も実現しています。この
方式により、待機時間は 1/10 (当社比)
、従来比で約
加圧ローラー
基
盤
磁力線
*3 IH (Induction Heating)
家電の炊飯器や電磁調理器に代表
される電磁誘導を利用した加熱方
式。
55 % (当社比)の省エネルギーが達成されています。
IH 定着方式のしくみ
資源循環を推進し、環境負荷の低減に貢献する
プラスチックリサイクル成形技術 [いかす]
環
境
キヤノンでは1990年以来国内外の樹脂メーカーと
協力して多くのリサイクルプラスチックを外装部品な
どに用いてきました。例えば、リサイクルプラスチッ
クを外側から包むように一体成形する「サンドイッチ
成形技術」を用いて、リサイクルプラスチック使用比
率を最大 30%で製品投入しています。
さらに、より多くのリサイクルプラスチックが使用
ヴァージン材
できる「薄型多層射出成形技術」の開発に成形機メー
リサイクル材
未
来
カーと共同で着手しています。リサイクルプラスチッ
クの使用比率 80%以上を目標としており、さらなる
環境配慮と、コストダウンをめざしています。
薄型多層射出成形技術でつくられた部品
69
未来を拓くテクノロジー
情報や映像の入出力装置としてますます存在感を高めているディスプレイは、未来を拓くテクノロ
ジーの 1 つです。キヤノンは、高画質へのこだわりを基本に、超精密加工技術や材料技術、電子技
術を活かした次世代型ディスプレイを開発しています。
次世代型の高画質ディスプレイを実現する
SED(Surface-conduction Electron-emitter Display)
デジタルハイビジョン放送の開始、家庭用ハイビ
衝突することで、蛍光体が発光します。
ジョンビデオカメラや次世代 DVD の製品化にともな
この自発光するしくみで SED は、CRT と同じ動画
い、高精細・高画質なコンテンツが急速に普及してい
追従性と高いコントラストをもちながら高精細・薄
ます。それらを臨場感豊かに楽しむためにディスプレ
型・大画面を実現できます。電気エネルギーが光に変
イにはさらなる高画質化と大型化が求められています。
換される発光効率が高く、低消費電力であることも
映像などのプロフェッショナルの間では、動画追従
SED の特長です。
性やコントラストの面で CRT(ブラウン管)方式が
優れていると言われていますが、CRT はその構造か
ら薄型化が困難でした。SED *1 は、CRT の電子銃に
相当する電子放出部を画素の数だけ設けた構造である
ため、薄型で大型画面を形成できます。電子放出部は、
2 つの電極間に作成されたナノギャップ*2 に電圧をか
けることで、片側から電子を放出します。その一部が
ガラス基板間にかけられた電圧で加速されて蛍光体に
蛍光体
電子源
蛍光体
SED 試作機
拡大図
ブラック
マトリックス
発光
ガラス基板
電子銃
*1 SED (Surface-conduction
Electron-emitter Display)
電極
表面伝導型電子放出素子ディスプ
レイ。
スペーサ
電子線
カラーフィルター
蛍光体
メタルバック
電子放出素子
ガラス基板
*2 ナノギャップ
幅が数 nm の非常に狭いギャップ。
1nm は 1m の 10 億分の 1 =
0.000001mm。
偏向ヨーク
CRT
電界放出 散乱
数nm
ナノギャップ
Vf
SED
CRT と SED の構造比較
Va
Va
SED の構造
フレキシブルな大型画面の実現をめざす
透明アモルファス酸化物半導体 TFT
TFT(薄膜トランジスタ* 3)は、画素ごとにスイッ
チング素子をもつアクティブマトリクス型のデバイス
レイの可能性が高まりました。
キヤノンは、この TFT の研究にいち早く乗り出し、
駆動回路で、液晶パネルなどの基板部分に搭載されて
東京工業大学との共同研究を通じて、高性能 TFT の
います。現在は、その半導体部分の材料にアモルファ
開発を進めてきました。大型のフレキシブルディスプ
ス*4 や多結晶のシリコンが用いられています。しかし、
レイ、特に有機 EL ディスプレイの大型化、フレキシ
シリコンは共有結合性があり低温形成では高性能を得
ブル化につながると期待されています。
ることが難しく、新たな材料が求められてきました。
その重点課題には、各素子への通電状態が続く有機
EL ディスプレイ用パネルに適用できる安定性、大画
70
*3 薄膜トランジスタ
トランジスタを構成する半導体層、
ゲート絶縁膜、電極、保護絶縁膜
などを基板上に形成したもの。現
在基板はガラスが主流だが、プラ
スチック素材の PET などが研究さ
れている。
面化への対応、低コストでの製造もあげられました。
*4 アモルファス
非晶質。「結晶」とは違い、原子の並
びに一定の秩序がない状態。結晶
に比べて大きな薄膜を均一にでき
る。
2004 年には、透明プラスチックフィルムの上に
透明アモルファス酸化物は、近年発見された新しい
半導体材料で、イオン結合性の金属酸化物です。一般
に、この材料を用いる TFT は高速で安定して動作す
るため、広く研究開発が続けられてきましたが、
TFT を室温で形成することに成功。ガラス基板を使
わないため、軽量で割れ難いフレキシブルなディスプ
プラスチックフィルム上に室温形成された
アモルファス酸化物半導体 TFT
モバイル機器の利便性を向上させる
有機 EL ディスプレイ
有機 EL ディスプレイ*5 は、2 つの電極にはさまれ
入
力
スタとコンデンサを配置した「アクティブマトリック
た有機材料が電圧により励起し、再び元に戻る時に光
ス方式」の TFT 基板を採用しています。
を放出する現象を利用した自発光型です。高画質で薄
発光
型・軽量、低消費電力であるため、携帯電話での実用
化が始まるなど、モバイル機器用ディスプレイとして
陰極
電子注入輸送層
注目されています。
∼0.5μm
R発光層
G発光層
キヤノンでは、有機材料から装置やプロセスまで全
B発光層
RGB発光層
ホール注入輸送層
陽極
工程を一貫して自社で独自開発し、高性能と低コスト
基板
出
力
をめざしています。
*5
有機 EL ディスプレイの構造
ポイントとなる有機材料の選択で、キヤノンは電子
有機 EL ディスプレイ
(Organic Light Emitting Diode
display: OLED)
写真技術の OPC 材料技術を活かして、それぞれドー
自発光型で色再現範囲が広く低消
パント*6 とホストからなる RGB 発光材料、キャリア
費電力であること、視野角依存性
注入輸送材料*7 などを開発しました。これにより、試
がなく、どの角度からでも高画質
であること、応答速度が速く動画
ディスプレイとして最適、などの
作パネルで業界最高水準の高効率、色純度および高寿
特長がある。
命を達成しています。
*6 ドーパント材料
構造は封止基板側へ光を出す「トップエミッション」
露
光
発光性能をあげるために、発光層
にごく少量添加される材料のこと。
で開口率を広く取っており、光を効率よく取り出すこ
ドーパント材料の種類と濃度は各
社の独自技術とされる。
とができます。有機膜は、「高精細マスク蒸着技術」に
より RGB 発光材料をそれぞれの色で発光するように
*7 キャリア注入輸送材料
正孔(+)を発光層に運ぶホール
各色ごとに塗り分けるため、カラーフィルターや色変
注入材料と、電子(−)を運ぶ電
有機 EL ディスプレイ(試作機)
換が不要です。画素の駆動には、画素ごとにトランジ
子注入輸送材料がある。
光
学
/
医
療
グループ会社の技術――トッキ株式会社
有機 EL ディスプレイを量産する
有機 EL 製造装置技術
有機 EL ディスプレイパネル製造に使われる有機材
封止工程は、大気圧に近い低真空、低湿度を保った
料は水や酸素に触れると劣化しやすいため、真空中で
装置を窒素ガスで満たし接着剤を用いて行います。
RGB 各発光層などや金属電極材料を基板に真空蒸着
この全自動製造装置では、ガラス基板 1 枚あたり
で「成膜」、大気中に触れることなく封止ガラスや偏光
3 ∼ 5 分のサイクルタイムで約 1 週間の連続運転が可
板を「接着」「封止」する必要があります。キヤノンのグ
能で、有機 EL ディスプレイの量産と普及に貢献して
ループ会社トッキは、パネル製造の全工程を完全自動
います。
基
盤
化したクラスター型などの有機 EL 製造装置を開発・
製造しています。
成膜工程は、CCD を用いた独自のマスクアライメン
ト機構による「高精
細マスク蒸着技術」
で行います。有機材
前処理した基板に正孔
(+)注入層・正孔(+)輸
送層とRを蒸着します。
GとB、さらに電子(−)輸
送層・電子(−)注入層・
金属陰極を蒸着します。
料は、蒸発源から蒸
完成した基板と封止
ガラスを接着します。
封
着され、膜厚は蒸着
B
レート制御機構によ
HTL
R
環
境
封
ETL
G
り最適にコントロー
ルされます。金属電
極材料を蒸着する場
AI
HIL
EIL
合は 1,000 ℃程度
封止ガラスをUV洗浄し、接着
剤を塗布、乾燥剤を注入し、
封止クラスタに供給します。
の高温が必要なた
未
来
め、高温セル蒸発源
を使用します。
完全自動化の有機 EL ディスプレイ製造装置
71
未来を拓くテクノロジー
将来のキヤノン製品を生み出す技術は、未来型デジタルイメージング技術をはじめ、ロボットや
医療などの幅広い分野をリサーチ、研究を積み上げて開拓されていきます。
リアルとバーチャルを融合する
MR(Mixed Reality)技術
MR 技術は、現実世界と仮想世界をリアルタイムに、
よう発展させています。
シームレスに融合させる技術です。MR 技術で数々の
MR 技術は、仮想的に映像を立体視できるため、例
実績を持つキヤノンでは、ヘッドマウントディスプレ
えば製品設計の初期段階からさまざまなシミュレー
イ(HMD)の開発と、映像位置合わせ技術を基盤に、
ションをすることが可能です。今後、産業分野での応
MR 技術の活用を図っています。
用の検証を進めることで、開発期間短縮や試作回数の
キーデバイスである HMD は、小型カメラを内蔵し
削減などの効果を得られることが期待されています。
た独自のビデオシースルー型で、観察者視線とカメラ
視線の視差を解消しているのが特長です。HMD を装
着して目の前を見ると、CG で描かれた仮想の物体が、
仮想世界(CG)
MR(複合現実感)
ごく自然に現実空間に置かれているように感じられ、
仮想物体のスケール感(実寸感)を把握できます。
MR 技術の課題は、現実空間と仮想空間の「位置」
合成
現実世界
「時間」「画質」のズレを解消し、融合することにありま
カメラ内蔵HMD
すが、キヤノンは、HMD 内のカメラから入力された
現実空間の映像と HMD 搭載のジャイロセンサーを組
み合わせた「映像位置合わせ技術」を開発、違和感の
ない融合世界を作り上げています。現在は、移動観察
範囲を広げるなど、さまざまな利用場面で活用できる
MR 技術による仮想世界と現実世界の融合例
人間の視覚以上の高度検知をめざす
ロボット視覚技術
キヤノンは、産業用マシンへの利用をめざして 3
次元の位置姿勢計測が可能な「ロボット視覚技術」の開
発を進めています。現在、このようなマシンビジョン
の分野ではスマートカメラ*1 がありますが、キヤノン
のマシンビジョン技術は、高速・高精度の 3 次元情
人が判別することが困難な欠陥を識別/強調処理
報撮像や、多様な対象物への対応を可能にし、生産ラ
インでの実用化を見すえた汎用システムをめざしてい
ます。
ロボット視覚技術の中核となるカメラは、キヤノン
の優れた撮像技術と画像認識技術を組み込んだインテ
リジェントなカメラで、部品の組み付けをするロボッ
[肉眼]
[ロボットの眼]
ロボット視覚技術による外観検査の例
トハンドの眼と頭脳の役割を果たします。生産現場で
実際に利用するには、部品の素材に左右されずに高精
度制御できることが重要ですが、キヤノンは対象物が
多様な素材からつくられた部品であっても、既存のカ
メラを大幅に超える分解能で高速 3 次元計測するこ
とを目標に開発を進めています。また、高度なモデル
データの学習機能も組み込み、イージーセットアップ
が可能なシステムとする予定です。
この人の眼を超える」カメラシステムは、まず製造
*1 スマートカメラ
撮像センサー、高性能プロセッサ
を搭載したカメラで、ライン監視
や検査などに実用されている。各
種制御や画像処理などをカメラ内
で実行し、産業用では分解能
0.1mmクラスが登場。
72
工程の高度な自動化への応用が考えられます。将来的
にはモニタリング、人をサポートするロボットの眼、
3 次元映像情報の記録や制作にも応用されていくで
しょう。
ロボット視覚技術(イメージ図)
上部のグローバルカメラが部品を見つけ、ロボットに搭載されたローカル
カメラが位置姿勢を計測する。
先進の人体センシングで未来医療を開拓する
医用イメージング技術
医用イメージングとは、診断や治療を目的に、生体
計測された情報の画像化処理、医師の診断支援分野で
内の構造や機能を可視化する技術です。キヤノンは、
は、キヤノンの画像処理技術を活かした高度な画像診
被験者の身体負担がより少ない低被曝方法を用いて、
断システムが確立できます。
より早い段階に病気を見つけ出す技術の研究開発に取
この技術の研究開発は、キヤノンと京都大学の共同
り組んでいます。現在、高感度・高分解能・高次元な
研究による「高次生体イメージング先端テクノハブ」
医用イメージングの実現に向けて、光(網膜断層像:
プロジェクト(CK プロジェクト)を中核に、国内外の
OCT)
、超音波(超音波断層像)
、磁気(磁気共鳴画
先進研究機関との連携により、早期の実用化をめざし
像: MRI)による 3 つの計測方法の研究を進めてい
ています。
入
力
出
力
ます。高次元なイメージングでは、生体の構造・機
能・代謝はもとより、疾病の予兆や原因となる特定の
生体分子*2 のふるまいまでも、計測・画像化すること
をめざしています。
生体情報の可視化では、
疾患特異的に生じているタン
パク質などの生体分子の変化を分子プローブで捉えま
す。プローブから発するわずかな光や超音波、電磁波
をキャッチする方式が検討されています。これには高
露
光
速・高精度なセンシングが必要とされ、キヤノンはそ
*2 生体分子
タンパク質や核酸、糖類など、生
れぞれに最適なデバイスを開発し、高解像度計測を
探っています。例えば OCT 用デバイスとしては、
物がつくり出す有機分子のこと。
がんなどの病変部には特異的に発
励起光
MEMS *3 技術によるミラーや光センサーなどを開発、
蛍光
現するタンパク質などがあり、特
定の化合物(分子プローブ)と結合す
糖尿病による網膜異常などを診断するための高解像画
ることがわかっている。
像を得ています。超音波断層像用や MRI 用デバイス
病変部
標的識別部
(抗体など)
としては、人体に安全な材料による広帯域高感度の
[光計測の例]
2 次元アレイ超音波センサー、高感度な原子磁気セン
サーなどを開発しています。
信号発信部
(蛍光色素など)
分子プローブ
*3 MEMS
Micro Electro Mechanical
Systems の略。半導体の微細加工
光
学
/
医
療
技術を駆使して作製されたデバイ
ス。
分子プローブを活用した光計測医用イメージングの例
タンパク質の 2 次元分布を可視化する
デジタル質量顕微鏡
タンパク質の解析は、医療分野をはじめとするバイ
オ関連の研究に不可欠となっています。キヤノンの
基
盤
「デジタル質量顕微鏡」技術は、タンパク質の 2 次元
分布を細胞レベルで可視化し、例えば病理診断などの
医療診断に役立てることをめざしています。
キヤノンでは、サブマイクロメートル*4 の 2 次元
50μm
50μm
分布画像が得られる「TOF-SIMS 法*5」に注目し、
脂質のイオン像
タンパク質を高感度検出するための前処理方法を検討
トータルイオン像
してきました。これまでに、消化酵素を用いてタンパ
デジタル質量顕微鏡画像の一例(人の肺がん組織切片)
ク質をペプチドに分解し、これに独自に見出した特異
2007年の日本癌学会学術総会で発表。
的増感剤を共存させることで高度な 2 次元分布画像
を得ることに成功しています。
環
境
試料
1次イオン
2次イオン
キヤノンにはこれまで培ってきたインクジェット技
M1
術や画像処理技術などがあり、これらを「デジタル質
M2
検出器
量顕微鏡」技術に応用することでさらなる高感度化、
高性能化が可能です。また、医用イメージング技術と
M3
*4 サブマイクロメートル
0.1μm以上1μm未満。
1μmは1mの100万分の1。
引出電極
の連携で、さらに発展していくことも考えられます。
飛行距離L
TOF-SIMS の原理
引出電極にエネルギーeUを印加することで、試料から放出した2次イオンが
検出器に導かれる。軽い2次イオンが早く到達するため、その飛行時間の違い
により、タンパク質の質量を測定できる。
未
来
*5 TOF-SIMS法
飛行時間型2次イオン質量分析法の
こと。サブマイクロメートルオー
ダーの 2 次元分布を測定出来るが、
通常の方法ではタンパク質を破壊
してしまうため種類の判別はでき
ない。
73
■ 技術項目 Index ■
あ セキュリティ技術
アドバンスド FLAT4 エンジン
............................................................ 36
出力
クリーナーレス・トナーリユースシステム
入
力
..................................................................................... 40
出力
地紋技術
電子透かし技術
レジストレーション補正技術
医用イメージング技術
........................................................................ 57
基盤
た ダイナミックレイアウトエンジン (DLE)
インク液滴吐出プロセスの可視化
超大型ステージ
トナーの現像プロセスの可視化
超音波モーター(USM)
トナーの定着プロセスの可視化
超小型レーザー干渉計
液浸露光技術
エンコーダ
出
力
............................................................................ 73
未来
インプロセス可視化技術
............................................................................................. 44
露光
.................................................................................................. 60
基盤
ツインベルト定着
レーザーロータリエンコーダ(LRE)
高速映像通信技術
大型凹面ミラー
......................................................................................... 46
露光
大型 CMOS センサー
入力
.............................................................................. 25
............................................................................ 61
..................................................................................... 37
通信ネットワーク技術
機器自動接続技術
....................................................................... 61
基盤
基盤
出力
マイクロリニアエンコーダ(MLE)
............................................................................ 53
基盤
高速無線通信技術 デジタル質量顕微鏡
................................................................................ 73
未来
ハイブリッド赤外カットローパスフィルタ
デュアル定着
EOS Integrated Cleaning System
透明アモルファス酸化物半導体 TFT
オゾンレス帯電技術
................................................................................ 68
環境
オートレジストレーション
................................................................... 43
出力
......................................... 33
出力
......................................................................................... 47
露光
............................................................................................. 43
出力
ドキュメント処理技術
................................................. 70
未来
............................................................................ 39
出力
アウトライン PDF 変換技術
高圧縮 PDF 変換技術
露
光
か サーチャブル PDF 変換技術
化学物質安全性評価技術
加工・計測装置技術
光
学
/
医
療
........................................................................ 67
基盤
................................................................................ 63
基盤
出力
............................................................... 41
仮想試作技術
基盤
............................................................................................. 64
imageWARE Accounting Manager
画像検索技術
基盤
............................................................................................. 55
imageWARE Business Solution
動画類似画像検索技術
imageWARE Enterprise Management Console
類似画像検索技術
imageWARE Form Manager
画像補正技術
............................................................................................. 29
入力
逆光補正機能
imageWARE Prepress Manager/imageWARE Print Job Manager
imageWARE Secure Audit Manager
ごみ傷除去機能
トナーカートリッジ生産システム
褪色補正機能
トナー定着技術
とじ部の影補正機能 ガルバノスキャナ
基盤
出力
.... 34
環境
............................................................... 68
ケミカルコンポーネント技術
基盤
............................................................... 62
......................................................................................... 65
基盤
...................................................... 62
IH 定着技術
..................................................................................... 61
揮発性有機化合物の代替技術
高密度実装技術
基盤
......................................................................................... 69
環境
オンデマンド定着(SURF)技術
カラー CAPT(Canon Advanced Printing Technology)
基
盤
ドキュメント解析技術
ドキュメントソリューション
コントローラ・アーキテクチャ
出力
.......................................................... 37
な 人間・生理計測評価技術
基盤
........................................................................ 66
ネットワークカメラ・遠隔録画ソフト
光学
............................................. 49
高画質・高機能ネットワークカメラ
ネットワークビデオレコーダソフト
さ システム LSI 統合設計環境
白色 LED の導光技術
......................................................................................... 45
露光
基盤
.................................................................................................. 67
実装設計支援技術
基盤
..................................................................................... 65
自動写真補正技術
出力
..................................................................................... 31
シミュレーション技術
基盤
............................................................................ 57
......................................................................................... 68
環境
入力
パッド転写高画質化技術
モーションキャッチテクノロジー
プリンティングシステム
プリントヘッドのシミュレーション
LIPS LX/CARPS2
新 ARCDAT
出力
入力
露光
ステージ同期制御技術
すばる望遠鏡
光学
...................................................................................... 24
フルオート非接触眼圧計
..................................................................................... 47
フル HD CMOS センサー
............................................................................................... 43
露光
............................................................................ 45
............................................................................................. 50
鏡面検査装置
すばる望遠鏡主焦点補正光学系
........................................................................ 35
プラスチックリサイクル成形技術
高速 RIP
真空成膜形成技術
.............................................................................. 29
出力
フェイスキャッチテクノロジー/
電子写真プロセスのシミュレーション
新エリア AF 技術
74
は プロジェクト管理環境
実験棟新設
未
来
.................................................................... 56
排トナー再利用
次世代露光技術
環
境
基盤
設計支援環境
プレス生産技術
文書概念検索技術
基盤
基盤
環境
入力
.................................... 23
...................................................... 69
出力
........................................................................ 38
医療
........................................................................ 51
入力
..................................................................... 27
......................................................................................... 65
..................................................................................... 54
IBF(Ion Beam Figuring)加工技術
ま iSAPS テクノロジー
モールド技術
............................................................................................. 64
基盤
ガラスモールド技術
Kyuanos
基盤
LBP 薄型化技術
入力
基盤
............................................... 63
............................................................................... 23
.................................................................................................... 52
........................................................................................ 35
出力
プラスチックモールド技術
薄型化構造設計技術
レプリカ技術
薄型高圧電装技術
4 in1 薄型レーザースキャナ
や L-COA
出力
......................................................................................................... 32
出力
.......................................................................................................... 33
有機 EL 製造装置技術
未来
.............................................................................. 71
LUCIA
有機 EL ディスプレイ
未来
.............................................................................. 71
MEAP/MEAP Lite
ユーザーインタフェース(UI)プラットフォーム技術
基盤
............... 55
出力
................................................................................. 38
MR(Mixed Reality)技術
未来
音声 UI 技術
PgR (Pigment Reaction)技術
SVG UI 技術
S トナー
出力
出力
.................................................... 31
....................................................................................................... 37
SEA 法による振動・騒音解析
ら .................................................................. 72
基盤
............................................................. 66
SED(Surface-conduction Electron-emitter Display)
リアクティブインク技術
出力
........................................................................ 33
レーザーダイオードの新故障解析手法
レーザードップラ速度計
基盤
............................................. 67
基盤
........................................................................ 60
レンズシフト式手ブレ補正機構(IS)付き
超小型レンズユニット
入力
未来
出力
X 線イメージセンサー
XML 技術
基盤
未来
...... 70
....................................................................................................... 42
医療
............................................................................ 51
................................................................................................... 54
バイナリ XML 技術
.......................................................... 22
露光装置アプリケーションプラットフォーム
ロボット視覚技術
V トナー
露光
Atom プロトコル連携技術
................................ 45
..................................................................................... 72
アルファベット AF 搭載 100 倍 HDTV ズームレンズ
光学
................................................ 49
AISYS(Aspectual Illumination System) 光学 ................................ 48
ChromaLife100+ 出力 .................................................................................. 31
CMOS センサー
基盤
....................................................................................... 58
暗電流低減技術
画素縮小化技術
クリーンルーム技術
大画面デバイスプロセス技術
低ノイズ読み出し回路技術
光利用技術
フォトダイオードポテンシャル設計技術
歩留まり向上技術
DIGIC DV ll
DIGIC 4
DO レンズ
DRYOS
FINE
出力
入力
入力
入力
基盤
................................................................................................ 26
....................................................................................................... 23
................................................................................................... 25
....................................................................................................... 56
...............................................................................................................30
HD ビデオレンズと手ブレ補正機能・ AF 機能
入力
.............................. 27
他社所有商標に対する表示について
● IBM は、International Business Machines Corporation の略称です。
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基づいて使用しています。
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●その他の会社名および製品・サービス名は、それぞれを表示するためだけに引用されており、
それぞれ各社の登録商標あるいは出願中の商標である場合があります。
canon.jp/technology
技術紹介サイト Canon Technology もあわ
せてご覧ください。製品技術、要素技術の解
説をはじめ、開発者やキヤノンアカデミー・
メンバーのインタビュー、身近な「光」の世
界と「ナノテクノロジー」の不思議を解説す
る「サイエンスラボ」
、キヤノンの技術への姿
勢などが紹介されています。
CANON TECHNOLOGY HIGHLIGHTS 2009
CANON
TECHNOLOGY
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2OO9
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生分解性や脱墨性にも優れたインクを使用しています。
〒146-8501 東京都大田区下丸子3-30-2 ホームページ canon.jp/
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