2011 年度 卒業論文 指導教員花川典子教授 視覚障害者の安全な歩行を約束する 白杖「たずね人ステッキ」 阪南大学経営情報学部経営情報学科 5108227 原田敏志 1 目次 第1章 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3p 第2章 関連研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5p 2-1 視覚障害者用白杖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5p 2-2 類似商品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6p 2-2-1 スマート電子白杖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6p 2-2-2 VISTAC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7p 2-2-3 2-2-4 ‘K’SONAR-Cane・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8p Ultra Cane・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8p 2-2-5 GPS を搭載した杖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9p 2-2-6 smart cane・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9p 第 3 章 たずね人ステッキの提案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11p 3-1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11p 3-2 信号色識別機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11p 3-3 障害物判断システム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12p 3-4 LED ライト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12p 3-5 通知方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13p 3-6 システム内部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14p 第 4 章 たずね人ステッキでのビジネス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16p 4-1 市場性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16p 4-2 ビジネスプラン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17p 4-3 将来の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17p 第 5 章 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19p 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20p 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20p 2 第1章 はじめに 現在、日本には身体障害者が約 3,483,000 人いるといわれ、その中でも視覚障害者の数は 約 310,000 人にも及んでいる(H18 年度の資料より)。増加する視覚障害者への環境整備は 不備な箇所も多くみられる。確かに点字ブロックの設置や音声付きの信号機などがあるが、 視覚障害者に対して有効であるかは疑問ガある。ちゃんと配慮音声付きの信号機は視覚障 害者にとって有益である。しかし実際にはその設置台数は十分とはいえるものではなく、 また都心中心に設置しているため、郊外に住んでいる視覚障害者には十分に配慮されてい ない。さらに、音声が流れても自分の進行方向の信号が青になったのかまでは判断しにく い。したがって音声付きの信号機もまた、安全とは言い切れないだろう。また点字ブロッ クは駅前などでよく目にすることが出来るが、駅前は人の出入りが激しく、止められてい る自転車が点字ブロックの上にまで及んでいる。図 1 はその写真である。視覚障害者が自 転車にぶつかってしまい、点字ブロックを設置している意味が無い。視覚障害者は安心し て道を歩く環境は整っていないと考える。 障害者、高齢者への日常生活への配慮は現在では当然の行為である。しかし街中で見か けるもののほとんどは視覚障害者への配慮というより、高齢者などへの配慮が多い。視覚 障害者の人々は実際に盲導犬に頼っているところが多い。しかし,盲導犬についても問題 が多くある。まず、盲導犬の育成には多くの時間がかかる。現在登録されている盲導犬の 頭数は 1,000 頭ほどであり、視覚障害者全体をカバーすることは出来ない。 また、盲導犬に限らず犬は信号の色を識別できないという問題がある。実際に目撃した ことがあるが、盲導犬を連れている視覚障害者が信号のある横断歩道を渡ろうとしている 時、視覚障害者の進行方向の信号機は赤だったが、車が来ていないために盲導犬は横断し ようとした。突然進入してきた車に危うく轢かれかけるという場面に遭遇した。この出来 事の問題として上で述べたとおり盲導犬は色を識別することができないため、周りの状況 だけで判断してしまい、結果として危うく事故が起きかけた。つまり、盲導犬を連れてい ても視覚障害者にとって横断歩道というものは非常に危険な場所である。 そこで視覚障害者が安全に歩行することが出来る白杖「たずね人ステッキ」を提案する。 たずね人ステッキは視覚障害者が利用している白杖に複数のセンサーを組み込むことによ って、盲導犬には識別できない信号機の色や従来の白杖では判断しにくい頭上の障害物の 存在などを視覚障害者に伝えるものである。視覚障害者の数は年々増加しているが、視覚 障害者への対策は不十分であり、すべての信号機や障害物に対応するのは困難である。提 案するたずね人ステッキはその様な視覚障害者の現状を考えた上で有効なステッキである。 3 第 2 章ではたずね人ステッキに搭載する複数のセンサーの説明及び関連研究について述 べ、3 章では本提案のメインである「たずね人ステッキ」の機能、構造について、4 章では たずね人ステッキでのビジネスについて、5 章でまとめについて述べていきたいと思う。 図 1 点字ブロックの現状 4 第2章 関連研究 本章では視覚障害者にとって一般的な白杖、そして本提案であるたずね人ステッキに類 似する商品について説明する。 2-1 視覚障害者用白杖 白杖とは視覚障害者が歩行の際に前方の路面を触擦して使用する白い杖のことである。 大きさは直径 2 メートル程度で、長さは 1 メートルから 1.4 メートル程度の物が一般的で ある。白杖の主な役割は大きく分けて 3 つである。1 つ目は安全の確保である。白杖を体の 前方で使うことにより、障害物や段差の存在を知ることで、身体を保護出来る。2 つ目は歩 行に必要な情報の収集。白杖は危険を知らせるだけでなく、歩行にとって役にたつ情報も 知れる。例えば、段差や歩道の切れ目、点字ブロックの有無などである。そして 3 つ目は ドライバーや他の歩行者、警察官などへの注意喚起である。これにより周囲に視覚障害者 であることを知らせ、注意喚起をし、周囲の援助をスムーズに受けることが出来るという 意味がある。白杖には直杖、スライド式、折りたたみ式があり、直杖(図 2-1)は常に白杖 を使用しなければならない人が使う杖である。 図 2-1 5 直杖 スライド式や折り畳み式(図 2-2)は初めて訪れる場所や視界の悪い場所へ行くときなど に使われる。 図 2-2 スライド式(左) 折りたたみ式(右) 出所 http://www.yoihari.net/guidehelp/hakujyo.htm 2-2 類似商品 2-2-1 「スマート電子白杖」 次に本提案に類似した商品について説明する。 「スマート電子白杖」 (図 2-2-1)とは秋田 県立大学準教授、岡安光弘が開発した、超音波のセンサーで前方にある障害物などを感知 し、視覚障害者の歩行を助ける。従来の視覚障害者白杖は地面付近の物体は判別できても、 上にあるものは判別しにくく、ぶつかることもある。しかし新しく開発したスマート電子 白杖は長さ約 1.3 メートル、重さ約 300 グラム、持ち手部分のセンサーから超音波を、正 面と上方の 2 メートルの範囲を感知することができ、前方に障害物がある場合は持ち手が 振動し、情報に障害物がある場合はリストバンドが振動して持ち主に知らせる。価格はセ ンサー1 個タイプが 30,000 円、2 個タイプが 43,000 円。防水加工も現在検討されている。 6 図 2-2-1 スマート電子白杖 2-2-2 VISTAC 次に説明するのが毎年フランクフルトで開催される、Sightcity という視覚障害補償機器 の見本市で発表された「VISTAC」である。白杖と垂直方向にレーザーを出し、障害物があ ると、グリップ部分に内蔵された振動モーターを震わせて知らせる。単 3 電池 2 本で駆動 し、AC アダプタで充電するためのコネクタも付いていて、外して充電することも可能であ る。稼働時間は、振動モーターを使わない(レーザー照射のみ)状況で、60 時間、通常利 用なら 1 週間に 1 回程度のチャージでオッケーである。メインスイッチを入れた段階で振 動モーターが 1 回振動するので、最初の段階で電池があるかは確認でき、電池の心配は不 7 要である。距離の検出範囲についてはカバー下に小さな穴が 2 つ開いており、そこをピン で押すことにより、調整できる。この機器はソフト的なものではなく、ハード的な調整機 器なので電池を外しても設定は変わらず使用できる。価格はドイツ価格で 1,800 ユーロ (2005 年)である。 2-2-3 ‘K’SONAR-Cane 次も上記の Sightcity で発表された「‘K’SONAR-Cane」 (図 2-2-3) 。蝙蝠の原理で超音 波のスイープ反射を可聴域に変換するもので、反射音を感じることで距離だけでなく材質 まで判断できる。機能、性能の概要としては、電池は専用のリチウム電池、稼働時間は 1 晩充電すれば 1 日使える。電池の交換はユーザーでは不可能で、サポートという形になる。 通常利用で 1.5~2 年は持つ。側面の 3 つのボタンは音量の大小、検出距離の変更で、距離 は 2 メートルと 5 メートルに切り替えられ、メインスイッチはなくヘッドフォンの挿入で 行われる。 出典 http://www.batforblind.co.nz/ 図 2-4 2-2-4 ‘K’SONAR-Cane Ultra Cane 次に説明するのは、SONAR-Cane と同じく超音波デバイスだが、シンプルな距離計と振 動フィードバックを使う「UltraCane」 。VISTAC と異なり、2 方向に超音波が向けられて いる。それぞれの超音波に対応して、2 つの振動部分が杖のグリップに縦に配置されている。 壁がある場合、奥の振動子が先に震え、近づくと手前の振動子もともに震えだす。もしこ のとき、奥の振動が止まったら、バーのような障害物が顔の高さにあるのかという状況が 理解でき、近づいて手前が振動しなければ低い障害物だと判断できる。メインスイッチが 距離の切り替えも兼ねており、バッテリーは単 3 電池 2 本で、OFF、2 メートル、4 メート ルのスイッチになっている。 8 2-2-5 GPS を搭載した杖 次に紹介するのが松下電器産業から「インダストリー総合展」で発表された GPS を搭 載した杖(図 2-2-5)である。杖の持ち手部分に液晶ディスプレイが搭載されており使用 者の現在地がわかるようになっている。また、パソコンや携帯電話から杖の持ち主の現在 地を知ることもできる。あらかじめ目的地への道順が入った SD カードを差し込むことによ り、目的地への道順が液晶ディスプレイに表示される。 図 2-2-5 GPS を搭載した杖 出典 http://techon.nikkeibp.co.jp/members/01db/200209/1006683/ 2-2-6 smart cane 慶応義塾大学 SFC(湘南藤沢キャンパス)政策・メディア研究科教授で、au 携帯のデザ インプロデュースなども手がける坂井直樹氏らが、通信機能を搭載した「smart cane」を 開発した。smart cane は杖の先に点灯した LED 光を監視カメラが感知し、連動して雷の 音とともに円状の輪を地面に描くアート的な初期実験を展開。今後杖に内蔵するマイクや カメラ、通信・通話機能、各種センサーを用い、 「拾った音を振動にして使用者に知らせる」、 「黄色いタイルや横断歩道の白線を感知し、振動で知らせる」、 「グリップの握り方により、 ユーザーの疲労や異常を検知する」といった、実用機能の開発を進めている。 9 図 2-2-6 通信機能を搭載した杖 出典 http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0903/24/news097.html 10 第3章 たずね人ステッキの提案 第 2 章の関連研究で挙げた様々な機能を備えた白杖に対して、本提案であるたずね人ス テッキの概要、機能について説明する。 3-1 概要 本提案であるたずね人ステッキはいくつかのセンサーを組み込むことにより、視覚障害 者の歩行を支援する。これにより視覚障害者は安全な歩行が可能になるのである。 街中には視覚障害者にとって危険なものが数多くある。その中でも特に危険なものは横 断歩道と、放置されている自転車などの障害物である。日頃通りなれた道なら視覚障害者 は横断歩道や曲がり道、段差のある場所などを記憶している。そのため安全に歩行できる のだが、工事による道の封鎖、新しい建造物、信号の設置など、視覚障害者の周囲の状況 は日々変化する。その日々変化する状況の中でも視覚障害者に安全に歩行してもらうため に、 「たずね人ステッキ」を提案する。搭載されている機能は大きく分けて、横断歩道を歩 行する際に必要となる信号の色を識別する機能と、前方や上方の障害物の存在を感知する 機能の 2 つである。機能について順を追って説明していく。 3-2 信号色識別機能 視覚障害者にとって、横断歩道とはとても危険な場所である。視覚障害者が信号の色を 判断するには音声ガイダンスによる誘導しかない。そこで、視覚障害者でも信号機の色を 判別できるように、CMOS カメラとカラーセンサーを用いたイメージセンサー等で実現す る信号色識別システムを搭載する。CMOS カメラ(CMOS イメージセンサ 図 3-2)とは、 デジタルビデオカメラや WEB カメラ、携帯電話などに利用されている。カラーセンサーと は色を識別する電子部品であり、産業目的や LED の色の識別によく利用されている。信号 色識別システムはシステム的に 2 段階から成り立つ。1 つ目は信号機がある位置の判断であ る。これは信号機のある位置を、GPS を利用し、信号機の位置と視覚障害者の進行方向を 把握することにより、確実かつ安全に信号機に近づくためである。2 つ目は信号色の識別で ある。信号機の色を識別するために CMOS カメラとカラーセンサーで判断する。CMOS カ メラには判断画像解析装置を搭載し、カラーセンサーによって信号機の色を識別する。カ ラーセンサーは LED の信号機には強いが、通常の信号機には弱いため、この 2 つの機能を 組み込むことにより、視覚障害者がより安全に横断歩道を歩行出来る。一連の流れとして は、GPS に全国の信号機の位置を GPS データとして杖に組み込むことにより、現在地が信 号機の近くなのかを GPS を利用して確認する。信号機の位置を確認した後、カラーセンサ 11 ーにより信号機の色を識別し、CMOS カメラにより信号機の判断を行う。 図 3-2 カラーセンサ 3-3 障害物判断システム 次は路上に点在する障害物の判断、回避機能である。通常視覚障害者は杖を左右に振り、 杖が障害物に接触することにより、障害物の有無を判断する。しかしこれでは白杖の長さ の 1 メートルから 1.4 メートルの範囲の障害物しか感知出来ない。さらに杖を振っても当た らない頭上の障害物には全く感知出来ない。そこで白杖に超音波センサを組み込み、超音 波を全方位に発生させ、それにより頭上の障害物を感知できる。超音波センサとは超音波 を発生させることにより障害物に当たり、跳ね返ってきた超音波をセンサがキャッチする ことにより、周囲の障害物を判断できる。さらに長距離に対応した超音波センサを利用す ることにより、従来の白杖では不可能な、広範囲(10 メートル前後)の障害物も感知可能 である。 3-4 LED ライト 次に、画期的ではないが視覚障害者が少しでも安全に歩行できる機能として LED ライトの 搭載を提案する。夜道は周囲の人が視覚障害者を判別しにくい。視覚障害者にとって夜道 は普段と変わらないが周囲の人が、誤って視覚障害者にぶつかってしまわぬようにする機 能である。 12 3-5 通知方法 上記の信号機識別システムと障害物判断システムを白杖に組み込み、白杖を利用する視 覚障害者に通知する。通知方法には振動モーターによる振動と、無線型の骨伝導機器によ る音声通知の二つを搭載する。視覚障害者は目が見えないため、生活のほぼすべてを聴力 で補っている。そのため従来のイヤホン等では耳が塞がれてしまい、通行人の援助の申し 出や、危険な場合のとっさの判断も聞こえなくなってしまう。しかし、骨伝導機器なら耳 に差すことなく音声を聞き取ることが出来る。また、耳が解放されているので空気伝導で ある人の声も聞きとる事が可能である。それだけでなく振動モーターによる通知も搭載す ることにより使用者に、より確実に通知する事が可能である。骨伝導機器については図 3-5 のように耳を塞がないものを使用する。 図 3-5 骨伝導機器 13 3-6 システム内部の構造 下記の図 3-3 はシステムの構造である。 衛星 信号の位置 障害物 GPS受信機 障害物判断シ ステム カラーセンサー 信号機 超音波 センサ 制御マイコン CMOS カメラ 骨伝導 機器 信号色識別システム 振動 モーター LEDライト 図 3-6 システム内部の構造 まず 3-2 で説明した信号色識別システムに使う機器について説明する。信号色識別システ ムには CMOS カメラとカラーセンサーを使う。前述したとおり CMOS カメラとはデジタ ルビデオカメラや Web カメラによく利用されるカメラである。一方カラーセンサーとは色 を識別する電子部品で、この 2 つを使い信号の色を識別する。また、信号機の位置に関し ては、GPS を介して使用者の現在地、全国の信号機の位置を搭載した GPS 受信機にデータ として送り、判断する。流れとしては、信号機付近で、信号機を CMOS カメラが画像とし て識別、それをカラーセンサーによって信号機の色、赤、青、黄の中から識別して使用者 に音声、または振動によって通知する。 次に 3-2 で説明した障害物判断システムに使う機器について説明する。障害物判断システ 14 ムには、超音波センサという機器を使用する。超音波センサから前方に超音波を発生させ、 その超音波が障害物で反射し、それにより障害物を判断するシステムである。また、通常 の超音波センサより広範囲の超音波センサを使うことで、より広範囲の判断が可能である。 また、超音波センサを複数個使用することにより、前方だけでなく、従来の白杖では判断 できなかった上方の障害物も認識することができる。 これらの機能の通知方法には振動モーターと無線型の骨伝導機器を使用する。骨伝導機 器なら耳をふさいで周りの音を遮断することもなく、的確に使用者に通知することができ る。また、振動モーターによる振動も安全性のための配慮である。これら二つの通知方法 で確実に使用者に通知する。 15 第4章 たずね人ステッキでのビジネス 3 章では、たずね人ステッキの機能、構造について述べたが、この章では、そのたずね人 ステッキの市場性、ビジネスとしてのプランの展開の仕方について述べていこうと思うる。 視覚障害者にとって、白杖は必要不可欠であり、盲導犬の利用も考えられるが、盲導犬を 実際に利用するためには、申請を出してからの時間、費用など多くのコストがかかる。そ こにたずね人ステッキのビジネスとしての価値を考えていきたい。 4-1 市場性 本提案である「たずね人ステッキ」のターゲットは当然視覚障害者である。視覚障害者 の数は現在で 310,000 人といわれ、年々増加の一途をたどっている。障害者は法令で白杖 の携帯か盲導犬の利用を義務付けられている。しかし従来の白杖には多くの欠点が存在す るため、視覚障害者は安全に道を横断することもできないのが現状である。 現状、視覚障害者が一番信頼でき、かつ安全に歩行できるのは盲導犬である。盲導犬と は視覚障害者を安全に快適に誘導する犬の事である。現在国内で盲導犬を育成している施 設は 9 団体存在する。しかし、その団体間で共通した盲導犬の基準は存在しておらず、各 団体が独自の基準で犬の訓練および視覚障害者への歩行指導を実施している。訓練期間も 4 ヶ月から約 1 年間と団体毎に違いがあり、各団体の実績にも大きな差があるが、そのこと は殆ど知られていない。また、盲導犬を 1 頭育てるのにかかる費用は 300 万ほどである。 2003 年 10 月以降に身体障害者補助犬法が完全に施行され、公共機関だけでなくてデパー トやスーパーマーケット、ホテルなどの民間施設でも、受け入れを拒んではならないこと になったのである。しかし罰則のない努力規定であるため、罰則がないから受け入れない という意見もある。また、犬が苦手で近寄れないという従業員や顧客もいるため、受け入 れ拒否を完全に防ぐことは困難である。すなわち場所によっては盲導犬も入れない場合が まだ存在するのである。現在はそれほどの時間とコストがかかるため、盲導犬は全国で 1,000 頭しか育成できていなく、増え続ける視覚障害者に比べ、圧倒的に少ない。さらに盲 導犬には致命的な弱点が存在する。それは信号の色を識別することができないという事で ある。日常で一番事故が起きやすい場所は横断歩道である。信号の色を識別できないので はいつ事故に巻き込まれてもおかしくない。上記の点から、大部分の視覚障害者は白杖に 頼るのが現状である。このような点から本提案は視覚障害者にとって有益といえる。 前述してきたとおり、視覚障害者の生活には多くの問題が存在する。その 1 つが横断歩 道である。音声案内のある信号機も存在するが進行方向の信号のことなのか確認する方法 が無い。盲導犬は色が識別できないため、車が来ていないことは確認できても信号が赤な のか青なのか判断できない。しかし、本提案ならば、安全、確実に信号の色を識別、さら 16 に GPS により、進行方向の確認も抜かりない。また、従来の白杖では不可能な上方の障害 物にも、障害物判断システムを使うことにより、安全に対処できる。上記の点から本提案 はビジネスとしても有益であるといえる。 視覚障害の主な原因として糖尿病などの内部疾患が挙げられ、さらにその患者数だがこ の 40 年間で 3 万人から 700 万人程度まで増加しており、糖尿病予備軍も含めるとその数は 2,000 万人とも言われている。視覚障害者の患者数は増加の一途をたどっているが、それに 伴う視覚障害者への配慮や設備の向上が見られない現状において、本提案はとても有効で あると言える。 4-2 ビジネスプランの展開 本提案のビジネスプランの展開として現在考えられるのが、実演販売である。視覚障害 者は当然ながら目が見えないため、実際に使ってもらわないと本提案の良さは理解しても らえない。平成 19 年の段階で障害者支援施設の数は、全国で 2233 施設あり、そこで視覚 障害者たちに実際に使ってもらい、本提案の利便性を知ってもらう。視覚障害者にとって チラシ、CM 等の宣伝は意味がなく、実際に使ってもらって初めて本提案の良さを理解して もらえるだろう。よって宣伝広告費を削減する代わりに積極的なリースを展開する。各施 設を訪問し、視覚障害者に実際に使ってもらい、リースを実施して、その後購入してもら うことによりその収入が収益へとつながる。リースしている期間もこまめなリサーチを行 い、利用者の意見を取り入れることにより、より良い製品づくりに役立て、さらなる製品 向上につなげる。 4-3 将来の展望 視覚障害者は日本国内でも多くの患者が存在し、視覚障害の主な原因である糖尿病など による内部疾患の患者は予備軍も含めると莫大な数になる。しかし、世界的にみるとその 数は 2006 年の段階で 1 億 7000 万人も存在する。世界的にみると、日本は視覚障害者に対 しての配慮はマシで、さらに危険な環境は数多く存在する。そのような環境こそ本提案が 一番必要にされるだろう。 本提案の将来的な展望として、日本国内にとどまらず、世界中のひとに利用されるよう にしていきたい。まずはアメリカやヨーロッパなどの主要国からはじまり、徐々にその活 動の幅を広げていく。しかし、そのためには様々な難題が存在する。音声言語は当然その 17 国々により異なる。さらに、ある程度の知名度を国内で獲得していなければ誰も利用して くれないだろう。そのためにも、まず日本で認められそこから世界に発信していく。いず れは世界の人に必要とされる商品になるだろう。 18 第 5 章 まとめ 現在、視覚障害者の数は約 310,000 人(平成 18 年)にも及び、視覚障害の原因の一つで もある糖尿病などによる内部疾患の患者も増加の傾向にあり、この 40 年間で 3 万人から 7 百万まで増加している。これにより視覚障害者の数も増加する事が予測できるが、視覚障 害者に対する設備は整っているとはいえない。視覚障害者のために設置されているはずの 点字ブロックは放置自転車などにより、その役目を果たせず、音声付きの信号機も視覚障 害者の進行方向は考慮していない。 そこで本提案である「たずね人ステッキ」を提案する。 「たずね人ステッキ」には、視覚 障害者が安全に歩行できるために 2 つの大きな機能を搭載している。1 つ目は信号機の色を 識別する信号色識別機能である。白杖に CMOS カメラとカラーセンサを搭載することによ り、信号の色を識別して、安全に横断歩道を渡ってもらう機能である。2 つ目は障害物判断 システムである。これは白杖に超音波センサーを搭載し、全方位に超音波を発生させるこ とにより、前方のみならず、従来の白杖では判断することのできなかった頭上の障害物も 判断することを可能にした。 今後の課題としては、本提案である「たずね人ステッキ」の試作品を作り、そこでさら に実際の検証を踏まえて考察していき、視覚障害者が安全に生活できる製品を考えていき たい。 19 参考文献 図 2-2 図 2-4 http://www.yoihari.net/guidehelp/hakujyo.htm http://www.batforblind.co.nz/ 図 2-2-5 http://techon.nikkeibp.co.jp/members/01db/200209/1006683/ 図 2-2-6 http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0903/24/news097.html 視覚障害者について http://www.amedia.co.jp/blind/%E8%A6%96%E8%A6%9A%E9%9A%9C%E5%AE%B3% E8%80%85.htm 盲導犬について http://www.moudouken.net/knowledge/ 糖尿病患者について http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85 謝辞 最後の最後まで面倒を見てもらい本当にありがとうございます。 この花川ゼミで学んだことをこれからの社会生活でぜひ役立てていきたいと思います。 20
© Copyright 2024 Paperzz